JP2007068450A - 段階反応を用いたdna塩基配列決定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 段階的相補鎖合成反応において、高価な試薬を用いることなく、安価で高感度なDNA配列決定方法を提供すること。
【解決手段】 鋳型DNAを含む反応槽にdATPを前記鋳型DNAの量の50倍を超えない量で加えて段階的相補鎖合成を行い、dATPがルシフェラーゼの基質となって発光するdATP起因の背景発光強度を、測定された発光から差し引いて、相補鎖合成で生成するピロリン酸から変換されて生成するATPが引き起こす、相補鎖合成に起因する発光を取得することにより、前記鋳型核酸の塩基配列決定を行う。
【解決手段】 鋳型DNAを含む反応槽にdATPを前記鋳型DNAの量の50倍を超えない量で加えて段階的相補鎖合成を行い、dATPがルシフェラーゼの基質となって発光するdATP起因の背景発光強度を、測定された発光から差し引いて、相補鎖合成で生成するピロリン酸から変換されて生成するATPが引き起こす、相補鎖合成に起因する発光を取得することにより、前記鋳型核酸の塩基配列決定を行う。
Description
本発明は、化学発光を利用したDNA塩基配列決定方法に関する。より詳細には、dATPによる背景光の影響を抑え、安価で高感度な配列決定を可能とする、化学発光を利用したDNA塩基配列決定方法に関する。
DNA塩基配列決定にはゲル電気泳動と蛍光検出を用いた方法が広く用いられている。この方法では、まず配列解析の対象となるDNA断片を増幅する。次いで、5’末端を始点として種々の長さのDNA断片を作製し、その3’末端に塩基種に応じて波長の異なる蛍光標識を付加する。そして、ゲル電気泳動により各蛍光標識断片の長さの違いを1塩基の差で識別すると共に、それぞれの断片群が発する蛍光色から3’末端の塩基種を特定する。DNAは短い断片群から順次蛍光検出部を通過するため、蛍光色を計測することで短いDNAから順に末端塩基種が特定され、配列決定が可能となる。この方法を利用した蛍光式DNAシーケンサーは幅広く普及しており、ヒトゲノム解析においても大いに活躍した(非特許文献1)。
2003年ヒトゲノム配列解析の終了が宣言され、配列情報を医療や種々の産業に活用する時代になってきた。最近のDNA解析では長い配列の全てを解析する必要はなく、目的とする特定領域の配列を知れば十分なことも多い。そのため、このような短いDNA配列の解析に適した、簡便な方法や装置も必要とされるようになってきた。
こうした要求に応えて生まれた技術として、パイロシーケンシングに代表される段階的相補鎖合成反応による配列決定方法がある。この方法ではターゲットとするDNA鎖にプライマーをハイブリダイズさせ、4種の相補鎖合成核酸基質(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を1種類ずつ順番に反応液中に加えて相補鎖合成反応を行う。相補鎖合成反応が起きると、その副産物としてピロリン酸(PPi)が生成する。パイロシーケンシングでは、PPiは共存するATP sulfurylaseの働きでAPS(adenosine 5’-phosphosulfate)と反応してATPを生成し、このATPがルシフェラーゼの共存下でルシフェリンと反応して発光を生じる(以後、これを「相補鎖合成に起因する発光」と呼ぶ。)。従って、生じた発光を検出することで、加えた相補鎖合成核酸基質がDNA鎖に取り込まれたことがわかり、ターゲットとなったDNA鎖の配列を決定することができる(非特許文献2参照)。反応に使われなかった相補鎖合成核酸基質は、次の反応ステップに影響が無いようアピラーゼなどの酵素によって速やかに分解される。
パイロシーケンシングでは、初期には、相補鎖合成と化学発光反応を異なる反応槽で行う方法が報告された(特許文献1参照)。すなわち相補鎖合成で生じたピロリン酸と余剰の核酸基質を含む反応液を、相補鎖合成を行う反応槽から別の反応槽に移動させて発光反応を行っていた。また、この反応液を移動させる途中で余剰の核酸基質を分解する酵素を固定した領域を通過させ、これらを分解した後、ピロリン酸をATPに変換して化学発光反応槽に導く方法が報告されていた(特許文献2参照)。しかしながら、この方法は、相補鎖合成反応の基質である核酸を加えるごとに洗浄して新たな液に置換する必要があり、プロセスが複雑であった。
これに対し、相補鎖合成反応と余剰の核酸基質の分解反応、ATP生成反応および発光反応を共存させる簡便な方法が提案され普及してきた(特許文献3参照)。しかし、相補鎖合成に用いるdATPは構造がATPに類似しているため、ルシフェラーゼ反応の基質となり、ATPを用いた場合に比べると遙かに弱いものの、遺伝子決定反応では無視し得ない強度の化学発光がdATPを注入したときに常にバックグラウンドとして生ずる(以後、これを「dATPに起因する背景発光」と呼ぶ。)。そこで、最近ではdATPに代えて、化学発光の反応基質とならず、DNA相補鎖合成に使用可能なdATPαSが相補鎖合成基質として用いられている(特許文献4、5参照)。しかし、この試薬はdATPに比較すると高価であり、しかも他の相補鎖合成基質に比べて鋳型DNAとの間の反応性が低く未反応のdATPαSが残りやすいという欠点があり、より安価で高精度に配列解析が可能な方法の開発が求められている。
一方、ルシフェラーゼ濃度を増やすと発光量も増加するため、微量のATPを検出する場合には感度を向上させる有効な手段となるが、パイロシーケンシングの場合には同時にAPSや試薬中の不純物による背景光も強くなってしまうため有効とはいえない。また、使用するAPS量を減らすと測定しようとする信号も減少するためAPSを用いる限り検出限界を下げることができず、検出限界はAPS濃度で決められてしまう。
以上の問題に関連して、APSを使用せずにPPiからATPを生成させる方法として、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)を用いる方法も知られている。例えば、PCR時に生成するPPiをAMPとPPDKを用いてATPに変換後、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応により発光検出する方法が報告されている(非特許文献3参照)。
現代化学, 2004年7月号, vol.400, p66-69 Electrophoresis, 22, p3497-3504 (2001) Analytical Biochemistry 268, p94-101 (1999) 米国特許4863849号
米国特許4971903号
米国特許6258568号
米国特許6210891号
日本国特許3510272号
現代化学, 2004年7月号, vol.400, p66-69 Electrophoresis, 22, p3497-3504 (2001) Analytical Biochemistry 268, p94-101 (1999)
本発明は、dATPαSのような高価で反応性の低い試薬を用いることなく、dATPを用いて安価で精度が高くしかも高感度な段階的相補鎖合成反応を利用したDNA配列決定方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明では、dATPに起因する背景発光の割合を小さくすると共に、dATPに起因する背景発光を、測定された発光から差し引いて、相補鎖合成に起因する発光を取得する。特にdATPに起因する背景発光と測定された発光とのピークがほぼ同時である場合には、測定された発光のピーク強度からdATPに起因する発光のピーク強度を差し引いて相補鎖合成に起因する発光を取得する。さらに、dATPに起因する発光と測定された発光との間に時間的なずれがある場合には、そのずれを利用して相補鎖合成に起因する発光を取得する。また、dATPを少なくとも2回反応槽に注入して、相補鎖合成反応が起こる場合と、相補鎖合成が起こらない場合の発光強度をそれぞれモニターし、その差から相補鎖合成に起因した信号のみを取り出すことにより正確なDNA配列決定を行う。
本発明により高価な試薬を用いることなく、段階的な相補鎖合成反応を利用したDNA配列決定が可能になる。
本発明では、鋳型DNAを含む反応槽にdATPを前記鋳型DNAの量の50倍を超えない量で加えて段階的相補鎖合成を行い、dATPに起因する背景発光強度を測定された発光から差し引いて、相補鎖合成に起因する発光強度を取得することにより、前記鋳型核酸の塩基配列決定を行う。
反応槽に注入するdATPの量は、鋳型DNAの量に比べて20倍を超えない量であることがより好ましく、2.5〜20倍がさらに好ましい。
本発明の第1の実施形態では、測定された発光のプロファイルから、dATP起因の背景発光のプロファイルを差し引き、相補鎖合成起因の発光プロファイルを取得する。
本発明の第2の実施形態では、測定された発光のピーク強度からdATPに起因する発光のピーク強度を差し引き、これを相補鎖合成に起因する発光のピーク強度として取得する。
本発明の第3の実施形態では、測定された発光プロファイルの面積からdATPに起因する発光プロファイルの面積を差し引き、これを相補鎖合成に起因する発光信号として取得する。
本発明の第4の実施形態では、dATPに起因する発光と測定された発光との間に時間的なずれがある場合、そのずれを利用してdATPに起因する背景発光を取り除き、相補鎖合成に起因する発光を取得する。
すなわち、測定された発光プロファイルと、dATPに起因する背景発光プロファイルを比較し、両者のピークがよく分離できる箇所を検出する。その箇所のdATPを注入してからの時間をカットオフ時間とし、カットオフ時間までの発光プロファイルを0として、カットオフ時間以降の発光プロファイルを相補鎖合成に起因する発光信号とする。すなわち、相補鎖合成に伴う化学発光の測定においてdATPの注入からカットオフ時間の信号を除去することにより、相補鎖合成に起因する信号強度を取得する。
本発明の第5の実施形態では、dATPを反応槽に注入するプロセスを複数回繰り返して、得られる化学発光強度の変化を利用して相補鎖合成に起因した信号を取得する。すなわち、反応槽へのdATPの注入を少なくとも2回行い、dATPに起因する背景発光をdATPの注入ごとに確認し、dATPに起因する背景発光強度を測定された発光強度から差し引きすることにより、相補鎖合成に起因する信号強度を取得する。
本発明の方法では、相補鎖合成反応後に余剰のdNTPを除去して、化学発光反応を一定時間に収束させることが好ましい。こうした核酸基質の除去は、反応槽に共存させた酵素(例えば、アピラーゼ)によって行ってもよいし、鋳型DNAや核酸合成酵素を固定化して、反応槽内の反応液を入れ替えることによって行ってもよい。
パイロシーケンス法の原理を図1に、また、ここで用いる酵素反応を図2に示した。パイロシーケンス法は、DNAの塩基伸長反応によって生じるPPi(ピロリン酸、inorganic pyrophosphate)をATPに変換してルシフェリンと発光反応させ、その光を検出するものである。パイロシーケンスの基本的な酵素反応は、1)段階的DNA相補鎖合成反応、2)生成物のピロリン酸をATPに変える反応、3)ATPをルシフェリンと反応させて発光を得る反応、であり、通常これに、4)余剰の相補鎖合成基質(核酸)を分解除去する反応、を加えた4つの酵素反応で構成される。
パイロシーケンス法の反応について、図1を参照しながら簡単に説明する。まず目的とするDNA鎖の相補鎖DNAを鋳型とし、プライマーを用いてターゲットDNA鎖を合成していくが、その時に4種類(A、C、G、T)の相補鎖合成基質(総称してdNTP (Deoxynucleotide triphosphate))を順次反応槽に注入する。図1では、注入された基質がdGTPの場合、これは鋳型DNAの伸長サイトCに相補的であるため、基質dGTPはDNAを鋳型とした伸長反応に使用され、プライマーが伸長する。この反応で発生するPPiは酵素ATPスルフリレース(ATP sulfurylase)によりAPS(Adenosine 5’ phosphosulfate)と反応し、ATPを生成する。ATPは酵素ルシフェラーゼの存在下でルシフェリンと反応し、発光反応を引き起こす。この反応では発光が起こると共に、再びPPiが発生するので、ここにATPスルフリレースとルシフェラーゼの2つの酵素によるサイクル反応が形成され発光が持続される。ターゲットDNA鎖は相補鎖合成で再生されていくので、どの塩基種を反応槽に入れたときに相補鎖合成が起こったかを発光の有無でモニターして配列を決定する。例えば、dGTPを注入したときに発光すれば、目的とするサイトのDNA配列はGである。
反応槽に注入した核酸基質は次の核酸基質注入までに除去する必要がある。これには酵素やDNAをビーズなどに固定化して反応槽に残し、反応液を交換除去する方法もあるが、酵素アピラーゼを用いてATPとdNTPのリン酸基部分を分解して不活性化する方法が簡便な方法として汎用されている。以下の実施例ではアピラーゼを用いて核酸基質を分解した。
4種の基質を順次注入し、注入した基質が鋳型DNAの伸長サイトと相補的である場合には相補鎖合成が進行し、相補鎖合成起因の発光が検出され、相補的でない場合には発光は検出されない。未反応のまま残った相補鎖合成基質、およびATPはアピラーゼで分解され以後の反応には関与しない。これを繰り返すことにより、DNAの塩基配列を決定する。
従来のパイロシーケンス法で用いる核酸基質はdATPαS、dCTP、dGTP、dTTPである。広く普及している蛍光式DNAシーケンス法ではDNA相補鎖合成にはdATPが用いられるが、パイロシーケンス法ではdATPαSを用いるのが従来、通例であった。これは他のdNTPと異なり、dATPはATPと構造が似ているためATPよりも反応性は弱いもののルシフェラーゼの存在下でルシフェリンと反応し、dATP起因の背景発光を生じるからである。通常の相補鎖合成では、相補鎖合成を速やかに十分に行うために鋳型DNAの量に対して数十倍以上の相補鎖合成基質を反応槽に入れる。例えば、特表2001-506864では80倍のdNTPが加えられている。しかし、同じ塩基種が数個同時に取り込まれる場合を考えると、dNTPは用いる鋳型DNAの数倍の濃度で十分なはずである。本実施例では、種々のdNTP濃度における相補鎖合成反応の進行具合を検討し、dNTPは鋳型DNAの10倍量あるいはそれ以下でも十分であることを確認した。図3にATPを1pmolの量注入したときとdATPを10pmolの量注入したときのルシフェラーゼ発光反応の大きさを比較して示す。このようにdATPもルシフェラーゼ発光反応試薬として作用し、dATPによる背景発光強度は、dATPの量がATPの量の10倍のとき、dATPの信号強度はATPの背景発光の6分の1程度となる。なお、実際のパイロシーケンシングの条件下では、アピラーゼによる分解反応が加わるため信号のピーク強度差は小さくなる。以上のように、パイロシーケンシングの場合、相補鎖合成によって発生するATPの量はせいぜいターゲットとなるDNAの量程度であるのに対し、従来のパイロシーケンシングの条件下では数十倍のdNTPが加えられていた。このような量のdNTPが加えられた場合、dATPに起因する背景化学発光の強度が大きく、DNA相補鎖合成とそれに伴うピロリン酸生成及びATP生成による発光をうち消してしまうため配列決定上大きな問題であった。そこで従来法では化学発光反応の能力の低いdATPαSを用いた相補鎖合成反応が行われていた。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
本実施例では、測定された発光のプロファイルから、dATP起因の背景発光のプロファイルを差し引き、相補鎖合成起因の発光プロファイルを取得する方法について説明する。
本実施例では、測定された発光のプロファイルから、dATP起因の背景発光のプロファイルを差し引き、相補鎖合成起因の発光プロファイルを取得する方法について説明する。
図4は鋳型DNAの量を変化させたときに相補鎖合成の有無で発光信号がどのように変化するかを示したものである。1回に注入するdATPの量は25pmolである。これを4回続けて注入した。注入したdATPは相補鎖合成反応のあと、1回ごとアピラーゼによって分解される。鋳型DNAはp53変異型を用いた。鋳型DNAの量は0.25pmol, 0.5pmol, 1.25pmol, 2.5pmol, 5pmol, 10pmolと変化させた。すべて25℃の室温で実験した。1回の反応におけるdATPと鋳型DNAの比はそれぞれ100倍、50倍、20倍、10倍、5倍、2.5倍であり、それぞれ(a), (b), (c), (d), (e), (f)とした。
鋳型DNA 2.5pmol、dATPとの比が10倍である (d)の場合を例にとり説明する。25pmol のdATPを続けて4回注入し、初回の発光プロファイルを実線441で示した。2回目から4回目までは発光プロファイルに変化は見られずこれを破線 442 で示した。2回目から4回目までのdATPの注入で発光プロファイルに変化がなかったのは、初回のdATPの注入で鋳型DNAの相補鎖合成が十分進行し、2回目以降の注入では未反応の鋳型DNAが見られずdATPの起因の背景発光だけになったためと考えられる。
実線 411, 421, 431, 441, 451, 461はDNA相補鎖合成起因の発光とdATP起因の発光とを含んだものになっている。一方、破線 412, 422, 432, 442, 452は、2回目から4回目までの発光プロファイルに変化がなく、dATP起因の背景化学発光だけである。
図4の(a)に示すように、鋳型DNAの量が0.25pmolと、dATPの方が鋳型DNAの100倍と十分多いときには、dATP起因だけの発光411とdATP起因の発光と相補鎖合成起因の発光とを含んだ発光412との間でパターンに若干の差があるにしてもほとんど変化がないことがわかる。これはdATP起因の発光に比べて相補鎖合成に起因する信号強度が弱すぎるためである。鋳型DNAの量を増やしていくと徐々に鋳型DNAの有無による差が現れ、相補鎖合成起因の発光を識別できることがわかる。さらに鋳型DNAを10pmolにまで増やし、dATPと鋳型DNAの比が2.5倍となった(f)の場合には他と異なり3種類の発光プロファイルが見られた。すなわち、1回目のdATPの注入による発光が実線 461 、2回目のdATPの注入による発光が一点鎖線463、3回目と4回目との発光プロファイルには変化がなく破線462となった。これは、1回目のdATPの注入では鋳型DNAに未反応の塩基が残り、2回目のdATPの注入でも相補鎖合成による発光反応が見られ、3回目になって相補鎖合成による発光はなくなり、dATPの背景発光だけの発光プロファイルになったものと考えられる。
この図から、相補鎖合成起因の信号を含む発光パターンは、鋳型DNAの量を増加させるにしたがって、次第に相補鎖合成起因の信号が主になっていき、鋳型DNAの量が0.5pmol以上、すなわちdATPと鋳型DNAの比が50倍以下でdATP起因の背景発光からDNA相補鎖合成起因の発光を識別することができる。好ましくはdATP起因の信号とDNA相補鎖合成起因の発光とがほぼ同程度となる鋳型DNAの量が1.25pmol以上、すなわちdATPと鋳型DNAの比が20倍以下であることが好ましい。さらに好ましくは、2.5倍以上で1回の注入で相補鎖合成が終了するので2.5〜20倍であることが好ましい。このようにdATPの注入量と鋳型DNA量の比率の範囲を決めることで正確な配列決定をし得ることがわかる。
図6(a)はdATPを用いてシーケンスを行った結果である。鋳型DNAとしては、p53変異型を1pmol用いた。dATPの量は10pmolであり、鋳型DNAの10倍にあたる。他のdNTPの量は25pmolである。発光試薬、鋳型DNAおよびポリメラーゼを混合した反応溶液に、4種類のdNTPをA,C,G,Tの順に注入した。注入した塩基種を601に記した。信号強度からp53変異型の配列AGTGCCTを決定しこれを602に記した。ただし重複する場合は重複する個数を付して、「2C」のように記載した。
最初の信号611および 612、613 はDNA相補鎖合成に起因する発光とdATPに起因する背景発光とが重なったものでありピーク強度が大きい。一方、信号621、622、623、624、625 はdATPに起因する背景発光だけでありピーク強度が小さくなっている。dATPを注入することによって発光が開始された各々の発光プロファイルから、dATPに起因する背景発光のプロファイルをdATP注入後の測定点ごとに差し引いて補正して相補鎖合成反応に起因する発光プロファイルとして取得し、図6(b)に示した。こうして、dATP発光の影響を除去することで正確な配列決定ができる。
以上説明したように、たとえルシフェラーゼと反応して発光反応を生じるdATPを用いても、濃度範囲を最適化し、dATP起因の信号を差し引き補正することで、正確な配列決定を行うことができる。
尚、dATPに起因する背景発光を決定する方法には以下の3通りの方法が考えられる。まず、鋳型DNAのない以外は配列解析と同一条件の発光試薬に、dATPを注入し、その発光のプロファイルをdATPに起因する背景発光とする方法である。
次に、複数回dATPを注入すると鋳型DNAにAのサイトの相補鎖合成が十分進み、dATPと複数発光プロファイルの変化が見られなくなる。その変化しなくなった発光プロファイルをdATPの背景発光とするのが、第2の方法である。
さらに、実際のシーケンスでは、あらかじめ複数回の注入回数を決めておく場合がある。その場合、Aの重複が多い場合には、未反応の鋳型DNAが残ってしまう場合がある。そのとき、それ以外のdATPの背景発光をみることにより、その背景発光、とくにその直前、直後のdATPの背景発光を推定する方法が第3の方法である。
以下、シーケンス反応の詳細について述べる。DNAサンプル(1pmol/μL)5μLと1.5倍量のプライマーとをアニーリングバッファー中(10mM Tris-acetate buffer, pH7.75, 2mM magnesium acetate)でハイブリダイゼーション(94℃, 20s → 68℃, 120s → 4℃)を行い、DNA鋳型サンプル溶液10μL(0.5pmol/μL)を得た。p53変異型の場合、ハイブリダイゼーションは(94℃, 20s → 65℃, 120s → 4℃)である。鋳型DNAはk-ras-Val 1 とp53変異型であり、以下のプライマーを用いた。
k-ras-Val 1プライマー:5’-aag gcact cttgc ctacg cca-3’(配列番号1)
鋳型DNA:5’-gactgaat ataaacttgt ggtagttgga gctgttggcg taggcaagag tgccttgacgatacagctaa ttc -3’(配列番号2)
k-ras-Val 1プライマー:5’-aag gcact cttgc ctacg cca-3’(配列番号1)
鋳型DNA:5’-gactgaat ataaacttgt ggtagttgga gctgttggcg taggcaagag tgccttgacgatacagctaa ttc -3’(配列番号2)
これにより解析される配列はac agctc caact accac aagtt tatat tcagt c (配列番号3)となる。
p53変異型 プライマー:5’-ga acagc tttga ggtgc gtgtt-3’(配列番号4)
鋳型DNA:5’-ctttc ttgcg gagat tctct tcctc tgtgc gccgg tctct cccag gacag gcact aacac gcacc tcaaa gctgt tccgt cccag tagat tacca accat tagat gaccc tgcct tgtcg aaact ccacg cacaa tcacg gacag gaccc tctct ggccg cgtgt ctcct tctct tagag gcgtt ctttc -3’(配列番号5)
鋳型DNA:5’-ctttc ttgcg gagat tctct tcctc tgtgc gccgg tctct cccag gacag gcact aacac gcacc tcaaa gctgt tccgt cccag tagat tacca accat tagat gaccc tgcct tgtcg aaact ccacg cacaa tcacg gacag gaccc tctct ggccg cgtgt ctcct tctct tagag gcgtt ctttc -3’(配列番号5)
これにより解析される配列はagtgc ctgtc ctggg agaga ccggc gcaca gagga agaga atctc cgcaa gaaag(配列番号6)となる。
シーケンシングでは、反応セル中に反応容器は、内径6mm、深さ11mmで最大約300μLの反応液を保持できるものを用いた。この反応容器に発光試薬(20μL)、鋳型DNA(2μL、1pmol)を加えた。
発光試薬の標準的な組成を表1に示す。
発光試薬の標準的な組成を表1に示す。
ポリメラーゼ酵素はエクソ活性のないクレノーフラグメント(Exo- Klenow)を用いた。エクソ活性があると相補鎖合成の時に末端塩基を切り取り、再度相補鎖塩基を結合するプロセスが組み込まれる。このため段階的な相補鎖合成を用いる配列決定方法では同じ配列を繰り返し読むことになったり、相補鎖合成反応の進行状態がDNAコピー毎に異なってきたりする原因になるからである。
シーケンスに用いた装置は発明者が独自に開発した4種の基質を順次反応容器に注入する回転式DNA配列解析装置である。4個の反応容器を円周上に設置し、ホルダで保持する。試薬はディスペンサで分注し、分注量は加圧圧力と加圧時間で制御する。反応容器は市販のチップが使用できる。
4個の回転型ディスペンサに4種類の基質溶液をそれぞれ50-200μL加えて、dATPの濃度は40μM、他のdNTPの濃度は100μMとし、それぞれ0.25μLずつ順次、反応容器に注入した。また反応容器を撹拌するためマイクロバイブレータを接触させている。攪拌時間はdNTP注入後20秒間とし、25℃の室温にてシーケンスを行った。反応溶液にdNTPが注入されたときに生じる光をホトダイオードにより検出した。検出回路は、高抵抗からなる電流電圧回路で、変換用のプリアンプと増幅率20倍のバッファーアンプからなる。得られたアナログ信号はA/D変換し、コンピュータに取り込みこれにより制御した。
[実施例2]
図4の結果を見ると、dATPと鋳型DNAとの比率を変えてもdATPを注入してピークに達するまでの時間はほぼ同じである。この場合、発光プロファイルの比較は、ピーク強度を比較するだけでも実現できる。すなわち、鋳型DNAの相補鎖合成に起因する発光強度は、鋳型DNAがあるときの発光のピーク強度と、dATPに起因する発光との差をとればよい。
図4の結果を見ると、dATPと鋳型DNAとの比率を変えてもdATPを注入してピークに達するまでの時間はほぼ同じである。この場合、発光プロファイルの比較は、ピーク強度を比較するだけでも実現できる。すなわち、鋳型DNAの相補鎖合成に起因する発光強度は、鋳型DNAがあるときの発光のピーク強度と、dATPに起因する発光との差をとればよい。
そこで、図5にdATPを入れた初回のピーク値と、dATPを入れても発光プロファイルが変化しなくなったときのピーク値とが、鋳型DNAの量とともに変化する様子を示した。dATPを入れても発光プロファイルが変化しなくなったときの発光強度のピーク値は直線 501で近似できる。これは鋳型DNAの量にかかわらずほぼ一定でありdATP起因の背景発光だけになっていることを示している。
dATPを入れた初回のピーク値は、鋳型DNAの量が増えるにしたがって増加する。DNA相補鎖合成起因の発光を取り出すためには、この測定されたピーク値からdATP起因の発光のピーク値を差し引けばよい。鋳型DNAが10pmolのときは、502 であり原点を通る直線 504 から離れているがそれ以外は直線 504 にほぼのっている。鋳型DNAが10pmolのときの2回目と3回目以降との差は1回目のdATPの注入で未反応であった鋳型DNAによる発光であると考えられるので、この差を 502 に加えて 503 とし、これをDNA相補鎖合成起因の発光強度の総量と考えた。このようにすると、鋳型DNAによる相補鎖合成起因の発光のピーク値は全て直線 504 上にほぼのっていることがわかる。
このように、測定したdATPの発光強度のピーク値と背景発光のピーク値を差し引くことによっても同様に塩基配列を得ることができる。これを表2に示した。
[実施例3]
図12(a)に測定された発光強度のプロファイルを実線 1201で示し、背景発光のプロファイルを 破線 1202 で示し、1201と1202の間の領域を斜線 1203 で示した。斜線の領域 1203 は測定された発光強度のプロファイルと背景発光のプロファイルとの差である。この測定された発光強度のプロファイルと背景発光のプロファイルとを測定点ごとに差し引いて補正して相補鎖合成反応に起因する発光プロファイルとして取得し、改めて図12(b)に実線 1204 で示した。図6の(a)から(b)の図はこのようにして得ている。
図12(a)に測定された発光強度のプロファイルを実線 1201で示し、背景発光のプロファイルを 破線 1202 で示し、1201と1202の間の領域を斜線 1203 で示した。斜線の領域 1203 は測定された発光強度のプロファイルと背景発光のプロファイルとの差である。この測定された発光強度のプロファイルと背景発光のプロファイルとを測定点ごとに差し引いて補正して相補鎖合成反応に起因する発光プロファイルとして取得し、改めて図12(b)に実線 1204 で示した。図6の(a)から(b)の図はこのようにして得ている。
また、注入した塩基種ごとにこのピーク領域の面積を求め、この面積を比較することにより塩基配列を決定することができる。
[実施例4]
図1および図2に示すように、今回用いたパイロシーケンス法は4つの酵素反応系から成り立っている。発光はルシフェラーゼ酵素反応によるものであるが、その発光プロファイルは、4つの酵素反応の競合によってピーク強度、ピークの幅、ピークの形状などが異なり、ピークの位置の時間的なずれも発生する。酵素反応の活性は温度やpHなどの環境条件によって異なる。ここでは環境条件の一例として温度を変えたときの発光プロファイルの変化を図7に示す。dATPの量を25pmol, 鋳型DNAはp53変異型を用い2.5pmolとした。dATPは鋳型DNAの10倍に当たる。温度が15℃の場合を(a)に示し、鋳型DNAがある場合の発光強度を711、ピークの位置を713、鋳型DNAがない場合の発光強度を712、ピークの位置を 714とした。同様に20℃、25℃、30℃、35℃、43℃の場合の鋳型DNAの有無による発光強度プロファイルをそれぞれ (b), (c), (d), (e), (f)に示した。
図1および図2に示すように、今回用いたパイロシーケンス法は4つの酵素反応系から成り立っている。発光はルシフェラーゼ酵素反応によるものであるが、その発光プロファイルは、4つの酵素反応の競合によってピーク強度、ピークの幅、ピークの形状などが異なり、ピークの位置の時間的なずれも発生する。酵素反応の活性は温度やpHなどの環境条件によって異なる。ここでは環境条件の一例として温度を変えたときの発光プロファイルの変化を図7に示す。dATPの量を25pmol, 鋳型DNAはp53変異型を用い2.5pmolとした。dATPは鋳型DNAの10倍に当たる。温度が15℃の場合を(a)に示し、鋳型DNAがある場合の発光強度を711、ピークの位置を713、鋳型DNAがない場合の発光強度を712、ピークの位置を 714とした。同様に20℃、25℃、30℃、35℃、43℃の場合の鋳型DNAの有無による発光強度プロファイルをそれぞれ (b), (c), (d), (e), (f)に示した。
この結果から、dATP注入からピークに達するまでの時間は、鋳型の有無、温度条件によって変化していることが分かる。
さらに、dATPの注入からピークに達するまでの時間が鋳型DNAの有無、温度によってどのように変わるかを図8のグラフに示した。図中の各点にピークに達するまでの時間を数字で明示した。鋳型DNAのある場合におけるピークに達するまでの時間と温度との関係を示したものが 801、同様に鋳型DNAのない場合について示したものが 802 である。この図から鋳型DNAの有無にかかわらずdATPの注入からピークに達するまでの時間は高温になるに従って次第に短くなっていることがわかる。また、同じ温度で鋳型DNAの有無による違いを比較すると、鋳型DNAのない場合の方が鋳型DNAのある場合よりも短くなっている。
さらに、15℃、20℃の低温では鋳型DNAの有無によるピーク強度の差はあまり大きくないが、25℃、30℃、35℃と温度が上昇するにしたがってその差は大きくなる。さらに43℃の高温にすると両者の差は小さくなっている。これは、酵素毎に反応速度の温度依存性が異なり、その競合の状況によって生じたものと考えることができる。
図8を見ると、30℃から35℃において、鋳型DNAの有無でピークに達するまでの時間差が1.5秒と最も大きくなる。また、25℃、43℃においても比較的大きな時間差が見られる。この差を利用して、dATPに起因する背景発光を測定プロファイルから分離する。そこで背景発光のピークを含む時間の信号を0として無視するという簡単な方法によって、背景発光の影響を低減することができる。すなわち、測定された発光プロファイルと、dATPに起因する背景発光プロファイルを比較し、両者のピークがよく分離できる箇所を検出する。その箇所のdATPを注入してからの時間をカットオフ時間とし、カットオフ時間までの発光プロファイルを0として、カットオフ時間以降の発光プロファイルを相補鎖合成に起因する発光信号とする。以下、図9を用いて説明する。
図9(a)に測定された発光プロファイル 901 とdATPに起因する背景発光プロファイル 902 を示した。dATPに起因する発光プロファイル 902においてピーク値から2分の1になるまで減衰した時間である8秒を、カットオフ時間として 903 に示した。鋳型DNAのある場合の発光プロファイルにおいて、このカットオフ時間以前の発光プロファイルを0として図9(b)に示した。このときピーク強度は15%しか減少しないのでこれを相補鎖合成に起因する発光とみなすことができる。図9(c)はdATPに起因する発光プロファイルにおいてカットオフ時間以前の発光プロファイルを0としたものである。この例では、dATPに起因する背景発光のピークに対して2分の1としたが、適当な別の値を採用してもよい。
このようにdATPの注入からカットオフ時間、すなわち本例では8秒以内の信号を除去することにより、相補鎖合成に起因する信号強度を取得する。dATPに起因した背景発光は、DNA相補鎖合成に起因した発光と時間的にずれることを利用してdATPに起因した背景発光を抑えて、高感度なDNA塩基配列決定を可能にする。
このカット時間は温度やpH、酵素の種類などの条件によって変化する。そのため用いる実験条件によってカットオフ時間を設定し、そのカットオフ時間を用いて本実施例を行うことが重要である。
ここで示した実施例では、酵素活性の温度依存性の違いによる時間的なずれを利用する方法を示したが、酵素反応の活性は温度だけでなく、pHや添加する試薬組成などのほかの条件によっても変化する。たとえば、従来からPPiからATPを生成する反応の基質としてAPSを用いている。しかしながら、PPiからATPを生成する反応として他の系を用いて、その酵素活性が条件によって大きくことなるものを用いてもよい。たとえば、PPiからATPを生成する反応基質としてAMP(Adenosine monophosphate)を用い、酵素としてPPDK(Pyruvate orthophosphate dikinese)を用いてもよい。
[実施例5]
これらの実施例ではdATPの量を比較的小さく押さえると共に、dATPに起因する背景発光を、測定された発光から差し引いて相補鎖合成に起因する発光を取得した。本実施例は、dATPを反応槽に注入するプロセスを複数回繰り返して、得られる化学発光強度の変化を利用して相補鎖合成反応に起因した信号を得る方法に関する。
これらの実施例ではdATPの量を比較的小さく押さえると共に、dATPに起因する背景発光を、測定された発光から差し引いて相補鎖合成に起因する発光を取得した。本実施例は、dATPを反応槽に注入するプロセスを複数回繰り返して、得られる化学発光強度の変化を利用して相補鎖合成反応に起因した信号を得る方法に関する。
本実施例ではピークをできるだけ大きくすることが望ましく、25℃の室温で実施した。例えば、鋳型DNAに対して5倍量のdATPを注入する段階的配列決定法では、ターゲットとなるDNAの配列に連続してAが現れる場合、Aが1つだけの場合よりも大きな発光強度となる。通常、Aの連続する数はほとんど3回よりも少ないが、そのような場合には、鋳型DNAの5倍量のdATPを注入すれば、1回目の注入でDNA相補鎖合成をほぼ終了させることができる。Aが連続して配列に現れる回数が3回よりも多い場合には、相補鎖核酸基質不足が生じて鋳型DNAに未反応のサイトが残ってしまう。これに対し本実施例では複数回の注入によって連続するAの重複度を決定することによりこの問題を解決した。
重複する塩基数の決定以外にも複数回の注入によって未反応サイトの有無が確認できるという効果がある。すなわち、重複塩基数が3回よりも少ないときに複数回注入した場合、2回目の注入はdATPの背景発光と同程度となる。これから、背景発光の大きさが確認できると同時に、鋳型DNAの未反応のサイトがないことが確認できる。
上記で、Aの連続数が3までを1回に解読できる塩基数であるとして議論したが、これはひとつの例を示したものであり、dATPの量その他の条件によって変化する。しかし、DNAの相補鎖合成の進む程度は標準条件から大きくはずれない限り、主にdATPと鋳型DNAとの比によって規定され、アピラーゼ濃度、温度、ルシフェラーゼ濃度などの他の条件に大きくは依存しないことが確認できている。
図11は鋳型DNAのAの重複度を変えたときの相補鎖合成に起因する発光強度の注入回数依存性を示したグラフである。1101は鋳型DNAの最初のAのサイトの部分がAとひとつだけの場合、1102はAAというように鋳型DNAの重複度が2である場合、1103はAAAAと重複度が4、そして1104は重複度8の場合である。注入回数は5回までとした。dATP起因の背景発光はあらかじめ差し引いている。鋳型DNAは5pmolとし、1回のdATP注入量は鋳型DNAの5倍量の25pmolとした。重複度が1の場合、2回目のdATPの注入によって相補鎖合成起因の発光は見られず初回で相補鎖合成反応が終了している。重複度2ではごく微量の、重複度4では4分の1程度の未反応の相補鎖合成がみられ、3回目の注入で相補鎖合成の終了が確認できている。重複度8ではさらに多くの未反応の相補鎖合成による発光が観測され、3回目の注入まで相補鎖合成に起因する発光が見られている。
注入によって生じた相補鎖合成に起因する発光のピーク値を積算し表3に示した。1塩基の相補鎖合成に起因する発光強度0.238(Arb.U)なのでこれを単位として発光強度のピーク値の積算値をみると、それぞれ1.953、3.98、8.21となり塩基数を2,4,8と決定できる。
以下、鋳型DNAに対して5倍量のdATPを複数回(通常2−3回)反応槽に注入してシーケンスを行った実施例について示す。この実施例では、鋳型DNAの量は0.5pmolとした。dATPは1回に0.25μLずつ各塩基について連続して2回ずつ反応容器に注入した。dATPの濃度を10μM(1回の注入量は2.5pmol、鋳型DNAの5倍)、dTTPなどdATP以外の基質の濃度を20μM(5pmol、鋳型DNAの10倍)とし、それぞれ連続して2回ずつ反応容器に注入してシーケンスを行った。結果を図10(a)に示す。
1回目の相補鎖合成反応試薬の注入1011で反応が十分に進むと、1回目の注入の際にでる信号はDNA相補鎖合成反応により生成したピロリン酸がATPに変換され、化学発光を起こした分(DNA相補鎖合成に起因する発光)と注入した試薬自体が化学発光反応を引き起こした分(dATP起因の背景化学発光)との重ね合わせとなる。同じ塩基種についての2回目の注入1012では、DNA相補鎖合成は1回目の注入で完了しているので、2回目の注入で発生する発光は注入した試薬自体が発光反応を起こしたdATP起因の背景化学発光だけであると考えられる。そこで両者の差を取ればDNA相補鎖合成に起因した信号を抜き出すことができる。このようにして補正した結果を図10(b)に示す。
図10(a)に示される発光パターン(パイログラム)において、2回目の信号強度を差し引き処理するのでこの信号強度のばらつきは結果に大きな影響を与える。dATPを注入したときに得られる発光反応のばらつきは注入量のばらつきに強く依存する。このために相補鎖合成に起因した信号強度に比べて試薬注入量のばらつきを十分に小さくする必要がある。しかし、試薬注入量のばらつきは注入量の5%以下なのでdATPの量が鋳型DNAの量に比べて10倍以下の場合には問題はない。
1回目の試薬注入で十分に相補鎖合成が進行しない場合には(DNAが高次の構造を取りやすい、あるいは一度に取り込まれるdATPの数が多い場合など)dATPの注入量を増やす必要がある。これには1回の注入量自体を増やす方法と注入回数を増やす方法がある。1回に注入する量を増やすと背景信号強度が大きくなりすぎて差し引き処理により相補鎖合成による信号を取り出す精度が低下する。そこで、ここでは注入回数を増加させることで対処した。1回の注入量を少なくして回数を増やすことにより、不必要に背景発光の信号強度を大きくすることなく、相補鎖合成反応を完全に進め、また、相補鎖合成反応を背景発光信号から識別することができる。
本実施例では反応に用いたdNTPを除去するためにアピラーゼによる分解を用いたが、鋳型DNAや酵素類をビーズなどの固体表面に固定しておき、dNTPを含む反応溶液を廃棄し、反応槽を洗浄後、新たなdNTPを含んだ反応試薬を注入してもよい。この場合には操作が少しやっかいであるが、反応生成物などが集積しないのでより確実で安定した配列決定反応を行える利点がある。
本発明はDNA塩基配列決定および核酸塩基の種類同定を用いた遺伝子診断及び変位検出などに利用できる。
411…鋳型DNA 0.25pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
412…鋳型DNA 0.25pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
421…鋳型DNA 0.5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
422…鋳型DNA 0.5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
431…鋳型DNA 1.25pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
432…鋳型DNA 1.25pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
441…鋳型DNA 2.5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
442…鋳型DNA 2.5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
451…鋳型DNA 5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
452…鋳型DNA 5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
461…鋳型DNA 10pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
462… 鋳型DNA 10pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの3回目から4回目の発光プロファイル
463…鋳型DNA 10pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目の発光プロファイル
501…dATPを注入しても発光プロファイルが変化しなくなったときのピーク値を示す直線
502…鋳型DNA 10pmol のときのdATPを注入して初回に発光強度から背景発光を差し引いた発光強度
503…鋳型DNA 10pmol のときの未反応の鋳型DNAの量を繰り入れたDNA相補鎖合成により生じる発光強度
504…DNA相補鎖合成により生じる発光強度が鋳型DNAによって増加する関係を示す直線
601,602…ACGTの順に繰り返し注入した4種類のdNTP
603…発光検出したp53変異型の配列
611,612,613…相補鎖合成反応に起因する発光を含むピーク強度の大きい信号
621,622,623,624,625…dATPに起因する背景発光のみのピーク強度の小さい信号
711…温度が15℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
712…温度が15℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
713…温度が15℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
714…温度が15℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
721…温度が20℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
722…温度が20℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
723…温度が20℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
724…温度が20℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
731…温度が25℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
732…温度が25℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
733…温度が25℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
734…温度が25℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
741…温度が30℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
742…温度が30℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
743…温度が30℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
744…温度が30℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
751…温度が35℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
752…温度が35℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
753…温度が35℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
754…温度が35℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
761…温度が43℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
762…温度が43℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
763…温度が43℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
764…温度が43℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
801…鋳型DNAがある場合
802…鋳型DNAがない場合
901…鋳型DNAがある場合の発光プロファイル
902…鋳型DNAがない場合の発光プロファイル
903…カットオフ時間
1001,1002…ACGTの順に繰り返し注入した4種類のdNTP
1003…発光検出したp53変異型の配列
1011…dATPの連続する2回の注入のうち1回目の注入による信号
1012…dATPの連続する2回の注入のうち2回目の注入による信号
1101…鋳型DNAの重複度が1の場合
1102…鋳型DNAの重複度が2の場合
1103…鋳型DNAの重複度が4の場合
1104…鋳型DNAの重複度が8の場合
1201…測定された発光強度のプロファイル
1202…背景発光のプロファイル
1203…測定された発光強度のプロファイルと背景発光のプロファイルとの差
1204…相補鎖合成反応に起因する発光プロファイル
412…鋳型DNA 0.25pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
421…鋳型DNA 0.5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
422…鋳型DNA 0.5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
431…鋳型DNA 1.25pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
432…鋳型DNA 1.25pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
441…鋳型DNA 2.5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
442…鋳型DNA 2.5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
451…鋳型DNA 5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
452…鋳型DNA 5pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目から4回目の発光プロファイル
461…鋳型DNA 10pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの最初の発光プロファイル
462… 鋳型DNA 10pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの3回目から4回目の発光プロファイル
463…鋳型DNA 10pmolにdATP 25pmol を4回注入したときの2回目の発光プロファイル
501…dATPを注入しても発光プロファイルが変化しなくなったときのピーク値を示す直線
502…鋳型DNA 10pmol のときのdATPを注入して初回に発光強度から背景発光を差し引いた発光強度
503…鋳型DNA 10pmol のときの未反応の鋳型DNAの量を繰り入れたDNA相補鎖合成により生じる発光強度
504…DNA相補鎖合成により生じる発光強度が鋳型DNAによって増加する関係を示す直線
601,602…ACGTの順に繰り返し注入した4種類のdNTP
603…発光検出したp53変異型の配列
611,612,613…相補鎖合成反応に起因する発光を含むピーク強度の大きい信号
621,622,623,624,625…dATPに起因する背景発光のみのピーク強度の小さい信号
711…温度が15℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
712…温度が15℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
713…温度が15℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
714…温度が15℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
721…温度が20℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
722…温度が20℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
723…温度が20℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
724…温度が20℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
731…温度が25℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
732…温度が25℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
733…温度が25℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
734…温度が25℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
741…温度が30℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
742…温度が30℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
743…温度が30℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
744…温度が30℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
751…温度が35℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
752…温度が35℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
753…温度が35℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
754…温度が35℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
761…温度が43℃のときの鋳型DNAがある場合の発光強度
762…温度が43℃のときの鋳型DNAがない場合の発光強度
763…温度が43℃のときの鋳型DNAがある場合のピーク
764…温度が43℃のときの鋳型DNAがない場合のピーク
801…鋳型DNAがある場合
802…鋳型DNAがない場合
901…鋳型DNAがある場合の発光プロファイル
902…鋳型DNAがない場合の発光プロファイル
903…カットオフ時間
1001,1002…ACGTの順に繰り返し注入した4種類のdNTP
1003…発光検出したp53変異型の配列
1011…dATPの連続する2回の注入のうち1回目の注入による信号
1012…dATPの連続する2回の注入のうち2回目の注入による信号
1101…鋳型DNAの重複度が1の場合
1102…鋳型DNAの重複度が2の場合
1103…鋳型DNAの重複度が4の場合
1104…鋳型DNAの重複度が8の場合
1201…測定された発光強度のプロファイル
1202…背景発光のプロファイル
1203…測定された発光強度のプロファイルと背景発光のプロファイルとの差
1204…相補鎖合成反応に起因する発光プロファイル
配列番号1−人工配列の説明:プライマー
配列番号2−人工配列の説明:鋳型DNA
配列番号3−人工配列の説明:解析される配列
配列番号4−人工配列の説明:プライマー
配列番号5−人工配列の説明:鋳型DNA
配列番号6−人工配列の説明:解析される配列
配列番号2−人工配列の説明:鋳型DNA
配列番号3−人工配列の説明:解析される配列
配列番号4−人工配列の説明:プライマー
配列番号5−人工配列の説明:鋳型DNA
配列番号6−人工配列の説明:解析される配列
Claims (10)
- 鋳型DNAを含む反応槽にdATPを前記鋳型DNAの量の50倍を超えない量で加えて段階的相補鎖合成を行い、dATPがルシフェラーゼの基質となって発光するdATP起因の背景発光強度を、測定された発光から差し引いて、相補鎖合成で生成するピロリン酸から変換されて生成するATPが引き起こす、相補鎖合成に起因する発光を取得することにより、前記鋳型核酸の塩基配列決定を行うことを特徴とする方法。
- 反応槽に注入するdATPの量が鋳型DNAの量に比べて20倍を超えない量であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 相補鎖合成に伴う発光の測定において、測定された発光のプロファイルと、dATPに起因した背景発光のプロファイルとがよく分離できる箇所を検出し、その箇所までの発光のプロファイルを除去することにより、前記相補鎖合成に起因する信号強度を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
- 相補鎖合成に伴う発光の測定において、カットオフ時間内の信号を除去することにより、前記相補鎖合成に起因する信号強度を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法:但し、カットオフ時間とは、dATPを注入してから発光のプロファイルと背景発光のプロファイルのピークがよく分離できる箇所までの時間をいう。
- カットオフ時間が8秒である、請求項4に記載の方法。
- 相補鎖合成反応を30℃〜43℃で行うことを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
- 反応槽へのdATPの注入を少なくとも2回行い、dATPに起因する背景発光をdATPの注入ごとに確認し、dATPに起因する背景発光強度を測定された発光強度から差し引きすることにより、前記相補鎖合成に起因する信号強度を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
- 前記相補鎖合成反応後に余剰のdNTPを除去することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記核酸基質の除去が、反応槽に共存させた酵素によって行われることを特徴とする請求項8に記載の方法。
- 前記核酸基質の除去が、鋳型DNAや核酸合成酵素を固定化して、反応槽内の反応液を入れ替えることによって行われることを特徴とする請求項8に記載の方法。
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