以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1に、第1の実施形態に係る層間絶縁診断装置を示す。本実施形態では、誘導電動機10について層間絶縁診断を行う場合に用いられる例として説明する。
本実施形態の層間絶縁診断装置は、試験用電源装置7と誘導電動機10が接続され、誘導電動機10では、いずれかの相の第1コイルの口出し側に結合コンデンサが配置されており、該結合コンデンサを流れる電流を検出する第1の電流プローブ1と、誘導電動機10の固定子コイル間接続部14に流れる電流を検出する電流プローブ2と、各電流プローブ1,2の出力信号を受けて、診断を行えるようにする診断支援装置400とを有する。診断支援装置400は、各電流プローブ1,2の出力信号から電源周波数成分を除去するための多チャンネル高域通過フィルタ(遮断周波数1〜100MHz)3と、電源周波数成分が除去された出力信号について論理判断を行う論理弁別器4と、放電状態を検出する放電検出器5とを有する。
本実施形態では、具体的には、誘導電動機10(6.6kV、500kVA)のU相第1コイル11を試験用電源装置7(6.6kV、200kHz、正弦波)に接続し、V、W相の第1コイル13をアースに接続している。U相の電源線9には結合コンデンサ6(100pF)を付け、結合コンデンサ6の低圧側をアースに接続し、該接続線に電流プローブ1を設置している。一方、誘導電動機10の各固定子コイル間の接続部14に電流プローブ2を設置している。図1では、U相第1コイル11とU相第2コイルとの間の接続部14に電流プローブ2が配置されている例を示している。
各電流プローブ1、2の出力信号は、多チャンネル高域通過フィルタ(遮断周波数1MHz)3に入力され、電源周波数成分が除去される。その後、論理弁別器4を介し、放電検出器5に入力される。放電検出器5としては、例えば、デジタルオシロスコープ(帯域1GHz、サンプリング周波数4GS/s)が用いられる。この放電検出器5により、放電状態を検出すると共に、その結果を表示することで、コイルの診断が行えるようにする。すなわち、この放電検出器5は、絶縁診断を支援する装置として機能する。
試験用電源装置7は、高周波電源7aと、内部インピーダンス8とを有する。この内部インピーダンス8は、保護抵抗、ブロッキングインピーダンスとして機能する。
電流プローブ1、2は、例えば、電流を検出するコイルで構成され、センサとして機能する。これらの電流プローブ1、2は、それぞれコイルの一部を開閉可能として、検出対象の線を、コイル内に配置できる構造とする。なお、検出対象の線の一部が着脱できる場合には、電流プローブ1、2を開閉可能でなくともよい。また、電流プローブ1、2の一方または両方について、予め回転機に組み込むこともできる。そのような回転機について診断する場合には、組み込まれている電流プローブを用いることができる。
図4に論理弁別器4の一例を示す。論理弁別器4では、電流プローブ1、2の放電電流を、コンパレータ190により接地電位と比較し、正極性、負極性それぞれ5V,0Vの極性信号に変換する。極性信号は、層間絶縁の部分放電を検出する場合にはExclusive OR(排他論理和)回路191および反転回路192に入力され、該出力は、HレベルでONするスイッチ194のトリガ端子に入力される。一方、対地絶縁の部分放電を検出する場合には、Exclusive OR回路191の出力はスイッチ193により、スイッチ194のトリガ端子に入力される。なお、部分放電信号のパルス幅が小さい場合には、コンパレータ190の出力を単安定マルチバイブレータに入力し、論理回路が動作するパルス幅の信号を取り出すようにすることもできる。
この論理弁別器4により、部分放電が、層間絶縁での部分放電か、対地絶縁での部分放電かを判別することができる。図3に、論理弁別器4により、出力信号26として、層間絶縁部分放電電流が弁別されている例を示す。図3では、実線により層間絶縁部分放電電流22を、また、破線により対地絶縁部分放電電流23を表している。
次に、第1の実施形態の層間絶縁診断装置の原理および作用について説明する。
図2に、誘導電動機コイルのはしご型等価回路モデルと、正極性放電の時の層間絶縁、対地絶縁の部分放電電流経路を示す。図2では、説明の簡単のため、1コイルを、対地絶縁の静電容量Cg、層間絶縁の静電容量Cr、コイルのインダクタンスLのT型等価回路で表している。また、部分放電電流の高周波成分は、層間絶縁の静電容量Crを流れ、低周波成分はコイルのインダクタンスLを流れるため、特に、CrとLの並列回路部分を1ブロックと考え、放電電流の経路を示している。電流プローブ1、2の極性は、回転電機外部では試験相の口出し27に向かう方向に流れる電流を正、回転電機内部では試験相の口出し27から他相の口出し28に流れる電流の向きを正としている。また、図2において、層間絶縁の部分放電、および、対地絶縁の部分放電のいずれかが発生するものとし、発生位置は、星印20で示す位置において層間絶縁の部分放電が、また、星印21で示す位置において対地絶縁の部分放電が、それぞれ発生するものとする。
層間絶縁診断装置の電流プローブ1では、層間絶縁と対地絶縁の放電電流は同極性である。このため、層間絶縁での部分放電と対地絶縁での部分放電とを区別できない。一方、電流プローブ2では、層間絶縁での部分放電電流と、対地絶縁での放電電流とは、逆極性である。しかしながら、電源電圧が極性反転すると、層間絶縁と対地絶縁の部分放電電流も極性反転する。このため、電流プローブ2だけでは、層間絶縁での部分放電と対地絶縁での部分放電とを区別できない。ところが、電流プローブ1、2で検出される部分放電電流は、それらを比較すると、表1のように、放電極性に関わらず、層間絶縁部分放電では同極性、対地絶縁部分放電では逆極性である。
このため、論理弁別器4において、電流プローブ1、2について、表1に示す極性の組合せを論理的に弁別することで、層間絶縁での部分放電と対地絶縁の部分放電とを区別することができる。すなわち、論理弁別器4により、電流プローブ1、2の放電電流が同極性の場合だけ、電流プローブ1、2のいずれかの信号を放電検出器に通過させることにより、層間絶縁の部分放電を検出することができる。一方、放電電流パルスが逆極性の場合だけ、信号を放電検出器に通過させることにより、対地絶縁の部分放電を検出できる。
さて、電流プローブ1により検出される部分放電電流24と、電流プローブ2で検出される部分放電電流25とが論理弁別器4に入力される。論理弁別器4では、前述した動作原理に基づき、論理的に判別を行って、出力信号26を出力する。図3の例では、層間絶縁部分放電電流が検出されている。
以上の極性判別を、真理値表で表すと表2となる。ただし、表2の入力では、電流プローブ検出電流の正極性を“1”、負極性を“0”としている。また、出力では、真ならば“1”、偽ならば“0”としている。
図2、図3および表1では、第1コイルの層間絶縁と対地絶縁の部分放電判別作用について示している。その他のコイルについても、コイルの両端のコイル間接続部に電流プローブを設置し、放電電流の極性を比較することにより、層間絶縁での部分放電と対地絶縁での部分放電とを判別できる。また、複数コイルを1ブロックとし、各ブロックを挟む電源線、電源線に接続されたコンデンサ、コイル間接続部に、それぞれ電流プローブを設置することにより、ブロック内のコイルで発生する、層間絶縁での部分放電と対地絶縁での部分放電とを判別することができる。なお、非部分放電計測相の口出しに電流プローブを設置する場合には、口出しと対地とを接続する接地線に電流プローブを設置することができる。
さらに、第1の実施形態では、部分放電電流の極性に基づいて、対地絶縁部分放電発生コイルを特定し、または、特定コイルから発生する部分放電を計測できる。これは、本実施形態では、対地絶縁部分放電発生コイルの両端に設置した電流プローブの放電電流極性が逆極性となるためである。
一方、層間絶縁部分放電では、いずれのコイルで部分放電が発生しても、全ての電流プローブで、正極性放電では正極性の電流が、負極性放電では負極性の電流がそれぞれ検出される。このため、部分放電電流の極性だけでは層間絶縁部分放電発生コイルを見つけることはできない。しかしながら、層間絶縁部分放電発生コイルは、部分放電が発生してから各電流プローブに放電電流が到達する時間の遅れを計測することにより特定できる。これは、層間絶縁部分放電コイルに最も近い電流プローブで最も早く放電電流が検出されるためである。
表3に、口出しから第4コイルの対地絶縁部分放電発生時における各電流プローブの電流極性を示す。放電電流の極性は、対地絶縁部分放電発生コイルを境に逆転している。このため、各電流プローブの放電電流の極性パターンを調べるか、あるいは試験ブロック内のコイル数を減らしながら走査し、極性が逆転しているコイルを見つけることにより対地絶縁部分放電発生コイルを特定できる。
図5Aに、表3の放電電流極性パターンから層間絶縁部分放電と判別された放電電流パルスを、縦軸を電流、横軸を時刻として、表示させた例を示す。また、層間絶縁部分放電発生コイルと各電流プローブの位置関係を、図5Bに示す。図5Aにおける符号は、図5Bにおける電流プローブを示す符号に対応する。層間絶縁部分放電が発生したコイル230(同図中、星印で示す)の両端に設置した電流プローブ231、232で最も早く放電電流が検出されている。また、放電発生源から遠ざかるにつれて、放電電流の到着時間が遅くなっている。したがって、層間絶縁部分放電発生コイルは、最も早く放電電流が検出される電流プローブを見つけることにより、層間絶縁部分放電発生コイルを特定できる。この方法としては、上記のように、各電流パルスの立ち上がり(あるいは立下り)にトリガをかけて、立ち上がり(あるいは立下り)時刻を比較することにより特定できる。
これまで述べた装置では、診断そのものは、オペレータが行う。しかし、放電検出の結果に基づいて、絶縁診断を装置自身に行わせることもできる。そのようなシステムとして、情報処理装置500を用いたシステム、例えば、図26、図28、図31等のシステムがある。
図6〜図9には、全コイルに電流プローブを設置し、極性パターンおよび放電電流到達時間から各コイルの層間絶縁、対地絶縁部分放電発生源を特定し、各部分放電特性を測定した例を示す。一方、図10、図11には、試験ブロック内のコイル数を減らしながら走査し、極性が逆転しているコイルを見つける検索フローチャートを示す。このフローチャートを実現するプログラムは、後述するコンピュータ510の外部記憶装置514に格納されている。この検索のために、図1に示す、多チャンネル高域通過フィルタ3と論理弁別回路4とが、全コイル毎に設置された電流プローブ対応に設けられる。また、放電の時間変化を計測する装置も、同様に設置する。なお、これらの装置について、同時に使用しなくてよい装置は、切り替えて使用することで台数を減らすことができる。そして、得られた信号をディジタル処理可能に変換するインタフェース装置540(図37参照)を介して、コンピュータ510(図37参照)に取り込んで検索処理すると共に、その後のデータ処理および画面表示処理等を行う構成とする。画面表示処理としては、図6〜図9に例示する画面の表示、および、これに対する指示操作が挙げられる。
ここで、コンピュータ510の構成について説明する。図37に示すように、コンピュータ510は、中央処理ユニット(CPU)511と、リードオンリーメモリ(ROM)512と、ランダムアクセスメモリ(RAM)513と、ハードディス装置等で構成される外部記憶装置514とを有する。外部記憶装置514には、このコンピュータ510において実行されるプログラムとして、オペレーティングシステム、各種アプリケーションプログラム等が格納される。アプリケーションプログラムとして、典型的なものに、本発明において実行される診断プログラムが挙げられる。また、データとして、例えば、後述する各種測定データ、および、測定データから求められた各種値を格納する。これらのデータは、後述するように、コンピュータ510において加工され、特性図等の形式で表示することに用いられる。なお、コンピュータ510による処理の例は、図26、
図31、図37等に示されている。処理については、後述する。
このコンピュータ510には、キーボード521、マウス522等の入力装置と、液晶ディスプレイ等の表示装置530と、計測値等を受け入れると共に、計測装置を制御する信号を出力するインタフェース装置540とが接続される。コンピュータ510と、これらの装置とを含めて、情報処理システム500が構成される。なお、この情報処理システム500は、一般的なコンピュータシステムで構成することができる。この他に、制御用コンピュータを用いて構成することができる。また、専用のコンピュータを用いて構成することもできる。ここで、計測装置としては、第1のコイル1、第2のコイル2、試験用電源装置7、および、複数設置される第2のコイル2の選択切換装置が挙げられる。また、図1に示す診断支援装置400を計測装置として用いることもできる。
インタフェース装置540は、多チャンネル高速A/D変換器541、ディジタルフィルタ542等を有する。また、図示していないが、計測装置との間で信号を送受信するための送受信ドライバを備えている。さらに、同様に図示していないが、コンピュータ510からの指令を送信するための回路をも有する。
図6〜図9は、測定結果を示す画面の例を示す図である。いずれも、コンピュータ510に接続される表示装置530(図37参照)で表示される説明画面の例として示されている。図37の例でいえば、インタフェース装置540を介して、検出データをコンピュータ510に取り込み、外部記憶装置514に予め用意してあるプログラムおよびデータを用いて処理することで、表示される。プログラムとしては、例えば、EMTP(Elector-Magnetic Transients Program)が用いられる。
図6から図9において、それぞれの画面5300の下方の縁部に沿って、選択用アイコン群5310が表示され、いずれかをクリックすることで、表示すべき画面を選択することができる。また、その左上方には、予め割り当てられたファンクションキーを示す記号f6、f7の表示と、それについての説明とを含む機能説明部5320が表示される。画面5300の上方側大部分に、特性図等を表示する領域5330が設定される。それぞれの画面において表示されるファンクションキーf6、f7のうち、必要なキーを、キーボード521で操作することで、それぞれに割り当てられた特性図を選択的に表示することができる。また、本実施形態および後述する他の実施形態では、いずれも、ファンクションキーをアイコン表示している。その結果、マウス522により、ポインタ(図示せず)を該当ファンクションキー上に位置させて、クリックすることで、当該ファンクションを選択することもできる。
選択用アイコン群5310としては、例えば、図6では、[図B]、[図C]、[図D]、[v設定]、[n設定]、[対地]、[コイル]、[保存]、[診断]および[終了]の各アイコンが表示される。これらのアイコン群は、表示される画面によって、その一部が変更された状態で表示される。
また、図6では、ファンクションキーf6に、対地電圧表示<対地絶縁最大放電電荷量−電圧特性>が、f7に、コイル分担電圧表示<層間絶縁最大放電電荷量−電圧特性>がそれぞれ割り当てられている。図6の現在の表示状態では、f7が選択され、特性図表示領域5330の左側領域5331に、図A−1(コイル分担電圧分布)が、右側領域5332に、図A−2(層間絶縁最大放電電荷量−電圧特性)がそれぞれ表示されている。ここで、図A−1では、対象となるコイルを図形、例えば、正方形で表し、かつ、コイルの結線状態を、UVWの各相についてコイルを示す図形を対応する個数分を連結して、スター接続した状態を模式的に表示している。一方、A−2では、その特性をグラフで示している。なお、コイルが多い場合、コイルブロック単位で同様に表記してもよい。
図7では、図6において、画面に表示されている[図B]のアイコン5311がクリックされた後の表示画面を示している。また、この画面では、ファンクションキーf6が選択されている。なお、図7では、左側領域5331に、図B−1が表示された状態で、画面内に、“クリックすると最大放電電荷量−電圧特性を表示”というメッセージが表示され、その部分が選択キーとなっている。同様の表示が、図8および図9にも表示されている。
図7では、特性図表示領域5330の左側領域に、図6と同様に、コイルを表す図形をUVWの各相について対応する個数分を連結して、スター接続した状態を模式的に表示している。ただし、図7では、マウスポインタMPをいずれかのコイル上に位置させ、マウス522のボタンをクリックすることで、当該コイルが選択された状態を示している。すなわち、選択されたコイルを表す図形の表示態様を変更して、選択されていることを明示している。図7の場合には、便宜上、コイルを表す図形内に、斜線を付した状態で表現している。もちろん、他のコイルが選択された場合には、当該他のコイルを示す図形内に斜線が付される。一方、特性図表示領域5330の右側領域5332には、選択されたコイルについての図B−2(コイル最大放電電荷量−電圧特性)が表示される。なお、この表示の態様については、基本的に、図8、図9、図27、図29、図30においても同様である。
図10の処理において、まず、m=0、n=(U、V相コイル数)に設定し(ステップ101)、層間絶縁での部分放電と対地絶縁での部分放電とを識別する(ステップ102)。層間絶縁部分放電では、全ての電流プローブで検出される放電電流の極性が同じになるため、対地絶縁部分放電と区別できる。この検出は、前述した論理弁別器4において行った結果を取り込むことで行い得る。もちろん、論理弁別器を用いずに、各検出信号をコンピュータに取り込んで、論理弁別器のように、それらの極性について判定することで、識別することもできる。
層間絶縁部分放電が計測された場合には、本検索プログラムは、“電流プローブを多数設置し、各電流プローブの部分放電パルス検出時間の差から発生コイルを特定する”ことを推奨する画面を表示装置530に表示させて終了する(ステップ109a)。
対地絶縁部分放電が計測された場合には、この最大放電電荷量をトリガ電荷量とし、結合コンデンサと非部分放電計測相に設置した電流プローブの間隔を両側から1個づつ減らして該当コイルを発見する(ステップ105〜109c)。
図11の処理において、まず、m=0、n=(U、V相コイル数)に設定し(ステップ111)、層間絶縁と対地絶縁の部分放電を識別する(ステップ112)。層間絶縁部分放電では、全ての電流プローブで検出される放電電流の極性が同じになるため、対地絶縁部分放電と区別できる。層間絶縁部分放電が計測された場合には、本検索プログラムは、“電流プローブを多数設置し、各電流プローブの部分放電パルス検出時間の差から発生コイルを特定する”ことを推奨する画面を表示装置530に表示させて終了する(ステップ119)。
対地絶縁部分放電が計測された場合には、この最大放電電荷量をトリガ電荷量とし、結合コンデンサと非部分放電計測相に設置した電流プローブの間隔を2分割しながら電流プローブの間隔を減らし、該当コイルを発見する(ステップ113〜118)。
なお、図10に示すフローチャートの処理および図11に示すフローチャートの処理のいずれも、特に、高周波電圧を印加して、口出しに電圧を集中させる場合には、非部分放電計測相からは部分放電が発生しないため、結合コンデンサの反対側の電流プローブを中性点に接続されたコイルに設置すると、検索コイル数が少なくなり、より高速に対地絶縁部分放電発生コイルを発見できる。
層間絶縁部分放電電荷量の校正は、電池式などの浮動電位型電荷校正器を使用し、コイル間接続部絶縁層の静電容量を介して、1コイルに並列に校正電荷を注入して校正できる。ただし、この場合の注入電荷量は、電荷校正器の表示値をQ0、電荷校正器の直列コンデンサの静電容量をC0、コイル間接続部絶縁層の静電容量をCsとすると、注入電荷量Qは、口出しの第1コイルでは、
Q=Cs/(C0+Cs)Q0
となる。また、それ以外では、
Q=Cs/(2C0+Cs)Q0
となる。
一方、対地絶縁の部分放電電荷量の校正は、従来と同様に、回転電機の口出しに校正電荷を注入して校正しても良い。しかし、各コイル毎にコイル間接続部絶縁層の静電容量を介し、対地間で校正することが望ましい。また、層間絶縁、対地絶縁とも、図2のような回転電機の等価回路モデルにおいて、各コイルの層間絶縁あるいは対地絶縁に並列にそれぞれの静電容量に比し十分小さいコンデンサを直列に接続した直角波電源を接続して校正することもできる。すなわち、放電検出プローブに発生する電圧をEMTPなどを用いて計算し、直角波電圧と直角波電源に接続したコンデンサの静電容量の積から求められる放電電荷量と放電プローブ発生電圧の比から、電圧電荷校正係数を求め、校正しても良い。
なお、等価回路の回路定数については、対地絶縁静電容量Cgは、1コイルのコイル導体と対地絶縁表面に接地したアース電極間の静電容量をLCRメータなどのインピーダンス計測器で測定することにより得られる。また、インダクタンスLと層間絶縁静電容量Crは、1コイルのコイル導体の始点と終点のインピーダンスを測定し、層間絶縁と対地絶縁のインダクタンスの共振周波数より低周波側のインピーダンスと周波数とからインダクタンスLを求め、また、高周波側のインピーダンスから層間絶縁静電容量Crを求めることができる。
各コイルの層間絶縁、対地絶縁の分担電圧と部分放電特性の関係は、コイル間接続部に表面電位センサを設置して、分担電圧を実測するか、EMTPなどで回転電機の等価回路モデルに高周波電圧を印加したときの各部の分担電圧を計算し、層間絶縁、対地絶縁の印加電圧を求め、部分放電特性と比較することにより得ることができる。
第1の実施形態では、U−VW課電とし、U相の部分放電を計測したが、V−WU、W−UV課電にすることで、各相の絶縁診断ができる。なお、特に、非部分放電計測相の口出し(実施例1では、V,W相口出し)には、コイルのサージインピーダンス程度(数100〜数kΩ)のインピーダンスを接続し、アースに接続すると部分放電電流の反射振動が抑えられるため望ましい。ただし、回転電機内での部分放電の減衰が大きく、反射の影響が小さければ、直接接地あるいは非接地のいずれでも問題ない。
また、本実施形態では、各相毎に試験したが、UV−W、VW−U,WU−V相課電あるいは、UVW三相一括課電とし、複数相を一括して試験しても良い。
第1の実施形態の層間絶縁診断装置では、電源に200kHzの高周波電源を使用したが、種々の周波数の高周波電圧を印加することにより、回転機内の必要な場所に電圧を印加することができる。特に、口出し近傍コイルに電圧を集中させる場合には、電源電圧の周波数を、図2の1コイルのインダクタンスL、層間絶縁静電容量Cr、対地絶縁静電容量Cgを用いて、
とすることが望ましい。
また、回路定数が不明な場合には、1コイルのコイル導体の始点と終点の間のインピーダンスを測定し、インダクタンスLと層間絶縁静電容量Crの共振周波数を求めることができる。求めた共振周波数以上の高周波を印加して、ほぼ同じ結果が得られる。これは、一般の回転電機では、対地絶縁静電容量Cgは層間絶縁静電容量Crに比し小さいことから、対地絶縁静電容量Cgを無視できすると、上式は、1コイルのインダクタンスLと層間絶縁静電容量Crの並列共振周波数となるためと考える。
図12Aおよび図12Bには、共振周波数が100kHzの回転電機の印加電圧周波数を変化させたときの電位分布測定例を示す。図12Aは口出しからのコイル番号に対するコイル対地電圧の変化を示す。一方、図12Bは口出しからのコイル番号に対するコイル分担電圧の変化を示す。全コイルの層間絶縁を一度に診断する場合には、前記の共振周波数より電源周波を低くし、電圧分布を平等分布にすれば良い。
高周波電圧を印加する場合、対地絶縁の静電容量を介して流れる充電電流が大きい為、大容量の電源が必要となる。しかしながら、大容量電源にて試験することは、省エネルギーの点からも好ましくない。このため、本発明の層間絶縁診断装置の高周波電源では、図13Aのように、回転電機(高周波では容量性負荷)および結合コンデンサ30に対し並列に誘導性負荷31を接続して、並列共振させることにより、電源の電流容量を低減することができる。または、図13Bのように、直列に誘導性負荷31を接続して、直列共振させることにより、電源の出力電圧を低減することもできる。また、連続正弦波ではなく、図14Aに示すような、間欠正弦波にすることにより、また、図14Bに示すように、時間と共に減衰する波形とすることにより、電源容量を低減することもできる。さらに、電源には、高周波電源の他に、インパルス、三角波、矩形波等のサージ電源、また、インバータ電源が使用できる。特に、インバータ電源を使用できるため、本発明の層間絶縁診断装置を回転電機に設置し、インバータ駆動中にも層間絶縁診断ができる。
第1の実施形態において、層間絶縁診断装置ではサージ電源を使用できる。このため、従来の層間短絡試験をも行うことができる。また、層間絶縁の耐圧試験の後に、層間短絡したコイルがないかを調べることができる。ただ、従来の層間短絡診断装置では、層間短絡コイルの存在は検出できても、層間短絡コイルを特定することは困難であった。しかし、第1の実施形態に係る層間絶縁診断装置では、前述したように、各コイルに設置される表面電位センサと放電電流センサにて、各コイルの電圧−電流特性を測定することにより、層間短絡コイルを特定することができる。
図15に、層間短絡コイルと健全コイルの電圧、電流特性を示す。健全コイル201では、コイルを流れる電流を増加するとコイル分担電圧もこれに比例して増加する。一方、層間短絡コイル200では、発生電圧は健全コイルに比し小さく、また、電流が増加しても電圧はほぼ0である。これは、健全コイル201では、図16Bに示すように、自己インダクタンスによりインピーダンスが発生する。一方、層間短絡コイル200では、図16Aに示すように、短絡部に形成された閉回路に入力電流を打ち消す向きに(巻数−1)倍の短絡電流が流れ、二次側短絡の変圧器と等価な状態となり、インピーダンスが著しく低下する。このため、層間短絡コイル200では、発生電圧が健全コイルに比し小さくなり、電流が増加しても電圧が増加しないことになる。
第1の実施形態では、結合コンデンサ6には、100pFのコンデンサを使用している。しかし、容量の大きいコンデンサを使用した方が、層間絶縁、対地絶縁とも部分放電検出感度が良くなるため望ましい。なお、特に、電源線の浮遊容量が、結合コンデンサの静電容量と同程度であるならば、結合コンデンサを取り除いても部分放電検出感度は低下しない。このため、電源線の浮遊容量が利用できる場合には装置寸法を小型化できる。このように、結合コンデンサを使用しない場合、あるいは、結合コンデンサの接地線に電流プローブを設置することが困難な場合には、電流プローブは電源線に設置する。
本実施形態では、対地絶縁に対し並列に電源線の浮遊容量が接続されている。これに、さらに並列にコンデンサを入れることにより、層間絶縁の部分放電検出感度を選択的に向上させることができる。このため、層間絶縁を選択的に診断したい場合には、並列コンデンサを入れることが望ましい。
第1の実施形態で用いる放電検出用の電流プローブには、ホール素子型、CT型が使用できる。また、ロゴウスキコイル、高周波CTなども使用できる。いずれも、周波数帯域が1MHz以上、望ましくは10MHz以上である高周波特性に優れたものが望ましい。
本実施形態では、高域通過フィルタを使用したが、電源周波数が一定の場合には、ノッチ、バンドリジェクション、バンドエリミネーションフィルタなどと呼ばれる周波数遮断フィルタを使用しても良い。また、高域通過フィルタの遮断周波数は、減衰傾度が鋭いフィルタを利用した場合、遮断周波数を低くでき部分放電信号の周波数成分をより多く通過させることができるため、特に、減衰傾度が急峻な24dB/oct以上の減衰傾度のアナログあるいはデジタルフィルタを使用することが望ましい。なお、フィルタ、計測器などのバックグラウンドノイズは、√(帯域幅)に比例して増加するため、フィルタ、計測器の周波数帯域は、電流プローブの帯域もしくはそれ以下に制限することが望ましい。
第1の実施形態では、層間絶縁での部分放電と対地絶縁での部分放電との判別に、論理弁別器を使用した。この他に、加算器あるいは減算器などのアナログ回路を使用することもできる。すなわち、表1では、層間絶縁の部分放電は電流プローブ1と2では同極性、対地絶縁の部分放電は逆極性であることから、加算器では層間絶縁の部分放電信号を、減算器では対地絶縁の部分放電信号を放電検出器5に出力することができる。なお、特に、層間絶縁の部分放電を検出する場合には、結合コンデンサの低圧側に設置した電流プローブとその他電流プローブでは、電源周波数成分が逆極性であるのに対し、部分放電信号は同極性であるため、フィルタの前に加算器を挿入することにより電源周波数成分を相殺できる。したがって、フィルタの遮断周波数を低くでき、信号成分をより多く通過させることができる。加算器、減算器としては、オペアンプなどの半導体回路の他に、巻線を分割したトランスを用いることができる。
放電検出器5としては、電流プローブの帯域以上の帯域を持つ高速アナログ/デジタルオシロスコープ、高速A/D変換器、インパルス電圧計等を使用することができる。特に、デジタルオシロスコープやA/D変換器を使用する場合、前段の論理弁別器、フィルタ回路を、デジタルオシロスコープやA/D変換器に内蔵された極性判別、論理ゲート、デジタルフィルタ機能などで代用することもできる。あるいは、デジタルオシロスコープ、または、A/D変換器で測定したデータを、コンピュータに移し、コンピュータ上でプログラムにより、論理弁別、フィルタリングしてもよい。すなわち、放電検出器5を、例えば、図37に示す情報処理システム500により構成してもよい。
以上の実施形態の適用対象として誘導電動機を用いたが、同期機など、その他の回転電機の層間絶縁診断にも適用できる。
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図17に、第2の実施形態に係る層間絶縁診断装置を示す。本実施形態では、前述した第1の実施形態におけるコイル間接続部に、電流プローブ2を設置する代わりに、コイル間接続部絶縁層表面に電極40を設置し、該電極と対地間に対地電圧測定用コンデンサ41を挿入し、前記コイル間接続部絶縁層の静電容量42と対地電圧測定用コンデンサ41により、コイル間接続部導体と対地間とを容量性結合し、コイル間接続部導体からアースへ流れる放電電流を電流プローブ2で検出する。ただし、第2の実施形態における電流プローブの極性では、電源側からアースに流れる電流の向きを正とする。なお、特に、中性点を接地した回転電機では、コイル間接続部と対地とを容量性結合せずとも、中性点接地線に電流プローブを設置することができる。また、非部分放電計測相の口出しについても、口出しと対地とを接続する接地線に電流プローブを設置することができる。
本実施形態においても、診断支援装置400と、結合コンデンサ6と、試験用電源装置7とが用いられる。この診断支援装置400は、多チャンネル高域通過フィルタ3と、論理弁別器4と、放電計測器5とを有する。また、データの収集、処理を行って、診断を行わせることは、前述した情報処理システムを用いることで、実現することができる。
以下に、本実施形態の層間絶縁診断装置の作用を説明する。図18に、誘導電動機コイルのはしご型等価回路モデルと、層間絶縁および対地絶縁の部分放電電流経路を示す。図18に示すモデルでは、図2に示すモデルと同様に、特に、CrとLの並列回路を1ブロックと考え、放電電流経路を示している。本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、電流プローブ1、2を単独に使用しただけでは層間絶縁と対地絶縁の部分放電電流を判別できない。しかしながら、第2の実施形態では、表4のように、層間絶縁部分放電では電流プローブ1,2の極性は逆極性、対地絶縁部分放電では同極性となる。
したがって、実施例1と同様に電流プローブ1,2で検出される部分放電電流の極性を論理弁別器4により判別することにより、層間絶縁と対地絶縁の部分放電を区別することができる。ただし、本実施形態では、第1の実施形態とは、層間絶縁と対地絶縁の放電電流極性が逆になっているため、表2の真理値表および図4の論理弁別回路では、層間絶縁と対地絶縁の判別基準は逆になる。また、実施例1で述べた加算器、減算器の使用も逆になる。
第2の実施形態では、部分放電電流の極性から層間絶縁部分放電発生コイルを特定し、あるいは、特定コイルから発生する部分放電を計測できる。これは、第2の実施形態では、表5のように、層間絶縁部分放電発生コイルの両端に設置した電流プローブの放電電流極性が逆極性となるためである。これは、第1の実施形態で部分放電電流の極性から対地絶縁部分放電発生コイルを検出できたことに対応する。したがって、第2実施形態でも複数の電流プローブの放電電流極性パターンを調べるか、試験ブロック内のコイル数を減らしながら走査し、極性が逆転しているコイルを見つけることにより、層間絶縁部分放電発生コイルを特定できる。
なお、部分放電発生コイルを特定する検索アルゴリズムとしては、図10および図11に示す第1の実施形態の検索アルゴリズム、すなわち、図10、図11に示すフローチャートにおいて、対地と層間を入れ替えることで使用できる。
以上のように、第2の実施形態では、層間絶縁部分放電発生コイルを特定できるため、層間絶縁の劣化が進んだコイルを検出し、除去することができる。なお、第2の実施形態では、対地絶縁部分放電発生コイルは、対地絶縁部分放電が発生してから、各電流プローブに放電電流が到達する時間の遅れを計測することにより特定できる。
第2の実施形態では、対地電圧測定用コンデンサ41を設けているため、第1の実施形態のように、新たに表面電位センサを設けなくても、該コンデンサ41の静電容量とコイル間接続部絶縁層の静電容量42との容量分圧により、コイル対地電圧およびコイル分担電圧を測定できる。また、特に対地電圧測定用コンデンサ41を接続せず、コイル間接続部絶縁層の表面に設けた電極40を直接アースに接続し、該接続線に電流プローブ2を設置しても、層間絶縁と対地絶縁の区別ができる。この場合、コイル間接続部絶縁層の表面に設けた電極40において端部放電が発生するが、電界緩和塗料を電極端に塗布するか、電界緩和電極配置にすることにより、端部放電を抑制できる。
また、2つ以上のコイル間接続部について、コイル間接続部と対地との容量性結合による放電電流検出を行う場合には、端部放電を層間絶縁、対地絶縁の部分放電と区別できる。これは、表6のように、端部放電が発生するコイル間接続部と、その両側に位置するコイル間接続部では、電流プローブの放電電流の極性が逆になるためである。したがって、両側に位置するコイル間接続部に設置した電流プローブと部分放電電流の極性が異なるコイル間接続部を見つけることにより、端部放電発生源を特定し、電界緩和処理を施すことができる。なお、これは前述のように複数設置した電流プローブの放電電流極性パターンから識別するか、あるいは試験ブロック内のコイル数を減らしながら走査することにより実施できる。
図19に、図10に示す手順を層間絶縁部分放電発生コイルの検索方法として用いた際に、端部放電発生コイルの識別シーケンスを加えたフローチャートを示す。最初に試験ブロックを大きくとった場合には、端部放電は対地絶縁部分放電と同じとみなされるため、層間絶縁部分放電と区別できる。また、対地絶縁部分放電では全ての電流プローブの極性が一致するため、端部放電と区別できる。ステップ1901〜1908までの手順は、図10に示す手順と共通である。ただし、プローブの設置において相違するため、検索される結果が、第mコイル層間絶縁部分放電(ステップ1909)であり、また、第n+1コイル層間絶縁部分放電(ステップ1910)である点において相違する。一方、ステップ1911〜ステップ1920は、端部放電発生コイルの識別シーケンスである。ステップ1911からステップ1915までは、ステップ1903からステップ1907と同様の手順で処理がなされる。そして、ステップ1915において、放電電流極性が電流プローブ#mとコイル#nとで等しい場合、そのコイル#nが(n=m+1)であるかを判断し(ステップ1916)、(n=m+1)である場合、対地絶縁部分放電と判断する(ステップ1917)。一方、そのコイル#nが(n=m+1)ではない場合、ステップ1914に戻る。
図11に相当する検索方法でも、対地絶縁と層間絶縁部分放電の識別後、対地絶縁部分放電と端部放電の識別シーケンスを加えることにより、層間絶縁、対地絶縁部分放電、端部放電を区別できる。
第2の実施形態の放電電流センサには、前述した第1の実施形態と同様に、ホール素子型、CT型電流プローブ、ロゴウスキコイル、高周波CTが使用できる。その他に、抵抗を使用することができる。また、放電電流を測定するのではなく放電電荷量を測定する場合、放電電荷センサには、抵抗とコンデンサから形成されるCR検出回路や、抵抗、コンデンサ、インダクタンスから形成されるLCR検出器が使用できる。なお、LCR検出器により部分放電を同調検出する場合、論理弁別器と放電検出器の間にさらに同調増幅器、検波回路を設けることにより、より高精度に部分放電を計測できる。
一方、第2の実施形態または第1の実施形態のように、コイルの対地電圧を測定しながら部分放電を検出する場合、図20に示すように、一般に、対地絶縁部分放電は、対地電圧の位相が−90°〜90°では正極性放電、90°〜270°までは負極性放電となる。ところで、第1の実施形態および第2の実施形態のように、第1コイルで放電が発生する場合、電流プローブ2では、層間絶縁と対地絶縁の放電電流は逆極性となる。このため、−90°〜90°では負極性の部分放電パルスのみを通過させ、90°から270°では正極性の部分放電パルスを通過させる論理弁別器を使用すれば、層間絶縁の部分放電を検出ができる。また、論理弁別器の極性ゲートを逆にすれば、対地絶縁の部分放電を検出できる。このため、少なくとも結合コンデンサの接地線に設けた電流プローブ1を取り除くことができる。同時に結合コンデンサも除去でき、装置を小型化できる。
表7に、対地電圧と層間絶縁、対地電圧部分放電の放電極性および電流プローブ2で検出される放電電流の極性を示す。電流プローブ2では層間絶縁の正極性放電では正極性、負極性放電では負極性の放電電流が検出される。一方、対地絶縁部分放電電流は層間絶縁の部分放電電流と逆極性となっている。したがって、−90°〜90°を“0”、90°〜270°を“1”、電流プローブ検出電流の正極性を“1”、負極性を“0”とすると、表8に示す真理値表のように、層間絶縁部分放電は、Exclusive OR、対地絶縁部分放電はその逆により識別できる。ただし、表8の出力では真ならば“1”とした。
図21に、対地電圧の位相と電流プローブ2の放電電流極性から、層間絶縁と対地絶縁の部分放電を区別する論理弁別器の回路例を示す。本論理弁別器では、電流プローブ2の放電電流信号と対地電圧信号とをコンパレータ210により接地電位と比較し、正極性、負極性それぞれ5V、0Vの極性信号に変換する。対地電圧の極性信号は、遅延回路211に入力され、π/2位相を遅らせる。この遅延回路211としては、例えば、単安定マルチバイブレータを利用できる。遅延回路211の出力は、電流プローブ2の極性信号とともにExclusive OR回路212に入力される。Exclusive OR回路212の出力は、層間絶縁部分放電を検出する場合には、スイッチ213によりHレベルでONするスイッチ214のトリガとして入力される。一方、対地絶縁部分放電を計測する場合には、Exclusive OR回路212の出力は、反転回路215に入力された後、スイッチ214のトリガとして入力される。図20では、対地電圧波形と部分放電パルス列から層間絶縁部分放電を抽出した例を示した。
図22に、第3の実施形態に係る層間絶縁診断装置を示す。第3の実施形態の層間絶縁診断装置では、第1の実施形態のコイル間接続部の電流プローブ2に相当する電流プローブ61を、回転電機コイルエンド部において、コイル間接続部と反対側のコイルエンド部60に設置している。以下、第3の実施形態で、層間絶縁と対地絶縁との判別作用について説明する。
図23には、1コイルの等価回路モデルと層間絶縁、対地絶縁の部分放電電流を示す。回転電機の1コイルは複数のターンから形成され、巻線ターン間には層間絶縁の静電容量crが、各巻線と対地間には対地絶縁の静電容量cgが存在する。このため、図23の等価回路が成立する。一方、コイルエンド部に設置した電流プローブ61は、1コイルの全てのターン導体に鎖交するため、各ターン導体に設置されていると考えることができる。このようなコイルに部分放電が発生した場合、図23の経路に部分放電電流が流れる。すなわち、高周波領域ではコイルのインダクタンスに比し、層間絶縁の静電容量のインピーダンスが小さいため、高周波の部分放電電流は、層間絶縁の静電容量を介して流れる。一方、最終ターンでは、対地絶縁の静電容量は小さいため、コイルのインダクタンスにも部分放電電流が流れる。実際、実施例1では、cr〜1000pF、L〜0.1mH、cg〜100pFであるので、部分放電電流の検出周波数領域を1MHz以上とした場合、上記の作用は成立する。一方、低周波の部分放電電流はコイルのインダクタンスを流れて伝播するが、高域通過フィルタ3にて除去されるので、層間絶縁と対地絶縁の部分放電の判別には影響を与えない。この結果、電流プローブ1と61で検知される部分放電電流は表9ようになり、第1の実施形態の場合と同様に層間絶縁と対地絶縁の部分放電を判別することができる。
ただし、電流プローブの極性は、回転電機外部では試験相の口出しに向かう方向に流れる電流を正、回転電機内部では試験相の口出しから他相の口出しに流れる電流の向きを正とした。なお、第1の実施形態の作用で述べたように、本発明では、電流プローブに挟まれたコイルあるいは複数コイルからなるブロックの層間絶縁、対地絶縁の部分放電を判別するため、第3の実施形態では、第1の実施形態とコイル半分だけ検出領域がずれる。また、第3の実施形態では、第1の実施形態と同様に、部分放電電流の極性から対地絶縁部分放電発生コイルを、電流到達時間の差から層間絶縁部分放電発生コイルを特定できる。
第3の実施形態の層間絶縁診断装置でも、第1の実施形態と同様に層間短絡試験を行い、層間短絡コイルを特定することもできる。
図24に、層間短絡コイルと健全コイルの電流特性を示す。健全コイル201では、コイルに入力電流に比例して電流プローブの電流も増加する。また、この傾きはコイルの巻数とほぼ一致する。一方、層間短絡コイル200では、電流が増加しても電流はほぼ0である。これは、図25Bに示すように、健全コイル201では、コイルに鎖交させた電流プローブにはn×Iの電流が検出される。これに対して、層間短絡コイル200では、図25Aに示すように、残された健全巻線部を流れる電流(n−1)×Iと、入力電流が作る磁界を打ち消す向きに流れる短絡電流(n−1)Iとが逆方向に電流プローブを鎖交し、電流プローブ検出電流は0となるためである。
次に、以上に述べた層間絶縁診断装置を使用して、回転電機の絶縁劣化診断を行うこと、および、必要に応じ、少なくともコイル更新をする例について説明する。図26、図27には、第1の実施形態の層間絶縁診断装置を設置し、誘導電動機の層間絶縁、対地絶縁を診断する例を示す。本実施形態では、UVW三相一括課電する。また、電流プローブ1、2を、各相の電源線およびコイル間接続部にそれぞれ設置した。各電流プローブ1、2の出力は、それぞれインタフェース装置540に入力される。インタフェース装置540では、多チャンネル高速A/D変換器541により、アナログ信号をディジタル信号に変換し、さらに、内蔵されたデジタルフィルタ542により電源周波数成分を除去した後、コンピュータ510に送信する。
送信されたデータは、図6〜図9に示すように、部分放電測定結果画面に表示され、ファンクションキーを操作することによりコイル毎の層間絶縁、対地絶縁部分放電特性を調べることができる。さらに、[診断]アイコン5312を指示することにより、コイルを更新しなければならない放電電荷量、例えば、対地絶縁に関しては、電力中央研究所報告「発電機巻線絶縁劣化判定基準」No.67001(1967−4)と、層間絶縁に関しては、基本的には運転時の分担電圧では無部分放電であることと、各コイルの対地絶縁、層間絶縁部分放電特性が比較される。対地絶縁では運転時の対地電圧において基準を上回る部分放電発生コイルが、層間絶縁では部分放電開始/消滅電圧が運転時の分担電圧に比し低いコイルが発見された場合には、コンピュータ510は、図27のように、表示装置530の表示画面5300に、警告用ウインドウ5340を表示し、ウインドウ
5340内で、ユーザに警告するメッセージ5341を表示する。
この場合、特性図表示領域5330に、アイコン群5310により選択された特性図、例えば、図27の例では、左側領域5331に、図B−1(層間絶縁最大放電電荷量分布)を表す図が表示される。ここで、同図は、コイルを図形、例えば、正方形で表し、これをUVWの各相について対応する正方形を個数分を連結して、スター接続した状態を模式的に表示している。そして、絶縁状態に問題があるコイルを表す図形の表示態様を変更して表示している。具体的には、例えば、コイルを表す図形の枠線を太くする、色を変える、点滅させる等の強調表示を行う。さらに、各図形について、アイコンと同様に、その上にポインタMPをおいて、マウス522のボタンをクリックすることで、当該図形で表されるコイルの選択を受け付ける。それに応じて、特性図表示領域5330の右側領域5332に、選択されたコイルについての特性、図27の例では、図B−2(コイル最大放電電荷量−電圧特性)を示す図を表示する。
なお、運転時の各コイルの対地電圧、層間絶縁分担電圧は、あらかじめ測定あるいはEMTPなどの回路計算プログラムで計算された値がコンピュータ内に保存されている。誘導電動機のユーザが、不良コイルが発見された場合には、[連絡]アイコン5313を指示すると、コンピュータ510は、ネットワークを介して接続されているメーカーに連絡する。なお、ネットワークがない環境では、連絡先に表示された電話番号に電話する。これにより、コイル更新か、または、誘導電動機自体の更新を行う。
以上のようにすることにより、絶縁破壊するまで誘導電動機を使用することなく、適切な運用が行える。特に、本発明の層間絶縁診断装置を使用した絶縁診断では、従来、発見が困難であった層間絶縁に不具合を抱えたコイルも発見できる。このため、従来に比し、より信頼性の高い誘導電動機を提供できる。
図28には、インバータ電源を利用し、誘導電動機の層間絶縁、対地絶縁の診断をする例を示す。本実施例では、誘導電動機223は交流電源220に接続されたインバータ電源221と電力ケーブル222により接続されている。本実施例では、直接、誘導電動機の運転に使用するインバータ電源を利用するため、特に前述の運転時における各コイルの対地電圧、層間絶縁分担電圧を測定あるいは計算する必要がない。このため、短時間で絶縁診断が行える。また、インバータ電源でUVWに三相交流を印加した場合、UVW各相の各コイルに設置した電流プローブの検出電流を、口出しからの電流プローブ設置位置番号を同じにして合計すると、電源周波数成分は打ち消しあうため部分放電をより明白に検出することができる。
さらに、本発明の層間絶縁診断装置を設置した回転電機では、誘導電動機をインバータ電源で運転している間においても、部分放電を計測できるため、常時、絶縁層の劣化状況を把握することができる。
図29には、対地絶縁の最大放電電荷量が急激に増えたため、運転を停止した誘導電動機の例を示す。また、図30には振動かあるいは熱劣化により層間絶縁に大きなボイドが発生し、突如、部分放電が検出された例を示す。なお、図29および図30での、画面の表示の仕方は、前述した図7、図8、図9、図27等と同様である。
このように、本発明の層間絶縁診断装置により、従来では定期診断と定期診断の間の空白期間に稀に運転状況等により急速に劣化し絶縁破壊の危険があった回転電機も、絶縁破壊前に運転を停止しコイル更新あるいは回転電機本体の更新をすることができる。以上のように、本発明の層間絶縁診断装置により、回転電機層間絶縁の劣化診断を行い、従来に比し信頼性の高い回転電機を提供することが実現できる。
以上の絶縁診断システムを、まとめると図31で表すことができる。すなわち、本絶縁診断システムでは、回転電機118および電源の種類、電圧印加相などを切り替え可能な電源141に接続された層間/対地絶縁部分放電計測部112と、これを制御するコンピュータ510とが、通信線111とインタフェース装置540とを介して接続されている。コマンド、データ等を送受信する通信線111としては、例えば、GP−IB,USB,RS−232C、通信ネットワーク等が用いられる。図31の装置で用いられるコンピュータ510としては、例えば、図37に示すハードウエアシステム構成を有するコンピュータを用いることができる。プログラムを実行することで実現されるコンピュータ510の内部機能としては、データ処理を行う処理部5110と、データの記憶処理を行う記憶部5120と、表示および入出力制御を行う表示および入出出力部5130と、計測器の制御を行う計測器制御部5140とを有する。
また、記憶部5120により管理される外部記憶装置514には、診断において用いられるデータが格納される。図33に、その一例を示す。記憶装置514が有する記憶領域5140には、例えば、回転電機層間絶縁診断装置内のデータを含むデータファイル5141と、ユーザ名、納入先、製品型式、仕様、製造番号、製造時期、納期等を含むデータファイル5142と、図面データを含む図面データファイル5143と、運転時の回転電機電圧分布データを有するデータファイル5144と、対地/層間絶縁部分放電特性データを有するデータファイル5145と、対地/層間絶縁部分放電基準データを有するデータファイル5146とが格納される。
処理部5110では、例えば、オペレータの入力指令により、図32の絶縁診断フローチャートに沿って絶縁診断が行われる。すなわち、層間絶縁、対地絶縁部分放電計測の結果を用いて、部分放電開始電圧Viと、部分放電消滅電圧Veと、最大放電電荷量Qmaaxとを求める(ステップ2001)。次に、Qmaxが対地絶縁基準放電電荷量以上であるかを判定する(ステップ2002)。Qmaxが対地絶縁基準放電電荷量以上である場合には、「コイルまたは回転電機を更新すべき」と判定する。そして、その旨の警告メッセージ5341を、表示装置530の表示画面5300の警告ウインドウ5340内に表示する(ステップ2004)。一方、Qmaxが対地絶縁基準放電電荷量未満である場合には、Vi、Veが、それぞれ層間絶縁分担電圧以下であるかを判定する。Vi、Veが、それぞれ層間絶縁分担電圧以下である場合には、ステップ2004に進み、前述した塗同様の処理を行う。相でない場合には、検査合格と判定する(ステップ2005)。
次に、商用周波電源あるいは旧型のインバータ電源向けに製作された中古回転電機を新規インバータで駆動できるかどうか判別、改善する例を、図34および図35により説明する。本例では、本発明の診断装置だけでなく、回転電機ユーザ900、絶縁診断業者901、コイル製作、更新業者902、インバータメーカ920が関わるため、これを用いて説明する。ただし、これらの当事者が互いを兼ねている場合もある。ここで行われる当事者間の行為は、各種の情報の交換として、それぞれの当事者のコンピュータシステムを通信回線を介して接続し、情報の送受信により行うことができる。当事者間の情報の授受に応じて、それぞれのコンピュータシステムにおいて、進捗管理が行われる。
本例では、ユーザ900は、インバータ製作業者920に新規インバータの導入を依頼する。また、ユーザ900は、新規インバータの導入に際し、絶縁診断業者901に新規インバータで中古誘導電動機を駆動できるかどうかの判別を依頼する。絶縁診断業者901は、本発明の層間絶縁診断装置を高周波電圧を電源にして使用する場合には、測定、または、EMTPなど回路計算プログラムにより求めた新規インバータ駆動時の層間絶縁分担電圧を入力し、層間絶縁の部分放電特性を計測する。ただし、新規インバータと同様な波形、例えば波高値、波頭長が同じサージ電圧を出力できる電源を使用する場合には、この操作を省略できる。
診断時に層間絶縁診断装置が、図27のようなコイルあるいは回転電機の更新を推奨する画面、あるいはインバータ波形の改善を推奨する画面を表示した場合には、絶縁診断業者901は、本結果をユーザ900に報告する。必要であれば、部分放電開始/消滅電圧も報告する。また、サージ電源を使用する場合には、部分放電開始/消滅電圧、波頭長も報告する。この結果、ユーザ900は、コイル製作、更新業者902にコイル製作、更新を依頼するか、または、インバータメーカ920に、インバータ波形の改善を依頼する。コイル政策、更新業者920が依頼を受けた場合には、コイルを更新した後、再度診断を行い、警告画面が表示されないことを確認する。インバータメーカが依頼を受けた場合には、少なくとも、例えば、図36に示すような、波頭長130を長くするか、スイッチング電圧131を低減するか、または、スイッチングサージ電圧132を低減することにより、改善後の波形では層間絶縁分担電圧が、層間絶縁部分放電開始/消滅電圧に比し低くなるようにする。以上の結果、商用周波電源あるいは旧型のインバータ電源向けに製作された中古回転電機を新規インバータで安全に運転することができる。
なお、部分放電の検出と、検出したデータによる診断とを、それぞれ別の装置によって行うようにしてもよい。例えば、部分放電の検出を行うシステムは、現場に持ち込める形態可能なシステムとし、診断は、別のコンピュータ、例えば、ホストコンピュータで行うようにする。診断は、例えば、部分放電を検出するシステムによりデータを蓄積して、ホストコンピュータにおいてオフラインで診断するようにすることができる。また、部分放電の検出を行うシステム徒歩ストコンピュータとを通信回線で接続し、オンラインで診断を行うようにすることができる。
このように、以上に説明した各実施形態によれば、従来に比して、高い信頼度で回転電機の絶縁診断を行うことができる。その結果、必要に応じてコイルあるいはモータを更新することが必要である旨の警告メッセージを提示することが可能となる。特に、回転電機に本発明の層間絶縁診断装置を設置し、運転中にも部分放電を計測し、絶縁劣化診断することにより、より信頼性の高い回転電機を提供できる。
また、前述した診断技術を用いることで、層間絶縁、対地絶縁部分放電特性データとコイル巻替え基準とを比較し、部分放電電荷量あるいは部分放電開始/消滅電圧が基準を満足しない場合に、コイルあるいは回転電機の更新、インバータ波形の改善が必要であることを通知することを実現できる。さらに、前述した診断技術を用いて、商用周波電源あるいは旧型のインバータ電源向けに製作された中古回転電機を新規インバータで駆動できるかどうか判別することができる。その結果、回転電機のコイルの更新等の改善、インバータの波形改善を行うことで、より安全に運転できる用にすることができる。
また、上記のシステムは、層間絶縁部分放電特性データとインバータサージ印加時の層間絶縁分担電圧を比較し、少なくとも分担電圧が部分放電開始あるいは消滅電圧に比し高いか、あるいは部分放電特性と残存破壊電圧の関係により層間絶縁が今後の運転に耐えられない程度まで劣化していると判断された場合に、コイルあるいは回転電機の更新、インバータ波形の改善が必要であることを通知するシステムにより実現できる。
このように、本発明の診断装置により、層間絶縁の部分放電特性を計測し、回転電機層間絶縁の劣化診断を行うことができ、それにより信頼性の高い回転電機を提供することが可能となる。また、本発明の診断装置により、商用周波電源あるいは旧型のインバータ電源向けに製作された中古回転電機を、新規インバータで駆動できるかどうか判別することができる。そして、必要であれば、改善を行うことを可能する。その結果、安全に駆動できる信頼性の高い回転電機、および、インバータ電源を実現することができる。