特許文献1に開示されたX線管では、ターゲットの裏面とこれと対向する外囲器の表面に凹凸部を設けて、ターゲットの熱輻射面積を増やす構造を採用しているが、このようにターゲットの熱輻射面積を増やすことには限度があり、X線管の大型化、さらにはX線管装置の大型化につながるという問題がある。
また、特許文献2や特許文献3に開示されたX線管では、陽極のターゲットが外囲器(真空ケーシング)の一部を構成し、使用時にターゲットと共に外囲器全体を冷却媒体(絶縁油など)中で回転させることになるため、大きなトルクの駆動モーターが必要となり、また陰極からの電子線を集束、偏向して陽極のターゲット上に焦点を形成させるのに、電磁石や偏向コイルなどを用いた電子線を偏向するための技術などが必要となるという問題がある。
上記に鑑み、本発明では、従来の陰極構造のままで、陽極のターゲットの熱を熱伝導により外囲器へ直接放熱できる構造を有する回転陽極X線管装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の回転陽極X線管装置は、電子線を発生する陰極と、電子線が衝突してX線を発生するターゲットと、ターゲットを支持するロータと、ロータを回転自在に支持する軸受を有する回転陽極と、陰極と回転陽極を真空気密に内包し、支持する外囲器とから成る回転陽極X線管(以下、X線管と略称する)と、X線管を内包するX線管容器と、X線管の回転陽極を回転駆動するためにロータの外周に配置されるステータと、X線管を絶縁し、冷却する絶縁油と、絶縁油を冷却する冷却器を備えた回転陽極X線管装置において、前記X線管の回転陽極のターゲットの表面の一部とこれに対向する前記外囲器のターゲットを囲む部分(以下、大径部という)の内表面の一部(以下、ターゲット冷却領域という)とを近接して配置し、該ターゲット冷却領域の両表面の間に両端部が閉じた隙間を設け、前記外囲器の大径部の少なくともターゲット冷却領域の部分を金属材料で形成し、前記隙間に液体金属を充填したものである(請求項1)。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、前記X線管の外囲器の大径部のターゲット冷却領域を前記ターゲットの外周面と裏面に対向する領域としたものである(請求項2)。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、前記X線管の外囲器の大径部のターゲット冷却領域を前記ターゲットの外周面または裏面のいずれか一方の面に対向する領域としたものである。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、前記液体金属として、ガリウム(Ga)、またはガリウム(Ga)合金、またはビスマス(Bi)を相対的に多く含むビスマス(Bi)合金、またはインジウム(In)を相対的に多く含むインジウム(In)合金が用いられている。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、前記X線管の外囲器の大径部のターゲット冷却領域に設けられた隙間の端部の表面に前記液体金属をはじく材料を塗布したものである。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、前記液体金属をはじく材料として、二酸化チタン(TiO2)を用いたものである。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、前記X線管の陽極のターゲット及び外囲器の大径部の表面のうち少なくともターゲット冷却領域の範囲の表面を前記液体金属となじみ易い金属材料で形成したものである。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、前記液体金属となじみ易い金属材料として、モリブデン(Mo)、またはモリブデン(Mo)合金、またはダイス鋼を用いたものである。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、前記X線管の回転陽極の電位を接地電位としたものである。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、前記X線管の外囲器の少なくともターゲット冷却領域の範囲を水で冷却するものである。
本発明の回転陽極X線管装置は、X線管の回転陽極のターゲットの表面の一部とこれと対向する外囲器の大径部の内表面の一部であるターゲット冷却領域とで形成される隙間に液体金属を充填し、外囲器の大径部のターゲット冷却領域の部分を金属材料で形成しているので、X線管の使用時にターゲットで発生した熱は、外囲器のターゲット冷却領域において、ターゲットの表面から液体金属を経由して外囲器の外表面まで、熱伝導によって直接熱伝達され、更に外囲器の外表面にて絶縁油に熱伝達される。このため、回転陽極のターゲットの冷却効率は従来の熱輻射による放熱の場合に比べて格段に向上し、ターゲットの表面の温度及び焦点面の温度が格段に低減され、その結果同じ焦点寸法の場合には大きなX線管負荷の入力が可能となり、また同じX線管負荷の場合には焦点寸法を小さくすることも可能となる。また、本発明の回転陽極X線管装置をX線CT装置などのX線装置に実装したときには、患者スループットが向上し、繰り返し使用により生ずる患者待ち時間の短縮が可能となる。(請求項1)。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、X線管の外囲器の大径部のターゲット冷却領域をターゲットの外周面と裏面に対向する領域としているので、ターゲットの外囲器に対向するほぼ全領域で、ターゲット表面から液体金属を経由して外囲器の外表面への熱伝導による放熱が行われることになり、ターゲットの冷却効率は従来品に比べ非常に多大きなものとなる(請求項2)。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、X線管の外囲器の大径部のターゲット冷却領域をターゲットの外周面または裏面に対向する領域としているので、ターゲットの外周面または裏面において、ターゲット表面から液体金属を経由して外囲器の外表面への熱伝導による放熱が行われることになり、ターゲットの冷却効率は従来品に比べ非常に大きなものとなる。前者はターゲットの外周面の面積が大きい場合、後者はターゲットの裏面の面積が大きい場合に有効である。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、ガリウム、ガリウム合金、ビスマスを相対的に多く含むビスマス合金、インジウムを相対的に多く含むインジウム合金などの液体金属が回転陽極X線管の軸受の潤滑材料でもあるので、適当な熱伝導性、電気伝導性、流動性、潤滑性を発揮することができる。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、X線管の外囲器の大径部のターゲット冷却領域に設けられた隙間の端部の表面に液体金属をはじく材料を塗布してあるので、隙間の端部の構造が簡易なものであっても、液体金属が隙間の端部から漏れてX線管の内部に出て行くことが防止される。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、液体金属をはじく材料として二酸化チタンを用いているので、液体金属をはじく効果は顕著であり、また隙間の端部の表面に薄く塗布することができ、液体金属が隙間の端部から漏出するのを有効に防止することができる。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、X線管の陽極のターゲット及び外囲器の大径部の表面のうち少なくともターゲット冷却領域の範囲の表面を液体金属となじみ易い金属材料で形成しているので、液体金属と隙間の表面の金属材料との間では化学変化などが起らず、両者とも使用中に殆ど劣化することがないので、長寿命を保持することができる。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、液体金属となじみ易い金属材料として、モリブデン、モリブデン合金、ダイス鋼などを用いるので、液体金属がガリウムやガリウム合金などである場合、特に合い性のよい材料であり、ターゲットの表面と液体金属と外囲器とで形成される熱伝導経路は有効な性能を発揮し、大きな冷却効率を達成することができる。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、X線管の回転陽極の電位を接地電位としているので、X線管の回転陽極及び外囲器の大径部のターゲット冷却領域とX線管容器との間の絶縁が不要となり、X線管の回転陽極及び外囲器の冷却についても絶縁油以外の冷却媒体の使用が可能になる。
また、本発明の回転陽極X線管装置では、X線管の外囲器の少なくともターゲット冷却領域の範囲を水で冷却しているので、絶縁油の場合よりも外囲器のターゲット冷却領域の冷却効率が大幅に向上するとともに、ターゲット冷却領域の温度も低下する。また冷却媒体に水を使用したことにより冷却器を小型化することも可能となる。
以下,本発明の実施例を添付図面を参照しながら説明する。
先ず、図1及び図2により本発明に係る回転陽極X線管装置の第1の実施例について説明する。図1は本発明に係る回転陽極X線管装置の第1の実施例の断面図、図2は本実施例の要部の拡大断面図である。本発明では、回転陽極X線管の回転陽極のターゲットの冷却構造に特徴があり、本実施例の説明では、先ず図1にて回転陽極X線管装置全体の説明をし、図2にて本実施例の要部について説明する。
図1において、本実施例の回転陽極X線管装置(以下、X線管装置と略称する)10は、X線を発生する回転陽極X線管(以下、X線管と略称する)12と、X線管12を収容するX線管容器(以下、管容器と略称する)14と、X線管12の回転陽極(以下、陽極と略称する)16を回転駆動するステータ18と、X線管12の陽極16とステータ18を絶縁支持する支持部品20と、X線管12などを絶縁し、冷却するために管容器14内に充填されている絶縁油22と、絶縁油22を冷却するための外部冷却器24などから構成される。
X線管12は、電子線を発生する陰極26と、陰極26からの電子線が衝突してX線を発生するターゲット28を有する陽極16と、陰極26と陽極16とを絶縁支持し、真空気密に内包する外囲器30などから構成される。陰極26は電子線を放射するフィラメントや電子線を集束する集束電極26aや集束電極26aを支持する集束電極支持体26bや集束電極支持体26bを絶縁支持するステム32などから構成される。ステム32は大部分がガラスやセラミックなどの絶縁物から成り、その絶縁物内に陰極26に高電圧やフィラメント加熱電圧を供給するためのリード線が真空気密に封入されている。陽極16はターゲット28と、ターゲット28を支持するロータ34と、ロータ34の内側にあってこれを支持する回転軸と、回転軸を回転自在に支持する軸受と、軸受を支持する固定部36などから構成される。
外囲器30は陽極16のターゲット28と陰極26の集束電極26aなどを収容する大径部38と、陽極16を絶縁支持する陽極絶縁部40と、陰極26を絶縁支持する陰極絶縁部42などから構成されている。大径部38は大径の円筒部44と陽極側円板部46と陰極側円板部48とから成り、更に円筒部44は陽極16のターゲット28の外周面50を覆う第1円筒部52と、陰極26の集束電極26aの集束電極26aの部分を覆う第2円筒部54と、陰極26の集束電極支持体26bの部分を覆い、陰極側円板部42の外周と結合される第3円筒部56とから成り、それぞれの間はろう付けなどによって結合されている。陽極側円板部46は陽極16のターゲット28の裏面58を覆うように近接して配設され、その外周は円筒部44の第1円筒部52の端面に結合され、その内周は陽極16のロータ34の外周よりわずか大きく作られている。また、円筒部44の第1円筒部52のターゲット28上の焦点に近い位置にX線放射窓59が取り付けられている。陰極側円板部48はその外周が円筒部44の第3円筒部56の端面に結合され、その内周が陰極絶縁部42の端面に結合されている。第1円筒部52と陽極側円板部46は耐熱性の金属材料から成り、第2円筒部54はセラミックなどの絶縁材料から成り、第3円筒部56と陰極側円板部48は鋼材などの耐熱性の金属材料から成る。陽極絶縁部40は大部分がガラスやセラミックなどの絶縁物から成り、大径部38の陽極側円板部46に結合されるフレア部40aと、陽極16のロータ34の外周を覆う円筒部40bと、陽極16の固定部36に結合される陽極接続部40cなどから構成される。また、陰極絶縁部42は大部分がガラスやセラミックなどの絶縁物から成る円筒で、一端は大径部38の陰極側円板部48に結合され、他端は陰極26のステム32に結合されている。
管容器14は、大略円筒形状をしており、アルミニウムまたはアルミニウム合金などの低密度の金属材料から成る。管容器14の内壁の一部には防X線処置が施されている。図示していないが、管容器14の円筒部の側面の中央部にはX線を外部に取り出すためのX線放射口が、両端に近い部分にはX線管の両極に高電圧を導入するためのケーブルレセプタクル取付部や絶縁油を循環するための絶縁油出入口が設けられている。ケーブルレセプタクル取付部にはケーブルレセプタクルが固定されており、このケーブルレセプタクルを介して、X線管12に高電圧やフィラメント加熱電圧などが外部から供給される。絶縁油出入口には外部冷却器24から送油ホース60が結合され、管容器14内の絶縁油22が送油ホース60を通して外部冷却器24によって循環され、冷却される。
ステータ18はX線管12の陽極16のロータ34の周囲に配置される。ステータ18は支持部品20によって支持され、管容器14の壁面を通して供給される低電圧のステータ駆動電圧によって付勢される。支持部品20は大略椀状をしており、エポキシ樹脂などの絶縁材料から成る。支持部品20はその外周部を管容器14の円筒部の内壁に固定され、その底面の部分でX線管12の陽極16の固定部36を支持し、その内周面でステータ18を支持している。絶縁油22は管容器14内に充填されて、X線管12に印加される高電圧の絶縁と、X線管12の陽極16のターゲット18などで発生する熱の冷却を行うが、後者については外部冷却器24の助けを得て行うことになる。また、管容器14には絶縁油22の膨張、収縮を緩衝するために、ベローズなどの緩衝部品が取り付けられている。この緩衝部品は外部冷却器24に取り付けてもよい。外部冷却器24は送油ポンプとラジエータと送風機などで構成され、送油ポンプでラジエータに絶縁油を送り込み、このラジエータを送風機で送風して絶縁油を冷却する方式をとっている。管容器14内の絶縁油22は送油ポンプにより送油ホース60を通してラジエータに送られ、ここで冷却されて管容器14内に戻される。
次に、図2を用いて、本実施例のX線管装置におけるX線管の陽極のターゲットの熱をどのように冷却するかについて説明する。本実施例のX線管装置の使用時には、X線管12の陽極16が回転され、X線管12の陰極26と陽極16との間に高電圧が印加されると、陽極16のターゲット28には陰極26からの高エネルギーの電子線が衝突し、ターゲット28においてその入力の約1%がX線に変換され、残りの約99%が熱エネルギーに変換されることにより、ターゲット28において多量の熱が発生する。本発明では、X線管装置のX線出力の大容量化を目指しているため、このときのターゲット28における平均の発熱量は10〜15kWまたはそれ以上となり、それらの熱がターゲット28に蓄積されることになるため、効率良く冷却する必要がある。
図2は、図1の要部となるターゲット28とその周辺部品を拡大して示したものである。本実施例の要部は陽極16の回転中心軸61を中心にして軸対称であるため、図2では回転中心軸61の上側半分の断面図を示している。図2において、陽極16のターゲット28の外周面(以下、第1の外周面ともいう)50と裏面58とは、外囲器30の大径部38の円筒部44の第1円筒部52と陽極側円板部46の内面と近接して配置されている。両者の間には数十μm以上の隙間62があけられている。この隙間62には液体金属64が充填される。ターゲット28及び外囲器30の表面が液体金属64に接触する範囲を、以下ターゲット冷却領域65と呼ぶことにする。液体金属64としては、常温で液状の金属材料、例えばガリウム(Ga)、ガリウム(Ga)を主体とするガリウム合金、ビスマス(Bi)を相対的に多く含むビスマス(Bi)合金、インジウム(In)を相対的に多く含むインジウム(In)合金などが用いられている。ガリウム合金としては、ガリウム(Ga)とインジウム(In)の合金やガリウム(Ga)とインジウム(In)と錫(Sn)の合金など、ビスマス合金としては、ビスマス(Bi)とインジウム(In)と鉛(Pb)と錫(Sn)の合金など、インジウム合金としてはインジウム(In)とビスマス(Bi)の合金やインジウム(In)とビスマス(Bi)と錫(Sn)の合金などがある。これらの液体金属64は回転陽極X線管の陽極の軸受の潤滑材料として用いられるものでもあるので、適当な熱伝導性、電気伝導性、流動性、潤滑性を有する。また、これらの液体金属64は融点が室温より高い場合もあるので、そのような場合には、陽極16のターゲット28を回転させる前に液体金属64を融点以上に予熱して液状にした上で回転させるように構成することが望ましい。
ターゲット冷却領域65の端部のうち、ターゲット28の外周面50側の第1の端部66にはリング68が隙間62に蓋をするように配置されている。リング68はリング状の薄板で、その外周は外囲器30の大径部38の円筒部44の内壁に点溶接などによって固定され、その内周はターゲット28の第1の外周面50とは少し段差をつけた第2の外周面70と接触しないように少し間隔をとって配置されている。ターゲット冷却領域65の端部のうち、ターゲット28の裏面58側の第2の端部72には、ロータ34の円筒部の外周面に設けた円筒状の凸部74が配置され、隙間62の蓋の役割をしている。この第2の端部72についても、第1の端部66の場合と同様に、外囲器30の大径部38の陽極側円板部40の内周端部に円筒状のリングを取り付けて、隙間62の蓋の役割をさせてもよい。
ターゲット冷却領域65の隙間62の両端部66、72にリング68やロータ34の凸部74を設けて液体金属64の漏れ防止手段としているが、さらにこれらの端部66、72には二酸化チタン(TiO2)膜76を「コ」の字状に塗布して、液体金属64の漏れ防止を強化している。二酸化チタン膜76は液体金属64をはじく性質があるため、隙間62の端部66、72の構造が簡易なものであっても、この性質により液体金属64の隙間62の両端部66、72からの漏れが防止される。この二酸化チタン膜76は、第1の端部66において液体金属64と接するターゲット28の第1の外周面50の陰極側端部78と、外囲器30の大径部38の円筒部44の対向部80と、リング68の表面82に、第2の端部72において液体金属64と接するターゲット28の裏面58の内周側端部84と、外囲器30の大径部38の陽極側円板部46の内周側端部86と、ロータ34の凸部74の表面88に、それぞれ厚さ数μm塗布される。
また、液体金属64と接触するターゲット28や外囲器30の大径部38の材料としては、液体金属64となじみ易い金属材料が用いられる。例えば、モリブデン(Mo)またはモリブデン(Mo)合金やダイス鋼(SKD)などの鋼材などが適している。銅(Cu)などは液体金属64となじみにくいため不適当である。モリブデン(Mo)などの金属材料はターゲット28や外囲器30の大径部38の全体に使用される必要はなく、少なくとも液体金属64に接触する部分に使用されていればよい。このとき、温度上昇によって液体金属64の腐食性が強くなるため、液体金属64による腐食を防止するためには、モリブデンまたはモリブデン合金などでは約600℃、ダイス鋼などの鋼材などでは約200℃までの温度で使用するのが適当である。上記の如く、本実施例では、ターゲット28や外囲器30の大径部38の表面のうち少なくともターゲット冷却領域65の範囲の表面を液体金属64となじみ易い金属材料で形成しているので、液体金属64と隙間62の表面材料との間では化学変化などが起らず、両者共使用中に殆ど劣化することがないので、長寿命を保持することができる。
本実施例のX線管装置では、X線管12の陽極16と外囲器30を図2の如き構造にしたことにより、X線管12の陽極16のターゲット28にて発生した10〜15kWという大量の熱は、ターゲット冷却領域65において、熱伝導によりターゲット28の第1の外周面50と裏面58から液体金属64を経由して外囲器30の大径部38の円筒部44(特に第1円筒部52)と陽極側円板部46に熱伝達され、更に外囲器30から、それに接触する絶縁油22に熱伝達される。絶縁油22に熱伝達された熱は外部冷却器24にて放熱される。このように、ターゲット28が液体金属64および外囲器30を介して熱伝導によって冷却されることにより、ターゲット28の冷却率が従来の熱輻射による冷却に比べ格段に向上し、陽極のターゲットの温度が格段に低減される。この結果、従来品に比べ大きなX線管負荷を入力することが可能となる。
次に、図3〜図5を用いて、本実施例のX線管装置と従来品のX線管の陽極のターゲットの温度の計算結果の差違について説明する。図3は従来品と同様にターゲット28で発生した熱を熱輻射で熱放散させた場合で、呼び寸法1mmの焦点に15kWのX線管負荷を印加した場合のターゲットの温度分布の計算例である。図示のターゲットは中心軸を通る断面の右側半分であり、上側が焦点面、下側が裏面である。また、外囲器(図示せず)の表面は絶縁油で冷却されているので、150℃に保持されているものとしている。これらの条件は特に断わらない限り、他の計算例でも同様である。この計算例ではターゲットの焦点面の温度は1084℃、ターゲットの裏面の温度は720℃となり、焦点面の温度はかなり高温になている。また、ターゲットの焦点面と裏面との温度差は約360℃、ターゲットの裏面と外囲器との温度差は約570℃となっている。
これに対し、図4は本実施例のターゲットの温度分布の計算例を示したもので、呼び寸法1mmの焦点に15kWのX線管負荷を印加して、ターゲットの外周面と裏面、すなわちターゲット冷却領域にて熱伝導により冷却している。図4において、ターゲットの焦点面の温度は411℃、ターゲットの裏面の温度は150℃となり、ターゲットの焦点面と裏面との温度差は約260℃となている。また、ターゲットの裏面と外囲器との間はほぼ密着状態で、熱伝導で熱伝達されるために、温度差は非常に小さくなっている。この計算結果を図3の従来品の冷却方式の場合と比較すると、本実施例の場合、ターゲットの焦点面の温度は約670℃、ターゲットの裏面の温度は約570℃、ターゲットの焦点面と裏面との温度差は約100℃、それぞれ低減されている。このように、本実施例におけるターゲットの焦点面と裏面の温度の低減は顕著であり、ターゲットを熱伝導によって直接冷却する効果は大きい。
図5は、本実施例のターゲットの温度分布の他の計算例を示したもので、呼び寸法1mmの焦点に上記の2倍の30kWのX線管負荷を印加し、ターゲットの外周面と裏面、すなわちターゲット冷却領域にて熱伝導により冷却している。図5において、ターゲットの焦点面の温度は720℃、ターゲットの裏面の温度は150℃となり、ターゲットの焦点面と裏面との温度差は570℃となっている。この結果を、図3の従来品の計算結果と比較した場合、ターゲットの焦点面の温度は、従来品よりも約360℃低いので、本実施例の構成では30kWまたはそれ以上のX線間負荷にても実用可能と判断される。本発明によれば、ターゲットの冷却効率が向上するので、本実施例のX線管装置をX線CT装置などのX線装置に実装したとき、患者スループットが向上し、繰り返し使用により生じる患者待ち時間の短縮が可能となる。また、本実施例では、ターゲットの冷却効率の向上によりターゲットの焦点面の温度が低減されるので、焦点の呼び寸法を小さくすることも可能である。従来品の焦点の呼び寸法1mm、平均のX線管負荷入力15kWの使用に対し、本実施例では例えば、焦点の呼び寸法0.7mm、平均のX線管負荷入力15kWでの使用が可能となる。この結果、小焦点化により高精細なX線画像を得ることができる。
次に、図6を用いて、本発明に係る回転陽極X線管装置の第2の実施例について説明する。図6は本実施例の要部の拡大断面図である。本図も、図2と同様に、陽極16の回転中心軸61の上側半分の断面図を示している。本実施例ではターゲット冷却領域65はターゲット28の外周面50に設けられている。図6において、陽極16のターゲット28の第1外周面50は、外囲器30の大径部38の円筒部44と近接して配置され,両者の間には数十μm以上の隙間62があけられている。この隙間62には液体金属64が充填される。ターゲット28及び外囲器30の表面が液体金属64と接触する範囲であるターゲット冷却領域65の端部のうち、ターゲット28の第1の外周面50の陰極側の第1の端部66には、第1の実施例と同様に、リング68が隙間62に蓋をするように配置されている。ターゲット冷却領域65の端部のうち、陽極端側の第2の端部90には、ターゲット28の第1の外周面50と第3の外周面92との段差部94が設けられており、この段差部94が隙間62の蓋の役割をしている。この第2の端部90についても、第1の端部66の場合と同様に、リング68を取り付けて隙間62の蓋の役割をさせてもよい。ターゲット冷却領域65の両端部66、90には、第1の実施例と同様に、二酸化チタン膜76を「コ」の字状に塗布して、液体金属64の漏れ防止を強化する。この二酸化チタン膜76は、第1の端部66では、ターゲット28の第1の外周面50の陰極側端部78と、外囲器30の大径部38の円筒部44の対向部80と、リング68の表面82に、第2の端部90では、ターゲット28の第1の外周面50の陽極端側端部96と、外囲器30の大径部38の円筒部44の対向部98と、ターゲット28の段差部94に、それぞれ厚さ数μm塗布される。このような構造にすることにより、第1の実施例と同様なターゲットの冷却効果が得られる。本実施例は、ターゲット28の外周面50の面積が裏面58の面積に比べて大きい場合に有効である。
次に、図7を用いて、本発明に係る回転陽極X線管装置の第3の実施例について説明する。図7は、本実施例の要部の拡大断面図で、図2と同様、陽極16の回転中心軸61の上側断面図を示している。本実施例ではターゲット冷却領域65はターゲット28の裏面58に設けられている。図7において、陽極16のターゲット28の裏面58は外囲器30の大径部38の陽極側円板部46と近接して配置され、両者の間には数十μm以上の隙間62があけられている。この隙間62には液体金属64が充填される。ターゲット28及び外囲器30の表面が液体金属64と接触する範囲であるターゲット冷却領域65の端部のうち、ターゲット28の外周側の第1の端部100は、ターゲット28の外周面側まで延長されており、その第1の端部100はリング68と、ターゲット28の第2の外周面(主要な外周面である第1の外周面50よりリング68を配設するスペース分だけ突出している)102と、外囲器30の大径部38の円筒部44の対向部104とから成り、リング68は第1の実施例と同様に隙間62に蓋をするように配置されている。ターゲット冷却領域65の端部のうち、ターゲット28の内周側の第2の端部72は第1の実施例と同じ構造をしており、ロータ34の円筒部の凸部74が隙間62の蓋の役割をしている。この第2の端部72についても、第1の端部100の場合と同様に、リング68を取り付けて隙間62の蓋の役割をさせてもよい。ターゲット冷却領域65の両端部100、72には、第1の実施例と同様に二酸化チタン膜76を「コ」の字状に塗布して、液体金属64の漏れ防止を強化する。この二酸化チタン膜76は、第1の端部100では、ターゲット28の第2の外周面102と、外囲器30の大径部38の円筒部44の対向部104と、リング68の表面82に、第2の端部72では、ターゲット28の裏面58の内周側端部84と、外囲器30の大径部38の陽極側円板部46の内周側端部86と、ロータ34の凸部74の表面88に、それぞれ厚さ数μm塗布される。このような構造にすることにより、第1の実施例と同様なターゲットの冷却効果が得られる。本実施例はターゲット28の裏面58の面積が外周面50の面積に比べて大きい場合に有効である。
次に、図8を用いて、本発明に係る回転陽極X線管装置の第4の実施例について説明する。図8は本発明に係る回転陽極X線管装置の第4の実施例の断面図である。図8において、本実施例のX線管装置110は、第1の実施例に対し、X線管112の陽極114のターゲット116が小形で、その重量は約1/5で、軽量化されている。その他の部分の構造は第1の実施例とほぼ同じである。ターゲット116の冷却構造としては、ターゲット116の外周面50及び裏面58と外囲器30の大径部38の円筒部44及び陽極側円板部46との間に狭い隙間118を設け、その隙間118に液体金属64を充填し、ターゲット116及び外囲器30の表面が液体金属64に接触している範囲をターゲット冷却領域65としている。これにより、X線管112の使用中にターゲット116で発生した熱はターゲット冷却領域65においてターゲット116の外周面50と裏面58から、液体金属64を経由して外囲器30の大径部38の円筒部44と陽極側円板部46へ直接熱伝導によって伝達され、更に外囲器30の大径部38の表面から絶縁油22に熱伝達される。
上記の如く、本実施例においても、本発明のターゲット冷却構造をとっているので、ターゲット116は小形でも、ターゲット116の冷却率が大幅に向上し、従来品よりも大きなX線管負荷の入力が可能となる。図9は、本実施例のX線管112のターゲット116の温度分布の計算例である。この計算例ではターゲット116の焦点面に平均入力15kWのX線管負荷を入力した場合のもので、ターゲット116の焦点面の温度は約320℃、液体金属64の部分の温度は約150℃、両者の温度差は約170℃である。これらの温度は、図3に示した従来品のターゲットの温度分布と比べてかなり低減されており、平均入力15kWのX線管負荷の条件で使用可能である。本実施例では、ターゲットの重量が第1の実施例の約1/5に低減されているため、回転陽極114の荷重が大幅に低減されることになり、回転陽極114の回転寿命の延長が期待できる。また、X線管装置全体としても、小形、軽量化が可能となる。
次に、図10を用いて、本発明に係る回転陽極X線管装置の第5の実施例について説明する。図10は、本発明に係る回転陽極X線管装置の第5の実施例の断面図である。図10において、本実施例のX線管装置120は、第1の実施例に対し、X線管122の陽極16と外囲器128の大部分が接地されて、アース電位にある点で相違する。X線管122の陽極16の構造及び陽極16のターゲット28の冷却構造は第1の実施例とほぼ同じである。X線管122では、外囲器128と陰極124の構造が異なる。X線管装置120のその他の部分としては、陰極側ケーブルレセプタクル126の構造及び取り付け位置が異なる。
図10において、X線管122の陰極124は陰極側ケーブルレセプタクル126の端部に直接結合され、支持されている。すなわち、陰極側ケーブルレセプタクル126はX線管122の外囲器128の一部を構成し、ステムと陰極支持体の役割も兼ねている。陰極126は、従来品と同様、集束電極125とフィラメントを有し、集束電極125が陰極側ケーブルレセプタクル126に支持され、陰極側ケーブルレセプタクル126の端子と集束電極125やフィラメントとが接続され、その端子から陰極電位やフィラメント加熱電圧が供給される。
外囲器128は、陽極16のターゲット28と陰極124の集束電極125を内包する大径部130と、陽極16に接続され、これを支持する陽極側接続部138と、陰極124を支持する陰極側ケーブルレセプタクル126と、陰極側ケーブルレセプタクル126に接続され、これを支持する陰極側接続部140などから成る。大径部130は円筒部132と陽極側円板部134と陰極側円板部136とから成り、大部分が金属材料から成る。特に、大径部132の陽極16のターゲット28の外周面50と裏面58に近接する部分は、第1の実施例と同様に、ターゲット冷却領域65を形成するので、液体金属64となじみ易い金属材料で構成される。大径部130の円筒部132のターゲット28上に形成される焦点に近接する部分にはX線放射窓142が取り付けられる。大径部130の陽極側円板部134の中心部には円形の開口が設けられ、この開口の部分に陽極側接続部138が結合されている。大径部130の陰極側円板部136の中心からはずれた位置に小さい円形の開口が設けられ、この開口の部分に陰極側接続部140が結合されている。陽極側接続部138は陽極16のロータ34より少し大きい径の円筒で、その大部分はガラスやセラミックなどの絶縁物または非磁性の金属材料から成る。陰極側接続部140は陰極側ケーブルレセプタクル126を覆う円筒で、金属材料から成る。陰極側ケーブルレセプタクル126は、テーパーの付いた円筒形状をしており、一端には取り付け用のフランジを有し、セラミックなどの耐熱性絶縁物から成る。陰極側ケーブルレセプタクル126は一端のフランジの部分で陰極側接続部140と結合され、他端で陰極124に結合されている。X線管122は、管容器14内において、陽極16の固定部36と、外囲器128の陰極側ケーブルレセプタクル126の部分において支持されている。
本実施例では、X線管122の陽極16が接地されているので、ターゲット28及び外囲器128のターゲット冷却領域65が接地されることになり、陽極16と外囲器128の陽極側部分との間及びこれらと管容器14との間の絶縁が不要となるため、外囲器128の大径部130を含めた陽極側部分の構造及びX線管122の回転陽極16の支持構造が簡易化され、X線管装置120の製造原価の低減に寄与する。また、外囲器128の大径部130のターゲット冷却領域65を冷却するのに、絶縁油22の代わりに他の冷却媒体例えば水などを使用することが可能となり、ターゲット28の冷却効率を更に向上することができる。また、X線管122の外囲器128のターゲット冷却領域65の温度も低下させることができる。但し、この場合には、ステータ18の冷却と外囲器128の冷却とは別に行うことが必要となる。冷却媒体に水を使用した場合、その冷却性能の向上により、外部冷却器24を小形化することも可能となる。