本発明は、車輌の制御装置に係り、更に詳細には車輌の制動停止時に於ける挙動の変化を低減する停止挙動制御装置に係る。
自動車等の車輌の制動制御装置の一つとして、例えば下記の特許文献1に記載されている如く、車輌の制動停止時に於ける車体の揺り戻しを低減すべく、車輌が停止する直前に後輪の制動力配分を増大させるよう構成された制動制御装置が従来より知られている。
上述の如き制動制御装置によれば、車輌が停止する直前に後輪の制動力配分が増大されることにより、制動時に於ける車輌の安定性を確保しつつ、車輌の制動停止時に於ける車体の揺り戻し(車体のピッチ角の変化やピッチ変位量)を低減することができる。
特開2001−18777号公報
しかし本願発明者が行った実験的研究の結果によれば、車輌の制動停止時に乗員が感じる不快感は車体のピッチ角の変化ではなく車輌の前後加速度の急激な変化(ジャーク)に起因するショックであり、従って車輌が停止する直前に後輪の制動力配分を増大させて車体のピッチ角の変化やピッチ変位量を低減しても、車輌の制動停止時に乗員がショックとして感じる不快感を効果的に低減することができないことが判明した。
本発明は、車輌が停止する直前に後輪の制動力配分を増大させるよう構成された従来の制動制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、本願発明者が行った実験的研究の結果得られた知見に基づき、車輌の制動停止時に於ける車輌の前後加速度の急激な変化が減少するよう制動力を制御することにより、車輌の制動停止時に乗員が感じる不快感を効果的に低減することである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち車輌の制動停止時を判定する手段と、車輌の制動停止時には車輌の前後コンプライアンスが制動停止前の値よりも増大するよう車輌の前後コンプライアンスを制御する制御手段とを有することを特徴とする車輌の停止挙動制御装置によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記制御手段は車輌の制動停止時に於ける制動力を実質的に前輪又は後輪にのみ配分することにより車輌の前後コンプライアンスを増大させるよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記制御手段は車輌の制動停止時に車輌前後方向の車輪支持剛性を低下させることにより車輌の前後コンプライアンスを増大させるよう構成される(請求項3の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の構成に於いて、車輌は車輪の制動力を制御する制動力制御手段を有し、前記制動力制御手段は車輌の制動停止時には車輌に要求される減速度よりも車輌の減速度が小さくなるよう車輪の制動力を制御するよう構成される(請求項4の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の構成に於いて、車輌の減速度に対する車速の比が小さいほど車輌の減速度が小さくなるよう車輪の制動力を制御するよう構成される(請求項5の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項2の構成に於いて、車輌は駆動輪と非駆動輪とを有し、前記制御手段は車輌の制動停止時に於ける制動力を実質的に非駆動輪にのみ配分するときには、クリープトルクを低減する制動力を駆動輪に付与するよう構成される(請求項6の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至6の構成に於いて、前記車輌の制動停止時を判定する手段は車輪に制動力が付与されている状況にて車速が基準値以下であるときに車輌の制動停止時であると判定するよう構成される(請求項7の構成)。
尚上記請求項2に於ける「制動力を実質的に前輪又は後輪にのみ配分する」とは、制動力が配分されない側の制動力が0である場合に限らず、車輌の制動停止時に当該車輪の自由な回転を許容する程度の制動力が付与されることを含むものである。
上記請求項1の構成によれば、車輌の制動停止時には車輌の前後コンプライアンスが制動停止前の値よりも増大するよう車輌の前後コンプライアンスが制御されるので、車輌の制動停止時に車輌の前後方向の固有振動数を低下させ、車体に作用する揺り返しの弾性力を低下させ、これにより車体の前後加速度の急激な変化及びこれに起因する車輌加速方向のショックを確実に低減することができる。
また上記請求項2の構成によれば、車輌の制動停止時に於ける制動力を実質的に前輪又は後輪にのみ配分することにより車輌の前後コンプライアンスが増大されるので、車輌の前後コンプライアンスを増減するための特別の装置は不要であり、車輌の制動停止時に車輌の前後コンプライアンスを容易に且つ確実に増大させることができる。
また上記請求項3の構成によれば、車輌の制動停止時に車輌前後方向の車輪支持剛性を低下させることにより車輌の前後コンプライアンスが増大されるので、制動力の前後輪配分比を所望の配分比に制御しつつ車輌の前後コンプライアンスを確実に増大させることができる。
また上記請求項4の構成によれば、車輌の制動停止時には車輌に要求される減速度よりも車輌の減速度が小さくなるよう車輪の制動力が制御されるので、車輌の制動停止時に運転者により車輪の制動力の低下操作が行われることを要することなく車輌の制動停止時に確実に車輌の減速度を低下させ、これにより乗員に車輌前方への過大な慣性力が作用することに起因する車輌減速方向のショックを確実に低減することができる。
一般に、車輌の制動停止時に於けるショックを低減するためには、車速が低くなるほど車輌の減速度が小さくなることが好ましく、車輌の制動停止時に於ける車輌の減速度が高いときには車輌の減速度が十分に低下され、車輌の減速度が小さくなるほど車輌の減速度低下度合が小さくなることが好ましい。
上記請求項5の構成によれば、車輌の減速度に対する車速の比が小さいほど車輌の減速度が小さくなるよう車輪の制動力が制御されるので、車速が低くなるほど車輌の減速度を小さくすることができると共に、車輌の制動停止時に於ける車輌の減速度が高いときには車輌の減速度を十分に低下させ、車輌の減速度が小さくなるほど車輌の減速度低下度合を小さくすることができる。
また上記請求項6の構成によれば、車輌の制動停止時に於ける制動力を実質的に非駆動輪にのみ配分するときには、クリープトルクを低減する制動力が駆動輪に付与されるので、車輌の制動停止時に制動力が実質的に非駆動輪にのみ配分されても、駆動輪のクリープトルクに起因して車輌の制動距離が増大することを確実に抑制することができる。特に前輪が従動輪であり後輪が駆動輪である場合には、上記請求項6の構成によれば、前輪に制動停止用の制動力が付与され、後輪にクリープトルク低減用の制動力が付与されることにより、前輪に制動力が付与されている状況にて後輪により駆動力が発生される状況を極力回避することができ、これにより制動停止時の車輌の走行安定性を向上させることができる。
また上記請求項7の構成によれば、車輪に制動力が付与されている状況にて車速が基準値以下であるときに車輌の制動停止時であると判定されるので、車輌の制動停止時である状況、即ち車輪に制動力が付与され車速が低下して車輌が停止に至る状況を確実に判定することができる。
[課題解決手段の好ましい態様]
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の構成に於いて、制御手段は車速が低いほど車輌の前後コンプライアンスが高くなるよう、少なくとも車速に応じて車輌の前後コンプライアンスを制御するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の構成に於いて、制御手段は車輌の減速度に対する車速の比が小さいほど車輌の前後コンプライアンスが高くなるよう、車輌の減速度に対する車速の比に応じて車輌の前後コンプライアンスを制御するよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3の構成に於いて、制御手段はサスペンションのリンクの端部の剛性を低下させることにより車輌前後方向の剛性を低下させるよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3の構成に於いて、制御手段はサスペンションのリンクの端部に組み込まれた弾性ブッシュのばね定数を低下させることにより車輌前後方向の剛性を低下させるよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、車輌に要求される減速度は乗員の制動操作量に基づいて求められるよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4の構成に於いて、車輌は自動制動装置を有し、車輌に要求される減速度は乗員の制動操作量に基づいて求められる減速度及び自動制動装置の目標減速度のうち大きい方の値として求められるよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項7の構成に於いて、車輌の制動停止時を判定する手段は車輌に要求される減速度がその基準値以上であり且つ車速がその基準値以下であるときに車輌の制動停止時であると判定するよう構成される(好ましい態様7)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は制動力の前後配分を制御可能な車輌に適用された本発明による車輌の停止挙動制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌の駆動輪である左右の後輪を示している。従動輪であり操舵輪でもある左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置16によりタイロッド18L及び18Rを介して操舵される。
各車輪の制動力は制動装置20の油圧回路22によりホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLの制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路22はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ28により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く電子制御装置30により制御される。
マスタシリンダ28にはマスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ34が設けられ、ブレーキペダル26にはブレーキペダルの踏み込みストロークStを検出するストロークセンサ36が設けられ、ホイールシリンダ24FR〜24RLには対応するホイールシリンダ内の圧力を制動圧Piとして検出する圧力センサ38FL〜38RRが設けられている。これらのセンサにより検出されたマスタシリンダ圧力Pm、踏み込みストロークSt、制動圧Pi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号は電子制御装置30に入力される。
また電子制御装置30には車速センサ40により検出された車速Vを示す信号及び横加速度センサ42により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号も入力される。尚図1には詳細に示されていないが、電子制御装置30は例えばCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のマイクロコンピュータを含んでいる。
電子制御装置30は図2に示されたフローチャートに従い、運転者の制動操作量に基づき車輌の目標減速度Gtを演算する。また電子制御装置30は車輌の制動停止時を判定し、車輌の制動停止時には車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxが小さい領域に於いて比V/Gbxが小さいほど小さくなるよう車輌の目標減速度Gtを低減補正し、また比V/Gbxが小さい領域に於いては制動力の後輪配分比を0にし、これにより低減補正後の車輌の目標減速度Gtaが前輪の制動力のみにより達成されるよう各車輪の制動力を制御する。
尚電子制御装置30は制動停止に至る前の制動状況に於いては、車輌の目標減速度Gtを低減補正せず、制動力の後輪配分比を通常時の後輪配分比に設定し、これにより車輌の目標減速度Gtが前後輪の制動力により通常時の後輪配分比にて達成されるよう各車輪の制動力を制御する。
次に図2に示されたフローチャートを参照して図示の実施例1に於ける制動力の制御による車輌の停止挙動制御について説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては圧力センサ36により検出されたマスタシリンダ圧力Pmを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては図3に示されたフローチャートに従って運転者の制動操作量に基づき運転者の制動要求量としての車輌の目標減速度Gtが演算される。
ステップ40に於いては車輌の目標減速度Gtが車輌の制動停止時を判定するための基準値Gto(0に近い正の定数)よりも大きいか否かの判別、即ち運転者の制動要求があるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ60へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ50へ進む。
ステップ50に於いては車速Vが車輌の制動停止時を判定するための基準値Vo(0に近い正の定数)よりも小さいか否かの判別、即ち車輌が停止する直前であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ80へ進み、否定判別が行われたときにはステップ60へ進む。
ステップ60に於いては当技術分野に於いて公知の要領にて通常制動時の制動力の後輪配分比Krnが演算され、ステップ70に於いては減速度を制動圧に変換する係数をKbとして、下記の式1及び2に従って左右前輪の目標制動圧Pbtf及び左右後輪の目標制動圧Pbtrが演算される。
Pbtf=KbGt(1−Krn) …(1)
Pbtr=KbGtKrn …(2)
ステップ80に於いては車輌の減速度Gbx(=−Gx)に対する車速Vの比V/Gbxに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより目標減速度低減のゲインKgが演算され、ステップ90に於いては車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより制動力の後輪配分比Krsが演算される。
ステップ100に於いては車輌の目標減速度Gtが下記の式3に従って減速度低減のゲインKgにて補正されることにより、補正後の車輌の目標減速度Gtaが演算される。
Gta=KgGt …(3)
ステップ110に於いては下記の式4及び5に従って左右前輪の目標制動圧Pbtf及び左右後輪の目標制動圧Pbtrが演算される。
Pbtf=KbGta(1−Krs) …(4)
Pbtr=KbGtaKrs …(5)
ステップ120に於いては前輪の制動圧Pfl、Pfr及び後輪の制動圧Prl、Prrがそれぞれ目標制動圧Pbtf及びPbtrになるよう、各車輪の制動圧が制御される。
かくして図示の実施例1によれば、ステップ20に於いて運転者の制動操作量に基づき運転者の制動要求量としての車輌の目標減速度Gtが演算され、ステップ40及び50に於いて車輌の制動停止時であるか否かの判別が行われ、制動時であるが停止直前ではないときにはステップ60、70、120に於いて車輌の減速度が目標減速度Gtになるよう通常制動時の制動力の前後配分比にて前後輪の制動力が制御される。
これに対しステップ40及び50に於いて車輌の制動停止時であると判別されると、ステップ80に於いて車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxに基づき目標減速度低減のゲインKgが演算され、ステップ90に於いて車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxに基づき制動力の後輪配分比Krsが演算され、ステップ100に於いて補正後の車輌の目標減速度Gtaが減速度低減のゲインKgと車輌の目標減速度Gtとの積として演算される。
そしてステップ110に於いて制動力の後輪配分比Krsにて補正後の車輌の目標減速度Gtaを達成するための左右前輪の目標制動圧Pbtf及び左右後輪の目標制動圧Pbtrが演算され、ステップ120に於いて前輪の制動圧Pfl、Pfr及び後輪の制動圧Prl、Prrがそれぞれ目標制動圧Pbtf及びPbtrになるよう制御される。
この場合制動力の後輪配分比Krsは車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxが小さいほど小さい値になると共に、比V/Gbxが0又は0に近い値であるときには0に演算されるので、車輌の制動停止時に左右前輪にのみ制動力が付与されることにより補正後の車輌の目標減速度Gtaが達成される。
従って図示の実施例1によれば、車輌の制動停止時には前後輪に制動力が付与される場合に比して車輌の前後方向の固有振動数を低下させて車輌の前後コンプライアンスを増大させることができ、これにより車体の揺り返し方向の力を低減し、車輌の前後加速度の変化度合を低減して乗員が感じる車輌加速側へのショック(乗員が車体に対し相対的に車輌後方へ移動されるショック)を確実に低減することができる。
特に図示の実施例1によれば、車輌の制動停止時には車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxが小さいほど小さくなるよう補正後の車輌の目標減速度Gtaが演算され、補正後の車輌の目標減速度Gtaが達成されるよう各車輪の制動力が制御されるので、車輌の制動停止時に於ける車輌前方への慣性力を漸次低減することができ、これにより車輌の乗員により制動力の低減操作が行われなくても車輌減速側へのショック(乗員が車体に対し相対的に車輌前方へ移動されるショック)を確実に低減することができ、このことにより車体の揺り返し時に乗員が感じる車輌加速側へのショックを更に一層確実に低減することができる。
また図示の実施例1によれば、車輌の制動停止時には制動力の後輪配分比Krsが0に設定されることにより左右前輪にのみ制動力が付与されるので、左右後輪にのみ制動力が付与される場合に比して後輪の横力の低下に起因する車輌の走行安定性の悪化を確実に防止することができる。
尚図示の実施例1に於いては、車輌の制動停止時には左右前輪にのみ制動力が付与されるようになっているが、左右後輪にのみ制動力が付与されるよう修正されてもよい。この場合には図示の実施例1の場合に比して車輌の制動停止時に於ける車輌のピッチ角やピッチ変位量を小さくすることができる。
図9は車輪の前後支持剛性可変装置を備えた車輌に適用された本発明による車輌の停止挙動制御装置の実施例2を示す概略構成図である。尚図9に於いて図1に示された部材と同一の部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この実施例2に於いては、図11に示されている如く、サスペンションリンク100の車体側端部にはゴムブッシュ装置102が設けられ、ゴムブッシュ装置102は互いに同心をなす内筒104及び外筒106とこれらの間に弾装されたゴムブッシュ108とよりなっている。ゴムブッシュ108にはサスペンションリンク100の軸線110に沿って内筒104の両側の位置にゴムブッシュ装置102の軸線112の周りに円弧状に延在する一対の空洞部114及び116が設けられている。
空洞部114及び116にはそれぞれ弾性可変部材118及び120が介装されている。弾性可変部材118及び120はそれぞれ軸線110に沿う両側の位置に電極118A、118B及び120A、120Bを有し、これらの電極に電圧が印加されると電圧の増大に応じてばね定数を漸次低下する弾性材118C及び120Cが対応する電極の間に介装されている。弾性可変部材118及び120の電極に対する印加電圧は電源回路44を介して電子制御装置30により制御され、これにより各車輪の前後支持剛性が可変設定され、車輌の前後コンプライアンスが増減されるようになっている。
尚弾性材118C及び120Cは電圧の印加方向に対し垂直な方向のばね定数を低下する物質にて構成されてもよく、その場合には電極118A、118B及び120A、120Bはそれぞれ弾性材118C及び120Cに対しサスペンションリンク100の軸線110の両側に配設される。
またこの実施例2に於いては、電子制御装置30は車輌の制動停止時には車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxが小さい領域に於いて比V/Gbxが小さいほど小さくなるよう車輌の目標減速度Gtを低減補正し、低減補正後の車輌の目標減速度Gtaが前後輪の制動力により通常時の後輪配分比にて達成されるよう各車輪の制動力を制御すると共に、弾性可変部材118及び120のばね定数を低下させることにより車輌の前後コンプライアンスを増大させる。この場合弾性可変部材118及び120のばね定数、従って車輌の前後コンプライアンスは、車輌の制動停止時に於ける車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxが小さいほど大きくなるよう、比V/Gbxに応じて制御される。
次に図10に示されたフローチャートを参照して実施例2に於ける制動力の制御及び車輪の前後支持剛性の制御による車輌の停止挙動制御ルーチンについて説明する。尚図10に於いて図2に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。
この実施例2に於いては、ステップ10〜50は上述の実施例1の場合と同様に実行され、ステップ50に於いて肯定判別が行われたときには、即ち車輌の制動停止時であると判定されたときには、ステップ130に於いて車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxに基づき図12に示されたグラフに対応するマップより各車輪のゴムブッシュ装置102の目標ばね定数Ktが演算され、ステップ40又は50に於いて否定判別が行われたときにはステップ140に於いてゴムブッシュ装置102の目標ばね定数Ktがその標準値Ktoに設定される。
ステップ150に於いては上述の実施例1のステップ80の場合と同様、車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより目標減速度低減のゲインKgが演算され、ステップ160に於いては上述の実施例1のステップ60の場合と同様、当技術分野に於いて公知の要領にて制動時の制動力の後輪配分比Krが演算される。
ステップ170に於いては上述の実施例1のステップ100の場合と同様、車輌の目標減速度Gtが減速度低減のゲインKgにて補正されることにより、補正後の車輌の目標減速度Gtaが演算され、ステップ180に於いては上述の実施例1のステップ70、110の場合と同様、下記の式6及び7に従って左右前輪の目標制動圧Pbtf及び左右後輪の目標制動圧Pbtrが演算される。
Pbtf=KbGta(1−Kr) …(6)
Pbtr=KbGtaKr …(7)
ステップ190に於いては上述の実施例1のステップ120の場合と同様、前輪の制動圧Pfl、Pfr及び後輪の制動圧Prl、Prrがそれぞれ目標制動圧Pbtf及びPbtrになるよう、各車輪の制動圧が制御され、ステップ200に於いては各車輪のゴムブッシュ装置102のばね定数が目標ばね定数Ktになるよう制御される。
かくして図示の実施例2によれば、ステップ40及び50に於いて車輌の制動停止時であると判別されると、ステップ130に於いて車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxが小さいほど各車輪のゴムブッシュ装置102の目標ばね定数Ktが小さくなるよう、各車輪のゴムブッシュ装置102の目標ばね定数Ktが比V/Gbxに基づいて演算され、これにより比V/Gbxが小さいほど車輌の前後方向の固有振動数を低下させて車輌の前後コンプライアンスが高くすることができるので、上述の実施例1の場合と同様車体の揺り返し方向の力を低減し、車輌の前後加速度の変化度合を低減して乗員が感じる車輌加速側へのショックを確実に低減することができる。
また図示の実施例2によれば、車輌の制動停止時に於ける制動力の前後配分が例えば上述の実施例1の場合の如く特殊な配分に制約されることがないので、各車輪の制動能力を有効に活かして車輌の走行安定性を悪化させることなく車輌の制動停止時のショックを低減することができる。
尚この図示の実施例2に於いても、車輌の制動停止時には車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxが小さいほど小さくなるよう補正後の車輌の目標減速度Gtaが演算され、補正後の車輌の目標減速度Gtaが達成されるよう各車輪の制動力が制御されるので、車輌の制動停止時に於ける車輌前方への慣性力を漸次低減することができ、これにより車輌の乗員により制動力の低減操作が行われなくても車輌減速側へのショックを確実に低減することができ、このことにより車体の揺り返し時に乗員が感じる車輌加速側へのショックを更に一層確実に低減することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例1に於いては、車輌の制動停止時には左右前輪にのみ制動力が付与され、左右後輪には制動力が付与されないようになっているが、車輌が後輪駆動車である場合には、クリープトルクを低減し又は相殺する制動力が駆動輪である左右後輪に付与されるよう修正されてもよい。同様に、車輌の制動停止時には左右後輪にのみ制動力が付与され、左右前輪には制動力が付与されない構成に於いて、車輌が前輪駆動車である場合には、クリープトルクを低減し又は相殺する制動力が駆動輪である左右前輪に付与されてもよい。これらの修正例によれば、車輌の制動停止時に乗員が感じるショックを効果的に低減しつつ、クリープトルクに起因して車輌の制動距離が長くなることを効果的に防止することができる。
また上述の各実施例に於いては、車輌の目標減速度Gtはマスタシリンダ圧力Pm及びブレーキペダル26の踏み込みストロークStに基づいて演算されるようになっているが、車輌の目標減速度Gtは当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよく、例えばマスタシリンダ圧力Pmのみ又はブレーキペダル26の踏み込みストロークStのみに基づいて演算されてもよい。
また上述の各実施例に於いては、車輌の目標減速度Gtは運転者の制動操作量に基づいて運転者の要求減速度として演算されるようになっているが、本発明の停止挙動制御装置は衝突回避又は先行車輌の間に安全な車間距離を確保する等の目的で自動制動が行われる車輌に適用されてもよく、その場合には車輌の目標減速度Gtは運転者の要求減速度及び自動制動の要求減速度のうち大きい方の値として演算されてよい。
また上述の実施例2に於いては、サスペンションリンク100の車体側端部のゴムブッシュ装置102に弾性可変部材118及び120が介装され、それらのばね定数が印加電圧の制御により変化されることにより車輌の前後コンプライアンスが増減されるようになっているが、例えば空洞部114及び116が密閉空間として形成され、それらの間に於ける気体の流通抵抗が増減されたり、空洞部114及び116の圧力が増減されることによりゴムブッシュ装置102のばね定数が変化される構成の如く、車輌の前後コンプライアンスの増減は各車輪の車輌前後方向の支持剛性を増減可能な任意の構成により達成されてよい。
制動力の前後配分を制御可能な車輌に適用された本発明による車輌の停止挙動制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
実施例1に於ける制動力の制御による車輌の停止挙動制御ルーチンを示すフローチャートである。
図2のステップ20に於ける車輌の目標減速度Gt演算のサブルーチンを示すフローチャートである。
車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxと目標減速度低減のゲインKgとの間の関係を示すグラフである。
車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxと制動力の後輪配分比Krsとの間の関係を示すグラフである。
ブレーキペダルの踏み込みストロークStと目標減速度Gstとの間の関係を示すグラフである。
マスタシリンダ圧力の平均値Pmaと目標減速度Gptとの間の関係を示すグラフである。
前回の目標減速度Gtfと目標減速度Gptに対する重みαとの間の関係を示すグラフである。
車輪の前後支持剛性可変装置を備えた車輌に適用された本発明による車輌の停止挙動制御装置の実施例2を示す概略構成図である。
実施例2に於ける制動力の制御及び車輪の前後支持剛性の制御による車輌の停止挙動制御ルーチンを示すフローチャートである。
サスペンションリンクの車体側端部に設けられたゴムブッシュ装置を示す正面図である。
車輌の減速度Gbxに対する車速Vの比V/Gbxと目標ばね定数Ktとの間の関係を示すグラフである。
符号の説明
20 制動装置
28 マスタシリンダ
30 電子制御装置
40 車速センサ
42 前後加速度センサ
44 電源回路
100 サスペンションリンク
102 ゴムブッシュ装置
118、120 弾性可変部材