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JP2006016637A - 耐炭酸ガス腐食性に優れる油井用高強度ステンレス鋼管 - Google Patents

耐炭酸ガス腐食性に優れる油井用高強度ステンレス鋼管 Download PDF

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JP2006016637A JP2004193402A JP2004193402A JP2006016637A JP 2006016637 A JP2006016637 A JP 2006016637A JP 2004193402 A JP2004193402 A JP 2004193402A JP 2004193402 A JP2004193402 A JP 2004193402A JP 2006016637 A JP2006016637 A JP 2006016637A
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Abstract

【課題】 YS654MPaを超える高強度で、かつ硫化水素を含有せず、炭酸ガス(CO)、塩素イオン(Cl)等を含み、かつ170℃を超える高温の苛酷な腐食環境下においても優れた耐CO2腐食性を示す、安価な油井用高強度ステンレス鋼管を提供する。
【解決手段】 mass%で、C:0.05%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:15.5〜18.5%、Ni:1.5〜5%、Al:0.05%以下、V:0.2%以下、N:0.15%以下、O:0.006%以下を、Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧18.0、Cr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5を満足するように含有する組成と、あるはさらに、マルテンサイト相をベース相として、さらにフェライト相を5〜70体積%含有し、あるいはさらに、30体積%以下のオーステナイト相を含有する組織とする。さらに、Mo:1.0%未満、Cu:3.5%以下のうちから選ばれた1種又は2種、あるいはNb、Ti、Zr、B、Wのうちの1種又は2種以上、あるいはCaを含有してもよい。
【選択図】 なし

Description

本発明は、原油あるいは天然ガスの油井、ガス井に使用される油井用鋼管に係り、特に炭酸ガス(CO)、塩素イオン(Cl-)を含む腐食環境の厳しい油井、ガス井用として好適な、優れた耐食性を有する油井用高強度ステンレス鋼管に関する。なお、本発明でいう「高強度ステンレス鋼管」とは、降伏強さ:654MPa(95ksi)以上の高強度を有するステンレス鋼管をいうものとする。
近年、原油価格の高騰や、近い将来に予想される石油資源の枯渇化に対処するために、従来、省みられなかったような深層油田に対する開発が、世界的規模で盛んになっている。このような油田、ガス田は一般に深度が極めて深く、またその雰囲気も高温でかつ、CO、Cl- 等を含む厳しい腐食環境となっている。したがって、このような油田、ガス田の採掘に使用される油井用鋼管としては、高強度で、しかも耐食性に優れた鋼管が要求される。
従来から、CO2、Cl等を含む環境下の油田、ガス田では、油井用鋼管として、耐CO2腐食性に優れた13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管が使用されるのが一般的であった。しかし、従来の13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管では降伏強さが654MPaを超えると靭性の低下が著しくなり、使用に耐えなくなるという問題もあった。そのため、高強度が要求される井戸では、冷間加工された二相ステンレス鋼管が用いられていた。しかし、二相ステンレス鋼管は、合金元素量が多く、熱間加工性が劣り特殊な熱間加工法でしか製造できず、高価であるという問題がある。
また、近年、寒冷地における油田開発も活発になってきており、高強度に加えて、優れた低温靱性を有することが要求されることも多い。
このようなことから、熱間加工性に優れ、安価である13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼をベースとした、降伏強さが654MPa(95ksi)を超える高強度で、かつ優れた耐CO2腐食性と、高靭性とを有する油井用高強度13Crマルテンサイト系ステンレス鋼管が強く望まれていた。
このような要求に対して、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5には、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼 (鋼管)の耐食性を改善した、改良型マルテンサイト系ステンレス鋼 (鋼管)が提案されている。
特許文献1に記載された技術は、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管の組成で、Cを0.005 〜0.05%と制限し、Ni:2.4〜6%とCu:0.2〜4%とを複合添加し、さらにMoを0.5〜3%添加し、さらにNieqを10.5以上に調整した組成とし、熱間加工後に空冷以上の速度で冷却したのち、あるいはさらに(Ac変態点+10℃)〜(Ac変態点+200 ℃)の温度に加熱し、あるいはさらにAc変態点〜Ac変態点の温度に加熱し、続いて室温まで空冷以上の冷却速度で冷却し、焼戻しする、耐食性に優れたマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管の製造方法である。特許文献1に記載された技術によれば、API−C95級以上の高強度と、180 ℃以上のCO2を含む環境における耐食性と、耐SCC性とを兼ね備えたマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管となるとしている。
特許文献2に記載された技術は、C:0.005〜0.05%、N:0.005〜0.1%を含み、Ni:3.0〜6.0%、Cu:0.5〜3%、Mo:0.5〜3%に調整した組成の13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼を熱間加工し室温まで自然放冷したのち、(Ac1点+10℃)〜(Ac1点+40℃)に加熱し30〜60分間保持しMs点以下の温度まで冷却し、Ac1点以下の温度で焼戻し、組織を焼戻しマルテンサイトと20体積%以上のγ相とが混在した組織とする耐硫化物応力腐食割れ性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法である。特許文献2に記載された技術によれば、γ相を20体積%以上含む焼戻しマルテンサイト組織とすることにより耐硫化物応力腐食割れ性が顕著に向上するとしている。
特許文献3に記載された技術は、10〜15%Crを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼の組成で、Cを0.005〜0.05%と制限し、Ni:4.0%以上、Cu:0.5〜3%を複合添加し、さらにMoを1.0〜3.0%添加し、さらにNieqを−10以上に調整した組成とし、 組織を焼戻しマルテンサイト相、マルテンサイト相、残留オーステナイト相からなり、焼戻しマルテンサイト相、マルテンサイト相の合計の分率が60〜90%である、耐食性、耐硫化物応力腐食割れ性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼である。これにより、湿潤炭酸ガス環境および湿潤硫化水素環境における耐食性と耐硫化物応力腐食割れ性が向上するとしている。
特許文献4に記載された技術は、15%超19%以下のCrを含有し、C:0.05%以下、N:0.1%以下、Ni:3.5〜8.0%を含み、さらにMo:0.1〜4.0%を含有し、30Cr+36Mo+14Si−28Ni≦455 (%)、21Cr+25Mo+17Si+35Ni≦731(%)を同時に満足する鋼組成とする硫化物応力割れ性に優れた油井用マルテンサイト系ステンレス鋼材であり、これにより、塩化物イオン、炭酸ガスと微量の硫化水素ガスが存在する苛酷な油井環境中でも優れた耐食性を有する鋼材となるとしている。
特許文献5に記載された技術は、10.0〜17%のCrを含有し、C:0.08%以下、N:0.015%以下、Ni:6.0〜10.0%、Cu:0.5〜2.0%を含み、さらにMo:0.5〜3.0%を含有する鋼組成とし、35%以上の冷間加工と焼鈍により、平均結晶粒径が25μm以下、マトリックスに析出した粒径5×10−2μm以上の析出物を6×10個/mm以下に抑えられた組織を有する強度および靭性に優れた析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼であり、微細な結晶粒と析出物の少ない組織とすることにより、高強度で靭性低下を引き起こさない析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼を提供できるとしている。
特開平8-120345号公報 特開平9-268349号公報 特開平10-1755 号公報 特許第2814528 号公報 特許第3251648 号公報
しかしながら、特許文献1〜5に記載された技術で製造された改良型13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管は、CO2、Cl等を含み、170 ℃を超える高温の苛酷な腐食環境下では、安定して所望の耐食性を示さないという問題があった。また、改良型13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管は耐硫化物応力腐食割れ性を考慮して多量のMoを含有する場合が多く、硫化水素が存在しない高温環境で使用するにはコストアップ要因となっていた。
本発明は、このような従来技術の問題を有利に解決し、硫化水素を含まないが、炭酸ガス(CO)、塩素イオン(Cl)等を含み、かつ170℃を超える高温の苛酷な腐食環境下においても優れた耐CO2腐食性を示す、耐食性に優れた安価な油井用高強度ステンレス鋼管を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した課題を達成するために、13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管をベースとして、降伏強さ:654MPa(95ksi)以上の高強度を維持したまま、200℃までの高温でかつ150気圧までのCOや、Cl等を含む腐食環境下における耐食性に及ぼす鋼組成の影響について鋭意検討した。その結果、従来より著しくCを低減し、Ni含有量、さらにはSi、Mn、V、Al、N、O含有量を適正範囲に調整し、あるいはさらに適正量のMo、Cu、あるいはNb、Ti等を添加することによって、高強度でかつ良好な熱間加工性、耐食性を確保できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨はつぎの通りである。
(1)mass%で、C:0.05%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.2〜1.8%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:15.5〜18.5%、Ni:1.5〜5%、Al:0.05%以下、V:0.2%以下、N:0.15%以下、O:0.006%以下を、次(1)式および(2)式
Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧18.0 ………(1)
Cr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5 ………(2)
(ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C、Si、Mn、N:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有することを特徴とする優れた耐炭酸ガス腐食性を有する油井用高強度ステンレス鋼管。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Mo:1.0%未満、Cu:3.5%以下のうちから選ばれた1種又は2種を含有する組成とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス鋼管。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.01%以下、W:3.0%以下のうちから選ばれた1種又は2種以上を含有する組成とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス鋼管。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0005〜0.01%以下を含有する組成とすることを特徴とする油井用高強度ステンレス鋼管。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、マルテンサイト相をベース相として、さらにフェライト相を体積率で5〜70%含有する組織を有することを特徴とする油井用高強度ステンレス鋼管。
(6)(5)において、前記組織に加えてさらに、体積率で30%以下のオーステナイト相を含有することを特徴とする油井用高強度ステンレス鋼管。
本発明によれば、硫化水素を含まないが、CO、Cl- を含む厳しい高温腐食環境下においても優れた耐CO2腐食性を有し、充分な耐食性と、高靭性を有する、高強度の油井用ステンレス鋼管を、安価にしかも安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。
まず、本発明鋼管の成分限定理由について説明する。以下、組成におけるmass%は単に%と記す。
C:0.05%以下
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼の強度増加に関係する重要な元素であり、本発明では0.01%以上の含有を必要とするが、0.05%を超えて含有すると、Ni含有による焼戻し時の鋭敏化が増大する。この焼戻し時の鋭敏化を防止する目的から、本発明ではCは0.05%以下に限定した。また、耐食性の観点からもCはできるだけ少ないほうが好ましい。なお、好ましくは0.01〜0.03%である。
Si:0.5%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素であり、本発明では0.1%以上含有することが好ましいが、0.5%を超える含有は、耐CO腐食性を低下させ、さらには熱間加工性をも低下させる。このため、Siは0.5%以下に限定した。
Mn:0.2〜1.8%
Mnは、強度を増加させる元素であり、本発明における所望の強度を確保するために0.2%以上含有する必要があるが、1.8%を超えて含有すると靭性に悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.2〜1.8%に限定した。なお、好ましくは0.3〜1.0%である。
P:0.03%以下
Pは、耐CO腐食性、耐CO応力腐食割れ性および耐孔食性をともに劣化させる元素であり、本発明では可及的に低減することが望ましいが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。工業的に比較的安価に実施可能でかつ耐CO腐食性、耐CO応力腐食割れ性および耐孔食性をともに劣化させない範囲として、Pは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.02%以下である。
S:0.005%以下
Sは、パイプ製造過程において熱間加工性を著しく劣化させる元素であり、可及的に少ないことが望ましいが、0.005%以下に低減すれば通常工程によるパイプ製造が可能となることから、Sは0.005%以下に限定した。なお、好ましくは0.003%以下である。
Cr:15.5〜18.5%
Crは、保護被膜を形成して耐食性を向上させる元素であり、とくに耐CO腐食性、耐CO応力腐食割れ性の向上に寄与する主要な元素である。本発明では、特に高温における耐食性向上の観点から、15.5%以上の含有を必要とする。一方、18.5%を超える含有は、強度を低下させる。このため、Crは15.5〜18.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは16.5〜18.0%である。
Ni:1.5〜5%
Niは、保護被膜を強固にして、耐CO腐食性、耐CO応力腐食割れ性および耐孔食性を高める作用を有する元素であるが、1.5%未満の含有では本発明が対象とする腐食環境下では効果が認められない、一方、5%を超える含有は、マルテンサイト組織の安定性が低下し、強度が低下する。このため、Niは1.5〜5%の範囲に限定した。なお、好ましくは2.0〜4.5%である。
Al:0.05%以下
Alは、強力な脱酸剤として作用するが、このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが望ましい。一方、0.05%を超える含有は、靭性に悪影響を及ぼす。このため、Alは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは0.03%以下である。
V:0.2%以下
Vは、強度を上昇させるとともに、耐応力腐食割れ性を改善する効果を有する。このような効果は0.01 %以上の含有で顕著となる。一方、0.2%を超えて含有すると靭性が劣化する。このため、Vは0.2%以下に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.08%である。
N:0.15%以下
Nは、耐孔食性を著しく向上させる元素であり、本発明では0.01%以上含有することが望ましいが、0.15%を超える含有は、種々の窒化物を形成して靭性を劣化させる。このため、Nは0.15%以下に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.08%である。
O:0.006%以下
Oは、鋼中では酸化物として存在し、各種特性に悪影響を及ぼす元素であり、本発明鋼管の性能を十分に発揮させるために、できるだけ低減することが極めて重要となる。すなわち、O含有量が多いと各種の酸化物を形成して、熱間加工性、耐CO応力腐食割れ性、耐孔食性および靭性を著しく低下させる。このため、本発明ではOは0.006%以下に限定した。
上記した基本組成に加えてさらに、必要に応じ、Mo、Cuのうちから選ばれた1種又は2種、および/または、Nb、Ti、Zr、B、Wのうちから選ばれた1種又は2種以上、および/またはCaを含有することができる。
Mo、Cu は、いずれも耐食性を向上させる元素であり、必要に応じ選択して含有できる。Moは、耐食性、とくに耐孔食性を向上させる元素であり、含有する場合は0.3%以上含有することが望ましいが、1.0%以上含有しても、本発明が対象とする腐食環境では効果が飽和し含有量に見合う効果が期待できず、経済的に不利となる。このため、Moは1.0%未満に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.3〜0.7%である。
Cuは、保護被膜を強固にして耐食性を向上させる元素であり、含有する場合は0.2%以上含有することが望ましいが、3.5%を超えて含有すると、高温でCuSが粒界に析出し、熱間加工性が低下する。このため、Cuは3.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.5〜2.0%である。
Nb、Ti、Zr、B、Wは、いずれも強度を増加させる元素であり、必要に応じ選択して含有できる。なお、Ti、Zr、B、Wは、強度を増加させることに加えて耐応力腐食割れ性を改善する元素でもある。また、Nbは、強度を増加させることに加えて靭性を向上させる。このような効果は、Nb:0.03%以上、Ti:0.03%以上、Zr:0.03%以上、B:0.0005%以上、W:0.2%以上の含有で顕著となる。一方、Nb:0.2%、Ti:0.3%、Zr:0.2%、B:0.01%、W:3.0%を超えて含有すると靭性が低下する。このため、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.01%以下、W:3.0%以下にそれぞれ限定することが好ましい。
Caは、SをCaSとして固定し、硫化物系介在物を球状化する作用を有し、これにより介在物周囲のマトリックスの格子歪を小さくして、介在物の水素トラップ能を低下させる効果を有する。このような効果は0.0005%以上の含有で顕著となるが、0.01%を超えるとCaOの増加を招き、耐CO腐食性、耐孔食性が低下する。このため、Caは0.0005〜0.01%の範囲に限定することが好ましい。
本発明では、上記した各成分を上記した範囲で、かつ次(1)式および次(2)式
Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧18.0 ………(1)
Cr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5 ………(2)
を満足するように調整して含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成とする。ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C、Si、Mn、Nは各元素の含有量(mass%)である。なお、(1)式、(2)式の左辺を計算する際には、含まれない元素は零%として計算するものとする。
Cr、Ni、Mo、Cu、C含有量を、(1)式を満足するように調整することにより、200 ℃までの高温で、かつCO2、Cl-を含む、高温腐食環境下での耐食性が顕著に向上する。
また、Cr、Mo、Si、C、Mn、Ni、Cu、N含有量を、(2) 式を満足するように調整することにより、熱間加工性が向上し、継目無鋼管製造のための十分な熱間加工性が確保できるとともに、強度も増加する。なお、本発明では、熱間加工性を向上させるために、P、S、Oを著しく低減しているが、P、S、Oをそれぞれ低減するのみでは、マルテンサイト系ステンレス鋼継目無鋼管を造管するために必要十分な熱間加工性を確保することができない。継目無鋼管を造管するために必要十分な熱間加工性を確保するには、P、S、Oを著しく低減したうえで、(2)式を満足するように、Cr、Mo、Si、C、Mn、Ni、Cu、N含有量を調整することが肝要となる。
上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
本発明の油井用高強度ステンレス鋼管は、上記した組成に加えて、マルテンサイト相をベース相とし、さらにフェライト相を体積率で5〜70%含有する組織を有することが好ましい。本発明鋼管は、高強度を確保するために組織は、マルテンサイト組織を基本とする。強度を低下させずに靭性、耐食性を向上させるために、マルテンサイト相をベース相とし、第二相としてフェライト相を体積率で5〜70%含有する組織とすることが好ましい。フェライト相が5体積%未満では所期の目的が達成できない。一方、フェライト相を70体積%を超えて含有すると、強度が低下する。このため、フェライト相は、体積率で5〜70%の範囲に限定することが好ましい。なお、好ましくは10〜50体積%である。なお、フェライト相以外の第二相としては、30体積%以下のオーステナイト相を含有しても何ら問題はない。
次に、本発明鋼管の好ましい製造方法について、継目無鋼管を例として説明する。
本発明鋼管は、上記した組成の鋼素材を使用することにより、通常の製造工程に何ら手を加えることなく製造できる。
まず、上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊−分塊圧延法等通常公知の方法でビレット等の鋼管素材とすることが好ましい。ついで、これら鋼管素材を加熱し、通常のマンネスマン−プラグミル方式、あるいはマンネスマン−マンドレルミル方式の製造工程を用いて熱間加工し造管して、所望寸法の継目無鋼管とする。造管後継目無鋼管は、空冷以上、好ましくは800〜500℃までの平均で0.5℃/s以上、の冷却速度で室温まで冷却することが好ましい。なお、プレス方式による熱間押出で継目無鋼管を製造してもよい。
上記した本発明範囲内の組成を有する継目無鋼管であれば、熱間加工後、空冷以上、好ましくは800〜500℃までの平均で0.5℃/s以上、の冷却速度で室温まで冷却することにより、マルテンサイト相をベース相とする組織とすることができるが、造管後、空冷以上、好ましくは800〜500℃までの平均で0.5℃/s以上、の冷却速度での冷却に続いてさらに800℃以上の温度に再加熱したのち空冷以上、好ましくは800〜500℃までの平均で0.5℃/s以上、の冷却速度で100℃以下好ましくは室温まで冷却する焼入れ処理を施すことが好ましい。これにより、適正量のフェライト相を含む、微細で高靭性のマルテンサイト組織とすることができる。
焼入れ処理の加熱温度が、800℃未満では、組織を十分なマルテンサイト組織とすることができず、強度が低下する傾向となる。このため、焼入れ処理の加熱温度は800 ℃以上の温度とすることが好ましい。
焼入れ処理を施された継目無鋼管は、ついで、650℃以下の温度に加熱され、空冷以上の冷却速度で冷却される焼戻処理を施されることが好ましい。650℃以下、好ましくは400 ℃以上の温度に加熱し、焼戻しすることにより、組織は焼戻しマルテンサイト相、あるいはさらに少量のフェライト相とからなる組織となり、所望の高強度とさらには所望の高靭性、所望の優れた耐食性を有する継目無鋼管となる。なお、焼戻し処理における加熱後の冷却は、強度確保の観点から空冷以上とすることが好ましい。
なお、焼入れ処理なしで上記した焼戻処理のみを施してもよい。
ここまでは、継目無鋼管を例にして説明したが、本発明鋼管はこれに限定されるものではない。上記した本発明範囲内の組成を有する鋼管素材を用いて、通常の工程に従い、電縫鋼管、UOE鋼管を製造し、油井用鋼管とすることも可能である。
上記した本発明範囲内の組成を有する鋼管素材を用いて、通常の製造工程にしたがい得られた継目無鋼管以外の鋼管、例えば電縫鋼管、UOE鋼管では、造管後の鋼管に、上記した焼入れ−焼戻処理である、800℃以上の温度に再加熱したのち空冷以上、好ましくは800〜500℃までの平均で0.5℃/s以上、の冷却速度で100℃以下好ましくは室温まで冷却する焼入れ処理と、ついで650℃以下、好ましくは400℃以上の温度に加熱し空冷以上の冷却速度で冷却する焼戻処理とを施すことが好ましい。
以下に、実施例に基づいて、さらに本発明について詳細に説明する。
表1に示す組成の溶鋼を脱ガス後、100kg鋼塊(鋼管素材)に鋳造し、モデルシームレス圧延機により熱間加工により造管し、造管後空冷し、外径83.8mm×肉厚12.7mm(3.3in×肉厚0.5in)の継目無鋼管とした。
得られた継目無鋼管について、造管後空冷のままで内外表面の割れ発生の有無を目視で調査し、熱間加工性を評価した。割れ無しを〇、割れ有りを×で表示した。
また、得られた継目無鋼管から、試験片素材を切り出し、表2に示す条件で加熱したのち、水冷し、さらに表2に示す条件で焼戻処理を施した。
このように焼入れ−焼戻処理を施された試験片素材から、組織観察用試験片を採取し、組織観察用試験片を王水で腐食して走査型電子顕微鏡(1000倍)で組織を撮像し画像解析装置を用いて、フェライト相の組織分率(体積%)を算出した。
また、残留オーステナイト(γ)相の組織分率は、X線回折法を用いて測定した。焼入れ−焼戻処理を施された試験片素材から測定用試験片を採取し、X線回折によりγの(220)面、αの(211)面、の回折X線積分強度を測定し、次式
γ(体積率)=100/{1+(IαRγ/IγRα)}
ここで、Iα:αの積分強度
Iγ:γの積分強度
Rα:αの結晶学的理論計算値
Rγ:γの結晶学的理論計算値
を用いて換算した。なお、マルテンサイト相の分率はこれらの相以外の残部として算出した。
また、焼入れ−焼戻処理を施された試験片素材から、API 弧状引張試験片を採取し、引張試験を実施し引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
さらに、焼入れ−焼戻処理を施された試験片素材から、厚さ3mm×幅30mm×長さ40mmの腐食試験片を機械加工によって作製し、腐食試験を実施した。
腐食試験は、オートクレーブ中に保持された試験液:20%NaCl水溶液(液温:200 ℃、150 気圧のCOガス雰囲気) 中に、腐食試験片を浸漬し、浸漬期間を2週間として実施した。腐食試験後の試験片について、重量を測定し、腐食試験前後の重量減から計算した腐食速度を求めた。また、試験後の腐食試験片について倍率:10倍のルーペを用いて試験片表面の孔食発生の有無を観察した。
また、焼入れ−焼戻処理を施された試験片素材から、JIS Z 2202の規定に準拠してVノッチ試験片(厚さ:5mm)を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、−40℃における吸収エネルギーvE-40(J)を求めた。
得られた結果を表2に示す。
Figure 2006016637
Figure 2006016637
Figure 2006016637
本発明例はいずれも、鋼管表面の割れ発生は認められず、また降伏強さYS:654MPa以上の高強度を有し、腐食速度も小さく、孔食の発生も無く、熱間加工性およびCO、Clを含み,200 ℃という高温で苛酷な腐食環境下においても、優れた耐炭酸ガス腐食性を示し、優れた耐食性を有する鋼管となっている。さらに5%以上のフェライト相を含むことにより、CO、Clを含み200 ℃という高温で苛酷な腐食環境下における耐食性に優れ、かつ降伏強さYS:654MPa以上の高強度を有する鋼管となっている。
これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、表面に割れが発生し熱間加工性が低下しているか、あるいは腐食速度が大きく、孔食が発生し耐食性が低下している。とくに (2)式を満足しない比較例は熱間加工性が低下して、鋼管表面に疵が発生していた。なお、フェライト量が本発明の好適範囲を外れる場合には、強度が低下し、降伏強さYS:654MPa以上の高強度を満足できていない。

Claims (6)

  1. mass%で、
    C:0.05%以下、 Si:0.5%以下、
    Mn:0.2〜1.8%、 P:0.03%以下、
    S:0.005%以下、 Cr:15.5〜18.5%、
    Ni:1.5〜5%、 Al:0.05%以下、
    V:0.2%以下、 N:0.15%以下、
    O:0.006%以下
    を、下記(1)式および(2)式を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる組成を有することを特徴とする優れた耐炭酸ガス腐食性を有する油井用高強度ステンレス鋼管。

    Cr+0.65Ni+0.6Mo+0.55Cu−20C≧18.0 ………(1)
    Cr+Mo+0.3Si−43.5C−0.4Mn−Ni−0.3Cu−9N≧11.5 ………(2)
    ここで、Cr、Ni、Mo、Cu、C、Si、Mn、N:各元素の含有量(mass%)
  2. 前記組成に加えてさらに、mass%で、Mo:1.0%未満、Cu:3.5%以下のうちから選ばれた1種又は2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の油井用高強度ステンレス鋼管。
  3. 前記組成に加えてさらに、mass%で、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下、Zr:0.2%以下、B:0.01%以下、W:3.0%以下のうちから選ばれた1種又は2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の油井用高強度ステンレス鋼管。
  4. 前記組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0005〜0.01%以下を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の油井用高強度ステンレス鋼管。
  5. マルテンサイト相をベース相として、さらにフェライト相を体積率で5〜70%含む組織を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の油井用高強度ステンレス鋼管。
  6. 前記組織に加えてさらに、体積率で30%以下のオーステナイト相を含有することを特徴とする請求項5に記載の油井用高強度ステンレス鋼管。
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