JP2004138895A - 光ヘッド装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】位相補正素子の平面内における波長λ2の入射光束が規定する開口数NA2の領域に入射光の光軸に関して回転対称性を有する輪帯状でかつ階段状の凹凸部が形成され、さらに凹凸部の各段における波長λ1(λ1<λ2)の透過光の位相差が4πとなるように凹凸部が形成された第1の位相補正面1を備る位相補正素子10を構成し、光ヘッド装置の光源と対物レンズとの間の光路中に搭載する。
【選択図】図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は光ヘッド装置に関し、特に2種以上の光記録媒体の情報の記録または再生に使用する光ヘッド装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
CD用の光記録媒体(以後、光記録媒体を「光ディスク」という)の情報の記録および再生のために、光源として波長が790nm帯の半導体レーザとNA(開口数)が0.45から0.5までの対物レンズ、および情報記録面保護用のカバー厚が1.2mmの光ディスクが使用される。一方、DVD光ディスクの情報の記録および再生には、光源として波長が655nm帯の半導体レーザとNAが0.6から0.65までの対物レンズおよびカバー厚が0.6mmの光ディスクが使用される。
【0003】
さらに、記録情報量を増大させるため、光源として波長が405nm帯の半導体レーザとNAが0.65の対物レンズおよびカバー厚が0.6mmの光ディスクまたはNAが0.85の対物レンズおよびカバー厚が0.1mmの光ディスクが提案されている。以下、波長が405nm帯の半導体レーザで使用する光ディスクを特にHD光ディスクという。
【0004】
CD光ディスクとDVD光ディスクとHD用の光ディスクとではカバー厚または使用波長が異なるため、それぞれを互換的に使用する場合、いずれか一種の光ディスクに対して設計された対物レンズを別の光ディスクに用いると大きな球面収差が発生し、情報の記録および再生ができない問題があった。
【0005】
HD光ディスクに対して波面収差が最小になるよう設計された対物レンズを用いて、DVD光ディスクの情報の記録および再生を行う場合に生じる球面収差を低減するため、HD用の波長λ1の入射光の偏光方向とDVD用の波長λ2の入射光の偏光方向を直交させ使用する偏光性位相補正素子が提案されている。
【0006】
従来の偏光性位相補正素子の構成例の断面図を図7に示す。偏光性位相補正素子20は常光屈折率noおよび異常光屈折率ne(no≠ne)の複屈折性材料層2を備え、複屈折材料層が光学結晶のときは主光学軸が、高分子材料のときは分子配向軸が、一方向に揃っており、複屈折材料層には断面形状が鋸歯状であり、かつ入射光の光軸に関して回転対称性を有する鋸歯状の凹凸部が偏光性位相補正素子のNA=0.60の領域に形成され、凹凸部の少なくとも凹部に常光屈折率noとほぼ等しい屈折率nsの均質屈折率透明材料3が充填されている。
【0007】
HD用の光ディスクへ波長λ1の常光偏光が入射した場合、図7(b)に示すように偏光性位相補正素子の透過波面は変化することなく、対物レンズの収差性能を維持する。一方、DVD光ディスクへ波長λ2の異常光偏光が入射した場合、図7(a)に示すように光ディスクのカバー厚の相違に起因して発生する球面収差を補正する透過波面となり、DVD光ディスクの情報の記録および再生ができる。
【0008】
また、偏光ビームスプリッタと1/4波長板を用い、半導体レーザから出射する直線偏光が偏光ビームスプリッタを往路で透過し、光ディスクで反射されて復路で1/4波長板を往復することにより、半導体レーザの出射直線偏光と直交する直線偏光に変換して、偏光ビームスプリッタを反射させて光検出器へと集光させることにより、光利用効率の高い信号光検出ができる。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−56560号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、偏光ビームスプリッタと1/4波長板を従来の偏光性位相補正素子に用いた場合、往路と復路で偏光性位相補正素子への入射光の偏光状態が異なり、復路で波長λ1および波長λ2で大きな球面収差が発生するため問題であった。
【0011】
また、HD、DVDおよびCDの3種の光ディスクに対応した、3波長用の位相補正素子が存在しないため、単一の対物レンズを用いてこれら3種の光ディスクの情報の記録および再生を行うことは困難であった。
【0012】
本発明は、上記の従来技術の欠点を解決し、光学特性に優れ、小型軽量化に適した光ヘッド装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、少なくとも波長λ1とλ2(λ1<λ2)の2つの光を出射する光源と、光源からの出射光を光記録媒体に集光する対物レンズと、光記録媒体の情報記録面からの反射光を検出する光検出器と、光源から対物レンズに至る光路中に波長λ2の入射光の透過波面を変化させる位相補正素子とを備える、光記録媒体に情報の記録または再生を行う光ヘッド装置において、前記位相補正素子はその平面内における波長λ2の入射光束が規定する開口数NA2の領域に入射光の光軸に関して回転対称性を有する輪帯状でかつ階段状の凹凸部が形成され、さらに凹凸部の各段における波長λ1の透過光の位相差が2πm(mは自然数)となるように凹凸部が形成された第1の位相補正面を備えていることを特徴とする光ヘッド装置を提供する。
【0014】
また、前記位相補正素子は、第1の位相補正面に加えて、前記位相補正素子の平面内における波長λ2の入射光束の規定する開口数NA2の領域に、入射光の光軸に関して回転対称性を有する輪帯状の凹凸部が第1の位相補正面とは異なる面に形成された第2の位相補正面を備え、第2の位相補正面は常光屈折率noおよび異常光屈折率ne(no≠ne)で分子配向軸が一方向に揃った有機物の複屈折性材料層からなり、凹凸部の少なくとも凹部に常光屈折率noと等しい屈折率nsの均質屈折率透明材料が充填されている上記の光ヘッド装置を提供する。
【0015】
また、前記位相補正素子は、第1の位相補正面に加えて、前記位相補正素子の平面内における波長λ2の入射光束の規定する開口数NA2の領域に、入射光の光軸に関して回転対称性を有する輪帯状の凹凸部が第1の位相補正面とは異なる面に形成された第3の位相補正面を備え、第3の位相補正面は波長λ1において屈折率が等しくかつ波長λ2において屈折率がたがいに異なる2種の均質屈折率透明材料からなり、一方の均質屈折率透明材料の凹凸部の少なくとも凹部に他方の均質屈折率透明材料が充填されている上記の光ヘッド装置を提供する。
【0016】
さらに、前記位相補正素子は、波長λ1に対する位相差がπ/2の奇数倍となる位相板がさらに追加され一体化されている上記の光ヘッド装置を提供する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の光ヘッド装置における位相補正素子10の一例の断面図を図1に、平面図を図2示す。図1においては、透光性基板5上の第1の位相補正面1と第2の位相補正面2と位相板4と透光性基板6上の開口制限フィルタ7からなる。
【0018】
使用波長λ1=405nmでカバー厚0.6mmのHD用の光ディスクに対して、良好な収差となるよう設計されたNA1=0.65のHD用対物レンズを、使用波長λ2=655nmでカバー厚0.6mmのDVD用の光ディスクにNA2=0.65で用いたときに発生する波面収差の一例を図3(a)に示す。ここでは使用波長の相違に伴い対物レンズおよび光ディスクの屈折率波長分散に起因した球面収差を示し、横軸は開口径に対応した開口数NAであり、縦軸は光軸上の光線(NA=0)に対する各NA値での光線の位相差の断面を表す。実際にはほぼ軸対称の3次元形状の分布をなす。このように大きな球面収差が残留したままでは対物レンズにより光は充分集光されず、光ディスクの記録および再生ができない。
【0019】
なお、このような球面収差を補正する方法として、対物レンズへの入射光を発散光とするいわゆる有限光学系構成があるが、対物レンズの光軸に対して直交する面内の対物レンズ移動に対して発生する収差が大きいため安定したトラッキング制御を行う上で実用上問題であった。
【0020】
対物レンズへの入射光を平行光とするいわゆる無限光学系構成において、図3(a)に示す波面収差を補正する本発明の第1の位相補正面1について以下に説明する。
【0021】
ガラスなどの透光性基板5の波長λ2=655nmに対する開口数NA2=0.65の領域に、光軸に関して回転対称性を有する輪帯形状でかつ階段状の凹凸部を形成する。ここで、各隣接する輪帯間の凹凸段差dは一定で、各段における屈折率nの均質材料の透過光と空気の透過光との波長λ1に対する位相差2π×(n−1)×d/λ1を2πm(mは自然数)でm=2、すなわち4πとしている。λ1=405nmおよびλ3=790nmの場合、均質材料の屈折率nの波長分散を考慮すると、波長λ1に対して位相差を4πとすれば波長λ3に対してほぼ2πとなる。すなわち、このような凹凸部段差dからなる輪帯形状でかつ階段状の凹凸部に波長λ1または波長λ3の光が透過しても透過波面は変化しない。
【0022】
一方、凹凸段差dを透過した波長λ2の光に対して、位相差2π×(n−1)×d/λ2位相遅れが生じる。図3を用いて具体例を説明する。段差dを透過した波長λ2の光は空気に対して凸部材料の屈折率波長分散を考慮すると位相差1.20×2π相当の透過波面の位相遅れが発生する。すなわち、輪帯形状の凹凸部段差d当たり1波長分の位相差2πとの差異が位相差0.20×2πの透過波面位相遅れとなる。
【0023】
ここで、HD波長λ1の透過光の透過波面が変化しない凹凸段差dは位相差2π×(n−1)×d/λ1=2π×m(mは自然数)の場合であるが、波長λ2の透過光に対する位相補正作用は位相差2π×(n−1)×d/λ2と1波長分の位相差2πとの差異が小さな値ほど図3(a)に示す球面収差を低減できるので好ましい。また、mが小さな値ほど波長λ1または波長λ2の±15nm程度の波長ばらつきに対する透過波面変動は少なく、かつ精度よく段差加工しやすいため好ましい。その結果、DVD波長の位相差0.60×m×2πでは、m=2すなわち波長λ1に対して位相差が4πとなる段差dとすることにより、DVD波長λ2に対して最適な位相補正面となる。mが4より大きくなると段差加工がやりにくく好ましくない。
【0024】
したがって、図3(a)を示す波面収差を補正するように凹凸部の輪帯半径と凸部の高さを設定することにより、透過波面が図3の(b)に示す断面形状となり、(a)と(b)を合成した結果、残留する波面収差は(c)まで低減される。その結果、NA1=0.65のHD用(405nm波長帯)に収差最小となるよう設計された対物レンズと第1の位相補正面1が形成された位相補正素子を一体で用いることにより、NA2=0.65のDVD用(λ2=655nm波長帯)においても入射光は充分集光されるため、光ディスクの記録および再生が良好にできる。
【0025】
次に、第1の位相補正面1により補正された図3(c)に示す残留波面収差をさらに低減する本発明における第2の位相補正面2について以下に説明する。ガラスなどの透光性基板の開口数NA2=0.65の領域に、常光屈折率noおよび異常光屈折率neの複屈折材料層である高分子液晶層を形成する。図1では第1の位相補正面が形成された透光性基板5の反対側面に形成した場合を示す。ここで、液晶モノマーの溶液を透光性基板上の配向処理の施された配向膜上に塗布し、液晶分子の配向ベクトル(分子配向軸)を基板と平行面内の特定方向に揃うように配向させた後、紫外線などの光を照射して重合硬化させ高分子液晶層とする。
【0026】
次に、高分子液晶層を断面形状が図3の(c)に相当した輪帯形状になるようフォトリソグラフィ法および反応性イオンエッチング法により図1の第2の位相補正面2に示す形状に加工する。このとき、図4(本発明における位相補正素子の第2の位相補正面または第3の位相補正面の波面収差の補正作用を示す波面収差の部分拡大図)の斜線部で示すように高分子液晶層の各凸部を多段の階段形状または1段の凸部形状としてもよい。
【0027】
さらに、高分子液晶層の凹凸部の少なくとも凹部に常光屈折率noとほぼ等しい屈折率nsの均質屈折率透明材料3が充填されている。ここで、高分子液晶層の厚さDは波長λ2の異常光偏光が高分子液晶層と均質屈折率透明材料を透過するときに発生する光路長差(ne−ns)×Dが図3の(c)に示す波面収差を補正するように設定される。
【0028】
この、第2の位相補正面2に、HD用の波長λ1およびCD用の波長λ3の常光偏光が入射し、DVD用の波長λ2の異常光偏光が入射することにより、常光偏光のHDおよびDVDでは透過波面収差は変化せず、異常光偏光のDVDでは図3の(c)に示す残留収差を補正する。その結果、第1の位相補正面1にさらに第2の位相補正面2が形成された位相補正素子を対物レンズと一体で用いることにより、NA2=0.65のDVD用(λ2=655nm波長帯)において入射光の集光性がさらに向上し、安定した光ディスクのさらに良好な記録および再生ができる。
【0029】
したがって、第2の位相補正面がさらに形成された位相補正素子を用い、HD用の波長λ1とDVD用の波長λ2との偏光方向の相違により、波長λ2の入射光に対してのみ残留波面収差をさらに低減できるため、DVDの記録および再生において安定性がさらに向上する。
【0030】
第1の位相補正面により補正された図3(c)に示す残留波面収差をさらに低減する第2の位相補正面と同様の収差補正機能を有する本発明の第3の位相補正面について以下に説明する。
【0031】
図1において、断面形状が図3の(c)に相当した輪帯形状になるように加工された複屈折材料である高分子液晶層(2の斜線部)の代わりに、均質屈折率透明材料3と屈折率波長分散の異なる均質屈折率波長分散透明材料(2の斜線部)を用いている点が異なる。外見上、第3の位相補正面は第2の位相補正面2と同じである。ただし、均質屈折率波長分散透明材料はその凹凸部の少なくとも凹部に充填された均質屈折率透明材料3に対して、HD用の波長λ1においては屈折率がほぼ一致しDVD用の波長においては屈折差Δnを有する。
【0032】
このような屈折率波長分散を有する材料として、例えば、390nm近傍以下の波長で光吸収端を有するTiO2やSiNなどを成分として含むSiO2との混成膜を均質屈折率波長分散透明材料とし、TiO2やSiNなどに比べ光吸収端が短波長域でかつ405nm近傍で上記混成膜と屈折率が等しい均質屈折率透明材料3を用いればよい。ここで、均質屈折率波長分散透明材料(2の斜線部)の厚さDは、波長λ2の光が均質屈折率波長分散透明材料と均質屈折率透明材料3を透過するときに発生する光路長差Δn×Dが図3の(c)に示す波面収差を補正するように設定される。
【0033】
この、第3の位相補正面にHD用の波長λ1の光が入射した場合は透過波面収差の変化はないが、DVD用の波長λ2の光が入射した場合は図3の(c)に示す残留収差が補正される。その結果、第1の位相補正面1にさらに第3の位相補正面2が形成された位相補正素子を対物レンズと一体に用いることにより、入射光の偏光状態に関わらず、NA2=0.65のDVD用(λ2=655nm波長帯)において入射光の集光性がさらに向上し、安定した光ディスクの記録および再生ができる。
【0034】
さらに、図1において、波長λ1の光に対して位相差がπ/2の奇数倍となる位相板4が透光性基板6の片面に形成され、充填剤3を用いて位相補正面が形成された透光性基板5に一体化されている。位相板4としては、複屈折性を有する材料であればいずれでもよい。例えば、高分子液晶、水晶などの光学結晶や、一軸延伸により複屈折性が発現するポリカーボネートなどでもよい。また、位相板4として互いの光軸角度と位相差が異なる位相板(後述の実施例にて説明)を積層することにより、波長λ1および波長λ2の光に対して1/4波長板として機能する位相板が得られる。
【0035】
さらに、図1において、透光性基板6の片面の開口数NA3=0.50の領域の外に、波長λ1および波長λ2の光を透過しかつ波長λ3の光を反射する開口制限フィルタ7が成膜されている。なお、NA3=0.50の領域には波長λ1、波長λ2および波長λ3の光を透過するとともにNA1≒NA2=0.65の領域で位相差が発生しない反射防止膜(図示せず)が形成されている。開口制限フィルタ7はTiO2やTa2O5などの高屈折率透明膜とSiO2やMgF2などの低屈折率透明膜を波長程度の膜厚で交互に10から20層程度積層されている。
【0036】
次に、このようにして得られた位相補正素子10を搭載した本発明の光ヘッド装置の例を、図6を用いて説明する。半導体レーザ14Aから放射された波長λ1=405nmの直線偏光が偏光ビームスプリッタ19で反射され、合波プリズム17を透過し、コリメートレンズ13により平行光となり位相補正素子10に入射する。さらに、位相補正素子10内の位相板は波長λ1に対して1/4波長板として作用するため、円偏光に変換されて図5(a)に示すように位相補正素子10を直進透過し、開口数NA1=0.65に相当する光束がHD用に設計された対物レンズ12によりHD用の光ディスク11の情報記録面へ集光される。
【0037】
情報記録面で反射した信号光は元の経路を逆方向に進行して、位相補正素子10内の位相板により偏光面が90°回転した直線偏光に変換されて位相補正素子10を直進透過し、合波プリズム17および偏光ビームスプリッタ19を透過して光検出器15Aの受光面へ集光され、電気信号に変換される。
【0038】
また、半導体レーザ14Bから放射された波長λ2=655nmの直線偏光の光は、その一部がホログラムビームスプリッタ16Bを透過し、合波プリズム18を透過し、合波プリズム17で反射された後、コリメートレンズ13により集光され平行光となり位相補正素子10に入射する。開口数NA2=0.65に相当する光束は、位相補正素子10により波長の相違に起因して発生する球面収差を補正するよう図5(b)に示す透過波面に変換されるため、対物レンズ12によりDVD用の光ディスク11の情報記録面で充分小さなスポットに集光される。情報記録面で反射した信号光は元の経路を逆方向に進行して、一部がホログラムビームスプリッタ16Bにより回折されて光検出器15Bの受光面へ集光され、電気信号に変換される。
【0039】
ここで、位相補正素子10内の位相板を波長λ2に対しても1/4波長板とし、ホログラムビームスプリッタ16Bとして常光偏光を透過し異常光偏光を回折する偏光ホログラムビームスプリッタを用いることにより、光利用効率が向上するため特に光ディスクへの情報の記録に有利となる。
【0040】
また、半導体レーザ14Cから放射された波長λ3=790nmの直線偏光の光は、その一部がホログラムビームスプリッタ16Cを透過し、合波プリズム18および合波プリズム17で反射され、コリメートレンズ13により集光されてわずかに発散した光として位相補正素子10に入射する。発散した光の入射により、球面収差を補正する。位相補正素子内の開口制限フィルタにより開口数NA3=0.50内の光束のみが直進透過し、図5(c)に示すように透過波面は不変のまま、対物レンズ12によりCD用の光ディスク11の情報記録面へ集光される。
【0041】
ここで、光ディスクのカバー層および波長の相違に起因して発生する球面収差は、対物レンズ12への入射光を発散光とすることにより補正されている。情報記録面で反射した信号光は元の経路を逆方向に進行して、一部がホログラムビームスプリッタ16Cにより回折されて光検出器15Cの受光面へ集光され、電気信号に変換される。
【0042】
ここで、位相補正素子10内の位相板を波長λ3に対しても1/4波長板とすることにより、半導体レーザ14Cに帰還する戻り光の偏光面は出射光と直交するため、レーザ発信を乱すことなく安定した記録および再生が実現する。
【0043】
したがって、本発明における位相補正素子10をHD用の光ディスクに対して設計された対物レンズ12と一体で光ヘッド装置に搭載することにより、DVD用の光ディスクおよびCD用の光ディスクの記録および再生に用いた場合に発生する波面収差を補正できる。このため、半導体レーザから出射した光を安定して光ディスクの情報記録面へ集光し、HD、DVDとCDの記録および再生が実現できる。
【0044】
なお、上記の例ではHD用の対物レンズとしてカバー厚0.6mmのHD用の光ディスクに対してNA=0.65で用いたとき良好な収差となるよう設計された場合について説明したが、カバー厚0.1mmのHD用の光ディスクに対してNA=0.85で最適設計された対物レンズに対しても同様に、本発明における位相補正素子を用いることによりHD、DVDとCDの記録および再生が実現できる。
【0045】
また、本発明におけるの位相補正素子10を用いてHDおよびDVDのみの記録または再生を実現する場合、図1に示す開口制限フィルタ7は不要である。さらに、図6に示す光ヘッド装置において、CD用の半導体レーザ14C、光検出器15C、ホログラムビームスプリッタ16Cおよび合波プリズム18を用いない構成とすればよい。
【0046】
【実施例】
「例1」
本例の光ヘッド装置における位相補正素子10の断面図を図1に、平面図を図2に示す。3波長λ1=405nm、λ2=655nm、λ3=790nmに対するそれぞれの屈折率が、1.470、1.456、1.454である透光性基板5であるガラス基板を用意した。焦点距離3mmの対物レンズを用いた場合に、このガラス基板の表面で波長λ2の入射光束を規定する開口数NA2=0.65の領域(直径3.9mm)を直接エッチングにより、断面形状が5レベル(4段)で等段差の階段の凹凸形状に加工され、かつ光軸に関して回転対称性を有する輪帯状の階段の凹凸形状を有する第1の位相補正面1を形成した。さらに、第1の位相補正面1が加工されたガラス基板表面に、3波長での反射率が1%以下の反射防止膜を形成した。
【0047】
ここで、凹凸形状の1段の高さd1を1.723μmとし、空気との光路差が波長λ1に対して2×λ1となり、位相差4πに相当する。このとき、空気との光路差が波長λ2に対しては1.2×λ2すなわち0.2×λ2相当となり、波長λ3に対しては約λ3となっている。したがって、第1の位相補正面1に入射する波長λ1および波長λ3の透過波面は変化しないが、波長λ2の透過波面は階段の凹凸形状格子の輪帯分布に応じて変化する。
【0048】
凹凸形状の各段の輪帯半径は次のように決定された。すなわち、使用波長λ1=405nmでカバー厚0.6mmのHD用の光ディスクに対して良好な収差となるよう設計されたNA1=0.65のHD用対物レンズを、使用波長λ2=655nmでカバー厚0.6mmのDVD用の光ディスクにNA2=0.65で用いたときに発生する図3の(a)に示す透過波面収差を補正するように決定された。具体的には、半径0.614mm領域を凹部基準面とすると、半径0.614mmから0.878mm領域を高さd1(1段)、半径0.878mmから1.098mm領域を高さ2×d1(2段)、半径1.098mmから1.334mm領域を高さ3×d1(3段)、半径1.334mmから1.673mm領域を高さ4×d1(4段)、半径1.673mmから1.789mm領域を高さ3×d1(3段)、半径1.789mmから1.857mm領域を高さ2×d1(2段)、半径1.857mmから1.908mm領域を高さd1(1段)、半径1.908mmから1.950mm領域を基準面と同じ高さに加工した。
【0049】
このとき、第1の位相補正面を透過した波長λ2の透過波面を図3の(b)に、図3の(a)と(b)を合成した結果残留する透過波面収差を(c)に示す。
【0050】
図3の(a)のRMS(Root Mean Square)波面収差は240mλと極めて大きな3次の球面収差であったが、(c)では3次のRMS球面収差成分は3mλで高次成分も含めた全体のRMS波面収差も54mλに減少し、波長λ2でDVD用の光ディスクに適用した場合も回折限界の集光性能が得られた。
【0051】
次に、第1の位相補正面1が形成されたガラス基板の反対側の面に、波長λ2で常光屈折率no=1.54および異常光屈折率ne=1.60の複屈折材料である高分子液晶層を形成した。そして、図3の(c)に示す残留透過波面収差を低減するように高分子液晶層をエッチング加工し、凹部に常光屈折率noとほぼ等しい屈折率ns=1.54の均質屈折率透明材料3を充填して第2の位相補正面2とした。
【0052】
具体的には、図4において各凸部が2レベル(1段)の矩形凹凸形状によって近似された形状で、かつ光軸に関して回転対称性を有する輪帯状の凹凸形状とし、第2の位相補正面2を透過する波長λ2の異常光偏光の透過波面が図4の(c)を近似的に補正するようにした。すなわち、波長λ2の異常光偏光に対する凹凸形状の階段の屈折率差(ne−ns)は0.06であるため、図3の(c)に示す波面収差0.2λ2を2レベル(1段)の高分子液晶層で補正する場合、高分子液晶層の高さを約1.1μmとすればよい。また、各矩形凸部に相当する高分子液晶層の同心輪帯領域をmm単位で最小半径と最大半径の組( ,)で表記すると、(0.429,0.614)、(0.756,0.878)、(0.989,1.098)、(1.207,1.334)、(1.673,1.740)、(1.789,1.826)、(1.857,1.884)、(1.908、1.931)となった。
【0053】
したがって、波長λ2の入射光を異常光偏光とすることにより透過波面は高分子液晶層の凹凸形状の輪帯分布に応じて変化し、所望の残留収差を補正できる。具体的には、図3の(c)に示すRMS波面収差の54mλが27mλに半減し、情報の記録および再生の安定性が向上した。
【0054】
一方、第2の位相補正面2に入射する波長λ1および波長λ3の光を常光偏光とすることにより透過波面は変化しないため、良好な透過波面収差レベルに保たれている。
【0055】
また、波長λ1および波長λ2の透過率が98%以上で波長λ3の透過率が10%以下の開口制限フィルタ7を、透光性基板6であるガラス基板の開口数NA=0.50の領域を除いた図2に示す領域に形成した。また、開口数NA3=0.50の領域には、波長λ1、λ2およびλ3の3波長で反射率が1%以下の反射防止膜を形成した。
【0056】
さらに、透光性基板6であるガラス基板の片面に、第2の位相補正面2の高分子液晶層と同じ材料を用い、液晶分子の配向方向のそろった膜厚1.9μmの第1層と膜厚3.8μmの第2層とを積層した位相板4を形成した。ここで、第1層と第2層の高分子液晶層の分子の配向方向を、透光性基板5であるガラス基板の1側から見て第2の位相補正面2の高分子液晶の分子の配向方向に対して反時計回りに72.5°および16.5°とした。その結果、波長λ1および波長λ2に対して1/4波長板、波長λ3に対しても1/4波長板に近い位相板の機能が得られた。
【0057】
位相補正素子10は、開口制限フィルタ7と位相板4とが形成された透光性基板6であるガラス基板と、第1の位相補正面1と第2の位相補正面2の形成された透光性基板5であるガラス基板を、均質屈折率透明充填材3を用いて接着一体化されている。
【0058】
このようにして作製された位相補正素子10と対物レンズ12をアクチュエータに一体化固定し、図6に示す光ヘッド装置に搭載した。この光ヘッド装置をHD用およびDVD用の光ディスクの記録および再生に用いると、対物レンズのみのときに発生したDVDでの波面収差が補正された。さらに、CD用の光ディスクの記録および再生においても従来の有限系構成による収差補正法が適用できた。
【0059】
また、HD用には偏光ビームスプリッタ19を、DVD用には偏光ホログラムビームスプリッタ16Bを用いることにより光利用効率が大幅に向上した。その結果、安定してHD用とDVD用とCD用の光ディスクの記録および再生が実現した。
【0060】
「例2」
光ヘッド装置における位相補正素子の他の例として、第2の位相補正面の代わりに本発明の第3の位相補正面を用いた構成について以下に記す。例1において、第2の位相補正面として用いられた高分子液晶層(図1において2の斜線部)の代わりに、SiNとSiO2の体積比が45:55の混成膜としたSiNOの均質屈折率膜を用い、均質屈折率透明材料3である充填材として高屈折率透明樹脂を用いた。
【0061】
波長λ1、λ2、λ3におけるSiNOのそれぞれの屈折率は1.747、1.725、1.722、高屈折率透明樹脂の屈折率はそれぞれ1.747、1.704、1.700で、SiNOと高屈折率透明樹脂の屈折率差Δnは波長λ1では生じないが波長λ2では0.021だけ生じる。
【0062】
透光性基板5であるガラス基板の第1の位相補正面1が形成された面とは反対の面に塗布したフォトレジストをパターニングした後厚さ3.1μmのSiNO膜を成膜し、フォトレジストを剥離するリフトオフ加工により、第2の位相補正面と同様に各凸部が2レベル(1段)の矩形状で、かつ光軸に関して回転対称性を有する輪帯状の凹凸部を形成し、その凹部に高屈折率透明樹脂を充填して第3の位相補正面2とした。各矩形凸部に相当するSiON膜の同心輪帯領域の最小半径と最大半径および他の位相補正素子の構成は例1と同じである。
【0063】
SiNO膜と高屈折率透明樹脂の光路差は0.1λ2に相当し、DVDの図3の(c)に示すRMS波面収差が54mλから27mλにまで半減し、光ヘッド装置に搭載した場合記録および再生の安定性が向上した。
【0064】
第1の位相補正面と第3の位相補正面の収差補正機能は入射光の偏光状態に依存しないため透過波面は位相板4の性能にかかわらず一定であり、往路および復路においてDVDで発生する波面収差を補正できる特徴がある。
【0065】
一方、CD用の光ディスクにおいては第3の位相補正面を波長λ3の光が透過するとき波面収差が発生するが、3次のRMS球面収差成分は1mλと充分小さな値で、高次成分も含めた全体のRMS波面収差も50mλ程度であり、使用上問題とならなかった。
【0066】
【発明の効果】
本発明における第1の位相補正面が形成された位相補正素子を、HD用の光ディスクにおいて収差が最小となるよう設計された対物レンズと一体で光ヘッド装置に搭載することにより、DVD用の光ディスクにおいて発生する球面収差が低減されるため、HDおよびDVDに対して安定した情報の記録および再生ができる。
【0067】
また、第2の位相補正面または第3の位相補正面がさらに形成された位相補正素子を用いることにより、残留波面収差をさらに低減できるため、DVDの記録および再生において安定性がさらに向上する。
【0068】
また、第2の位相補正面は入射偏光方向を調整することにより、HD用およびCD用の波長に対して収差劣化がない位相補正素子とできる。
【0069】
また、第3の位相補正面は入射光の波長の相違にのみ依存した透過波面変化を及ぼし偏光状態には依存しないため、位相板を併用して往路と復路で位相補正素子入射偏光が異なる場合でも同じ透過波面性能とできる。
【0070】
また、1/4波長板相当の位相板が一体化された位相補正素子を用い、偏光ビームスプリッタと併用することにより光学系の光利用効率が向上するため、半導体レーザ光源の消費電力の低減またはより高速な記録および再生ができる。さらに、半導体レーザ光源への戻り光に起因したレーザ発信強度変動が抑制され、光ディスクの記録および再生の安定性が向上する。
【0071】
また、本発明における位相補正素子にさらに開口制限フィルタを一体に形成することにより、HDおよびDVDに加えてCDの光ディスクの記録および再生ができる光ヘッド装置となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における位相補正素子の構造を示す断面図。
【図2】本発明における位相補正素子の構造を示す平面図で、(a)は一方の面から見た平面図、(b)は他方の面から見た平面図。
【図3】DVD用の光ディスクにおける透過光の波面収差を示すグラフで、(a)は本発明における位相補正素子を用いないときに発生する波面収差、(b)は本発明における位相補正素子を用いたとき、本素子の第1の収差補正面が発生する補正用の波面収差、(c)は本発明における位相補正素子を用いたとき、本素子の第1の収差補正面により補正された結果残留する波面収差。
【図4】本発明における位相補正素子の第2の位相補正面または第3の位相補正面の波面収差の補正作用を示す波面収差の部分拡大図。
【図5】本発明における位相補正素子へ3種の波長の光が入射したときの光束と波面を示す図で、(a)は波長λ1の光が入射したときの断面図、(b)は波長λ2の光が入射したときの断面図、(c)は波長λ3の光が入射したときの断面図。
【図6】本発明における位相補正素子を搭載した光ヘッド装置を示す構成図。
【図7】従来の位相補正素子の構造および光束と波面を示す図で、(a)は波長λ2の異常光偏光が入射したときの断面図、(b)波長λ1の常光偏光が入射したときの断面図。
【符号の説明】
1:第1の位相補正面
2:第2の位相補正面または第3の位相補正面
3:均質屈折率透明材料
4:位相板
5、6:透光性基板
7:開口制限フィルタ
10:位相補正素子
11:光ディスク
12:対物レンズ
13:コリメートレンズ
14A、14B、14C:半導体レーザ
15A、15B、15C:光検出器
16B、16C:ホログラムビームスプリッタ
17、18:合波プリズム
19:偏光ビームスプリッタ
20:偏光性位相補正素子
Claims (4)
- 少なくとも波長λ1とλ2(λ1<λ2)の2つの光を出射する光源と、光源からの出射光を光記録媒体に集光する対物レンズと、光記録媒体の情報記録面からの反射光を検出する光検出器と、光源から対物レンズに至る光路中に波長λ2の入射光の透過波面を変化させる位相補正素子とを備える、光記録媒体に情報の記録または再生を行う光ヘッド装置において、
前記位相補正素子はその平面内における波長λ2の入射光束が規定する開口数NA2の領域に入射光の光軸に関して回転対称性を有する輪帯状でかつ階段状の凹凸部が形成され、さらに凹凸部の各段における波長λ1の透過光の位相差が2πm(mは自然数)となるように凹凸部が形成された第1の位相補正面を備えていることを特徴とする光ヘッド装置。 - 前記位相補正素子は、第1の位相補正面に加えて、前記位相補正素子の平面内における波長λ2の入射光束の規定する開口数NA2の領域に、入射光の光軸に関して回転対称性を有する輪帯状の凹凸部が第1の位相補正面とは異なる面に形成された第2の位相補正面を備え、第2の位相補正面は常光屈折率noおよび異常光屈折率ne(no≠ne)で分子配向軸が一方向に揃った有機物の複屈折性材料層からなり、凹凸部の少なくとも凹部に常光屈折率noと等しい屈折率nsの均質屈折率透明材料が充填されている請求項1に記載の光ヘッド装置。
- 前記位相補正素子は、第1の位相補正面に加えて、前記位相補正素子の平面内における波長λ2の入射光束の規定する開口数NA2の領域に、入射光の光軸に関して回転対称性を有する輪帯状の凹凸部が第1の位相補正面とは異なる面に形成された第3の位相補正面を備え、第3の位相補正面は波長λ1において屈折率が等しくかつ波長λ2において屈折率がたがいに異なる2種の均質屈折率透明材料からなり、一方の均質屈折率透明材料の凹凸部の少なくとも凹部に他方の均質屈折率透明材料が充填されている請求項1に記載の光ヘッド装置。
- 前記位相補正素子は、波長λ1に対する位相差がπ/2の奇数倍となる位相板がさらに追加され一体化されている請求項1から3のいずれかに記載の光ヘッド装置。
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