JP2004122332A - ショットピーニング方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明のショットピーニング方法は、金属成品の表面に、前記金属成品と同等以上の硬度を有するショットを投射し、前記金属成品の表面の硬度を向上させる金属成品のショットピーニング方法において、ショットカバレージを900%以上として前記金属成品の被ショット部分の組織が500nm以下の超微細結晶粒からなることを特徴とする。
また、本発明のショットピーニング方法は、n:ショットカバレージ(%/100)、V:ショット速度(m/s)、D:ショット粒径(mm)、ρ:ショット粒比重(g/cm3)の関係が、n×V2×D×ρ ≧3.0×106 で表すことができる方法である。ここで、ショット速度Vは50〜250m/secであり、また、ショット粒径Dは0.03〜3.5mmであることが望ましい。
【選択図】図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属成品の表面にショットを投射して、被ショット面の硬度を向上させるショットピーニングの方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属成品の表面処理方法としては、バネや成品形状に鋳造した鋳鋼品、鋳造成品、ステンレス鋼などの金属成品などを、その全部あるいは一部に、焼き入れ焼き戻し処理した後に冷間加工を施すショットピーニングが知られている。この方法は、高周波誘導加熱などにより成品に約850℃前後で焼き入れし、600℃前後で焼き戻すという処理を行って、表面組織の変態を行わせた後、空冷し、常温あるいは温間で通常のピーニング加工を施して圧縮残留応力を生じさせて、疲労強度を増加させるものである。
【0003】
上記ショットピーニングでは、金属成品の表面にショットを投射させたときの衝突による塑性変形により、金属成品の表面に圧縮残留応力が生じるので、この圧縮残留応力は塑性変形部であるくぼみの大きさに比例する。また、塑性変形部であるくぼみの大きさは、ショット径に比例するので、圧縮残留応力とショット径も比例関係にあるといえる。
【0004】
つまり表層からより深い内部での内部圧縮応力、硬化の深さを得るためには、ショット粒径の大きなショットが有効であり、従来は、ショット径が1.2〜0.6mm程度のショットを用いている。
【0005】
また、上記表面処理方法においては、熱処理工程とショットピーニング工程とを別個に行わなければならず、温度制御を伴う工程管理が煩雑でコスト高となる問題に対して、「金属成品の表面加工熱処理法」(例えば、特許文献1参照)では、金属成品の表面に、成品と同等以上の硬度を有する40〜200μmのショットを噴射速度100m/sec以上で噴射し、表面付近の温度をA3変態点以上に上昇させて、ブラスト処理により、圧縮残留応力の発生に伴う成品表面の硬化、疲労強度の増加と共に熱処理による表面の改質を可能とした。
【0006】
また、「金属成品の表面処理方法」(特許文献2参照)では、高強度、高硬度な材質からなり、ショット径が異なる小さなショットおよび大きなショットを混合した混合ショットを用いてブラスト処理を行い、圧縮残留応力の発生に伴う表面の熱処理硬化、疲労強度の増加と共に、熱処理による表面の改質といった効果を得るショットピーニングにおいて、表面内部までのより深い圧縮応力の発生および表面粗さの向上を可能とし、特に、従来の多工程のショットピーニング、またはピーニング加工後の研磨加工などの処理工程を不要とした金属成品の表面処理方法を提案している。
【0007】
【特許文献1】
特許第1594395号
【特許文献2】
特開平11−347944号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記の「金属成品の表面加工熱処理法」では、噴射速度および噴射密度(以降、カバレージと称する)との関係から、高速な噴射速度を得るためにショット径が40〜200μmである小さなショットを用いており、圧縮残留応力および熱処理硬化の生じる成品表層からの深さには限界があった。
また、前記の「金属成品の表面処理方法」におけるショットピーニングでは、ショット粒径が0.6mm〜0.03mmと1mm以下のショットを用いることを提案している。このような粒径のショットを用いたショットピーニングでは、図1に示すようにカバレージが500%付近を頂点として被処理物の表面近傍の圧縮残留応力は低下し始めることが知られている。このために、通常のショットピーニングではカバレージが500%以下の範囲で実施されている場合が多い。前記の「金属成品の表面処理方法」における各実施例では、カバレージは200〜400%程度と推測される。
【0009】
また、カバレージが500%以下のショットピーニングによって得られる硬さの増加分は、炭素鋼ではHVで50〜300程度であり必ずしも満足のゆくものではない。
【0010】
そこで、本発明の課題は、より高い表面硬度を付与するショットピーニング方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明のショットピーニング方法は、金属成品の表面に、前記金属成品と同等以上の硬度を有するショットを投射し、前記金属成品の表面の硬度を向上させる金属成品のショットピーニング方法において、ショットカバレージを900%以上として前記金属成品の被ショット部分の組織が500nm以下の超微細結晶粒からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のショットピーニング方法は、n:ショットカバレージ(%/100)、V:ショット速度(m/s)、D:ショット粒径(mm)、ρ:ショット粒比重(g/cm3)の関係が、n×V2×D×ρ ≧3.0×106 で表すことができる方法である。ここで、ショット速度Vは50〜250m/secであり、また、ショット粒径Dは0.03〜3.5mmであることが望ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のショットピーニング方法は、金属成品の表面に、前記金属成品と同等以上の硬度を有するショットを投射し、前記金属成品の表面の硬度を向上させる金属成品のショットピーニング方法において、ショットカバレージを900%以上として前記金属成品の被ショット部分の組織が500nm以下の超微細結晶粒からなることを特徴とする。
【0014】
この衝突が連続して付加されることによって金属成品の表面層の金属組織が微細化され、高強度で且つ高硬度な表面が生成される。特に、カバレージが900%以上になると、金属成品の単位面積当たりに付与されるショットによるエネルギはきわめて大きくなる。そして、表面部分の塑性変形が頻繁に繰り返されることにより金属成品の表面層は500nm以下の超微細結晶粒からなる組織となる。
【0015】
本発明のショットピーニング条件は、n:ショットカバレージ(%/100)、V:ショット速度(m/s)、D:ショット粒径(mm)、ρ:ショット粒比重(g/cm3)として、n×V2×D×ρ ≧3.0×106 で表すことができる。
【0016】
質量mの物体が速度vで運動するときの運動エネルギeは、e=1/2mv2で表すことができる。
【0017】
nはショットの投射密度を表しており、金属成品の被ショット面を満遍なくn回ショットしたと考えることができる。すなわち、カバレージがnの場合のショットによる総運動エネルギEは、E=n(1/2)(4/3)πρ(D/2)3V2 で与えられる。これをショット粒子が接触した面積、0.36×(π/4)D2で除すと、ショットによって付与された被ショット面の単位面積当たりのエネルギとなる。つまり、前記の関係式は、この単位面積当たりに付与されたエネルギ(以降、K値と呼ぶ)が3.0×106 以上であれば、金属成品の被処理表面は500nm以下の超微細結晶からなる組織が得られることを示している。
【0018】
ショット後の金属成品の表面硬さとK値との関係を図2に示す。図2はショット粒径、ショット速度、カバレージといったショットピーニング条件を変化して炭素鋼の表面を処理し、得られた表面の硬度を測定して、K値との関係をプロットしたものである。多少のばらつきはあるものの、ショット後の表面硬度とK値とはほぼ比例関係にあり、K値が増加するとショット後の表面硬度も増加することが分かる。ここで、ショット後の表面硬度をHv600以上とするには、K値は3.0×106 以上であれば良い。なお、カバレージ500%(すなわち、前述の圧縮残留応力が最高となるカバレージ)の場合には、ショット後の炭素鋼の表面硬度はHv600程度であることから、本発明のショットピーニング方法ではショット後の表面硬度をHv600以上を目標とした。
【0019】
また、図3にはショット速度によるショット粒径とカバレージとの関係を示した。横軸にショット粒径(mm)をとり、縦軸をカバレージ(%)として、ショット速度が50m/sec、と100m/secとの2水準についてプロットした。なお、ショットは鉄のショットとし、比重は、7.87g/cm3として計算した。図3からショット粒径の減少に伴いカバレージは急激に増大することが分かる。さらに、ショット粒が細かくなると粒速度が速くなるので、低カバレージで目的が達成できることが分かる。
【0020】
本発明のショットピーニング方法によって得られたSCr30の焼鈍材の極表層の断面を図4に示す。図4のショットピーニング条件は、ショット粒径:1.4mm、ショット粒の硬さ:HV700、投射圧:0.3MPa、ショット速度:50m/sec、カバレージ:15000%で、K値は4131750であった。図4は表面から約200μmの範囲を示しているがSが最表面であり、ショットピーニングによって大きく波打っていることが分かる。黒く渦巻き状に見える部分(A)は直接ショットを受けて硬化した部分であり、その直下の白と黒との層状に見える部分(B)はショットの投射圧力で加工硬化した部分である。図4では示されていないが、(B)のさらに下の部分はショットピーニング処理の影響を受けていない未加工部分となっている。
【0021】
(A)のショット部位の組織は500nm以下の超微細結晶粒からなっており、硬度測定したところ(HV25gとした)HV681であった。また、(B)の加工硬化部位は700〜2000nmの微細結晶粒からなる組織であり、HV347であった。未加工部位は5〜10μmの結晶粒径であり、硬度はHV182であった。なお、(A)のショット部位の超微細結晶粒径は電子顕微鏡によって測定した。
【0022】
ここで、ショットの投射速度は、50〜250m/secであることが望ましい。投射速度が50m/sec未満ではエネルギ不足であり、250m/secを越えると設備的な制約があり困難な場合がある。より好ましくは100〜200m/secである。
【0023】
また、ショット粒径は0.03〜3.5mmであることが望ましい。ショット粒径が0.03mm未満では、上記の式を満足するショット速度を得ることが困難な場合があり、一方、3.5mmを越えるとショット速度不足となって十分なエネルギを付与することができない。より好ましくは、0.1〜3mmである。
【0024】
さらに、カバレージは900〜20000%であることが好ましい。カバレージが900%未満では、必要なK値が得られない。一方、20000%を越えても被ショット面の硬度が飽和してしまって効果が得られない上に生産性を阻害するので適当ではない。より好ましくは、1500〜10000%である。
【0025】
ショットの材質については特に制限はないが、被処理物である金属成品と同等またはそれ以上の硬さを有するものが望ましく、具体的には、HV600以上であることが好ましい。例えば、鋳鉄、鋳鋼、高速度工具鋼、合金工具鋼、非鉄合金鋼などを例示することができる。
【0026】
なお、K値は前記のように3.0×106以上であることが好ましいが、前記の投射速度の上限と、カバレージの上限とを考慮すると、K値の上限は7×107であることが適当である。
【0027】
【実施例】
(試験条件)
被処理物として炭素鋼に、鋼球(比重:7.87g/cm3)からなる硬さHv700のショットを使用し、投射圧は0.3MPa一定とし、その他のショット粒径(D)、ショットカバレージ(%)、投射速度(m/sec)の条件を変化させて、6水準のショットピーニングを実施した。それぞれの条件と、算出されたK値とを表1に示した。
(評価方法)
ショット後の金属成品の表面硬度をHV25gで測定した。また、各供試材の表面近傍からサンプルを切り出して断面を研磨し、電子顕微鏡でショット部位の結晶粒径を測定した。結果を表1に併記した。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から分かるように、実施例1〜4はすべて、K値が3.0×106以上であり、ショット後の表面硬さは、HV712〜879であった。そしてショット部位の結晶粒径は85〜120nmと超微細な結晶組織となっていた。
【0030】
一方、比較例1は、ショット粒径が1.4mmで、投射速度が50m/secと実施例3と変わらないが、カバレージが3000%と実施例3の1/5であった。そのためK値は826350と小さくなり、ショット後の表面硬さはHV440と低い値しか得られなかった。そして、結晶粒径は5000nmと大きなものであった。また、比較例2はショット粒径と投射速度は実施例2と同じであったが、これもカバレージが300%と非常に小さいために、K値は93495ときわめて小さな値となった。この結果、ショット後の表面硬さはHV434で、また、結晶粒径は15000nm(15μm)と実施例に比べて約100倍も大きな値であった。
【0031】
ショットピーニング処理前の炭素鋼の表面近傍の硬度は、HV200であった。従って、ショットピーニング処理を施すことによって得られた硬さの増分はショット後の表面硬さから200を減じた値である。実施例では、この値が512〜679ときわめて大きな値が得られた。これは通常の焼き入れ焼き鈍し処理によって得られる硬さの増加分(HVで300程度)に比べて約1.5倍ときわめて大きな表面改質効果が得られることが分かる。
【0032】
【発明の効果】
本発明は通常行われるショットピーニング処理よりも数倍大きなショットカバレージとしているので金属成品の被ショット面に付与されるショットの運動エネルギは極めて大きい。その結果被ショット面は500nm以下と超微細な結晶組織となるため、金属成品の表面硬度をHV600以上と、大きく向上することができる。従って、バルブやシャフトなどの耐摩耗性や曲げ疲労といった特性を大きく改善する好適な方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】炭素鋼のショットピーニング処理によるカバレージ(%)と圧縮残留応力との関係を示す概念図である。
【図2】炭素鋼のショット後の表面硬さとK値との関係を示す図である。
【図3】比重7.87g/cm3の鉄ショットを用いた場合の照射速度によるショット粒径とカバレージとの関係を示す図である。
【図4】クロム炭素鋼のショット後の表面近傍の結晶組織を示す写真である。
【符号の説明】
A:ショット部位 B:加工硬化部位
Claims (4)
- 金属成品の表面に、前記金属成品と同等以上の硬度を有するショットを投射し、前記金属成品の表面の硬度を向上させる金属成品のショットピーニング方法において、ショットカバレージを900%以上として前記金属成品の被ショット部分の組織が500nm以下の超微細結晶粒からなることを特徴とするショットピーニング方法。
- 前記ショットピーニングは、n:ショットカバレージ(%/100)、V:ショット速度(m/sec)、D:ショット粒径(mm)、ρ:ショット粒比重(g/cm3)の関係が、
n×V2×D×ρ ≧3.0×106
で表される請求項1に記載のショットピーニング方法。 - 前記ショット速度(V)は50〜250m/secである請求項2に記載のショットピーニング方法。
- 前記ショット粒径(D)は0.03〜3.5mmである請求項2または3に記載のショットピーニング方法。
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