JP2004140277A - 離脱方法及び電源装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】基板を吸着装置から円滑に離脱させる技術を提供する。
【解決手段】本発明によれば、吸着装置10の接触部12と基板3を互いに接触させたときに、接触摩擦により基板3が帯電する帯電極性が予め求められており、基板3を吸着装置10に吸着させて成膜処理等を行った後、予め求めておいた基板3の帯電極性と同じ極性の電圧を第一、第二の電極16、17の両方に印加することで、基板3と吸着装置10との間に反発力が生じ、該反発力によって基板3を吸着装置10から容易に分離させ、離脱させることができる。
【選択図】図1
【解決手段】本発明によれば、吸着装置10の接触部12と基板3を互いに接触させたときに、接触摩擦により基板3が帯電する帯電極性が予め求められており、基板3を吸着装置10に吸着させて成膜処理等を行った後、予め求めておいた基板3の帯電極性と同じ極性の電圧を第一、第二の電極16、17の両方に印加することで、基板3と吸着装置10との間に反発力が生じ、該反発力によって基板3を吸着装置10から容易に分離させ、離脱させることができる。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は吸着装置の技術分野に関し、特に、ガラス基板やプラスチック基板等の絶縁性基板を吸着装置から離脱させるときの離脱方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図3の符号121は一般的な吸着装置を示している。この吸着装置121は、セラミックのような絶縁材料が板状に形成された支持体125と、銅のような導電材料で構成された第一、第二の電極126、127とを有している。
【0003】
第一、第二の電極126、127上には、ポリイミドフィルムのように絶縁性の膜からなる保護層130が形成されており、処理対象物である基板を、保護層130上に載置した後、電源122を起動して第一、第二の電極126、127にそれぞれ正負の電圧を印加すると基板が吸着装置121に吸着されるようになっている。
【0004】
成膜等の真空処理後、基板を吸着装置121から離脱させるときに、第一、第二の電極126、127への電圧印加を終了させても、基板と吸着装置121との間に残留吸着力が残り、該残留吸着力により基板を吸着装置121から離脱させ難いという問題がある。
【0005】
一般に残留吸着力は、第一、第二の電極126、127への電圧印加終了後も吸着装置121に残る残留電荷により発生すると考えられていたため、基板の離脱を容易に行わせる方法として、従来では、第一、第二の電極126、127への電圧印加を停止した後、印加電圧と逆の極性の電圧を第一、第二の電極126、127にそれぞれ印加する逆バイアス法や、印加電圧と同じ極性の電圧を印加したまま、印加電圧を下げる同極バイアス法等残留電荷を解消する方法が提案されている。
【0006】
しかし、残留電荷を解消する方法では、残留吸着力を十分に除去するには至らず、特に、抵抗率が1×1014Ω・cmを超える基板を吸着させた場合には、吸着装置121からの離脱が困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の要求に応じるために創作されたものであり、その目的は、絶縁性の処理対象物を吸着装置から円滑に離脱させる離脱方法と、その離脱方法に用いられる電源装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、従来技術の離脱方法が有効でない理由を調べるために、上述したような吸着装置121を用いて、基板を吸着させ、60秒後に基板を強制的に離脱させた後、静電容量センサーにより基板表面と保護層130表面の表面電位を測定した。
【0009】
測定に用いた吸着装置121の詳細な構成は、電極126、127の幅と間隔は0.5mmであり、保護層130の膜厚は100μmである。基板は抵抗率が1×1018Ω・cm以上の高純度石英ガラスからなり、その吸着条件は、第一、第二の電極126、127の印加電圧がVesc=±2000であった。
【0010】
表面電位を測定した結果、基板表面は全面に渡ってプラスに帯電していることが分かった。表面電位計の指示値は+205〜220Vであった。一方保護層130の表面は逆にマイナスに帯電しており、その電位は−200〜−220Vであった。
本発明者等はこの理由を次のように考えた。物質の帯電しやすさを示す指標として下記表1に示す帯電列が知られている。
【0011】
【表1】
【0012】
上記表1では正(+)に帯電しやすいものを表の左方に示し、負(−)に帯電しやすいものを表の右方に示している。
上記表1から、一連の列の中でもガラスはプラスに帯電しやすい物質であることが分かる。一方のポリイミドは掲載されておらず、その位置は不明であるが、ポリエチレン等、ポリマーの多くがガラスよりマイナスに帯電しやすい位置にあることからポリマーであるポリイミドもガラスよりはマイナス側に帯電しやすい物質であると推定した。
【0013】
2つの物質を接触させたとき、帯電列上でマイナス側にある物質はマイナスに帯電し、プラス側にある物質はプラスに帯電することが知られており、即ち、ポリイミドからなる保護層130の表面に、石英ガラスの基板を載せて基板を吸着したときに、接触帯電により基板はプラスに帯電し、保護層130はマイナスに帯電することがわかる。
【0014】
本発明者等は吸着装置に基板を吸着させた後に残留する吸着力は、この接触帯電で生じたものと推定した。そこで基板がプラスに帯電しているのであれば、吸着装置側にもプラス電圧を印加し、基板がマイナスに帯電しているのであれば、吸着装置側にもマイナス電圧を印加すれば、基板と吸着装置とが反発して離脱が良好になるのではないかと考えた。
【0015】
上記知見にもとづいてなされた請求項1記載の発明は、吸着装置の接触部に処理対象物を接触させ、前記接触部の第一、第二の電極に電圧を印加し、前記処理対象物を吸着した後、前記処理対象物を前記吸着装置から離脱させる離脱方法であって、前記第一、第二の電極に正負の電圧をそれぞれ印加し、前記処理対象物を吸着する吸着工程と前記第一、第二の電極に、正又は負の同じ極性の電圧を印加し、前記処理対象物を前記吸着装置から分離させる離脱工程とを有する離脱方法。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の離脱方法であって、前記離脱工程は、前記処理対象物が有する電圧の極性と同極性の電圧を前記第一、第二の電極に印加する離脱方法である。
請求項3記載の発明は、吸着装置の接触部に処理対象物を接触させ、前記接触部の第一、第二の電極に電圧を印加し、前記処理対象物を吸着した後、前記処理対象物を前記吸着装置から離脱させる離脱方法であって、前記第一、第二の電極に正負の電圧をそれぞれ印加し、前記処理対象物を吸着する吸着工程と、前記第一、第二の電極のうち、いずれか一方の電極に正又は負の極性の電圧を印加し、他方の電極には、電圧を印加せずに前記処理対象物を前記吸着装置から分離させる離脱工程とを有する離脱方法である。
請求項4記載の発明は、請求項3記載の離脱方法であって、前記離脱工程は、第一、第二の電極のうち、いずれか一方の電極に前記処理対象物が有する電圧の極性と同極性の電圧を印加し、前記処理対象物を前記吸着装置から離脱させる離脱方法である。
請求項5記載の発明は、真空槽内に配置され、第一、第二の電極に印加された電圧によって前記真空槽内で処理対象物を吸着する吸着装置の、前記第一、第二の電極に接続されるべき第一、第二の出力端子を有する電源装置であって、前記第一、第二の出力端子から正負の電圧が印加される第一の状態と、前記第一、第二の出力端子から同極性の電圧が出力される第二の状態のいずれの状態もとりうるように構成された電源装置である。
請求項6記載の発明は、真空槽内に配置され、第一、第二の電極に印加された電圧によって前記真空槽内で前記処理対象物を吸着する吸着装置の、前記第一、第二の電極に接続されるべき第一、第二の出力端子を有する電源装置であって、前記第一、第二の出力端子から正負の電圧が印加される第一の状態と、前記第一、第二の出力端子のうち、一方の出力端子から正又は負の電圧が出力され、他方の出力端子から電圧が出力されない第三の状態のいずれの状態もとりうるように構成された電源装置である。
【0016】
本発明は上記のように構成されており、処理対象物の接触部に接触する面に露出する物質と、接触部の処理対象物に接触する面に露出する物質とが予め分かっている場合は、上述した帯電列の表から、吸着を解除したときの処理対象物が有する電圧の極性が分かるので、その極性の電圧を第一、第二の電極に印加すれば、処理対象物を吸着装置から円滑に離脱させることができる。
【0017】
また、実際に真空処理を行うときと同じ極性で同程度の電圧を第一、第二の電極に印加して、処理対象物を吸着装置に吸着させた後、基板の表面電位を測定しておけば、帯電列によらなくても、吸着を解除したときの処理対象物が有する電圧の極性が分かるので、その極性の電圧を第一、第二の電極に印加すれば、処理対象物を吸着装置から円滑に離脱させることができる。
【0018】
本発明の離脱方法は、真空処理装置内に設けられた吸着装置に適応し、吸着装置に基板を吸着させ、成膜やエッチング等の真空処理を行った後、吸着装置から基板を離脱させるのに用いてもよいし、搬送機構に設けられた吸着装置に適応し、処理対象物を吸着装置に吸着しながら異なる真空処理装置間を搬送した後、基板を所定の真空処理装置内で離脱させるのに用いてもよい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下で図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1の符号1は本発明の吸着方法を用いた成膜処理に用いられる成膜装置の一例を示している。
【0020】
成膜装置1は、真空槽2と、真空槽2内の天井側に配置されたターゲット5と、真空槽2内の底壁側に配置された吸着装置10と、真空槽2外に配置された電源装置20とを有している。
【0021】
吸着装置10は、支持体11と、接触部12とを有しており、支持体11はセラミック等の絶縁材料が板状に形成されて構成されている。接触部12は第一、第二の電極16、17と、保護層13とを有している。
【0022】
図2は第一、第二の電極16、17の位置関係を示す平面図である。第一、第二の電極16、17は、櫛状にパターニングされた銅箔からなり、支持体11上に櫛の歯部分が所定間隔を空けて互いに噛み合うように配置されており、第一、第二の電極16、17間に電圧が印加されたときに、櫛の歯部分に均一な電界が形成されるようになっている。
【0023】
保護層13は、所定膜厚の絶縁材料の薄膜で構成されている。ここでは、保護層13は膜厚100μmのポリイミド樹脂フィルムで構成されている。保護層13は第一、第二の電極16、17の表面に密着して配置されており、この吸着装置10は接触部12が形成された面をターゲット5に向けて配置され、接触部12上に後述する基板を載置するときに、基板3が保護層13に接触し、電極16、17が保護されるようになっている。
【0024】
電源装置20は、直流電源21と、スイッチ22と、フィルタ24a、24bと、第一、第二の出力端子28、29とを有しており、第一、第二の電極16、17は第一、第二の出力端子28、29にそれぞれ別々に接続されている。
【0025】
第一、第二の出力端子28、29はスイッチ22の第一、第二の出力端子部27a、27bに接続され、スイッチ22の第一、第二の入力端子部26a、26bは、フィルタ24a、24bを介して直流電源21の第一、第二の電源端子部23a、23bに接続されている。
【0026】
スイッチ22は、外部信号により第一、第二の出力端子部27a、27bを第一、第二の入力端子部26a、26bのいずれか一方に接続するか、第一、第二の出力端子部27a、27b同士を接続するようになっている。
【0027】
スイッチ22を切り替え、第一、第二の出力端子部27a、27bを第一、第二の入力端子部26a、26bにそれぞれ別々に接続すると、第一、第二の電極16、17が第一、第二の電源端子部23a、23bにそれぞれ別々に接続されるから、例えば、第一、第二の電源端子部23a、23bからそれぞれ正負の電圧を出力すると、第一、第二の電極16、17にそれぞれ正負の電圧が印加されるようになっている。
【0028】
スイッチ22を切り替え、第一、第二の出力端子部27a、27bをそれぞれ第一の入力端子部26aに接続すると、第一の電源端子部23aはそれぞれ第一、第二の電極16、17に接続され、第一、第二の電極16、17に同じ大きさ同じ極性の電圧が印加される。このとき、第二の電源端子部23bは第一、第二の電極16、17のどちらにも接続されない。
【0029】
この成膜装置1を用いて処理対象物である基板3を成膜処理するには、先ず、真空排気系8によって真空槽2内に所定圧力の真空雰囲気を形成した後、石英ガラスのような絶縁材料からなり、抵抗率が1×1014Ω・cmを超える基板3を真空雰囲気を維持したまま真空槽2内に搬入し、接触部12上に載せる。
【0030】
スイッチ22を切り替え、第一、第二の電極16、17を第一、第二の電源端子部23a、23bにそれぞれ接続し、直流電源21を起動すると、第一、第二の電極16、17に正負の電圧(ここでは±2000V)が印加され、櫛の歯部分の間に電界が形成されて吸着力が発生し、基板3が吸着装置10に密着する。
【0031】
吸着装置10には不図示の加熱手段が設けられており、基板3が吸着装置10に密着した状態で吸着装置10を加熱すると、基板3が効率良く加熱される。次いで、真空槽2内にアルゴン(Ar)ガスのようなスパッタガスを導入しながら、真空槽2内に所定圧力の真空雰囲気を維持し、スパッタ電源6を起動し、ターゲット5に電圧を印加すると、ターゲット5がスパッタリングされ、基板3の表面に薄膜が成長する。
【0032】
その薄膜が所定膜厚まで成長したところでスパッタリングを停止し、スイッチ22を切り替え、第一、第二の出力端子部27a、27bと、第一、第二の入力端子部26a、26bとの接続を一旦切り離した後、スイッチ22内で第一、第二の出力端子部27a、27b同士を接続することで、第一、第二の電極16、17間を短絡させる。
【0033】
スイッチ22を切り替え、第一の電源端子部23aをそれぞれ第一、第二の電極16、17に接続し、第一の電源端子部23aが出力する電圧と同じ極性の電圧を第一、第二の電極16、17にそれぞれ印加する。
【0034】
上述した基板3と接触部12とを接触させた時の基板3の帯電極性は予め求められており、ここでは、基板3を構成する物質と、保護層13を構成する物質の帯電列上での位置関係から基板3が正に帯電することが分かっている。
【0035】
従って、第一の電源端子部23aから正の電圧を出力すれば、第一、第二の電極16、17の両方に正の電圧が印加されるので、正に帯電した基板3と、吸着装置10とが反発し、基板3を吸着装置10から容易に分離させることができる。
【0036】
【実施例】
<実施例1>
基板3を吸着装置10に±2000Vで60秒間吸着させた後、上述した離脱方法で第一、第二の電極16、17に正の電圧を印加したまま基板3を吸着装置10から離脱させた。このとき、離脱に要した力を残留吸着力(gf/cm2)として測定した。
【0037】
尚、離脱条件は、真空槽2内の圧力が1.0×10−4Paであり、第一、第二の電極16、17に印加する正の電圧が200V以上2000V以下の範囲にあった。また、第一、第二の電極16、17に正電圧を印加する直前、即ち第一、第二の電極に±2000Vの電圧を印加し、60秒後に電圧を印加した状態で基板3を引き上げて吸着力を測定したところ、その吸着力は21.5gf/cm2であった。
【0038】
離脱の際に基板3が吸着装置10から離れる様子を観察した。揺れることなく円滑に離れた場合を◎、僅かに引っ掛ったように見えた場合を○、揺れるが、搬送障害を起こす程ではない場合を△、搬送障害に到るであろう大きな揺れと引っ掛りを生じた場合を×として評価し、その評価結果と、残留吸着力と、離脱の際に第一、第二の電極16、17へ印加した電圧の大きさとを下記表2に記載した。
【0039】
【表2】
【0040】
<実施例2>
基板3を上述した工程で吸着装置10に吸着させた後、一方の電極に200V以上2000V以下の正の電圧を印加し、他方の電極に電圧を印加せずに浮遊電位に置き、基板3を吸着装置10から離脱させた。実施例2の離脱方法で基板3を離脱させるときの残留吸着力と、評価結果と、離脱の際に第一、第二の電極16、17へ印加した電圧の大きさとを上記表2に記載した。
【0041】
<比較例1>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17に電圧を印加せずに基板3を吸着装置10から離脱させた(None)。
【0042】
<比較例2>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17にそれぞれ吸着時とは反対の極性の電圧を印加し、電圧印加を停止した後、基板3を吸着装置10から離脱させた(逆バイアス印加、OFF後離脱)。
【0043】
<比較例3>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17にそれぞれ吸着時とは反対の極性の電圧を印加したまま基板3を吸着装置10から離脱させた(逆バイアス印加、ONのまま離脱)。
【0044】
<比較例4>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17に吸着時と同じ極性の電圧をそれぞれ印加し、電圧印加を停止した後、基板3を吸着装置10から離脱させた(同極バイアス印加、OFF後離脱)。
【0045】
<比較例5>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17に吸着時と同じ極性の電圧をそれぞれ印加したまま基板3を吸着装置10から離脱させた(同極バイアス印加、ONのまま離脱)。
【0046】
<比較例6>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、一方の電極に正の電圧を印加し、他方の電極を接地電位に置いた状態で基板3を吸着装置10から離脱させた。
【0047】
上記比較例1〜6の離脱方法で基板3を離脱するときに測定された残留吸着力と、測定結果と、離脱の際に第一、第二の電極16、17へ印加した電圧の大きさとをそれぞれ上記表2に記載した。
【0048】
<評価>
上記表2の比較例1の欄から明らかなように、吸着後に第一、第二の電極16、17に電圧を印加しない場合の残留吸着力は7.0gf/cm2であった。さらに、残留吸着力の大きさは電源をオフにした後の保持時間に依存しないこともわかった。
【0049】
例えば吸着終了後2秒時間を置いて測定した場合と30秒時間を置いて測定した場合とで、残留吸着力に差を生じなかった。この理由は、残留吸着力を発生させている原因が、基板3の表面と吸着装置10の誘電体(保護層13)表面において接触帯電により生じた静電気であるために、その残留吸着力は基板3と吸着装置10が接触している限り安定であるためと思われる。
【0050】
比較例2〜5のように、吸着後、第一、第二の電極16、17にそれぞれ正負の電圧を印加する場合は、吸着時と同じ極性の電圧を印加する場合も、吸着時と反対の極性の電圧を印加する場合も、残留吸着力を減衰させる効果のないことが明らかである。それに対し、実施例1の離脱方法のように、吸着後、第一、第二の電極16、17に同じ正の電圧を印加させた場合は、顕著な改善がみられる。
【0051】
吸着後、基板3を吸着装置から引き離し、基板3の保護層13と接触する面の電位を表面電位計で測定したところ、その電位はおよそ+200Vであった。そのため、第一、第二の電極16、17に正の電圧を印加することで、反発のクーロン力が発生して、残留吸着力の測定値を減少させ、同時に離脱を円滑に作用させているものと思われる。
【0052】
印加する電位を上げていくにつれ、反発が強くなり基板3の揺動が見られるようになり、離脱の円滑さを損なう結果となった。更に、実施例2の離脱方法のように、一方の電極へ電圧を印加せずに実験を行ったところ、効果が認められた。
【0053】
このことは、一方の電極に電圧を印加せず、一旦浮遊電位において、他方の電極に正あるいは負の電圧を印加すると、浮遊電位に置かれた電極側も同じ極性の電圧が印加される状態になることに起因している。
【0054】
この理由は、第一、第二の電極16、17が絶縁性の接触部12(ここでは抵抗率が1.5×1016Ω・cm)を介してつながっているため、接触部12の抵抗率の高い分、時定数による時間の遅れはあるものの片側の電極電位と等しくなるためと思われる。
【0055】
実施例2と類似のケースであるが、比較例6のように一方の電極を接地電位に置くと、その電極がゼロ電位となり、第一、第二の電極16、17間に電界が形成され、吸着力が発生するので、結果として残留吸着力が大きくなってしまう。
【0056】
以上の実験結果から、絶縁性の基板3の残留吸着力を減少させ、吸着装置10からの円滑な離脱を実現するには、第一、第二の電極16、17の両方に基板3が帯電したのと同じ極性の電圧を印加することが効果的なことがわかった。
【0057】
<その他の例>
以上は絶縁性の基板3として、高純度石英ガラスを用いたが、本発明はそれに限定されるものではない。耐熱ガラス(ここではパイレックスガラス(登録商標)、室温抵抗率1014Ω・cm)や、無アルカリガラス(室温抵抗率1016 〜 17Ω・cm)からなる基板3を離脱させる際に本発明の離脱方法を用いたところ、同様の効果が認められることから、単にガラスに留まること無く、ポリカーボネート等抵抗率が1014Ω・cm以上の高抵抗基板に対しても有効である。
【0058】
保護層13を構成する絶縁材料もポリイミドに限定されるものではなく、ポリカーボネートや、ポリエチレンテレフタレート、シリコーンゴム等種々の絶縁材料を用いることができる。
【0059】
以上は電極16、17上に保護層13が形成され接触部12とする場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、保護層13を設けず、第一、第二の電極16、17で接触部を構成し、第一、第二の電極16、17の表面に直接基板3を接触させることもできる。
【0060】
この場合も第一、第二の電極16、17に基板3を接触させた場合の、基板3の帯電極性を予め求めておき、吸着後、第一、第二の電極16、17に基板3の帯電極性と同じ極性の電圧を印加すれば、基板3を容易に離脱することができる。
【0061】
第一、第二の電極16、17を構成する金属箔は銅に限定されるものではなく、アルミニウム等銅以外の金属材料や、グラファイト等金属以外の導電性材料で第一、第二の電極16、17を構成することもできる。
【0062】
上記実施例1では、第一、第二の電極16、17に正の電圧を印加して基板3を離脱させたが、基板3と接触部12の材質の組み合わせによっては、接触帯電により基板3が負に帯電する場合も起こりえる。その場合は第一、第二の電極16、17に負の電圧を印加することで円滑な離脱が可能となる。
【0063】
同様に、実施例2では一方の電極に正の電圧を印加し、他方の電極に電圧を印加せず基板3を離脱させたが、接触帯電により基板3が負に帯電する場合には、一方の電極に負の電圧を印加し、他方の電極に電圧を印加しないことで基板3を離脱させることができる。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、予め基板と接触部とを接触させたときの基板の帯電極性が予め求められており、吸着後、基板の帯電極性と同じ極性の電圧を第一、第二の電極に印加することで、基板と吸着装置とが反発し、基板を容易に離脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いられる成膜装置の一例を説明する図
【図2】第一、第二の電極の位置関係を説明する図
【図3】従来の吸着装置を説明する断面図
【符号の説明】
3……基板(処理対象物) 10……吸着装置 12……接触部 16……第一の電極 17……第二の電極 20……電源装置 28……第一の出力端子 29……第二の出力端子
【発明の属する技術分野】
本発明は吸着装置の技術分野に関し、特に、ガラス基板やプラスチック基板等の絶縁性基板を吸着装置から離脱させるときの離脱方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
図3の符号121は一般的な吸着装置を示している。この吸着装置121は、セラミックのような絶縁材料が板状に形成された支持体125と、銅のような導電材料で構成された第一、第二の電極126、127とを有している。
【0003】
第一、第二の電極126、127上には、ポリイミドフィルムのように絶縁性の膜からなる保護層130が形成されており、処理対象物である基板を、保護層130上に載置した後、電源122を起動して第一、第二の電極126、127にそれぞれ正負の電圧を印加すると基板が吸着装置121に吸着されるようになっている。
【0004】
成膜等の真空処理後、基板を吸着装置121から離脱させるときに、第一、第二の電極126、127への電圧印加を終了させても、基板と吸着装置121との間に残留吸着力が残り、該残留吸着力により基板を吸着装置121から離脱させ難いという問題がある。
【0005】
一般に残留吸着力は、第一、第二の電極126、127への電圧印加終了後も吸着装置121に残る残留電荷により発生すると考えられていたため、基板の離脱を容易に行わせる方法として、従来では、第一、第二の電極126、127への電圧印加を停止した後、印加電圧と逆の極性の電圧を第一、第二の電極126、127にそれぞれ印加する逆バイアス法や、印加電圧と同じ極性の電圧を印加したまま、印加電圧を下げる同極バイアス法等残留電荷を解消する方法が提案されている。
【0006】
しかし、残留電荷を解消する方法では、残留吸着力を十分に除去するには至らず、特に、抵抗率が1×1014Ω・cmを超える基板を吸着させた場合には、吸着装置121からの離脱が困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来技術の要求に応じるために創作されたものであり、その目的は、絶縁性の処理対象物を吸着装置から円滑に離脱させる離脱方法と、その離脱方法に用いられる電源装置を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、従来技術の離脱方法が有効でない理由を調べるために、上述したような吸着装置121を用いて、基板を吸着させ、60秒後に基板を強制的に離脱させた後、静電容量センサーにより基板表面と保護層130表面の表面電位を測定した。
【0009】
測定に用いた吸着装置121の詳細な構成は、電極126、127の幅と間隔は0.5mmであり、保護層130の膜厚は100μmである。基板は抵抗率が1×1018Ω・cm以上の高純度石英ガラスからなり、その吸着条件は、第一、第二の電極126、127の印加電圧がVesc=±2000であった。
【0010】
表面電位を測定した結果、基板表面は全面に渡ってプラスに帯電していることが分かった。表面電位計の指示値は+205〜220Vであった。一方保護層130の表面は逆にマイナスに帯電しており、その電位は−200〜−220Vであった。
本発明者等はこの理由を次のように考えた。物質の帯電しやすさを示す指標として下記表1に示す帯電列が知られている。
【0011】
【表1】
【0012】
上記表1では正(+)に帯電しやすいものを表の左方に示し、負(−)に帯電しやすいものを表の右方に示している。
上記表1から、一連の列の中でもガラスはプラスに帯電しやすい物質であることが分かる。一方のポリイミドは掲載されておらず、その位置は不明であるが、ポリエチレン等、ポリマーの多くがガラスよりマイナスに帯電しやすい位置にあることからポリマーであるポリイミドもガラスよりはマイナス側に帯電しやすい物質であると推定した。
【0013】
2つの物質を接触させたとき、帯電列上でマイナス側にある物質はマイナスに帯電し、プラス側にある物質はプラスに帯電することが知られており、即ち、ポリイミドからなる保護層130の表面に、石英ガラスの基板を載せて基板を吸着したときに、接触帯電により基板はプラスに帯電し、保護層130はマイナスに帯電することがわかる。
【0014】
本発明者等は吸着装置に基板を吸着させた後に残留する吸着力は、この接触帯電で生じたものと推定した。そこで基板がプラスに帯電しているのであれば、吸着装置側にもプラス電圧を印加し、基板がマイナスに帯電しているのであれば、吸着装置側にもマイナス電圧を印加すれば、基板と吸着装置とが反発して離脱が良好になるのではないかと考えた。
【0015】
上記知見にもとづいてなされた請求項1記載の発明は、吸着装置の接触部に処理対象物を接触させ、前記接触部の第一、第二の電極に電圧を印加し、前記処理対象物を吸着した後、前記処理対象物を前記吸着装置から離脱させる離脱方法であって、前記第一、第二の電極に正負の電圧をそれぞれ印加し、前記処理対象物を吸着する吸着工程と前記第一、第二の電極に、正又は負の同じ極性の電圧を印加し、前記処理対象物を前記吸着装置から分離させる離脱工程とを有する離脱方法。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の離脱方法であって、前記離脱工程は、前記処理対象物が有する電圧の極性と同極性の電圧を前記第一、第二の電極に印加する離脱方法である。
請求項3記載の発明は、吸着装置の接触部に処理対象物を接触させ、前記接触部の第一、第二の電極に電圧を印加し、前記処理対象物を吸着した後、前記処理対象物を前記吸着装置から離脱させる離脱方法であって、前記第一、第二の電極に正負の電圧をそれぞれ印加し、前記処理対象物を吸着する吸着工程と、前記第一、第二の電極のうち、いずれか一方の電極に正又は負の極性の電圧を印加し、他方の電極には、電圧を印加せずに前記処理対象物を前記吸着装置から分離させる離脱工程とを有する離脱方法である。
請求項4記載の発明は、請求項3記載の離脱方法であって、前記離脱工程は、第一、第二の電極のうち、いずれか一方の電極に前記処理対象物が有する電圧の極性と同極性の電圧を印加し、前記処理対象物を前記吸着装置から離脱させる離脱方法である。
請求項5記載の発明は、真空槽内に配置され、第一、第二の電極に印加された電圧によって前記真空槽内で処理対象物を吸着する吸着装置の、前記第一、第二の電極に接続されるべき第一、第二の出力端子を有する電源装置であって、前記第一、第二の出力端子から正負の電圧が印加される第一の状態と、前記第一、第二の出力端子から同極性の電圧が出力される第二の状態のいずれの状態もとりうるように構成された電源装置である。
請求項6記載の発明は、真空槽内に配置され、第一、第二の電極に印加された電圧によって前記真空槽内で前記処理対象物を吸着する吸着装置の、前記第一、第二の電極に接続されるべき第一、第二の出力端子を有する電源装置であって、前記第一、第二の出力端子から正負の電圧が印加される第一の状態と、前記第一、第二の出力端子のうち、一方の出力端子から正又は負の電圧が出力され、他方の出力端子から電圧が出力されない第三の状態のいずれの状態もとりうるように構成された電源装置である。
【0016】
本発明は上記のように構成されており、処理対象物の接触部に接触する面に露出する物質と、接触部の処理対象物に接触する面に露出する物質とが予め分かっている場合は、上述した帯電列の表から、吸着を解除したときの処理対象物が有する電圧の極性が分かるので、その極性の電圧を第一、第二の電極に印加すれば、処理対象物を吸着装置から円滑に離脱させることができる。
【0017】
また、実際に真空処理を行うときと同じ極性で同程度の電圧を第一、第二の電極に印加して、処理対象物を吸着装置に吸着させた後、基板の表面電位を測定しておけば、帯電列によらなくても、吸着を解除したときの処理対象物が有する電圧の極性が分かるので、その極性の電圧を第一、第二の電極に印加すれば、処理対象物を吸着装置から円滑に離脱させることができる。
【0018】
本発明の離脱方法は、真空処理装置内に設けられた吸着装置に適応し、吸着装置に基板を吸着させ、成膜やエッチング等の真空処理を行った後、吸着装置から基板を離脱させるのに用いてもよいし、搬送機構に設けられた吸着装置に適応し、処理対象物を吸着装置に吸着しながら異なる真空処理装置間を搬送した後、基板を所定の真空処理装置内で離脱させるのに用いてもよい。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下で図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。
図1の符号1は本発明の吸着方法を用いた成膜処理に用いられる成膜装置の一例を示している。
【0020】
成膜装置1は、真空槽2と、真空槽2内の天井側に配置されたターゲット5と、真空槽2内の底壁側に配置された吸着装置10と、真空槽2外に配置された電源装置20とを有している。
【0021】
吸着装置10は、支持体11と、接触部12とを有しており、支持体11はセラミック等の絶縁材料が板状に形成されて構成されている。接触部12は第一、第二の電極16、17と、保護層13とを有している。
【0022】
図2は第一、第二の電極16、17の位置関係を示す平面図である。第一、第二の電極16、17は、櫛状にパターニングされた銅箔からなり、支持体11上に櫛の歯部分が所定間隔を空けて互いに噛み合うように配置されており、第一、第二の電極16、17間に電圧が印加されたときに、櫛の歯部分に均一な電界が形成されるようになっている。
【0023】
保護層13は、所定膜厚の絶縁材料の薄膜で構成されている。ここでは、保護層13は膜厚100μmのポリイミド樹脂フィルムで構成されている。保護層13は第一、第二の電極16、17の表面に密着して配置されており、この吸着装置10は接触部12が形成された面をターゲット5に向けて配置され、接触部12上に後述する基板を載置するときに、基板3が保護層13に接触し、電極16、17が保護されるようになっている。
【0024】
電源装置20は、直流電源21と、スイッチ22と、フィルタ24a、24bと、第一、第二の出力端子28、29とを有しており、第一、第二の電極16、17は第一、第二の出力端子28、29にそれぞれ別々に接続されている。
【0025】
第一、第二の出力端子28、29はスイッチ22の第一、第二の出力端子部27a、27bに接続され、スイッチ22の第一、第二の入力端子部26a、26bは、フィルタ24a、24bを介して直流電源21の第一、第二の電源端子部23a、23bに接続されている。
【0026】
スイッチ22は、外部信号により第一、第二の出力端子部27a、27bを第一、第二の入力端子部26a、26bのいずれか一方に接続するか、第一、第二の出力端子部27a、27b同士を接続するようになっている。
【0027】
スイッチ22を切り替え、第一、第二の出力端子部27a、27bを第一、第二の入力端子部26a、26bにそれぞれ別々に接続すると、第一、第二の電極16、17が第一、第二の電源端子部23a、23bにそれぞれ別々に接続されるから、例えば、第一、第二の電源端子部23a、23bからそれぞれ正負の電圧を出力すると、第一、第二の電極16、17にそれぞれ正負の電圧が印加されるようになっている。
【0028】
スイッチ22を切り替え、第一、第二の出力端子部27a、27bをそれぞれ第一の入力端子部26aに接続すると、第一の電源端子部23aはそれぞれ第一、第二の電極16、17に接続され、第一、第二の電極16、17に同じ大きさ同じ極性の電圧が印加される。このとき、第二の電源端子部23bは第一、第二の電極16、17のどちらにも接続されない。
【0029】
この成膜装置1を用いて処理対象物である基板3を成膜処理するには、先ず、真空排気系8によって真空槽2内に所定圧力の真空雰囲気を形成した後、石英ガラスのような絶縁材料からなり、抵抗率が1×1014Ω・cmを超える基板3を真空雰囲気を維持したまま真空槽2内に搬入し、接触部12上に載せる。
【0030】
スイッチ22を切り替え、第一、第二の電極16、17を第一、第二の電源端子部23a、23bにそれぞれ接続し、直流電源21を起動すると、第一、第二の電極16、17に正負の電圧(ここでは±2000V)が印加され、櫛の歯部分の間に電界が形成されて吸着力が発生し、基板3が吸着装置10に密着する。
【0031】
吸着装置10には不図示の加熱手段が設けられており、基板3が吸着装置10に密着した状態で吸着装置10を加熱すると、基板3が効率良く加熱される。次いで、真空槽2内にアルゴン(Ar)ガスのようなスパッタガスを導入しながら、真空槽2内に所定圧力の真空雰囲気を維持し、スパッタ電源6を起動し、ターゲット5に電圧を印加すると、ターゲット5がスパッタリングされ、基板3の表面に薄膜が成長する。
【0032】
その薄膜が所定膜厚まで成長したところでスパッタリングを停止し、スイッチ22を切り替え、第一、第二の出力端子部27a、27bと、第一、第二の入力端子部26a、26bとの接続を一旦切り離した後、スイッチ22内で第一、第二の出力端子部27a、27b同士を接続することで、第一、第二の電極16、17間を短絡させる。
【0033】
スイッチ22を切り替え、第一の電源端子部23aをそれぞれ第一、第二の電極16、17に接続し、第一の電源端子部23aが出力する電圧と同じ極性の電圧を第一、第二の電極16、17にそれぞれ印加する。
【0034】
上述した基板3と接触部12とを接触させた時の基板3の帯電極性は予め求められており、ここでは、基板3を構成する物質と、保護層13を構成する物質の帯電列上での位置関係から基板3が正に帯電することが分かっている。
【0035】
従って、第一の電源端子部23aから正の電圧を出力すれば、第一、第二の電極16、17の両方に正の電圧が印加されるので、正に帯電した基板3と、吸着装置10とが反発し、基板3を吸着装置10から容易に分離させることができる。
【0036】
【実施例】
<実施例1>
基板3を吸着装置10に±2000Vで60秒間吸着させた後、上述した離脱方法で第一、第二の電極16、17に正の電圧を印加したまま基板3を吸着装置10から離脱させた。このとき、離脱に要した力を残留吸着力(gf/cm2)として測定した。
【0037】
尚、離脱条件は、真空槽2内の圧力が1.0×10−4Paであり、第一、第二の電極16、17に印加する正の電圧が200V以上2000V以下の範囲にあった。また、第一、第二の電極16、17に正電圧を印加する直前、即ち第一、第二の電極に±2000Vの電圧を印加し、60秒後に電圧を印加した状態で基板3を引き上げて吸着力を測定したところ、その吸着力は21.5gf/cm2であった。
【0038】
離脱の際に基板3が吸着装置10から離れる様子を観察した。揺れることなく円滑に離れた場合を◎、僅かに引っ掛ったように見えた場合を○、揺れるが、搬送障害を起こす程ではない場合を△、搬送障害に到るであろう大きな揺れと引っ掛りを生じた場合を×として評価し、その評価結果と、残留吸着力と、離脱の際に第一、第二の電極16、17へ印加した電圧の大きさとを下記表2に記載した。
【0039】
【表2】
【0040】
<実施例2>
基板3を上述した工程で吸着装置10に吸着させた後、一方の電極に200V以上2000V以下の正の電圧を印加し、他方の電極に電圧を印加せずに浮遊電位に置き、基板3を吸着装置10から離脱させた。実施例2の離脱方法で基板3を離脱させるときの残留吸着力と、評価結果と、離脱の際に第一、第二の電極16、17へ印加した電圧の大きさとを上記表2に記載した。
【0041】
<比較例1>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17に電圧を印加せずに基板3を吸着装置10から離脱させた(None)。
【0042】
<比較例2>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17にそれぞれ吸着時とは反対の極性の電圧を印加し、電圧印加を停止した後、基板3を吸着装置10から離脱させた(逆バイアス印加、OFF後離脱)。
【0043】
<比較例3>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17にそれぞれ吸着時とは反対の極性の電圧を印加したまま基板3を吸着装置10から離脱させた(逆バイアス印加、ONのまま離脱)。
【0044】
<比較例4>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17に吸着時と同じ極性の電圧をそれぞれ印加し、電圧印加を停止した後、基板3を吸着装置10から離脱させた(同極バイアス印加、OFF後離脱)。
【0045】
<比較例5>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、第一、第二の電極16、17に吸着時と同じ極性の電圧をそれぞれ印加したまま基板3を吸着装置10から離脱させた(同極バイアス印加、ONのまま離脱)。
【0046】
<比較例6>
基板3を吸着装置10に吸着させた後、一方の電極に正の電圧を印加し、他方の電極を接地電位に置いた状態で基板3を吸着装置10から離脱させた。
【0047】
上記比較例1〜6の離脱方法で基板3を離脱するときに測定された残留吸着力と、測定結果と、離脱の際に第一、第二の電極16、17へ印加した電圧の大きさとをそれぞれ上記表2に記載した。
【0048】
<評価>
上記表2の比較例1の欄から明らかなように、吸着後に第一、第二の電極16、17に電圧を印加しない場合の残留吸着力は7.0gf/cm2であった。さらに、残留吸着力の大きさは電源をオフにした後の保持時間に依存しないこともわかった。
【0049】
例えば吸着終了後2秒時間を置いて測定した場合と30秒時間を置いて測定した場合とで、残留吸着力に差を生じなかった。この理由は、残留吸着力を発生させている原因が、基板3の表面と吸着装置10の誘電体(保護層13)表面において接触帯電により生じた静電気であるために、その残留吸着力は基板3と吸着装置10が接触している限り安定であるためと思われる。
【0050】
比較例2〜5のように、吸着後、第一、第二の電極16、17にそれぞれ正負の電圧を印加する場合は、吸着時と同じ極性の電圧を印加する場合も、吸着時と反対の極性の電圧を印加する場合も、残留吸着力を減衰させる効果のないことが明らかである。それに対し、実施例1の離脱方法のように、吸着後、第一、第二の電極16、17に同じ正の電圧を印加させた場合は、顕著な改善がみられる。
【0051】
吸着後、基板3を吸着装置から引き離し、基板3の保護層13と接触する面の電位を表面電位計で測定したところ、その電位はおよそ+200Vであった。そのため、第一、第二の電極16、17に正の電圧を印加することで、反発のクーロン力が発生して、残留吸着力の測定値を減少させ、同時に離脱を円滑に作用させているものと思われる。
【0052】
印加する電位を上げていくにつれ、反発が強くなり基板3の揺動が見られるようになり、離脱の円滑さを損なう結果となった。更に、実施例2の離脱方法のように、一方の電極へ電圧を印加せずに実験を行ったところ、効果が認められた。
【0053】
このことは、一方の電極に電圧を印加せず、一旦浮遊電位において、他方の電極に正あるいは負の電圧を印加すると、浮遊電位に置かれた電極側も同じ極性の電圧が印加される状態になることに起因している。
【0054】
この理由は、第一、第二の電極16、17が絶縁性の接触部12(ここでは抵抗率が1.5×1016Ω・cm)を介してつながっているため、接触部12の抵抗率の高い分、時定数による時間の遅れはあるものの片側の電極電位と等しくなるためと思われる。
【0055】
実施例2と類似のケースであるが、比較例6のように一方の電極を接地電位に置くと、その電極がゼロ電位となり、第一、第二の電極16、17間に電界が形成され、吸着力が発生するので、結果として残留吸着力が大きくなってしまう。
【0056】
以上の実験結果から、絶縁性の基板3の残留吸着力を減少させ、吸着装置10からの円滑な離脱を実現するには、第一、第二の電極16、17の両方に基板3が帯電したのと同じ極性の電圧を印加することが効果的なことがわかった。
【0057】
<その他の例>
以上は絶縁性の基板3として、高純度石英ガラスを用いたが、本発明はそれに限定されるものではない。耐熱ガラス(ここではパイレックスガラス(登録商標)、室温抵抗率1014Ω・cm)や、無アルカリガラス(室温抵抗率1016 〜 17Ω・cm)からなる基板3を離脱させる際に本発明の離脱方法を用いたところ、同様の効果が認められることから、単にガラスに留まること無く、ポリカーボネート等抵抗率が1014Ω・cm以上の高抵抗基板に対しても有効である。
【0058】
保護層13を構成する絶縁材料もポリイミドに限定されるものではなく、ポリカーボネートや、ポリエチレンテレフタレート、シリコーンゴム等種々の絶縁材料を用いることができる。
【0059】
以上は電極16、17上に保護層13が形成され接触部12とする場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、保護層13を設けず、第一、第二の電極16、17で接触部を構成し、第一、第二の電極16、17の表面に直接基板3を接触させることもできる。
【0060】
この場合も第一、第二の電極16、17に基板3を接触させた場合の、基板3の帯電極性を予め求めておき、吸着後、第一、第二の電極16、17に基板3の帯電極性と同じ極性の電圧を印加すれば、基板3を容易に離脱することができる。
【0061】
第一、第二の電極16、17を構成する金属箔は銅に限定されるものではなく、アルミニウム等銅以外の金属材料や、グラファイト等金属以外の導電性材料で第一、第二の電極16、17を構成することもできる。
【0062】
上記実施例1では、第一、第二の電極16、17に正の電圧を印加して基板3を離脱させたが、基板3と接触部12の材質の組み合わせによっては、接触帯電により基板3が負に帯電する場合も起こりえる。その場合は第一、第二の電極16、17に負の電圧を印加することで円滑な離脱が可能となる。
【0063】
同様に、実施例2では一方の電極に正の電圧を印加し、他方の電極に電圧を印加せず基板3を離脱させたが、接触帯電により基板3が負に帯電する場合には、一方の電極に負の電圧を印加し、他方の電極に電圧を印加しないことで基板3を離脱させることができる。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、予め基板と接触部とを接触させたときの基板の帯電極性が予め求められており、吸着後、基板の帯電極性と同じ極性の電圧を第一、第二の電極に印加することで、基板と吸着装置とが反発し、基板を容易に離脱することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に用いられる成膜装置の一例を説明する図
【図2】第一、第二の電極の位置関係を説明する図
【図3】従来の吸着装置を説明する断面図
【符号の説明】
3……基板(処理対象物) 10……吸着装置 12……接触部 16……第一の電極 17……第二の電極 20……電源装置 28……第一の出力端子 29……第二の出力端子
Claims (6)
- 吸着装置の接触部に処理対象物を接触させ、
前記接触部の第一、第二の電極に電圧を印加し、前記処理対象物を吸着した後、前記処理対象物を前記吸着装置から離脱させる離脱方法であって、
前記第一、第二の電極に正負の電圧をそれぞれ印加し、前記処理対象物を吸着する吸着工程と
前記第一、第二の電極に、正又は負の同じ極性の電圧を印加し、前記処理対象物を前記吸着装置から分離させる離脱工程とを有する離脱方法。 - 前記離脱工程は、前記処理対象物が有する電圧の極性と同極性の電圧を前記第一、第二の電極に印加する請求項1記載の離脱方法。
- 吸着装置の接触部に処理対象物を接触させ、
前記接触部の第一、第二の電極に電圧を印加し、前記処理対象物を吸着した後、前記処理対象物を前記吸着装置から離脱させる離脱方法であって、
前記第一、第二の電極に正負の電圧をそれぞれ印加し、前記処理対象物を吸着する吸着工程と、
前記第一、第二の電極のうち、いずれか一方の電極に正又は負の極性の電圧を印加し、他方の電極には、電圧を印加せずに前記処理対象物を前記吸着装置から分離させる離脱工程とを有する離脱方法。 - 前記離脱工程は、第一、第二の電極のうち、いずれか一方の電極に前記処理対象物が有する電圧の極性と同極性の電圧を印加し、前記処理対象物を前記吸着装置から離脱させる請求項3記載の離脱方法。
- 真空槽内に配置され、第一、第二の電極に印加された電圧によって前記真空槽内で処理対象物を吸着する吸着装置の、
前記第一、第二の電極に接続されるべき第一、第二の出力端子を有する電源装置であって、
前記第一、第二の出力端子から正負の電圧が印加される第一の状態と、
前記第一、第二の出力端子から同極性の電圧が出力される第二の状態のいずれの状態もとりうるように構成された電源装置。 - 真空槽内に配置され、第一、第二の電極に印加された電圧によって前記真空槽内で前記処理対象物を吸着する吸着装置の、
前記第一、第二の電極に接続されるべき第一、第二の出力端子を有する電源装置であって、
前記第一、第二の出力端子から正負の電圧が印加される第一の状態と、
前記第一、第二の出力端子のうち、一方の出力端子から正又は負の電圧が出力され、他方の出力端子から電圧が出力されない第三の状態のいずれの状態もとりうるように構成された電源装置。
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JP2009539684A (ja) * | 2006-06-05 | 2009-11-19 | エスアールアイ インターナショナル | 壁移動装置 |
JP2016115759A (ja) * | 2014-12-12 | 2016-06-23 | 株式会社アルバック | 真空処理装置、真空処理方法 |
JP2017126765A (ja) * | 2015-10-13 | 2017-07-20 | ヤス カンパニー リミテッド | 帯電処理による基板チャッキング方法及びシステム |
CN108470851A (zh) * | 2018-03-26 | 2018-08-31 | 京东方科技集团股份有限公司 | 基板处理方法和基板处理装置 |
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2002
- 2002-10-21 JP JP2002305389A patent/JP2004140277A/ja active Pending
Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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