庁内業務の多くを「Excel」と「紙」に頼っていた自治体が、「kintone」を導入したことで起こした“変化”とは——? 今回は、サイボウズが主催する「Cybozu Days 2024」より、山梨県・富士吉田市のDX担当者による講演をお届けします。前編では、kintone導入によりたった2年で激変した補助金申請業務フローの“ビフォーアフター”を紹介。担当者一人あたり52時間の残業削減を達成したポイントや、自治体業務への展開方法を詳しく解説します。
富士吉田市の自治体DXへの挑戦
瀬戸口紳悟氏(以下、瀬戸口):「kintoneで始める自治体DX―ボトムアップ型で進める富士吉田市の挑戦―」のセッションへお越しいただきまして、ありがとうございます。
富士吉田市には、kintoneの活用を数年前から実施いただいておりまして。特に2024年は、サイボウズが主導する
「自治体まるごとDXボックス」キャンペーンにも参画いただきました。それを1つのきっかけに、庁内展開を進めていただいている自治体です。
サイボウズのkintoneの自治体での活用に関しましては、本日は自治体系のセッションがいろいろとございます。もしかしたら、先ほどまでやっていた防災の事例での神戸市の話や、神奈川県庁のセッションなどを、お聞きいただいた方もいらっしゃるかなと思うんですけれども。
全国で1,700以上ある中で、350を超える自治体に現在ご活用いただいているkintone。その自治体の1つとして、富士吉田市は非常に活用を進めていただいている自治体です。本日はぜひお話をおうかがいして、みなさまの参考にしていただければと思います。
では最初に、本セッションのアジェンダを話させていただきます。まず、「はじめに」を話させていただいた後に、富士吉田市の小俣さまをお呼びして、プレゼンテーションを実施いただきます。
その後、「Q&Aセッション」で、事前に用意した質問をこちらからさせていただき、最後の「おわりに」に進んでいきたいと思います。よろしくお願いいたします。
最初に、私の自己紹介を簡単にさせていただきます。サイボウズ株式会社 ソリューション営業部 公共グループに所属しております、瀬戸口紳悟と申します。

2019年にサイボウズに転職して、その後、パートナー営業部、営業戦略部、ソリューション営業部と一貫して公共のビジネスを担当しております。現在は主に自治体専属で担当している者でございます。
キャンプやツーリング、アウトドアと趣味がいろいろありまして、最近は釣りがマイブームです。もしそういったところに馴染みがある方がいらっしゃったら、お声掛けいただければうれしいなと思います。
私の自己紹介はこれぐらいにして、ここから実際に富士吉田市の小俣さまをお呼びして、「kintoneで始める自治体DX」ということでプレゼンテーションをいただきたいと思います。では小俣さま、よろしくお願いいたします。
富士吉田市のDX推進担当が登壇
小俣貴司氏(以下、小俣):みなさんこんにちは。「kintoneで始める自治体DX―ボトムアップ型で進める富士吉田市の挑戦―」として、お話しさせていただきます。まず簡単に、自己紹介をさせていただければと思います。
小俣と申します。今日は山梨県から来ました。本来の所属は富士吉田の市役所なんですけども、今は出向中で、富士吉田の市立病院管理課で勤務しています。
2024年4月から、市全体のDXの推進担当も兼務しています。2023年5月のサイボウズさんの「サイボウズカレッジ」というオンラインセミナーや、2023年の「Cybozu Days」でも登壇をさせていただきました。

ちなみにこれがそうなんですけども、左が僕です。左から2番目の、明日のAWARDに登壇する、成田デンタルのよしぼーさん(吉原大騎さん)とも一緒に登壇させてもらいました。kintone認定のアソシエイトや、アプリデザインスペシャリストという資格も持っております。一応X(@OMATAKA39)もやっていますので、よろしければフォローいただければうれしいです。
「ちょうどよいまち、富士吉田」とは
小俣:今日は、このようなかたちで話をさせていただければなと思っております。まず、富士吉田市について簡単に紹介をさせてください。「ちょうどよいまち、富士吉田」ということで、今は人口が4万7,000人を切っていて、市街地がまとまっていてコンパクトです。産業については「織物と観光のまち」と覚えていただければけっこうです。

気候については、夏は涼しくて過ごしやすいんですけども、冬はめちゃめちゃ寒いです。交通は、観光地なので、全国どこからでも来られます。バス1本で、新宿から90分で行くことができるので、意外に便利なんです。
「織物と観光のまち、富士吉田市」について、今日は4つ、紹介をさせていただきます。まず、富士吉田市といえばやはり富士山と思ってください。市内のどこからでも富士山が見られるのがポイントとなっています。

左上の富士山と五重塔と桜。この日本を象徴する景色が一度に見られるスポット、新倉山浅間公園があるんですけども、これがSNSでバズって、今、インバウンド需要が増加しています。国内外から大人気というところがポイントとなっています。

それに伴って、富士山の麓でトレッキングもできるし、富士急ハイランドで絶叫も楽しめます。キャンプも、マウンテンバイクもできますので、いろんなアクティビティを楽しんでいただければと思っています。
実はふるさと納税で3年連続ベスト10入り
小俣:富士吉田市なんですけれども、富士山を上にして、上が上吉田で、下が下吉田という2つの地域に大きく分かれています。そのうちの上吉田については、「富士山信仰の街・御師(おし)の街」と言われております。

これは昔、富士山は神さまが宿る山だということで、全国各地からいろんな方が登りにきていたんですけども。その登山者の案内や世話をしたのが「御師」と呼ばれる方だったということがありまして、その御師の家が今も残っているのが上吉田になります。
下の街、下吉田は、ハタオリマチ(機織り町)としての歴史があります。江戸時代から高級織物の産地として栄えていました。一時的に衰退してしまったんですけども、近年は若手の職人さんたちが立ち上がって、もう一度、盛り上げようと奮闘中です。今は「ハタオリマチフェスティバル」というイベントもやっていて、4万人ぐらいのお客さんが来るイベントになっています。

これはグルメですね。日本一硬い「吉田のうどん」があります。本当に日本一硬いのかはちょっとわからないんですけども。吉田のうどんにもハタオリマチが関係していて、昔は主に女性が機を織っていたので、男性が食事を作る文化がありました。なので、男性が力強く打つことでコシが強くなったうどんが発展していきました。

うどん以外にも、空き家をリノベーションした飲食店などが続々とオープンしていますので、観光に来られた際にはチェックしていただけるといいかなと思います。
今日一番言いたいことは、富士吉田市はふるさと納税がけっこう有名で、3年連続でベスト10に入ったこともあります。2023年度はベスト16ぐらいになってしまったんですけども、全国上位にいるという特徴があります。特産品は特にないけども、おもてなしを大事にしているので、みなさんもぜひ一度チェックしていただけるとうれしいです。ここまでが富士吉田市の紹介になります。
移住者を増やす取り組みにkintoneを活用
小俣:ここからは、以前、僕が所属していた地域振興・移住定住課という、移住者を増やすための取り組みをしていた課があるんですけども、そこでのkintone活用についてお話をさせていただければと思います。
移住者を増やす取り組みとして、市独自の補助金制度が8種類ぐらいありました。その作業は、ちょっと面倒くさいものが多かったので、それをkintoneを使ってどうにか効率化したよという話です。
まずは、kintone導入前です。約8種類の補助金それぞれに紙の申請書類が提出されるので、それらをすべて管理するために、Excelに転記しなければいけないという作業が発生していました。

それとともに、窓口での申請しか受け付けていなかったので、窓口対応も必ず発生している状況でした。まず、申請書を受け取りにきた際と、持ち帰って書類を集めて再度提出してもらう時の、最低2回の対応が必要だったので、そういった補助金の業務があったという部分。
それにプラスして、どうしたら人口が増えるのかという企画系の業務もあったので、複雑な業務も絡んでくる。そんな中で補助金の業務をどうにかして効率化したい思いがありました。
やりたいことを実現できるツールや先進事例との出会い
小俣:そういった中で、自分がやりたいことのイメージをまず固めました。それがこの3つですね。「集計の自動化」「データベース化」「オンライン申請」です。
この3つに軸を置いて、どういったツールが使えるのかを検討したところ、行き着いた先にあったのが、kintoneとトヨクモさんのFormBridgeでした。この組み合わせを使えば、効率化できるんじゃないかと思いました。
うれしかったのが、先進自治体の事例があったことです。神戸市や加古川市などいろいろな事例があったので、これが上長を説得する際の一番のアピールポイントだったと思います。そんなこんなで、スモールスタートでkintoneとFormBridgeを入れることができたんですけども。
その導入当初、kintoneをどのように使ったかというと、このような感じで、住民からのアンケートなどの簡単な申請ツールとして活用をしていました。あとは補助金の自動集計など、データベースとしての活用にも使っておりました。

まずは、こういったkintoneの基本機能や操作方法を覚えるということで利用をどんどん進めていきました。kintoneのやり方を覚えるところからスタートしていったことになります。
そこから、現在の利用範囲や用途は、ここまで広がっております。まずは予約システムですね。トヨクモさんのkViewerとFormBridgeを使った予約システムを使ったり。市民全員を対象とした補助金の申請にkintoneを活用したりというところまで広がりました。

それとは別に、庁内の事務改善ツールとしても活用しています。これはどういったものを使っているかというと、ここにあるように消耗品の請求や、郵便の発送報告、公用車の給油場所の確認なんていうものにも使っております。
これは一見すると地味なんですけれども、多くの職員が意外に活用する場面でkintoneを使うことによって、そもそもの「kintoneって何?」という認知度を高める目的もありました。
データが重すぎて、Excel更新1回でも約30分がかり
小俣:今日はその中から、オンライン申請の部分を紹介させていただければと思います。これはコロナ禍に2回行った、市民1人に1万円を給付した際の給付金管理でkintoneを活用した事例になるんですけども。
1回目の時は、kintoneの導入前だったので、kintoneを使わずにすべてを紙で行ったものになります。それがこの業務フローで、コロナ撲滅支援金事業というものになりますね。

まず申請書を市民全員に配布して、そこから窓口で提出してもらったり、郵送してもらったりで送られてきます。それらをすべて開けて、必要な情報をExcelの給付金台帳に転記するという業務フローになっております。また、それとは別に、委託業者に口座情報をまとめてもらうという業務もあります。
あとは、審査や管理を受付などの工程管理のExcelで管理していました。そもそもなんですけども、事務処理量が膨大すぎたので、企画課だけではまかない切れずに、全庁的な応援体制が必要という課題がありました。
それともう1点。「データが大きすぎたので、Excelの処理時間が多大だった」とあるんですけども、1回Excelを更新するのに約30分かかったという話もうかがっています。普通にあり得ないですよね。怖すぎるので、よくやったなというのが正直な感想です。
あと、工程ごとに別のファイルを使用していたので、一元管理ができていなかったのも課題となっております。なので、今誰が不備なのか、誰がOKなのかというのが、別々のファイルを見なければわからない状況でした。
kintone導入で変わった給付金管理フロー
小俣:ここから約2年後の2022年度について、もう1回企画課で、今度はコロナじゃなくて「物価が高騰したから市民1人に1万円を配る」という事業がありました。もうその時にはkintoneは入っていたので、今度は「kintoneを使ってどうにかできないか?」との相談を受けて、このような業務フローに変わりました。

申請書は市民に配るんですけども、そこにQRコードと認証番号を埋め込むことで、Web申請が可能になりました。なので、QRコードから読み取ってもらえれば、FormBridgeで自動的にkintoneに入ってきます。もしくは申請書を出してもらう方については、認証番号を入れることによって、kintoneでマスタからデータを取得できるようになっております。
審査自体はkintoneですべて行って、そこからPrintCreatorを使って帳票を出力し、交付決定の通知書を出すというかたちになります。これで事務の効率化自体が本当に図られたので、今までは全庁的に応援体制が必要だったものが、職員だけでかなり対応可能になったのが大きなポイントです。
さらに、今までは1回Excelを更新するのに30分かかっていたのが、kintoneの保存ボタンを押せば更新されるようになったので、シームレスな事務がそもそも可能になっています。
さらに、今まで別々のファイルを開かなければわからなかった進捗状況が、kintoneを見ればすべてわかるので、情報共有が本当に早くなったというのが一番大きなポイントだと思っています。
2020年のkintoneを使わなかった時は、メイン担当者の残業時間がマックスで71時間あったんですね。それがkintoneを使ったことによって、最高でも19時間になっております。なので、担当者1人当たり、約52時間の残業を削減ができたというのが大きな効果になっています。
庁内にkintoneを展開させる方法
小俣:このように、いろいろなことにkintoneを活用しているんですけども、庁内におけるkintoneの展開方法についてもお話をさせていただければなと思っております。
大きく分けて2つしかないんですが、まずはkintoneのアプリを実際に構築する「定期的なハンズオン研修」です。これによって、kintoneの基本機能や操作について習得してもらうのが狙いで、裾野を広げるような内容になっております。

あと1つは、「アジャイル方式による庁内サポート」。具体的には、「何かの業務をkintoneでなんとかしたい」という話があった場合に、個別にヒアリングをさせていただいて、デモアプリを作成、1回テスト、改修を繰り返して本番稼働というかたちで、今はいろいろなアプリを動かしています。
この2つの方法によって、利用可能なアプリの数を徐々に増やしていったんですけども、数が増えるにつれて、運用ルールもやはり必要になってきます。そちらについても、最低限のルールで回しております。
基本的には自由にアプリを作成できる「テストスペース」を設けています。申請を行うと課のスペースが追加されて、そこを業務利用できるというかたちで対応しております。

トヨクモさんの連携サービスについても、一定のセキュリティ対策を前提に、職員が自由に設定できます。なので、職員自身が好きなタイミングでWebフォームを公開できるようになっております。
ここまで話をさせていただいて、利用する人としない人の差が、ある程度出てきたんですね。kintoneは3つの特徴があると思います。「データベース」と「プロセス管理」「コミュニケーション」。この3つの特徴のうち、基本的にはデータベースをメインに使っているかたちになります。
ただ、自分個人の思いとしては、「kintoneをフル活用したい」と思った時に、プロセス管理やコミュニケーションを使うとなってくると、どうしても全職員のアカウントが欲しくなってきます。なので、ここからは、「全職員アカウントを目指して」という話をさせていただければと思います。