日本伝統の麺といえば、「そば」と「うどん」が二大巨頭でしょう。ただ、「そうめん」の躍進も見逃せません。もともとは奈良時代に中国から伝わり、貴族の食べ物として広まったそうめんは、最も歴史が古く由緒正しいルーツを持っているのです。
最近は注目度が高まっていて、東京では専門店が続々オープン。おいしさに開眼するそうめんファンも増えています。また、全国に目を向けるとスーパーでは見かけない高級品や個性派などもたくさん。そこで、そうめん研究家として活動するソーメン二郎さんに、イチオシのご当地そうめんを数種類教えてもらいました。あわせて、おすすめのご当地つゆも紹介します!
ソーメン二郎さん。奈良県桜井市「三輪そうめん 亀屋 植田製麺所」の家系に生まれ、そうめん復権活動として全国を食べ歩いています。ブログ「そうめん道」を主催するほか、著書に「簡単! 極旨! そうめんレシピ」(扶桑社)があり、2019年6月7日には企画した絵本「そうめんソータロー」(作:岡田よしたか/ポプラ社)が発売。さらに、絵本のテーマ曲「そうめんソータロー」(歌:福原希己江/フォーライフ)も同日よりデジタル配信されます
あえて有名な「揖保乃糸」以外でお願いしたところ、ソーメン二郎さんがピックアップしたのは、9つのそうめんと2つのつゆ。この数にピンときた筆者は、さらにお願いしてこれらの商品を野球チームになぞらえてもらいました。ということで、そうめんは打順とポジション、つゆはエースと抑えという形でリスト化。加えて、そうめんは「太さ」「コシ」「長さ」の評価とともに解説します!
色鮮やかだったり、生麺タイプがあったり、バラエティ豊かなそうめんがラインアップ!
読み方は「しろいしうーめん」で、特徴はその短さ。「温麺」という名前ですが、分類上はちゃんとそうめんの一種です。「温」という字が使われていますが、これは「温かな思いやり」が由来と言われており、必ずしも温かいつゆで味わうということではありません。とはいえ、人気の食べ方は温かいほうです。
一般的なそうめんが約19cmなのに対し、白石温麺は約9cmと半分以下の短さです
「製法も特徴的。一般的なそうめんは、表面の乾燥を防ぐために油を塗るんですけど、これは違います。伊達藩・白石城下の商人が、胃を病んでいる父をいたわって、油を使わないそうめんを作ったのが起源。短くて食べやすいのもポイントですね。だから1番ショートで。個人的には味噌汁にちょっと入れたり、サラダ用に使ったりするとマッチすると思います」(ソーメン二郎さん)
寒期に、瀬戸内の澄んだ寒風と天日干しで作られる、伝統的な小豆島そうめん。また、瀬戸内産の塩やゴマ油を100%使うなど、その地ならではの製法にこだわるのも特徴です。また、小豆島といえば日照時間が長いことからオリーブ栽培も盛ん。その特色を生かし、ゴマ油ではなくオリーブオイルで作るのが、翡翠(ひすい)色のオリーブそうめんです。
ゆで上げはオリーブで。清涼感あふれる色合いで、パスタやソーメンチャンプルーのように調理するのもおすすめとか
「小豆島そうめんは『島の光』というブランドが有名ですけど、どの製麺所もハイレベル。オリーブそうめんのほうがインパクトはあるのですが、プレーンの小豆島そうめんも味わってほしいので、2色セットをチョイスしました。2色ということで2番セカンドかなと。これはつゆではなく、アルデンテにゆでてオリーブオイルと塩で味わってほしいですね」(ソーメン二郎さん)
オリーブオイル×塩の食べ方は、このように小さい器にそれぞれを入れてもいいし、麺の上からかけてもOK。お好みで粉チーズをあしらうと、よりイタリアンテイストに。「オリーブそうめんはもちろん、どんなそうめんでもいいので、ぜひお試しを!」(ソーメン二郎さん)
徳島県つるぎ町(旧半田町)の名産品。一般的な手延べそうめんの太さは1.3mm未満ですが、半田そうめんはそれより太い1.7mm前後で、分類的には冷や麦と同程度です。ただ希少性が高く麺の食感にも特徴があり、強いコシともちもちの弾力が魅力的。
太さがあるため、ゆで上がりのボリュームも多めです
「これはクリーンナップに入れたいですね。どっしりとした安定感のある食べごたえなので、キャッチャーかな。この商品は1年熟成されている点にも注目です。こういった熟成タイプをそうめんでは『ひねもの』と呼び、コシとうまみがより豊かになるんですね。ちなみに、東中野が本店の『阿波や壱兆』は東京のそうめん専門店のパイオニア的な存在で、半田そうめんを使っています。あと、有名な秘密結社をもじった『フリーソーメン』の、半田そうめん無料配布活動も見逃せませんよ」(ソーメン二郎さん)
そうめん発祥の地と言われる、奈良県桜井市を中心とした三輪地区の手延べそうめん。極細ながらコシが強く、ゆで伸びしにくいのが特徴。味としてはのど越しがよく、ツルっとした抜群の清涼感を楽しめます。
今回の中で一番の細さ。みずみずしく、洗練された印象のシュッとしたテクスチャー
「先ほどの半田そうめんもでしたが、これも熟成させた古物(ひねもの)を使っています。僕の地元でもあるのですが、そうめんの元祖ですし味も絶品。そこには職人さんの超絶技巧が発揮されていて、僕も全国を巡りましたがやっぱり三輪そうめんは別格です。ということで4番ピッチャー。地元では多くの家庭が箱で保存しているので、その文化ごと楽しんでほしいですね」(ソーメン二郎さん)
5色のそうめんで有名な製麺所による、7色のカジュアルアップ商品。プレーン、柚子、梅、伊予柑、抹茶、クチナシ、黒ゴマの詰め合わせで、自然素材と天然色素を練り込んだ色麺をクレヨン風のデザインで包装しています。中にノートが入っており、かわいらしいパッケージなので、お子さんへのプレゼントにもおすすめ。
7色の中から、クチナシと黒ゴマをボイル。ゆで上げた時点から香りがただよいます
「カラーアソートのそうめんはほかの地域にも見られますが、有名なのは愛媛・松山の『五色そうめん』。色彩系の元祖とも言われています。このデザインを江戸時代の1722年に考案して今に至るという創造性も見逃せません。天然の原材料を練り込んでいて風味がよく、コシも十分なのでそうめんとしてのおいしさもしっかり。まずは何もつけず、あとは塩やオリーブオイルで食べるのがおすすめです。『日本ギフト大賞2019』の愛媛賞に輝いているなど、権威もあるので贈りものに喜ばれるでしょう」(ソーメン二郎さん)
島原そうめんは、全国の生産量の約3割を占めるほどの一大勢力。それだけ技術も高く、細さと舌触りとコシへのこだわり、そして小麦の風味も豊かなハイクオリティなそうめんです。九州でのシェアはもちろん沖縄でも重宝され、本場のソーメンチャンプルーは島原そうめんで作るのが主流。
細めながらゆで伸びしにくく、コシもしっかりでもちもち感も。正統派な感じがします
「『日本三大そうめん』は、三輪そうめんと揖保乃糸と、あと島原か小豆島と言われているのですが、それだけ歴史と人気を持っているそうめんですね。そのままでも、チャンプルーのように炒めてもよしという万能型で、6番サードにしたいと思います。木箱の贈答用としてもおすすめできますよ」(ソーメン二郎さん)
香川には前記の小豆島そうめんがあるものの、そもそも讃岐うどんがソウルフードの小麦王国。その技術で生み出されているのが、この生そうめん。そうめん=乾麺という概念を覆す意欲作で、ゆで時間が40秒というクイックさもポイントです。さらにこの商品は、プレーンのほかに梅とオリーブの3色アソートになっている点も秀逸。サプライズ感にあふれる逸品です。
ゆで上げは梅で。清涼感あふれる色合いで、パスタやソーメンチャンプルーのように調理するのもおすすめとか
「生麺はほかの地域にもあるのですが、アソートがおもしろいのでこれを選びました。紅白でラッキ―かつ、生麺好きやうどんファンにもいけるという守備範囲の広さで7番センター。熟成されてなく、賞味期限は短いのですが、生らしいフレッシュな味わいは唯一無二。梅とオリーブは香りもより新鮮です。あと、讃岐うどんほどの強烈なコシはありませんが、もちもちしていて絶品です」(ソーメン二郎さん)
「おおかど」と読み、細く長い麺がくるっと巻かれたユニークな形の手延べそうめんです。歴史を感じさせるデザインの和紙で包まれ、その中に丸まった乾麺が4玉。手で割ってからゆでるのが調理のコツらしく、和紙の裏面に割り方が描かれています。
試しに、割らずにゆでたところ、かなり長くて食べにくい結果に。割らずにゆでた場合は切りましょう
「8、9番あたりには“秘密兵器”的な個性派を選びました。まずはこちら。地元の清流庄川の水を使った、北陸の自然味あふれるそうめんです。日本海側のご当地そうめんって、珍しいんですよ。趣を感じさせる包み紙には、製造者の名前まで書かれていて、矜持を感じさせます。コシは強めなのですが、加水率が低めという特徴もあって、パツッとしたしなやかさが独特です」(ソーメン二郎さん)
北原白秋の出身地である熊本県南関町の名産。そんな南関そうめんには白髭そうめんと曲げそうめんがあり、前者は生産者が少数で幻の存在に。現在の主流は後者の曲げそうめんで、今回紹介するのも曲げそうめんです。白髭ほどではないものの、こちらも製麺所はわずかで希少な品。曲げて束ねた独特のルックスは、このそうめんだけの特徴と言えるでしょう。
大門そうめんと同じく、こちらもゆでる前にカットするのがベター。ただ、ハサミなどでは切りにくいため、素手で折ることが推奨されています
「300年以上の歴史があると言われてますが、僕がそうめん本を出したとき、現地の製麺所は9軒でした。生産者は全国で減少していますが、南関はひと桁ということで、最も応援したい地域のひとつ。機械を一切使わない完全手作りのそうめんで、大量生産ができないため商品の存在自体が希少です。しっかりしたコシと、ハンドメイドならではのシコシコした歯触りが絶品。熊本みやげとしても覚えていただきたいですね!」(ソーメン二郎さん)
ストレートタイプ。濃い褐色ですが、真黒ではありません
「流しそうめん発祥の地として名高い、宮崎県高千穂地方で重宝されているご当地つゆ。九州のダシとしてポピュラーな焼きあご(トビウオの焼き干し)をベースにカツオ節や昆布などを効かせ、甘味はハチミツで演出しています。焼きあごのふくよかな香りあふれる濃厚な味わいで薄まりにくく、そうめんにぴったりですよ」(ソーメン二郎さん)
2倍希釈タイプ。ゴマの風味が豊潤で、ドレッシングやしゃぶしゃぶのタレとしても使えそうです
「『ポールスタア』という、無添加にこだわる東村山のソースメーカー製。ソース業界でもクオリティの高さで知られるおいしいものづくり精神が、このつゆにも如実に反映されています。味はゴマの香ばしさと、キレのある甘さが際立って激ウマ。一般的な醤油(しょうゆ)系のつゆに飽きたらこれで“味変”を!」(ソーメン二郎さん)
なお、つゆより手軽にご馳走感を出せる調味料開発に、各メーカーが力を入れはじめている、とソーメン二郎さん。たとえばエスビー食品の「麺日和」、丸美屋の「かけうま麺用ソース」、「ぶっかけそうめんの具」などがあり、新商品も登場しています。
エスビー食品「麺日和」シリーズの梅かつおと、丸美屋「かけうま麺用ソース」シリーズの麻辣麺の素。どちらも今季の新作です
夏本番を控え、ますますそうめんが食べたくなるでしょう。ぜひ本稿を参考に、ワンランク上のそうめんライフを。そして、1年を通してそうめんを食べるようになっていただけたらうれしいです!