公開時の宣伝などでは、〝お化けカボチャ〟ヘイスタック・カルホーンやマクガイヤー兄弟を思わせる強烈なビジュアルが目引いた…と言ってもわかる人は熱烈なプロレスファンだけだろうが😅
「レスラー」「ブラック・スワン」などで人間の内面を徹底的に描き出したダーレン・アロノフスキー監督が、アパートの一室というワンシチュエーションで描いた孤独な男の最後の5日間。
戯曲が元になっている映画だけあって舞台設定がいかにも演劇的だ。ほとんど全ての物語が、主人公チャーリー(ブレンダン・フレイザー)の住む日当たりの悪いアパートと、玄関のドアを開けた廊下で展開される。
横を切り詰めたような正方形に近い画角は、否が応でも登場人物に目が集中する。更にこの狭い画角がチャーリーの272kgの巨体に似つかわしくないアパートの窮屈さをより強調する。
彼の部屋を訪ねてくる4人の登場人物とのやり取りから、彼が精神的な苦悩から過食に走ってしまった経緯が連想される。
タイトルの「ザ・ホエール」は、過食によって巨大化した彼の姿と共に、劇中でも言及されるハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」(The Whale)に由来している。
「白鯨」は片足を失ったエイハブ船長が白鯨に怒りを燃やし、復讐のため白鯨を倒す事だけに自分の人生を費やす姿が描かれているが、本作では、思春期真っ只中で素行不良の娘エリーが、まるでエイハブ船長さながらの怒りを自分と母親を捨てた父親のチャーリーに対してぶつけるのだ💢
この2人の関係性の変化を中心に、アパートを交互に訪れる少ない登場人物が、チャーリーに対して関わっていく。
チャーリーは、何故延々と食べ続けるのか?
エリーはチャーリーのことを許すのか?
看護師は何故チャーリーを看護するのか?
妻は何故、娘をチャーリーに会わせなかったのか?
様々な疑問の答えは観る者に委ねられる。
劇中、常に降り続けていた雨がようやく上がると玄関から眩い光と共にエリーが現れる。果たしてそれは現実か、それとも幻か。
〈余談ですが〉
特殊メイクが話題となった主演のブレンダー・ブレイザーと言えばアクション・アドベンチャー「ハムナプトラ」シリーズで一世を風靡したイケメン俳優だったが、ある時期からパッタリと表舞台から消えてしまった。
後から聞いた話では、当時のハリウッドの大物からのセクハラを告発した為、 仕事を干されたり、当時のショックが仕事に大きな影響を与え、キャリアの低迷につながったということだ😢
そんな彼にとって本作は、正に一発逆転の復活ホームランという感じの映画だった。アカデミー主演男優賞の感動的なスピーチも忘れられない😊