本発明は、レーザ光源が発するレーザ光を非線形光学効果により波長変換する波長変換レーザ装置に関する。
可視レーザ光や紫外レーザ光を得るための様々な波長変換レーザ光源が開発並びに実用化されてきている。このような波長変換レーザ光源は、例えば、非線形光学効果を用いた波長変換により、Nd:YAGレーザやNd:YVO4レーザから発せられる光を可視光である緑色光に変換する。或いは、波長変換レーザ光源は、変換された緑色光を更に紫外光に変換する。これらの可視レーザ光や紫外レーザ光は、例えば、物質のレーザ加工やレーザディスプレイ等の光源などの用途に用いられる。
このようなレーザ光源は、Nd:YVO4といった固体レーザ媒質と、ニオブ酸リチウムといった波長変換素子を含む。特許文献1乃至3は、接着剤を用いることなく、光学的に接合された固体レーザ媒質及び波長変換素子を備えるマイクロチップ型の波長変換レーザ光源(オプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源)を提案する。マイクロチップ型の波長変換レーザ光源の出力は、大きくても10mW程度である。マイクロチップ型の波長変換レーザ光源は、例えば、レーザポインタや照準器用の光源として用いられる。
特許文献1のマイクロチップ型の波長変換レーザ光源は、固体レーザ媒質と波長変換素子との光学的な接合における製造歩留まりの向上を目的とする。特許文献1は、当該目的を達成するために、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合面積を拡大することを提案する。
特許文献2のマイクロチップ型の波長変換レーザ光源は、固体レーザ媒質と波長変換素子との境界面に配設された光学薄膜を備える。特許文献2は、光の散乱を抑制するための固体レーザ媒質と波長変換素子との接合方法を提案する。先行文献によれば、固体レーザ媒質と波長変換素子との境界面(接合面)における伝搬する光の散乱や損失を可能な限り低減させることが必要である。
固体レーザ媒質と波長変換素子とを組み合わせて形成された光学素子に対して、長時間、レーザ光が入射されると、光学素子から出力されるレーザ光の出力は、時間の経過とともに低下する。
図50は、上述のレーザ光の出力低下の課題を説明するプロット図である。図50を用いて、レーザ光の出力低下が説明される。
図50のプロット図の縦軸は、光学素子からのレーザ出力強度(高調波出力)を示す。図50のプロット図の横軸は、光学素子の駆動時間を示す。図50は、オプティカルコンタクトされた固体レーザ素子及び波長変換素子を備える光学素子の特性を例示する。図50のプロット図を得るために用いられた光学素子は、外部から入射された励起レーザ光を波長変換し、緑色レーザ光を出力する。
図50のプロット図によれば、緑色レーザ出力の低下は、光学素子が緑色レーザ光を出射してから数十時間で開始する。この出射光の出力低下は、波長変換後のレーザ光の出力が100mW程度であれば、ほとんど観測されない。しかしながら、光学素子が、500mW以上(特に1000mW以上)のピーク出力の光を出力するとき、顕著な出力低下が確認される。
特開2008−102228号公報
特開2008−16833号公報
特開2000−357834号公報
本発明は、光学素子の長時間の駆動に起因するレーザ光の出力低下を抑制するための光学素子、当該光学素子を備える波長変換レーザ光源及び当該波長変換光源を用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
本発明の一の局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波光を発生するための固体レーザ媒質と、前記基本波光を、前記基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する波長変換素子と、該波長変換素子に接する導電性材料と、を備え、該波長変換素子は、複数の分極反転領域が形成された分極反転構造を含み、前記導電性材料は、前記分極反転領域と垂直に交わる第1側面に接することを特徴とする。
本発明の他の局面に係る光学素子は、基本波光を発生するための固体レーザ媒質と、前記基本波光を、前記基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する波長変換素子と、を備え、前記固体レーザ媒質は、前記波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、該接合面と反対側の対向面と、を含み、前記接合面の面積S1は、前記対向面の面積S2よりも大きいことを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、前記光を前記光学素子に集光する集光光学要素と、を備え、前記光学素子には、前記光の偏光方向に延びる突起部が形成されることを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、前記光を前記光学素子に集光する集光光学要素と、を備え、前記光学素子は、前記光に基づき生成されたレーザ光を出力するための出力ミラーを含み、前記固体レーザ媒質に添加されたレーザ活性物質の濃度は、前記励起光源から前記出力ミラーに向けて低下することを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る光学素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を有する第1光学部材と、前記第1主面に水素結合を介したオプティカルコンタクトされ、前記第1主面とともにレーザ光が透過可能なオプティカルコンタクト面を形成する第2主面を含む第2光学部材と、前記オプティカルコンタクト面を封止する封止部材と、を備え、前記第2主面は、少なくとも部分的に鏡面研磨され、前記第1光学部材及び該第1光学部材とは異なる物質から形成された前記第2光学部材のうち少なくとも一方には、前記オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成され、前記凹部又は切欠部に配設された前記封止部材は、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うことを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備え、前記光学素子の前記オプティカルコンタクト面は、前記光学素子を伝搬する前記光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能することを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備え、前記第1光学部材及び前記第2光学部材のうち少なくとも一方の形状は、前記光の伝搬方向に沿ってテーパ状に形成され、前記伝搬方向に垂直な前記光学部材の断面は、前記光学素子中を伝搬する前記光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能することを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る画像表示装置は、光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源に電流を供給するレーザ駆動回路と、前記光を変調し、画像を形成する変調素子と、前記変調素子から出射される光を反射する反射ミラーと、前記変調素子を駆動するコントローラと、を備え、前記レーザ光源は、上述の波長変換レーザ光源を含むことを特徴とする。
一般的なオプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源を概略的に示す図である。
出力光のファーフィールドビーム形状を撮影した写真である。
第1実施形態に従う波長変換素子並びに波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の構成を概略的に示す図である。
レーザ光源の動作時間と高調波出力の関係を示すグラフである。
分極反転構造を有するニオブ酸リチウムの「y面」を覆う導電性材料を有するレーザ光源が連続運転されたときの出力変化を表すグラフ並びに連続運転されているレーザ光源から出力されたレーザ光の横モード形状を表す写真である。
導電性材料の種類、導電性材料の抵抗率及びレーザ光源の出力低下に対する抑制効果をまとめた表である。
第2実施形態に従う波長変換素子並びに波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の構成を概略的に示す図である。
図7に示される波長変換レーザ光源が備える第1光学素子の概略的な斜視図である。
第1光学素子に波長808nmの励起光が入力され、第1光学素子から1000mWの緑色光が出力されるようにレーザ光源が連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動を表すグラフ並びにレーザ光源の連続運転中の横モード形状を撮像した写真である。
第3実施形態に従う波長変換レーザ光源に用いられる光学素子の構成を概略的に示す模式図である。
レンズ部の曲率半径「r」とレンズ部の加工高さとの関係を示すプロット図である。
レーザ光源の連続運転中の横モード形状を撮像した写真並びにレーザ光源が連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動を示すプロット図である。
連続点灯試験の結果を示すプロット図である。
高出力での連続点灯の結果、出力低下或いは出力停止が生じたときの光学素子を概略的に示す。
整列した複数の光学素子を含む光学素子列の斜視図である。
図15に示される光学素子列の平面図である。
図15に示される光学素子列から分離された光学素子の斜視図である。
バー形状の光学素子列及び光学素子を用いた波長変換レーザの構成を例示する図である。
光学素子に波長808nmの励起光が入力されたときの光学素子の光入出力特性を示すプロット図である。
光学素子の断面積と、所定の高調波出力に対して必要とされる接合強度との関係を示すグラフである。
光学素子が組み込まれたレーザ光源が連続動作されたときの動作時間と高調波の出力強度との関係を示すプロット図である。
バー形状の光学素子列の写真である。
第5実施形態にしたがう光学素子列の概略的な斜視図である。
図23に示される光学素子列の平面図である。
図23に示される光学素子列の正面図である。
第6実施形態にしたがうレーザ光源を概略的に示す図である。
固体レーザ媒質及び固体レーザ媒質内のレーザ活性物質の濃度分布を概略的に示す図である。
異種材料を用いて形成された光学部材をオプティカルコンタクトして作成された光学素子の斜視図である。
図28に示される断面Aを概略的に示す。
MgO:LN結晶のC軸方向及びNd:YVO4結晶のC軸方向における熱膨張係数の差異と、熱膨張係数の差異に起因する結晶の膨張量の差異との算出結果を概略的に示すグラフである。
MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板を示す。
光学素子が組み込まれた共振器型の波長変換レーザ光源を例示する。
オプティカルコンタクトされる前の第1光学部材及び第2光学部材を概略的に示す斜視図である。
オプティカルコンタクトされた第1光学部材及び第2光学部材を備える光学素子の斜視図である。
図34に示される断面Bを概略的に示す。
封止部材が配設される領域内に分散されたオプティカルコンタクト領域を備える光学素子の概略的な斜視図である。
図36に示される断面Cを概略的に示す。
オプティカルコンタクトされた2つの光学部材を備える光学素子の概略的な斜視図である。
図38A中の断面Dを概略的に示す。
図38A中の矢印の方向から見た光学素子を示す。
オプティカルコンタクトされたテーパ形状の光学部材及び直方体形状の光学部材を備える光学素子の概略的な斜視図である。
図39A中の断面Eを概略的に示す。
図39A中の矢印の方向から見た光学素子を示す。
光学窓として機能するオプティカルコンタクト面を備える光学素子を概略的に示す斜視図である。
図40に示される断面Fを概略的に示す。
直径φ1mmのオプティカルコンタクト面上で観察されたビームスポットの像を示す。
直径φ300μmのオプティカルコンタクト面上で観察されたビームスポットの像を示す。
光学素子の概略的な斜視図である。
図43中に示される断面Gを概略的に示す。
第1光学部材に溝を形成する工程を概略的に示す。
溝形成後の第1光学部材と第2光学部材とをオプティカルコンタクトする工程を概略的に示す。
吸着状態にあるオプティカルコンタクト組立体の溝形成部分に封止部材を充填並びに硬化する工程を概略的に示す。
封止部材が充填された溝形成部分に沿って、ダイシングを用いて、光学素子を切り出すための工程を概略的に示す。
小片化された光学素子の斜視図である。
オプティカルコンタクト組立体の実態顕微鏡画像である。
ダイシング加工を通じて小片化されたオプティカルコンタクト組立体の実態顕微鏡による観察像を示す写真である。
レーザ光を光源とするレーザプロジェクタを示す図である。
レーザ光を用いたヘッドアップディスプレイ装置を概略的に示す図である。
レーザ光の出力低下の課題を説明するプロット図である。
以下に、波長変換レーザ光源、光学素子及び画像表示装置の様々な実施形態が添付の図面を用いて説明される。図中、同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられる。同様の要素に関する説明は、冗長となるので、省略される。
以下の説明において、波長変換レーザ光源及び/又は光学素子として、バルク型の波長変換固体レーザ素子が例示される。バルク型の波長変換固体レーザ素子は、オプティカルコンタクトされた機能性光学素子である。オプティカルコンタクトされる2つの光学部材として、Nd:YVO4(ネオジウムドープのイットリウム・バナデート)結晶及び強誘電体結晶MgO:LiNbO3(酸化マグネシウムドープのニオブ酸リチウム)結晶(以下、MgLN結晶と略す)が例示される。Nd:YVO4(ネオジウムドープのイットリウム・バナデート)結晶は、固体レーザ媒質として例示される。また、MgLN結晶は、波長変換素子として例示される。代替的に、波長変換レーザ光源及び/又は光学素子は、他の適切な物質から形成されてもよい。
図1は、一般的なオプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源を概略的に示す。図1を用いて、一般的なオプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源が内包する課題が説明される。
図1に示されるオプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源は、端面励起型(エンドポンプ型レーザ)と呼ばれる。励起光は、レーザ媒質の端面から入力される。
図1に示されるレーザ光源100は、励起光源110と、コリメートレンズ120と、集光レンズ130と、光学素子140とを備える。励起光源110は、励起光PLをコリメートレンズ120に向けて照射する。励起光PLは、コリメートレンズ120、集光レンズ130及び光学素子140を順次伝搬する。
光学素子140は、固体レーザ媒質141と、波長変換素子142とを備える。励起光PLが入射された光学素子は、出力光OLを出力する。
レーザ光源100は、固体レーザ媒質141の端面(励起光PLが入射される端面)に形成された光学膜150を更に備える。固体レーザ媒質141は、光学膜150が形成された端面と反対側の第1接合面143を含む。第1接合面143は、波長変換素子142に接合される。
波長変換素子142は、出力光OLが出射される出射端面144と、出射端面144と反対側の第2接合面145とを含む。第2接合面145は、第1接合面143に接合される。固体レーザ媒質141の第1接合面143は、波長変換素子142の第2接合面145に、オプティカルコンタクト状態となっている。第1接合面143及び第2接合面145が、オプティカルコンタクトされることにより、光学素子140が形成される。
本実施形態並びに後述される様々な実施形態で用いられる「オプティカルコンタクト」との用語並びにこれに類する用語は、以下の要件を満たす「状態」を意味する。
(1)樹脂材料といった接着材料を介することなく光学要素同士が直接的に接合されている状態。
(2)光学要素同士間に空気層が介在することなく、光学要素同士が吸着・密着されている状態。
光学結晶、セラミックや誘電体膜といった同種材料又は異種材料からなる光学要素間において、電気的力(ファン・デル・ワールス力)、水素結合や機械的外圧力といった力によって、上記要件を満たす状態が形成されているならば、当該状態は、オプティカルコンタクト状態である。
以下の説明において、「オプティカルコンタクトしている/オプティカルコンタクトされている」との用語は、上述の状態となっているものを意味する。また、「オプティカルコンタクトする/オプティカルコンタクトされる」との用語は、上述の状態にすること/されること(手段・動作)を意味する。
以下の説明において、「オプティカルコンタクト面」との用語は、上述の状態下にある光学要素間の界面を意味する。「オプティカルコンタクト組立体」との用語は、上述の状態とされた光学要素から形成された組立体を意味する。
レーザ光源100の機能及び動作が、以下に、説明される。
上述の如く、励起光源110は、励起光PLを発する。コリメートレンズ120は、励起光PLを平行光にする。その後、集光レンズ130は、光学素子140を構成する固体レーザ媒質141に集光する。
上述の如く、励起光PLが入射される固体レーザ媒質141の端面には、光学膜150が形成される。光学膜150は、1060nm帯の光を高反射し、共振器ミラーの1つとして機能する。波長変換素子142の出射端面144にも、高反射光学膜(図示せず)が形成される。出射端面144に形成された高反射光学膜も1060nm帯の光を高反射し、もう1つの共振器ミラーとして機能する。
固体レーザ媒質141の第1接合面143と波長変換素子142の第2接合面145との境界には、光学膜は形成されず、第1接合面143及び第2接合面145はオプティカルコンタクトされる。固体レーザ媒質141の端面に形成された光学膜150(光反射光学膜)と波長変換素子142の出射端面144に形成された光反射光学膜は、共振器ミラーとして用いられる。これら高反射光学膜の間で、1060nm帯の光が繰り返し反射され、共振する。かくして、光学素子140は、光共振器として機能し、1060nm帯のレーザ光を発振する。
上述の如く、固体レーザ媒質141として、Nd:YVO4結晶が用いられ、波長変換素子142として、MgO:LiNbO3結晶が用いられると、固体レーザ媒質141の屈折率と波長変換素子142の屈折率との差は、0.1以下となる。この結果、第1接合面143と第2接合面145との間に光学薄膜が形成されなくとも、オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質141及び波長変換素子142は、光学的に低い損失を達成することができる。このように、固体レーザ媒質141及び波長変換素子142がオプティカルコンタクトされるならば、光学薄膜の形成工程及びレーザ光源を製造する際の調整工程が簡略化される。
発振した1060nm帯の光が波長変換素子142を通過すると、1060nm帯の光は、半分の波長の530nm帯の光へ波長変換される。波長変換された530nm帯の光は、出力光OLとして、波長変換素子142の出射端面144から出力される。なお、光学素子140は、レーザ媒質保持具(図示せず)で保持されてもよい。
オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質141及び波長変換素子142を含む光学素子140を備えるレーザ光源100(オプティカルコンタクト型のレーザ光源)を用いて、例えば、ピーク出力1Wの530nm帯の光を連続的に出力する連続点灯試験が行われると、レーザ光源100から出射される出力光OL(レーザ光)の出力は、約80時間で低下するということを、本発明者は確認した。
上述の図50のプロット図は、連続点灯試験の結果を表している。出力された波長変換後の光(高調波)の横モード形状の観測の結果、レーザ光源100の点灯開始時において略円形であった高調波の横モード形状は、時間を経るにしたがい歪み、最終的に紡錘形へと変化することが確認された。上述の横モード変化に伴って出射されるレーザ光の出力低下が観測された。動作時間に対する高調波出力の関係を示す図50から、横モード形状変化に対応して出力が低下していることが分かる。
図2は、出力光OLのファーフィールドビーム形状を撮影した写真である。図2の「(1)」に対応する写真は、レーザ光源100の点灯開始時における高調波の横モード形状を示す写真である。図2の「(2)」に対応する写真は、レーザ光源100の点灯開始から65時間経過後における高調波の横モード形状を示す写真である。図2の「(3)」に対応する写真は、レーザ光源100の点灯開始から85時間経過後における高調波の横モード形状を示す写真である。図2の「(1)」、「(2)」及び「(3)」に対応する写真は、図50中の記号「(1)」、「(2)」及び「(3)」に示される動作時刻にそれぞれ対応する。
固体レーザ媒質141及び波長変換素子142を含む光学素子140を備えるオプティカルコンタクト型のレーザ光源100だけでなく、分散・分離配置された光学部品(即ち、固体レーザ媒質、波長変換素子及び出力ミラーを用いて形成された共振器を備えるレーザ光源においても、同様の出力低下現象が観察された。尚、レーザ光出力の低下量は、オプティカルコンタクト型のレーザ光源100において、特に大きくなる。固体レーザ媒質及び波長変換素子がオプティカルコンタクトされていないならば、オプティカルコンタクト型のレーザ光源100に比べて、レーザ光出力の低下量が1/3程度となる。しかしながら、オプティカルコンタクトされていない固体レーザ媒質及び波長変換素子を備えるレーザ光源においても、上述の出力低下に対する改善は必要とされる。
出力低下現象は、高調波レーザ光(図1に示されるレーザ光源100では、530nm帯の緑色レーザ光)が、波長変換素子142を構成するニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムに吸収されることによって引き起こされると考えられる。ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムによるレーザ光の吸収が、局所的な屈折率の変化を引き起こす結果、レーザ発振した基本波光の波面が乱され(ビーム形状が変化し)、レーザ光源100からの出力が低下すると考えられる。ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムによるレーザ光の吸収は、波長変換素子142内での基本波光のパワー密度やビームウエスト位置を変化させる。この結果、基本波光から高調波光への変換効率が低下し、緑色光の出力が低下する。尚、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムへの可視〜紫外線の光の照射が引き起こす屈折率の変化(「光誘起屈折率変化」)は、以前から知られている。「光誘起屈折率変化」は、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムに、添加物として酸化マグネシウム(以下、MgO)が添加されることによって回避されることが、一般的に知られている。しかしながら、レーザ光源が高出力で長時間連続動作されたときに生ずる出力低下現象については知られていない。本発明者は、MgOを波長変換素子材料に添加する方法ではレーザ出力の低下が十分に抑制されず、高いレーザ出力は、長時間、保たれないという課題を明らかにした。
以下に示される様々な実施形態にしたがって説明される光学素子、光学素子を備える波長変換レーザ光源並びに波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置は、上述の課題を適切に解消する。以下、光学素子、光学素子を備える波長変換レーザ光源並びに波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置が説明される。
(第1実施形態)
図3は、第1実施形態に従う波長変換素子並びに波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の構成を概略的に示す模式図である。図3を用いて、波長変換素子及び波長変換レーザ光源が説明される。
図3のセクション(a)は、レーザ光源200を概略的に示す。図1に関連して説明されたレーザ光源100と同様に、励起光PLは、固体レーザ媒質240の端面から入力される端面励起型のレーザ光源である。
レーザ光源200は、上述の固体レーザ媒質240に加えて、励起光源210、コリメートレンズ220、集光レンズ230、波長変換素子250及び出力ミラー280を備える。波長変換素子250から出力ミラー280を通じて出力光OLが出力される。固体レーザ媒質240は、励起光PLの入射に伴い基本波光を発生する。また、波長変換素子250は、基本波光を、基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する。
レーザ光源200は、励起光PLが入射される固体レーザ媒質240の入射端面に形成された光学膜260を備える。固体レーザ媒質240は、光学膜260が形成された端面と反対側の第1端面241を含む。
波長変換素子250は、第2高調波が出射される出射端面251と、出射端面251と反対側の第2端面252と、を含む。波長変換素子250の出射端面251に対向する出力ミラー280の面(曲面281)は、凹面形状に形成される。
図3のセクション(b)は、波長変換素子250を概略的に示す斜視図である。波長変換素子250は、周期状の分極反転構造253を備える。分極反転構造253は、波長変換素子250の内部に形成される。
波長変換素子250は、出射端面251と第2端面252との間で延びる第1側面254を含む。z軸(c軸)に平行な第1側面254には、分極反転領域が形成された分極反転構造253が露出する。第1側面254は、分極反転領域と垂直に交わる。本実施形態において、分極反転構造253は、第1側面254に露出している。代替的に、分極反転構造は、波長変換素子の第1側面に露出しなくともよい。
図3のセクション(d)に示される如く、レーザ光源200は、導電性材料270を更に備える。本実施形態において、導電性材料270は、第1側面254に露出した分極反転構造253に直接的に接触する。代替的に、導電性材料は、分極反転構造が露出していない第1側面に接触してもよい。
以下、第1実施形態に従うレーザ光源200の機能及び動作が説明される。
励起光源210は、励起光PLを発する。コリメートレンズ220は、励起光PLを平行光にする。集光レンズ230は、励起光PLを固体レーザ媒質240へ集光する。固体レーザ媒質240への励起光PLの集光までの工程は、図1に関連して説明されたレーザ光源100と同様である。しかしながら、本実施形態のレーザ光源200は、一体化された光学部品で形成されたレーザ共振器を備えるレーザ光源100と異なり、別々に配備された光学部品で形成されたレーザ共振器を備える。
固体レーザ媒質240の入射端面に形成された光学膜260は、発振する1060nm帯の光とその高調波の530nm帯の光とを高反射する。また、固体レーザ媒質240の第1端面241(波長変換素子250に対向する端面)、波長変換素子250の第2端面252及び波長変換素子250の出射端面251には、反射防止特性を有する光学膜が形成されている。第1端面241、第2端面252及び出射端面251に形成された光学膜は、発振する1060nm帯の光とその高調波の530nm帯の光とを透過する。
出力ミラー280(凹面ミラー)の曲面281には、光学膜が形成される。出力ミラー280に形成された光学膜は、発振する1060nm帯の光を高反射する一方で、その高調波である530nm帯の光を透過する。かくして、固体レーザ媒質240の入射端面に形成された光学膜260と出力ミラー280との間で光学的な共振器が形成される。この光学的な共振器によって、1060nm帯の光が、レーザ発振する。
レーザ発振した1060nm帯の光が波長変換素子250を通過するたびに、1060nm帯の光の一部は、高調波の530nm帯の光へ波長変換される。最終的に、波長変換された光は、出力光OLとして、出力ミラー280から共振器外部へ出力される。
図50に関連して説明された如く、固体レーザ媒質と波長変換素子とを備える波長変換レーザ光源が長時間駆動されると、緑色出力が低下する現象が確認された。尚、レーザ光の横モードの形状が変化する原因は、波長変換素子(例えば、ニオブ酸リチウム)の内部での光起電力効果に起因して生ずるチャージであると考えられる。発生したチャージがレーザビームの周囲に蓄積し、電気光学効果により波長変換素子内部での屈折率変化が生ずる。この結果、波長変換レーザ光源の横モードが変化する。
図3のセクション(d)に示される如く、本実施形態の光学素子及びレーザ光源200は、y軸に垂直な第1側面254(y面)を覆う導電性材料270に特徴づけられる。分極反転構造253が露出した第1側面254を覆う導電性材料270は、波長変換素子250の内部に蓄積したチャージの効率的な除去に貢献する。
図3を用いて、波長変換素子250が更に説明される。
本実施形態の波長変換素子250は、ニオブ酸リチウムに設けられた周期状の分極反転構造253を含む。波長変換素子250は、第2高調波を発生させる擬似位相整合型の波長変換素子である。尚、波長変換素子250の材料に酸化マグネシウム(以下、MgOと表記する)が添加されてもよい。酸化マグネシウムの添加は、上述の「光誘起屈折率変化」(波長変換素子材料の屈折率の変化)を好適に抑制する。
図3のセクション(b)は、周期状の分極反転構造のニオブ酸リチウムの構成を概略的に示す模式図である。図3のセクション(b)に示される座標は、ニオブ酸リチウム内で光が感じる誘電主軸を示し、誘電主軸のz軸は、結晶構造から決定される結晶軸のc軸と一致する。本実施形態で示される分極反転構造を有する波長変換素子250は、「バルク型」と称され、結晶基板内にも分極反転構造253を備える。分極反転構造253が形成される間、分極反転構造253は、z軸(c軸)に垂直な平面(z面から)z軸座標のマイナス方向に成長し、図3のセクション(b)に示される構造となる。波長変換素子250が、y軸に垂直な適切な面において切断されると、波長変換素子250の第1側面254に周期状の分極反転構造253が露出する。また、上述の如く、分極反転構造253が露出した第1側面254は、ケミカルポリッシングにより研磨されてもよく、及び/又は、化学的エッチング処理を施与されてもよい。かくして、y軸に垂直な面(y面)(第1側面254)において、顕微鏡といった観察器具を用いて視認可能な分極反転構造253(周期的に変化する分極反転の構造)が露出する。
図3のセクション(c)は、z面(z軸(c軸)に垂直な平面)上の2つの面における電荷の蓄積(焦電効果)に起因するレーザ出力の低下を防ぐための既知の手法を示す。z面上の2つの面における電荷の蓄積を防ぐために、波長変換素子250aの上面と下面に沿って、導電性材料270aが配設される。
図3のセクション(c)に示される導電性材料270aの配置とは異なり、本実施形態において、導電性材料270は、周期的に変化している分極反転構造253が露出する第1側面254(ニオブ酸リチウムでは、「y面」)を覆う。尚、導電性材料270が取り付けられる「y面」とは、波長変換素子250の材料のc軸と平行な面を意味する。また、「y面」は、分極反転構造253の分極反転軸(分極方向)と平行な面である。尚、波長変換素子の構造が立方体(或いは、直方体)ではないとき、導電性材料は上述の定義に従って配置されなくともよい。導電性材料で覆われる面は、分極反転構造の断面の分極反転領域に対して、略垂直に形成されていればよい。
図4は、レーザ光源の動作時間と高調波出力の関係を示すグラフである。図4中、「(1)」で示されるプロットは、導電性材料を備えないレーザ光源の動作時間と高調波出力の関係を示す。図3及び図4を用いて、レーザ光源の動作時間と高調波出力の関係が説明される。
図4中、「(2)」で示されるプロットは、「z面」に取り付けられた導電性材料270a(図3のセクション(c)参照)を備えるレーザ光源の動作時間と高調波出力の関係を示す。図4中、「(3)」で示されるプロットは、「y面」に取り付けられた導電性材料270(図3のセクション(d)参照)を備えるレーザ光源200の動作時間と高調波出力の関係を示す。
<(1)導電性材料を備えないレーザ光源>
導電性材料が波長変換素子の表面上に取り付けられていないとき、レーザ光源からの出力は、約80時間で低下し始める。
<(2)「z面」に取り付けられた導電性材料を備えるレーザ光源>
「z面」に取り付けられた導電性材料270aを備えるレーザ光源からの出力は、約150時間で低下し始める。導電性材料を備えないレーザ光源に対する改善は認められるが、「z面」に取り付けられた導電性材料270aでは、十分な改善は得られていない。
<(3)「y面」に取り付けられた導電性材料を備えるレーザ光源>
「y面」に取り付けられた導電性材料270を備えるレーザ光源200からの出力は、200時間経過後も、低下しない。したがって、図4に示されるグラフから、「y面」を覆う導電性材料270は、最も効果的に出力低下を抑制することが分かる。
図5は、分極反転構造253を有するニオブ酸リチウムの「y面」を覆う導電性材料270を有するレーザ光源200が連続運転されたときの出力変化を表すグラフと、連続運転されているレーザ光源200から出力されたレーザ光の横モード形状を表す写真と、を示す。図5のセクション(a)は、出力変化を表すグラフである。図5のセクション(b)は、レーザ光の横モード形状を表す写真である。尚、ニオブ酸リチウムには、MgOが添加されている。図3及び図5を用いて、レーザ光源200の出力変化及びレーザ光の横モード形状が説明される。
図5のセクション(b)中の写真(1)は、図5のセクション(a)のグラフ中に示される記号「(1)」に対応し、レーザ光源200の点灯から10時間経過後の写真である。図5のセクション(b)中の写真(2)は、図5のセクション(a)のグラフ中に示される記号「(2)」に対応し、レーザ光源200の点灯から100時間経過後の写真である。図5のセクション(b)中の写真(3)は、図5のセクション(a)のグラフ中に示される記号「(3)」に対応し、レーザ光源200の点灯から190時間経過後の写真である。
図5のセクション(b)の写真(1)乃至(3)から明らかなように、横モードのレーザ形状はほとんど変化していない。また、連続運転されているレーザ光源200からの出力変化(出力低下)は、200時間経過後において、1%以内に収まっている。したがって、レーザ光源200の出力低下は、好適に抑制されている。
z面に沿う2つの面(波長変換素子250の上面255及び下面256)に電荷が蓄積される焦電効果に対しては、波長変換素子250のz面(上面255及び下面256)を覆う導電性材料が有効である。波長変換素子250のz面(上面255及び下面256)を覆う導電性材料は、波長変換素子250のz面(上面255及び下面256)に発生した電荷を好適に逃がし、レーザ光源200の出力低下を効果的に抑制する。
高調波光の横モード形状の変化は、「z面」の表面に発生する電荷ではなく、波長変換素子250を通るビームパス周辺領域の分極反転境界付近(即ち、波長変換素子250の内部)に発生する局所電荷に起因する。したがって、「z面」を覆う導電性材料だけでは、横モード形状の変化を十分に防止することができない。一方で、波長変換素子250の「y面」を覆う導電性材料270は、波長変換素子250の内部の電荷を十分に外部へ逃がすことが出来る。
尚、本実施形態において、分極反転構造253は、波長変換素子250の一方の「z面」(上面255)から他方の「z面」(下面256)に貫通していない。波長変換素子250の「z面」に沿う上面255及び下面256のうち一方の面(図3において、下面256)には、分極反転構造253は、形成されていない。分極反転構造253が形成されない面(下面256)と、分極反転構造253までは、所定の距離だけ、離間している。
「z面」(上面255及び下面256)間で、分極反転構造253は貫通されないので、周期上の分極反転構造253を形成する工程において、分極反転・非反転の比(デューティ比)の均一性が保たれ、1060nm帯の光から高調波の530nm帯への光への変換効率が向上される。尚、分極反転の界面(反転壁)の抵抗率は、他の部分よりも低減され、チャージの容易な往来が達成される。したがって、分極反転構造253が一方のz面(図3において、下面256)に貫通されていないならば、「y面」を覆う導電性材料270は、波長変換素子250に蓄積されたチャージを比較的容易に引き抜くことができる。
導電性材料270で覆われる一対の「y面」(第1側面254)は、分極反転構造253の分極方向と平行であり、且つ、波長変換素子250の結晶軸と交わる。一対の第1側面254同士は、好ましくは、電気的に接続(短絡)される。この結果、波長変換素子250の内部で発生したチャージを適切にキャンセルされる。「y面」(第1側面)が導電性材料によって覆われる限り、導電性材料は、他の形状及び構造を有してもよい。例えば、導電性材料は、波長変換素子の周面(「z面」及び「y面」)全体を覆ってもよい。この結果、波長変換素子250に蓄積されたチャージは適切にキャンセルされる。本実施形態において、一対の第1側面254のうち一方は、第1短絡面として例示され、他方は第2短絡面として例示される。
本発明者は、レーザ光源200の出力低下に対する抑制性能は、導電性材料270の抵抗値に依存することを見出した。
図6は、導電性材料270の種類、導電性材料270の抵抗率及びレーザ光源200の出力低下に対する抑制効果をまとめた表である。図3及び図6を用いて、導電性材料270の種類及び/又は抵抗率と、レーザ光源200の出力低下に対する抑制効果との関係が説明される。尚、以下の説明において、「出力低下」との用語は、レーザ光源200が100時間連続運転されたときにおいて、高調波出力が1%以上低下したことを意味する。
図6によれば、導電性材料270の抵抗値が、10×10−5Ω・cm以下であるとき、レーザ光源200の出力低下は好適に抑制される。本実施形態において検証された導電性材料270のうち、インジウム(波長変換素子250の表面(第1側面254)に接触させた状態)、アルミニウム(スパッタ膜)、金(スパッタ膜)及び銅(波長変換素子250の表面(第1側面254)に接触させた状態)は、好適な抑制効果を発揮した。
導電性材料270の抵抗値が、10×10−5Ω・cm以下であれば、導電性材料270は、波長変換素子250の第1側面254に形成された金属膜であってもよく、波長変換素子250の第1側面254に単純に物理的に接触された板片であってもよい。第1側面254に付着した金属膜状の導電性材料270及び第1側面254に物理的に接触された導電性材料270はともに、好適な抑制効果を発揮した。
レーザ光源の波長変換素子が分離反転構造を有するならば、本実施形態で説明された原理にしたがって、レーザ光源の出力低下は適切に抑制される。分極反転構造を形成することができる材料として、MgO添加ニオブ酸リチウムの他に、MgO添加タンタル酸リチウム、定比組成のMgO添加ニオブ酸リチウム、定比組成のMgO添加タンタル酸リチウムやリン酸チタニルカリウム(通称 KTP、KTiOPO4)が例示される。これら非線形光学材料を用いて形成された分離反転構造を有する波長変換素子に対しても、本実施形態で説明された原理は好適に適用され、上述の出力低下に対する好適な抑制効果が得られる。
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に従う波長変換素子並びに波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の構成を概略的に示す模式図である。図8は、図7に示される波長変換レーザ光源が備える第1光学素子の概略的な斜視図である。図7及び図8を用いて、波長変換素子及び波長変換レーザ光源が説明される。
本実施形態の波長変換レーザ光源が備える固体レーザ媒質の材料として、Nd:YAGレーザやNd:YVO4結晶が例示される。波長変換素子の材料として、分極反転構造を形成可能な様々な非線形光学材料(例えば、第1実施形態の波長変換素子に用いられたMgO添加ニオブ酸リチウム、MgO添加タンタル酸リチウム、定比組成のMgO添加ニオブ酸リチウム、定比組成の添加タンタル酸リチウム、リン酸チタニルカリウム(通称 KTP、KTiOPO4))が例示される。尚、本実施形態において、固体レーザ媒質には、Nd:YVO4結晶が用いられる。また、波長変換素子にMgO:LiNbO3結晶が用いられる。これらの材料から形成された固体レーザ媒質及び波長変換素子を備える波長変換レーザ光源が以下に説明される。
図7は、第2実施形態に従うレーザ光源200Aを概略的に示す。図8は、レーザ光源200Aが備える第1光学素子300を概略的に示す。第1実施形態に従うレーザ光源200と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第1実施形態での説明が援用される。
レーザ光源200Aは、励起光源210、コリメートレンズ220、集光レンズ230及び第1光学素子300を備える。第1光学素子300は、固体レーザ媒質240Aと波長変換素子250Aとを備える。レーザ光源200Aは、導電性材料270Aを更に備える。導電性材料270Aは、第1光学素子300に取り付けられる。
図8に示される如く、固体レーザ媒質240A及び固体レーザ媒質240Aにオプティカルコンタクトされた波長変換素子250Aは、第1光学素子300を形成する。固体レーザ媒質240Aは、励起光源210から出射された励起光PLが入射する入射端面242と、入射端面242と反対側の第1接合面241Aとを含む。波長変換素子250Aは、第2高調波が出射される出射端面251と、出射端面251と反対側の第2接合面252Aと、を含む。固体レーザ媒質240Aの第1接合面241Aは、波長変換素子250Aの第2接合面252Aに対して、例えば、オプティカルコンタクト状態となり、密着一体化される。かくして、オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Aを備える第1光学素子300が形成される。
以下、第2実施形態に従うレーザ光源200Aの機能及び動作が説明される。
励起光源210は、励起光PLを発する。コリメートレンズ220は、励起光PLを平行光にする。集光レンズ230は、励起光PLを固体レーザ媒質240Aへ集光する。
第1実施形態に関連して説明された波長変換素子250と同様に、本実施形態の波長変換素子250Aは、分極反転構造253と垂直に交わる第1側面254を含む。固体レーザ媒質240Aは、第1側面254と連続する第2側面244を含む。本実施形態のレーザ光源200Aは、導電性材料270Aが第1側面254及び第2側面244に接触することに特徴づけられる。
第1光学素子300は、上述の如く、固体レーザ媒質240Aと波長変換素子250Aとを備える。固体レーザ媒質240Aの第1接合面241Aは、波長変換素子250Aの第2接合面252Aにオプティカルコンタクトされる固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Aの間のオプティカルコンタクト状態は、接着剤の介在なしに、固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250それぞれの材料同士間に作用する分子間力やファンデルワールス力といった力によって維持される。
固体レーザ媒質240Aの第1接合面241Aは、Nd:YVO4結晶のa−c面である。波長変換素子250Aの第2接合面252Aは、MgO:LiNbO3結晶のz−y面である。MgO:LiNbO3結晶のz軸及びNd:YVO4結晶のc軸が平行となるように、固体レーザ媒質240Aの第1接合面241A及び波長変換素子250Aの第2接合面252Aは、接合される。
固体レーザ媒質240Aの入射端面242に励起光PLが入射すると、波長変換素子250Aの出射端面251から緑色レーザ光が出力される。固体レーザ媒質240Aの入射端面242には、1060nm帯のレーザ光と、高調波の530nm帯のレーザ光とを99.8%反射する光学膜が形成される。波長変換素子250Aの出射端面251には、1060nm帯のレーザ光を99.8%反射する一方で、高調波の530nm帯のレーザ光を透過する光学膜が形成される。かくして、固体レーザ媒質240Aの入射端面242と波長変換素子250Aの出射端面251との間で、1060nm帯の光は、共振並びにレーザ発振する。この結果、波長変換素子250Aによって波長変換された緑色光のみが、出射端面251から出力される。
本実施形態のレーザ光源200Aの導電性材料270Aは、第1実施形態の導電性材料270と同様に、波長変換素子250Aの第1側面254(「y面」)を覆う。本実施形態のレーザ光源200Aは、導電性材料270Aが固体レーザ媒質240Aの第2側面244を更に連続的に覆うことに特徴づけられる。
Nd:YVO4結晶を用いて形成された固体レーザ媒質240Aの線膨張係数は、MgO:LiNbO3結晶を用いて形成された波長変換素子250Aの線膨張係数と相違する。本発明者は、このように線膨張係数が異なる異種材料から形成された固体レーザ媒質及び波長変換素子を備える光学素子を用いてレーザが発振されると、固体レーザ媒質は発熱し、波長変換素子に応力が付加され、レーザ光源の出力低下が生ずることを見出した。
導電性の高い材料は、一般的に、熱伝導性も高いので、固体レーザ媒質が発した熱を効率よく放熱し、緑色レーザ光の出力低下が効果的に抑制される。本実施形態において、導電性材料270Aとして、アルミニウムのスパッタ膜(100〜300nm厚)が使用され、緑色光の出力低下に対する効果的な抑制作用が確認された。
図9は、第1光学素子300に波長808nmの励起光PLが入力され、第1光学素子300から1000mWの緑色光が出力されるようにレーザ光源200Aが連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動と、レーザ光源200Aの連続運転中の横モード形状を撮像した写真を示す。図9のセクション(a)は、レーザ光源200Aの連続運転中の横モード形状を撮像した写真である。図9のセクション(b)は、レーザ光源200Aが連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動を示すプロット図である。図7乃至図9を用いて、動作時間に伴う出力変動及び横モード形状の変化が説明される。
図9のセクション(a)の写真(1)は、図9のセクション(b)のプロット図中に示される記号「(1)」に対応し、レーザ光源200Aの点灯が開始されたとき(点灯初期)の横モード形状の写真である。図9のセクション(a)の写真(2)は、図9のセクション(b)のプロット図中に示される記号「(2)」に対応し、点灯初期から100時間経過後の横モード形状の写真である。図9のセクション(a)の写真(3)は、図9のセクション(b)のプロット図中に示される記号「(3)」に対応し、点灯初期から190時間経過後の横モード形状の写真である。
点灯初期から100時間経過後までの期間において、出力低下及び横モードの変化は観察されない。点灯初期から190時間経過すると、横モード形状のわずかな変化は確認される一方で、出力低下量は1%以内である。図9から、第1光学素子300の第1側面254及び第2側面244を覆う導電性材料270Aは、レーザ光源200Aが連続運転されたときの出力低下を効果的に抑制することが分かる。
本実施形態において、第1光学素子300は、一体化された固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Aを備える。波長変換素子250Aは、対向する「y面」(第1側面254)に導電性材料270Aが接触する。この結果、第1実施形態に関連して説明された原理に従い、波長変換素子250Aの内部で発生されたチャージは適切にキャンセルされる。更に、導電性材料270Aは、固体レーザ媒質240Aの第2側面244まで延出する。この結果、固体レーザ媒質240Aで発生した熱は、効率よく放熱される。かくして、第1光学素子300の長時間の駆動に起因するレーザ光の出力低下は、効果的に抑制される。
(第3実施形態)
本実施形態にしたがう波長変換レーザ光源は、上述の第2実施形態に関聨して説明された第1光学素子300(一体化された固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Aを備えるオプティカルコンタクトされた素子)の横モード変化を抑制する。この結果、本実施形態にしたがう波長変換レーザ光源が長時間運転されたときの出力低下が好適に抑制される。
図10は、本実施形態に従う波長変換レーザ光源に用いられる光学素子の構成を概略的に示す模式図である。図10のセクション(a)は、一体化された固体レーザ媒質、波長変換素子及び横モードを維持するための維持機構を備える光学素子の構成を例示する。図10のセクション(b)は、維持機構の形状を例示する。第1実施形態及び/又は第2実施形態に従うレーザ光源200,200Aと同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第1実施形態及び/又は第2実施形態での説明が援用される。
図10に示される光学素子400は、固体レーザ媒質240Aと波長変換素子250Bとを備える。固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Bは、例えば、オプティカルコンタクト状態となり、一体化される。この結果、オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Bを備える第1光学素子300Bが形成される。
第2実施形態のレーザ光源200Aと同様に、導電性材料270Aは、波長変換素子250Bの第1側面254及び固体レーザ媒質240Aの第2側面244に接触する。導電性材料270Aは、波長変換素子250Bの内部のチャージをキャンセルするとともに、固体レーザ媒質240Aからの放熱を促す。
光学素子400は、横モードを維持する維持機構290を備える。維持機構290は、波長変換素子250Bに接合される第3接合面291を含む。波長変換素子250Bは、第3接合面291に接合される第4接合面251Bと、固体レーザ媒質240Aに接合される第2接合面252Aと、を含む。固体レーザ媒質240Aは、第2接合面252Aに接合される第1接合面241Aを含む。
維持機構290は、第3接合面291を含む基台部293と、第3接合面291と反対側に形成されたレンズ部292と、を備える。レーザ光は、レンズ部292から出射される。レンズ部292は、レンズ形状に加工される。本実施形態において、維持機構290は、第2光学素子として例示される。また、レンズ部292は、出射部として例示される。
以下、第3実施形態に従う光学素子400の機能及び動作が説明される。
固体レーザ媒質240Aの第1接合面241A及び波長変換素子250Bの第2接合面252Aが接合され、固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Bが一体化される点において、本実施形態の光学素子400は、第2実施形態に関連して説明された第1光学素子300と共通する。しかしながら、光学素子400は、維持機構290を備える点で、第2実施形態と相違する。
維持機構290のレンズ部292は、波長変換素子250Bと略等しい屈折率を有する材料を用いて形成される。本実施形態において説明される光学素子400は、維持機構290の第3接合面291及び波長変換素子250Bの第4接合面251Bがオプティカルコンタクトされ、維持機構290及び波長変換素子250Bが一体化される点に特徴づけられる。
維持機構290のレンズ部292、例えば、直径500〜800μm(マイクロメートル)の球面凸レンズ形状に形成され、曲率半径「r」の外面を有する。レンズ部292は、高さ0.1〜0.5μm(マイクロメートル)で基台部293から突出する。
光学素子400が波長変換レーザ光源に用いられるならば、好適には、曲率半径「r」は、100〜1000mm(ミリメートル)の範囲に設定される。曲率半径「r」が100mm未満であるならば、固体レーザ媒質240A内での励起光と1060nm帯の光との重なり積分が小さくなり、出力可能な緑色光は過度に小さくなる。曲率半径「r」が1000mmを超えると、横モードの維持効果が小さくなり、連続運転時の出力低下に対する抑制機能が損なわれる。
レンズ部292は、例えば、レジストマスクの形状をドライエッチングにより転写する方法、光学研磨による方法や略等しい屈折率を有するガラス材料を型押しする方法といった様々な加工手法を用いて加工可能である。
図11は、レンズ部292の曲率半径「r」とレンズ部292の加工高さとの関係を示すプロット図である。図11に示されるプロット図において、レンズ部292の直径「L」がパラメータとして用いられている。
図11に示されるプロット図に従うと、レンズ部292の加工高さは、好ましくは、0.5μm以下である。尚、レンズ部がドライエッチングで作成されるならば、レンズ部292の加工高さは、レンズ部292に用いられる材料とレジストマスクとの選択比にも依存する。
図12は、本実施形態で説明された光学素子400を備える波長変換レーザ光源を連続動作させたときの出力変化を示す図である。図12のセクション(a)は、レーザ光源の連続運転中の横モード形状を撮像した写真である。図12のセクション(b)は、レーザ光源が連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動を示すプロット図である。図9、図10及び図12を用いて、波長変換レーザ光源を連続動作させたときの出力変化が説明される。
図9に示されるように、第2実施形態にしたがうレーザ光源200Aは、190時間経過後において横モードの形状のわずかな変化を生じた。一方、本実施形態の維持機構290を有する光学素子400が組み込まれた波長変換レーザ光源の横モード形状の変化並びに出力低下は、観測されなかった。本実施形態のレーザ光源から、高出力の波長変換光が安定して得られた。
本実施形態において、図10に示される如く、維持機構290の第3接合面291が波長変換素子250Bの第4接合面251Bに接合されるように、維持機構290は配置される。代替的に、維持機構は、波長変換素子と固体レーザ媒質との間に配設されてもよい。更に代替的に、固体レーザ媒質の入射端面が、横モードを維持することができる曲面形状に形成されてもよい。維持機構の設計(例えば、形状寸法)や配置に応じて、例えば、固体レーザ媒質内のビーム径が拡大され、波長変換素子でのビーム径が小さくされてもよい。固体媒質でのパワー密度と較べて、波長変換素子でのパワー密度が相対的に大きくなるので、波長変換素子内で、1060nm帯の光が好適に集光される。この結果、波長変換効率が向上する。したがって、横モードを維持するためのレンズ構造は、固体レーザ媒質の入射端面に接合されることが更に好適である。
第3実施形態に関連して説明された原理は、第1実施形態及び/又は第2実施形態にも好適に適用される。
(第4実施形態)
図1に関連して説明されたレーザ光源100(オプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源)は、上述の出力低下に加えて、出力停止を引き起こす他のエラーモードに関する課題を内包する。本実施形態において説明される波長変換レーザ光源及び光学素子は、出力停止に係る課題を適切に解消する。
本発明者は、図1に関連して説明されたレーザ光源100をもちいて、例えば、1Wの500nm帯の光が出力されるように連続的に点灯させる試験を行ったとき、80時間ほどでレーザ光源100の出力が停止するという課題を発見した。
図13は、上述の連続点灯試験の結果を示すプロット図である。図1及び図13を用いて、出力停止の課題が説明される。
図13に示される出力停止は、第1実施形態に関連して説明された波長変換素子の屈折率の変化に起因する変換効率低下・出力低下とは異なり、共振状態が崩れることに起因する急激且つ大幅な出力低下或いは出力停止である。このような出力の大幅な低下或いは呈しは、レーザ光源100からの出力が500mW以上であるときに生じやすくなることも、本発明者は確認した。本発明者の詳細な研究により、レーザ光源100が作動している間の光学素子140の温度が40℃を超えると、レーザ光源100の急激且つ大幅な出力低下或いは出力停止が、特に生じやすくなることを明らかとなった。
図14は、上述の高出力での連続点灯の結果、出力低下或いは出力停止が生じたときの光学素子を概略的に示す。図1に関連して説明された同様の要素には、同様の符号が付され、これらの要素に対して、図1に関連する説明が援用される。図1及び図14を用いて、出力低下或いは出力停止の原因が説明される。
光学素子140Cは、図1に関連して説明された光学素子140と同様に、固体レーザ媒質141Cと波長変換素子142Cとを備える。固体レーザ媒質141Cは、波長変換素子142Cにオプティカルコンタクトされる。
固体レーザ媒質141Cは、励起光が入射する入射端面146と、入射端面146と反対側の第1接合面143Cと、を含む。波長変換素子142Cは、出力光が出射される出射端面144と、出射端面144と反対側の第2接合面145Cと、を含む。
第1接合面143C及び第2接合面145Cは、連続点灯試験前において、密着されている。しかしながら、連続点灯試験後、第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間には空隙147が形成されている。
図14には、光学素子140Cを通過するビームの経路(レーザビームパス:以下、ビームパスBPと称される)が示されている。また、図14は、連続点灯試験後に観察された堆積物DPを示す。堆積物DPは、第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間の空隙147中で観察された。
出力停止を引き起こした光学素子140Cを解析した結果、光学的に接合された第1接合面143C及び第2接合面145Cの面精度といった原因により、空隙147が第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間に生ずることが判明した。また、第1接合面143C及び第2接合面145Cにおいて、レーザ光が通過するビームパスBP上に堆積物DPが付着していることが判明した。堆積物DPは、空隙147を通じて、界面(第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間の境界)内に進入した空気中に浮遊する炭素含有成分を含む。炭素含有成分がレーザトラッピングにより集積された結果、ビームパスBPが横切る接合面(第1接合面143C及び/又は第2接合面145C)に堆積物DPとして付着したことが判明した。空隙147及び堆積物DPの発生に起因して、オプティカルコンタクト面(第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間の境界)での基本波光の伝搬損失が増大し、レーザ共振器として用いられる光学素子140Cの内部損失が大きくなることが判明した。このような光学素子140Cの内部損失の増大が、上述の出力停止を引き起こすと考えられる。
本発明者は、更に研究を行い、第1接合面143Cと第2接合面145Cとの接合面積の狭さが空隙147を引き起こす原因であることを見出した。固体レーザ媒質141Cが発熱並びに膨張すると、固体レーザ媒質141Cの第1接合面143Cから波長変換素子142Cの第2接合面145Cが剥離することが確認された。第1接合面143Cと第2接合面145Cとの接合面積が大きくなると、空隙147がほとんど発生しなくなることが実験的に確認された。
本発明者は、しかしながら、第1接合面143Cと第2接合面145Cとの接合面積を単純に増大させることは、出力特性の劣化を引き起こすという新たな課題を発見した。出力特性の劣化に関する新たな課題は、固体レーザ媒質141Cが励起光を吸収するときに、固体レーザ媒質141C内のビームパスBP中で生ずる熱に対する不十分な放熱に起因する。例えば、500mW以上の高調波出力を得るために固体レーザ媒質141Cに強力な励起光が入力されると、出力特性の劣化は顕著となり、必要な出力が得られないという課題が生ずる。
固体レーザ媒質141Cは、一般的に、熱伝導度が低い。したがって、固体レーザ媒質141Cによる励起光の吸収に伴って発生する熱を効率よく放熱するためには、好ましくは、励起光が通過する部分と固体レーザ媒質141Cを保持するホルダ部分との距離は短く設定される。励起光の8割ほどの光量は、固体レーザ媒質141Cの入射端面146の近傍で吸収される。したがって、固体レーザ媒質141Cの入射端面146の近傍で発生した熱を高効率で伝達し、放熱を促すことが好ましい。
本実施形態において、上述の相矛盾する課題を解決するための光学素子が説明される。
図15は、整列した複数の光学素子を含む光学素子列の斜視図である。図16は、図15に示される光学素子列の平面図(図15中、矢印Aから見た図)である。図17は、図15に示される光学素子列から分離された光学素子の斜視図である。図15乃至図17を用いて、光学素子が説明される。尚、図17において、図15に示されるシール材(後述される)は示されていない。第1実施形態乃至第3実施形態に関連して説明された要素と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第1実施形態乃至第3実施形態での説明が援用される。
バー形状の光学素子列500は、整列した複数の光学素子300Cを含む。バー形状の光学素子300Cは、例えば、光学素子列500の一部を切断及び分離して形成される。
光学素子300Cそれぞれは、基本波光を発生するための固体レーザ媒質240Cと、基本波光よりも高い周波数の第2高調波へ基本波光を変換する波長変換素子250Cと、を含む。固体レーザ媒質240Cは、励起光が入射される入射端面242と、入射端面242と反対側の第1接合面241Cと、を含む。波長変換素子250Cは、出力光が出射される出射端面251と、出射端面251と反対側の第2接合面252Cと、を含む。固体レーザ媒質240Cの第1接合面241C及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、例えば、オプティカルコンタクトされ、固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cは一体化される。図16及び図17において、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間の境界は、接合位置CPとして示されている。
図15及び図16に示される如く、光学素子列500は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間の境界をシールするシール材245を更に備える。シール材245は、接合位置CPに沿って配設される。本実施形態において、シール材245は封止部材として例示される。シール部材245は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間への外気や水分の浸入を抑制する。
光学素子列500中の光学素子300Cの固体レーザ媒質240C間には、第1切込部246が形成される。また、光学素子列500中の光学素子300Cの波長変換素子250C間には、第2切込部257が形成される。
以下、第4実施形態に従う光学素子300Cの機能及び動作が説明される。
上述の如く、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241C及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、オプティカルコンタクトされる。本実施形態にしたがうバー形状の光学素子300C(及びバー形状の光学素子列500)は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの接合面積が固体レーザ媒質240Cの入射端面242の面積よりも大きいことに特徴づけられる。本実施形態において、第1接合面241は、接合面として例示される。また、第1接合面241と反対側の入射端面242は対向面として例示される。
<光学素子の構成>
以下に、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとを備える光学素子300Cの構成が説明される。光学素子300Cの形成方法は、後述される。
上述の如く、光学素子300Cは、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとを備える。固体レーザ媒質240Cの材料として、Nd:YAGレーザやNd:YVO4結晶といった様々な材料が例示される。波長変換素子250Cの材料として、LiNbO3、LiTaO3、KTPといった様々な材料が例示される。本実施形態にしたがう光学素子300Cの固体レーザ媒質240Cは、例えば、Nd:YVO4結晶から形成される。本実施形態にしたがう光学素子300Cの波長変換素子250Cは、例えば、MgO:LiNbO3結晶から形成される。以下、このような材料から形成された固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとを備える光学素子300Cが説明される。
上述の如く、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241C及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、オプティカルコンタクトされる。固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cの間のオプティカルコンタクトの状態は、接着剤の介在なしに、固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cそれぞれの材料同士間に作用する分子間力やファンデルワールス力といった力によって維持される。
固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cは、Nd:YVO4結晶のa−c面である。波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、MgO:LiNbO3結晶のz−x面である。MgO:LiNbO3結晶のz軸及びNd:YVO4結晶のc軸が平行となるように、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241C及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、オプティカルコンタクトされる。第1接合面241C(及び第2接合面252C)の面積は、固体レーザ媒質240Cの入射端面242(第1接合面241Cと反対側の端面)の面積よりも大きい。
固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合面積は比較的大きく設定されるので、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの間の高い接合強度が達成される。また、固体レーザ媒質240Cの入射端面242の面積は、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合面積よりも小さいので、固体レーザ媒質240Cの励起光の吸収によって発生する熱は、効果的に放熱される。したがって、光学素子300Cの比較的高い接合強度及び出射光の良好な出力特性が両立される。
本実施形態の光学素子300Cの長さ(l)は、「2.5mm」であり、厚さ(t)は、「1.0mm」であり、幅(w)は「1.0mm」である。光学素子300Cの「2.5mm」の長さ(l)は、「0.5mm」の波長変換素子250Cの長さと、「2.0mm」の固体レーザ媒質240Cの長さとを含む。接合面を形成する第1接合面241C及び第2接合面252Cの厚さ(1)は、それぞれ、「1.5mm」である。
本実施形態において、波長変換素子250Cの出射端面251の面積は、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合面積よりも小さい。代替的に、波長変換素子の出射端面の面積は、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合面積と同等であってもよい。
<レーザ光源>
図18は、バー形状の光学素子列500及び光学素子300Cを用いた波長変換レーザの構成を例示する。図18のセクション(a)は、光学素子列500の概略的な平面図である。図18のセクション(b)は、光学素子300Cの概略的な斜視図である。図18のセクション(c)は、素子ホルダに収容された光学素子300Cを示す。図18のセクション(d)は、波長変換レーザの概略的な模式図である。図15乃至図18を用いて、波長変換レーザが説明される。図18において、第1実施形態乃至第3実施形態に関連して説明された要素と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第1実施形態乃至第3実施形態での説明が援用される。
図18のセクション(d)に示される如く、レーザ光源200Cは、励起光PLを発する励起光源210、コリメートレンズ220、集光レンズ230及び光学素子300Cを備える。上述の如く、光学素子300Cは、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとを備える。固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cは、例えば、上述の如く、オプティカルコンタクト状態にされ、密着一体化される。この結果、オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cを備える光学素子300Cが形成される。
図18のセクション(a)に示される如く、光学素子列500は、整列した複数の光学素子300Cを備える。図18のセクション(a)及び(b)に示される如く、光学素子300Cは、バー形状の光学素子列500の一部をなす。光学素子300Cは、例えば、光学素子列500から切断並びに分離され、レーザ光源200Cに組み込まれる。
図17に示される如く、光学素子300Cは、第1接合面241C及び/又は第2接合面252Cに直交する側面310(y軸に直交する面)と、側面310から突出する突条320と、を含む。突条320は側面310に現れる接合位置CPに沿って延びる。
図18のセクション(c)及び(d)に示される如く、レーザ光源200Cは、光学素子列500から分離された光学素子300Cを収容する素子ホルダ270Cを更に備える。素子ホルダ270Cは、第1実施形態及び第2実施形態に関連して説明された導電性材料270,270Aと同様に、導電性を有してもよい。
図18のセクション(c)に示される如く、光学素子300Cは、素子ホルダ270C内に固定される。その後、図18のセクション(d)に示される如く、レーザ光源200C内に配置され、レーザ光源200Cの要素として機能する。
以下、第4実施形態に従うレーザ光源200Cの機能及び動作が説明される。
励起光源210は、励起光PLを発する。コリメートレンズ220は、励起光PLを平行光にする。その後、集光レンズ230は、固体レーザ媒質240C内に集光する。励起光PLが固体レーザ媒質240C内に集光されると、光学素子300C内で1060nm帯のレーザ発振が生ずる。波長変換素子250Cは、その後、波長変換を行う。波長変換された530nm帯の光は、光学素子300Cから発せられる。本実施形態において、集光レンズ230は、集光光学要素として例示される。
図19は、光学素子300Cに波長808nmの励起光PLが入力されたときの光学素子300Cの光入出力特性を示すプロット図である。図17乃至図19を用いて、光学素子300Cの光入出力特性が説明される。
図19のプロット図の横軸は、励起光PLの入力強度を示す。図19のプロット図の縦軸は、光学素子300Cから発せられる出力光の強度を示す。図19から、1Wの高調波出力(緑色光)が得られていることが分かる。
本発明者は、接合位置CPにおける断面積、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの間の接合強度及び高調波出力との関係を更に調査した。
図20は、光学素子300Cの断面積と、所定の高調波出力に対して必要とされる接合強度との関係を示すグラフである。図14、図18及び図20を用いて、接合位置CPにおける断面積、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの間の接合強度及び高調波出力との関係が説明される。
500mW以上の高調波出力(緑色光)を得るためには、上述の固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの熱膨張係数差に起因して発生する応力に耐えることができる十分な接合強度を確保可能な接合面積として、1mm2以上の接合断面積が必要であった(以下、接合断面積1mm2の時の接合強度は「1」とする)。また、1W以上の高調波出力を得るためには、1.5以上の接合強度が必要となることが明らかとなった。一方で、500mW以上の高調波出力を出力するためには、固体レーザ媒質240Cの断面積が0.75mm2以下でなければ、レーザ光の通過位置であるビームパスBPから固体レーザ媒質240Cの外周面までの距離が大きくなるため、放熱特性が悪化し、出力が飽和することも明らかとなった。
以下の説明において、波長変換素子250Cと接合する固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cの面積は、記号「S1」で表される。固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cと対向する入射端面242の面積は、記号「S2」で表される。面積S1が面積S2よりも大きくされると、所定の放熱効果は得られる。接合強度及び放熱効果の観点から、面積S1と面積S2との関係は、以下に示される不等式の関係を満たすことが好ましい。
(数1)
0.75×S1>S2
接合強度の観点から、接合位置CPにおける光学素子300Cの断面積は、少なくとも1mm2以上、好ましくは、1.5mm2以上であることが必要である。一方で、放熱特性の観点から、固体レーザ媒質240C中のビームパスBP(ビーム伝搬方向)に垂直な断面積は、0.75mm2以下であることが好ましい。本発明者の研究から、接合強度の観点から必要とされる断面積の大きさ及び放熱特性の観点から必要とされる断面積の大きさは、相反することが明らかになった。
上述の研究結果に基づき、本実施形態において、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cの断面積(及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cの断面積)は、少なくとも1mm2以上、より好ましくは1.5mm2以上とされる。また、固体レーザ媒質240Cの断面積(突条320が形成された部位を除く部分の断面積)は、0.75mm2以下とされる。この結果、500W以上の出力強度を有する高調波が出力される場合でも、光学素子300Cの放熱特性及び素子強度(固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合強度)は良好に保たれる。
図21は、本実施形態にしたがう光学素子300Cが組み込まれたレーザ光源200C(波長変換レーザ光源)が連続動作されたときの動作時間と高調波の出力強度との関係を示すプロット図である。図1、図13、図18及び図21を用いて、動作時間と高調波の出力強度との関係が説明される。
図13に関連して説明された如く、図1に示されるような一般的なレーザ光源100の動作が開始されてから100時間弱でレーザ発振の停止が観測された。一方で、図21に示される如く、本実施形態に係る光学素子300Cが組み込まれたレーザ光源200Cからは、65℃の温度環境下で900時間を超える長時間の動作の間、500mW以上の出力が安定的に得られた。
500mW以上の高調波を出射する光学系において、光学素子300Cは、有利な効果を発揮することが上記の説明で述べられているが、500mW未満の高調波を出射する光学系においても、同様の効果が得られる。高調波の出力強度が比較的小さい光学系においても、オプティカルコンタクト状態の光学素子300Cの強度の確保及び良好な放熱は両立される。本実施形態の原理に従うと、500mW以上の出力で、且つ、動作最高温度が40℃以上のレーザ光源が好適に形成される。
<突条>
図17を再度用いて、光学素子300Cの更なる特徴が説明される。
図17に示される如く、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cと入射端面242とが比較されると、幅(w)方向において、第1接合面241Cの一辺の長さと入射端面242の一辺の長さは略等しい。一方で、厚さ(t)方向において、第1接合面241Cの一辺の長さは入射端面242の一辺の長さより長い。第1接合面241C及び入射端面242のz軸方向の長さは略等しい一方で、y軸方向において第1接合面241Cの一辺は、入射端面242より長い。
固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合位置CPに沿って、z軸(及び波長変換素子250Cのc軸)と平行に延びる突条320が形成される。一方向に延びる突条320によって、使用者は結晶軸の方向を容易に知ることができる。例えば、YVO4やGdVO4といったバナデート系の結晶を通過する励起光は、c軸に平行な偏光方向を持つよう入力される必要がある。使用者は、光学素子300Cの突条320(励起光の偏光方向に延びる突条320)によりc軸の方向を知ることができる。本実施形態において、突条320は、突起部として例示される。
本実施形態において、光学素子300Cの一対の側面310に現れる接合位置CPに沿って突条320は形成される。追加的に、突条は、光学素子の上面及び下面(z軸に対して直交する光学素子の面)に現れる接合位置に沿って形成されてもよい。即ち、固体レーザ媒質の入射端面の各辺の長さより、第1接合面の各辺の長さが長くされ、且つ、入射端面から固体レーザ媒質をも見たときの第1接合面の投影図が入射端面の投影図を覆うように形成されてもよい。かくして、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合部位は、z軸及びy軸方向の両方に突出され、固体レーザ媒質と波長変換素子との間の接合面積は、固体レーザ媒質の入射端面よりも一層大きく形成される。
<シール部材>
図14乃至図17を再度用いて、シール部材が説明される。
オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cと波長変換素子250Cの第2接合面252Cとの間の界面に外気が接触すると、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの剥離が促される。固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合位置CPに沿って配設されたシール材245は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間の界面への外気の接触を抑制する。したがって、光学素子300Cの接合強度は、長期間に亘って高い水準を維持される。第1接合面241C及びと第2接合面252Cの外縁を覆うシール材245は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間の界面への外気の接触だけでなく、炭素といった堆積物DPのビームパスBP周囲での付着(図14参照)も抑制する。
<光学素子の作製方法>
図15乃至図18を再度用いて、光学素子300Cの作製方法が説明される。尚、以下に説明される光学素子300Cの作製方法以外の方法で、光学素子300Cが作成されてもよい。
図15に示される如く、バー形状の光学素子列500は、光学的に接合された固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cを備える。光学素子300Cは、光学素子列500から分離して作成される。固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの光学的な接合位置CPは、シール材245で封止されている。バー形状の光学素子列500の厚さ(t)は、1mmであり、長さ(l)は、2.5mmであり、幅(w)は、10mmである。光学素子列500の長さ(l)は、0.5mmの波長変換素子250Cの長さ寸法と、2.0mmの固体レーザ媒質240Cの長さ寸法とを含む。
固体レーザ媒質240Cの材料及び波長変換素子250Cの材料が接合されたとき、第1切込部246及び第2切込部257は形成されていない。固体レーザ媒質240Cの材料と波長変換素子250Cの材料とが接合された後、固体レーザ媒質240C側及び波長変換素子250C側から、例えば、ダイシングソーを用いて切り込みが入れられ、第1切込部246及び第2切込部257がそれぞれ形成される。第1切込部246及び第2切込部257はそれぞれ、接合位置CPの手前200μm〜500μmの位置まで達する。バー形状の光学素子列500から光学素子300Cを分離するときの歩留まりの観点から、ダイシングソーの刃先が接合位置CPから100〜200μmの位置に達するまで、固体レーザ媒質240Cの材料及び波長変換素子250Cの材料それぞれに切込(第1切込部246,第2切込部257)が入れられることが好ましい。
図22は、バー形状の光学素子列500の写真である。図22のセクション(a)は、光学素子列500を全体的に示す。図22のセクション(b)は、光学素子列500の接合位置CP、第1切込部246及び第2切込部257の周囲の拡大写真である。図15乃至図18並びに図22を用いて、光学素子300Cの作製方法が更に説明される。
上述の如く、固体レーザ媒質240Cは、Nd:YVO4結晶から形成される。また、波長変換素子250Cは、分極反転構造が形成されたMgO:LiNbO3から形成される。固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cが光学的に接合され、光学素子列500に加工される部材が形成される。
図22のセクション(b)に示される如く、第1切込部246及び第2切込部257は、ダイシングソーを用いて、接合位置CPに到達しないように形成される。ダイシングソーのブレード幅及び切れ込みピッチについて適当な値が選択され、光の伝搬方向に対して直交する方向の固体レーザ媒質240Cの断面積が所望の値に設定される。
図18のセクション(a)及び(b)に示される如く、上述の如く、第1切込部246及び第2切込部257が形成された光学素子列500の一部分は、切込部分で分離され、光学素子300Cとなる。隣接する光学素子300Cを接続する狭窄部(図22のセクション(b)参照)は、例えば、加圧・折り曲げによって容易に破断され、光学素子300Cが分離される。
分離された光学素子300Cの側面310から突出する突条320は、シール材245を用いて封止される(図22のセクション(a)参照)。その後、光学素子300Cは、図18のセクション(c)に示される如く、素子ホルダ270Cによって保持され、レーザ光源200Cが形成される。
本発明者は、上述の如く作成された光学素子300Cの断面積を測定した。光学素子300Cの接合位置CPにおける断面積は、1.5mm2(厚さ1.00mm×幅1.50mm)であった。また、固体レーザ媒質240Cの入射端面(励起光PLが入射する端面)の断面積は、0.75mm2(厚さ1.00mm×幅0.75mm)であった。
上述の作製方法を通じて、複数の光学素子300Cが同時に作成される。バー形状の光学素子列500が作成されるときに、固体レーザ媒質240Cのz軸と波長変換素子250Cのc軸との位置調整がなされ、固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cが接合される。かくして、個別の光学素子300Cの固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの間での軸調整よりも容易に、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合方向が決定される。
本実施形態において、光学素子300Cに用いられたMgO:LiNbO3結晶のz−x面及びNd:YVO4結晶のa−c面が接合される。MgO:LiNbO3結晶のz軸及びNd:YVO4結晶のc軸が平行となるように、MgO:LiNbO3結晶とNd:YVO4結晶との接合が調整される。光学素子300Cの側面310に形成された突条320の長手方向は、MgO:LiNbO3結晶のz軸及びNd:YVO4結晶のc軸と平行になるように形成されるので、使用者は突条320の形状から光学素子300Cの方向を知ることができる。
図18のセクション(b)に示される側面310から突出する突条320は、MgO:LiNbO3結晶のy−z面と、Nd:YVO4結晶のa−c面との上に形成される。突条320の長手方向は、MgO:LiNbO3結晶のz軸方向及びNd:YVO4結晶のc軸方向に一致する。YVO4やGdVO4といったバナデート系の結晶が用いられるとき、励起光PLは、c軸に平行な偏光方向を持つよう入力される必要があるが、使用者は、突条320により光学素子300Cの方向を知ることができるので、光学素子300Cを比較的容易に実装することができる。
光学素子300Cは、上述された作製方法以外の手法を用いて作成されてもよい。例えば、第1接合面が、第1接合面と反対側の入射端面よりも大きくなるように固体レーザ媒質が予め形成されてもよい。その後、固体レーザ媒質が波長変換素子にオプティカルコンタクトされ、光学素子が形成されてもよい。
(第5実施形態)
本実施形態において、固体レーザ媒質の第1接合面と固体レーザ媒質の入射端面との面積比が、第4実施形態にしたがう光学素子300Cよりも大きくされた光学素子が説明される。
図23は、第5実施形態にしたがう光学素子列の概略的な斜視図である。図24は、図23に示される光学素子列の平面図(図23中の矢印Bで示される方向から見た図)である。図25は、図23に示される光学素子列の正面図(図23中の矢印Cで示される方向から見た図)である。図23乃至図25を用いて、光学素子列が説明される。第4実施形態に関連して説明された要素と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第4実施形態での説明が援用される。
バー形状の光学素子列500Dは、固体レーザ媒質240D、波長変換素子250Dと、シール材245と、を備える。図24において、固体レーザ媒質240Dと波長変換素子250Dとの接合部は、接合位置CPとして示されている。シール材245は、接合位置CPに沿って配設される。
固体レーザ媒質240Dは、励起光が入射される入射端面242と、波長変換素子250Dに接合される第1接合面241Dと、を含む。固体レーザ媒質240Dには、入射端面242から接合位置CPに向けて延びる第1切込部246が形成される。
波長変換素子250Dは、出力光が出射される出射端面251と、固体レーザ媒質240Dの第1接合面241Dに接合される第2接合面252Dと、を含む。波長変換素子250Dには、出射端面251から接合位置CPに向けて延びる第2切込部257が形成される。
第1切込部246及び第2切込部257の形成により、光学素子300Dが形成される。
固体レーザ媒質240Dの第1接合面241D及び波長変換素子250Dの第2接合面252Dは、例えば、オプティカルコンタクトされ、固体レーザ媒質240D及び波長変換素子250Dは一体化される。
図25には、固体レーザ媒質240Dの切削部分(上側切削部分247及び下側切削部分248)が点線で示されている。
シール材245は、光学的に接合された固体レーザ媒質240Dと波長変換素子250Dとの接合位置CPの周囲を封止する。第4実施形態と同様に、ダイシングソーを用いて形成された第1切込部246及び第2切込部257によって、光学素子300Dは、光学素子列500Dから容易に分離される。
本実施形態において、固体レーザ媒質240Dは、YVO4結晶から形成される。第4実施形態と異なり、図25に示されるように、YVO4結晶(固体レーザ媒質240D)のa−a面内もダイシングされ、c軸方向の厚さが低減されている。図25の上側切削部分247及び下側切削部分248は、ダイシングで切削された部分を示す。上側切削部分247及び下側切削部分248が切除され、固体レーザ媒質240がオプティカルコンタクトされた接合位置CP以外の断面積(ビームパスから固体レーザ媒質240Dの外周面までの距離)が低減される。この結果、ビームパス上の固体レーザ媒質240の部分から発生した熱の放熱が促される。
バー形状の光学素子列500Dに波長変換素子250D側及び固体レーザ媒質240側から2回、ダイシングソーを用いて、切込(第1切込部246及び第2切込部257)が入れられる。この結果、固体レーザ媒質240Dの入射端面242及び波長変換素子250Dの出射端面251の被切削物がダイシングソーの刃先に付着するチッピングが防止される。かくして、光学素子列500Dの製造における歩留まりが向上する。
ダイシングソーのブレード幅は、目的に応じて、適切に選択される。例えば、固体レーザ媒質240Dに形成される第1切込部246の幅は、好ましくは、波長変換素子250Dに形成される第2切込部257の幅よりも大きく設定され、固体レーザ媒質240Dの放熱性能が向上されてもよい。
第4実施形態及び第5実施形態の光学素子300C,300Dの出射端面251の面積は、入射端面242の面積よりも大きく設定されてもよい。かくして、光学素子300C,300Dの方向は画像処理によって自動的に認識されやすくなる。
第4実施形態及び第5実施形態において、固体レーザ媒質240C,240Dは、Nd:YVO4結晶から形成される。また、波長変換素子250C,250Dは、分極反転構造が形成されたMgO:LiNbO3結晶から形成される。代替的に、光学薄膜を介さず、固体レーザ媒質及び波長変換素子の材料がオプティカルコンタクトされ、且つ、両材料の屈折率の差が0.1以下であるならば、Nd:GdVO4結晶やMgO:LiTaO3結晶といった他の材料が固体レーザ媒質及び波長変換素子に用いられてもよい。他の材料で形成された固体レーザ媒質及び波長変換素子を含む光学素子も、第4実施形態及び第5実施形態に関連して説明された効果を奏する。
固体レーザ媒質及び波長変換素子は、光学薄膜を介して接合されてもよい。固体レーザ媒質と波長変換素子との間の屈折率の差に適合するように設計並びに成膜された光学薄膜を用いて固体レーザ媒質及び波長変換素子が接合されるならば、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合部での光反射は十分に低減される。例えば、固体レーザ媒質は、YAG或いはその他のガーネット系セラミックレーザ媒質、YAG結晶、又は、セラミックYAG以外のセラミック材料(例えば、セラミックY2O3といった様々な透光性セラミック材料)から形成されてもよい。これらの材料から形成され、且つ、光学薄膜を介して接合された固体レーザ媒質を含む光学素子も、第4実施形態及び第5実施形態に関連して説明された効果を奏する。
波長変換素子は、KTP(KTiOPO4)やKTA(KTiOAsO4)といった様々な材料を用いて形成されてもよい。これらの材料から形成された波長変換素子を含む光学素子も、第4実施形態及び第5実施形態に関連して説明された効果を奏する。
本実施形態において、固体レーザ媒質240Dは、Ndが添加されたYVO4結晶を用いて形成される。代替的に、固体レーザ媒質は、Nd以外のレーザ活性イオンを用いた材料を用いて形成されてもよい。Nd以外のレーザ活性イオンを用いた材料から形成された固体レーザ媒質を含む光学素子も、上述の優れた効果を奏する。
本実施形態の原理は、セラミックYAG以外のセラミック材料(例えばセラミックY2O3といった様々な透光性セラミック材料)に適用されてもよい。
(第6実施形態)
図26は、第6実施形態にしたがうレーザ光源を概略的に示す模式図である。第4実施形態に関連して説明された要素と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第4実施形態での説明が援用される。
レーザ光源200Eは、励起光PLを発する励起光源210、コリメートレンズ220、集光レンズ230、光学素子300E及び光学素子300Eを保持する素子ホルダ270Cを備える。光学素子300Eは、波長変換素子250Cと固体レーザ媒質240Eと、を備える。
励起光源210は、励起光PLを発する。コリメートレンズ220は、励起光PLを平行光にする。その後、集光レンズ230は、固体レーザ媒質240E内に集光する。励起光PLが固体レーザ媒質240E内に集光されると、光学素子300E内でレーザ発振が生ずる。波長変換素子250Cは、その後、波長変換を行う。波長変換された光は、波長変換素子250Cを通じて出射される。本実施形態において、波長変換素子250Cは出射部として例示される。
図27は、固体レーザ媒質240E及び固体レーザ媒質240E内のレーザ活性物質の濃度分布を概略的に示す。図1、図26及び図27を用いて、レーザ光源200Eが更に説明される。
固体レーザ媒質240Eは、励起光PLが入射される入射端面242と波長変換素子250Cに接合される第1接合面241Cとを含む。固体レーザ媒質240Eは、入射端面242から第1接合面241Cに向けて整列する3つの領域(第1領域261,第2領域262,第3領域263)を含む。第1領域261は、入射端面242に近接する領域である。第3領域263は、第1接合面241Cに近接する領域である。第2領域262は、第1領域261と第3領域263との間の領域である。
本実施形態において、固体レーザ媒質240Eには、レーザ活性物質としてNdが添加される。レーザ活性物質の濃度は、第1領域261、第2領域262及び第3領域263の間で段階的に変化される。この結果、固体レーザ媒質240Eの周囲の環境温度に応じて、励起光を吸収する領域(固体レーザ媒質240E中のビームの伝搬方向に沿う位置)が変動し、動作温度範囲が拡大される。図27に示される濃度プロファイル(第1領域261において最も高いNd濃度、第2領域262において2番目に高いNd濃度、第3領域263において最も低いNd濃度)を有する固体レーザ媒質240Eがレーザ光源200Eに用いられると、環境温度によって励起光源210の発振波長がシフトし、入射端面242から0.5mmの領域(即ち、第1領域261)で吸収されない励起光PLが生じても、続く第2領域262及び/又は第3領域263で、励起光PLは吸収される。かくして、固体レーザ媒質240Eによる励起光PLの吸収量は略一定となる。
図27に示される固体レーザ媒質240Eの第1領域261のNdの濃度は、2.5%である。尚、第1領域261は、入射端面242から0.5mmの厚さの領域である。第1領域261に隣接する第2領域262の厚さは、1mmに設定され、第2領域262中のNdの濃度は、1.5%に設定される。第2領域262に隣接する第3領域263の厚さは、0.5mmに設定され、第3領域263中のNd濃度は、0.5%に設定される。かくして、固体レーザ媒質240E中のNdの濃度は、励起光源210から波長変換素子250Cに向けて段階的に低下する。
本実施形態にしたがう光学素子300Eは、第4実施形態及び/又は第5実施形態に関連して説明された形状(放熱を促す形状)を有する。したがって、図1に関連して説明されたレーザ光源100の動作温度範囲が20〜40℃程度であるのに対し、本実施形態に係るレーザ光源200Eの動作温度は、0〜70℃の範囲に拡大される。
Nd濃度の段階的な変動は、GdVO4やYVO4といった異なる単結晶から構成される媒質の貼り合せ、或いは、接合によって達成されてもよい。この場合においても、レーザ光源の動作温度範囲の拡大効果が得られる。
例えば、固体レーザ媒質中のレーザ活性物質の濃度を単純に増加させると、レーザ活性物質が、発振した光を吸収するという現象が生じ、結果として、レーザ発振ができなくなるという問題が存在する。本実施形態の原理に従い、複数のドーパント濃度プロファイルを有する固体レーザ媒質を用いると、上述の問題は適切に解消される。
(第7実施形態)
本実施形態において、高い耐環境性(特に、高い耐温度特性)を有する異種材料のオプティカルコンタクト組立体(光学素子構造を有するオプティカルコンタクト組立体)が説明される。
複数の光学部材を用いて光学素子を形成するための技術として、接着剤を用いて、複数の光学部材を貼り合わせる技術及び複数の光学部材を直接接合する技術が存在する。以下、接着剤を用いた貼合技術に対する直接接合技術の優位性が説明される。
一体化された光学部材を含む機能性光学素子は、光学素子の小型化及び低コスト化に有効である。光学部材の一体化は、光学部材間の相対位置を固定し、光学素子の機能安定性に貢献する。
光学部材の一体化を行うために、一般的に、接着剤を用いた貼合技術が用いられる。例えば、貼合面に機能性薄膜が配置された光学部材同士が接着され、波長分離や偏光分離を行う光学素子が形成される。
光学部材の一体化を行うための他の手法として、直接接合技術が知られている。直接接合技術は、接着剤を用いることなく、光学部材を強固に接合する技術である。直接接合技術によって、例えば、ガラス、半導体、強誘電体や圧電セラミックスといった様々な材料から形成された光学部材が高精度に接合される。本実施例で述べる「オプティカルコンタクト・オプティカルコンタクト状態」は広義の直接接合技術の一つである。以下に、一般的な直接接合技術の概要と、本実施の形態で示すオプティカルコンタクトについて記載する。
上述の直接接合技術を用いて形成された直接接合体は、例えば、光導波路として利用される。光導波路は、直接接合された異なる2つの光学部材のうち一方が薄板化された後、リッジ加工されることにより形成される。このような光導波路の形成は、光学素子を作成するための有効な手段として注目されている。
LiNbO3結晶(以下、LN結晶と称される)、LiTaO3結晶(以下、LT結晶と称される)、MgO:LN結晶やサファイアといった様々な酸化物結晶基板を用いて、同種の基板間の直接接合や略等しい屈折率及び/又は熱膨張係数を有する異種基板間での直接接合が提案されている。
薄膜を介したこれらの基板の接合も提案されている。当該接合に用いられる薄膜材料として、SiO2、SiN、低融点ガラス、金属酸化物といった様々な材料が挙げられる。
接合される面を基準面として光学部材の表面までの加工厚み、距離、面の傾きや平坦度が要求されるならば、接着剤を用いた貼合技術において生ずる接着剤の厚さ分布が光学素子の機能性の劣化を引き起こすので、直接接合技術は、接着剤を用いた貼合技術よりも有利である。
加えて、光学部材の貼合面にレーザ光が透過されるならば、接着剤(例えば、エポキシ系樹脂やアクリレート系樹脂)は、光吸収・光散乱に起因する光パワーロスを引き起こす。また、ハイパワーレーザ光が光学部材の貼合面に透過されるならば、貼合面の接着剤層の劣化(例えば、剥離、焼け或いは変色)が潜在的に引き起こされる。したがって、光学部材間にレーザ光が透過される場合においても、接着剤といった中間材を用いることなく、光学部材を一体化することができる直接接合技術は有利である。
上述の如く、光学部材同士を高精度且つ強固に接合し、様々な特性を有する機能性デバイスを作成することは、直接接合技術の有利な用途の1つである。特に、異なる性質の光学部材を接合する場合には、直接接合技術は、特に有利である。
強誘電体結晶を用いた異種部材を含む直接接合体として、ガラスとLN結晶とを含む異種基板の直接接合体やガラスとLT結晶とを含む異種基板の直接接合体が例示される。これらの異種基板は、一般的に、数100℃から1000℃程度の加熱熱処理を受け、直接接合される。したがって、接合される基板間の略等しい熱膨張係数がこれらの異種部材を含む直接接合体の形成に要求される。したがって、上述されたガラスとLN結晶との直接接合やガラスとLT結晶との直接接合よりも、LN結晶とMgO:LN結晶といった熱膨張率がほぼ同等であり、且つ、屈折率の異なる部材同士を直接接合する方が容易であると考えられる。
同種材料又は同一材料系(例えば、LN結晶とMgO:LN結晶)の部材が直接接合されると、上述の加熱処理の結果、直接接合された部材の境界において結晶構造が一体化し(構造的に接合境界がないバルク結晶のような状態になる)、高い接合強度を有する接合体が形成される。
異種材料結晶間では、結晶構造や格子定数のミスマッチが存在するので、例えば、異種材料結晶からなる光学部材を直接接合するために上述の加熱処理を行ったとしても、光学部材間の結晶構造の一体化は困難である。従って、特に異種材料からなる複数部材を一体化した光学素子においては、「材料間の強固な接合状態の形成を目的とする熱処理等のプロセス」を含まない、部材間の密着・吸着状態(本実施例ではこの状態を「オプティカルコンタクト状態」と定義している)での光学特性と耐環境性能の確保が重要となる。
加えて、異種光学部材間の熱膨張係数の相違は、加熱処理時において、密着された光学部材の膨張量の差異を引き起こす。この結果、密着された光学部材に生ずる応力に起因し、接合面の剥離が生じ、及び/又は、光学部材が構造的に脆弱であるならば、光学部材の割れが生ずる。
本発明者は、異種材料からなる光学部材をオプティカルコンタクトして形成される光学素子構造の耐環境性(主として、耐熱性)を向上させるための技術を詳細に研究した。本発明者は、本実施形態において説明される如く、オプティカルコンタクト面の外周に凹部又は切欠部を形成し、凹部又は切欠部に配設された封止部材を用いて接合面の縁部を覆うことによって、高い耐環境性を有する光学素子構造が形成されることを見出した。
本実施形態の原理に従うと、材料に依存することなく、複数の光学部材を含むオプティカルコンタクト組立体が作成される。本実施形態の原理は、材料及び光学部材の選択性を拡げ、様々な光学素子の作成に有利に応用される。
以下、本実施形態の光学素子が説明される。図28は、本実施形態に従って、異種材料を用いて形成された光学部材をオプティカルコンタクトして作成された光学素子の斜視図である。図29は、図28に示される断面Aを概略的に示す。
光学素子600は、第1光学部材610と、第2光学部材620と、を備える。第1光学部材610及び第2光学部材620は、オプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640が形成される。本実施形態において、第1光学部材610として、Nd:YVO4からなるレーザ結晶が例示され、第2光学部材620として、MgO:LN結晶が例示される。代替的に、第1光学部材及び第2光学部材が異なる材料から形成されるならば、第1光学部材及び第2光学部材は、他の材料から形成されてもよい。
光学素子600は、封止部材630を備える。封止部材630は、紫外線硬化樹脂を用いて形成される。第2光学部材620は、MgO:LN結晶の一部を切り欠いて形成された切欠部621を含む(図29参照)。封止部材630は、切欠部621に配設される。
図28及び図29に示される如く、第1光学部材610及び第2光学部材620は、オプティカルコンタクトプロセスにより、樹脂といった接着剤層の介在なしに、オプティカルコンタクト面640にて接合される。第1光学部材610は、第2光学部材620に接合される第1主面612を含む。第2光学部材620は、第1光学部材610の第1主面612に接合され、オプティカルコンタクト面640を形成する第2主面622を含む。第1主面612及び第2主面622は、少なくとも部分的に光学研磨(鏡面研磨)される。第2主面622は、第1主面612に水素結合により分子レベルで結合し、第2光学部材620は、第1光学部材610に吸着する。
第2光学部材620の第2主面622と接するMgO:LN結晶の一部には、段差加工が施与され、第2主面622の外周部を取り囲む切欠部621が形成される。オプティカルコンタクト面640に隣接する切欠部621が形成された部分において、第1光学部材610及び第2光学部材620は接触していない。封止部材630に用いられる紫外線硬化樹脂は、切欠部621に充填される。この結果、オプティカルコンタクト面640の外縁を覆い、オプティカルコンタクト面640を封止する封止部材630が形成される。本実施形態において、第2光学部材620に切欠部621が形成される。代替的に、第1光学部材に切欠部が形成されてもよい。また、切欠部に代えて、第1光学部材及び/又は第2光学部材には、封止部材が配設される凹部が形成されてもよい。
本実施形態において、第1光学部材610として用いられるレーザ結晶(Nd:YVO4結晶)及び第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶はともに、一軸性の異方性結晶である。図28に示される如く、第1光学部材610として用いられるレーザ結晶のC軸及び第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶のC軸(即ち、Z軸)はともに、オプティカルコンタクト面640に対して平行である。また、第1光学部材610として用いられるレーザ結晶のC軸及び第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶のC軸は、略同一方向に向いている(即ち、これらのC軸は略平行である)。
図28及び図29に示される光学素子600の作成のために、第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶に切欠部621が形成される。切欠部621は、様々な手法を用いて形成されてもよい。本実施形態において、切欠部621の形成には、ダイシング加工が用いられている。
第2光学部材620は、オプティカルコンタクト状態にされる第2主面622に加えて、第2主面622と反対側の出射端面623を含む。第2光学部材620の第2主面622及び出射端面623はともに鏡面研磨される。第2光学部材620は、第2主面622と出射端面623との間での高平行度(第2主面622と出射端面623との間の1mmの厚さに対して、例えば、0.1ミクロン以下)が保たれた結晶基板である。
第2光学部材620に対し、ダイシング溝が形成され、オプティカルコンタクト状態にされる正方形又は長方形の第2主面622(数100ミクロン×数100ミクロン〜数mm×数mm)が形成される。ダイシング溝の幅(w)(光伝搬方向に平行な第2光学部材620の側面から第2主面622の外縁までの距離)は、例えば、0.2〜1mm程度である。第2主面622からの段差(第1光学部材610と第2光学部材620との離間距離を規定する深さ(d))は、10〜300ミクロン程度である。代替的に、ダイシング溝の深さ(d)は、1ミクロン以上500ミクロン以下の範囲に設定されてもよい。
ダイシング溝のうち第2主面622と接する部分を残しつつ、第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶が完全に切断される。かくして、切欠部621を含むブロック状の第2光学部材620(MgO:LN結晶)が形成される。
第1光学部材610は、オプティカルコンタクト状態にされる第1主面612に加えて、第1主面612と反対側の入射端面613を含む。第1光学部材610の第1主面612及び入射端面613はともに鏡面研磨される。第1光学部材610は、第1主面612と入射端面613との間での高平行度(第1主面612と入射端面613との間の1mmの厚さに対して、例えば、0.1ミクロン以下)が保たれた結晶基板である。
第1光学部材610として用いられるレーザ結晶は、ダイシングによってブロック状に切断され、第2主面622よりも大きな第1主面612を備える第1光学部材610が形成される。尚、第1光学部材610の外形状は、第2光学部材620の外形状と略等しい。
その後、第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622は、親水性処理される。第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622は、例えば、アセトンを用いて、超音波洗浄される。その後、第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622は、約60〜70℃に昇温されたアンモニア水:過酸化水素水:純水=1:1:6の混合溶液(以下、アンモニア過水と称される)に15分以上浸される。更にその後、純水でリンス処理がなされた後、第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622に対し、乾燥処理が行われる。
乾燥処理の後、第1光学部材610として用いられるレーザ結晶の結晶軸及び第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶の結晶軸の方向が一致するように、第1光学部材610の第1主面612は、第2光学部材620の第2主面622に接触される。その後、第1主面612及び第2主面622はわずかに加圧され、第1主面612及び第2主面622間の吸着がなされる。かくして、オプティカルコンタクト面640が形成される。
オプティカルコンタクト面640の外縁を取り囲むように形成された切欠部621に、封止部材630として用いられる紫外線硬化樹脂が塗布並びに充填される。この結果、封止部材630は、オプティカルコンタクト面640の外縁と外気とを実質的に遮断する。その後、数10ミリジュール程度の紫外線が紫外線硬化樹脂に照射される。この結果、紫外線硬化樹脂が硬化し、封止部材630となる。このようにして、本実施形態にしたがう複数の光学部材を含むオプティカルコンタクト組立体(一体化光学素子)が作製される。
本実施形態は、オプティカルコンタクト面640の外縁に沿って形成された切欠部621と切欠部621に設けられた封止部材630に特徴づけられる。以下に、切欠部621及び封止部材630がもたらす有利な効果が説明される。
本発明者は、Nd:YVO4結晶(第1光学部材610)とMgO:LN結晶(第2光学部材620)とを用いて、第1主面612及び第2主面622に対する親水性処理と、第1主面612と第2主面622とを吸着させる吸着工程とを行い、1mm×1mm〜15mm×15mm程度の異種材料間の面積(オプティカルコンタクト面の面積)を有する結晶基板のオプティカルコンタクト組立体を作製した。本発明者は、作成されたオプティカルコンタクト組立体の接合強度及び耐熱性といった耐環境性能を評価した。
一般に、面同士の貼り合わせや接合の接合強度(単純には、引張力に対して剥離が発生する割合)は、貼合面・接合面の面積の大きさに依存する。即ち、貼合面・接合面の面積が大きいほど、接合強度は大きくなる。
本発明者は、常温下で引張強度試験を行い、吸着された第1主面612及び第2主面622をそれぞれ有する異種材料部材から形成されたオプティカルコンタクト組立体(光学素子600)の接合強度が、オプティカルコンタクト面640の面積の増大に伴い増加することを確認した。
本発明者は更に、オプティカルコンタクト組立体(光学素子600)を作成する間において、第1主面612及び第2主面622間の吸着状態の形成の容易さも、オプティカルコンタクト面640の面積に依存することを確認した。大きいオプティカルコンタクト面640を有するオプティカルコンタクト組立体(光学素子600)が作成されるとき、比較的小さな加圧力の下、オプティカルコンタクト面640の全体的な吸着状態が容易に達成される。また、オプティカルコンタクト状態にされる第1光学部材610の第1主面612と第2光学部材620の第2主面622との間に数ミクロン程度の大きさの異物(コンタミネーション)が介在しても、異物の周辺部(数10ミクロンの領域)を除き、吸着状態が得られた。オプティカルコンタクト面640の面積が小さくなるにつれて、第1主面612と第2主面622との間の吸着を得るために必要とされる加圧力は増大した。また、オプティカルコンタクト状態にされる第1光学部材610の第1主面612と第2光学部材620の第2主面622との間における数ミクロン程度の大きさの異物の介在は、しばしば、第1主面612と第2主面622との間の吸着を阻害した。特に、オプティカルコンタクト面640が2mm×2mm以下の大きさになると、上述の傾向は顕著となり、第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622の十分な洗浄・クリーニング並びに数kgf/cm2以上の加圧力が必要とされた。
本発明者は、吸着状態のオプティカルコンタクト面640に外部からのガスや水分が浸入したときの、オプティカルコンタクト面640の剥離の発生も調査した。本発明者は、異なるオプティカルコンタクト面640の面積を有する複数種のオプティカルコンタクト組立体を異種材料からなる結晶基板を用いて作成した。その後、本発明者は、オプティカルコンタクト組立体を純水に浸漬し、オプティカルコンタクト面640の外縁からの水の浸入に起因するオプティカルコンタクト面640の発生並びに進行を観察した。
観察の結果、オプティカルコンタクト面640の面積が小さいならば(例えば、3mm×3mm程度以下)、オプティカルコンタクト面640の全体に容易に剥離が生ずることが判明した。オプティカルコンタクト面640の面積が、10mm×10mm以上であるならば、オプティカルコンタクト面640の外縁近傍で剥離が生じたとしても、当該剥離がオプティカルコンタクト面640の全体に拡大するまでには、比較的長い時間が必要とされた。特に、外縁から約3mm以上離れたオプティカルコンタクト面640の中心領域の剥離はほとんど観察されなかった。
異種材料からなる光学部材(第1光学部材610及び第2光学部材620)がオプティカルコンタクト状態にされるとき、これらの部材間の熱膨張係数の差異がオプティカルコンタクト面640の剥離やこれら部材の割れといった不具合に大きく影響することが予想される。表1は、Nd:YVO4結晶(第1光学部材610)及びMgO:LN結晶(第2光学部材620)の物性値の比較を示す。尚、表1に示される物性値は、公知の値である。
表1中の格子定数の差異から、例えば、環境温度変化に対し、C軸方向においてMgO:LN結晶は、Nd:YVO4結晶の約1.5倍程度の膨張を示すことが分かる。したがって、常温でNd:YVO4結晶及びMgO:LN結晶が吸着されるならば、オプティカルコンタクト組立体(光学素子600)のオプティカルコンタクト面640には大きなストレスが加わることが予想される。
図30は、MgO:LN結晶のC軸方向及びNd:YVO4結晶のC軸方向における熱膨張係数の差異と、熱膨張係数の差異に起因する結晶の膨張量の差異との算出結果を概略的に示すグラフである。図30を参照すると、オプティカルコンタクト面640に加わるストレスが容易に理解される。
図30は、以下に示される2つの計算結果を示す。
(1)MgO:LN結晶及びNd:YVO4結晶の20℃での格子定数(単位結晶格子の長さ)を1としたときにおける20℃から1000℃までの環境温度変化に対する格子定数変化。
(2)基準点(常温で吸着されたMgO:LN結晶及びNd:YVO4結晶によって形成されたオプティカルコンタクト面640中の任意の一点)からC軸に沿って100μm離れたMgO:LN結晶及びNd:YVO4結晶の表面(第1主面612及び第2主面622)上の点が、〜1000℃までの環境温度変化に対して膨張するときの膨張量の差。
図30に示される算出結果から、温度上昇とともにオプティカルコンタクト面640に加わるストレス(水素結合による吸着状態を維持しようとする力及び結晶の熱膨張の差異により発生する応力)が大きくなり、オプティカルコンタクト面640の剥離が引き起こされるという結果が推察される。
本発明者は、図30に示される算出結果から、膨張量の差異が、数100℃の温度上昇に対して、数%程度にすぎないということに着目した。
図31は、MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板を示す。図31の上図は、常温で重ね合わされ、互いに吸着状態にあるMgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板を概略的に示す模式図である。図31の下図は、温度上昇時における貼り合わせ基板(MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板)の状態を概略的に示す模式図である。図31を用いて、熱膨張係数の差異に起因してオプティカルコンタクト面へのストレスを生じさせるC軸方向の膨張が説明される。
図31は、C軸方向の長さが約10mmのMgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板を例示する。図31に示されるオプティカルコンタクト面の中央の点Xは、基準点として示されている。のMgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板の外縁は、点Xから左右に5mm離間した位置に存する。図31において、Nd:YVO4結晶基板の外縁上の点は、点Yとして示され、MgO:LN結晶基板の外縁上の点は、点Y’として示されている。
MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板が常温で位置を調整された上、重ね合わせられると(吸着されていない状態)、図31の上図に示されるように、点Yと点Y’の位置は合致している。常温から200℃への環境温度に対する膨張量の差異は、100ミクロン当たりのC軸方向の長さに対して、1ミクロンであるので、MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板の温度が、200℃となったとき、点Y及び点Y’の間には、約50ミクロンの位置ズレが発生する。
MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板が常温で吸着されたとき、当該吸着状態が維持されるためには、上述の位置ズレを相殺するための応力が必要とされる。
図31には、基準点(点X)から約2mm左右に離間した位置に点Z及び点Z’が示されている。点Zは、Nd:YVO4結晶基板上の点であり、点Z’は、MgO:LN結晶基板上の点である。Nd:YVO4結晶基板及びMgO:LN結晶基板の温度が200℃となったとき、点Zと点Z’との位置ズレは、約10ミクロンだけである。したがって、吸着されたMgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板に加わる「点Z−点Z’」に加わる応力は、「点Y−点Y’」に較べて小さくなる。即ち、オプティカルコンタクト面に作用する応力は、接合された部材(MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板)間の膨張率の差ではなく、膨張変位量の差に依存するので、膨張変位量の差が大きいほど応力ストレスが大きくなる。
本発明者は、上記の考察に基づき、小さな面積のオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体の方が、大きな面積のオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体の方が、同一の環境温度の変化の下、オプティカルコンタクト面に作用するストレスが小さくなるので、熱変動による剥離発生の確率が小さくなるとの仮説を導き出した。
本発明者は、上記の仮説を検証するため、上述された様々な大きさのオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体をオーブン内に入れ、環境温度による剥離は割れの発生を観察した。
吸着状態にあるオプティカルコンタクト組立体(サンプル)は、アルミ製のシャーレに載置され、オーブン内に配設された。オーブン内の温度は、室温から所望の温度度(60℃〜200℃)まで2℃/分の昇温速度にて上昇された。その後、オーブン内の温度は、所望の温度にて、20分維持され、更にその後、2℃/分程度の降温速度にて室温まで戻された。その後、オーブンからサンプルが取り出され、オプティカルコンタクト面が顕微鏡観察された。
上述の試験の結果、オプティカルコンタクト面の面積が大きいほど、剥離や割れが発生する発生温度が低いことが判明した。特に、10mm×10mm以上の面積を有するオプティカルコンタクト面の剥離は、概ね70〜75℃の試験温度から得られたサンプルで観察された。また、試験温度が約100℃を超えると、オプティカルコンタクト面の面積が10mm×10mm以上であるならば、オプティカルコンタクト状態にされる第1主面612(図29参照)での割れが多発した。5mm×5mm以下程度の面積のオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体の剥離発生温度は、約90〜110℃程度であった。特に、2mm×2mm以下の面積のオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体の剥離発生温度は、約120〜130℃程度であった。
上述の結果から、本発明者は、オプティカルコンタクト面の面積を小さくする(即ち、オプティカルコンタクトされる部材(第1光学部材610及び第2光学部材620)間の熱膨張量の差を小さくすることにより、オプティカルコンタクト面において剥離や割れが発生する発生温度を上昇させることができるとの知見を得た。本発明者は、当該知見に基づき、環境温度の変化に耐えるためのオプティカルコンタクト組立体の特性の向上に成功した。
上述の如く、異種材料からなる部材を含むオプティカルコンタクト組立体の接合強度を向上させるための条件と、熱変動に対するオプティカルコンタクト面の耐剥離性及び割れ発生の低減に対する条件とは、相反する方向性を有する。即ち、接合強度の向上並びにガスや水分の浸入に起因する剥離の抑制といった観点からは、大きな面積のオプティカルコンタクト面が好ましい。一方、熱変動に起因するオプティカルコンタクト面の剥離や割れの低減といった観点からは、小さな面積のオプティカルコンタクト面が好ましい。
本発明者は、異種材料から形成された複数の光学部材を備えるオプティカルコンタクト組立体のオプティカルコンタクト面の外縁に隣接して形成された凹部又は切欠部と、当該凹部又は切欠部にオプティカルコンタクト面の外縁を覆う封止部材と、を案出した。本実施形態の原理を特徴づける凹部又は切欠部並びに封止部材は、以下の効果を奏する。
(1)オプティカルコンタクト面の接合力(水素結合による吸着状態を形成する力)だけでなく、封止部材を用いて光学部材同士が接着されるので、光学部材間の接合強度が補強・向上される。
(2)オプティカルコンタクト面の外周に隣接して凹部又は切欠部が形成されるので、オプティカルコンタクト面の面積が低減される。この結果、上述された熱変動に起因するオプティカルコンタクト面の剥離・割れが低減される。
(3)オプティカルコンタクト面の外縁を覆う封止部材は、オプティカルコンタクト面を外部雰囲気から遮断し、封止状態を作り出す。したがって、ガスや水分の浸入は好適に抑制され、オプティカルコンタクト面の剥離の可能性が低減される。この結果、光学素子の長期間に亘る信頼性並びに耐環境性が大幅に向上される。
図28及び図29に示される如く、本実施形態の原理に従って形成された光学素子600のオプティカルコンタクト面640は、レーザ光の透過を許容する。接着剤といった中間層を介することなく形成されたオプティカルコンタクト面640によって、第1光学部材610及び第2光学部材620が密着固定される。したがって、接着剤といった中間層を用いて貼り合わせられた光学部材を備える光学素子と異なり、レーザ光の照射に起因する中間層の劣化及び中間層の劣化に伴う光吸収・散乱といった不具合は、原理的に発生しない。
図28及び図29に関連して説明された光学素子600の第1主面612と第2主面622との間には空気層は存在しない。したがって、図28及び図29に示される光伝搬に対して、オプティカルコンタクト面640において光が感じる屈折率段差は、第1光学部材610の屈折率n1と第2光学部材620の屈折率n2との差Δn=|n1−n2|となる。例えば、光学素子600内を伝搬する波長1064nmのレーザ光がオプティカルコンタクト面640に対して垂直に入射されるならば、第1光学部材610(レーザ結晶)に対する異常光屈折率は、ne1(@1064nm)=2.1652であり、第2光学部材620(MgO:LN結晶)異常光屈折率は、ne2(@1064nm)=2.15であるので、Δne=|ne1−ne2|≒0.015となる。
屈折率段差によるフレネル反射率RはR={(n1−n2)÷(n1+n2)}2で表される。したがって、上述のオプティカルコンタクト面640におけるフレネル反射は高々0.012%となる。このフレネル反射は、多くの光学的用途に対して、第1光学部材610と第2光学部材620とのオプティカルコンタクト面640に反射防止膜を形成する必要がないほど小さい。
したがって、近似する屈折率を有する光学部材を、オプティカルコンタクト技術を用いて一体化し、機能性光学素子が作成されるならば、光学部材間のオプティカルコンタクト面での反射防止膜の形成が不要となる。
図32は、図28及び図29に関連して説明された光学素子600が組み込まれた共振器型の波長変換レーザ光源を例示する。図32に示されるレーザ光源に組み込まれた光学素子にレーザ光が透過される。光学素子600は、第1実施形態に従う光学素子140と同様に、レーザ結晶と波長変換素子とを含むオプティカルコンタクト組立体である。図28、図29及び図32を用いて、レーザ光源が説明される。
レーザ光源700は、光学素子600を備える。光学素子600は、第1光学部材610と、第2光学部材620とを備える。第1光学部材610は、Nd:YVO4からなるレーザ結晶である。また、第2光学部材620は、MgO:LN結晶である。第1光学部材610は、第1主面612と、第1主面612と反対側の入射端面613とを含む。第2光学部材620は、第2主面622と、第2主面622と反対側の出射端面623とを含む。第1主面612及び第2主面622はオプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640が形成される。
光学素子600は、封止部材630を更に備える。封止部材630は、紫外線硬化樹脂から形成される。第2光学部材620に用いられるMgO:LN結晶の一部が切り欠かれ、切欠部621が形成される。封止部材630は、切欠部621に配設される。
レーザ光源700は、レーザ結晶(第1光学部材610)を励起するための励起用半導体レーザ装置(以下、ポンプLD710と称される)と、ポンプLD710から出射された励起レーザ光をレーザ結晶(第1光学部材610)に集光するための集光レンズ720と、光学素子600、ポンプLD710及び集光レンズ720が固定されるマウント730と、を更に備える。本実施形態において、ポンプLD710は、励起光源として例示される。
第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶には、周期状の分極反転構造が形成される。所望の基本波レーザ光が入射されると、第2光学部材620は、基本波波長に対して半分の波長を持つ第2高調波(Second Harmonic Generation: 以下、SHGと称される)を発生する。例えば、上述の、周期状の分極反転構造の周期が、入射される基本波の光軸方向に約7ミクロン程度に設定されるならば、波長1064nmの基本波は、波長532nmの緑色光に波長変換される。このような機能性光学素子は、一般的に、波長変換素子と呼ばれる(特に、SHG光への波長変換を行う素子は、SHG素子と称される)。尚、高平行度が得られるように研磨加工されたレーザ結晶(第1光学部材610)及びMgO:LN結晶(第2光学部材620)を用いてオプティカルコンタクト組立体(光学素子600)が形成されると、第1光学部材610の入射端面613(集光レンズ720側の端面)と第2光学部材620の出射端面623(第1光学部材610とオプティカルコンタクトする第2主面622と反対側の端面)は、略平行な位置関係になる。
第1光学部材610及び第2光学部材620には、必要に応じて、反射防止膜や高反射膜が成膜されてもよい。特に、第1光学部材610の入射端面613には、808nmの波長のレーザ光に対する反射防止特性(例えば、1%以下の反射率)と、1064nmの波長のレーザ光に対する高反射特性(例えば、99.5%以上の反射率)、更には532nmの波長のレーザ光に対する高反射特性(例えば、96%以上の反射率)といった反射透過特性を満たす誘電体多層膜が成膜される。第2光学部材620の出射端面623には1064nmの波長のレーザ光に対する高反射特性(例えば、99.5%以上の反射率)及び532nmの波長のレーザ光に対する反射防止特性(例えば、96%以上の反射率)の特性を示す誘電体多層膜が成膜されている。
ポンプLD710は、波長808nmの励起レーザ光を出射する。集光レンズ720は、励起レーザ光をレーザ結晶(第1光学部材610)に集光する。上述の如く、第1光学部材610の入射端面613に設けられた膜の808nm光に対する反射防止特性により、励起レーザ光は、ほとんど損失することなく、レーザ結晶(第1光学部材610)に照射される。高いパワー密度で集光された励起レーザ光は、レーザ結晶(第1光学部材610)内で吸収された後、1064nmの基本波レーザ光(以下、基本波と称される)として放出される。
平行配置された第2光学部材620の出射端面623の高反射特性膜と第1光学部材610の入射端面613の高反射特性膜とにより、第1光学部材610及び第2光学部材620は、1064nm光に対する共振器構造をなす。したがって、レーザ結晶(第1光学部材610)で放出された波長1064nmの基本波は、共振モードで発振する。共振モードの基本波は、共振器(光学素子600)内部で増幅される。この結果、共振器内部パワーとしては数kWレベルの高パワーレーザ光が生成される。このような高パワーの基本波がMgO:LN結晶(第2光学部材620)に照射され、高い波長変換効率で、波長532nmのSHGが得られる。
共振器(光学素子600)内部の基本波は、図32において右方向に向かう光と、左方向に向かう光とを含む。したがって、発生するSHGも同様に、二方向の成分を含む。しかしながら、第1光学部材610の入射端面613に形成された膜の532nmの波長の光に対する高反射特性により、集光レンズ720に向かうSHG出力は抑えられる。かくして、発生したSHG光の殆どは、第2光学部材620の出射端面623より取り出される。
本実施形態にしたがう光学素子600を用いて、図32に示されるような非常にコンパクトな波長変換レーザ光源(レーザ光源700)が形成される。特に、上述された異種材料からなる複数の光学部材(レーザ結晶(第1光学部材610)及びMgO:LN結晶(第2光学部材620))のオプティカルコンタクト組立体(光学素子600)のオプティカルコンタクト面640の外周に隣接して切欠部621が形成され、更に、オプティカルコンタクト面640の外縁を覆う封止部材630(紫外線硬化樹脂)が切欠部621に充填配置される。この結果、光学素子600の接合強度の向上、オプティカルコンタクト面640の面積の低減並びに封止部材630(紫外線硬化樹脂)による外部からのガスや水分の浸入防止が達成される。かくして、信頼性の高い波長変換レーザ光源(レーザ光源700)が好適に形成される。
本実施形態において、2つの異種材料から形成された光学部材(第1光学部材610及び第2光学部材620)のうち一方に切欠部621が形成されている。代替的に、両方の光学部材に切欠部が形成されてもよい。
本実施形態において、第2光学部材620及び/又は第1光学部材610の側面(分極反転領域と垂直に交わる面)に、好ましくは、導電性材料が接触される。この結果、第1実施形態乃至第7実施形態と同様に、第2光学部材620からのチャージの除去及び/又は第1光学部材610からの放熱が適切になされる。
(第8実施形態)
図33は、オプティカルコンタクトされる前の第1光学部材及び第2光学部材を概略的に示す斜視図である。図34は、オプティカルコンタクトされた第1光学部材及び第2光学部材を備える光学素子の斜視図である。図35は、図34に示される断面Bを概略的に示す。図33乃至図35を用いて、第8実施形態にしたがう光学素子が説明される。第7実施形態と同様の要素には、同様の符号が付される。また、これらの要素には、第7実施形態での説明が援用される。
光学素子600Aは、第1光学部材610Aと、第2光学部材620と、を含む。図33に示されるように、第1光学部材610Aは、第1主面612Aと、第1主面612Aと反対側の入射端面613と、を含む。第2光学部材620は、第2主面622と、第2主面622と反対側の出射端面623と、を含む。第1主面612A及び第2主面622はオプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640Aを形成する(図34及び図35参照)。
光学素子600Aには、オプティカルコンタクト面640Aに隣接する切欠部621Aが形成される。切欠部621Aは、第1光学部材610A及び第2光学部材620の両方に切欠加工を使用して形成される。光学素子600Aは、切欠部621Aに配設された封止部材630Aを更に備える。封止部材630Aは、オプティカルコンタクト面640Aの外縁を覆う。
封止部材630Aは、第1光学部材610A及び第2光学部材620の双方を跨ぐ切欠部621Aに充填されるので、第1光学部材610A又は第2光学部材620と封止部材630Aとの境界を辿り、オプティカルコンタクト面640Aに到達するまでのガスや水分の経路が長くなる。したがって、本実施形態の光学素子600Aは、ガスや水分の浸入に対する高い耐性を有することとなる。
(第9実施形態)
図36は、封止部材が配設される領域内に分散されたオプティカルコンタクト領域を備える光学素子の概略的な斜視図である。図37は、図36に示される断面Cを概略的に示す。本実施形態において、オプティカルコンタクト面の周囲において、例えば、光学部材(第1光学部材及び/又は第2光学部材)に、特殊な切欠部或いは凹部を形成するためのフォトリソグラフィ工程およびドライエッチング工程が施与され、柱状又は板状の構造体が形成される。その後、第1光学部材及び第2光学部材のオプティカルコンタクトプロセスが実行される。この結果、封止部材が配設される領域内で分散された複数のオプティカルコンタクト領域が形成される。第7実施形態と同様の要素には、同様の符号が付される。また、これらの要素には、第7実施形態での説明が援用される。
光学素子600Bは、第1光学部材610Bと第2光学部材620Bとを備える。第1光学部材610B及び第2光学部材620Bはオプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640が形成される。光学素子600Bは、オプティカルコンタクト面640の外縁を覆う封止部材630Bを更に備える。
第2光学部材620Bには、切欠部621Bが形成される。切欠部621Bは、第2光学部材620Bの一部に、例えば、フォトリソグラフィ工程およびドライエッチング工程といった形状加工を施与することにより形成される。この結果、切欠部621Bの領域内に分散されたオプティカルコンタクト領域が形成される。
切欠部621B内に分散されたオプティカルコンタクト領域によって、例えば、封止部材630Bの充填量が低減される。
第7実施形態に関連して説明された光学素子600の場合、光学素子600の外形寸法(オプティカルコンタクト面640に沿った光学素子の断面積、又は、任意の径方向におけるオプティカルコンタクト面640の断面積に光学素子600の切欠部621の幅寸法を加えた寸法)に対して、レーザ光を透過させるオプティカルコンタクト面640の寸法(オプティカルコンタクト面640の面積)が小さいならば、封止部材630が硬化するときの収縮或いは膨張に起因して、切欠部621において光学部材(第1光学部材610及び/又は第2光学部材620)に加わる引張応力又は膨張応力が過度に大きくなる。過度に大きな引張応力又は膨張応力は、オプティカルコンタクト面640に不要な力を生じさせ、第1光学部材610と第2光学部材620との間の吸着状態の劣化や剥離を潜在的に引き起こす。
本実施形態に従う光学素子600Bの場合、オプティカルコンタクト面640の周囲の切欠部621B内に分散された複数のオプティカルコンタクト領域によって、封止部材630Bの充填量が低減される。したがって、上述のオプティカルコンタクト面640に加わる不必要な力は低減される。かくして、オプティカルコンタクト面640における剥離や、第1光学部材610B及び第2光学部材620Bの位置ズレが発生しにくくなる。
第7実施形態乃至第9実施形態において、第1光学部材610,610A,610Bとして、Nd:YVO4結晶(レーザ結晶)が例示される。固体レーザ結晶としては、Nd:YVO4やNd:GdVO4が好ましい。これらの固体レーザ結晶中のNdのドープ量が高くされると、吸収係数が増大する。光の伝搬軸方向に対して短い距離で励起レーザ光が吸収され、基本波が発信されるので、小型のマイクロチップレーザ装置が提供される。
Nd:YVO4やNd:GdVO4が第1光学部材610,610A,610Bに用いられると、固体レーザの励起効率が結晶軸に対して異方性を有するので、単一偏光でレーザ発振がなされる点において有利である。特に、本実施形態において例示された非線形光学結晶による波長変換は、偏光依存性を有するので、単一偏光での発振は、変換効率の大幅な向上をもたらす。周期状の分極反転構造を有する結晶の複屈折の光軸及び位相整合の光軸は一致しているので、温度による偏光の変化が少なくなる。また、単一偏光のレーザ結晶が組み合わられると、変換効率が向上し、偏光の安定化が達成される。尚、Nd:YVO4結晶に比べて、Nd:GdVO4結晶の熱膨張係数は、MgO:LN結晶の熱膨張係数により近いため、非線形光学結晶及びレーザ結晶がオプティカルコンタクトされるならば、結晶の温度変化に起因して生ずるオプティカルコンタクト面の歪みが小さくなる。このため、外部の環境温度変化に対して安定した接合状態が維持される。
第1光学部材として、GdScGa系、YScGa系やYAG系といったセラミックレーザ媒質が用いられてもよい。これらのレーザ媒質が、上記のレーザ結晶と同様に用いられてもよい。例えば、オプティカルコンタクトされたこれらのレーザ媒質及び波長変換素子である強誘電体結晶を備える光学素子やこの光学素子を備える波長変換レーザ光源が作製されてもよい。調合・成形・焼成といったセラミックプロセスは、結晶引上げに比べて量産性に優れているので、セラミックレーザ媒質は、レーザ結晶に比べて非常に低コストで作製される点で有利である。特に、ファインセラミックスと呼ばれる機能性セラミックは光学的用途に多く用いられており有用である。
封止部材がオプティカルコンタクト面の外縁を覆うためには、切欠部又は凹部の深さ(図29に示される寸法「d」(オプティカルコンタクト面からの段差))は、1ミクロン程度で十分である。したがって、フォトリソグラフィとドライエッチングとを用いて、切欠部又は凹部が形成されてもよい。切欠部又は凹部の形成に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングが用いられるならば、オプティカルコンタクト面の形状及び大きさは精密に制御される。また、ダイシング加工に比べて、フォトリソグラフィ及びドライエッチングは大面積の堀込み加工を可能にするので、切欠部又は凹部の形成のための工程が削減される点において、フォトリソグラフィ及びドライエッチングは有利である。
封止部材は、上述の如く、オプティカルコンタクト面の外縁と外部雰囲気とを遮断する効果をもたらす。封止部材のこの重要な役割・効果は、オプティカルコンタクト面の外縁と外部雰囲気との実質的な距離に大きく影響される。
本発明者は、切欠部若しくは凹部の深さ(図29に示される寸法「d」(オプティカルコンタクト面からの段差))を変動させたサンプルと、切欠部若しくは凹部の幅(図29に示される寸法「w」(オプティカルコンタクト面からの封止部材の外周縁までの距離))とを変動させたサンプルとを用いて、オプティカルコンタクト面の外縁と外部雰囲気との実質的な距離の変動の影響(遮断効果に与える影響)を調査した。
上記の調査の結果、封止部材によるオプティカルコンタクト面と外部雰囲気との遮断効果は、切欠部又は凹部の深さ及び幅の一方に依存するのではなく、封止部材と光学部材との境界面を辿ってオプティカルコンタクト面に達するまでの実質的な距離が大きいほど遮断効果が大きくなる傾向が明らかとなった。上述の実質的な距離が、500ミクロン以上であり、封止部材が十分に充填・硬化されている状態であるならば、実用上問題のないレベルで外部からのガスや水分の浸入が長時間防止された。
第7実施形態乃至第9実施形態において、封止部材として、紫外線硬化樹脂が例示される。光学素子の使用環境に応じて、様々な特性を有する紫外線硬化樹脂が選択可能である点において、紫外線硬化樹脂から形成された封止部材は有利である。例えば、粘度、硬化後の屈折率、耐熱性や耐薬品性といった様々な要求に応じて、適切な紫外線硬化樹脂が選択される。代替的に、光学素子に用いられる封止部材として、紫外線硬化樹脂に代えて、例えば、熱硬化性樹脂が用いられてもよい。
封止部材として、珪酸ナトリウム(Na2SiO3)又は珪酸ナトリウムをゲル化したケイ酸が用いられてもよい。高濃度の珪酸ナトリウム水溶液は、一般的に、水ガラスとして知られる水飴状の高粘度の液体である。高濃度の珪酸ナトリウム水溶液が、水に溶かされ、適度な粘度にされる。その後、適当な粘度の珪酸ナトリウム水溶液は、オプティカルコンタクト面の外周縁を覆うように、封止部材が配置される光学素子の切欠部に塗布される。その後、ピペットといった適切な器具が用いられ、適量の希塩酸が珪酸ナトリウム水溶液に加えられる。この結果、珪酸ナトリウムと塩酸との化学反応が生じ、珪酸ナトリウムはゲル化し(流動性のない非晶質の状態になり)、ケイ酸(H2SiO3)となる。このようにゲル化したケイ酸が封止部材として用いられると、オプティカルコンタクト面へのガスや水分の浸入が適切に防止される。また、ゲル化によって、光学部材同士が強固に接着固定され、耐加工性や耐熱変動性が向上する。また、ゲル化したケイ酸は、樹脂系の封止部材よりも高い硬度を有する非晶質体(ガラスと似た特性)となるため、例えば、ダイシング加工の際にダイシングブレードの目詰まりが発生しにくくなる。したがって、光学部材と同一のブレードを用いて切断加工がなされてもよい。
尚、封止部材による接着効果を高めるために、封止部材が配置される切欠部又は凹部の加工表面は、好ましくは、鏡面ではなく、凹凸面に形成される。この結果、封止部材と光学部材との接触面積が実質的に増大し、接着効果が大きくなる。
本発明者の研究によると、封止部材として紫外線硬化樹脂が用いられるならば、10ミクロン以上の表面粗さ(Ra)に切欠部又は凹部が形成されると、封止部材の接着力が向上する。
本発明者は、2mm×2mm程度の外形寸法を有する光学素子に、1.2mm×1.2mmのオプティカルコンタクト面を形成した(即ち、オプティカルコンタクト面の外周縁から光学部材の最外周面までの距離が約400ミクロン程度となるように切欠部又は凹部が形成された)。オプティカルコンタクト面からの最大段差量(d)が500ミクロン程度の切欠部に対して、幅10〜50ミクロン程度、高さが100ミクロン程度以上の微細な凹凸が形成された。このとき、上述の接着力の向上効果が顕著に現れた。また、上記構造においては、封止部材と光学部材との境界を辿ってオプティカルコンタクト面の外周縁に達するまでの距離が大きくなるため、外部雰囲気中のガスや水分のオプティカルコンタクト面への浸入が適切に防止された。
上述の説明において、紫外線硬化樹脂が封止部材として用いられている。代替的に、封止部材は、他の誘電体薄膜(例えば、SiO2から形成された薄膜)を用いて形成されてもよい。
(第10実施形態)
オプティカルコンタクト面と外部雰囲気とを遮断する封止部材の配設のための手法として、上述の一連の実施形態で説明されたような切欠部や凹部(オプティカルコンタクト面の外縁に隣接して形成された切欠部や凹部)を形成することなしにオプティカルコンタクト組立体を作成し、オプティカルコンタクト組立体のオプティカルコンタクト面の外縁に沿って封止部材が配設されることが考えられる。この場合、封止部材は、第1光学部材及び/又は第2光学部材の最外部よりも外方にはみ出る。このような形状の光学素子が、例えば、図32に示されるマウント730の平面部に配置固定されるならば、封止部材はマウント730の平面部に干渉し、光学部材は水平に配置されにくくなる。したがって、第1光学部材及び/又は第2光学部材の最外部よりも外方にはみ出た封止部材との干渉を避けるための凹部の加工といった対策がマウント730に施される必要がある。
図38A乃至図39Cは、第1光学部材及び/又は第2光学部材の最外部よりも外方にはみ出た封止部材に関連する不具合を解消するための形状を有する光学素子を例示する。図38A乃至図39Cはともに、オプティカルコンタクトされた2つの光学部材を備える光学素子を示す。2つの光学部材はともに、少なくとも1つの平坦な外面を含む。この平坦な外面とオプティカルコンタクト面の両方に接するように切欠部が形成される。加えて、光学素子は、オプティカルコンタクト面の外縁を覆う封止部材を備える。封止部材は、切欠部に接していないオプティカルコンタクト面の外縁も覆う。図38A乃至図39Cに示される光学素子の構造は、第7実施形態乃至第9実施形態に関連して説明された利点・効果に加えて、平坦な外面が光学素子が実装されるときの基準面として用いられるという効果をもたらす。光学素子のオプティカルコンタクト面の形状は、円形や矩形であってもよい。或いは、光学素子のオプティカルコンタクト面の形状は、円を直線で切り取った略半円形状であってもよく、多角形状であってもよい。このように、本実施形態において、光学素子のオプティカルコンタクト面は様々な形状であってもよいが、本実施形態は、光学部材の外周面が少なくとも1つの平坦な面を含むことに特徴づけられる。
図38A乃至図38Cは、略半円形状の断面を有する2つの光学部材を備える光学素子を概略的に示す。図38Aは、オプティカルコンタクト状態にされた2つの光学部材を備える光学素子の概略的な斜視図である。図38Bは、図38A中の断面Dを概略的に示す。図38Cは、図38A中の矢印の方向から見た光学素子を示す。
図38A乃至図38Cに示される光学素子600Cは、第1光学部材610Cと、第2光学部材620Cと、を備える。第1光学部材610C及び第2光学部材620Cはともに、略半円柱形状に形成される。第1光学部材610Cは、略平坦な底面615と第2光学部材620Cにオプティカルコンタクト状態にされる第1主面612Cと、を含む。また、第2光学部材620Cは、略平坦な底面625と、第1主面612Cにオプティカルコンタクトされる第2主面622Cと、を含む。第1光学部材610Cの底面615及び第2光学部材620Cの底面625が略面一となるように、第1光学部材610Cの第1主面612C及び第2光学部材620Cの第2主面622Cは接合され、オプティカルコンタクト面640Cが形成される。第1主面612C及び第2主面622Cは、略同形同大に形成される。
光学素子600Cは、オプティカルコンタクト面640Cの外縁を覆う封止部材630Cを更に備える。第2光学部材620Cには、切欠部621Cが形成される。切欠部621Cは、底面615,625及びオプティカルコンタクト面640Cに隣接するように、第2光学部材620Cの一部を切り欠いて形成される。封止部材630Cは、オプティカルコンタクト面640Cの下縁から底面615,625に至るまでの領域を占める切欠部621Cだけでなく第1光学部材610C及び第2光学部材620Cの湾曲面に配設される。
図39A乃至図39Cは、オプティカルコンタクト面を形成する主面の大きさが異なる2つの光学素子を備える光学素子を概略的に示す。図39Aは、オプティカルコンタクトされたテーパ形状の光学部材及び直方体形状の光学部材を備える光学素子の概略的な斜視図である。図39Bは、図39A中の断面Eを概略的に示す。図39Cは、図39A中の矢印の方向から見た光学素子を示す。
図39A乃至図39Cに示される光学素子600Dは、第1光学部材610Dと、第2光学部材620Dと、を備える。第1光学部材610Dは、第2光学部材620Dに向けて狭まる(即ち、光の伝搬方向に向けて狭まる)テーパ状の6面体である。また、第2光学部材620Dは、直方体である。
第1光学部材610Dは、略平坦な底面615Dと第2光学部材620Dにオプティカルコンタクトされる第1主面612Dと、を含む。また、第2光学部材620Dは、略平坦な底面625Dと、第1主面612Dにオプティカルコンタクトされる第2主面622Dと、を含む。第1光学部材610Dの底面615D及び第2光学部材620Dの底面625Dが略面一となるように、第1光学部材610Dの第1主面612D及び第2光学部材620Dの第2主面622Dは接合され、オプティカルコンタクト面640Dが形成される。このとき、オプティカルコンタクト面640Dに対し、底面615D,625Dは略直角である。
光学素子600Dは、オプティカルコンタクト面640Dの外縁を覆う封止部材630Dを更に備える。第1光学部材610Dには、切欠部621Dが形成される。切欠部621Dは、底面615D,625D及びオプティカルコンタクト面640Dに隣接するように、第1光学部材610Dの一部を切り欠いて形成される。封止部材630Dは、オプティカルコンタクト面640Dの下縁から底面615D,625Dに至るまでの領域を占める切欠部621Dだけでなく第1光学部材610Dと第2光学部材620Dとで形成される角隅部に沿って配設される。
第7実施形態乃至第10実施形態において、異種材料からなる光学部材を備えるオプティカルコンタクト組立体として、レーザ結晶と波長変換素子とを備える光学素子及び当該光学素子を備える波長変換レーザ光源が例示される。これら一連の実施形態に係る原理は、他の光学素子(例えば、レーザ結晶と電気光学効果を示す非線形光学結晶とが組み合わされた変調器一体型レーザ光源、セラミックレーザと電極を備えるTeO2といった音響光学素子とが組み合わされた光強度変調器一体型レーザ光源や、電圧印加によるレンズ効果や回折効果を示す複数の光学素子が組み合わされた光回路素子といった様々な光学素子)に適用されてもよい。
(第11実施形態)
上述の第7実施形態乃至第10実施形態において、異種材料から形成されたオプティカルコンタクト組立体として、Nd:YVO4結晶(レーザ結晶)とMgO:LN結晶(非線形光学結晶)とのオプティカルコンタクト組立体並びに当該オプティカルコンタクト組立体を用いた共振器構造を備える波長変換レーザ光源が例示されている。本実施形態において、オプティカルコンタクト組立体のオプティカルコンタクト面は、レーザ光の横モード制御を行うための光学窓として用いられる。本実施形態の原理は、所望の大きさ・形状のオプティカルコンタクト面を用いて、共振モードとして成立する横モードの制御がなされる点に特徴づけられる。
図40及び図41は、本実施形態の光学素子を例示する。図40及び図41に示される光学素子は、オプティカルコンタクト状態にされた固体レーザ媒質と共振器ミラーとを備えた光学結晶を含む共振器型の固体レーザ光源に適用される。
図40は、光学窓として機能するオプティカルコンタクト面を備える光学素子を概略的に示す斜視図である。図41は、図40に示される断面Fを概略的に示す。第7実施形態と同様の要素には、同様の符号が付される。また、これらの要素には、第7実施形態での説明が援用される。
光学素子600Eは、第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶と、第2光学部材620Eとして用いられるMgO:LN結晶と、を備える。第1光学部材610Eは、第2光学部材620Eにオプティカルコンタクトされる第1主面612Eと、第1主面612Eと反対側の入射端面613と、を含む。第2光学部材620Eは、第1主面612Eにオプティカルコンタクトされる第2主面622Eと、第2主面622Eと反対側の出射端面623と、を含む。第1主面612E及び第2主面622Eは、オプティカルコンタクト状態にされ、オプティカルコンタクト面640Eを形成する。
第2光学部材620Eには、MgO:LN結晶の一部を切り欠いて形成された切欠部621が形成される。光学素子600Eは、切欠部621に配設された封止部材630を更に備える。封止部材630は、オプティカルコンタクト面640Eの外縁を覆う。光学素子600Eは、第7実施形態に関連して説明された加工プロセスにしたがって作成可能である。
本実施形態において、光学素子600Eの入射端面613(第1光学素子(レーザ結晶)の第1主面612Eと反対側の端面)から波長808nmの励起用レーザ光が入射される。その後、第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶において励起された波長1064nmのレーザ光は、オプティカルコンタクト面640Eを通じて、第2光学部材620Eに伝搬する。更にその後、波長1064nmのレーザ光は、第2光学部材620Eとして用いられるMgO:LN結晶の出射端面623(第2光学部材620Eの第2主面622Eと反対側の端面)で反射される。更に、波長1064nmのレーザ光は、第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶の入射端面613で再度反射される。かくして、光学素子内で、共振モードの発振が生ずる。
上述の共振モードの発振が達成されるために、第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶の入射端面613には、波長1064nmのレーザ光に対する高反射特性(例えば、99.8%以上の反射率)を示す誘電体多層膜といった反射膜が成膜される。また、第2光学部材620Eとして用いられるMgO:LN結晶の出射端面623にも、波長1064nmのレーザ光に対する高反射特性(例えば、99.8%以上の反射率)を示す誘電体多層膜といった反射膜が成膜される。
例えば、高出力の励起用半導体レーザといった光源からレーザ光が第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶に入射される。この結果、第1光学部材610E内での光吸収及びエネルギ準位に応じた波長のレーザ光の放出が生ずる。例えば、レーザ結晶として、Nd:YVO4結晶が用いられ、ポンプ光として波長808nmの励起レーザ光が用いられると、Nd:YVO4結晶からは波長1064nmの光が放出される。この時、励起レーザとして半導体レーザを用いられるならば、ポンプ光ビームのプロファイル(横モード)は楕円状となる。また、Nd:YVO4結晶の照射領域(即ち、レーザ励起領域の断面形状)も楕円形状となる。この結果、励起される1064nmの波長の光の横モードも楕円形状となる。
第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶内での808nm光から1064nm光への変換は、モード結合(モードカップリング、単にカップリングとも言う)により成立する。808nmの波長の光と1064nmの波長の光とのカップリングにおいて、例えば、808nmの波長の光のシングルモードから1064nmの波長の光のマルチモードへのカップリング効率が優位になるときに励起される1064nm光は、横モードマルチとなる。このことは、出力ビームの利用の点において様々な不都合を引き起こす。例えば、波長532nmのSHGを得るために、波長1064nmのレーザ光が波長変換素子に入射されるならば、シングルモードに比べて、変換効率が大きく低下する。横モードマルチのビームは、ビーム品質の指標である所謂M2(エムスクウェア)が大きいので、集光特性が悪い。例えば、MEMSデバイスを備える走査型のディスプレイ装置への利用は、制限されることになる。
このような共振器構成におけるビーム横モードのシングル化に関して、マルチモードに対する損失を与えるために、共振器内に光学窓(例えば、アパーチャ)を設けることが提案されている。しかしながら、小型の光学部材が組み合わされ、コンパクトな共振器が構成される場合には、例えば、光学部材間にアパーチャを挿入するための構造が必要とされる。したがって、部品点数の増大、アパーチャの挿入位置に関する制御の必要性やアパーチャの固定の不安定性といった様々な課題が生ずる。
上述の課題に関し、本実施形態において、光学素子のオプティカルコンタクト面の形状及び大きさの制御を通じ、光学素子内を通過するレーザ光の横モードが制御される。上述の如く、本実施形態では、オプティカルコンタクトされた光学部材を用いて共振器が形成されること並びにオプティカルコンタクト面が光学窓として用いられることによって、構成部品数の削減並びに共振器構成の安定性が得られるだけでなく、光学窓の位置調整が不要となる。
上述の光学窓の形状及び大きさは、例えば、フォトリソグラフィやドライエッチングプロセスといった加工手法により、サブミクロン単位の精度で制御される。
本発明者は、図40及び図41に関連して説明された光学素子600Eに、波長808nmの励起レーザ光を実際に入射し、オプティカルコンタクト面640Eにおける1064nmレーザ光のビームスポットを観察した。尚、オプティカルコンタクト面640Eは、集光位置とされた。また、集光位置でのビーム横モードの最大径が100μm程度となるように励起レーザ光は調整された。
図42A及び図42Bは、オプティカルコンタクト面640Eにおいて観察されたビームスポットの像を示す。図42Aは、直径φ1mmのオプティカルコンタクト面640E上で観察されたビームスポットの像を示す。図42Bは、直径φ300μmのオプティカルコンタクト面640E上で観察されたビームスポットの像を示す。
光学窓として機能しない大面積(φ1mm程度)のオプティカルコンタクト面640Eを有する光学素子600Eに対するビームスポットの観察結果によれば、オプティカルコンタクト面640EにおけるビームのM2は、単軸方向で1.39であり、長軸方向で2.3であった。本発明者は、オプティカルコンタクト面640Eの面積が異なる光学素子600Eを用いて、オプティカルコンタクト面640Eの光学窓としての作用を確認した。この結果、φ400μmのオプティカルコンタクト面640Eで観察されたビームのM2は、それぞれ単軸方向において1.07であり、長軸方向において1.58であり、大幅に改善された。更に、φ300μmのオプティカルコンタクト面640Eで観察されたビームのM2は、それぞれ単軸方向において1.01であり、長軸方向において1.04であった。したがって、φ300μmのオプティカルコンタクト面640E上で、略真円に近いビーム形状が観察された。本発明者は、更に、φ250μm以下のオプティカルコンタクト面640Eを有する光学素子600Eを用いた観察を行った。この観察の結果、本発明者は、φ250μm以下のオプティカルコンタクト面640Eでは、ビームの多くが光学窓によってはじかれ、実質的に1064nm光の励起効率が極端に低下することを確認した。したがって、オプティカルコンタクト面640Eの大きさは、オプティカルコンタクト面640Eにおけるビーム径の約3〜4倍程度に設定されることが好ましい。
(第12実施形態)
図43及び図44は、テーパ形状の光学部材を備える光学素子を示す。光学素子は、共振器として用いられ、第11実施形態と同様に、光学素子のオプティカルコンタクト面は、光学窓として機能する。
図43は、光学素子の概略的な斜視図である。図44は、図43中に示される断面Gを概略的に示す。図43及び図44を用いて、光学素子が説明される。第11実施形態と同様の要素には、同様の符号が付される。また、これらの要素には、第11実施形態での説明が援用される。
光学素子600Fは、第1光学部材610Fとして用いられるレーザ結晶と、第2光学部材620Fとして用いられるMgO:LN結晶と、を備える。第1光学部材610Fは、第2光学部材620Fにオプティカルコンタクトされる第1主面612Fと、第1主面612Fと反対側の入射端面613と、を含む。第2光学部材620Fは、第1主面612Fにオプティカルコンタクトされる第2主面622Fと、第2主面622Fと反対側の出射端面623と、を含む。第1主面612F及び第2主面622Fは、オプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640Fを形成する。第2主面622Fは、第1主面612Fよりも広い。したがって、第1光学部材610Fの周壁(入射端面613と第1主面612Fとの間で延びる傾斜した壁部)と第2主面622Fとの間で角隅部が形成される。光学素子600Fは、角隅部に配設された封止部材630Fを更に備える。封止部材630Fは、第1主面612Fと第2主面622Fとにより形成されたオプティカルコンタクト面640Fの外縁を封止する。
第1光学部材610Fとして用いられるレーザ結晶には、形状加工が施与され、切欠部621Fが形成される。入射端面613から第1主面612Fに亘って行われる形状加工を通じて、第1光学部材610Fは、テーパ形状に形成され、第2光学部材620Fに向けて徐々に狭まっている。したがって、入射端面613から入射した光の光軸に対して略垂直な第1光学部材610Fの断面は、光軸に沿って変化する。テーパ状に形成された第1光学部材610Fに対して、第2光学部材620Fは、略直方体である。第2光学部材620Fとして用いられるMgO:LN結晶の第2主面622Fは、第1光学部材610Fとして用いられるレーザ結晶の第1主面612Fよりも広い。第1光学部材610Fとして用いられるレーザ結晶の第1主面612F及びテーパ状に形成されたレーザ結晶の周壁の形状及び大きさは、第1主面612F及び周壁がレーザ光に対する光学窓として実質的に機能するように制御される。テーパ形状加工において設定されるテーパ角度(即ち、第1光学部材610Fとして用いられる光伝搬方向の長さ、第1主面612Fの断面形状及び入射端面613の断面形状によって決定される第1光学部材610Fの周壁面それぞれの傾斜角度)は、使用されるレーザ光波長や光学部材の特性や光学素子600Fへのビームの入射条件といった光学的な条件に応じて適切に設定される。
第1光学部材610Fに対するテーパ加工は、ダイシング、研磨やエッチングといった様々な加工プロセスにより行われてもよい。尚、テーパ形状に加工された面の状態(例えば、面粗さ)は、使用される光ビームに対する損失を増減させるので、テーパ形状に加工された面の状態が適切に制御され、不要な横モードが効率的に除去されてもよい。図44に示される光学素子600Fのオプティカルコンタクト面640Fの形状及び大きさが適切に制御され、光学素子600F内を通過するレーザ光の横モード制御が達成される。光学部材(第1光学部材610F,第2光学部材620F)がオプティカルコンタクト状態にされ共振器が構成され、且つ、オプティカルコンタクト面640Fが光学窓として用いられるので、構成部品数が削減されるとともに共振器構成の安定性が得られる。更に、光学窓の位置調整はほとんど必要とされない。
(第13実施形態)
本実施形態では、第7実施形態に関連して説明された光学素子の作成に係る量産性並びに光学素子の実装に関する有利な特徴が説明される。
第7実施形態に関連して説明されたように、光学素子の作成時において、小片化された光学部材が用意される。光学部材に切欠加工が施された後、親水性処理とオプティカルコンタクト面の形成(第1主面と第2主面との貼り合わせ)が行われる。その後、封止部材の塗布並びに硬化がなされる。このような小片の光学部材のオプティカルコンタクトの工程における不利な点が以下に示される。
(1)オプティカルコンタクト組立体を作成するときの吸着状態の形成の容易性は、接合面の面積に依存する。大きいオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体は、比較的小さな加圧力で容易にオプティカルコンタクト面全体に亘る吸着状態が形成される一方で、オプティカルコンタクト面の面積が小さくなるにつれて、吸着状態を形成するために必要とされる加圧力は大きくなる。
(2)オプティカルコンタクトされる光学部材の表面間に数ミクロン程度の大きさの異物が存在するならば、吸着状態が形成されにくい。したがって、オプティカルコンタクトされる光学部材の表面の十分な洗浄・クリーニングが必要とされる。
上述の不都合な傾向は、特に、2mm×2mm以下の面積のオプティカルコンタクト面を有する小片の光学部材を用いてオプティカルコンタクト組立体が形成されるときに顕著となる。
本発明者は、上述の課題を解決するために、大面積のオプティカルコンタクト面を有する光学部材をオプティカルコンタクトした後、微少な面積のオプティカルコンタクト面を有する光学素子を容易に形成する方法について研究した。本発明者は、以下に示される工程を経て、上述の第7実施形態及び第11実施形態に関連して説明された光学素子を作成した。以下に、本発明者が用いた工程が説明される。
(1)オプティカルコンタクト状態にされる光学部材の大面積の主面に対し、ダイシング加工やドライエッチングといった加工技術を用いて、溝構造(幅:W1)が形成される。このとき、溝構造の少なくとも一部は、光学部材の主面の外縁まで到達するように、ダイシング加工やドライエッチングが行われる。
(2)溝形成された光学部材の主面に対して、親水性処理が行われる。その後、溝形成された光学部材の主面は、他の光学部材とオプティカルコンタクトされ(光学部材間での吸着状態が形成され)、オプティカルコンタクト面が形成される。
(3)上述の溝構造によって光学部材間に形成されたギャップ(空隙)に封止部材が充填される。封止部材は、その後、硬化される。
(4)上述の溝幅W1より小さなブレード幅W2のダイシングブレードといった工具を用いて、封止部材が小片化され、光学素子が形成される。尚、封止部材の一部は、オプティカルコンタクト面の外縁を覆った状態を保っている。
上述の光学素子の作成工程と、第7実施形態及び第11実施形態に関連して説明された光学素子の構造(即ち、オプティカルコンタクト面の外縁に隣接して凹部又は切欠部が形成され、当該凹部又は切欠部に配設された封止部材がオプティカルコンタクト面の外縁を覆う構造)と、を用いて、小片化された光学部材を備えるオプティカルコンタクト組立体の作成に係る課題が好適に解決される。
図45A乃至図45Eは、光学素子を作成するための工程を概略的に示す。図45A乃至図45Eに示される工程を通じて、Nd:YVO4結晶(レーザ結晶)及びMgO:LN結晶(非線形光学結晶)が、オプティカルコンタクト状態にされ、光学素子が形成される。
図45Aは、第1光学部材に溝を形成する工程を概略的に示す。図45Bは、溝形成後の第1光学部材(図45Aの工程を経た第1光学部材)と第2光学部材とをオプティカルコンタクトする(貼り合わせる)工程を概略的に示す。図45Cは、吸着状態にあるオプティカルコンタクト組立体の溝形成部分(空隙)に封止部材を充填並びに硬化する工程を概略的に示す。図45Dは、封止部材が充填された溝形成部分に沿って、ダイシングを用いて、光学素子を切り出すための工程を概略的に示す。図45Eは、小片化された光学素子の斜視図である。
図45Aは、第1光学部材810として用いられるレーザ結晶910(Nd:YVO4結晶)と、レーザ結晶910の表面に形成された溝構造921を示す。尚、溝構造921が形成されたレーザ結晶910の表面は、第1主面812として、オプティカルコンタクト面840の形成に用いられる。また、第1主面812と反対側のレーザ結晶910の表面は入射端面813として用いられる。
図45Bは、溝構造921が形成されたレーザ結晶910に加えて、第2光学部材820として用いられるMgO:LN結晶920を示す。図45Bにおいて、レーザ結晶910の第1主面812と対向するMgO:LN結晶920の表面は、第2主面822として用いられる。第2主面822と反対側のMgO:LN結晶920の表面は、出射端面823として用いられる。第1主面812及び第2主面822はオプティカルコンタクト状態にされ、図45Eに示されるオプティカルコンタクト面840が形成される。
図45Cは、溝構造921が形成されたレーザ結晶910及びMgO:LN結晶920に加えて、溝構造921とMgO:LN結晶920の第2主面822とによって形成された空隙に充填並びに硬化された封止部材830を示す。以下に、詳細な作成プロセス並びに作成プロセスの特徴が説明される。
図45Aに示される如く、厚さ2mm、面積12mm×12mm、a−軸カットのレーザ結晶910が用意される。レーザ結晶910の主面(上面及び下面)は、鏡面研磨されている。レーザ結晶910の主面(上面及び下面)のうち一方の面は、オプティカルコンタクトされる第1主面812として用いられる。他方の面は、入射端面813として用いられる。第1主面812として用いられるレーザ結晶910の第1主面812に対し、ダイシングを用いて、溝構造921が形成される。溝構造921の形成に、例えば、300ミクロン程度のダイシングブレード幅を有するダイシングが用いられてもよい。溝構造921中の溝のピッチは、例えば、1.2mmに設定されてもよい。また、溝の幅は、400〜700ミクロン程度であってもよい。溝の深さは、30ミクロン程度であってもよい。このような溝構造921の形成によって、図45Eに示される小片化された光学素子800のオプティカルコンタクト面840は、500ミクロン×500ミクロン程度〜800ミクロン×800ミクロン程度の矩形となる。また、図45Eに示される光学素子800の外形断面寸法は約1mm×1mm程度となる。
溝構造921が形成されたレーザ結晶910に対して、十分な有機洗浄が行われ、溝構造921の加工に用いられた樹脂接着剤や他の汚れ成分が除去される。その後、レーザ結晶910及びMgO:LN結晶920の基板(厚さ0.5mm、面積12mm×12mm、Xカット板)に対して、親水性処理が行われる。親水性処理は、第7実施形態に関連して説明された処理と同様である。
図45Bに示される如く、溝構造921が形成されたレーザ結晶910の第1主面812及びMgO:LN結晶920のオプティカルコンタクトすべき主面(即ち、第2主面822)が、オプティカルコンタクトされる。レーザ結晶910の第1主面812とMgO:LN結晶920の第2主面822との貼り合わせの間、レーザ結晶910の結晶軸(C軸)及びMgO:LN結晶920の結晶軸が平行となるように、レーザ結晶910の基板及びMgO:LN結晶920の基板の方向が調整される。
レーザ結晶910に形成された溝構造921によって区画されたオプティカルコンタクト面840の面積は、500μm×500μm程度〜800μm×800μm程度であり、非常に小さいが、貼り合わせ基板(レーザ結晶910及びMgO:LN結晶920)全体の面積は、12mm×12mmであり、第1主面812と第2主面822との吸着(オプティカルコンタクト状態)は比較的容易に達成される。本発明者は、上述の貼り合わせ工程を通じて、吸着状態の形成の容易性は、個々の区画されたオプティカルコンタクト面の面積にのみ依存するのではなく、オプティカルコンタクト組立体の形成に用いられる光学部材(レーザ結晶910及びMgO:LN結晶920)全体の面積にも依存することを確認した。オプティカルコンタクト組立体の形成に用いられる光学部材(レーザ結晶910及びMgO:LN結晶920)全体の面積が大きくなると、比較的容易に吸着状態が形成されるという傾向は、本発明者によって、初めて明らかにした特徴である。
図46は、上述の工程を経て得られたオプティカルコンタクト組立体の実態顕微鏡画像を示す。図46の画像は、出射端面823として用いられるMgO:LN結晶920の表面側からオプティカルコンタクト面840を撮像した写真である。図46のセクション(a)に示されるオプティカルコンタクト面840は、500μm×500μmの寸法を有する。図46のセクション(b)に示されるオプティカルコンタクト面840は、800μm×800μmの寸法を有する。
図46中、明るい矩形部分は、レーザ結晶910とMgO:LN結晶920とによって形成されたオプティカルコンタクト面840を表す。図46中、暗い格子形状部分は、溝構造921及びMgO:LN結晶920によって形成された空隙を表す。
オプティカルコンタクト面840における虹色の干渉縞は、オプティカルコンタクト面840における吸着状態の形成不良を意味するが、図46において、オプティカルコンタクト面840での干渉縞は観察されない。したがって、上述の工程を経て、良好な吸着状態がオプティカルコンタクト面840で形成されていることが分かる。
オプティカルコンタクト面840における良好な吸着状態の形成の後、溝構造921及びMgO:LN結晶920によって形成された空隙に、封止部材830として、紫外線硬化樹脂が充填され、その後、硬化される。本実施形態において、様々な種類の紫外線硬化樹脂が適用可能である。本発明者は、epotek社製の低粘度のOG146(40cp)と、ケミテック社製の比較的高粘度のU1541K(60000cp)を使用した。
粘度の差異は、充填速度の差異に帰結するけれども、両樹脂材料ともに、溝構造921とMgO:LN結晶920とにより形成された空隙に適切に充填された。また、両樹脂材料ともに、〜2000mJ/cm2程度の紫外線照射量で硬化された。本発明者は、両樹脂材料に対して、樹脂が硬化するときの収縮に起因する充填不良を観察しなかった。
樹脂の充填・硬化の後、図45Dに示されるダイシング加工を通じて、オプティカルコンタクト組立体が小片化される。小片化の差異に用いられるダイシングのブレード幅は、封止部材830が充填された溝構造921の幅(400〜700μm)よりも薄い。本発明者は、オプティカルコンタクト組立体を小片化するために、150ミクロン幅のダイシングブレード幅を使用した。
オプティカルコンタクト組立体が小片化されると、図45Eに示される光学素子800が形成される。空隙に充填された封止部材830は、小片化後も、オプティカルコンタクト面840の外縁を覆っている。ダイシング加工時のブレード幅を含めた切除幅は、180ミクロン程度であるので、オプティカルコンタクト面840の外縁からダイシング部分までの幅(形成された溝構造921の幅に応じて、約100〜約500ミクロン程度の幅)の領域に封止部材830は残存する。
図47は、上述のダイシング加工を通じて小片化されたオプティカルコンタクト組立体の実態顕微鏡による観察像を示す。
図47に示される観察像によれば、ダイシング加工の間において、封止部材830が充填された領域及びオプティカルコンタクト面840への水の浸入やダイシングブレードからオプティカルコンタクト組立体に加わる機械的ストレスに起因するオプティカルコンタクト面840の剥離は観察されない。したがって、図47の観察像から、最終的に、約1mm×1mm入出射面と2.5mmの長さとを有する小片化された光学素子800が好適に形成されたことが分かる。
上述の如く、本実施形態に従う加工工程を通じて、小片化されたオプティカルコンタクト組立体の形成における課題(即ち、オプティカルコンタクト時の吸着状態の形成の容易性の確保に関する課題)は、適切に解決される。また、充填された紫外線硬化樹脂(封止部材830)は、オプティカルコンタクト面840への水やガスの浸入を抑制する。更に、充填された紫外線硬化樹脂(封止部材830)は、オプティカルコンタクト組立体の接合強度を増大させるので、ダイシング加工時の機械的ストレスに対するオプティカルコンタクト組立体の耐性を増大する。かくして、小片化されたオプティカルコンタクト組立体の形成工程において、実用的な効果も得られる。
本実施形態の加工工程は、第7実施形態及び/又は第11実施形態に示される構造の光学素子に専ら適用可能である。第7実施形態及び/又は第11実施形態に示される構造の光学素子は、本実施形態の加工工程を通じて、容易且つ効率的に作成される。
本実施形態において、光学素子800を形成するために、レーザ結晶910にのみ溝構造921が形成されている。代替的に、MgO:LN結晶にのみ溝構造が形成されてもよい。或いは、光学素子800を構成する2つの光学部材の両方に溝構造が形成されてもよい。いずれの場合も、上述の同様の効果が得られる。
本実施形態において、封止部材830として、紫外線硬化樹脂が用いられる。代替的に、封止部材として熱硬化性の樹脂が用いられてもよい。熱硬化性樹脂が用いられても、同様の効果が得られる。尚、熱溶融性ワックスといった、加熱しながらの充填が要求される樹脂は、本実施形態の加工工程には不向きである。加熱しながらの充填が要求される樹脂が封止部材として用いられるならば、オプティカルコンタクトされる光学部材間の熱膨張の差異による反りは吸着状態の劣化が生ずる可能性がある。
第7実施形態に関連して説明された珪酸ナトリウム(Na2SiO3)又はゲル化された珪酸ナトリウムを含むケイ酸が封止部材として用いられてもよい。高濃度の珪酸ナトリウム水溶液は、水に溶かされ、適切な粘度に調整される。その後、珪酸ナトリウム水溶液は、上述の紫外線硬化樹脂と同様に、オプティカルコンタクト組立体の外縁に面した空隙部の開口部から充填される。更にその後、ピペットを用いて、希塩酸が上述の開口部周辺に適量加えられる。この結果、充填部(空隙部)の珪酸ナトリウムが硬化(ゲル化)したケイ酸が生成される。ゲル化によって、光学部材同士が、強固に接着固定される。この結果、オプティカルコンタクト組立体の耐加工性や耐熱変動性が向上する。また、生成されたケイ酸は、樹脂系の封止部材よりも硬度を有する非晶質体(ガラスと似た特性)となるので、例えば、ダイシング加工の際にダイシングブレードの目詰まりを発生させることが少ない。したがって、光学部材に用いられたものと同一のブレードを用いて、切断加工が行われてもよい。
(第14実施形態)
本実施形態において、上述の第1実施形態乃至第13実施形態に関連して説明された光学素子又は波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置が説明される。
図48は、レーザ光を光源とするレーザプロジェクタ(2次元変調素子として強誘電体LCOSを用いたレーザプロジェクタ)を示す。本実施形態において、レーザプロジェクタは、画像表示装置として例示される。
レーザプロジェクタ1000は、青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100gを備える。レーザプロジェクタ1000は、青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100gそれぞれに対応するコリメートレンズ1110b、1110r及び1110gを更に備える。青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100gから発せられたレーザ光は、コリメートレンズ1110b、1110r及び1110gによってそれぞれ平行光にコリメートされる。本実施形態において、青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び/又は緑色レーザ光源1100gは、上述の一連の実施形態に示された光学素子を備えるレーザ光源及び/又は上述の一連の実施形態に示された波長変換レーザ光源であってもよい。
レーザプロジェクタ1000は、コリメートレンズ1110b、1110r及び1110gによってコリメートされたレーザ光をそれぞれ反射するミラー1120b、1120r及び1120gを更に備える。ミラー1120b、1120r及び1120gはそれぞれ、青(波長400−460nm)、赤(波長600nm以上)及び緑(波長520−560nm)領域に反射特性を持つ誘電体多層ミラーである。ミラー1120gの直後で、青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100gのビームパスは同軸となるように、コリメートレンズ1110b、1110r及び1110g及びミラー1120b、1120r及び1120gが調整される。
レーザプロジェクタ1000は、ビームをスキャンするスキャンミラー1130を更に備える。図48において、スキャンミラー1130は、ミラー1120b、1120r及び1120gからのレーザ光を右方向に屈折させ、スキャンしている。
レーザプロジェクタ1000は、ビームを線状の輝線に整形するレンズ1140を更に備える。レンズ1140として、シリンドリカルレンズが用いられてもよい。
レーザプロジェクタ1000は、レンズ1150,1160及びレンズ1150,1160の間に配置された拡散板1170を更に備える。レンズ1150,1160は、一対のリレーレンズ・フィールドレンズである。拡散板1170は、レンズ1140(シリンドリカルレンズ)によって輝線に整形されたビームを、更に帯状にする。
レーザプロジェクタ1000は、偏光ビームスプリッタとして用いられるプリズム1180と、強誘電体液晶表示デバイス(LCOS1190)と、を更に備える。光の偏光方向の回転を通じて、LCOS1190のON・OFF制御がなされる。したがって、プリズム1180は、偏光ビームスプリッタとして機能する。
ビームは、スキャンミラー1130の前で合波される。その後、スキャンミラー1130によって光路を振られたビームは、S偏光でプリズム1180に入射される。プリズム1180内の反射膜は、S偏光で反射するように設計されている。したがって、S偏光の光は、LCOS1190を照明する。
レーザプロジェクタ1000は、投射レンズ1200と、スクリーン1210と、を更に備える。LCOS1190によって反射された光は、投射レンズ1200を通じて、スクリーン1210に投影される。
レーザプロジェクタ1000は、コントローラ1220を備える。コントローラ1220は、LCOS1190を駆動するための第1駆動回路1221と、レーザ光源(青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100g)及びスキャンミラー1130を駆動するための第2駆動回路1222と、レーザ電流源1223と、を備える。本実施形態において、第2駆動回路1222は、レーザ駆動回路として例示される。
ビデオ信号1224は、第1駆動回路1221に入力される。第1駆動回路1221は、その後、LCOS1190を駆動するためのLCOS駆動信号1225を生成する。LCOS駆動信号1225の1つとして生成されるV−SYNC信号1226は、トリガ信号として、第2駆動回路1222へ出力される。
第2駆動回路1222は、その後、V−SYNC信号1226に基づき、発光トリガ1227を生成並びに出力する。発光トリガ1227は、スキャンミラー1130の駆動波形と、レーザ光源(青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100g)の発光タイミングとを表す。発光トリガ1227は、レーザ電流源1223へ入力される。レーザ電流源1223は、発光トリガ1227に基づき、レーザ光源(青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100g)に電流を供給する。
上述の一連の動作及び制御を通じて、スクリーン1210上に画像が表示される。
(第15実施形態)
本実施形態において、上述の第1実施形態乃至第13実施形態に関連して説明された光学素子又は波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置が説明される。
図49は、レーザ光を用いたヘッドアップディスプレイ装置を概略的に示す。本実施形態において、ヘッドアップディスプレイ装置は、画像表示装置として例示される。
ヘッドアップディスプレイ装置2000は、青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gを備える。ヘッドアップディスプレイ装置2000は、小型液晶パネル或いはデジタルミラーデバイス(DMD)といった2次元変調素子2110と、投射レンズ2120と、中間スクリーン2130と、折り返しミラー2140と、これらの要素を制御するためのコントローラ2150と、を更に備える。
青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gから発せられたレーザ光は、光学系(図示せず)を介して、合波・成型され、その後、2次元変調素子2110を照明する。2次元変調素子2110で変調された光は、投射レンズ2120を介して、中間スクリーン2130に投影される。この結果、中間スクリーン2130上で、描画がなされる。
ヘッドアップディスプレイ装置2000は、画像データが入力される入力ポート2160を更に備える。ヘッドアップディスプレイ装置2000を用いて表示される画像のデータは、入力ポート2160から電気信号として入力される。コントローラ2150は、画像データの信号を2次元変調素子2110の駆動信号に変換する。また、コントローラ2150は、画像データの信号に基づき、青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gの点灯タイミングを規定するタイミング信号を生成する。
コントローラ2150は、タイミング信号に連動して、青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gに必要な電流を供給し、青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gを点灯させる。
上述の如く、中間スクリーン2130に描画された画像を表す表示光2170は、折り返しミラー2140によって、車両のフロントガラス2180上に取り付けられた反射ミラー2190に向けて反射される。反射ミラー2190は、更に、表示光2170をドライバ2200に向けて反射する。
この結果、フロントガラス2180越しに表示光2170により表された画像の虚像2210(図49中、点線で表される領域)を視認することができる。
上述の一連の動作及び制御を通じて、ヘッドアップディスプレイ装置2000はドライバ2200に画像を提供することができる。
第14実施形態及び第15実施形態に関連して説明された画像表示装置において、例えば、緑色レーザ光源1100g,2100gに、上述の第1実施形態乃至第13実施形態に関連して説明された光学素子及び/又は光学素子を備える波長変換レーザ光源の原理が適用されてもよい。この結果、光源は、幅広い温度範囲で長期間安定した出力を達成することができる。かくして、画像表示装置は、幅広い温度範囲で安定した輝度を保つことができる。
上述された実施形態は、以下の構成を主に備える。
上述の実施形態の一局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波光を発生するための固体レーザ媒質と、前記基本波光を、前記基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する波長変換素子と、該波長変換素子に接する導電性材料と、を備え、該波長変換素子は、複数の分極反転領域が形成された分極反転構造と、前記分極反転領域と垂直に交わる第1側面と、を含み、前記導電性材料は、前記第1側面に接することを特徴とする。
上記構成によれば、固体レーザ媒質は、基本波光を発生する。波長変換素子は、基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する。波長変換素子は、複数の分極反転領域が形成された分極反転構造と、分極反転領域と垂直に交わる第1側面と、を含む。導電性材料は、第1側面に接するので、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記分極反転構造は、前記第1側面に露出し、前記導電性材料は、前記第1側面に露出した前記分極反転構造に直接的に接することが好ましい。
上記構成によれば、導電性材料は、第1側面に露出した分極反転構造に直接的に接するので、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記波長変換素子及び前記固体レーザ媒質は、オプティカルコンタクトされ、第1光学素子を形成し、前記固体レーザ媒質は、前記第1側面と連続する第2側面を含み、該第2側面は、前記導電性材料に接することが好ましい。
上記構成によれば、波長変換素子及び固体レーザ媒質は、オプティカルコンタクトされ、第1光学素子を形成する。固体レーザ媒質は、第1側面と連続する第2側面を含む。第2側面は、導電性材料に接するので、導電性材料は、固体レーザ媒質から放熱する。したがって、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記固体レーザ媒質が発するレーザ光の横モードを維持する第2光学素子を更に備え、前記第1光学素子及び前記第2光学素子は、オプティカルコンタクトされ、前記第2光学素子は、前記レーザ光が出射される出射部を含み、該出射部は、球面凸レンズ形状に形成されることが好ましい。
上記構成によれば、第1光学素子及び第2光学素子は、オプティカルコンタクトされる。第2光学素子は、レーザ光が出射される出射部を含む。出射部は、球面凸レンズ形状に形成され、固体レーザ媒質が発するレーザ光の横モードを維持することができる。
上記構成において、前記第2光学素子は、前記固体レーザ媒質の端面に接合されることが好ましい。
上記構成によれば、第2光学素子は、固体レーザ媒質の端面に接合されるので、波長変換効率が向上する。
上記構成において、前記第1側面は、前記波長変換素子の分極方向と平行であり、且つ、前記波長変換素子の結晶軸と交わる第1短絡面及び第2短絡面を含み、該第1短絡面及び前記第2短絡面は、互いに電気的に短絡されることが好ましい。
上記構成によれば、第1側面は、波長変換素子の分極方向と平行であり、且つ、波長変換素子の結晶軸と交わる第1短絡面及び第2短絡面を含む。第1短絡面及び第2短絡面は、互いに電気的に短絡されるので、波長変換素子内で発生したチャージが適切にキャンセルされる。したがって、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記導電性材料の抵抗率は、10×10−5Ω・cm以下であることが好ましい。
上記構成によれば、導電性材料の抵抗率は、10×10−5Ω・cm以下であるので、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記固体レーザ媒質は、前記波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、該接合面と反対側の対向面と、を含み、前記接合面の面積は、前記対向面の面積よりも大きいことが好ましい。
上記構成によれば、固体レーザ媒質は、波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、接合面と反対側の対向面と、を含む。接合面の面積は、対向面の面積よりも大きいので、固体レーザ媒質と波長変換素子との間の接合力は強くなる。また、対向面周囲における放熱が促されるので、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記固体レーザ媒質と前記波長変換素子との間の接合部を封止する封止部材を更に備え、前記固体レーザ媒質は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を含み、前記波長変換素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第2主面を含み、前記接合部は、前記第1主面及び前記第2主面が水素結合を介してオプティカルコンタクト状態にされたオプティカルコンタクト面を含み、該オプティカルコンタクト面は、前記レーザ光の透過を許容し、前記固体レーザ媒質及び前記波長変換素子のうち少なくとも一方には、前記オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成され、前記凹部又は前記切欠部に配設された前記封止部材は、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うことが好ましい。
上記構成によれば、封止部材は、固体レーザ媒質と波長変換素子との間の接合部を封止する。固体レーザ媒質は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を含む。波長変換素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第2主面を含む。接合部は、第1主面及び第2主面が水素結合を介してオプティカルコンタクト状態にされたオプティカルコンタクト面を含む。オプティカルコンタクト面は、レーザ光の透過を許容する。固体レーザ媒質及び波長変換素子のうち少なくとも一方には、オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成される。凹部又は切欠部は、オプティカルコンタクト面の面積を不必要に増大させないので、第1主面と第2主面との間のオプティカルコンタクトが比較的容易に達成される。凹部又は切欠部に配設された封止部材は、オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うので、オプティカルコンタクト面と外気との接触が適切に防止される。したがって、第1主面と第2主面との接合強度が長期間に亘って適切に維持される。
上述の実施形態の他の局面に係る光学素子は、基本波光を発生するための固体レーザ媒質と、前記基本波光を、前記基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する波長変換素子と、を備え、前記固体レーザ媒質は、前記波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、該接合面と反対側の対向面と、を含み、前記接合面の面積S1は、前記対向面の面積S2よりも大きいことを特徴とする。
上記構成によれば、固体レーザ媒質は、基本波光を発生する。波長変換素子は、基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する。固体レーザ媒質は、波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、接合面と反対側の対向面と、を含む。接合面の面積S1は、対向面の面積S2よりも大きいので、固体レーザ媒質と波長変換素子との間の接合力は強くなる。また、対向面周囲における放熱が促されるので、長時間に亘って光学素子からの出力が維持される。
上記構成において、前記接合面の前記面積S1と前記対向面の面積S2との関係は、0.75×S1>S2の不等式で表されることが好ましい。
上記構成によれば、接合面の面積S1と対向面の面積S2との関係は、0.75×S1>S2の不等式で表されるので、対向面周囲における放熱が適切に行われる。
上記構成において、前記接合面の外縁を覆う封止部材を更に備え、該封止部材は、前記接合面の外気との接触を防止することが好ましい。
上記構成によれば、接合面の外縁を覆う封止部材は、接合面の外気との接触を防止するので、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合が適切に維持される。
上記構成において、前記固体レーザ媒質及び前記波長変換素子は、前記接合面に対して垂直な面を含み、該垂直な面には、前記接合面の外縁に沿う突起部が形成され、該突起部は、前記固体レーザ媒質のc軸方向と平行であることが好ましい。
上記構成によれば、固体レーザ媒質及び前記波長変換素子は、前記接合面に対して垂直な面を含む。垂直な面には、接合面の外縁に沿う突起部が形成される。突起部は、固体レーザ媒質のc軸方向と平行であるので、使用者は、突起部に基づき、固体レーザ媒質のc軸方向を見極めることができる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、前記光を前記光学素子に集光する集光光学要素と、を備え、前記光学素子には、前記光の偏光方向に延びる突起部が形成されることを特徴とする。
上記構成によれば、集光光学要素は、励起光源からの光を上述の光学素子に集光する。光学素子には、光の偏光方向に延びる突起部が形成されるので、使用者は、突起部に基づき、光の偏光方向を見極めることができる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、前記光を前記光学素子に集光する集光光学要素と、を備え、前記光学素子は、レーザ光を出射する出射部を含み、前記固体レーザ媒質に添加されたレーザ活性物質の濃度は、前記励起光源から前記出射部に向けて低下することを特徴とする。
上記構成によれば、集光光学要素は、励起光源からの光を上述の光学素子に集光する。光学素子は、レーザ光を出射する出射部を含む。固体レーザ媒質に添加されたレーザ活性物質の濃度は、励起光源から出射部に向けて低下するので、励起光源からの光の波長変動に拘わらず、固体レーザ媒質は励起光源からの光を安定して吸収することができる。
上記構成において、出力が500mW以上で動作最高温度が40℃以上であることが好ましい。
上記構成によれば、比較的広い動作温度範囲の下、比較的高い出力が達成される。
上述の実施形態の更に他の局面に係る光学素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を有する第1光学部材と、前記第1主面に水素結合を介したオプティカルコンタクトされ、前記第1主面とともにレーザ光が透過可能なオプティカルコンタクト面を形成する第2主面を含む第2光学部材と、前記オプティカルコンタクト面を封止する封止部材と、を備え、前記第2主面は、少なくとも部分的に鏡面研磨され、前記第1光学部材及び該第1光学部材とは異なる物質から形成された前記第2光学部材のうち少なくとも一方には、前記オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成され、前記凹部又は切欠部に配設された前記封止部材は、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うことを特徴とする。
上記構成によれば、固体レーザ媒質は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を含む。波長変換素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第2主面を含む。接合部は、第1主面及び第2主面が水素結合を介してオプティカルコンタクト状態にされたオプティカルコンタクト面を含む。オプティカルコンタクト面は、レーザ光の透過を許容する。固体レーザ媒質及び波長変換素子のうち少なくとも一方には、オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成される。凹部又は切欠部は、オプティカルコンタクト面の面積を不必要に増大させないので、第1主面と第2主面との間のオプティカルコンタクトが比較的容易に達成される。凹部又は切欠部に配設された封止部材は、オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うので、オプティカルコンタクト面と外気との接触が適切に防止される。したがって、第1主面と第2主面との接合強度が長期間に亘って適切に維持される。
上記構成において、前記第1光学部材及び該第1光学部材に接合された第2光学部材は、少なくとも1つの平坦な面を形成し、前記凹部又は前記切欠部は、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁から前記平坦な面に至るまでの領域に形成されることが好ましい。
上記構成によれば、第1光学部材及び第1光学部材に接合された第2光学部材は、少なくとも1つの平坦な面を形成するので、光学素子は、比較的容易に実装される。また、凹部又は切欠部は、オプティカルコンタクト面の外縁から平坦な面に至るまでの領域に形成されるので、封止部材は、オプティカルコンタクト面と外気との接触を適切に防止する。したがって、第1主面と第2主面との接合強度が長期間に亘って適切に維持される。
上記構成において、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁に隣接して配設された前記封止部材は、前記オプティカルコンタクト面の外気との接触を防止することが好ましい。
上記構成によれば、オプティカルコンタクト面の外縁に隣接して配設された封止部材は、オプティカルコンタクト面の外気との接触を防止することができる。
上記構成において、前記凹部又は切り欠き部は、前記第1光学部材と前記第2光学部材とを1ミクロン以上500ミクロン以下の寸法で離間させる深さ寸法を有することが好ましい。
上記構成によれば、封止部材は、オプティカルコンタクト面と、外気や水分との接触を防止することができる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備え、該光学素子の前記オプティカルコンタクト面は、前記光学素子を伝搬する前記光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能することを特徴とする。
上記構成によれば、波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備える。光学素子のオプティカルコンタクト面は、光学素子を伝搬する光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能する。したがって、比較的簡素な構成の波長レーザ光源を用いて、レーザ発振横モードの制御がなされる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備え、前記第1光学部材及び前記第2光学部材のうち少なくとも一方の形状は、前記光の伝搬方向に沿ってテーパ状に形成され、前記伝搬方向に垂直な前記光学部材の断面は、前記光学素子中を伝搬する前記光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能することを特徴とする。
上記構成によれば、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備える。第1光学部材及び第2光学部材のうち少なくとも一方の形状は、光の伝搬方向に沿ってテーパ状に形成される。伝搬方向に垂直な光学部材の断面は、光学素子中を伝搬する光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能する。したがって、比較的簡素な構成の波長レーザ光源を用いて、レーザ発振横モードの制御がなされる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る画像表示装置は、光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源に電流を供給するレーザ駆動回路と、前記光を変調し、画像を形成する変調素子と、前記変調素子から出射される光を反射する反射ミラーと、前記変調素子を駆動するコントローラと、を備え、前記レーザ光源は、上述の波長変換レーザ光源を含むことを特徴とする。
上記構成によれば、レーザ駆動回路が電流を供給すると、レーザ光源は光を発する。画像変調素子は、レーザ光源からの光を変調する。反射ミラーは、変調素子から出射される光を反射する。コントローラは、画像変調素子を駆動し、画像表示装置が表示する画像を制御する。レーザ光源は、上述の波長変換レーザ光源を含むので、長期間に亘って、高い出力を維持することができる。
上記構成において、前記波長変換素子は、MgO添加ニオブ酸リチウム、MgO添加タンタル酸リチウム、定比組成のMgO添加ニオブ酸リチウム、定比組成の添加タンタル酸リチウム及びリン酸チタニルカリウムからなる群から選択される材料から形成されることが好ましい。
上記構成によれば、波長変換効率に優れた波長変換素子が形成される。
上記構成において、前記封止部材は、紫外線硬化樹脂材料から形成されることが好ましい。
上記構成によれば、封止部材によって、オプティカルコンタクト面が簡便且つ適切に封止される。
上記構成において、前記封止部材は、珪酸ナトリウム(Na2SiO3)又は珪酸ナトリウムをゲル化したケイ酸(H2SiO3)からなる群から選択される材料から形成されることが好ましい。
上記構成によれば、封止部材によって、オプティカルコンタクト面が簡便且つ適切に封止される。
上記構成において、前記封止部材は、誘電体薄膜からなることが好ましい。
上記構成によれば、封止部材によって、オプティカルコンタクト面が簡便且つ適切に封止される。
上記構成において、前記第1光学部材は、YVO4、Nd(ネオジウム)ドープYVO4、GdVO4、NdドープGdVO4からなる群から選択されるレーザ結晶であり、前記第2光学部材が、電気光学効果、非線形光学効果又は音響光学効果のいずれかを有する誘電体結晶であることが好ましい。
上記構成において、電気光学効果、非線形光学効果又は音響光学効果が得られる。
上述の実施形態の原理にしたがって、オプティカルコンタクト型の波長変換光源において、横モードの変化に起因する緑色光の出力低下が適切に抑制される。かくして、小型且つピーク出力値1000mW以上の高い出力を発するレーザ光源装置が提供される。
本発明は、レーザ光源が発するレーザ光を非線形光学効果により波長変換する波長変換レーザ装置に関する。
可視レーザ光や紫外レーザ光を得るための様々な波長変換レーザ光源が開発並びに実用化されてきている。このような波長変換レーザ光源は、例えば、非線形光学効果を用いた波長変換により、Nd:YAGレーザやNd:YVO4レーザから発せられる光を可視光である緑色光に変換する。或いは、波長変換レーザ光源は、変換された緑色光を更に紫外光に変換する。これらの可視レーザ光や紫外レーザ光は、例えば、物質のレーザ加工やレーザディスプレイ等の光源などの用途に用いられる。
このようなレーザ光源は、Nd:YVO4といった固体レーザ媒質と、ニオブ酸リチウムといった波長変換素子を含む。特許文献1乃至3は、接着剤を用いることなく、光学的に接合された固体レーザ媒質及び波長変換素子を備えるマイクロチップ型の波長変換レーザ光源(オプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源)を提案する。マイクロチップ型の波長変換レーザ光源の出力は、大きくても10mW程度である。マイクロチップ型の波長変換レーザ光源は、例えば、レーザポインタや照準器用の光源として用いられる。
特許文献1のマイクロチップ型の波長変換レーザ光源は、固体レーザ媒質と波長変換素子との光学的な接合における製造歩留まりの向上を目的とする。特許文献1は、当該目的を達成するために、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合面積を拡大することを提案する。
特許文献2のマイクロチップ型の波長変換レーザ光源は、固体レーザ媒質と波長変換素子との境界面に配設された光学薄膜を備える。特許文献2は、光の散乱を抑制するための固体レーザ媒質と波長変換素子との接合方法を提案する。先行文献によれば、固体レーザ媒質と波長変換素子との境界面(接合面)における伝搬する光の散乱や損失を可能な限り低減させることが必要である。
固体レーザ媒質と波長変換素子とを組み合わせて形成された光学素子に対して、長時間、レーザ光が入射されると、光学素子から出力されるレーザ光の出力は、時間の経過とともに低下する。
図50は、上述のレーザ光の出力低下の課題を説明するプロット図である。図50を用いて、レーザ光の出力低下が説明される。
図50のプロット図の縦軸は、光学素子からのレーザ出力強度(高調波出力)を示す。図50のプロット図の横軸は、光学素子の駆動時間を示す。図50は、オプティカルコンタクトされた固体レーザ素子及び波長変換素子を備える光学素子の特性を例示する。図50のプロット図を得るために用いられた光学素子は、外部から入射された励起レーザ光を波長変換し、緑色レーザ光を出力する。
図50のプロット図によれば、緑色レーザ出力の低下は、光学素子が緑色レーザ光を出射してから数十時間で開始する。この出射光の出力低下は、波長変換後のレーザ光の出力が100mW程度であれば、ほとんど観測されない。しかしながら、光学素子が、500mW以上(特に1000mW以上)のピーク出力の光を出力するとき、顕著な出力低下が確認される。
特開2008−102228号公報
特開2008−16833号公報
特開2000−357834号公報
本発明は、光学素子の長時間の駆動に起因するレーザ光の出力低下を抑制するための光学素子、当該光学素子を備える波長変換レーザ光源及び当該波長変換光源を用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
本発明の一の局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波光を発生するための固体レーザ媒質と、前記基本波光を、前記基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する波長変換素子と、該波長変換素子に接する導電性材料と、を備え、該波長変換素子は、複数の分極反転領域が形成された分極反転構造を含み、前記導電性材料は、前記分極反転領域と垂直に交わる第1側面に接することを特徴とする。
本発明の他の局面に係る光学素子は、基本波光を発生するための固体レーザ媒質と、前記基本波光を、前記基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する波長変換素子と、を備え、前記固体レーザ媒質は、前記波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、該接合面と反対側の対向面と、を含み、前記接合面の面積S1は、前記対向面の面積S2よりも大きいことを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、前記光を前記光学素子に集光する集光光学要素と、を備え、前記光学素子には、前記光の偏光方向に延びる突起部が形成されることを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、前記光を前記光学素子に集光する集光光学要素と、を備え、前記光学素子は、前記光に基づき生成されたレーザ光を出力するための出力ミラーを含み、前記固体レーザ媒質に添加されたレーザ活性物質の濃度は、前記励起光源から前記出力ミラーに向けて低下することを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る光学素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を有する第1光学部材と、前記第1主面に水素結合を介したオプティカルコンタクトされ、前記第1主面とともにレーザ光が透過可能なオプティカルコンタクト面を形成する第2主面を含む第2光学部材と、前記オプティカルコンタクト面を封止する封止部材と、を備え、前記第2主面は、少なくとも部分的に鏡面研磨され、前記第1光学部材及び該第1光学部材とは異なる物質から形成された前記第2光学部材のうち少なくとも一方には、前記オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成され、前記凹部又は切欠部に配設された前記封止部材は、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うことを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備え、前記光学素子の前記オプティカルコンタクト面は、前記光学素子を伝搬する前記光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能することを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備え、前記第1光学部材及び前記第2光学部材のうち少なくとも一方の形状は、前記光の伝搬方向に沿ってテーパ状に形成され、前記伝搬方向に垂直な前記光学部材の断面は、前記光学素子中を伝搬する前記光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能することを特徴とする。
本発明の更に他の局面に係る画像表示装置は、光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源に電流を供給するレーザ駆動回路と、前記光を変調し、画像を形成する変調素子と、前記変調素子から出射される光を反射する反射ミラーと、前記変調素子を駆動するコントローラと、を備え、前記レーザ光源は、上述の波長変換レーザ光源を含むことを特徴とする。
一般的なオプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源を概略的に示す図である。
出力光のファーフィールドビーム形状を撮影した写真である。
第1実施形態に従う波長変換素子並びに波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の構成を概略的に示す図である。
レーザ光源の動作時間と高調波出力の関係を示すグラフである。
分極反転構造を有するニオブ酸リチウムの「y面」を覆う導電性材料を有するレーザ光源が連続運転されたときの出力変化を表すグラフ並びに連続運転されているレーザ光源から出力されたレーザ光の横モード形状を表す写真である。
導電性材料の種類、導電性材料の抵抗率及びレーザ光源の出力低下に対する抑制効果をまとめた表である。
第2実施形態に従う波長変換素子並びに波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の構成を概略的に示す図である。
図7に示される波長変換レーザ光源が備える第1光学素子の概略的な斜視図である。
第1光学素子に波長808nmの励起光が入力され、第1光学素子から1000mWの緑色光が出力されるようにレーザ光源が連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動を表すグラフ並びにレーザ光源の連続運転中の横モード形状を撮像した写真である。
第3実施形態に従う波長変換レーザ光源に用いられる光学素子の構成を概略的に示す模式図である。
レンズ部の曲率半径「r」とレンズ部の加工高さとの関係を示すプロット図である。
レーザ光源の連続運転中の横モード形状を撮像した写真並びにレーザ光源が連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動を示すプロット図である。
連続点灯試験の結果を示すプロット図である。
高出力での連続点灯の結果、出力低下或いは出力停止が生じたときの光学素子を概略的に示す。
整列した複数の光学素子を含む光学素子列の斜視図である。
図15に示される光学素子列の平面図である。
図15に示される光学素子列から分離された光学素子の斜視図である。
バー形状の光学素子列及び光学素子を用いた波長変換レーザの構成を例示する図である。
光学素子に波長808nmの励起光が入力されたときの光学素子の光入出力特性を示すプロット図である。
光学素子の断面積と、所定の高調波出力に対して必要とされる接合強度との関係を示すグラフである。
光学素子が組み込まれたレーザ光源が連続動作されたときの動作時間と高調波の出力強度との関係を示すプロット図である。
バー形状の光学素子列の写真である。
第5実施形態にしたがう光学素子列の概略的な斜視図である。
図23に示される光学素子列の平面図である。
図23に示される光学素子列の正面図である。
第6実施形態にしたがうレーザ光源を概略的に示す図である。
固体レーザ媒質及び固体レーザ媒質内のレーザ活性物質の濃度分布を概略的に示す図である。
異種材料を用いて形成された光学部材をオプティカルコンタクトして作成された光学素子の斜視図である。
図28に示される断面Aを概略的に示す。
MgO:LN結晶のC軸方向及びNd:YVO4結晶のC軸方向における熱膨張係数の差異と、熱膨張係数の差異に起因する結晶の膨張量の差異との算出結果を概略的に示すグラフである。
MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板を示す。
光学素子が組み込まれた共振器型の波長変換レーザ光源を例示する。
オプティカルコンタクトされる前の第1光学部材及び第2光学部材を概略的に示す斜視図である。
オプティカルコンタクトされた第1光学部材及び第2光学部材を備える光学素子の斜視図である。
図34に示される断面Bを概略的に示す。
封止部材が配設される領域内に分散されたオプティカルコンタクト領域を備える光学素子の概略的な斜視図である。
図36に示される断面Cを概略的に示す。
オプティカルコンタクトされた2つの光学部材を備える光学素子の概略的な斜視図である。
図38A中の断面Dを概略的に示す。
図38A中の矢印の方向から見た光学素子を示す。
オプティカルコンタクトされたテーパ形状の光学部材及び直方体形状の光学部材を備える光学素子の概略的な斜視図である。
図39A中の断面Eを概略的に示す。
図39A中の矢印の方向から見た光学素子を示す。
光学窓として機能するオプティカルコンタクト面を備える光学素子を概略的に示す斜視図である。
図40に示される断面Fを概略的に示す。
直径φ1mmのオプティカルコンタクト面上で観察されたビームスポットの像を示す。
直径φ300μmのオプティカルコンタクト面上で観察されたビームスポットの像を示す。
光学素子の概略的な斜視図である。
図43中に示される断面Gを概略的に示す。
第1光学部材に溝を形成する工程を概略的に示す。
溝形成後の第1光学部材と第2光学部材とをオプティカルコンタクトする工程を概略的に示す。
吸着状態にあるオプティカルコンタクト組立体の溝形成部分に封止部材を充填並びに硬化する工程を概略的に示す。
封止部材が充填された溝形成部分に沿って、ダイシングを用いて、光学素子を切り出すための工程を概略的に示す。
小片化された光学素子の斜視図である。
オプティカルコンタクト組立体の実態顕微鏡画像である。
ダイシング加工を通じて小片化されたオプティカルコンタクト組立体の実態顕微鏡による観察像を示す写真である。
レーザ光を光源とするレーザプロジェクタを示す図である。
レーザ光を用いたヘッドアップディスプレイ装置を概略的に示す図である。
レーザ光の出力低下の課題を説明するプロット図である。
以下に、波長変換レーザ光源、光学素子及び画像表示装置の様々な実施形態が添付の図面を用いて説明される。図中、同様の要素に対して、同様の符号が割り当てられる。同様の要素に関する説明は、冗長となるので、省略される。
以下の説明において、波長変換レーザ光源及び/又は光学素子として、バルク型の波長変換固体レーザ素子が例示される。バルク型の波長変換固体レーザ素子は、オプティカルコンタクトされた機能性光学素子である。オプティカルコンタクトされる2つの光学部材として、Nd:YVO4(ネオジウムドープのイットリウム・バナデート)結晶及び強誘電体結晶MgO:LiNbO3(酸化マグネシウムドープのニオブ酸リチウム)結晶(以下、MgLN結晶と略す)が例示される。Nd:YVO4(ネオジウムドープのイットリウム・バナデート)結晶は、固体レーザ媒質として例示される。また、MgLN結晶は、波長変換素子として例示される。代替的に、波長変換レーザ光源及び/又は光学素子は、他の適切な物質から形成されてもよい。
図1は、一般的なオプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源を概略的に示す。図1を用いて、一般的なオプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源が内包する課題が説明される。
図1に示されるオプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源は、端面励起型(エンドポンプ型レーザ)と呼ばれる。励起光は、レーザ媒質の端面から入力される。
図1に示されるレーザ光源100は、励起光源110と、コリメートレンズ120と、集光レンズ130と、光学素子140とを備える。励起光源110は、励起光PLをコリメートレンズ120に向けて照射する。励起光PLは、コリメートレンズ120、集光レンズ130及び光学素子140を順次伝搬する。
光学素子140は、固体レーザ媒質141と、波長変換素子142とを備える。励起光PLが入射された光学素子は、出力光OLを出力する。
レーザ光源100は、固体レーザ媒質141の端面(励起光PLが入射される端面)に形成された光学膜150を更に備える。固体レーザ媒質141は、光学膜150が形成された端面と反対側の第1接合面143を含む。第1接合面143は、波長変換素子142に接合される。
波長変換素子142は、出力光OLが出射される出射端面144と、出射端面144と反対側の第2接合面145とを含む。第2接合面145は、第1接合面143に接合される。固体レーザ媒質141の第1接合面143は、波長変換素子142の第2接合面145に、オプティカルコンタクト状態となっている。第1接合面143及び第2接合面145が、オプティカルコンタクトされることにより、光学素子140が形成される。
本実施形態並びに後述される様々な実施形態で用いられる「オプティカルコンタクト」との用語並びにこれに類する用語は、以下の要件を満たす「状態」を意味する。
(1)樹脂材料といった接着材料を介することなく光学要素同士が直接的に接合されている状態。
(2)光学要素同士間に空気層が介在することなく、光学要素同士が吸着・密着されている状態。
光学結晶、セラミックや誘電体膜といった同種材料又は異種材料からなる光学要素間において、電気的力(ファン・デル・ワールス力)、水素結合や機械的外圧力といった力によって、上記要件を満たす状態が形成されているならば、当該状態は、オプティカルコンタクト状態である。
以下の説明において、「オプティカルコンタクトしている/オプティカルコンタクトされている」との用語は、上述の状態となっているものを意味する。また、「オプティカルコンタクトする/オプティカルコンタクトされる」との用語は、上述の状態にすること/されること(手段・動作)を意味する。
以下の説明において、「オプティカルコンタクト面」との用語は、上述の状態下にある光学要素間の界面を意味する。「オプティカルコンタクト組立体」との用語は、上述の状態とされた光学要素から形成された組立体を意味する。
レーザ光源100の機能及び動作が、以下に、説明される。
上述の如く、励起光源110は、励起光PLを発する。コリメートレンズ120は、励起光PLを平行光にする。その後、集光レンズ130は、光学素子140を構成する固体レーザ媒質141に集光する。
上述の如く、励起光PLが入射される固体レーザ媒質141の端面には、光学膜150が形成される。光学膜150は、1060nm帯の光を高反射し、共振器ミラーの1つとして機能する。波長変換素子142の出射端面144にも、高反射光学膜(図示せず)が形成される。出射端面144に形成された高反射光学膜も1060nm帯の光を高反射し、もう1つの共振器ミラーとして機能する。
固体レーザ媒質141の第1接合面143と波長変換素子142の第2接合面145との境界には、光学膜は形成されず、第1接合面143及び第2接合面145はオプティカルコンタクトされる。固体レーザ媒質141の端面に形成された光学膜150(光反射光学膜)と波長変換素子142の出射端面144に形成された光反射光学膜は、共振器ミラーとして用いられる。これら高反射光学膜の間で、1060nm帯の光が繰り返し反射され、共振する。かくして、光学素子140は、光共振器として機能し、1060nm帯のレーザ光を発振する。
上述の如く、固体レーザ媒質141として、Nd:YVO4結晶が用いられ、波長変換素子142として、MgO:LiNbO3結晶が用いられると、固体レーザ媒質141の屈折率と波長変換素子142の屈折率との差は、0.1以下となる。この結果、第1接合面143と第2接合面145との間に光学薄膜が形成されなくとも、オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質141及び波長変換素子142は、光学的に低い損失を達成することができる。このように、固体レーザ媒質141及び波長変換素子142がオプティカルコンタクトされるならば、光学薄膜の形成工程及びレーザ光源を製造する際の調整工程が簡略化される。
発振した1060nm帯の光が波長変換素子142を通過すると、1060nm帯の光は、半分の波長の530nm帯の光へ波長変換される。波長変換された530nm帯の光は、出力光OLとして、波長変換素子142の出射端面144から出力される。なお、光学素子140は、レーザ媒質保持具(図示せず)で保持されてもよい。
オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質141及び波長変換素子142を含む光学素子140を備えるレーザ光源100(オプティカルコンタクト型のレーザ光源)を用いて、例えば、ピーク出力1Wの530nm帯の光を連続的に出力する連続点灯試験が行われると、レーザ光源100から出射される出力光OL(レーザ光)の出力は、約80時間で低下するということを、本発明者は確認した。
上述の図50のプロット図は、連続点灯試験の結果を表している。出力された波長変換後の光(高調波)の横モード形状の観測の結果、レーザ光源100の点灯開始時において略円形であった高調波の横モード形状は、時間を経るにしたがい歪み、最終的に紡錘形へと変化することが確認された。上述の横モード変化に伴って出射されるレーザ光の出力低下が観測された。動作時間に対する高調波出力の関係を示す図50から、横モード形状変化に対応して出力が低下していることが分かる。
図2は、出力光OLのファーフィールドビーム形状を撮影した写真である。図2の「(1)」に対応する写真は、レーザ光源100の点灯開始時における高調波の横モード形状を示す写真である。図2の「(2)」に対応する写真は、レーザ光源100の点灯開始から65時間経過後における高調波の横モード形状を示す写真である。図2の「(3)」に対応する写真は、レーザ光源100の点灯開始から85時間経過後における高調波の横モード形状を示す写真である。図2の「(1)」、「(2)」及び「(3)」に対応する写真は、図50中の記号「(1)」、「(2)」及び「(3)」に示される動作時刻にそれぞれ対応する。
固体レーザ媒質141及び波長変換素子142を含む光学素子140を備えるオプティカルコンタクト型のレーザ光源100だけでなく、分散・分離配置された光学部品(即ち、固体レーザ媒質、波長変換素子及び出力ミラーを用いて形成された共振器を備えるレーザ光源においても、同様の出力低下現象が観察された。尚、レーザ光出力の低下量は、オプティカルコンタクト型のレーザ光源100において、特に大きくなる。固体レーザ媒質及び波長変換素子がオプティカルコンタクトされていないならば、オプティカルコンタクト型のレーザ光源100に比べて、レーザ光出力の低下量が1/3程度となる。しかしながら、オプティカルコンタクトされていない固体レーザ媒質及び波長変換素子を備えるレーザ光源においても、上述の出力低下に対する改善は必要とされる。
出力低下現象は、高調波レーザ光(図1に示されるレーザ光源100では、530nm帯の緑色レーザ光)が、波長変換素子142を構成するニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムに吸収されることによって引き起こされると考えられる。ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムによるレーザ光の吸収が、局所的な屈折率の変化を引き起こす結果、レーザ発振した基本波光の波面が乱され(ビーム形状が変化し)、レーザ光源100からの出力が低下すると考えられる。ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムによるレーザ光の吸収は、波長変換素子142内での基本波光のパワー密度やビームウエスト位置を変化させる。この結果、基本波光から高調波光への変換効率が低下し、緑色光の出力が低下する。尚、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムへの可視〜紫外線の光の照射が引き起こす屈折率の変化(「光誘起屈折率変化」)は、以前から知られている。「光誘起屈折率変化」は、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムに、添加物として酸化マグネシウム(以下、MgO)が添加されることによって回避されることが、一般的に知られている。しかしながら、レーザ光源が高出力で長時間連続動作されたときに生ずる出力低下現象については知られていない。本発明者は、MgOを波長変換素子材料に添加する方法ではレーザ出力の低下が十分に抑制されず、高いレーザ出力は、長時間、保たれないという課題を明らかにした。
以下に示される様々な実施形態にしたがって説明される光学素子、光学素子を備える波長変換レーザ光源並びに波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置は、上述の課題を適切に解消する。以下、光学素子、光学素子を備える波長変換レーザ光源並びに波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置が説明される。
(第1実施形態)
図3は、第1実施形態に従う波長変換素子並びに波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の構成を概略的に示す模式図である。図3を用いて、波長変換素子及び波長変換レーザ光源が説明される。
図3のセクション(a)は、レーザ光源200を概略的に示す。図1に関連して説明されたレーザ光源100と同様に、励起光PLは、固体レーザ媒質240の端面から入力される端面励起型のレーザ光源である。
レーザ光源200は、上述の固体レーザ媒質240に加えて、励起光源210、コリメートレンズ220、集光レンズ230、波長変換素子250及び出力ミラー280を備える。波長変換素子250から出力ミラー280を通じて出力光OLが出力される。固体レーザ媒質240は、励起光PLの入射に伴い基本波光を発生する。また、波長変換素子250は、基本波光を、基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する。
レーザ光源200は、励起光PLが入射される固体レーザ媒質240の入射端面に形成された光学膜260を備える。固体レーザ媒質240は、光学膜260が形成された端面と反対側の第1端面241を含む。
波長変換素子250は、第2高調波が出射される出射端面251と、出射端面251と反対側の第2端面252と、を含む。波長変換素子250の出射端面251に対向する出力ミラー280の面(曲面281)は、凹面形状に形成される。
図3のセクション(b)は、波長変換素子250を概略的に示す斜視図である。波長変換素子250は、周期状の分極反転構造253を備える。分極反転構造253は、波長変換素子250の内部に形成される。
波長変換素子250は、出射端面251と第2端面252との間で延びる第1側面254を含む。z軸(c軸)に平行な第1側面254には、分極反転領域が形成された分極反転構造253が露出する。第1側面254は、分極反転領域と垂直に交わる。本実施形態において、分極反転構造253は、第1側面254に露出している。代替的に、分極反転構造は、波長変換素子の第1側面に露出しなくともよい。
図3のセクション(d)に示される如く、レーザ光源200は、導電性材料270を更に備える。本実施形態において、導電性材料270は、第1側面254に露出した分極反転構造253に直接的に接触する。代替的に、導電性材料は、分極反転構造が露出していない第1側面に接触してもよい。
以下、第1実施形態に従うレーザ光源200の機能及び動作が説明される。
励起光源210は、励起光PLを発する。コリメートレンズ220は、励起光PLを平行光にする。集光レンズ230は、励起光PLを固体レーザ媒質240へ集光する。固体レーザ媒質240への励起光PLの集光までの工程は、図1に関連して説明されたレーザ光源100と同様である。しかしながら、本実施形態のレーザ光源200は、一体化された光学部品で形成されたレーザ共振器を備えるレーザ光源100と異なり、別々に配備された光学部品で形成されたレーザ共振器を備える。
固体レーザ媒質240の入射端面に形成された光学膜260は、発振する1060nm帯の光とその高調波の530nm帯の光とを高反射する。また、固体レーザ媒質240の第1端面241(波長変換素子250に対向する端面)、波長変換素子250の第2端面252及び波長変換素子250の出射端面251には、反射防止特性を有する光学膜が形成されている。第1端面241、第2端面252及び出射端面251に形成された光学膜は、発振する1060nm帯の光とその高調波の530nm帯の光とを透過する。
出力ミラー280(凹面ミラー)の曲面281には、光学膜が形成される。出力ミラー280に形成された光学膜は、発振する1060nm帯の光を高反射する一方で、その高調波である530nm帯の光を透過する。かくして、固体レーザ媒質240の入射端面に形成された光学膜260と出力ミラー280との間で光学的な共振器が形成される。この光学的な共振器によって、1060nm帯の光が、レーザ発振する。
レーザ発振した1060nm帯の光が波長変換素子250を通過するたびに、1060nm帯の光の一部は、高調波の530nm帯の光へ波長変換される。最終的に、波長変換された光は、出力光OLとして、出力ミラー280から共振器外部へ出力される。
図50に関連して説明された如く、固体レーザ媒質と波長変換素子とを備える波長変換レーザ光源が長時間駆動されると、緑色出力が低下する現象が確認された。尚、レーザ光の横モードの形状が変化する原因は、波長変換素子(例えば、ニオブ酸リチウム)の内部での光起電力効果に起因して生ずるチャージであると考えられる。発生したチャージがレーザビームの周囲に蓄積し、電気光学効果により波長変換素子内部での屈折率変化が生ずる。この結果、波長変換レーザ光源の横モードが変化する。
図3のセクション(d)に示される如く、本実施形態の光学素子及びレーザ光源200は、y軸に垂直な第1側面254(y面)を覆う導電性材料270に特徴づけられる。分極反転構造253が露出した第1側面254を覆う導電性材料270は、波長変換素子250の内部に蓄積したチャージの効率的な除去に貢献する。
図3を用いて、波長変換素子250が更に説明される。
本実施形態の波長変換素子250は、ニオブ酸リチウムに設けられた周期状の分極反転構造253を含む。波長変換素子250は、第2高調波を発生させる擬似位相整合型の波長変換素子である。尚、波長変換素子250の材料に酸化マグネシウム(以下、MgOと表記する)が添加されてもよい。酸化マグネシウムの添加は、上述の「光誘起屈折率変化」(波長変換素子材料の屈折率の変化)を好適に抑制する。
図3のセクション(b)は、周期状の分極反転構造のニオブ酸リチウムの構成を概略的に示す模式図である。図3のセクション(b)に示される座標は、ニオブ酸リチウム内で光が感じる誘電主軸を示し、誘電主軸のz軸は、結晶構造から決定される結晶軸のc軸と一致する。本実施形態で示される分極反転構造を有する波長変換素子250は、「バルク型」と称され、結晶基板内にも分極反転構造253を備える。分極反転構造253が形成される間、分極反転構造253は、z軸(c軸)に垂直な平面(z面から)z軸座標のマイナス方向に成長し、図3のセクション(b)に示される構造となる。波長変換素子250が、y軸に垂直な適切な面において切断されると、波長変換素子250の第1側面254に周期状の分極反転構造253が露出する。また、上述の如く、分極反転構造253が露出した第1側面254は、ケミカルポリッシングにより研磨されてもよく、及び/又は、化学的エッチング処理を施与されてもよい。かくして、y軸に垂直な面(y面)(第1側面254)において、顕微鏡といった観察器具を用いて視認可能な分極反転構造253(周期的に変化する分極反転の構造)が露出する。
図3のセクション(c)は、z面(z軸(c軸)に垂直な平面)上の2つの面における電荷の蓄積(焦電効果)に起因するレーザ出力の低下を防ぐための既知の手法を示す。z面上の2つの面における電荷の蓄積を防ぐために、波長変換素子250aの上面と下面に沿って、導電性材料270aが配設される。
図3のセクション(c)に示される導電性材料270aの配置とは異なり、本実施形態において、導電性材料270は、周期的に変化している分極反転構造253が露出する第1側面254(ニオブ酸リチウムでは、「y面」)を覆う。尚、導電性材料270が取り付けられる「y面」とは、波長変換素子250の材料のc軸と平行な面を意味する。また、「y面」は、分極反転構造253の分極反転軸(分極方向)と平行な面である。尚、波長変換素子の構造が立方体(或いは、直方体)ではないとき、導電性材料は上述の定義に従って配置されなくともよい。導電性材料で覆われる面は、分極反転構造の断面の分極反転領域に対して、略垂直に形成されていればよい。
図4は、レーザ光源の動作時間と高調波出力の関係を示すグラフである。図4中、「(1)」で示されるプロットは、導電性材料を備えないレーザ光源の動作時間と高調波出力の関係を示す。図3及び図4を用いて、レーザ光源の動作時間と高調波出力の関係が説明される。
図4中、「(2)」で示されるプロットは、「z面」に取り付けられた導電性材料270a(図3のセクション(c)参照)を備えるレーザ光源の動作時間と高調波出力の関係を示す。図4中、「(3)」で示されるプロットは、「y面」に取り付けられた導電性材料270(図3のセクション(d)参照)を備えるレーザ光源200の動作時間と高調波出力の関係を示す。
<(1)導電性材料を備えないレーザ光源>
導電性材料が波長変換素子の表面上に取り付けられていないとき、レーザ光源からの出力は、約80時間で低下し始める。
<(2)「z面」に取り付けられた導電性材料を備えるレーザ光源>
「z面」に取り付けられた導電性材料270aを備えるレーザ光源からの出力は、約150時間で低下し始める。導電性材料を備えないレーザ光源に対する改善は認められるが、「z面」に取り付けられた導電性材料270aでは、十分な改善は得られていない。
<(3)「y面」に取り付けられた導電性材料を備えるレーザ光源>
「y面」に取り付けられた導電性材料270を備えるレーザ光源200からの出力は、200時間経過後も、低下しない。したがって、図4に示されるグラフから、「y面」を覆う導電性材料270は、最も効果的に出力低下を抑制することが分かる。
図5は、分極反転構造253を有するニオブ酸リチウムの「y面」を覆う導電性材料270を有するレーザ光源200が連続運転されたときの出力変化を表すグラフと、連続運転されているレーザ光源200から出力されたレーザ光の横モード形状を表す写真と、を示す。図5のセクション(a)は、出力変化を表すグラフである。図5のセクション(b)は、レーザ光の横モード形状を表す写真である。尚、ニオブ酸リチウムには、MgOが添加されている。図3及び図5を用いて、レーザ光源200の出力変化及びレーザ光の横モード形状が説明される。
図5のセクション(b)中の写真(1)は、図5のセクション(a)のグラフ中に示される記号「(1)」に対応し、レーザ光源200の点灯から10時間経過後の写真である。図5のセクション(b)中の写真(2)は、図5のセクション(a)のグラフ中に示される記号「(2)」に対応し、レーザ光源200の点灯から100時間経過後の写真である。図5のセクション(b)中の写真(3)は、図5のセクション(a)のグラフ中に示される記号「(3)」に対応し、レーザ光源200の点灯から190時間経過後の写真である。
図5のセクション(b)の写真(1)乃至(3)から明らかなように、横モードのレーザ形状はほとんど変化していない。また、連続運転されているレーザ光源200からの出力変化(出力低下)は、200時間経過後において、1%以内に収まっている。したがって、レーザ光源200の出力低下は、好適に抑制されている。
z面に沿う2つの面(波長変換素子250の上面255及び下面256)に電荷が蓄積される焦電効果に対しては、波長変換素子250のz面(上面255及び下面256)を覆う導電性材料が有効である。波長変換素子250のz面(上面255及び下面256)を覆う導電性材料は、波長変換素子250のz面(上面255及び下面256)に発生した電荷を好適に逃がし、レーザ光源200の出力低下を効果的に抑制する。
高調波光の横モード形状の変化は、「z面」の表面に発生する電荷ではなく、波長変換素子250を通るビームパス周辺領域の分極反転境界付近(即ち、波長変換素子250の内部)に発生する局所電荷に起因する。したがって、「z面」を覆う導電性材料だけでは、横モード形状の変化を十分に防止することができない。一方で、波長変換素子250の「y面」を覆う導電性材料270は、波長変換素子250の内部の電荷を十分に外部へ逃がすことが出来る。
尚、本実施形態において、分極反転構造253は、波長変換素子250の一方の「z面」(上面255)から他方の「z面」(下面256)に貫通していない。波長変換素子250の「z面」に沿う上面255及び下面256のうち一方の面(図3において、下面256)には、分極反転構造253は、形成されていない。分極反転構造253が形成されない面(下面256)と、分極反転構造253までは、所定の距離だけ、離間している。
「z面」(上面255及び下面256)間で、分極反転構造253は貫通されないので、周期上の分極反転構造253を形成する工程において、分極反転・非反転の比(デューティ比)の均一性が保たれ、1060nm帯の光から高調波の530nm帯への光への変換効率が向上される。尚、分極反転の界面(反転壁)の抵抗率は、他の部分よりも低減され、チャージの容易な往来が達成される。したがって、分極反転構造253が一方のz面(図3において、下面256)に貫通されていないならば、「y面」を覆う導電性材料270は、波長変換素子250に蓄積されたチャージを比較的容易に引き抜くことができる。
導電性材料270で覆われる一対の「y面」(第1側面254)は、分極反転構造253の分極方向と平行であり、且つ、波長変換素子250の結晶軸と交わる。一対の第1側面254同士は、好ましくは、電気的に接続(短絡)される。この結果、波長変換素子250の内部で発生したチャージを適切にキャンセルされる。「y面」(第1側面)が導電性材料によって覆われる限り、導電性材料は、他の形状及び構造を有してもよい。例えば、導電性材料は、波長変換素子の周面(「z面」及び「y面」)全体を覆ってもよい。この結果、波長変換素子250に蓄積されたチャージは適切にキャンセルされる。本実施形態において、一対の第1側面254のうち一方は、第1短絡面として例示され、他方は第2短絡面として例示される。
本発明者は、レーザ光源200の出力低下に対する抑制性能は、導電性材料270の抵抗値に依存することを見出した。
図6は、導電性材料270の種類、導電性材料270の抵抗率及びレーザ光源200の出力低下に対する抑制効果をまとめた表である。図3及び図6を用いて、導電性材料270の種類及び/又は抵抗率と、レーザ光源200の出力低下に対する抑制効果との関係が説明される。尚、以下の説明において、「出力低下」との用語は、レーザ光源200が100時間連続運転されたときにおいて、高調波出力が1%以上低下したことを意味する。
図6によれば、導電性材料270の抵抗値が、10×10−5Ω・cm以下であるとき、レーザ光源200の出力低下は好適に抑制される。本実施形態において検証された導電性材料270のうち、インジウム(波長変換素子250の表面(第1側面254)に接触させた状態)、アルミニウム(スパッタ膜)、金(スパッタ膜)及び銅(波長変換素子250の表面(第1側面254)に接触させた状態)は、好適な抑制効果を発揮した。
導電性材料270の抵抗値が、10×10−5Ω・cm以下であれば、導電性材料270は、波長変換素子250の第1側面254に形成された金属膜であってもよく、波長変換素子250の第1側面254に単純に物理的に接触された板片であってもよい。第1側面254に付着した金属膜状の導電性材料270及び第1側面254に物理的に接触された導電性材料270はともに、好適な抑制効果を発揮した。
レーザ光源の波長変換素子が分離反転構造を有するならば、本実施形態で説明された原理にしたがって、レーザ光源の出力低下は適切に抑制される。分極反転構造を形成することができる材料として、MgO添加ニオブ酸リチウムの他に、MgO添加タンタル酸リチウム、定比組成のMgO添加ニオブ酸リチウム、定比組成のMgO添加タンタル酸リチウムやリン酸チタニルカリウム(通称 KTP、KTiOPO4)が例示される。これら非線形光学材料を用いて形成された分離反転構造を有する波長変換素子に対しても、本実施形態で説明された原理は好適に適用され、上述の出力低下に対する好適な抑制効果が得られる。
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に従う波長変換素子並びに波長変換素子を用いた波長変換レーザ光源の構成を概略的に示す模式図である。図8は、図7に示される波長変換レーザ光源が備える第1光学素子の概略的な斜視図である。図7及び図8を用いて、波長変換素子及び波長変換レーザ光源が説明される。
本実施形態の波長変換レーザ光源が備える固体レーザ媒質の材料として、Nd:YAGレーザやNd:YVO4結晶が例示される。波長変換素子の材料として、分極反転構造を形成可能な様々な非線形光学材料(例えば、第1実施形態の波長変換素子に用いられたMgO添加ニオブ酸リチウム、MgO添加タンタル酸リチウム、定比組成のMgO添加ニオブ酸リチウム、定比組成の添加タンタル酸リチウム、リン酸チタニルカリウム(通称 KTP、KTiOPO4))が例示される。尚、本実施形態において、固体レーザ媒質には、Nd:YVO4結晶が用いられる。また、波長変換素子にMgO:LiNbO3結晶が用いられる。これらの材料から形成された固体レーザ媒質及び波長変換素子を備える波長変換レーザ光源が以下に説明される。
図7は、第2実施形態に従うレーザ光源200Aを概略的に示す。図8は、レーザ光源200Aが備える第1光学素子300を概略的に示す。第1実施形態に従うレーザ光源200と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第1実施形態での説明が援用される。
レーザ光源200Aは、励起光源210、コリメートレンズ220、集光レンズ230及び第1光学素子300を備える。第1光学素子300は、固体レーザ媒質240Aと波長変換素子250Aとを備える。レーザ光源200Aは、導電性材料270Aを更に備える。導電性材料270Aは、第1光学素子300に取り付けられる。
図8に示される如く、固体レーザ媒質240A及び固体レーザ媒質240Aにオプティカルコンタクトされた波長変換素子250Aは、第1光学素子300を形成する。固体レーザ媒質240Aは、励起光源210から出射された励起光PLが入射する入射端面242と、入射端面242と反対側の第1接合面241Aとを含む。波長変換素子250Aは、第2高調波が出射される出射端面251と、出射端面251と反対側の第2接合面252Aと、を含む。固体レーザ媒質240Aの第1接合面241Aは、波長変換素子250Aの第2接合面252Aに対して、例えば、オプティカルコンタクト状態となり、密着一体化される。かくして、オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Aを備える第1光学素子300が形成される。
以下、第2実施形態に従うレーザ光源200Aの機能及び動作が説明される。
励起光源210は、励起光PLを発する。コリメートレンズ220は、励起光PLを平行光にする。集光レンズ230は、励起光PLを固体レーザ媒質240Aへ集光する。
第1実施形態に関連して説明された波長変換素子250と同様に、本実施形態の波長変換素子250Aは、分極反転構造253と垂直に交わる第1側面254を含む。固体レーザ媒質240Aは、第1側面254と連続する第2側面244を含む。本実施形態のレーザ光源200Aは、導電性材料270Aが第1側面254及び第2側面244に接触することに特徴づけられる。
第1光学素子300は、上述の如く、固体レーザ媒質240Aと波長変換素子250Aとを備える。固体レーザ媒質240Aの第1接合面241Aは、波長変換素子250Aの第2接合面252Aにオプティカルコンタクトされる固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Aの間のオプティカルコンタクト状態は、接着剤の介在なしに、固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250それぞれの材料同士間に作用する分子間力やファンデルワールス力といった力によって維持される。
固体レーザ媒質240Aの第1接合面241Aは、Nd:YVO4結晶のa−c面である。波長変換素子250Aの第2接合面252Aは、MgO:LiNbO3結晶のz−y面である。MgO:LiNbO3結晶のz軸及びNd:YVO4結晶のc軸が平行となるように、固体レーザ媒質240Aの第1接合面241A及び波長変換素子250Aの第2接合面252Aは、接合される。
固体レーザ媒質240Aの入射端面242に励起光PLが入射すると、波長変換素子250Aの出射端面251から緑色レーザ光が出力される。固体レーザ媒質240Aの入射端面242には、1060nm帯のレーザ光と、高調波の530nm帯のレーザ光とを99.8%反射する光学膜が形成される。波長変換素子250Aの出射端面251には、1060nm帯のレーザ光を99.8%反射する一方で、高調波の530nm帯のレーザ光を透過する光学膜が形成される。かくして、固体レーザ媒質240Aの入射端面242と波長変換素子250Aの出射端面251との間で、1060nm帯の光は、共振並びにレーザ発振する。この結果、波長変換素子250Aによって波長変換された緑色光のみが、出射端面251から出力される。
本実施形態のレーザ光源200Aの導電性材料270Aは、第1実施形態の導電性材料270と同様に、波長変換素子250Aの第1側面254(「y面」)を覆う。本実施形態のレーザ光源200Aは、導電性材料270Aが固体レーザ媒質240Aの第2側面244を更に連続的に覆うことに特徴づけられる。
Nd:YVO4結晶を用いて形成された固体レーザ媒質240Aの線膨張係数は、MgO:LiNbO3結晶を用いて形成された波長変換素子250Aの線膨張係数と相違する。本発明者は、このように線膨張係数が異なる異種材料から形成された固体レーザ媒質及び波長変換素子を備える光学素子を用いてレーザが発振されると、固体レーザ媒質は発熱し、波長変換素子に応力が付加され、レーザ光源の出力低下が生ずることを見出した。
導電性の高い材料は、一般的に、熱伝導性も高いので、固体レーザ媒質が発した熱を効率よく放熱し、緑色レーザ光の出力低下が効果的に抑制される。本実施形態において、導電性材料270Aとして、アルミニウムのスパッタ膜(100〜300nm厚)が使用され、緑色光の出力低下に対する効果的な抑制作用が確認された。
図9は、第1光学素子300に波長808nmの励起光PLが入力され、第1光学素子300から1000mWの緑色光が出力されるようにレーザ光源200Aが連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動と、レーザ光源200Aの連続運転中の横モード形状を撮像した写真を示す。図9のセクション(a)は、レーザ光源200Aの連続運転中の横モード形状を撮像した写真である。図9のセクション(b)は、レーザ光源200Aが連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動を示すプロット図である。図7乃至図9を用いて、動作時間に伴う出力変動及び横モード形状の変化が説明される。
図9のセクション(a)の写真(1)は、図9のセクション(b)のプロット図中に示される記号「(1)」に対応し、レーザ光源200Aの点灯が開始されたとき(点灯初期)の横モード形状の写真である。図9のセクション(a)の写真(2)は、図9のセクション(b)のプロット図中に示される記号「(2)」に対応し、点灯初期から100時間経過後の横モード形状の写真である。図9のセクション(a)の写真(3)は、図9のセクション(b)のプロット図中に示される記号「(3)」に対応し、点灯初期から190時間経過後の横モード形状の写真である。
点灯初期から100時間経過後までの期間において、出力低下及び横モードの変化は観察されない。点灯初期から190時間経過すると、横モード形状のわずかな変化は確認される一方で、出力低下量は1%以内である。図9から、第1光学素子300の第1側面254及び第2側面244を覆う導電性材料270Aは、レーザ光源200Aが連続運転されたときの出力低下を効果的に抑制することが分かる。
本実施形態において、第1光学素子300は、一体化された固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Aを備える。波長変換素子250Aは、対向する「y面」(第1側面254)に導電性材料270Aが接触する。この結果、第1実施形態に関連して説明された原理に従い、波長変換素子250Aの内部で発生されたチャージは適切にキャンセルされる。更に、導電性材料270Aは、固体レーザ媒質240Aの第2側面244まで延出する。この結果、固体レーザ媒質240Aで発生した熱は、効率よく放熱される。かくして、第1光学素子300の長時間の駆動に起因するレーザ光の出力低下は、効果的に抑制される。
(第3実施形態)
本実施形態にしたがう波長変換レーザ光源は、上述の第2実施形態に関聨して説明された第1光学素子300(一体化された固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Aを備えるオプティカルコンタクトされた素子)の横モード変化を抑制する。この結果、本実施形態にしたがう波長変換レーザ光源が長時間運転されたときの出力低下が好適に抑制される。
図10は、本実施形態に従う波長変換レーザ光源に用いられる光学素子の構成を概略的に示す模式図である。図10のセクション(a)は、一体化された固体レーザ媒質、波長変換素子及び横モードを維持するための維持機構を備える光学素子の構成を例示する。図10のセクション(b)は、維持機構の形状を例示する。第1実施形態及び/又は第2実施形態に従うレーザ光源200,200Aと同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第1実施形態及び/又は第2実施形態での説明が援用される。
図10に示される光学素子400は、固体レーザ媒質240Aと波長変換素子250Bとを備える。固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Bは、例えば、オプティカルコンタクト状態となり、一体化される。この結果、オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Bを備える第1光学素子300Bが形成される。
第2実施形態のレーザ光源200Aと同様に、導電性材料270Aは、波長変換素子250Bの第1側面254及び固体レーザ媒質240Aの第2側面244に接触する。導電性材料270Aは、波長変換素子250Bの内部のチャージをキャンセルするとともに、固体レーザ媒質240Aからの放熱を促す。
光学素子400は、横モードを維持する維持機構290を備える。維持機構290は、波長変換素子250Bに接合される第3接合面291を含む。波長変換素子250Bは、第3接合面291に接合される第4接合面251Bと、固体レーザ媒質240Aに接合される第2接合面252Aと、を含む。固体レーザ媒質240Aは、第2接合面252Aに接合される第1接合面241Aを含む。
維持機構290は、第3接合面291を含む基台部293と、第3接合面291と反対側に形成されたレンズ部292と、を備える。レーザ光は、レンズ部292から出射される。レンズ部292は、レンズ形状に加工される。本実施形態において、維持機構290は、第2光学素子として例示される。また、レンズ部292は、出射部として例示される。
以下、第3実施形態に従う光学素子400の機能及び動作が説明される。
固体レーザ媒質240Aの第1接合面241A及び波長変換素子250Bの第2接合面252Aが接合され、固体レーザ媒質240A及び波長変換素子250Bが一体化される点において、本実施形態の光学素子400は、第2実施形態に関連して説明された第1光学素子300と共通する。しかしながら、光学素子400は、維持機構290を備える点で、第2実施形態と相違する。
維持機構290のレンズ部292は、波長変換素子250Bと略等しい屈折率を有する材料を用いて形成される。本実施形態において説明される光学素子400は、維持機構290の第3接合面291及び波長変換素子250Bの第4接合面251Bがオプティカルコンタクトされ、維持機構290及び波長変換素子250Bが一体化される点に特徴づけられる。
維持機構290のレンズ部292、例えば、直径500〜800μm(マイクロメートル)の球面凸レンズ形状に形成され、曲率半径「r」の外面を有する。レンズ部292は、高さ0.1〜0.5μm(マイクロメートル)で基台部293から突出する。
光学素子400が波長変換レーザ光源に用いられるならば、好適には、曲率半径「r」は、100〜1000mm(ミリメートル)の範囲に設定される。曲率半径「r」が100mm未満であるならば、固体レーザ媒質240A内での励起光と1060nm帯の光との重なり積分が小さくなり、出力可能な緑色光は過度に小さくなる。曲率半径「r」が1000mmを超えると、横モードの維持効果が小さくなり、連続運転時の出力低下に対する抑制機能が損なわれる。
レンズ部292は、例えば、レジストマスクの形状をドライエッチングにより転写する方法、光学研磨による方法や略等しい屈折率を有するガラス材料を型押しする方法といった様々な加工手法を用いて加工可能である。
図11は、レンズ部292の曲率半径「r」とレンズ部292の加工高さとの関係を示すプロット図である。図11に示されるプロット図において、レンズ部292の直径「L」がパラメータとして用いられている。
図11に示されるプロット図に従うと、レンズ部292の加工高さは、好ましくは、0.5μm以下である。尚、レンズ部がドライエッチングで作成されるならば、レンズ部292の加工高さは、レンズ部292に用いられる材料とレジストマスクとの選択比にも依存する。
図12は、本実施形態で説明された光学素子400を備える波長変換レーザ光源を連続動作させたときの出力変化を示す図である。図12のセクション(a)は、レーザ光源の連続運転中の横モード形状を撮像した写真である。図12のセクション(b)は、レーザ光源が連続運転されたときの動作時間に伴う出力変動を示すプロット図である。図9、図10及び図12を用いて、波長変換レーザ光源を連続動作させたときの出力変化が説明される。
図9に示されるように、第2実施形態にしたがうレーザ光源200Aは、190時間経過後において横モードの形状のわずかな変化を生じた。一方、本実施形態の維持機構290を有する光学素子400が組み込まれた波長変換レーザ光源の横モード形状の変化並びに出力低下は、観測されなかった。本実施形態のレーザ光源から、高出力の波長変換光が安定して得られた。
本実施形態において、図10に示される如く、維持機構290の第3接合面291が波長変換素子250Bの第4接合面251Bに接合されるように、維持機構290は配置される。代替的に、維持機構は、波長変換素子と固体レーザ媒質との間に配設されてもよい。更に代替的に、固体レーザ媒質の入射端面が、横モードを維持することができる曲面形状に形成されてもよい。維持機構の設計(例えば、形状寸法)や配置に応じて、例えば、固体レーザ媒質内のビーム径が拡大され、波長変換素子でのビーム径が小さくされてもよい。固体媒質でのパワー密度と較べて、波長変換素子でのパワー密度が相対的に大きくなるので、波長変換素子内で、1060nm帯の光が好適に集光される。この結果、波長変換効率が向上する。したがって、横モードを維持するためのレンズ構造は、固体レーザ媒質の入射端面に接合されることが更に好適である。
第3実施形態に関連して説明された原理は、第1実施形態及び/又は第2実施形態にも好適に適用される。
(第4実施形態)
図1に関連して説明されたレーザ光源100(オプティカルコンタクト型の波長変換レーザ光源)は、上述の出力低下に加えて、出力停止を引き起こす他のエラーモードに関する課題を内包する。本実施形態において説明される波長変換レーザ光源及び光学素子は、出力停止に係る課題を適切に解消する。
本発明者は、図1に関連して説明されたレーザ光源100をもちいて、例えば、1Wの500nm帯の光が出力されるように連続的に点灯させる試験を行ったとき、80時間ほどでレーザ光源100の出力が停止するという課題を発見した。
図13は、上述の連続点灯試験の結果を示すプロット図である。図1及び図13を用いて、出力停止の課題が説明される。
図13に示される出力停止は、第1実施形態に関連して説明された波長変換素子の屈折率の変化に起因する変換効率低下・出力低下とは異なり、共振状態が崩れることに起因する急激且つ大幅な出力低下或いは出力停止である。このような出力の大幅な低下或いは呈しは、レーザ光源100からの出力が500mW以上であるときに生じやすくなることも、本発明者は確認した。本発明者の詳細な研究により、レーザ光源100が作動している間の光学素子140の温度が40℃を超えると、レーザ光源100の急激且つ大幅な出力低下或いは出力停止が、特に生じやすくなることを明らかとなった。
図14は、上述の高出力での連続点灯の結果、出力低下或いは出力停止が生じたときの光学素子を概略的に示す。図1に関連して説明された同様の要素には、同様の符号が付され、これらの要素に対して、図1に関連する説明が援用される。図1及び図14を用いて、出力低下或いは出力停止の原因が説明される。
光学素子140Cは、図1に関連して説明された光学素子140と同様に、固体レーザ媒質141Cと波長変換素子142Cとを備える。固体レーザ媒質141Cは、波長変換素子142Cにオプティカルコンタクトされる。
固体レーザ媒質141Cは、励起光が入射する入射端面146と、入射端面146と反対側の第1接合面143Cと、を含む。波長変換素子142Cは、出力光が出射される出射端面144と、出射端面144と反対側の第2接合面145Cと、を含む。
第1接合面143C及び第2接合面145Cは、連続点灯試験前において、密着されている。しかしながら、連続点灯試験後、第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間には空隙147が形成されている。
図14には、光学素子140Cを通過するビームの経路(レーザビームパス:以下、ビームパスBPと称される)が示されている。また、図14は、連続点灯試験後に観察された堆積物DPを示す。堆積物DPは、第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間の空隙147中で観察された。
出力停止を引き起こした光学素子140Cを解析した結果、光学的に接合された第1接合面143C及び第2接合面145Cの面精度といった原因により、空隙147が第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間に生ずることが判明した。また、第1接合面143C及び第2接合面145Cにおいて、レーザ光が通過するビームパスBP上に堆積物DPが付着していることが判明した。堆積物DPは、空隙147を通じて、界面(第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間の境界)内に進入した空気中に浮遊する炭素含有成分を含む。炭素含有成分がレーザトラッピングにより集積された結果、ビームパスBPが横切る接合面(第1接合面143C及び/又は第2接合面145C)に堆積物DPとして付着したことが判明した。空隙147及び堆積物DPの発生に起因して、オプティカルコンタクト面(第1接合面143Cと第2接合面145Cとの間の境界)での基本波光の伝搬損失が増大し、レーザ共振器として用いられる光学素子140Cの内部損失が大きくなることが判明した。このような光学素子140Cの内部損失の増大が、上述の出力停止を引き起こすと考えられる。
本発明者は、更に研究を行い、第1接合面143Cと第2接合面145Cとの接合面積の狭さが空隙147を引き起こす原因であることを見出した。固体レーザ媒質141Cが発熱並びに膨張すると、固体レーザ媒質141Cの第1接合面143Cから波長変換素子142Cの第2接合面145Cが剥離することが確認された。第1接合面143Cと第2接合面145Cとの接合面積が大きくなると、空隙147がほとんど発生しなくなることが実験的に確認された。
本発明者は、しかしながら、第1接合面143Cと第2接合面145Cとの接合面積を単純に増大させることは、出力特性の劣化を引き起こすという新たな課題を発見した。出力特性の劣化に関する新たな課題は、固体レーザ媒質141Cが励起光を吸収するときに、固体レーザ媒質141C内のビームパスBP中で生ずる熱に対する不十分な放熱に起因する。例えば、500mW以上の高調波出力を得るために固体レーザ媒質141Cに強力な励起光が入力されると、出力特性の劣化は顕著となり、必要な出力が得られないという課題が生ずる。
固体レーザ媒質141Cは、一般的に、熱伝導度が低い。したがって、固体レーザ媒質141Cによる励起光の吸収に伴って発生する熱を効率よく放熱するためには、好ましくは、励起光が通過する部分と固体レーザ媒質141Cを保持するホルダ部分との距離は短く設定される。励起光の8割ほどの光量は、固体レーザ媒質141Cの入射端面146の近傍で吸収される。したがって、固体レーザ媒質141Cの入射端面146の近傍で発生した熱を高効率で伝達し、放熱を促すことが好ましい。
本実施形態において、上述の相矛盾する課題を解決するための光学素子が説明される。
図15は、整列した複数の光学素子を含む光学素子列の斜視図である。図16は、図15に示される光学素子列の平面図(図15中、矢印Aから見た図)である。図17は、図15に示される光学素子列から分離された光学素子の斜視図である。図15乃至図17を用いて、光学素子が説明される。尚、図17において、図15に示されるシール材(後述される)は示されていない。第1実施形態乃至第3実施形態に関連して説明された要素と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第1実施形態乃至第3実施形態での説明が援用される。
バー形状の光学素子列500は、整列した複数の光学素子300Cを含む。バー形状の光学素子300Cは、例えば、光学素子列500の一部を切断及び分離して形成される。
光学素子300Cそれぞれは、基本波光を発生するための固体レーザ媒質240Cと、基本波光よりも高い周波数の第2高調波へ基本波光を変換する波長変換素子250Cと、を含む。固体レーザ媒質240Cは、励起光が入射される入射端面242と、入射端面242と反対側の第1接合面241Cと、を含む。波長変換素子250Cは、出力光が出射される出射端面251と、出射端面251と反対側の第2接合面252Cと、を含む。固体レーザ媒質240Cの第1接合面241C及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、例えば、オプティカルコンタクトされ、固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cは一体化される。図16及び図17において、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間の境界は、接合位置CPとして示されている。
図15及び図16に示される如く、光学素子列500は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間の境界をシールするシール材245を更に備える。シール材245は、接合位置CPに沿って配設される。本実施形態において、シール材245は封止部材として例示される。シール部材245は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間への外気や水分の浸入を抑制する。
光学素子列500中の光学素子300Cの固体レーザ媒質240C間には、第1切込部246が形成される。また、光学素子列500中の光学素子300Cの波長変換素子250C間には、第2切込部257が形成される。
以下、第4実施形態に従う光学素子300Cの機能及び動作が説明される。
上述の如く、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241C及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、オプティカルコンタクトされる。本実施形態にしたがうバー形状の光学素子300C(及びバー形状の光学素子列500)は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの接合面積が固体レーザ媒質240Cの入射端面242の面積よりも大きいことに特徴づけられる。本実施形態において、第1接合面241は、接合面として例示される。また、第1接合面241と反対側の入射端面242は対向面として例示される。
<光学素子の構成>
以下に、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとを備える光学素子300Cの構成が説明される。光学素子300Cの形成方法は、後述される。
上述の如く、光学素子300Cは、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとを備える。固体レーザ媒質240Cの材料として、Nd:YAGレーザやNd:YVO4結晶といった様々な材料が例示される。波長変換素子250Cの材料として、LiNbO3、LiTaO3、KTPといった様々な材料が例示される。本実施形態にしたがう光学素子300Cの固体レーザ媒質240Cは、例えば、Nd:YVO4結晶から形成される。本実施形態にしたがう光学素子300Cの波長変換素子250Cは、例えば、MgO:LiNbO3結晶から形成される。以下、このような材料から形成された固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとを備える光学素子300Cが説明される。
上述の如く、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241C及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、オプティカルコンタクトされる。固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cの間のオプティカルコンタクトの状態は、接着剤の介在なしに、固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cそれぞれの材料同士間に作用する分子間力やファンデルワールス力といった力によって維持される。
固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cは、Nd:YVO4結晶のa−c面である。波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、MgO:LiNbO3結晶のz−x面である。MgO:LiNbO3結晶のz軸及びNd:YVO4結晶のc軸が平行となるように、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241C及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cは、オプティカルコンタクトされる。第1接合面241C(及び第2接合面252C)の面積は、固体レーザ媒質240Cの入射端面242(第1接合面241Cと反対側の端面)の面積よりも大きい。
固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合面積は比較的大きく設定されるので、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの間の高い接合強度が達成される。また、固体レーザ媒質240Cの入射端面242の面積は、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合面積よりも小さいので、固体レーザ媒質240Cの励起光の吸収によって発生する熱は、効果的に放熱される。したがって、光学素子300Cの比較的高い接合強度及び出射光の良好な出力特性が両立される。
本実施形態の光学素子300Cの長さ(l)は、「2.5mm」であり、厚さ(t)は、「1.0mm」であり、幅(w)は「1.0mm」である。光学素子300Cの「2.5mm」の長さ(l)は、「0.5mm」の波長変換素子250Cの長さと、「2.0mm」の固体レーザ媒質240Cの長さとを含む。接合面を形成する第1接合面241C及び第2接合面252Cの厚さ(1)は、それぞれ、「1.5mm」である。
本実施形態において、波長変換素子250Cの出射端面251の面積は、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合面積よりも小さい。代替的に、波長変換素子の出射端面の面積は、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合面積と同等であってもよい。
<レーザ光源>
図18は、バー形状の光学素子列500及び光学素子300Cを用いた波長変換レーザの構成を例示する。図18のセクション(a)は、光学素子列500の概略的な平面図である。図18のセクション(b)は、光学素子300Cの概略的な斜視図である。図18のセクション(c)は、素子ホルダに収容された光学素子300Cを示す。図18のセクション(d)は、波長変換レーザの概略的な模式図である。図15乃至図18を用いて、波長変換レーザが説明される。図18において、第1実施形態乃至第3実施形態に関連して説明された要素と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第1実施形態乃至第3実施形態での説明が援用される。
図18のセクション(d)に示される如く、レーザ光源200Cは、励起光PLを発する励起光源210、コリメートレンズ220、集光レンズ230及び光学素子300Cを備える。上述の如く、光学素子300Cは、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとを備える。固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cは、例えば、上述の如く、オプティカルコンタクト状態にされ、密着一体化される。この結果、オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cを備える光学素子300Cが形成される。
図18のセクション(a)に示される如く、光学素子列500は、整列した複数の光学素子300Cを備える。図18のセクション(a)及び(b)に示される如く、光学素子300Cは、バー形状の光学素子列500の一部をなす。光学素子300Cは、例えば、光学素子列500から切断並びに分離され、レーザ光源200Cに組み込まれる。
図17に示される如く、光学素子300Cは、第1接合面241C及び/又は第2接合面252Cに直交する側面310(y軸に直交する面)と、側面310から突出する突条320と、を含む。突条320は側面310に現れる接合位置CPに沿って延びる。
図18のセクション(c)及び(d)に示される如く、レーザ光源200Cは、光学素子列500から分離された光学素子300Cを収容する素子ホルダ270Cを更に備える。素子ホルダ270Cは、第1実施形態及び第2実施形態に関連して説明された導電性材料270,270Aと同様に、導電性を有してもよい。
図18のセクション(c)に示される如く、光学素子300Cは、素子ホルダ270C内に固定される。その後、図18のセクション(d)に示される如く、レーザ光源200C内に配置され、レーザ光源200Cの要素として機能する。
以下、第4実施形態に従うレーザ光源200Cの機能及び動作が説明される。
励起光源210は、励起光PLを発する。コリメートレンズ220は、励起光PLを平行光にする。その後、集光レンズ230は、固体レーザ媒質240C内に集光する。励起光PLが固体レーザ媒質240C内に集光されると、光学素子300C内で1060nm帯のレーザ発振が生ずる。波長変換素子250Cは、その後、波長変換を行う。波長変換された530nm帯の光は、光学素子300Cから発せられる。本実施形態において、集光レンズ230は、集光光学要素として例示される。
図19は、光学素子300Cに波長808nmの励起光PLが入力されたときの光学素子300Cの光入出力特性を示すプロット図である。図17乃至図19を用いて、光学素子300Cの光入出力特性が説明される。
図19のプロット図の横軸は、励起光PLの入力強度を示す。図19のプロット図の縦軸は、光学素子300Cから発せられる出力光の強度を示す。図19から、1Wの高調波出力(緑色光)が得られていることが分かる。
本発明者は、接合位置CPにおける断面積、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの間の接合強度及び高調波出力との関係を更に調査した。
図20は、光学素子300Cの断面積と、所定の高調波出力に対して必要とされる接合強度との関係を示すグラフである。図14、図18及び図20を用いて、接合位置CPにおける断面積、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの間の接合強度及び高調波出力との関係が説明される。
500mW以上の高調波出力(緑色光)を得るためには、上述の固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの熱膨張係数差に起因して発生する応力に耐えることができる十分な接合強度を確保可能な接合面積として、1mm2以上の接合断面積が必要であった(以下、接合断面積1mm2の時の接合強度は「1」とする)。また、1W以上の高調波出力を得るためには、1.5以上の接合強度が必要となることが明らかとなった。一方で、500mW以上の高調波出力を出力するためには、固体レーザ媒質240Cの断面積が0.75mm2以下でなければ、レーザ光の通過位置であるビームパスBPから固体レーザ媒質240Cの外周面までの距離が大きくなるため、放熱特性が悪化し、出力が飽和することも明らかとなった。
以下の説明において、波長変換素子250Cと接合する固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cの面積は、記号「S1」で表される。固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cと対向する入射端面242の面積は、記号「S2」で表される。面積S1が面積S2よりも大きくされると、所定の放熱効果は得られる。接合強度及び放熱効果の観点から、面積S1と面積S2との関係は、以下に示される不等式の関係を満たすことが好ましい。
〔数1〕
0.75×S1>S2
接合強度の観点から、接合位置CPにおける光学素子300Cの断面積は、少なくとも1mm2以上、好ましくは、1.5mm2以上であることが必要である。一方で、放熱特性の観点から、固体レーザ媒質240C中のビームパスBP(ビーム伝搬方向)に垂直な断面積は、0.75mm2以下であることが好ましい。本発明者の研究から、接合強度の観点から必要とされる断面積の大きさ及び放熱特性の観点から必要とされる断面積の大きさは、相反することが明らかになった。
上述の研究結果に基づき、本実施形態において、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cの断面積(及び波長変換素子250Cの第2接合面252Cの断面積)は、少なくとも1mm2以上、より好ましくは1.5mm2以上とされる。また、固体レーザ媒質240Cの断面積(突条320が形成された部位を除く部分の断面積)は、0.75mm2以下とされる。この結果、500W以上の出力強度を有する高調波が出力される場合でも、光学素子300Cの放熱特性及び素子強度(固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合強度)は良好に保たれる。
図21は、本実施形態にしたがう光学素子300Cが組み込まれたレーザ光源200C(波長変換レーザ光源)が連続動作されたときの動作時間と高調波の出力強度との関係を示すプロット図である。図1、図13、図18及び図21を用いて、動作時間と高調波の出力強度との関係が説明される。
図13に関連して説明された如く、図1に示されるような一般的なレーザ光源100の動作が開始されてから100時間弱でレーザ発振の停止が観測された。一方で、図21に示される如く、本実施形態に係る光学素子300Cが組み込まれたレーザ光源200Cからは、65℃の温度環境下で900時間を超える長時間の動作の間、500mW以上の出力が安定的に得られた。
500mW以上の高調波を出射する光学系において、光学素子300Cは、有利な効果を発揮することが上記の説明で述べられているが、500mW未満の高調波を出射する光学系においても、同様の効果が得られる。高調波の出力強度が比較的小さい光学系においても、オプティカルコンタクト状態の光学素子300Cの強度の確保及び良好な放熱は両立される。本実施形態の原理に従うと、500mW以上の出力で、且つ、動作最高温度が40℃以上のレーザ光源が好適に形成される。
<突条>
図17を再度用いて、光学素子300Cの更なる特徴が説明される。
図17に示される如く、固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cと入射端面242とが比較されると、幅(w)方向において、第1接合面241Cの一辺の長さと入射端面242の一辺の長さは略等しい。一方で、厚さ(t)方向において、第1接合面241Cの一辺の長さは入射端面242の一辺の長さより長い。第1接合面241C及び入射端面242のz軸方向の長さは略等しい一方で、y軸方向において第1接合面241Cの一辺は、入射端面242より長い。
固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合位置CPに沿って、z軸(及び波長変換素子250Cのc軸)と平行に延びる突条320が形成される。一方向に延びる突条320によって、使用者は結晶軸の方向を容易に知ることができる。例えば、YVO4やGdVO4といったバナデート系の結晶を通過する励起光は、c軸に平行な偏光方向を持つよう入力される必要がある。使用者は、光学素子300Cの突条320(励起光の偏光方向に延びる突条320)によりc軸の方向を知ることができる。本実施形態において、突条320は、突起部として例示される。
本実施形態において、光学素子300Cの一対の側面310に現れる接合位置CPに沿って突条320は形成される。追加的に、突条は、光学素子の上面及び下面(z軸に対して直交する光学素子の面)に現れる接合位置に沿って形成されてもよい。即ち、固体レーザ媒質の入射端面の各辺の長さより、第1接合面の各辺の長さが長くされ、且つ、入射端面から固体レーザ媒質をも見たときの第1接合面の投影図が入射端面の投影図を覆うように形成されてもよい。かくして、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合部位は、z軸及びy軸方向の両方に突出され、固体レーザ媒質と波長変換素子との間の接合面積は、固体レーザ媒質の入射端面よりも一層大きく形成される。
<シール部材>
図14乃至図17を再度用いて、シール部材が説明される。
オプティカルコンタクトされた固体レーザ媒質240Cの第1接合面241Cと波長変換素子250Cの第2接合面252Cとの間の界面に外気が接触すると、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの剥離が促される。固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合位置CPに沿って配設されたシール材245は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間の界面への外気の接触を抑制する。したがって、光学素子300Cの接合強度は、長期間に亘って高い水準を維持される。第1接合面241C及びと第2接合面252Cの外縁を覆うシール材245は、第1接合面241Cと第2接合面252Cとの間の界面への外気の接触だけでなく、炭素といった堆積物DPのビームパスBP周囲での付着(図14参照)も抑制する。
<光学素子の作製方法>
図15乃至図18を再度用いて、光学素子300Cの作製方法が説明される。尚、以下に説明される光学素子300Cの作製方法以外の方法で、光学素子300Cが作成されてもよい。
図15に示される如く、バー形状の光学素子列500は、光学的に接合された固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cを備える。光学素子300Cは、光学素子列500から分離して作成される。固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの光学的な接合位置CPは、シール材245で封止されている。バー形状の光学素子列500の厚さ(t)は、1mmであり、長さ(l)は、2.5mmであり、幅(w)は、10mmである。光学素子列500の長さ(l)は、0.5mmの波長変換素子250Cの長さ寸法と、2.0mmの固体レーザ媒質240Cの長さ寸法とを含む。
固体レーザ媒質240Cの材料及び波長変換素子250Cの材料が接合されたとき、第1切込部246及び第2切込部257は形成されていない。固体レーザ媒質240Cの材料と波長変換素子250Cの材料とが接合された後、固体レーザ媒質240C側及び波長変換素子250C側から、例えば、ダイシングソーを用いて切り込みが入れられ、第1切込部246及び第2切込部257がそれぞれ形成される。第1切込部246及び第2切込部257はそれぞれ、接合位置CPの手前200μm〜500μmの位置まで達する。バー形状の光学素子列500から光学素子300Cを分離するときの歩留まりの観点から、ダイシングソーの刃先が接合位置CPから100〜200μmの位置に達するまで、固体レーザ媒質240Cの材料及び波長変換素子250Cの材料それぞれに切込(第1切込部246,第2切込部257)が入れられることが好ましい。
図22は、バー形状の光学素子列500の写真である。図22のセクション(a)は、光学素子列500を全体的に示す。図22のセクション(b)は、光学素子列500の接合位置CP、第1切込部246及び第2切込部257の周囲の拡大写真である。図15乃至図18並びに図22を用いて、光学素子300Cの作製方法が更に説明される。
上述の如く、固体レーザ媒質240Cは、Nd:YVO4結晶から形成される。また、波長変換素子250Cは、分極反転構造が形成されたMgO:LiNbO3から形成される。固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cが光学的に接合され、光学素子列500に加工される部材が形成される。
図22のセクション(b)に示される如く、第1切込部246及び第2切込部257は、ダイシングソーを用いて、接合位置CPに到達しないように形成される。ダイシングソーのブレード幅及び切れ込みピッチについて適当な値が選択され、光の伝搬方向に対して直交する方向の固体レーザ媒質240Cの断面積が所望の値に設定される。
図18のセクション(a)及び(b)に示される如く、上述の如く、第1切込部246及び第2切込部257が形成された光学素子列500の一部分は、切込部分で分離され、光学素子300Cとなる。隣接する光学素子300Cを接続する狭窄部(図22のセクション(b)参照)は、例えば、加圧・折り曲げによって容易に破断され、光学素子300Cが分離される。
分離された光学素子300Cの側面310から突出する突条320は、シール材245を用いて封止される(図22のセクション(a)参照)。その後、光学素子300Cは、図18のセクション(c)に示される如く、素子ホルダ270Cによって保持され、レーザ光源200Cが形成される。
本発明者は、上述の如く作成された光学素子300Cの断面積を測定した。光学素子300Cの接合位置CPにおける断面積は、1.5mm2(厚さ1.00mm×幅1.50mm)であった。また、固体レーザ媒質240Cの入射端面(励起光PLが入射する端面)の断面積は、0.75mm2(厚さ1.00mm×幅0.75mm)であった。
上述の作製方法を通じて、複数の光学素子300Cが同時に作成される。バー形状の光学素子列500が作成されるときに、固体レーザ媒質240Cのz軸と波長変換素子250Cのc軸との位置調整がなされ、固体レーザ媒質240C及び波長変換素子250Cが接合される。かくして、個別の光学素子300Cの固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの間での軸調整よりも容易に、固体レーザ媒質240Cと波長変換素子250Cとの接合方向が決定される。
本実施形態において、光学素子300Cに用いられたMgO:LiNbO3結晶のz−x面及びNd:YVO4結晶のa−c面が接合される。MgO:LiNbO3結晶のz軸及びNd:YVO4結晶のc軸が平行となるように、MgO:LiNbO3結晶とNd:YVO4結晶との接合が調整される。光学素子300Cの側面310に形成された突条320の長手方向は、MgO:LiNbO3結晶のz軸及びNd:YVO4結晶のc軸と平行になるように形成されるので、使用者は突条320の形状から光学素子300Cの方向を知ることができる。
図18のセクション(b)に示される側面310から突出する突条320は、MgO:LiNbO3結晶のy−z面と、Nd:YVO4結晶のa−c面との上に形成される。突条320の長手方向は、MgO:LiNbO3結晶のz軸方向及びNd:YVO4結晶のc軸方向に一致する。YVO4やGdVO4といったバナデート系の結晶が用いられるとき、励起光PLは、c軸に平行な偏光方向を持つよう入力される必要があるが、使用者は、突条320により光学素子300Cの方向を知ることができるので、光学素子300Cを比較的容易に実装することができる。
光学素子300Cは、上述された作製方法以外の手法を用いて作成されてもよい。例えば、第1接合面が、第1接合面と反対側の入射端面よりも大きくなるように固体レーザ媒質が予め形成されてもよい。その後、固体レーザ媒質が波長変換素子にオプティカルコンタクトされ、光学素子が形成されてもよい。
(第5実施形態)
本実施形態において、固体レーザ媒質の第1接合面と固体レーザ媒質の入射端面との面積比が、第4実施形態にしたがう光学素子300Cよりも大きくされた光学素子が説明される。
図23は、第5実施形態にしたがう光学素子列の概略的な斜視図である。図24は、図23に示される光学素子列の平面図(図23中の矢印Bで示される方向から見た図)である。図25は、図23に示される光学素子列の正面図(図23中の矢印Cで示される方向から見た図)である。図23乃至図25を用いて、光学素子列が説明される。第4実施形態に関連して説明された要素と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第4実施形態での説明が援用される。
バー形状の光学素子列500Dは、固体レーザ媒質240D、波長変換素子250Dと、シール材245と、を備える。図24において、固体レーザ媒質240Dと波長変換素子250Dとの接合部は、接合位置CPとして示されている。シール材245は、接合位置CPに沿って配設される。
固体レーザ媒質240Dは、励起光が入射される入射端面242と、波長変換素子250Dに接合される第1接合面241Dと、を含む。固体レーザ媒質240Dには、入射端面242から接合位置CPに向けて延びる第1切込部246が形成される。
波長変換素子250Dは、出力光が出射される出射端面251と、固体レーザ媒質240Dの第1接合面241Dに接合される第2接合面252Dと、を含む。波長変換素子250Dには、出射端面251から接合位置CPに向けて延びる第2切込部257が形成される。
第1切込部246及び第2切込部257の形成により、光学素子300Dが形成される。
固体レーザ媒質240Dの第1接合面241D及び波長変換素子250Dの第2接合面252Dは、例えば、オプティカルコンタクトされ、固体レーザ媒質240D及び波長変換素子250Dは一体化される。
図25には、固体レーザ媒質240Dの切削部分(上側切削部分247及び下側切削部分248)が点線で示されている。
シール材245は、光学的に接合された固体レーザ媒質240Dと波長変換素子250Dとの接合位置CPの周囲を封止する。第4実施形態と同様に、ダイシングソーを用いて形成された第1切込部246及び第2切込部257によって、光学素子300Dは、光学素子列500Dから容易に分離される。
本実施形態において、固体レーザ媒質240Dは、YVO4結晶から形成される。第4実施形態と異なり、図25に示されるように、YVO4結晶(固体レーザ媒質240D)のa−a面内もダイシングされ、c軸方向の厚さが低減されている。図25の上側切削部分247及び下側切削部分248は、ダイシングで切削された部分を示す。上側切削部分247及び下側切削部分248が切除され、固体レーザ媒質240がオプティカルコンタクトされた接合位置CP以外の断面積(ビームパスから固体レーザ媒質240Dの外周面までの距離)が低減される。この結果、ビームパス上の固体レーザ媒質240の部分から発生した熱の放熱が促される。
バー形状の光学素子列500Dに波長変換素子250D側及び固体レーザ媒質240側から2回、ダイシングソーを用いて、切込(第1切込部246及び第2切込部257)が入れられる。この結果、固体レーザ媒質240Dの入射端面242及び波長変換素子250Dの出射端面251の被切削物がダイシングソーの刃先に付着するチッピングが防止される。かくして、光学素子列500Dの製造における歩留まりが向上する。
ダイシングソーのブレード幅は、目的に応じて、適切に選択される。例えば、固体レーザ媒質240Dに形成される第1切込部246の幅は、好ましくは、波長変換素子250Dに形成される第2切込部257の幅よりも大きく設定され、固体レーザ媒質240Dの放熱性能が向上されてもよい。
第4実施形態及び第5実施形態の光学素子300C,300Dの出射端面251の面積は、入射端面242の面積よりも大きく設定されてもよい。かくして、光学素子300C,300Dの方向は画像処理によって自動的に認識されやすくなる。
第4実施形態及び第5実施形態において、固体レーザ媒質240C,240Dは、Nd:YVO4結晶から形成される。また、波長変換素子250C,250Dは、分極反転構造が形成されたMgO:LiNbO3結晶から形成される。代替的に、光学薄膜を介さず、固体レーザ媒質及び波長変換素子の材料がオプティカルコンタクトされ、且つ、両材料の屈折率の差が0.1以下であるならば、Nd:GdVO4結晶やMgO:LiTaO3結晶といった他の材料が固体レーザ媒質及び波長変換素子に用いられてもよい。他の材料で形成された固体レーザ媒質及び波長変換素子を含む光学素子も、第4実施形態及び第5実施形態に関連して説明された効果を奏する。
固体レーザ媒質及び波長変換素子は、光学薄膜を介して接合されてもよい。固体レーザ媒質と波長変換素子との間の屈折率の差に適合するように設計並びに成膜された光学薄膜を用いて固体レーザ媒質及び波長変換素子が接合されるならば、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合部での光反射は十分に低減される。例えば、固体レーザ媒質は、YAG或いはその他のガーネット系セラミックレーザ媒質、YAG結晶、又は、セラミックYAG以外のセラミック材料(例えば、セラミックY2O3といった様々な透光性セラミック材料)から形成されてもよい。これらの材料から形成され、且つ、光学薄膜を介して接合された固体レーザ媒質を含む光学素子も、第4実施形態及び第5実施形態に関連して説明された効果を奏する。
波長変換素子は、KTP(KTiOPO4)やKTA(KTiOAsO4)といった様々な材料を用いて形成されてもよい。これらの材料から形成された波長変換素子を含む光学素子も、第4実施形態及び第5実施形態に関連して説明された効果を奏する。
本実施形態において、固体レーザ媒質240Dは、Ndが添加されたYVO4結晶を用いて形成される。代替的に、固体レーザ媒質は、Nd以外のレーザ活性イオンを用いた材料を用いて形成されてもよい。Nd以外のレーザ活性イオンを用いた材料から形成された固体レーザ媒質を含む光学素子も、上述の優れた効果を奏する。
本実施形態の原理は、セラミックYAG以外のセラミック材料(例えばセラミックY2O3といった様々な透光性セラミック材料)に適用されてもよい。
(第6実施形態)
図26は、第6実施形態にしたがうレーザ光源を概略的に示す模式図である。第4実施形態に関連して説明された要素と同様の要素は、同様の符号で示されている。これら同様の要素に対して、第4実施形態での説明が援用される。
レーザ光源200Eは、励起光PLを発する励起光源210、コリメートレンズ220、集光レンズ230、光学素子300E及び光学素子300Eを保持する素子ホルダ270Cを備える。光学素子300Eは、波長変換素子250Cと固体レーザ媒質240Eと、を備える。
励起光源210は、励起光PLを発する。コリメートレンズ220は、励起光PLを平行光にする。その後、集光レンズ230は、固体レーザ媒質240E内に集光する。励起光PLが固体レーザ媒質240E内に集光されると、光学素子300E内でレーザ発振が生ずる。波長変換素子250Cは、その後、波長変換を行う。波長変換された光は、波長変換素子250Cを通じて出射される。本実施形態において、波長変換素子250Cは出射部として例示される。
図27は、固体レーザ媒質240E及び固体レーザ媒質240E内のレーザ活性物質の濃度分布を概略的に示す。図1、図26及び図27を用いて、レーザ光源200Eが更に説明される。
固体レーザ媒質240Eは、励起光PLが入射される入射端面242と波長変換素子250Cに接合される第1接合面241Cとを含む。固体レーザ媒質240Eは、入射端面242から第1接合面241Cに向けて整列する3つの領域(第1領域261,第2領域262,第3領域263)を含む。第1領域261は、入射端面242に近接する領域である。第3領域263は、第1接合面241Cに近接する領域である。第2領域262は、第1領域261と第3領域263との間の領域である。
本実施形態において、固体レーザ媒質240Eには、レーザ活性物質としてNdが添加される。レーザ活性物質の濃度は、第1領域261、第2領域262及び第3領域263の間で段階的に変化される。この結果、固体レーザ媒質240Eの周囲の環境温度に応じて、励起光を吸収する領域(固体レーザ媒質240E中のビームの伝搬方向に沿う位置)が変動し、動作温度範囲が拡大される。図27に示される濃度プロファイル(第1領域261において最も高いNd濃度、第2領域262において2番目に高いNd濃度、第3領域263において最も低いNd濃度)を有する固体レーザ媒質240Eがレーザ光源200Eに用いられると、環境温度によって励起光源210の発振波長がシフトし、入射端面242から0.5mmの領域(即ち、第1領域261)で吸収されない励起光PLが生じても、続く第2領域262及び/又は第3領域263で、励起光PLは吸収される。かくして、固体レーザ媒質240Eによる励起光PLの吸収量は略一定となる。
図27に示される固体レーザ媒質240Eの第1領域261のNdの濃度は、2.5%である。尚、第1領域261は、入射端面242から0.5mmの厚さの領域である。第1領域261に隣接する第2領域262の厚さは、1mmに設定され、第2領域262中のNdの濃度は、1.5%に設定される。第2領域262に隣接する第3領域263の厚さは、0.5mmに設定され、第3領域263中のNd濃度は、0.5%に設定される。かくして、固体レーザ媒質240E中のNdの濃度は、励起光源210から波長変換素子250Cに向けて段階的に低下する。
本実施形態にしたがう光学素子300Eは、第4実施形態及び/又は第5実施形態に関連して説明された形状(放熱を促す形状)を有する。したがって、図1に関連して説明されたレーザ光源100の動作温度範囲が20〜40℃程度であるのに対し、本実施形態に係るレーザ光源200Eの動作温度は、0〜70℃の範囲に拡大される。
Nd濃度の段階的な変動は、GdVO4やYVO4といった異なる単結晶から構成される媒質の貼り合せ、或いは、接合によって達成されてもよい。この場合においても、レーザ光源の動作温度範囲の拡大効果が得られる。
例えば、固体レーザ媒質中のレーザ活性物質の濃度を単純に増加させると、レーザ活性物質が、発振した光を吸収するという現象が生じ、結果として、レーザ発振ができなくなるという問題が存在する。本実施形態の原理に従い、複数のドーパント濃度プロファイルを有する固体レーザ媒質を用いると、上述の問題は適切に解消される。
(第7実施形態)
本実施形態において、高い耐環境性(特に、高い耐温度特性)を有する異種材料のオプティカルコンタクト組立体(光学素子構造を有するオプティカルコンタクト組立体)が説明される。
複数の光学部材を用いて光学素子を形成するための技術として、接着剤を用いて、複数の光学部材を貼り合わせる技術及び複数の光学部材を直接接合する技術が存在する。以下、接着剤を用いた貼合技術に対する直接接合技術の優位性が説明される。
一体化された光学部材を含む機能性光学素子は、光学素子の小型化及び低コスト化に有効である。光学部材の一体化は、光学部材間の相対位置を固定し、光学素子の機能安定性に貢献する。
光学部材の一体化を行うために、一般的に、接着剤を用いた貼合技術が用いられる。例えば、貼合面に機能性薄膜が配置された光学部材同士が接着され、波長分離や偏光分離を行う光学素子が形成される。
光学部材の一体化を行うための他の手法として、直接接合技術が知られている。直接接合技術は、接着剤を用いることなく、光学部材を強固に接合する技術である。直接接合技術によって、例えば、ガラス、半導体、強誘電体や圧電セラミックスといった様々な材料から形成された光学部材が高精度に接合される。本実施例で述べる「オプティカルコンタクト・オプティカルコンタクト状態」は広義の直接接合技術の一つである。以下に、一般的な直接接合技術の概要と、本実施の形態で示すオプティカルコンタクトについて記載する。
上述の直接接合技術を用いて形成された直接接合体は、例えば、光導波路として利用される。光導波路は、直接接合された異なる2つの光学部材のうち一方が薄板化された後、リッジ加工されることにより形成される。このような光導波路の形成は、光学素子を作成するための有効な手段として注目されている。
LiNbO3結晶(以下、LN結晶と称される)、LiTaO3結晶(以下、LT結晶と称される)、MgO:LN結晶やサファイアといった様々な酸化物結晶基板を用いて、同種の基板間の直接接合や略等しい屈折率及び/又は熱膨張係数を有する異種基板間での直接接合が提案されている。
薄膜を介したこれらの基板の接合も提案されている。当該接合に用いられる薄膜材料として、SiO2、SiN、低融点ガラス、金属酸化物といった様々な材料が挙げられる。
接合される面を基準面として光学部材の表面までの加工厚み、距離、面の傾きや平坦度が要求されるならば、接着剤を用いた貼合技術において生ずる接着剤の厚さ分布が光学素子の機能性の劣化を引き起こすので、直接接合技術は、接着剤を用いた貼合技術よりも有利である。
加えて、光学部材の貼合面にレーザ光が透過されるならば、接着剤(例えば、エポキシ系樹脂やアクリレート系樹脂)は、光吸収・光散乱に起因する光パワーロスを引き起こす。また、ハイパワーレーザ光が光学部材の貼合面に透過されるならば、貼合面の接着剤層の劣化(例えば、剥離、焼け或いは変色)が潜在的に引き起こされる。したがって、光学部材間にレーザ光が透過される場合においても、接着剤といった中間材を用いることなく、光学部材を一体化することができる直接接合技術は有利である。
上述の如く、光学部材同士を高精度且つ強固に接合し、様々な特性を有する機能性デバイスを作成することは、直接接合技術の有利な用途の1つである。特に、異なる性質の光学部材を接合する場合には、直接接合技術は、特に有利である。
強誘電体結晶を用いた異種部材を含む直接接合体として、ガラスとLN結晶とを含む異種基板の直接接合体やガラスとLT結晶とを含む異種基板の直接接合体が例示される。これらの異種基板は、一般的に、数100℃から1000℃程度の加熱熱処理を受け、直接接合される。したがって、接合される基板間の略等しい熱膨張係数がこれらの異種部材を含む直接接合体の形成に要求される。したがって、上述されたガラスとLN結晶との直接接合やガラスとLT結晶との直接接合よりも、LN結晶とMgO:LN結晶といった熱膨張率がほぼ同等であり、且つ、屈折率の異なる部材同士を直接接合する方が容易であると考えられる。
同種材料又は同一材料系(例えば、LN結晶とMgO:LN結晶)の部材が直接接合されると、上述の加熱処理の結果、直接接合された部材の境界において結晶構造が一体化し(構造的に接合境界がないバルク結晶のような状態になる)、高い接合強度を有する接合体が形成される。
異種材料結晶間では、結晶構造や格子定数のミスマッチが存在するので、例えば、異種材料結晶からなる光学部材を直接接合するために上述の加熱処理を行ったとしても、光学部材間の結晶構造の一体化は困難である。従って、特に異種材料からなる複数部材を一体化した光学素子においては、「材料間の強固な接合状態の形成を目的とする熱処理等のプロセス」を含まない、部材間の密着・吸着状態(本実施例ではこの状態を「オプティカルコンタクト状態」と定義している)での光学特性と耐環境性能の確保が重要となる。
加えて、異種光学部材間の熱膨張係数の相違は、加熱処理時において、密着された光学部材の膨張量の差異を引き起こす。この結果、密着された光学部材に生ずる応力に起因し、接合面の剥離が生じ、及び/又は、光学部材が構造的に脆弱であるならば、光学部材の割れが生ずる。
本発明者は、異種材料からなる光学部材をオプティカルコンタクトして形成される光学素子構造の耐環境性(主として、耐熱性)を向上させるための技術を詳細に研究した。本発明者は、本実施形態において説明される如く、オプティカルコンタクト面の外周に凹部又は切欠部を形成し、凹部又は切欠部に配設された封止部材を用いて接合面の縁部を覆うことによって、高い耐環境性を有する光学素子構造が形成されることを見出した。
本実施形態の原理に従うと、材料に依存することなく、複数の光学部材を含むオプティカルコンタクト組立体が作成される。本実施形態の原理は、材料及び光学部材の選択性を拡げ、様々な光学素子の作成に有利に応用される。
以下、本実施形態の光学素子が説明される。図28は、本実施形態に従って、異種材料を用いて形成された光学部材をオプティカルコンタクトして作成された光学素子の斜視図である。図29は、図28に示される断面Aを概略的に示す。
光学素子600は、第1光学部材610と、第2光学部材620と、を備える。第1光学部材610及び第2光学部材620は、オプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640が形成される。本実施形態において、第1光学部材610として、Nd:YVO4からなるレーザ結晶が例示され、第2光学部材620として、MgO:LN結晶が例示される。代替的に、第1光学部材及び第2光学部材が異なる材料から形成されるならば、第1光学部材及び第2光学部材は、他の材料から形成されてもよい。
光学素子600は、封止部材630を備える。封止部材630は、紫外線硬化樹脂を用いて形成される。第2光学部材620は、MgO:LN結晶の一部を切り欠いて形成された切欠部621を含む(図29参照)。封止部材630は、切欠部621に配設される。
図28及び図29に示される如く、第1光学部材610及び第2光学部材620は、オプティカルコンタクトプロセスにより、樹脂といった接着剤層の介在なしに、オプティカルコンタクト面640にて接合される。第1光学部材610は、第2光学部材620に接合される第1主面612を含む。第2光学部材620は、第1光学部材610の第1主面612に接合され、オプティカルコンタクト面640を形成する第2主面622を含む。第1主面612及び第2主面622は、少なくとも部分的に光学研磨(鏡面研磨)される。第2主面622は、第1主面612に水素結合により分子レベルで結合し、第2光学部材620は、第1光学部材610に吸着する。
第2光学部材620の第2主面622と接するMgO:LN結晶の一部には、段差加工が施与され、第2主面622の外周部を取り囲む切欠部621が形成される。オプティカルコンタクト面640に隣接する切欠部621が形成された部分において、第1光学部材610及び第2光学部材620は接触していない。封止部材630に用いられる紫外線硬化樹脂は、切欠部621に充填される。この結果、オプティカルコンタクト面640の外縁を覆い、オプティカルコンタクト面640を封止する封止部材630が形成される。本実施形態において、第2光学部材620に切欠部621が形成される。代替的に、第1光学部材に切欠部が形成されてもよい。また、切欠部に代えて、第1光学部材及び/又は第2光学部材には、封止部材が配設される凹部が形成されてもよい。
本実施形態において、第1光学部材610として用いられるレーザ結晶(Nd:YVO4結晶)及び第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶はともに、一軸性の異方性結晶である。図28に示される如く、第1光学部材610として用いられるレーザ結晶のC軸及び第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶のC軸(即ち、Z軸)はともに、オプティカルコンタクト面640に対して平行である。また、第1光学部材610として用いられるレーザ結晶のC軸及び第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶のC軸は、略同一方向に向いている(即ち、これらのC軸は略平行である)。
図28及び図29に示される光学素子600の作成のために、第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶に切欠部621が形成される。切欠部621は、様々な手法を用いて形成されてもよい。本実施形態において、切欠部621の形成には、ダイシング加工が用いられている。
第2光学部材620は、オプティカルコンタクト状態にされる第2主面622に加えて、第2主面622と反対側の出射端面623を含む。第2光学部材620の第2主面622及び出射端面623はともに鏡面研磨される。第2光学部材620は、第2主面622と出射端面623との間での高平行度(第2主面622と出射端面623との間の1mmの厚さに対して、例えば、0.1ミクロン以下)が保たれた結晶基板である。
第2光学部材620に対し、ダイシング溝が形成され、オプティカルコンタクト状態にされる正方形又は長方形の第2主面622(数100ミクロン×数100ミクロン〜数mm×数mm)が形成される。ダイシング溝の幅(w)(光伝搬方向に平行な第2光学部材620の側面から第2主面622の外縁までの距離)は、例えば、0.2〜1mm程度である。第2主面622からの段差(第1光学部材610と第2光学部材620との離間距離を規定する深さ(d))は、10〜300ミクロン程度である。代替的に、ダイシング溝の深さ(d)は、1ミクロン以上500ミクロン以下の範囲に設定されてもよい。
ダイシング溝のうち第2主面622と接する部分を残しつつ、第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶が完全に切断される。かくして、切欠部621を含むブロック状の第2光学部材620(MgO:LN結晶)が形成される。
第1光学部材610は、オプティカルコンタクト状態にされる第1主面612に加えて、第1主面612と反対側の入射端面613を含む。第1光学部材610の第1主面612及び入射端面613はともに鏡面研磨される。第1光学部材610は、第1主面612と入射端面613との間での高平行度(第1主面612と入射端面613との間の1mmの厚さに対して、例えば、0.1ミクロン以下)が保たれた結晶基板である。
第1光学部材610として用いられるレーザ結晶は、ダイシングによってブロック状に切断され、第2主面622よりも大きな第1主面612を備える第1光学部材610が形成される。尚、第1光学部材610の外形状は、第2光学部材620の外形状と略等しい。
その後、第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622は、親水性処理される。第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622は、例えば、アセトンを用いて、超音波洗浄される。その後、第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622は、約60〜70℃に昇温されたアンモニア水:過酸化水素水:純水=1:1:6の混合溶液(以下、アンモニア過水と称される)に15分以上浸される。更にその後、純水でリンス処理がなされた後、第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622に対し、乾燥処理が行われる。
乾燥処理の後、第1光学部材610として用いられるレーザ結晶の結晶軸及び第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶の結晶軸の方向が一致するように、第1光学部材610の第1主面612は、第2光学部材620の第2主面622に接触される。その後、第1主面612及び第2主面622はわずかに加圧され、第1主面612及び第2主面622間の吸着がなされる。かくして、オプティカルコンタクト面640が形成される。
オプティカルコンタクト面640の外縁を取り囲むように形成された切欠部621に、封止部材630として用いられる紫外線硬化樹脂が塗布並びに充填される。この結果、封止部材630は、オプティカルコンタクト面640の外縁と外気とを実質的に遮断する。その後、数10ミリジュール程度の紫外線が紫外線硬化樹脂に照射される。この結果、紫外線硬化樹脂が硬化し、封止部材630となる。このようにして、本実施形態にしたがう複数の光学部材を含むオプティカルコンタクト組立体(一体化光学素子)が作製される。
本実施形態は、オプティカルコンタクト面640の外縁に沿って形成された切欠部621と切欠部621に設けられた封止部材630に特徴づけられる。以下に、切欠部621及び封止部材630がもたらす有利な効果が説明される。
本発明者は、Nd:YVO4結晶(第1光学部材610)とMgO:LN結晶(第2光学部材620)とを用いて、第1主面612及び第2主面622に対する親水性処理と、第1主面612と第2主面622とを吸着させる吸着工程とを行い、1mm×1mm〜15mm×15mm程度の異種材料間の面積(オプティカルコンタクト面の面積)を有する結晶基板のオプティカルコンタクト組立体を作製した。本発明者は、作成されたオプティカルコンタクト組立体の接合強度及び耐熱性といった耐環境性能を評価した。
一般に、面同士の貼り合わせや接合の接合強度(単純には、引張力に対して剥離が発生する割合)は、貼合面・接合面の面積の大きさに依存する。即ち、貼合面・接合面の面積が大きいほど、接合強度は大きくなる。
本発明者は、常温下で引張強度試験を行い、吸着された第1主面612及び第2主面622をそれぞれ有する異種材料部材から形成されたオプティカルコンタクト組立体(光学素子600)の接合強度が、オプティカルコンタクト面640の面積の増大に伴い増加することを確認した。
本発明者は更に、オプティカルコンタクト組立体(光学素子600)を作成する間において、第1主面612及び第2主面622間の吸着状態の形成の容易さも、オプティカルコンタクト面640の面積に依存することを確認した。大きいオプティカルコンタクト面640を有するオプティカルコンタクト組立体(光学素子600)が作成されるとき、比較的小さな加圧力の下、オプティカルコンタクト面640の全体的な吸着状態が容易に達成される。また、オプティカルコンタクト状態にされる第1光学部材610の第1主面612と第2光学部材620の第2主面622との間に数ミクロン程度の大きさの異物(コンタミネーション)が介在しても、異物の周辺部(数10ミクロンの領域)を除き、吸着状態が得られた。オプティカルコンタクト面640の面積が小さくなるにつれて、第1主面612と第2主面622との間の吸着を得るために必要とされる加圧力は増大した。また、オプティカルコンタクト状態にされる第1光学部材610の第1主面612と第2光学部材620の第2主面622との間における数ミクロン程度の大きさの異物の介在は、しばしば、第1主面612と第2主面622との間の吸着を阻害した。特に、オプティカルコンタクト面640が2mm×2mm以下の大きさになると、上述の傾向は顕著となり、第1光学部材610の第1主面612及び第2光学部材620の第2主面622の十分な洗浄・クリーニング並びに数kgf/cm2以上の加圧力が必要とされた。
本発明者は、吸着状態のオプティカルコンタクト面640に外部からのガスや水分が浸入したときの、オプティカルコンタクト面640の剥離の発生も調査した。本発明者は、異なるオプティカルコンタクト面640の面積を有する複数種のオプティカルコンタクト組立体を異種材料からなる結晶基板を用いて作成した。その後、本発明者は、オプティカルコンタクト組立体を純水に浸漬し、オプティカルコンタクト面640の外縁からの水の浸入に起因するオプティカルコンタクト面640の発生並びに進行を観察した。
観察の結果、オプティカルコンタクト面640の面積が小さいならば(例えば、3mm×3mm程度以下)、オプティカルコンタクト面640の全体に容易に剥離が生ずることが判明した。オプティカルコンタクト面640の面積が、10mm×10mm以上であるならば、オプティカルコンタクト面640の外縁近傍で剥離が生じたとしても、当該剥離がオプティカルコンタクト面640の全体に拡大するまでには、比較的長い時間が必要とされた。特に、外縁から約3mm以上離れたオプティカルコンタクト面640の中心領域の剥離はほとんど観察されなかった。
異種材料からなる光学部材(第1光学部材610及び第2光学部材620)がオプティカルコンタクト状態にされるとき、これらの部材間の熱膨張係数の差異がオプティカルコンタクト面640の剥離やこれら部材の割れといった不具合に大きく影響することが予想される。表1は、Nd:YVO4結晶(第1光学部材610)及びMgO:LN結晶(第2光学部材620)の物性値の比較を示す。尚、表1に示される物性値は、公知の値である。
表1中の格子定数の差異から、例えば、環境温度変化に対し、C軸方向においてMgO:LN結晶は、Nd:YVO4結晶の約1.5倍程度の膨張を示すことが分かる。したがって、常温でNd:YVO4結晶及びMgO:LN結晶が吸着されるならば、オプティカルコンタクト組立体(光学素子600)のオプティカルコンタクト面640には大きなストレスが加わることが予想される。
図30は、MgO:LN結晶のC軸方向及びNd:YVO4結晶のC軸方向における熱膨張係数の差異と、熱膨張係数の差異に起因する結晶の膨張量の差異との算出結果を概略的に示すグラフである。図30を参照すると、オプティカルコンタクト面640に加わるストレスが容易に理解される。
図30は、以下に示される2つの計算結果を示す。
(1)MgO:LN結晶及びNd:YVO4結晶の20℃での格子定数(単位結晶格子の長さ)を1としたときにおける20℃から1000℃までの環境温度変化に対する格子定数変化。
(2)基準点(常温で吸着されたMgO:LN結晶及びNd:YVO4結晶によって形成されたオプティカルコンタクト面640中の任意の一点)からC軸に沿って100μm離れたMgO:LN結晶及びNd:YVO4結晶の表面(第1主面612及び第2主面622)上の点が、〜1000℃までの環境温度変化に対して膨張するときの膨張量の差。
図30に示される算出結果から、温度上昇とともにオプティカルコンタクト面640に加わるストレス(水素結合による吸着状態を維持しようとする力及び結晶の熱膨張の差異により発生する応力)が大きくなり、オプティカルコンタクト面640の剥離が引き起こされるという結果が推察される。
本発明者は、図30に示される算出結果から、膨張量の差異が、数100℃の温度上昇に対して、数%程度にすぎないということに着目した。
図31は、MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板を示す。図31の上図は、常温で重ね合わされ、互いに吸着状態にあるMgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板を概略的に示す模式図である。図31の下図は、温度上昇時における貼り合わせ基板(MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板)の状態を概略的に示す模式図である。図31を用いて、熱膨張係数の差異に起因してオプティカルコンタクト面へのストレスを生じさせるC軸方向の膨張が説明される。
図31は、C軸方向の長さが約10mmのMgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板を例示する。図31に示されるオプティカルコンタクト面の中央の点Xは、基準点として示されている。のMgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板の外縁は、点Xから左右に5mm離間した位置に存する。図31において、Nd:YVO4結晶基板の外縁上の点は、点Yとして示され、MgO:LN結晶基板の外縁上の点は、点Y’として示されている。
MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板が常温で位置を調整された上、重ね合わせられると(吸着されていない状態)、図31の上図に示されるように、点Yと点Y’の位置は合致している。常温から200℃への環境温度に対する膨張量の差異は、100ミクロン当たりのC軸方向の長さに対して、1ミクロンであるので、MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板の温度が、200℃となったとき、点Y及び点Y’の間には、約50ミクロンの位置ズレが発生する。
MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板が常温で吸着されたとき、当該吸着状態が維持されるためには、上述の位置ズレを相殺するための応力が必要とされる。
図31には、基準点(点X)から約2mm左右に離間した位置に点Z及び点Z’が示されている。点Zは、Nd:YVO4結晶基板上の点であり、点Z’は、MgO:LN結晶基板上の点である。Nd:YVO4結晶基板及びMgO:LN結晶基板の温度が200℃となったとき、点Zと点Z’との位置ズレは、約10ミクロンだけである。したがって、吸着されたMgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板に加わる「点Z−点Z’」に加わる応力は、「点Y−点Y’」に較べて小さくなる。即ち、オプティカルコンタクト面に作用する応力は、接合された部材(MgO:LN結晶基板及びNd:YVO4結晶基板)間の膨張率の差ではなく、膨張変位量の差に依存するので、膨張変位量の差が大きいほど応力ストレスが大きくなる。
本発明者は、上記の考察に基づき、小さな面積のオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体の方が、大きな面積のオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体の方が、同一の環境温度の変化の下、オプティカルコンタクト面に作用するストレスが小さくなるので、熱変動による剥離発生の確率が小さくなるとの仮説を導き出した。
本発明者は、上記の仮説を検証するため、上述された様々な大きさのオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体をオーブン内に入れ、環境温度による剥離は割れの発生を観察した。
吸着状態にあるオプティカルコンタクト組立体(サンプル)は、アルミ製のシャーレに載置され、オーブン内に配設された。オーブン内の温度は、室温から所望の温度度(60℃〜200℃)まで2℃/分の昇温速度にて上昇された。その後、オーブン内の温度は、所望の温度にて、20分維持され、更にその後、2℃/分程度の降温速度にて室温まで戻された。その後、オーブンからサンプルが取り出され、オプティカルコンタクト面が顕微鏡観察された。
上述の試験の結果、オプティカルコンタクト面の面積が大きいほど、剥離や割れが発生する発生温度が低いことが判明した。特に、10mm×10mm以上の面積を有するオプティカルコンタクト面の剥離は、概ね70〜75℃の試験温度から得られたサンプルで観察された。また、試験温度が約100℃を超えると、オプティカルコンタクト面の面積が10mm×10mm以上であるならば、オプティカルコンタクト状態にされる第1主面612(図29参照)での割れが多発した。5mm×5mm以下程度の面積のオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体の剥離発生温度は、約90〜110℃程度であった。特に、2mm×2mm以下の面積のオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体の剥離発生温度は、約120〜130℃程度であった。
上述の結果から、本発明者は、オプティカルコンタクト面の面積を小さくする(即ち、オプティカルコンタクトされる部材(第1光学部材610及び第2光学部材620)間の熱膨張量の差を小さくする)ことにより、オプティカルコンタクト面において剥離や割れが発生する発生温度を上昇させることができるとの知見を得た。本発明者は、当該知見に基づき、環境温度の変化に耐えるためのオプティカルコンタクト組立体の特性の向上に成功した。
上述の如く、異種材料からなる部材を含むオプティカルコンタクト組立体の接合強度を向上させるための条件と、熱変動に対するオプティカルコンタクト面の耐剥離性及び割れ発生の低減に対する条件とは、相反する方向性を有する。即ち、接合強度の向上並びにガスや水分の浸入に起因する剥離の抑制といった観点からは、大きな面積のオプティカルコンタクト面が好ましい。一方、熱変動に起因するオプティカルコンタクト面の剥離や割れの低減といった観点からは、小さな面積のオプティカルコンタクト面が好ましい。
本発明者は、異種材料から形成された複数の光学部材を備えるオプティカルコンタクト組立体のオプティカルコンタクト面の外縁に隣接して形成された凹部又は切欠部と、当該凹部又は切欠部にオプティカルコンタクト面の外縁を覆う封止部材と、を案出した。本実施形態の原理を特徴づける凹部又は切欠部並びに封止部材は、以下の効果を奏する。
(1)オプティカルコンタクト面の接合力(水素結合による吸着状態を形成する力)だけでなく、封止部材を用いて光学部材同士が接着されるので、光学部材間の接合強度が補強・向上される。
(2)オプティカルコンタクト面の外周に隣接して凹部又は切欠部が形成されるので、オプティカルコンタクト面の面積が低減される。この結果、上述された熱変動に起因するオプティカルコンタクト面の剥離・割れが低減される。
(3)オプティカルコンタクト面の外縁を覆う封止部材は、オプティカルコンタクト面を外部雰囲気から遮断し、封止状態を作り出す。したがって、ガスや水分の浸入は好適に抑制され、オプティカルコンタクト面の剥離の可能性が低減される。この結果、光学素子の長期間に亘る信頼性並びに耐環境性が大幅に向上される。
図28及び図29に示される如く、本実施形態の原理に従って形成された光学素子600のオプティカルコンタクト面640は、レーザ光の透過を許容する。接着剤といった中間層を介することなく形成されたオプティカルコンタクト面640によって、第1光学部材610及び第2光学部材620が密着固定される。したがって、接着剤といった中間層を用いて貼り合わせられた光学部材を備える光学素子と異なり、レーザ光の照射に起因する中間層の劣化及び中間層の劣化に伴う光吸収・散乱といった不具合は、原理的に発生しない。
図28及び図29に関連して説明された光学素子600の第1主面612と第2主面622との間には空気層は存在しない。したがって、図28及び図29に示される光伝搬に対して、オプティカルコンタクト面640において光が感じる屈折率段差は、第1光学部材610の屈折率n1と第2光学部材620の屈折率n2との差Δn=|n1−n2|となる。例えば、光学素子600内を伝搬する波長1064nmのレーザ光がオプティカルコンタクト面640に対して垂直に入射されるならば、第1光学部材610(レーザ結晶)に対する異常光屈折率は、ne1(@1064nm)=2.1652であり、第2光学部材620(MgO:LN結晶)異常光屈折率は、ne2(@1064nm)=2.15であるので、Δne=|ne1−ne2|≒0.015となる。
屈折率段差によるフレネル反射率RはR={(n1−n2)÷(n1+n2)}2で表される。したがって、上述のオプティカルコンタクト面640におけるフレネル反射は高々0.012%となる。このフレネル反射は、多くの光学的用途に対して、第1光学部材610と第2光学部材620とのオプティカルコンタクト面640に反射防止膜を形成する必要がないほど小さい。
したがって、近似する屈折率を有する光学部材を、オプティカルコンタクト技術を用いて一体化し、機能性光学素子が作成されるならば、光学部材間のオプティカルコンタクト面での反射防止膜の形成が不要となる。
図32は、図28及び図29に関連して説明された光学素子600が組み込まれた共振器型の波長変換レーザ光源を例示する。図32に示されるレーザ光源に組み込まれた光学素子にレーザ光が透過される。光学素子600は、第1実施形態に従う光学素子140と同様に、レーザ結晶と波長変換素子とを含むオプティカルコンタクト組立体である。図28、図29及び図32を用いて、レーザ光源が説明される。
レーザ光源700は、光学素子600を備える。光学素子600は、第1光学部材610と、第2光学部材620とを備える。第1光学部材610は、Nd:YVO4からなるレーザ結晶である。また、第2光学部材620は、MgO:LN結晶である。第1光学部材610は、第1主面612と、第1主面612と反対側の入射端面613とを含む。第2光学部材620は、第2主面622と、第2主面622と反対側の出射端面623とを含む。第1主面612及び第2主面622はオプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640が形成される。
光学素子600は、封止部材630を更に備える。封止部材630は、紫外線硬化樹脂から形成される。第2光学部材620に用いられるMgO:LN結晶の一部が切り欠かれ、切欠部621が形成される。封止部材630は、切欠部621に配設される。
レーザ光源700は、レーザ結晶(第1光学部材610)を励起するための励起用半導体レーザ装置(以下、ポンプLD710と称される)と、ポンプLD710から出射された励起レーザ光をレーザ結晶(第1光学部材610)に集光するための集光レンズ720と、光学素子600、ポンプLD710及び集光レンズ720が固定されるマウント730と、を更に備える。本実施形態において、ポンプLD710は、励起光源として例示される。
第2光学部材620として用いられるMgO:LN結晶には、周期状の分極反転構造が形成される。所望の基本波レーザ光が入射されると、第2光学部材620は、基本波波長に対して半分の波長を持つ第2高調波(Second Harmonic Generation: 以下、SHGと称される)を発生する。例えば、上述の、周期状の分極反転構造の周期が、入射される基本波の光軸方向に約7ミクロン程度に設定されるならば、波長1064nmの基本波は、波長532nmの緑色光に波長変換される。このような機能性光学素子は、一般的に、波長変換素子と呼ばれる(特に、SHG光への波長変換を行う素子は、SHG素子と称される)。尚、高平行度が得られるように研磨加工されたレーザ結晶(第1光学部材610)及びMgO:LN結晶(第2光学部材620)を用いてオプティカルコンタクト組立体(光学素子600)が形成されると、第1光学部材610の入射端面613(集光レンズ720側の端面)と第2光学部材620の出射端面623(第1光学部材610とオプティカルコンタクトする第2主面622と反対側の端面)は、略平行な位置関係になる。
第1光学部材610及び第2光学部材620には、必要に応じて、反射防止膜や高反射膜が成膜されてもよい。特に、第1光学部材610の入射端面613には、808nmの波長のレーザ光に対する反射防止特性(例えば、1%以下の反射率)と、1064nmの波長のレーザ光に対する高反射特性(例えば、99.5%以上の反射率)、更には532nmの波長のレーザ光に対する高反射特性(例えば、96%以上の反射率)といった反射透過特性を満たす誘電体多層膜が成膜される。第2光学部材620の出射端面623には1064nmの波長のレーザ光に対する高反射特性(例えば、99.5%以上の反射率)及び532nmの波長のレーザ光に対する反射防止特性(例えば、96%以上の反射率)の特性を示す誘電体多層膜が成膜されている。
ポンプLD710は、波長808nmの励起レーザ光を出射する。集光レンズ720は、励起レーザ光をレーザ結晶(第1光学部材610)に集光する。上述の如く、第1光学部材610の入射端面613に設けられた膜の808nm光に対する反射防止特性により、励起レーザ光は、ほとんど損失することなく、レーザ結晶(第1光学部材610)に照射される。高いパワー密度で集光された励起レーザ光は、レーザ結晶(第1光学部材610)内で吸収された後、1064nmの基本波レーザ光(以下、基本波と称される)として放出される。
平行配置された第2光学部材620の出射端面623の高反射特性膜と第1光学部材610の入射端面613の高反射特性膜とにより、第1光学部材610及び第2光学部材620は、1064nm光に対する共振器構造をなす。したがって、レーザ結晶(第1光学部材610)で放出された波長1064nmの基本波は、共振モードで発振する。共振モードの基本波は、共振器(光学素子600)内部で増幅される。この結果、共振器内部パワーとしては数kWレベルの高パワーレーザ光が生成される。このような高パワーの基本波がMgO:LN結晶(第2光学部材620)に照射され、高い波長変換効率で、波長532nmのSHGが得られる。
共振器(光学素子600)内部の基本波は、図32において右方向に向かう光と、左方向に向かう光とを含む。したがって、発生するSHGも同様に、二方向の成分を含む。しかしながら、第1光学部材610の入射端面613に形成された膜の532nmの波長の光に対する高反射特性により、集光レンズ720に向かうSHG出力は抑えられる。かくして、発生したSHG光の殆どは、第2光学部材620の出射端面623より取り出される。
本実施形態にしたがう光学素子600を用いて、図32に示されるような非常にコンパクトな波長変換レーザ光源(レーザ光源700)が形成される。特に、上述された異種材料からなる複数の光学部材(レーザ結晶(第1光学部材610)及びMgO:LN結晶(第2光学部材620))のオプティカルコンタクト組立体(光学素子600)のオプティカルコンタクト面640の外周に隣接して切欠部621が形成され、更に、オプティカルコンタクト面640の外縁を覆う封止部材630(紫外線硬化樹脂)が切欠部621に充填配置される。この結果、光学素子600の接合強度の向上、オプティカルコンタクト面640の面積の低減並びに封止部材630(紫外線硬化樹脂)による外部からのガスや水分の浸入防止が達成される。かくして、信頼性の高い波長変換レーザ光源(レーザ光源700)が好適に形成される。
本実施形態において、2つの異種材料から形成された光学部材(第1光学部材610及び第2光学部材620)のうち一方に切欠部621が形成されている。代替的に、両方の光学部材に切欠部が形成されてもよい。
本実施形態において、第2光学部材620及び/又は第1光学部材610の側面(分極反転領域と垂直に交わる面)に、好ましくは、導電性材料が接触される。この結果、第1実施形態乃至第7実施形態と同様に、第2光学部材620からのチャージの除去及び/又は第1光学部材610からの放熱が適切になされる。
(第8実施形態)
図33は、オプティカルコンタクトされる前の第1光学部材及び第2光学部材を概略的に示す斜視図である。図34は、オプティカルコンタクトされた第1光学部材及び第2光学部材を備える光学素子の斜視図である。図35は、図34に示される断面Bを概略的に示す。図33乃至図35を用いて、第8実施形態にしたがう光学素子が説明される。第7実施形態と同様の要素には、同様の符号が付される。また、これらの要素には、第7実施形態での説明が援用される。
光学素子600Aは、第1光学部材610Aと、第2光学部材620と、を含む。図33に示されるように、第1光学部材610Aは、第1主面612Aと、第1主面612Aと反対側の入射端面613と、を含む。第2光学部材620は、第2主面622と、第2主面622と反対側の出射端面623と、を含む。第1主面612A及び第2主面622はオプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640Aを形成する(図34及び図35参照)。
光学素子600Aには、オプティカルコンタクト面640Aに隣接する切欠部621Aが形成される。切欠部621Aは、第1光学部材610A及び第2光学部材620の両方に切欠加工を使用して形成される。光学素子600Aは、切欠部621Aに配設された封止部材630Aを更に備える。封止部材630Aは、オプティカルコンタクト面640Aの外縁を覆う。
封止部材630Aは、第1光学部材610A及び第2光学部材620の双方を跨ぐ切欠部621Aに充填されるので、第1光学部材610A又は第2光学部材620と封止部材630Aとの境界を辿り、オプティカルコンタクト面640Aに到達するまでのガスや水分の経路が長くなる。したがって、本実施形態の光学素子600Aは、ガスや水分の浸入に対する高い耐性を有することとなる。
(第9実施形態)
図36は、封止部材が配設される領域内に分散されたオプティカルコンタクト領域を備える光学素子の概略的な斜視図である。図37は、図36に示される断面Cを概略的に示す。本実施形態において、オプティカルコンタクト面の周囲において、例えば、光学部材(第1光学部材及び/又は第2光学部材)に、特殊な切欠部或いは凹部を形成するためのフォトリソグラフィ工程およびドライエッチング工程が施与され、柱状又は板状の構造体が形成される。その後、第1光学部材及び第2光学部材のオプティカルコンタクトプロセスが実行される。この結果、封止部材が配設される領域内で分散された複数のオプティカルコンタクト領域が形成される。第7実施形態と同様の要素には、同様の符号が付される。また、これらの要素には、第7実施形態での説明が援用される。
光学素子600Bは、第1光学部材610Bと第2光学部材620Bとを備える。第1光学部材610B及び第2光学部材620Bはオプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640が形成される。光学素子600Bは、オプティカルコンタクト面640の外縁を覆う封止部材630Bを更に備える。
第2光学部材620Bには、切欠部621Bが形成される。切欠部621Bは、第2光学部材620Bの一部に、例えば、フォトリソグラフィ工程およびドライエッチング工程といった形状加工を施与することにより形成される。この結果、切欠部621の領域内に分散されたオプティカルコンタクト領域が形成される。
切欠部621内に分散されたオプティカルコンタクト領域によって、例えば、封止部材630Bの充填量が低減される。
第7実施形態に関連して説明された光学素子600の場合、光学素子600の外形寸法(オプティカルコンタクト面640に沿った光学素子の断面積、又は、任意の径方向におけるオプティカルコンタクト面640の断面積に光学素子600の切欠部621の幅寸法を加えた寸法)に対して、レーザ光を透過させるオプティカルコンタクト面640の寸法(オプティカルコンタクト面640の面積)が小さいならば、封止部材630が硬化するときの収縮或いは膨張に起因して、切欠部621において光学部材(第1光学部材610及び/又は第2光学部材620)に加わる引張応力又は膨張応力が過度に大きくなる。過度に大きな引張応力又は膨張応力は、オプティカルコンタクト面640に不要な力を生じさせ、第1光学部材610と第2光学部材620との間の吸着状態の劣化や剥離を潜在的に引き起こす。
本実施形態に従う光学素子600Bの場合、オプティカルコンタクト面640の周囲の切欠部621B内に分散された複数のオプティカルコンタクト領域によって、封止部材630Bの充填量が低減される。したがって、上述のオプティカルコンタクト面640に加わる不必要な力は低減される。かくして、オプティカルコンタクト面640における剥離や、第1光学部材610B及び第2光学部材620Bの位置ズレが発生しにくくなる。
第7実施形態乃至第9実施形態において、第1光学部材610,610A,610Bとして、Nd:YVO4結晶(レーザ結晶)が例示される。固体レーザ結晶としては、Nd:YVO4やNd:GdVO4が好ましい。これらの固体レーザ結晶中のNdのドープ量が高くされると、吸収係数が増大する。光の伝搬軸方向に対して短い距離で励起レーザ光が吸収され、基本波が発信されるので、小型のマイクロチップレーザ装置が提供される。
Nd:YVO4やNd:GdVO4が第1光学部材610,610A,610Bに用いられると、固体レーザの励起効率が結晶軸に対して異方性を有するので、単一偏光でレーザ発振がなされる点において有利である。特に、本実施形態において例示された非線形光学結晶による波長変換は、偏光依存性を有するので、単一偏光での発振は、変換効率の大幅な向上をもたらす。周期状の分極反転構造を有する結晶の複屈折の光軸及び位相整合の光軸は一致しているので、温度による偏光の変化が少なくなる。また、単一偏光のレーザ結晶が組み合わられると、変換効率が向上し、偏光の安定化が達成される。尚、Nd:YVO4結晶に比べて、Nd:GdVO4結晶の熱膨張係数は、MgO:LN結晶の熱膨張係数により近いため、非線形光学結晶及びレーザ結晶がオプティカルコンタクトされるならば、結晶の温度変化に起因して生ずるオプティカルコンタクト面の歪みが小さくなる。このため、外部の環境温度変化に対して安定した接合状態が維持される。
第1光学部材として、GdScGa系、YScGa系やYAG系といったセラミックレーザ媒質が用いられてもよい。これらのレーザ媒質が、上記のレーザ結晶と同様に用いられてもよい。例えば、オプティカルコンタクトされたこれらのレーザ媒質及び波長変換素子である強誘電体結晶を備える光学素子やこの光学素子を備える波長変換レーザ光源が作製されてもよい。調合・成形・焼成といったセラミックプロセスは、結晶引上げに比べて量産性に優れているので、セラミックレーザ媒質は、レーザ結晶に比べて非常に低コストで作製される点で有利である。特に、ファインセラミックスと呼ばれる機能性セラミックは光学的用途に多く用いられており有用である。
封止部材がオプティカルコンタクト面の外縁を覆うためには、切欠部又は凹部の深さ(図29に示される寸法「d」(オプティカルコンタクト面からの段差))は、1ミクロン程度で十分である。したがって、フォトリソグラフィとドライエッチングとを用いて、切欠部又は凹部が形成されてもよい。切欠部又は凹部の形成に、フォトリソグラフィ及びドライエッチングが用いられるならば、オプティカルコンタクト面の形状及び大きさは精密に制御される。また、ダイシング加工に比べて、フォトリソグラフィ及びドライエッチングは大面積の堀込み加工を可能にするので、切欠部又は凹部の形成のための工程が削減される点において、フォトリソグラフィ及びドライエッチングは有利である。
封止部材は、上述の如く、オプティカルコンタクト面の外縁と外部雰囲気とを遮断する効果をもたらす。封止部材のこの重要な役割・効果は、オプティカルコンタクト面の外縁と外部雰囲気との実質的な距離に大きく影響される。
本発明者は、切欠部若しくは凹部の深さ(図29に示される寸法「d」(オプティカルコンタクト面からの段差))を変動させたサンプルと、切欠部若しくは凹部の幅(図29に示される寸法「w」(オプティカルコンタクト面からの封止部材の外周縁までの距離))とを変動させたサンプルとを用いて、オプティカルコンタクト面の外縁と外部雰囲気との実質的な距離の変動の影響(遮断効果に与える影響)を調査した。
上記の調査の結果、封止部材によるオプティカルコンタクト面と外部雰囲気との遮断効果は、切欠部又は凹部の深さ及び幅の一方に依存するのではなく、封止部材と光学部材との境界面を辿ってオプティカルコンタクト面に達するまでの実質的な距離が大きいほど遮断効果が大きくなる傾向が明らかとなった。上述の実質的な距離が、500ミクロン以上であり、封止部材が十分に充填・硬化されている状態であるならば、実用上問題のないレベルで外部からのガスや水分の浸入が長時間防止された。
第7実施形態乃至第9実施形態において、封止部材として、紫外線硬化樹脂が例示される。光学素子の使用環境に応じて、様々な特性を有する紫外線硬化樹脂が選択可能である点において、紫外線硬化樹脂から形成された封止部材は有利である。例えば、粘度、硬化後の屈折率、耐熱性や耐薬品性といった様々な要求に応じて、適切な紫外線硬化樹脂が選択される。代替的に、光学素子に用いられる封止部材として、紫外線硬化樹脂に代えて、例えば、熱硬化性樹脂が用いられてもよい。
封止部材として、珪酸ナトリウム(Na2SiO3)又は珪酸ナトリウムをゲル化したケイ酸が用いられてもよい。高濃度の珪酸ナトリウム水溶液は、一般的に、水ガラスとして知られる水飴状の高粘度の液体である。高濃度の珪酸ナトリウム水溶液が、水に溶かされ、適度な粘度にされる。その後、適当な粘度の珪酸ナトリウム水溶液は、オプティカルコンタクト面の外周縁を覆うように、封止部材が配置される光学素子の切欠部に塗布される。その後、ピペットといった適切な器具が用いられ、適量の希塩酸が珪酸ナトリウム水溶液に加えられる。この結果、珪酸ナトリウムと塩酸との化学反応が生じ、珪酸ナトリウムはゲル化し(流動性のない非晶質の状態になり)、ケイ酸(H2SiO3)となる。このようにゲル化したケイ酸が封止部材として用いられると、オプティカルコンタクト面へのガスや水分の浸入が適切に防止される。また、ゲル化によって、光学部材同士が強固に接着固定され、耐加工性や耐熱変動性が向上する。また、ゲル化したケイ酸は、樹脂系の封止部材よりも高い硬度を有する非晶質体(ガラスと似た特性)となるため、例えば、ダイシング加工の際にダイシングブレードの目詰まりが発生しにくくなる。したがって、光学部材と同一のブレードを用いて切断加工がなされてもよい。
尚、封止部材による接着効果を高めるために、封止部材が配置される切欠部又は凹部の加工表面は、好ましくは、鏡面ではなく、凹凸面に形成される。この結果、封止部材と光学部材との接触面積が実質的に増大し、接着効果が大きくなる。
本発明者の研究によると、封止部材として紫外線硬化樹脂が用いられるならば、10ミクロン以上の表面粗さ(Ra)に切欠部又は凹部が形成されると、封止部材の接着力が向上する。
本発明者は、2mm×2mm程度の外形寸法を有する光学素子に、1.2mm×1.2mmのオプティカルコンタクト面を形成した(即ち、オプティカルコンタクト面の外周縁から光学部材の最外周面までの距離が約400ミクロン程度となるように切欠部又は凹部が形成された)。オプティカルコンタクト面からの最大段差量(d)が500ミクロン程度の切欠部に対して、幅10〜50ミクロン程度、高さが100ミクロン程度以上の微細な凹凸が形成された。このとき、上述の接着力の向上効果が顕著に現れた。また、上記構造においては、封止部材と光学部材との境界を辿ってオプティカルコンタクト面の外周縁に達するまでの距離が大きくなるため、外部雰囲気中のガスや水分のオプティカルコンタクト面への浸入が適切に防止された。
上述の説明において、紫外線硬化樹脂が封止部材として用いられている。代替的に、封止部材は、他の誘電体薄膜(例えば、SiO2から形成された薄膜)を用いて形成されてもよい。
(第10実施形態)
オプティカルコンタクト面と外部雰囲気とを遮断する封止部材の配設のための手法として、上述の一連の実施形態で説明されたような切欠部や凹部(オプティカルコンタクト面の外縁に隣接して形成された切欠部や凹部)を形成することなしにオプティカルコンタクト組立体を作成し、オプティカルコンタクト組立体のオプティカルコンタクト面の外縁に沿って封止部材が配設されることが考えられる。この場合、封止部材は、第1光学部材及び/又は第2光学部材の最外部よりも外方にはみ出る。このような形状の光学素子が、例えば、図32に示されるマウント730の平面部に配置固定されるならば、封止部材はマウント730の平面部に干渉し、光学部材は水平に配置されにくくなる。したがって、第1光学部材及び/又は第2光学部材の最外部よりも外方にはみ出た封止部材との干渉を避けるための凹部の加工といった対策がマウント730に施される必要がある。
図38A乃至図39Cは、第1光学部材及び/又は第2光学部材の最外部よりも外方にはみ出た封止部材に関連する不具合を解消するための形状を有する光学素子を例示する。図38A乃至図39Cはともに、オプティカルコンタクトされた2つの光学部材を備える光学素子を示す。2つの光学部材はともに、少なくとも1つの平坦な外面を含む。この平坦な外面とオプティカルコンタクト面の両方に接するように切欠部が形成される。加えて、光学素子は、オプティカルコンタクト面の外縁を覆う封止部材を備える。封止部材は、切欠部に接していないオプティカルコンタクト面の外縁も覆う。図38A乃至図39Cに示される光学素子の構造は、第7実施形態乃至第9実施形態に関連して説明された利点・効果に加えて、平坦な外面が光学素子が実装されるときの基準面として用いられるという効果をもたらす。光学素子のオプティカルコンタクト面の形状は、円形や矩形であってもよい。或いは、光学素子のオプティカルコンタクト面の形状は、円を直線で切り取った略半円形状であってもよく、多角形状であってもよい。このように、本実施形態において、光学素子のオプティカルコンタクト面は様々な形状であってもよいが、本実施形態は、光学部材の外周面が少なくとも1つの平坦な面を含むことに特徴づけられる。
図38A乃至図38Cは、略半円形状の断面を有する2つの光学部材を備える光学素子を概略的に示す。図38Aは、オプティカルコンタクト状態にされた2つの光学部材を備える光学素子の概略的な斜視図である。図38Bは、図38A中の断面Dを概略的に示す。図38Cは、図38A中の矢印の方向から見た光学素子を示す。
図38A乃至図38Cに示される光学素子600Cは、第1光学部材610Cと、第2光学部材620Cと、を備える。第1光学部材610C及び第2光学部材620Cはともに、略半円柱形状に形成される。第1光学部材610Cは、略平坦な底面615と第2光学部材620Cにオプティカルコンタクト状態にされる第1主面612Cと、を含む。また、第2光学部材620Cは、略平坦な底面625と、第1主面612Cにオプティカルコンタクトされる第2主面622Cと、を含む。第1光学部材610Cの底面615及び第2光学部材620Cの底面625が略面一となるように、第1光学部材610Cの第1主面612C及び第2光学部材620Cの第2主面622Cは接合され、オプティカルコンタクト面640Cが形成される。第1主面612C及び第2主面622Cは、略同形同大に形成される。
光学素子600Cは、オプティカルコンタクト面640Cの外縁を覆う封止部材630Cを更に備える。第2光学部材620Cには、切欠部621Cが形成される。切欠部621Cは、底面615,625及びオプティカルコンタクト面640Cに隣接するように、第2光学部材620Cの一部を切り欠いて形成される。封止部材630Cは、オプティカルコンタクト面640Cの下縁から底面615,625に至るまでの領域を占める切欠部621Cだけでなく第1光学部材610C及び第2光学部材620Cの湾曲面に配設される。
図39A乃至図39Cは、オプティカルコンタクト面を形成する主面の大きさが異なる2つの光学素子を備える光学素子を概略的に示す。図39Aは、オプティカルコンタクトされたテーパ形状の光学部材及び直方体形状の光学部材を備える光学素子の概略的な斜視図である。図39Bは、図39A中の断面Eを概略的に示す。図39Cは、図39A中の矢印の方向から見た光学素子を示す。
図39A乃至図39Cに示される光学素子600Dは、第1光学部材610Dと、第2光学部材620Dと、を備える。第1光学部材610Dは、第2光学部材620Dに向けて狭まる(即ち、光の伝搬方向に向けて狭まる)テーパ状の6面体である。また、第2光学部材620Dは、直方体である。
第1光学部材610Dは、略平坦な底面615Dと第2光学部材620Dにオプティカルコンタクトされる第1主面612Dと、を含む。また、第2光学部材620Dは、略平坦な底面625Dと、第1主面612Dにオプティカルコンタクトされる第2主面622Dと、を含む。第1光学部材610Dの底面615D及び第2光学部材620Dの底面625Dが略面一となるように、第1光学部材610Dの第1主面612D及び第2光学部材620Dの第2主面622Dは接合され、オプティカルコンタクト面640Dが形成される。このとき、オプティカルコンタクト面640Dに対し、底面615D,625Dは略直角である。
光学素子600Dは、オプティカルコンタクト面640Dの外縁を覆う封止部材630Dを更に備える。第1光学部材610Dには、切欠部621Dが形成される。切欠部621Dは、底面615D,625D及びオプティカルコンタクト面640Dに隣接するように、第1光学部材610Dの一部を切り欠いて形成される。封止部材630Dは、オプティカルコンタクト面640Dの下縁から底面615D,625Dに至るまでの領域を占める切欠部621Dだけでなく第1光学部材610Dと第2光学部材620Dとで形成される角隅部に沿って配設される。
第7実施形態乃至第10実施形態において、異種材料からなる光学部材を備えるオプティカルコンタクト組立体として、レーザ結晶と波長変換素子とを備える光学素子及び当該光学素子を備える波長変換レーザ光源が例示される。これら一連の実施形態に係る原理は、他の光学素子(例えば、レーザ結晶と電気光学効果を示す非線形光学結晶とが組み合わされた変調器一体型レーザ光源、セラミックレーザと電極を備えるTeO2といった音響光学素子とが組み合わされた光強度変調器一体型レーザ光源や、電圧印加によるレンズ効果や回折効果を示す複数の光学素子が組み合わされた光回路素子といった様々な光学素子)に適用されてもよい。
(第11実施形態)
上述の第7実施形態乃至第10実施形態において、異種材料から形成されたオプティカルコンタクト組立体として、Nd:YVO4結晶(レーザ結晶)とMgO:LN結晶(非線形光学結晶)とのオプティカルコンタクト組立体並びに当該オプティカルコンタクト組立体を用いた共振器構造を備える波長変換レーザ光源が例示されている。本実施形態において、オプティカルコンタクト組立体のオプティカルコンタクト面は、レーザ光の横モード制御を行うための光学窓として用いられる。本実施形態の原理は、所望の大きさ・形状のオプティカルコンタクト面を用いて、共振モードとして成立する横モードの制御がなされる点に特徴づけられる。
図40及び図41は、本実施形態の光学素子を例示する。図40及び図41に示される光学素子は、オプティカルコンタクト状態にされた固体レーザ媒質と共振器ミラーとを備えた光学結晶を含む共振器型の固体レーザ光源に適用される。
図40は、光学窓として機能するオプティカルコンタクト面を備える光学素子を概略的に示す斜視図である。図41は、図40に示される断面Fを概略的に示す。第7実施形態と同様の要素には、同様の符号が付される。また、これらの要素には、第7実施形態での説明が援用される。
光学素子600Eは、第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶と、第2光学部材620Eとして用いられるMgO:LN結晶と、を備える。第1光学部材610Eは、第2光学部材620Eにオプティカルコンタクトされる第1主面612Eと、第1主面612Eと反対側の入射端面613と、を含む。第2光学部材620Eは、第1主面612Eにオプティカルコンタクトされる第2主面622Eと、第2主面622Eと反対側の出射端面623と、を含む。第1主面612E及び第2主面622Eは、オプティカルコンタクト状態にされ、オプティカルコンタクト面640Eを形成する。
第2光学部材620Eには、MgO:LN結晶の一部を切り欠いて形成された切欠部621が形成される。光学素子600Eは、切欠部621に配設された封止部材630を更に備える。封止部材630は、オプティカルコンタクト面640Eの外縁を覆う。光学素子600Eは、第7実施形態に関連して説明された加工プロセスにしたがって作成可能である。
本実施形態において、光学素子600Eの入射端面613(第1光学素子(レーザ結晶)の第1主面612Eと反対側の端面)から波長808nmの励起用レーザ光が入射される。その後、第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶において励起された波長1064nmのレーザ光は、オプティカルコンタクト面640Eを通じて、第2光学部材620Eに伝搬する。更にその後、波長1064nmのレーザ光は、第2光学部材620Eとして用いられるMgO:LN結晶の出射端面623(第2光学部材620Eの第2主面622Eと反対側の端面)で反射される。更に、波長1064nmのレーザ光は、第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶の入射端面613で再度反射される。かくして、光学素子内で、共振モードの発振が生ずる。
上述の共振モードの発振が達成されるために、第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶の入射端面613には、波長1064nmのレーザ光に対する高反射特性(例えば、99.8%以上の反射率)を示す誘電体多層膜といった反射膜が成膜される。また、第2光学部材620Eとして用いられるMgO:LN結晶の出射端面623にも、波長1064nmのレーザ光に対する高反射特性(例えば、99.8%以上の反射率)を示す誘電体多層膜といった反射膜が成膜される。
例えば、高出力の励起用半導体レーザといった光源からレーザ光が第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶に入射される。この結果、第1光学部材610E内での光吸収及びエネルギ準位に応じた波長のレーザ光の放出が生ずる。例えば、レーザ結晶として、Nd:YVO4結晶が用いられ、ポンプ光として波長808nmの励起レーザ光が用いられると、Nd:YVO4結晶からは波長1064nmの光が放出される。この時、励起レーザとして半導体レーザを用いられるならば、ポンプ光ビームのプロファイル(横モード)は楕円状となる。また、Nd:YVO4結晶の照射領域(即ち、レーザ励起領域の断面形状)も楕円形状となる。この結果、励起される1064nmの波長の光の横モードも楕円形状となる。
第1光学部材610Eとして用いられるレーザ結晶内での808nm光から1064nm光への変換は、モード結合(モードカップリング、単にカップリングとも言う)により成立する。808nmの波長の光と1064nmの波長の光とのカップリングにおいて、例えば、808nmの波長の光のシングルモードから1064nmの波長の光のマルチモードへのカップリング効率が優位になるときに励起される1064nm光は、横モードマルチとなる。このことは、出力ビームの利用の点において様々な不都合を引き起こす。例えば、波長532nmのSHGを得るために、波長1064nmのレーザ光が波長変換素子に入射されるならば、シングルモードに比べて、変換効率が大きく低下する。横モードマルチのビームは、ビーム品質の指標である所謂M2(エムスクウェア)が大きいので、集光特性が悪い。例えば、MEMSデバイスを備える走査型のディスプレイ装置への利用は、制限されることになる。
このような共振器構成におけるビーム横モードのシングル化に関して、マルチモードに対する損失を与えるために、共振器内に光学窓(例えば、アパーチャ)を設けることが提案されている。しかしながら、小型の光学部材が組み合わされ、コンパクトな共振器が構成される場合には、例えば、光学部材間にアパーチャを挿入するための構造が必要とされる。したがって、部品点数の増大、アパーチャの挿入位置に関する制御の必要性やアパーチャの固定の不安定性といった様々な課題が生ずる。
上述の課題に関し、本実施形態において、光学素子のオプティカルコンタクト面の形状及び大きさの制御を通じ、光学素子内を通過するレーザ光の横モードが制御される。上述の如く、本実施形態では、オプティカルコンタクトされた光学部材を用いて共振器が形成されること並びにオプティカルコンタクト面が光学窓として用いられることによって、構成部品数の削減並びに共振器構成の安定性が得られるだけでなく、光学窓の位置調整が不要となる。
上述の光学窓の形状及び大きさは、例えば、フォトリソグラフィやドライエッチングプロセスといった加工手法により、サブミクロン単位の精度で制御される。
本発明者は、図40及び図41に関連して説明された光学素子600Eに、波長808nmの励起レーザ光を実際に入射し、オプティカルコンタクト面640Eにおける1064nmレーザ光のビームスポットを観察した。尚、オプティカルコンタクト面640Eは、集光位置とされた。また、集光位置でのビーム横モードの最大径が100μm程度となるように励起レーザ光は調整された。
図42A及び図42Bは、オプティカルコンタクト面640Eにおいて観察されたビームスポットの像を示す。図42Aは、直径φ1mmのオプティカルコンタクト面640E上で観察されたビームスポットの像を示す。図42Bは、直径φ300μmのオプティカルコンタクト面640E上で観察されたビームスポットの像を示す。
光学窓として機能しない大面積(φ1mm程度)のオプティカルコンタクト面640Eを有する光学素子600Eに対するビームスポットの観察結果によれば、オプティカルコンタクト面640EにおけるビームのM2は、単軸方向で1.39であり、長軸方向で2.3であった。本発明者は、オプティカルコンタクト面640Eの面積が異なる光学素子600Eを用いて、オプティカルコンタクト面640Eの光学窓としての作用を確認した。この結果、φ400μmのオプティカルコンタクト面640Eで観察されたビームのM2は、それぞれ単軸方向において1.07であり、長軸方向において1.58であり、大幅に改善された。更に、φ300μmのオプティカルコンタクト面640Eで観察されたビームのM2は、それぞれ単軸方向において1.01であり、長軸方向において1.04であった。したがって、φ300μmのオプティカルコンタクト面640E上で、略真円に近いビーム形状が観察された。本発明者は、更に、φ250μm以下のオプティカルコンタクト面640Eを有する光学素子600Eを用いた観察を行った。この観察の結果、本発明者は、φ250μm以下のオプティカルコンタクト面640Eでは、ビームの多くが光学窓によってはじかれ、実質的に1064nm光の励起効率が極端に低下することを確認した。したがって、オプティカルコンタクト面640Eの大きさは、オプティカルコンタクト面640Eにおけるビーム径の約3〜4倍程度に設定されることが好ましい。
(第12実施形態)
図43及び図44は、テーパ形状の光学部材を備える光学素子を示す。光学素子は、共振器として用いられ、第11実施形態と同様に、光学素子のオプティカルコンタクト面は、光学窓として機能する。
図43は、光学素子の概略的な斜視図である。図44は、図43中に示される断面Gを概略的に示す。図43及び図44を用いて、光学素子が説明される。第11実施形態と同様の要素には、同様の符号が付される。また、これらの要素には、第11実施形態での説明が援用される。
光学素子600Fは、第1光学部材610Fとして用いられるレーザ結晶と、第2光学部材620Fとして用いられるMgO:LN結晶と、を備える。第1光学部材610Fは、第2光学部材620Fにオプティカルコンタクトされる第1主面612Fと、第1主面612Fと反対側の入射端面613と、を含む。第2光学部材620Fは、第1主面612Fにオプティカルコンタクトされる第2主面622Fと、第2主面622Fと反対側の出射端面623と、を含む。第1主面612F及び第2主面622Fは、オプティカルコンタクトされ、オプティカルコンタクト面640Fを形成する。第2主面622Fは、第1主面612Fよりも広い。したがって、第1光学部材610Fの周壁(入射端面613と第1主面612Fとの間で延びる傾斜した壁部)と第2主面622Fとの間で角隅部が形成される。光学素子600Fは、角隅部に配設された封止部材630Fを更に備える。封止部材630Fは、第1主面612Fと第2主面622Fとにより形成されたオプティカルコンタクト面640Fの外縁を封止する。
第1光学部材610Fとして用いられるレーザ結晶には、形状加工が施与され、切欠部621Fが形成される。入射端面613から第1主面612Fに亘って行われる形状加工を通じて、第1光学部材610Fは、テーパ形状に形成され、第2光学部材620Fに向けて徐々に狭まっている。したがって、入射端面613から入射した光の光軸に対して略垂直な第1光学部材610Fの断面は、光軸に沿って変化する。テーパ状に形成された第1光学部材610Fに対して、第2光学部材620Fは、略直方体である。第2光学部材620Fとして用いられるMgO:LN結晶の第2主面622Fは、第1光学部材610Fとして用いられるレーザ結晶の第1主面612Fよりも広い。第1光学部材610Fとして用いられるレーザ結晶の第1主面612F及びテーパ状に形成されたレーザ結晶の周壁の形状及び大きさは、第1主面612F及び周壁がレーザ光に対する光学窓として実質的に機能するように制御される。テーパ形状加工において設定されるテーパ角度(即ち、第1光学部材610Fとして用いられる光伝搬方向の長さ、第1主面612Fの断面形状及び入射端面613の断面形状によって決定される第1光学部材610Fの周壁面それぞれの傾斜角度)は、使用されるレーザ光波長や光学部材の特性や光学素子600Fへのビームの入射条件といった光学的な条件に応じて適切に設定される。
第1光学部材610Fに対するテーパ加工は、ダイシング、研磨やエッチングといった様々な加工プロセスにより行われてもよい。尚、テーパ形状に加工された面の状態(例えば、面粗さ)は、使用される光ビームに対する損失を増減させるので、テーパ形状に加工された面の状態が適切に制御され、不要な横モードが効率的に除去されてもよい。図44に示される光学素子600Fのオプティカルコンタクト面640Fの形状及び大きさが適切に制御され、光学素子600F内を通過するレーザ光の横モード制御が達成される。光学部材(第1光学部材610F,第2光学部材620F)がオプティカルコンタクト状態にされ共振器が構成され、且つ、オプティカルコンタクト面640Fが光学窓として用いられるので、構成部品数が削減されるとともに共振器構成の安定性が得られる。更に、光学窓の位置調整はほとんど必要とされない。
(第13実施形態)
本実施形態では、第7実施形態に関連して説明された光学素子の作成に係る量産性並びに光学素子の実装に関する有利な特徴が説明される。
第7実施形態に関連して説明されたように、光学素子の作成時において、小片化された光学部材が用意される。光学部材に切欠加工が施された後、親水性処理とオプティカルコンタクト面の形成(第1主面と第2主面との貼り合わせ)が行われる。その後、封止部材の塗布並びに硬化がなされる。このような小片の光学部材のオプティカルコンタクトの工程における不利な点が以下に示される。
(1)オプティカルコンタクト組立体を作成するときの吸着状態の形成の容易性は、接合面の面積に依存する。大きいオプティカルコンタクト面を有するオプティカルコンタクト組立体は、比較的小さな加圧力で容易にオプティカルコンタクト面全体に亘る吸着状態が形成される一方で、オプティカルコンタクト面の面積が小さくなるにつれて、吸着状態を形成するために必要とされる加圧力は大きくなる。
(2)オプティカルコンタクトされる光学部材の表面間に数ミクロン程度の大きさの異物が存在するならば、吸着状態が形成されにくい。したがって、オプティカルコンタクトされる光学部材の表面の十分な洗浄・クリーニングが必要とされる。
上述の不都合な傾向は、特に、2mm×2mm以下の面積のオプティカルコンタクト面を有する小片の光学部材を用いてオプティカルコンタクト組立体が形成されるときに顕著となる。
本発明者は、上述の課題を解決するために、大面積のオプティカルコンタクト面を有する光学部材をオプティカルコンタクトした後、微少な面積のオプティカルコンタクト面を有する光学素子を容易に形成する方法について研究した。本発明者は、以下に示される工程を経て、上述の第7実施形態及び第11実施形態に関連して説明された光学素子を作成した。以下に、本発明者が用いた工程が説明される。
(1)オプティカルコンタクト状態にされる光学部材の大面積の主面に対し、ダイシング加工やドライエッチングといった加工技術を用いて、溝構造(幅:W1)が形成される。このとき、溝構造の少なくとも一部は、光学部材の主面の外縁まで到達するように、ダイシング加工やドライエッチングが行われる。
(2)溝形成された光学部材の主面に対して、親水性処理が行われる。その後、溝形成された光学部材の主面は、他の光学部材とオプティカルコンタクトされ(光学部材間での吸着状態が形成され)、オプティカルコンタクト面が形成される。
(3)上述の溝構造によって光学部材間に形成されたギャップ(空隙)に封止部材が充填される。封止部材は、その後、硬化される。
(4)上述の溝幅W1より小さなブレード幅W2のダイシングブレードといった工具を用いて、封止部材が小片化され、光学素子が形成される。尚、封止部材の一部は、オプティカルコンタクト面の外縁を覆った状態を保っている。
上述の光学素子の作成工程と、第7実施形態及び第11実施形態に関連して説明された光学素子の構造(即ち、オプティカルコンタクト面の外縁に隣接して凹部又は切欠部が形成され、当該凹部又は切欠部に配設された封止部材がオプティカルコンタクト面の外縁を覆う構造)と、を用いて、小片化された光学部材を備えるオプティカルコンタクト組立体の作成に係る課題が好適に解決される。
図45A乃至図45Eは、光学素子を作成するための工程を概略的に示す。図45乃至図45Eに示される工程を通じて、Nd:YVO4結晶(レーザ結晶)及びMgO:LN結晶(非線形光学結晶)が、オプティカルコンタクト状態にされ、光学素子が形成される。
図45Aは、第1光学部材に溝を形成する工程を概略的に示す。図45Bは、溝形成後の第1光学部材(図45Aの工程を経た第1光学部材)と第2光学部材とをオプティカルコンタクトする(貼り合わせる)工程を概略的に示す。図45Cは、吸着状態にあるオプティカルコンタクト組立体の溝形成部分(空隙)に封止部材を充填並びに硬化する工程を概略的に示す。図45Dは、封止部材が充填された溝形成部分に沿って、ダイシングを用いて、光学素子を切り出すための工程を概略的に示す。図45Eは、小片化された光学素子の斜視図である。
図45Aは、第1光学部材810として用いられるレーザ結晶910(Nd:YVO4結晶)と、レーザ結晶910の表面に形成された溝構造921を示す。尚、溝構造921が形成されたレーザ結晶910の表面は、第1主面812として、オプティカルコンタクト面840の形成に用いられる。また、第1主面812と反対側のレーザ結晶910の表面は入射端面813として用いられる。
図45Bは、溝構造921が形成されたレーザ結晶910に加えて、第2光学部材820として用いられるMgO:LN結晶920を示す。図45Bにおいて、レーザ結晶910の第1主面812と対向するMgO:LN結晶920の表面は、第2主面822として用いられる。第2主面822と反対側のMgO:LN結晶920の表面は、出射端面823として用いられる。第1主面812及び第2主面822はオプティカルコンタクト状態にされ、図45Eに示されるオプティカルコンタクト面840が形成される。
図45Cは、溝構造921が形成されたレーザ結晶910及びMgO:LN結晶920に加えて、溝構造921とMgO:LN結晶920の第2主面822とによって形成された空隙に充填並びに硬化された封止部材830を示す。以下に、詳細な作成プロセス並びに作成プロセスの特徴が説明される。
図45Aに示される如く、厚さ2mm、面積12mm×12mm、a−軸カットのレーザ結晶910が用意される。レーザ結晶910の主面(上面及び下面)は、鏡面研磨されている。レーザ結晶910の主面(上面及び下面)のうち一方の面は、オプティカルコンタクトされる第1主面812として用いられる。他方の面は、入射端面813として用いられる。第1主面812として用いられるレーザ結晶910の第1主面812に対し、ダイシングを用いて、溝構造921が形成される。溝構造921の形成に、例えば、300ミクロン程度のダイシングブレード幅を有するダイシングが用いられてもよい。溝構造921中の溝のピッチは、例えば、1.2mmに設定されてもよい。また、溝の幅は、400〜700ミクロン程度であってもよい。溝の深さは、30ミクロン程度であってもよい。このような溝構造921の形成によって、図45Eに示される小片化された光学素子800のオプティカルコンタクト面840は、500ミクロン×500ミクロン程度〜800ミクロン×800ミクロン程度の矩形となる。また、図45Eに示される光学素子800の外形断面寸法は約1mm×1mm程度となる。
溝構造921が形成されたレーザ結晶910に対して、十分な有機洗浄が行われ、溝構造921の加工に用いられた樹脂接着剤や他の汚れ成分が除去される。その後、レーザ結晶910及びMgO:LN結晶920の基板(厚さ0.5mm、面積12mm×12mm、Xカット板)に対して、親水性処理が行われる。親水性処理は、第7実施形態に関連して説明された処理と同様である。
図45Bに示される如く、溝構造921が形成されたレーザ結晶910の第1主面812及びMgO:LN結晶920のオプティカルコンタクトすべき主面(即ち、第2主面822)が、オプティカルコンタクトされる。レーザ結晶910の第1主面812とMgO:LN結晶920の第2主面822との貼り合わせの間、レーザ結晶910の結晶軸(C軸)及びMgO:LN結晶920の結晶軸が平行となるように、レーザ結晶910の基板及びMgO:LN結晶920の基板の方向が調整される。
レーザ結晶910に形成された溝構造921によって区画されたオプティカルコンタクト面840の面積は、500μm×500μm程度〜800μm×800μm程度であり、非常に小さいが、貼り合わせ基板(レーザ結晶910及びMgO:LN結晶920)全体の面積は、12mm×12mmであり、第1主面812と第2主面822との吸着(オプティカルコンタクト状態)は比較的容易に達成される。本発明者は、上述の貼り合わせ工程を通じて、吸着状態の形成の容易性は、個々の区画されたオプティカルコンタクト面の面積にのみ依存するのではなく、オプティカルコンタクト組立体の形成に用いられる光学部材(レーザ結晶910及びMgO:LN結晶920)全体の面積にも依存することを確認した。オプティカルコンタクト組立体の形成に用いられる光学部材(レーザ結晶910及びMgO:LN結晶920)全体の面積が大きくなると、比較的容易に吸着状態が形成されるという傾向は、本発明者によって、初めて明らかにした特徴である。
図46は、上述の工程を経て得られたオプティカルコンタクト組立体の実態顕微鏡画像を示す。図46の画像は、出射端面823として用いられるMgO:LN結晶920の表面側からオプティカルコンタクト面840を撮像した写真である。図46のセクション(a)に示されるオプティカルコンタクト面840は、500μm×500μmの寸法を有する。図46のセクション(b)に示されるオプティカルコンタクト面840は、800μm×800μmの寸法を有する。
図46中、明るい矩形部分は、レーザ結晶910とMgO:LN結晶920とによって形成されたオプティカルコンタクト面840を表す。図46中、暗い格子形状部分は、溝構造921及びMgO:LN結晶920によって形成された空隙を表す。
オプティカルコンタクト面840における虹色の干渉縞は、オプティカルコンタクト面840における吸着状態の形成不良を意味するが、図46において、オプティカルコンタクト面840での干渉縞は観察されない。したがって、上述の工程を経て、良好な吸着状態がオプティカルコンタクト面840で形成されていることが分かる。
オプティカルコンタクト面840における良好な吸着状態の形成の後、溝構造921及びMgO:LN結晶920によって形成された空隙に、封止部材830として、紫外線硬化樹脂が充填され、その後、硬化される。本実施形態において、様々な種類の紫外線硬化樹脂が適用可能である。本発明者は、epotek社製の低粘度のOG146(40cp)と、ケミテック社製の比較的高粘度のU1541K(60000cp)を使用した。
粘度の差異は、充填速度の差異に帰結するけれども、両樹脂材料ともに、溝構造921とMgO:LN結晶920とにより形成された空隙に適切に充填された。また、両樹脂材料ともに、〜2000mJ/cm2程度の紫外線照射量で硬化された。本発明者は、両樹脂材料に対して、樹脂が硬化するときの収縮に起因する充填不良を観察しなかった。
樹脂の充填・硬化の後、図45Dに示されるダイシング加工を通じて、オプティカルコンタクト組立体が小片化される。小片化の差異に用いられるダイシングのブレード幅は、封止部材830が充填された溝構造921の幅(400〜700μm)よりも薄い。本発明者は、オプティカルコンタクト組立体を小片化するために、150ミクロン幅のダイシングブレード幅を使用した。
オプティカルコンタクト組立体が小片化されると、図45Eに示される光学素子800が形成される。空隙に充填された封止部材830は、小片化後も、オプティカルコンタクト面840の外縁を覆っている。ダイシング加工時のブレード幅を含めた切除幅は、180ミクロン程度であるので、オプティカルコンタクト面840の外縁からダイシング部分までの幅(形成された溝構造921の幅に応じて、約100〜約500ミクロン程度の幅)の領域に封止部材830は残存する。
図47は、上述のダイシング加工を通じて小片化されたオプティカルコンタクト組立体の実態顕微鏡による観察像を示す。
図47に示される観察像によれば、ダイシング加工の間において、封止部材830が充填された領域及びオプティカルコンタクト面840への水の浸入やダイシングブレードからオプティカルコンタクト組立体に加わる機械的ストレスに起因するオプティカルコンタクト面840の剥離は観察されない。したがって、図47の観察像から、最終的に、約1mm×1mm入出射面と2.5mmの長さとを有する小片化された光学素子800が好適に形成されたことが分かる。
上述の如く、本実施形態に従う加工工程を通じて、小片化されたオプティカルコンタクト組立体の形成における課題(即ち、オプティカルコンタクト時の吸着状態の形成の容易性の確保に関する課題)は、適切に解決される。また、充填された紫外線硬化樹脂(封止部材830)は、オプティカルコンタクト面840への水やガスの浸入を抑制する。更に、充填された紫外線硬化樹脂(封止部材830)は、オプティカルコンタクト組立体の接合強度を増大させるので、ダイシング加工時の機械的ストレスに対するオプティカルコンタクト組立体の耐性を増大する。かくして、小片化されたオプティカルコンタクト組立体の形成工程において、実用的な効果も得られる。
本実施形態の加工工程は、第7実施形態及び/又は第11実施形態に示される構造の光学素子に専ら適用可能である。第7実施形態及び/又は第11実施形態に示される構造の光学素子は、本実施形態の加工工程を通じて、容易且つ効率的に作成される。
本実施形態において、光学素子800を形成するために、レーザ結晶910にのみ溝構造921が形成されている。代替的に、MgO:LN結晶にのみ溝構造が形成されてもよい。或いは、光学素子800を構成する2つの光学部材の両方に溝構造が形成されてもよい。いずれの場合も、上述の同様の効果が得られる。
本実施形態において、封止部材830として、紫外線硬化樹脂が用いられる。代替的に、封止部材として熱硬化性の樹脂が用いられてもよい。熱硬化性樹脂が用いられても、同様の効果が得られる。尚、熱溶融性ワックスといった、加熱しながらの充填が要求される樹脂は、本実施形態の加工工程には不向きである。加熱しながらの充填が要求される樹脂が封止部材として用いられるならば、オプティカルコンタクトされる光学部材間の熱膨張の差異による反りは吸着状態の劣化が生ずる可能性がある。
第7実施形態に関連して説明された珪酸ナトリウム(Na2SiO3)又はゲル化された珪酸ナトリウムを含むケイ酸が封止部材として用いられてもよい。高濃度の珪酸ナトリウム水溶液は、水に溶かされ、適切な粘度に調整される。その後、珪酸ナトリウム水溶液は、上述の紫外線硬化樹脂と同様に、オプティカルコンタクト組立体の外縁に面した空隙部の開口部から充填される。更にその後、ピペットを用いて、希塩酸が上述の開口部周辺に適量加えられる。この結果、充填部(空隙部)の珪酸ナトリウムが硬化(ゲル化)したケイ酸が生成される。ゲル化によって、光学部材同士が、強固に接着固定される。この結果、オプティカルコンタクト組立体の耐加工性や耐熱変動性が向上する。また、生成されたケイ酸は、樹脂系の封止部材よりも硬度を有する非晶質体(ガラスと似た特性)となるので、例えば、ダイシング加工の際にダイシングブレードの目詰まりを発生させることが少ない。したがって、光学部材に用いられたものと同一のブレードを用いて、切断加工が行われてもよい。
(第14実施形態)
本実施形態において、上述の第1実施形態乃至第13実施形態に関連して説明された光学素子又は波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置が説明される。
図48は、レーザ光を光源とするレーザプロジェクタ(2次元変調素子として強誘電体LCOSを用いたレーザプロジェクタ)を示す。本実施形態において、レーザプロジェクタは、画像表示装置として例示される。
レーザプロジェクタ1000は、青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100gを備える。レーザプロジェクタ1000は、青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100gそれぞれに対応するコリメートレンズ1110b、1110r及び1110gを更に備える。青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100gから発せられたレーザ光は、コリメートレンズ1110b、1110r及び1110gによってそれぞれ平行光にコリメートされる。本実施形態において、青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び/又は緑色レーザ光源1100gは、上述の一連の実施形態に示された光学素子を備えるレーザ光源及び/又は上述の一連の実施形態に示された波長変換レーザ光源であってもよい。
レーザプロジェクタ1000は、コリメートレンズ1110b、1110r及び1110gによってコリメートされたレーザ光をそれぞれ反射するミラー1120b、1120r及び1120gを更に備える。ミラー1120b、1120r及び1120gはそれぞれ、青(波長400−460nm)、赤(波長600nm以上)及び緑(波長520−560nm)領域に反射特性を持つ誘電体多層ミラーである。ミラー1120gの直後で、青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100gのビームパスは同軸となるように、コリメートレンズ1110b、1110r及び1110g及びミラー1120b、1120r及び1120gが調整される。
レーザプロジェクタ1000は、ビームをスキャンするスキャンミラー1130を更に備える。図48において、スキャンミラー1130は、ミラー1120b、1120r及び1120gからのレーザ光を右方向に屈折させ、スキャンしている。
レーザプロジェクタ1000は、ビームを線状の輝線に整形するレンズ1140を更に備える。レンズ1140として、シリンドリカルレンズが用いられてもよい。
レーザプロジェクタ1000は、レンズ1150,1160及びレンズ1150,1160の間に配置された拡散板1170を更に備える。レンズ1150,1160は、一対のリレーレンズ・フィールドレンズである。拡散板1170は、レンズ1140(シリンドリカルレンズ)によって輝線に整形されたビームを、更に帯状にする。
レーザプロジェクタ1000は、偏光ビームスプリッタとして用いられるプリズム1180と、強誘電体液晶表示デバイス(LCOS1190)と、を更に備える。光の偏光方向の回転を通じて、LCOS1190のON・OFF制御がなされる。したがって、プリズム1180は、偏光ビームスプリッタとして機能する。
ビームは、スキャンミラー1130の前で合波される。その後、スキャンミラー1130によって光路を振られたビームは、S偏光でプリズム1180に入射される。プリズム1180内の反射膜は、S偏光で反射するように設計されている。したがって、S偏光の光は、LCOS1190を照明する。
レーザプロジェクタ1000は、投射レンズ1200と、スクリーン1210と、を更に備える。LCOS1190によって反射された光は、投射レンズ1200を通じて、スクリーン1210に投影される。
レーザプロジェクタ1000は、コントローラ1220を備える。コントローラ1220は、LCOS1190を駆動するための第1駆動回路1221と、レーザ光源(青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100g)及びスキャンミラー1130を駆動するための第2駆動回路1222と、レーザ電流源1223と、を備える。本実施形態において、第2駆動回路1222は、レーザ駆動回路として例示される。
ビデオ信号1224は、第1駆動回路1221に入力される。第1駆動回路1221は、その後、LCOS1190を駆動するためのLCOS駆動信号1225を生成する。LCOS駆動信号1225の1つとして生成されるV−SYNC信号1226は、トリガ信号として、第2駆動回路1222へ出力される。
第2駆動回路1222は、その後、V−SYNC信号1226に基づき、発光トリガ1227を生成並びに出力する。発光トリガ1227は、スキャンミラー1130の駆動波形と、レーザ光源(青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100g)の発光タイミングとを表す。発光トリガ1227は、レーザ電流源1223へ入力される。レーザ電流源1223は、発光トリガ1227に基づき、レーザ光源(青色レーザ光源1100b、赤色レーザ光源1100r及び緑色レーザ光源1100g)に電流を供給する。
上述の一連の動作及び制御を通じて、スクリーン1210上に画像が表示される。
(第15実施形態)
本実施形態において、上述の第1実施形態乃至第13実施形態に関連して説明された光学素子又は波長変換レーザ光源を用いた画像表示装置が説明される。
図49は、レーザ光を用いたヘッドアップディスプレイ装置を概略的に示す。本実施形態において、ヘッドアップディスプレイ装置は、画像表示装置として例示される。
ヘッドアップディスプレイ装置2000は、青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gを備える。ヘッドアップディスプレイ装置2000は、小型液晶パネル或いはデジタルミラーデバイス(DMD)といった2次元変調素子2110と、投射レンズ2120と、中間スクリーン2130と、折り返しミラー2140と、これらの要素を制御するためのコントローラ2150と、を更に備える。
青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gから発せられたレーザ光は、光学系(図示せず)を介して、合波・成型され、その後、2次元変調素子2110を照明する。2次元変調素子2110で変調された光は、投射レンズ2120を介して、中間スクリーン2130に投影される。この結果、中間スクリーン2130上で、描画がなされる。
ヘッドアップディスプレイ装置2000は、画像データが入力される入力ポート2160を更に備える。ヘッドアップディスプレイ装置2000を用いて表示される画像のデータは、入力ポート2160から電気信号として入力される。コントローラ2150は、画像データの信号を2次元変調素子2110の駆動信号に変換する。また、コントローラ2150は、画像データの信号に基づき、青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gの点灯タイミングを規定するタイミング信号を生成する。
コントローラ2150は、タイミング信号に連動して、青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gに必要な電流を供給し、青色レーザ光源2100b、赤色レーザ光源2100r及び緑色レーザ光源2100gを点灯させる。
上述の如く、中間スクリーン2130に描画された画像を表す表示光2170は、折り返しミラー2140によって、車両のフロントガラス2180上に取り付けられた反射ミラー2190に向けて反射される。反射ミラー2190は、更に、表示光2170をドライバ2200に向けて反射する。
この結果、フロントガラス2180越しに表示光2170により表された画像の虚像2210(図49中、点線で表される領域)を視認することができる。
上述の一連の動作及び制御を通じて、ヘッドアップディスプレイ装置2000はドライバ2200に画像を提供することができる。
第14実施形態及び第15実施形態に関連して説明された画像表示装置において、例えば、緑色レーザ光源1100g,2100gに、上述の第1実施形態乃至第13実施形態に関連して説明された光学素子及び/又は光学素子を備える波長変換レーザ光源の原理が適用されてもよい。この結果、光源は、幅広い温度範囲で長期間安定した出力を達成することができる。かくして、画像表示装置は、幅広い温度範囲で安定した輝度を保つことができる。
上述された実施形態は、以下の構成を主に備える。
上述の実施形態の一局面に係る波長変換レーザ光源は、基本波光を発生するための固体レーザ媒質と、前記基本波光を、前記基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する波長変換素子と、該波長変換素子に接する導電性材料と、を備え、該波長変換素子は、複数の分極反転領域が形成された分極反転構造と、前記分極反転領域と垂直に交わる第1側面と、を含み、前記導電性材料は、前記第1側面に接することを特徴とする。
上記構成によれば、固体レーザ媒質は、基本波光を発生する。波長変換素子は、基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する。波長変換素子は、複数の分極反転領域が形成された分極反転構造と、分極反転領域と垂直に交わる第1側面と、を含む。導電性材料は、第1側面に接するので、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記分極反転構造は、前記第1側面に露出し、前記導電性材料は、前記第1側面に露出した前記分極反転構造に直接的に接することが好ましい。
上記構成によれば、導電性材料は、第1側面に露出した分極反転構造に直接的に接するので、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記波長変換素子及び前記固体レーザ媒質は、オプティカルコンタクトされ、第1光学素子を形成し、前記固体レーザ媒質は、前記第1側面と連続する第2側面を含み、該第2側面は、前記導電性材料に接することが好ましい。
上記構成によれば、波長変換素子及び固体レーザ媒質は、オプティカルコンタクトされ、第1光学素子を形成する。固体レーザ媒質は、第1側面と連続する第2側面を含む。第2側面は、導電性材料に接するので、導電性材料は、固体レーザ媒質から放熱する。したがって、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記固体レーザ媒質が発するレーザ光の横モードを維持する第2光学素子を更に備え、前記第1光学素子及び前記第2光学素子は、オプティカルコンタクトされ、前記第2光学素子は、前記レーザ光が出射される出射部を含み、該出射部は、球面凸レンズ形状に形成されることが好ましい。
上記構成によれば、第1光学素子及び第2光学素子は、オプティカルコンタクトされる。第2光学素子は、レーザ光が出射される出射部を含む。出射部は、球面凸レンズ形状に形成され、固体レーザ媒質が発するレーザ光の横モードを維持することができる。
上記構成において、前記第2光学素子は、前記固体レーザ媒質の端面に接合されることが好ましい。
上記構成によれば、第2光学素子は、固体レーザ媒質の端面に接合されるので、波長変換効率が向上する。
上記構成において、前記第1側面は、前記波長変換素子の分極方向と平行であり、且つ、前記波長変換素子の結晶軸と交わる第1短絡面及び第2短絡面を含み、該第1短絡面及び前記第2短絡面は、互いに電気的に短絡されることが好ましい。
上記構成によれば、第1側面は、波長変換素子の分極方向と平行であり、且つ、波長変換素子の結晶軸と交わる第1短絡面及び第2短絡面を含む。第1短絡面及び第2短絡面は、互いに電気的に短絡されるので、波長変換素子内で発生したチャージが適切にキャンセルされる。したがって、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記導電性材料の抵抗率は、10×10−5Ω・cm以下であることが好ましい。
上記構成によれば、導電性材料の抵抗率は、10×10−5Ω・cm以下であるので、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記固体レーザ媒質は、前記波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、該接合面と反対側の対向面と、を含み、前記接合面の面積は、前記対向面の面積よりも大きいことが好ましい。
上記構成によれば、固体レーザ媒質は、波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、接合面と反対側の対向面と、を含む。接合面の面積は、対向面の面積よりも大きいので、固体レーザ媒質と波長変換素子との間の接合力は強くなる。また、対向面周囲における放熱が促されるので、長時間に亘って波長変換レーザ光源の出力が維持される。
上記構成において、前記固体レーザ媒質と前記波長変換素子との間の接合部を封止する封止部材を更に備え、前記固体レーザ媒質は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を含み、前記波長変換素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第2主面を含み、前記接合部は、前記第1主面及び前記第2主面が水素結合を介してオプティカルコンタクト状態にされたオプティカルコンタクト面を含み、該オプティカルコンタクト面は、前記レーザ光の透過を許容し、前記固体レーザ媒質及び前記波長変換素子のうち少なくとも一方には、前記オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成され、前記凹部又は前記切欠部に配設された前記封止部材は、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うことが好ましい。
上記構成によれば、封止部材は、固体レーザ媒質と波長変換素子との間の接合部を封止する。固体レーザ媒質は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を含む。波長変換素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第2主面を含む。接合部は、第1主面及び第2主面が水素結合を介してオプティカルコンタクト状態にされたオプティカルコンタクト面を含む。オプティカルコンタクト面は、レーザ光の透過を許容する。固体レーザ媒質及び波長変換素子のうち少なくとも一方には、オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成される。凹部又は切欠部は、オプティカルコンタクト面の面積を不必要に増大させないので、第1主面と第2主面との間のオプティカルコンタクトが比較的容易に達成される。凹部又は切欠部に配設された封止部材は、オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うので、オプティカルコンタクト面と外気との接触が適切に防止される。したがって、第1主面と第2主面との接合強度が長期間に亘って適切に維持される。
上述の実施形態の他の局面に係る光学素子は、基本波光を発生するための固体レーザ媒質と、前記基本波光を、前記基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する波長変換素子と、を備え、前記固体レーザ媒質は、前記波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、該接合面と反対側の対向面と、を含み、前記接合面の面積S1は、前記対向面の面積S2よりも大きいことを特徴とする。
上記構成によれば、固体レーザ媒質は、基本波光を発生する。波長変換素子は、基本波光よりも高い周波数の第2高調波光へ変換する。固体レーザ媒質は、波長変換素子にオプティカルコンタクト状態となっている接合面と、接合面と反対側の対向面と、を含む。接合面の面積S1は、対向面の面積S2よりも大きいので、固体レーザ媒質と波長変換素子との間の接合力は強くなる。また、対向面周囲における放熱が促されるので、長時間に亘って光学素子からの出力が維持される。
上記構成において、前記接合面の前記面積S1と前記対向面の面積S2との関係は、0.75×S1>S2の不等式で表されることが好ましい。
上記構成によれば、接合面の面積S1と対向面の面積S2との関係は、0.75×S1>S2の不等式で表されるので、対向面周囲における放熱が適切に行われる。
上記構成において、前記接合面の外縁を覆う封止部材を更に備え、該封止部材は、前記接合面の外気との接触を防止することが好ましい。
上記構成によれば、接合面の外縁を覆う封止部材は、接合面の外気との接触を防止するので、固体レーザ媒質と波長変換素子との接合が適切に維持される。
上記構成において、前記固体レーザ媒質及び前記波長変換素子は、前記接合面に対して垂直な面を含み、該垂直な面には、前記接合面の外縁に沿う突起部が形成され、該突起部は、前記固体レーザ媒質のc軸方向と平行であることが好ましい。
上記構成によれば、固体レーザ媒質及び前記波長変換素子は、前記接合面に対して垂直な面を含む。垂直な面には、接合面の外縁に沿う突起部が形成される。突起部は、固体レーザ媒質のc軸方向と平行であるので、使用者は、突起部に基づき、固体レーザ媒質のc軸方向を見極めることができる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、前記光を前記光学素子に集光する集光光学要素と、を備え、前記光学素子には、前記光の偏光方向に延びる突起部が形成されることを特徴とする。
上記構成によれば、集光光学要素は、励起光源からの光を上述の光学素子に集光する。光学素子には、光の偏光方向に延びる突起部が形成されるので、使用者は、突起部に基づき、光の偏光方向を見極めることができる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、前記光を前記光学素子に集光する集光光学要素と、を備え、前記光学素子は、レーザ光を出射する出射部を含み、前記固体レーザ媒質に添加されたレーザ活性物質の濃度は、前記励起光源から前記出射部に向けて低下することを特徴とする。
上記構成によれば、集光光学要素は、励起光源からの光を上述の光学素子に集光する。光学素子は、レーザ光を出射する出射部を含む。固体レーザ媒質に添加されたレーザ活性物質の濃度は、励起光源から出射部に向けて低下するので、励起光源からの光の波長変動に拘わらず、固体レーザ媒質は励起光源からの光を安定して吸収することができる。
上記構成において、出力が500mW以上で動作最高温度が40℃以上であることが好ましい。
上記構成によれば、比較的広い動作温度範囲の下、比較的高い出力が達成される。
上述の実施形態の更に他の局面に係る光学素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を有する第1光学部材と、前記第1主面に水素結合を介したオプティカルコンタクトされ、前記第1主面とともにレーザ光が透過可能なオプティカルコンタクト面を形成する第2主面を含む第2光学部材と、前記オプティカルコンタクト面を封止する封止部材と、を備え、前記第2主面は、少なくとも部分的に鏡面研磨され、前記第1光学部材及び該第1光学部材とは異なる物質から形成された前記第2光学部材のうち少なくとも一方には、前記オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成され、前記凹部又は切欠部に配設された前記封止部材は、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うことを特徴とする。
上記構成によれば、固体レーザ媒質は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第1主面を含む。波長変換素子は、少なくとも部分的に鏡面研磨された第2主面を含む。接合部は、第1主面及び第2主面が水素結合を介してオプティカルコンタクト状態にされたオプティカルコンタクト面を含む。オプティカルコンタクト面は、レーザ光の透過を許容する。固体レーザ媒質及び波長変換素子のうち少なくとも一方には、オプティカルコンタクト面の外縁に隣接する凹部又は切欠部が形成される。凹部又は切欠部は、オプティカルコンタクト面の面積を不必要に増大させないので、第1主面と第2主面との間のオプティカルコンタクトが比較的容易に達成される。凹部又は切欠部に配設された封止部材は、オプティカルコンタクト面の前記外縁を覆うので、オプティカルコンタクト面と外気との接触が適切に防止される。したがって、第1主面と第2主面との接合強度が長期間に亘って適切に維持される。
上記構成において、前記第1光学部材及び該第1光学部材に接合された第2光学部材は、少なくとも1つの平坦な面を形成し、前記凹部又は前記切欠部は、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁から前記平坦な面に至るまでの領域に形成されることが好ましい。
上記構成によれば、第1光学部材及び第1光学部材に接合された第2光学部材は、少なくとも1つの平坦な面を形成するので、光学素子は、比較的容易に実装される。また、凹部又は切欠部は、オプティカルコンタクト面の外縁から平坦な面に至るまでの領域に形成されるので、封止部材は、オプティカルコンタクト面と外気との接触を適切に防止する。したがって、第1主面と第2主面との接合強度が長期間に亘って適切に維持される。
上記構成において、前記オプティカルコンタクト面の前記外縁に隣接して配設された前記封止部材は、前記オプティカルコンタクト面の外気との接触を防止することが好ましい。
上記構成によれば、オプティカルコンタクト面の外縁に隣接して配設された封止部材は、オプティカルコンタクト面の外気との接触を防止することができる。
上記構成において、前記凹部又は切り欠き部は、前記第1光学部材と前記第2光学部材とを1ミクロン以上500ミクロン以下の寸法で離間させる深さ寸法を有することが好ましい。
上記構成によれば、封止部材は、オプティカルコンタクト面と、外気や水分との接触を防止することができる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備え、該光学素子の前記オプティカルコンタクト面は、前記光学素子を伝搬する前記光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能することを特徴とする。
上記構成によれば、波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備える。光学素子のオプティカルコンタクト面は、光学素子を伝搬する光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能する。したがって、比較的簡素な構成の波長レーザ光源を用いて、レーザ発振横モードの制御がなされる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る波長変換レーザ光源は、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備え、前記第1光学部材及び前記第2光学部材のうち少なくとも一方の形状は、前記光の伝搬方向に沿ってテーパ状に形成され、前記伝搬方向に垂直な前記光学部材の断面は、前記光学素子中を伝搬する前記光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能することを特徴とする。
上記構成によれば、光を発する励起光源と、上述の光学素子と、を備える。第1光学部材及び第2光学部材のうち少なくとも一方の形状は、光の伝搬方向に沿ってテーパ状に形成される。伝搬方向に垂直な光学部材の断面は、光学素子中を伝搬する光に対して、レーザ発振横モード制御を行う光学窓として機能する。したがって、比較的簡素な構成の波長レーザ光源を用いて、レーザ発振横モードの制御がなされる。
上述の実施形態の更に他の局面に係る画像表示装置は、光を発するレーザ光源と、前記レーザ光源に電流を供給するレーザ駆動回路と、前記光を変調し、画像を形成する変調素子と、前記変調素子から出射される光を反射する反射ミラーと、前記変調素子を駆動するコントローラと、を備え、前記レーザ光源は、上述の波長変換レーザ光源を含むことを特徴とする。
上記構成によれば、レーザ駆動回路が電流を供給すると、レーザ光源は光を発する。画像変調素子は、レーザ光源からの光を変調する。反射ミラーは、変調素子から出射される光を反射する。コントローラは、画像変調素子を駆動し、画像表示装置が表示する画像を制御する。レーザ光源は、上述の波長変換レーザ光源を含むので、長期間に亘って、高い出力を維持することができる。
上記構成において、前記波長変換素子は、MgO添加ニオブ酸リチウム、MgO添加タンタル酸リチウム、定比組成のMgO添加ニオブ酸リチウム、定比組成の添加タンタル酸リチウム及びリン酸チタニルカリウムからなる群から選択される材料から形成されることが好ましい。
上記構成によれば、波長変換効率に優れた波長変換素子が形成される。
上記構成において、前記封止部材は、紫外線硬化樹脂材料から形成されることが好ましい。
上記構成によれば、封止部材によって、オプティカルコンタクト面が簡便且つ適切に封止される。
上記構成において、前記封止部材は、珪酸ナトリウム(Na2SiO3)又は珪酸ナトリウムをゲル化したケイ酸(H2SiO3)からなる群から選択される材料から形成されることが好ましい。
上記構成によれば、封止部材によって、オプティカルコンタクト面が簡便且つ適切に封止される。
上記構成において、前記封止部材は、誘電体薄膜からなることが好ましい。
上記構成によれば、封止部材によって、オプティカルコンタクト面が簡便且つ適切に封止される。
上記構成において、前記第1光学部材は、YVO4、Nd(ネオジウム)ドープYVO4、GdVO4、NdドープGdVO4からなる群から選択されるレーザ結晶であり、前記第2光学部材が、電気光学効果、非線形光学効果又は音響光学効果のいずれかを有する誘電体結晶であることが好ましい。
上記構成において、電気光学効果、非線形光学効果又は音響光学効果が得られる。
上述の実施形態の原理にしたがって、オプティカルコンタクト型の波長変換光源において、横モードの変化に起因する緑色光の出力低下が適切に抑制される。かくして、小型且つピーク出力値1000mW以上の高い出力を発するレーザ光源装置が提供される。