JPWO2002090538A1 - 核酸を合成する方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、3’末端において互いに相補的な塩基配列を有し、5’末端において自身を構成する塩基配列の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、少なくとも2つの核酸を利用し、標的塩基配列を含む核酸を合成する方法に関する。本発明は、LAMP法用プライマーと、インサートプライマーを利用し、鋳型と鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼを等温でインキュベートすることで、容易に実施することができる。
Description
技術分野
本発明は、鋳型に対して相補的な塩基配列で構成される核酸を合成する方法に関する。
背景技術
核酸塩基配列の相補性に基づく分析方法は、遺伝的な特徴を直接的に分析することが可能である。そのため、遺伝的疾患、癌化、微生物の識別等には非常に有力な手段である。また遺伝子そのものを検出対象とするために、例えば培養のような時間と手間のかかる操作を省略できる場合もある。
とはいえ試料中に存在する目的の遺伝子量が少ない場合の検出は一般に容易ではなく、標的遺伝子そのものを、あるいは検出シグナル等を増幅することが必要となる。標的遺伝子を増幅する方法の一つとしてPolymerase Chain Reaction(PCR)法が知られている(Science,230,1350−1354,1985)。PCR法は、in vitroにおける核酸の増幅技術として現在最も一般的な方法である。その指数的な増幅効果に基づく高い感度により優れた検出方法として定着した。また、増幅生成物をDNAとして回収できることから、遺伝子クローニングや構造決定などの遺伝子工学的手法を支える重要なツールとして幅広く応用されている。しかしPCR法においては、実施のために特別な温度調節装置が必要なこと;増幅反応が指数的に進むことから定量性に問題があること;試料や反応液が外部からの汚染を受け、誤って混入した核酸が鋳型として機能してしまうコンタミネーションの影響を受け易いこと等の問題点が指摘されている。
ゲノム情報の蓄積に伴って、1塩基多型(SNPs;single nucleotide polymorphism)の解析が注目されている。プライマーの塩基配列にSNPsを含むように設計することによってPCRを利用したSNPsの検出が可能である。すなわち、反応生成物の有無によってプライマーに相補的な塩基配列の有無を知ることができる。しかしPCRにおいては、万が一誤って相補鎖合成が行われてしまった場合には、その生成物が以降の反応の鋳型として機能して誤った結果を与える原因となる。現実には、プライマーの末端における1塩基の相違のみでは、PCRを厳密に制御することは難しいといわれている。したがって、PCRをSNPsの検出に利用するには特異性の改善が必要とされている。
一方リガーゼに基づく核酸合成方法も実用化されている。LCR法(Ligase Chain Reaction,Laffler TG;Carrino JJ;Marshall RL;Ann.Biol.Clin.(Paris),1993,51:9,821−6)は、検出対象となる配列上において隣接する2つのプローブをハイブリダイズさせ、リガーゼによって両者を連結する反応が基本原理になっている。標的塩基配列が存在しない場合には2つのプローブを連結することはできないので、連結生成物の存在は標的塩基配列の指標となる。LCR法も合成した相補鎖と鋳型との分離に温度制御が必要となることから、PCR法と同じ問題点を伴っている。LCRについては、隣接するプローブの間にギャップを設け、これをDNAポリメラーゼで充填する工程を加え特異性を改善する方法も報告されている。しかし、この改良方法によって期待できるのは特異性のみであり、温度制御を要求する点については依然として課題を残している。しかも、必要な酵素が増えるため、コストを犠牲にしているといえる。
検出対象配列を鋳型として相補的な配列を持つDNAを増幅する方法には、Strand Displacement Amplification(SDA)法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,392−396;1992][Nucleic Acid.Res.,20,1691−1696;1992]と呼ばれる方法も知られている。SDA法は、ある塩基配列の3’側に相補的なプライマーを合成起点として相補鎖合成を行うときに、5’側に2本鎖の領域が有るとその鎖を置換しながら相補鎖の合成を行う特殊なDNAポリメラーゼを利用する方法である。なお以下本明細書において単に5’側、あるいは3’側と表現するときには、いずれも鋳型となっている方の鎖における方向を意味している。5’側の2本鎖部分が新たに合成された相補鎖によって置換(displacement)されることからSDA法と呼ばれている。SDA法では、プライマーとしてアニールさせた配列に予め制限酵素認識配列を挿入しておくことによって、PCR法においては必須となっている温度変化工程の省略を実現できる。すなわち、制限酵素によってもたらされるニックが相補鎖合成の起点となる3’−OH基を与え、そこから鎖置換合成を行うことによって先に合成された相補鎖が1本鎖として遊離して次の相補鎖合成の鋳型として再利用される。このようにSDA法はPCR法で必須となっていた複雑な温度制御を不要とした。
しかし、SDA法では鎖置換型のDNAポリメラーゼに加え、必ずニックをもたらす制限酵素を組み合わせる必要がある。必要な酵素が増えるということは、コストアップの要因である。また、用いる制限酵素によって2本鎖の切断ではなくニックの導入(すなわち一方の鎖だけの切断)を行うために、一方の鎖には酵素消化に耐性を持つように合成の際の基質としてαチオdNTPのようなdNTP誘導体を利用しなければならない。このため、SDAによる増幅産物は天然の核酸とは異なった構造となり、制限酵素による切断や、増幅産物の遺伝子クローニングへの応用といった利用は制限される。またこの点においてもコストアップの要因を伴っているといえる。加えて、未知の配列にSDA法を応用するときには、合成される領域の中にニック導入のための制限酵素認識配列と同じ塩基配列が存在する可能性を否定できない。このようなケースでは完全な相補鎖の合成が妨げられる心配がある。
DNA−RNAのキメラオリゴヌクレオチドを利用して、RNA部分を酵素的に除去することにより、3’−OH基を供給する方法も公知である。たとえばIsothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids(ICAN法、WO00/56877)と名付けられた核酸の合成方法においては、3’側がRNAで構成されたキメラオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる。相補鎖合成の後に、RNAseHの作用によってこのオリゴヌクレオチドのRNA部分が消化され、新たな3’−OH基が連続的に供給される。一連の反応は等温で進行させることができるとされている。しかし、プライマーに用いるオリゴヌクレオチドは、DNA−RNAキメラオリゴヌクレオチドでなければならない。また、RNAを除去するための酵素なども必要となるため、前述のSDA法と同様の問題点を有するといえる。
複雑な温度制御を不要とする核酸の増幅方法として、Nucleic Acid Sequence−based Amplification(NASBA、TMA/Transcription Mediated Amplification法とも呼ばれる)が公知である。NASBAは、標的RNAを鋳型としてT7プロモーターを付加したプローブでDNAポリメラーゼによるDNA合成を行い、これを更に第2のプローブで2本鎖とし、生成する2本鎖DNAを鋳型としてT7 RNAポリメラーゼによる転写を行わせて多量のRNAを増幅する反応系である(Nature,350,91−92,1991)。NASBAは2本鎖DNAを完成するまでにいくつかの加熱変性工程を要求するが、以降のT7 RNAポリメラーゼによる転写反応は等温で進行する。しかし、逆転写酵素、RNaseH、DNAポリメラーゼ、そしてT7 RNAポリメラーゼといった複数の酵素の組み合わせが必須となることから、SDAと同様にコストの面では不利である。また複数の酵素反応を行わせるための条件設定が複雑なので、一般的な分析方法として普及させることが難しい。このように公知の核酸増幅反応においては、複雑な温度制御の問題点、あるいは複数の酵素が必要となることといった課題が残されている。
更に、これらの公知の核酸合成反応について、特異性やコストを犠牲にすることなく核酸の合成効率を更に向上させる試みについては、ほとんど報告が無い。たとえば、Rolling−circle amplification(RCA)と呼ばれる方法では、標的塩基配列の存在下でパドロックプローブ(padlock probe)に相補的な塩基配列が連続した1本鎖のDNAを継続して合成できることが示された(Paul M.Lizardi et al,Nature Genetics 19,225−232,July,1998)。RCAでは、1本のオリゴヌクレオチドの5’末端と3’末端がLCRにおける隣接プローブを構成する特殊な構造のパドロックプローブが利用される。そして鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼを組み合わせることにより、標的塩基配列の存在下でライゲーションされ環化したパドロックプローブを鋳型とする連続的な相補鎖合成反応がトリガーされる。同じ塩基配列からなる領域が繰り返し連続した構造を持った1本鎖核酸が生成される。この1本鎖核酸に対して更にプライマーをアニールさせてその相補鎖の合成を行って、高度な増幅を実現している。しかし、複数の酵素が必要な点は依然として残された課題である。また、相補鎖合成のトリガーは、2つの隣接領域の連結反応に依存しており、その特異性は原理的にLCRと同じレベルである。
3’−OHの供給という課題に対しては、3’末端に同一鎖上の塩基配列に相補的な配列を持たせ、末端でヘアピンループを形成させる方法が公知である(Gene 71,29−40,1988)。このようなヘアピンループからは、自身を鋳型とした相補鎖合成が行われ、相補的な塩基配列で構成された1本鎖の核酸を生成する。たとえばPCT/FR95/00891では、相補的な塩基配列を連結した末端部分で同一鎖上にアニールする構造を実現している。しかしこの方法では、末端が相補鎖との塩基対結合(base pairing)を解消して改めて同一鎖上で塩基対結合を構成するステップが必須である。このステップは塩基対結合を伴う相補的な塩基配列同士の末端における微妙な平衡状態に依存して進むとされている。すなわち、相補鎖との塩基対結合と、同一鎖上での塩基対結合との間で維持される平衡状態を利用し、同一鎖上の塩基配列とアニールしたもののみが相補鎖合成の起点となる。したがって、高度な反応効率を達成するためには、厳密な反応条件の設定が求められるものと考えられる。更にこの先行技術においては、プライマー自身がループ構造を作っている。そのためプライマーダイマーがいったん生成すると、標的塩基配列の有無にかかわらず自動的に増幅反応が開始され非特異的な合成産物を形成してしまう。これは重大な問題点といえる。更に、プライマーダイマーの生成とそれに伴う非特異的な合成反応によるプライマーの消費が、目的とする反応の増幅効率の低下につながる。
その他に、DNAポリメラーゼに対して鋳型とならない領域を利用して同一鎖にアニールする3’末端構造を実現した報告(EP713922)がある。この報告も末端部分における動的平衡を利用している点、あるいはプライマーダイマー形成にともなう非特異的な合成反応の可能性においては先のPCT/FR95/00891と同様の問題点を持つ。更に、DNAポリメラーゼの鋳型とならない特殊な領域をプライマーとして用意しなければならない。
また前記NASBAの原理を応用した各種のシグナル増幅反応においては、2本鎖のプロモーター領域を供給するためにしばしば末端でヘアピン状の構造を伴ったオリゴヌクレオチドが利用される(特開平5−211873)。しかしこれらは、相補鎖合成の3’−OHの連続的な供給を可能とするものではない。更に特表平10−510161(WO96/17079)においては、RNAポリメラーゼによって転写されるDNA鋳型を得ることを目的として同一鎖上に3’末端をアニールさせたヘアピンループ構造が利用されている。この方法では、RNAへの転写と、RNAからDNAへの逆転写を利用して鋳型の増幅が行われる。しかし、この方法も複数の酵素を組み合わせなければ反応系を構成できない。
この他、5’末端にプライマーの伸長生成物の塩基配列に相補的な塩基配列を有するプライマーを用いた核酸の増幅反応が報告されている。この報告によれば、相補鎖が合成されると、プライマーの5’末端が相補的な塩基配列に対して結合し、その結果として初めにプライマーがアニールした領域が開放され、新たなプライマーのアニールが起きるとされている(EP971039)。この報告は、等温でプライマーのアニールが可能な領域を連続的に供給することは実現するが、基本的な原理はPCR等に頼っている。したがって、先に述べたような、PCRにおける反応特異性の問題を改善することはできない。
これに対して本出願人は、等温条件で実施することができ、しかもPCRに比較して、反応特異性を高い水準に維持することができる新規な核酸の合成方法を開発し特許出願した(WO00/28082)。そしてこの方法をLoop−mediated isothermal amplification(以下LAMP法と省略する)と名付けた(T.Notomi et al.,Nucleic Acid Res.,2000,Vol.28,No.12,e63)。
更に本出願人は、LAMP法を応用したSNPsの検出方法についても報告している(The 3rd International Workshop on Advanced Genomics 2000.11.13〜14;Yokohama,A Novel SNP Typing Technology Based on the Nucleic Acid Amplification Method,LAMP KANDA,Hidetoshi et al.)。LAMP法には、鋳型の塩基配列が設計とは異なっていたときに核酸の増幅反応が著しく阻害されるという特徴がある。この特徴により、LAMP法に基づく変異の検出方法は、検出感度を犠牲にすることなく高い特異性を実現した。
発明の開示
本発明の課題は、LAMP法の反応原理を応用した新たな核酸の合成方法を提供することである。
LAMP法は、高度な反応特異性を等温で達成することができる核酸の合成方法である。本発明者は、この方法を応用して、更に新たな核酸の合成原理を確立するために研究を重ねた。その結果、特定の構造を有する核酸とLAMP法を応用することによって、新しい原理で核酸の合成を行うことができることを見出した。更に、この反応原理に基づいて、公知のLAMP法では知られていなかった、様々な効果を達成できることを見出し本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の核酸の合成方法、そのためのキット、並びにそれらの用途に関する。
〔1〕次の工程を含む、標的塩基配列を含む核酸の合成方法。
(1)5’側から3’側にかけて次の領域(a)−(d)を含む、少なくとも2種類の1本鎖の核酸を生成する工程、ここで前記2種類の1本鎖核酸は、その3’末端において相補的な塩基配列を有し、かつ標的塩基配列から選択された塩基配列を含む。
(a)同一鎖上の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域、
(b)領域(a)が同一鎖上の任意の領域に対してハイブリダイズしたときにループを形成する領域、
(c)領域(a)に相補的な塩基配列を含む領域、および
(d)3’末端を構成する塩基配列からなる領域
(2)工程(1)の少なくとも2種類の1本鎖の核酸を、その3’末端においてアニールさせ、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによって相補鎖を合成する工程、および
(3)工程(2)で合成された核酸の3’末端を、同一鎖上の相補的な塩基配列からなる領域にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成し、標的塩基配列からなる1本鎖の核酸を合成する工程、
〔2〕工程(1)の1本鎖の核酸の少なくとも1種類が、領域(a)と領域(c)のハイブリダイズによって、相補鎖を伴わない3’末端を形成する構造を有する核酸である〔1〕に記載の方法。
〔3〕工程(1)の1本鎖の核酸の少なくとも1種類が、領域(a)と領域(c)のハイブリダイズによって、相補鎖を伴った3’末端を形成する構造を有する核酸である〔1〕、または〔2〕に記載の方法。
〔4〕工程(1)の1本鎖の核酸を、以下の工程によって生成する〔1〕に記載の方法。
i)標的塩基配列を含む核酸を鋳型として、少なくとも1組のインサートプライマーを用いて相補鎖を合成する工程;ここでインサートプライマーを起点として合成された相補鎖は、その5’末端を構成する塩基配列が互いに相補的な塩基配列からなっており、そして
ii)工程i)の生成物を鋳型として、標的塩基配列の5’末端に相補的な塩基配列を3’末端に有し、かつその5’末端に前記3’末端を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有するインナープライマーで相補鎖を合成し、工程(1)に記載の1本鎖核酸を生成する工程
〔5〕インサートプライマーが、互いに相補的な塩基配列を5’末端に有する少なくとも1組のインサートプライマーである〔4〕に記載の方法。
〔6〕インサートプライマーが、その5’末端における互いに相補的な塩基配列がRNAで構成され、かつ3’末端がRNase耐性のポリヌクレオチドから構成されており、DNAとハイブリダイズした該RNAをRNaseによって消化する工程を含む〔5〕に記載の方法。
〔7〕インサートプライマーが、標的塩基配列中の任意の領域において相補鎖の合成起点となる第1のインサートプライマーと、このインサートプライマーを起点とする伸長生成物に含まれる標的塩基配列中の任意の領域において相補鎖の合成起点となる第2のインサートプライマーとの組み合わせからなる〔4〕に記載の方法。
〔8〕工程(1)の1本鎖の核酸を、以下の工程によって生成する〔1〕に記載の方法。
i)次の条件を有する少なくとも2種類の1本鎖の核酸を生成する工程、
a)5’末端を含む領域と3’末端を含む領域が相補的な塩基配列で構成される、
b)a)の相補的な塩基配列からなる領域がハイブリダイズしたときにループを形成する塩基配列によって、この相補的な塩基配列が連結されている、
c)一方の核酸の3’末端は他方の核酸の3’末端に相補的な塩基配列を有する、および
d)該1本鎖核酸を構成する塩基配列が、標的塩基配列から選択される塩基配列を含む
ii)工程i)の1本鎖の核酸におけるループにアニールして相補鎖合成の起点となるプライマーであって、その5’末端に該プライマーを起点として合成される相補鎖に相補的な塩基配列を有するプライマーをアニールさせ、その3’末端を起点として鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼによって、相補鎖を合成するとともに、工程i)の1本鎖の核酸の3’末端を置換して塩基対結合が可能な状態とする工程、
iii)工程ii)によって塩基対結合が可能となった3’末端を相互にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成するとともに、工程ii)で合成した相補鎖を置換して工程(1)の1本鎖の核酸を生成する工程、
〔9〕前記工程(1)の1本鎖の核酸を以下の工程によって生成する〔1〕に記載の方法。
(a)標的塩基配列を含む核酸を鋳型としてインナープライマーをアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成する工程;ここでインナープライマーは、標的塩基配列の5’末端に相補的な塩基配列を3’末端に有し、かつその5’末端に前記3’末端を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有し、
(b)工程(a)の生成物にインサートプライマーをアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成する工程;ここでインサートプライマーは工程(a)の生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を3’末端に備え、かつその5’末端の塩基配列は〔1〕における2種類の1本鎖核酸のいずれかの3’末端を構成する塩基配列に相補的な塩基配列からなり、そして
(c)工程(b)で合成された相補鎖を1本鎖とし、その3’末端を自身にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成し、前記工程(1)の1本鎖の核酸を生成する工程
〔10〕工程(a)の標的塩基配列を含む核酸が、〔1〕における工程(2)の生成物である〔9〕に記載の方法。
〔11〕2種類の1本鎖の核酸が、いずれも同一の鋳型に由来する塩基配列を含む、〔1〕に記載の方法。
〔12〕2種類の1本鎖の核酸に含まれる塩基配列が、鋳型において連続している〔11〕に記載の方法。
〔13〕2種類の1本鎖の核酸に含まれる塩基配列が、鋳型において連続していない〔11〕に記載の方法。
〔14〕2種類の1本鎖の核酸が、異なる鋳型に由来する塩基配列を含む、〔1〕に記載の方法。
〔15〕次の工程を含む標的塩基配列を含む核酸の増幅方法。
(1)5’側から3’側にかけて次の領域(a)−(d)を含む、少なくとも2種類の1本鎖の核酸を生成する工程、ここで前記2種類の1本鎖核酸は、その3’末端において相補的な塩基配列を有し、かつ標的塩基配列から選択された塩基配列を含む。
(a)同一鎖上の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域、
(b)領域(a)が同一鎖上の任意の領域に対してハイブリダイズしたときにループを形成する領域、
(c)領域(a)に相補的な塩基配列を含む領域、および
(d)3’末端を構成する塩基配列からなる領域
(2)工程(1)の少なくとも2種類の1本鎖の核酸を、その3’末端においてアニールさせ、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによって相補鎖を合成する工程、
(3)工程(2)で合成された核酸の3’末端を、同一鎖上の相補的な塩基配列からなる領域にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成し、標的塩基配列からなる1本鎖の核酸を合成する工程、
(4)工程(3)の生成物を鋳型として、インナープライマー、および/またはインサートプライマーの3’末端を起点として、鎖置換を伴なう相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼによって相補鎖を合成する工程、
(5)各プライマーからの伸長生成物の5’側に位置する他のプライマーの伸長生成物を置換して前記工程(1)の1本鎖の核酸を生成するか、または該1本鎖の核酸が、その3’末端に同一鎖に対する相補的な塩基配列を有するときには、該3’末端を自身にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成して前記工程(1)の1本鎖の核酸を生成する工程、および
(6)工程(5)で生成した核酸を用いて〔1〕に記載の方法を繰り返し、標的塩基配列からなる核酸を増幅する工程
〔16〕〔2〕−〔9〕のいずれかに記載の方法によって生成された1本鎖の核酸を用いて、〔1〕−〔7〕のいずれかに記載の方法を開始する工程を含む、標的塩基配列を含む核酸の増幅方法。
〔17〕以下の要素をインキュベートする工程を含む、標的塩基配列を含む核酸を合成する方法。
(a)インナープライマーF;ここでインナープライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーFの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(b)インナープライマーR;ここでインナープライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーRの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(c)インサートプライマーF;ここでインサートプライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(d)インサートプライマーR;ここでインサートプライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する他方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有し、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する、
(e)標的塩基配列を含む鋳型核酸、
(f)ヌクレオチド基質、および
(g)鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
〔18〕更に付加的に次の要素を存在させる〔17〕に記載の方法。
(h)アウタープライマーF;ここでアウタープライマーFは、鋳型におけるインナープライマーFがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、および
(i)アウタープライマーR;ここでアウタープライマーRは、鋳型におけるインナープライマーRがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、
〔19〕更に付加的に次の要素を存在させる〔17〕に記載の方法。
(j)ループプライマーF;ここでループプライマーFの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーFの5’末端を含む領域が、インナープライマーFを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする、および
(k)ループプライマーR;ここでループプライマーRの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーRの5’末端を含む領域が、インナープライマーRを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする
〔20〕鋳型核酸における前記標的塩基配列が2本鎖であり、前記各プライマーを起点とする相補鎖合成が可能な条件下でインキュベートすることによって、各プライマーがアニールすべき領域を塩基対結合が可能な状態とする工程を含む、〔17〕に記載の方法。
〔21〕鋳型核酸における前記標的塩基配列が2本鎖であり、変性工程の後にインキュベートを開始する〔17〕に記載の方法。
〔22〕融解温度調整剤の存在下でインキュベートする〔17〕に記載の方法。
〔23〕融解温度調整剤が、ベタイン、プロリン、ジメチルスルホキシド、およびトリメチルアミンN−オキシドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である〔22〕に記載の方法。
〔24〕〔1〕、または〔17〕に記載の核酸の合成方法、若しくは〔15〕に記載の核酸の増幅方法の反応生成物の量を測定する工程を含む、試料中に含まれる鋳型核酸の検出方法。
〔25〕〔24〕に記載の鋳型核酸の検出方法に基づいて鋳型核酸における変異を検出する方法であって、〔15〕に記載の核酸の増幅方法において、インサートプライマーの3’末端を起点とする相補鎖合成反応が、鋳型核酸の塩基配列が予測される塩基配列でなかったときに妨げられることを特徴とする、変異の検出方法。
〔26〕〔24〕に記載の鋳型核酸の検出方法に基づいて鋳型核酸における変異を検出する方法であって、〔1〕、または〔17〕に記載の核酸の合成方法において、1本鎖の核酸の3’末端を起点とする相補鎖合成反応が、鋳型核酸の塩基配列が予測される塩基配列でなかったときに妨げられることを特徴とする、変異の検出方法。
〔27〕〔4〕に記載の核酸の合成方法、または〔15〕に記載の核酸の増幅方法を利用した変異の導入方法であって、インサートプライマーが鋳型核酸に含まれる塩基配列とは異なる塩基配列を含むことを特徴とする、変異の導入方法。
〔28〕鋳型核酸に含まれる塩基配列とは異なる塩基配列が、インサートプライマーの塩基配列に対する置換、欠失、および/または付加によって構成されている〔27〕に記載の方法。
〔29〕以下の要素で構成される、標的塩基配列を含む核酸を合成するためのキット。
(a)インナープライマーF;ここでインナープライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーFの5’側には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(b)インナープライマーR;ここでインナープライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーRの5’側には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(c)インサートプライマーF;ここでインサートプライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(d)インサートプライマーR;ここでインサートプライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する他方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有し、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する、
(e)ヌクレオチド基質、および
(f)鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
〔30〕更に付加的に次の要素を含む、〔29〕に記載のキット。
(g)アウタープライマーF;ここでアウタープライマーFは、鋳型におけるインナープライマーFがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、および
(h)アウタープライマーR;ここで第6のプライマーは、鋳型におけるインナープライマーRがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、
〔31〕更に付加的に次の要素を含む、〔29〕に記載のキット。
(i)ループプライマーF;ここでループプライマーFの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーFの5’末端を含む領域が、インナープライマーFを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする、および
(j)ループプライマーR;ここでループプライマーRの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーRの5’末端を含む領域が、インナープライマーRを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする
〔32〕標的塩基配列が、一つの鋳型核酸に由来する〔29〕に記載のキット。
〔33〕インサートプライマーが、鋳型核酸の塩基配列が予測と異なる塩基配列であったときに、インサートプライマーの3’末端、および/またはインサートプライマーの5’末端を鋳型として合成された相補鎖の3’末端を起点とする相補鎖合成反応が妨げられる塩基配列からなる、〔29〕に記載のキット。
〔34〕試料中に含まれる鋳型核酸の検出に用いるための〔29〕に記載のキット。
〔35〕核酸の検出剤を付加的に含む〔34〕に記載のキット。
〔36〕インサートプライマーが鋳型核酸に含まれる塩基配列とは異なる塩基配列を含むことを特徴とする、〔29〕に記載のキット。
〔37〕標的塩基配列が異なる鋳型核酸に由来する塩基配列を有する〔29〕に記載のキット。
〔38〕インナープライマーFおよびインサートライマーFの3’末端が第1の鋳型核酸に由来する塩基配列を合成するための起点となり、インナープライマーRおよびインサートプライマーRが第2の鋳型核酸に由来する塩基配列を合成するための起点となり、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの5’末端を含む領域において互いに相補的な塩基配列からなる領域を含むことを特徴とする、〔37〕に記載のキット。
〔39〕融合蛋白質をコードする遺伝子を合成するための、〔37〕に記載のキット。
〔40〕付加的に、融合パートナーをコードする遺伝子を含む、〔39〕に記載のキット。
核酸:本発明において、核酸とは、DNA、またはRNA、あるいはそれらのキメラ分子であることができる。核酸は、天然のものであることもできるし、人工的に合成されたものであることもできる。また部分的に、あるいは全体が完全に人工的な構造からなるヌクレオチド誘導体であっても、それが塩基対結合を形成しうるものであるかぎり本発明の核酸に含まれる。このような分子としては、たとえばホスホチオエート結合によってバックボーンが形成されているポリヌクレオチド誘導体などを示すことができる。
本発明における核酸の構成塩基数は、制限されない。核酸は、用語ポリヌクレオチドと同義である。一方本発明におけるオリゴヌクレオチドとは、ポリヌクレオチドの中でも特に構成塩基数が少ないものを示す用語として用いる。一般にオリゴヌクレオチドは、2〜100、より一般的には、2〜50程度の塩基数のポリヌクレオチドを指してオリゴヌクレオチドと呼ぶが、これらの数値には限定されない。
本発明の核酸は、一般に生物学的な試料に含まれる。生物学的試料とは、動物、植物、あるいは微生物の組織、細胞、培養物、排泄物あるいはそれらの抽出物を示すことができる。本発明の生物学的試料には、ウイルスやマイコプラズマのような細胞内寄生体のゲノムDNA、あるいはRNAが含まれる。また本発明の核酸は、前記生物学的試料に含まれる核酸から誘導されたものであってもよい。たとえば、mRNAをもとに合成されたcDNAや、生物学的試料に由来する核酸をもとに増幅された核酸は、本発明における核酸の代表的なものである。
標的塩基配列:本発明において標的塩基配列とは、合成すべき核酸の塩基配列を意味する。すなわち、本発明において合成を目的とする核酸を構成する塩基配列が、標的塩基配列である。また本発明の核酸の合成方法に基づいて、核酸の増幅を行う場合には、増幅すべき核酸を構成する塩基配列が標的塩基配列である。一般に核酸の塩基配列は、5’側から3’側に向けてセンス鎖の塩基配列を記載する。本発明における標的塩基配列とは、センス鎖の塩基配列に加えて、その相補鎖、すなわちアンチセンス鎖の塩基配列も含む。すなわち、用語「標的塩基配列」とは、合成すべき塩基配列、およびその相補鎖の少なくともいずれかを意味する用語として用いる。
本発明において、標的塩基配列は、鋳型として利用する核酸の塩基配列に制限されない。したがって、標的塩基配列は、鋳型と同じ塩基配列からなる場合もあるし、異なる塩基配列とすることもできる。鋳型の塩基配列に変異を導入したり、あるいは鋳型の塩基配列の一部をつなぎ合わせた塩基配列からなる標的塩基配列を合成することもできる。
3’末端、あるいは5’末端:3’末端、あるいは5’末端とは、単にいずれかの末端の1塩基のみならず、末端の1塩基を含み、かつ末端に位置する領域を意味する。より具体的には、いずれかの末端から500塩基、望ましくは100塩基、あるいは少なくとも20塩基は、3’末端、あるいは5’末端に含まれる。これに対して、末端の1塩基や末端付近に存在する特定の位置の塩基を示すためには、その位置を数値で特定することによって示すものとする。また3’末端が相補鎖合成の起点となるというときには、その3’末端の−OH基が相補鎖合成の起点となっていることを意味する。
鋳型と相補鎖:本発明において用いられる鋳型という用語は、相補鎖合成の鋳型となる側の核酸を意味する。鋳型に相補的な塩基配列を持つ相補鎖は、鋳型に対応する鎖としての意味を持つが、両者の関係はあくまでも相対的なものに過ぎない。すなわち、相補鎖として合成された鎖は、再び鋳型として機能することができる。つまり、相補鎖は鋳型になることができる。
本発明においては、鋳型核酸に含まれる塩基配列をそのまま標的塩基配列として合成する場合と、鋳型核酸とは異なる塩基配列を有する核酸の合成を目的とする場合とがある。鋳型核酸とは異なる塩基配列を有する核酸とは、たとえば鋳型核酸に含まれる塩基配列に対して変異を導入したり、あるいは鋳型核酸上で離れて存在する領域を連続する塩基配列として合成する場合が挙げられる。更に本発明における標的塩基配列は、異なる核酸に由来する塩基配列を連結した塩基配列とすることもできる。
核酸の合成(synthesis)と増幅(amplification):本発明における核酸の合成とは、合成起点となったオリゴヌクレオチドからの核酸の伸長を意味する。合成に加えて、更に他の核酸の生成と、この生成された核酸の伸長反応とが連続して起きるとき、一連の反応を総合して増幅という。
アニール:「アニール」と「ハイブリダイズ」は、核酸がワトソン−クリックのモデルに基づく塩基対結合によって2重らせん構造(double helix structure)を形成することを意味する。したがって、塩基対結合を構成する核酸鎖が1本鎖であっても、分子内の相補的な塩基配列が塩基対結合を形成すれば、アニール、あるいはハイブリダイズである。本発明において、アニールとハイブリダイズは、核酸が塩基対結合による2重らせん構造を構成する点で同義である。塩基対結合した3’末端が相補鎖合成の起点となるときに、特にアニールという場合がある。ただし、ハイブリダイズが相補鎖合成の起点となることを否定するものではない。
同一、あるいは相補的:本発明に用いるプライマーを構成する塩基配列の特徴付けのために用いられる同一、あるいは相補的という用語には、完全に同一、あるいは完全に相補的でない塩基配列が含まれる。すなわち、ある配列と同一とは、ある配列に対してアニールすることができる塩基配列に対して相補的な配列をも含むことができる。他方、相補的とは、ストリンジェントな条件下でアニールすることができ、相補鎖合成の起点を提供することができる配列を意味する。
本発明において、同一とは、塩基配列の相同性が、例えば90%以上、通常95%以上、より好ましくは98%以上であることを言う。また相補的とは、相補配列と同一の塩基配列を意味する。すなわち、相補配列に対して、塩基配列の相同性が、例えば90%以上、通常95%以上、より好ましくは98%以上であるときに相補的と言うことができる。なお、相補的な塩基配列は、それが相補鎖合成の起点として機能するときに、その3’末端の少なくとも1塩基が、相補配列と完全に一致することが望ましい。塩基配列の相同性は、BLAST等の公知の検索アルゴリズムによって決定することができる。
鎖置換を伴う相補鎖合成反応:本発明の核酸の合成には、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼが利用される。本発明において鎖置換を伴う相補鎖合成反応とは、次のような反応を言う。すなわち、プライマーを合成起点とする相補鎖合成反応の鋳型に他のポリヌクレオチドが既にハイブリダイズして2本鎖構造となっているときに、そのポリヌクレオチドを鋳型から分離しながら相補鎖合成が進行する反応を、鎖置換を伴う相補鎖合成反応と言う。このとき、分離されるポリヌクレオチドは、通常、そのホスホジエステル結合が維持される。したがって、相補鎖合成が行われた長さに相当する長さを有し、塩基対結合が可能な状態のポリヌクレオチドが生成されることになる。
鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼとしては、SDAなどに用いられたDNAポリメラーゼと同様のものが用いられる。すなわち、ある塩基配列の3’側に相補的なプライマーを合成起点として相補鎖合成を行うときに、5’側に2本鎖の領域が有るとその2本鎖を置換しながら相補鎖の合成を行う特殊なポリメラーゼが公知である。本発明においては、更に相補鎖合成に必要な基質が添加される。
続いて本発明の反応原理について述べる。公知のLAMP法(T.Notomi et al.,Nucleic Acid Res.,2000,Vol.28,No.12,e63)では、3’末端と5’末端に自身の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する核酸を生成する。そしてこの核酸の3’末端がその相補的な塩基配列からなる領域にアニールしたときに形成されるループに対してアニールするプライマーとともにインキュベートすることにより、標的塩基配列からなる核酸が連続的に合成される。
実際には、前記のループに対してアニールするプライマーとして、その5’末端に、前記核酸の3’末端がアニールする領域と同じ塩基配列からなる領域を付加しておくことにより、単に、標的塩基配列を含む鋳型核酸とプライマーとをインキュベートするだけで、反応を開始することができる。しかも望ましい条件においては、鋳型とする核酸は、2本鎖のままであっても差し支えない。
公知のLAMP法に対して本発明においては、5’側から3’側にかけて次の領域(a)−(d)を含む、少なくとも2種類の1本鎖の核酸を利用することによって核酸を合成する。ここで前記2種類の1本鎖核酸は、その3’末端において相補的な塩基配列を含み、かつ標的塩基配列から選択された塩基配列を含む。
(a)同一鎖上の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域、
(b)領域(a)が同一鎖上の任意の領域に対してハイブリダイズしたときにループを形成する領域、
(c)領域(a)に相補的な塩基配列を含む領域、および
(d)3’末端を構成する塩基配列からなる領域
この構造を標的塩基配列と対比させると、次のような関係となる。まず前記少なくとも2種類の1本鎖の核酸は、標的塩基配列を構成する1組の相補的な塩基配列からなる核酸鎖のうちのいずれか一方の鎖を構成する連続する塩基配列を含む。次に、両者はその3’末端の領域(d)において互いに相補的な塩基配列を有している。そしてこれらの核酸はいずれもその5’末端において同一鎖の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域(a)を有する。前記同一鎖の任意の領域は、その核酸の任意の領域(c)であってよい。そして領域(a)は、領域(c)にハイブリダイズすることによってループを形成する。このとき形成されるループに相当する領域を(b)とする。以上の関係は、たとえば次のように示すことができる。
なおここでは各核酸の領域に対して同じ(a)〜(d)という記号を与えているが、その塩基配列が同一であることは要求されない。むしろ、通常これらの領域は、異なる塩基配列を有する。更に、各核酸の領域(a)と(d)は5’末端、あるいは3’末端に配置されなければならないが、領域(b)および領域(c)は、領域(a)と領域(d)の間の任意の位置に配置することができる。また、領域(c)については、領域(d)との間に他の塩基配列が介入することも許される。
望ましい位置関係としては、領域(a)および領域(d)を構成する塩基数が、10〜500塩基、通常10〜100塩基、好ましくは20〜50塩基となるようにする。一方、領域(c)を構成する塩基数は、領域(a)に対応する塩基数となる。
次に領域(c)と領域(a)のハイブリダイズによって形成されるループ領域(b)の大きさは、1〜200塩基、望ましくは10〜100塩基となるように設計する。領域(b)は領域(a)と領域(c)に挟まれる領域であることから、これらの領域を定めることにより、一義的に決定される。領域(c)は、領域(b)に隣接して存在し、領域(a)と相補的な塩基配列で構成される領域である。
更に領域(c)と領域(d)の間には、任意の数の塩基が介在することができる。したがって、標的塩基配列をたとえば200塩基を越えるような長い塩基配列とする場合には、(c)−(d)間に長い塩基配列が挿入された核酸を用いて本発明による核酸の合成方法を実施することができる。
本発明において、標的塩基配列は、前記1本鎖の核酸の一方の領域(a)から他方の領域(a)にかけての領域となる。標的塩基配列の長さは、各領域とその間に介在する領域との塩基数によって決定される。本発明における標的塩基配列の長さは制限されない。したがって、たとえば30〜5000塩基、通常50〜1000塩基、好ましくは500塩基以下、更に好ましくは400塩基の長さとすることができる。標的塩基配列を長くするには、通常領域(c)と領域(d)の間に介在する領域の塩基配列を長く取る。その他、前記各領域の長さを大きくすることにより、長い塩基配列からなる標的塩基配列とすることもできる。
公知のLAMP法では、標的塩基配列として、F2/R2間の塩基数としてたとえば90〜240塩基(F1とR1に挟まれた領域の塩基数としては10〜40塩基相当)の領域が選択されている。これに対して本発明では、より長い標的塩基配列を、正確に合成、あるいは増幅することができる。
また本発明においては、前記1本鎖の核酸を構成する塩基配列を組み合わせることによって、標的塩基配列全体を構成することができる。より具体的には、一方の1本鎖の核酸に対して他方の核酸が鋳型として作用し、相補鎖合成の結果、標的塩基配列を構成する1つの核酸の塩基配列を完成することができる。本発明における各1本鎖の、標的塩基配列に占める割合は、任意である。より長い塩基配列を合成するには、通常、標的塩基配列に対して、およそ1/2づつの長さとするのが合理的である。
本発明において、前記領域(c)は、独立して配置することもできるし、領域(d)と重複して配置することもできる。領域(c)が領域(d)と重複して配置される場合とは、前記1本鎖の核酸が5’末端側の塩基配列と3’末端側の塩基配列とが、ループ領域(b)を介してステムループ構造を形成している場合である。このような構造を図4に3または4として示した。
ステムループとは、ループと2本鎖構造のステムからなる構造を言う。同一分子に含まれる3’末端側の塩基配列と5’末端側の塩基配列とが、相補的な塩基配列で構成され、それらがハイブリダイズすることによってステムが形成される。このとき、5’末端側の塩基配列が完全に3’末端側の塩基配列に相補的な場合には、3’末端が相補鎖を伴って2本鎖となる。
さて、本発明において、前記1本鎖の核酸は、たとえば次のようにして酵素的に合成することができる。まず、次のような特徴を有する4種類のプライマー(インサートプライマー×2、インナープライマー×2)を用いて、鋳型となる核酸をもとに鎖置換を伴う相補鎖合成を触媒するDNAポリメラーゼにより、相補鎖を合成する。
以下にインサートプライマー、およびインナープライマーについて具体的に述べる。
インサートプライマー:
インサートプライマーは、標的塩基配列を含む鋳型核酸にアニールして相補鎖合成の起点となるプライマーであって、このプライマーによって合成された核酸には、前記インナープライマーがアニールする。更に、インサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する。インサートプライマーは、本発明に固有の、前記領域(a)−(d)で構成される1本鎖の核酸を酵素的に合成するために考え出された、新規な特徴を有するプライマーである。
本発明においてインサートプライマーには、様々な組み合わせを想定することができる。以下にインサートプライマーの代表的な組み合わせを例示する。
[鋳型核酸中の連続する標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー1]:
図1等に示すように、インサートプライマーは鋳型とする核酸を構成する塩基配列の一部に対して、それらの5’末端が重なるようにデザインされる。
[鋳型核酸中の連続する標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー2]:
プライマー同士が相補的な塩基配列を有していない場合でも、前記領域(a)−(d)を有し、かつ3’末端が互いに相補的な塩基配列からなる2種類の1本鎖の核酸を生成することが可能である。たとえば、インサートプライマー/インナープライマー間の領域が重複するようにデザインすることにより、インサートプライマーそのものに相補的な塩基配列が無くとも、最終的な反応生成物の3’末端に相補的な塩基配列を与えることができる。
より具体的には、たとえば一方のインサートプライマーRの生成物に対してインナープライマーFIPがアニールして相補鎖が合成されるとする。他方のインサートプライマーFの生成物に対してインナープライマーRIPがアニールして相補鎖が合成される。このとき、インサートプライマーFとインサートプライマーRの伸長生成物が、重複する領域を合成するような位置関係にあれば良い。
このとき、インサートプライマーの5’末端を含む領域の塩基配列は、任意の塩基配列とすることができる。つまり、このような位置関係にあるインサートプライマーを用いるときには、標的塩基配列中で前記のような位置関係でインサートプライマーの3’末端が相補鎖合成の起点となれば、結果的に5’末端に互いに相補的な塩基配列を有する核酸が生成される。
ただし、両者の3’末端が重複するような位置関係の場合、プライマー同士がアニールして相補鎖合成を開始してしまう可能性がある。したがって両者の3’末端が重複する場合には、重複する部分の長さを反応条件下ではアニールできない程度の塩基数としておくのが望ましい。
[鋳型核酸中の分離した標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー]:
インサートプライマーの塩基配列を選択することにより、鋳型核酸中に離れて位置する領域を連続する塩基配列として合成することができる。すなわち鋳型核酸において、領域Aと領域Bが領域Sを挟んで位置しているとき、領域Aと領域Bとで構成された標的塩基配列を合成することができる。
そのためには、まずインサートプライマーの3’側の塩基配列は、領域Aの領域Sとの境界領域に、同様に領域Bの領域Sとの境界領域に対して相補的な塩基配列となるようにする。そして5’側は、両者の塩基配列が相補的となるようにデザインする。このとき、領域Aと領域Bとでアミノ酸の翻訳フレームを一致させるために、互いの塩基配列を5’側で共有させることもできる。すなわち、たとえば3’側が領域Aに相補的な塩基配列からなる場合には、5’側には領域Bの塩基配列を付加する。ただし、共有する塩基配列が長い場合には、プライマーダイマーを形成してしまう可能性がある。したがって、翻訳フレームを一致させるためには、人為的なリンカー配列を介入させておくこともできる。
このようなインサートプライマーによって合成される核酸は、連続した塩基配列の任意の中間部分を欠失した塩基配列からなる。すなわち、鋳型とした核酸の欠失変異体を得ることができる。このときの鋳型となる塩基配列と、標的塩基配列の関係を図9に示した。すなわち、鋳型(図9の上)における「欠失」(DELETION)で示した部分が欠失した塩基配列からなる変異体(図9の下)を本発明によって合成することができる。
遺伝子によってコードされる蛋白質の機能解析の一つに、その蛋白質の活性ドメインを特定する手法がある。遺伝子の一部を欠失させた変異体を発現させ、欠失させた領域と活性の関係に基づいて、活性ドメインを推定する手法が一般に用いられる。欠失変異体の取得には、PCR法がしばしば応用される。遺伝子の連続する領域に対してデザインされたプライマーを用いてPCR法を実施すれば、目的とする領域を容易に得ることができる。しかしPCR法では、合成すべき核酸の両端にしかプライマーをデザインすることができない。したがって、中間部分を欠失した変異体を1ステップで合成することは困難である。本発明を応用すれば、任意の領域を欠失させて、鋳型において離れて存在する領域を1つの連続する塩基配列として合成することができる。
本発明の特徴は、ゲノムの解析においても有用である。真核生物のゲノムには、遺伝子がイントロンに分断されて存在している。細胞内では、ゲノムから転写されたRNAがスプライシングによってイントロンを除かれ、エキソンが連結したmRNAとなる。ゲノムにおけるエキソンとイントロンには、一定の法則が見出されつつあるが、少なくとも現在のところ、予測精度は十分とは言えない。したがって、ゲノムの構造が明らかにされたとはいえ、そこに含まれる遺伝子の解析は、依然として大きな研究課題と言って良い。
本発明の特徴を利用すれば、ゲノムの複数の領域を連結した核酸を1ステップで合成することができる。つまり、予測されたエキソンを連結した核酸を合成することができる。更に得られた核酸は、必要に応じて更に連結することができる。PCR法では、1ステップでは単一のエキソンしか合成できないことから、本発明の有用性は明らかである。
ゲノムの解析において、遺伝子の解析と並んで重要な課題となっているのが転写調節領域の解析である。本発明の核酸の合成方法は、転写調節領域の解析に利用することもできる。たとえば、本発明は、ゲノムにおけるプロモーター活性を有する領域の探索に有用である。プロモーターは遺伝子の上流に位置し、遺伝子の転写因子によって認識される領域である。
本発明を利用したプロモーター活性を有する領域の探索は、たとえば次のようにして実施することができる。まず、解析の対象となるゲノムの塩基配列と、その下流に接続されたレポーター遺伝子からなる発現カセットを、本発明によって合成する。つまり、ゲノムと、レポーター遺伝子のそれぞれに対して本発明のインナープライマー、およびインサートプライマーをデザインし、異なる核酸を鋳型とする核酸の合成方法を実施すれば良い。解析の対象となるゲノム上の領域に対して、様々な領域に対するプライマーをデザインすることにより、多種類の発現カセットを合成することができる。本発明によれば、プライマーのデザインにより、任意の領域を自由に発現カセットとして合成することができる。
得られた発現カセットを、適当な宿主において実際に発現させ、レポーター遺伝子のシグナルを観察することにより、プロモーター活性を評価することができる。
[異なる鋳型核酸に別々に含まれる標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー]:
本発明の核酸の合成方法が、同一の鋳型に含まれる離れた領域を連結した核酸の合成に有用であることを先に述べた。この原理を更に発展させると、本発明によって、異なる鋳型に含まれる2つの領域を連結した核酸を合成することもできる。すなわち、本発明の核酸の合成方法における2種類の1本鎖の核酸として、異なる鋳型核酸に由来する塩基配列を含む核酸を用いて反応を開始することができる。その結果生成する核酸は、5’側と3’側とで、異なる鋳型核酸に由来する塩基配列が連結された核酸となる。
異なる鋳型核酸に由来する塩基配列を含む1本鎖の核酸は、たとえば以下のような方法によって得ることができる。本発明の核酸の合成方法に用いるプライマーとして、異なる鋳型核酸に対してプライマーとして作用するようにデザインされたインサートプライマー、およびインナープライマーを用いるのである。
異なる鋳型核酸FおよびRの二つの核酸を用い、それぞれの鋳型核酸の塩基配列から選択された任意の領域を連結しようとする場合には、次のようなプライマーが用いられる。まず鋳型核酸Fに対して、インナープライマーFおよびインサートプライマーFがデザインされる。インナープライマーFとインサートプライマーFの3’末端には、鋳型核酸Fの合成を目的とする領域を合成するためのプライマーとして作用する塩基配列が配置される。インナープライマーFの5’側には、その3’側を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列が配置される。
一方鋳型核酸Rに対して、インナープライマーRおよびインサートプライマーRがデザインされる。インナープライマーRとインサートプライマーRの3’末端には、鋳型核酸Rの合成を目的とする領域を合成するためのプライマーとして作用する塩基配列が配置される。インナープライマーRの5’側には、その3’側を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列が配置される。
そして、インサートプライマーFとインサートプライマーRの5’末端は、相補的な塩基配列で構成される。両者の塩基配列によってコードされる蛋白質を融合蛋白質として発現することができる遺伝子を合成するには、インフレームで連結できるように、インサートプライマーの5’側の塩基配列をデザインする。
このようなプライマーのデザインと、異なる鋳型核酸を用いる他は、全て同様の条件で本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法を実施することができる。すなわち、2種類の鋳型核酸、すべてのプライマー、そして反応に必要なDNAポリメラーゼ、基質、緩衝液などを混合し、適切な条件下でインキュベートする。あるいは、異なる鋳型核酸に対して、対応するプライマーを加えて相補鎖合成反応を行い、1本鎖の核酸を生成させた後に両者を混合して、更に相補鎖合成反応を継続することもできる。
反応生成物から、標的塩基配列、あるいは標的塩基配列よりもサイズが大きい反応生成物を回収すれば、目的とする塩基配列を得ることができる。回収した核酸は、必要に応じて制限酵素で消化し、精製することができる。
本発明による核酸の合成方法、あるいは増幅方法に基づいて、異なる鋳型核酸の塩基配列を含む核酸を得る方法は、たとえば、次のような応用分野に有用である。
まず、本発明に基づいて、融合蛋白質をコードする遺伝子を合成することができる。公知の方法では、サイズの大きな遺伝子どうしを同時に合成することは困難であった。たとえばPCR法では、プライマーとして合成できる範囲であれば、標的塩基配列の末端に人工的な塩基配列を付加することができた。しかし、この方法で付加できる塩基配列の長さは限られていた。したがって、たとえばヒスチジンタグのような、小さな蛋白質しか付加することはできない。一方本発明では、付加すべき蛋白質をコードする遺伝子も相補鎖合成反応によって合成できることから、原理的には、自由な長さの遺伝子を融合させることができる。
プライマーとして付加することが難しい長い塩基配列を付加するには、予め必要な塩基配列を組み込んだベクターを用意しておき、このベクターに融合させる遺伝子を挿入する方法が用いられていた。しかしこの方法では、融合蛋白質を作るために融合パートナーを組み込んだベクターを予め用意しなければならない。これに対して本発明では、異なる鋳型核酸から、目的とする領域を自由に選択して、融合させることができる。
[インサートプライマーへの変異の導入]:
本発明に用いるインサートプライマーには、変異や付加的な塩基配列を導入しておくことができる。インサートプライマーには、その3’末端において特定の条件の塩基配列を有することが求められる。また、5’末端側には、インサートプライマーの塩基配列を鋳型として相補鎖合成反応によって生成する核酸が、5’末端において相互に相補的な塩基配列を有する限り、様々な塩基配列を自由に配置することもできる。更に、インサートプライマーの中間部分には、変異の導入や塩基配列の付加を許容する。
この特徴を利用して、鋳型が有する塩基配列に対して、変異や塩基配列を付加した塩基配列を合成することができる。インサートプライマーは標的塩基配列中に任意の場所に設定することができることから、本発明によれば、任意の場所に任意の変異を導入することができることになる。変異には、塩基の置換、欠失、あるいは付加が考えられる。これらの変異は、いずれも本発明によって導入可能である。
PCRのような公知の核酸合成方法では、希望するとおりの変異を導入できる個所が、末端部分に限られていた。プライマーの塩基配列を末端部分にしか導入できないためである。したがって、本発明のように、標的塩基配列中の任意の個所に、任意の変異を導入できる方法は有用である。
[複数セットのインサートプライマー]:
2つのインサートプライマーの5’側に配置された相補的な塩基配列が、特異的にハイブリダイズするとき、同時に複数組のインサートプライマーを用いることができる。複数組のインサートプライマーを用いることにより、各組の間で鋳型核酸に対する相互の置換が起き、より迅速な相補鎖合成を期待できる。
インサートプライマーの3’側を構成する塩基配列は、鋳型核酸が2本鎖のまま鋳型として用いられる場合にも、相補鎖合成の起点を与えることができるように設定することが望ましい。更に、インナープライマーやアウタープライマーによる相補鎖合成反応と同様の条件の下で、プライマーとして作用できることが望ましい。具体的には、前記領域(d)などと同様に、5−200塩基、より望ましくは10−50塩基とする。
更に、インサートプライマーの5’側を構成する領域は、この領域を鋳型として合成される相補鎖に対して、その3’末端が相補鎖合成の起点となるために必要な塩基配列を与える。したがって、3’側を構成する塩基配列と同様に、5−200塩基、より望ましくは10−50塩基とする。
インナープライマー:
3’末端に標的塩基配列の5’末端に相補的な塩基配列(X2)を備え、かつ5’末端にその3’末端を起点として合成される核酸の任意の領域(X1)に相補的な塩基配列(X1c)を有する。この5’末端の塩基配列は、前記1本鎖の核酸の5’末端を含む領域(a)を構成する。標的塩基配列を構成する2つの鎖のそれぞれに対して異なるインナープライマーが用いられる。通常それらは、フォーワード側、リバース側と呼ばれる。インナープライマーは、公知のLAMP法でも用いられたプライマーである。ただし公知のLAMP法では、基本的にはインナープライマーで反応が構成されている。インサートプライマーとインナープライマーとの組み合わせについては、現在のところ報告は無い。
以下の説明では仮に一方のインナープライマーにおけるX2およびX1cをF2およびF1c、他方のインナープライマーにおけるX2およびX1cをR2およびR1cとする。そして説明に用いるインナープライマーを、仮にFIPおよびRIPと名づける。FIPとRIPを構成する領域は、以下のとおりである。
本発明の核酸の合成方法においては、まず前記領域(a)−(d)からなる1本鎖の核酸を生成することが重要である。このような核酸は、前記インサートプライマーと、次の構造を持ったインナープライマーを利用した本発明に基づく核酸の合成反応によってその構造を与えることができる。この反応の詳細については、後に改めて述べる。
すなわち本発明の核酸の合成反応に用いるインナープライマーとは、少なくとも前記2つの領域X2およびX1cとで構成される。X2は3’末端を含む領域であり、X1cは5’末端を含む領域である。
本発明におけるインナープライマーの構造は、前記標的塩基配列によって決定される。標的塩基配列は、少なくともその一部の塩基配列が明らかとなっている、あるいは推測が可能な状態にある。塩基配列を明らかにすべき部分とは、前記領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cである。この2つの領域は、連続する場合、そして離れて存在する場合とを想定することができる。両者の相対的な位置関係により、生成物である核酸が自己アニールしたときに形成されるループ部分の状態が決定される。
また、生成物である核酸が分子間のアニールではなく自己アニールを優先的に行うためには、両者の距離が不必要に離れないほうが望ましい。したがって、両者の位置関係は、通常0−500塩基分の距離を介して連続するようにするのが望ましい。ただし、後に述べる自己アニールによるループの形成において、両者があまりにも接近している場合には望ましい状態のループの形成を行うには不利となるケースも予想される。ループにおいては、新たなオリゴヌクレオチドのアニールと、それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応がスムーズに開始できる構造が求められる。したがってより望ましくは、領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cとの距離が、0〜100塩基、さらに望ましくは10〜70塩基となるように設計する。なおこの数値はX1cとX2を含まない長さを示している。ループ部分を構成する塩基数は、更にX2に相当する領域を加えた長さとなる。
標的塩基配列に対して本発明におけるインナープライマーを構成する領域X2およびX1cは、通常は重複することなく連続して配置される。あるいはもしも両者の塩基配列に共通の部分があるのであれば、部分的に両者を重ねて配置することもできる。X2はプライマーとして機能する必要があることから、常に3’末端となるようにしなければならない。
一方X1cは、後に述べるように、これを鋳型として合成された相補鎖の3’末端にプライマーとしての機能を与える必要があることから、5’末端に配置する。このオリゴヌクレオチドを合成起点として得られる相補鎖は、次のステップにおいては逆向きからの相補鎖合成の鋳型となり、最終的には本発明によるインナープライマー部分も鋳型として相補鎖に写し取られる。写し取られることによって生じる3’末端は塩基配列X1を備えており、同一鎖上のX1cにアニールするとともに、ループを形成する。
本発明におけるインナープライマーとは、標的塩基配列と相補的な塩基対結合を形成できること、そしてその3’末端において相補鎖合成の起点となる−OH基を与えること、の2つの条件を満たすものを意味する。したがって、そのバックボーンは必ずしもホスホジエステル結合によるものに限定されない。たとえばホスホチオエート体からなるものであることもできる。
また、塩基は、相補的な塩基対結合を可能とするものであれば良い。天然の状態では、一般にはACTGおよびUの5種類となるが、たとえばブロモデオキシウリジン(bromodeoxyuridine)といった類似体であることもできる。本発明に用いるオリゴヌクレオチドは、合成の起点となるのみならず、相補鎖合成の鋳型としても機能するものであることが望ましい。
本発明におけるインナープライマーは、以下に述べる各種の核酸合成反応において、与えられた環境の下で必要な特異性を維持しながら相補鎖との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を持つ。具体的には、5−200塩基、より望ましくは10−50塩基とする。配列依存的な核酸合成反応を触媒する公知のポリメラーゼが認識するプライマーの鎖長が、最低5塩基前後であることから、アニールする部分の鎖長はそれ以上である必要がある。加えて、塩基配列としての特異性を期待するためには、確率的に10塩基以上の長さを利用するのが望ましい。一方、あまりにも長い塩基配列は化学合成によって調製することが困難となることから、前記のような鎖長が望ましい範囲として例示される。
なお、ここで例示した鎖長はあくまでも相補鎖とアニールする部分の鎖長である。本発明によるインナープライマーは、少なくとも2つの領域X2およびX1cからなっている。したがって、ここに例示する鎖長は、インナープライマーを構成する各領域の鎖長と理解するべきである。
本発明におけるインサートプライマーとインナープライマーの関係を、図1および図2に示した。これらの図は、標的塩基配列(F2/R2c間)を含む核酸を鋳型とする標的塩基配列を含む核酸の合成方法を示している。図の中に示されたプライマーは、次のとおりである。
インサートプライマーF
インサートプライマーR
インナープライマーFIP(フォワード)
インナープライマーRIP(リバース)
アウタープライマーF3
アウタープライマーR3
図示されたインサートプライマーFおよびインサートプライマーRの3’末端には、標的塩基配列中の任意の領域に相補的な塩基配列が配置されていて、鋳型となる核酸にアニールすることにより相補鎖合成の起点となる。また各インサートプライマーの5’側は、互いに相補的な塩基配列を有するようにデザインされている。言いかえれば、2つのインサートプライマーは、標的塩基配列を構成する2本鎖の中の任意の領域において、互いの5’末端が重なるように設計されている。
他方アウタープライマーF3、あるいはR3は、標的塩基配列の5’末端よりも5’側の任意の領域F3cまたはR3cに相補的な塩基配列で構成される。アウタープライマーは、インナープライマーやインサートプライマーを起点として合成された鎖の置換のための相補鎖合成反応の起点を与えることを目的とする。
図1においては、インサートプライマーRの伸長生成物に、インナープライマーFIPがアニールして相補鎖が合成されている。合成された相補鎖はアウタープライマーF3によって置換され、1本鎖の核酸(1)として遊離する。この(1)は、本発明における前記領域(a)−(d)を有する核酸のひとつに他ならない。
一方、核酸(1)を生成する反応と同様の反応は、インサートプライマーFからも進行し(図2)、インナープライマーRIPに基づく相補鎖合成生成物が1本鎖の核酸(2)を形成している。核酸(1)と核酸(2)は、5’末端は自身の相補的な塩基配列を含む領域とハイブリダイズしているが、その3’末端を含む領域は1本鎖であり、かつ相互に相補的な塩基配列となっている。したがって、両者の3’末端を含む領域はハイブリダイズすることができる。
図3に示すように、核酸(1)と核酸(2)が3’末端においてハイブリダイズすることにより、その3’末端は相補鎖合成の起点となり、互いを鋳型とする新たな相補鎖合成が開始される。さて、1本鎖の核酸(1)と(2)とは、もともと鋳型となっていた核酸に含まれる標的塩基配列をもとに合成されている。そしてその塩基配列は、インサートプライマーとインナープライマーの間の塩基配列で構成されている。つまり、核酸(1)と核酸(2)とは、標的塩基配列を構成する塩基配列のうち、その5’側の塩基配列を含む一方、3’側の塩基配列を欠く構成となっている。更に、各鎖を構成する標的塩基配列の5’の塩基配列とは、互いに他方の鎖に欠けている3’側の塩基配列に対して相補的な塩基配列に他ならない。
したがって、これらの核酸の3’末端を起点とし、互いを鋳型に相補鎖を合成すれば、標的塩基配列に対して不足している各鎖の3’末端側の塩基配列が合成され、結果的に標的塩基配列が完成することになる。こうして本発明においては、標的塩基配列からなる核酸が合成される。
ところで、たとえば図1においてインサートプライマーがアニールする鋳型核酸は、1本鎖として描かれている。しかし本発明においては、鋳型となる核酸を1本鎖とするための変性工程は必ずしも要求されない。本発明を構成する相補鎖合成反応の大部分は、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼによって行われる。この種のDNAポリメラーゼを利用する場合、適切な条件を与えれば2本鎖の核酸を鋳型とする相補鎖合成が可能である。
本発明者は、2本鎖の核酸を、変性によって1本鎖とすることなく鋳型として利用可能な条件を明らかにしている。すなわち、ある程度2本鎖が不安定化される条件を与えれば、変性工程無しで2本鎖核酸に対するプライマーのアニールと鋳型依存性の相補鎖合成が可能な条件を設定できることを見出している。本発明においてもこの条件を利用し、2本鎖の核酸を鋳型としてそのまま用いることができる。
より具体的には、たとえば1本鎖の核酸を鋳型として用いる場合よりも高く、かつ鋳型核酸を1本鎖に変性する温度よりも低い温度であって、利用するDNAポリメラーゼによる相補鎖合成反応が可能な温度に設定すれば良い。反応に必要な温度は、融解温度調整剤(以下、融解温度をTmと省略する)によって調整することができる。Tm調整剤については後に具体的に述べる。
さて、ここで核酸(1)と核酸(2)の組み合わせに基づいて生成された、標的塩基配列を含む核酸の構造に着目する。図3に示すように、このような組み合わせによって生成される核酸として、まず核酸(1)と核酸(2)が3’方向に伸長した生成物について説明する。鋳型となった核酸(1)と核酸(2)は、その5’末端に自身の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有している。したがって相補鎖合成の結果として生成する核酸は、その3’末端に自身に相補的な塩基配列を有している。その結果、3’末端を含む領域が1本鎖構造となれば、自身にその3’末端をアニールさせ、相補鎖合成が開始される。
この工程が図3に示されている。すなわち、核酸(1)と核酸(2)から生成した2本鎖の核酸に、更にインサートプライマーがアニールして相補鎖合成を開始することにより、3’末端を含む領域が1本鎖とされる。3’末端は自身にアニールして自身を鋳型とする相補鎖合成を開始し、ループを介して標的塩基配列を連結した核酸を生成する(図3の下の2つの生成物)。
図3中、下の2つの生成物は、3’末端と5’末端に自身に相補的な塩基配列を有しており、かつループにインナープライマーのアニールが可能な状態にある。つまり、この核酸は、LAMP法の開始に必要な構造を備えている。したがって、いったんこのような構造が生成されれば、公知のLAMP法の原理に基づく核酸の合成反応が開始される。すなわち、以下の3つの反応が、連続的に、かつ理論的には無限に繰り返される。その結果、高度な核酸の増幅がもたらされる。
ループからの相補鎖合成による3’末端の開放、
1本鎖となった3’末端の自身を鋳型とする相補鎖合成、そして
3’末端から進行する相補鎖合成に伴うループから開始した相補鎖合成生成物の置換
なお図3においては、核酸(3)と核酸(4)が生成物として生じることも示されている。これらの核酸は、インサートプライマーを起点として合成された核酸で、前記の3’末端を自身にアニールさせて進行する相補鎖合成に伴って置換され生成する。これらの核酸も、後に述べるような反応を開始するための材料として、本発明の核酸の合成のための反応に貢献する。
さて、以上の説明では反応を開始するために、もともと3’側において1本鎖の構造を有する核酸を用いた。しかし本発明の核酸の合成方法は、前記1本鎖の核酸として3’末端を含む領域が1本鎖である場合に限定されない。3’末端において相補鎖を伴って2本鎖構造を有する場合であっても、相互の3’末端のアニールと、それに伴う標的塩基配列の合成を開始することができる。
ここで、前記1本鎖の核酸が3’末端において相補鎖を伴う構造について、改めて説明する。たとえば図1、図2、あるいは図3において、前記のような反応に伴って生成している核酸(3)や核酸(4)は、3’末端において自身の5’末端に含まれる相補的な塩基配列からなる領域を伴って2本鎖構造を形成している。このような構造は、なんらかの手段によって、その3’末端を1本鎖とすれば他の核酸にアニールさせることができる。本発明において、核酸(3)や核酸(4)の3’末端を1本鎖の構造とするための手法として、ループ部分にアニールするプライマーを起点とする相補鎖合成と、この相補鎖合成に伴う置換を利用することができる。
図中に用いられているインナープライマーFIPは、その3’末端がF2cで構成されている。F2cはF2に相補的な塩基配列であるから、核酸(3)のループに存在するF2cにアニールし、相補鎖合成の起点を与える。ループ内から開始された相補鎖合成は鋳型である核酸(3)の5’方向に進行し、5’末端に達する。このとき、もともと核酸(3)の5’末端にハイブリダイズしていたその3’末端は、新たな相補鎖の合成に伴って置換され、1本鎖の状態となる。RIPでも同様に、核酸(4)のループ部分にアニールして、その3’末端を1本鎖として開放する。
1本鎖となった核酸(3)と核酸(4)の3’末端はアニールし、前記核酸(1)と核酸(2)による反応と同様に、互いを鋳型とする相補鎖合成反応を開始し、その3’側の塩基配列を獲得して標的塩基配列の合成が完成する。
更に、本発明における前記1本鎖の核酸は、その3’末端を積極的に1本鎖とするまでもなく、相補鎖合成の起点として機能することができる。先に述べたように、2本鎖の核酸は、条件しだいで変性工程を経ることなく鋳型として利用することもできる。このような条件を利用することにより、核酸(3)と核酸(4)とは、その3’末端をアニールさせることが可能である。
また、RNA−DNAキメラプライマーを利用することによって、核酸(3)と核酸(4)との反応を開始することもできる。具体的には、核酸(3)や核酸(4)の5’側をRNAで構成しておき、相補鎖を伴っているときには、RNAで構成される部分を分解できるようにしておくのである。核酸(3)と核酸(4)は、その3’側を自身の5’末端領域にハイブリダイズさせた構造を有している。そのため、5’末端を構成する領域を除去すれば、3’側は塩基対結合が可能な状態となる。両者の3’末端は相互に相補的な塩基配列で構成されているから、両者はアニールして、互いを鋳型とする相補鎖合成反応が開始される。RNA/DNAハイブリッドにおけるRNAの消化は、RNAseHなどの酵素を利用して行うことができる。
核酸(3)や核酸(4)の5’末端をRNAで構成するには、これらの核酸を合成するときに用いるプライマーとして、その5’末端を含む領域がRNAで構成されたプライマーを利用すれば良い。なお当該プライマーの3’末端を含む領域は、DNA等のRNAseH耐性を有する構造とする必要がある。プライマーの3’末端側を含む領域をRNAで構成した場合には、核酸(3)や核酸(4)を合成した段階で鋳型とのRNA/DNAハイブリッドが構成され、核酸(3)や核酸(4)に必要な3’末端の合成が行われなくなってしまうためである。
本発明にRNA−DNAオリゴヌクレオチドを利用するとき、RNAの消化工程を伴う点は前述のICAN法と共通する。しかし本発明では、RNAは核酸(3)や核酸(4)の5’末端側になければならないことから、ICAN法とは原理が相違することは明らかである。
核酸(3)と核酸(4)とは、いずれも3’末端において2本鎖構造を有しているが、この領域がループにアニールするプライマーによってやがて1本鎖となることは既に述べた。また積極的に1本鎖とする工程を経ないまま、プライマーのアニールを可能とする条件についても先に示した。更に5’末端をRNAとしておき、このRNAを消化することによって、その3’末端を塩基対結合が可能な状態とすることもできる。こうして、前記領域(a)−(d)を有する1本鎖の核酸により、本発明の核酸の合成方法が実施される。
本発明において、核酸(3)と核酸(4)の組み合わせで生成する核酸は、いずれも標的塩基配列に加えて、付加的な塩基配列を有している。付加的な塩基配列は、核酸(3)および核酸(4)がループから5’末端にかけて有している塩基配列に相当する。したがって、核酸(3)と核酸(4)の組み合わせから生成される核酸は、標的塩基配列の5’側と3’側に付加的な塩基配列を有する。また、核酸(3)または核酸(4)と、核酸(1)または核酸(2)との組み合わせでは、標的塩基配列の5’側または3’側のいずれかに付加的な塩基配列を有する核酸を生成する。そしてその付加的な塩基配列を有する3’末端、あるいは5’末端は、インサートプライマーに由来する塩基配列となることから、自身に相補的な塩基配列を持たない。したがって、この核酸そのものは、直接的にLAMP法の反応を開始できる状態にはない。しかし、この核酸には、インサートプライマーからインナープライマーにかけての塩基配列がその5’末端を含む領域に保存されている。
したがって、この領域を鋳型とし、インナープライマーRIPあるいはFIPに基づいて、新たに核酸(1)あるいは核酸(2)を生成することができる。生成された核酸(1)あるいは核酸(2)は、インナープライマーの5’側にアニールする他の核酸からの相補鎖合成によって置換され、1本鎖の核酸として鋳型から遊離する。このように、図1−図5に示すとおり、インサートプライマーとインナープライマー、更に望ましくはアウタープライマーを利用することにより、核酸(1)、核酸(2)、核酸(3)、および核酸(4)が連続的に合成され、標的塩基配列を含む核酸が合成される。更にこれらの反応に伴って、LAMP法に基づく反応を開始する構造が生成し、新たな鋳型として機能する。これらの反応は、標的塩基配列を含む核酸を合成するとともに、反応生成物が新たな反応を開始するための出発物質として機能することから、核酸の増幅反応を構成する。
なおここでインナープライマーやインサートプライマーは、2本鎖の状態にある核酸を鋳型とすることになる。2本鎖の鋳型を変性工程を経ることなく鋳型として利用可能な条件については、既に述べたとおりである。
以上が本発明による核酸の合成方法の反応原理である。以上の説明から明らかなように、結局、本発明による核酸の合成方法に必要なプライマーを標的塩基配列を含む鋳型となる核酸とともに、相補鎖合成が開始できる条件下でインキュベートすることにより、以上に述べたような反応を実施することができる。このとき、望ましい条件下においては、全ての反応を共通の条件下で実施することができる。すなわち、望ましい条件においては、核酸の変性などを目的として、加熱などの処理を施す必要が無い。
すなわち本発明は、以下の要素をインキュベートする工程を含む、標的塩基配列を含む核酸を合成する方法に関する。
(a)インナープライマーF;ここでインナープライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーFの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(b)インナープライマーR;ここでインナープライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーRの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(c)インサートプライマーF;ここでインサートプライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(d)インサートプライマーR;ここでインサートプライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する他方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を備え、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する、
(e)標的塩基配列を含む鋳型核酸、
(f)ヌクレオチド基質、および
(g)鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
本発明による核酸の合成方法においては、反応液中に更に付加的に次の要素を存在させることができる。
(h)アウタープライマーF;ここでアウタープライマーFは、鋳型におけるインナープライマーFがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、および
(i)アウタープライマーR;ここでアウタープライマーRは、鋳型におけるインナープライマーRがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる。
また本発明による核酸の合成方法においては、反応液中に更に付加的に次の要素を存在させることができる。
(j)ループプライマーF;ここでループプライマーFの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーFの5’末端を含む領域が、インナープライマーFを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする、および
(k)ループプライマーR;ここでループプライマーRの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーRの5’末端を含む領域が、インナープライマーRを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする
本発明の核酸の合成方法においては、様々な塩基配列からなるループを有する核酸が連続的に生成される。このうち、前記インナープライマーがアニールするループは、インナープライマーを起点とする相補鎖合成を開始するための重要なループとなる。一方、インナープライマーの5’末端を含む領域が、インナープライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループには、インナープライマーはアニールしない。このループに対してアニールして相補鎖合成の起点を与えるプライマーが、反応速度を向上させることを、本発明者は見出している(WO 02/24902)。本発明において、インナープライマーがアニールしないループにおいて相補鎖合成の起点を与えるプライマーをループプライマーと呼ぶ。
本発明におけるループプライマーは、インナープライマーFに対するループプライマーF、並びにインナープライマーRに対するループプライマーRの少なくとも2種類のループプライマーをデザインすることができる。本発明においては、こうしてデザインされるループプライマーの少なくとも1種類が用いられる。好ましいループプライマーは、ループプライマーFおよびループプライマーRの2種類のループプライマーである。あるいは、同一のループ内の異なる領域にアニールすることができるループプライマーを組み合せて、3種類以上のループプライマーを用いてもよい。ループプライマーを本発明の核酸の合成方法に応用すれば、反応速度の向上が期待できる。
本発明の標的塩基配列を含む核酸を合成する方法において、インサートプライマーFは、インナープライマーFに対して、たとえば0.1〜100倍、好ましくは0.1〜50倍、より好ましくは0.2〜5倍の濃度で用いる。インサートプライマーRとインナープライマーRの濃度比も同様に設定することができる。更に、1種類の鋳型に対しては、インサートプライマーFとインサートプライマーR、あるいはインナープライマーFとインナープライマーRは、通常それぞれほぼ等しい濃度で用いられる。鋳型となる核酸が複数種であって、しかも各鋳型の量が異なっているときには、少ない方の鋳型にアニールするプライマーの濃度を高めることにより、効率的な合成反応が期待できる場合もある。
またプライマーや酵素の使用量は、予想される鋳型の濃度、反応時間、反応温度、反応に用いる酵素の活性などの条件に応じて、効率的な反応が行われるように適切な条件を設定することができる。より具体的には、たとえばプライマーの濃度は、通常100〜4000nM、好ましくは250〜3000nM、更に好ましくは500〜3000nMとすることにより、6コピー以上の鋳型に基づいて、確認可能なレベルの増幅生成物を生じることができる。
アウタープライマーの第1の目的は、インナープライマーを起点として合成される鎖を、より3’側からの相補鎖合成反応によって置換することにある。したがって、インナープライマーを起点とする相補鎖合成反応が、アウタープライマーのそれよりも優先的に開始されることが望ましい。そのために、通常、アウタープライマーのTmがインナープライマーのTmよりも低くなるようにデザインされる。なおここで、インナープライマーのTmとは、相補鎖合成の起点となる3’末端を含む領域の鋳型核酸に対するTmを言う。
更にアウタープライマーをインナープライマーよりも低い濃度で用いることにより、インナープライマーの相補鎖合成を優先的に行わせることができる。アウタープライマーの使用濃度は、たとえばインナープライマーに対して1/2以下、好ましくは1/10以下、あるいは1/100以下とすることができる。
また本発明にループプライマーを利用する場合には、ループプライマーの使用濃度をインナープライマーの使用濃度に対して、たとえば1/10〜等量とするのが望ましい。より具体的には、1/3〜1/2とすることができる。ループプライマーFとループプライマーRとは、通常、等量とする。
本発明において、アウタープライマーの使用は必須の条件ではない。なぜなら、インナープライマーを置換によって鋳型核酸から遊離させなくても、その伸長反応生成物は、新たな鋳型として機能することができる。1本鎖とする工程を省略しても、一定の確率でプライマーに基づく相補鎖合成反応が開始される場合のあることは既に述べたとおりである。この現象はインナープライマーからの伸長生成物においても期待できるので、アウタープライマーを用いることなく、インサートプライマーや、他方のインナープライマーを起点とする相補鎖合成反応が開始できる可能性はある。
しかし、鋳型核酸に依存してインナープライマーを起点として生成する伸長生成物は、本発明の核酸の合成方法の、最初のステップを構成する生成物である。したがって、その生成速度は、本発明の合成方法の効率を大きく左右する。そのため、この伸長生成物を効率的に鋳型として機能させるためにアウタープライマーを利用することは、本発明の核酸の合成方法において望ましい条件の一つである。
同様に、ループプライマーも、本発明において必須ではない。しかし、ループプライマーの使用によって、反応速度の向上を期待できる。したがって、ループプライマーの使用は、本発明の核酸の合成方法において望ましい条件の一つである。
本発明に用いる各種のプライマーは、化学的に合成することができる。あるいは天然の核酸を制限酵素などによって切断し、上記のような塩基配列で構成されるように改変する、あるいは連結することも可能である。
更に、本発明におけるインサートプライマーやインナープライマーは、公知の標識物質によって標識することができる。標識物質としては、ジゴキシンやビオチンのような結合性リガンド、酵素、蛍光物質や発光物質、あるいは放射性同位元素などを示すことができる。あるいは、インナープライマーを構成する塩基を蛍光性のアナログに置換する技術(WO95/05391,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,6644−6648,1994)も公知である。
この他本発明におけるインサートプライマーやインナープライマーは、鋳型としての機能を妨げない方法で、それ自身を固相に結合させておくこともできる。あるいは、これらのプライマーの任意の部分をビオチンのような結合性のリガンドで標識しておき、これを固相化アビジンのような結合パートナーによって間接的に固相化することもできる。固相化したプライマーを合成開始点とする場合には、核酸の合成反応生成物が固相に捕捉されることから、分離が容易となる。分離された生成物に対して、核酸特異的な指示薬や、あるいは更に標識プローブをハイブリダイズさせることによって、検出を行うこともできる。あるいは、任意の制限酵素で消化することによって、目的とする核酸の断片を回収することもできる。
加えて本発明による核酸の合成方法において、反応液は前記の要素と、適切な反応条件を維持する緩衝液によって構成することができる。更に反応液には、酵素の保護剤や、Tmの調整剤などを加えることもできる。
反応に用いる各要素について更に具体的に述べる。
一連の反応は、酵素反応に好適なpHを与える緩衝剤、酵素の触媒活性の維持やアニールのために必要な塩類、酵素の保護剤、更には必要に応じて融解温度(Tm)の調整剤等の共存下で行う。緩衝剤としては、Tris−HCl等の中性から弱アルカリ性に緩衝作用を持つものが用いられる。pHは使用するDNAポリメラーゼに応じて調整する。塩類としてはKCl、NaCl、MgCl2、MgSO4、あるいは(NH4)2SO4等が、酵素の活性維持と核酸の融解温度(Tm)調整のために適宜添加される。酵素の保護剤としては、ウシ血清アルブミンや糖類が利用される。
更に融解温度(Tm)の調整剤には、ベタイン、プロリン、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと省略する)、あるいはトリメチルアミンN−オキシド(以下、TMANOと省略する)が一般に利用される。融解温度(Tm)の調整剤を利用することによって、前記オリゴヌクレオチドのアニールを限られた温度条件の下で調整することができる。更にベタイン(N,N,N,−trimethylglycine)やテトラアルキルアンモニウム塩は、そのisostabilize作用によって鎖置換効率の向上にも有効である。ベタインは、反応液中0.2〜3.0M、好ましくは0.5〜1.5M程度の添加により、本発明の核酸増幅反応の促進作用を期待できる。これらの融解温度の調整剤は、融解温度を下げる方向に作用するので、塩濃度や反応温度等のその他の反応条件を考慮して、適切なストリンジェンシーと反応性を与える条件を設定する。
Tm調整剤を利用することにより、酵素反応に好適な温度条件を容易に設定することができる。またTm調整剤を反応液中に共存させることによって、2本鎖を鋳型とする相補鎖合成反応を迅速に進めることが可能となる。Tmは塩基配列とその長さによって変動する。したがって、酵素活性を維持できる条件と、本発明の条件を満たすインキュベーションの条件とが一致するように、Tm調整剤の使用量を調整することが望ましい。本発明の開示に基づいて、プライマーの塩基配列に応じて適切なTm調整剤の使用量を設定することは、当業者が通常行いうる。たとえば、アニールする塩基配列の長さとそのGC含量、塩濃度、およびTm調整剤の濃度に基づいて、Tmを算出することができる。
このような条件下における2本鎖の核酸に対するプライマーのアニールは、おそらく不安定であると推測される。しかし鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼとともにインキュベートすることにより、不安定ながらプライマーを合成起点として相補鎖が合成される。相補鎖合成の進行にともなって、合成された相補鎖と鋳型核酸とのハイブリダイズは次第に安定化されることになる。以下に示すようなDNAポリメラーゼは、2本鎖からなる鋳型核酸に対してプライマーを合成起点として、相補鎖の合成を触媒することができる。
本発明による核酸の合成方法を支えているのは、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼである。この種のDNAポリメラーゼには、以下のようなものが知られている。また、これらの酵素の各種変異体についても、それが配列依存型の相補鎖合成活性と鎖置換活性を有する限り、本発明に利用することができる。ここで言う変異体とは、酵素の必要とする触媒活性をもたらす構造のみを取り出したもの、あるいはアミノ酸の変異等によって触媒活性、安定性、あるいは耐熱性を改変したもの等を示すことができる。
これらのDNAポリメラーゼは、反応条件のもとで必要な反応を達成できる量が用いられる。たとえば、Bst DNAポリメラーゼであれば、反応液25μLあたりたとえば2〜20U、通常5−10Uとすることにより、短時間で十分な量の合成生成物を生じることができる。
Bst DNAポリメラーゼ
Bca(exo−)DNAポリメラーゼ
DNA ポリメラーゼIのクレノウ・フラグメント
Vent DNAポリメラーゼ
Vent(Exo−)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)
DeepVent DNAポリメラーゼ
DeepVent(Exo−)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)
Φ29ファージDNAポリメラーゼ
MS−2ファージDNAポリメラーゼ
Z−Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造)
KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績)
これらの酵素の中でもBst DNAポリメラーゼやBca(exo−)DNAポリメラーゼは、ある程度の耐熱性を持ち、触媒活性も高いことから特に望ましい酵素である。本発明は、場合により2本鎖の状態にある核酸に対して、プライマーを合成起点とする工程と、相補鎖合成反応とを同一条件下で行う。このような反応は、しばしばある程度の加温を必要とすることから、酵素が耐熱性であることは望ましい条件の一つである。耐熱性の酵素を用いることにより、幅広い反応条件に対応することができる。
たとえばVent(Exo−)DNAポリメラーゼは、鎖置換活性と共に高度な耐熱性を備えた酵素である。ところでDNAポリメラーゼによる鎖置換を伴う相補鎖合成反応は、1本鎖結合タンパク質(single strand binding protein)の添加によって促進されることが知られている(Paul M.Lizardi et al,Nature Genetics 19,225−232,July,1998)。この作用を本発明に応用し、1本鎖結合タンパク質を添加することによって相補鎖合成の促進効果を期待することができる。Vent(Exo−)DNAポリメラーゼに対しては、1本鎖結合タンパク質としてT4 gene 32が有効である。
なお3’−5’エクソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼには、相補鎖合成が鋳型の5’末端に達した部分で停止せず、1塩基突出させた状態まで合成を進める現象が知られている。本発明では、相補鎖合成が末端に至ったときの3’末端の配列が次の相補鎖合成の開始につながるため、このような現象は望ましくない。しかし、DNAポリメラーゼによる3’末端への塩基の付加は、高い確率でAとなる。したがって、dATPが誤って1塩基付加しても問題とならないように、3’末端からの合成がAで開始するように配列を選択すれば良い。また、相補鎖合成時に3’末端がたとえ突出してしまっても、これを消化してblunt endとする3’→5’エクソヌクレアーゼ活性を利用することもできる。たとえば、天然型のVent DNAポリメラーゼはこの活性を持つことから、Vent(Exo−)DNAポリメラーゼと混合して利用することにより、この問題を回避することができる。
これらのDNAポリメラーゼに対して、PCRなどで一般に用いられているTaqポリメラーゼ等のDNAポリメラーゼは、通常の条件では鎖置換作用は実質的に見られない。しかし、この種のDNAポリメラーゼであっても、鎖置換が可能な条件を与えることができる場合には、本発明に利用することができる。
本発明の核酸の合成方法は、核酸を鋳型として用いる。鋳型とする核酸のタイプは限定されない。したがって、2本鎖、1本鎖、あるいは3本鎖、更にDNA−RNAハイブリッド、あるいは人工的なヌクレオチド誘導体を含むDNAやRNAの誘導体等を鋳型とすることができる。
本発明の核酸は、精製されていても良いし、未精製であることもできる。また、細胞内に存在する状態(in situ)で、本発明の方法を適用することもできる。細胞内の2本鎖核酸を鋳型とすることによって、ゲノムのin situ解析が可能となる。また細胞内のmRNA(1本鎖核酸)を鋳型として利用することもできる。
本発明においてcDNAを鋳型として用いる場合、cDNAを合成する工程と、本発明に基づく核酸の合成方法とを、同一の条件下で実施することができる。RNAを鋳型としてcDNAの第1鎖を合成すると、DNA−RNAハイブリッドによる2本鎖核酸が完成する。この2本鎖核酸を本発明における鋳型として、核酸の合成方法を実施することができる。本発明の核酸の合成方法に用いるDNAポリメラーゼが、逆転写酵素活性を備えるものであれば、単一の酵素を用い、同一の条件下で核酸の合成を行うことができる。たとえばBca DNAポリメラーゼは、鎖置換活性を有し、逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼである。なお、第2鎖を合成したうえで完全な2本鎖cDNAとした後に、本発明による核酸の合成方法を適用しうることは言うまでも無い。
本発明においては、2本鎖の状態にある核酸を鋳型とするとき、任意のプライマーを加え、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応が達成できる条件のもとでインキュベートすることにより、インサートプライマーやインナープライマーがアニールすべき領域を塩基対結合が可能な状態とすることができる。
任意のプライマーとは、各種のプライマーがアニールすべき領域を塩基対結合可能な状態とするために用いられる。したがって、任意のプライマーは、鋳型となる2本鎖核酸の、インサートプライマーやインナープライマーがアニールすべき核酸鎖に対して、その相補鎖を鋳型として相補鎖合成を開始できるものである必要がある。更に、本発明における任意のプライマーを合成起点とする相補鎖合成は、インサートプライマーやインナープライマーがアニールすべき領域に向かって進行するような位置関係にあるべきである。
言いかえれば、インナープライマーやインサートプライマーを起点とする相補鎖合成反応において鋳型として機能する領域の、任意の領域において合成起点を与えるようにデザインすることができる。任意のプライマーは、この条件を満たす限り、任意の領域に相補的な塩基配列からなることができる。たとえば、インナープライマーやインサートプライマーのセットの一方を、任意のプライマーとして用いることもできる。このような態様は反応に必要な成分を少なくすることから、本発明における望ましい態様の一つである。
特に、異なる鋳型核酸に対してインサートプライマーとインナープライマーを用いる場合には、インナープライマーやインサートプライマーは、1つの鋳型に対して1セットしか与えられない。このようなケースでは、これらのプライマーに加えて、任意のプライマーを加え、これらのプライマーがアニールすべき領域を塩基対結合が可能な状態とすることで、迅速な反応を期待できる。
なお任意のプライマーによる2本鎖の状態にある核酸を鋳型とする相補鎖合成反応が達成できる条件とは、実際には次の複数の工程を同じ条件下で進めることができる条件ということができる。
i)2本鎖の状態にある鋳型核酸に対して任意のプライマーが合成起点を与える
ii)前記合成起点を利用して相補鎖合成反応が進む
プライマーは少なくともそれがアニールすべき領域が1本鎖でなければ合成起点を与えることはできないと考えられていた。そのため従来は、2本鎖の核酸を鋳型とする場合には、プライマーのアニールに先立って必ず変性によって1本鎖とする工程が実施されてきた。しかし必ずしも完全な1本鎖としなくとも、何らかの手段によって2本鎖が不安定化される条件のもとで、プライマーとインキュベートすることにより、合成起点を与えることができる。2本鎖が不安定化される条件としては、たとえば融解温度(Tm)近くにまで加温する方法を示すことができる。あるいは、更にTm調整剤を存在させることも有効である。
2本鎖核酸が不安定化する条件下で、プライマーをインキュベートすることによって相補鎖が合成される現象は、既に報告されている(特表平11−509406;WO97/00330)。しかし報告された条件では、実際にはごくわずかな量の合成生成物しか期待できない。2本鎖核酸の不安定化を利用してプライマーを合成起点として相補鎖合成を行うことは、原理的には可能であるが、1本鎖の核酸を鋳型とする反応ほど効率的な反応を期待できないのである。PCR法のような温度変化を必要とする相補鎖合成反応との組み合わせにおいては、2本鎖の不安定化を利用した相補鎖合成反応の効率が全ての相補鎖合成反応に影響するので、実用的な反応効率を達成することは困難である。このことが公知の方法における不十分な増幅効率の原因となっていた。
一方本発明では、2本鎖核酸の不安定化に基づく相補鎖合成反応を、もともと等温で進行する核酸合成反応のためのプライマーがアニールすべき領域を供給することに応用したことによって、2本鎖の不安定化に基づく相補鎖合成の効率の低さを補うことができるという新規な知見に基づいている。
本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法において、鋳型核酸には任意の核酸を用いることができる。まず鋳型核酸は、1本鎖、2本鎖、あるいは3本鎖であることができる。1本鎖でなくとも、適切な条件を与えれば、変性工程無しで鋳型核酸として利用しうることは既に述べた。また鋳型とする核酸は、DNAであってもRNAであっても良い。RNAを鋳型とするときには、RNAを鋳型として鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素を利用することができる。RNAを鋳型とする逆転写酵素活性を有し、かつ鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼが知られている。たとえばBca DNAポリメラーゼは、鎖置換活性を有し、逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼである。なお、第2鎖を合成したうえで完全な2本鎖cDNAとした後に、本発明による核酸の合成方法を適用しうることは言うまでも無い。本発明において、核酸の由来は制限されない。通常核酸は生体材料に由来するが、人工的に合成された核酸を鋳型とすることもできる。
本発明に基づく核酸の合成方法、あるいは核酸の増幅方法は、DNAチップに固定するためのDNAの合成に有用である。以下に本発明を利用して、DNAチップを調製する工程を例示する。
まず、DNAチップに固定すべき核酸の塩基配列に基づいて、本発明のプライマーをデザインする。本発明の開示に基づいて、所望の核酸の増幅に必要なプライマーをデザインすることは、当業者が通常行いうる。デザインされたプライマーを、本発明の核酸の増幅反応に必要な成分とともに、適当な条件下でインキュベートすることにより、反応液中には、目的とする塩基配列が連結したLAMP法に特有の構造を有する核酸が多量に生成される。得られた生成物は、そのまま、あるいは適当な処理の後に、公知の方法によって基板上に固定される。基板には、ガラススライドやナイロンメンブレンなどが用いられる。基板上に核酸を固定化する方法は公知である。
本発明に基づいてDNAチップに固定するための核酸を合成するとき、鋳型としては任意の核酸を利用することができる。より具体的には、様々な細胞に由来するcDNAクローン等を鋳型として用いる。あるいはゲノムを鋳型として、任意の領域を本発明によって増幅し、DNAチップに固定化することもできる。
たとえばLAMP産物は、インバーテットリピート構造になることが構造上の特徴である。すなわち、相補的な塩基配列が、交互に連結された構造である。このような構造を持つ核酸においては、相補的な塩基配列からなる領域同士で分子内アニールが起きハイブリ効率に影響を与えることが予想される。しかし分子内アニールによる問題は、簡単な処理で容易に解消することができる。LAMP産物は、たとえば特定の位置に導入しておいた制限酵素サイトを利用して、制限酵素処理により断片化することができる。いったん断片化された核酸は、もはや分子内アニールを起こすことは無い。
一般に、固定化されているDNAの長さが長いほどプローブとの反応性は良いとされている。これまでにLAMP法で合成された核酸は、インナープライマーに挟まれた領域の長さが20−100bp程度のものであった。この程度の長さでは、プローブとの反応性を高めることが難しい。本発明によれば、これまでに試みられたことの無い、比較的長いDNAをLAMP法に基づいて増幅することができる。その結果、本発明の合成生成物を利用して調製したDNAチップは、公知のLAMP法で合成した核酸を用いたチップに比べて効率よくシグナルを検出できる。
DNAチップを用いた遺伝子の解析方法として、たとえば次のような手法が一般に用いられている。まず異なる2つの細胞に由来するmRNA試料から調製した標識cDNAをマイクロアレイに対してハイブリダイズさせる。次に、DNAチップに固定化した核酸にハイブリダイズしたプローブのシグナルを測定する。各核酸ごとにシグナルを測定し、シグナル強度を解析すれば、各々のmRNAの相対的な発現レベルが比較される。このとき、チップ上に固定化された核酸の間でハイブリダイズ効率にばらつきがあると、解析結果の信頼性が失われる原因となる。したがって、より長い核酸を固定し、十分な反応性を与えることには意義がある。
更に、本発明に基づいて2つの異なる遺伝子に由来する塩基配列を連結した標的塩基配列からなるポリヌクレオチドを合成し、DNAチップにおけるプローブとして用いることもできる。一般にDNAチップにおいては、遺伝子ごとにプローブを用意しなければならない。一方本発明によって合成された異なる遺伝子由来の塩基配列を連結したポリヌクレオチドを利用すれば、1つのポリヌクレオチドが2つの遺伝子に対するプローブとして機能する。さらに、それぞれの遺伝子に対するプローブの量が均等になるので、シグナルを較正(ノーマライズ)する必要がない。
本発明の核酸の合成方法は、遺伝子のクローニングに応用することができる。PCR法に基づく遺伝子のクローニングは、PCR法の反応産物を制限酵素で消化し、クローニングベクターに組み込んで行われる。本発明においても同様に、LAMP産物を適当な制限酵素で消化すれば、クローニングベクターに組み込むための断片とすることができる。
LAMP産物は、DNAチップに固定すべき核酸の合成の他、標識プローブの調製に利用することもできる。すなわち、LAMP産物を鋳型としてプライマーエクステンションによる標識プローブを調製することができる。LAMP法では多量のDNAを生成するので、標識プローブを容易に、かつ多量に調製することができる。このようにして調製された標識プローブは、ハイブリダイゼーションアッセイや、DNAチップによる解析用のプローブとして有用である。
また本発明の核酸の増幅方法は、発現用の遺伝子の取得に利用することができる。ヒトのゲノムドラフトの塩基配列情報から、蛋白質を構成するアミノ酸の平均は352アミノ酸であると予測された。これは1056bpのDNAに相当する。本発明の方法では、少なくとも約500bp前後のDNAを増幅することができる。つまりヒトの平均的な蛋白質の約半分の領域をカバーすることができることになる。タンパク質の機能解析はポストゲノム世代の重要な研究テーマに位置付けられている。そしてそのためには、蛋白質を発現させる必要がある。本発明は、遺伝子の翻訳領域の増幅に貢献できると考える。
更に本発明の核酸の増幅方法による生成物を指標として、核酸を検出、あるいは定量することができる。すなわち、特定の塩基配列の増幅を目的としてデザインされたプライマーを用いたときに、多量の生成物が生じた場合には、その塩基配列が試料中に存在していることがわかる。更に、シグナルの強度や、一定のシグナル強度に達するまでの反応時間を指標として、試料中の標的塩基配列を含む核酸の存在量を比較することもできる。
合成される核酸を測定する方法は公知である。LAMP法によって合成された核酸は、1本鎖とは言え相補的な塩基配列から構成されるため、その大部分が塩基対結合を形成している。この特徴を利用して、合成生成物の検出が可能である。エチジウムブロマイド、SYBR Green I、あるいはPico Greenのような2本鎖特異インターカレーターである蛍光色素の存在下で本発明による核酸の合成方法を実施すれば、生成物の増加に伴って蛍光強度の増大が観察される。
これをモニターすれば、閉鎖系でリアルタイムな合成反応の追跡が可能である。この種の検出系はPCR法への応用も考えられているが、プライマーダイマー等によるシグナルの発生と区別がつかないことから問題が多いとされている。しかし本発明に応用した場合には、非特異的な塩基対結合が増加する可能性が非常に低いことから、高い感度と少ないノイズが同時に期待できる。2本鎖特異インターカレーターと同様に、均一系の検出系を実現する方法として、蛍光エネルギー転移の利用が可能である。
加えて、本発明の核酸の増幅方法に基づいて、変異を検出することができる。鋳型核酸が予測された塩基配列でなかった場合に、本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法を構成する、いずれかの相補鎖合成反応が阻害されるようにしておけば、反応生成物の量、あるいは有無を指標として変異を検出することができる。本発明による変異の検出方法について、以下に具体的に述べる。
本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法は、複数の相補鎖合成反応によって構成される。このうち、インサートプライマーの3’末端を起点とする相補鎖合成反応、あるいはインサートプライマーを鋳型として合成された相補鎖の3’末端を起点とする相補鎖合成反応は、本発明に固有の反応である。本発明による変異の検出方法においては、これらインサートプライマーに関連する2種類の相補鎖合成反応の、少なくともいずれかが、鋳型核酸の塩基配列によって調節されるようにする。
本発明において、インサートプライマーの5’末端を変異を検出すべき領域に相当するようにデザインするときには、2つのインサートプライマーの5’末端の塩基配列が相補的な塩基配列とならないようにするのが望ましい。具体的には先に述べたインサートプライマーの具体例のうち、[鋳型核酸中の連続する標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー2]として説明したようなインサートプライマーを用いれば良い。この例では、インサートプライマーを鋳型として合成された相補鎖は、常に標的塩基配列からなる領域にアニールして、塩基配列のチェック機構が作用することになる。
これに対して、インサートプライマーの5’末端が相補的な塩基配列で構成されていた場合には、インサートプライマーを鋳型として合成された核酸は、インサートプライマーの塩基配列に由来する塩基配列に対してアニールすることになる。標的塩基配列に由来する塩基配列に対してアニールしなければ、塩基配列をチェックすることはできない。
鋳型依存型の相補鎖合成反応は、合成起点となる3’末端付近の塩基配列の組み合わせに大きな影響を受ける。したがって、インサートプライマーの3’末端、および/または5’末端付近を、変異を検出すべき領域に相当するように、インサートプライマーをデザインすればよい。より具体的には、3’末端から5塩基、より望ましくは2〜4塩基の領域に検出すべき変異が位置するようにデザインすれば、鋳型核酸における塩基配列の変化によって相補鎖合成反応を調節することができる。インサートプライマーを鋳型として合成された相補鎖の3’末端で、相補鎖合成を調節する場合にも、同様の条件で、塩基配列をデザインできることは言うまでもない。
本発明に基づいて鋳型核酸の塩基配列の変異を検出するとき、インナープライマーの3’末端、あるいはインナープライマーを鋳型として合成された相補鎖の3’末端を起点とする相補鎖合成反応を、鋳型核酸の変異によって調節することもできる。そのためには、前記のように、相補鎖合成の起点となる3’末端付近が、検出すべき変異に相当するように各プライマーの塩基配列をデザインする。特に、インナープライマーを鋳型として合成される相補鎖の3’末端は、鋳型に由来する塩基配列からなる領域に対して何度もアニールして相補鎖合成の起点となることから、変異のチェック機構を厳しくすることができる。インサートプライマーに合わせて、インナープライマーを利用して変異の検出を行えば、1組のプライマーによって、複数個所の変異を同時に解析することができる。本発明においては、インサートプライマーとインナープライマーの間隔を自由に設定することができるので、検出すべき変異が離れて存在していても、問題とならない。
本発明の変異の検出方法を利用して複数の変異を同時に解析するときには、検出すべき変異の種類に合わせて、様々な解析手法を利用することができる。たとえば、2つのSNPsAおよびBが特定の形質とリンクしている場合を例に、本発明による解析手法を説明する。AとBが特定の塩基の組み合わせであるときに、特定の形質が発現するときには、その組み合わせに限って、相補鎖合成反応が構成されるように、プライマーをデザインする。反応生成物の生成は、試料に含まれる核酸におけるAとBの塩基が、いずれも検出すべき塩基であることを意味している。
あるいは、4×4=16とおりの組み合わせのプライマーを用いれば、2つのSNPsに対して、あらゆる塩基の組み合わせを検出することができる。なお、全ての組み合わせを検出しようとするとき、必ずしも16とおりの組み合わせの全てを実験的に確認する必要はない。たとえばAが塩基aであるときに、Bの塩基を決定する場合、Bについてa、t、およびcのためのプライマーをデザインして3通りの実験を行えば、反応生成物が観察されない場合には、Bはatcのいずれでもないこと、すなわちgであることが推測できる。したがって、この核酸の塩基は、A−a/B−gであると決定することができる。すなわち、12通りの組み合わせによって、2点の塩基の全ての組み合わせを決定することもできる。
このように、複数個所の変異を同時に確認できることは、本発明の大きな特徴である。しかも本発明による変異の検出方法は、特異性に優れる。PCR法では、プライマーを鋳型として写し取った核酸に対してプライマーがアニールし、相補鎖合成反応が行われるので、1塩基の変異の検出を検出することは困難とされる。しかし本発明では、相補鎖合成反応が、鋳型に由来する塩基配列に対してアニールする領域によってコントロールされる。つまり、より特異的に変異を検出することができる。
本発明による核酸の合成方法、あるいは増幅方法に必要な各種の試薬類は、あらかじめパッケージングしてキットとして供給することができる。具体的には、本発明のために、インサートプライマー、インナープライマー、アウタープライマー、あるいはループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド、相補鎖合成の基質となるdNTP、鎖置換をともなって相補鎖合成を行うDNAポリメラーゼ、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液、更に必要に応じて合成反応生成物の分離や切断のために必要な試薬類で構成されるキットが提供される。たとえば本発明のキットが、核酸の検出を目的とする場合には、本発明の合成方法によって合成される核酸を検出するための検出剤を組み合せることができる。あるいは、本発明に基づいて融合蛋白質をコードするDNAを得ることを目的とするキットにおいては、融合パートナーをコードするDNAをキットに組み合せることができる。
特に、本発明の望ましい態様においては、反応途中で試薬の添加が不要なことから、1回の反応に必要な試薬を反応容器に分注した状態で供給することにより、サンプルの添加のみで反応を開始できる状態とすることができる。必要なDNAの調製を反応容器のままで行えるようなシステムとすれば、反応後の容器の開封を全面的に廃止することができる。これは、コンタミネーションの防止上、たいへん望ましいことである。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
発明を実施するための最良の形態
実施例1:
<インサートプライマーの設計>
LAMP法に基づく核酸増幅反応において、反応系に付加的なプライマーを加えることについて検討した。プライマーを設計する場所は、インナープライマーに挟まれた領域である。またプライマーの方向は、F1あるいはR1と同じ向きとし、これらのプライマーの5’部分が重なるように設計した。R1あるいはF1とは、LAMP法において、自身を鋳型とする相補鎖合成反応にあたり、自身にアニールする3’末端を含む領域である。この付加的なプライマーをインサートプライマー(Insert primer)と名付けた。各プライマーと標的塩基配列との位置関係を図6に示した。
<インサートプライマーを用いた反応>
pBSTspRIベクターに挿入した387bp DNA断片を鋳型として用い、以下に示す反応条件で本発明に基づく核酸の合成反応を行った。鋳型として用いた核酸の塩基配列を配列番号:1(ヒト・インターロイキン8遺伝子の塩基配列)に示した。配列番号:1の塩基配列は、各プライマーが認識する領域を含む。この鋳型核酸に対して、以下に記載の塩基配列からなる各種のプライマーを合成して用いた。
反応液組成(25μL中)
20mM Tris−HCl pH8.8
10mM KCl
10mM(NH4)2SO4
4mM MgSO4
1M Betaine
0.1% Triton X−100
0.4mM dNTPs
8U Bst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)
プライマー:
1600nMインナープライマーF/Inner F
1600nMインナープライマーR/Inner R
400nMアウタープライマーF/Outer F
400nMアウタープライマーR/Outer R
鋳型とした核酸は熱変性をしないものを用意し、反応液を65℃でオーバーナイトインキュベートした。このとき、インサートプライマー(インサートプライマーF/Insert FとインサートプライマーR/Insert R)を終濃度10、20、30、40、50pmol/25μLになるように同時に加えた。この条件で、インサートプライマーの添加量は、インナープライマー(1600nM=40pmol/25μL)に対して、0.25〜1.25倍となる。上記反応液の5μLに5μLのloading bufferを添加し、2%アガロースゲル(0.5% TBE)を使って、0.5時間、100Vで電気泳動した。分子サイズマーカーとして、100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)を使用した。泳動後のゲルをエチジウムブロマイド(EtBrと省略する)で染色して核酸を確認した。結果は図7に示すとおりである。各レーンは次のサンプルに対応している。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:インサートプライマー10pmol/25μL添加
レーン3:インサートプライマー20pmol/25μL添加
レーン4:インサートプライマー30pmol/25μL添加
レーン5:インサートプライマー40pmol/25μL添加
レーン6:インサートプライマー50pmol/25μL添加
この結果、インサートプライマーの濃度が増加するのに従い予想されるサイズの明瞭なバンドが確認できた。これは、インサートプライマーによって、期待された反応が進行していることを示している。一方、インサートプライマーを加えない場合にはスメアなバンドが観察され、非特異的な増幅が起きている可能性が示唆された。
<反応産物のBamHI消化>
上記反応産物が目的とする構造を有することを確認するためにBamHIで消化した。制限酵素を使った消化によって理論どおりの断片を生じる一方、図7で観察された高サイズのスメアなパターンや泳動されないバンドが消滅すれば、これらがいずれも本発明によって合成された1本鎖上に相補的な塩基配列を連結した核酸であることが確認できる。ここでは40pmol/25μLのインサートプライマーを使用した反応産物を使用した。
25μLの反応液をQIAquick PCR purification kit(QIAGEN)を用いて精製し、50μLのTris/HCl pH8.0で溶出した。このうち1μLをBamHIにて37℃、1時間消化した。消化物を2%アガロースゲルを使って100Vで30分間泳動した。泳動後、ゲルをEtbrで染色し核酸を検出した。分子量マーカーは100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)を用いた。結果は図8に示すとおりである。各レーンは次のサンプルに対応している。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:−:生成物のBamHI消化物(インサートプライマーを用いないとき)
レーン3:+:生成物のBamHI消化物(インサートプライマーを用いたとき)
インサートプライマーを加えていないものでは目的とするバンドが確認できなかったのに対して、加えたものでは400bp付近にバンドが検出された。なおインナープライマーで挟まれた領域は396bpである。
以上の結果より、インサートプライマーを用いると、比較的長い標的塩基配列を容易に、しかも特異的に増幅できることが確認された。
実施例2:
<インサートプライマーを用いたLAMP反応>
pBSTspRIベクターに挿入したラムダDNA断片(528bp Sau3AI断片;配列番号15)を鋳型として用い、以下に示す反応条件でLAMP反応を行った。図11にはプライマーの位置、および制限酵素切断部位を示す。このとき、以下に記載の塩基配列からなるインサートプライマー(InsFとInsR、あるいはInsF2とInsR2)を終濃度400nMになるように同時に加えた。インナープライマーおよびアウタープライマーの濃度は以下の通りである。またインナープライマーとアウタープライマーの塩基配列は実施例1と同じである。インナープライマーFおよびインナープライマーR=800nM,アウタープライマーFおよびアウタープライマーR=200nM。増幅後、2%アガロースゲル電気泳動し、EtBrで染色した。この結果、予想される位置にバンドが確認できた(図12)。
<LAMP産物のBssHII消化>
上記LAMP産物が目的とする構造を有することを確認するためにBssHII消化を行った。反応産物を含む25μlの反応液をQIAquic PCR purification kitを用いて精製し、50μlのTris/HCl pH8.0で溶出した。このうち1μlをBssHIIにて37℃、1時間消化した。図12のラダーを形成した増幅産物をBssHIIで消化すれば、図11の中のBssHIIで挟まれた配列に相当する部分が約600bpのメインバンドとして生成するはずである。
消化物を2%アガロースゲルを使って100Vで30分間電気泳動した。泳動後、ゲルをEtBrで染色し核酸を検出した。マーカーは100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)を用いた。この結果、予想される位置にバンドが確認できた(図13)。今回、インナープライマーで挟まれた領域は536bpである。以上より、別の鋳型を用いたときでもインサートプライマーを用いると、比較的長い鋳型を容易に増幅することができた。また、本実施例では2種類のインサートプライマー(InsF/R、およびInsF2/R2)を設計し、いずれのプライマーでも増幅することが可能であった。
実施例3:
<プライマーの設計>
本発明の方法に基づいて、鋳型核酸の任意の部分の欠失変異体を合成できること、並びに中央部分に塩基配列の変異を導入した標的塩基配列の合成が可能であることを確認した。鋳型(λDNA、配列番号:8)に対して、以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをインナープライマー、インサートプライマー、およびアウタープライマーとして用いた。
インサートプライマーの5’側には、リンカー配列として任意の配列CATCAAATATのセンスあるいはアンチセンスをそれぞれ付加した。上記インサートプライマーF/Insert Fおよび、インサートプライマーR/Insert Rは、それぞれλDNAの離れた領域に対してアニールする。その結果、図9に示すように中間部分に位置する[欠失]で示した部分を欠失(deletion)し、リンカー配列CATCAAATATを介して、矢印で挟まれた2つの領域を連結した塩基配列からなる標的塩基配列が合成されるはずである。このとき鋳型の塩基配列と標的塩基配列とを比較すると、図9におけるF1/R1間の塩基数で、鋳型においては525bp(図9の上)だったものが、46bpの標的塩基配列(図9の下)として合成される。
ターゲットDNAとして、λDNAは熱変性をしないものを用意し、実施例1と同じ組成の反応液に次の濃度のプライマーを加え、65℃で4時間反応させた。
プライマー:
800nMインナープライマーF/Inner F
800nMインナープライマーR/Inner R
800nMインサートプライマーF/Insert F
800nMインサートプライマーR/Insert R
200nMアウタープライマーF/Outer F
200nMアウタープライマーR/Outer R
<変異導入用インサートプライマーを用いたLAMP反応>
λDNA(1x106分子)を鋳型として用い、上記に示す条件で本発明の核酸の合成反応を行った。25μLの反応液をQIAquick PCR purification kit(QIAGEN)を用いて精製し、50μLのTris/HCl pH8.0で溶出した。このうち1μLをEcoRVにて37℃、1時間消化した。
消化物を2%アガロースゲルを使って100Vで30分間泳動した。泳動後、ゲルをEtbrで染色し核酸を検出した。分子量マーカーには100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)を用いた。結果は図10に示すとおりである。左側のレーンは100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)である。また各レーンは次のサンプルに対応している。図10から、欠失したときに予測される位置にバンドが検出された。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:反応生成物EcoRV消化前
レーン3:反応生成物をEcoRVで消化後
<EcoRV消化物のクローニング>
上記反応生成物の塩基配列を決定した。予めEcoRVで消化したベクター(pBlue script)とEcoRVで消化した反応生成物をライゲーションして、pBS525/EcoRVとした。更にこのベクターをコンピテントセル(DH5α)にトランスフォーメーションした。トランスフォームした大腸菌をクローニングし、増殖させた後、大腸菌からアルカリSDS法でプラスミドを回収した。
<塩基配列の決定>
シーケンシング反応はCy5.5標識ベクター特異的プライマー、ThermoSequenase Cycle Sequencing Kit(Amersham pharmacia biotech)を用い、ダイプライマー法を利用して塩基配列を決定した。DNA塩基配列は自動蛍光DNAシーケンサー(ファルマシア社製モデルSeq4x4)を使用して決定した。
<結果>
インサートプライマーにはそれぞれ10塩基のリンカー配列(CATCAAATAT)を付けており、これらは相補的な塩基配列になっている。インサートプライマーを用いたLAMP反応では、この配列を介してアニールが起こりDNA合成が開始される。これによりインサートプライマーで挟まれた領域(図9の[欠失])を欠失した配列が得られることが期待できる。
塩基配列を決定した結果、予測された塩基配列からなるDNAが合成されたことを確認できた。以上より、インサートプライマーを用いることにより欠失変異を得ることが可能であることが示された。更に、標的塩基配列以外の塩基配列を付加したインサートプライマーを使用することにより、増幅配列中に塩基を挿入することができた。
今回の実験により、塩基の欠失および挿入を同時に示すことができた。
産業上の利用の可能性
本発明によって、LAMP法の原理を利用しながら、公知のLAMP法では知られていなかった新たな核酸の合成方法が提供された。本発明の核酸の合成方法によれば、以下のような新たな利点を期待することができる。
まず、本発明の核酸の合成方法は、長い標的塩基配列を塩基配列特異的に合成することができる。標的塩基配列の末端領域にプライマーを設定する公知のLAMP法では、条件によっては、長い標的塩基配列の合成にあたり、非特異的な合成生成物が生じてしまうことがあった。非特異的な合成生成物は、核酸の合成においては、収率の低下を意味している。
これに対して本発明の方法では、たとえば400塩基を越えるような長い標的塩基配列であっても、非特異的な副生物の産生を抑制し、しかも迅速に目的とする核酸を合成することができる。
本発明の核酸の合成方法は、DNAマイクロアレイに固定化するためのプローブの合成に有用である。DNAマイクロアレイに固定化するプローブには数百塩基の長さを有するDNAが必要とされていることは既に述べた。本発明によれば、400塩基以上の長さのDNAを迅速に、かつ容易に合成することができる。また、LAMP法がもともと鋳型に対して高度に特異的な合成を期待できる方法であることから、その合成生成物には、高い正確性が期待できる。
次に、本発明の核酸の合成方法においては、標的塩基配列の末端のみならず、中間にもプライマーを設定する。この特徴を利用して、標的塩基配列の中間にも変異を導入することができる。現在遺伝子の合成方法として広く普及しているPCR法においても、プライマーは標的塩基配列の末端部分にしか設定しない。したがって、本発明のように、標的塩基配列の中央部分にも変異を導入することができる技術は、遺伝子操作のための技術としてたいへん有用である。
本発明の遺伝子の合成方法、あるいは増幅方法によって、鋳型核酸において離れて位置する複数の領域を連結した塩基配列からなる核酸を得ることができる。この特徴によって本発明は、鋳型核酸の任意の領域を欠失した変異体を自由に合成することを可能とする。
更に本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法によって、異なる鋳型核酸から選択される任意の領域を、一つの連続する塩基配列として有する核酸を得ることができる。この特徴によって本発明は、任意の融合蛋白質をコードする遺伝子を、自由に合成することを可能とする。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図。図中、各鎖の3’末端を矢印で示した。
図2は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図(図1の続き)。
図3は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図(図2の続き)。
図4は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図(図3の続き)。
図5は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図(図4の続き)。
図6は、実施例において設定したインナープライマーとインサートプライマーの鋳型とする核酸に対する位置関係を模式的に示す図。
図7は、インサートプライマーを用いたLAMP法の反応生成物をアガロース電気泳動した結果を示す写真である。各レーンは左から順に次の結果を示している。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:インサートプライマーなし
レーン3:インサートプライマー10pmol/25μL添加
レーン4:インサートプライマー20pmol/25μL添加
レーン5:インサートプライマー30pmol/25μL添加
レーン6:インサートプライマー40pmol/25μL添加
レーン7:インサートプライマー50pmol/25μL添加
図8は、インサートプライマーを用いたLAMP法の反応生成物を、制限酵素BamHIで消化しアガロース電気泳動した結果を示す写真である。各レーンは左から順に次の結果を示している
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:−:生成物のBamHI消化物(インサートプライマーを用いないとき)
レーン3:+:生成物のBamHI消化物(インサートプライマーを用いたとき)
図9は、鋳型核酸の塩基配列と、各プライマーの位置関係を示す図。
図10は、鋳型上において離れた位置にアニールするインサートプライマーを用いたLAMP法の反応生成物を、制限酵素EcoRVで消化しアガロース電気泳動した結果を示す写真である。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:反応生成物EcoRV消化前
レーン3:反応生成物をEcoRVで消化後
図11は、インサートプライマーの設計位置を示す図。
図12は、LAMP産物の電気泳動した結果を示す写真である。
レーン1:マーカー
レーン2:インサートプライマー無し
レーン3:インサートプライマーInsF/R
レーン4:インサートプライマーInsF2/R2
図13は、LAMP産物を制限酵素BssHIIで消化しアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。
レーン1:マーカー
レーン2:InsF/R、BssHII未消化物
レーン3:InsF/R、BssHII消化物
レーン4:InsF2/R2、BssHII未消化物
レーン5:InsF2/R2、BssHII消化物
本発明は、鋳型に対して相補的な塩基配列で構成される核酸を合成する方法に関する。
背景技術
核酸塩基配列の相補性に基づく分析方法は、遺伝的な特徴を直接的に分析することが可能である。そのため、遺伝的疾患、癌化、微生物の識別等には非常に有力な手段である。また遺伝子そのものを検出対象とするために、例えば培養のような時間と手間のかかる操作を省略できる場合もある。
とはいえ試料中に存在する目的の遺伝子量が少ない場合の検出は一般に容易ではなく、標的遺伝子そのものを、あるいは検出シグナル等を増幅することが必要となる。標的遺伝子を増幅する方法の一つとしてPolymerase Chain Reaction(PCR)法が知られている(Science,230,1350−1354,1985)。PCR法は、in vitroにおける核酸の増幅技術として現在最も一般的な方法である。その指数的な増幅効果に基づく高い感度により優れた検出方法として定着した。また、増幅生成物をDNAとして回収できることから、遺伝子クローニングや構造決定などの遺伝子工学的手法を支える重要なツールとして幅広く応用されている。しかしPCR法においては、実施のために特別な温度調節装置が必要なこと;増幅反応が指数的に進むことから定量性に問題があること;試料や反応液が外部からの汚染を受け、誤って混入した核酸が鋳型として機能してしまうコンタミネーションの影響を受け易いこと等の問題点が指摘されている。
ゲノム情報の蓄積に伴って、1塩基多型(SNPs;single nucleotide polymorphism)の解析が注目されている。プライマーの塩基配列にSNPsを含むように設計することによってPCRを利用したSNPsの検出が可能である。すなわち、反応生成物の有無によってプライマーに相補的な塩基配列の有無を知ることができる。しかしPCRにおいては、万が一誤って相補鎖合成が行われてしまった場合には、その生成物が以降の反応の鋳型として機能して誤った結果を与える原因となる。現実には、プライマーの末端における1塩基の相違のみでは、PCRを厳密に制御することは難しいといわれている。したがって、PCRをSNPsの検出に利用するには特異性の改善が必要とされている。
一方リガーゼに基づく核酸合成方法も実用化されている。LCR法(Ligase Chain Reaction,Laffler TG;Carrino JJ;Marshall RL;Ann.Biol.Clin.(Paris),1993,51:9,821−6)は、検出対象となる配列上において隣接する2つのプローブをハイブリダイズさせ、リガーゼによって両者を連結する反応が基本原理になっている。標的塩基配列が存在しない場合には2つのプローブを連結することはできないので、連結生成物の存在は標的塩基配列の指標となる。LCR法も合成した相補鎖と鋳型との分離に温度制御が必要となることから、PCR法と同じ問題点を伴っている。LCRについては、隣接するプローブの間にギャップを設け、これをDNAポリメラーゼで充填する工程を加え特異性を改善する方法も報告されている。しかし、この改良方法によって期待できるのは特異性のみであり、温度制御を要求する点については依然として課題を残している。しかも、必要な酵素が増えるため、コストを犠牲にしているといえる。
検出対象配列を鋳型として相補的な配列を持つDNAを増幅する方法には、Strand Displacement Amplification(SDA)法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,392−396;1992][Nucleic Acid.Res.,20,1691−1696;1992]と呼ばれる方法も知られている。SDA法は、ある塩基配列の3’側に相補的なプライマーを合成起点として相補鎖合成を行うときに、5’側に2本鎖の領域が有るとその鎖を置換しながら相補鎖の合成を行う特殊なDNAポリメラーゼを利用する方法である。なお以下本明細書において単に5’側、あるいは3’側と表現するときには、いずれも鋳型となっている方の鎖における方向を意味している。5’側の2本鎖部分が新たに合成された相補鎖によって置換(displacement)されることからSDA法と呼ばれている。SDA法では、プライマーとしてアニールさせた配列に予め制限酵素認識配列を挿入しておくことによって、PCR法においては必須となっている温度変化工程の省略を実現できる。すなわち、制限酵素によってもたらされるニックが相補鎖合成の起点となる3’−OH基を与え、そこから鎖置換合成を行うことによって先に合成された相補鎖が1本鎖として遊離して次の相補鎖合成の鋳型として再利用される。このようにSDA法はPCR法で必須となっていた複雑な温度制御を不要とした。
しかし、SDA法では鎖置換型のDNAポリメラーゼに加え、必ずニックをもたらす制限酵素を組み合わせる必要がある。必要な酵素が増えるということは、コストアップの要因である。また、用いる制限酵素によって2本鎖の切断ではなくニックの導入(すなわち一方の鎖だけの切断)を行うために、一方の鎖には酵素消化に耐性を持つように合成の際の基質としてαチオdNTPのようなdNTP誘導体を利用しなければならない。このため、SDAによる増幅産物は天然の核酸とは異なった構造となり、制限酵素による切断や、増幅産物の遺伝子クローニングへの応用といった利用は制限される。またこの点においてもコストアップの要因を伴っているといえる。加えて、未知の配列にSDA法を応用するときには、合成される領域の中にニック導入のための制限酵素認識配列と同じ塩基配列が存在する可能性を否定できない。このようなケースでは完全な相補鎖の合成が妨げられる心配がある。
DNA−RNAのキメラオリゴヌクレオチドを利用して、RNA部分を酵素的に除去することにより、3’−OH基を供給する方法も公知である。たとえばIsothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids(ICAN法、WO00/56877)と名付けられた核酸の合成方法においては、3’側がRNAで構成されたキメラオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる。相補鎖合成の後に、RNAseHの作用によってこのオリゴヌクレオチドのRNA部分が消化され、新たな3’−OH基が連続的に供給される。一連の反応は等温で進行させることができるとされている。しかし、プライマーに用いるオリゴヌクレオチドは、DNA−RNAキメラオリゴヌクレオチドでなければならない。また、RNAを除去するための酵素なども必要となるため、前述のSDA法と同様の問題点を有するといえる。
複雑な温度制御を不要とする核酸の増幅方法として、Nucleic Acid Sequence−based Amplification(NASBA、TMA/Transcription Mediated Amplification法とも呼ばれる)が公知である。NASBAは、標的RNAを鋳型としてT7プロモーターを付加したプローブでDNAポリメラーゼによるDNA合成を行い、これを更に第2のプローブで2本鎖とし、生成する2本鎖DNAを鋳型としてT7 RNAポリメラーゼによる転写を行わせて多量のRNAを増幅する反応系である(Nature,350,91−92,1991)。NASBAは2本鎖DNAを完成するまでにいくつかの加熱変性工程を要求するが、以降のT7 RNAポリメラーゼによる転写反応は等温で進行する。しかし、逆転写酵素、RNaseH、DNAポリメラーゼ、そしてT7 RNAポリメラーゼといった複数の酵素の組み合わせが必須となることから、SDAと同様にコストの面では不利である。また複数の酵素反応を行わせるための条件設定が複雑なので、一般的な分析方法として普及させることが難しい。このように公知の核酸増幅反応においては、複雑な温度制御の問題点、あるいは複数の酵素が必要となることといった課題が残されている。
更に、これらの公知の核酸合成反応について、特異性やコストを犠牲にすることなく核酸の合成効率を更に向上させる試みについては、ほとんど報告が無い。たとえば、Rolling−circle amplification(RCA)と呼ばれる方法では、標的塩基配列の存在下でパドロックプローブ(padlock probe)に相補的な塩基配列が連続した1本鎖のDNAを継続して合成できることが示された(Paul M.Lizardi et al,Nature Genetics 19,225−232,July,1998)。RCAでは、1本のオリゴヌクレオチドの5’末端と3’末端がLCRにおける隣接プローブを構成する特殊な構造のパドロックプローブが利用される。そして鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼを組み合わせることにより、標的塩基配列の存在下でライゲーションされ環化したパドロックプローブを鋳型とする連続的な相補鎖合成反応がトリガーされる。同じ塩基配列からなる領域が繰り返し連続した構造を持った1本鎖核酸が生成される。この1本鎖核酸に対して更にプライマーをアニールさせてその相補鎖の合成を行って、高度な増幅を実現している。しかし、複数の酵素が必要な点は依然として残された課題である。また、相補鎖合成のトリガーは、2つの隣接領域の連結反応に依存しており、その特異性は原理的にLCRと同じレベルである。
3’−OHの供給という課題に対しては、3’末端に同一鎖上の塩基配列に相補的な配列を持たせ、末端でヘアピンループを形成させる方法が公知である(Gene 71,29−40,1988)。このようなヘアピンループからは、自身を鋳型とした相補鎖合成が行われ、相補的な塩基配列で構成された1本鎖の核酸を生成する。たとえばPCT/FR95/00891では、相補的な塩基配列を連結した末端部分で同一鎖上にアニールする構造を実現している。しかしこの方法では、末端が相補鎖との塩基対結合(base pairing)を解消して改めて同一鎖上で塩基対結合を構成するステップが必須である。このステップは塩基対結合を伴う相補的な塩基配列同士の末端における微妙な平衡状態に依存して進むとされている。すなわち、相補鎖との塩基対結合と、同一鎖上での塩基対結合との間で維持される平衡状態を利用し、同一鎖上の塩基配列とアニールしたもののみが相補鎖合成の起点となる。したがって、高度な反応効率を達成するためには、厳密な反応条件の設定が求められるものと考えられる。更にこの先行技術においては、プライマー自身がループ構造を作っている。そのためプライマーダイマーがいったん生成すると、標的塩基配列の有無にかかわらず自動的に増幅反応が開始され非特異的な合成産物を形成してしまう。これは重大な問題点といえる。更に、プライマーダイマーの生成とそれに伴う非特異的な合成反応によるプライマーの消費が、目的とする反応の増幅効率の低下につながる。
その他に、DNAポリメラーゼに対して鋳型とならない領域を利用して同一鎖にアニールする3’末端構造を実現した報告(EP713922)がある。この報告も末端部分における動的平衡を利用している点、あるいはプライマーダイマー形成にともなう非特異的な合成反応の可能性においては先のPCT/FR95/00891と同様の問題点を持つ。更に、DNAポリメラーゼの鋳型とならない特殊な領域をプライマーとして用意しなければならない。
また前記NASBAの原理を応用した各種のシグナル増幅反応においては、2本鎖のプロモーター領域を供給するためにしばしば末端でヘアピン状の構造を伴ったオリゴヌクレオチドが利用される(特開平5−211873)。しかしこれらは、相補鎖合成の3’−OHの連続的な供給を可能とするものではない。更に特表平10−510161(WO96/17079)においては、RNAポリメラーゼによって転写されるDNA鋳型を得ることを目的として同一鎖上に3’末端をアニールさせたヘアピンループ構造が利用されている。この方法では、RNAへの転写と、RNAからDNAへの逆転写を利用して鋳型の増幅が行われる。しかし、この方法も複数の酵素を組み合わせなければ反応系を構成できない。
この他、5’末端にプライマーの伸長生成物の塩基配列に相補的な塩基配列を有するプライマーを用いた核酸の増幅反応が報告されている。この報告によれば、相補鎖が合成されると、プライマーの5’末端が相補的な塩基配列に対して結合し、その結果として初めにプライマーがアニールした領域が開放され、新たなプライマーのアニールが起きるとされている(EP971039)。この報告は、等温でプライマーのアニールが可能な領域を連続的に供給することは実現するが、基本的な原理はPCR等に頼っている。したがって、先に述べたような、PCRにおける反応特異性の問題を改善することはできない。
これに対して本出願人は、等温条件で実施することができ、しかもPCRに比較して、反応特異性を高い水準に維持することができる新規な核酸の合成方法を開発し特許出願した(WO00/28082)。そしてこの方法をLoop−mediated isothermal amplification(以下LAMP法と省略する)と名付けた(T.Notomi et al.,Nucleic Acid Res.,2000,Vol.28,No.12,e63)。
更に本出願人は、LAMP法を応用したSNPsの検出方法についても報告している(The 3rd International Workshop on Advanced Genomics 2000.11.13〜14;Yokohama,A Novel SNP Typing Technology Based on the Nucleic Acid Amplification Method,LAMP KANDA,Hidetoshi et al.)。LAMP法には、鋳型の塩基配列が設計とは異なっていたときに核酸の増幅反応が著しく阻害されるという特徴がある。この特徴により、LAMP法に基づく変異の検出方法は、検出感度を犠牲にすることなく高い特異性を実現した。
発明の開示
本発明の課題は、LAMP法の反応原理を応用した新たな核酸の合成方法を提供することである。
LAMP法は、高度な反応特異性を等温で達成することができる核酸の合成方法である。本発明者は、この方法を応用して、更に新たな核酸の合成原理を確立するために研究を重ねた。その結果、特定の構造を有する核酸とLAMP法を応用することによって、新しい原理で核酸の合成を行うことができることを見出した。更に、この反応原理に基づいて、公知のLAMP法では知られていなかった、様々な効果を達成できることを見出し本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の核酸の合成方法、そのためのキット、並びにそれらの用途に関する。
〔1〕次の工程を含む、標的塩基配列を含む核酸の合成方法。
(1)5’側から3’側にかけて次の領域(a)−(d)を含む、少なくとも2種類の1本鎖の核酸を生成する工程、ここで前記2種類の1本鎖核酸は、その3’末端において相補的な塩基配列を有し、かつ標的塩基配列から選択された塩基配列を含む。
(a)同一鎖上の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域、
(b)領域(a)が同一鎖上の任意の領域に対してハイブリダイズしたときにループを形成する領域、
(c)領域(a)に相補的な塩基配列を含む領域、および
(d)3’末端を構成する塩基配列からなる領域
(2)工程(1)の少なくとも2種類の1本鎖の核酸を、その3’末端においてアニールさせ、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによって相補鎖を合成する工程、および
(3)工程(2)で合成された核酸の3’末端を、同一鎖上の相補的な塩基配列からなる領域にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成し、標的塩基配列からなる1本鎖の核酸を合成する工程、
〔2〕工程(1)の1本鎖の核酸の少なくとも1種類が、領域(a)と領域(c)のハイブリダイズによって、相補鎖を伴わない3’末端を形成する構造を有する核酸である〔1〕に記載の方法。
〔3〕工程(1)の1本鎖の核酸の少なくとも1種類が、領域(a)と領域(c)のハイブリダイズによって、相補鎖を伴った3’末端を形成する構造を有する核酸である〔1〕、または〔2〕に記載の方法。
〔4〕工程(1)の1本鎖の核酸を、以下の工程によって生成する〔1〕に記載の方法。
i)標的塩基配列を含む核酸を鋳型として、少なくとも1組のインサートプライマーを用いて相補鎖を合成する工程;ここでインサートプライマーを起点として合成された相補鎖は、その5’末端を構成する塩基配列が互いに相補的な塩基配列からなっており、そして
ii)工程i)の生成物を鋳型として、標的塩基配列の5’末端に相補的な塩基配列を3’末端に有し、かつその5’末端に前記3’末端を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有するインナープライマーで相補鎖を合成し、工程(1)に記載の1本鎖核酸を生成する工程
〔5〕インサートプライマーが、互いに相補的な塩基配列を5’末端に有する少なくとも1組のインサートプライマーである〔4〕に記載の方法。
〔6〕インサートプライマーが、その5’末端における互いに相補的な塩基配列がRNAで構成され、かつ3’末端がRNase耐性のポリヌクレオチドから構成されており、DNAとハイブリダイズした該RNAをRNaseによって消化する工程を含む〔5〕に記載の方法。
〔7〕インサートプライマーが、標的塩基配列中の任意の領域において相補鎖の合成起点となる第1のインサートプライマーと、このインサートプライマーを起点とする伸長生成物に含まれる標的塩基配列中の任意の領域において相補鎖の合成起点となる第2のインサートプライマーとの組み合わせからなる〔4〕に記載の方法。
〔8〕工程(1)の1本鎖の核酸を、以下の工程によって生成する〔1〕に記載の方法。
i)次の条件を有する少なくとも2種類の1本鎖の核酸を生成する工程、
a)5’末端を含む領域と3’末端を含む領域が相補的な塩基配列で構成される、
b)a)の相補的な塩基配列からなる領域がハイブリダイズしたときにループを形成する塩基配列によって、この相補的な塩基配列が連結されている、
c)一方の核酸の3’末端は他方の核酸の3’末端に相補的な塩基配列を有する、および
d)該1本鎖核酸を構成する塩基配列が、標的塩基配列から選択される塩基配列を含む
ii)工程i)の1本鎖の核酸におけるループにアニールして相補鎖合成の起点となるプライマーであって、その5’末端に該プライマーを起点として合成される相補鎖に相補的な塩基配列を有するプライマーをアニールさせ、その3’末端を起点として鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼによって、相補鎖を合成するとともに、工程i)の1本鎖の核酸の3’末端を置換して塩基対結合が可能な状態とする工程、
iii)工程ii)によって塩基対結合が可能となった3’末端を相互にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成するとともに、工程ii)で合成した相補鎖を置換して工程(1)の1本鎖の核酸を生成する工程、
〔9〕前記工程(1)の1本鎖の核酸を以下の工程によって生成する〔1〕に記載の方法。
(a)標的塩基配列を含む核酸を鋳型としてインナープライマーをアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成する工程;ここでインナープライマーは、標的塩基配列の5’末端に相補的な塩基配列を3’末端に有し、かつその5’末端に前記3’末端を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有し、
(b)工程(a)の生成物にインサートプライマーをアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成する工程;ここでインサートプライマーは工程(a)の生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を3’末端に備え、かつその5’末端の塩基配列は〔1〕における2種類の1本鎖核酸のいずれかの3’末端を構成する塩基配列に相補的な塩基配列からなり、そして
(c)工程(b)で合成された相補鎖を1本鎖とし、その3’末端を自身にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成し、前記工程(1)の1本鎖の核酸を生成する工程
〔10〕工程(a)の標的塩基配列を含む核酸が、〔1〕における工程(2)の生成物である〔9〕に記載の方法。
〔11〕2種類の1本鎖の核酸が、いずれも同一の鋳型に由来する塩基配列を含む、〔1〕に記載の方法。
〔12〕2種類の1本鎖の核酸に含まれる塩基配列が、鋳型において連続している〔11〕に記載の方法。
〔13〕2種類の1本鎖の核酸に含まれる塩基配列が、鋳型において連続していない〔11〕に記載の方法。
〔14〕2種類の1本鎖の核酸が、異なる鋳型に由来する塩基配列を含む、〔1〕に記載の方法。
〔15〕次の工程を含む標的塩基配列を含む核酸の増幅方法。
(1)5’側から3’側にかけて次の領域(a)−(d)を含む、少なくとも2種類の1本鎖の核酸を生成する工程、ここで前記2種類の1本鎖核酸は、その3’末端において相補的な塩基配列を有し、かつ標的塩基配列から選択された塩基配列を含む。
(a)同一鎖上の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域、
(b)領域(a)が同一鎖上の任意の領域に対してハイブリダイズしたときにループを形成する領域、
(c)領域(a)に相補的な塩基配列を含む領域、および
(d)3’末端を構成する塩基配列からなる領域
(2)工程(1)の少なくとも2種類の1本鎖の核酸を、その3’末端においてアニールさせ、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによって相補鎖を合成する工程、
(3)工程(2)で合成された核酸の3’末端を、同一鎖上の相補的な塩基配列からなる領域にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成し、標的塩基配列からなる1本鎖の核酸を合成する工程、
(4)工程(3)の生成物を鋳型として、インナープライマー、および/またはインサートプライマーの3’末端を起点として、鎖置換を伴なう相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼによって相補鎖を合成する工程、
(5)各プライマーからの伸長生成物の5’側に位置する他のプライマーの伸長生成物を置換して前記工程(1)の1本鎖の核酸を生成するか、または該1本鎖の核酸が、その3’末端に同一鎖に対する相補的な塩基配列を有するときには、該3’末端を自身にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成して前記工程(1)の1本鎖の核酸を生成する工程、および
(6)工程(5)で生成した核酸を用いて〔1〕に記載の方法を繰り返し、標的塩基配列からなる核酸を増幅する工程
〔16〕〔2〕−〔9〕のいずれかに記載の方法によって生成された1本鎖の核酸を用いて、〔1〕−〔7〕のいずれかに記載の方法を開始する工程を含む、標的塩基配列を含む核酸の増幅方法。
〔17〕以下の要素をインキュベートする工程を含む、標的塩基配列を含む核酸を合成する方法。
(a)インナープライマーF;ここでインナープライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーFの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(b)インナープライマーR;ここでインナープライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーRの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(c)インサートプライマーF;ここでインサートプライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(d)インサートプライマーR;ここでインサートプライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する他方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有し、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する、
(e)標的塩基配列を含む鋳型核酸、
(f)ヌクレオチド基質、および
(g)鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
〔18〕更に付加的に次の要素を存在させる〔17〕に記載の方法。
(h)アウタープライマーF;ここでアウタープライマーFは、鋳型におけるインナープライマーFがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、および
(i)アウタープライマーR;ここでアウタープライマーRは、鋳型におけるインナープライマーRがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、
〔19〕更に付加的に次の要素を存在させる〔17〕に記載の方法。
(j)ループプライマーF;ここでループプライマーFの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーFの5’末端を含む領域が、インナープライマーFを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする、および
(k)ループプライマーR;ここでループプライマーRの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーRの5’末端を含む領域が、インナープライマーRを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする
〔20〕鋳型核酸における前記標的塩基配列が2本鎖であり、前記各プライマーを起点とする相補鎖合成が可能な条件下でインキュベートすることによって、各プライマーがアニールすべき領域を塩基対結合が可能な状態とする工程を含む、〔17〕に記載の方法。
〔21〕鋳型核酸における前記標的塩基配列が2本鎖であり、変性工程の後にインキュベートを開始する〔17〕に記載の方法。
〔22〕融解温度調整剤の存在下でインキュベートする〔17〕に記載の方法。
〔23〕融解温度調整剤が、ベタイン、プロリン、ジメチルスルホキシド、およびトリメチルアミンN−オキシドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である〔22〕に記載の方法。
〔24〕〔1〕、または〔17〕に記載の核酸の合成方法、若しくは〔15〕に記載の核酸の増幅方法の反応生成物の量を測定する工程を含む、試料中に含まれる鋳型核酸の検出方法。
〔25〕〔24〕に記載の鋳型核酸の検出方法に基づいて鋳型核酸における変異を検出する方法であって、〔15〕に記載の核酸の増幅方法において、インサートプライマーの3’末端を起点とする相補鎖合成反応が、鋳型核酸の塩基配列が予測される塩基配列でなかったときに妨げられることを特徴とする、変異の検出方法。
〔26〕〔24〕に記載の鋳型核酸の検出方法に基づいて鋳型核酸における変異を検出する方法であって、〔1〕、または〔17〕に記載の核酸の合成方法において、1本鎖の核酸の3’末端を起点とする相補鎖合成反応が、鋳型核酸の塩基配列が予測される塩基配列でなかったときに妨げられることを特徴とする、変異の検出方法。
〔27〕〔4〕に記載の核酸の合成方法、または〔15〕に記載の核酸の増幅方法を利用した変異の導入方法であって、インサートプライマーが鋳型核酸に含まれる塩基配列とは異なる塩基配列を含むことを特徴とする、変異の導入方法。
〔28〕鋳型核酸に含まれる塩基配列とは異なる塩基配列が、インサートプライマーの塩基配列に対する置換、欠失、および/または付加によって構成されている〔27〕に記載の方法。
〔29〕以下の要素で構成される、標的塩基配列を含む核酸を合成するためのキット。
(a)インナープライマーF;ここでインナープライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーFの5’側には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(b)インナープライマーR;ここでインナープライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーRの5’側には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(c)インサートプライマーF;ここでインサートプライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(d)インサートプライマーR;ここでインサートプライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する他方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有し、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する、
(e)ヌクレオチド基質、および
(f)鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
〔30〕更に付加的に次の要素を含む、〔29〕に記載のキット。
(g)アウタープライマーF;ここでアウタープライマーFは、鋳型におけるインナープライマーFがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、および
(h)アウタープライマーR;ここで第6のプライマーは、鋳型におけるインナープライマーRがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、
〔31〕更に付加的に次の要素を含む、〔29〕に記載のキット。
(i)ループプライマーF;ここでループプライマーFの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーFの5’末端を含む領域が、インナープライマーFを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする、および
(j)ループプライマーR;ここでループプライマーRの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーRの5’末端を含む領域が、インナープライマーRを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする
〔32〕標的塩基配列が、一つの鋳型核酸に由来する〔29〕に記載のキット。
〔33〕インサートプライマーが、鋳型核酸の塩基配列が予測と異なる塩基配列であったときに、インサートプライマーの3’末端、および/またはインサートプライマーの5’末端を鋳型として合成された相補鎖の3’末端を起点とする相補鎖合成反応が妨げられる塩基配列からなる、〔29〕に記載のキット。
〔34〕試料中に含まれる鋳型核酸の検出に用いるための〔29〕に記載のキット。
〔35〕核酸の検出剤を付加的に含む〔34〕に記載のキット。
〔36〕インサートプライマーが鋳型核酸に含まれる塩基配列とは異なる塩基配列を含むことを特徴とする、〔29〕に記載のキット。
〔37〕標的塩基配列が異なる鋳型核酸に由来する塩基配列を有する〔29〕に記載のキット。
〔38〕インナープライマーFおよびインサートライマーFの3’末端が第1の鋳型核酸に由来する塩基配列を合成するための起点となり、インナープライマーRおよびインサートプライマーRが第2の鋳型核酸に由来する塩基配列を合成するための起点となり、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの5’末端を含む領域において互いに相補的な塩基配列からなる領域を含むことを特徴とする、〔37〕に記載のキット。
〔39〕融合蛋白質をコードする遺伝子を合成するための、〔37〕に記載のキット。
〔40〕付加的に、融合パートナーをコードする遺伝子を含む、〔39〕に記載のキット。
核酸:本発明において、核酸とは、DNA、またはRNA、あるいはそれらのキメラ分子であることができる。核酸は、天然のものであることもできるし、人工的に合成されたものであることもできる。また部分的に、あるいは全体が完全に人工的な構造からなるヌクレオチド誘導体であっても、それが塩基対結合を形成しうるものであるかぎり本発明の核酸に含まれる。このような分子としては、たとえばホスホチオエート結合によってバックボーンが形成されているポリヌクレオチド誘導体などを示すことができる。
本発明における核酸の構成塩基数は、制限されない。核酸は、用語ポリヌクレオチドと同義である。一方本発明におけるオリゴヌクレオチドとは、ポリヌクレオチドの中でも特に構成塩基数が少ないものを示す用語として用いる。一般にオリゴヌクレオチドは、2〜100、より一般的には、2〜50程度の塩基数のポリヌクレオチドを指してオリゴヌクレオチドと呼ぶが、これらの数値には限定されない。
本発明の核酸は、一般に生物学的な試料に含まれる。生物学的試料とは、動物、植物、あるいは微生物の組織、細胞、培養物、排泄物あるいはそれらの抽出物を示すことができる。本発明の生物学的試料には、ウイルスやマイコプラズマのような細胞内寄生体のゲノムDNA、あるいはRNAが含まれる。また本発明の核酸は、前記生物学的試料に含まれる核酸から誘導されたものであってもよい。たとえば、mRNAをもとに合成されたcDNAや、生物学的試料に由来する核酸をもとに増幅された核酸は、本発明における核酸の代表的なものである。
標的塩基配列:本発明において標的塩基配列とは、合成すべき核酸の塩基配列を意味する。すなわち、本発明において合成を目的とする核酸を構成する塩基配列が、標的塩基配列である。また本発明の核酸の合成方法に基づいて、核酸の増幅を行う場合には、増幅すべき核酸を構成する塩基配列が標的塩基配列である。一般に核酸の塩基配列は、5’側から3’側に向けてセンス鎖の塩基配列を記載する。本発明における標的塩基配列とは、センス鎖の塩基配列に加えて、その相補鎖、すなわちアンチセンス鎖の塩基配列も含む。すなわち、用語「標的塩基配列」とは、合成すべき塩基配列、およびその相補鎖の少なくともいずれかを意味する用語として用いる。
本発明において、標的塩基配列は、鋳型として利用する核酸の塩基配列に制限されない。したがって、標的塩基配列は、鋳型と同じ塩基配列からなる場合もあるし、異なる塩基配列とすることもできる。鋳型の塩基配列に変異を導入したり、あるいは鋳型の塩基配列の一部をつなぎ合わせた塩基配列からなる標的塩基配列を合成することもできる。
3’末端、あるいは5’末端:3’末端、あるいは5’末端とは、単にいずれかの末端の1塩基のみならず、末端の1塩基を含み、かつ末端に位置する領域を意味する。より具体的には、いずれかの末端から500塩基、望ましくは100塩基、あるいは少なくとも20塩基は、3’末端、あるいは5’末端に含まれる。これに対して、末端の1塩基や末端付近に存在する特定の位置の塩基を示すためには、その位置を数値で特定することによって示すものとする。また3’末端が相補鎖合成の起点となるというときには、その3’末端の−OH基が相補鎖合成の起点となっていることを意味する。
鋳型と相補鎖:本発明において用いられる鋳型という用語は、相補鎖合成の鋳型となる側の核酸を意味する。鋳型に相補的な塩基配列を持つ相補鎖は、鋳型に対応する鎖としての意味を持つが、両者の関係はあくまでも相対的なものに過ぎない。すなわち、相補鎖として合成された鎖は、再び鋳型として機能することができる。つまり、相補鎖は鋳型になることができる。
本発明においては、鋳型核酸に含まれる塩基配列をそのまま標的塩基配列として合成する場合と、鋳型核酸とは異なる塩基配列を有する核酸の合成を目的とする場合とがある。鋳型核酸とは異なる塩基配列を有する核酸とは、たとえば鋳型核酸に含まれる塩基配列に対して変異を導入したり、あるいは鋳型核酸上で離れて存在する領域を連続する塩基配列として合成する場合が挙げられる。更に本発明における標的塩基配列は、異なる核酸に由来する塩基配列を連結した塩基配列とすることもできる。
核酸の合成(synthesis)と増幅(amplification):本発明における核酸の合成とは、合成起点となったオリゴヌクレオチドからの核酸の伸長を意味する。合成に加えて、更に他の核酸の生成と、この生成された核酸の伸長反応とが連続して起きるとき、一連の反応を総合して増幅という。
アニール:「アニール」と「ハイブリダイズ」は、核酸がワトソン−クリックのモデルに基づく塩基対結合によって2重らせん構造(double helix structure)を形成することを意味する。したがって、塩基対結合を構成する核酸鎖が1本鎖であっても、分子内の相補的な塩基配列が塩基対結合を形成すれば、アニール、あるいはハイブリダイズである。本発明において、アニールとハイブリダイズは、核酸が塩基対結合による2重らせん構造を構成する点で同義である。塩基対結合した3’末端が相補鎖合成の起点となるときに、特にアニールという場合がある。ただし、ハイブリダイズが相補鎖合成の起点となることを否定するものではない。
同一、あるいは相補的:本発明に用いるプライマーを構成する塩基配列の特徴付けのために用いられる同一、あるいは相補的という用語には、完全に同一、あるいは完全に相補的でない塩基配列が含まれる。すなわち、ある配列と同一とは、ある配列に対してアニールすることができる塩基配列に対して相補的な配列をも含むことができる。他方、相補的とは、ストリンジェントな条件下でアニールすることができ、相補鎖合成の起点を提供することができる配列を意味する。
本発明において、同一とは、塩基配列の相同性が、例えば90%以上、通常95%以上、より好ましくは98%以上であることを言う。また相補的とは、相補配列と同一の塩基配列を意味する。すなわち、相補配列に対して、塩基配列の相同性が、例えば90%以上、通常95%以上、より好ましくは98%以上であるときに相補的と言うことができる。なお、相補的な塩基配列は、それが相補鎖合成の起点として機能するときに、その3’末端の少なくとも1塩基が、相補配列と完全に一致することが望ましい。塩基配列の相同性は、BLAST等の公知の検索アルゴリズムによって決定することができる。
鎖置換を伴う相補鎖合成反応:本発明の核酸の合成には、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼが利用される。本発明において鎖置換を伴う相補鎖合成反応とは、次のような反応を言う。すなわち、プライマーを合成起点とする相補鎖合成反応の鋳型に他のポリヌクレオチドが既にハイブリダイズして2本鎖構造となっているときに、そのポリヌクレオチドを鋳型から分離しながら相補鎖合成が進行する反応を、鎖置換を伴う相補鎖合成反応と言う。このとき、分離されるポリヌクレオチドは、通常、そのホスホジエステル結合が維持される。したがって、相補鎖合成が行われた長さに相当する長さを有し、塩基対結合が可能な状態のポリヌクレオチドが生成されることになる。
鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼとしては、SDAなどに用いられたDNAポリメラーゼと同様のものが用いられる。すなわち、ある塩基配列の3’側に相補的なプライマーを合成起点として相補鎖合成を行うときに、5’側に2本鎖の領域が有るとその2本鎖を置換しながら相補鎖の合成を行う特殊なポリメラーゼが公知である。本発明においては、更に相補鎖合成に必要な基質が添加される。
続いて本発明の反応原理について述べる。公知のLAMP法(T.Notomi et al.,Nucleic Acid Res.,2000,Vol.28,No.12,e63)では、3’末端と5’末端に自身の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する核酸を生成する。そしてこの核酸の3’末端がその相補的な塩基配列からなる領域にアニールしたときに形成されるループに対してアニールするプライマーとともにインキュベートすることにより、標的塩基配列からなる核酸が連続的に合成される。
実際には、前記のループに対してアニールするプライマーとして、その5’末端に、前記核酸の3’末端がアニールする領域と同じ塩基配列からなる領域を付加しておくことにより、単に、標的塩基配列を含む鋳型核酸とプライマーとをインキュベートするだけで、反応を開始することができる。しかも望ましい条件においては、鋳型とする核酸は、2本鎖のままであっても差し支えない。
公知のLAMP法に対して本発明においては、5’側から3’側にかけて次の領域(a)−(d)を含む、少なくとも2種類の1本鎖の核酸を利用することによって核酸を合成する。ここで前記2種類の1本鎖核酸は、その3’末端において相補的な塩基配列を含み、かつ標的塩基配列から選択された塩基配列を含む。
(a)同一鎖上の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域、
(b)領域(a)が同一鎖上の任意の領域に対してハイブリダイズしたときにループを形成する領域、
(c)領域(a)に相補的な塩基配列を含む領域、および
(d)3’末端を構成する塩基配列からなる領域
この構造を標的塩基配列と対比させると、次のような関係となる。まず前記少なくとも2種類の1本鎖の核酸は、標的塩基配列を構成する1組の相補的な塩基配列からなる核酸鎖のうちのいずれか一方の鎖を構成する連続する塩基配列を含む。次に、両者はその3’末端の領域(d)において互いに相補的な塩基配列を有している。そしてこれらの核酸はいずれもその5’末端において同一鎖の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域(a)を有する。前記同一鎖の任意の領域は、その核酸の任意の領域(c)であってよい。そして領域(a)は、領域(c)にハイブリダイズすることによってループを形成する。このとき形成されるループに相当する領域を(b)とする。以上の関係は、たとえば次のように示すことができる。
なおここでは各核酸の領域に対して同じ(a)〜(d)という記号を与えているが、その塩基配列が同一であることは要求されない。むしろ、通常これらの領域は、異なる塩基配列を有する。更に、各核酸の領域(a)と(d)は5’末端、あるいは3’末端に配置されなければならないが、領域(b)および領域(c)は、領域(a)と領域(d)の間の任意の位置に配置することができる。また、領域(c)については、領域(d)との間に他の塩基配列が介入することも許される。
望ましい位置関係としては、領域(a)および領域(d)を構成する塩基数が、10〜500塩基、通常10〜100塩基、好ましくは20〜50塩基となるようにする。一方、領域(c)を構成する塩基数は、領域(a)に対応する塩基数となる。
次に領域(c)と領域(a)のハイブリダイズによって形成されるループ領域(b)の大きさは、1〜200塩基、望ましくは10〜100塩基となるように設計する。領域(b)は領域(a)と領域(c)に挟まれる領域であることから、これらの領域を定めることにより、一義的に決定される。領域(c)は、領域(b)に隣接して存在し、領域(a)と相補的な塩基配列で構成される領域である。
更に領域(c)と領域(d)の間には、任意の数の塩基が介在することができる。したがって、標的塩基配列をたとえば200塩基を越えるような長い塩基配列とする場合には、(c)−(d)間に長い塩基配列が挿入された核酸を用いて本発明による核酸の合成方法を実施することができる。
本発明において、標的塩基配列は、前記1本鎖の核酸の一方の領域(a)から他方の領域(a)にかけての領域となる。標的塩基配列の長さは、各領域とその間に介在する領域との塩基数によって決定される。本発明における標的塩基配列の長さは制限されない。したがって、たとえば30〜5000塩基、通常50〜1000塩基、好ましくは500塩基以下、更に好ましくは400塩基の長さとすることができる。標的塩基配列を長くするには、通常領域(c)と領域(d)の間に介在する領域の塩基配列を長く取る。その他、前記各領域の長さを大きくすることにより、長い塩基配列からなる標的塩基配列とすることもできる。
公知のLAMP法では、標的塩基配列として、F2/R2間の塩基数としてたとえば90〜240塩基(F1とR1に挟まれた領域の塩基数としては10〜40塩基相当)の領域が選択されている。これに対して本発明では、より長い標的塩基配列を、正確に合成、あるいは増幅することができる。
また本発明においては、前記1本鎖の核酸を構成する塩基配列を組み合わせることによって、標的塩基配列全体を構成することができる。より具体的には、一方の1本鎖の核酸に対して他方の核酸が鋳型として作用し、相補鎖合成の結果、標的塩基配列を構成する1つの核酸の塩基配列を完成することができる。本発明における各1本鎖の、標的塩基配列に占める割合は、任意である。より長い塩基配列を合成するには、通常、標的塩基配列に対して、およそ1/2づつの長さとするのが合理的である。
本発明において、前記領域(c)は、独立して配置することもできるし、領域(d)と重複して配置することもできる。領域(c)が領域(d)と重複して配置される場合とは、前記1本鎖の核酸が5’末端側の塩基配列と3’末端側の塩基配列とが、ループ領域(b)を介してステムループ構造を形成している場合である。このような構造を図4に3または4として示した。
ステムループとは、ループと2本鎖構造のステムからなる構造を言う。同一分子に含まれる3’末端側の塩基配列と5’末端側の塩基配列とが、相補的な塩基配列で構成され、それらがハイブリダイズすることによってステムが形成される。このとき、5’末端側の塩基配列が完全に3’末端側の塩基配列に相補的な場合には、3’末端が相補鎖を伴って2本鎖となる。
さて、本発明において、前記1本鎖の核酸は、たとえば次のようにして酵素的に合成することができる。まず、次のような特徴を有する4種類のプライマー(インサートプライマー×2、インナープライマー×2)を用いて、鋳型となる核酸をもとに鎖置換を伴う相補鎖合成を触媒するDNAポリメラーゼにより、相補鎖を合成する。
以下にインサートプライマー、およびインナープライマーについて具体的に述べる。
インサートプライマー:
インサートプライマーは、標的塩基配列を含む鋳型核酸にアニールして相補鎖合成の起点となるプライマーであって、このプライマーによって合成された核酸には、前記インナープライマーがアニールする。更に、インサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する。インサートプライマーは、本発明に固有の、前記領域(a)−(d)で構成される1本鎖の核酸を酵素的に合成するために考え出された、新規な特徴を有するプライマーである。
本発明においてインサートプライマーには、様々な組み合わせを想定することができる。以下にインサートプライマーの代表的な組み合わせを例示する。
[鋳型核酸中の連続する標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー1]:
図1等に示すように、インサートプライマーは鋳型とする核酸を構成する塩基配列の一部に対して、それらの5’末端が重なるようにデザインされる。
[鋳型核酸中の連続する標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー2]:
プライマー同士が相補的な塩基配列を有していない場合でも、前記領域(a)−(d)を有し、かつ3’末端が互いに相補的な塩基配列からなる2種類の1本鎖の核酸を生成することが可能である。たとえば、インサートプライマー/インナープライマー間の領域が重複するようにデザインすることにより、インサートプライマーそのものに相補的な塩基配列が無くとも、最終的な反応生成物の3’末端に相補的な塩基配列を与えることができる。
より具体的には、たとえば一方のインサートプライマーRの生成物に対してインナープライマーFIPがアニールして相補鎖が合成されるとする。他方のインサートプライマーFの生成物に対してインナープライマーRIPがアニールして相補鎖が合成される。このとき、インサートプライマーFとインサートプライマーRの伸長生成物が、重複する領域を合成するような位置関係にあれば良い。
このとき、インサートプライマーの5’末端を含む領域の塩基配列は、任意の塩基配列とすることができる。つまり、このような位置関係にあるインサートプライマーを用いるときには、標的塩基配列中で前記のような位置関係でインサートプライマーの3’末端が相補鎖合成の起点となれば、結果的に5’末端に互いに相補的な塩基配列を有する核酸が生成される。
ただし、両者の3’末端が重複するような位置関係の場合、プライマー同士がアニールして相補鎖合成を開始してしまう可能性がある。したがって両者の3’末端が重複する場合には、重複する部分の長さを反応条件下ではアニールできない程度の塩基数としておくのが望ましい。
[鋳型核酸中の分離した標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー]:
インサートプライマーの塩基配列を選択することにより、鋳型核酸中に離れて位置する領域を連続する塩基配列として合成することができる。すなわち鋳型核酸において、領域Aと領域Bが領域Sを挟んで位置しているとき、領域Aと領域Bとで構成された標的塩基配列を合成することができる。
そのためには、まずインサートプライマーの3’側の塩基配列は、領域Aの領域Sとの境界領域に、同様に領域Bの領域Sとの境界領域に対して相補的な塩基配列となるようにする。そして5’側は、両者の塩基配列が相補的となるようにデザインする。このとき、領域Aと領域Bとでアミノ酸の翻訳フレームを一致させるために、互いの塩基配列を5’側で共有させることもできる。すなわち、たとえば3’側が領域Aに相補的な塩基配列からなる場合には、5’側には領域Bの塩基配列を付加する。ただし、共有する塩基配列が長い場合には、プライマーダイマーを形成してしまう可能性がある。したがって、翻訳フレームを一致させるためには、人為的なリンカー配列を介入させておくこともできる。
このようなインサートプライマーによって合成される核酸は、連続した塩基配列の任意の中間部分を欠失した塩基配列からなる。すなわち、鋳型とした核酸の欠失変異体を得ることができる。このときの鋳型となる塩基配列と、標的塩基配列の関係を図9に示した。すなわち、鋳型(図9の上)における「欠失」(DELETION)で示した部分が欠失した塩基配列からなる変異体(図9の下)を本発明によって合成することができる。
遺伝子によってコードされる蛋白質の機能解析の一つに、その蛋白質の活性ドメインを特定する手法がある。遺伝子の一部を欠失させた変異体を発現させ、欠失させた領域と活性の関係に基づいて、活性ドメインを推定する手法が一般に用いられる。欠失変異体の取得には、PCR法がしばしば応用される。遺伝子の連続する領域に対してデザインされたプライマーを用いてPCR法を実施すれば、目的とする領域を容易に得ることができる。しかしPCR法では、合成すべき核酸の両端にしかプライマーをデザインすることができない。したがって、中間部分を欠失した変異体を1ステップで合成することは困難である。本発明を応用すれば、任意の領域を欠失させて、鋳型において離れて存在する領域を1つの連続する塩基配列として合成することができる。
本発明の特徴は、ゲノムの解析においても有用である。真核生物のゲノムには、遺伝子がイントロンに分断されて存在している。細胞内では、ゲノムから転写されたRNAがスプライシングによってイントロンを除かれ、エキソンが連結したmRNAとなる。ゲノムにおけるエキソンとイントロンには、一定の法則が見出されつつあるが、少なくとも現在のところ、予測精度は十分とは言えない。したがって、ゲノムの構造が明らかにされたとはいえ、そこに含まれる遺伝子の解析は、依然として大きな研究課題と言って良い。
本発明の特徴を利用すれば、ゲノムの複数の領域を連結した核酸を1ステップで合成することができる。つまり、予測されたエキソンを連結した核酸を合成することができる。更に得られた核酸は、必要に応じて更に連結することができる。PCR法では、1ステップでは単一のエキソンしか合成できないことから、本発明の有用性は明らかである。
ゲノムの解析において、遺伝子の解析と並んで重要な課題となっているのが転写調節領域の解析である。本発明の核酸の合成方法は、転写調節領域の解析に利用することもできる。たとえば、本発明は、ゲノムにおけるプロモーター活性を有する領域の探索に有用である。プロモーターは遺伝子の上流に位置し、遺伝子の転写因子によって認識される領域である。
本発明を利用したプロモーター活性を有する領域の探索は、たとえば次のようにして実施することができる。まず、解析の対象となるゲノムの塩基配列と、その下流に接続されたレポーター遺伝子からなる発現カセットを、本発明によって合成する。つまり、ゲノムと、レポーター遺伝子のそれぞれに対して本発明のインナープライマー、およびインサートプライマーをデザインし、異なる核酸を鋳型とする核酸の合成方法を実施すれば良い。解析の対象となるゲノム上の領域に対して、様々な領域に対するプライマーをデザインすることにより、多種類の発現カセットを合成することができる。本発明によれば、プライマーのデザインにより、任意の領域を自由に発現カセットとして合成することができる。
得られた発現カセットを、適当な宿主において実際に発現させ、レポーター遺伝子のシグナルを観察することにより、プロモーター活性を評価することができる。
[異なる鋳型核酸に別々に含まれる標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー]:
本発明の核酸の合成方法が、同一の鋳型に含まれる離れた領域を連結した核酸の合成に有用であることを先に述べた。この原理を更に発展させると、本発明によって、異なる鋳型に含まれる2つの領域を連結した核酸を合成することもできる。すなわち、本発明の核酸の合成方法における2種類の1本鎖の核酸として、異なる鋳型核酸に由来する塩基配列を含む核酸を用いて反応を開始することができる。その結果生成する核酸は、5’側と3’側とで、異なる鋳型核酸に由来する塩基配列が連結された核酸となる。
異なる鋳型核酸に由来する塩基配列を含む1本鎖の核酸は、たとえば以下のような方法によって得ることができる。本発明の核酸の合成方法に用いるプライマーとして、異なる鋳型核酸に対してプライマーとして作用するようにデザインされたインサートプライマー、およびインナープライマーを用いるのである。
異なる鋳型核酸FおよびRの二つの核酸を用い、それぞれの鋳型核酸の塩基配列から選択された任意の領域を連結しようとする場合には、次のようなプライマーが用いられる。まず鋳型核酸Fに対して、インナープライマーFおよびインサートプライマーFがデザインされる。インナープライマーFとインサートプライマーFの3’末端には、鋳型核酸Fの合成を目的とする領域を合成するためのプライマーとして作用する塩基配列が配置される。インナープライマーFの5’側には、その3’側を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列が配置される。
一方鋳型核酸Rに対して、インナープライマーRおよびインサートプライマーRがデザインされる。インナープライマーRとインサートプライマーRの3’末端には、鋳型核酸Rの合成を目的とする領域を合成するためのプライマーとして作用する塩基配列が配置される。インナープライマーRの5’側には、その3’側を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列が配置される。
そして、インサートプライマーFとインサートプライマーRの5’末端は、相補的な塩基配列で構成される。両者の塩基配列によってコードされる蛋白質を融合蛋白質として発現することができる遺伝子を合成するには、インフレームで連結できるように、インサートプライマーの5’側の塩基配列をデザインする。
このようなプライマーのデザインと、異なる鋳型核酸を用いる他は、全て同様の条件で本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法を実施することができる。すなわち、2種類の鋳型核酸、すべてのプライマー、そして反応に必要なDNAポリメラーゼ、基質、緩衝液などを混合し、適切な条件下でインキュベートする。あるいは、異なる鋳型核酸に対して、対応するプライマーを加えて相補鎖合成反応を行い、1本鎖の核酸を生成させた後に両者を混合して、更に相補鎖合成反応を継続することもできる。
反応生成物から、標的塩基配列、あるいは標的塩基配列よりもサイズが大きい反応生成物を回収すれば、目的とする塩基配列を得ることができる。回収した核酸は、必要に応じて制限酵素で消化し、精製することができる。
本発明による核酸の合成方法、あるいは増幅方法に基づいて、異なる鋳型核酸の塩基配列を含む核酸を得る方法は、たとえば、次のような応用分野に有用である。
まず、本発明に基づいて、融合蛋白質をコードする遺伝子を合成することができる。公知の方法では、サイズの大きな遺伝子どうしを同時に合成することは困難であった。たとえばPCR法では、プライマーとして合成できる範囲であれば、標的塩基配列の末端に人工的な塩基配列を付加することができた。しかし、この方法で付加できる塩基配列の長さは限られていた。したがって、たとえばヒスチジンタグのような、小さな蛋白質しか付加することはできない。一方本発明では、付加すべき蛋白質をコードする遺伝子も相補鎖合成反応によって合成できることから、原理的には、自由な長さの遺伝子を融合させることができる。
プライマーとして付加することが難しい長い塩基配列を付加するには、予め必要な塩基配列を組み込んだベクターを用意しておき、このベクターに融合させる遺伝子を挿入する方法が用いられていた。しかしこの方法では、融合蛋白質を作るために融合パートナーを組み込んだベクターを予め用意しなければならない。これに対して本発明では、異なる鋳型核酸から、目的とする領域を自由に選択して、融合させることができる。
[インサートプライマーへの変異の導入]:
本発明に用いるインサートプライマーには、変異や付加的な塩基配列を導入しておくことができる。インサートプライマーには、その3’末端において特定の条件の塩基配列を有することが求められる。また、5’末端側には、インサートプライマーの塩基配列を鋳型として相補鎖合成反応によって生成する核酸が、5’末端において相互に相補的な塩基配列を有する限り、様々な塩基配列を自由に配置することもできる。更に、インサートプライマーの中間部分には、変異の導入や塩基配列の付加を許容する。
この特徴を利用して、鋳型が有する塩基配列に対して、変異や塩基配列を付加した塩基配列を合成することができる。インサートプライマーは標的塩基配列中に任意の場所に設定することができることから、本発明によれば、任意の場所に任意の変異を導入することができることになる。変異には、塩基の置換、欠失、あるいは付加が考えられる。これらの変異は、いずれも本発明によって導入可能である。
PCRのような公知の核酸合成方法では、希望するとおりの変異を導入できる個所が、末端部分に限られていた。プライマーの塩基配列を末端部分にしか導入できないためである。したがって、本発明のように、標的塩基配列中の任意の個所に、任意の変異を導入できる方法は有用である。
[複数セットのインサートプライマー]:
2つのインサートプライマーの5’側に配置された相補的な塩基配列が、特異的にハイブリダイズするとき、同時に複数組のインサートプライマーを用いることができる。複数組のインサートプライマーを用いることにより、各組の間で鋳型核酸に対する相互の置換が起き、より迅速な相補鎖合成を期待できる。
インサートプライマーの3’側を構成する塩基配列は、鋳型核酸が2本鎖のまま鋳型として用いられる場合にも、相補鎖合成の起点を与えることができるように設定することが望ましい。更に、インナープライマーやアウタープライマーによる相補鎖合成反応と同様の条件の下で、プライマーとして作用できることが望ましい。具体的には、前記領域(d)などと同様に、5−200塩基、より望ましくは10−50塩基とする。
更に、インサートプライマーの5’側を構成する領域は、この領域を鋳型として合成される相補鎖に対して、その3’末端が相補鎖合成の起点となるために必要な塩基配列を与える。したがって、3’側を構成する塩基配列と同様に、5−200塩基、より望ましくは10−50塩基とする。
インナープライマー:
3’末端に標的塩基配列の5’末端に相補的な塩基配列(X2)を備え、かつ5’末端にその3’末端を起点として合成される核酸の任意の領域(X1)に相補的な塩基配列(X1c)を有する。この5’末端の塩基配列は、前記1本鎖の核酸の5’末端を含む領域(a)を構成する。標的塩基配列を構成する2つの鎖のそれぞれに対して異なるインナープライマーが用いられる。通常それらは、フォーワード側、リバース側と呼ばれる。インナープライマーは、公知のLAMP法でも用いられたプライマーである。ただし公知のLAMP法では、基本的にはインナープライマーで反応が構成されている。インサートプライマーとインナープライマーとの組み合わせについては、現在のところ報告は無い。
以下の説明では仮に一方のインナープライマーにおけるX2およびX1cをF2およびF1c、他方のインナープライマーにおけるX2およびX1cをR2およびR1cとする。そして説明に用いるインナープライマーを、仮にFIPおよびRIPと名づける。FIPとRIPを構成する領域は、以下のとおりである。
本発明の核酸の合成方法においては、まず前記領域(a)−(d)からなる1本鎖の核酸を生成することが重要である。このような核酸は、前記インサートプライマーと、次の構造を持ったインナープライマーを利用した本発明に基づく核酸の合成反応によってその構造を与えることができる。この反応の詳細については、後に改めて述べる。
すなわち本発明の核酸の合成反応に用いるインナープライマーとは、少なくとも前記2つの領域X2およびX1cとで構成される。X2は3’末端を含む領域であり、X1cは5’末端を含む領域である。
本発明におけるインナープライマーの構造は、前記標的塩基配列によって決定される。標的塩基配列は、少なくともその一部の塩基配列が明らかとなっている、あるいは推測が可能な状態にある。塩基配列を明らかにすべき部分とは、前記領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cである。この2つの領域は、連続する場合、そして離れて存在する場合とを想定することができる。両者の相対的な位置関係により、生成物である核酸が自己アニールしたときに形成されるループ部分の状態が決定される。
また、生成物である核酸が分子間のアニールではなく自己アニールを優先的に行うためには、両者の距離が不必要に離れないほうが望ましい。したがって、両者の位置関係は、通常0−500塩基分の距離を介して連続するようにするのが望ましい。ただし、後に述べる自己アニールによるループの形成において、両者があまりにも接近している場合には望ましい状態のループの形成を行うには不利となるケースも予想される。ループにおいては、新たなオリゴヌクレオチドのアニールと、それを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応がスムーズに開始できる構造が求められる。したがってより望ましくは、領域X2cおよびその5’側に位置する領域X1cとの距離が、0〜100塩基、さらに望ましくは10〜70塩基となるように設計する。なおこの数値はX1cとX2を含まない長さを示している。ループ部分を構成する塩基数は、更にX2に相当する領域を加えた長さとなる。
標的塩基配列に対して本発明におけるインナープライマーを構成する領域X2およびX1cは、通常は重複することなく連続して配置される。あるいはもしも両者の塩基配列に共通の部分があるのであれば、部分的に両者を重ねて配置することもできる。X2はプライマーとして機能する必要があることから、常に3’末端となるようにしなければならない。
一方X1cは、後に述べるように、これを鋳型として合成された相補鎖の3’末端にプライマーとしての機能を与える必要があることから、5’末端に配置する。このオリゴヌクレオチドを合成起点として得られる相補鎖は、次のステップにおいては逆向きからの相補鎖合成の鋳型となり、最終的には本発明によるインナープライマー部分も鋳型として相補鎖に写し取られる。写し取られることによって生じる3’末端は塩基配列X1を備えており、同一鎖上のX1cにアニールするとともに、ループを形成する。
本発明におけるインナープライマーとは、標的塩基配列と相補的な塩基対結合を形成できること、そしてその3’末端において相補鎖合成の起点となる−OH基を与えること、の2つの条件を満たすものを意味する。したがって、そのバックボーンは必ずしもホスホジエステル結合によるものに限定されない。たとえばホスホチオエート体からなるものであることもできる。
また、塩基は、相補的な塩基対結合を可能とするものであれば良い。天然の状態では、一般にはACTGおよびUの5種類となるが、たとえばブロモデオキシウリジン(bromodeoxyuridine)といった類似体であることもできる。本発明に用いるオリゴヌクレオチドは、合成の起点となるのみならず、相補鎖合成の鋳型としても機能するものであることが望ましい。
本発明におけるインナープライマーは、以下に述べる各種の核酸合成反応において、与えられた環境の下で必要な特異性を維持しながら相補鎖との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を持つ。具体的には、5−200塩基、より望ましくは10−50塩基とする。配列依存的な核酸合成反応を触媒する公知のポリメラーゼが認識するプライマーの鎖長が、最低5塩基前後であることから、アニールする部分の鎖長はそれ以上である必要がある。加えて、塩基配列としての特異性を期待するためには、確率的に10塩基以上の長さを利用するのが望ましい。一方、あまりにも長い塩基配列は化学合成によって調製することが困難となることから、前記のような鎖長が望ましい範囲として例示される。
なお、ここで例示した鎖長はあくまでも相補鎖とアニールする部分の鎖長である。本発明によるインナープライマーは、少なくとも2つの領域X2およびX1cからなっている。したがって、ここに例示する鎖長は、インナープライマーを構成する各領域の鎖長と理解するべきである。
本発明におけるインサートプライマーとインナープライマーの関係を、図1および図2に示した。これらの図は、標的塩基配列(F2/R2c間)を含む核酸を鋳型とする標的塩基配列を含む核酸の合成方法を示している。図の中に示されたプライマーは、次のとおりである。
インサートプライマーF
インサートプライマーR
インナープライマーFIP(フォワード)
インナープライマーRIP(リバース)
アウタープライマーF3
アウタープライマーR3
図示されたインサートプライマーFおよびインサートプライマーRの3’末端には、標的塩基配列中の任意の領域に相補的な塩基配列が配置されていて、鋳型となる核酸にアニールすることにより相補鎖合成の起点となる。また各インサートプライマーの5’側は、互いに相補的な塩基配列を有するようにデザインされている。言いかえれば、2つのインサートプライマーは、標的塩基配列を構成する2本鎖の中の任意の領域において、互いの5’末端が重なるように設計されている。
他方アウタープライマーF3、あるいはR3は、標的塩基配列の5’末端よりも5’側の任意の領域F3cまたはR3cに相補的な塩基配列で構成される。アウタープライマーは、インナープライマーやインサートプライマーを起点として合成された鎖の置換のための相補鎖合成反応の起点を与えることを目的とする。
図1においては、インサートプライマーRの伸長生成物に、インナープライマーFIPがアニールして相補鎖が合成されている。合成された相補鎖はアウタープライマーF3によって置換され、1本鎖の核酸(1)として遊離する。この(1)は、本発明における前記領域(a)−(d)を有する核酸のひとつに他ならない。
一方、核酸(1)を生成する反応と同様の反応は、インサートプライマーFからも進行し(図2)、インナープライマーRIPに基づく相補鎖合成生成物が1本鎖の核酸(2)を形成している。核酸(1)と核酸(2)は、5’末端は自身の相補的な塩基配列を含む領域とハイブリダイズしているが、その3’末端を含む領域は1本鎖であり、かつ相互に相補的な塩基配列となっている。したがって、両者の3’末端を含む領域はハイブリダイズすることができる。
図3に示すように、核酸(1)と核酸(2)が3’末端においてハイブリダイズすることにより、その3’末端は相補鎖合成の起点となり、互いを鋳型とする新たな相補鎖合成が開始される。さて、1本鎖の核酸(1)と(2)とは、もともと鋳型となっていた核酸に含まれる標的塩基配列をもとに合成されている。そしてその塩基配列は、インサートプライマーとインナープライマーの間の塩基配列で構成されている。つまり、核酸(1)と核酸(2)とは、標的塩基配列を構成する塩基配列のうち、その5’側の塩基配列を含む一方、3’側の塩基配列を欠く構成となっている。更に、各鎖を構成する標的塩基配列の5’の塩基配列とは、互いに他方の鎖に欠けている3’側の塩基配列に対して相補的な塩基配列に他ならない。
したがって、これらの核酸の3’末端を起点とし、互いを鋳型に相補鎖を合成すれば、標的塩基配列に対して不足している各鎖の3’末端側の塩基配列が合成され、結果的に標的塩基配列が完成することになる。こうして本発明においては、標的塩基配列からなる核酸が合成される。
ところで、たとえば図1においてインサートプライマーがアニールする鋳型核酸は、1本鎖として描かれている。しかし本発明においては、鋳型となる核酸を1本鎖とするための変性工程は必ずしも要求されない。本発明を構成する相補鎖合成反応の大部分は、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼによって行われる。この種のDNAポリメラーゼを利用する場合、適切な条件を与えれば2本鎖の核酸を鋳型とする相補鎖合成が可能である。
本発明者は、2本鎖の核酸を、変性によって1本鎖とすることなく鋳型として利用可能な条件を明らかにしている。すなわち、ある程度2本鎖が不安定化される条件を与えれば、変性工程無しで2本鎖核酸に対するプライマーのアニールと鋳型依存性の相補鎖合成が可能な条件を設定できることを見出している。本発明においてもこの条件を利用し、2本鎖の核酸を鋳型としてそのまま用いることができる。
より具体的には、たとえば1本鎖の核酸を鋳型として用いる場合よりも高く、かつ鋳型核酸を1本鎖に変性する温度よりも低い温度であって、利用するDNAポリメラーゼによる相補鎖合成反応が可能な温度に設定すれば良い。反応に必要な温度は、融解温度調整剤(以下、融解温度をTmと省略する)によって調整することができる。Tm調整剤については後に具体的に述べる。
さて、ここで核酸(1)と核酸(2)の組み合わせに基づいて生成された、標的塩基配列を含む核酸の構造に着目する。図3に示すように、このような組み合わせによって生成される核酸として、まず核酸(1)と核酸(2)が3’方向に伸長した生成物について説明する。鋳型となった核酸(1)と核酸(2)は、その5’末端に自身の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有している。したがって相補鎖合成の結果として生成する核酸は、その3’末端に自身に相補的な塩基配列を有している。その結果、3’末端を含む領域が1本鎖構造となれば、自身にその3’末端をアニールさせ、相補鎖合成が開始される。
この工程が図3に示されている。すなわち、核酸(1)と核酸(2)から生成した2本鎖の核酸に、更にインサートプライマーがアニールして相補鎖合成を開始することにより、3’末端を含む領域が1本鎖とされる。3’末端は自身にアニールして自身を鋳型とする相補鎖合成を開始し、ループを介して標的塩基配列を連結した核酸を生成する(図3の下の2つの生成物)。
図3中、下の2つの生成物は、3’末端と5’末端に自身に相補的な塩基配列を有しており、かつループにインナープライマーのアニールが可能な状態にある。つまり、この核酸は、LAMP法の開始に必要な構造を備えている。したがって、いったんこのような構造が生成されれば、公知のLAMP法の原理に基づく核酸の合成反応が開始される。すなわち、以下の3つの反応が、連続的に、かつ理論的には無限に繰り返される。その結果、高度な核酸の増幅がもたらされる。
ループからの相補鎖合成による3’末端の開放、
1本鎖となった3’末端の自身を鋳型とする相補鎖合成、そして
3’末端から進行する相補鎖合成に伴うループから開始した相補鎖合成生成物の置換
なお図3においては、核酸(3)と核酸(4)が生成物として生じることも示されている。これらの核酸は、インサートプライマーを起点として合成された核酸で、前記の3’末端を自身にアニールさせて進行する相補鎖合成に伴って置換され生成する。これらの核酸も、後に述べるような反応を開始するための材料として、本発明の核酸の合成のための反応に貢献する。
さて、以上の説明では反応を開始するために、もともと3’側において1本鎖の構造を有する核酸を用いた。しかし本発明の核酸の合成方法は、前記1本鎖の核酸として3’末端を含む領域が1本鎖である場合に限定されない。3’末端において相補鎖を伴って2本鎖構造を有する場合であっても、相互の3’末端のアニールと、それに伴う標的塩基配列の合成を開始することができる。
ここで、前記1本鎖の核酸が3’末端において相補鎖を伴う構造について、改めて説明する。たとえば図1、図2、あるいは図3において、前記のような反応に伴って生成している核酸(3)や核酸(4)は、3’末端において自身の5’末端に含まれる相補的な塩基配列からなる領域を伴って2本鎖構造を形成している。このような構造は、なんらかの手段によって、その3’末端を1本鎖とすれば他の核酸にアニールさせることができる。本発明において、核酸(3)や核酸(4)の3’末端を1本鎖の構造とするための手法として、ループ部分にアニールするプライマーを起点とする相補鎖合成と、この相補鎖合成に伴う置換を利用することができる。
図中に用いられているインナープライマーFIPは、その3’末端がF2cで構成されている。F2cはF2に相補的な塩基配列であるから、核酸(3)のループに存在するF2cにアニールし、相補鎖合成の起点を与える。ループ内から開始された相補鎖合成は鋳型である核酸(3)の5’方向に進行し、5’末端に達する。このとき、もともと核酸(3)の5’末端にハイブリダイズしていたその3’末端は、新たな相補鎖の合成に伴って置換され、1本鎖の状態となる。RIPでも同様に、核酸(4)のループ部分にアニールして、その3’末端を1本鎖として開放する。
1本鎖となった核酸(3)と核酸(4)の3’末端はアニールし、前記核酸(1)と核酸(2)による反応と同様に、互いを鋳型とする相補鎖合成反応を開始し、その3’側の塩基配列を獲得して標的塩基配列の合成が完成する。
更に、本発明における前記1本鎖の核酸は、その3’末端を積極的に1本鎖とするまでもなく、相補鎖合成の起点として機能することができる。先に述べたように、2本鎖の核酸は、条件しだいで変性工程を経ることなく鋳型として利用することもできる。このような条件を利用することにより、核酸(3)と核酸(4)とは、その3’末端をアニールさせることが可能である。
また、RNA−DNAキメラプライマーを利用することによって、核酸(3)と核酸(4)との反応を開始することもできる。具体的には、核酸(3)や核酸(4)の5’側をRNAで構成しておき、相補鎖を伴っているときには、RNAで構成される部分を分解できるようにしておくのである。核酸(3)と核酸(4)は、その3’側を自身の5’末端領域にハイブリダイズさせた構造を有している。そのため、5’末端を構成する領域を除去すれば、3’側は塩基対結合が可能な状態となる。両者の3’末端は相互に相補的な塩基配列で構成されているから、両者はアニールして、互いを鋳型とする相補鎖合成反応が開始される。RNA/DNAハイブリッドにおけるRNAの消化は、RNAseHなどの酵素を利用して行うことができる。
核酸(3)や核酸(4)の5’末端をRNAで構成するには、これらの核酸を合成するときに用いるプライマーとして、その5’末端を含む領域がRNAで構成されたプライマーを利用すれば良い。なお当該プライマーの3’末端を含む領域は、DNA等のRNAseH耐性を有する構造とする必要がある。プライマーの3’末端側を含む領域をRNAで構成した場合には、核酸(3)や核酸(4)を合成した段階で鋳型とのRNA/DNAハイブリッドが構成され、核酸(3)や核酸(4)に必要な3’末端の合成が行われなくなってしまうためである。
本発明にRNA−DNAオリゴヌクレオチドを利用するとき、RNAの消化工程を伴う点は前述のICAN法と共通する。しかし本発明では、RNAは核酸(3)や核酸(4)の5’末端側になければならないことから、ICAN法とは原理が相違することは明らかである。
核酸(3)と核酸(4)とは、いずれも3’末端において2本鎖構造を有しているが、この領域がループにアニールするプライマーによってやがて1本鎖となることは既に述べた。また積極的に1本鎖とする工程を経ないまま、プライマーのアニールを可能とする条件についても先に示した。更に5’末端をRNAとしておき、このRNAを消化することによって、その3’末端を塩基対結合が可能な状態とすることもできる。こうして、前記領域(a)−(d)を有する1本鎖の核酸により、本発明の核酸の合成方法が実施される。
本発明において、核酸(3)と核酸(4)の組み合わせで生成する核酸は、いずれも標的塩基配列に加えて、付加的な塩基配列を有している。付加的な塩基配列は、核酸(3)および核酸(4)がループから5’末端にかけて有している塩基配列に相当する。したがって、核酸(3)と核酸(4)の組み合わせから生成される核酸は、標的塩基配列の5’側と3’側に付加的な塩基配列を有する。また、核酸(3)または核酸(4)と、核酸(1)または核酸(2)との組み合わせでは、標的塩基配列の5’側または3’側のいずれかに付加的な塩基配列を有する核酸を生成する。そしてその付加的な塩基配列を有する3’末端、あるいは5’末端は、インサートプライマーに由来する塩基配列となることから、自身に相補的な塩基配列を持たない。したがって、この核酸そのものは、直接的にLAMP法の反応を開始できる状態にはない。しかし、この核酸には、インサートプライマーからインナープライマーにかけての塩基配列がその5’末端を含む領域に保存されている。
したがって、この領域を鋳型とし、インナープライマーRIPあるいはFIPに基づいて、新たに核酸(1)あるいは核酸(2)を生成することができる。生成された核酸(1)あるいは核酸(2)は、インナープライマーの5’側にアニールする他の核酸からの相補鎖合成によって置換され、1本鎖の核酸として鋳型から遊離する。このように、図1−図5に示すとおり、インサートプライマーとインナープライマー、更に望ましくはアウタープライマーを利用することにより、核酸(1)、核酸(2)、核酸(3)、および核酸(4)が連続的に合成され、標的塩基配列を含む核酸が合成される。更にこれらの反応に伴って、LAMP法に基づく反応を開始する構造が生成し、新たな鋳型として機能する。これらの反応は、標的塩基配列を含む核酸を合成するとともに、反応生成物が新たな反応を開始するための出発物質として機能することから、核酸の増幅反応を構成する。
なおここでインナープライマーやインサートプライマーは、2本鎖の状態にある核酸を鋳型とすることになる。2本鎖の鋳型を変性工程を経ることなく鋳型として利用可能な条件については、既に述べたとおりである。
以上が本発明による核酸の合成方法の反応原理である。以上の説明から明らかなように、結局、本発明による核酸の合成方法に必要なプライマーを標的塩基配列を含む鋳型となる核酸とともに、相補鎖合成が開始できる条件下でインキュベートすることにより、以上に述べたような反応を実施することができる。このとき、望ましい条件下においては、全ての反応を共通の条件下で実施することができる。すなわち、望ましい条件においては、核酸の変性などを目的として、加熱などの処理を施す必要が無い。
すなわち本発明は、以下の要素をインキュベートする工程を含む、標的塩基配列を含む核酸を合成する方法に関する。
(a)インナープライマーF;ここでインナープライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーFの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(b)インナープライマーR;ここでインナープライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーRの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(c)インサートプライマーF;ここでインサートプライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(d)インサートプライマーR;ここでインサートプライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する他方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を備え、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する、
(e)標的塩基配列を含む鋳型核酸、
(f)ヌクレオチド基質、および
(g)鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
本発明による核酸の合成方法においては、反応液中に更に付加的に次の要素を存在させることができる。
(h)アウタープライマーF;ここでアウタープライマーFは、鋳型におけるインナープライマーFがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、および
(i)アウタープライマーR;ここでアウタープライマーRは、鋳型におけるインナープライマーRがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる。
また本発明による核酸の合成方法においては、反応液中に更に付加的に次の要素を存在させることができる。
(j)ループプライマーF;ここでループプライマーFの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーFの5’末端を含む領域が、インナープライマーFを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする、および
(k)ループプライマーR;ここでループプライマーRの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーRの5’末端を含む領域が、インナープライマーRを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする
本発明の核酸の合成方法においては、様々な塩基配列からなるループを有する核酸が連続的に生成される。このうち、前記インナープライマーがアニールするループは、インナープライマーを起点とする相補鎖合成を開始するための重要なループとなる。一方、インナープライマーの5’末端を含む領域が、インナープライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループには、インナープライマーはアニールしない。このループに対してアニールして相補鎖合成の起点を与えるプライマーが、反応速度を向上させることを、本発明者は見出している(WO 02/24902)。本発明において、インナープライマーがアニールしないループにおいて相補鎖合成の起点を与えるプライマーをループプライマーと呼ぶ。
本発明におけるループプライマーは、インナープライマーFに対するループプライマーF、並びにインナープライマーRに対するループプライマーRの少なくとも2種類のループプライマーをデザインすることができる。本発明においては、こうしてデザインされるループプライマーの少なくとも1種類が用いられる。好ましいループプライマーは、ループプライマーFおよびループプライマーRの2種類のループプライマーである。あるいは、同一のループ内の異なる領域にアニールすることができるループプライマーを組み合せて、3種類以上のループプライマーを用いてもよい。ループプライマーを本発明の核酸の合成方法に応用すれば、反応速度の向上が期待できる。
本発明の標的塩基配列を含む核酸を合成する方法において、インサートプライマーFは、インナープライマーFに対して、たとえば0.1〜100倍、好ましくは0.1〜50倍、より好ましくは0.2〜5倍の濃度で用いる。インサートプライマーRとインナープライマーRの濃度比も同様に設定することができる。更に、1種類の鋳型に対しては、インサートプライマーFとインサートプライマーR、あるいはインナープライマーFとインナープライマーRは、通常それぞれほぼ等しい濃度で用いられる。鋳型となる核酸が複数種であって、しかも各鋳型の量が異なっているときには、少ない方の鋳型にアニールするプライマーの濃度を高めることにより、効率的な合成反応が期待できる場合もある。
またプライマーや酵素の使用量は、予想される鋳型の濃度、反応時間、反応温度、反応に用いる酵素の活性などの条件に応じて、効率的な反応が行われるように適切な条件を設定することができる。より具体的には、たとえばプライマーの濃度は、通常100〜4000nM、好ましくは250〜3000nM、更に好ましくは500〜3000nMとすることにより、6コピー以上の鋳型に基づいて、確認可能なレベルの増幅生成物を生じることができる。
アウタープライマーの第1の目的は、インナープライマーを起点として合成される鎖を、より3’側からの相補鎖合成反応によって置換することにある。したがって、インナープライマーを起点とする相補鎖合成反応が、アウタープライマーのそれよりも優先的に開始されることが望ましい。そのために、通常、アウタープライマーのTmがインナープライマーのTmよりも低くなるようにデザインされる。なおここで、インナープライマーのTmとは、相補鎖合成の起点となる3’末端を含む領域の鋳型核酸に対するTmを言う。
更にアウタープライマーをインナープライマーよりも低い濃度で用いることにより、インナープライマーの相補鎖合成を優先的に行わせることができる。アウタープライマーの使用濃度は、たとえばインナープライマーに対して1/2以下、好ましくは1/10以下、あるいは1/100以下とすることができる。
また本発明にループプライマーを利用する場合には、ループプライマーの使用濃度をインナープライマーの使用濃度に対して、たとえば1/10〜等量とするのが望ましい。より具体的には、1/3〜1/2とすることができる。ループプライマーFとループプライマーRとは、通常、等量とする。
本発明において、アウタープライマーの使用は必須の条件ではない。なぜなら、インナープライマーを置換によって鋳型核酸から遊離させなくても、その伸長反応生成物は、新たな鋳型として機能することができる。1本鎖とする工程を省略しても、一定の確率でプライマーに基づく相補鎖合成反応が開始される場合のあることは既に述べたとおりである。この現象はインナープライマーからの伸長生成物においても期待できるので、アウタープライマーを用いることなく、インサートプライマーや、他方のインナープライマーを起点とする相補鎖合成反応が開始できる可能性はある。
しかし、鋳型核酸に依存してインナープライマーを起点として生成する伸長生成物は、本発明の核酸の合成方法の、最初のステップを構成する生成物である。したがって、その生成速度は、本発明の合成方法の効率を大きく左右する。そのため、この伸長生成物を効率的に鋳型として機能させるためにアウタープライマーを利用することは、本発明の核酸の合成方法において望ましい条件の一つである。
同様に、ループプライマーも、本発明において必須ではない。しかし、ループプライマーの使用によって、反応速度の向上を期待できる。したがって、ループプライマーの使用は、本発明の核酸の合成方法において望ましい条件の一つである。
本発明に用いる各種のプライマーは、化学的に合成することができる。あるいは天然の核酸を制限酵素などによって切断し、上記のような塩基配列で構成されるように改変する、あるいは連結することも可能である。
更に、本発明におけるインサートプライマーやインナープライマーは、公知の標識物質によって標識することができる。標識物質としては、ジゴキシンやビオチンのような結合性リガンド、酵素、蛍光物質や発光物質、あるいは放射性同位元素などを示すことができる。あるいは、インナープライマーを構成する塩基を蛍光性のアナログに置換する技術(WO95/05391,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,6644−6648,1994)も公知である。
この他本発明におけるインサートプライマーやインナープライマーは、鋳型としての機能を妨げない方法で、それ自身を固相に結合させておくこともできる。あるいは、これらのプライマーの任意の部分をビオチンのような結合性のリガンドで標識しておき、これを固相化アビジンのような結合パートナーによって間接的に固相化することもできる。固相化したプライマーを合成開始点とする場合には、核酸の合成反応生成物が固相に捕捉されることから、分離が容易となる。分離された生成物に対して、核酸特異的な指示薬や、あるいは更に標識プローブをハイブリダイズさせることによって、検出を行うこともできる。あるいは、任意の制限酵素で消化することによって、目的とする核酸の断片を回収することもできる。
加えて本発明による核酸の合成方法において、反応液は前記の要素と、適切な反応条件を維持する緩衝液によって構成することができる。更に反応液には、酵素の保護剤や、Tmの調整剤などを加えることもできる。
反応に用いる各要素について更に具体的に述べる。
一連の反応は、酵素反応に好適なpHを与える緩衝剤、酵素の触媒活性の維持やアニールのために必要な塩類、酵素の保護剤、更には必要に応じて融解温度(Tm)の調整剤等の共存下で行う。緩衝剤としては、Tris−HCl等の中性から弱アルカリ性に緩衝作用を持つものが用いられる。pHは使用するDNAポリメラーゼに応じて調整する。塩類としてはKCl、NaCl、MgCl2、MgSO4、あるいは(NH4)2SO4等が、酵素の活性維持と核酸の融解温度(Tm)調整のために適宜添加される。酵素の保護剤としては、ウシ血清アルブミンや糖類が利用される。
更に融解温度(Tm)の調整剤には、ベタイン、プロリン、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと省略する)、あるいはトリメチルアミンN−オキシド(以下、TMANOと省略する)が一般に利用される。融解温度(Tm)の調整剤を利用することによって、前記オリゴヌクレオチドのアニールを限られた温度条件の下で調整することができる。更にベタイン(N,N,N,−trimethylglycine)やテトラアルキルアンモニウム塩は、そのisostabilize作用によって鎖置換効率の向上にも有効である。ベタインは、反応液中0.2〜3.0M、好ましくは0.5〜1.5M程度の添加により、本発明の核酸増幅反応の促進作用を期待できる。これらの融解温度の調整剤は、融解温度を下げる方向に作用するので、塩濃度や反応温度等のその他の反応条件を考慮して、適切なストリンジェンシーと反応性を与える条件を設定する。
Tm調整剤を利用することにより、酵素反応に好適な温度条件を容易に設定することができる。またTm調整剤を反応液中に共存させることによって、2本鎖を鋳型とする相補鎖合成反応を迅速に進めることが可能となる。Tmは塩基配列とその長さによって変動する。したがって、酵素活性を維持できる条件と、本発明の条件を満たすインキュベーションの条件とが一致するように、Tm調整剤の使用量を調整することが望ましい。本発明の開示に基づいて、プライマーの塩基配列に応じて適切なTm調整剤の使用量を設定することは、当業者が通常行いうる。たとえば、アニールする塩基配列の長さとそのGC含量、塩濃度、およびTm調整剤の濃度に基づいて、Tmを算出することができる。
このような条件下における2本鎖の核酸に対するプライマーのアニールは、おそらく不安定であると推測される。しかし鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼとともにインキュベートすることにより、不安定ながらプライマーを合成起点として相補鎖が合成される。相補鎖合成の進行にともなって、合成された相補鎖と鋳型核酸とのハイブリダイズは次第に安定化されることになる。以下に示すようなDNAポリメラーゼは、2本鎖からなる鋳型核酸に対してプライマーを合成起点として、相補鎖の合成を触媒することができる。
本発明による核酸の合成方法を支えているのは、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼである。この種のDNAポリメラーゼには、以下のようなものが知られている。また、これらの酵素の各種変異体についても、それが配列依存型の相補鎖合成活性と鎖置換活性を有する限り、本発明に利用することができる。ここで言う変異体とは、酵素の必要とする触媒活性をもたらす構造のみを取り出したもの、あるいはアミノ酸の変異等によって触媒活性、安定性、あるいは耐熱性を改変したもの等を示すことができる。
これらのDNAポリメラーゼは、反応条件のもとで必要な反応を達成できる量が用いられる。たとえば、Bst DNAポリメラーゼであれば、反応液25μLあたりたとえば2〜20U、通常5−10Uとすることにより、短時間で十分な量の合成生成物を生じることができる。
Bst DNAポリメラーゼ
Bca(exo−)DNAポリメラーゼ
DNA ポリメラーゼIのクレノウ・フラグメント
Vent DNAポリメラーゼ
Vent(Exo−)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)
DeepVent DNAポリメラーゼ
DeepVent(Exo−)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)
Φ29ファージDNAポリメラーゼ
MS−2ファージDNAポリメラーゼ
Z−Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造)
KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡績)
これらの酵素の中でもBst DNAポリメラーゼやBca(exo−)DNAポリメラーゼは、ある程度の耐熱性を持ち、触媒活性も高いことから特に望ましい酵素である。本発明は、場合により2本鎖の状態にある核酸に対して、プライマーを合成起点とする工程と、相補鎖合成反応とを同一条件下で行う。このような反応は、しばしばある程度の加温を必要とすることから、酵素が耐熱性であることは望ましい条件の一つである。耐熱性の酵素を用いることにより、幅広い反応条件に対応することができる。
たとえばVent(Exo−)DNAポリメラーゼは、鎖置換活性と共に高度な耐熱性を備えた酵素である。ところでDNAポリメラーゼによる鎖置換を伴う相補鎖合成反応は、1本鎖結合タンパク質(single strand binding protein)の添加によって促進されることが知られている(Paul M.Lizardi et al,Nature Genetics 19,225−232,July,1998)。この作用を本発明に応用し、1本鎖結合タンパク質を添加することによって相補鎖合成の促進効果を期待することができる。Vent(Exo−)DNAポリメラーゼに対しては、1本鎖結合タンパク質としてT4 gene 32が有効である。
なお3’−5’エクソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼには、相補鎖合成が鋳型の5’末端に達した部分で停止せず、1塩基突出させた状態まで合成を進める現象が知られている。本発明では、相補鎖合成が末端に至ったときの3’末端の配列が次の相補鎖合成の開始につながるため、このような現象は望ましくない。しかし、DNAポリメラーゼによる3’末端への塩基の付加は、高い確率でAとなる。したがって、dATPが誤って1塩基付加しても問題とならないように、3’末端からの合成がAで開始するように配列を選択すれば良い。また、相補鎖合成時に3’末端がたとえ突出してしまっても、これを消化してblunt endとする3’→5’エクソヌクレアーゼ活性を利用することもできる。たとえば、天然型のVent DNAポリメラーゼはこの活性を持つことから、Vent(Exo−)DNAポリメラーゼと混合して利用することにより、この問題を回避することができる。
これらのDNAポリメラーゼに対して、PCRなどで一般に用いられているTaqポリメラーゼ等のDNAポリメラーゼは、通常の条件では鎖置換作用は実質的に見られない。しかし、この種のDNAポリメラーゼであっても、鎖置換が可能な条件を与えることができる場合には、本発明に利用することができる。
本発明の核酸の合成方法は、核酸を鋳型として用いる。鋳型とする核酸のタイプは限定されない。したがって、2本鎖、1本鎖、あるいは3本鎖、更にDNA−RNAハイブリッド、あるいは人工的なヌクレオチド誘導体を含むDNAやRNAの誘導体等を鋳型とすることができる。
本発明の核酸は、精製されていても良いし、未精製であることもできる。また、細胞内に存在する状態(in situ)で、本発明の方法を適用することもできる。細胞内の2本鎖核酸を鋳型とすることによって、ゲノムのin situ解析が可能となる。また細胞内のmRNA(1本鎖核酸)を鋳型として利用することもできる。
本発明においてcDNAを鋳型として用いる場合、cDNAを合成する工程と、本発明に基づく核酸の合成方法とを、同一の条件下で実施することができる。RNAを鋳型としてcDNAの第1鎖を合成すると、DNA−RNAハイブリッドによる2本鎖核酸が完成する。この2本鎖核酸を本発明における鋳型として、核酸の合成方法を実施することができる。本発明の核酸の合成方法に用いるDNAポリメラーゼが、逆転写酵素活性を備えるものであれば、単一の酵素を用い、同一の条件下で核酸の合成を行うことができる。たとえばBca DNAポリメラーゼは、鎖置換活性を有し、逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼである。なお、第2鎖を合成したうえで完全な2本鎖cDNAとした後に、本発明による核酸の合成方法を適用しうることは言うまでも無い。
本発明においては、2本鎖の状態にある核酸を鋳型とするとき、任意のプライマーを加え、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応が達成できる条件のもとでインキュベートすることにより、インサートプライマーやインナープライマーがアニールすべき領域を塩基対結合が可能な状態とすることができる。
任意のプライマーとは、各種のプライマーがアニールすべき領域を塩基対結合可能な状態とするために用いられる。したがって、任意のプライマーは、鋳型となる2本鎖核酸の、インサートプライマーやインナープライマーがアニールすべき核酸鎖に対して、その相補鎖を鋳型として相補鎖合成を開始できるものである必要がある。更に、本発明における任意のプライマーを合成起点とする相補鎖合成は、インサートプライマーやインナープライマーがアニールすべき領域に向かって進行するような位置関係にあるべきである。
言いかえれば、インナープライマーやインサートプライマーを起点とする相補鎖合成反応において鋳型として機能する領域の、任意の領域において合成起点を与えるようにデザインすることができる。任意のプライマーは、この条件を満たす限り、任意の領域に相補的な塩基配列からなることができる。たとえば、インナープライマーやインサートプライマーのセットの一方を、任意のプライマーとして用いることもできる。このような態様は反応に必要な成分を少なくすることから、本発明における望ましい態様の一つである。
特に、異なる鋳型核酸に対してインサートプライマーとインナープライマーを用いる場合には、インナープライマーやインサートプライマーは、1つの鋳型に対して1セットしか与えられない。このようなケースでは、これらのプライマーに加えて、任意のプライマーを加え、これらのプライマーがアニールすべき領域を塩基対結合が可能な状態とすることで、迅速な反応を期待できる。
なお任意のプライマーによる2本鎖の状態にある核酸を鋳型とする相補鎖合成反応が達成できる条件とは、実際には次の複数の工程を同じ条件下で進めることができる条件ということができる。
i)2本鎖の状態にある鋳型核酸に対して任意のプライマーが合成起点を与える
ii)前記合成起点を利用して相補鎖合成反応が進む
プライマーは少なくともそれがアニールすべき領域が1本鎖でなければ合成起点を与えることはできないと考えられていた。そのため従来は、2本鎖の核酸を鋳型とする場合には、プライマーのアニールに先立って必ず変性によって1本鎖とする工程が実施されてきた。しかし必ずしも完全な1本鎖としなくとも、何らかの手段によって2本鎖が不安定化される条件のもとで、プライマーとインキュベートすることにより、合成起点を与えることができる。2本鎖が不安定化される条件としては、たとえば融解温度(Tm)近くにまで加温する方法を示すことができる。あるいは、更にTm調整剤を存在させることも有効である。
2本鎖核酸が不安定化する条件下で、プライマーをインキュベートすることによって相補鎖が合成される現象は、既に報告されている(特表平11−509406;WO97/00330)。しかし報告された条件では、実際にはごくわずかな量の合成生成物しか期待できない。2本鎖核酸の不安定化を利用してプライマーを合成起点として相補鎖合成を行うことは、原理的には可能であるが、1本鎖の核酸を鋳型とする反応ほど効率的な反応を期待できないのである。PCR法のような温度変化を必要とする相補鎖合成反応との組み合わせにおいては、2本鎖の不安定化を利用した相補鎖合成反応の効率が全ての相補鎖合成反応に影響するので、実用的な反応効率を達成することは困難である。このことが公知の方法における不十分な増幅効率の原因となっていた。
一方本発明では、2本鎖核酸の不安定化に基づく相補鎖合成反応を、もともと等温で進行する核酸合成反応のためのプライマーがアニールすべき領域を供給することに応用したことによって、2本鎖の不安定化に基づく相補鎖合成の効率の低さを補うことができるという新規な知見に基づいている。
本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法において、鋳型核酸には任意の核酸を用いることができる。まず鋳型核酸は、1本鎖、2本鎖、あるいは3本鎖であることができる。1本鎖でなくとも、適切な条件を与えれば、変性工程無しで鋳型核酸として利用しうることは既に述べた。また鋳型とする核酸は、DNAであってもRNAであっても良い。RNAを鋳型とするときには、RNAを鋳型として鋳型依存性の相補鎖合成反応を触媒する酵素を利用することができる。RNAを鋳型とする逆転写酵素活性を有し、かつ鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼが知られている。たとえばBca DNAポリメラーゼは、鎖置換活性を有し、逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼである。なお、第2鎖を合成したうえで完全な2本鎖cDNAとした後に、本発明による核酸の合成方法を適用しうることは言うまでも無い。本発明において、核酸の由来は制限されない。通常核酸は生体材料に由来するが、人工的に合成された核酸を鋳型とすることもできる。
本発明に基づく核酸の合成方法、あるいは核酸の増幅方法は、DNAチップに固定するためのDNAの合成に有用である。以下に本発明を利用して、DNAチップを調製する工程を例示する。
まず、DNAチップに固定すべき核酸の塩基配列に基づいて、本発明のプライマーをデザインする。本発明の開示に基づいて、所望の核酸の増幅に必要なプライマーをデザインすることは、当業者が通常行いうる。デザインされたプライマーを、本発明の核酸の増幅反応に必要な成分とともに、適当な条件下でインキュベートすることにより、反応液中には、目的とする塩基配列が連結したLAMP法に特有の構造を有する核酸が多量に生成される。得られた生成物は、そのまま、あるいは適当な処理の後に、公知の方法によって基板上に固定される。基板には、ガラススライドやナイロンメンブレンなどが用いられる。基板上に核酸を固定化する方法は公知である。
本発明に基づいてDNAチップに固定するための核酸を合成するとき、鋳型としては任意の核酸を利用することができる。より具体的には、様々な細胞に由来するcDNAクローン等を鋳型として用いる。あるいはゲノムを鋳型として、任意の領域を本発明によって増幅し、DNAチップに固定化することもできる。
たとえばLAMP産物は、インバーテットリピート構造になることが構造上の特徴である。すなわち、相補的な塩基配列が、交互に連結された構造である。このような構造を持つ核酸においては、相補的な塩基配列からなる領域同士で分子内アニールが起きハイブリ効率に影響を与えることが予想される。しかし分子内アニールによる問題は、簡単な処理で容易に解消することができる。LAMP産物は、たとえば特定の位置に導入しておいた制限酵素サイトを利用して、制限酵素処理により断片化することができる。いったん断片化された核酸は、もはや分子内アニールを起こすことは無い。
一般に、固定化されているDNAの長さが長いほどプローブとの反応性は良いとされている。これまでにLAMP法で合成された核酸は、インナープライマーに挟まれた領域の長さが20−100bp程度のものであった。この程度の長さでは、プローブとの反応性を高めることが難しい。本発明によれば、これまでに試みられたことの無い、比較的長いDNAをLAMP法に基づいて増幅することができる。その結果、本発明の合成生成物を利用して調製したDNAチップは、公知のLAMP法で合成した核酸を用いたチップに比べて効率よくシグナルを検出できる。
DNAチップを用いた遺伝子の解析方法として、たとえば次のような手法が一般に用いられている。まず異なる2つの細胞に由来するmRNA試料から調製した標識cDNAをマイクロアレイに対してハイブリダイズさせる。次に、DNAチップに固定化した核酸にハイブリダイズしたプローブのシグナルを測定する。各核酸ごとにシグナルを測定し、シグナル強度を解析すれば、各々のmRNAの相対的な発現レベルが比較される。このとき、チップ上に固定化された核酸の間でハイブリダイズ効率にばらつきがあると、解析結果の信頼性が失われる原因となる。したがって、より長い核酸を固定し、十分な反応性を与えることには意義がある。
更に、本発明に基づいて2つの異なる遺伝子に由来する塩基配列を連結した標的塩基配列からなるポリヌクレオチドを合成し、DNAチップにおけるプローブとして用いることもできる。一般にDNAチップにおいては、遺伝子ごとにプローブを用意しなければならない。一方本発明によって合成された異なる遺伝子由来の塩基配列を連結したポリヌクレオチドを利用すれば、1つのポリヌクレオチドが2つの遺伝子に対するプローブとして機能する。さらに、それぞれの遺伝子に対するプローブの量が均等になるので、シグナルを較正(ノーマライズ)する必要がない。
本発明の核酸の合成方法は、遺伝子のクローニングに応用することができる。PCR法に基づく遺伝子のクローニングは、PCR法の反応産物を制限酵素で消化し、クローニングベクターに組み込んで行われる。本発明においても同様に、LAMP産物を適当な制限酵素で消化すれば、クローニングベクターに組み込むための断片とすることができる。
LAMP産物は、DNAチップに固定すべき核酸の合成の他、標識プローブの調製に利用することもできる。すなわち、LAMP産物を鋳型としてプライマーエクステンションによる標識プローブを調製することができる。LAMP法では多量のDNAを生成するので、標識プローブを容易に、かつ多量に調製することができる。このようにして調製された標識プローブは、ハイブリダイゼーションアッセイや、DNAチップによる解析用のプローブとして有用である。
また本発明の核酸の増幅方法は、発現用の遺伝子の取得に利用することができる。ヒトのゲノムドラフトの塩基配列情報から、蛋白質を構成するアミノ酸の平均は352アミノ酸であると予測された。これは1056bpのDNAに相当する。本発明の方法では、少なくとも約500bp前後のDNAを増幅することができる。つまりヒトの平均的な蛋白質の約半分の領域をカバーすることができることになる。タンパク質の機能解析はポストゲノム世代の重要な研究テーマに位置付けられている。そしてそのためには、蛋白質を発現させる必要がある。本発明は、遺伝子の翻訳領域の増幅に貢献できると考える。
更に本発明の核酸の増幅方法による生成物を指標として、核酸を検出、あるいは定量することができる。すなわち、特定の塩基配列の増幅を目的としてデザインされたプライマーを用いたときに、多量の生成物が生じた場合には、その塩基配列が試料中に存在していることがわかる。更に、シグナルの強度や、一定のシグナル強度に達するまでの反応時間を指標として、試料中の標的塩基配列を含む核酸の存在量を比較することもできる。
合成される核酸を測定する方法は公知である。LAMP法によって合成された核酸は、1本鎖とは言え相補的な塩基配列から構成されるため、その大部分が塩基対結合を形成している。この特徴を利用して、合成生成物の検出が可能である。エチジウムブロマイド、SYBR Green I、あるいはPico Greenのような2本鎖特異インターカレーターである蛍光色素の存在下で本発明による核酸の合成方法を実施すれば、生成物の増加に伴って蛍光強度の増大が観察される。
これをモニターすれば、閉鎖系でリアルタイムな合成反応の追跡が可能である。この種の検出系はPCR法への応用も考えられているが、プライマーダイマー等によるシグナルの発生と区別がつかないことから問題が多いとされている。しかし本発明に応用した場合には、非特異的な塩基対結合が増加する可能性が非常に低いことから、高い感度と少ないノイズが同時に期待できる。2本鎖特異インターカレーターと同様に、均一系の検出系を実現する方法として、蛍光エネルギー転移の利用が可能である。
加えて、本発明の核酸の増幅方法に基づいて、変異を検出することができる。鋳型核酸が予測された塩基配列でなかった場合に、本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法を構成する、いずれかの相補鎖合成反応が阻害されるようにしておけば、反応生成物の量、あるいは有無を指標として変異を検出することができる。本発明による変異の検出方法について、以下に具体的に述べる。
本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法は、複数の相補鎖合成反応によって構成される。このうち、インサートプライマーの3’末端を起点とする相補鎖合成反応、あるいはインサートプライマーを鋳型として合成された相補鎖の3’末端を起点とする相補鎖合成反応は、本発明に固有の反応である。本発明による変異の検出方法においては、これらインサートプライマーに関連する2種類の相補鎖合成反応の、少なくともいずれかが、鋳型核酸の塩基配列によって調節されるようにする。
本発明において、インサートプライマーの5’末端を変異を検出すべき領域に相当するようにデザインするときには、2つのインサートプライマーの5’末端の塩基配列が相補的な塩基配列とならないようにするのが望ましい。具体的には先に述べたインサートプライマーの具体例のうち、[鋳型核酸中の連続する標的塩基配列を合成するためのインサートプライマー2]として説明したようなインサートプライマーを用いれば良い。この例では、インサートプライマーを鋳型として合成された相補鎖は、常に標的塩基配列からなる領域にアニールして、塩基配列のチェック機構が作用することになる。
これに対して、インサートプライマーの5’末端が相補的な塩基配列で構成されていた場合には、インサートプライマーを鋳型として合成された核酸は、インサートプライマーの塩基配列に由来する塩基配列に対してアニールすることになる。標的塩基配列に由来する塩基配列に対してアニールしなければ、塩基配列をチェックすることはできない。
鋳型依存型の相補鎖合成反応は、合成起点となる3’末端付近の塩基配列の組み合わせに大きな影響を受ける。したがって、インサートプライマーの3’末端、および/または5’末端付近を、変異を検出すべき領域に相当するように、インサートプライマーをデザインすればよい。より具体的には、3’末端から5塩基、より望ましくは2〜4塩基の領域に検出すべき変異が位置するようにデザインすれば、鋳型核酸における塩基配列の変化によって相補鎖合成反応を調節することができる。インサートプライマーを鋳型として合成された相補鎖の3’末端で、相補鎖合成を調節する場合にも、同様の条件で、塩基配列をデザインできることは言うまでもない。
本発明に基づいて鋳型核酸の塩基配列の変異を検出するとき、インナープライマーの3’末端、あるいはインナープライマーを鋳型として合成された相補鎖の3’末端を起点とする相補鎖合成反応を、鋳型核酸の変異によって調節することもできる。そのためには、前記のように、相補鎖合成の起点となる3’末端付近が、検出すべき変異に相当するように各プライマーの塩基配列をデザインする。特に、インナープライマーを鋳型として合成される相補鎖の3’末端は、鋳型に由来する塩基配列からなる領域に対して何度もアニールして相補鎖合成の起点となることから、変異のチェック機構を厳しくすることができる。インサートプライマーに合わせて、インナープライマーを利用して変異の検出を行えば、1組のプライマーによって、複数個所の変異を同時に解析することができる。本発明においては、インサートプライマーとインナープライマーの間隔を自由に設定することができるので、検出すべき変異が離れて存在していても、問題とならない。
本発明の変異の検出方法を利用して複数の変異を同時に解析するときには、検出すべき変異の種類に合わせて、様々な解析手法を利用することができる。たとえば、2つのSNPsAおよびBが特定の形質とリンクしている場合を例に、本発明による解析手法を説明する。AとBが特定の塩基の組み合わせであるときに、特定の形質が発現するときには、その組み合わせに限って、相補鎖合成反応が構成されるように、プライマーをデザインする。反応生成物の生成は、試料に含まれる核酸におけるAとBの塩基が、いずれも検出すべき塩基であることを意味している。
あるいは、4×4=16とおりの組み合わせのプライマーを用いれば、2つのSNPsに対して、あらゆる塩基の組み合わせを検出することができる。なお、全ての組み合わせを検出しようとするとき、必ずしも16とおりの組み合わせの全てを実験的に確認する必要はない。たとえばAが塩基aであるときに、Bの塩基を決定する場合、Bについてa、t、およびcのためのプライマーをデザインして3通りの実験を行えば、反応生成物が観察されない場合には、Bはatcのいずれでもないこと、すなわちgであることが推測できる。したがって、この核酸の塩基は、A−a/B−gであると決定することができる。すなわち、12通りの組み合わせによって、2点の塩基の全ての組み合わせを決定することもできる。
このように、複数個所の変異を同時に確認できることは、本発明の大きな特徴である。しかも本発明による変異の検出方法は、特異性に優れる。PCR法では、プライマーを鋳型として写し取った核酸に対してプライマーがアニールし、相補鎖合成反応が行われるので、1塩基の変異の検出を検出することは困難とされる。しかし本発明では、相補鎖合成反応が、鋳型に由来する塩基配列に対してアニールする領域によってコントロールされる。つまり、より特異的に変異を検出することができる。
本発明による核酸の合成方法、あるいは増幅方法に必要な各種の試薬類は、あらかじめパッケージングしてキットとして供給することができる。具体的には、本発明のために、インサートプライマー、インナープライマー、アウタープライマー、あるいはループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド、相補鎖合成の基質となるdNTP、鎖置換をともなって相補鎖合成を行うDNAポリメラーゼ、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液、更に必要に応じて合成反応生成物の分離や切断のために必要な試薬類で構成されるキットが提供される。たとえば本発明のキットが、核酸の検出を目的とする場合には、本発明の合成方法によって合成される核酸を検出するための検出剤を組み合せることができる。あるいは、本発明に基づいて融合蛋白質をコードするDNAを得ることを目的とするキットにおいては、融合パートナーをコードするDNAをキットに組み合せることができる。
特に、本発明の望ましい態様においては、反応途中で試薬の添加が不要なことから、1回の反応に必要な試薬を反応容器に分注した状態で供給することにより、サンプルの添加のみで反応を開始できる状態とすることができる。必要なDNAの調製を反応容器のままで行えるようなシステムとすれば、反応後の容器の開封を全面的に廃止することができる。これは、コンタミネーションの防止上、たいへん望ましいことである。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
発明を実施するための最良の形態
実施例1:
<インサートプライマーの設計>
LAMP法に基づく核酸増幅反応において、反応系に付加的なプライマーを加えることについて検討した。プライマーを設計する場所は、インナープライマーに挟まれた領域である。またプライマーの方向は、F1あるいはR1と同じ向きとし、これらのプライマーの5’部分が重なるように設計した。R1あるいはF1とは、LAMP法において、自身を鋳型とする相補鎖合成反応にあたり、自身にアニールする3’末端を含む領域である。この付加的なプライマーをインサートプライマー(Insert primer)と名付けた。各プライマーと標的塩基配列との位置関係を図6に示した。
<インサートプライマーを用いた反応>
pBSTspRIベクターに挿入した387bp DNA断片を鋳型として用い、以下に示す反応条件で本発明に基づく核酸の合成反応を行った。鋳型として用いた核酸の塩基配列を配列番号:1(ヒト・インターロイキン8遺伝子の塩基配列)に示した。配列番号:1の塩基配列は、各プライマーが認識する領域を含む。この鋳型核酸に対して、以下に記載の塩基配列からなる各種のプライマーを合成して用いた。
反応液組成(25μL中)
20mM Tris−HCl pH8.8
10mM KCl
10mM(NH4)2SO4
4mM MgSO4
1M Betaine
0.1% Triton X−100
0.4mM dNTPs
8U Bst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs)
プライマー:
1600nMインナープライマーF/Inner F
1600nMインナープライマーR/Inner R
400nMアウタープライマーF/Outer F
400nMアウタープライマーR/Outer R
鋳型とした核酸は熱変性をしないものを用意し、反応液を65℃でオーバーナイトインキュベートした。このとき、インサートプライマー(インサートプライマーF/Insert FとインサートプライマーR/Insert R)を終濃度10、20、30、40、50pmol/25μLになるように同時に加えた。この条件で、インサートプライマーの添加量は、インナープライマー(1600nM=40pmol/25μL)に対して、0.25〜1.25倍となる。上記反応液の5μLに5μLのloading bufferを添加し、2%アガロースゲル(0.5% TBE)を使って、0.5時間、100Vで電気泳動した。分子サイズマーカーとして、100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)を使用した。泳動後のゲルをエチジウムブロマイド(EtBrと省略する)で染色して核酸を確認した。結果は図7に示すとおりである。各レーンは次のサンプルに対応している。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:インサートプライマー10pmol/25μL添加
レーン3:インサートプライマー20pmol/25μL添加
レーン4:インサートプライマー30pmol/25μL添加
レーン5:インサートプライマー40pmol/25μL添加
レーン6:インサートプライマー50pmol/25μL添加
この結果、インサートプライマーの濃度が増加するのに従い予想されるサイズの明瞭なバンドが確認できた。これは、インサートプライマーによって、期待された反応が進行していることを示している。一方、インサートプライマーを加えない場合にはスメアなバンドが観察され、非特異的な増幅が起きている可能性が示唆された。
<反応産物のBamHI消化>
上記反応産物が目的とする構造を有することを確認するためにBamHIで消化した。制限酵素を使った消化によって理論どおりの断片を生じる一方、図7で観察された高サイズのスメアなパターンや泳動されないバンドが消滅すれば、これらがいずれも本発明によって合成された1本鎖上に相補的な塩基配列を連結した核酸であることが確認できる。ここでは40pmol/25μLのインサートプライマーを使用した反応産物を使用した。
25μLの反応液をQIAquick PCR purification kit(QIAGEN)を用いて精製し、50μLのTris/HCl pH8.0で溶出した。このうち1μLをBamHIにて37℃、1時間消化した。消化物を2%アガロースゲルを使って100Vで30分間泳動した。泳動後、ゲルをEtbrで染色し核酸を検出した。分子量マーカーは100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)を用いた。結果は図8に示すとおりである。各レーンは次のサンプルに対応している。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:−:生成物のBamHI消化物(インサートプライマーを用いないとき)
レーン3:+:生成物のBamHI消化物(インサートプライマーを用いたとき)
インサートプライマーを加えていないものでは目的とするバンドが確認できなかったのに対して、加えたものでは400bp付近にバンドが検出された。なおインナープライマーで挟まれた領域は396bpである。
以上の結果より、インサートプライマーを用いると、比較的長い標的塩基配列を容易に、しかも特異的に増幅できることが確認された。
実施例2:
<インサートプライマーを用いたLAMP反応>
pBSTspRIベクターに挿入したラムダDNA断片(528bp Sau3AI断片;配列番号15)を鋳型として用い、以下に示す反応条件でLAMP反応を行った。図11にはプライマーの位置、および制限酵素切断部位を示す。このとき、以下に記載の塩基配列からなるインサートプライマー(InsFとInsR、あるいはInsF2とInsR2)を終濃度400nMになるように同時に加えた。インナープライマーおよびアウタープライマーの濃度は以下の通りである。またインナープライマーとアウタープライマーの塩基配列は実施例1と同じである。インナープライマーFおよびインナープライマーR=800nM,アウタープライマーFおよびアウタープライマーR=200nM。増幅後、2%アガロースゲル電気泳動し、EtBrで染色した。この結果、予想される位置にバンドが確認できた(図12)。
<LAMP産物のBssHII消化>
上記LAMP産物が目的とする構造を有することを確認するためにBssHII消化を行った。反応産物を含む25μlの反応液をQIAquic PCR purification kitを用いて精製し、50μlのTris/HCl pH8.0で溶出した。このうち1μlをBssHIIにて37℃、1時間消化した。図12のラダーを形成した増幅産物をBssHIIで消化すれば、図11の中のBssHIIで挟まれた配列に相当する部分が約600bpのメインバンドとして生成するはずである。
消化物を2%アガロースゲルを使って100Vで30分間電気泳動した。泳動後、ゲルをEtBrで染色し核酸を検出した。マーカーは100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)を用いた。この結果、予想される位置にバンドが確認できた(図13)。今回、インナープライマーで挟まれた領域は536bpである。以上より、別の鋳型を用いたときでもインサートプライマーを用いると、比較的長い鋳型を容易に増幅することができた。また、本実施例では2種類のインサートプライマー(InsF/R、およびInsF2/R2)を設計し、いずれのプライマーでも増幅することが可能であった。
実施例3:
<プライマーの設計>
本発明の方法に基づいて、鋳型核酸の任意の部分の欠失変異体を合成できること、並びに中央部分に塩基配列の変異を導入した標的塩基配列の合成が可能であることを確認した。鋳型(λDNA、配列番号:8)に対して、以下の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをインナープライマー、インサートプライマー、およびアウタープライマーとして用いた。
インサートプライマーの5’側には、リンカー配列として任意の配列CATCAAATATのセンスあるいはアンチセンスをそれぞれ付加した。上記インサートプライマーF/Insert Fおよび、インサートプライマーR/Insert Rは、それぞれλDNAの離れた領域に対してアニールする。その結果、図9に示すように中間部分に位置する[欠失]で示した部分を欠失(deletion)し、リンカー配列CATCAAATATを介して、矢印で挟まれた2つの領域を連結した塩基配列からなる標的塩基配列が合成されるはずである。このとき鋳型の塩基配列と標的塩基配列とを比較すると、図9におけるF1/R1間の塩基数で、鋳型においては525bp(図9の上)だったものが、46bpの標的塩基配列(図9の下)として合成される。
ターゲットDNAとして、λDNAは熱変性をしないものを用意し、実施例1と同じ組成の反応液に次の濃度のプライマーを加え、65℃で4時間反応させた。
プライマー:
800nMインナープライマーF/Inner F
800nMインナープライマーR/Inner R
800nMインサートプライマーF/Insert F
800nMインサートプライマーR/Insert R
200nMアウタープライマーF/Outer F
200nMアウタープライマーR/Outer R
<変異導入用インサートプライマーを用いたLAMP反応>
λDNA(1x106分子)を鋳型として用い、上記に示す条件で本発明の核酸の合成反応を行った。25μLの反応液をQIAquick PCR purification kit(QIAGEN)を用いて精製し、50μLのTris/HCl pH8.0で溶出した。このうち1μLをEcoRVにて37℃、1時間消化した。
消化物を2%アガロースゲルを使って100Vで30分間泳動した。泳動後、ゲルをEtbrで染色し核酸を検出した。分子量マーカーには100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)を用いた。結果は図10に示すとおりである。左側のレーンは100bp DNAラダー(NEW ENGLAND BioLabs)である。また各レーンは次のサンプルに対応している。図10から、欠失したときに予測される位置にバンドが検出された。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:反応生成物EcoRV消化前
レーン3:反応生成物をEcoRVで消化後
<EcoRV消化物のクローニング>
上記反応生成物の塩基配列を決定した。予めEcoRVで消化したベクター(pBlue script)とEcoRVで消化した反応生成物をライゲーションして、pBS525/EcoRVとした。更にこのベクターをコンピテントセル(DH5α)にトランスフォーメーションした。トランスフォームした大腸菌をクローニングし、増殖させた後、大腸菌からアルカリSDS法でプラスミドを回収した。
<塩基配列の決定>
シーケンシング反応はCy5.5標識ベクター特異的プライマー、ThermoSequenase Cycle Sequencing Kit(Amersham pharmacia biotech)を用い、ダイプライマー法を利用して塩基配列を決定した。DNA塩基配列は自動蛍光DNAシーケンサー(ファルマシア社製モデルSeq4x4)を使用して決定した。
<結果>
インサートプライマーにはそれぞれ10塩基のリンカー配列(CATCAAATAT)を付けており、これらは相補的な塩基配列になっている。インサートプライマーを用いたLAMP反応では、この配列を介してアニールが起こりDNA合成が開始される。これによりインサートプライマーで挟まれた領域(図9の[欠失])を欠失した配列が得られることが期待できる。
塩基配列を決定した結果、予測された塩基配列からなるDNAが合成されたことを確認できた。以上より、インサートプライマーを用いることにより欠失変異を得ることが可能であることが示された。更に、標的塩基配列以外の塩基配列を付加したインサートプライマーを使用することにより、増幅配列中に塩基を挿入することができた。
今回の実験により、塩基の欠失および挿入を同時に示すことができた。
産業上の利用の可能性
本発明によって、LAMP法の原理を利用しながら、公知のLAMP法では知られていなかった新たな核酸の合成方法が提供された。本発明の核酸の合成方法によれば、以下のような新たな利点を期待することができる。
まず、本発明の核酸の合成方法は、長い標的塩基配列を塩基配列特異的に合成することができる。標的塩基配列の末端領域にプライマーを設定する公知のLAMP法では、条件によっては、長い標的塩基配列の合成にあたり、非特異的な合成生成物が生じてしまうことがあった。非特異的な合成生成物は、核酸の合成においては、収率の低下を意味している。
これに対して本発明の方法では、たとえば400塩基を越えるような長い標的塩基配列であっても、非特異的な副生物の産生を抑制し、しかも迅速に目的とする核酸を合成することができる。
本発明の核酸の合成方法は、DNAマイクロアレイに固定化するためのプローブの合成に有用である。DNAマイクロアレイに固定化するプローブには数百塩基の長さを有するDNAが必要とされていることは既に述べた。本発明によれば、400塩基以上の長さのDNAを迅速に、かつ容易に合成することができる。また、LAMP法がもともと鋳型に対して高度に特異的な合成を期待できる方法であることから、その合成生成物には、高い正確性が期待できる。
次に、本発明の核酸の合成方法においては、標的塩基配列の末端のみならず、中間にもプライマーを設定する。この特徴を利用して、標的塩基配列の中間にも変異を導入することができる。現在遺伝子の合成方法として広く普及しているPCR法においても、プライマーは標的塩基配列の末端部分にしか設定しない。したがって、本発明のように、標的塩基配列の中央部分にも変異を導入することができる技術は、遺伝子操作のための技術としてたいへん有用である。
本発明の遺伝子の合成方法、あるいは増幅方法によって、鋳型核酸において離れて位置する複数の領域を連結した塩基配列からなる核酸を得ることができる。この特徴によって本発明は、鋳型核酸の任意の領域を欠失した変異体を自由に合成することを可能とする。
更に本発明の核酸の合成方法、あるいは増幅方法によって、異なる鋳型核酸から選択される任意の領域を、一つの連続する塩基配列として有する核酸を得ることができる。この特徴によって本発明は、任意の融合蛋白質をコードする遺伝子を、自由に合成することを可能とする。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図。図中、各鎖の3’末端を矢印で示した。
図2は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図(図1の続き)。
図3は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図(図2の続き)。
図4は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図(図3の続き)。
図5は、本発明による核酸の合成方法の、基本的な反応原理を示す図(図4の続き)。
図6は、実施例において設定したインナープライマーとインサートプライマーの鋳型とする核酸に対する位置関係を模式的に示す図。
図7は、インサートプライマーを用いたLAMP法の反応生成物をアガロース電気泳動した結果を示す写真である。各レーンは左から順に次の結果を示している。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:インサートプライマーなし
レーン3:インサートプライマー10pmol/25μL添加
レーン4:インサートプライマー20pmol/25μL添加
レーン5:インサートプライマー30pmol/25μL添加
レーン6:インサートプライマー40pmol/25μL添加
レーン7:インサートプライマー50pmol/25μL添加
図8は、インサートプライマーを用いたLAMP法の反応生成物を、制限酵素BamHIで消化しアガロース電気泳動した結果を示す写真である。各レーンは左から順に次の結果を示している
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:−:生成物のBamHI消化物(インサートプライマーを用いないとき)
レーン3:+:生成物のBamHI消化物(インサートプライマーを用いたとき)
図9は、鋳型核酸の塩基配列と、各プライマーの位置関係を示す図。
図10は、鋳型上において離れた位置にアニールするインサートプライマーを用いたLAMP法の反応生成物を、制限酵素EcoRVで消化しアガロース電気泳動した結果を示す写真である。
レーン1:100bp DNAラダー
レーン2:反応生成物EcoRV消化前
レーン3:反応生成物をEcoRVで消化後
図11は、インサートプライマーの設計位置を示す図。
図12は、LAMP産物の電気泳動した結果を示す写真である。
レーン1:マーカー
レーン2:インサートプライマー無し
レーン3:インサートプライマーInsF/R
レーン4:インサートプライマーInsF2/R2
図13は、LAMP産物を制限酵素BssHIIで消化しアガロースゲル電気泳動した結果を示す写真である。
レーン1:マーカー
レーン2:InsF/R、BssHII未消化物
レーン3:InsF/R、BssHII消化物
レーン4:InsF2/R2、BssHII未消化物
レーン5:InsF2/R2、BssHII消化物
Claims (40)
- 次の工程を含む、標的塩基配列を含む核酸の合成方法。
(1)5’側から3’側にかけて次の領域(a)−(d)を含む、少なくとも2種類の1本鎖の核酸を生成する工程、ここで前記2種類の1本鎖核酸は、その3’末端において相補的な塩基配列を有し、かつ標的塩基配列から選択された塩基配列を含む。
(a)同一鎖上の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域、
(b)領域(a)が同一鎖上の任意の領域に対してハイブリダイズしたときにループを形成する領域、
(c)領域(a)に相補的な塩基配列を含む領域、および
(d)3’末端を構成する塩基配列からなる領域
(2)工程(1)の少なくとも2種類の1本鎖の核酸を、その3’末端においてアニールさせ、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによって相補鎖を合成する工程、および
(3)工程(2)で合成された核酸の3’末端を、同一鎖上の相補的な塩基配列からなる領域にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成し、標的塩基配列からなる1本鎖の核酸を合成する工程、 - 工程(1)の1本鎖の核酸の少なくとも1種類が、領域(a)と領域(c)のハイブリダイズによって、相補鎖を伴わない3’末端を形成する構造を有する核酸である請求項1に記載の方法。
- 工程(1)の1本鎖の核酸の少なくとも1種類が、領域(a)と領域(c)のハイブリダイズによって、相補鎖を伴った3’末端を形成する構造を有する核酸である請求項1、または請求項2に記載の方法。
- 工程(1)の1本鎖の核酸を、以下の工程によって生成する請求項1に記載の方法。
i)標的塩基配列を含む核酸を鋳型として、少なくとも1組のインサートプライマーを用いて相補鎖を合成する工程;ここでインサートプライマーを起点として合成された相補鎖は、その5’末端を構成する塩基配列が互いに相補的な塩基配列からなっており、そして
ii)工程i)の生成物を鋳型として、標的塩基配列の5’末端に相補的な塩基配列を3’末端に有し、かつその5’末端に前記3’末端を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有するインナープライマーで相補鎖を合成し、工程(1)に記載の1本鎖核酸を生成する工程 - インサートプライマーが、互いに相補的な塩基配列を5’末端に有する少なくとも1組のインサートプライマーである請求項4に記載の方法。
- インサートプライマーが、その5’末端における互いに相補的な塩基配列がRNAで構成され、かつ3’末端がRNase耐性のポリヌクレオチドから構成されており、DNAとハイブリダイズした該RNAをRNaseによって消化する工程を含む請求項5に記載の方法。
- インサートプライマーが、標的塩基配列中の任意の領域において相補鎖の合成起点となる第1のインサートプライマーと、このインサートプライマーを起点とする伸長生成物に含まれる標的塩基配列中の任意の領域において相補鎖の合成起点となる第2のインサートプライマーとの組み合わせからなる請求項4に記載の方法。
- 工程(1)の1本鎖の核酸を、以下の工程によって生成する請求項1に記載の方法。
i)次の条件を有する少なくとも2種類の1本鎖の核酸を生成する工程、
a)5’末端を含む領域と3’末端を含む領域が相補的な塩基配列で構成される、
b)a)の相補的な塩基配列からなる領域がハイブリダイズしたときにループを形成する塩基配列によって、この相補的な塩基配列が連結されている、
c)一方の核酸の3’末端は他方の核酸の3’末端に相補的な塩基配列を有する、および
d)該1本鎖核酸を構成する塩基配列が、標的塩基配列から選択される塩基配列を含む
ii)工程i)の1本鎖の核酸におけるループにアニールして相補鎖合成の起点となるプライマーであって、その5’末端に該プライマーを起点として合成される相補鎖に相補的な塩基配列を有するプライマーをアニールさせ、その3’末端を起点として鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼによって、相補鎖を合成するとともに、工程i)の1本鎖の核酸の3’末端を置換して塩基対結合が可能な状態とする工程、および
iii)工程ii)によって塩基対結合が可能となった3’末端を相互にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成するとともに、工程ii)で合成した相補鎖を置換して工程(1)の1本鎖の核酸を生成する工程、 - 前記工程(1)の1本鎖の核酸を以下の工程によって生成する請求項1に記載の方法。
(a)標的塩基配列を含む核酸を鋳型としてインナープライマーをアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成する工程;ここでインナープライマーは、標的塩基配列の5’末端に相補的な塩基配列を3’末端に有し、かつその5’末端に前記3’末端を起点として合成される相補鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有し、
(b)工程(a)の生成物にインサートプライマーをアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成する工程;ここでインサートプライマーは工程(a)の生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を3’末端に備え、かつその5’末端の塩基配列は請求項1における2種類の1本鎖核酸のいずれかの3’末端を構成する塩基配列に相補的な塩基配列からなり、そして
(c)工程(b)で合成された相補鎖を1本鎖とし、その3’末端を自身にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成し、前記工程(1)の1本鎖の核酸を生成する工程 - 工程(a)の標的塩基配列を含む核酸が、請求項1における工程(2)の生成物である請求項9に記載の方法。
- 2種類の1本鎖の核酸が、いずれも同一の鋳型に由来する塩基配列を含む、請求項1に記載の方法。
- 2種類の1本鎖の核酸に含まれる塩基配列が、鋳型において連続している請求項11に記載の方法。
- 2種類の1本鎖の核酸に含まれる塩基配列が、鋳型において連続していない請求項11に記載の方法。
- 2種類の1本鎖の核酸が、異なる鋳型に由来する塩基配列を含む、請求項1に記載の方法。
- 次の工程を含む標的塩基配列を含む核酸の増幅方法。
(1)5’側から3’側にかけて次の領域(a)−(d)を含む、少なくとも2種類の1本鎖の核酸を生成する工程、ここで前記2種類の1本鎖核酸は、その3’末端において相補的な塩基配列を有し、かつ標的塩基配列から選択された塩基配列を含む。
(a)同一鎖上の任意の領域に相補的な塩基配列からなる領域、
(b)領域(a)が同一鎖上の任意の領域に対してハイブリダイズしたときにループを形成する領域、
(c)領域(a)に相補的な塩基配列を含む領域、および
(d)3’末端を構成する塩基配列からなる領域
(2)工程(1)の少なくとも2種類の1本鎖の核酸を、その3’末端においてアニールさせ、鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するポリメラーゼによって相補鎖を合成する工程、
(3)工程(2)で合成された核酸の3’末端を、同一鎖上の相補的な塩基配列からなる領域にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成し、標的塩基配列からなる1本鎖の核酸を合成する工程、
(4)工程(3)の生成物を鋳型として、インナープライマー、および/またはインサートプライマーの3’末端を起点として、鎖置換を伴なう相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼによって相補鎖を合成する工程、
(5)各プライマーからの伸長生成物の5’側に位置する他のプライマーの伸長生成物を置換して前記工程(1)の1本鎖の核酸を生成するか、または該1本鎖の核酸が、その3’末端に同一鎖に対する相補的な塩基配列を有するときには、該3’末端を自身にアニールさせ、その3’末端を起点として相補鎖を合成して前記工程(1)の1本鎖の核酸を生成する工程、および
(6)工程(5)で生成した核酸を用いて請求項1に記載の方法を繰り返し、標的塩基配列からなる核酸を増幅する工程 - 請求項2−請求項9のいずれかに記載の方法によって生成された1本鎖の核酸を用いて、請求項1−請求項7のいずれかに記載の方法を開始する工程を含む、標的塩基配列を含む核酸の増幅方法。
- 以下の要素をインキュベートする工程を含む、標的塩基配列を含む核酸を合成する方法。
(a)インナープライマーF;ここでインナープライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーFの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(b)インナープライマーR;ここでインナープライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーRの5’末端には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(c)インサートプライマーF;ここでインサートプライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(d)インサートプライマーR;ここでインサートプライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する他方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有し、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する、
(e)標的塩基配列を含む鋳型核酸、
(f)ヌクレオチド基質、および
(g)鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ - 更に付加的に次の要素を存在させる請求項17に記載の方法。
(h)アウタープライマーF;ここでアウタープライマーFは、鋳型におけるインナープライマーFがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、および
(i)アウタープライマーR;ここでアウタープライマーRは、鋳型におけるインナープライマーRがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、 - 更に付加的に次の要素を存在させる請求項17に記載の方法。
(j)ループプライマーF;ここでループプライマーFの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーFの5’末端を含む領域が、インナープライマーFを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする、および
(k)ループプライマーR;ここでループプライマーRの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーRの5’末端を含む領域が、インナープライマーRを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする - 鋳型核酸における前記標的塩基配列が2本鎖であり、前記各プライマーを起点とする相補鎖合成が可能な条件下でインキュベートすることによって、各プライマーがアニールすべき領域を塩基対結合が可能な状態とする工程を含む、請求項17に記載の方法。
- 鋳型核酸における前記標的塩基配列が2本鎖であり、変性工程の後にインキュベートを開始する請求項17に記載の方法。
- 融解温度調整剤の存在下でインキュベートする請求項17に記載の方法。
- 融解温度調整剤が、ベタイン、プロリン、ジメチルスルホキシド、およびトリメチルアミンN−オキシドからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である請求項22に記載の方法。
- 請求項1、または請求項17に記載の核酸の合成方法、若しくは請求項15に記載の核酸の増幅方法の反応生成物の量を測定する工程を含む、試料中に含まれる鋳型核酸の検出方法。
- 請求項24に記載の鋳型核酸の検出方法に基づいて鋳型核酸における変異を検出する方法であって、請求項15に記載の核酸の増幅方法において、インサートプライマーの3’末端を起点とする相補鎖合成反応が、鋳型核酸の塩基配列が予測される塩基配列でなかったときに妨げられることを特徴とする、変異の検出方法。
- 請求項24に記載の鋳型核酸の検出方法に基づいて鋳型核酸における変異を検出する方法であって、請求項1、または請求項17に記載の核酸の合成方法において、1本鎖の核酸の3’末端を起点とする相補鎖合成反応が、鋳型核酸の塩基配列が予測される塩基配列でなかったときに妨げられることを特徴とする、変異の検出方法。
- 請求項4に記載の核酸の合成方法、または請求項15に記載の核酸の増幅方法を利用した変異の導入方法であって、インサートプライマーが鋳型核酸に含まれる塩基配列とは異なる塩基配列を含むことを特徴とする、変異の導入方法。
- 鋳型核酸に含まれる塩基配列とは異なる塩基配列が、インサートプライマーの塩基配列に対する置換、欠失、および/または付加によって構成されている請求項27に記載の方法。
- 以下の要素で構成される、標的塩基配列を含む核酸を合成するためのキット。
(a)インナープライマーF;ここでインナープライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーFの5’側には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(b)インナープライマーR;ここでインナープライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の3’側を規定する領域に対してアニールし、かつインナープライマーRの5’側には、このプライマーを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(c)インサートプライマーF;ここでインサートプライマーFはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する一方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有する、
(d)インサートプライマーR;ここでインサートプライマーRはその3’末端において前記標的塩基配列を構成する他方の鎖の任意の領域に対して相補的な塩基配列を有し、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの各プライマーを起点とする合成生成物は、両者の5’末端を含む領域に互いに相補的な塩基配列を有する、
(e)ヌクレオチド基質、および
(f)鎖置換を伴う相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ - 更に付加的に次の要素を含む、請求項29に記載のキット。
(g)アウタープライマーF;ここでアウタープライマーFは、鋳型におけるインナープライマーFがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、および
(h)アウタープライマーR;ここで第6のプライマーは、鋳型におけるインナープライマーRがアニールすべき領域の3’側を起点とする相補鎖合成反応の起点となる、 - 更に付加的に次の要素を含む、請求項29に記載のキット。
(i)ループプライマーF;ここでループプライマーFの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーFの5’末端を含む領域が、インナープライマーFを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする、および
(j)ループプライマーR;ここでループプライマーRの3’末端を含む領域は、前記インナープライマーRの5’末端を含む領域が、インナープライマーRを起点とする相補鎖合成反応生成物の任意の領域に対してハイブリダイズすることによって形成されるループ内の任意の領域に対してアニールする - 標的塩基配列が、一つの鋳型核酸に由来する請求項29に記載のキット。
- インサートプライマーが、鋳型核酸の塩基配列が予測と異なる塩基配列であったときに、インサートプライマーの3’末端、および/またはインサートプライマーの5’末端を鋳型として合成された相補鎖の3’末端を起点とする相補鎖合成反応が妨げられる塩基配列からなる、請求項29に記載のキット。
- 試料中に含まれる鋳型核酸の検出に用いるための請求項29に記載のキット。
- 核酸の検出剤を付加的に含む請求項34に記載のキット。
- インサートプライマーが鋳型核酸に含まれる塩基配列とは異なる塩基配列を含むことを特徴とする、請求項29に記載のキット。
- 標的塩基配列が異なる鋳型核酸に由来する塩基配列を有する請求項29に記載のキット。
- インナープライマーFおよびインサートライマーFの3’末端が第1の鋳型核酸に由来する塩基配列を合成するための起点となり、インナープライマーRおよびインサートプライマーRが第2の鋳型核酸に由来する塩基配列を合成するための起点となり、かつインサートプライマーFとインサートプライマーRの5’末端を含む領域において互いに相補的な塩基配列からなる領域を含むことを特徴とする、請求項37に記載のキット。
- 融合蛋白質をコードする遺伝子を合成するための、請求項37に記載のキット。
- 付加的に、融合パートナーをコードする遺伝子を含む、請求項39に記載のキット。
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