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JP7534681B1 - タイヤ用ゴム組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐摩耗性、ウェット性能、および低転がり抵抗性を維持向上し、これらをバランスよく高度に両立させたタイヤ用ゴム組成物を提供する。【解決手段】イソプレン系ゴムを50質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを50質量部以上150質量部以下、熱可塑性樹脂を16質量部以上200質量部以下配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記熱可塑性樹脂が、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成され、前記熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率が0%以上5%未満、軟化点が80℃以上160℃以下、且つ、数平均分子量Mnが1100以下であることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、主に乗用車用タイヤのトレッド部に用いるタイヤ用ゴム組成物に関する。
従来、乗用車用タイヤのトレッド部に使用されるタイヤ用ゴム組成物には、スチレンブタジエンゴム(SBR)を主体とする配合が採用されてきた。しかしながら、近年、環境保護の観点から、天然ゴム(NR)を主体とする配合を採用することが検討されている(例えば、特許文献1を参照)。即ち、従来用いられていたスチレンブタジエンゴム(合成ゴム)は再生ゴムとして利用することが困難であるが、これを再生可能材料である天然ゴムに切り替えることで、タイヤ(ゴム組成物)中に占める再生可能原料やリサイクル原料の比率を高くし、環境負荷を低減することが可能になる。
しかしながら、スチレンブタジエンゴムを単純に天然ゴムに置き換えただけでは、乗用車用タイヤのトレッド部として求められる性能を十分に得られない虞があった。例えば、天然ゴムはスチレンブタジエンゴムに比べてガラス転移温度が低い傾向があり、また他のポリマーや配合剤との相溶性が相違するため、天然ゴム主体のゴム組成物に切り替えると、トレッドゴムに求められる耐摩耗性、ウェット性能および低転がり抵抗性等の性能に影響を及ぼすという課題があった。
特許第6092986号
本発明の目的は、耐摩耗性、ウェット性能および低転がり抵抗性を維持向上し、これらをバランスよく高度に両立するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、イソプレン系ゴムを50質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを50質量部以上150質量部以下、熱可塑性樹脂を16質量部以上200質量部以下配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記熱可塑性樹脂が、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成され、前記熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率が0%以上5%未満、軟化点が80℃以上160℃以下、且つ、数平均分子量Mnが500以下であることを特徴とする。
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、イソプレン系ゴムを主体としたジエン系ゴムに、上述の特性を有する熱可塑性樹脂を配合したので、イソプレン系ゴムと熱可塑性樹脂との相溶性を向上させ、耐摩耗性、ウェット性能および低転がり抵抗性を従来レベル以上に維持向上することができる。特に、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成された熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率を0%以上5%未満にすることにより、イソプレン系ゴムとの相溶性が向上し、耐摩耗性および低転がり抵抗性のバランスを向上することができる。
また、イソプレン系ゴムが天然ゴムであることが好ましい。さらに、ジエン系ゴムのガラス転移温度TgAと前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度TgBとの差(TgB-TgA)が120℃以上200℃以下であるとよい。
タイヤ用ゴム組成物は、更に、炭素数8~24の脂肪酸由来のグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むとよく、シリカの分散性を改良し、低転がり抵抗性をいっそう優れたものにすることができる。
熱可塑性樹脂は、水添C9系石油樹脂、水添C5/C9系石油樹脂、水添ジシクロペンタジエン系樹脂および水添C9/ジシクロペンタジエン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つであるとよい。
タイヤ用ゴム組成物は、前記熱可塑性樹脂に加え、前記熱可塑性樹脂と相違する他の熱可塑性樹脂を含むことができ、前記熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率および前記他の熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率の加重平均が0%を超え5%未満であるとよい。
本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用する空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に例示するように、本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用する空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8(ベルト層7の全幅を覆うフルカバー8aとベルト層7の端部を局所的に覆うエッジカバー8bの2層)が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層10が配され、このトレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム層(トレッド部1の踏面を構成するキャップトレッド11と、その内周側に配置されたアンダートレッド12)をタイヤ径方向に積層した構造を有する。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、主として、このようなタイヤのキャップトレッド11に用いられる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物が使用されるタイヤは、上記のような空気入りタイヤ(その内部に空気、窒素等の不活性ガスまたはその他の気体が充填されるタイヤ)であることが好ましいが、非空気式タイヤであってもよい。非空気式タイヤの場合も、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、路面に当接する部分(空気入りタイヤにおけるトレッド部1の踏面を構成するキャップトレッド11に相当する部分)に用いられる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、イソプレン系ゴムを必ず含む。イソプレン系ゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量%中、50質量%以上、好ましくは70~100質量%、より好ましくは85~100質量%である。ジエン系ゴムのすべてがイソプレン系ゴムでもよい。イソプレン系ゴムとしては、各種天然ゴムや各種合成ポリイソプレンゴムを挙げることができる。これらイソプレン系ゴムの中でも、特に、天然ゴムを好適に用いることができる。このようにジエン系ゴムの大半をイソプレン系ゴムとすることで、環境負荷を低減することが可能になる。即ち、天然ゴムの場合、石油由来の合成ゴムを用いない点で、石油への依存度を低減し、環境負荷を低減することができる。また、従来の合成ゴム(例えばスチレンブタジエンゴム)を主体とするゴム組成物と比較して、天然ゴムを主体とするゴム組成物は、廃棄後に再生ゴムとして利用しやすいため、リサイクル性の観点からも環境負荷を低減することができる。一方で、合成ポリイソプレンゴムについても、近年、バイオマス(生物資源)の糖からイソプレンを生成する技術が開発されており、そのようなイソプレンを重合して得た合成ポリイソプレンゴムを使用することで、石油への依存度を低減し、環境負荷を低減することが可能になる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のイソプレン系ゴム以外に、他のジエン系ゴムを含有することができる。他のジエン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に使用可能なゴムを用いることができる。例えば、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等を例示することができる。これら他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。但し、他のジエン系ゴムを配合する場合であっても、その配合量はジエン系ゴム100質量%中、50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下にする。即ち、他のジエン系ゴム(特に合成ゴム)の比率が高くなると、再生可能原料やリサイクル原料の比率が低くなり、環境負荷を低減する効果が十分に得られなくなる。具体的には、他のジエン系ゴムの配合量が50質量%を超えると(つまり、イソプレン系ゴムの配合量が50質量%未満であると)、環境負荷の低減に寄与するイソプレン系ゴムの比率が低減するので、環境負荷を低減する効果が十分に得られない。
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴムに対し、熱可塑性樹脂が必ず配合される。特に、熱可塑性樹脂として、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成され、芳香族プロトン含有率が0%以上5%未満、軟化点が80℃以上160℃以下、且つ、数平均分子量Mnが1100以下の樹脂が用いられる。イソプレン系ゴムを50質量%以上含むジエン系ゴムに、良好な相溶性を有する特定の熱可塑性樹脂を比較的多量に配合することにより、スチレンブタジエンゴムを主成分とするゴム組成物と同等レベルに引張破断強(耐摩耗性)および0℃のtanδ(ウェット性能)を向上させることができる。
熱可塑性樹脂の構成は、上述した特性を満たす限り、脂肪族モノマー由来単位のみ、芳香族モノマー由来単位のみ、脂肪族モノマー由来単位および芳香族モノマー由来単位のいずれでもよい。脂肪族モノマー由来単位として、例えばモノマーが脂肪族化合物、脂環式化合物であるモノマー由来単位が挙げられる。脂肪族化合物は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、また飽和、不飽和のいずれでもよい。脂環式化合物は、芳香性を有しない環からなる化合物であり、飽和、不飽和のいずれでもよい。また、脂環式化合物は、側鎖に任意の脂肪族化合物が結合してもよい。
熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率は、0%以上5%未満、好ましくは0%以上4%以下、より好ましくは1%以上3%以下である。芳香族プロトン含有率を5%未満にするとイソプレン系ゴムとの相溶性をより高くすることができ、耐摩耗性と低転がり抵抗性とのバランスを優れたものにし、とりわけ低転がり抵抗性を向上することができる。熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率は、脂肪族モノマー由来単位および芳香族モノマー由来単位の比率や熱可塑性樹脂に水素添加することにより調節することができる。本明細書において、芳香族プロトン含有率は、熱可塑性樹脂に含まれる芳香族プロトンの含有量と脂肪族プロトンの含有量の合計に対する芳香族プロトンの含有量の割合であり、1H-NMRスペクトルの測定結果から求めることができる。
熱可塑性樹脂の軟化点は、80℃以上160℃以下、好ましくは85℃~145℃、より好ましくは90℃~130℃である。熱可塑性樹脂の軟化点が80℃未満であると耐摩耗性、WET性能向上の効果が低くなる。熱可塑性樹脂の軟化点が160℃を超えると、イソプレン系ゴムとの相溶性が悪化する。本明細書において、熱可塑性樹脂の軟化点は、JIS K6220-1(環球法)に準拠して測定することができる。
熱可塑性樹脂の数平均分子量Mnは1100以下、好ましくは200以上1100以下である。数平均分子量Mnが、1100を超えると、低転がり抵抗性が悪化する。本明細書において、熱可塑性樹脂の数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
上述した特性を有する熱可塑性樹脂として、例えばC5系石油樹脂(イソプレン、1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルブテン、ペンテンなどの留分を重合した脂肪族系石油樹脂)、C9系石油樹脂(α-メチルスチレン、o-ビニルトルエン、m-ビニルトルエン、p-ビニルトルエンなどの留分を重合した芳香族系石油樹脂)、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)、C9/ジシクロペンタジエン系樹脂(C9/DCPD系樹脂)およびC5/ジシクロペンタジエン系樹脂(C5/DCPD系樹脂)、並びにこれらを水素添加した水添C9系石油樹脂、水添C5/C9系石油樹脂、水添ジシクロペンタジエン系樹脂(水添DCPD系樹脂)、水添C5/ジシクロペンタジエン系樹脂(C5/水添DCPD系樹脂)および水添C9/ジシクロペンタジエン系樹脂(C9/水添DCPD系樹脂)、から適宜、選択することができる。なかでも、水添C9系石油樹脂、水添C5/C9系石油樹脂、水添DCPD系樹脂および水添C9/DCPD系樹脂が好ましい。
タイヤ用ゴム組成物は、上述した芳香族プロトン含有量、軟化点および数平均分子量Mnのすべての要件を満たす熱可塑性樹脂に加え、これと相違する他の熱可塑性樹脂を含むことができる。相違する他の熱可塑性樹脂とは、芳香族プロトン含有量、軟化点および数平均分子量Mnから選ばれる少なくとも1つの要件を満たさない熱可塑性樹脂、および/または、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位の種類、含有比率や水素添加の有無が相違する熱可塑性樹脂をいう。他の熱可塑性樹脂は、1つでも2つ以上でもよい。他の熱可塑性樹脂を含むとき、熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率および他の熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率の加重平均が0%を超え5%未満であるとよい。すなわち、熱可塑性樹脂および他の熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率をH1%およびH2%とし、それぞれの含有量をm1質量%およびm2質量%とするとき、以下の計算式で求められた芳香族プロトン含有率の加重平均HArが0%を超え5%未満であるものとする。
HAr=(H1×m1+H2×m2)/(m1+m2)
なお、熱可塑性樹脂が3つ以上の場合も同様に加重平均値を求めることができる。芳香族プロトン含有率の加重平均HArは、好ましくは0%を超え4%以下、より好ましくは1%以上3%以下である。
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴムのガラス転移温度TgAと熱可塑性樹脂のガラス転移温度TgBとの差TgB-TgAが、好ましくは120℃以上200℃以下、より好ましくは122℃以上180℃以下、さらに好ましくは124℃以下160℃以下の関係を満たすとよい。このような関係を満たすと、耐摩耗性やウェット性能を向上するには有利になる。差TgB-TgAを120℃以上にするとウェット性能が維持向上する。差TgB-TgAが200℃以下にすると相溶性を確保し、耐摩耗性を維持向上する。なお、ガラス転移温度TgAおよびTgBはそれぞれ示差走査熱量分析(DSC)により測定することができる。
熱可塑性樹脂は、ジエン系ゴム100質量部に対して、16質量部以上200質量部以下、好ましくは25質量部以上150質量部以下、より好ましくは50質量部以上100質量部以下配合する。熱可塑性樹脂を16質量部以上配合すると、ゴム組成物の引張破断強度および0℃のおけるtanδを良好にすることができ、空気入りタイヤの耐摩耗性およびウェット性能を向上することができる。また熱可塑性樹脂が200質量部を超えると、耐摩耗性が却って低下し、低転がり抵抗性が悪化する。
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴムにシリカを配合することにより、ウェット性能および低転がり抵抗性を向上する。シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し50質量部以上150質量部以下、好ましくは60質量部以上135質量部以下、より好ましくは70質量部以上120質量部以下である。シリカが50質量部未満であるとウェット性能および低転がり抵抗性を向上する作用が十分に得られない。シリカが150質量部を超えると分散性が悪化し引張破断強度が低下し耐摩耗性が不足する。
シリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。シリカは、市販されているものの中から適宜選択して使用することができる。また通常の製造方法により得られたシリカを使用することもできる。
本発明のゴム組成物は、シリカ以外の他の充填剤を配合することができる。他の充填剤としては、例えば、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられる材料を例示することができる。特に、カーボンブラックを併用することが好ましい。カーボンブラックを併用することで、耐摩耗性を向上することができる。カーボンブラックを併用する場合、その配合量は特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して、例えば5質量部~20質量部に設定することができる。
本発明のタイヤ用ゴム組成物では、上述のシリカを配合するにあたって、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上することができる。シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。これらのなかでも、特に、分子中にテトラスルフィド結合を有するものを好適に用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの配合量に対し、好ましくは10質量%未満、より好ましくは6質量%~9質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の10質量%以上であるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることができない。
タイヤ用ゴム組成物は、好ましくは炭素数8~24の脂肪酸由来のグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むとよく、シリカの分散性を改善し、低転がり抵抗性およびウェット性能を優れたものにすることができる。炭素数8~24の脂肪酸として、例えばカプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸の直鎖脂肪酸類が挙げられ、好ましくはステアリン酸、オレイン酸がよい。グリセリンモノ脂肪酸エステルは、1種類を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。グリセリンモノ脂肪酸エステルは、ジエン系ゴムの滑剤として作用し、ゴム組成物の粘度を低下させるとともに、グリセリン由来のヒドロキシ基がシリカ表面のシラノール基に吸着し、かつ脂肪酸由来の炭素鎖が疎水化部位として作用し、シリカの分散性を高めるものと推測される。また、硬度を低下させずに低転がり抵抗性を向上するという効果も奏する。また、グリセリンモノ脂肪酸エステルの炭素鎖が不飽和のとき、不飽和結合が硫黄との反応点となり、ポリマーの架橋密度を相対的に低下させ、余分な架橋を抑制するので、引張破断強度・破断伸びを向上させることができる。
素数8~24の脂肪酸由来のグリセリンモノ脂肪酸エステルは、シリカの配合量に対し、好ましくは0.2質量%~10質量%、より好ましくは0.4質量%~7質量%、さらに好ましくは0.6質量%~4質量%配合するとよい。グリセリンモノ脂肪酸エステルを0.2質量%以上配合するとシリカの分散性が維持向上する。また、10質量%以下にすると、引張破断強度やゴム硬度を維持することができる。
タイヤ用ゴム組成物には、オイルを配合することが好ましい。このようにオイルを配合することで、混合加工性を向上することができる。オイルを配合する場合、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる可塑剤成分の総量(即ち、熱可塑性樹脂、オイル、任意の他の可塑剤成分の合計)に対するオイルの割合を、好ましくは20質量%~60質量%、より好ましくは30質量%~50質量%にするとよい。
本発明のゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマーなど、一般的にタイヤ用ゴム組成物に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また、混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す熱可塑性樹脂1~8を使用し、表4に示す共通の配合剤処方を有する、表2~3に示す配合からなるタイヤ用ゴム組成物(基準例1、比較例1~8、実施例1~11)を調製した。その製造方法は、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。その後、そのマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合して、各タイヤ用ゴム組成物を得た。
なお、表2~3には、ジエン系ゴムの加重平均ガラス転移温度TgA〔単位:℃〕、熱可塑性樹脂の加重平均ガラス転移温度TgB〔単位:℃〕、およびこれらの差TgB-TgA〔単位:℃〕を記載した。また、熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率〔単位:%〕の加重平均値を「芳香族プロトン含有率」の欄に記載した。なお、ジエン系ゴムまたは熱可塑性樹脂を単独で配合したとき、上記の各加重平均値は、それぞれ単独のジエン系ゴムまたは熱可塑性樹脂の値を記載した。
得られたタイヤ用ゴム組成物を使用し、以下に示す方法により、耐摩耗性、ウェット性能、および低転がり抵抗性の評価を行った。
耐摩耗性
各タイヤ用ゴム組成物を用いて、所定形状の金型(内寸:長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)を用いて170℃、10分間加硫し、加硫ゴム試験片を作成した。この加硫ゴム試験片を使用し、JIS K6251に準拠して、ダンベル型JIS3号形試験片を作製した。この試験片を用いて、室温(23℃)で500mm/分の引張り速度で引張試験を行い、引張破断強度を測定した。評価結果は、基準例1の値を100とする指数として、表2~3の「耐摩耗性」の欄に記載した。この指数が大きいほど引張破断強度が高く、耐摩耗性が優れることを意味する。
ウェット性能および低転がり抵抗性
各タイヤ用ゴム組成物を用いて、所定形状の金型(内寸:長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)を用いて170℃、10分間加硫し、加硫ゴム試験片を作成した。この加硫ゴム試験片を使用し、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で動的粘弾性を測定し、0℃および60℃におけるtanδを求めた。0℃のtanδの結果は、基準例1の値を100とする指数として、表2~3の「ウェット性能」の欄に示した。この指数が大きいほど、ウェット性能が優れることを意味する。また、60℃のtanδの結果は、それぞれの逆数を算出し、基準例1の値を100とする指数として、表2~3の「低転がり抵抗性」の欄に示した。なお、低転がり抵抗性については、指数値が「102」以上のとき低転がり抵抗性が向上したものとする。
Figure 0007534681000002
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・熱可塑性樹脂1:水添DCPD樹脂、Hanwha社製HC-100
・熱可塑性樹脂2:水添DCPD/C9樹脂、ENEOS社製T-REZ HA125
・熱可塑性樹脂3:C5/C9樹脂、河南Binder社製S-2100
・熱可塑性樹脂4:C9樹脂、上海宣達加工社製RT95B
・熱可塑性樹脂5:クマロンインデン樹脂、Rutgers社製 NovaresC10
・熱可塑性樹脂6:テルペン/フェノール/スチレン樹脂、クレイトン社製Sylvatraxx5216
・熱可塑性樹脂7:マレイン酸変性ロジン/C9樹脂、ハリマ化成社製ハリタックAQ-90A
・熱可塑性樹脂8:芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル社製YSレジンTO-125
Figure 0007534681000003
Figure 0007534681000004
表2~3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20(ガラス転移温度TgA:-75℃)
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol NS612(ガラス転移温度Tg:-63℃)
・シリカ:Solvay社製 ZEOSIL 1165MP
・カップリング剤:シランカップリング剤、Evonik社製 Si69
・オイル:昭和シェル石油社製 エキストラクト4号S
・グリセリンモノステアレート:シグマアルドリッチ社製モノステアリン酸グリセロール
Figure 0007534681000005
表4において使用した原材料の種類を下記に示す。
・老化防止剤:LANXESS社製 VULKANOX 4020
・ワックス:NIPPON SEIRO社製 OZOACE‐0015A
・硫黄:鶴見化学工業社製 サルファックス5
・加硫促進剤:大内新興化学社製 ノクセラー TOT‐N
表3から明らかなように、実施例1~11のタイヤ用ゴム組成物について、基準例1に対して、耐摩耗性、ウェット性能および低転がり抵抗性を維持または向上し、これら性能をバランスよく両立することを確認した。
表2から明らかなように、比較例1のゴム組成物は、熱可塑性樹脂の配合量が少ないため、低転がり抵抗性が不足し、耐摩耗性およびウェット性能を改良することができない。
比較例2のゴム組成物は、熱可塑性樹脂の配合量が多いため、耐摩耗性および低転がり抵抗性が悪化した。
比較例3のゴム組成物は、熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率が高いため、低転がり抵抗性が不足し、耐摩耗性を改良することができない。
比較例4のゴム組成物は、熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率が高く、かつ軟化点が低いため、耐摩耗性および低転がり抵抗性が悪化した。
比較例5のゴム組成物は、熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率が高いため、低転がり抵抗性が悪化した。
比較例6のゴム組成物は、熱可塑性樹脂の数平均分子量Mnが高いため、低転がり抵抗性が悪化した。
比較例7のゴム組成物は、シリカが50質量部未満のため、ウェット性能が悪化した。
比較例8のゴム組成物は、天然ゴムが50質量部未満のため、耐摩耗性、ウェット性能および低転がり抵抗性が悪化した。
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] イソプレン系ゴムを50質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを50質量部以上150質量部以下、熱可塑性樹脂を16質量部以上200質量部以下配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記熱可塑性樹脂が、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成され、前記熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率が0%以上5%未満、軟化点が80℃以上160℃以下、且つ、数平均分子量Mnが1100以下であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
発明[2] 前記イソプレン系ゴムが天然ゴムであることを特徴とする発明[1]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[3] 前記ジエン系ゴムのガラス転移温度TgAと前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度TgBとの差(TgB-TgA)が120℃以上200℃以下であることを特徴とする発明[1]または[2]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[4] 更に、炭素数8~24の脂肪酸由来のグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むことを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[5] 前記熱可塑性樹脂が、水添C9系石油樹脂、水添C5/C9系石油樹脂、水添ジシクロペンタジエン系樹脂および水添C9/ジシクロペンタジエン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[6] 前記熱可塑性樹脂に加え、前記熱可塑性樹脂と相違する他の熱可塑性樹脂を含み、前記熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率および前記他の熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率の加重平均が0%を超え5%未満であることを特徴とする発明[1]~[5]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
10 トレッドゴム層
11 キャップトレッド
12 アンダートレッド
CL タイヤ赤道

Claims (6)

  1. イソプレン系ゴムを50質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを50質量部以上150質量部以下、熱可塑性樹脂を16質量部以上200質量部以下配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記熱可塑性樹脂が、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成され、前記熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率が0%以上5%未満、軟化点が80℃以上160℃以下、且つ、数平均分子量Mnが500以下であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
  2. 前記イソプレン系ゴムが天然ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
  3. 前記ジエン系ゴムのガラス転移温度TgAと前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度TgBとの差(TgB-TgA)が120℃以上200℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物
  4. 更に、炭素数8~24の脂肪酸由来のグリセリンモノ脂肪酸エステルを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
  5. 前記熱可塑性樹脂が、水添C9系石油樹脂、水添C5/C9系石油樹脂、水添ジシクロペンタジエン系樹脂および水添C9/ジシクロペンタジエン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
  6. 前記熱可塑性樹脂に加え、前記熱可塑性樹脂と相違する他の熱可塑性樹脂を含み、前記熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率および前記他の熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率の加重平均が0%を超え5%未満であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
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