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JP7547844B2 - 多孔性ポリオレフィンフィルム - Google Patents

多孔性ポリオレフィンフィルム Download PDF

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Description

本発明は、多孔性ポリオレフィンフィルムに関する。
多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルター、燃料電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータなどとして用いられている。特にノート型パーソナルコンピュータや携帯電話、デジタルカメラなどに広く使用されるリチウムイオン電池用のセパレータとして好適に使用されている。その理由は、ポリオレフィン微多孔膜が優れた機械強度やシャットダウン特性、リチウムイオンの透過性能を有していることが挙げられる。
リチウムイオン二次電池の普及および用途の拡大に伴い、セパレータに要求される品質水準も年々向上しており、強度、透過性などの様々な特性が高いレベルで求められるようになっている。例えば、セパレータは張力をかけた状態で捲回されるので、捲回時の破膜防止のため、引張強度および引張弾性率は高いことが好ましい。また、セパレータの捲回方向は通常MD方向であることから、MD方向の引張弾性率および引張強度(以下、単に「MD引張弾性率」および「MD引張強度」と記すこともある)が、TD方向の引張弾性率および引張強度(以下、単に「TD引張弾性率」および「TD引張強度」と記すこともある)に比べて適度に高いことが好ましい。
一方、自動車用電池等、二次電池の大型化に伴い、安全性の確保がますます重要になりつつある。そこで、電池内における異物や衝撃による破膜防止の観点からは、引張弾性率・引張強度だけでなく突刺強度も高いことが好ましい。
特に、近年リチウムイオン二次電池は車載用途で使用されるため、充電時間の短縮や加速性の向上が必要であり、電池の要求特性として急速充電 (大電流充電)や消費電力増加(大電流放電)が求められる。それに伴いセパレータの要求事項として出力特性の改善も一層高いものとなってきている。
また、自動車の航続距離増加に伴い電池の高容量化が進み、セパレータ薄膜化が一層求められている。しかしながら、一般に透過性を高くするために膜厚を薄くすると機械強度が低下する。また、透過性を高めるために空孔率を高めると機械強度が低下する。セパレータの機械強度が低下すると、電極や異物による短絡(耐異物性)や電池が衝撃を受けた際に破膜(耐衝撃性)が起こりやすく、電池の安全性が低下する。そのため、従来よりもさらなる高強度が求められる。
多孔性フィルムの強度を向上させる方法としては、シートを延伸する方法や、多孔質シートを積層する方法などが広く知られている。しかしながら、従来技術では、強度と透過性のバランスに優れた多孔性フィルムを得ることは困難であった。
例えば、特許文献1には、超高分子量ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンを溶融混練して同時二軸延伸を行った後、得られた延伸物から溶媒を除去し、しかる後TD方向に再度延伸を行うことにより製造した多孔性フィルムが記載されている。しかしながら、この多孔性フィルムは空孔率が高く、突刺強度が高いものの、MD引張弾性率が必ずしも十分ではなく、工程搬送性に改善の余地があった。また積層構造のため、薄膜化が困難であるという問題があった。
特許文献2には、ポリオレフィン樹脂にセラミック粒子を添加して溶融混練し、同時二軸延伸を行った後、得られた延伸物から溶媒を除去し、しかる後TD方向に再度延伸を行うことにより製造したセラミック複合体が記載されている。このセラミック複合体は空孔率が高く、突刺強度が高いものの、MD引張弾性率が必ずしも十分ではなく、搬送性に劣るという問題があった。またセラミック粒子を含有するため、薄膜化が困難であるという問題があった。
上記のように高エネルギー密度化・高容量化・高出力化・急速充電化に伴う多様化する顧客のニーズに対し、出力特性、安全性および工程搬送性に優れたセパレータの開発には改善の余地がある。
特許第4794098号 特許第5288736号
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、電池用セパレータとして用いたとき出力特性、安全性および工程搬送性に優れた多孔性ポリオレフィンフィルムを提供することにある。
すなわち本発明は、空孔率が50%以上であり、膜厚10μm換算の突刺強度が3.7N以上であり、長手方向の引張弾性率EMDが980MPa以上であることを特徴とする多孔性ポリオレフィンフィルムである。
また本発明は、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを用いたことを特徴とする電池用セパレータである。
また本発明は、本発明の電池用セパレータを用いたことを特徴とする二次電池である
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、電池用セパレータとして用いたとき出力特性、安全性および工程搬送性に優れることから、電気自動車などの高エネルギー密度化、高容量化および高出力化を必要とする二次電池用の電池用セパレータとして好適に使用することができる。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、空孔率が50%以上である。空孔率はより好ましくは52%以上、更に好ましくは55%以上、最も好ましくは58%以上である。空孔率を50%以上とすることで、特に、将来的に要求される急速充電用途の電池用セパレータとして用いたときにイオンの透過性が向上し、電池の出力特性を向上させることができる。空孔率は、出力特性の観点からは高いほど好ましいが、高すぎると強度が低下する場合があるため70%程度が上限である。空孔率を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、膜厚10μmに換算したフィルムの突刺強度が3.7N以上である。より好ましくは4.0N以上、更に好ましくは4.4N以上、更に好ましくは4.7N以上である。突刺強度を3.7N以上とすることで、薄膜にした時に捲回時や電池内の異物などによる短絡の発生を抑制し、電池の安全性を向上させることができる。安全性向上の観点からは突刺強度は高いほど好ましいが、空孔率の向上と突刺強度の向上はトレードオフとなる場合が多く、10N程度が上限である。突刺強度を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルムの長手方向の引張弾性率EMD(単位、MPa)が980MPa以上である。引張弾性率はより好ましくは1100MPa以上、更に好ましくは1300MPa以上、更に好ましくは1500MPa以上である。EMDを980MPa以上とすることで、コート層塗布工程や電池捲回工程においてフィルムの搬送性を向上させることができる。コート層塗布工程や電池捲回工程におけるフィルム搬送性向上の観点からはEMDは高いほど好ましいが、空孔率の向上とEMDの向上はトレードオフとなる場合が多く、2500MPa程度が上限である。EMDを上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
なお、本発明においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向あるいは長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。
電池の出力特性を改善するためには多孔性フィルムの空孔率を増加させる必要がある。しかしながら空孔率が増加した場合、多孔性フィルム中の樹脂量が減少するため、突刺強度が低下し、電池の安全性が低下する場合があった。そのため、空孔率と突刺強度はトレードオフの関係にあり、出力特性と安全性の両立に課題があった。
本発明では、多孔性ポリオレフィンフィルムの超高分子量ポリエチレン含有量を後述の範囲とし、また、製膜条件を後述の範囲とし、特に溶媒抽出後の多孔性フィルムに後述する条件でMD方向とTD方向に乾式再延伸を施すことによって高い空孔率と高い突刺強度の両立が可能であることを見出した。すなわち、超高分子量ポリエチレンを添加することにより、突刺強度と引張弾性率に優れた多孔性フィルムが得られる。さらに乾式再延伸によりフィブリルの開裂が進行し、空孔率が増加すると同時に、ポリオレフィン結晶の配向が進行し、突刺強度および引張弾性率が増加し、空孔率、突刺強度およびMD方向の引張弾性率が上述の範囲を満たし、出力特性、安全性および工程搬送性に優れた多孔性フィルムが得られることを見出した。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルムの長手方向の引張弾性率をEMD、幅方向の引張弾性率をETDとしたとき(単位、MPa)、MD方向とTD方向の引張弾性率の比EMD/ETDが1.0以上であることが好ましい。EMD/ETDはより好ましくは1.0以上6.0以下であり、更に好ましくは1.0以上3.0以下、更に好ましくは1.0以上2.0以下である。EMD/ETDを1.0以上とすることで、コート層塗布工程や電池捲回工程においてフィルムの搬送性を向上させることができる。コート層塗布工程や電池捲回工程におけるフィルム搬送性向上の観点からはEMD/ETDは高いほど好ましいが、EMD/ETDが6.0より大きいとMD方向とTD方向の異方性が顕著となり、フィルム搬送時にMD方向にシワが発生したり、MD方向に裂けが発生したりする場合がある。EMD/ETDを上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルムの長手方向の引張強度をMMDとした時(単位、MPa)、MMDが180MPa以上であることが好ましい。MD方向の引張強度はより好ましくは200MPa以上、更に好ましくは240MPa以上、さらに好ましくは290MPa以上である。引張強度を180MPa以上とすることで、コート層塗布工程や電池捲回工程における破膜の発生を抑制し、フィルムの搬送性を向上させることができる。また、薄膜にした時に捲回時や電池内の異物などによる短絡の発生を抑制し、電池の安全性を向上させることができる。フィルム搬送性向上、および安全性向上の観点からは引張強度は高いほど好ましいが、空孔率の向上と引張強度の向上はトレードオフとなる場合が多く、500MPa程度が上限である。引張強度を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、パームポロメーターにより求めた平均孔径が10nm以上140nm以下であることが好ましい。平均孔径を10nm以上とすることで、電池用セパレータとして用いたときにイオンの透過性が十分なものとなり、電池の出力特性を向上させることができる。平均孔径を140nm以下、より好ましくは45nm以下、さらに好ましくは40nm以下、さらに好ましくは35nm以下とすることで、薄膜にした時に捲回時や電池内の異物などによる短絡が生じるのを防ぎ、電池の安全性を向上させることができる。平均孔径を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、それぞれパームポロメーターにより求めた、最大孔径に対する平均孔径の比、(平均孔径)/(最大孔径)が0.70以上であることが好ましい。(平均孔径)/(最大孔径)が0.70以上であると孔径分布が十分に均一であるため、電池用セパレータとして用いたときに良好な電池出力が得られ、デンドライト形成による短絡を抑制できる。(平均孔径)/(最大孔径)はより好ましくは0.75以上であり、さらに好ましくは0.78以上であり、さらに好ましくは0.80以上である。(平均孔径)/(最大孔径)の上限は1.0である。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの厚みは15μm以下であることが好ましい。厚みは、10μm以下であることがより好ましく、7μm以下であることが更に好ましく、6μm以下であることが更に好ましい。厚みを15μm以下とすることで、特に急速充電用途の電池用セパレータとして用いたときにイオンの透過性が十分なものとなり、電池の出力特性が向上する。電池特性向上の観点からは厚みは薄いほど好ましいが、厚みが薄いと捲回時や電池内の異物などによる短絡が生じやすくなり、電池の安全性が低下する場合があるため、3μm程度が下限である。厚みは他の物性を悪化させない範囲内で、押出機のスクリュー回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。
次に本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの原料について説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、ポリオレフィンを主成分とするフィルムである。ここで、本発明において「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィンであることが好ましく、ポリオレフィン組成物であってもよい。ポリオレフィンとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、これらを2種類以上ブレンドして用いても良い。
多孔性ポリオレフィンフィルムを構成するポリオレフィンに関しては、ポリエチレンを用いることが好ましい。ポリエチレンの含有量は、ポリオレフィン全体を100質量%としたとき、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。ポリエチレンの構成比率を上記範囲内とすることにより、ポリマー種の相分離がほとんどまたは全くない、均一性の高い微多孔膜を得ることができる。
上記の多孔性ポリオレフィンフィルムは、原料として重量平均分子量が1.0×10以上の超高分子量ポリエチレン(以下、単に「UHMWPE」とも記す。)を含有していることが好ましい。UHMWPEの含有量は、ポリオレフィン全体の質量を100質量%として、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が更に好ましい。超高分子量ポリオレフィン樹脂を原料として含有することによって、孔の微細化、高耐熱性化が可能であり、さらに、強度や伸度を向上させることができる。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、後述する製膜条件によりフィルムとした後に、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によりフィルムの、重量による分子量分布を測定したときの、分子量1.0×10以上のポリオレフィン成分の含有量が35質量%以上であることが好ましい。フィルム中の分子量1.0×10以上のポリオレフィン成分を35質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上含有することによって、突刺強度と引張弾性率に優れた多孔性ポリオレフィンフィルムが得られ、安全性を向上させることができる。
その他、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムには、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤や帯電防止剤、紫外線吸収剤、さらにはブロッキング防止剤や充填材等の各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリエチレン樹脂の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)、テトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1010:分子量1177.7)等から選ばれる1種類以上を用いることが好ましい。酸化防止剤や熱安定剤の種類および添加量を適宜選択することは多孔性フィルムの特性の調整又は増強として重要である。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、上述した原料を用い、二軸延伸されることによって得られる。二軸延伸の方法としては、インフレーション法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの高剛性と寸法安定性を制御する点において同時二軸延伸法または逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
次に本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法を説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法は、以下の(a)~(e)の工程からなる。
(a)ポリオレフィン単体、ポリオレフィン混合物、ポリオレフィン溶媒混合物(可塑剤)、添加剤、及びポリオレフィン混練物を含むポリマー材料を混練・溶解してポリオレフィン溶液を調整する(ポリオレフィン溶液の調製)。
(b)溶解物を押出し、シート状に成型して冷却固化し(押出物の形成およびゲル状シートの形成)、
(c)得られたシートをロール方式またはテンター方式により湿式延伸を行う(湿式延伸工程)。
(d)その後、得られた延伸フィルムから可塑剤を抽出しフィルムを乾燥する(洗浄・乾燥工程)。
(e)つづいて乾式再延伸/熱処理を行う(乾式再延伸/熱処理工程)。
以下、各工程について説明する。
(a)ポリオレフィン溶液の調製
ポリオレフィン樹脂を、可塑剤に加熱溶解させたポリオレフィン溶液を調製する。可塑剤としては、ポリエチレンを十分に溶解できる溶剤であれば特に限定されないが、比較的高倍率の延伸を可能とするために、溶剤は室温で液体であることが好ましい。溶剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の脂肪族、環式脂肪族又は芳香族の炭化水素、および沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。液体溶剤の含有量が安定なゲル状シートを得るために、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いるのが好ましい。溶融混練状態では、ポリエチレンと混和するが室温では固体の溶剤を液体溶剤に混合してもよい。このような固体溶剤として、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。ただし、固体溶剤のみを使用すると、延伸ムラ等が発生するおそれがある。
ポリオレフィン樹脂と可塑剤との配合割合はポリオレフィン樹脂と可塑剤との合計を100質量%として、ポリオレフィン樹脂の含有量は成形加工性を損ねない範囲で適宜選択して良いが、5~50質量%が好ましい。ポリオレフィン樹脂を5質量%以上(すなわち可塑剤が95質量%以下)とすることで、シート状に成形する際に、口金の出口でのスウエルやネックインを小さく抑え、シートの成形性の悪化、製膜性の低下を防ぐことができる。一方、ポリオレフィン樹脂を50質量%以下(すなわち可塑剤を50質量%以上)とすることで、厚み方向の収縮が大きくなるのを抑え、成形加工性も向上させることができる。
液体溶剤の粘度は40℃において2×10-5~2×10-4/sであることが好ましい。40℃における粘度を2×10-5/s以上とすれば、ダイからポリオレフィン溶液を押し出したシートが不均一になりにくい。一方、2×10-4/s以下とすれば液体溶剤の除去が容易である。なお、液体溶剤の粘度は、ウベローデ粘度計を用いて40℃で測定した粘度である。
(b)押出物の形成およびゲル状シートの形成
ポリオレフィン溶液の均一な溶融混練は、特に限定されないが、高濃度のポリオレフィン溶液を調製したい場合、二軸押出機中で行うことが好ましい。必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤等の各種添加材を添加してもよい。特にポリエチレンの酸化を防止するために酸化防止剤を添加することが好ましい。
押出機中では、ポリオレフィン樹脂が完全に溶融する温度で、ポリオレフィン溶液を均一に混合する。溶融混練温度は、使用するポリオレフィン樹脂によってことなるが、(ポリオレフィン樹脂の融点+10℃)~(ポリオレフィン樹脂の融点+120℃)とするのが好ましい。さらに好ましくは(ポリオレフィン樹脂の融点+20℃)~(ポリオレフィン樹脂の融点+100℃)である。ここで、融点とは、JIS K7121(1987)に基づき、DSCにより測定した値をいう(以下、同じ)。例えば、ポリエチレンの場合の溶融混練温度は140~250℃の範囲が好ましい。さらに好ましくは、160~230℃、さらに好ましくは170~200℃である。具体的には、ポリエチレン組成物は約130~140℃の融点を有するので、溶融混練温度は140~250℃が好ましく、180~230℃がさらに好ましい。
樹脂の劣化を抑制する観点から溶融混練温度は低い方が好ましいが、上述の温度よりも低いとダイから押出された押出物に未溶融物が発生し、後の延伸工程で破膜等を引き起こす原因となる場合があり、上述の温度より高いと、ポリオレフィンの熱分解が激しくなり、得られる多孔性フィルムの物性、例えば、強度や空孔率等劣る場合がある。また、分解物がチルロールや延伸工程上のロールなどに析出し、シートに付着することで外観悪化につながる。そのため、上記範囲内で混練することが好ましい。
次に、得られた押出物を冷却することによりゲル状シートが得られ、冷却により、溶剤によって分離されたポリエチレンのミクロ相を固定化することができる。冷却工程において10~50℃まで冷却するのが好ましい。これは、最終冷却温度を結晶化終了温度以下とするのが好ましいためで、高次構造を細かくすることで、その後の延伸において均一延伸が行いやすくなる。そのため、冷却は少なくともゲル化温度以下までは30℃/分以上の速度で行うのが好ましい。冷却速度が30℃/分未満では、結晶化度が上昇し、延伸に適したゲル状シートとなりにくい。一般に冷却速度が遅いと、比較的大きな結晶が形成されるので、ゲル状シートの高次構造が粗くなり、それを形成するゲル構造も大きなものとなる。対して冷却速度が速いと、比較的小さな結晶が形成されるので、ゲル状シートの高次構造が密となり、均一延伸に加え、フィルムの高タフネス化につながる。
冷却方法としては、冷風、冷却水、その他の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールに接触させる方法、キャスティングドラム等を用いる方法等がある。
また、本発明のポリオレフィン多孔性フィルムは、単層に限定されるものではなく、積層体にしてもよい。積層数は特に限定は無く、2層積層であっても3層以上の積層であってもよい。積層部分は、上述したようにポリエチレンの他に、本発明の効果を損なわない程度にそれぞれ所望の樹脂を含んでも良い。ポリオレフィン多孔性フィルムを積層体とする方法としては、従来の方法を用いることができるが、例えば、所望の樹脂を必要に応じて調製し、これらの樹脂を別々に押出機に供給して所望の温度で溶融させ、ポリマー管あるいはダイ内で合流させて、目的とするそれぞれの積層厚みでスリット状ダイから押出しを行う等して、積層体を形成する方法がある。
(c)湿式延伸工程
得られたゲル状(積層シート含む)シートを延伸する。用いられる延伸方法としては、ロール延伸機によるMD一軸延伸、テンターによるTD一軸延伸、ロール延伸機とテンター、或いはテンターとテンターとの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンターによる同時二軸延伸などが挙げられる。延伸倍率は、膜厚の均一性の観点より、ゲル状シートの厚さによって異なるが、いずれの方向でも5倍以上に延伸することが好ましい。面積倍率では、25倍以上が好ましく、より好ましくは36倍以上、さらに好ましくは49倍以上である。面積倍率を25倍以上とすることで、延伸が十分で膜の均一性も十分なものとすることができ、強度の観点からも優れた多孔性フィルムを得ることができる。
延伸温度はゲル状シートの融点+10℃以下にするのが好ましく、(ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度Tcd)~(ゲル状シートの融点+5℃)の範囲にするのがより好ましい。具体的には、ポリエチレン組成物の場合は約90~100℃の結晶分散温度を有するので、延伸温度は好ましくは90~125℃であり、より好ましくは90~120℃である。結晶分散温度TcdはASTM D4065に従って測定した動的粘弾性の温度特性から求める。または、NMRから求める場合もある。90℃以上とすることで開孔が十分なものとなり膜厚の均一性が得られやすく、空孔率も向上する。125℃以下とすることで、シートの融解を防ぎ、孔の閉塞を防ぐことができる。
以上のような延伸によりゲルシートに形成された高次構造に開裂が起こり、結晶相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成する。延伸により機械的強度が向上するとともに、細孔が拡大するので、電池用セパレータに好適になる。
(d)洗浄・乾燥工程
次に、ゲル状シート中に残留する溶剤を洗浄溶剤を用いて除去する。ポリエチレン相と溶媒相とは分離しているので、溶剤の除去により多孔性フィルムが得られる。洗浄溶剤としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、三フッ化エタン等の鎖状フルオロカーボンなどがあげられる。これらの洗浄溶剤は低い表面張力(例えば、25℃で24mN/m以下)を有する。低い表面張力の洗浄溶剤を用いることにより、微多孔を形成する網状構造が洗浄後に乾燥時に気-液界面の表面張力により収縮が抑制され、空孔率および透過性を有する多孔性フィルムが得られる。これらの洗浄溶剤は可塑剤に応じて適宜選択し、単独または混合して用いる。
洗浄方法は、ゲル状シートを洗浄溶剤に浸漬し抽出する方法、ゲル状シートに洗浄溶剤をシャワーする方法、またはこれらの組み合わせによる方法等により行うことができる。洗浄溶剤の使用量は洗浄方法により異なるが、一般にゲル状シート100質量部に対して300質量部以上であるのが好ましい。洗浄温度は15~30℃でよく、必要に応じて80℃以下に加熱する。この時、溶剤の洗浄効果を高める観点、得られる多孔性フィルムの物性のTD方向および/またはMD方向の多孔性フィルム物性が不均一にならないようにする観点、多孔性フィルムの機械的物性および電気的物性を向上させる観点から、ゲル状シートが洗浄溶剤に浸漬している時間は長ければ長い方が良い。上述のような洗浄は、洗浄後のゲル状シート、すなわち多孔性フィルム中の残留溶剤が1質量%未満になるまで行うのが好ましい。
その後、乾燥工程で多孔性フィルム中の溶剤を乾燥させ除去する。乾燥方法としては、特に限定は無く、金属加熱ロールを用いる方法や熱風を用いる方法などを選択することができる。乾燥温度は40~100℃であることが好ましく、40~80℃がより好ましい。乾燥を十分に行うことで、後の熱処理で多孔性フィルムの空孔率が低下し透過性が悪化するのを防ぐことができる。
(e)乾式再延伸/熱処理工程
乾燥した多孔性フィルムを少なくとも一軸方向に延伸(乾式再延伸)する。乾式再延伸により、フィブリルの開裂が促進され、空孔率および平均孔径が増加し、透過性に優れた多孔性フィルムが得られる。また、ポリオレフィン結晶の配向が促進され、突刺強度および引張弾性率・引張強度が増加し、安全性および工程搬送性に優れた多孔性フィルムが得られる。
乾式再延伸は、多孔性フィルムを加熱しながら上述の延伸と同様に、ロール延伸機によるMD一軸延伸、テンターによるTD一軸延伸、ロール延伸機とテンター、或いはテンターとテンターとの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンターによる同時二軸延伸などにより行うことができる。
再延伸の温度は、ポリエチレン組成物の融点以下にすることが好ましく、(Tcd-20℃)~融点の範囲内にするのがより好ましい。具体的には、70~135℃が好ましく、110~132℃がより好ましい。さらに好ましくは、120~130℃である。
乾式再延伸の倍率は、MD方向の再延伸倍率を1.40倍以上とすることが好ましい。MD再延伸倍率を1.40倍以上、より好ましくは2.00倍以上、更に好ましくは2.50倍以上、更に好ましくは3.00倍以上とすることで、ポリオレフィン結晶のMD方向の配向が進行し、MD方向の引張弾性率および引張強度に優れ、工程搬送性に優れたフィルムが得られる。
MD方向の再延伸倍率の上限はフィルムの樹脂組成や湿式延伸倍率によって変化するが、5.00倍以下であることが好ましい。MD方向の再延伸倍率を5.00倍以下とすることで、厚み方向の潰れを抑え、空孔率の低下を抑えることができる。また、MD方向とTD方向の異方性が過剰となるのを抑え、フィルム搬送時にMD方向にシワが発生したりMD方向に裂けが発生したりするのを抑えることができる。
TD方向の再延伸最終倍率は、MD方向の再延伸倍率と乾式再延伸最終倍率の積(面積倍率)が後述する条件を満たす範囲で選択されることが好ましいが、個別の条件としては1.40倍以上とすることが好ましく、2.00倍以上とすることがより好ましく、2.50倍以上とすることが更に好ましく、3.00倍以上とすることが更に好ましい。TD方向の再延伸最終倍率の上限はフィルムの樹脂組成や湿式延伸倍率によって変化するが、5.00倍以下であることが好ましい。TD方向の再延伸最終倍率を5.00倍以下とすることで厚み方向の潰れの発生を抑制でき、空孔率の低下を防ぐことができる。またフィルムが破膜するのを抑制し、安定製膜が可能となる。
MD方向の乾式再延伸倍率とTD方向の乾式再延伸最終倍率の積は2.00倍以上とすることが好ましく、4.00倍以上とすることがより好ましく、6.00倍以上とすることが更に好ましく、8.00倍以上とすることが更に好ましい。MD方向の乾式再延伸倍率とTD方向の乾式再延伸最終倍率の積の上限はフィルムの樹脂組成や湿式延伸倍率によって変化するが、15.00倍以下であることが好ましい。MD方向の乾式再延伸倍率とTD方向の乾式再延伸最終倍率の積を15.00倍以下とすることで厚み方向の潰れの発生を抑制し、空孔率の低下を防ぐことができる。またフィルムが破膜するのを抑制し、安定製膜が可能となる。
乾式再延伸倍率と湿式延伸倍率の比(乾式再延伸倍率/湿式延伸倍率)は0.16以上とすることが好ましく、0.20以上とすることがより好ましく、0.25以上とすることが更に好ましく、0.30以上とすることが更に好ましい。乾式再延伸倍率/湿式延伸倍率の上限はフィルムの樹脂組成や湿式延伸倍率によって変化するが、0.60以下であることが好ましい。乾式再延伸倍率/湿式延伸倍率を0.60以下とすることで厚み方向の潰れの発生を抑制し、空孔率の低下を防ぐことができる。またフィルムが破膜するのを抑制し、安定製膜が可能となる。
また、湿式延伸の面積倍率と乾式再延伸の面積倍率との積(総面積倍率)を100倍以上とすることが好ましい。総面積倍率を100倍以上、より好ましくは125倍以上、更に好ましくは150倍以上、更に好ましくは200倍以上とすることで、フィブリルの開裂が促進され、空孔率が増加し、透過性に優れたフィルムが得られる。
総面積倍率の上限はフィルムの樹脂組成によっても変化するが、400倍以下とすることが好ましい。総面積倍率を400倍以下とすることで、厚み方向の潰れの発生を抑制でき、空孔率の低下を防ぐことができる。またフィルムが破膜するのを抑制し、安定製膜が可能となる。
(f)その他の工程
さらに、その他用途に応じて、多孔性フィルムに親水化処理を施すこともできる。親水化処理は、モノマーグラフト、界面活性剤処理、コロナ放電等により行うことができる。モノマーグラフトは架橋処理後に行うのが好ましい。多孔性ポリオレフィンフィルムに対して、α線、β線、γ線、電子線等の電離放射線の照射により架橋処理を施すのが好ましい。電子線の照射の場合、0.1~100Mradの電子線量が好ましく、100~300kVの加速電圧が好ましい。架橋処理により多孔性ポリオレフィンフィルムのメルトダウン温度が上昇する。
界面活性剤処理の場合、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤又は両イオン系界面活性剤のいずれも使用できるが、ノニオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤を水又はメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールに溶解してなる溶液中に多層多孔性フィルムを浸漬するか、多層多孔性フィルムにドクターブレード法により溶液を塗布する。
多孔性ポリオレフィンフィルムは、電池用セパレータとして用いた場合のメルトダウン特性や耐熱性を向上する目的で、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂多孔質体やポリイミド、ポリフェニレンスルフィド等の多孔質体等の表面コーティングやセラミックなどの無機コーティングなどを行ってもよい。
以上のようにして得られた多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルター、燃料電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータなど様々な用途で用いることができるが、特に電池用セパレータとして用いたとき出力特性、安全性および工程搬送性に優れることから、電気自動車などの高エネルギー密度化、高容量化、および高出力化を必要とする二次電池用の電池用セパレータとして好ましく用いることができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。なお、以下において、実施例1~4、7~9は、参考例1~4、7~9と読み替えるものとする。
1.重量平均分子量(Mw)、フィルムの分子量分布
超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン原料の重量平均分子量、および多孔性ポリオレフィンフィルムの分子量分布は以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:WATERS CORPORATION製GPC-150C
・カラム:昭和電工株式会社製SHODEX UT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):O-ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0 mL/分
・試料濃度:0.1 wt%(溶解条件:135℃/1H)
・インジェクション量:500μL
・検出器:WATERS CORPORATION製ディファレンシャルリフラクトメーター(RI検出器)
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作成した。
2.膜厚
ポリオレフィン微多孔膜の50mm×50mmの範囲内における5点の膜厚を接触厚み計、株式会社ミツトヨ製ライトマチックVL-50(10.5mmφ超硬球面測定子、測定荷重0.01N)により測定し、平均値を膜厚(μm)とした。
3.突刺強度
フォースゲージ(株式会社イマダ製 DS2-20N)を用い、先端に球面(曲率半径R:0.5mm)を有する直径1mmの針を、平均膜厚T(μm)の多孔性フィルムに2mm/秒の速度で突刺して、それ以外はJIS Z 1707(2019)に準拠して最大荷重L(貫通する直前の荷重、単位:N)を測定し、L=(L×10)/Tの式により、膜厚を10μmとしたときの突刺強度L(N/10μm)を算出した。
4.空孔率
ポリオレフィン微多孔膜から50mm×50mm角の正方形にサンプルを切り取り、上述の方法で厚みを測定し、厚みと面積からサンプルの体積を求めた。また、電子天秤を用いてサンプルの質量(g)を求め、それらとポリマー密度(g/cm3 )より、次式を用いて計算した。以上の測定を同じ多孔性フィルム中の異なる箇所で3点行い、空孔率の平均値を求めた。
空孔率=[(体積-質量/ポリマー密度)/体積]×100 。
なお、ポリマー密度は0.99g/cmの一定値と仮定して計算した。
5.引張強度・引張弾性率
MD方向およびTD方向の引張強度・引張弾性率については、幅10mmの短冊状試験片を用いて、ASTM D882に準拠した方法により測定した。試験片の固定は両面テープ(ニチバン株式会社製 NW-15)を用いて行い、つかみ具間距離20mm、試験速度100mm/minの条件で測定した。引張弾性率(MPa)は引張張力2~3N間での曲線の傾きを、試験前の断面積で除することで求めた。
6.最大孔径および平均孔径
パームポロメーター(PMI社製、CFP-1500A)を用いて、Dry-up、Wet-upの順で、最大孔径及び平均孔径を測定した。Wet-upには表面張力が1.59×10-2N/mのPMI社製Galwick(商品名)で十分に浸した多孔性ポリオレフィンフィルムに圧力をかけ、空気が貫通し始める圧力から換算される孔径を最大孔径とした。
平均径については、Dry-up測定で圧力、流量曲線の1/2の傾きを示す曲線と、Wet-up測定の曲線が交わる点の圧力から孔径を換算した。圧力と孔径の換算は下記の数式を用いた。
d=C・γ/P
上記式中、「d(μm)」は多孔性ポリオレフィンフィルムの孔径、「γ(mN/m)」は液体の表面張力、「P(Pa)」は圧力、「C」は浸液の濡れ張力、接触角等により定まる定数である。
以下、実施例を示して具体的に説明する。
[実施例1]
重量平均分子量Mw1が2.0×10である超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)40質量% と、重量平均分子量Mw2が0.3×10である高密度ポリエチレン(HDPE)60質量%とからなるポリエチレン組成物25質量%に流動パラフィン75質量%を加え、さらに混合中のポリエチレンの質量を基準として0.7質量%の2,6-ジーt-ブチル-p-クレゾールと1.1質量%のテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタンを酸化防止剤として加えて溶融混練し、ポリエチレン樹脂溶液を二軸押出機中で調製した。続いて、このポリエチレン樹脂溶液を、押出機の先端に設置されたシート形成ダイから押し出し、得られたシート状押出物を15℃の冷却ロールで引き取りながら、ゲル状成形物を形成した。得られたゲル状成形物に対して、115℃で5×5倍になるように湿式同時二軸延伸を施した後、延伸されたシートを25℃の塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを除去し、室温で空気乾燥させた。そして、乾燥させたシートに対し、温度113℃、MD方向の延伸倍率2.00倍の条件でロール延伸機によるMD一軸延伸を行った後、温度130℃、TD方向の延伸倍率3.00倍、リラックス率8.0%、最終延伸倍率2.76倍の条件でテンター延伸を実施し、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。
得られた多孔性ポリオレフィンフィルムの原料特性、製膜条件および評価結果を表1に記載する。この多孔性ポリオレフィンフィルムは空孔率、突刺強度およびMD引張弾性率に優れており、二次電池用セパレータに適した特性を備えていた。
[実施例2~4]
多孔性ポリオレフィンフィルムの原料として表1記載の原料を用い、製膜条件を表1のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。得られた多孔性ポリオレフィンフィルム評価結果は表3に記載のとおりである。
[実施例5]
重量平均分子量Mw1が2.0×10である超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)10質量%に流動パラフィン90質量%を加え、さらに混合中のポリエチレンの質量を基準として0.7質量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールと1.1質量%のテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを酸化防止剤として加えて溶融混練し、ポリエチレン樹脂溶液を二軸押出機中で調製した。続いて、このポリエチレン樹脂溶液を、押出機の先端に設置されたシート形成ダイから押し出し、得られたシート状押出物を15℃の冷却ロールで引き取りながら、ゲル状成形物を形成した。得られたゲル状成形物に対して、115℃で5×5倍になるように湿式同時二軸延伸を施した後、延伸されたシートを25℃の塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを除去し、室温で空気乾燥させた。そして、乾燥させたシートに対し、温度125℃、MD方向の延伸倍率2.00倍、TD方向の延伸倍率2.00倍、熱固定温度125℃の運転条件で逐次二軸方式によるテンター延伸を実施し、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。
[実施例6]
多孔性ポリオレフィンフィルムの原料として表1記載の原料を用い、製膜条件を表1のとおりに変更した以外は実施例5と同様にして、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。得られた多孔性ポリオレフィンフィルム評価結果は表3に記載のとおりである。
[実施例7]
重量平均分子量Mw1が1.5×10である超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)20質量%に流動パラフィン80質量%を加え、さらに混合中のポリエチレンの質量を基準として0.7質量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールと1.1質量%のテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを酸化防止剤として加えて溶融混練し、ポリエチレン樹脂溶液を二軸押出機中で調製した。続いて、このポリエチレン樹脂溶液を、押出機の先端に設置されたシート形成ダイから押し出し、得られたシート状押出物を15℃の冷却ロールで引き取りながら、ゲル状成形物を形成した。得られたゲル状成形物に対して、113℃でMD方向に8倍になるようにロール延伸し、124℃でTD方向に7.4倍になるようにテンター延伸を施した(湿式逐次二軸延伸)。延伸されたシートを25℃の塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを除去し、室温で空気乾燥させた。そして、乾燥させたシートに対し、131℃でTD方向に延伸倍率1.39倍、リラックス率6.5%、最終延伸倍率1.30倍の条件でテンター延伸を実施し、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。
[実施例8、9]
多孔性ポリオレフィンフィルムの原料として表1記載の原料を用い、製膜条件を表1のとおりに変更した以外は実施例7と同様にして、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。得られた多孔性ポリオレフィンフィルム評価結果は表3に記載のとおりである。
[比較例1]
重量平均分子量Mw1が2.0×10である超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)40質量% と、重量平均分子量Mw2が0.3×10である高密度ポリエチレン(HDPE)60質量%とからなるポリエチレン組成物25質量%に流動パラフィン75質量%を加え、さらに混合中のポリエチレンの質量を基準として0.7質量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールと1.1質量%のテトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを酸化防止剤として加えて溶融混練し、ポリエチレン樹脂溶液を二軸押出機中で調製した。続いて、このポリエチレン樹脂溶液を、押出機の先端に設置されたシート形成ダイから押し出し、得られたシート状押出物を15℃の冷却ロールで引き取りながら、ゲル状成形物を形成した。得られたゲル状成形物に対して、115℃で5×5倍になるように湿式同時二軸延伸を施した後、延伸されたシートを25℃の塩化メチレンに浸漬して流動パラフィンを除去し、室温で空気乾燥させ、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。
[比較例2~5]
多孔性ポリオレフィンフィルムの原料として表2記載の原料を用い、製膜条件を表1のとおりに変更した以外は比較例1と同様にして、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。得られた多孔性ポリオレフィンフィルム評価結果は表4に記載のとおりである。
Figure 0007547844000001
Figure 0007547844000002
Figure 0007547844000003
Figure 0007547844000004
実施例1は湿式同時二軸延伸を施し、流動パラフィンを除去した後、乾式再延伸を施しており、乾式再延伸を施していない比較例1に比べ、高い空孔率、および高い突刺強度が得られている。また、MD方向に乾式再延伸を施すことにより、MD方向の配向が進行し、高いMD方向の引張弾性率が得られており、搬送性の点で優れている。
実施例2~4は実施例1よりも高い延伸倍率で乾式再延伸を施すことにより、高い空孔率、および高い突刺強度が得られている。また、MD方向の乾式再延伸倍率をより高くしたことにより、実施例1よりもさらに高いMD方向の引張弾性率が得られており、弾性率の比EMD/ETDが大きく搬送性に優れるフィルムが得られている。
実施例5~9は原料のポリオレフィン樹脂としてUHMWPE 100質量%を用いており、高い空孔率、高い突刺強度、および高いMD方向の引張弾性率が得られている。
実施例1~9の多孔性ポリオレフィンフィルムは電池用セパレータとして用いたときに出力特性、安全性、および搬送性の点で優れている。
比較例2は実施例1と比べTD方向にのみ乾式再延伸を施して得られる多孔性ポリオレフィンフィルムであり、良好な突刺強度が得られたが、空孔率が50%未満であり、将来的に要求される急速充電用途の電池用セパレータとして用いたときにイオンの透過性の点で改善の余地がある。
比較例3は実施例1と比べMD方向に3.50倍、TD方向に5.43倍の条件で乾式逐次延伸を施した結果、破膜した。
比較例4は実施例5と比べ乾式再延伸を行っていないため、空孔率、突刺強度、およびMD方向の引張弾性率のいずれの点においても不十分であった。
比較例5は実施例5と比べ原料としてHDPE 100質量%を用いており、良好な空孔率が得られたが、UHMWPEを含有していないため、突刺強度が不十分であり安全性の点で劣っている。

Claims (8)

  1. 空孔率が50%以上であり、膜厚10μm換算の突刺強度が4.0N以上であり、長手方向の引張弾性率E MD が980MPa以上であり、平均孔径が10nm以上35nm以下であり、かつフィルムの重量による分子量分布において、分子量1.0×10 以上のポリエチレン成分の含有量が40質量%以上であることを特徴とする多孔性ポリオレフィンフィルム。
  2. MD および幅方向の引張弾性率E TD について、E MD /E TD が1.0以上である、請求項1に記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
  3. 長手方向の引張強度M MD が180MPa以上である、請求項1または2のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム
  4. 最大孔径に対する平均孔径の比(平均孔径)/(最大孔径)が0.70以上である、請求項1~3のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
  5. 膜厚が15μm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
  6. ポリエチレンを主成分とする、請求項1~5のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム
  7. 請求項1~6のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルムを用いたことを特徴とする電池用セパレータ。
  8. 請求項に記載の電池用セパレータを用いたことを特徴とする二次電池。
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