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JP7321456B2 - 歯科保存修復用キット - Google Patents

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Description

本発明は、歯科切削加工用ブランクと、当該歯科切削加工用ブランクを用いて作製された歯科用修復物を歯牙に接着するための歯科用セメントと、の組み合わせからなる歯科保存修復用キットに関する。より詳しくは、構造色を発現すると共に適度なコントラスト比を有することによって、顔料物質や染料物質を特に用いなくても、その色調を様々な色調の天然歯牙と良好に適合させることができるという特殊な色調適合性を有する歯科用修復物を作製することができる歯科切削加工用ブランクと、その特殊な色調適合性を発揮させるのに適した歯科用セメントの組み合わせからなる歯科保存修復用キットに関する。
歯科治療において、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、インプラント上部構造体などの歯科用修復物(或いは歯科用補綴物)の作製において、デジタル化技術の利用が進んでいる。たとえば、特許文献1に開示されているように、口腔内の撮影画像から、コンピュータ支援設計(CAD)(Computer Aided Design)及びコンピュータ支援製造(CAM)(Computer Aided Manufacturing)技術によるCAD/CAM装置を用いて、非金属材料からなる歯科切削加工用ブランクに切削加工を施して歯科用修復物を成形するCAD/CAMシステムが多用されるようになってきている。ここで、歯科切削加工用ブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)を意味し、直方体や円柱の形状に成形された(ソリッド)ブロック又は板状若しくは盤状に形成された(ソリッド)ディスク等が一般的に知られている。なお、歯科切削加工用ブランクには、これを切削加工機に固定するための保持ピンが接合されることも多く、このような形態においては保持ピンと一体化したものを歯科切削加工用ブランクと呼ぶこともある。本発明では、このような保持ピンと一体化した形態を含めて歯科切削加工用ブランクと称する。そして、被切削体本体(歯科切削加工用ブランク本体)を被切削加工部と称することもある。
歯科切削加工用ブランクの被切削加工部となる材料としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、レジンなど様々な材料が用いられる。
ところで、歯科治療では、天然歯牙の色調に可能な限り近い外観を付与する事が要求されるが、このような審美的要求を満たすために、顔料物質や染料物質を、その種類や配合量を変えて添加し、色調が調整された単一成分からなる単層構造の歯科切削加工用ブランクや、異なる色調の成分を積層して構成される多層構造の歯科切削加工用ブランクが提案されている。
例えば、特許文献2には、汎用性と生産性に優れ、なおかつ天然歯の美観の再現性が高いとする歯科切削加工用ブランクとして、象牙質修復用レジン層とエナメル質修復用レジン層とが積層された歯科CAD/CAM用レジン系ブロックであって、少なくとも象牙質修復用レジン層は光拡散性粒子を含有し、特定の拡散比を有する歯科CAD/CAM用レジンブロックが提案されている。
特表2016-535610号公報 特開2017-213394号公報 特許第5274164号 国際公開第2017/069274号パンフレット
ところが、顔料物質や染料物質を用いて色調調整を行った歯科切削加工用ブランクは、これを用いて作製した歯科用修復物中におけるこれら顔料物質等が経年劣化によって退色または変色することにより、修復後から時間が経過するに従って変色し、修復部位の外観が天然歯と適合しなくなってしまうことがある。
また、顔料物質や染料物質を用いて色調調整を行った歯科用セメント材料は、色調選択によっては、歯科切削加工用ブランクを用いて作製した歯科用修復物の色調に大きく影響を与え、修復部位の外観が天然歯と適合しなくなってしまうことがある。
本発明者等は、上記課題を解決できる、レジン系材料からなる新規な歯科切削加工用ブランクとして、次のような歯科切削加工用ブランク(以下、「構造色系レジンブランク」とも言う。)を既に提案している(特願2019-96217号)。すなわち、レジン系材料からなる被切削加工部を有する歯科切削加工用ブランクにおいて、前記レジン系材料は、樹脂マトリックス中に無機粒子が分散してなる複合材料を含み、前記無機粒子は、(I)100~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体を構成する個々の無機球状粒子は、実質的に同一物質で構成されると共に、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と、(II)平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなる“超微細粒子群”(G-SFP)と、を含んでなり、前記無機粒子に含まれる前記“同一粒径球状粒子群”の数をaとしたときの各“同一粒径球状粒子群”を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aまでの自然数である。)で表したときに、前記aが2以上の場合における各G-PIDの個々の粒子を構成する物質は互いに異なっていてもよく、当該場合における各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっており、前記“超微細粒子群”(G-SFP)の平均一次粒子径は、前記G-PIDの平均一次粒子径よりも25nm以上小さく、前記樹脂マトリックスの25℃における屈折率をn(MX)とし、前記各G-PIDを構成する無機球状粒子の25℃における屈折率をn(G-PIDm)としたときに、何れのn(G-PIDm)に対しても、
(MX)<n(G-PIDm)
の関係が成り立ち、前記複合材料において、全“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を構成する無機球状粒子の配列構造が下記条件1及び条件2を満たす短距離秩序構造を有するように、樹脂マトリックス中に分散している、ことを特徴とする前記歯科切削加工用ブランクを提案している。
[条件1] 前記複合材料中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離:rを、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rで、除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、前記任意の無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す動径分布関数:g(r)をy軸として、前記r/rとその時のrに対応する前記g(r)との関係をあらわした動径分布関数グラフにおいて、当該動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離:rが、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rの1倍以上2倍以下の値である。
[条件2] 前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離:rとしたときに、前記最近接粒子間距離:rと次近接粒子間距離:rとの間における前記動径分布関数:g(r)の極小値が0.56以上1.10以下の値である。
上記、構造色系レジンブランクによれば、(a)染料物質や顔料物質を用いなくてもよいので前記経時変色の問題が起こり難く、(b)染料物質や顔料物質を用いることなく、青色系の透明感のある色調から象牙色質と同様の色である黄色~赤色の色調といった幅広い色調範囲内で所望する色調に着色することができ、しかも(c)“超微細粒子群”(G-SFP)が配合されていることにより、適度な透明性を有するため、厚みが厚い歯科用補綴物とした場合でも、被修復歯牙の色と調和し易く、広範な色の被修復歯牙に対して天然歯に近い外観の修復を行うことができる、という優れた効果を得ることができる。更に、複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を含む態様においては、各G-PIDは、その平均1次粒径に応じた色調の構造色を発色するので、配合するG-PIDの組み合わせにより、全体の発色色調をコントロールすることも可能である。
前記構造色系レジンブランクは、このような優れた効果を奏するものであるが、構造色系レジンブランク用いてインレーの様に窩洞に嵌め込む補綴物であって、支台歯となる天然歯牙の表面と補綴物の表面が共に視野に入るように露出するような使用態様においては、所期の色調適合性が得られず、支台歯と補綴物の境界が目視で確認できるようになってしまうことがあることが新たに判明した。そこで、本発明は、この本発明者等によってはじめて認識された課題、すなわち構造色系レジンブランクを用いて作製した歯科用補綴物を、歯科用セメントを用いて支台歯に接着する際に色調不適合が発生することがあるという課題、を解決することを目的とする。
本発明者等は、上記課題を解決すべく検討を行ったところ、上記問題が発生する原因は、補綴物を接着するために使用する歯科用セメントにあり、歯科用セメントの白色度が高くなり、透明性が低下する程、支台歯との色調適合性が低下する傾向があることが判明した。そして、この新たな知見に基づき更に検討を行った結果、硬化時の透明性が特定の範囲となる歯科用セメントを使用することにより、上記課題を解決することができることを見出すとともに、構造色系レジンブランクにおいて、n(MX)<n(G-PIDm)の関係を満足するマトリックスであれば樹脂マトリックスに限られず、ガラスのような無機マトリックスであっても原理的には同様の構造色を発現し、同様の効果が得られると考え、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、被切削加工部を有する歯科切削加工用ブランク(A)と、当該歯科切削加工用ブランクを用いて作製された歯科用修復物を歯牙に接着するための歯科用セメント(B)と、の組み合わせからなる歯科保存修復用キットであって、前記歯科切削加工用ブランク(A)の前記被切削加工部は、以下に示す(A1)~(A6)の条件を全て満足し、前記歯科用セメント(B)は、以下に示す(B1)~(B3)の条件を全て満足する、ことを特徴とする歯科保存修復用キットである。
〔前記歯科切削加工用ブランク(A)の前記被切削加工部が満足すべき条件〕
(A1)マトリックス材料中に無機粒子が分散してなる複合材料を含むこと。
(A2)前記無機粒子は、(I)100~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体を構成する個々の無機球状粒子は、実質的に同一物質で構成されると共に、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と、(II)平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなる“超微細粒子群”(G-SFP)と、を含んでなること。
(A3)前記無機粒子に含まれる前記“同一粒径球状粒子群”の数をaとしたときの各“同一粒径球状粒子群”を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aまでの自然数である。)で表したときに、前記aが2以上の場合における各G-PIDの個々の粒子を構成する物質は互いに異なっていてもよく、当該場合における各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっていること。
(A4)前記“超微細粒子群”(G-SFP)の平均一次粒子径は、前記G-PIDの平均一次粒子径よりも25nm以上小さいこと。
(A5)前記マトリックス材料の25℃における屈折率をn(MX)とし、前記各G-PIDを構成する無機球状粒子の25℃における屈折率をn(G-PIDm)としたときに、何れのn(G-PIDm)に対しても、 n(MX)<n(G-PIDm) の関係が成り立つこと。
(A6)前記複合材料において、前記任意の無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す関数であって、前記複合材料の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づいて決定される、当該観察平面内の前記無機球状粒子の平均粒子密度:〈ρ〉、及び当該観察平面内の任意の無機球状粒子からの距離rの円と距離r+drの円との間の領域中に存在する無機球状粒子の数:dn、並びに前記領域の面積:da(ただし、da=2πr・drである。)に基づいて下記式(1)
g(r)={1/〈ρ〉}×{dn/da} ・・・(1)
で定義される関数:g(r)を動径分布関数としたときに、前記複合材料にける全“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を構成する無機球状粒子が、下記条件1及び下記条件2を満足する短距離秩序構造を有するように、マトリックス材料中に分散していること。
[条件1]:前記複合材料中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離:rを、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rで、除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、前記動径分布関数:g(r)をy軸として、前記r/rとその時のrに対応する前記g(r)との関係を表した動径分布関数グラフにおいて、当該動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離:rが、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rの1倍以上2倍以下の値である。
[条件2]:前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離:rとしたときに、前記最近接粒子間距離:rと次近接粒子間距離:rとの間における前記動径分布関数:g(r)の極小値が0.56以上1.10以下の値である。
〔前記歯科用セメント(B)が満足すべき条件〕
(B1)(メタ)アクリル系重合性単量体、重合開始剤、及び充填材を含有してなる硬化性組成物からなること。
(B2)前記硬化性組成物の硬化体からなる厚さ0.5mmの固体試料について黒背景で色差計を用いて測定される白色度が65以下であること。
(B3)前記固体試料について色差計を用いて測定される、黒背景におる分光反射率:Yb及び白色背景における分光反射率:Ywに基づき、これらの比:Yb/Ywとして決定されるコントラスト比:Tが、0.60未満であること。
前記本発明の歯科保存修復用キットにおいては、前記歯科切削加工用ブランク(A)の被切削加工部を構成する前記複合材料の前記マトリックス材料が樹脂であることが好ましい。
さらに、前記マトリックス材料中に分散する“同一粒径球状粒子群”(G-PID)の総量、及び“超微細粒子群”(G-SFP)の量が、マトリックス材料100質量部に対して、それぞれ、10質量部以上1500質量部以下、及び0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、また、前記歯科切削加工用ブランクに含まれる全ての“同一粒径球状粒子群”(G-PID)の平均一次粒子径が230~1000nmの範囲内にあり、“超微細粒子群”(G-SFP)平均一次粒子径が3nm以上75nm以下であることが好ましく、更にまた、前記n(MX)と前記n(G-PIDm)との差(n(G-PIDm) - n(MX))で定義されるΔnが、何れのnG-PIDmに対しても、0.001以上0.1以下であることが好ましい。
また、これら本発明の歯科保存修復用キットにおいては、前記被切削加工部が、夫々組成の異なる複数の前記複合材料の接合体からなることが好ましい。
本発明の歯科保存修復用キットによれば、歯科用セメントとして特定ものと組み合わせて使用することにより、インレーの様に窩洞に嵌め込む補綴物であって、支台歯となる天然歯牙の表面と補綴物の表面が共に視野に入るように露出するような使用態様においても、色調不適合の問題の発生を回避して、前記歯科切削加工用ブランク(A)が本来有する前記効果を発揮させることができるようになる。
さらに、従来の一般的な歯科用補綴物を歯科用セメント用いて接着する修復においては、審美性の高い修復を行う場合には、医科用セメントについて事前に色調適合確認を行う必要があったのに対し、本発明の歯科保存修復用キットを用いることにより、このような色調適合確認作業を省略することも可能となる。すなわち、所謂審美修復においては、歯科医師がインレー、オンレー、ベニア等の歯科用補綴物を支台歯に合着する前に、重合硬化後の歯科用セメントと同じ色調に設定された色調適合確認材料を用いて一時的に補綴物を支台歯に試適して、その審美性を確認し、適合性が確認された色調の歯科用セメントを選ぶという作業が行われるのが一般的である。具体的には、ある色調の色調適合確認材料を用いて試適を行い、色調適合性を調べてから、取り外して使用した色調適合確認材料を洗浄・除去すると言う操作を繰り返して、実際に使用する(適合した色調の)歯科用セメントを選定するという作業が行われるのであるが、このような作業を省略したり簡略化したり(試適回数を低減したり)することが可能となる。
本図は、実施例1の複合材料における観察平面の走査型電子顕微鏡画像(左図)と、当該画像から得られた座標データ(右図)を示す図である。 本図は、図1の座標データから決定されるパラメータに基づいて計算されたg(r)に関する動径分布関数グラフを示す図である。 本図は、実施例2の複合材料における動径分布関数グラフを示す図である。 本図は、実施例3の複合材料における動径分布関数グラフを示す図である。 本図は、実施例4の複合材料における動径分布関数グラフを示す図である。 本図は、実施例5の複合材料における動径分布関数グラフを示す図である。 本図は、実施例6の複合材料における動径分布関数グラフを示す図である。 本図は、比較例2の複合材料における動径分布関数グラフを示す図である。
本発明の歯科保存修復用キットは、前記条件(A1)~(A6)を満足する被切削加工部を有する歯科切削加工用ブランク(A)と、前記条件(B1)~(B3)を満足する前記歯科切削加工用ブランク(A)を用いて作製された歯科用修復物を歯牙に接着するための歯科用セメント(B)と、の組み合わせからなる。
〔1.歯科切削加工用ブランク(A)について〕
歯科切削加工用ブランク(A)としては、前記マトリックス材料が樹脂である前記「構造色系レジンブランク」が最も好適に使用できる。そして、この「構造色系レジンブランク」は、本発明者等によって提案された新規な歯科切削加工用ブランクである。そこで、前記歯科切削加工用ブランク(A)を説明するにあたっては、先ず当該「構造色系レジンブランク」について説明した上で、本発明のキットについて説明することとする。
〔1-1.構造色系レジンブランクについて〕
構造色系レジンブランクは、レジン系材料からなる被切削加工部を有する歯科切削加工用ブランクであり、前記レジン系材料は、樹脂マトリックス中に無機粒子が分散してなる特定の複合材料を含む。別言すれば、前記被切削加工部は、その全部が上記特定の複合材料で構成されるか、又は一部が上記特定の複合材料で構成され残部が他のレジン系材料で構成される。このとき、前記特定の複合材料からなる部分は、夫々組成の異なる複数の前記特定の複合材料の接合体からなるものであってもよい。
ここで、前記特定の複合材料とは、樹脂マトリックス中に特定の無機粒子が、特定の分散条件を満足するように分散したものである。当該特定の複合材料は、所謂「構造色」と呼ばれる発色メカニズムを利用することにより、顔料物質や染料物質を特に添加することなく発色(着色状態)とすることができるものである。構造色とは、媒質中の微粒子による光の反射、干渉、散乱、透過などにより発色する色を意味し、樹脂などの媒体中に無機粒子が分散した複合材料を所期の色に発色させる技術も知られている(特許文献3及び4参照)。
たとえば、特許文献3には、「平均粒子径が50nm~1μmの範囲にあり且つ粒子径のCv値が10%以下である第一微粒子が媒質中に分散してなる微粒子分散体であって、前記分散体中における前記第一微粒子の配列構造が、アモルファス構造であり、且つ、“平面内の動径分布関数:g(r)”で規定される特定の条件を満足するような短距離秩序構造を有する微粒子分散体」は、微粒子の配列構造が安定的に維持され、特定の波長の光を反射することができ、光の入射角の変化によって反射光のピーク波長が変化する反射光の角度依存性を十分に低減することが可能な微粒子分散体であることが開示されている。
また、特許文献4には、たとえば、「重合性単量体成分(A),平均粒子径が230nm~1000nmの範囲内にある球状フィラー(B)及び重合開始剤(C)を含み、前記球状フィラー(B)を構成する個々の粒子のうち90%以上が平均粒子径の前後の5%の範囲内に存在し、前記球状フィラー(B)の25℃における屈折率nが前記重合性単量体成分(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率nよりも大きいという条件を満足する硬化性組成物」からなり、更に「厚さ1mmの硬化体を形成した状態で、各々色差計を用いて測定した、黒背景下での着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5未満であり、彩度(C)が0.05以上であり、且つ白背景下での着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が6以上であり、彩度(C)が2未満となる硬化性組成物」が開示されている。
そして、特許文献4には上記当該硬化性組成物からなる歯科用コンポジットレジン(CR)は、(1)染料物質や顔料物質を用いていないので前記経時変色の問題が起こり難く、(2)その硬化体は象牙色質と同様の色である黄色~赤色に着色することができ、しかも(3)該硬化体が適度な透明性を有するため、被修復歯牙の色と調和し易く、煩雑なシェードテイキングやコンポジットレジンのシェード選択を行うことなく、1種類のコンポジットレジンで広範な色の被修復歯牙に対して天然歯に近い外観の修復を行うことができる、という優れた特徴を有することが記載されている。
前記特許文献3によれば、均質な粒径を有する微粒子が、特定の短距離秩序構造を有しつつ全体的にはアモルファス構造となるように分散することによって、光の入射角の変化に左右されない一定の色調の構造色を発色することができることが分かる。また、前記特許文献4には、前記硬化性組成物(或いは当該硬化性組成物からなるCR)の硬化体における干渉による着色光は、構成する粒子が比較的規則的に集積された部分で生じ、散乱による着色光は、構成する粒子が無秩序に分散された部分で生じると説明されており、当該系においても球状フィラーの分散状態における、長距離的な不規則性と短距離的な規則性のバランスが、前記(1)~(3)の効果を得る上で重要であることが推察できる。
しかしながら、特許文献4に開示される前記硬化性組成物において、前記効果が得られる前記バランスの定量的な評価はされておらず、たとえば、硬化性組成物の粘度を調整する目的や硬化体のコントラスト比を調製する目的で微細フィラーを添加したときに、前記効果がどのような影響を受けるのかは不明であった。また、特許文献4では、前記球状フィラー(B)として、“230~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する集合体”を1種類しか用いておらず、平均一次粒子径の異なるこのような集合体を複数用いた場合に、前記効果がどのような影響を受けるのかは不明であった。また、特許文献4では、所謂浅い窩洞に対するCR修復を主に想定していたため、厚みの厚い歯科用修復物としたときに同様の効果が得られるかどうかは不明であった。さらに、頻度は少ないものの各成分を混錬して硬化性組成物を調製する際の条件によっては、所期の効果を奏するものが得られないことがあることが判明した。
このような各種不確定性や、硬化性組成物の調製条件による応用物性のバラツキは、硬化性組成物そのものをCRとする場合は勿論、その硬化体を歯科用修復物として用いる場合においても問題となると考えられる。
構造色系レジンブランクでは、球状粒子の分散状態の定量化の手法として前記特許文献3に開示されている“平面内の動径分布関数:g(r)”を用いた短距離秩序構造の規定方法を活用し、樹脂マトリックス中に“同一粒径球状粒子群”(G-PID)及び“超微細粒子群”(G-SFP)を含む無機粒子が分散した、特許文献4に開示されている系と類似した系において、前記効果が得られる無機粒子の分散状態を特定し、当該分散状態を有する複合材料を用いることにより、歯科切削加工用ブランクとしたときの前記各種不確定性や応用物性のバラツキを排除したものである。
なお、上記複合材料は、本発明者らによって既に提案されたものであり(特願2018-165680号。以下、当該提案に係る複合材料を(以下、「本複合材料」ともいう。)、特許文献4に開示されるような系において前記効果が得られる短距離秩序構造を特定することに成功する(別言すれば、前記条件1及び2を満足すれば前記効果が得られることを見出す)と共に、極微細な無機フィラーを添加しても構造色発現効果にほとんど影響を与えないこと、更に、特定の条件を満足する場合には、複数の球状フィラー集合体を用いても各球状フィラー集合体で構造色を発色する短距離秩序構造型が保たれて、それぞれの集合体に起因する構造色が発色し、全体としてそれらが合成された色調で発色すること、を見出したことに基づき成されたものである。そして、特許文献4に開示される前記硬化体が、平均粒子径が230~1000nmの範囲内の1種類の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)のみを含み、“超微細粒子群”(G-SFP)を特に含まないのに対し、本複合材料は、G-PIDの平均粒子径が100~1000nmの範囲で、且つ1又は複数のG-PIDを含み、更に硬化体のコントラスト比を調製する目的でG-SFPが添加されている点で異なっている。
そして、構造色系レジンブランクは、上記本複材料に関する知見に加え、本複合材料における前記効果が、その厚みを、たとえば10mm程度と厚くした場合でも得られることを確認し、本複合材料は歯科切削加工用ブランクとし好適に使用できるという新たな知見に基づき完成されたものである。
そこで、以下に本複材料について詳しく説明する。
〔1-2.本複合材料について〕
構造色系レジンブランクを構成する本複合材料は、樹脂マトリックス中に無機粒子が分散してなる複合材料であって、次の特徴を有する。すなわち、
第一に、前記条件(A2):前記無機粒子は、(I)100~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体を構成する個々の無機球状粒子は、実質的に同一物質で構成されると共に、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と、(II)平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなる“超微細粒子群”(G-SFP)と、を含んでなる、という条件を満足する。
第二に、前記条件(A3):前記無機粒子に含まれる前記“同一粒径球状粒子群”の数をaとしたときの各“同一粒径球状粒子群”を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aまでの自然数である。)で表したときに、前記aが2以上の場合における各G-PIDの個々の粒子を構成する物質は互いに異なっていてもよく、当該場合における各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なる、という条件を満足する。
第三に、前記条件(A4):前記“超微細粒子群”(G-SFP)の平均一次粒子径は、前記G-PIDの平均一次粒子径よりも25nm以上小さい、という条件を満足する。
第四に、前記条件(A5):マトリックス材料、具体的には前記樹脂マトリックスの25℃における屈折率をn(MX)とし、前記各G-PIDを構成する無機球状粒子の25℃における屈折率をn(G-PIDm)としたときに、何れのn(G-PIDm)に対しても、n(MX)<n(G-PIDm)の関係が成り立つ、と言う条件を満足する。
そして第五に、前記条件(A6):マトリックス材料中、具体的には前記樹脂マトリックス中における、全“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を構成する無機球状粒子は、下記条件1及び条件2を満たす短距離秩序構造を有するように、マトリックス材料中に分散している、と言う条件を満足する。
[条件1] 前記歯科切削加工用ブランク中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離:rを、前記歯科切削加工用ブランク中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rで、除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、前記任意の無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す動径分布関数:g(r)をy軸として、前記r/rとその時のrに対応する前記g(r)との関係をあらわした動径分布関数グラフにおいて、当該動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離:rが、前記歯科切削加工用ブランク中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rの1倍以上2倍以下の値である。
[条件2] 前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離:rとしたときに、前記最近接粒子間距離:rと次近接粒子間距離:rとの間における前記動径分布関数:g(r)の極小値が0.56以上1.10以下の値である。
本複合材料は、これら5つの特徴を全て具備することにより、本複合材料に入射した光がブラッグ条件に則って回折干渉することにより、光の入射角による影響を受けることなく、特定波長の光が強調されて、平均一次粒子径に応じた構造色を発現し、その結果、特定の色調に発色することができるようになる。
前記したように、構造色系レジンブランクで使用する本複合材料は、基本的には前記特許文献4に開示されている硬化性組成物の硬化体の範疇に入るものであるが、前記効果を確実に得られるような“前記無機球状粒子の分散状態”が特定されている点、特許文献4の硬化性組成物では任意成分とされていた“その他添加剤”の一つである無機フィラーについて前記効果に悪影響を与えない粒径のものを含む点、及び前記“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を複数種含み得ることが確認されている点が新たな特徴となっている。したがって、樹脂マトリックスの原料となる重合性単量体、各々の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)、より具体的には、その平均一次粒子径や当該G-PIDにおける個数基準粒度分布、当該G-PIDを構成する無機球状粒子の形状、材質及び屈折率等、並びに硬化体を得るために使用する重合開始剤などについては前記特許文献4の硬化性組成物と特に変わる点はない。
そこで、まず“前記無機球状粒子の分散状態”の特定に関する前記第五の特徴点について説明した後に、本複合材料で使用する各種原材料や製造方法等について説明する。
本複合材料では、無機球状粒子の分散状態の定量化の手法として前記特許文献3に開示されている“平面内の動径分布関数:g(r)”を用いて短距離秩序構造を規定している。ここで、動径分布関数g(r)とは、前記特許文献3において使用されていることからも分かるように、任意のある粒子から、距離rだけ離れた地点における、他の粒子の存在確率を求めるための関数として良く知られたものであり、下記式(1)で定義されるものである。
g(r)={1/〈ρ〉}×{dn/da} ・・・(1)
なお、上記式(1)において、〈ρ〉は、平面内の粒子の平均粒子密度を表し、dnは、平面内の任意の粒子の中心とし、半径がそれぞれr及びr+drである2つの円の間の領域の中に存在する粒子の数を表し、daは、前記領域の面積である2πr・drを表す。
前記動径分布関数:g(r)は、一般的には、x軸(距離軸)に前記距離rをとりy軸(縦軸)にそのrにおけるg(r)の値{前記式(1)による計算結果}をとった動径分布関数グラフ、或いは距離軸に前記rを粒子の平均粒子径で除して規格化した無次元数をとり、y軸(縦軸)にx軸の値に対応するrにおけるg(r)の値(前記式の計算結果)をとった動径分布関数グラフ(図1~4参照)によって表されるものである。
本複合材料においては、〈ρ〉及びdnの確認が容易で、確実であるという理由から、本複合材料の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づいて決定した〈ρ〉、及びdn、並びに上記dnを決定する際に採用したdrの値に応じた:da(=2πr・dr)に基づいて前記式(1)により計算したg(r)を採用することが好ましい。
本複合材料の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づく、〈ρ〉、dn及びdaの決定は、次のようにして行うことができる。すなわち、先ず、本複合材料の原料となる重合硬化性組成物(以下、「本重合硬化性組成物」ともいう。)を硬化させる等して複合材料を作製し、得られた複合材料の表面を研磨する等の手段により、複合材料内部における無機球状粒子の分散状態が観察可能な平面(観察平面)を表面に露出させる。次いで、当該観察平面を走査型電子顕微鏡により観測し、少なくとも平面内に500個以上の無機球状粒子を含有している領域の顕微鏡画像を取得する。その後、得られた走査型電子顕微鏡画像を画像解析ソフト(例えば「Simple Digitizer ver3.2」フリーソフト)を用いて、前記領域内の無機球状粒子の座標を求める。得られた座標データから任意の無機球状粒子の座標を1つ選択し、選択した無機球状粒子を中心に少なくとも200個以上の無機球状粒子が含まれる距離rを半径とする円を描き、当該円内に含まれる無機球状粒子の個数をカウントすることにより平均粒子密度<ρ>(単位:個/cm2)を決定することができる。
また、dnについては、無機球状粒子の平均粒子径をrで表したときに、その長さがr/100~r/10程度の値となるdrを設定し、任意に選択した1つの無機球状粒子を中心粒子とし、その中心からの距離rを半径とする円と、当該円と同一の中心を有する、半径:r+drの円との間の領域内に含まれる無機球状粒子数をカウントすることによりdnを決定することができる。さらに、前記2つの円の間の領域の面積であるdaは、実際に設定したdrの長さに基づき、2πr・drとして決定される。
本複合材料では、前記複合材料中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離:rを、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rで除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、前記任意の無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す動径分布関数:g(r)をy軸として、前記r/rとその時のrに対応する前記g(r)との関係をあらわした動径分布関数グラフにおいて、当該動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離:rが、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rの1倍以上2倍以下の値である必要がある(条件1)。rがrの1倍未満(r/r<1)である場合には、平面内の粒子同士の重なりが多くなり、また、rがrの2倍を越える(r/r>2)場合には選択した中心の無機粒子近傍に粒子が存在しなくなることによって、短距離の秩序性がなくなり、構造色を発現しなくなる。すなわち、短距離の秩序性を維持し、構造色を発現しやすくなるという観点から、r/rは、1.0以上、2.0以下、特に1.0以上、1.5以下であることが好ましい。
また、本複合材料では、前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離:rとしたときに、前記最近接粒子間距離:rと次近接粒子間距離:rとの間における前記動径分布関数:g(r)の極小値が0.56以上1.10以下の値である必要もある(条件2)。前記極小値が0.56未満となる場合は、無機球状粒子の配列構造の長距離秩序性が高くなり、発現する構造色の光の入射角度依存性が高まるばかりでなく、複合材料の彩度が高くなってしまい、歯科充填材料として用いた場合における、色調適合性が得られ難くなる。他方、前記極小値が1.10を越える場合には、無機球状粒子の配列構造がランダム構造となってしまい、目的とする反射性能が得られ難くなり、所期の構造色が発現し難くなる。すなわち、構造色を発現させ、歯科充填材料としての色調適合性を得易くするという観点から、前記極小値は、0.56以上、1.10以下、特に0.56以上、1.00以下であることが好ましい。
本発明者等の検討では、前記特許文献4に開示される硬化性組成物(CR)においては、頻度は極めて少ないものの各成分を混錬して組成物(CR)を調製する際の条件によっては、所期の効果を奏するものが得られないことがあること、及びこのような(効果が得られない)系について前記動径分布関数:g(r)の評価を行うと、前記条件1及び/又は2を満足しないことが確認されている。このことは、本複合材料における、前記同一粒径球状粒子群(G-PID)を構成する無機球状粒子の配列構造は、原料の混錬条件等の製造条件と相関していることを意味している。すなわち、手動混錬のように混錬条件にバラツキが生じ易い場合には、一定の確率で混練条件が十分でない場合が発生し、前記条件1又は条件2を満足せずに、目的の色調適合性が得られなくなり、製造時の歩留まりが低下してしまう。これに対し、混練機を用いて制御された条件で混練を行うと共に、脱泡処理を加えるなどして、複合材料中に気泡が含まれることを防止するなどすることにより、前記条件1及び2を確実に満足さることができるようになる。
次に、本複合材料で使用する各種原材料や製造方法等について説明する。
<重合性単量体(a)>
前記樹脂マトリックスを得るためにラジカル重合性単量体(a)が好適に使用できる。上記ラジカル重合性単量体(a)は、特に限定されず、(メタ)アクリル化合物、エポキシ類やオキセタン類等のカチオン重合性単量体等の中から適宜選択して用いることができる。たとえば、歯科用重合硬化性組成物を得るためには、(メタ)アクリル化合物を使用することが好ましい。(メタ)アクリル化合物としては、(前記特許文献4にも記載されているように、)単官能重合性単量体、多官能重合性単量体の何れであってもよく、また、分子内に酸性基や水酸基を有するものであってもよく、更に芳香族系のものであっても脂肪族系のものであってもよい。歯科用重合性硬化物用に好適に使用できる(メタ)アクリル化合物を例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。
これらの(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
重合性単量体としては、樹脂マトリックスとなる硬化体の物性(機械的特性や歯科用途では歯質に対する接着性)調整のため、一般に、複数種の重合性単量体が使用されるが、この際、重合性単量体組成物(混合物)の25℃における屈折率が1.38~1.55の範囲となるように、重合性単量体の種類及び量を設定することが、前記屈折率に関する条件を満足し易いという観点から望ましい。即ち、無機球状粒子として屈折率の調整が容易なシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物を用いる場合、その25℃における屈折率はシリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となるが、重合性単量体組成物の屈折率を1.38~1.55の範囲に設定することにより、得られる硬化体の屈折率を、おおよそ1.40~1.57の範囲に調整でき、前記条件を満足するようにすることが容易となる。なお、重合性単量体や重合性単量体の硬化体の屈折率は、25℃にてアッベ屈折率計を用いて求めることができる。
<無機粒子(b)>
本複合材料において樹脂マトリックス中に分散する無機粒子(b)は、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を含んでなる。
<同一粒径球状粒子群:G-PID>
同一粒径球状粒子群:G-PIDとは、100nm以上、1000nm以下(100~1000nm)の範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体を構成する個々の無機球状粒子は、実質的に同一物質で構成されると共に、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、前記集合体を意味する。
ここでいう無機球状粒子の平均一次粒子径とは、走査型電子顕微鏡によりG-PIDの写真を撮影し、その写真の単位視野内に観察される粒子の30個以上を選択し、それぞれの一次粒子径(最大径)を求めた平均値を意味する。また、球状とは、略球状であればよく、必ずしも完全な真球である必要はない。走査型電子顕微鏡でG-PIDの写真を撮り、その単位視野内にあるそれぞれの粒子(30個以上)について最大径を測定し、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した平均均斉度が0.6以上、より好ましくは0.8以上のものであればよい。
本複合材料では、構成無機粒子が球状であり且つ、粒子径分布(個数基準粒度分布)が狭い無機粒子の集合体であるG-PIDの各構成粒子が特定の短距離秩序構造を有して樹脂マトリックス中に分散することにより、ブラッグ条件に則って回折干渉が起こり、特定波長の光が強調されて、平均一次粒子径に応じた色調の着色光が生じる(構造色が発現する)。すなわち、構造色が発現するためには、G-PIDを構成する無機球状粒子の90%(個数ベース)以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する必要がある。また、青色~黄色~赤色系の広い範囲内の特定の色調を有する構造色を発現するために、G-PIDを構成する無機球状粒子の平均一次粒子径は、100~1000nmの範囲内にある必要がある。平均一次粒子径が100nmよりも小さい球状粒子を用いた場合には可視光の干渉現象が生じ難く、構造色も発現し難い。一方、1000nmよりも大きい球状粒子を用いた場合は、光の干渉現象の発現は期待できるが、本複合材料を製造する際に、球状粒子の沈降が生じたり、研磨性が低下したりするため、好ましくない。
平均一次粒子径が230~800nmである場合には、黄色~赤色系の構造色(着色光)が発現し易く、平均一次粒子径が150nm~230nm未満である場合には青色系の構造色(着色光)が発現し易い。
天然歯牙の修復治療として好ましい黄色~赤色系の構造色(着色光)を発現するという理由からG-PIDの平均一次粒子径は、230~800nmが好適であり、240~500nmがより好適であり、260~350nmが特に好適である。平均一次粒子径が230nm~260nmの範囲のG-PIDを用いた場合、得られる着色光は黄色系であり、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるB系(赤黄色)の範疇にある歯牙の修復に有用である。また平均一次粒子径が260nm~350nmの範囲のG-PIDを用いた場合、得られる着色光は赤色系であり、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇にある歯牙の修復に有用である。象牙質の色相はこうした赤色系のものが多いため、平均一次粒子径260nm~350nmの範囲のG-PIDのみを用いる態様において、多様な色調の修復歯牙に対して、幅広く適合性が良くなり最も好ましい。一方、粒径150nm~230nm未満の範囲のG-PIDのみを用いた場合、上記したように、得られる着色光は青色系であり、エナメル質から象牙質に渡って形成された窩洞に対しては、歯質との色調適合性が不良となりやすいが、エナメル質の修復に有用で、特に切端部の修復に有用である。
本複合材料において樹脂マトリックス中に分散する無機粒子に含まれるG-PIDは1種であっても複数種であってもよい。含まれるG-PIDの数:aは、1~5であることが好ましく、1~3であることが特に好ましく、1又は2であることが最も好ましい。
但し、無機粒子にG-PIDが複数種含まれる場合には、各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっている必要がある。すなわち、前記無機粒子に含まれるG-PIDの数を“a”(たとえば“3”)としたときの各G-PIDを、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aまでの自然数である。)で表したときに、各G-PID(たとえば、a=3のときにおけるG-PID、G-PID及びG-PID)における個々の粒子を構成する物質は互いに異なっていてもよいが、当該場合における各G-PIDの平均一次粒子径をそれぞれdとすると、各dは、それぞれ互いに25nm以上異なっている(たとえば、a=3のとき、|d-d|≧25nm、|d-d|≧25nm、で且つ当然のことながら|d-d|≧25nmである)必要がある。この条件を満足することにより、たとえば、各G-PIDが、20個程度を越えないような少数の無機球状粒子が非常にゆるい結合力で凝集した凝集体のような形で分散することなどによって、G-PIDごとに構造色を発現できる短距離秩序構造をもって分散できるようになったことによるものと思われるが、結果として各G-PIDごとに(平均一次粒子径に応じた)特有の構造色を発現することが可能となる。これに対し、この条件を満足しない場合には、無機球状粒子全体の粒子径分布がブロードとなり、恐らく、各G-PIDを構成する無機球状粒子が相互置換して分散してしまい、前記個数基準粒度分布の条件を満足しない単一の無機球状粒子の集合体を用いた時と同様の現象が起こることによるものと思われるが、構造色を発現し難くなってしまう。
本複合材料において複数のG-PIDを用いる場合、各G-PIDの平均一次粒子径dは、それぞれ互いに30nm以上、特に40nm以上異なっている(すなわちdとdm―1との差は30nm以上、特に40nm以上である)ことが好ましい。また、dとdm―1との差は、100nm以下、特に60nm以下であることが好ましい。
なお、本複合材料に複数のG-PIDが含まれる場合、各G-PIDは、極めてシャープな粒度度分布を有し、且つ平均一次粒子径には上記したような差があるため、各G-PIDの粒度分布は重なり難く、一部重なった場合でも各G-PIDの粒度分布を確認することが可能である。すなわち、本発明に含まれる無機粒子の粒度分布は、各G-PIDの粒度分布は、100nm~1000nmの範囲では、本複合材料に含まれるG-PIDの数と同数の独立したピークを有するものとなり、各ピークの一部が重なった場合でも波形処理を行うことにより、各G-PIDの平均一次粒子径及び個数基準粒度分布を確認することができる。また、本複合材料に含まれる無機粒子の粒度分布は、たとえば、本発明の複合材料内部表面の電子顕微鏡写真を画像処理することなどにより確認することができる。
<無機球状粒子>
G-PIDを構成する無機球状粒子としては、G-PIDを構成するための前記条件を満足するものであれば、その材質は特に限定されない。好適に使用できる材質を例示すれば、非晶質シリカ、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子(シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニアなど)、石英、アルミナ、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化イッテルビウム、ジルコニア、チタニア、コロイダルシリカ等のからなるものを挙げることができる。これらの中でも屈折率の調整が容易であることから、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物からなる粒子を使用することが好ましい。
ここで、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子とは、シリカとチタン族元素(周期律表第4族元素)酸化物との複合酸化物を意味し、シリカ分の含有量に応じてその25℃における屈折率を1.45~1.58程度の範囲で変化させることができる。シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子の具体例としては、シリカ・チタニア、シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア・ジルコニア等を挙げることができるが、これらの中でも、高いX線不透過性も付与できるという理由から、シリカ・ジルコニアを用いることが好ましい。シリカ・ジルコニアにおける複合比は特に制限されないが、十分なX線不透過性を付与することと、屈折率を後述する好適な範囲にする観点から、シリカの含有量が70~95モル%であり、チタン族元素酸化物の含有量が5~30モル%であるものが好ましい。
なお、これらシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子には、少量であれば、シリカ及びチタン族元素酸化物以外の金属酸化物の複合も許容される。具体的には、酸化ナトリウム、酸化リチウム等のアルカリ金属酸化物を10モル%以内で含有させても良い。
こうしたシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子の製造方法は特に限定されないが、球状フィラーを得るためには、例えば、加水分解可能な有機ケイ素化合物と加水分解可能な有機チタン族金属化合物とを含んだ混合溶液を、アルカリ性溶媒中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させる、いわゆるゾルゲル法が好適に採用される。
これらのシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物からなる無機球状粒子は、シランカップリング剤により表面処理されても良い。シランカップリング剤による表面処理により、後述するような有機無機複合フィラーとしたときに当該有機無機複合フィラーの有機樹脂マトリックスとの界面強度に優れたものになる。代表的なシランカップリング剤としては、例えばγ-メタクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等の有機ケイ素化合物が挙げられる。これらシランカップリング剤の表面処理量に特に制限はなく、得られる硬化性組成物の硬化体の機械的物性等を予め実験で確認したうえで最適値を決定すればよいが、好適な範囲を例示すれば、無機球状粒子100質量部に対して0.1~15質量部の範囲である。
<マトリックス材料の屈折率と無機球状粒子の屈折率との関係>
本複合材料においては、マトリックス材料、具体的には前記樹脂マトリックスの25℃における屈折率をn(MX)とし、前記各G-PIDを構成する無機球状粒子の25℃における屈折率をn(G-PIDm)としたときに、何れのn(G-PIDm)に対しても下記関係が成り立つ必要がある。
(MX)<n(G-PIDm)
上記関係を満足しない場合には、構造色が発現しても、樹脂マトリックス中、延いては樹脂以外の材料からなるマトリックス中で短波長の光が散乱されやすくなり、発現した構造色が確認し難くなる。なお、本複合材料において、n(MX)<n(G-PIDm)の関係を満足するマトリックスであれば樹脂マトリックスに限られず、ガラスのような無機マトリックスであっても原理的には同様の構造色を発現し、同様の効果が得られると考えられることは前記した通りであり、このような条件を満足する、樹脂以外のマトリックス材料を用いた(本複合材料以外の)複合材料(以下、「非レジン系本複合材料」ともいう。)も本発明のキットにおける歯科切削加工用ブランク(A)の被切削加工部の材料として使用することもできる。
このような非レジン系本複合材料及び本複合材料においては、構造色の視認性や鮮明さ及び歯科切削加工用ブランクとして使用したときの色調適合性の観点から、n(G-PIDm)とn(MX)との差であるΔn(=n(G-PIDm) - n(MX))は、0.001以上、0.1以下であることが好ましく、0.002以上、0.1以下であることが更に好ましく、0.005以上、0.05以下であることが最も好ましい。
前記したように、重合性単量体(混合物であってもよい)の25℃における屈折率を1.38~1.55の範囲)に設定することにより、樹脂マトリックスとなる硬化体の25℃における屈折率(n(MX))を、1.40~1.57の範囲とすることができる。また、前記したように、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物は、シリカの含有量を変化させることにより、その25℃における屈折率(n(G-PIDm))を1.45~1.58程度の範囲で変化させることができる。したがって、たとえばこれらの関係を利用することにより、容易にΔnを前記好適な範囲とすることができる。
<超微細粒子群:G-SFP>
超微細粒子群(G-SFP)は、平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなる粒子集合体であり、本複合材料の前駆体(硬化させて歯科切削加工用ブランクを得るための材料)となる硬化性組成物の粘度を調整する目的、或いは本歯科切削加工用ブランクのコントラスト比を調整する目的などで配合する。ただし、G-SFPの平均一次粒子径は、無機粒子に配合される前記G-PIDの中で最も平均一次粒子径が小さいG-PIDの平均一次粒子径(d)よりも25nm以上小さい必要がある。このような条件を満足しない場合には無機球状粒子の分散状態に悪影響を与え、構造色が発現し難くなる。なお、G-SFPを構成する無機粒子の形状は特に限定されず、不定形であっても球状であってもよい。また、平均一次粒子径の下限は通常、2nmである。
構造色発現に対する影響が少ないという理由から、G-SFPの平均一次粒子径は、3nm以上75nm以下、特に5nm以上50nm以下であることが好ましい。また、同様の理由から、G-PIDの平均一次粒子径(d)よりも30nm以上、特に40nm以上小さいことが好ましい。
G-SFPを構成する無機粒子の材質としては、前記無機球状粒子と同様のものが特に制限なく使用できる。また、前記無機球状粒子と同様にシランカップリング剤による表面処理を行うこともできる。好適な態様も、平均一次粒子径及び形状を除いて、基本的には、前記無機球状粒子と同様である。
<本複合材料と本重合硬化性組成物との関係>
本複合材料は、その原料となる本重合硬化性組成物を重合硬化させることによって好適に製造することができる。また、本複合材料における各成分の配合割合は、本重合硬化性組成物の組成によってほぼ一義的に決定される。さらに、本複合材料における無機球状粒子の分散状態(分散構造)も、硬化直前の本重合硬化性組成物における無機球状粒子の分散状態(分散構造)が、実質的にそのまま維持されるものと思われる。すなわち、硬化時に起こる重合収縮などの影響を受ける可能性はあるものの、その影響は微小であり、前記条件1及び2を満足するか否かが異なるほどの影響は与えない。
〔1-3.本重合硬化性組成物について〕
本重合硬化性組成物は、前記重合性単量体(a)、特に25℃における屈折率が1.40~1.57となる硬化体を与える重合性単量体、100~1000nmの範囲の所定の長さの平均一次粒子径を有する球状粒子群からなり、当該球状粒子群を構成する個々の粒子は、実質的に同一物質で構成されると共に当該個々の粒子の90%(個数)以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と、必要に応じて配合される、100nm未満で且つ前記1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)の平均1次粒子径の中で最も小さい平均1次粒子径よりも25nm以上小さい平均一次粒子径を有する無機粒子からなる“超微細粒子群”(G-SFP)と、を含んでなる無機粒子(b)、及び重合開始剤(c)を含有し、前記“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を構成する球状粒子の屈折率が、前記硬化体の25℃における屈折率よりも大きい。また、これを重合硬化させることによって、光の入射角に依存しない所定の色調の構造色を発色する硬化体、すなわち本複合材料、を与えるものである。
<重合性単量体(a)成分及び無機粒子(b)成分>
本重合硬化性組成物における前記重合性単量体(a)は、本複合材料の樹脂マトリックスの原料として説明した重合性単量体(a)と同じものである。また、前記G-PID及びそれを構成する無機球状粒子も本複合材料の構成成分として説明したものと同じである。
前記同一粒径球状粒子群:G-PIDの配合量は、通常、含まれる全G-PIDの総量(すなわち無機球状粒子の総量)で、重合性単量体(a)成分100質量部に対して、10質量部~1500質量部である。本複合材料が適度な透明性を有し、構造色の発現効果も高いという理由から、G-PIDの前記配合量は、重合性単量体(a)成分100質量部に対して50質量部~1500質量部であることが好適であり、100質量部~1500質量部であることが特に好適である。なお、複数種のG-PIDを含む場合の各G-PIDの配合量は、各G-PIDによる構造色の色調と、歯科切削加工用ブランクにおいて所望する色調とを勘案して、総量が上記範囲内となる量で適宜配分すればよい。
前記超微細粒子群:G-SFPの配合量は、本重合硬化性組成物の粘度および本歯科切削加工用ブランクのコントラスト比などを勘案して適宜決定すればよい。通常の添加量は、重合性単量体(a)成分100質量部に対して、0.1~50質量部であり、好適には、0.2~30質量部である。
<重合開始剤(c)>
本重合硬化性組成物における前記重合開始剤は、前記重合性単量体を重合硬化させる機能を有するものであれば特に限定されない。硬化性組成物の重合方法には、紫外線、可視光線等の光エネルギーによる反応(以下、光重合という)、過酸化物と促進剤との化学反応によるもの、熱エネルギーによるもの(以下、熱重合という)等があり、いずれの方法であっても良い。光や熱などの外部から与えるエネルギーで重合のタイミングを任意に選択でき、操作が簡便である点から、光重合や熱重合が好ましく、光照射による重合ムラなどが生じ難く、均一に重合反応を行うことができるという理由から熱重合が特に好ましい。
光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、ベンゾフェノン、4,4'-ジメチルベンゾフェノン、4-メタクリロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、ジアセチル、2,3-ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナントラキノン、9,10-アントラキノンなどのα-ジケトン類、2,4-ジエトキシチオキサンソン、2-クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイドなどのビスアシルホスフィンオキサイド類等が使用できる。
なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、N-メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン類、ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類、2-メルカプトベンゾオキサゾール、1-デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物などを挙げることができる。
更に、上記光重合開始剤、還元性化合物に加えて光酸発生剤を加えて用いる例がしばしば見られる。このような光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、およびハロメチル置換-S-トリアジン誘導体、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられる。
また、熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p-フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。また、重合方法の異なる複数の開始剤を組み合わせることも可能である。
重合開始剤の配合量は目的に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して通常0.01~10質量部の割合であり、より好ましくは0.1~5質量部の割合で使用される。
熱重合開始剤を用いる場合の重合温度については、60~200℃が好ましく、70~150℃がより好ましく、80~130℃がさらに好ましい。60℃以下の温度で重合を行った場合、重合反応が不十分となり、歯科切削加工用ブランクの強度が弱くなり、クラックの発生が生じる。一方、200℃以上の温度で重合を行った場合、本複合材料が製造時に高温にさらされることにより樹脂成分の変色が生じ、本発明の効果である天然歯牙との色調適合性が得難くなる。
<本重合硬化性組成物における好ましい態様>
本重合硬化性組成物においては、前記短距離秩序構造を確実に得ることができるという理由から、前記1又は複数の各“同一粒径球状粒子群”(G-PID)の少なくとも一部は、1種の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と、25℃における屈折率が当該1種の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を構成する無機球状粒子の屈折率よりも小さい樹脂とを含んでなり、前記1種の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)以外の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を含まない有機―無機複合フィラー(Organic-Inorganic Hybrid Filler)、別言すれば“単一のG-PIDしか含まない有機―無機複合フィラー”として配合されることが好ましい。
ここで、有機-無機複合フィラーとは、(有機)樹脂マトリックス中に無機フィラーが分散した複合体から成る紛体又は、無機フィラーの一次粒子どうしが(有機)樹脂で結着された凝集体からなるフィラーを意味する。
前記の好ましい態様は、たとえば、平均一次粒子径が異なる3種類のG-IDP、すなわちG-PID、G-PID及びG-PIDを含む場合、そのうちの少なくとも1種の全部または一部は“単一のG-PIDしか含まない有機―無機複合フィラー”として配合するというものである。仮にG-PIDの全部をG-PIDのみを含む有機-無機複合フィラー(複合フィラー1)として本重合硬化性組成物に配合した場合には、複合フィラー1内においては、G-PIDのみしか含まれていないため、G-PIDの構造色を発現するような前記短距離秩序構造が実現されているので、本重合硬化性組成物を硬化させた本複合材料においても確実にG-PIDの構造色が発現する。すなわち、G-PIDを複合フィラー化せずに配合した場合には、同時に(複合化されずに)配合されたG-PID及びG-PIDと混錬されるため、ある程度の割合で、(G-PIDの構成粒子とG-PIDの構成粒子が相互置換して)G-PIDを構成する或る無機球状粒子の最近接粒子がG-PIDを構成する無機状粒子となり、当該或る無機球状粒子を中心とする領域においては、前記短距離秩序構造が破壊されることになるものと思われる。これに対し、G-PIDを全て複合フィラー1として配合した場合には上記のような粒子の相互置換は起こらず、前記短距離秩序構造が破壊されることはないので、構造色発現に関与しない無機球状粒子の割合を極力小さくすることができ、硬化後の本複合材料においても確実にG-PIDの構造色を発現することができる。同様に、G-PID及び/又はG-PIDをG-PIDのみを含む有機-無機複合フィラー(複合フィラー2)及び/又はG-PIDのみを含む有機-無機複合フィラー(複合フィラー3)として配合することにより、これらの構造色も確実に発現させることが可能となる。
このような効果が期待でき、さらに本重合硬化性組成物の粘度を調整し易いという観点から、各G-PIDの10%~90%、特に20%~80%、更には30%~70%は、“単一のG-PIDしか含まない有機―無機複合フィラー”で配合することが好ましい。
なお、G-PIDを“単一のG-PIDしか含まない有機―無機複合フィラー”以外の形態で配合する場合には、紛体(無機球状粒子集合体としてのG-PIDそのもの)の形態で配合するのが一般的であるが、複数種のG-PIDを含む有機-無機複合フィラーとして配合することも可能である。以下にこの場合も含めて有機―無機複合フィラーについて更に詳しく説明する。
<有機-無機複合フィラー>
前記したように、有機-無機複合フィラーとは、(有機)樹脂マトリックス中に無機フィラーが分散した複合体から成る紛体又は、無機フィラーの一次粒子どうしが(有機)樹脂で結着された凝集体からなるフィラーを意味する。
本重合硬化性組成物で使用する有機-無機複合フィラーでは、無機フィラーとして無機球状粒子を使用し、(有機)樹脂マトリックスを構成する樹脂として、25℃における屈折率が前記無機球状粒子の屈折率よりも小さい樹脂が使用される。当該樹脂は、このような条件を満足するものであれば特に限定されないが、本複合材料の樹脂マトリックスを製造する際に用いられる前記重合性単量体の硬化体であることが好ましい。このとき、本重合硬化性組成物の重合性単量体成分とまったく同じ組成のものである必要はないが、25℃における屈折率が当該重合性単量体成分の25℃における屈折率と同等となるものを使用することが好ましい。また、前記樹脂(Resin)の25℃における屈折率をn(R)とし、前記無機球状粒子の25℃における屈折率をn(F)としたときに、何れの有機-無機複合フィラーにおいても、
(R)<n(F)
の関係が成り立つ必要がある。そして、この関係は、有機-無機複合フィラーが25℃における屈折率が異なる無機球状粒子を含む場合には、全ての無機球状粒子に対して成り立つ必要がある。前記n(F)とn(R)との差であるΔn(=n(F) - n(R))は、0.001以上0.01以下であることが好ましく、0.001以上、0.005以下であることが更に好ましい。
無機球状粒子の有機-無機複合フィラーへの含有量は、30質量%以上95質量%以下が好ましい。有機-無機複合フィラーへの含有量が30質量%以上であると、硬化性組成物の硬化体の着色光が良好に発現するようになり、機械的強度も十分に高めることができる。また、無機球状粒子を、95質量%を越えて有機無機複合フィラー中に含有させることは操作上困難であり、均質なものが得難くなる。無機球状粒子の有機-無機複合フィラーへのより好適な含有量は、40~90質量%である。
有機-無機複合フィラーは、無機球状粒子、重合性単量体、及び重合開始剤の各成分の所定量を混合し、加熱あるいは光照射等の方法で重合させた後、粉砕するという、一般的な製造方法に従って製造することができる。このような製法によれば樹脂マトリックスに無機球状粒子が分散した複合体から成る不定形の有機-無機複合フィラーをえることができる。
また、国際公開第2011/115007号パンフレットや国際公開第2013/039169号パンフレットに記載されている方法、すなわち、無機球状粒子の凝集体から成る凝集粒子を、重合性単量体、重合開始剤及び有機溶媒を含む液状組成物に浸漬した後、有機溶媒を除去し、重合性単量体を加熱あるいは光照射等の方法で重合硬化させる方法によって製造することもできる。このような方法により、無機球状粒子の一次粒子が凝集した状態を実質的に保ったまま、樹脂が各一次粒子の表面少なくとも一部を覆うと共に、各一次粒子を相互に結合させ、外部に連通する微細な孔を多数有する多孔質性の有機-無機複合フィラーを得ることができる。
有機無機複合フィラーの平均粒子径は、特に制限されるものではないが、硬化体の機械的強度や硬化性ペーストの操作性を良好にする観点から、2~100μmであることが好ましく、5~50μm、特に5~30μmであることが好ましい。
有機-無機複合フィラーには、その効果を阻害しない範囲で(通常、有機無機複合フィラー100質量部に対して、通常0.0001~5質量部となる量で)、顔料、重合禁止剤、蛍光増白剤等を添加することができる。また、有機-無機複合フィラーは、洗浄やシランカップリング剤等による表面処理がなされていてもよい。
本重合硬化性組成物における有機―無機複合フィラーの配合量は、本重合硬化性組成物中に含まれる、有機―無機複合フィラー化されていない同一粒径球状粒子群:G-PIDの配合量を勘案し、含まれる全G-PIDの総量(すなわち無機球状粒子の総量)が、前記した量となるように、有機―無機複合フィラー中に含まれる無機球状粒子の量から換算して決定すればよい。
<その他の添加剤>
本重合硬化性組成物には、その効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤を配合することができる。
本重合硬化性組成物から得られる本複合材料は、前述したとおり、顔料などの着色物質を用いなくても、構造色を発現する。したがって、本重合硬化性組成物に、時間と共に変色する虞のある顔料を配合する必要は特にはない。しかし、顔料の配合自体を否定するものではなく、球状フィラーの干渉による着色光の妨げにならない程度の顔料は配合しても構わない。具体的には、重合性単量体100質量部に対して0.0005~0.5質量部程度、好ましくは0.001~0.3質量部程度の顔料であれば配合しても構わない。
〔1-4.本複合材料及び構造色系レジンブランク、の製造方法〕
次に、本複合材料の製造方法及び構造色系レジンブランクの製造方法について説明する。
本発明の本複合材料の製造方法は、構造色系レジンブランクを製造する方法の一工程でもある。すなわち、所定の形状の被切削加工部を有する構造色系レジンブランクの製造方法は、25℃における屈折率が1.40~1.57となる硬化体を与える重合性単量体(a)、前記重合性単量体(a)の硬化体の25℃における屈折率よりも大きい屈折率を有する材料で構成され、100~1000nmの範囲の所定の長さの平均一次粒子径を有する球状粒子群からなり、当該球状粒子群を構成する個々の粒子は、実質的に同一物質で構成されると共に当該個々の粒子の90%(個数)以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と、100nm未満で且つ前記1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)の平均1次粒子径の中で最も小さい平均1次粒子径よりも25nm以上小さい平均一次粒子径を有する無機粒子からなる“超微細粒子群”(G-SFP)と、を含んでなる無機粒子(b)、及び重合開始剤(c)を含有し、少なくとも前記重合性単量体(a)及び前記無機粒子(b)を混錬及び脱泡処理することにより、当該重合硬化性組成物の硬化体において、全“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を構成する無機球状粒子が前記条件1及び条件2を満たす短距離秩序構造を有するように、前記無機粒子(b)が前記重合性単量体(a)中に分散されている、重合硬化性組成物を準備する工程と、前記重合硬化性組成物を注型重合することにより前記被切削加工部の全部又は一部を構成する複合材料のバルク体を得る工程と、を含んでなる。
上記方法の最初の工程で準備される重合硬化性組成物の組成は本重合硬化性組成物と実質的に同じである。そして、混錬及び脱泡処理することにより、その硬化体における無機球状粒子が前記条件1及び条件2を満たす短距離秩序構造を有するように、前記無機粒子(b)が前記重合性単量体(a)中に分散されている。混錬方法については、短時間で上記分散条件を満たすようにすることができ、且つスケールアップ製造が容易であるという理由から、遊星運動型撹拌機等の混練装置を用いて混練することが好ましい。また、脱泡処理は、粘度の高い組成物中からも短時間で気泡を除去可能であるという理由から、減圧下で脱泡する方法を採用することが好ましい。
当該方法では、前記混錬及び脱泡処理は、該工程で準備される重合硬化性組成物(本重合硬化性組成物)について、当該混合物を硬化させて得られる硬化体における前記無機粒子(b)の分散状態が、前記条件1及び条件2を満足することが確認された混練及び脱泡処理条件を採用して行う必要がある。
このような条件は、(1)予め、別途、実際に製造する本重合硬化性組成物と同一又は実質的に同一の組成を有する本重合硬化性組成物を用いて、混錬条件や脱泡処理条件を複数変化させて調製を行い、各条件で調製された本重合硬化性組成物の硬化体における前記動径動径分布関数:g(r)を調べることにより、前記条件1及び条件2を満足する条件を決定し、決定された当該条件と同一の条件を採用するか、又は(2)混練及び脱泡処理の途中及び/又は終了後に得られた組成物の一部をサンプリングし、サンプリングされた組成物の硬化体中における前記無機粒子(b)の分散状態が前記条件1及び条件2を満足するか否かを確認し、これら条件を満足するまで混錬及び/又は脱泡処理を継続することにより実現することができる。
たとえば、前記(1)の方法を採用する場合には、遊星運動型撹拌機(プラネタリーミキサー)を用いた混錬法を採用し、さらに実際に使用する装置を用い、実際に製造する本重合硬化性組成物と同一組成となるように各原料物質を仕込んで、回転速度、混錬時間、混錬後の脱法条件などの各種条件を夫々変えた模擬混錬を複数回行い、各模擬混錬で得られた本重合性硬化性組成物の硬化体について前記動径分布関数g(r)調べ、前記条件1及び2を満足する硬化体を与える条件を決定し、当該条件を採用するようにすればよい。このような(1)の方法は、予め定めた所定の混錬条件を設定するだけで、確実に目的の本重合硬化性組成物を製造することができるので、毎回同じ(同一組成且つ同一量の)本重合硬化性組成物を製造する際に、毎回条件を変える必要がなく、また過剰混錬(不必要に長時間の混錬)を防止できるという点で、作業の効率化を図ることができる。
また、前記(2)の方法は、組成や量が毎回異なる本重合硬化性組成物を製造する際に、特に好ましい方法であるといえる。
前記本重合硬化性組成物は、注型重合することにより前記被切削加工部の全部又は一部を構成する複合材料のバルク体とされる。ここで、注型重合とは、所定形状の成形型に本重合硬化性組成物を充填した後に重合硬化を行うことを意味する。成形型の容積は目的とする形状に応じて適宜選択すればよい。成形型の形状についても同様に、角柱、円柱、角板、円板状、その他の不規則形状であってもよく、特に制限はない。重合の際は必要に応じて、窒素等の不活性ガスによる加圧を行っても良い。被切削加工部と同一又は実質的に同一の形状を有した成形型を準備し、この内部に本重合硬化性組成物を充填し、重合硬化して、得られたバルク体をそのまま被切削加工部としてもよいし、これより大きいサイズを有する型に充填してバルク体を製造し、これを抜き打ち加工や切削加工することにより被切削加工部としてもよい。充填の方法は公知の技術を用いることができ特に制限されないが、たとえば射出や押し出し、プレス等によって成形型に充填を行う事ができる。なお、重点に際しては、単一の本重合硬化性組成物を充填してもよいし、互いに組成の異なる複数種の本重合硬化性組成物の積層体を構成する様に充填してもよい。さらに、本重合硬化性組成物と、それ以外の、レジン系材料の原料となる重合硬化性組成物と、が積層されるようにして充填してもよい。
成形型の材質としては、金属、セラミックス、樹脂などを目的に応じて使用する事ができる。実施する重合温度よりも耐熱性が高い材質を用いる事が好ましい。例えば、SUS、高速度工具鋼、アルミニウム合金、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)などが挙げられる。
また、得られたバルク体に対して、必要に応じて、熱処理、研磨、切削、保持具の取り付け、印字等の後工程を行う事ができる。さらに、必要に応じて歯科切削加工用ブランクを切削加工機に固定するための保持ピンを接合してもよい。保持ピンの形状は、切削加工機に歯科切削加工用ブランクを固定できるような形状のものであれば特に制限はなく、歯科切削加工用ブランクの形状と加工機の要求によっては具備されなくともよい。保持ピンの材質は、ステンレス、真鍮、アルミニウムなどが使用される。保持ピンの被切削加工部(歯科切削加工用ブランク本体)への固定方法は前記の接着によらず、はめ込み、ネジ止め等の方法でよく、上記接着方法についても特に制限はなく、イソシアネート系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、アクリル系等の各種市販の接着材を使用することができる。
以上、前記歯科切削加工用ブランク(A)に関し、最も好適に使用される、被切削加工部が本複合材料で構成される「構造色系レジンブランク」について詳しく説明した。なお、被切削加工部を非レジン系本複合材料で構成する場合には、マトリックス材料を樹脂材料から、前記n(MX)<n(G-PIDm)の関係を満足するマトリックス材料に適宜変更すればよい。
次に、本発明のキットにおけるもう一方の構成材である歯科用セメント(B)について説明する。
〔2.歯科用セメント(B)について〕
歯科用セメント(B)は、(B1)(メタ)アクリル系重合性単量体、重合開始剤、及び充填材を含有してなる硬化性組成物からなると言う条件、(B2)前記硬化性組成物の硬化体からなる厚さ0.5mmの固体試料について黒背景で色差計を用いて測定される白色度が65以下であると言う条件、及び(B3)前記固体試料について色差計を用いて測定される、黒背景におる分光反射率:Yb及び白色背景における分光反射率:Ywに基づき、これらの比:Yb/Ywとして決定されるコントラスト比:Tが、0.60未満である、という条件を全て満足する必要がある。
〔2-1.条件(B1)について〕
本発明のキットで使用する前記歯科用セメント(B)は、従来の歯科用セメントと同様に、(メタ)アクリル系重合性単量体、重合開始剤、及び充填材を含有してなる硬化性組成物からなる。これら各成分としては、従来の歯科用セメントとして使用されているものが特に制限なく使用できる。なお、重合開始剤としては、化学重合開始剤及び/又は光重合開始剤が好適に使用できる。これら成分の配合量も従来の歯科用セメントと同様であり、たとえば(メタ)アクリル系重合性単量体100質量部に対して、充填材50~400重量部及び有効量の重合開始剤を含むことが一般的である。また、上記各成分以外に、保存安定性を向上させるために、重合禁止剤や酸化防止剤を配合しても良い。さらに、粘度や操作性を調節するために有機溶媒、増粘剤、連鎖移動剤等をその性能を低下させない範囲で添加することが可能である。また、歯牙、歯肉、歯冠材料の色調に合わせるため、着色剤を配合することができる。
〔2-2.条件(B1)及び(B3)について〕
本発明の本発明のキットでは、このような一般的な歯科用セメントとなる硬化性組成物の中から特定の白色度及びコントラスト比を有するものが選択されるが、着色剤を適宜配合して所望の白色度及びコントラスト比を有する様に調製された硬化性組成物を歯科用セメント(B)として使用する。
ここで、特定の白色度とは、前記硬化性組成物の硬化体からなる厚さ0.5mmの固体試料について黒背景で色差計を用いて測定される白色度が65以下であることを意味する。上記白色度Wは、色差計(たとえば、東京電色製、「TC-1800MKII」等)を用い、黒背景(マンセル表色系による明度が1の下地)下において、分光反射率を測定し、測定値に基づき下記式により算出することができる。
W=100-{(100-L+(a+(b1/2
式中、Wは白色度を、Lは、背景色黒におけるL値を、aは、背景色黒におけるa値を、bは、背景色黒におけるb値を夫々意味し、W値は大きければ大きいほど白色である。
効果の観点から、上記白色度Wは、30以上65以下であることが好ましく、35以上60以下であることがより好ましい。
また、特定のコントラスト比とは、前記固体試料について色差計を用いて測定される、黒背景におる分光反射率:Yb及び白色背景における分光反射率:Ywに基づき、これらの比:Yb/Ywとして決定されるコントラスト比:Tが、0.60未満であることを意味する。上記コントラスト比Tは、同様に、色差計(たとえば、東京電色製、「TC-1800MKII」等)を用い、黒背景(マンセル表色系による明度が1の下地)下、及び、白背景(マンセル表色系による明度が9.5の下地)下の各々において、分光反射率を測定し、背景色黒におけるY値:Yを、背景色白におけるY値:Yを除することにより算出することができる。すなわち、T=Y/Yとなる。当該コントラスト比Tは、硬化体の透明性の指標であり、Tが小さいほど透明となる。
コントラスト比Tは、0.60未満であれば、歯科切削加工用ブランク(A)が修復歯牙の色と調和することを妨げず、広範な色の被修復歯牙に対して天然歯に近い外観の修復を行うことができるという効果が得られる。効果の観点から、コントラスト比Tは0.55未満であることがより好ましい。なお、コントラスト比の下限値は特に制限されず、前述の白色度との兼ね合いから、例えば、0.10以上であることが好ましい。
前記したように、歯科用セメント(B)としては、入手可能な歯科用セメントの中からこれら条件を満足するものを選択して使用することもできる。また、これら白色度及びコントラスト比は、着色剤を配合することにより調整することができる。着色剤は、顔料であってもよく、染料であってもよい。
顔料としては、無機顔料が代表的であり、このような無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック、酸化鉄、銅クロマイトブラック、酸化クロムグリーン、クロムグリーン、バイオレット、クロムイエロー、クロム酸鉛、モリブデン酸鉛、チタン酸カドミウム、ニッケルチタンイエロー、ウルトラマリーンブルー、コバルトブルー、ビスマスバナデート、カドミウムイエロー、カドミウムレッド等を例示することができる。なお、本発明において無機顔料は、無機充填材にも該当する。また、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、ジアゾ縮合顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料等の有機顔料も使用することができる。
また、染料としては、KAYASET RED G(日本化薬)、KAYASET RED B(日本化薬)等の赤色染料;KAYASET Yellow 2G、KAYASET Yellow GN等の黄色染料;KAYASET Blue N、KAYASET Blue G、KAYASET Blue B等の青色染料;などを挙げることができる。口腔内での色調安定性を考慮すると、水溶性の染料よりも不水溶性の顔料を使用することが好ましい。
使用する着色剤の種類に応じて、その配合量を適宜調整することにより、白色度及びコントラスト比を制御することができる。具体的には、前記白色度Wを高くするためには白顔料の配合量を増やし、赤色、黄色、青色等の配合量、特に青色の配合量を減らせばよい。また、コントラスト比Tを高くするためには白顔料の配合量を増やせばよい。
〔2-3.好ましい態様について〕
セメント材の包装形態は、保存安定性を損なわないことを条件に、適宜決定することができ、化学重合開始剤を配合する場合は、2ペーストに分包することが好ましい。例えば、有機過酸化物/アミンの組合せによる化学重合開始剤を配合した場合、ラジカル重合性モノマー、無機充填材、有機過酸化物を主成分とするペーストと、ラジカル重合性モノマー、無機充填材、アミンを主成分とするペーストを別個に包装し、使用時に混合することも可能である。
〔3.本発明のキットの使用方法について〕
本発明の歯科保存修復用キットは、たとえば、次のような方法により好適に使用することができる。すなわち、先ず、本発明のキットにおける歯科切削加工用ブランク(A)を用いてCAD/CAMシステム等により作製された補綴物(以下、「補綴物」と略する)を準備し、これを被着体とする。次に当該被着物の接着面の表面に、歯科用前処理材を、スポンジ、ブラシ、ハケ、ヘラ、筆、あるいはローラー等で塗布、または噴霧する。このとき、前処理材は、被着体の表面に、複数回塗っても良いし、また、前処理材の塗布に先立って、被着体の表面をエッチング処理や、清掃処理等しておいても良い。前処理材が溶媒を含む場合は、被着体の表面に、塗布または噴霧した後、好ましくは余剰な溶媒を蒸発させるために乾燥させるのが好ましい。乾燥の方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、あるいは、それらを組み合わせた方法が挙げられる。口腔内で乾燥させることを考慮すると、乾燥空気を出す気銃を用いて送風乾燥することが好ましい。その後、このような処理を行った被着体の接着面の表面に形成された前処理材層の上に本発明のキットにおける歯科用セメント(B)をヘラ等で塗布し、他方の被着体と接合した後に当該歯科用セメントに含有されている重合開始剤に対応した重合方式で硬化させる。このとき、セメント材が、複数の包装に分包されている場合は、各分包をそれぞれ必要量採取し混合してから用いればよい。なお、他方の被着体が歯質である場合には、歯質と補綴物の各表面に、それぞれの被着体に応じた親和性化合物を含有した前処理材で処理し、次いで、補綴物の表面に形成された前処理材層上に、セメント材を盛り付けた後、該補綴物表面のセメント材の盛り付けを、歯質表面の前処理材層上に圧接する態様で接着することが好ましい。
以下、先ず、本発明のキットで用いる歯科切削加工用ブランク(A)について、実施例により具体的に説明する。
[1.歯科切削加工用ブランク(A)の実施例及び比較例]
実施例及び比較例の歯科切削加工用ブランクは何れも、重合性単量体、無機粒子及び重合開始剤を含有する硬化性組成物を硬化させることによって得た。まず、実施例及び比較例で(歯科切削加工用ブランクの前駆体として用いた)硬化性組成物で使用した各成分について説明する。
<1-1.重合性単量体>
表1に示す組成の重合性単量体混合物であるM1及びM2を使用した。なお、表の重合性単量体欄の略号は、夫々以下の化合物を表し、略号後の括弧内の数字は使用した質量部を表す。
・UDMA1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・bis-GMA2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
・D2.6-E:2,2-ビス(4 -(メタクリロキシエトキシ)フェニル)プロパン。
また、M1及びM2の粘度は、E型粘度計(東京精機:VISCONIC ELD)を用いて25℃の恒温室にて測定した。
さらに硬化前(M1又はM2)の屈折率及び硬化後(硬化体)の屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて25℃の恒温室にて測定した。このとき、硬化体試料は、夫々100質量部のM1又はM2に対して(光重合開始剤としての)カンファーキノン(CQ)0.2質量%、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMBE)0.3質量%及びヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)0.15質量%を添加して均一に混合したものを、7mmφ×0.5mmの貫通した孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した後に、光量500mW/cmのハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒間光照射し硬化させてから型から取り出すことにより作成した。なお、硬化体試料をアッベ屈折率計にセットする際に、硬化体試料と測定面を密着させる目的で、試料を溶解せず、かつ試料よりも屈折率の高い溶媒(ブロモナフタレン)を試料に滴下した。
Figure 0007321456000001
<1-2.無機粒子>
1-2-1.同一粒径球状粒子群(G-PID)
G-PIDとしては、表2に示すG-PID 1~G-PID 11を使用した。なお、これら同一粒径球状粒子群は、特開昭58-110414号公報、特開昭58-156524号公報等に記載された方法(いわゆるゾルゲル法)にしたがって調製した。具体的には、先ず、加水分解可能な有機ケイ素化合物(テトラエチルシリケートなど)と加水分解可能な有機チタン族金属化合物(テトラブチルジルコネートやテトラブチルチタネートなど)とを、表2の組成欄に示すような組成となるように含んだ混合溶液を、アンモニア水を導入したアンモニア性アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなど)溶液中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させた。次いで析出物を分離後、乾燥し、必要に応じて粉砕してから、焼成し、該焼成物を得た。
次いで、得られた焼成物100質量部に対し、γ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン4質量部とn-プロピルアミン3質量部を、塩化メチレン500質量部中で撹拌混合し、エバポレーターで塩化メチレンを除去した後、90℃で加熱乾燥を行い、同一粒径球状粒子群の表面処理物とした。
また、表2における平均粒子径(無機球状粒子については平均一次粒子径を意味する。)、±5%内粒子割合〔個数基準粒度分布において平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する粒子数の全粒子数に占める割合(%)を意味する。〕、平均斉度及び屈折率は、次のようにして測定した。
(1)平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)および一次粒子径(最大径)を測定し、測定値に基づき下記式により数平均一次粒子径を算出した。
Figure 0007321456000002
(2)±5%内粒子割合〔個数基準粒度分布において平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する粒子数の全粒子数に占める割合(%)〕
上記写真の単位視野内における全粒子(30個以上)のうち、上記で求めた平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲外の一次粒子径(最大径)を有する粒子の数を計測し、その値を上記全粒子の数から減じて、上記写真の単位視野内における平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲内の粒子数を求め、下記式:
±5%内粒子割合(%)=[(走査型電子顕微鏡写真の単位視野内における平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲内の粒子数)/(走査型電子顕微鏡写真の単位視野内における全粒子数)]×100
に従って算出した。
(3)平均均斉度
走査型電子顕微鏡で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される同一粒径球状粒子群(G-PID)の粒子について、その数(n:30以上)、粒子の最大径を長径(Li)、該長径に直交する方向の径を短径(Bi)を求め、下記式により算出した。
Figure 0007321456000003
(4)屈折率
アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて液浸法によって測定した。すなわち、25℃の恒温室において、100mlサンプルビン中、同一粒径球状粒子群(G-PID)を無水トルエン50ml中に分散させる。この分散液をスターラーで攪拌しながら1-ブロモトルエンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率を測定し、得られた値を同一粒径球状粒子群(G-PID)の屈折率とした。
Figure 0007321456000004
1-2-2.有機-無機複合フィラー(CF1)の製造]
表2に示す同一粒径球状粒子群(G-PID5)100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミル(日本コークス工業社製)を用いてこれらの水分散液を得た。
一方、4g(0.016mol)のγ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと0.003gの酢酸とを80gの水に加え、1時間30分撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記同一粒径粒子群分散液に添加し、均一になるまで混合した。その後、分散液を軽く混合しながら、高速で回転するディスク上に供給して噴霧乾燥法により造粒した。
噴霧乾燥は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機TSR-2W(坂本技研社製)を用いて行った。ディスクの回転速度は10000rpm、乾燥雰囲気空気の温度は200℃であった。その後、噴霧乾燥により造粒されて得られた粉体を60℃、18時間真空乾燥し、略球形状の凝集体を73g得た。
次いで、重合性単量体としてM1を10g、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.025g、さらに有機溶媒としてメタノールを5.0g混合した重合性単量体溶液(有機溶媒100質量部に対して重合性単量体36質量部を含有)に、上記凝集体50g浸漬させた。十分撹拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認した後、1時間静置した。
上記の混合物を、ロータリーエバポレーターに移した。撹拌状態で、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件下で、前記混合物を1時間乾燥し、有機溶媒を除去した。有機溶媒を除去すると、流動性の高い粉体が得られた。
得られた粉体を、ロータリーエバポレーターで撹拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件100℃(オイルバス使用)の条件下で、1時間加熱することにより、上記粉体中の重合性単量体を重合硬化させた。この操作により、球形状の凝集体の表面が有機重合体で被覆された、略球形状の有機-無機複合フィラー(CF1)を45g得た。この有機-無機複合フィラーの平均粒子径は33μmであった。
1-2-3.超微細粒子(G-SFP)
G-SFPとしては、レオロシールQS-102(平均一次粒子径12nm、株式会社トクヤマ製)を使用した。
1-2-4.不定形無機粒子
表2に示す不定形無機粒子F1を使用した。不定形無機粒子Fは、特開平2-132102号公報、特開平3-197311号公報等に記載の方法に従い、アルコキシシラン化合物を有機溶剤に溶解し、これに水を添加して部分加水分解した後、更に複合化する他の金属のアルコキサイド及びアルカリ金属化合物を添加して加水分解してゲル状物を生成させ、次いで該ゲル状物を乾燥後、必要に応じて粉砕し、焼成することにより調製した。なお、平均粒子径(不定形粒子については破砕粒子の平均粒子径を意味する。)、±5%内粒子割合〕及び屈折率はG-PIDと同様にして測定した。
<1-3.重合開始剤>
重合開始剤としては、カンファーキノン(CQ)、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMBE)の組み合わせからなる光重合開始剤、又はベンゾイルパーオキサイド(以下、「BPO」と略す)からなる熱重合開始剤を用いた。
実施例1
重合性単量体混合物M1:100質量部に対して、CQ:0.3質量部、DMBE:1.0質量部を加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、G-PID4:500質量部及び超微細粒子群(G-SFP):1.0質量部を計りとり、上記重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、混練機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて十分に混練し均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し重合硬化性組成物を製造した。得られた重合硬化性組成物を角柱状のポリプロピレン製の成形型(14×18×150mm)へ気泡を巻き込まないように填入し、上面を平滑化した後、歯科技工用LED重合器(αライトV:株式会社モリタ製)にて1分間光照射を行い、重合を行った。成形型から硬化体組成物を取り出し、歯科切削加工用ブランクを得た。
得られた歯科切削加工用ブランクについて、(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価、(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価、(6)目視による外観評価及び(7)曲げ強度の評価を行った。歯科切削加工用ブランクの組成(マトリックス欄についてはマトリックスとなる樹脂を与える重合性単量体混合物を記載している。)及び評価結果を表3、4及び5に示した。また、実施例1の歯科切削加工用ブランクは10回中10回の割合で、再現よく前記動径分関数の条件1及び条件2を満足し、且つ外観評価においてクラックが生じていない、均一な歯科切削加工用ブランクを得ることが出来た。
なお、上記各評価及び測定は、以下に示す方法で行った。
(1)目視による着色光の評価
各実施例及び比較例の歯科切削加工用ブランクから一辺の長さが7mm以上、厚さが1mmになるよう、硬化体を切り出し、評価資料とした。得られた評価資料の厚さ方向が10mm角程度の黒いテープ(カーボンテープ)の粘着面に対して垂直になるように載せ、目視にて着色光の色調を確認した。
(2)着色光の波長
(1)と同様にして作成した評価資料について、色差計(東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて、背景色黒、背景色白で分光反射率を測定し、背景色黒における反射率の極大点を着色光の波長とした。
(3)色彩計による色調適合性の評価
右下6番にII級窩洞(直径5mm、深さ3mm)を再現した硬質レジン歯を用いて、各実施例及び比較例の歯科切削加工用ブランクから欠損部に適合するよう切削加工して歯科用修復物(修復物)を作製した後、エステセムII(接着性レジンセメント、トクヤマデンタル社製)を用いて接着し、研磨し、模擬修復を行った。模擬修復後の色調適合性を二次元色彩計(パパラボ社製、「RC-500」)にて評価した。なお、硬質レジン歯としては、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇の中にあって、高彩度の硬質レジン歯(A4相当)と低彩度の硬質レジン歯(A1相当)及び、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるB系(赤黄色)の範疇の中にあって、高彩度の硬質レジン歯(B4相当)と低彩度の硬質レジン歯(B1相当)を用いた。
硬質レジン歯を二次元色彩計にセットし、硬質レジン歯を撮影、画像解析ソフト(「RC Series Image Viewer」、パパラボ社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、硬質レジン歯の修復部と非修復部の測色値の色差(CIELabにおけるΔE)を求め、色調適合性の評価を行った。
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
ΔL=L1-L2
Δa=A1-A2
Δb=B1-B2
なお、L1:硬質レジン歯の修復部の明度指数、A1,B1:硬質レジン歯の修復部の色質指数、L2:硬質レジン歯の修復部の明度指数、A2,B2:硬質レジン歯の修復部の色質指数、ΔE:色調変化量である。
(4)目視による色調適合性の評価
(3)と同様にして模擬修復を行った。修復後の色調適合性を目視にて確認した。評価基準を以下に示す。
5:修復物の色調が硬質レジン歯と見分けがつかない。
4:修復物の色調が硬質レジン歯と良く適合している。
3:修復物の色調が硬質レジン歯と類似している。
2:修復物の色調が硬質レジン歯と類似しているが適合性は良好でない。
1:修復物の色調が硬質レジン歯と適合していない。
(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価
各実施例及び比較例の歯科切削加工用ブランクから、5mmφ×10mmの硬化体を切り出し、当該硬化体中の球状粒子の分散状態を走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)により観察することにより動径分布関数を求め、評価を行った。具体的には、前記硬化体をイオンミリング装置(日立社製、「IM4000」)で断面ミリングを2kV、20minの条件にて行い、観察平面とした。その後当該観察面について前記走査型電子顕微鏡により平面内に1000個の球状粒子を含有している領域の顕微鏡画像を取得し、得られた走査型電子顕微鏡画像を画像解析ソフト(「Simple Digitizer ver3.2」フリーソフト)を用いて、前記領域内の球状粒子の座標を求めた。得られた座標データから任意の球状粒子の座標を1つ選択し、選択した球状粒子を中心に少なくとも200個以上の球状粒子が含まれる距離rを半径とする円を描き、円内に含まれる球状粒子の個数を求め、平均粒子密度<ρ>(単位:個/cm2)を算出した。drは、r/100~r/10(rは球状粒子の平均粒子径を示す。)程度の値であり、中心の球状粒子から距離rの円と距離r+drの円との間の領域内に含まれる粒子の数dn、及び前記領域の面積daを求める。このようにして求めた <ρ>、dn、daの値を用いて、下記式(2):
g(r) = {1/<ρ>}×{dn/da} (2)
を計算し、動径分布関数g(r)を求めた。動径分布関数とr/r(rは前記円の中心からの任意の距離を示し、rは球状粒子の平均粒子径を示す。)との関係を示すグラフを作成し評価した。
(6)目視による外観の評価
各実施例及び比較例の歯科切削加工用ブランクの外観を目視にて観察し、ブロックの外観に亀裂(クラック)などが無いものを○、クラックが見られるものを×として評価した。
(7)曲げ強度の評価
各実施例及び比較例の歯科切削加工用ブランクから幅2mm、長さ25mmの試験片を切り出し、耐水研磨紙1500番で切り出した試験片の長さ方向に研磨を行い、厚さ2±0.1mmの試験片とした。得られた試験片を、万能引張試験機オートグラフ(島津製作所製)を用いて、室温大気中、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件にて3点曲げ試験を行った。試験片5個について曲げ強度を評価し、その平均値を曲げ強度とした。
Figure 0007321456000005
Figure 0007321456000006
Figure 0007321456000007
実施例2
実施例1において、歯科切削加工用ブランクの組成を表3に示す他は同様にして歯科切削加工用ブランクの(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価、(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価、(6)目視による外観評価及び(7)曲げ強度の評価を行った。評価結果を表3、4及び5に示した。また、実施例2の歯科切削加工用ブランクにおいても、10回中10回の割合で、再現よく前記動径分関数の条件1及び条件2を満足し、外観評価においてもクラックが生じていない、均一な歯科切削加工用ブランクを得ることが出来た。
実施例3
重合性単量体混合物M1:200質量部に対して、CQ:0.6質量部、DMBE:2.0質量部を加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、上記重合性単量体:100質量部に対して、G-PID4:200質量部、G-PID7:200質量部、G-PID10:200質量部及び超微細粒子群(G-SFP):1.0質量部を計りとり、赤色光下にて混合し、混練機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて十分に混練し均一な硬化性ペースト1とした。さらに、上記重合性単量体:100質量部に対して、G-PID4:200質量部、G-PID9:200質量部、G-PID11:200質量部及び超微細粒子群(G-SFP):1.0質量部を計りとり、赤色光下にて混合し、混練機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて十分に混練し均一な硬化性ペースト2とした。得られた硬化性ペースト1及び2を夫々減圧下脱泡して気泡を除去し重合硬化性組成物1及び2を製造した。得られた重合硬化性組成物1及び2を各々角柱状のポリプロピレン製の成形型(14×18×10mm)へ気泡を巻き込まないように填入し、上面を平滑化した後、硬化性組成物1及び2が填入された成形型を平滑化した面同士を密着させて重ね合わせ(14×18×20mm)、歯科技工用LED重合器(αライトV:株式会社モリタ製)にて1分間光照射を行い、重合を行った。成形型から硬化体組成物を取り出し、歯科切削加工用ブランクを得た。得られた歯科切削加工用ブランクについて、(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価、(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価、(6)目視による外観評価及び(7)曲げ強度の評価を行った。評価結果を表3、4及び5に示した。また、実施例3の歯科切削加工用ブランクは10回中10回の割合で、再現よく前記動径分関数の条件1及び条件2を満足し、且つ外観評価においてクラックが生じていない、均一な歯科切削加工用ブランクを得ることが出来た。
実施例4
実施例1において、歯科切削加工用ブランクの組成を表3に示す他は同様にして歯科切削加工用ブランクの(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価、(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価、(6)目視による外観評価及び(7)曲げ強度の評価を行った。評価結果を表3、4及び5に示した。また、実施例4の歯科切削加工用ブランクにおいても、10回中10回の割合で、再現よく前記動径分関数の条件1及び条件2を満足し、外観評価においてもクラックが生じていない、均一な歯科切削加工用ブランクを得ることが出来た。
実施例5
重合性単量体混合物M1:100質量部に対して、BPO:0.5質量部を加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、G-PID4:500質量部及び超微細粒子群(G-SFP):1.0質量部を計りとり、上記重合性単量体組成物を徐々に加えていき、混練機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて十分に混練し均一な硬化性ペーストとした。得られたペーストを真空脱泡し、角柱状のポリプロピレン製の成形型(14×18×150mm)へ気泡を巻き込まないように填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合器を用いて、窒素加圧下にて圧力0.4MPA100℃、12時間の条件で加熱加圧重合を行った。成形型から硬化体組成物を取り出し、歯科切削加工用ブランクを得た。得られた歯科切削加工用ブランクについて、(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価、(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価、(6)目視による外観評価及び(7)曲げ強度の評価を行った。歯科切削加工用ブランクの組成(マトリックス欄についてはマトリックスとなる樹脂を与える重合性単量体混合物を記載している。)及び評価結果を表3、4及び5に示した。また、実施例5の歯科切削加工用ブランクは10回中10回の割合で、再現よく前記動径分関数の条件1及び条件2を満足し、且つ外観評価においてクラックが生じていない、均一な歯科切削加工用ブランクを得ることが出来た。
実施例6
実施例5において、歯科切削加工用ブランクの組成を表3に示す他は同様にして歯科切削加工用ブランクの(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価、(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価、(6)目視による外観評価及び(7)曲げ強度の評価を行った。評価結果を表3、4及び5に示した。また、実施例6の歯科切削加工用ブランクにおいても、10回中10回の割合で、再現よく前記動径分関数の条件1及び条件2を満足し、外観評価においてもクラックが生じていない、均一な歯科切削加工用ブランクを得ることが出来た。
比較例1、3~5
実施例1において、硬化体(複合材料)の組成を表3に示す他は同様にして硬化体(複合材料)の(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価を行った。評価結果を表3、4及び5に示した。
比較例2
重合性単量体混合物M1:100質量部に対して、CQ:0.3質量部、DMBE:1.0質量部を加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、G-PID2:400質量部及び超微細粒子群(G-SFP):0.5質量部を計りとり、上記重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、乳鉢を用いて混練し硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し重合硬化性組成物を製造した。得られた重合硬化性組成物を角柱状のポリプロピレン製の成形型(14×18×150mm)へ気泡を巻き込まないように填入し、上面を平滑化した後、歯科技工用LED重合器(αライトV:株式会社モリタ製)にて1分間光照射を行い、重合を行った。成形型から硬化体組成物を取り出し、歯科切削加工用ブランクを得た。得られた歯科切削加工用ブランクについて、(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価及び(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価を行った。硬化体(複合材料)の組成(マトリックス欄についてはマトリックスとなる樹脂を与える重合性単量体混合物を記載している。)及び評価結果を表3、4及び5に示した。なお、比較例2の複合材料において、5回中1回の割合で良好な評価を得ることができなかった。表に示す評価結果は、この系についてのものである。
実施例1~4の結果から理解されるように、本発明で規定する条件を満足していると、硬化体は黒背景化で着色光を示し、色調適合性が良好であることが分かる。
図1及び図2に示す結果から理解されるように、実施例1で得られた歯科切削加工用ブランクは最近接粒子間距離rが粒子径r0の1.03倍となる位置(r/rが1.03)において動径分布関数g(r)の第一の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の前記動径分布関数g(r)の極小値が0.60となっていることが確認され、本発明における短距離秩序構造を有していることが確認された。
図3に示す結果から理解されるように、実施例2で得られた歯科切削加工用ブランクは最近接粒子間距離rが粒子径r0の1.24倍となる位置(r/rが1.24)において動径分布関数g(r)の第一の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の前記動径分布関数g(r)の極小値が0.62となっていることが確認され、本発明における短距離秩序構造を有していることが確認された。
図4に示す結果から理解されるように、実施例3で得られた歯科切削加工用ブランクは最近接粒子間距離rが粒子径r0の1.41倍となる位置(r/rが1.41)において動径分布関数g(r)の第一の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の前記動径分布関数g(r)の極小値が0.88となっていることが確認され、本発明における短距離秩序構造を有していることが確認された。
図5に示す結果から理解されるように、実施例4で得られた歯科切削加工用ブランクは最近接粒子間距離rが粒子径r0の1.04倍となる位置(r/rが1.04)において動径分布関数g(r)の第一の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の前記動径分布関数g(r)の極小値が0.80となっていることが確認され、本発明における短距離秩序構造を有していることが確認された。
図6に示す結果から理解されるように、実施例5で得られた歯科切削加工用ブランクは最近接粒子間距離rが粒子径r0の1.24倍となる位置(r/rが1.24)において動径分布関数g(r)の第一の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の前記動径分布関数g(r)の極小値が1.00となっていることが確認され、本発明における短距離秩序構造を有していることが確認された。
図7に示す結果から理解されるように、実施例6で得られた歯科切削加工用ブランクは最近接粒子間距離rが粒子径r0の1.68倍となる位置(r/rが1.68)において動径分布関数g(r)の第一の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の前記動径分布関数g(r)の極小値が0.86となっていることが確認され、本発明における短距離秩序構造を有していることが確認された。
比較例1、3~5の結果から理解されるように、本発明で規定する条件を満足していないと、硬化体から所望の色調が得られず(比較例1:nMX<nG-PIDmを満たしていない。)、硬化体は黒背景化で着色光を示さず(比較例3:G-PIDの平均粒子径が80nm、比較例4:フィラーの形状が不定形、比較例5:G-PIDの個々の粒子の平均一次粒子径が、それぞれ互いに25nmより小さい値である。)、色調適合性に劣っていることが分かる。
比較例2の結果から理解されるように、組成物の混練状態が不均一となった場合、本発明で規定する無機球状粒子の配列構造の条件を満足せず、歯質との色調適合性に劣っていることが分かる。
図8に示す結果から理解されるように、比較例2で得られた歯科切削加工用ブランクは最近接粒子間距離rが粒子径r0の1.58倍となる位置(r/rが1.58)において動径分布関数g(r)の第一の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の前記動径分布関数g(r)の極小値が0.18となっていることが確認され、本発明における短距離秩序構造を有していないことが確認された。
比較例2においては、外観試験の目視評価においてクラックの発生が見られた。そのため、曲げ強度の評価を行なうことができなかった。
次に、本発明のキットについて、実施例により具体的に説明する。
[2.本発明のキットの実施例及び比較例]
<歯科用セメント(B)>
以下に示すようにして、歯科用セメントとして、接着性レジンセメントS1を調製した。
先ずBis-GMA1.0g、3G:4.0g及びD-2.6E:5.0g、並びに重合開始剤の一成分としてのN,N-ジ(β-ヒドロキシエチルp-トルイジン(DEPT):0.5gを均一になるまで攪拌し、重合性単量体成分を調製した。これとは別に、17gの球状シリカ―ジルコニア(平均粒径0.4μm)をγ ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより疎水化処理したもの)、12gの不定形シリカ―ジルコニア(平均粒径3μm)γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより疎水化処理したもの)、1gのヒュームドシリカ( 平均粒径0.02μm)をメチルトリクロロシランにより表面処理したもの)とをメノウ乳鉢で混合し、無機充填材成分を調製した。このようにして調製した重合性単量体成分及び無機充填材成分に重合開始剤の残りの成分である0.35gのBPOを添加して混合し、接着性レジンセメントS1を調製した。
また、最終混合段階で赤色顔料(ピグメントレッド166)を2.8ppm、黄色顔料(ピグメントイエロー95)を20.1ppm、青色顔料(ピグメントブルー60)を1.6ppmを添加した以外は上記と同様にして、接着性レジンセメントS2を調整した。
さらに、最終混合段階で赤色顔料18.8ppm、黄色顔料61.3ppm、青色顔料5.0ppm、白顔料(酸化チタン)1742ppmを添加した以外は上記と同様にして、接着性レジンセメントS3を調整した。
接着性レジンセメントS4~S11も、最終混合段階で添加する顔料の種類及び量を表6に示すように変えた以外は上記と同様にして調製した。
このようにして得られた接着性レジンセメントS1~S11について、以下のようにして白色度及びコントラスト比の評価を行った。評価結果を表6に合わせて示す。
(1)白色度及びコントラスト比の評価
接着性レジンセメントS1~S11を夫々、7mmφ×0.5mmの孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した後に、光量500mW/cmのハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒間光照射し硬化させてから型から取り出すことにより、厚さ0.5mmの固体試料を作製した。この固体試料について、色差計(東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて、背景色黒で分光反射率を測定し、測定されたL値、a値及びb値に基づき下記式により白色度Wを算出した。
W=100-{(100-L+(a+(b1/2
また、上記測定で測定された背景色黒におけるY値であるYと、別途背景色白で行った分光反射率を測定で測定された背景色白におけるY値であるYに基づきコントラスト比T=(Y/Y)を算出した。結果を合わせて表6に示す。
Figure 0007321456000008
実施例7~12及び、比較例6~9
模擬修復歯牙として、右下6番にII級窩洞(直径5mm、深さ3mm)を再現した硬質レジン歯を作成し、これを用いてCAD/CAMシステムにより、実施例1の歯科切削加工用ブランクから欠損部に適合するよう切削加工して、各実施例及び比較例で使用する歯科修復用補綴物(補綴物)を夫々作製した。その後、夫々表7に示す接着性レジンセメントS1~9を用いて前記模擬修復歯牙と補綴物接着してから研磨を行って、模擬修復を行った。なお、模擬修復歯牙となる硬質レジン歯としては、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇の中にあって、高彩度の硬質レジン歯(A4相当)と低彩度の硬質レジン歯(A1相当)を用いた。
模擬修復後に得られた各試料について、次の様にして(2)色彩計による色調適合性の評価、(3)目視による色調適合性の評価を行った。結果を表7に示す。なお、表7中の「低彩度」及び「高彩度」の欄は、夫々模擬修復歯牙として高彩度の硬質レジン歯及び低彩度の硬質レジン歯を用いて行った模擬修復サンプルについての評価結果を示すものである。
(2)色彩計による色調適合性の評価
前記試料について色調適合性を二次元色彩計(パパラボ社製、「RC-500」)にて評価した。具体的には、試料を二次元色彩計にセットし、硬質レジン歯を撮影、画像解析ソフト(「RC Series Image Viewer」、パパラボ社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、硬質レジン歯の修復部と非修復部の測色値の色差(CIELabにおけるΔE)を求め、色調適合性の評価を行った。なお、ΔEは、次式に基づき決定される色調変化量である。
ΔE={(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2}1/2
ΔL=L1-L2
Δa=A1-A2
Δb=B1-B2
ここで、L :硬質レジン歯の修復部の明度指数、A1,B1:硬質レジン歯の修復部の色質指数、L :硬質レジン歯の修復部の明度指数、A2,B2:硬質レジン歯の修復部の色質指数を夫々表す。
(3)目視による色調適合性の評価
各試料について色調適合性を目視にて確認した。評価基準を以下に示す。
5:修復物の色調が硬質レジン歯と見分けがつかない。
4:修復物の色調が硬質レジン歯と良く適合している。
3:修復物の色調が硬質レジン歯と類似している。
2:修復物の色調が硬質レジン歯と類似しているが適合性は良好でない。
1:修復物の色調が硬質レジン歯と適合していない。
Figure 0007321456000009
表7の結果から理解されるように、実施例7~12においては、低彩度と高彩度のいずれにおいても目視評価では高評価が付けられている。また、試料における硬質レジン歯の部分と補綴物の部分とにおける色差は3.2以下であった。この色差は、JIS Z 8721<マンセルカラーシステム 顕色系色見本>など、一般的な標準色見本と試料色との目視判定による許容色差範囲であるA級許容差の範囲内であり、良好な色調適合性を示すことが確認された。
これに対し、Wが65を越え、Tは0.60を越える接着性レジンセメントを使用した比較例6~9では、低彩度と高彩度のいずれにおいても目視評価では低評価が付けられており色調適合性に劣っている。

Claims (6)

  1. 被切削加工部を有する歯科切削加工用ブランク(A)と、当該歯科切削加工用ブランクを用いて作製された歯科用修復物を歯牙に接着するための歯科用セメント(B)と、の組み合わせからなる歯科保存修復用キットであって、
    前記歯科切削加工用ブランク(A)の前記被切削加工部は、
    (A1)マトリックス材料中に無機粒子が分散してなる複合材料を含み、
    (A2)前記無機粒子は、
    (I)100~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体を構成する個々の無機球状粒子は、実質的に同一物質で構成されると共に、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と、
    (II)平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなる“超微細粒子群”(G-SFP)と、
    を含んでなり、
    (A3)前記無機粒子に含まれる前記“同一粒径球状粒子群”の数をaとしたときの各“同一粒径球状粒子群”を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aまでの自然数である。)で表したときに、前記aが2以上の場合における各G-PIDの個々の粒子を構成する物質は互いに異なっていてもよく、当該場合における各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっており、
    (A4)前記“超微細粒子群”(G-SFP)の平均一次粒子径は、前記G-PIDの平均一次粒子径よりも25nm以上小さく、
    (A5)前記マトリックス材料の25℃における屈折率をn(MX)とし、前記各G-PIDを構成する無機球状粒子の25℃における屈折率をn(G-PIDm)としたときに、何れのn(G-PIDm)に対しても、
    (MX)<n(G-PIDm)
    の関係が成り立ち、
    (A6)前記複合材料において、前記任意の無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す関数であって、前記複合材料の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づいて決定される、当該観察平面内の前記無機球状粒子の平均粒子密度:〈ρ〉、及び当該観察平面内の任意の無機球状粒子からの距離rの円と距離r+drの円との間の領域中に存在する無機球状粒子の数:dn、並びに前記領域の面積:da(ただし、da=2πr・drである。)に基づいて下記式(1)
    g(r)={1/〈ρ〉}×{dn/da} ・・・(1)
    で定義される関数:g(r)を動径分布関数としたときに、
    前記複合材料における全“同一粒径球状粒子群”(G-PID)を構成する無機球状粒子が、
    [条件1]:前記複合材料中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離:rを、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rで、除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、前記動径分布関数:g(r)をy軸として、前記r/rとその時のrに対応する前記g(r)との関係を表した動径分布関数グラフにおいて、当該動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離:rが、前記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径:rの1倍以上2倍以下の値である、と言う条件、及び
    [条件2]:前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離:rとしたときに、前記最近接粒子間距離:rと次近接粒子間距離:rとの間における前記動径分布関数:g(r)の極小値が0.56以上1.10以下の値である、という条件
    を満たす短距離秩序構造を有するように、マトリックス材料中に分散しており、
    前記歯科用セメント(B)は、
    (B1)(メタ)アクリル系重合性単量体、重合開始剤、及び充填材を含有してなる硬化性組成物からなり、
    (B2)前記硬化性組成物の硬化体からなる厚さ0.5mmの固体試料について黒背景で色差計を用いて測定される白色度が65以下であり、
    (B3)前記固体試料について色差計を用いて測定される、黒背景におる分光反射率:Yb及び白色背景における分光反射率:Ywに基づき、これらの比:Yb/Ywとして決定されるコントラスト比:Tが、0.60未満である、
    ことを特徴とする歯科保存修復用キット。
  2. 前記歯科切削加工用ブランク(A)の被切削加工部を構成する前記複合材料の前記マトリックス材料が樹脂である、請求項1に記載の歯科保存修復用キット。
  3. 前記マトリックス材料中に分散する“同一粒径球状粒子群”(G-PID)の総量、及び“超微細粒子群”(G-SFP)の量が、マトリックス材料100質量部に対して、それぞれ、10質量部以上1500質量部以下、及び0.1質量部以上50質量部以下である、請求項1又は2に記載の歯科保存修復用キット。
  4. 前記歯科切削加工用ブランクに含まれる全ての“同一粒径球状粒子群”(G-PID)の平均一次粒子径が230~1000nmの範囲内にあり、“超微細粒子群”(G-SFP)平均一次粒子径が3nm以上75nm以下である、請求項1乃至3の何れかに記載の歯科保存修復用キット。
  5. 前記n(MX)と前記n(G-PIDm)との差(n(G-PIDm) - n(MX))で定義されるΔnが、何れのnG-PIDmに対しても、0.001以上0.1以下である、請求項1乃至4の何れかに記載の歯科保存修復用キット。
  6. 前記被切削加工部が、夫々組成の異なる複数の前記複合材料の接合体からなる、請求項1乃至5に記載の歯科保存修復用キット。
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