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JP7312340B2 - 水素を含む加齢黄斑変性治療用組成物 - Google Patents

水素を含む加齢黄斑変性治療用組成物 Download PDF

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Description

本発明は、水素による加齢黄斑変性の治療、改善又は予防に関する。
加齢黄斑変性(Age-Related Macular Degeneration;AMD)は、加齢(例えば、50歳以上)に伴って生じる黄斑を障害する疾患である。AMDは、日本人の失明原因の上位(2018年時で第4位)を占める。黄斑は網膜の中央にあり、視細胞が集まっている重要な部分である。AMDは、広義の加齢黄斑症(Age-Related Maculopathy;ARM)の分類での後期加齢黄斑症を指し、滲出型AMDと萎縮型AMDに分類される(非特許文献1、非特許文献2)。滲出型AMDは、網膜色素上皮細胞の老化に伴い血管内皮増殖因子(VEGF)の過剰分泌、炎症性サイトカインの産生などにより黄斑の脈絡膜下又は網膜下に脈絡膜新生血管が生じ、また新生血管により網膜色素上皮剥離や網膜出血が引き起こされるため、重篤な視力低下の原因となる疾患である。一方、萎縮型AMDは、脈絡膜新生血管を伴わない、かつ黄斑部に色素上皮・脈絡膜毛細血管板の萎縮病巣が形成され、進行は比較的遅い疾患である。萎縮型AMDが進行すると地図状萎縮を引き起こし、また他眼に脈絡膜新生血管をもつ地図状萎縮では脈絡膜新生血管が発生しやすいと云われている。
AMDの発症には遺伝因子と環境因子が多様に相関することが知られており、また確定的な危険因子は加齢である。さらにAMDの病態形成の一つに酸化ストレスの関与が報告されている(非特許文献1~4)。酸化ストレスは、組織内での代謝過程で生じる活性酸素種(ROS)によって細胞が障害されるプロセスの総称である。ROSは、それ自体が細胞膜や遺伝子を障害したり、虚血関連分子の発現を促進したり、脂質を酸化することなどにより、生体にとって有害な作用を引き起こす。視細胞外節には元来大量に脂質が存在し、また加齢によりブルッフ膜にも脂質が蓄積することから、網膜外層は酸化ストレスによる障害を受けやすい状態にあるといえる(非特許文献1)。
AMDの臨床治療薬に関しては、滲出型AMDの場合、例えば抗VEGF薬(例えば、ラニビズマブ、ベバシズマブ及びアフリベルセプト)による治療などが行われており、この薬剤は、VEGFによる血管新生を抑制する効果を有する。また、萎縮型AMDの場合、例えば抗炎症薬、脈絡膜血流改善薬などの薬剤が臨床上使用されているが、有効な治療法はない。さらにまた、抗VEGF薬だけで視力改善が期待できないときには、脈絡膜新生血管を抜去する手術、血腫を除去する手術、新生血管の特異的閉塞のための光線力学療法などが行われている(非特許文献1)。
さらに近年、滲出型AMD患者に対し、自己iPS細胞由来網膜色素上皮細胞シートを患者の網膜に移植する細胞治療が行われるようになってきた(非特許文献5)。
AMDに対する水素による効果に関して、レーザー誘導脈絡膜新生血管モデルマウスにおいてレーザー照射前にマウスに極微量の水素水(0.3μg)を前投与(胃管による経口投与)したが、マウスの活性酸素量が多すぎて極微量の水素ではこれを消去することができず、脈絡膜新生血管形成を有意に抑制できなかったという報告がある(非特許文献6)。さらに、ラットにおいて光照射による網膜の障害を水素飽和食塩水(hydrogen-rich saline)が軽減するという報告がある(非特許文献7)が、AMDに対する水素による治療有効性は知られていない。
吉村長久編集、加齢黄斑変性、第2版(2016年)、医学書院 石橋達郎ほか編集、加齢黄斑変性<NEW MOOK眼科No.9>第1版(2005年)、金原出版(株) 國方彦志と中澤徹、実験医学第36巻第5号(増刊)第199~204頁、「16.眼疾患と酸化ストレス」、2018年 吉川敏一監修、酸化ストレスの医学、改訂第2版(2014年)第272~277頁、「Section 3 眼疾患と酸化ストレス」、診断と治療社 Michiko Mandai et al.,"Autologous Induced Stem-Cell-Derived Retinal Cells for Macular Degeneration",The New England Journal of Medicine,2017;376:1038-1046 厚東隆志、慶應義塾大学学術情報リポジトリ2012年「加齢黄斑変性に対する水素ガスによる抗酸化療法の効果の解析」http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KAKEN_22791688seika L.Tian et al.,Medical Gas Research 2013,3:19
加齢黄斑変性(AMD)は、依然として治療による十分な改善や寛解が難しい疾患である。AMDの原因である遺伝因子を取り除くことは困難であるが、環境因子に対するAMDの予防として抗酸化サプリメントの摂取、禁煙、紫外線の防御、血圧の管理などが推奨されている。また、上述したように、臨床においては滲出型AMD患者に対して血管新生を抑制するための手術や薬剤療法、並びに細胞治療が実施されているが、十分な改善のためにはさらなる治療技術の進歩が望まれる。
また、これまで水素によるAMDに対する治療効果は確認されていない(非特許文献6)。
本発明者らは、驚くべきことに、水素療法が加齢黄斑変性(AMD)の改善に劇的な効果もたらすことを今回見出した。
従って、本発明は以下の特徴を包含する。
(1)水素を有効成分として含むことを特徴とする、被験体における加齢黄斑変性の治療又は予防のための組成物。
(2)上記組成物が水素ガス含有気体及び/又は水素溶存液体の形態である、上記(1)に記載の組成物。
(3)上記水素ガス含有気体の水素濃度が、0.5~18.5体積%である、上記(2)に記載の組成物。
(4)上記水素溶存液体の水素濃度が、1~10ppmである、上記(2)に記載の組成物。
(5)上記被験体への組成物の投与が、経肺投与、静脈内投与、眼内投与又は経口投与である、上記(1)~(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)上記経肺投与が、大気圧環境下で、又は1.02~7.0気圧の高気圧環境下で行われる、上記(5)に記載の組成物。
(7)上記組成物が、上記被験体への投与時に水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置を用いてその場で作製される、上記(1)~(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)上記加齢黄斑変性が、脈絡膜血管新生が生じる加齢黄斑変性である、上記(1)~(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)他の加齢黄斑変性治療薬と併用する、上記(1)~(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)上記他の加齢黄斑変性治療薬が抗血管新生薬である、上記(9)に記載の組成物。
(11)上記他の加齢黄斑変性治療薬が抗酸化物質である、上記(9)に記載の組成物。
(12)上記被験体がヒトである、上記(1)~(11)のいずれかに記載の組成物。
(13)加齢黄斑変性を有する被験体に、上記(1)~(12)のいずれかに記載の組成物を投与することを含む、被験体において加齢黄斑変性を治療又は予防する方法。
本発明によれば、AMD患者に対し簡易な水素療法を実施することにより、副作用を伴わずに、脈絡膜新生血管が実質的に消滅し、また網膜色素上皮剥離が実質的に消失し、その結果、視力が劇的に改善するという優れた作用効果が提供される。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
1.加齢黄斑変性(AMD)
本明細書中で使用される「加齢黄斑変性」(「AMD」と称することもあるいは、浸出型加齢黄斑変性(「浸出型AMD」と称することもある)及び萎縮型加齢黄斑変性(「萎縮型AMD」と称することもある)の一方又はその両方を指す。
上記背景技術で記載したとおり、滲出型AMDは、網膜色素上皮細胞の老化に伴い血管内皮増殖因子(VEGF)の過剰分泌、炎症性サイトカインの産生などにより黄斑の脈絡膜下又は網膜下に脈絡膜新生血管が生じる。また、滲出型AMDは、新生血管により網膜色素上皮剥離や網膜出血が引き起こされるため、重篤な視力低下の原因となる疾患である。
萎縮型AMDは、脈絡膜新生血管を伴わない、かつ黄斑部に色素上皮・脈絡膜毛細血管板の萎縮病巣が形成され、進行は比較的遅い疾患である。しかし、進行すると地図状萎縮を引き起こし、また他眼に脈絡膜新生血管をもつ地図状萎縮では脈絡膜新生血管が発生しやすいと云われている。
これまで水素がAMDの治療に有効であることは報告されていなかったが、本発明のAMD治療もしくは予防用組成物は水素を有効成分として含むことを特徴とする。本発明の組成物は、AMDの疾患本態である脈絡膜新生血管を実質的に消滅させるうえに、網膜色素上皮剥離を実質的に消失させることが可能であり、それによりAMD患者の視力を著しく改善することができる。したがって、本発明は、脈絡膜血管新生が生じるAMD(例えば滲出型AMD)の治療又は予防のために有効に使用できる。
2.水素を含む加齢黄斑変性の治療もしくは予防用組成物
本発明は、第1の態様により、水素を有効成分として含むことを特徴とする、被験体における加齢黄斑変性(AMD)の治療又は予防のための組成物を提供する。
本明細書中、本発明のAMD治療もしくは予防用組成物の有効成分である「水素」は分子状水素(すなわち、気体状水素)であり、特に断らない限り、単に「水素」又は「水素ガス」と称する。また、本明細書中で使用する用語「水素」は、分子式でH、D(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスを指す。Dは、高価であるが、Hよりスーパーオキシド消去作用が強いことが知られている。本発明で使用可能な水素は、H、D(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスであり、好ましくはHであり、或いはHに代えて、又はHと混合して、D及び/又はHDを使用してもよい。
本発明の組成物の好ましい形態は、水素ガス含有気体及び/又は水素溶存液体の形態である。
水素ガス含有気体は、好ましくは、水素ガスを含む空気又は、水素ガスと酸素ガスを含む混合ガスである。水素ガス含有気体の水素ガスの濃度は、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下、例えば0.5~18.5体積%であり、好ましくは1~10体積%、例えば2~8体積%、3~7体積%もしくは3~6体積%、より好ましくは4~6体積%、例えば4~5体積%である。
水素は可燃性かつ爆発性ガスであるため、AMD治療においては、ヒトなどの被験体に安全な条件で治療もしくは予防用組成物に含有させて被験体に投与することが好ましい。
水素ガス以外の気体が空気であるときには、空気の濃度は、例えば81.5~99.5体積%の範囲である。
水素ガス以外の気体が酸素ガスを含む気体であるときには、酸素ガスの濃度は、例えば21~99.5体積%の範囲である。
その他の主気体として窒素ガスを含有させることができる。空気中に含有する気体である二酸化炭素などのガスを、空気中の存在量程度の量で含有させてもよい。
水素溶存液体は、具体的には、水素ガスを溶存させた水性液体であり、ここで、水性液体は、非限定的に、例えば滅菌水、生理食塩水、緩衝液(例えばpH4~7.4の緩衝液)、エタノール含有水(例えばエタノール含有量0.1~2体積%)、点滴液、輸液、点眼液、注射溶液、飲料などである。水素溶存液体の水素濃度は、例えば1~10ppm、好ましくは1.2~8ppm、さらに好ましくは1.5~7ppm、例えば1.5~5ppmである。
水素溶存液体には、必要に応じて、他の加齢黄斑変性治療薬(例えば抗血管新生薬、抗酸化物質、等)を添加してもよい。抗血管新生薬の例は、抗VEGF薬(例えばラニビズマブ、ベバシズマブ、アフリベルセプト、等)、ステロイド薬(副腎皮質ホルモン、例えばトリアムシノロンアセトニド)などを含む。また抗酸化物質の例は、ビタミンA、ビタミンCもしくはE、カロテノイド、ポリフェノール、ルテイン、アントシアニン、ゼアキサンチン、亜鉛などを含む。その他の薬剤の例は、AMDの発症を抑制すると考えられているドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサペンタエン酸(EPA)などを含む。
水素ガス含有気体又は水素溶存液体は、所定の水素ガス濃度になるように配合されたのち、例えば耐圧性の容器(例えば、ステンレスボンベ、アルミ缶、好ましくは内側をアルミフィルムでラミネーションした、耐圧性プラスチックボトル(例えば耐圧性ペットボトル)及びプラスチックバッグ、アルミバッグ、等)に充填される。アルミは水素分子を透過させ難いという性質を有している。あるいは、水素ガス含有気体又は水素溶存液体は、投与時に、水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置、例えば、公知のもしくは市販の水素ガス供給装置(水素ガス含有気体の生成用装置)、水素添加器具(水素水生成用装置)、非破壊的水素含有器(例えば点滴液などの生体適用液バッグ内部へ非破壊的に水素ガスを添加するための装置)などの装置を用いてその場で作製されてもよい。
水素ガス供給装置は、水素発生剤(例えば金属アルミニウム、水素化マグネシウム、等)と水の反応により発生する水素ガスを、希釈用ガス(例えば空気、酸素、等)と所定の比率で混合することを可能にする(日本国特許第5228142号公報、等)。あるいは、水の電気分解を利用して発生した水素ガスを、酸素、空気などの希釈用ガスと混合する(日本国特許第5502973号公報、日本国特許第5900688号公報、等)。これによって0.5~18.5体積%の範囲内の水素濃度の水素ガス含有気体を調製することができる。
水素添加器具は、水素発生剤とpH調整剤を用いて水素を発生し、水などの生体適用液に溶存させる装置である(日本国特許第4756102号公報、日本国特許第4652479号公報、日本国特許第4950352号公報、日本国特許第6159462号公報、日本国特許第6170605号公報、特開2017-104842号公報、日本国特許第6159462号公報、等)。水素発生剤とpH調整剤の組み合わせは、例えば、金属マグネシウムと強酸性イオン交換樹脂もしくは有機酸(例えばリンゴ酸、クエン酸、等)、金属アルミニウム末と水酸化カルシウム粉末、などである。これによって1~10ppm程度の溶存水素濃度の水素溶存液体を調製できる(例えば、商品名「セブンウォーター」(クオシア)、等)。
非破壊的水素含有器は、点滴液などの市販の生体適用液(例えば、ポリエチレン製バッグなどの水素透過性プラスチックバッグに封入されている。)に水素分子をパッケージの外側から添加する装置又は器具であり、例えばMiZ(株)から市販されている(http://www.e-miz.co.jp/technology.html)。この装置は、生体適用液を含むバッグを飽和水素水に浸漬することによってバッグ内に水素を透過し濃度平衡に達するまで無菌的に水素を生体適用液に溶解させることができる。当該装置は、例えば電解槽と水槽から構成され、水槽内の水が電解槽と水槽を循環し電解により水素を生成することができる。或いは、簡易型の使い捨て器具は同様の目的で使用することができる(特開2016-112562号公報、等)。この器具は、アルミバッグの中に生体適用液含有プラスチックバッグ(水素透過性バッグ、例えばポリエチレン製バッグ)と水素発生剤(例えば、金属カルシウム、金属マグネシウム/陽イオン交換樹脂、等)を内蔵しており、水素発生剤は例えば不織布(例えば水蒸気透過性不織布)に包まれている。不織布に包まれた水素発生剤を水蒸気などの少量の水で濡らすことによって発生した水素がプラスチックバッグを透過し生体適用液に非破壊的かつ無菌的に溶解される。
上記の装置又は器具を用いて調製された、水素ガス含有気体や水素飽和生体適用液(例えば滅菌水、生理食塩水、点滴液、等)は、加齢黄斑変性を有する被験体に経口的に又は非経口的に投与されうる。
本発明の組成物の別の形態には、被験体に経口投与(もしくは摂取)するように調製された、消化管内で水素の発生を可能にする水素発生剤を含有する剤型(例えば、錠剤、カプセル剤、等)が含まれる。水素発生剤は、例えば食品もしくは食品添加物として承認されている成分によって構成されることが好ましい。
3.加齢黄斑変性の治療又は予防
本発明は、第2の態様により、加齢黄斑変性を有する被験体に、本発明の上記組成物を投与することを含む、被験体において加齢黄斑変性を治療又は予防する方法を提供する。
本発明の組成物を被験体に投与する方法としては、水素ガスを有効成分とするとき、例えば吸入、吸引等による経肺投与が好ましい、また、溶存水素液体を有効成分とするとき経口投与、静脈内投与(点滴を含む)又は眼内投与が好ましい。ガスを吸入するときには、鼻カニューラや、口と鼻を覆うマスク型の器具を介して口又は鼻からガスを吸入して肺に送り、血液を介して全身に送達することができる。
経口投与する溶存水素液体については、好ましくは低温下に保存し、冷却した液体、又は常温で保存した液体を被験体に投与してもよい。水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃度で水に溶解し、温度による溶解度差が比較的小さいことが知られている。或いは、溶存水素液体は、例えば上記の非破壊的水素含有器を用いて調製された水素ガスを含有させた点滴液、点眼液又は注射液の形態であるときには、静脈内投与、動脈内投与、眼内投与などの非経口投与経路によって被験体に投与してもよい。
上記水素濃度の水素ガス含有気体又は上記溶存水素濃度の水素溶存液体を1日あたり1回又は複数回(例えば2~3回)、1週間~3か月又はそれ以上の期間、例えば1週間~6か月又はそれ以上にわたり被験体に投与することができる。水素ガス含有気体が投与されるときには、1回あたり例えば10分~2時間もしくはそれ以上、好ましくは20分~40分もしくはそれ以上、さらに好ましくは30分~2時間かけて投与することができる。また、水素ガス含有気体を吸入又は吸引によって経肺投与するときには、大気圧環境下で、或いは、例えば標準大気圧(約1.013気圧をいう。)を超える且つ7.0気圧以下の範囲内の高気圧、例えば1.02~7.0気圧、好ましくは1.02~5.0気圧、より好ましくは1.02~4.0気圧、さらに好ましくは1.02~1.35気圧の範囲内の高気圧環境下で被験体に当該気体を投与することができる。高気圧環境下での投与によって被験体での水素の体内吸収が促進されうる。
上記高気圧環境は、内部に、例えば上記水素ガス含有気体(例えば、水素含有酸素又は空気)を圧入して標準大気圧を超える且つ7.0気圧以下の高気圧を内部に形成することが可能である、十分な強度をもつように設計された高気圧筐体(例えば、カプセル状筐体)の使用によって作ることができる。高気圧筐体の形状は、耐圧性であるため、全体的に角がない丸みを帯びていることが好ましい。また高気圧筐体の材質は、軽量、高強度であることが好ましく、例えば強化プラスチック、炭素繊維複合材、チタン合金、アルミ合金などを挙げることができる。被験体は、上記高気圧筐体内で酸素ガスもしくは空気とともに水素ガスを含むAMD治療もしくは予防用組成物の投与を受けることができる。
本明細書中「被験体」という用語は、哺乳動物、例えば、ヒトを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、動物園などの観賞用動物などを含む。好ましい被験体はヒトである。
本発明の上記水素によるAMD治療の特徴として、(1)AMD患者に対し非侵襲性で簡易な療法を実施できること、(2)副作用を伴わないこと、(3)AMDにおける脈絡膜新生血管が実質的に消滅すること、(4)網膜色素上皮剥離が実質的に消失すること、(5)その結果、視力が顕著に改善すること、などが挙げられる。とりわけ、上記特徴のうち(3)、(4)及び(5)は、本発明の組成物の有効成分である水素による治療によってもたらされるものであることは後述の実施例の症例から明らかである。これまでAMDにおいて脈絡膜新生血管の実質的消滅と網膜色素上皮剥離の実質的消失が水素投与によって達成されうることは全く知られていなかっただけに驚くべきことである。
さらに本発明の組成物は、AMDの予防のためにも使用することができる。眼は絶えず光にさらされているため、活性酸素種が発生しやすく、そのため光酸化ストレスによる眼疾患(例えば、白内障、AMD、緑内障、糖尿病網膜症など)との関係が指摘されている(非特許文献3、非特許文献4)。糖尿病網膜症以外の上記例示の眼疾患はいずれも加齢によって生じることが知られているので、長年にわたる活性酸素種の眼内生成のためにその消去系とのバランスが破綻することによって酸化ストレス優位になり眼疾患が発症すると考えられている。本発明の組成物の有効成分である水素は眼内の活性酸素種を消去することが可能である。したがって、本発明の組成物は、AMDを含む上記眼疾患の発症予防のために、或いは、AMDを含む上記眼疾患の治療後の再発予防のためにも使用することができる。
本発明においては、AMDを有する被験体に本発明の組成物を投与するだけでAMDを有効に治療又は予防することができる。さらにAMDの治療効果を高めるために、他のAMD治療薬及び/又はAMD治療のための物理的療法(例えば、脈絡膜血管新生を物理的に破壊又は抑制する治療法)による治療との併用療法を行ってもよい。これらの併用療法における本発明の組成物の投与は、その投与時期は特に限定されない。例えば、併用療法における本発明の組成物の投与は、他のAMD治療薬による治療又はAMD治療のための物理的療法による治療の実施の前に、当該投与もしくは実施の間に、又は当該投与もしくは実施の後に行うことができる。後述の実施例によれば、他のAMD治療薬(例えばルセンティス(登録商標))による治療及び光線力学療法(例えばレーザー治療)による治療によっても症状が改善しないAMD症例であっても、当該治療の後又は間に本発明の組成物の投与が行われたとき良好な改善が確認された。
他の加齢黄斑変性治療薬は、例えば上記の抗血管新生薬、抗酸化物質などを含む。抗血管新生薬の例は、抗VEGF薬(例えばラニビズマブ、ベバシズマブ、アフリベルセプトなど)、ステロイド薬(副腎皮質ホルモン、例えばトリアムシノロンアセトニド)などを含み、これらの薬剤は臨床的に眼内投与(例えば硝子体内注射)される。抗酸化物質は、抗酸化作用が認められる物質、例えばビタミンA、ビタミンCもしくはビタミンE、カロテノイド、ポリフェノール、ルテイン、アントシアニン、ゼアキサンチン、亜鉛などを含み、抗酸化ビタミンと亜鉛についてはそれらの併用が好ましい。その他の薬剤の例は、AMDの発症を抑制すると考えられているドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサペンタエン酸(EPA)などを含む。上記の抗酸化物質やその他の物質は、適宜、点眼薬に含有させて投与されてもよいし、或いは経口摂取されてもよい。
AMD治療のための物理的療法による治療との併用療法の例は、本発明の組成物によるAMD治療とレーザー光凝固治療又は光線力学療法との併用を含む。これらの併用にはさらに、上記の他のAMD治療薬による治療を追加することができる。
レーザー光凝固治療は、中心窩外の新生血管にレーザー光線を照射して焼き潰す治療法である。これにより黄斑のむくみや出血が解消されて視力の低下を抑えることができる。
光線力学療法は、光に反応する薬剤(例えばベルテポルフィン)を注射したあと、レーザーを使って新生血管を詰まらせ縮小させる治療法である。この薬剤は新生血管に詰まる性質があり、レーザーを照射する薬剤が化学反応を起こし、新生血管内に生じた活性酸素種の影響により新生血管内に血栓ができて血管を塞ぐことで新生血管を縮小させる。
本発明の組成物によるAMD治療又は予防は、専門医の診断と指示に基づいて行われるべきである。本発明の組成物によるAMD治療又は予防の際には、十分な治療効果と安全性が確認された、水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置(例えば、上記の水素ガス供給装置(もしくは気体状水素吸入装置)、水素添加器具(もしくは水素水生成装置)、非破壊的水素含有器(水素透過性バッグに封入された点滴液などの生体適用液に非破壊的に水素ガスを溶解する装置)などの装置)を使用することが望ましい。
AMD治療又は予防(例えば再発予防)は、専門医の指示又は治療計画に基づいて、本発明の組成物によるAMD治療、或いは、他のAMD治療薬及び/又はAMD治療のための物理的療法による治療と本発明の組成物によるAMD治療との併用療法によって実施されることが好ましい。
以下の実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>水素による加齢黄斑変性の治療
[症例]
患者(性別:男性、年齢:62歳)は、平成25年9月、左目にかゆみを感じ眼鏡を外して左目を抑えた。左目を抑えたときの右目の視界に歪みがあった。
右目の歪みは、視界の左から右上に向かっており、室内に置かれている家具を見たときに幅が2/3程の幅に見え、人の顔を見ても誰かわからないものであった。
翌日、眼科医院に通院、悪い病気であることを医師から告げられた。後日、眼底造影検査の結果、加齢黄斑変性(滲出型)と診断された。
当該医院では、ルセンティス(登録商標)(抗VEGF薬であるラニビズマブ;ノバルティスファーマ(株))の治療は可能であるが、レーザー治療はできないとのことであったので、レーザー治療の可能な総合病院を紹介され、上越市の総合病院に通院した。
[治療1]
総合病院で検査と治療計画を立て、積極的な治療をしていくことになった。
患者に対しルセンティス(登録商標)が硝子体に注射され、患者は一週間後にレーザー治療を受け、さらに一か月後に再度ルセンティス(登録商標)が注射された。
治療の効果が出てきたので、ルセンティス(登録商標)の注射間隔を徐々に空けていき、10か月後には注射を止めて検査のみとなった。その後は3か月に1度通院し検査をしながら病状を確認した。
2年後に病状が悪化しているという検査結果を受けた。
患者は前回と同じ治療を受けるが、治療結果が思わしくなく、2回目のレーザー治療と、概ね1か月に1回ほどのルセンティス(登録商標)の注射を受けた。
患者は平成30年1月にルセンティス(登録商標)の注射を受けたが、検査結果が非常に悪く、2月の注射で結果が悪ければ、再度レーザー治療を受けることを勧められた。
[治療2]
患者は、平成30年2月に気体状水素吸入装置(MHG-2000(登録商標);MiZ株式会社)を用いて1回あたり約2時間、合計3回(7日間間隔)にわたり気体状水素を吸引した。MHG-2000の水素濃度は約4%(水素発生量、約70ml/min)である。
その後、患者はルセンティス(登録商標)の注射を受け、注射から一週間後に眼底精密検査が行われ、病状を確認したところ、脈絡膜新生血管の縮退が認められた。
水素ガス吸入を始めるまでの3年間はレーザー治療、ルセンティス(登録商標)注射で効果が見られない状況が続いていたため、脈絡膜新生血管の縮退は水素吸引による効果によるものであると判断された。
さらにその後、患者は、水素濃度1.6ppm(水素発生量、約9ml/500ml)の水素水を生成することができる水素水生成装置アキュエラブルー(登録商標)(MiZ株式会社)を用いて1日に朝500ml、夜500mlを1か月間飲水した。
患者は平成30年4月11日にルセンティス(登録商標)注射を受けた際に、病状を確認すると網膜色素上皮剥離の症状が多少残っていたが、その1週間後に再度検査を受けたところ、脈絡膜新生血管が消滅し、網膜色素上皮剥離が消失していた。また、加齢黄斑変性のあった側の目の視力が、水素の吸引と水素水の飲用により0.1から1.2に向上していた。
本発明は、加齢黄斑変性の治療による症状の改善のために有用である。

Claims (4)

  1. 水素を有効成分として含む組成物であって
    前記組成物が水素ガス含有気体の形態を含み、
    前記水素ガス含有気体の水素濃度が0.5~18.5体積%であり、
    ヒトによって吸入され、
    他の加齢黄斑変性治療薬と併用する、
    ヒトにおける加齢黄斑変性の治療又は予防のための組成物であり、
    前記加齢黄斑変性が、脈絡膜血管新生が生じる加齢黄斑変性であることを特徴とする組成物
  2. 前記吸入が、大気圧環境下で行われる、請求項に記載の組成物。
  3. 前記他の加齢黄斑変性治療薬が抗血管新生薬である、請求項に記載の組成物。
  4. 前記請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物を作製する方法であって、前記組成物が水素ガス生成装置を用いてその場で作製されることを特徴とする方法。
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