JP7217516B2 - 標的物質検出装置及び荷電処理粒子 - Google Patents
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Description
前記FIA法は、特定の細菌やウイルスなどの標的物質に特異的に結合する抗体を用いて蛍光色素を結合させ、蛍光顕微鏡等で蛍光色素の発光を観測することで標的物質を検出・定量する手法である。
また、前記ELISA法は、検出プレート上に抗原-抗体反応を用いて前記標的物質を固定させた後、酵素標識抗体を結合させ、前記酵素により発色する基質を添加しその色の変化から標的物質を検出・定量する。
いずれの方法も確立された生体関連物質検出法として広く用いられているが、これらの方法は、多段の反応工程や繰り返しの洗浄工程を要し、測定結果を得るまでに多くの時間と手間が必要となる問題がある。また、検出感度の一層の向上が求められている。
しかしながら、こうした磁性粒子を用いた測定法では、前記結合体を磁場によって検出位置に集める濃縮効果によって、検出感度を向上させることができるものの、濃縮先の前記検出位置で浮遊する夾雑物、前記液体試料容器底面上に吸着する前記夾雑物、前記液体試料容器底面上のキズ、更には、検出に用いる検出光の光源出力の揺らぎなどを原因とするノイズ信号と、前記結合体に基づく光信号とを区別できないことから、検出の精度が低い問題がある。このような問題は、前記微小物質の検出を行う場合に、より一層顕在化する。
また、前記液体試料容器底面上に吸着する前記夾雑物に基づく前記ノイズ信号を排除するためには、検出ごとにいちいち前記夾雑物を取り除く洗浄処理が必要となり、依然として検出の効率性が低い問題がある。
つまり、磁場の印加により前記結合体が移動する一方で、前記ノイズ信号等は移動しないことから、検出される光信号の移動の様子を観察することで、この光信号が前記結合体に起因するものであるか、前記ノイズ信号等に起因するものかを区別することができ、延いては、検出の精度、効率性を向上させる。
したがって、前記磁場印加部を配する前記外力支援型センサでは、装置の小型化が困難であり、延いては、可搬性に乏しいため、室外の検出現場に赴いて検出を行う用途など持ち運びを要する用途に適さない問題がある。
<1> 標的物質と前記標的物質と結合体を形成する荷電粒子を含む液体試料が表面上に導入されるとともに光の照射を受けて伝搬光及び近接場光のいずれかの検出光を生じさせる液体試料導入板が配され、かつ、前記液体試料が前記液体試料導入板の前記表面上に保持可能とされる液体試料保持部と、前記液体試料導入板に前記光を照射して前記検出光を生じさせる光照射部と、前記液体試料導入板の前記表面側に配され、電圧の印加により前記液体試料中の前記結合体を電極間で移動させる一対の電極を備える移動電場印加部と、前記検出光に基づく光信号の信号変化から前記結合体の移動を検出可能とされる光信号検出部と、を有し、前記移動電場印加部が、前記液体試料導入板の前記表面に離間させて形成される一対の表面電極で構成されることを特徴とする標的物質検出装置。
<2> 更に、液体試料導入板の表面側に配され、電圧の印加により液体試料中の結合体を電極間で移動させ、かつ、前記表面に引き寄せる一対の電極を備える引き寄せ電場印加部を有する前記<1>に記載の標的物質検出装置。
<3> 引き寄せ電場印加部が、移動電場印加部を構成する液体試料導入板の表面に離間させて形成される一対の表面電極の間の位置で前記液体試料導入板の前記表面に形成される表面電極と、透明電極材料で形成され前記表面電極と鉛直方向で対向して前記液体試料導入板上に導入された液体試料を覆うように配されるカバー電極とを備える前記<2>に記載の標的物質検出装置。
本発明の標的物質検出装置は、液体試料保持部と、光照射部と、移動電場印加部と、光信号検出部とを有し、必要に応じて、その他の部を有する。
前記液体試料保持部は、液体試料導入板が配され、かつ、液体試料が前記液体試料導入板の表面上に保持される部である。
前記液体試料は、標的物質と、前記標的物質と結合体を形成する荷電粒子とを含む。
前記標的物質としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、例えば、DNA、RNA、タンパク質、ウイルス、菌、汚染物質などが挙げられる。
前記標的物質の検出対象となる具体的な被検体液としては、例えば、血液、唾液、尿、液体薬品、環境水、上下水、飲料、食品のホモジナイズ溶液、ぬぐい液、粉末等の固体試料を水等の溶媒に溶解させた溶液、気相中のガスや微粒子などを捕集した気相濃縮液などが挙げられる。
したがって、具体的な前記液体試料としては、前記被検体液に前記荷電粒子などを加えたものが挙げられる。
前記荷電粒子は、前記標的物質と結合して前記結合体を形成するとともに、前記移動電場印加部から印加される電場に基づき、前記標的物質を引き連れて移動する作用を持つ。
前記荷電粒子としては、このような作用を有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、前記標的物質と安定的に結合させる観点及び電場の印加に伴う移動を生じ易くさせる観点から、次の荷電処理粒子が好ましい。
加えて、前記荷電処理粒子は、液中に分散させて保管することが可能であり、前記荷電処理粒子を調製、保管しておけば、前記標的物質の検出を行う際の前記液体試料の調製を効率的に行うことができる。
前記荷電処理粒子は、複数の第1の官能基で表面修飾された粒子本体の一部の前記第1の官能基又はその誘導基に前記標的物質と結合可能な結合物質が結合され、かつ、前記結合物質と未結合の前記第1の官能基又はその誘導基に液中で陽イオン又は陰イオンにイオン化する第2の官能基を1分子中に複数有する荷電分子が結合される粒子である。
前記球状粒子の直径としては、特に制限はないが、伝搬光による検出を行う場合、50nm~10μmが好ましく、近接場光による検出を行う場合、50nm~2μmが好ましい。
また、複数の前記第1の官能基で表面修飾された前記粒子本体としては、種々の用途で用いられており、公知のものから適宜選択して用いることができる。
前記第1の官能基の誘導基としては、前記第1の官能基に対し前記結合物質及び前記荷電分子を結合させるために誘導される基が挙げられる。
例えば、前記第1の官能基がカルボキシ基(COOH)であるときに、前記カルボキシ基にカルボン酸活性試薬としてのN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を結合させた後、形成された活性エステル(NHSエステル体)にアミノ基を有する前記結合物質及び前記荷電分子を脱水縮合させて形成されたアミド結合(CONH)中の前記カルボキシ基残基(CO)や、カルボキシ基(COOH)に前記結合物質及び前記荷電分子をエステル結合(COOR)させたときの前記カルボキシ基残基(COO)などが前記誘導基に該当する。
今、前記第1の官能基としてカルボキシ基を選択した場合の前記カルボキシ基で表面修飾されたポリスチレンビーズを例に挙げて説明をすると、このポリスチレンビーズは、中性の液中に分散させた状態で、前記カルボキシ基の陰イオン化によって負に帯電するが、アミンカップリング反応などにより前記カルボキシ基の一部を前記結合物質と結合させると、前記ポリスチレンビーズの表面における前記結合物質と未結合の陰イオン化された前記カルボキシ基の数が減少し、電荷が小さくなる。その結果、電場印加に伴って移動を行うのに必要な電荷が得られにくい。
実際、前記カルボキシ基で表面修飾された前記ポリスチレンビーズを用いた実験では、前記結合体としてIgG抗体分子だけを結合させると、前記ポリスチレンビーズの電場中での移動を確認できないケースがある一方で、前記IgG抗体分子に加えて前記荷電分子としてのグルタミン酸を結合させたこと以外は、同一条件下で行ったケースでは、前記ポリスチレンビーズの電場中での移動が確認されている。
前記接合分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロテインA、プロテインG、アビジン及びその誘導体(ニュートラアビジン等)、ストレプトアビジン、ビオチン及びその誘導体などが挙げられる。
前記液中移動速度としては、前記光信号検出部による前記液体試料導入板表面の観察において、実用的な観察時間内で前記荷電粒子を含む前記結合体の光点の1ピクセル以上の移動が連続して確認できる速度、あるいは、ブラウン運動によるランダム移動の平均移動量を上回る速度のいずれか大きい方が好適に該当する。
ここで、前記実用的な観察時間とは、オンサイト測定で20分以内であり、好適には5分以内である。
また、電場印加前と電場印加後とにおける2枚の観察画像だけでは、電場印加による光点移動とブラウン運動によるランダムな光点移動とが判別できない場合があることから、電場印加前後の観察画像は、少なくとも3枚以上連続して取得する必要がある。したがって、1枚の画像取得にかけられる時間としては、400秒以内、好適には100秒以内である。
観察画像の1ピクセルの大きさは、イメージセンサの素子によって様々であるが、一般に1μm~10μmの範囲の大きさを持つ。そのため、前記結合体の液中移動量としては、10μm以上であることが好適である。
したがって、前記実用的な観察時間内で、前記結合体の光点の1ピクセル以上の移動が連続して確認できる速度は、0.025μm/s以上、好適には0.1μm/s以上である。
一方、ブラウン運動によるランダム移動の平均移動量Δxは、球形粒子について下記式(1)で求められる。
前記式(1)に示されるように平均移動量Δxは、前記荷電粒子の粒子径が小さくなるほど大きくなる。ここでは、直径100nmの前記荷電粒子を基準粒子として考え、温度を20℃、溶媒を水として計算を行うと、観察時間100秒において、平均移動量Δxが29μmとなり、観察時間400秒において平均移動量Δxが58μmとなる。
したがって、ブラウン運動によるランダム移動の平均移動量を上回る速度は、0.3μm/s以上となる。
よって、前記実用的な観察時間内で前記荷電粒子を含む前記結合体の光点の1ピクセル以上の移動が連続して確認できる速度、あるいは、ブラウン運動によるランダム移動の平均移動量を上回る速度のいずれか大きい方とする前記移動速度は、0.3μm/s以上である。
携帯電話やノートパソコン等で広く用いられるリチウムイオンポリマー二次電池の電圧は、3.7Vであり、小型機器で広く用いられるコイン型リチウム電池の電圧は、3.0Vである。
よって、前記移動電場印加部の駆動源から選択される、前記移動電場印加部に対する好適な印加電圧としては、3.0V以下である。
一方、前記印加電圧の下限としては、電気泳動を生じるためには電極で電解反応が生じる必要があることから、電解反応を起こすために必要な電圧を超える電圧を印加する必要がある。生じる電解反応の種類は、前記液体試料の構成成分に応じて様々であるが、代表的な被電解反応物質として水を考えると、電解反応を起こすためには1.23Vを超える電圧を印加する必要がある(下記参考文献1参照)。したがって、前記印加電圧の下限は1.3V程度である。
以上から、前記荷電粒子としては、前記移動電場印加部を構成する一対の電極に対し、1.3V~3.0Vの範囲内の電圧を印加したときに、いずれかの電圧値で0.3μm/s以上の液中移動速度を有することが好ましい。
なお、前記粒子本体の表面に前記荷電分子を結合させた前記荷電処理粒子として、後述の実施例で用いたポリスチレンビーズは、前記結合体の移動光点観察の結果より、2.8Vの電圧印加によって、180秒間に280μmの距離を移動することが確認され、その液中移動速度は、0.3μm/sを大幅に超える1.6μm/sである。
なお、本明細書において、「液中移動速度」とは、水を90体積%以上含む溶液を液体としたときに前記液体中で一対の電極間を電気泳動により移動する速度を示す。
参考文献1:渡辺他、基礎科学コース 電気化学、丸善(2001)
前記標的物質は、前記結合体から発せられる光信号の移動を通じて前記光信号検出部により検出される。
前記標的物質が蛍光等の光信号を発しない場合には、前記光信号検出部による光信号検出のため、前記標的物質に光応答性の標識物質を結合させて前記結合体の移動に基づく前記光信号の信号変化を検出する。
前記標識物質としては、このような性質を有する物質であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蛍光色素、量子ドット等の公知の蛍光物質を挙げることができる。
また、前記標識物質に色素を用いる場合、前記標的物質の前記色素による染色も、前記標的物質と前記標識物質との結合方法として有効である。
なお、前記物理吸着による結合方法としては、例えば、水素結合等の静電的な結合力を利用して、前記標的物質と前記標識物質とを結合させる方法を挙げることができる。
これらの結合方法の中でも、前記標識物質が前記夾雑物と結合することを避けるため、前記抗原-抗体反応、前記アプタマーによる結合、前記DNAハイブリダイゼーション、前記ビオチン-アビジン結合、前記キレート結合などの結合方法により、前記標的物質と前記標識物質とを特異的に結合させることが好ましい。
前記液体試料導入板は、前記液体試料が表面上に導入されるとともに光の照射を受けて前記伝搬光及び前記近接場光のいずれかの検出光を生じさせる部材である。
前記液体試料導入板としては、前記液体試料が表面上に導入されるとともに裏面側又は前記表面側から照射される光の透過光を前記伝搬光として前記光が照射される側と反対の面側に伝搬可能とされる透光板、前記液体試料が前記表面上に導入されるとともに前記表面側から照射される光の反射光を前記伝搬光として前記表面上方に伝搬可能な反射板、前記液体試料が前記表面上に導入される導入板、及び、前記液体試料が前記表面上に導入されるとともに前記表面に対して全反射条件で照射される光により前記表面上に前記近接場光を発生可能な検出板のいずれかで形成される。
なお、前記伝搬光とは、一般に発生源から数百nm~数μm以内の距離だけ離れた位置で急激な減衰を示す近接場光を含まない光とされるが、本明細書においても、前記近接場光を含まないことを意味し、前記液体試料導入板の前記表面から数百nm~数μm以内の距離だけ離れた位置で急激な減衰を示すことのない光を意味する。また、前記近接場光とは、前記液体試料導入板の前記表面から数百nm~数μm以内の距離だけ離れた位置で急激な減衰を示す光を意味する。
また、前記反射板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の落射型顕微鏡の観察用ステージに用いられるガラス板、プラスチック板、金属板などの公知の反射板を用いることができる。
また、前記導入板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記透光板、前記反射板を含み、この他の液体試料を導入するための公知の板状部材を用いることができる。
また、前記検出板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の表面プラズモン共鳴センサや公知の光導波モードセンサに用いられる検出板などの公知の検出板を用いることができる。
前記吸着抑制剤としては、特に制限はなく、前記結合体を構成する物質の種類に応じて、公知の吸着抑制剤から適宜選択することができる。
例えば、前記表面処理の手法として、前記標的物質が前記タンパク質である場合には、前記タンパク質の吸着を抑制する公知のブロッキング法を選択することができる。前記ブロッキング法としては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレングリコールを用いる手法、エタノールアミンを用いる方法、スキムミルクを用いる方法などが挙げられる。
また、前記液体試料保持部の構成としては、底面が前記液体試料導入板で構成される枡状の液体セルで構成することもできる。
なお、前記液体試料保持部としては、1つの前記液体試料導入板の前記表面上の領域を複数に分画してマルチチャンネル化させてもよい。
前記光照射部は、前記液体試料導入板に前記光を照射して前記検出光を生じさせる部である。
前記光照射部としては、裏面側光照射部、表面側光照射部、側面側光照射部及び全反射光照射部のいずれかで形成される。
前記裏面側光照射部の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の透過型顕微鏡に用いられる公知の光照射部と同様に構成することができる。
前記表面側光照射部の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反射板で形成される場合、公知の落射型顕微鏡に用いられる公知の光照射部と同様に構成することができ、また、前記透光板で形成される場合、公知の透過型顕微鏡に用いられる公知の光照射部と同様に構成することができる。
前記側面側光照射部の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の光照射部と同様に構成することができる。
前記全反射光照射部の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の表面プラズモン共鳴センサや公知の光導波モードセンサに用いられる公知の光照射部と同様に構成することができる。
また、前記裏面側光照射部、前記表面側光照射部及び前記全反射光照射部としては、前記光源以外の光学要素についても特に制限はなく、公知の光学顕微鏡、公知の表面プラズモン共鳴センサや公知の光導波モードセンサに用いられる公知の光学要素を目的に応じて適宜採用して構成することができる。
移動電場印加部は、前記液体試料導入板の表面側に配され、電圧の印加により前記液体試料中の前記結合体を電極間で移動させる一対の電極を備える。つまり、前記移動電場印加部は、電圧印加に伴って発生する電場により前記一対の電極間で前記結合体を電気泳動させる作用を有する。
このような移動電場印加部を配することで、前記結合体を移動させる外力として磁場を利用する従来例と比較して、装置の小型化及び可搬性を向上させることができる。
具体的には、前記荷電粒子における正又は負の帯電状況に応じて、前記一対の電極に電圧を印加して前記荷電粒子と結合する前記標的物質を電気泳動により負極方向又は正極方向に移動させる。
前記結合体を移動させる方向としては、前記液体試料導入板の前記表面の面内方向と平行な方向のベクトル成分を持つ方向及び前記液体試料導入板から遠ざかる方向のベクトル成分を持つ方向のいずれかの方向が挙げられる。
前記液体試料導入板の前記表面の面内方向と平行な方向に前記結合体を移動させると、例えば、前記結合体の移動前後の過程における2次元画像における光点の経時的なズレや光点の消失(観察視野外まで移動)として、前記標的物質を検出することができる。また、前記液体試料導入板から遠ざかる方向に前記結合体を移動させると、例えば、前記結合体の移動前後の過程における2次元画像における光点の経時的な大きさの変化や光点の消失(観察視野外まで移動)として、前記標的物質を検出することができる。
前記表面電極として構成すると、前記液体試料導入板と前記移動電場印加部とを一体化させることができ、装置の大型化を抑制することができる。また、前記カバー電極として構成すると、前記カバーガラスに置き換えて配することができ、装置の大型化を抑制することができる。
前記各表面電極の形成材料としては、特に制限はなく、公知の電極材料を用いることができる。また、前記各表面電極の前記液体試料導入板への形成方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、化学気相成長法、ゾルゲル法、塗布法などが挙げられる。
前記透明電極材料としては、特に制限はなく、公知の酸化インジウムスズ(ITO)、二酸化スズ、IGZO等を挙げることができる。
なお、前記カバー電極としては、前記透明電極材料自身で形成されるものに加え、前記カバーガラスの一の面に前記透明電極材料による電極層を形成したものも含まれる。
前記光信号検出部は、前記検出光に基づく光信号の信号変化から前記結合体の移動を検出可能とされる。
また、前記光信号検出部としては、特に制限はないが、前記液体試料導入板の前記表面上の検出領域の様子を2次元画像として取得可能とされることが好ましい。前記2次元画像を取得できると、光点や暗点として現れる前記2次元画像中の前記光信号の位置情報やサイズ情報を容易に取得することができ、前記結合体の移動前後の前記2次元画像同士を比較して、前記光信号が前記結合体に関与する情報であるのか、或いは、前記液体試料導入板の前記表面上のキズ、前記夾雑物、光源出力の揺らぎ等の前記結合体に関与しない情報であるのかを明確に区別することが可能となる。このような2次元画像の取得を可能とするには、前記光信号検出部として撮像デバイスを選択すればよい。
前記撮像デバイスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなどの公知のイメージセンサを用いることができる。
なお、前記光信号検出部により前記光信号を検出する方法としては、前記光信号検出部の結像可能範囲外及び前記近接場光の発生領域(前記液体試料導入板の前記表面から数百nm~数μm上方の領域)外に存在する前記結合体の検出漏れを防ぐため、一旦、前記液体試料導入板の前記表面上ないし前記表面近傍に前記結合体を配した後に検出を実施する方法が好ましい。
また、前記標的物質を検出することとしては、前記標的物質の有無の検出、前記標的物質の存在量の検出(定量測定)、前記標的物質の存在状況のリアルタイム観察等が挙げられる。
前記その他の部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、引き寄せ電場印加部、公知の透過型顕微鏡、公知の落射型顕微鏡、公知の表面プラズモン共鳴センサ、公知の光導波モードセンサ等に用いられる任意の部が挙げられる。
前記引き寄せ電場印加部は、前記液体試料導入板の表面側に配され、電圧の印加により前記液体試料中の前記結合体を電極間で移動させ、かつ、前記表面に引き寄せる一対の電極を備える。つまり、前記引き寄せ電場印加部は、電圧印加に伴って発生する電場により前記一対の電極間で前記結合体を電気泳動させて前記表面に引き寄せる作用を有する。
前記光信号検出部では、前記液体試料導入板の前記表面近傍を検出領域とすることから、前記引き寄せ電場印加部を持たない場合、前記液体試料中の前記結合体が前記液体試料導入板の前記表面近傍まで重力沈降するまで検出操作の実行を待つ必要があるが、前記引き寄せ電場印加部を配する場合、前記重力沈降を待つ必要がなく、効率的に検出操作を実行することができる。
なお、前記カバー電極としては、前記一対の電極間で電位の高低をスイッチさせることにより、前記結合体を前記液体試料導入板の前記表面側に引き寄せる作用と前記表面側から遠ざける作用との2つの作用を持たせることができ、延いては、前記移動電場印加部及び前記引き寄せ電場印加部を構成する前記一対の電極における対極として、これらの部が持つ双方の機能を与えることができる。
本発明の荷電処理粒子は、複数の第1の官能基で表面修飾された粒子本体の一部の前記第1の官能基又はその誘導基に前記標的物質と結合可能な結合物質が結合され、かつ、前記結合物質と未結合の前記第1の官能基又はその誘導基に液中で陽イオン又は陰イオンにイオン化する第2の官能基を1分子中に複数有する荷電分子が結合されることを特徴とする。
前記荷電処理粒子は、本発明の前記標的物質検出装置に対し前記荷電粒子として用いられ、前記標的物質検出装置についての説明文中で前記荷電処理粒子として説明した事項を適用することができ、ここでは、重複した説明を省略する。
図1に示すように標的物質検出装置1は、液体試料導入板2と、光源6及び光学プリズム8で構成される光照射部と、前記移動電場印加部の構成電極としての一対の表面電極3A,3Bと、光信号検出部7(撮像デバイス)とで構成される。なお、前記撮像デバイスは、例えば、公知のCCDイメージセンサ等で構成され、2次元画像の取得が可能とされる。
前記光照射部は、光源6から照射される光Lを光学プリズム8を介して液体試料導入板2の前記表面に対して全反射条件で照射可能とされる全反射光照射部として構成される。
表面電極3A,3Bは、液体試料導入板2表面の側面側の位置に離間させて形成され、光信号検出部7では、これら表面電極3A,3B間の光照射領域を含んで検出領域が設定される。
先ず、標的物質検出装置1に用いられる前記荷電粒子として前記荷電処理粒子を含む液体試料4の調製方法について、図2(a)~(e)を参照しつつ説明する。なお、図2(a)は、液体試料4の調製方法の概要を示す説明図(1)~(5)である。
次に、図2(b)に示すように、前記表面修飾粒子に対し、前記結合物質として抗原(前記標的物質)と特異的に結合する抗体Igとを液中で反応させ、前記表面修飾粒子の一方の第1の官能基R1の前記誘導基に抗体Igを結合させる。
次に、図2(c)に示すように、液中でイオン化(陰イオン化)する第2の官能基R2を1分子中に2つ有する前記荷電分子を加え、前記表面修飾粒子の他方の第1の官能基R1の前記誘導基に前記荷電分子を結合させ、前記荷電処理粒子を得る。この時、前記荷電処理粒子では、図2(b)に示す前記表面修飾粒子に比べてイオン化する官能基が増え、電荷が大きくなることで電場印加に伴う移動が生じ易くなる。
次に、図2(d)に示すように、抗原Ag(前記標的物質)を含む前記被検体液を加え、抗体Igと抗原Agとの抗原抗体反応により、抗原Ag(前記標的物質)と前記荷電処理粒子とを結合させた前記結合体を得る。
ここで、抗原Ag(前記標的物質)が前記近接場光を受けて蛍光等の光信号を発しない場合には、図2(e)に示すように、更に抗体Ig付きの標識物質Oを加えて、前記荷電処理粒子と抗原Ag(前記標的物質)と標識物質Oとを結合させた前記結合体を得る。
以上により、液体試料4が調製される。
先ず、調製した液体試料4を液体試料導入板2の前記表面上に導入し、保持させる。
液体試料4の液層中を浮遊する前記結合体が液体試料導入板2の前記表面近傍に重力沈降するのを待ち、光源6から照射される光Lを光学プリズム8を介して液体試料導入板2の前記表面に対して全反射条件で照射し、光信号検出部7で前記表面上の前記近接場光に基づく光信号Sを取得する。
次に、検出領域(観察視野)を維持したまま前記結合体を移動させた後の液体試料導入板2の前記表面上の光信号を光信号検出部7で取得する。なお、前記結合体の移動状態は、一連の移動を経時的に区切り、複数の状態として把握することが好ましい。つまり、移動開始から移動完了までの前記結合体の一連の移動を複数に分けて捉え、各時点での光信号として複数取得することが好ましい。このような光信号の取得方法により、ブラウン運動によるランダムな移動と、電場による移動とを区別し易くすることができる。
更に、外力として磁場を利用する目的で磁場印加部が配される従来の外力支援型センサに比べ、外力として電場を利用する表面電極3A,3Bが配される標的物質検出装置1の方が、装置の大型化を抑制することができ、小型で可搬性に優れた装置を提供することができる。
図3に示すように、この変形例では、液体試料導入板2の表面上に表面電極3A,3Bに代えて、表面電極13A,13B,13Cが配されるとともに、カバーガラス5に代えてカバー電極19が配されて構成される。
この変形例では、表面電極13Aと表面電極13Cとの間の領域又は表面電極13Cと表面電極13Bとの間の領域を光信号検出部7による光信号の検出領域として、表面電極13A,13Bが表面電極3A,3Bと同様に前記移動電場印加部として作用する。
また、表面電極13Cとカバー電極19とは、電圧の印加により液体試料4の液層中を浮遊する前記結合体を液体試料導入板2の前記表面側に引き寄せる前記引き寄せ電場印加部として作用する。
なお、カバー電極19は、印加する電圧の極性をスイッチさせることにより、前記移動電場印加部及び前記引き寄せ電場印加部を構成する前記一対の電極における対極として、これらの部が持つ双方の機能を発揮させることができる。即ち、カバー電極19と表面電極A(又は表面電極B)とで前記移動電場印加部における前記一対の電極を構成することができ、また、カバー電極19と表面電極13Cとで前記引き寄せ電場印加部における一対の電極を構成することができる。
このような前記引き寄せ電場印加部を有する変形例によれば、液体試料4の液層中を浮遊する前記結合体が液体試料導入板2の前記表面近傍に重力沈降するのを待つ必要がなく、効率的に前記標的物質の検出を行うことができる。
具体的に、液体試料導入板2としては、厚さ0.75mmのSiO2基板を用いた。光源6としては、中心波長635nmの半導体レーザ(Thorlabs社、型番CPS635)を用いた。液体試料導入板の裏面には、SiO2ガラス製の光学プリズム8を光学的に密着させて配し、液体試料導入板2の表面に対して入射角67°で光源6からの光を入射させる構成とした。
また、前記移動電場印加部としては、表面電極3A,3Bとして厚さ300nmの酸化インジウムスズ電極を5mmの距離を置いて形成し、各電極上に固定した銅細線を介して表面電極3A,3Bをファンクションジェネレーター(エヌエフ回路設計ブロック社、型番WF1974)に接続し、直流電圧を印加する構成とした。
また、液体試料導入板2及び表面電極3A,3Bに対する前記結合体の吸着を防止するため、吸着防止層として、これら部材の表面にメトキシトリエチレングリコール-トリエトキシシランの単分子膜を形成した。
また、光信号検出部7としては、5倍の対物レンズを備えた光学顕微鏡に冷却CCDカメラ(ビットラン社、型番BU-59LIR)を組み込んだものを用い、前記光信号を光点とする2次元画像を取得する構成とした。また、前記荷電処理粒子や液体試料導入板2の表面に付着した夾雑物等が前記近接場による光を散乱することで生じる散乱光の光信号を除外し、前記標識物質中の蛍光色素からの光信号だけを取得するため、前記対物レンズと前記CCDカメラとの間の光路中に透過波長680nmのバンドパスフィルタ(Thorlabs社、型番FB680-10)を配する構成とした。つまり、光信号検出部7としては、5倍の前記対物レンズ及び透過波長680nmの前記バンドパスフィルタを備えたCCDカメラを用いたこととなる。
また、前記荷電処理粒子(前記荷電粒子)としては、前記第1の官能基としてのカルボキシ基で表面修飾された直径100nmのポリスチレンビーズに対し、前記結合物質としての抗マウスIgG-ロバ抗体と、前記荷電分子として1分子中にカルボキシ基を2つ有するグルタミン酸とを結合させたものを用いた。
この荷電処理粒子は、次のように調製した。
調製試薬として、Polylink Protein Coupling Kit(Polyscience社製、バッファー液としてのPolylink Coupling Bufferと、活性化剤としての1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDAC)とを含む)を用いる。
先ず、前記ポリスチレンビーズ12.5mgを前記バッファー液170μLに分散させた分散液を、前記バッファー液に前記EDACを加えて調製した濃度が200mg/mLのEDAC溶液10μLと混合して混合液を調製し、前記混合液を15分間反応させ、前記ポリスチレンビーズ表面の前記カルボキシ基を活性誘導基に変換した。
次に、遠心分離で上清を除去して行うビーズ洗浄により、前記混合液から得られた前記ポリスチレンビーズの濃縮液を別の前記バッファー液170μLに再分散させて再分散液を調製した。
次に、前記再分散液に対し、前記バッファー液に前記抗マウスIgG分散液(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)を加えて調製した濃度が5μg/mLの前記抗マウスIgG溶液10μLを混合し、30分間室温で反応させて前記活性誘導基に前記抗マウスIgGを結合させ、前記ポリスチレンビーズの1次処理液を調製した。
次に、前記ポリスチレンビーズの1次処理液に対し、リン酸緩衝生理食塩水(富士フィルム和光純薬社製)にグルタミン酸(富士フィルム和光純薬社製)を加えて調製した濃度が500ng/mLのグルタミン酸溶液10μLを混合し、24時間室温で反応させ、前記抗マウスIgGと未結合の前記活性誘導基に前記グルタミン酸を結合させ、前記ポリスチレンビーズの2次処理液を調製した。
その後、前記ポリスチレンビーズの2次処理液に対し、前記ビーズ洗浄を3回行い、前記ポリスチレンビーズ表面の前記カルボキシ基のグループのうち、一のグループが前記抗マウスIgGと結合し、他の一のグループが前記グルタミン酸と結合した状態の前記ポリスチレンビーズの表面処理粒子として、前記荷電処理粒子を調製した。
また、前記標識物質としては、直径400nmの蛍光色素Cyanine5を含有したポリマービーズ(多摩川精機社製)に抗マウスIgG-ウサギ抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)を結合させた粒子を用いた。
前記標的物質、前記荷電処理粒子及び前記標識物質としては、いずれもリン酸緩衝生理食塩水に分散させ、分散液のpHは6.7とした。
液体試料4としては、前記標的物質の分散液に前記荷電処理粒子の分散液及び前記標識物質の分散液を混合させて調製した。
先ず、100μLの液体試料4を液体試料導入板2上に導入後、カバーガラス5を配して液体試料4を液体試料導入板2上に保持させた。
次に、光源6から光Lを照射し、液体試料導入板2の表面に近接場を形成させた。
次に、表面電極3A,3Bに対して電圧を印加し、前記結合体の移動の様子を光信号検出部7で検出した。
また、図4の視野は、0.9mm×0.9mmであり、図中の「1」は、電圧印加前の光点、「2」は、直流電圧を印加してから30秒後の光点、「3」は、直流電圧を印加してから60秒後の光点、「4」は、直流電圧を印加してから90秒後の光点、「5」は、直流電圧を印加してから120秒後の光点、「6」は、直流電圧を印加してから150秒後の光点、「7」は、直流電圧を印加してから180秒後の光点を示している。
また、図4に示す画像の検出領域は、液体試料導入板2の表面近傍における表面電極3Aと表面電極3Bとの間の領域であり、図中、左方向に負極として表面電極3Aが配され、右方向に正極として表面電極3Bが配されている。
ここで、移動する光点は、前記標的物質、前記荷電処理粒子及び前記標識物質からなる前記結合体が、表面電極3A,3Bに印加した電圧によって液体試料導入板2の表面上を移動したことにより検出されたものである。
このように、表面電極3A,3Bへの電圧印加による光信号の移動を観測することで、前記結合体の移動に基づく光信号を、液体試料導入板2の前記表面上のキズ、前記表面に吸着ないし前記表面上に存在する夾雑物、光源出力の揺らぎなどのノイズ信号(図4中の移動しない光点)と明確に区別して検出することができる。
2 液体試料導入板
3A,3B,13A,13B,13C 表面電極
4 液体試料
5 カバーガラス
6 光源
7 光信号検出部
8 光学プリズム
19 カバー電極
P 粒子本体
R1 第1の官能基
R2 第2の官能基
Ig 抗体
Ag 抗原
Claims (3)
- 標的物質と前記標的物質と結合体を形成する荷電粒子を含む液体試料が表面上に導入されるとともに光の照射を受けて伝搬光及び近接場光のいずれかの検出光を生じさせる液体試料導入板が配され、かつ、前記液体試料が前記液体試料導入板の前記表面上に保持可能とされる液体試料保持部と、
前記液体試料導入板に前記光を照射して前記検出光を生じさせる光照射部と、
前記液体試料導入板の前記表面側に配され、電圧の印加により前記液体試料中の前記結合体を電極間で移動させる一対の電極を備える移動電場印加部と、
前記検出光に基づく光信号の信号変化から前記結合体の移動を検出可能とされる光信号検出部と、
を有し、
前記移動電場印加部が、前記液体試料導入板の前記表面に離間させて形成される一対の表面電極で構成されることを特徴とする標的物質検出装置。 - 更に、液体試料導入板の表面側に配され、電圧の印加により液体試料中の結合体を電極間で移動させ、かつ、前記表面に引き寄せる一対の電極を備える引き寄せ電場印加部を有する請求項1に記載の標的物質検出装置。
- 引き寄せ電場印加部が、移動電場印加部を構成する液体試料導入板の表面に離間させて形成される一対の表面電極の間の位置で前記液体試料導入板の前記表面に形成される表面電極と、透明電極材料で形成され前記表面電極と鉛直方向で対向して前記液体試料導入板上に導入された液体試料を覆うように配されるカバー電極とを備える請求項2に記載の標的物質検出装置。
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