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JP7275094B2 - 正極活物質調製用材料とその利用 - Google Patents

正極活物質調製用材料とその利用 Download PDF

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Description

本発明は、正極活物質調製用材料と、該正極活物質調製用材料を用いた正極活物質製造方法に関する。
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
リチウムイオン二次電池の正極には、一般的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質が備えられている。例えば、特許文献1には、サイクル特性や出力特性に優れたリチウムイオン二次電池を得るために、正極活物質として、粒度分布が狭く、中空構造を有するリチウム遷移金属含有複合酸化物粒子が開示されている。粒度分布が狭いことにより、粒子にかかる電圧の差が小さくなるため、粒子の選択的劣化を防ぎ、優れたサイクル特性を実現することができる。また、電解液が侵入可能な中空構造を有することにより、電解液との反応面積が大きくなるため、優れた出力特性を実現することができる。
特開2018-104276号公報
ところで、リチウムイオン二次電池用の正極活物質を製造するために、正極活物質前駆体粉体(正極活物質調製用材料)とリチウム化合物とを混合して焼成すると、焼結により粒子同士の接合が生じ得るため、正極活物質粒子の大きさにばらつきが生じる虞がある。これにより、充放電の繰り返しに伴う正極活物質粒子の劣化が生じやすくなるため、サイクル特性が低下する課題がある。
そこで、本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、優れたサイクル特性を実現し得る正極活物質を調製するための正極活物質調製用材料を提供することを主な目的とする。また別の側面から、かかる正極活物質調製用材料を用いた正極活物質製造方法を提供することを他の目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行ったところ、表面に小粒子を備えた正極活物質調製用材料を焼成することにより、焼結による粒子間の接合を抑制でき得ることを見出した。そして、かかる材料を用いて製造された正極活物質では、サイクル特性が良好になることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、ここで開示される正極活物質調製用材料は、コア部と、該コア部の表面の少なくとも一部に存在する被覆部とを備える原料粒子を含み、該被覆部は、前記原料粒子のSEM像において、該原料粒子の粒子径の10分の1以下の平均粒子径を有する小粒子で構成されている。さらに、上記コア部および上記小粒子は、Ni、Mn、Coからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を備えた遷移金属水酸化物を含む。
かかる構成によれば、リチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性を付与する正極活物質を製造するための正極活物質調製用材料が提供される。
また、ここに開示される正極活物質調製用材料の好ましい一態様では、上記小粒子のSEM像に基づく平均アスペクト比は1.7以下である。
かかる構成によれば、比表面積が増加し、優れた電気抵抗低減効果が発揮され得る。
また、ここに開示される正極活物質調製用材料の好ましい一態様では、上記原料粒子のSEM像において、上記被覆部が上記コア部の表面を10%以上占有した上記原料粒子を含む。
かかる構成によれば、より優れたサイクル特性および電気抵抗低減効果が実現され得る。
また、ここに開示される正極活物質調製用材料の好ましい一態様では、上記原料粒子のレーザー回折・光散乱法に基づく平均粒子径は4μm以上6μm以下である。
かかる構成によれば、サイクル特性および電気抵抗低減効果をより高いレベルで実現し得る。
また、ここに開示される正極活物質調製用材料の好ましい一態様では、上記原料粒子の断面SEM像において、上記コア部よりも上記被覆部に含まれる上記小粒子の緻密性が高い。
かかる構成によれば、さらに高いレベルでサイクル特性および電気抵抗低減効果を実現し得る。
また、上記課題を解決するべく、ここで開示される正極活物質調製用材料を用いた正極活物質の製造方法が提供される。即ち、ここで開示される正極活物質製造方法は、ここで開示される正極活物質調製用材料と、リチウム化合物とを混合すること、および、かかる混合による混合物を焼成すること、を包含する。
かかる構成によれば、リチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性を付与し得る正極活物質が提供される。
一実施形態に係る正極活物質調製用材料から製造された正極活物質を備えるリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。 一実施形態に係る正極活物質調製用材料から製造された正極活物質を備える捲回電極体の構成を示す模式分解図である。 一実施形態に係る正極活物質の製造工程を説明するための大まかなフローチャートである。 例2の正極活物質調製用材料を5000倍の倍率で観察したSEM像である。 例2の正極活物質調製用材料を15000倍の倍率で観察したSEM像である。 例2の正極活物質調製用材料を15000倍の倍率で観察した断面SEM像である。 例5の正極活物質調製用材料を15000倍の倍率で観察したSEM像である。
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。ここで開示される正極活物質調製用材料を用いて製造される正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として好適に用いることができるため、まず、リチウムイオン二次電池100の構成例について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
また、本明細書において数値範囲をA~B(ここでA,Bは任意の数値)と記載している場合は、一般的な解釈と同様であり、A以上B以下を意味するものである。
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な電池一般をいい、リチウムイオン二次電池等のいわゆる蓄電池(すなわち化学電池)の他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(すなわち物理電池)を包含する。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」は、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正極と負極との間をリチウムイオンに伴う電荷の移動によって充放電を行う二次電池である。また、本明細書において「活物質」とは、電荷担体を可逆的に吸蔵・放出する材料をいう。
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、電池ケース30の内部に、扁平形状の捲回電極体20と、非水電解質(図示せず)とが収容されることで構築される角型の密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44が備えられている。また、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36が設けられている。さらに、電池ケース30には、非水電解質を注液するための注液口(図示せず)が設けられている。電池ケース30の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属製材料が好ましく、このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
捲回電極体20は、図1および図2に示されるように、長尺シート状の正極50と、長尺シート状の負極60とが、2枚の長尺シート状のセパレータ70を介して積層され、捲回軸を中心として捲回された電極体である。正極50は、正極集電体52と、該正極集電体52の片面または両面の長手側方向に形成された正極活物質層54とを備えている。正極集電体52の捲回軸方向(即ち、上記長手側方向に直交するシート幅方向)の片側の縁部には、該縁部に沿って帯状に正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分(即ち、正極集電体露出部52a)が設けられている。また、負極60は、負極集電体62と、該負極集電体62の片面または両面の長手側方向に形成された負極活物質層64とを備えている。負極集電体62の上記捲回軸方向の片側の反対側の縁部には、該縁部に沿って帯状に負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分(即ち、負極集電体露出部62a)が設けられている。正極集電体露出部52aと負極集電体露出部62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。正極集電板42aは、外部接続用の正極端子42と電気的に接続されており、電池ケース30の内部と外部との導通を実現している。同様に、負極集電板44aは、外部接続用の負極端子44と電気的に接続されており、電池ケース30の内部と外部との導通を実現している。
正極50を構成する正極集電体52としては、例えば、アルミニウム箔が挙げられる。正極活物質層54は、ここで開示される正極活物質を備える。また、正極活物質層54は、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
正極活物質層54は、正極活物質と必要に応じて用いられる材料(導電材、バインダ等)とを適当な溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン:NMP)に分散させ、ペースト状(またはスラリー状)の組成物を調製し、該組成物の適当量を正極集電体52の表面に塗工し、乾燥することによって形成することができる。
負極60を構成する負極集電体62としては、例えば、銅箔等が挙げられる。負極活物質層64は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。また、負極活物質層64は、バインダ、増粘剤等をさらに含んでいてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
負極活物質層64は、負極活物質と必要に応じて用いられる材料(バインダ等)とを適当な溶媒(例えばイオン交換水)に分散させ、ペースト状(またはスラリー状)の組成物を調製し、該組成物の適当量を負極集電体62の表面に塗工し、乾燥することによって形成することができる。
セパレータ70としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるものと同様の各種微多孔質シートを用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る微多孔質樹脂シートが挙げられる。かかる微多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。また、セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)を備えていてもよい。
非水電解質は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。なかでも、カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を好適に採用し得る。あるいは、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)のようなフッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定されるものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分を含んでいてもよく、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
ここで開示される正極活物質調製用材料は、コア部と、該コア部の表面の少なくとも一部に存在する被覆部とを備える原料粒子を含む。
図4は、後述する実施例における例2の正極活物質調製用材料を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて5000倍の倍率で観察したSEM像であり、ここで開示される正極活物質調製用材料の代表的な一例を示す。図5は、例2の正極活物質調製用材料を15000倍の倍率で観察したSEM像であり、正極活物質調製用材料に含まれる原料粒子を拡大して示している。また、図6は、例2の正極活物質調製用材料を15000倍の倍率で観察した断面SEM像である。図4~6のSEM像からわかるように、原料粒子のコア部の表面に存在する被覆部は小粒子で構成されている。
なお、特に限定するものではないが、ここで開示される正極活物質調製用材料は、ここで開示される特徴を有する原料粒子を例えば30個数%以上、好ましくは50個数%以上、より好ましくは70個数%以上、さらに好ましくは80個数%以上、より一層好ましくは90個数%以上含むことが好ましい。かかる割合は、例えば図4のように、複数個の原料粒子が観察視野内にあるSEM像(例えば倍率5000倍以下)を無作為に複数(例えば10以上)取得し、かかる複数のSEM像それぞれにおいて、ここで開示される特徴を有する原料粒子の該SEM像全体の粒子に対しての存在割合(個数%)を算出し、かかる複数のSEM像での平均値を算出することで求めることができる。
ここで開示される正極活物質調製用材料は、典型的には粉末状の粉末材料であるが、かかる粉末材料が適当な溶媒(例えば、水や有機溶媒)に分散したスラリーまたはペースト状であってもよい。
上記原料粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1μm以上20μm以下であって、典型的には1μm以上10μm以下である。また、好ましくは4μm以上9μm以下であって、より好ましくは4μm以上6μm以下であって、さらに好ましくは4.1μm以上5.8μm以下である。かかる範囲によると、焼結により原料粒子同士が接合されることがより抑制されるため、製造される正極活物質のサイクル特性を向上させることができ得る。
なお、本明細書において、「原料粒子の平均粒子径」は、レーザー回折・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒子径の小さい側からの累積頻度50体積%に相当する粒子径D50(「メジアン径」ともいう。)のことをいう。
ここで開示される正極活物質調製用材料は、コア部の表面の少なくとも一部に被覆部を備える原料粒子を含むが、好ましくは被覆部がコア部表面の10%以上を占有しており、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上を占有する原料粒子を含む。かかる占有率(被覆率)により、焼結による原料粒子の接合を抑制し、さらに、製造される正極活物質の比表面積を向上させることができるため、焼結による粒度分布のばらつきが抑制され、かつ、電解質との接触面積が増加した正極活物質を製造することができる。これにより、サイクル特性が向上し、電気抵抗が低減したリチウムイオン二次電池を実現するための正極活物質を製造することができる。
なお、上記占有率は、SEM像に基づいて測定することができる。SEMを用いて原料粒子のSEM像を取得し、例えば、オープンソースであり、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアとして著名な画像解析ソフト「ImageJ」を用いて、被覆部(小粒子)を白色、被覆部が存在しないコア部の表面(原料粒子中の小粒子が存在しない部分)を黒色とする二値化処理を行う。そして、原料粒子における被覆部が存在する部分(白色部分)の面積をNW、被覆部が存在せず表面が露出したコア部(黒色部分)の面積をNBとして、「NW/(NW+NB)×100」を算出することで被覆部の占有率(被覆率)を求めることができる。
上述した好適な被覆率(例えば10%以上)を有する原料粒子は、SEM視野内(例えば、倍率5000倍の視野)において、好ましくは30個数%以上存在しており、より好ましくは40個数%以上、さらに好ましくは50個数%以上存在する。かかる割合で存在していることにより、焼結による原料粒子同士の接合がより抑制され、さらに高いレベルで優れたサイクル特性を実現することができ得る。
上記原料粒子の被覆部は、小粒子で構成されている。かかる小粒子は、該原料粒子の粒子径よりも小さな平均粒子径を有している。小粒子の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、典型的には、原料粒子の粒子径の10分の1以下であり、例えば12分の1以下または15分の1以下であり得る。かかる粒子径の比較は、SEM像に基づいて行うことができ、例えば、図5に示すような、小粒子が目視できる倍率のSEM像(例えば15000倍)を取得することで、原料粒子一粒の粒子径と、該原料粒子が有する複数個の小粒子の平均粒子径との比較を行うことができる。
なお、原料粒子および小粒子の粒子径は、以下のようにして測定することができる。まず、SEM像において、各粒子の最大径を決定し、これを長径と規定する。次に、該長径に直交する径の中で最長となるものを決定し、これを短径と規定する。そして、かかる長径と短径とからなる楕円を仮定して、該楕円の面積から円相当径に換算することで、各粒子の粒子径とすることができる。小粒子については、原料粒子一粒に対し、複数個備えられ得るため、SEM像で目視できる複数の小粒子それぞれの粒子径を算出し、平均値を求める。
上記被覆部を構成する小粒子のSEM像に基づく平均アスペクト比(長径/短径)は、特に限定されるものではないが、1.7以下であることが好ましい。かかるアスペクト比であれば、小粒子の比表面積が増加するため、製造される正極活物質の比表面積を増加させ得る。これにより、電解質との接触面積が増加し、電気抵抗を低減し得る。
上記原料粒子の断面SEM像において、上記コア部よりも上記被覆部に含まれる前記小粒子の緻密性が高いことが好ましい。換言すれば、小粒子の内部空隙がコア部の内部空隙よりも少ないことが好ましく、さらに、小粒子の内部に空隙がないことがより好ましい。小粒子の緻密性が高いことにより、ここで開示される正極活物質調製用材料の焼成時に、焼結が小粒子単体で進み易くなるため、焼結による原料粒子同士の接合が抑制され得る。これにより、製造される正極活物質粒子の粒度分布のばらつきが抑制され得る。また、正極活物質粒子の表面積を大きくすることができるため、優れた電池抵抗低減効果と優れたサイクル特性を実現し得る。
なお、断面SEM像は公知方法に従い取得することができる。コア部と小粒子の緻密性は、断面SEM像を測定することができ、目視あるいは断面SEM像における濃淡の差を画像解析ソフト(例、ImageJ)で解析することによって、コア部と小粒子の緻密性を比較することができる。
ここで開示される正極活物質調製用材料に含まれる原料粒子は、Ni、Mn、Coからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を備えた遷移金属水酸化物を含むことが好ましい。即ち、原料粒子が備えるコア部および被覆部(小粒子)は、かかる遷移金属水酸化物を含むことが好ましい。具体例としては、ニッケル系複合水酸化物、コバルト系複合水酸化物、マンガン系複合水酸化物、ニッケルマンガン系複合水酸化物、ニッケルコバルトマンガン系複合水酸化物、鉄ニッケルマンガン系複合水酸化物等が挙げられる。
なお、本明細書において「ニッケルコバルトマンガン系複合水酸化物」とは、Ni、Co、Mn、O、Hを構成元素とする水酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ水酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。このことは、上記したニッケル系複合水酸化物、コバルト系複合水酸化物、マンガン系複合水酸化物、ニッケルマンガン系複合水酸化物等についても同様である。
ニッケルコバルトマンガン系複合水酸化物としては、下式(I)で表される組成を有するものが好ましい。
NiCoMn(1-x-y-z)(OH) (I)
(式(I)中、x、y、zは、0.1<x<0.9、0.1<y<0.4、0.1<z<0.9、1≧x+y+zを具備しており、MはMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、ZnおよびSnからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である。製造される正極活物質のエネルギー密度および熱安定性の観点から、x、yおよびzはそれぞれ、0.3≦x≦0.5、0.2≦y<0.4、0.2≦z<0.4を具備することが好ましい。)
次に、ここで開示される正極活物質調製用材料の好適な製造方法について説明する。なお、ここで開示される正極活物質調製用材料の製造方法は下記に限られない。
ここで開示される正極活物質調製用材料の好適な製造方法は、遷移金属水酸化物粒子を析出させる工程(以下、「析出工程」ともいう)と、上記水溶液をpH9~11の範囲に調整する工程(以下、「弱アルカリ処理工程」ともいう)と、上記遷移金属水酸化物粒子を成長させること(以下、「粒子成長工程」ともいう)、を包含する。
まず、析出工程について説明する。析出工程は、通常の正極活物質の製造における遷移金属水酸化物粒子を晶析させる公知方法と同様であってよい。
例えば、まず、遷移金属化合物の水溶液を準備する。遷移金属化合物としては、例えば、遷移金属の硫酸塩、遷移金属の硝酸塩、遷移金属のハロゲン化物等の水溶性化合物を用いることができる。かかる遷移金属の元素としては、Ni、Mn、Coからなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。また、アルカリ化合物の水溶液を用意する。アルカリ化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができ、好ましくは、水酸化ナトリウムである。また、アンモニア水を用意する。
一方で、反応容器中に水(典型的にはイオン交換水)を加え、反応容器中を撹拌しながら雰囲気を不活性ガス(例えば、Nガス、Arガス等)で置換する。次に、上記反応容器に上記アルカリ化合物の水溶液を加え、pHを調整する(例えば、pH11~13)。
上記反応容器中を撹拌しながら、上記遷移金属化合物の水溶液と、上記アンモニア水とを該反応容器に滴下する。このとき、上記反応容器内のpHが低下するため、上記アルカリ化合物の水溶液を適宜加えることにより、上記反応容器内のpHを11~13の範囲内に調整する。
上記遷移金属化合物の水溶液とアンモニア水とを滴下しながら、上記反応容器を所定時間(例えば、0.5時間~1.5時間)撹拌する。これにより、遷移金属水酸化物粒子を適度に成長させることができる。
次に、弱アルカリ処理工程について説明する。上記反応容器に酸性の水溶液を加える、もしくは、アルカリ化合物の水溶液の供給を停止することにより、pHを9~11の範囲内に調整する。かかる酸性の水溶液は、特に限定されるものではないが、上記遷移金属化合物において、遷移金属と結合している陰イオンを含む水溶液を用いることが好ましい(例えば、遷移金属の硫酸塩の水溶液を用いた場合、硫酸を用いる等)。
そして、かかるpHの範囲としたまま、例えば1時間以下(典型的には10分以下)の間撹拌を維持する。かかる時間処理することにより、上記遷移金属水酸化物粒子の表面に新たに粒子の核が生成される。
次に、粒子成長工程について説明する。上記反応容器中を撹拌しながら、上記アルカリ化合物の水溶液を加えることにより、上記反応容器内のpHが11~13の範囲内になるように調整する。その後、上記反応容器を所定時間(例えば、0.5時間~1.5時間)撹拌したまま維持する。これにより、上記遷移金属水酸化物粒子および該遷移金属水酸化物粒子の表面に生成された粒子を成長させることができる。
その後、吸引濾過等によって上記遷移金属水酸化物粒子を回収し、水洗後、乾燥を行う。これにより、ここで開示される正極活物質調製用材料を得ることができる。
なお、析出工程および粒子成長工程において、反応容器中をpH11~13の範囲内に調整する際、かかる範囲内で維持するpHを変化させることにより、平均粒子径の異なる正極活物質調製用材料を製造することができる。
次に、ここで開示される正極活物質調製用材料を用いた好適な正極活物質製造方法について説明する。
ここで開示される正極活物質製造方法は、図3に示すように、ここで開示される正極活物質調製用材料と、リチウム化合物とを混合する工程(以下、「混合工程S10」ともいう)と、かかる工程により混合された混合物を焼成する工程(以下、「焼成工程S20」ともいう)と、を包含する。
まず、混合工程S10について説明する。かかる工程では、まず、ここで開示される正極活物質調製用材料と、リチウム化合物とを準備する。かかる正極活物質調製用材料は、例えば、上述した方法で準備することができる。リチウム化合物としては、例えば、炭酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム等の焼成により酸化物に変換される化合物を用いることができる。
得られた遷移金属水酸化物粒子と、リチウム化合物とを、公知の混合装置(例、シェーカミキサ、Vブレンダ、リボンミキサ、ジュリアミキサ、レーディゲミキサ等)を用いて公知方法に従って混合することにより、混合物を得ることができる。
なお、正極活物質調製用材料とリチウム化合物との混合量については、所望する正極活物質に含まれるリチウムと遷移金属との元素比に従えばよい。
次に、焼成工程S20について説明する。得られた混合物の焼成は、例えば、バッチ式の電気炉、連続式の電気炉等を用いて行うことができる。焼成温度は、例えば400℃以上1000℃以下とし、で焼成時間は、例えば2時間以上10時間以下で実施することができる。
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。例えば、車両に搭載されるモーター用の高出力動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、典型的には自動車、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個が電気的に接続された組電池の形態で使用することもできる。
以上、ここで開示される正極活物質製造方法で製造される正極活物質を備えるリチウムイオン二次電池の一例として、扁平形状の捲回電極体を備えた角型の非水電解液リチウムイオン二次電池について説明した。しかしながら、これは一例に過ぎず限定されるものではない。例えば、捲回電極体の代わりに、シート状の正極とシート状の負極とがセパレータを介して交互に積層された積層電極体を備えたリチウムイオン二次電池であってもよい。また、電解質としてポリマー電解質を使用するポリマー電池であっても良い。また、角型電池ケースの代わりに、円筒型、コイン型等の形状の電池ケースを用いても良く、電池ケースの代わりにラミネートフィルムを用いたラミネート型二次電池であってもよい。
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
<正極活物質の準備>
(例1~4)
硫酸ニッケル(NiSO)、硫酸コバルト(CoSO)、硫酸マンガン(MnSO)とが1:1:1のモル比となるようにイオン交換水に溶解し、原料溶液を調製した。また、アンモニア水および水酸化ナトリウム水溶液を準備した。
反応容器内にイオン交換水を加え、撹拌しながら反応容器内の雰囲気を不活性ガスで置換し、不活性雰囲気にした。次に、かかる反応容器内にNaOH水溶液を加え、pHを11~13の範囲となるように調整した。そして、かかる反応容器に上記原料溶液とアンモニア水を一定量ずつ滴下した。このとき、pHを上記範囲内に保持するため、NaOH水溶液を適宜加えた。上記原料溶液とアンモニア水の滴下しながら、0.5時間~1.5時間撹拌した。かかる撹拌後、NaOH水溶液の供給を停止することでpHを9~11の範囲となるように調整し、0.1分~10分の間撹拌を維持した。その後、NaOH水溶液の供給を再開し、再度pHを11~13の範囲となるように調整し、0.5時間~1.5時間撹拌を維持し、沈殿物を得た。かかる沈殿物を吸引濾過により回収し、イオン交換水で洗浄した後、40℃~80℃で6時間~8時間減圧乾燥して、正極活物質調製用材料として水酸化物粒子の粉末を得た。
なお、例1~4は、上記反応容器中をpH11~13の範囲でそれぞれ異なる値のpHで保持した。
得られた水酸化物粒子の粉末と、炭酸リチウム(LiCO)とを、該水酸化物粒子に含まれるニッケル、コバルトおよびマンガンの合計に対するリチウムのモル比が1:1となるように乳鉢で混合した。混合物をアルミナ製のるつぼに移し、マッフル炉内で400℃~1000℃で2時間~10時間焼成した。このようにして、例1~4の正極活物質であるリチウム複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3:NCM)粒子を得た。
(例5)
上記例1の水酸化物粒子の粉末を得る工程において、pHを9~11の範囲となるように調整する工程を実施しなかったこと以外は、同様の工程を行い、例5の正極活物質を得た。
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
評価用リチウムイオン二次電池として、上記作製した正極活物質(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、NCM:AB:PVDF=87:10:3の質量比となるようにN-メチル-2-ピロリドン中で混合し、正極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストをオールグッド社製のフィルムアプリケーターを用いてアルミニウム箔集電体の両面に塗布し、80℃で5分間乾燥させることにより正極シートを作製した。
負極活物質として、天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=96:2:2の質量比となるようにイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストをオールグッド社製のフィルムアプリケーターを用いて銅箔集電体の両面に塗布し、80℃で5分間乾燥させることにより負極シートを作製した。
また、セパレータシートとしてPP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。
作製した正極シートと負極シートと用意したセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して円筒型の捲回電極体を作製した。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートにそれぞれ電極端子を溶接により取り付け、注液口を有する電池ケースに収容した。
次に、電池ケースの注液口から非水電解液を封入し、当該注液口を気密に封止した。なお、非水電解液として、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。以上のようにして、各実施例および各比較例の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
<平均粒子径の測定>
上記作製した各例の正極活物質調製用材料それぞれに対してレーザー回折式粒度分布測定装置を用いてメジアン径(D50)を測定した。その結果を「原料粒子平均粒子径(μm)」として表1に示す。また、各例の正極活物質それぞれに対しても同様にメジアン径(D50)を測定した。その結果を「正極活物質平均粒子径(μm)」として表1に示す。
<SEM像に基づく原料粒子の解析>
上記作製した各例の正極活物質調製材料(水酸化物粒子の粉末)それぞれのSEM像(倍率5000倍、15000倍)を取得した。かかるSEM像に基づき、原料粒子の粒子径に対する、該原料粒子の被覆部を構成する小粒子の平均粒子径の比を測定した。その結果を「原料粒子径に対する小粒子径の比」として表1に示す。
また、かかるSEM像に基づいて小粒子の平均アスペクト比を測定した。結果を「小粒子アスペクト比」として表1に示す。
ここで開示される正極活物質調製用材料の代表的なSEM像として、例2の正極活物質調製材料を5000倍の倍率および15000倍の倍率で観察したSEM像をそれぞれ図4、5に示す。また、図6に例2の正極活物質調製用材料の15000倍の倍率で観察したときの断面SEM像を示す。
また、従来技術の代表例として、図7に例5の正極活物質調製用材料の15000倍の倍率で観察したSEM像を示す。
<活性化処理および初期放電容量の測定>
定電流―定電圧方式とし、上記作製した各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で4.1Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、各評価用リチウムイオン二次電池を1/3Cの電流値で3.0Vまで定電流放電した。このときの放電容量を初期放電容量とした。なお、かかる充放電の操作は25℃で行った。また、ここで「1C」とは、1時間でSOC(state of charge)を0%から100%まで充電できる電流の大きさのことをいう。
<初期抵抗測定>
上記活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を、3.70Vの開放電圧に調整した。これを、25℃の温度環境下に置いた。1Cの電流値で10秒間放電し、電圧変化量ΔVを求めた。電流値とΔVを用いて電池抵抗を算出した。例5の評価用リチウムイオン二次電池の初期抵抗を1.00とした場合の、各実施例の評価用リチウムイオン二次電池の初期抵抗の比を求めた。結果を「初期抵抗」として表1に示す。
<サイクル容量維持率の測定>
上記活性化した各評価用リチウムイオン二次電池を60℃の環境下に置いた。各評価用リチウムイオン二次電池を2Cで4.2Vまで定電流充電を行った後、2Cで3.0Vまで定電流放電を行うことを1サイクルとして、200サイクル繰り返した。その後、200サイクル後の放電容量を上述した初期放電容量と同様の方法で測定した。そして、サイクル容量維持率(%)を以下の式1:
(200サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)×100・・・式1
により算出した。結果を「サイクル容量維持率(%)」として表1に示す。
Figure 0007275094000001
図4、5に示されるように、例2の正極活物質調製用材料に含まれる原料粒子には、コア部表面の少なくとも一部に小粒子からなる被覆部が存在していた。図示はしていないが、例1、3、4においても同様に小粒子からなる被覆部を備えた原料粒子が観察された。
表1に示すように、原料粒子の粒子径に対する、該原料粒子の被覆部を構成する小粒子の平均粒子径の比が10分の1以下である特徴を有する正極活物質調製用材料から製造された例1~4の正極活物質は、例5の正極活物質と比較して、リチウムイオン二次電池により優れたサイクル特性(サイクル容量維持率)を実現できることがわかる。さらに、例1~4では、例5よりも初期抵抗を低減させることがわかる。
さらに、原料粒子の平均粒子径が4μm以上6μm以下である例1および2においては、特に優れたサイクル特性および初期抵抗低減効果を実現できることがわかる。
したがって、ここで開示される正極活物質調製用材料によれば、リチウムイオン二次電池の初期抵抗を低減させ、優れたサイクル特性を付与する正極活物質を製造することができることがわかる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極
52 正極集電体
52a 正極集電体露出部
54 正極活物質層
60 負極
62 負極集電体
62a 負極集電体露出部
64 負極活物質層
70 セパレータ
100 リチウムイオン二次電池

Claims (5)

  1. リチウムイオン二次電池用の正極活物質調製用材料であって、
    コア部と、該コア部の表面の少なくとも一部に存在する被覆部とを備える原料粒子を含み、
    前記被覆部は、前記原料粒子のSEM像において、該原料粒子の粒子径の10分の1以下の平均粒子径を有する小粒子で構成されており、
    ここで、前記コア部および前記小粒子は、Ni、Mn、Coからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を備えた遷移金属水酸化物を含
    前記原料粒子の断面SEM像において、前記コア部よりも前記小粒子の緻密性が高い、
    正極活物質調製用材料。
  2. 前記小粒子のSEM像に基づく平均アスペクト比は1.7以下である、請求項1に記載の正極活物質調製用材料。
  3. 前記原料粒子のSEM像において、前記被覆部が前記コア部の表面を10%以上占有した前記原料粒子を含む、請求項1または2に記載の正極活物質調製用材料。
  4. 前記原料粒子のレーザー回折・光散乱法に基づく平均粒子径は4μm以上6μm以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の正極活物質調製用材料。
  5. 請求項1~の何れか一項に記載の正極活物質調製用材料と、リチウム化合物とを混合すること、および、
    前記混合した混合物を焼成すること、
    を包含する、正極活物質製造方法。
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