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JP7127770B2 - 面直磁化強磁性半導体ヘテロ接合素子、およびこれを用いた磁気記憶装置並びにスピンロジック素子 - Google Patents

面直磁化強磁性半導体ヘテロ接合素子、およびこれを用いた磁気記憶装置並びにスピンロジック素子 Download PDF

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Description

本発明は、ZnSe、ZnS、又はI-III-VI型カルコパイライト型化合物半導体を用いた垂直磁化膜磁気ヘテロ接合素子に関する。
また本発明は、上記の磁気ヘテロ接合素子を用いた磁気ランダムアクセスメモリ、ハードディスクの再生ヘッド等の磁気記憶装置や、スピンロジック素子に関する。
トンネル磁気抵抗素子(MTJ:magnetic tunnel junction)や巨大磁気抵抗(CPP-GMR: Current Perpendicular to Plane - Giant MagnetoResistance)素子といった磁気抵抗(MR: Magneto-Resistance)素子は、強磁性層/非磁性層/強磁性層の3層構造からなり、上下に配置する強磁性層の磁化の相対的な角度により抵抗が大きく変化する現象を利用した素子である。MR素子は磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM: Magnetoresistive random-access memory)、ハードディスクドライブ(HDD)の再生ヘッド、スピンロジック素子への応用が期待されている。
MR素子は強磁性体のスピン配向を利用した素子であるため、スピンが熱的擾乱に対して大きく揺らぐ状況は好ましくない。このようなMR素子の熱的安定性を議論する上で重要となるのが界面磁気異方性である。これまでの研究によって、強磁性層の磁化が界面に対して垂直に配向する素子は、強磁性層の磁化が界面に対して面内に配向する素子と比較して、より大きな熱力学的安定性を有することが明らかにされてきた。さらに界面垂直磁気異方性は、電流駆動磁化反転における臨界電流の低減をもたらすので、STT-MRAM(スピン注入磁化反転型(spin transfer torque:STT)磁気抵抗変化型メモリー(MRAM)においても有利である。
ここで、面内磁化と面直磁化の関係については、Cu(001)基板、下地Ni層、及び強磁性FeNi層を積層させた多層膜系では、下地Ni層が薄い領域では面内磁化が、厚い領域では面直磁化が発現することが明らかにされている。(例えば非特許文献1参照)。
磁性薄膜の磁気異方性に関しては、実効的磁気異方性Kefftの正負に応じて、Kefftが負であれば面内磁化となり、Kefftが正であれば面直磁化となることが知られている。
Kefft=Ks-2πMs2*t (1)
ここで、第1項は界面結晶磁気異方性、第2項は形状磁気異方性を示している(例えば非特許文献2参照)。
従来、界面垂直磁気異方性を持つMR素子は非磁性層として酸化物(MgO、AlO)を持つものに限られてきた。しかしこのような酸化物系では強磁性層・非磁性層界面での過酸化や酸素欠損によって純良な界面が形成されづらいという問題が存在する。
他方で、本出願人は垂直磁気記録媒体について既に提案を行っているが(特許文献1、2参照)、強磁性層・非磁性層界面でのさらに高い垂直磁気異方性エネルギーを持つ構造とすることで、高MR比、低RA、垂直磁気異方性の3つの必要条件を満たす応用上大変優れた磁気抵抗素子とすることができる。
WO2015/037425 特許第5617112号公報
雨宮健太、磁性薄膜・多層膜の表面・界面における原子構造・磁気状態および電子状態の解明(2013) スライド5頁、8頁 http://www2.kek.jp/imss/cmrc/zentai2013/06-amemiya.pdf A.Hallal et al., Phys. Rev. B88, 184423(2013)
本発明では、強磁性層と非磁性層との界面で純良な界面が得られると共に高い垂直磁気異方性エネルギーを有する磁気ヘテロ接合素子を提供することを目的とする。
本発明の磁気ヘテロ接合素子は、例えば図1に示すように、基板と、この基板に隣接して設けられるか、又は下地層を挟んで設けられる強磁性層と、この強磁性層に隣接して設けられる非磁性層を有すると共に、当該強磁性層と非磁性層は[001]配向で積層した構造を有する磁気ヘテロ接合素子であって、鉄を含有する強磁性材料からなる前記強磁性層と、ZnSe、ZnS、I-III-VI2型カルコパイライト型化合物半導体からなる群から選択される化合物からなる前記非磁性層とを備え、前記強磁性層と前記非磁性層との接合界面における界面結晶磁気異方性エネルギーが0.78mJ/mを超えると共に、前記強磁性層が垂直磁化層であることを特徴とする。界面結晶磁気異方性エネルギーの閾値0.78mJ/mは、bcc強磁性体Co0.5Fe0.5における形状磁気異方性の計算値であり、磁気ヘテロ接合素子はこの基準値を超える界面結晶磁気異方性を有するのがよい。
本発明の磁気ヘテロ接合素子において、好ましくは、非磁性層の上に、上部電極又は保護層の少なくとも一方が設けられるとよい。
本発明の磁気ヘテロ接合素子は、例えば図1、図6に示すように、基板11上に第1の強磁性層12、非磁性層13、第2の強磁性層14を積層した構造を有する磁気ヘテロ接合素子であって、第1の強磁性層12と第2の強磁性層14の少なくとも一方は鉄を含有する強磁性材料からなると共に、非磁性層13はZnSe、ZnS、I-III-VI2型カルコパイライト型化合物半導体からなる群から選択される化合物からなり、第1又は第2の強磁性層(12、14)と非磁性層13との接合界面における垂直磁気異方性エネルギーが0.78mJ/mを超えると共に、第1又は第2の強磁性層(12、14)の少なくとも一方が垂直磁化層であることを特徴とする。
第1又は第2の強磁性層(12、14)と非磁性層13との接合界面における垂直磁気異方性エネルギーとして、さらに好ましくは、1.0mJ/m以上であると良く、好適には1.5mJ/m以上であると更によい。
本発明の磁気ヘテロ接合素子において、好ましくは、非磁性層の上に、上部電極又は保護層の少なくとも一方が設けられるとよい。
本発明の磁気ヘテロ接合素子において、好ましくは、I-III-VI型カルコパイライト型化合物半導体は、Cu(In1-yGa)Se(0≦y≦1)、Ag(In1-yGa)Se(0≦y≦1)、AgInSからからなる群から選択される一つであるとよい。
本発明の磁気ヘテロ接合素子において、好ましくは、前記非磁性層の厚さは0.5~3nmであるとよい。
本発明の磁気ヘテロ接合素子において、好ましくは、鉄を含有する強磁性材料は、bcc-Fe、bcc-Fe1-xCo(0<x<0.6)、(CoFe1-x1-y(0<x<0.6、0.15<y≦0.3)からなる群から選択される軟磁性層を有するとよい。
本発明の磁気ヘテロ接合素子において、好ましくは、前記基板は、MgO基板、シリコン基板、砒化ガリウム基板、窒化ガリウム基板、サファイア基板、ガラス基板からなる群から選択される絶縁体または半導体の基板であるとよい。当該シリコン基板は、熱酸化シリコン基板を含むものとする。
本発明の磁気ヘテロ接合素子において、前記基板と前記強磁性層の間には、さらに下地層が設けられていても良く、前記下地層はCr、Au、Ag、Ta、Ru、W、Ir、Pt、Cu、Mo、Os、Re、MgOからなる群から選択される金属元素からなるとよい。
本発明の磁気記憶装置は、上記の磁気ヘテロ接合素子を用いた磁気記憶装置であって、前記磁気ヘテロ接合素子の一方の強磁性材料の層におけるスピンの向きを固定し、他方の強磁性材料の層におけるスピンの向きを反転可能とし、前記磁気ヘテロ接合素子の積層方向に電流を通電して、前記各層のスピンの向きに応じた値を出力するとよい。
本発明のスピンロジック素子は、上記の磁気ヘテロ接合素子を用いたスピンロジック素子であって、前記カルコパイライト型化合物半導体の層にゲート電圧を印加し、前記磁気ヘテロ接合素子の一方の強磁性材料の層をソース層とし、他方の強磁性材料の層をドレイン層とする。
次に、カルコパイライトの結晶構造について説明する。
元素周期表において、IV族(Si、Geなど)をはさんでIV族から等間隔にある2種の元素で化合物をつくると、同様の化学結合ができて半導体になる。例えば、III-V族の一例であるGaAsにおいては、Gaから3s3pの3電子が供給され、Asから4s4pの5電子が供給され再配分され、1原子あたり4個の電子はsp混成軌道を作る。III-V族半導体はIV族と等電子的(isoelectric)である。IV族を出発点として、II-VI族、III-V族が得られ、さらに、II-VI族においてII族をI族とIII族の2つの元素で置き換えるとI-III-VI族の化合物が、次にI族を空格子点とII族で置換するとII-IIIVI族の結晶ができる。このような系列をアダマンティン(adamantine)系列と称する。アダマンティン系列の系統図を図11に示す。これらは等電子的でいずれも半導体的な物性を示す。
その結晶構造は、IV族ではダイヤモンド構造(diamond structure)、III-V族とII-VI族では閃亜鉛鉱構造(zincblende structure)またはウルツ鉱構造(wurzite structure)、I-III-VI、II-IV-V族では黄銅鉱構造(chalcopyrite structure)をとる。
図12は、カルコパイライト型の結晶構造を説明する元素配置図である。I-III-VI族、II-IV-V族など黄銅鉱構造は、閃亜鉛鉱構造をc軸方向に2階建てに積み重ねた単位胞をもつが、c軸の長さは、a軸の長さの2倍からずれ、正方晶系(tetrahedral system)となる。
本発明の磁気ヘテロ接合素子によれば、非磁性層がZnSe、ZnS、I-III-VI2型カルコパイライト型化合物半導体からなる群から選択される化合物からなるため、酸素を含有せず、強磁性層の磁性材料は非磁性層による酸化が防止される。また半導体の終端層(Feとの界面層)は4p価電子を含む元素(SeやS)からなることがエネルギー比較により明らかになった。これにより、強磁性層と非磁性層との界面で、純良な界面が得られると共に高い垂直磁気異方性エネルギーを有する磁気ヘテロ接合素子が得られるという、特有の効果がある。
本発明の磁気ヘテロ接合素子を用いた磁気記憶装置並びにスピンロジック素子によれば、高密度の記憶容量を有する垂直磁気記録装置や不揮発ロジックデバイス等に応用可能なスピンロジック素子が得られる。
本発明の磁気ヘテロ接合素子が搭載される磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の一実施例を示す構成斜視図である。 本発明の磁気ヘテロ接合素子の一実施例を示す原子配置を説明する構成図である。 本発明の磁気ヘテロ接合素子の一実施例を示す元素組成と、界面結晶磁気異方性定数Ksを説明する図である。 界面結晶磁気異方性定数Ksを説明する式における電子軌道dzx、dyz、dxyのエネルギー準位を説明する図である。 第一原理計算を用いた界面結晶磁気異方性定数Ksを説明する図である。 本発明の一実施例を示すCIGSを用いた磁気抵抗素子の膜構成図である。 本実施形態に係る磁気ヘテロ接合素子の形成方法を示すフローチャートである。 本発明の磁気ヘテロ接合素子が搭載される磁気記録再生装置の一例を示す概略図である。 本発明の磁気ヘテロ接合素子が搭載される磁気ヘッドアセンブリの一例を示す概略図である。 本発明の磁気ヘテロ接合素子が搭載される磁気ヘッドの一例を示す概略図で、主磁極の先端部及び高周波発振子を拡大して示してある。 アダマンティン系列の系統図である。 カルコパイライト型の結晶構造を説明する元素配置図である。
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の磁気ヘテロ接合素子が搭載される磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の一実施例を示す構成斜視図である。
MRAMの内部回路は、磁気抵抗(MR)素子とFET素子から構成される「メモリセル」の部分と、多数のメモリセルが配列したマトリックスの周囲を取り巻く「周辺回路」から構成される。MR素子は非磁性体膜を2つの強磁性体層が挟み込む構造になっている。これらの強磁性体層の内の一方は磁化が固定されており(固定層)、もう一方は可変である(可動層)。なお、MR素子においては垂直方向に磁気記録が行われる。
各々のメモリセルはMR素子1個とスイッチ用のFET1個から構成される。記憶セルは碁盤の目状に並べて配置され、横方向と縦方向にワード線とビット線が走っている。記憶データは、メモリセルのMR素子に電荷がある場合は論理“1”、無い場合は論理“0”というように扱われており、1つのメモリセルで1ビットの記憶を保持している。
このように構成されたMRAMにおいて、動作に関しては、データの記録がセルの磁化により行なわれ、読み出しがMR素子で行われる。
書き込み時には、書き込み先セルに対応したビット線とワード線に電流を流し、磁場を発生させる。ビット線とワード線の交点で最も合成磁場が強くなることにより、選択されたセルのデータを書き換える。
読み出し時において、MR素子に電流は金属中を通常の電気伝導として流れる。固定層の中でスピン偏りが生じた電子が、非磁性体膜を通過して可動層に到着した時に、それらの強磁性体層の間で、磁化の方向が反平行であると電子はそこで散乱されるので抵抗が高くなり、磁化の方向が平行であると電子は然程散乱されずに抵抗は(相対的に)低くなる。このように可動層の磁化の大きさにより抵抗の大きさが変化するので、これをデータの“0”と“1”に対応させることで読み出しを行う。
この様に、MRAMは記憶に強磁性体中の電子のスピンに由来する磁化状態を利用するため不揮発で、電源を遮断してもデータが保存される。
図2は、本発明の磁気ヘテロ接合素子の一実施例を示す原子配置を説明する構成図で、(A)はFe/二元半導体(例えばZnSe)、(B)はFe/三元半導体(例えばCuInSe)、(C)はFe/四元半導体(例えばCu(In0.25Ga0.75)Se)である。図2(A)のFe/ZnSeにおいて、Feの膜厚は0.86nmであり、ZnSeの膜厚は2.68nmとなっている。図2(B)のFe/CuInSeにおいて、Feの膜厚は0.84nmであり、CuInSeの膜厚は2.76nmとなっている。図2(C)のFe/In0.25Ga0.75)Seにおいて、Feの膜厚は0.86nmであり、In0.25Ga0.75)Seの膜厚は2.66nmとなっている。
そして、表1に示すような、Fe/半導体ヘテロ接合を用意し、この接合系の構造最適化を行った。より具体的には、第一原理計算により求まるエネルギーが最も低くなるように超格子内の原子位置およびFeと半導体の界面距離を最適化した。また、半導体の異なる終端層についてエネルギー比較を行い、どの終端層が最安定となるかについても調べた。その結果、今回調べた系では、Se、S、Asなど4p価電子を持つ原子が終端層に来た時[図2の界面部を参照]がエネルギー最小になることがわかった。
また、Cu(In1-yGa)Se(0≦y≦1)は、Cu(In1-yGa)S(0≦y≦1)に比べて、界面磁気異方性定数が大きくなっている。Cu(In1-yGa)S(0≦y≦1)は、bcc強磁性体Co0.5Fe0.5における形状磁気異方性定数の計算値である0.78mJ/mよりも、低い界面磁気異方性を有するにすぎない。
Figure 0007127770000001

続いて構造最適化した接合系を用い、Feの磁化が面内および面直を向いた場合それぞれについて、第一原理計算を用いてエネルギー固有値(E[100]およびE[001])を算出した。これらのエネルギー固有値と接合系の断面積Aを用いると、界面結晶磁気異方性定数Ksは次式で与えられる[参考文献6]。
Figure 0007127770000002


この式を用い、各々のFe/半導体ヘテロ接合系について界面結晶磁気異方性を評価した。
ここで、界面結晶磁気異方性定数Ksを算出した第一原理計算の原理について説明する。この第一原理計算には、密度汎関数理論(density-functional theory)に基づくものを用いている。第一原理計算にはWien大学で開発されたコードVienna ab-initiosimulation package (VASP)[参考文献1,2]を用いた。また、本件の第一原理計算では、原子核近傍のコア状態を記述するためにprojector augmented-wave(PAW)ポテンシャル[参考文献4、5]を採用し、電子間相互作用を記述する交換相関項に一般化勾配展開近似(generalized gradient approximation; GGA)[参考文献3]を適用した。
図3は、本発明の磁気ヘテロ接合素子の一実施例を示す元素組成と、界面結晶磁気異方性定数Ksを説明する図である。図中、x=0は三元半導体(CuGaSe)、x=1.0は三元半導体(CuInSe)を表し、この中間領域は四元半導体(Cu(InGa1-x)Se)(0<x<1)となっている。xの増加、即ちインジウム分率に対応して、界面結晶磁気異方性定数Ksが増加しており、表1の実施例3、7と実施例4-6が対応している。
図4は、界面結晶磁気異方性定数Ksを説明するための模式図である。なお、電子軌道dzx、dyz、dxyのエネルギー準位は、あくまで例示に過ぎず、実際は個々の物質により異なる。下記の数2は、界面結晶磁気異方性定数を(スピン軌道相互作用に関する)2次摂動論を使って評価したものである。この式の意図するところは、図4(A)のように、Fermi準位(E)の上下に磁気量子数が同じ原子軌道からなるバンドが存在する場合には、磁気異方性にプラスの寄与があり、図4(B)のようにFermi準位(E)の上下に磁気量子数が±1異なる原子軌道からなるバンドが存在する場合には、磁気異方性にマイナスの寄与があることである。
Figure 0007127770000003

続いて本発明で得られた界面垂直磁気異方性が数2の式を用いて解釈可能か否かを考察していく。図5は、第一原理計算を用いて計算した界面結晶磁気異方性定数Ksを説明する図である。ここでは今回の系の中で最大の界面垂直磁気異方性が得られたFe/CuInSeに着目する。まず図5(A)は界面結晶磁気異方性定数を各波数の寄与(Brillouin zoneの各点の寄与)に分解したものである。この図から最も大きなプラスの寄与はΓ点[(0、0)]近傍から得られていることがわかる。そこでこのΓ点近傍のバンド構造を見てみると、多数スピン(Majority-spin)バンド、少数スピン(Minority-spin)バンドとも、Fermi準位の上下に同じ磁気量子数を持つタイプのバンドが位置しており、数2の式による評価と今回の計算結果に矛盾がない。再び右上の図に目を移すと、M点[(-π、-π)]とΓ点[(0、0)]を結ぶ直線上の中間点付近では界面結晶磁気異方性定数にマイナスの寄与が存在することがわかる。そこで右下の少数スピン(Minority-spin)バンドの対応する部分を見てみるとFermi準位を挟む形で磁気量子数が±1異なるバンドが位置しており、やはり数2の式による評価と今回の計算結果に矛盾がない。
以上、説明したように、界面結晶磁気異方性の特性はスピン軌道相互作用に関する2次摂動論で基本的に理解可能である。また逆の視点から述べると、ヘテロ接合系のFermi準位付近のバンド構造がわかれば、界面結晶磁気異方性に関する特性の予見が可能である。
以下、本実施形態に係る磁気ヘテロ接合素子のスピン伝導構造について、図6を用いて説明する。図6は、本発明の一実施例を示すCIGSを用いた磁気抵抗素子の膜構成図で、スピン伝導構造を示している。
本実施形態において、基板上に第1の強磁性層、非磁性層、第2の強磁性層を積層した構造を有する磁気ヘテロ接合素子における非磁性層には、I-III-VI型カルコパイライト型化合物半導体の1つであるCu(In1?yGa)Se(0≦y≦1であり、例えば0.2。以下CIGSと略して表記する場合がある)をスペーサ材料として用いている。例えば、上記のCIGSにおいて、y=0.2を採用すると、Cu(In0.8Ga0.2)Seとなるが、これはCuInSeのInの一部をGaで置換したものである。Cu(In0.8Ga0.2)Seは太陽電池材料として知られており、カルコパイライト型の結晶構造を持つ。バンドギャップについては、CuInSeは約1.0eV、CuGaSe2は約1.7eVであり、Gaの置換量により変化する。また、格子定数はGaの置換により0.56nmから0.58nmへと変化する。なお、上記のCIGSにおいて、y=0.2に限られず、0≦y≦1の範囲にあればよい。
本実施形態において、第1及び第2の強磁性層に用いる鉄を含有する強磁性材料には、bcc-Fe、bcc-Fe1-xCo(0<x<0.6)、(CoFe1-x1-y(0<x<0.6、0.15<y≦0.3)からなる群から選択される軟磁性層を形成する材料を用いるとよい。
次に本実施形態に係る磁気ヘテロ接合素子の形成方法について、図7を用いて説明する。図7は、本実施形態に係る磁気ヘテロ接合素子の形成方法を示すフローチャートである。
図7において、まず、MgO(001)の基板に対して、スパッタ法を用いて第1の強磁性層の積層工程を行う(S41)。当該プロセス先立ち、必要に応じてCr等適当な下地層を成長しても良い。第1の強磁性層の成膜後、規則化・結晶性を促進する目的で、200℃から500℃の間でのポストアニールを行なっても良い。
図7のように、第1の強磁性層上にSe化合物半導体の積層工程を行う(S43)。Se化合物半導体がある程度積層されると、S41と同様の方法で、第2の強磁性層の積層工程を行って(S44)、積層処理を終了する。積層後、第2
の強磁性層の規則化・結晶性を促進する目的で300℃以下でのポストアニールを行っても良い。以上の各工程を行うことで、図6に示すような全単結晶で縦型のスピン伝導構造を形成することができる。また、第1、第2の強磁性層にSe化合物半導体を挟む構造とすることで、界面が高品質で無欠損、且つ平坦性を保ったヘテロ界面となり、スピンの注入効率が非常に高く、後述するスピンメモリ素子やスピントランジスタとして用いることが可能となる。
図8は、本発明の磁気ヘテロ接合素子が搭載される磁気ヘッドを搭載可能な磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。図において、磁気記録再生装置100は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、記録用媒体ディスク110は、スピンドル140に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。磁気記録再生装置100は、複数の媒体ディスク110を備えたものとしてもよい。
媒体ディスク110に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダー120は、薄膜状のサスペンション152の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダー120は、例えば、実施の形態にかかる磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
媒体ディスク110が回転すると、ヘッドスライダー120の媒体対向面(ABS)は媒体ディスク110の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダが媒体ディスク110と接触するいわゆる「接触走行型」であってもよい。
サスペンション152は、駆動コイルを保持するボビン部(図示せず)などを有するアクチュエータアーム154の一端に接続されている。アクチュエータアーム154の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ130が設けられている。ボイスコイルモータ130は、アクチュエータアーム154のボビン部に巻き上げられた駆動コイル(図示せず)と、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路(図示せず)とから構成される。
アクチュエータアーム154は、スピンドル140に設けられたボールベアリング(図示せず)によって保持され、ボイスコイルモータ130により回転摺動が自在にできるようになっている。
図9は、アクチュエータアーム154から先の磁気ヘッドアセンブリをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、磁気ヘッドアッセンブリ150は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム154を有し、アクチュエータアーム154の一端にはサスペンション152が接続されている。
サスペンション152の先端には、図10に示す磁気ヘッドを具備するヘッドスライダー120が取り付けられている。サスペンション152は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線158を有し、このリード線158とヘッドスライダー120に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中156は磁気ヘッドアッセンブリ150の電極パッドである。
図10は、主磁極およびスピントルク発振子を模式的に示す斜視図である。図10に示すように、スピントルク発振子180は、主磁極160の先端部162と補助磁極170のリーディング側端面174との間に設けられている。スピントルク発振子180は、非磁性導電層からなる下地層182、スピン注入層(第1の磁性体層)184、中間層186(非磁性体層)、発振層(第2の磁性体層)188、非磁性導電層からなるキャップ層190を、主磁極160側から補助磁極170側に順に積層して構成されている。なお、スピン注入層184、中間層186、発振層188の順に積層したが、発振層、中間層、スピン注入層の順に積層してもよい。
中間層186には、前述の非磁性体層13に用いられるI-III-VI型カルコパイライト型化合物半導体などを用いる。中間層186の層厚は、1原子層から3nmとすることが望ましい。これによりスピン注入層184と発振層188の交換結合を最適な値に調節することが可能となる。
また、スピン注入層184には、例えば、第1の強磁性層12に用いられる鉄を含有する強磁性材料を用いるとよい。発振層188には、例えば、第2の強磁性層14に用いられる鉄を含有する強磁性材料を用いるとよい。
なお、スピン注入層184と発振層188には、何れか一方の層にbcc-Fe、bcc-FeCo1-x(0<x<0.5)、(CoFe1-x1-y(0<x<0.5、0.15<y≦0.3)からなる群から選択される軟磁性層を用いる場合、他方の層には鉄を含有しない強磁性材料を用いても良く、例えば膜面直方向に磁化配向したCoCrPt、CoCrTa、CoCrTaPt、CoCrTaNb等のCoCr系磁性、Co/Pd、Co/Pt、CoCrTa/Pd等の人工格子磁性層、CoPt系やFePt系の合金磁性層、SmCo系合金磁性など、垂直配向性に優れた材料を用いても良い。
さらに、スピン注入層184と発振層188には、何れか一方の層にbcc-Fe、bcc-Fe1-xCo(0<x<0.6)、(CoFe1-x1-y(0<x<0.6、0.15<y≦0.3)からなる群から選択される軟磁性層を用いる場合、他方の層にはCoNiFe、NiFe、CoZrNb、FeN、FeSi、FeAlSi等の比較的、飽和磁束密度の大きい軟磁性材料を用いても良い。
なお、発振層188の層厚は、5ないし20nmとすることが望ましく、スピン注入層184の層厚は、2ないし60nmとすることが望ましい。
スピントルク発振子180は、その下端面192がディスク対向面(図示せず)に露出し、磁気ディスク12の表面に対して、主磁極160の先端面とほぼ同一の高さ位置に設けられている。すなわち、スピントルク発振子180の下端面192は、スライダ42のディスク対向面43と面一に、かつ、磁気ディスク12の表面とほぼ平行に位置している。また、スピントルク発振子180は、ディスク対向面(図示せず)から最も離れ、下端面192とほぼ平行に延びる上端面194と、下端面から上端面まで延びる両側面196、198とを有している。
少なくとも一方の側面、ここでは、両側面196、198は、ディスク対向面に垂直な方向に対してトラック中心側、つまり、内側に傾斜している。また、主磁極160に対向する面のスピントルク発振子180の形状は、トラック幅方向に対称な台形となっている。
スピントルク発振子180は、制御回路基板による制御信号に従って、電源(図示せず)から主磁極160、補助磁極170に電圧を印加することにより、スピントルク発振子180の膜厚方向に直流電流が印加される。通電することにより、スピントルク発振子180の発振層188の磁化が回転し、高周波磁界を発生させることが可能となる。これにより、スピントルク発振子180は、磁気ディスク(図示せず)の記録層に高周波磁界を印加する。このように、補助磁極170と主磁極160はスピントルク発振子180に垂直通電する電極として働くことになる。
なお、上記の実施の形態としては、第1の強磁性層と第2の強磁性層の双方が垂直磁化層である場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1の強磁性層と第2の強磁性層の一方が垂直磁化層であれば足り、他方は垂直磁化層となっていなくてもよい。
本発明によれば、大きな磁気抵抗(MR)変化・0.1~3 Ωμm程度の素子抵抗を持つ磁気ヘテロ接合素子が得られる。そこで、この磁気ヘテロ接合素子は磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)、ハードディスクドライブ(HDD)の再生ヘッド、スピンロジック素子に適用できる。
≪参考文献≫
[1] G. Kresse and J. Furthmuller, Phys. Rev. B 54, 11169 (1996).
[2] G. Kresse and D. Joubert, Phys. Rev. B 59, 1758 (1999).
[3] J. P. Perdew, K. Burke, and M. Ernzerhof, Phys. Rev. Lett. 77, 3865 (1996).
[4] P. E. Blochl, Phys. Rev. B 50, 17953 (1994).
[5] G. Kresse and D. Joubert, Phys. Rev. B 50, 1758 (1999).
[6] G. H. O. Daalderop, P. J. Kelly, and M. F. H. Schuurmans, Phys. Rev. B 41, 11919 (1990).
11 基板
12 第1の強磁性層
13 非磁性層(I-III-VI2型カルコパイライト型化合物半導体)
14 第2の強磁性層
100 磁気記録再生装置
110 記録用媒体ディスク
120 ヘッドスライダー
130 ボイスコイルモータ
140 スピンドル
150 磁気ヘッドアッセンブリ
160 主磁極
170 補助磁極
180 スピントルク発振子

Claims (9)

  1. 基板と、この基板に隣接して設けられるか、又は下地層を挟んで設けられる強磁性層と、この強磁性層に隣接して設けられる非磁性層を有すると共に、当該強磁性層と非磁性層は[001]配向で積層した構造を有する磁気ヘテロ接合素子であって、
    鉄を含有する強磁性材料からなる前記強磁性層であって、前記鉄を含有する強磁性材料はbcc-Fe、bcc-Fe 1-x Co (0<x<0.6)、(Co Fe 1-x 1-y (0<x<0.6、0.15<y≦0.3)からなる群から選択される軟磁性層を有し、
    ZnSe、ZnS、Cu(In 1-y Ga )Se (0≦y≦1)、Ag(In 1-y Ga )Se (0≦y≦1)、AgInS からなる群から選択される化合物半導体からなる前記非磁性層とを備え、
    前記強磁性層と前記非磁性層との接合界面における界面結晶磁気異方性定数(Ks)が0.78mJ/mを超えると共に、前記強磁性層が垂直磁化層であることを特徴とする磁気ヘテロ接合素子。
  2. 前記非磁性層の上に、上部電極又は保護層の少なくとも一方が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の磁気ヘテロ接合素子。
  3. 基板上に第1の強磁性層、非磁性層、及び第2の強磁性層を[001]配向で積層した構造を有する磁気ヘテロ接合素子であって、
    前記第1の強磁性層と前記第2の強磁性層の少なくとも一方は鉄を含有する強磁性材料からなると共に、前記鉄を含有する強磁性材料はbcc-Fe、bcc-Fe 1-x Co (0<x<0.6)、(Co Fe 1-x 1-y (0<x<0.6、0.15<y≦0.3)からなる群から選択される軟磁性層を有し、
    前記非磁性層はZnSe、ZnS、Cu(In 1-y Ga )Se (0≦y≦1)、Ag(In 1-y Ga )Se (0≦y≦1)、AgInS からなる群から選択される化合物半導体からなると共に、
    前記第1又は第2の強磁性層と前記非磁性層との接合界面における界面結晶磁気異方性定数(Ks)が0.78mJ/mを超えると共に、前記第1又は第2の強磁性層の少なくとも一方が垂直磁化層であることを特徴とする磁気ヘテロ接合素子。
  4. 前記第2の強磁性層の上に、上部電極又は保護層の少なくとも一方が設けられたことを特徴とする請求項3に記載の磁気ヘテロ接合素子。
  5. 前記非磁性層の厚さは0.5~3nmであることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の磁気ヘテロ接合素子。
  6. 前記基板は、MgO基板、シリコン基板、砒化ガリウム基板、窒化ガリウム基板、サファイア基板、ガラス基板からなる群から選択される、絶縁体または半導体の、基板であることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の磁気ヘテロ接合素子。
  7. 前記基板と前記強磁性層の間には、さらに下地層が設けられていると共に、
    前記下地層はCr、Au、Ag、Ta、Ru、W、Ir、Pt、Cu、Mo、Os、Re、MgOからなる群から選択される金属元素からなることを特徴とする請求項1乃至の何れか1項に記載の磁気ヘテロ接合素子。
  8. 請求項3乃至の何れか1項に記載の磁気ヘテロ接合素子を用いた磁気記憶装置であって、
    前記磁気ヘテロ接合素子の一方の強磁性材料の層におけるスピンの向きを固定し、他方の強磁性材料の層におけるスピンの向きを反転可能とし、前記磁気ヘテロ接合素子の積層方向に電流を通電して、前記各層のスピンの向きに応じた値を出力することを特徴とする磁気記憶装置。
  9. 請求項3乃至の何れか1項に記載の磁気ヘテロ接合素子を用いたスピンロジック素子であって、
    前記Cu(In 1-y Ga )Se (0≦y≦1)、Ag(In 1-y Ga )Se (0≦y≦1)、AgInS からなる群から選択される化合物半導体の層にゲート電圧を印加し、前記磁気ヘテロ接合素子の一方の強磁性材料の層をソース層とし、他方の強磁性材料の層をドレイン層とすることを特徴とするスピンロジック素子。
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