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JP7126415B2 - 廃水処理用の微生物燃料電池及びアノード用炭素電極 - Google Patents

廃水処理用の微生物燃料電池及びアノード用炭素電極 Download PDF

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Description

本発明は、廃水中に含まれる汚濁物質を効率よく分解し、電気エネルギーを生成することが可能な微生物燃料電池のアノードと、そのアノードを使用した廃水処理のための微生物燃料電池に関する。
従来より生活廃水や工場廃水を処理する方法として、活性汚泥法や嫌気的廃水処理法など微生物を利用した生物処理法がよく用いられている。なかでも好気性微生物を利用した活性汚泥法は、大量の廃水を安定的に連続処理ことが可能であり、処理水質も良好であるという利点を有するが、好気性微生物は多くの酸素を必要とするために曝気操作を行わなければならず、さらに廃水処理にともなって発生する大量の余剰汚泥の処理に大量のエネルギーが必要なことが問題視されている。
このため、活性汚泥法の欠点を補うべく新しい廃水処理技術の開発が進められており、その一つとして微生物燃料電池が注目されている。微生物燃料電池は、有機性物質を嫌気性微生物によって分解して処理する燃料電池であると同時に廃水処理装置で、曝気は必要なく、余剰汚泥の発生も抑えることができる。また、生活廃水や工場廃水に含まれる有機性物質の化学エネルギーを電気エネルギーに変換することから、次世代の廃水処理法と期待されている。今後、処理能力の向上の他、微生物が発する電力が非常に小さく、出力される電流密度が低い等の課題についての更なる改良が必要である。
微生物燃料電池は、電解槽と、電解槽内に収容された電子供与微生物を含む電解質溶液と、電解質溶液に接触するように配置されたアノードおよびカソードにより構成され、耐腐食性、生物親和性の優れる炭素電極が使用されることが多い。現在の主流としては、高い表面積と電気伝導性を有するグラファイトやカーボンクロス、カーボンフェルトなどの炭素繊維系がアノードとして使われている。しかし、炭素繊維は、弾性率が高いが捻りには弱いため、水流や生物の付着等、局部的な力で折れるという欠点や、繊維径が細いため、折れた繊維が皮膚や粘膜に刺激を与え、痛み・かゆみを生じることもあり、取り扱いには注意が必要とされるなど、実用化に向けて耐久性や皮膚刺激性の課題の克服が必要であり、これら耐久性や作業性の問題を解決するために鋭意改良が進められている。
例えば、特許文献1では、炭素繊維の構造体に石油コークス等の炭素粒子とコールタールピッチ等の結合剤を含浸させて不活性雰囲気下で800~3000℃で炭化させてなる多孔質電極基体が開示されており、微生物燃料電池などにも使用できるとされている。しかし、この基体は薄く、フレキシブルなことが特徴であるために、流れによって外力が電極に加わる廃水処理などの用途に用いるためには強度を上げるために幾枚もの基体を積層しなければならず、形状の自由度も低い。また、微生物燃料電池のアノードとして必要な微生物の付着に適した炭素構造については一切触れられておらず、実施例もレドックスフロー電池を想定した評価であって微生物燃料電池への適正は明らかにされていない。
また、特許文献2においては、炭素繊維やフェルト、クロスといった炭素繊維加工物、カーボンフォーム、ポーラスカーボンなどの導電性の担体を用いた微生物燃料電池用アノードが開示されている。しかし、カーボンフォームやポーラスカーボンを構成する炭素については炭素質および黒鉛質のいずれかに限定されてないとしており、それ以上の具体的な開示は無い。
他方、電炉用電極として炭素棒(黒鉛質炭素電極)が知られている。この黒鉛質炭素電極は、コークス粉粒等の骨材に石炭系や石油系のピッチをバインダーとして加えて混練し、成形、焼成黒鉛化することにより製造される粒子結合型の多孔質組織性状からなるものであるが、体積抵抗率が小さく、強度も比較的ある。しかし、黒鉛材料を得るためには3000℃以上の高温が必要であるために製造コストが高いほか、出力の向上を目的に電極形状を例えば薄板状にした場合になどにおける電極の強度に対する不安がある。
特表2016-532274号公報 特開2016-154106号公報
本発明は、かかる先行技術の問題点、特に電極の黒鉛が高結晶性ゆえに疎水性が高いため微生物との親和性に劣るという問題を解消して吸水性および材質強度が高く、かつ耐久性に優れた低結晶性炭素の成形体を用いた廃水処理に適した微生物燃料電池とそれに使用されるアノード用電極を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、特定の開気孔率を有する多孔質な低結晶性炭素が、廃水を処理するための微生物燃料電池のアノード用炭素電極に適していることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、廃水を処理するための微生物燃料電池のアノード用炭素電極であって、前記炭素電極は少なくとも表層部の炭素が、X線回折法により測定される黒鉛六角網面層の平均格子面間隔002面の面間隔d002が0.340nm以上で、結晶子の大きさLc(002)が10nm未満である多孔質な低結晶性炭素の成形体であり、前記炭素成形体の曲げ強度が10MPa以上であることを特徴とするアノード用炭素電極である。
前記炭素電極は、その開気孔率が5~70%である多孔質な低結晶炭素の成形体であることが好ましく、さらに、熱重量分析で窒素ガス流量を毎分5mlとし、20℃から毎分15℃の昇温速度で800℃まで昇温した時の重量減少率が3wt%以下であることが好ましく、また23℃、1気圧下における純水浸漬後、24時間経過後の吸水率が5wt%以上であって、四酸化三鉄(Fe)を0.5~20.0wt%含んでいることが好ましい。
また、本発明は上記の廃水を処理するための微生物燃料電池のアノード用炭素電極を製造する方法であって、石油系または石炭系重質油から得られる炭素骨材に有機バインダーを配合して混合物としたのち成形し、非酸化性雰囲気下で500~1500℃の温度で焼成して、炭素成形体とする工程を有するアノード用炭素電極の製造方法である。
上記のアノード用炭素電極の製造方法においては、石油系または石炭系重質油から得られる炭素骨材に有機バインダーを配合した混合物に酸化鉄または水酸化鉄をさらに配合して非酸化性雰囲気下で500℃以上の温度で焼成した態様や、焼成物に含浸材を含浸または被覆し、非酸化性雰囲気で500~ 1500℃の温度で焼成して、炭素成形体とする工程を有する態様であることもよい。
また、本発明は廃水を処理するための微生物燃料電池であって、カソード電極と一対で使用されるアノード電極として、上記のアノード用炭素電極を用いることを特徴とする微生物燃料電池である。
本発明の微生物燃料電池のアノード用炭素電極は、開気孔率が高いために廃水との接触面積が大きく、かつ親水性であって生物親和性が高く、廃水の処理効率が良好である。また、機械強度が高いために形状の自由性と耐久性に富む。さらに安価でかつ安定な炭素材料を使用していることから、多種多様な廃水を処理するための微生物燃料電池のアノード電極として適する。
本発明の微生物燃料電池の模式図である。 本発明の他形態の微生物燃料電池の模式図である。 実施例1又は比較例1の炭素電極を組み込んだ微生物燃料電池について、運転日数に伴う電圧の推移を示すグラフである。 実施例1又は比較例1の炭素電極をアノードとして組み込んだ微生物燃料電池(実施例2、比較例2)について、電力密度と電流密度の関係を示すグラフである。 実施例1、3、4又は比較例1の炭素電極をアノードとして組み込んだ微生物燃料電池(実施例5~7、比較例3)について、電力密度と電流密度の関係を示すグラフである。
本発明の微生物燃料電池のアノード用炭素電極は、開気孔率が5~70%である多孔質な炭素成形体からなり、炭素成形体の少なくとも表層部の炭素が、X線回折法により測定される黒鉛六角網面層の平均格子面間隔d002が0.340nm以上で、結晶子の大きさLc(002)が10nm未満となる低結晶性炭素であり、曲げ強度が10MPa以上である。
ここで、炭素電極は炭素成形体について、その形状を整えるための加工などをすることにより得られるが、材質自体は変化しないので、炭素材としての特性(開気孔率やX線回折法により測定される特性等)は、炭素成形体と炭素電極は、同一であると考えることができる。
本発明のアノード用炭素電極は、次のような方法によって製造されるものが好ましい。すなわち、コークス粒子などの炭素骨材に有機バインダーを加えて混練し、混練物を所定形状に成形したのち非酸化性雰囲気中で500℃~1500℃で焼成して得られる炭素骨材が有機バインダーで連結された粒子結合型の多孔質低結晶性炭素成形体、または得られた多孔質低結晶性炭素成形体を基材として、これを含浸材で含浸・被覆し、非酸化性雰囲気中で加熱処理して焼成したものである。基材の表層および空隙部は含浸・被覆した含浸材が炭化した低結晶性炭素により充填・被覆された複合組織構造からなっている。
微生物燃料電池用のアノード電極は、有機物の分解と同時に電子を放出する嫌気性の電流発生菌と呼ばれる微生物の速やかな付着と増殖と、微生物による有機物の分解に伴って発生する電子の捕捉がスムーズに行なえることが求められる。このため、親水性であり、廃水と接触する面積が大きく、機械強度に優れた導電性の材料により構成されることが望ましい。
このような特性を有する材料としては、金属材料や炭素材料、これら両者を組み合わせた複合材料等が挙げられる。しかし、廃水の処理に際しては長期安定稼動の面から電極の交換頻度を減らせる耐腐食性の強い炭素材料が適しており、特に黒鉛とほぼ同等の電気伝導性を有しながらも材料強度は黒鉛よりも強いほか、黒鉛ほど炭素結晶が成長していないために親水性を示す低結晶性炭素材料が適している。
この低結晶性炭素材料としては、X線回折方法(XRD)により測定される黒鉛六角網面層の(002)面の平均格子面間隔d002の値が0.340nm以上の炭素材料であって、好ましくは0.340~0.380nm、より好ましくは0.340~0.360nmの炭素材料である。
なお、d002の値が0.340nm未満であると黒鉛化が進みすぎており良伝導性ではあるものの疎水性の表面となってしまうほか、材料の機械強度も不足しがちになる。一方、d002が0.380nmを超えるようなものは、炭素結晶の成長が不十分であるために電気伝導性が悪いほか、残存する有害な難分解性の多環芳香族化合物が流出する可能性がある。
本発明の微生物燃料電池のアノード用炭素電極又は炭素成形体(以下、これらを炭素電極又は炭素成形体ともいう。)は、その開気孔率が5~70%、好ましくは5~50%、最も好ましくは7~30%の範囲内にあることが望ましい。微生物燃料電池としての能力(出力)を向上させるためには、電極と廃水との接触や微生物の付着する面積が大きいことが求められることから、廃水が内部にまで入っていきやすい気孔を持つことがよく、吸水・保水するためには開気孔率が多いものが望ましい。前記範囲内に開気孔率を調整することにより、水流に抗するに充分に足りる電極強度を確保しつつ、電極の表面積を拡大させることができ、廃水との接触面積や微生物の付着面積を増やして廃水処理能力を向上させることができる。
本発明の炭素電極又は成形体は、微生物が電極表面に速やかにコロニーを形成することができるように、少なくとも電極表面が親水性である。炭素材料の親水性は、表面に存在する官能基または、活性点である炭素結晶のエッジ部の露出によるものであるが、表面官能基は電極作製の過程で高温の焼成工程を経るためにその影響は少なくなり、後者の影響がより大きい。
したがって、本発明の炭素電極又は成形体は、X線回折法(XRD)により測定される黒鉛結晶の結晶子の大きさLc(002)が10nm未満であり、5~8nmであることが好ましい。結晶子の大きさLc(002)の値が10nm以上であると、高結晶性であるために炭素結晶のエッジの露出が低結晶性の炭素材料よりも相対的に少なくなり、親水性の度合いが低下すると見られるために好ましくない。
また、本発明の炭素電極又は成形体は、23℃、1気圧下における純水浸漬後、24時間経過後の吸水率が5wt%以上であることが好ましく、5~50wt%の範囲であることがより好ましい。開気孔率が高くても吸水率が5wt%未満であると、開気孔の内部まで水が浸入しづらい状態、すなわち炭素電極の親水性が低いことを示す。このため、吸水率が上記範囲内であることは、廃水との接触面積が大きく、かつ電流発生菌の付着性が良いことを示すので、微生物燃料電池用アノードとして好ましいものであることを示す指標となる。
本発明の炭素電極又は成形体は、その曲げ強度が10MPa以上、好ましくは13~30MPaの範囲である。曲げ強度が10MPa未満であると材料の機械強度が足りないために開気孔率の調整範囲が狭くなるうえ、電極形状の自由度も低下する。また、実使用時における水流への耐久性が低くなるので、寿命の低下や破損の可能性がある。
本発明の炭素電極又は成形体は、熱重量分析(TGA)にて窒素ガス流量を毎分5mlとし、20℃から毎分15℃の昇温速度で800℃まで昇温した時に測定される重量減少率が3wt%以下、好ましくは0~2wt%である。重量減少率が前記範囲内であることは、電極から脱離しやすい未反応の低分子量成分(たとえばピレン類)が少ないということであり、実使用時に電極から環境負荷を与えるような成分を放出することがないので望ましい。
本発明の炭素電極又は成形体は、炭素骨材を有機バインダーの炭化物で連結した粒子結合型の多孔質炭素成形体であることが好ましい。
本発明の炭素電極又は成形体に使用される炭素骨材は、石油系あるいは石炭系の重質油からディレードコーキングプロセスにより製造される生コークスまたは、生コークス等を非酸化性雰囲気で500~1600℃でか焼して得られるか焼コークス使用することができる。
中でも、か焼コークスはかさ密度が高く、曲げや引張り強度に優れるため炭素骨材として好ましい材料であり、黒鉛よりも材料強度が高く、粉砕しても燐片状になるために生体内に取り込まれても炭素繊維のような生体刺激性のない安全な材料でもある。
有機バインダーは焼成時に炭化しやすく残炭率の高い物質であれば特に限定はされず、デンプンなどの天然高分子、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの合成高分子、タールやピッチなどが使用できるが、合成高分子、または石油系または石炭系重質油より得られるピッチ類が好ましく、軟化点が80~110℃のバインダーピッチ(例えば新日鉄住金化学社製 BP)が高温での成形加工と、冷えてからの炭素骨材の結着性が良好であるために次工程への搬送などのマテリアルハンドリングに耐えうる強度を有することから、最も好適に使用される。
また、後記する焼成物を含浸・被覆するために使用される含浸材は、有機バインダーと同様に焼成時に炭化しやすく、かつ残炭率の高い材料であれば特に限定されるものではない。但し、基材を十分に被覆するために200℃での溶融粘度が30mPa・s以下の流動性が高い材料が適しており、例えば含浸用ピッチ(新日鉄住金化学社製 IP)などが好適に使用される。
本発明の炭素電極又は成形体は、開気孔や表面性状、XRDで測定される低結晶炭素としての物性に悪影響を及ぼさない範囲内において、電気伝導性や成形体の強度向上、微生物の活性化などの副次効果を付与することを目的に金属化合物や、炭素繊維のチョップドファイバーやミルドファイバー、カーボンナノワイヤなどのナノカーボンおよびカーボンブラックなどを添加してもよい。
特に、本発明の炭素電極又は成形体は、鉄分を含有していることが好ましい。鉄は生体活性物質であるほか、電子伝達物質としての働きも有するために微生物燃料電池の排水処理効率を向上することができる。
鉄分は、導電性があり、微生物が利用し易い四酸化三鉄の状態で含有されていることが好ましいが、単体鉄や酸化第一鉄が含まれていてもよい。
炭素電極又は成形体に含まれる鉄分量は、四酸化三鉄として0.5~20.0wt%であることが好ましい。四酸化三鉄の含有量が前記範囲内にすることにより、従来の炭素電極と同様の成形性や加工性を維持しながら鉄分による微生物の活性化が可能である。より好ましい四酸化三鉄含有量は1.0~20.0wt%であり、含有量が4.0~20.0wt%であるとさらに好ましく、含有量10.0~20.0wt%が最も好ましい。
炭素電極又は成形体への四酸化三鉄の含有は、四酸化三鉄を原料に配合しても良いし、単体鉄を原料に配合してこれを酸化しても良く、酸化第二鉄を還元することで得ても良いが、制御が比較的簡単であり四酸化三鉄への生成率が良い酸化第二鉄の還元による方法を採る事が好ましい。
酸化第二鉄は、色材として用いられるベンガラや鉱石のほか、水酸化鉄などの鉄化合物の加熱分解物、製鉄所から排出される製鉄ダストやスラッジなども使用することができるが、高純度であり粒子径が細かく、腐食性や有害性のガスの発生がないベンガラや水酸化鉄(III)といった3価の鉄を有するものが好適に使用される。これらはそのまま炭素骨材と有機バインダーとともに配合され、炭素電極又は成形体として非酸化性雰囲気で焼成される際に還元され、四酸化三鉄となる。
さらに、本発明の炭素電極又は成形体はマンガンフェライトなどフェライト構造を有するものを含んでいてもよい。
本発明の微生物燃料電池のアノード用炭素電極は、好ましくは炭素骨材を有機バインダーと混練して所望の形状に成形したのち焼成することで得られる炭素成形体を電極に加工することで得られる。以下、その製法について例を挙げながら説明するが、これに限定されるものではない。なお、炭素成形体を電極に加工する方法は、公知の手段を採用できる。
まず、炭素骨材と有機バインダーとの配合に先駆けて、炭素骨材を定法の手段により粉砕、分級して所望の粒度となるように調整を行う。
一般的に、多孔質炭素電極の気孔径と開気孔率は、骨材の粒径や結合剤の使用量、焼成温度等によって制御され、例えば、骨材粒子の粒径を大きくすることにより、これらの数字は大きくなる傾向にある。
しかし、粗大な気孔の存在や高すぎる開気孔率は多孔質炭素電極の強度を低下させるため、炭素骨材の粒径は、その全ての粒子の粒径が、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下とすることが望ましい。そして、そのうち粒子径0.1mm以下の細粒が、好ましくは10wt%(質量基準)以上、より好ましくは20wt%以上存在するように粒度を調整すると粗大な気孔が無く、適切なサイズの気孔径を多数形成させられるので好ましい。また、中間的な粒径をもつ粒子、例えば0.5~1.0mm程度のものを除外することによって、空隙を減らし、開気孔率を低めに調整して機械強度を高めることもできる。
このように、骨材粒子の粒度を調整することによって、気孔径や開気孔率と機械強度(曲げ強さ)をそれぞれ制御することが可能であり、本発明の目的に適したバランスのとれた物性の多孔質炭素電極を得ることができる。
炭素骨材の配合割合は、混練条件や成形方法によって配合量が調整されるが、炭素骨材とバインダーについては、炭素骨材100質量部に対し、有機バインダー10~80質量部の範囲とすることがよい。例えば、炭素骨材として易黒鉛化性炭素粒子を使用し、有機バインダーとしてバインダーピッチを使用し、押出し成形によって炭素成形体を製造する場合は、炭素骨材100質量部に対し、バインダーピッチが10~80質量部、好ましくは20部~50質量部とする。バインダーピッチが10質量部未満であると、機械強度が低下するため電極が脆くなり、80質量部を超えると電気特性や気孔性状が悪化する。配合割合は上記の範囲で、適宜調整される。なお、炭素骨材と有機バインダー以外の添加物もこのとき配合することが好ましいが、添加の順番などについては任意でよい。
酸化第二鉄を配合する場合は、有機バインダー100重量部に対して60重量部以下となるように配合することが好ましい。酸化第二鉄の配合量が多くなりすぎると成形性が悪くなるほか、焼成物が硬くなるなどして後加工しにくくなるなどのトラブルが発生しやすくなる。配合量は好ましくは55重量部以下、より好ましくは52重量部以下である。
炭素骨材と有機バインダーの混練方法は、均一に分散可能な方法であれば良く、例えば、所望の粒度となるように粉砕・分級されたピッチコークスや石油コークス等の炭素骨材と、タールやピッチ等の有機バインダーと、所望により鉄化合物等の添加物を所定量配合して、これをニーダー等の混練機に投入し、有機バインダーの溶融温度以上で混練するなど、炭素成形体の製造において一般的に行われている方法が挙げられる。
成形は、所定の形状の押出口を有するダイからの押し出し成形や、炭素骨材と有機バインダーの混練物を冷却して2次粉砕した粒子を所望の形状の成形型に入れて上部から加圧成形する形込め成形であっても良く、更には、2次粉砕した粒子を水中でのラバープレスで圧縮成型する冷間静水圧プレス(CIP)で成形することもできる。
このようにして成形された成形物は焼成炉内で還元雰囲気下にて焼成を行う。焼成温度は500℃以上であるが、500~1500℃の温度範囲内で行われることが好ましく、600~1200℃がより好ましい。一般的に炭素材料の結晶状態はその焼成温度によって決定されることから、上記範囲内の温度で成形物を焼成することによって焼成体の炭素結晶を所望の状態に成長させることで、アノード用炭素電極として好ましい親水性で良好な電気伝導性を有した機械強度の高い多孔質な低結晶の焼成物又は炭素成形体を得ることができる。
なお、焼成温度は有機バインダーの種類によってその最低温度を変えることが望ましく、フェノール樹脂のような合成高分子であれば500℃以上、バインダーピッチを使用する場合は800℃以上とすることが望ましい。これは、バインダーピッチから例えばピレン類といった有害物質が残留する可能性を排除するためである。
焼成後の焼成物は、そのままでも本発明の炭素電極又は成形体として使用することができるが、さらに含浸ピッチのような含浸材を含浸または被覆して再度焼成して再焼成物とすることで、電極の表層や開気孔をくまなく覆う低結晶性炭素の被膜を形成することもできる。また、含浸材を含浸または被覆する前の焼成物を2000℃以上の高温で黒鉛化して、その後に含浸材を含浸または被覆し、再度焼成して再焼成物としてもよい。
含浸材は加熱分解により炭素を形成する炭素前駆体であればよく、含浸ピッチやフェノール樹脂などの合成高分子が例示される。その含浸または被覆は、例えば加熱溶解した含浸ピッチに焼成体を浸漬し、一旦減圧させることなどにより行われ、引き揚げた後は、成形物の焼成工程と同様に非酸化性雰囲気下500℃~1500℃で再度焼成することにより炭素成形体とすればよい。
焼成後の焼成物の取り出しは、非酸化性雰囲気のままの状態で少なくとも70℃以下まで冷却したのちに炉内より取り出される。冷却温度は好ましくは50℃、より好ましくは40℃以下である。大気中のような酸化性雰囲気下での冷却は生成した四酸化三鉄が再度酸化されて酸化第二鉄となってしまうため、好ましくない。
本発明の微生物燃料電池と、これを用いた廃水の処理方法を、以下に説明する。
本発明の微生物燃料電池は、廃水を処理するための微生物燃料電池であって、カソード電極と一対で使用されるアノード電極として、本発明のアノード用炭素電極を用いる。微生物燃料電池の構造は公知の構造でよく、好ましくはアノードおよびカソード、両極間を隔離するイオン伝導性を有する隔膜で主に構成される。なお、これらを容器内に収納することがよく、隔膜は設けなくともよいが設けることが望ましい。
微生物燃料電池におけるアノード電極は、微生物の呼吸によって生じた電子を微生物から直接、または間接に受け取る。アノード電極は導電性であり、処理対象である廃水に対して安定な材質であれば特に限定されるものではなく、ステンレスなどの金属や炭素繊維フェルトといった黒鉛材料の使用が一般的である。しかし、金属電極は処理廃水の液性により電極材質を選択する必要や、化学的に安定な金属は高価であるという問題があり、黒鉛材料は化学的な安定性は高いものの高結晶性であるがゆえに表面状態が疎水性なため、電子供与微生物の付着や増殖はあまり速くないのが実情である。これらに対して、本発明の多孔質であり低結晶体炭素材料からなるアノード電極は、低結晶炭素に由来する高い親水性を備えているため、微生物が黒鉛材料に比して電極表面に広く、かつ、速やかに付着し、増殖するため、電池として出力する電力を向上でき、微生物燃料電池のアノードとして特に好ましく使用できる。
アノード電極の形状は、円柱や板状、その他形状(例えば波板形状)であっても構わない。また、処理効率を向上させるためには電極の表面積が大きいことが好ましいため、アノード電極を複数設置しても良い。本発明のアノード電極は、低結晶性炭素材料の材料強度が黒鉛材料よりも高いため、電極形状に対する自由度が高く、水流などの外力に対して強いこともまた好ましい一面である。
アノード電極が受け取った電子は、外部回路を経由してカソード電極に送られる。また、微生物の呼吸によって水素イオンが生じた場合は、水素イオンがカソード電極の表面に到達する場合がある。カソード電極では、電子によって酸素を還元させる。従ってカソード電極は、上記還元反応を阻害しないものであればその構成に特に制限はなく、アノード電極と同様に処理槽中の廃水に浸漬させてもよいし、廃水と液絡する別の電解液に浸漬させてもよい。このように、実施形態によっては、本発明の微生物燃料電池は、それが廃水の処理装置となることがある。また、本発明の微生物燃料電池が、廃水の処理装置の一部に組み込まれた実施形態でもよい。
廃水を処理するための微生物燃料電池の実施形態の例を、以下の第1、第2の実施形態によって説明する。第1の実施形態は、カソード電極を別の電解液に浸漬させた例であり、第2の実施形態は、カソード電極を廃水と大気に接触させた例である。以下、各実施形態について図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態である廃水を処理するための微生物燃料電池の模式図を示す。
図1に示す廃水の処理装置1は、廃水Aを収容する処理槽2と、廃水Aとは別の電解液Bを収容する処理槽4とを有し、処理槽2中の廃水Aに浸漬されたアノード電極3と、処理槽4の電解液Bに浸漬されたカソード電極5と、処理槽2と処理槽4とを液絡させる液絡部6が備えられている。更に、処理槽4には、電解液Bに酸素含有ガスを吹き込む曝気管7が挿入されている。曝気管7には送風機(図示略)が接続されている。
処理槽2には、廃水Aの導入部2aと排出部2bとが設けられており、廃水Aを処理槽2に循環供給又は流通供給できるように構成されている。処理槽2には、廃水Aと微生物が収容され、微生物は廃水Aに添加されている。図1には、導入部2aと排出部2bとが設けられた処理槽2を示しているが、導入部2aと排出部2bを有しないバッチ型の処理槽であってもよい。
アノード電極3は、処理槽2の内部に配置され、導線3aによって外部回路9に接続されている。アノード電極3として、本発明の多孔質な炭素成形体からなる炭素電極を適用する。
処理槽4には、電解液Bの導入部4aと排出部4bとが設けられており、電解液Bを循環供給又は流通供給できるように構成されている。処理槽4も、導入部4aと排出部4bを有しないバッチ型の処理槽であってもよい。
カソード電極5は、処理槽4の内部に配置され、導線5aによって外部回路9に接続されている。カソード電極5は、導電性であれば特にその材質は限定されず、例えば、材質として金属や炭素からなる電極を用いることができ、より詳細には多孔質カーボン成形体やステンレスメッシュ、白金板または白金線を例示できる。
処理槽2と4は、蓋体2cと4cによって密閉可能とされ、液絡部6を構成する液絡管2dと4dが設けられている。液絡部6は、上記液絡管2dと、液絡管4dと、それらに挟まれたプロトン伝導性膜6aとから構成されている。各液絡管2d、4dは、固定用の金具6bによって相互に固定されている。この構成により、プロトン伝導膜6aを介して廃水Aと電解液Bとの間で水素イオンが移動できるようになっている。また、処理槽2には微生物が含まれるが、プロトン伝導膜6aが物理的な障壁になって、微生物が電解液B側に拡散しないようになっている。
なお、本実施形態の液絡部6は図1に示す構成に限定されるものではなく、廃水Aと電解液Bとの間で水素イオンの移動を可能とし、かつ、微生物を電解液B側に拡散させないものであれば特に制限はない。
次に、上記廃水処理装置1を用いた廃水の処理方法を説明する。
まず、処理槽2、4にそれぞれ、廃水A、電解液Bを収容する。
廃水Aは、生分解性の汚濁物質を含む一般家庭や畜産業、鉱工業などの各種産業より排出される廃水であり、生分解性の汚濁物質の一例としてフェノール類や酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪族カルボン酸などの有機化合物などが挙げられる。
微生物の呼吸により生成した水素イオン及び二酸化炭素は廃水A中に拡散し、電子はアノード電極3に供与されるために、微生物はアノード電極3に付着していることが好ましく、コロニーを形成するとともにバイオフィルムを形成させてアノード電極3に付着していてもよい。
微生物は、良好な生育条件下で次第に増殖するので、その量を適当な範囲に調整する必要があるが、通常の活性汚泥法の場合に比べて増殖量が少ないため、処理槽2からの抜き取り量が少なくて済み、処分の手間も軽減される。
このような微生物は、例えば、廃水を活性汚泥法によって処理する際に用いられる活性汚泥中に存在している場合があるので、この活性汚泥とともに廃水A中に添加すると良い。
処理槽4に収容する電解液Bとしては、電解質成分を含み、カソード電極5による酸素の還元を阻害しないものであれば、如何なる電解液でも使用できる。具体的には、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素二ナトリウムで調製されたリン酸緩衝液を用いることが好ましい。リン酸緩衝液のpHは5.0~9.0の範囲であれば好適に用いることができる。
廃水A、電解液B及び微生物を、廃水の処理装置1にセットして、廃水の処理を開始する。微生物が廃水A中の有機酸やその塩(有機酸等ともいう)の分解を開始すると、二酸化炭素と水素イオンと電子とが少なくとも生成される。生成した水素イオンは、廃水A中に拡散する。また、水素イオンは、液絡部のプロトン伝導膜を介して、電解液Bに拡散する場合もある。一方、電子は、微生物から直接または間接に、本発明の炭素電極を使用したアノード電極3に供与される。アノード電極3に供与された電子は、外部回路9を介してカソード電極5に移動する。
カソード電極5では、外部回路9を経てきた電子によって、電解液B中に溶存している酸素が還元される。カソード電極5は還元反応の場として機能する。アノード電極3側で生成した水素イオンは、液絡部のプロトン伝導膜を通じて、電解液B中において、酸素の還元に係わる場合もある。
曝気装置17によって酸素含有ガスを電解液B中に曝気することで、電解液B中の溶存酸素濃度が高く維持される。これにより、酸素供給の律速がなく、カソード電極5における酸素の還元反応の速度低下が抑制され、微生物の呼吸が阻害されず、有機酸等の分解が円滑に進む。この場合の曝気量は、同じ量の汚濁物質を活性汚泥法により処理する際に必要な曝気量に比べて大幅に低いため、コストの増大が抑制される。
上記廃水の処理装置1を使用する廃水の処理方法によれば、微生物の代謝により有機酸等が分解されるとともに、微生物からアノード電極3に電子が供与され、この電子は、外部回路9を介してカソード電極5に到達し、カソード電極5において酸素を還元する。このように、微生物の呼吸が進行することにより、廃水中の汚濁物質が分解されるとともに、カソード電極5からアノード電極3に電流が流れる。
廃水Aと電解液Bとをプロトン伝導性膜を介して液絡させることによって、廃水A中に含まれる微生物が電解液B側に移動しにくくなることから、カソード電極5の表面にバイオフィルムが形成されにくくなり、カソード電極5の酸素還元反応が阻害されることがなく、廃水の処理を円滑に行うことができる。
更に、電解液Bに対して酸素を含む気体を曝気することで、カソード電極5における酸素の還元反応が円滑に進行し、微生物の呼吸が進み、廃水の処理を円滑に行うことができる。
次に、図2は、本発明の第2の実施形態である微生物燃料電池による廃水の処理装置の模式図である。
廃水の処理装置21は、廃水Aを収容する処理槽22と、処理槽22中の廃水Aに浸漬されたアノード電極23と、カソード電極25とが備えられている。
処理槽22には、廃水Aの導入部22aと排出部22bとが設けられており、廃水Aを処理槽22に循環供給又は流通供給できるように構成されている。処理槽22は蓋体22cによって密閉可能とされている。更に、処理槽22には、枝管22dが設けられている。処理槽22には、廃水Aと微生物が収容され、微生物は廃水Aに添加されている。廃水A及び微生物は、第1の実施形態と同様のものである。
アノード電極23は処理槽22の内部に配置されている。アノード電極23は導線23aによって外部回路29に接続されている。アノード電極23として、本発明の多孔質な炭素成形体からなる炭素電極を適用する。
カソード電極25は、処理槽22の枝管22dの途中に配置されている。カソード電極25は導線25aによって外部回路29に接続されている。カソード電極25は、電子伝導性の電極部と、電極部に保持されて酸素還元能を有する触媒とから構成されている。電極部の材質として例えば、カーボンフェルトや多孔質の炭素材料を例示できる。触媒としては、白金の微粒子を例示できる。より具体的には、例えば、フッ素樹脂と炭素粉末を混合、成形することによりシート状の電極部とし、電極部の表面及び内部に白金の微粒子を担持させる。
枝管22dは、基端部22eと先端部22fに分割されており、カソード電極25は基端部22eと先端部22fの間に挟まれている。基端部22eと先端部22fは、カソード電極25を挟んだ状態で固定用の金具22gによって相互に固定されている。枝管22dの基端部22eには処理槽22の廃水Aが流入している。廃水Aは、カソード電極25に塞がれて枝管22dから漏出しないようになっている。一方、枝管22dの先端部22fは大気に通じている。カソード電極25の多孔質な電極部の一部には廃水が浸潤している。これにより、カソード電極25の内部には、カソード電極(固体)と廃水(液体)と大気(気体)との三元界面が形成されている。なお、廃水の漏出防止のため、カソード電極25の先端部22f側の面にフッ素樹脂などの撥水性の膜を積層してもよい。
次に、上記廃水処理装置21による廃水の処理方法について説明する。
廃水A及び微生物を、処理槽22にセットして、廃水の処理を開始する。微生物が廃水A中の有機酸等の分解を開始すると、二酸化炭素と水素イオンと電子とが少なくとも生成される。生成した水素イオンは、廃水A中に拡散する。一方、電子は、微生物から直接または間接に、本発明の炭素電極を使用したアノード電極23に供与され、この電子は、外部回路29を介してカソード電極25に移動する。
カソード電極25では、外部回路29を経て移動した電子によって、大気中の酸素を還元させる。アノード電極23側で生成した水素イオンが、酸素の還元に係わる場合もある。酸素は大気中に多量にあるため、第1の実施形態のように曝気等の手段で強制的に供給する必要はない。本実施形態の場合は、カソード電極25における酸素の還元速度は、カソード電極25の面積に依存するので、カソード電極の面積は可能な限り大きいほうが好ましい。
微生物の呼吸によって生成した電子は、アノード電極23から外部回路9を経てカソード電極25に至る。ここで、カソード電極5はこの還元反応の場として機能する。例えば、本実施形態の一つとして、酸素の還元が例示される。このように本発明によれば、廃水中の有機酸等の分解が行われる。
上記廃水処理方法によれば、第1の実施形態とほぼ同様にして、廃水中の有機酸等が分解されるとともに、カソード電極25からアノード電極23に電流が流れる。
カソード電極25を廃水と大気とに接触させた状態とすることで、カソード電極と廃水と大気との三元界面を形成させる。これにより、大気から取り込まれた酸素がカソード電極25表面で還元されるようになり、外部から強制的に酸素を供給することなくカソード電極25における酸素の還元反応を進行させ、微生物の呼吸が進み、廃水の処理を円滑に行うことができる。
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。
炭素成形体等の物性を、以下の方法により測定した。
[開気孔率]
JIS R 1634:1988 ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法に準拠し、試料としての円柱状の炭素成形体(直径20mm、長さ48mm)の乾燥質量、純水に浸けたときの水中質量、ならびにそれを真空にし、飽水させたときの飽水質量を測定し、得られた質量を使って以下の式から開気孔率を求めた。
開気孔率(%)=(飽水質量-乾燥質量)/(飽水質量-水中質量)×100
[かさ密度]
かさ密度(g/cm)は炭素電極の直径2r(cm)と長さL(cm)をノギスで測定し、さらに炭素電極の質量(g)を別途測定したのち下式より算出した。
かさ密度(g/cm3)=炭素電極質量/(炭素電極の半径r)×π×L)
[XRDパラメータ]
炭素成形体の表面から0.1mm程度を旋盤で削った粉末を、X線回折装置(リガク製X-Ray DIFFRACT METER)を使用して、学振法により炭素結晶の(002)面の面間隔d002および、結晶子サイズLc002を測定した。
[全鉄]
粗粉砕した多孔質炭素材料の破片をディスクミルで微粉砕(平均粒径75μm程度)し、電気炉で炭素分を燃焼させ、残った灰分をアルカリ溶融し、酸で溶かす。それを使って予めFeピークとFe量の検量線を求めたICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法でFe分を測定し、使った多孔質炭素材料と残った灰分量からFe含有量を求めた。
[メタル鉄]
JIS M 8713:1987 鉄鋼石の還元試験方法を参考に、粉砕したサンプルを臭素メタノール溶液で処理したのち、溶解した金属鉄をο‐フェナントロリン吸光光度法にて測定した。
[鉄組成]
多孔質炭素材料をディスクミルで微粉砕(平均粒径75μm程度)し、X線回折装置(リガク社製、RINT-TTRIII、X線管球:CuKα、管電流:300mA、管電圧:50kV)を用いてX線回折パターンを得、回折ピークの位置(回折角2θ)から鉄成分の同定を行った。
[Fe含有量]
サンプルに含まれる鉄組成がFe単独の場合は、全鉄量から下式により算出する。
Fe含有量(wt%)=全鉄(wt%)×(Feの分子量/FeのFe量)
また、サンプルに含まれる鉄組成がFeOやFeを含む場合は、検量線法を用いてFe含有量を測定する。検量線法は、ZnO粉末(和光純薬製、粒径約5μm)を内部標準物質として、粉末X線回折法により行う。試料である多孔質炭素材料の微粉砕物に対して一定重量比(本発明中では30%)のZnOを混ぜ、めのう乳鉢により試料とZnOが均一に分散するように混合する。X線回折測定はX線回折装置(リガク社製、RINT-TTRIII、X線管球:CuKα、管電流:300mA、管電圧:50kV)で測定を行った。市販試薬の四酸化三鉄(高純度化学製)を用いて予め作製した検量線を用い、得られたX線回折パターンの強度より、定量分析を行う。
[吸水率]
予め乾燥質量を測定した上記円柱状の炭素成形体を23℃、1気圧下で純水に浸漬し、24時間後取り出し後、3分間静置し、水の滴りがなく、水が十分切れたところで炭素成形体の質量(吸水重量)を再度測定し、炭素成形体の乾燥重量に対する吸水重量の質量増加量を吸水率として下式により算出した。
吸水率(wt%)=(吸水質量-乾燥質量)/乾燥質量×100
[機械物性]
JIS R 7222 の曲げ強さ測定方法に準拠し、曲げ試験機(卓上万能試験機AGS-500A SHIMADZU社製)を用いて、上記円柱状の炭素成形体に毎秒50Nの一定荷重速度で加重を加え、得られた最大荷重から以下の式から曲げ強さを求めた。
曲げ強さ= 8×最大荷重×支点間距離/(円周率×円柱直径
[熱重量減少量]
熱分析測定装置(TG―DTA EXSTAR7200 日立ハイテク社製)を用いて、白金製のサンプルパンに粉砕試料5~10mgを秤量し、窒素ガス量 毎分5mL、温度20~800℃、昇温速度毎分15℃、最高温度での保持時間0minのプログラム制御によって昇温しながら試料入りサンプルパンの熱重量変化を探知して、20℃からの800℃までの試料の重量減少量を20℃での試料重量に対する重量%として求めた。
実施例1
真密度1.82g/cmのピッチコークスを粉砕し、粒子径0.250~0.500mmの粒子が25wt%、粒子径0.075~0.249mmの粒子が45wt%、粒子径0.074mm以下の粒子が30wt%となる粒度配合になるように調整したピッチコークス粒子100質量部に、石炭系重質油から得られたバインダーピッチ(軟化点97℃)40質量部を添加し、200℃で20分間加熱混練した。この混練物を20mmφの棒状に押出し成型したのち、900℃の非酸化性雰囲気下で焼成を行い焼成物(炭素成形体)を得た。この炭素成形体はそのまま非酸化性雰囲気下で常温まで冷却したのち炉内より取り出して20mmφ×48mmの円柱状に加工し、かさ密度1.40g/cm、吸水率8.9wt%の炭素電極A1を得た。
比較例1
実施例1で得られた炭素成形体を、さらに2550℃の非酸化性雰囲気下で黒鉛化した炭素材を20mmφ×48mmに加工し、かさ密度1.31g/cm、吸水率2.2wt%の炭素電極C1を得た。
実施例2、比較例2
実施例1、比較例1の炭素電極A1、C1を微生物燃料電池のアノード電極とし、各アノード電極の性能評価を行うために、図2に示す微生物燃料電池型の廃水処理装置を組み立てた。
なお、カソード電極5は白金触媒を1mg/cm担持したカーボンペーパー (EC-20-10-7、エレクトロケム)を使用した。電子の移動を確認するため、電極間に1000Ωの外部抵抗を設けて、その間の電圧測定用のデータロガーを設置した。
処理槽22に投入する廃水として、イオン交換水に、表1に示す物質を表1に示す濃度で溶解し、模擬廃水を調製した。なお、処理する汚濁物質としては酢酸を想定し、酢酸ナトリウムの形で添加した。そして、採取した土壌を模擬廃水で培養した培養物を微生物植種源として投入した。処理槽22に500mLの模擬廃水を入れ、週2回300mLずつ入れ替えた。
結果を表2に示す。
Figure 0007126415000001
Figure 0007126415000002
図3は、実施例1又は比較例1の炭素電極をアノードとして組み込んだ微生物燃料電池について、運転日数に伴う電圧の推移を示すグラフである。電圧値が概ね安定したと確認された60日目から64日目の電圧(平均値)は、比較例2は0.2725V、実施例2は0.2949Vであった。
62日目に10000、4700、1000、470、220、100、47、又は22Ωの外部抵抗を順次接続して、その時の電圧値を測定した。外部抵抗値Rとデータロガーで測定した電圧値Vより、オームの法則に従い電流値IをV/Rから算出した。電圧値Vと電流値Aを掛け合わせることで電力値Pを算出した。電流値Iと電力値Pをそれぞれアノード表面積S(2×π×(半径r)+2×π×r×長さL)で割り、電流密度(I/S)と電力密度(P/S)としプロットしたグラフを図4に示す。図中の実施例1、比較例1は炭素電極A1、C1であり、それぞれ、微生物燃料電池のアノード電極として組み込まれ、実施例2、比較例2に対応する。
実施例2、比較例2ともに外部抵抗値が100Ωのときに電力値が最大となった。最大電力密度は、比較例2が42.2mW/mであるのに対して、実施例2は51.5mW/mであった。このことから、実施例2は、比較例2と比較して22%大きい電力を達成することができたことが分かる。微生物燃料電池の電力の大きさは、電極上における電子供与微生物による電子の授受の程度、すなわち電子供与微生物の活性によって変動するものであることから、実施例2は比較例2と比較して電極上の電子供与微生物による反応速度が高く、廃水処理能力が高いことが分かる。
実施例3
真密度1.82g/cmのピッチコークスを粉砕し、粒子径0.250~0.500mmの粒子が25wt%、粒子径0.075~0.249mmの粒子が45wt%、粒子径0.074mm以下の粒子が30wt%となる粒度配合になるように調整したピッチコークス粒子100質量部に、石炭系重質油から得られたバインダーピッチ(軟化点97℃)40質量部および酸化鉄(Fe)を主成分とするベンガラ5重量部を添加し、200℃で20分間加熱混練した。この混練物を20mmφの棒状に押出し成型したのち、900℃の非酸化性雰囲気下で焼成を行い、焼成物(炭素成形体)を得た。この炭素成形体はそのまま非酸化性雰囲気下で常温まで冷却したのち炉内より取り出して20mmφ×48mmの円柱状に加工し、かさ密度1.46g/cm、吸水率7.9wt%の炭素電極A2を得た。
なお、炭素電極A2のFe含有量は、XRDによる鉄組成の分析においてFeのみが検出されており、メタル鉄量が0.1wt%未満であることから、全鉄量から含有量を算出した。
実施例4
酸化鉄(Fe)を主成分とするベンガラを22重量部添加すること以外、実施例3と同様にして、かさ密度1.51g/cm、吸水率6.2wt%の炭素電極A3を得た。
なお、炭素電極A3のFe含有量は、XRDによる鉄組成の分析においてFeのみが検出されており、メタル鉄量が0.1wt%検出されていることから、全鉄量からメタル鉄を引いた数値より算出した。
実施例5~7、比較例3
実施例2および比較例2と同様の操作により、実施例3、実施例4の炭素電極A2、A3を微生物燃料電池のアノード電極とし、各アノード電極の性能評価を行うために実施例1での電極A1および比較例1の電極C1を再度加えた計4点の図2に示す微生物燃料電池型の廃水処理装置を組み立てた。
なお、カソード電極5は白金触媒を1mg/cm担持したカーボンペーパー (EC-20-10-7、エレクトロケム)を使用した。電子の移動を確認するため、電極間に1000Ωの外部抵抗を設けて、その間の電圧測定用のデータロガーを設置した。
処理槽22に投入する廃水として、イオン交換水に、表1に示す物質を表1に示す濃度で溶解し、模擬廃水を調製した。なお、処理する汚濁物質としては酢酸を想定し、酢酸ナトリウムの形で添加した。そして、採取した土壌を模擬廃水で培養した培養物を微生物植種源として投入した。処理槽22に500mLの模擬廃水を入れ、週2回300mLずつ入れ替えた。
結果は表3に示す。
Figure 0007126415000003
42日目にポテンショスタットを用いて、電圧Vを開回路電圧から0Vまで変化させた時の電流値Iを測定した。電圧値Vと電流値Iを掛け合わせることで電力値Pを算出した。電流値Iと電力値Pをそれぞれアノード表面積S(2×π×(半径r)+2×π×r×長さL)で割り、電流密度(I/S)と電力密度(P/S)としプロットしたグラフを図5に示す。図中の実施例5、6、7、比較例3の微生物燃料電池は、炭素電極A1、A2、A3(実施例1、3、4)及びC1(比較例1)を、それぞれ、アノード電極として組み込んだものである。
実施例5の最大電力密度は、比較例3と比較して27%大きかった。このことから、実施例2および比較例2の結果と同様に本発明の低結晶炭素電極が黒鉛よりも優れていることが分かった。さらに、実施例6および7はそれぞれ118mW/m、160mW/mであった。このことから実施例6および7は実施例5と比較してもそれぞれ34%および82%大きい電力を達成することができたことが分かる。このことから、四酸化三鉄(Fe)を電極に添加したことで、より一層、微生物の活性化などの効果が付与されたことが分かった。
微生物燃料電池の電力の大きさは、電極上における電子供与微生物による電子の授受の程度、すなわち電子供与微生物の活性によって変動するものであることから、実施例6および7は比較例3だけでなく実施例5と比較しても電極上の電子供与微生物による反応速度がさらに高く、より廃水処理能力が高いことが分かる。
1、21…廃水の処理装置、2、4、22…処理槽、3、23…アノード電極、 5、25…カソード電極、6…液絡部、17…曝気装置、A…廃水、B…電解液

Claims (9)

  1. 廃水を処理するための微生物燃料電池のアノード用炭素電極であって、前記炭素電極は少なくとも表層部の炭素が、X線回折法により測定される黒鉛六角網面層の002面の平均格子面間隔d002が0.340nm以上で、結晶子の大きさLc(002)が10nm未満である多孔質な低結晶性炭素の成形体であり、前記炭素成形体の曲げ強度が10MPa以上であることを特徴とするアノード用炭素電極。
  2. 前記炭素成形体の開気孔率が5~70%である請求項1に記載のアノード用炭素電極。
  3. 前記炭素成形体は、熱重量分析で窒素ガス流量を毎分5mlとし、20℃から毎分15℃の昇温速度で800℃まで昇温した時の重量減少率が3wt%以下である請求項1又は2に記載のアノード用炭素電極。
  4. 前記炭素成形体が、23℃、1気圧下における純水浸漬後、24時間経過後の吸水率が5wt%以上である請求項1~3のいずれか一項に記載のアノード用炭素電極。
  5. 前記炭素成形体が四酸化三鉄(Fe)を0.5~20.0wt%含む請求項1~4のいずれか一項に記載の微生物燃料電池用のアノード電極。
  6. 請求項1~5のいずれか一項に記載の廃水を処理するための微生物燃料電池のアノード用炭素電極を製造する方法であって、石油系または石炭系重質油から得られる炭素骨材に有機バインダーを配合して混合物としたのち成形し、非酸化性雰囲気下で500~1500℃の温度で焼成して、炭素成形体とする工程を有するアノード用炭素電極の製造方法。
  7. 前記混合物に更に酸化鉄または水酸化鉄を配合する請求項6に記載のアノード用炭素電極の製造方法。
  8. 請求項6または7に記載のアノード用炭素電極の製造方法において、得られた焼成物に、含浸材を含浸または被覆し、非酸化性雰囲気で500~1500℃の温度で焼成して、炭素成形体とする工程を有するアノード用炭素電極の製造方法。
  9. 廃水を処理するための微生物燃料電池であって、カソード電極と一対で使用されるアノード電極として、請求項1~5のいずれか一項に記載のアノード用炭素電極を用いることを特徴とする微生物燃料電池。
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