実施形態に係る基礎試験装置は、試験片を用いて、鋼管用ねじ継手のシール面の密封性能を試験するための試験装置である。試験片は、鋼管用ねじ継手のシール面を模擬した環状凸面と、環状凸面の内側に配置された貫通孔と、を有する。基礎試験装置は、透明板と、治具と、内視鏡装置と、ガス供給装置と、を備える。透明板は、平面視で多角形状又は楕円形状を有する。透明板は、環状凸面に対向して配置される。治具は、凹部を有する。凹部は、透明板の形状に対応する形状を有し、透明板を収容する。治具は、凹部内の透明板を環状凸面に対して押圧可能に構成される。治具は、回転軸周りに回転可能に構成される。回転軸は、環状凸面の中心部を通り、凹部内の透明板の厚み方向に延びる。内視鏡装置は、内視鏡を有する。内視鏡は、治具内に挿入される。内視鏡装置は、透明板を介してシール接触部を撮像する。シール接触部は、環状凸面と透明板とで形成される。ガス供給装置は、貫通孔からシール接触部の内側空間に所定の圧力のガスを供給する(第1の構成)。
第1の構成において、治具は、鋼管用ねじ継手のシール面を模擬した環状凸面に対して、凹部内に収容した透明板を押圧する。これにより、環状凸面及び透明板によってシール接触部が形成される。また、治具は、シール接触部の中心を通って凹部内の透明板の厚み方向に延びる回転軸周りに回転する。凹部は、平面視で多角形状又は楕円形状をなす透明板に対応した形状を有する。この構成によれば、治具が上記回転軸周りに回転したとき、凹部の内面から透明板に対して、透明板を治具と同方向に回転させるのに十分なトルクが作用するため、透明板が治具とともに回転する。すなわち、多角形状又は楕円形状の透明板及び凹部により、透明板と治具との相対回転が規制されるため、透明板と治具との間で滑りが生じることなく、透明板が治具と一体的に回転する。よって、環状凸面に対して透明板を回転摺動させることができる。環状凸面及び透明板で形成されるシール接触部は、内視鏡装置により、回転摺動させた透明板を介してそのまま撮像することができる。そのため、環状凸面の接触状態を変化させることなく、ガス供給装置によってシール接触部の内側空間にガスを供給してガス密封試験を開始し、試験中のシール接触部をその場観察することができる。よって、ねじ継手の締結過程で生じるシール面の摺動を考慮したその場観察が可能となり、鋼管用ねじ継手のシール部の密封性能を精度よく評価することが可能となる。
上記基礎試験装置において、環状凸面と透明板との間には、潤滑剤又は潤滑皮膜が存在してもよい(第2の構成)。
第2の構成では、環状凸面に対して、予め潤滑剤を塗布し、あるいは予め潤滑皮膜を形成することにより、環状凸面と透明板との間に潤滑剤又は潤滑皮膜を存在させる。これにより、環状凸面における潤滑剤又は潤滑皮膜の挙動を観察することができる。よって、その場観察において、ガス密封性能に対する潤滑剤又は潤滑皮膜の影響を確認することができる。
第2の構成の基礎試験装置は、さらに、加熱装置を備えることが好ましい。加熱装置は、シール接触部を形成した状態の試験片及び透明板を収容して加熱することができる(第3の構成)。
第3の構成によれば、加熱装置により、シール接触部における潤滑剤又は潤滑皮膜が加熱される。このため、その場観察において、ガス密封性能に対する潤滑剤又は潤滑皮膜の高温劣化の影響を確認することができる。
第2又は第3の構成において、内視鏡装置は、紫外線光源を備えていてもよい。紫外線光源は、透明板を介して、シール接触部に、紫外線を含む観察光を照射することができる。この場合、環状凸面と透明板との間には、潤滑剤として、潤滑油又はグリースが存在することが好ましい。潤滑油又はグリースには、好ましくは、蛍光剤が添加される。蛍光剤は、紫外線を吸収して蛍光を発する(第4の構成)。
第4の構成によれば、蛍光剤が添加された潤滑油又はグリースが環状凸面と透明板との間に存在する状態で、紫外線を含む観察光がシール接触部に照射される。これにより、潤滑油又はグリース中の蛍光剤が蛍光を発するため、その場観察において、潤滑油又はグリースの挙動をより正確に把握することができる。
第4の構成において、紫外線光源は、長波長カットフィルタを介して、シール接触部に観察光を照射することが好ましい。長波長カットフィルタは、可視光線よりも波長が長い光を減衰させることができる(第5の構成)。
第5の構成では、長波長カットフィルタにより、可視光線よりも波長が長い光が減衰し、可視光線よりも波長が短い光がシール接触部に照射される。すなわち、シール接触部に不要な光が入射されなくなる。このため、その場観察におけるシール接触部の視認性を向上させることができる。
上記基礎試験装置は、さらに、シールドと、ヘリウムリークディテクタと、を備えることが好ましい。シールドは、シール接触部を形成した状態の試験片及び透明板を覆う。ヘリウムリークディテクタは、シールドに接続される。ガス供給装置は、ヘリウムを含むガスを内側空間に供給する(第6の構成)。
第6の構成によれば、シール接触部の内側空間から漏出したガスをシールドが捕捉し、ヘリウムリークディテクタが漏出したガス中のヘリウムを検出する。これにより、シール接触部のうち、内視鏡装置によって観察されている部分以外でガスリークが発生した場合であっても、ガスリークを検知することができる。
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
[試験装置の構成]
(全体構成)
図1は、実施形態に係る基礎試験装置100の正面図である。基礎試験装置100は、鋼管用ねじ継手のシール面のガス密封性能を試験するために用いられる。基礎試験装置100による試験では、試験片200が使用される。試験片200の材質は、試験対象の鋼管用ねじ継手の材質と同一であることが好ましい。ただし、試験片200の材質は、試験対象の鋼管用ねじ継手と厳密に同一である必要はなく、当該鋼管用ねじ継手の材質に相応する材質であってもよい。試験片200は、鋼管用ねじ継手のシール面を模擬した環状凸面201を有する。試験片200は、上下方向に延びる貫通孔202を有する。
図1に示すように、基礎試験装置100は、本体フレーム10と、昇降回転機構20と、治具30,40と、ガス供給装置50と、ガスリーク検出機構60と、透明板70と、を備える。
本体フレーム10は、テーブル11と、一対の支柱12と、クロスヘッド13と、を含む。各支柱12は、テーブル11の上面から上方に向かって延びている。クロスヘッド13は、水平方向に延び、一対の支柱12に架け渡されている。クロスヘッド13は、一対の支柱12に対して昇降可能に取り付けられている。クロスヘッド13は、例えば、クランプによって各支柱12に固定される。この場合、クランプを緩めることによって、クロスヘッド13を各支柱12に沿って昇降させることができる。
昇降回転機構20は、支柱12の間に配置されている。昇降回転機構20は、クロスヘッド13に取り付けられている。このため、クロスヘッド13が支柱12に対して昇降したとき、昇降回転機構20は、クロスヘッド13とともに昇降する。
昇降回転機構20は、後述する治具30を昇降させ、上下方向に延びる回転軸X周りに回転させるための機構である。昇降回転機構20は、直動アクチュエータ21と、モータ22と、一対のガイドロッド23と、を含む。
直動アクチュエータ21は、シリンダ211と、ロッド212と、を有する。シリンダ211は、クロスヘッド13の上面に固定されている。ロッド212は、シリンダ211内に挿入される。ロッド212は、シリンダ211からクロスヘッド13を貫通して下方に延びている。ロッド212は、シリンダ211及びクロスヘッド13に対して昇降可能に構成されている。
直動アクチュエータ21としては、市販又は公知の直動アクチュエータを採用することができる。直動アクチュエータ21は、電動アクチュエータであってもよいし、油圧等の流体圧アクチュエータであってもよい。シリンダ211に対するロッド212の移動量は、図示しない制御装置により、電動モータ又は流体圧ポンプ等の駆動源を制御することで調整することができる。
モータ22は、直動アクチュエータ21の上方に配置されている。モータ22は、ロッド212に接続される。モータ22の駆動軸は、減速機24等を介して、ロッド212と連結されている。よって、モータ22の回転力がロッド212に伝達され、ロッド212が回転軸X周りに回転する。モータ22は、図示しない制御装置からの指令に応じて回転角度及び回転速度が自動制御されるサーボモータであることが好ましい。
一対のガイドロッド23は、直動アクチュエータ21の両隣に配置されている。各ガイドロッド23は、クロスヘッド13の上面に固定されている。各ガイドロッド23は、クロスヘッド13から上方に延びている。ガイドロッド23の一方は、リニアガイドベアリング25を介して、支柱12の一方に取り付けられている。ガイドロッド23の他方は、リニアガイドベアリング25を介して、支柱12の他方に取り付けられている。ガイドロッド23は、昇降回転機構20がクロスヘッド13とともに昇降するとき、支柱12に沿って移動するように案内する。
治具30は、ロッド212の下端部に取り付けられる。治具30は、ホルダ31を介し、ロッド212に対して着脱可能に取り付けられる。治具30は、ロッド212から下方に延びている。ロッド212がシリンダ211に対して昇降するとき、治具30は、ロッド212とともに昇降する。ロッド212が回転軸X周りに回転するとき、治具30は、ロッド212とともに回転軸X周りに回転する。
治具30は、透明板70を位置決めするための部品である。治具30は、凹部32を有する。凹部32は、治具30の底面に設けられている。凹部32は、透明板70を収容可能に構成されている。
ここで、図2及び図3を参照して、透明板70及び治具30の詳細な構成を説明する。図2は、透明板70の平面図及び側面図である。図3は、治具30の縦断面図及び底面図である。
図2を参照して、透明板70は、平面視で多角形状又は楕円形状をなす。多角形状とは、概ね多角形であることを意味する。すなわち、多角形状には、直線のみで形成される多角形だけでなく、角部に丸みがつけられた多角形や、辺及び角部に丸みを有する多角形(いわゆる等径ひずみ円)等も含まれる。楕円形状とは、概ね楕円形であることを意味する。すなわち、楕円形状には、幾何学的な意味での楕円形だけでなく、一対の平行な線分と、この線分同士を接続する一対の円弧とで画定される形状(いわゆるトラック形状)等も含まれる。本実施形態において、透明板70は、平面視で四角形状をなす。透明板70の平面形状は、角部に丸みがつけられた四角形である。透明板70は、回転軸Xを含むいずれの断面で見ても、回転軸Xに対して対称であることが好ましい。
透明板70の硬度は、ある程度高いことが好ましい。透明板70の材質は、例えば、強化ガラス、石英、サファイアガラス等から選択することができる。強化ガラスのビッカース硬さは約640、石英のビッカース硬さは約1100、サファイアガラスのビッカース硬さは約2300である。透明板70は、1000以上のビッカース硬さを有することが好ましい。透明板70は、好ましくはサファイアガラス板である。
図3を参照して、治具30の底面には、凹部32が形成されている。凹部32は、透明板70の形状に対応する形状を有する。すなわち、凹部32の形状は、治具30の底面視で、透明板70の平面形状と実質的に等しい。透明板70が平面視で多角形状をなす場合、凹部32は、治具30の底面視で多角形状をなす。透明板70が平面視で楕円形状をなす場合、凹部32は、治具30の底面視で楕円形状をなす。本実施形態において、凹部32は、治具30の底面視で、角部に丸みがつけられた四角形を有する。凹部32の大きさは、透明板70の大きさよりもわずかに大きい。凹部32は、透明板70がちょうど収まるような大きさに形成されている。
図1に戻り、治具40は、治具30とテーブル11との間に配置される。治具40は、後述する試験片200を位置決めするための部品である。治具40は、保持部41と、ロードセル42と、を含む。保持部41は、試験片200を上下から挟み込んで保持する。治具40に保持された試験片200は、治具30の凹部32内の透明板70と接触する。ロードセル42は、保持部41によって保持された試験片200の下方に配置される。
ガス供給装置50は、所定の圧力のガスを発生させる。ガス供給装置50は、鋼管用ねじ継手のシール面のガス密封試験において要求される高圧ガスを発生させる。ガス供給装置50は、供給路51を有する。供給路51は、テーブル11及び治具40を貫通して回転軸Xに沿って延び、試験片200の貫通孔202に接続される。ガス供給装置50は、供給路51を介し、試験片200と透明板70との間に高圧ガスを供給する。ガス供給装置50が供給するガスは、ヘリウムガス、又はヘリウム混合ガスであることが好ましい。
ガスリーク検出機構60は、ガス供給装置50によって試験片200と透明板70との間に供給されたガスのリークを検出する。ガスリーク検出機構60は、シールド61と、ヘリウムリークディテクタ62と、を有する。
シールド61は、試験片200、及び治具30の凹部32に収容された透明板70を覆う。シールド61は、試験片200と透明板70との間からリークしたガスを捕捉する。ただし、シールド61は、完全な密閉空間を形成する必要はない。シールド61は、少なくとも、試験片200及び透明板70を上方及び側方から覆うことができればよい。すなわち、シールド61の下面は、開放されていてもよい。シールド61は、基礎試験装置100において、着脱可能に構成されている。
ヘリウムリークディテクタ62は、チューブ63を介して、シールド61に接続されている。ヘリウムリークディテクタ62は、内蔵のポンプ(図示略)によって、チューブ63を介してシールド61内のガスを吸引する。ヘリウムリークディテクタ62は、吸引したガス中のヘリウムの流量を検出する。ヘリウムリークディテクタ62として、市販又は公知のヘリウムリークディテクタを使用することができる。
(試験評価部及びその周辺構成)
本実施形態において、互いに接触する試験片200及び透明板70を試験評価部Ptと称する。以下、試験評価部Pt及びその周辺構成について、図4から図6を参照しつつ詳細に説明する。図4から図6は、試験評価部Pt及びその周辺構成を示す模式図である。図4から図6では、試験評価部Ptの周辺構成の一部として、図1において図示を省略する内視鏡装置80及び加熱装置90を示す。すなわち、本実施形態に係る基礎試験装置100は、内視鏡装置80と、加熱装置90と、をさらに備える。
まず、図4を参照して、試験片200は、環状凸面201と、貫通孔202と、を有する。環状凸面201は、試験対象である鋼管用ねじ継手のシール面を模擬して形成される。環状凸面201は、回転軸Xを中心とする環状をなす。環状凸面201は、回転軸Xを含む断面で見て、透明板70側に凸の曲線を描くように形成されている。ただし、環状凸面201は、回転軸Xを含む断面で見て、透明板70側に突き出た台形を描くように形成されていてもよい。すなわち、環状凸面201は、回転軸Xを含む断面で見て、透明板70の下面に概ね平行且つ平坦な頂面と、当該頂面の両端から外側に向かい下降傾斜する傾斜面とで形成される概略台形状であってもよい。貫通孔202は、環状凸面201の中心から回転軸Xに沿って下方に延び、試験片200を貫通する。
透明板70は、治具30の凹部32に収容された状態で、環状凸面201に対向する。治具30が直動アクチュエータ21のロッド212(図1)とともに下降すると、透明板70の下面は、環状凸面201に押し付けられる。これにより、透明板70は、環状凸面201とともに環状のシール接触部Psを形成する。シール接触部Psは、透明板70に対する環状凸面201の接触中心である。
環状凸面201が透明板70側に凸状をなす一方、透明板70の下面が平坦であることから、環状のシール接触部Psの内側において、試験片200と透明板70との間には内側空間Sが形成される。ガス供給装置50は、所定の圧力に調整されたガスを内側空間Sに供給する。ガス供給装置50からのガスは、供給路51及び貫通孔202を順に通過して、内側空間Sに供給される。
治具30は、凹部32の上方において、内視鏡装置80を挿入するための挿入穴33を有する。内視鏡装置80は、凹部32内の透明板70を介してシール接触部Psを撮像する。内視鏡装置80は、工業用内視鏡81と、カメラ82と、マイクロスコープ83と、紫外線光源84と、を有する。
工業用内視鏡81は、市販又は公知のボアスコープ、ファイバスコープ、又はビデオスコープ等である。工業用内視鏡81の先端部は、治具30の挿入穴33に挿入される。工業用内視鏡81の先端部は、シール接触部Psの像を形成するための光学系を有する。工業用内視鏡81は、シール接触部Psの像を先端部からカメラ82に伝送する。工業用内視鏡81が撮像素子を内蔵している場合、工業用内視鏡81は、シール接触部Psの像を電気信号に変換して画像データを生成し、シール接触部Psの画像データを先端部からカメラ82に伝送する。
カメラ82は、典型的には、CCDカメラである。カメラ82は、ボアスコープ等を用いた内部観察で一般に行われるように、工業用内視鏡81に接続される。カメラ82は、工業用内視鏡81から入力されるシール接触部Psの像を電気信号に変換して画像データを生成し、必要な画像処理を施して記録する。あるいは、カメラ82は、工業用内視鏡81からシール接触部Psの画像データを受信し、必要な画像処理を施して記録する。
マイクロスコープ83は、カメラ82に接続される。マイクロスコープ83は、表示画面に拡大画像を表示する、公知の表示装置である。マイクロスコープ83は、カメラ82が生成したシール接触部Psの画像データに対応する画像を表示画面に拡大表示する。
マイクロスコープ83は、工業用内視鏡81にも接続される。マイクロスコープ83は、ハロゲンライト等の可視光源(図示略)を内蔵する。この可視光源は、工業用内視鏡81の外部光源として使用することができる。マイクロスコープ83の可視光源が出力した可視光線は、工業用内視鏡81の先端部から、透明板70を介してシール接触部Psに照射される。
紫外線光源84は、工業用内視鏡81の外部光源として使用される。紫外線光源84は、マイクロスコープ83の可視光源に代えて、工業用内視鏡81に接続される。紫外線光源84は、紫外線を含む観察光を出力する。紫外線光源84は、例えば、市販又は公知の紫外線(UV)ライトである。紫外線光源84からの観察光は、工業用内視鏡81の先端部から、透明板70を介してシール接触部Psに照射される。
紫外線光源84は、長波長カットフィルタ85を介して、観察光をシール接触部Psに照射するように構成されていることが好ましい。紫外線光源84からの観察光は、工業用内視鏡81に入る前に長波長カットフィルタ85を通過する。本実施形態において、観察光は、凸レンズ86で集光され、長波長カットフィルタ85に入射される。ただし、観察光は、長波長カットフィルタ85を通過した後、凸レンズ86で集光されてもよい。長波長カットフィルタ85は、紫外線光源84が出力した観察光のうち、可視光線よりも波長が長い光を減衰させる。長波長カットフィルタ85は、実質的に、可視光線の波長よりも短い波長を有する光、具体的には、概ね385nm(±5nm)以下の波長を有する紫外線を透過させる。
次に、図5及び図6を参照し、加熱装置90について説明する。図5及び図6に示すように、加熱装置90は、恒温槽91と、ヒータ92と、レール93と、を有する。
恒温槽91は、槽本体911と、扉912と、を有する。この恒温槽91は、ヒータ92とともに、レール93上を移動する。すなわち、恒温槽91及びヒータ92は、レール93に沿い、試験評価部Ptに向かって前進及び後退可能に構成されている。恒温槽91は、扉912を開放した状態で試験評価部Ptに接近して、槽本体911内に試験評価部Ptを収容する。槽本体911と治具30,40等(図1)との間に隙間が生じる場合は、スペーサ94によって当該隙間を封鎖すればよい。恒温槽91及びヒータ92を試験評価部Ptまで移動させるとき、試験評価部Ptを覆うシールド61(図1)は、基礎試験装置100から取り外されている。ヒータ92は、槽本体911が試験評価部Ptを収容し、扉912が閉じられた後、恒温槽91内の空気を加熱して昇温させる。
[試験装置の使用方法]
以下、上述のように構成された基礎試験装置100の典型的な使用方法について、主に図1を参照しながら説明する。ただし、基礎試験装置100の使用方法は、本実施形態において説明する使用方法に限定されるものではない。
図1を再度参照して、まず、試験対象の鋼管用ねじ継手と同材質の試験片200を準備する。この試験片200の環状凸面201は、試験対象の鋼管用ねじ継手のシール面を模擬して形成される。
次に、環状凸面201を上方に向けて、試験片200を治具40に設置する。環状凸面201には、潤滑剤が塗布されるか、あるいは、潤滑皮膜が形成されていてもよい。潤滑剤又は潤滑皮膜は、試験対象の鋼管用ねじ継手において実際に使用することが想定される潤滑剤又は潤滑皮膜である。潤滑剤は、例えば、潤滑油又はグリースである。グリースとしては、例えば、重金属粒子及びグラファイト等を含有する、アメリカ石油協会(API)規格のコンパウンドグリース等を挙げることができる。潤滑油又はグリースには、紫外線を吸収して蛍光を発する蛍光剤が添加されてもよい。潤滑皮膜は、例えば、流動性を有する潤滑剤を塗布した後、硬化処理を施して形成される固体潤滑皮膜である。
また、透明板70を治具30の凹部32内に配置して、粘着テープ等で仮止めする。必要に応じてクロスヘッド13を昇降させて昇降回転機構20の位置を調整した後、直動アクチュエータ21を駆動してロッド212を下降させる。これにより、ロッド212とともに治具30が下降し、凹部32内の透明板70の下面が試験片200の環状凸面201に押し付けられる。
透明板70は、試験の目的等に応じて予め定められる押圧力で、環状凸面201を押圧する。環状凸面201に作用する押圧力は、試験片200の下方に配置されたロードセル42によって検出される。
透明板70が環状凸面201を押圧した状態でモータ22を駆動すると、環状凸面201に対して透明板70が回転摺動する。すなわち、モータ22の駆動軸と連動して、ロッド212が回転軸X周りに回転する。これにより、治具30、及び環状凸面201に押し付けられた透明板70も、回転軸X周りに回転する。透明板70は、凹部32の内面から治具30と同方向に回転するためのトルクを受け、治具30とともに回転する。治具30は、予め定められた回転速度及び回転数で、環状凸面201に対して回転する。回転摺動中における透明板70から環状凸面201への押圧力は、鋼管用ねじ継手の締結過程でシール面の接触面圧が漸増することを考慮し、徐々に増大させてもよい。
環状凸面201に対する透明板70の回転摺動が終了した後、透明板70及び試験片200が構成する試験評価部Pt(図5及び図6)を加熱する。透明板70から環状凸面201への押圧力を維持したまま、図5及び図6に示すように、扉912を開放した状態の恒温槽91と、ヒータ92とを、レール93に沿って試験評価部Ptに接近させ、槽911内に試験評価部Ptを収容して扉912を閉じる。ヒータ92によって恒温槽91内を所定温度まで昇温させ、この温度で試験評価部Ptを所定時間加熱する。試験評価部Ptの加熱は、シールド61(図1)を基礎試験装置100から取り外した状態で実施される。試験評価部Ptの加熱温度及び加熱時間は、ISO 13679(2011)に準拠した温度及び時間とすることができる。その後、扉912を開き、試験評価部Ptを室温まで自然冷却する。
図4を参照して、次に、透明板70から環状凸面201への押圧力を維持したまま、シール接触部Psの内側空間Sにガス供給装置50から高圧ガスを供給する。内側空間Sに対する高圧ガスの供給時には、試験評価部Ptを覆うシールド61(図1)が基礎試験装置100に取り付けられる。また、内視鏡装置80によるシール接触部Psの観察を開始する。すなわち、シール接触部Psの画像をマイクロスコープ83の表示画面に拡大表示し、シール接触部Psの状態を観察する。
蛍光剤が添加された潤滑油又はグリースが環状凸面201に塗布されている場合、紫外線光源84を工業用内視鏡81に接続し、紫外線光源84から、紫外線を含む観察光をシール接触部Psに照射する。これにより、潤滑油中、又はグリースの基油中の蛍光剤が蛍光を発し、潤滑油又は基油の挙動を確認しやすくなる。蛍光剤を使用しない場合は、マイクロスコープ83を工業用内視鏡81に接続し、可視光源からシール接触部Psに可視光線を照射する。
高圧ガスは、シール接触部Psの内側空間S内のガス圧が所定の値に達するまで供給される。その後、内側空間S内のガス圧を維持した状態で、透明板70から環状凸面201への押圧力を漸減する。
マイクロスコープ83の表示画面には、ガス供給装置50からのガスがシール接触部Ps付近に流入してくる様子も映し出される。環状凸面201に潤滑油又はグリースが予め塗布されている場合、マイクロスコープ83の表示画面は、潤滑油又はグリース中の基油又は固体粒子がガス圧によってシール接触部Psの内側から外側に押し流される様子を映し出すことができる。また、マイクロスコープ83の表示画面は、固体粒子分布等も映し出すことができる。
ガス昇圧中又は押圧力漸減中にガスリークが発生した場合、マイクロスコープ83が表示するシール接触部Psの画像、又はヘリウムリークディテクタ62により、ガスリークを検知することができる。
[実施形態の効果]
本実施形態において、治具30の凹部32内の透明板70は、鋼管用ねじ継手のシール面を模擬した環状凸面201に押し付けられ、環状凸面201を押圧する。これにより、環状凸面201及び透明板70がシール接触部Psを形成する。治具30は、透明板70を環状凸面201に押し付けた状態で、透明板70ととともに回転軸X周りに回転する。よって、環状凸面201に対し、鋼管用ねじ継手の締結過程を考慮した回転摺動を透明板70から与えることができる。
本実施形態において、透明板70は、平面視で多角形状又は楕円形状をなし、凹部32は、治具30の底面視で、透明板70の平面形状に対応した形状を有する。このため、治具30が回転軸X周りに回転したとき、治具30と同方向に回転するのに十分なトルクが透明板70に負荷され、透明板70が治具30とともに回転する。すなわち、多角形状又は楕円形状の透明板70、及び同じく多角形状又は楕円形状の凹部32により、透明板70と治具30との相対回転が規制されるため、透明板70と治具30との間で滑りが生じることなく、透明板70が治具30と一体的に回転する。よって、環状凸面201に対して透明板70を回転摺動させることができる。
本実施形態では、回転摺動させた透明板70を環状凸面201から取り外すことなく、この透明板70を介して、内視鏡装置80でシール接触部Psを観察することができる。よって、環状凸面201の接触状態を変化させずに、ガス供給装置50によってシール接触部Psの内側空間Sに高圧ガスを供給し、高圧ガスが負荷されたシール接触部Psをその場観察することができる。このため、試験対象の鋼管用ねじ継手のシール部の密封性能を精度よく評価することができる。
本実施形態において、環状凸面201には、予め潤滑剤が塗布されるか、予め潤滑皮膜が形成されることがある。この場合、シール接触部Psのその場観察の際、環状凸面201と透明板70との間に潤滑剤又は潤滑皮膜が存在することになる。そのため、内視鏡装置80により、シール接触部Psにおける潤滑剤又は潤滑皮膜の挙動を観察することができる。よって、その場観察において、ガス密封性能に対する潤滑剤又は潤滑皮膜の影響を確認することができる。
本実施形態に係る基礎試験装置100は、加熱装置90を備える。加熱装置90は、潤滑剤又は潤滑皮膜を環状凸面201と透明板70との間に有した状態で、試験片200及び透明板70を収容して加熱することができる。このため、その場観察において、ガス密封性能に対する潤滑剤又は潤滑皮膜の高温劣化の影響を確認することができる。
本実施形態において、内視鏡装置80は、紫外線光源84を有する。紫外線光源84からの観察光は、紫外線を含み、シール接触部Psに照射される。シール接触部Psを形成する環状凸面201と透明板70との間に、蛍光剤を含む潤滑油又はグリースが存在する場合、この蛍光剤が蛍光を発する。このため、その場観察において、潤滑油及びグリースの挙動をより正確に把握することができる。
本実施形態において、紫外線光源84は、長波長カットフィルタ85を介して、シール接触部Psに観察光を照射する。長波長カットフィルタ85は、可視光線の波長よりも長い波長を有する光を減衰させ、実質的に、可視光線の波長よりも短い波長を有する光、具体的には、概ね385nm(±5nm)以下の波長を有する紫外線を透過させる。これにより、シール接触部Psに可視光線が照射されなくなるため、その場観察におけるシール接触部Psの視認性が向上する。
本実施形態に係る基礎試験装置100は、試験評価部Ptを覆うシールド61と、シールド61に接続されたヘリウムリークディテクタ62と、を備えている。このため、シール接触部Psの内側空間Sに供給されるガスがヘリウムを含む場合、内側空間Sから漏出したガスをシールド61によって捕捉し、ヘリウムリークディテクタ62によってガスの漏出を検知することができる。これにより、環状のシール接触部Psのうち、内視鏡装置80によって観察できる部分でガスリークが発生しておらず、ガスリークを目視で確認できない場合であっても、ガスリークの発生を検知することができる。
本実施形態において、試験片200は、治具40によって位置決めされる。この治具40は、例えば図7に示すように、傾き補正部43を有していてもよい。傾き補正部43は、保持部41の下方に配置されている。傾き補正部43は、保持部41の弾性率よりも小さい弾性率を有し、例えば、ジュラルミン等で構成される。治具30が回転軸Xに対して傾いた場合、傾き補正部43が弾性変形して、治具30の傾きに保持部41及び試験片200を追従させる。このため、治具30が回転軸Xに対して傾いたとしても、治具30の凹部32内の透明板70を環状凸面201に対して均等に押し付けることができる。図7に示す例において、ロードセル42は、傾き補正部43の下方に配置されている。
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
図1に示す基礎試験装置100を用いて、鋼管用ねじ継手のシール面のガス密封試験を実施した。本実施例において、治具30の材質は、SNCM439であり、熱処理によってロックウェル硬さ(HRC)35~40に硬度調整を行った。また、治具40には、図7に示す傾き補正部43(ジュラルミン(A2017)製)を設けた。
本実施例では、工業用内視鏡81、マイクロスコープ83、紫外線光源84、長波長カットフィルタ85、及びヘリウムリークディテクタ62として、以下に示す通り、市販のものを使用した。
・工業用内視鏡(ボアスコープ):株式会社キーエンス製、リアルボアレンズ、VH-B40(最大観察倍率140倍)
・マイクロスコープ(カメラ含む):株式会社キーエンス製、デジタルマイクロスコープ、VHX-1000
・紫外線光源:林時計工業株式会社製、LED-UVスポット照明、HD3133-260
・長波長カットフィルタ:朝日分光株式会社製、長波長カットフィルタ、SH0385
・ヘリウムリークディテクタ:株式会社アルバック製、リークテスタ、HELIOT 100シリーズ model 102+
透明板70、試験片200、及びその他の試験条件は、以下の通りである。
・透明板:角型サファイアガラス板(25mm×25mm、四隅にR5のフィレット加工、厚さ5mm)
・試験片(メタルシール試験片):API規格でL80と規定される炭素鋼(油井管から削り出して作製)
・潤滑剤:API規格のグリース(API modified thread compound)
・蛍光剤:SPECTRONICS CORPORATION製、オイル・オイルシステム用蛍光剤、OIL-GLO44
・ガス:ヘリウム混合ガス(窒素95%、ヘリウム5%)
図8は、本実施例における試験要領を説明するための図である。図8を参照して、摺動処理とは、環状凸面201に透明板70を144秒間で25kNまで押し付けながら、治具30を2160度回転させ、環状凸面201に対して回転摺動を与える処理(摺動距離:226.08mm、摺動速度:1.57mm/s、平均ヘルツ接触圧:700MPa相当)である。ベーキング処理とは、25kNの押付力(押圧力)を維持した状態で、ISO 13679(2011)に準拠して180℃で12時間透明板70及び試験片200を加熱装置90によって加熱し、その後、室温まで放冷する処理である。ガス密封試験とは、25kNの押付力を維持した状態で、ガス供給装置50からシール接触部Psの内側空間Sに高圧ガスを供給し、ガス圧を150MPaまで昇圧した後、150MPaのガス圧を維持したまま、押付力を0.04kN/sで漸減(600secで25kNから1kNまで低減)して、ガスリークを確認する試験である。
本実施例では、表1に示す試験1から4を実施した。試験1から4のいずれにおいても、蛍光剤が添加された潤滑剤を試験片200の環状凸面201に事前に塗布した。
試験2では、摺動処理を行わずにベーキング処理を行い、その後、ガス密封試験を実施した。試験3では、摺動処理を行った後、ベーキング処理を行わずにガス密封試験を実施した。試験4では、摺動処理及びベーキング処理を順に行った後、ガス密封試験を実施した。試験1では、試験2から試験4との比較のため、摺動処理及びベーキング処理のいずれも行わずに、ガス密封試験を実施した。ガス密封試験中は、内視鏡装置80により、環状のシール接触部Psの一部を観察した。
表1に示すように、摺動処理及びベーキング処理を行わなかった試験1では、ガス密封試験において、10.0kNの押付力でガスリークが発生した。ベーキング処理のみ行った試験2では、ガス密封試験において、ガス圧が132MPaまで昇圧したところでガスリークが発生した。摺動処理のみ行った試験3では、ガス密封試験において、11.0kNの押付力でガスリークが発生した。摺動処理及びベーキング処理を行った試験4では、ガス密封試験において、ガス圧が142MPaまで昇圧したところでガスリークが発生した。この結果から、鋼管用ねじ継手の締結過程を考慮した摺動処理、及び鋼管用ねじ継手の高温の使用環境を考慮したベーキング処理の有無により、鋼管用ねじ継手のシール面のガス密封試験に差異が生じることがわかる。特に、本実施例では、ベーキング処理を実施した場合にガス密封試験が低下することが確認できた。
図9に、試験1で観察されたシール接触部Psの画像を示す。図10に、試験3で観察されたシール接触部Psの画像を示す。図9及び図10の各々において、左側の画像は、可視光によるシール接触部Psの観察画像、右側の画像は、紫外線によるシール接触部Psの観察画像である。図10では、回転摺動によりシール接触部Psが摩耗した形跡(擦り疵)を確認することができる。