JP7099226B2 - モータ制御装置 - Google Patents
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Description
本発明は、ブラシレスモータを制御するモータ制御装置に関する。
特許文献1には、ベクトル制御によってブラシレスモータを駆動させるモータ制御装置の一例が記載されている。このモータ制御装置では、ベクトル制御の回転座標上での電流制限円と電圧制限円との交点を基にd軸指令電流及びq軸指令電流が導出され、d軸指令電流及びq軸指令電流に基づいてインバータが制御される。これにより、ブラシレスモータを駆動させることができる。
なお、電流制限円は、インバータのスイッチング素子の許容電流に基づいたd軸とq軸との電流特性から定まるものである。電圧制限円は、電源電圧及びブラシレスモータの角速度などに基づいたd軸とq軸との電流特性から定まるものである。
ベクトル制御の回転座標のd軸と推定される軸を推定d軸とし、実際のd軸を実d軸とする。ブラシレスモータのロータを回転させる場合、実d軸の向きと推定d軸の向きとの間に位相差が発生することがある。こうした位相差が大きい場合、回転座標上では、上記のように導出したd軸指令電流及びq軸指令電流を示す点が、電圧制限円及び電流制限円によって囲まれた領域の外に位置してしまうことがある。この場合、当該d軸指令電流及びq軸指令電流に基づいてブラシレスモータを制御したとしても、d軸電流がd軸指令電流から乖離したり、q軸電流がq軸指令電流から乖離したりしてしまう。その結果、ブラシレスモータの出力トルクが要求トルクから乖離したり、ロータの回転速度が回転速度の要求値から乖離したりするなどし、ブラシレスモータの制御性が低下してしまう。
上記課題を解決するためのモータ制御装置は、ベクトル制御の回転座標のd軸と推定される軸である推定d軸の方向の電流指令値であるd軸指令電流、及び、回転座標のq軸と推定される軸である推定q軸の方向の電流指令値であるq軸指令電流とによって表される指令電流ベクトルを基に、ブラシレスモータを駆動させる装置である。このモータ制御装置は、ブラシレスモータに対するトルクの指令値である指令トルクを基に、指令電流ベクトルを算出する指令電流算出部と、回転座標の実際のd軸である実d軸の向きと推定d軸の向きとの位相差を算出する位相差算出部と、指令電流算出部によって算出された指令電流ベクトルの向きを位相差に応じて変更する変更部と、変更部によって向きが変更された指令電流ベクトルを基に、ブラシレスモータを駆動させる駆動制御部と、を備える。
上記構成によれば、指令トルクを基に算出された指令電流ベクトルの向きが、上記位相差に応じて変更される。そして、変更後の指令電流ベクトルを基にブラシレスモータの駆動が制御される。このように位相差を反映した指令電流ベクトルを基にブラシレスモータを駆動させることにより、当該指令電流ベクトルのd軸の方向の成分であるd軸指令電流と、d軸の方向の電流成分であるd軸電流との乖離が生じにくい。同様に、当該指令電流ベクトルのq軸の方向の成分であるq軸指令電流と、q軸の方向の電流成分であるq軸電流との乖離が生じにくい。その結果、ブラシレスモータの出力トルクと指令トルクとの乖離が生じにくくなる。したがって、ブラシレスモータの制御性を向上させることが可能となる。
以下、モータ制御装置の一実施形態を図1~図5に従って説明する。
図1には、本実施形態のモータ制御装置10と、モータ制御装置10によって制御されるブラシレスモータ100とが図示されている。ブラシレスモータ100は、車載のブレーキ装置におけるブレーキ液の吐出用の動力源として用いられる。ブラシレスモータ100は、永久磁石埋込型同期モータである。ブラシレスモータ100は、複数の相(U相、V相及びW相)のコイルと、突極性を有するロータ105とを備えている。ロータ105としては、例えば、N極とS極とが一極ずつ着磁されている2極ロータを挙げることができる。
図1には、本実施形態のモータ制御装置10と、モータ制御装置10によって制御されるブラシレスモータ100とが図示されている。ブラシレスモータ100は、車載のブレーキ装置におけるブレーキ液の吐出用の動力源として用いられる。ブラシレスモータ100は、永久磁石埋込型同期モータである。ブラシレスモータ100は、複数の相(U相、V相及びW相)のコイルと、突極性を有するロータ105とを備えている。ロータ105としては、例えば、N極とS極とが一極ずつ着磁されている2極ロータを挙げることができる。
モータ制御装置10は、ベクトル制御によってブラシレスモータ100を駆動させる。このようなモータ制御装置10は、指令電流決定部13、指令電圧算出部14、2相/3相変換部15、インバータ16、3相/2相変換部17、位相差導出部18、回転速度取得部19及び回転角取得部20を有している。本実施形態では、指令電圧算出部14、2相/3相変換部15及びインバータ16により、指令電流決定部13によって決定されたd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を基に、ブラシレスモータ100を駆動させる駆動制御部25が構成されている。
また、モータ制御装置10は、ブラシレスモータ100の電源であるバッテリ200の電圧である電源電圧Vdcを取得する電圧取得部11を有している。電源電圧Vdcは、インバータ16を通じてブラシレスモータ100に印加できる電圧である。
指令電流決定部13は、詳しくは後述するが、ベクトル制御の回転座標におけるd軸の方向の電流成分の指令値であるd軸指令電流Id*と、回転座標におけるq軸の方向の電流成分の指令値であるq軸指令電流Iq*とを決定する。本実施形態では、弱め界磁制御によってブラシレスモータ100内での誘起電圧を抑えるため、d軸指令電流Id*は負の値になる。なお、d軸及びq軸は、回転座標上で互いに直交している。
指令電圧算出部14は、d軸指令電流Id*と、d軸電流Idとに基づいたフィードバック制御によって、d軸指令電圧Vd*を算出する。d軸電流Idとは、ブラシレスモータ100への給電によって回転座標上で発生した電流ベクトルのうちの推定d軸の方向の電流成分を示す値である。また、指令電圧算出部14は、q軸指令電流Iq*と、q軸電流Iqとに基づいたフィードバック制御によって、q軸指令電圧Vq*を算出する。q軸電流Iqとは、ブラシレスモータ100への給電によって回転座標上で発生した電流ベクトルのうちの推定q軸の方向の電流成分を示す値である。
なお、推定d軸とは、回転座標のd軸と推定される軸のことである。回転座標の実際のd軸のことを実d軸という。また、回転座標の実際のq軸のことを実q軸といい、回転座標のq軸と推定される軸のことを推定q軸という。
2相/3相変換部15は、ロータ105の回転角であるロータ回転角θを基に、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*を、U相指令電圧VU*と、V相指令電圧VV*と、W相指令電圧VW*とに変換する。U相指令電圧VU*は、U相のコイルに印加する電圧の指令値である。V相指令電圧VV*は、V相のコイルに印加する電圧の指令値である。W相指令電圧VW*は、W相のコイルに印加する電圧の指令値である。
インバータ16は、バッテリ200から供給される電力によって動作する複数のスイッチング素子を有している。インバータ16は、2相/3相変換部15から入力されたU相指令電圧VU*と、スイッチング素子のオン/オフ動作によってU相信号を生成する。また、インバータ16は、入力されたV相指令電圧VV*と、スイッチング素子のオン/オフ動作によってV相信号を生成する。また、インバータ16は、入力されたW相指令電圧VW*と、スイッチング素子のオン/オフ動作によってW相信号を生成する。すると、U相信号がブラシレスモータ100のU相のコイルに入力され、V相信号がV相のコイルに入力され、W相信号がW相のコイルに入力される。
3相/2相変換部17には、ブラシレスモータ100のU相のコイルに流れた電流であるU相電流IUが入力され、V相のコイルに流れた電流であるV相電流IVが入力され、W相のコイルに流れた電流であるW相電流IWが入力される。そして、3相/2相変換部17は、ロータ回転角θを基に、U相電流IU、V相電流IV及びW相電流IWを、d軸の方向の電流成分であるd軸電流Id及びq軸の方向の電流成分であるq軸電流Iqに変換する。
位相差導出部18は、実d軸の向きと推定d軸の向きとの位相差Δθを導出する。ここでいう位相差Δθは、推定d軸の向きから実d軸の向きを引いた値である。位相差Δθを導出する方法としては、例えば、誘起電圧方式を挙げることができる。この場合、位相差導出部18は、d軸指令電圧Vd*及びq軸指令電圧Vq*と、d軸電流Id及びq軸電流Iqとを基に、実d軸の向きと推定d軸の向きとの位相差Δθを導出する。
回転速度取得部19は、ロータ105の回転速度であるロータ回転数Vmtを取得する。例えば、回転速度取得部19は、位相差導出部18によって導出された位相差Δθを比例積分することにより、ロータ105の回転速度としてロータ回転数Vmtを求める。
回転角取得部20は、ロータ回転角θを取得する。例えば、回転角取得部20は、ロータ回転数Vmtを積分することにより、ロータ回転角θを求める。
次に、指令電流決定部13について詳述する。
次に、指令電流決定部13について詳述する。
図1に示すように、指令電流決定部13は、指令トルク導出部31と、マップ記憶部32と、指令電流導出部33と、変更部34とを有している。
指令トルク導出部31は、ブラシレスモータ100に対するトルクの指令値である指令トルクTR*を導出する。すなわち、指令トルク導出部31は、ブラシレスモータ100の負荷トルクの推定値TRLdと、ロータ回転数の指令値である指令回転数Vmt*と、回転速度取得部19によって取得されたロータ回転数Vmtとを基に、指令トルクTR*を導出する。
指令トルク導出部31は、ブラシレスモータ100に対するトルクの指令値である指令トルクTR*を導出する。すなわち、指令トルク導出部31は、ブラシレスモータ100の負荷トルクの推定値TRLdと、ロータ回転数の指令値である指令回転数Vmt*と、回転速度取得部19によって取得されたロータ回転数Vmtとを基に、指令トルクTR*を導出する。
ここで、ブラシレスモータ100の負荷は、例えばブレーキ装置内を循環するブレーキ液の粘度が高いほど大きくなりやすい。ブレーキ液の温度が高いほどブレーキ液の粘度が低くなりやすい。そのため、負荷トルクの推定値TRLdは、ブレーキ液の温度が高いほど小さくなる。
指令トルクTR*の導出処理の一例について説明する。指令トルク導出部31は、指令回転数Vmt*とロータ回転数Vmtとの偏差を入力とするフィードバック制御によって補正トルクTRAを算出する。そして、指令トルク導出部31は、算出した補正トルクTRAと負荷トルクの推定値TRLdとの和を指令トルクTR*として導出する。
指令電流導出部33は、指令トルク導出部31によって導出された指令トルクTR*と、電圧取得部11によって取得された電源電圧Vdcと、回転速度取得部19によって取得されたロータ回転数Vmtとを基に、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を導出する、すなわち指令電流ベクトルHCを導出する。指令電流ベクトルHCのd軸の方向の電流成分を示す値がd軸指令電流Id*であり、指令電流ベクトルHCのq軸の方向の電流成分を示す値がq軸指令電流Iq*である。本実施形態では、指令電流導出部33は、マップ記憶部32に記憶されているマップを用い、電源電圧Vdc、指令トルクTR*及びロータ回転数Vmtに基づいた値をd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*として導出する。
マップは、電源電圧Vdcと、ロータ回転数Vmtと、指令トルクTR*とを軸とするマップである。例えば、マップは、電圧制限円及び電流制限円を考慮して作成されたマップである。そのため、推定d軸の向きが実d軸の向きと一致するとともに、推定q軸の向きが実q軸の向きと一致するという条件の下でマップを用いてd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を算出した場合、回転座標上では、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*によって表される点が、電圧制限円と電流制限円とによって囲まれた領域に含まれることとなる。
ここで、電流制限円は、インバータ16を構成するスイッチング素子に流せる電流の上限である上限電流Idqlimitから定まるd軸とq軸との電流特性である。電流制限円の大きさは、スイッチング素子の上限電流Idqlimitが大きいほど大きくなる。
電圧制限円は、電源電圧Vdc及びブラシレスモータ100のロータ105の角速度ωeに基づくd軸とq軸との電流特性である。すなわち、電源電圧Vdc及び角速度ωeの少なくとも一方が変化すると、電圧制限円CR2の形状は変わる。
変更部34は、位相差導出部18によって導出された位相差Δθに応じ、指令電流導出部33によって導出された指令電流ベクトルHCの大きさを変えることなく、当該指令電流ベクトルHCの向きを変更する。すなわち、変更部34は、位相差Δθを基に、実d軸の向きに対して推定d軸の向きが遅角していると判定できるときには、指令電流ベクトルHCの向きを進角側に変更する。一方、変更部34は、位相差Δθを基に、実d軸の向きに対して推定d軸の向きが進角していると判定できるときには、指令電流ベクトルHCの向きを遅角側に変更する。しかも、このときの指令電流ベクトルHCの向きの変更量は、位相差Δθの絶対値と等しい。つまり、位相差Δθの絶対値が大きいほど、変更部34による指令電流ベクトルHCの向きの変更量が多くなる。
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
はじめに、位相差Δθに基づいて指令電流ベクトルHCの向きを変更しないでブラシレスモータ100を駆動させる比較例について説明する。図2、図3及び図4には、電流制限円CR3と電圧制限円CR2との双方が図示されている。ブラシレスモータ100のロータ105が突極性を有している場合、d軸の方向のインダクタンスLdはq軸の方向のインダクタンスLqと相違しているため、電圧制限円CR2は楕円となる。しかし、図2~図4では、説明理解の便宜上、電圧制限円CR2が真円として描かれている。
はじめに、位相差Δθに基づいて指令電流ベクトルHCの向きを変更しないでブラシレスモータ100を駆動させる比較例について説明する。図2、図3及び図4には、電流制限円CR3と電圧制限円CR2との双方が図示されている。ブラシレスモータ100のロータ105が突極性を有している場合、d軸の方向のインダクタンスLdはq軸の方向のインダクタンスLqと相違しているため、電圧制限円CR2は楕円となる。しかし、図2~図4では、説明理解の便宜上、電圧制限円CR2が真円として描かれている。
図2には、実d軸の向きと推定d軸の向きとが一致しており、位相差Δθが「0°」である場合が図示されている。電流制限円CR3と電圧制限円CR2との交点におけるd軸電流Idをd軸電流IdAとし、当該交点におけるq軸電流Iqをq軸電流IqAとした場合、図2~図4に示す例では、d軸指令電流Id*がd軸電流IdAとなるとともに、q軸指令電流Iq*がq軸電流IqAとなるような指令電流ベクトルHCが導出される。図2に示すように位相差Δθが「0°」である場合、回転座標上では、d軸指令電流Id*とq軸指令電流Iq*とによって表される点である指令点が、電流制限円CR3と電圧制限円CR2とによって囲まれた領域に含まれている。そのため、比較例では、図2に示す指令電流ベクトルHCを基に、ブラシレスモータ100の駆動が制御される。
この場合、ブラシレスモータ100の制御に実際に用いられる実d軸指令電流は、指令電流ベクトルHCのd軸の方向の電流成分を示す値であるd軸電流IdAとなる。また、ブラシレスモータ100の制御に実際に用いられる実q軸指令電流は、指令電流ベクトルHCのq軸の方向の電流成分を示す値であるq軸電流IqAとなる。その結果、3相/2相変換部17から出力されるd軸電流Idとd軸指令電流Id*(=IdA)との間に乖離が生じにくいとともに、3相/2相変換部17から出力されるq軸電流Iqとq軸指令電流Iq*(=IqA)との間に乖離が生じにくい。したがって、ブラシレスモータ100の出力トルクと指令トルクTR*との乖離が生じにくい。
図3には、実d軸の向きと推定d軸の向きとが乖離しており、位相差Δθが「0°」ではない場合の一例が図示されている。位相差Δθが「0°」ではない場合、マップを用いてd軸指令電流Id*がd軸電流IdAとなるとともにq軸指令電流Iq*がq軸電流IqAとなるように指令電流ベクトルHCを導出しても、実際に導出された指令電流ベクトルHCにおけるd軸指令電流Id*はd軸電流IdBとなり、q軸指令電流Iq*はq軸電流IqBとなる。回転座標上では、d軸電流IdBとq軸電流IqBとで表される点は、電流制限円CR3と電圧制限円CR2とによって囲まれた領域に含まれない。そのため、比較例では、位相差Δθが「0°」ではない場合、d軸指令電流Id*とq軸指令電流Iq*とで表される点が電流制限円CR3と電圧制限円CR2とによって囲まれた領域に含まれるように、指令電流ベクトルHCが変更される。
ここで、図3を参照し、比較例での指令電流ベクトルHCの変更方法について説明する。図3に二点鎖線で示す直線Zは、推定q軸と平行であるとともに、d軸電流IdBとq軸電流IqBとで表される点を通過する線である。比較例では、指令電流ベクトルHCが、直線Zと電圧制限円CR2との交点に向かうベクトルとなるように修正される。この修正後の指令電流ベクトルHCは、直線Zと電圧制限円CR2との交点のd軸電流IdCをd軸指令電流Id*とし、当該交点のq軸電流IqCをq軸指令電流Iq*とする電流ベクトルである。このように指令電流ベクトルHCが修正されると、修正後の指令電流ベクトルHCの大きさは、修正前の指令電流ベクトルHCの大きさよりも小さくなる。つまり、q軸電流IqCの二乗と、d軸電流IdCの二乗との和は、q軸電流IqBの二乗と、d軸電流IdBの二乗との和よりも小さい。そのため、修正後の指令電流ベクトルHCを基にブラシレスモータ100を駆動させた場合、位相差Δθの分、ブラシレスモータ100の出力トルクと指令トルクTR*との間に乖離が生じてしまう。図3に示す例では、ブラシレスモータ100の出力トルクは、位相差Δθの分、指令トルクTR*よりも小さくなる。
次に、図5を参照し、本実施形態について説明する。なお、図5でも、説明理解の便宜上、電圧制限円CR2が真円として描かれている。
これに対し、図5に示すように、実d軸の向きと推定d軸の向きとが乖離していると、指令電流導出部33によって導出された指令電流ベクトルHCの向きが、位相差Δθに応じて、変更部34によって変更される。本実施形態では、指令電流ベクトルHCの大きさを変更することなく、指令電流ベクトルHCの向きが、位相差Δθの分、変更される。図5に示す例では、変更後の指令電流ベクトルHCのd軸の方向の電流成分を示す値がd軸電流IdDとなり、変更後の指令電流ベクトルHCのq軸の方向の電流成分を示す値がq軸電流IqDとなる。すなわち、d軸指令電流Id*は、d軸電流IdBからd軸電流IdDに変更されるとともに、q軸指令電流Iq*は、q軸電流IqBからq軸電流IqDに変更される。この場合、q軸電流IqDの二乗と、d軸電流IdDの二乗との和は、q軸電流IqBの二乗と、d軸電流IdBの二乗との和と同じである。
これに対し、図5に示すように、実d軸の向きと推定d軸の向きとが乖離していると、指令電流導出部33によって導出された指令電流ベクトルHCの向きが、位相差Δθに応じて、変更部34によって変更される。本実施形態では、指令電流ベクトルHCの大きさを変更することなく、指令電流ベクトルHCの向きが、位相差Δθの分、変更される。図5に示す例では、変更後の指令電流ベクトルHCのd軸の方向の電流成分を示す値がd軸電流IdDとなり、変更後の指令電流ベクトルHCのq軸の方向の電流成分を示す値がq軸電流IqDとなる。すなわち、d軸指令電流Id*は、d軸電流IdBからd軸電流IdDに変更されるとともに、q軸指令電流Iq*は、q軸電流IqBからq軸電流IqDに変更される。この場合、q軸電流IqDの二乗と、d軸電流IdDの二乗との和は、q軸電流IqBの二乗と、d軸電流IdBの二乗との和と同じである。
しかも、図5に示すように、d軸電流IdDとq軸電流IqDとで表される点は、電流制限円CR3と電圧制限円CR2との交点である。つまり、d軸電流IdDとq軸電流IqDとで表される点は、電流制限円CR3及び電圧制限円CR2の双方に囲まれる領域に含まれている。そのため、変更後のd軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*を基にブラシレスモータ100が駆動される。この場合、3相/2相変換部17から出力されるd軸電流Idと変更後のd軸指令電流Id*(=IdD)との乖離が生じにくいとともに、3相/2相変換部17から出力されるq軸電流Iqと変更後のq軸指令電流Iq*(=IqD)との乖離が生じにくい。その結果、ブラシレスモータ100の出力トルクと指令トルクTR*との乖離が生じにくくなる。したがって、位相差Δθが「0°」ではない状況下であってもブラシレスモータ100の制御性を向上させることができる。
なお、図5に示す例では、推定d軸の向きが実d軸の向きよりも遅角側に位置しているため、指令電流ベクトルHCが進角側に変更されている。推定d軸の向きが実d軸の向きよりも遅角側に位置する事象は、ロータ回転数Vmtが増大するときに生じやすい。すなわち、本実施形態では、ロータ回転数Vmtが増大しているときのブラシレスモータ100の制御性を向上させることができる。
一方、ロータ回転数Vmtが減少するときには、推定d軸の向きが実d軸の向きよりも進角側に位置することもある。この場合、本実施形態では、位相差Δθの分、指令電流ベクトルHCが遅角側に変更される。そして、遅角側に変更した後の指令電流ベクトルHCを基にブラシレスモータ100を駆動させることにより、ロータ回転数Vmtが減少しているときのブラシレスモータ100の制御性を向上させることができる。
ちなみに、本実施形態における指令電流導出部33では、ロータ回転数Vmtと、電源電圧Vdcと、指令トルクTR*と、d軸電流Id及びq軸電流Iqとの関係を示すマップを用い、指令電流ベクトルHCが導出される。そして、算出した指令電流ベクトルHCの向きを位相差Δθに応じて変更し、変更後の指令電流ベクトルHCに基づいてブラシレスモータ100が制御される。変更後の指令電流ベクトルHCの大きさは、変更前の指令電流ベクトルHCの大きさと変わらない。そのため、ブラシレスモータ100の出力トルクと指令トルクTR*との乖離を抑制することができる。
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・指令電流導出部33では、マップを用いることなく、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*、すなわち指令電流ベクトルHCを導出するようにしてもよい。例えば、電源電圧Vdc、指令トルクTR*及びロータ回転数Vmtを変数とする計算式を用いた計算によって、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*、すなわち指令電流ベクトルHCを算出するようにしてもよい。
・指令電流導出部33では、マップを用いることなく、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*、すなわち指令電流ベクトルHCを導出するようにしてもよい。例えば、電源電圧Vdc、指令トルクTR*及びロータ回転数Vmtを変数とする計算式を用いた計算によって、d軸指令電流Id*及びq軸指令電流Iq*、すなわち指令電流ベクトルHCを算出するようにしてもよい。
・指令トルク導出部31では、ブラシレスモータ100の負荷トルクの推定値TRLdを用いずに、指令トルクTR*を導出するようにしてもよい。この場合、指令回転数Vmt*とロータ回転数Vmtとの偏差ΔVmtを入力とするフィードバック制御によって算出された値を指令トルクTR*とすることとなる。
・変更部34による指令電流ベクトルHCの向きの変更量は、位相差Δθに応じた量であればよい。例えば、位相差Δθにゲインを乗じた値の分、指令電流ベクトルHCの向きを変更するようにしてもよい。この場合、ゲインは、「1」よりも小さい正の値(例えば、0.8)であってもよいし、「1」よりも大きく且つ「2」よりも小さい値(例えば、1.1)であってもよい。
・位相差導出部18では、上記実施形態で説明した方法とは異なる方法で位相差Δθを導出するようにしてもよい。例えば、位相差Δθの算出方法としては、例えば、「特開2012-44751号公報」に開示されているように、高周波の電圧信号をd軸指令電圧Vd*に加算し、このときのd軸電流Idの高周波成分を基に位相差Δθを導出する方法を挙げることができる。
・モータ制御装置10は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア(特定用途向け集積回路:ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
・ブラシレスモータ100のロータ105は、突極性を有さないものであってもよい。この場合、d軸の方向のインダクタンスLdは、q軸の方向のインダクタンスLqと同じとなる。そのため、電圧制限円CR2は、楕円ではなく真円となる。
・ブラシレスモータ100に適用されるロータ105は、2極ロータではなく、4極ロータであってもよい。
・モータ制御装置10が適用されるブラシレスモータは、車載のブレーキ装置とは別のアクチュエータの動力源であってもよい。
・モータ制御装置10が適用されるブラシレスモータは、車載のブレーキ装置とは別のアクチュエータの動力源であってもよい。
10…モータ制御装置、11…電圧取得部、13…指令電流決定部、18…位相差導出部、19…回転速度取得部、25…駆動制御部、31…指令トルク導出部、32…マップ記憶部、33…指令電流導出部、34…変更部、100…ブラシレスモータ、105…ロータ。
Claims (4)
- ベクトル制御の回転座標のd軸と推定される軸である推定d軸の方向の電流指令値であるd軸指令電流、及び、前記回転座標のq軸と推定される軸である推定q軸の方向の電流指令値であるq軸指令電流とによって表される指令電流ベクトルを基に、ブラシレスモータを駆動させるモータ制御装置において、
前記ブラシレスモータに対するトルクの指令値である指令トルクを基に、前記指令電流ベクトルを導出する指令電流導出部と、
前記回転座標の実際のd軸である実d軸の向きと前記推定d軸の向きとの位相差を導出する位相差導出部と、
前記指令電流導出部によって導出された前記指令電流ベクトルの向きを前記位相差に応じて変更する変更部と、
前記変更部によって向きが変更された前記指令電流ベクトルを基に、前記ブラシレスモータを駆動させる駆動制御部と、を備える
ことを特徴とするモータ制御装置。 - 前記変更部は、
前記実d軸の向きに対して前記推定d軸の向きが遅角しているときには、前記指令電流ベクトルの向きを進角側に変更する一方、
前記実d軸の向きに対して前記推定d軸の向きが進角しているときには、前記指令電流ベクトルの向きを遅角側に変更する
請求項1に記載のモータ制御装置。 - 前記ブラシレスモータの負荷トルクを基に前記指令トルクを導出する指令トルク導出部を備える
請求項1又は請求項2に記載のモータ制御装置。 - 前記ブラシレスモータのロータの回転速度を取得する回転速度取得部と、
前記ブラシレスモータの電源の電圧である電源電圧を取得する電圧取得部と、
前記ロータの回転速度と、前記電源電圧と、前記指令トルクと、前記d軸指令電流及び前記q軸指令電流との関係を示すマップを記憶するマップ記憶部と、を備え、
前記指令電流導出部は、前記マップを用い、前記指令トルク、前記電源電圧、及び、前記ロータの回転速度に基づく前記d軸指令電流及び前記q軸指令電流によって前記指令電流ベクトルを導出する
請求項1~請求項3のうち何れか一項に記載のモータ制御装置。
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