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JP7082808B2 - 医療器滅菌方法 - Google Patents

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Description

本発明は、体内に埋め込むなどして使用する生体センサー、又は、肌に直接貼り付けて薬剤を注入するマイクロニードル・システムなどの生体対応無菌医療器を医療現場に供給するために、表面をフィルムで被覆した状態で電子線照射により滅菌する医療器滅菌方法に関するものである。
本発明にいう生体対応無菌医療器の例としては、近年、生体内の分析物をモニタするための医用デバイスとして、体内に埋め込むことのできる生体センサーが利用されるようになってきた。例えば、糖尿病をもつ人の糖レベルを常時モニタできる生体センサーなどである。
従来、糖尿病をもつ人は、指先など体の一部を針で刺すなどして血液を取り、その血液を携帯型メーターなどにより電気化学的検査を行い、その時点の糖濃度を測定している。このような断続的な生体外検査は、一日に少なくとも数回行われる。そのため、生体外検査の煩雑さを回避し、体内に埋め込んだ状態で連続して生体内の糖濃度をモニタリングする生体センサーが開発され実際に使用され始めている。このような生体センサーは、生体内の間質液の糖濃度を測定するために皮膚に埋め込まれて使用される。
生体センサーの一部を構成する基板は、生体センサーの一部として皮膚から突き出した状態で皮膚に貼り付けられて使用される。この生体センサーと携帯型無線ユニットとの組み合わせで、生体外での測定操作をすることなく糖濃度を例えば1分間に1度のように定期的に測定することができる。このような生体センサーの例が、下記特許文献1に提案されている。
このような生体センサーは、使い捨てセンサーであって、例えば数日又は1週間に1度程度の間隔で交換される。そのため、生体センサーのセンサー部を安定して皮膚に埋め込むために、下記特許文献2又は特許文献3のような挿入デバイスや挿入システムも提案されている。
また、生体対応無菌医療器の他の例としては、体内に埋め込むのではなく、錠剤などの医薬品の中に充填して使用される生体センサーが提案されている。この生体センサーは、錠剤などに充填されて使用者が服用した状態で、その状況や生体内の情報を発信するものであり、所謂IoT医薬品として利用されようとしている。
一方、生体対応無菌医療器の他の例としては、生体センサーによる生体内の情報検知ではなく、逆に皮膚を介して生体内に有効成分を注入するマイクロニードル・システムも提案されている。例えば、生体分解性樹脂から成る微小針集合体(マイクロニードル・アレイ)によって、従来は注射しか投与手段のなかったワクチンや核酸医薬・タンパク医薬等の無痛経皮投与システムとして利用されつつある。これは、マイクロニードルから薬剤成分が皮膚に浸透して体内に到達するが、神経まで届かないため痛みを感じないというものである。
米国特許第6175752号 特開2010-507456号公報 特開2012-187306号公報
ところで、このような生体対応無菌医療器は、皮膚に埋め込まれ、服用され、又は皮膚からの注入に利用されるので、製造現場から医療機関を経て使用者が実際に使用するまでの間の無菌状態を維持しておく必要がある。例えば、埋め込み型の生体センサーやマイクロニードル・システムは、製造現場で滅菌され無菌バッグなどに収納された状態で医療機関に搬送される。これらを医療機関から受け取った使用者は、滅菌され無菌バッグなどに収納された状態で保管し、使用時に無菌バッグから取り出して使用する。一方、錠剤などに充填して使用する生体センサーは、製造現場で滅菌され無菌バッグなどに収納された状態で医薬品製造現場に搬送されて錠剤などに充填される。
これらの生体センサーやマイクロニードル・システムは、1点が小さなものであると共に使用時が異なることから、1点ずつ個別に滅菌してフィルム被覆する必要があった。更に、生体センサーは、精密製品であると共に電子基板などを備えるものもあり滅菌が難しいという問題があった。
一方、滅菌方法としては、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌)、EOG(エチレンオキサイドガス)、過酸化水素低温ガス、オゾンガス、プラズマ、γ線照射、紫外線照射或いは電子線照射など種々の方法が考えられる。これらの中で、オートクレーブ(高圧蒸気滅菌)は、生体センサーやマイクロニードル・システムに高熱によるダメージがあり適していない。また、EOG(エチレンオキサイドガス)、オゾンガス、プラズマ、γ線照射、紫外線照射などは、生体センサーやマイクロニードル・システムの素材表面にダメージが生じることが考えられる。
一方、最も一般的な過酸化水素低温ガスによる方法は、多くの滅菌対象物を纏めて滅菌することができ、要求されるレベルの滅菌効果を得ることができる。しかし、滅菌後に滅菌対象物の表面から凝縮した過酸化水素を除去するためのエアレーションに多大の処理時間を要する。また、滅菌後の滅菌対象物を1点ずつ滅菌状態でフィルム被覆する必要があった。
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、1点ずつが小さく個数の多い生体対応無菌医療器を1点ずつフィルム被覆し、その後にフィルム透過性を有する滅菌方法を用いて高い滅菌効果を得ることができ、且つ、フィルム被覆の内部の生体対応無菌医療器にダメージのない医療器滅菌方法を提供することを目的とする。
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、電子線透過性のあるフィルムと電子加速器とを組み合わせ、電子線の線量及びフィルムの種類と厚みを制御することにより上記課題を解決できることを見出して本発明の完成に至った。
即ち、本発明に係る医療器滅菌方法は、請求項1の記載によれば、
シート状又は小片状の生体対応無菌医療器(10、30)の無菌状態を高度に維持したまま医療現場に供給するための医療器滅菌方法であって、
前記生体対応無菌医療器を電子線透過フィルム(20)で被覆する被覆工程と、
前記電子線透過フィルムで被覆された状態の前記生体対応無菌医療器に電子線照射器(63)からの電子線を照射して当該生体対応無菌医療器の表面を滅菌する電子線照射工程とを有し
前記電子線透過フィルムは、50nm~500nmの範囲の厚みを有するポリ乳酸フィルムであることを特徴とする
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の医療器滅菌方法であって、
前記電子線透過フィルムの表面には、1nm~100nmの厚みを有する金薄膜が蒸着又はスパッタリングされていることを特徴とする。
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項1又は2に記載の医療器滅菌方法であって、
前記電子線照射工程後の前記生体対応無菌医療器を電子線透過フィルムで被覆された状態のまま、無菌バッグに収納する収納工程を有していることを特徴とする。
また、本発明は、請求項4の記載によれば、請求項1~3のいずれか1つに記載の医療器滅菌方法であって、
前記生体対応無菌医療器は、体内に埋め込む生体センサー(10)、又は、IoT医薬品のように服用薬などに内蔵する生体センサーであることを特徴とする。
また、本発明は、請求項5の記載によれば、請求項1~3のいずれか1つに記載の医療器滅菌方法であって、
前記生体対応無菌医療器は、肌に貼付するマイクロニードル・アレイ(30)、又は、マイクロニードル・パッドであることを特徴とする。
また、本発明は、請求項6の記載によれば、請求項1~5のいずれか1つに記載の医療器滅菌方法であって
記電子線照射器から照射され、前記電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量が、15kGy以上であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項7の記載によれば、請求項1~5のいずれか1つに記載の医療器滅菌方法であって、
前記電子線照射器から照射され、前記電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量が、25kGy以上であることを特徴とする。
上記構成によれば、本発明に係る医療器滅菌方法は、被覆工程と電子線照射工程とを有している。被覆工程は、滅菌前の生体対応無菌医療器を電子線透過フィルムで被覆する。電子線照射工程は、除染された作業室内において、電子線透過フィルムで被覆された状態の生体対応無菌医療器に電子線照射器からの電子線を照射する。このことにより、電子線透過フィルムで被覆された状態のまま、生体対応無菌医療器の表面が滅菌される。なお、電子線透過フィルムは、50nm~500nmの範囲の厚みを有するポリ乳酸フィルムであることを特徴とする。
これらの工程の組み合わせにより、1点ずつフィルム被覆された生体対応無菌医療器がフィルム被覆の内部で滅菌された状態となる。このとき、フィルム被覆の内部の生体対応無菌医療器にダメージが生じていない。このことにより、シート状又は小片状の生体対応無菌医療器の無菌状態を高度に維持したまま医療現場に供給することができる。
また、上記構成によれば、本発明に係る医療器滅菌方法は、上記各工程に加え収納工程を有している。収納工程は、滅菌後の生体対応無菌医療器を電子線透過フィルムで被覆された状態のまま、無菌バッグに収納する。このことにより、シート状又は小片状の生体対応無菌医療器の無菌状態を高度に維持したまま、より安全に医療現場に供給することができる。
また、上記構成によれば、生体対応無菌医療器は、体内に埋め込む生体センサーであってもよく、又は、IoT医薬品のように服用薬などに内蔵する生体センサーであってもよい。また、生体対応無菌医療器は、肌に貼付するマイクロニードル・アレイ、又は、マイクロニードル・パッドであってもよい。これらのことにより、1点ずつが小さく個数の多い生体対応無菌医療器が具体的になり、本発明の効果をより具体的に発揮することができる。
また、上記構成によれば、電子線照射器から照射され、電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量が、15kGy以上又は25kGr以上であることがよい。
このことにより、1点ずつが小さく個数の多い生体対応無菌医療器を1点ずつフィルム被覆し、その後にフィルム透過性を有する滅菌方法を用いて高い滅菌効果を得ることができ、且つ、フィルム被覆の内部の生体対応無菌医療器にダメージのない医療器滅菌方法を提供することができる。
また、上記構成によれば、電子線透過フィルムの表面には、1nm~100nmの厚みを有する金薄膜が蒸着又はスパッタリングされていてもよい。このことにより、電子線透過フィルムの切片が間違って生体センサーと共に生体内に入った場合でも、生体への癒着性がなく異常をおこすことがない。
本実施形態に使用する生体センサーを示す正面図である。 図1の生体センサーを電子線透過フィルムで被覆した状態の一例を示す正面図である。 図1の生体センサーを電子線透過フィルムで被覆した状態の他の例を示す正面図である。 本実施形態に使用するマイクロニードル・アレイを皮膚に使用している状態の断面を示す概略図である。 本実施形態に係る医療器滅菌方法を行うアイソレーター装置の左側面の断面図である。 図5のアイソレーター装置の平面の断面図である。 本実施形態に係る医療器滅菌方法の工程を示すフロー図である。
本発明において、「滅菌」とは、本来の「滅菌」という概念以外に「除染」という概念を含む広い意味で使用するものとする。ここで、本来の「滅菌」とは、「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」(いわゆる日本版無菌操作法ガイドライン)によると、「病原体、非病原体を問わず、全ての種類の微生物を殺滅し、または除去することで、目的とする物質の中に微生物が全く存在しない状態を得るための方法」と定義されている。
一方、「除染」とは、上記日本版無菌操作法ガイドラインによると、「再現性のある方法で生存微生物や微粒子を除去、または予め指定されたレベルまで減少させること」と定義されている。
ここで、確率的な概念からは菌数をゼロにすることはできないので、実務上は、無菌性保証水準SAL(Sterility Assurance Level)が採用される。このSALによると、本来の「滅菌」とは、収容体の外装部から全ての種類の微生物を殺滅し、または除去することであって、SAL≦10-12のレベルを保証することとする。このレベルを保証することのできる方法としては、電子線照射において必要線量を例えば、25kGyとする方法(ISO‐13409参照)などが利用できる。
一方、SALによると、「除染」とは、収容体の外装部から生存微生物を減少させることであって、SAL≦10-6のレベルを保証することとする。このレベルを保証することのできる除染方法としては、従来から過酸化水素ガスによる方法が利用されている。本発明においては、電子線照射において必要線量を例えば、15kGy程度に下げることにより対応することができる。よって、上述のように、本発明においては、本来の「滅菌」及び「除染」を含めた広い概念として「滅菌」という用語を使用する。
このように、本発明においては、SAL≦10-12のレベル又はSAL≦10-6のレベルを保証するために、電子線照射装置を使用する。本発明に使用する電子線照射装置は、一般的なものであってもよく、例えば、電子加速器の照射窓が縦横とも400mm程度あり、加速電圧も150~300kVと高いものであってもよい。しかし、本発明は、小型のシート状又は小片状の生体対応無菌医療器を滅菌するものである。そこで、これらの生体対応無菌医療器の大きさに対応できる小型の照射窓を有し、加速電圧の低い小型低エネルギー電子線照射器を使用することが好ましい。このことにより、電子加速器のコストが安く、装置の初期費用を低く抑えることができる。
以下、本発明に係る医療器滅菌方法の一実施形態を説明する。なお、本実施形態においては、長辺145mm、短辺25mmの照射窓を有する小型低エネルギー電子線照射器を採用し、照射窓から生体対応無菌医療器までの距離を約20mmとした場合、加速電圧を70kVとして作動することができる。
次に、本実施形態に係る医療器滅菌方法の滅菌対象物を図面に従って説明する。本発明に係る滅菌対象物は、具体的には、体内に埋め込んだ状態で使用する生体センサー、錠剤などの医薬品の中に充填して使用される生体センサー、皮膚を介して生体内に有効成分を注入するマイクロニードル・システム、或いはこれら以外にも考えられる。本発明においては、これらを総称して生体対応無菌医療器という。
まず、体内に埋め込んだ状態で使用する生体センサーについて説明する。このような生体センサーとしては、上記特許文献2及び特許文献3に紹介されている生体内の間質液の糖濃度モニタなどを挙げることができる。このような生体センサーの形状を図1に示す。図1は、本実施形態に使用する生体センサーを示す正面図である。
図1において、生体センサー10は、シート状の生体対応無菌医療器であって、平板状の基板から一体成形された基板部11とセンサー部12とから構成されている。基板部11は、プラスチックなどの可撓性材料からなり十分に薄いものが使用される。一方、センサー部12は、皮下に挿入される部分である。センサー部12を皮下に挿入するには、上記特許文献2及び特許文献3に提案されているような挿入デバイスや挿入システムを使用する。
このような生体センサーは、上述のように、製造現場から医療機関を経て使用者が実際に使用するまでの間の無菌状態を維持しておく必要がある。そこで、本発明においては、製造現場で滅菌され無菌バッグなどに収納された状態の生体センサーを医療機関に搬送する。次に、これら無菌状態の維持された生体センサーを医療機関から受け取った使用者は、滅菌され無菌バッグなどに収納された状態で保管し、使用時に無菌バッグから取り出して使用する。
次に、錠剤などの医薬品の中に充填して使用される生体センサーについて説明する。このような生体センサーを充填した医薬品(例えば、錠剤)などは、IoT医薬品又はデジタル薬ともいわれている。例えば、新聞記事(日本経済新聞2017年12月14日)によれば、統合失調症などの進行を和らげる錠剤に特殊な生体センサーを充填したデジタル薬が紹介されている。この錠剤は、胃の中に入って溶けると生体センサーが胃液に触れて電気信号を発信し、患者の腹部に貼り付けた受信用の検出器が信号をとらえる。検出器がとらえた信号は、電気通信回線を利用して医師に送信され、医師はその情報をみることができる。この生体センサーを構成しているのは、信号を送る機能を有する小片状の基板である。
なお、上記の例は、医師が処方した薬を患者がきちんと服用したか否かを確認しようとするものであって、患者の服用状況を正確に把握するだけでなく、服用不良による医療費の無駄が削減できると提案されている。一方、このようなIoT医薬品は、患者の服用状況の把握だけでなく、服用された生体センサーが体内を通過する部分の臓器の内部情報を提供することにも応用できるものと考えられる。
このような生体センサーは、上述のように、生体センサーの製造現場から医薬品製造現場で錠剤に充填するまでの間の無菌状態を維持しておく必要がある。そこで、本発明においては、製造現場で滅菌され無菌バッグなどに収納された状態の生体センサーを医療機関に搬送する。次に、医薬品製造現場では、無菌状態の維持された生体センサーを錠剤に充填する。
次に、皮膚を介して生体内に有効成分を注入するマイクロニードル・システムについて説明する。従来は、皮膚内に薬効成分を付与する場合、軟膏剤、クリーム製剤、テープ製剤、パッチ製剤、パップ製剤等を塗布又は貼付することが一般的であった。また、更に効率のよい方法としては、注射による投与が一般的であった。しかし、塗布又は貼付では薬効成分の吸収効率が低いという問題があった。また、注射では一時的な投与であり持続性がなく、刺入の痛みを伴うという問題があった。
これに対して、近年、皮膚内に薬効成分を確実に供給する方法としてマイクロニードル・システムが開発されている。ここでいうマイクロニードルとは、長さ1mm以下、直径0.1mm程度の微小な針である(例えば、特表2002-517300号公報を参照)。マイクロニードルを生体内で容易に溶解消失する物質により作成すると、刺入されたマイクロニードルは皮膚内で溶解し、吸収されて消失する(例えば、特開2003-238347号公報を参照)。従って、予めマイクロニードルに薬効成分を含有させておけば、薬効成分を皮膚内の特定の場所に持続的に供給できると共に、刺入の痛みを感じることはなく出血もない。
このようなマイクロニードル・システムには、マイクロニードル・アレイとマイクロニードル・パッチなどがある。マイクロニードル・アレイは、基板上にマイクロニードルを多数配列したものである。一方、マイクロニードル・パッチは、マイクロニードル・アレイを皮膚に付着させるための粘着テープ等を付加して使用しやすい製品としたものである。
図4は、本実施形態に使用するマイクロニードル・アレイを皮膚に使用している状態の断面を示す概略図である。図4において、マイクロニードル・アレイ30は、基板31に複数のマイクロニードル32が配列されている。一方、真皮41、表皮42、角質層43からなる皮膚40には、マイクロニードル・アレイ30が刺入されている。マイクロニードル32は、角質層43と表皮42を貫通し真皮41まで達している。
このようなマイクロニードル・システムは、上述のように、製造現場から医療機関を経て使用者が実際に使用するまでの間の無菌状態を維持しておく必要がある。そこで、本発明においては、製造現場で滅菌され無菌バッグなどに収納された状態のマイクロニードル・システムを医療機関に搬送する。次に、これら無菌状態の維持されたマイクロニードル・システムを医療機関から受け取った使用者は、滅菌され無菌バッグなどに収納された状態で保管し、使用時に無菌バッグから取り出して使用する。
次に、生体対応無菌医療器(以下、生体センサーを例にして説明する)を滅菌する前に被覆する電子線透過フィルムについて説明する。本発明において使用する電子線透過フィルムは、電子線を相当程度透過し、且つ、電子線に対する安定性を有していることが好ましい。このようなフィルムとしては、例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリアミドなどのフィルムを挙げることができるが、本発明においては、これらに限定するものではない。
これらのフィルムは、種類により電子線の透過率が異なる。従って、本発明においては、使用する電子線加速器から電子線透過フィルムの表面に照射される電子線の線量と、電子線透過フィルムの厚みを考慮することが重要である。これらを考慮することにより、電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量を制御することができ、フィルム被覆されている生体センサーの表面に照射される電子線の線量が決定される。また、電子線の線量を制御することにより、過剰な電子線が生体センサーに照射されることがないので、生体センサーが有する回路が電子線によりダメージを受けることを回避することができる。
本発明においては、電子線透過フィルムの厚みを特に限定するものではないが、一般に50nm~2mmの範囲の厚みを有するものであればよい。また、50nm~0.5mmの範囲の厚みを有するフィルムであることが好ましい。更に、50nm~5μmの範囲の厚みを有するフィルムであることがより好ましい。電子線透過フィルムの厚みが50nmより薄い場合には、生体センサーなどの被覆には強度が足りず、無菌性を十分に維持することができない。一方、電子線透過フィルムの厚みが2mmより厚い場合には、生体センサーなどの細部の形状に対応しにくく、滅菌性の均質化維持が難しい。また、滅菌後の生体センサーの流通と保管などを考慮すると、50nm~5μmの範囲の厚みを有するフィルムであることがより好ましい。
本発明においては、上述のように、SAL≦10-12のレベルを保証するためには、25kGy以上の線量が必要である。また、SAL≦10-6のレベルを保証するためには、15kGy以上の線量が必要である。これらのことから、本発明においては、小型低エネルギー電子線照射器から照射され、電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量が、15kGy以上であることが好ましい。更に、電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量が、25kGy以上であることがより好ましい。一方、電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量が過剰の場合には、電子線透過フィルムへのダメージ及び生体センサーの基板や回路へのダメージが懸念される。よって、本発明においては、電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量は、このようなダメージを生じることのない強度、例えば、50kGyを越えないようにすることが好ましい。
また、本発明においては、原則として被覆用フィルムは使用前に除去されるので、生体内に埋め込まれることはない。しかし、被覆解除時の何らかのトラブルで生体内に埋め込まれた場合を想定して、生体親和性フィルムを使用することが好ましい。生体親和性フィルムであって、電子線透過性を有し、且つ、電子線に対する安定性を有しているものとして、例えば、ポリ乳酸フィルムを挙げることができる。
ポリ乳酸フィルムは、生体親和性が高いため、人工硬膜、止血剤、臓器癒着防止用などの医療機器への使用が提案されている。このポリ乳酸フィルムの厚みは、特に限定するものではないが、50nm~500nmの範囲の厚みを有することが好ましい。また、近年においては100nm~300nm程度のポリ乳酸ナノフィルムも製造されており、これを利用することもできる。なお、本実施形態においては、200nmの厚みのポリ乳酸ナノフィルムを使用した(後述する)。
図2は、体内に埋め込んだ状態で使用する生体センサーをポリ乳酸ナノフィルムで被覆した状態の一例を示す正面図である。また、図3は、同じ生体センサーをポリ乳酸ナノフィルムで被覆した状態の他の例を示す正面図である。図2及び図3において、生体センサー10は、薄い平板状(シート状)の基板から一体成形されており、ポリ乳酸ナノフィルム20で表裏両面から気密的に被覆されている。本発明においては、このような被覆された状態の生体センサーに両面から電子線照射が行われる。
また、本発明においては、生体センサーを被覆する電子線透過フィルムの表面に金薄膜などを付加するようにしてもよい。金は生体剥離性がよく、間違って体内に埋め込まれた場合でも生体と癒着することがない。なお、電子線透過フィルムの表面に付加する金薄膜の厚みは、電子線の透過率との関係で判断すればよい。例えば、蒸着又はスパッタリングにより、1nm~100nmの厚みであることが好ましい。なお、本実施形態においては、200nmの厚みのポリ乳酸ナノフィルムの表面に、80nmの厚みの純金薄膜をスパッタリングしたものを使用した(後述する)。
次に、本実施形態に係る医療器滅菌方法に使用するアイソレーター装置ついて説明する。図5は、本実施形態に係る医療器滅菌方法を行うアイソレーター装置の左側面の断面図である。また、図6は、当該アイソレーター装置の平面の断面図である。図5及び図6に示すように、本実施形態に係る医療器滅菌方法に使用するアイソレーター装置100は、アイソレーター本体50と電子線照射装置60とから構成されている。
アイソレーター本体50(50a、50b)は、床面上に載置される架台51と、この架台51の上に乗載されるチャンバー52(52a、52b)と、チャンバー52(52a、52b)の両側壁に設けられた搬入用パスボックス53a及び搬出用パスボックス53bとにより構成されている。チャンバー52aは、周囲をステンレス製金属板からなる外壁部で覆われ、搬入用パスボックス53aを介して内部に搬入された生体センサー10に電子線照射のための作業を行う作業室である。作業は、チャンバー52aの外部から作業用グローブ54aを介して行われる。
なお、チャンバー52aに搬入される生体センサー10は、搬入前にポリ乳酸ナノフィルム20による被覆を行ってもよく、或いは、搬入後にポリ乳酸ナノフィルム20による被覆を行ってもよい。一方、チャンバー52bは、周囲をステンレス製金属板からなる外壁部で覆われ、電子線照射後の被覆された生体センサー10を無菌バッグに収納し、搬出用パスボックス53bを介して外部に搬出する作業を行う作業室である。作業は、チャンバー52bの外部から作業用グローブ54bを介して行われる。
電子線照射装置60は、床面上に載置される架台61と、この架台61の上に乗載される電子線照射室62とにより構成されている。架台61の内部には、減圧室と機械室とが収納されている。また、電子線照射室62は、その内部で照射される電子線及びこの電子線照射により副次的に発生するX線を外部に漏らさないよう隔壁で遮蔽されている。なお、チャンバー52aから電子線照射室62への搬入口には、電子線遮蔽性を有して上下方向に開閉可能なシャッタ62aが設けられている。また、生体センサー10をチャンバー52aから電子線照射室62へ搬入するための搬送治具(図示しない)を設けるようにしてもよい。
電子線照射室62の内部には、電子線加速器63が配設されている。電子加速器63は、電子線を発生するターミナル、発生した電子線を真空空間で加速する加速管及びこれらを作動する電源装置(いずれも図示しない)を有し、加速された電子線を照射する金属箔からなる照射窓63aを備えている。なお、本実施形態においては、上述のように、電子線加速器63は、小型のシート状又は小片状の生体センサー10を滅菌するために、小型の照射窓(例えば、長辺145mm、短辺25mm)を有して加速電圧の低い(例えば、70kV程度)小型低エネルギー電子線照射器を使用した。
図5においては、電子加速器63からの電子線は下方に向けて照射されているが、これに限るものではなく、水平方向に照射するようにしてもよい。また、生体センサー10に照射される電子線の線量を一定にすると共に、多くの生体センサー10を連続して処理するために、照射窓に対して生体センサー10を一定速度で搬送する搬送装置(図示しない)を設けるようにしてもよい。
次に、本実施形態に係る医療器滅菌方法の各工程について説明する。図7は、本実施形態に係る医療器滅菌方法の工程を示すフロー図である。なお、本発明の各工程は、図7のフロー図に限定されるものではない。
<スッテプS1>
スッテプS1において、アイソレーター本体50の搬入用パスボックス53aを介してチャンバー52aの内部に滅菌前の生体センサー10や、滅菌後の生体センサー10を収納する無菌バッグなどを搬入する。なお、チャンバー52aに搬入される生体センサー10は、搬入前にポリ乳酸ナノフィルム20による被覆を行っておいてもよく、或いは、チャンバー52aの内部でポリ乳酸ナノフィルム20による被覆を行ってもよい。
<スッテプS2>
次に、スッテプS2において、電子線照射室(EB室)62及びアイソレーター本体50のチャンバー52(52a、52b)の内部を除染する。内部除染は、どのような方法で行ってもよいが、通常、過酸化水素ガスによる除染が好ましい。このとき、チャンバー52aの内部に搬入されている生体センサー10の外表面(被覆したポリ乳酸ナノフィルム20の表面)や除染バッグの外表面も除染される。
<スッテプS3>
次に、スッテプS3において、チャンバー52aの内部のポリ乳酸ナノフィルム20で被覆された生体センサー10を搬送治具にセットする。この搬送治具は、複数の生体センサー10を纏めて搬送するものであってもよく、或いは、1点ずつ搬送するものであってもよい。または、搬送治具を設けることなく、作業者が手作業で搬送するようにしてもよい。
<スッテプS4>
次に、スッテプS4において、チャンバー52aから電子線照射室(EB室)62の内部にポリ乳酸ナノフィルム20で被覆された生体センサー10を搬入する。このとき、電子線照射室62の搬入口に設けられたシャッタ62aを開閉して行う。
<スッテプS5>
次に、スッテプS5において、電子線照射室62の内部に搬送された生体センサー10の表裏両面に対して、電子線加速器63から電子線照射(EB照射)を行う。なお、本実施形態においては、電子線加速器63の照射窓63aから生体センサー10表面までの距離を20mmとし、加速電圧(管電圧)を70kVとした(結果については後述)。なお、このスッテプS5の操作において、管電流を変化させることにより照射される線量を制御した。このことにより、ポリ乳酸ナノフィルム20で被覆され内部に収納された生体センサー10の表面に25kGr及び15kGrの2段階の滅菌を行うことができる(後述する)。
<スッテプS6>
次に、スッテプS6において、電子線照射室(EB室)62からチャンバー52aの内部にポリ乳酸ナノフィルム20で被覆され滅菌された状態の生体センサー10を搬出する。このとき、電子線照射室62の搬入口に設けられたシャッタ62aを開閉して行う。更に、生体センサー10をチャンバー52aの内部からチャンバー52bの内部へ移動させる。
<スッテプS7>
次に、スッテプS7において、ポリ乳酸ナノフィルム20で被覆され内部が滅菌された生体センサー10を被覆された状態のまま無菌バッグに収納する。この作業は、チャンバー52bの内部で行う。なお、滅菌された生体センサー10は、ポリ乳酸ナノフィルム20で気密的に被覆された状態にある。従って、そのまま梱包してもよいが、再度無菌バッグに収納してから梱包することにより、より安全に保管・輸送することができる。
<スッテプS8>
次に、スッテプS8において、アイソレーター本体50のチャンバー52(52a、52b)を開放し、ポリ乳酸ナノフィルム20で被覆された状態で滅菌され、無菌バッグに収納された生体センサー10を外部環境に取り出す。なお、このときチャンバー52(52a、52b)を開放することなく、搬出用パスボックス53bを介してチャンバー52bの内部にある生体センサー10を外部環境に取り出すようにしてもよい。
次に、電子加速器から照射され、電子線透過フィルムを介して透過する電子線の線量を確認した。本実施形態においては、25kGr以上の線量による滅菌レベルSAL≦10-12及び15kGr以上の線量によるSAL≦10-6のレベルを保証する必要がある。そこで、確認試験の照射線量として30kGr及び更に強力な50kGrの電子線をポリ乳酸ナノフィルムに照射し、透過線量の測定とポリ乳酸ナノフィルムのダメージを観察した。
<試験条件>
小型低エネルギー電子加速器(加速電圧:70kV)を使用して、電子線透過フィルム(200nmポリ乳酸フィルムの表面に80nm純金膜を付与)に対して、20mmの距離から2水準(30kGr、50kGr)の電子線を照射したときの透過線量と透過率、及びポリ乳酸フィルムのダメージを確認した。なお、照射線量の切り替えは、管電流の制御により行った。また、電子線の透過線量の測定は、電子線透過フィルムの背面にフィルム線量計(ラジオクロミックフィルム)を貼付して測定した。試験結果を表1に示す。各実験の試験数を3とし、その平均値をとった。また、フィルムのダメージは、目視検査による。
Figure 0007082808000001
表1から分かるように、電子線透過フィルム(200nmポリ乳酸フィルムの表面に80nm純金膜を付与)の電子線透過率は良好であり、ほぼ100%に近い値を示した。また、電子線照射によるフィルムへのダメージは生じていなかった。これらのことから、低い加速電圧と管電流の制御により、25kGr以上の線量による滅菌レベルSAL≦10-12及び15kGr以上の線量によるSAL≦10-6のレベルを保証することのできる医療器滅菌方法が可能であることが分かる。
このように、本実施形態においては、照射窓のサイズが狭い小型低エネルギー電子加速器を採用し、加速電圧70kVで作動し、管電流を変化させることにより照射される線量を制御した。このことにより、ポリ乳酸ナノフィルム20で被覆され内部に収納された生体センサー10の表面に25kGr以上及び15kGr以上の2段階の滅菌を行うことができる。
生体センサー10の表面に25kGr以上の線量がある場合には、実際の生体センサー10の表面の滅菌レベルは、SAL≦10-12のレベルを保証できるものであった。また、生体センサー10の表面に15kGr以上の線量がある場合には、実際の生体センサー10の表面の滅菌レベルは、SAL≦10-6のレベルを保証できるものであった。このことから、本実施形態に係る医療器滅菌方法を用いることにより、生体対応無菌医療器の全表面の滅菌レベルが良好となり、滅菌効果の信頼性と安全性を高く維持することができる。
また、電子加速器の加速電圧を低く抑えて作動するので、副次的に発生するX線やオゾンの量が従来の電子線照射装置に比べ減少する。発生するX線の量が減少するので、電子線照射室の外壁部に鉛板を採用することなくステンレス製金属板で対応することができる。更に、発生するオゾンの量が減少するので、電子線照射室と機械室の腐食を軽減することができる。
また、本実施形態に係る医療器滅菌方法は、狭い照射窓を有するコンパクトな小型低エネルギー電子加速器を採用するので、電子線照射室自体もコンパクトとなり、電子加速器のコストを含めた装置の初期費用を低く抑えることができる。更に、本実施形態においては、小型低エネルギー電子加速器を低い加速電圧で作動させることができるので、電子加速器の使用限界(寿命)が長くなり装置のメンテナンス費用を低く抑えることができる。
以上説明したように、本実施形態においては、1点ずつが小さく個数の多い生体対応無菌医療器を1点ずつフィルム被覆し、その後にフィルム透過性を有する滅菌方法を用いて高い滅菌効果を得ることができ、且つ、フィルム被覆の内部の生体対応無菌医療器にダメージのない医療器滅菌方法を提供することができる。
10…生体センサー、11…基板部、12…センサー部、
20…ポリ乳酸ナノフィルム、
30…マイクロニードル・アレイ、31…基板、32…マイクロニードル、
40…皮膚、41…真皮、42…42、43…角質層、
50(50a、50b)…アイソレーター本体、
51…架台、52(52a、52b)…チャンバー、
53a…搬入用パスボックス、53b…搬出用パスボックス、
54a、54b…作業用グローブ、
60…電子線照射装置、61…架台、62…電子線照射室、
63…電子線加速器、63a…照射窓、
100…アイソレーター装置。

Claims (7)

  1. シート状又は小片状の生体対応無菌医療器の無菌状態を高度に維持したまま医療現場に供給するための医療器滅菌方法であって、
    前記生体対応無菌医療器を電子線透過フィルムで被覆する被覆工程と、
    前記電子線透過フィルムで被覆された状態の前記生体対応無菌医療器に電子線照射器からの電子線を照射して当該生体対応無菌医療器の表面を滅菌する電子線照射工程とを有し
    前記電子線透過フィルムは、50nm~500nmの範囲の厚みを有するポリ乳酸フィルムであることを特徴とする医療器滅菌方法。
  2. 前記電子線透過フィルムの表面には、1nm~100nmの厚みを有する金薄膜が蒸着又はスパッタリングされていることを特徴とする請求項1に記載の医療器滅菌方法。
  3. 前記電子線照射工程後の前記生体対応無菌医療器を電子線透過フィルムで被覆された状態のまま、無菌バッグに収納する収納工程を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療器滅菌方法。
  4. 前記生体対応無菌医療器は、体内に埋め込む生体センサー、又は、IoT医薬品のように服用薬などに内蔵する生体センサーであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の医療器滅菌方法。
  5. 前記生体対応無菌医療器は、肌に貼付するマイクロニードル・アレイ、又は、マイクロニードル・パッドであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の医療器滅菌方法。
  6. 前記電子線照射器から照射され、前記電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量が、15kGy以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の医療器滅菌方法。
  7. 前記電子線照射器から照射され、前記電子線透過フィルムを透過した後の電子線の線量が、25kGr以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の医療器滅菌方法。
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