JP7069582B2 - 接合方法 - Google Patents
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Description
例えば、近年の微細加工技術の進展やプラスチック成形加工技術の発展・広範化により、樹脂積層体からなるマイクロ流体デバイスの活用・普及が進んでいる。
マイクロ流体デバイスとは、例えば人間の体液等の対象となる流体の混合,反応,抽出,分離など様々な化学プロセスを小型化・集積化して行うための手段(化学システム)であり、使用目的などにより例えばマイクロミキサー(混合装置),マイクロリアクター(化学反応装置),マイクロTAS(ラボ・オン・チップ:lab-on-a-chip)等とも呼ばれる。
具体的には、マイクロ流体デバイスでは、分子拡散時間(拡散距離の2乗に比例)が約1/10,000程度となり、化学反応速度が大幅に速くなる。
このため、例えば水道水の重金属汚染検査を、通常は3~4時間程度かかるところを、約50秒程度で完了することが可能となる。
これにより、例えば水道水の重金属汚染検査の場合、対象流体(水)量を、通常の検査装置における1kgから1μg程度に、すなわち、およそ10億分の一までにすることができるようになる。
そして、近年では、このようなマイクロ流体デバイスが、複数の樹脂基材を接合した樹脂積層体によって構成されるようになっている。
図9は、マイクロ流体デバイスを構成する2つの樹脂基材を加熱融着する場合の製造工程を模式的に示す説明図であり、(a)はマイクロ流体デバイスを構成する2つの樹脂基材を積層する工程を、(b)は積層した2つの樹脂基材をガラス転移点以上もしくは融点以上に加熱及び加圧して接合する工程を示している。
ガラス転移点以上もしくは融点以上に加熱されることで、樹脂基材111,112が軟化することにより分子間が接近され、ファンデルワールス力によって両基材が接合されることになる。
そこで、このような樹脂製のマイクロ流体デバイスの製造方法に関して、加熱加圧接合による流路空間の変形を防止する方法として、例えば特許文献1に開示されているような技術が提案されている。
樹脂基材の接合面の濡れ性を高めることで、特許文献1によれば、塑性変形温度未満の温度(例えば雰囲気温度70℃~90℃)で加熱圧着できるようになるとされている。
このため、工程時間が長期化するだけでなく、長時間の紫外線照射により、樹脂基材の接合面が粗面化するという問題が生じる。この粗面化によって、樹脂基材の機械的強度の低下や透明な樹脂であった場合にはその透明性が低下するおそれがあると考えられる。
これによって、例えば樹脂製のマイクロ流体デバイスの製造等に好適な接合方法を提供することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係る接合方法で製造されるマイクロ流体デバイス10を模式的に示す斜視図であり、(a)はマイクロ流路13が刻設された基板11とその上面に接合される蓋部材12とを分解した状態、(b)は同じく基板11の上面に蓋部材12を接合させた状態を示している。
同図に示すように、マイクロ流体デバイス10を構成するマイクロチャンネルチップは、プラスチック等の合成樹脂製の基板11に、例えば幅100μm程度,深さ50μm程度の微小な流路空間であるマイクロ流路13が刻設され、その上面に蓋部材(カバー体)12が接合されることで反応場となるマイクロ流路13が形成されるようになっている。
なお、基板11に刻設されるマイクロ流路13の流路の大きさ(幅・深さ)や流路長,流路形状等は、マイクロ流体デバイスの使用用途や流体の種類などに応じて任意に設定される。
そして、以上のような微細な流路空間を備えたマイクロチャンネルチップに、図示しない各種検出・制御素子等が埋め込まれて、化学システムを構成するマイクロ流体デバイス10が形成されるようになっており、例えば簡易なインフルエンザ用の迅速診断キットとなるマイクロ流体デバイス等が構成される。
以上のようなマイクロ流体デバイス10について、本実施形態においては、以下のような方法を用いて基材(基板11,蓋部材12)接合するようになっている。
すなわち、本実施形態に係る接合方法は、2つの樹脂基材を接合し、樹脂積層体を製造する方法であって、2つの樹脂基材うち少なくとも1つの樹脂基材の接合面に対して、酸素濃度が大気中の酸素濃度より低い所定の値に設定された雰囲気下において、エネルギー線の照射を行うことにより、当該接合面を改質化する工程と、それら2つの樹脂基材を積層した後、その2つの樹脂基材を、加熱及び/又は加圧して接合する工程とからなっている。
樹脂基材の表面に、大気中の酸素濃度より低い所定の酸素濃度下においてエネルギー線の照射を行うことで、基材表面を改質することができ(改質層)、基材の表面同士の接合性・接合強度を向上させることができるものである。
ここで、このような所定の酸素濃度の雰囲気としては、例えば後述する真空紫外線処理装置100のような接合装置を用いて、真空紫外線が照射されるチャンバ内にエアー(空気)と不活性ガス、例えば窒素ガスやアルゴンガスを所定割合で注入・充填することで、エネルギー線の照射雰囲気となるチャンバ内を所望の酸素濃度に設定・維持させることができる(図3(a)参照)。
酸素ガス又は空気と混合される不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガスなどがある。
但し、チャンバ内の雰囲気下の酸素濃度を所定の値に設定できるかぎり、不活性ガスの種類や混合比率などは、特に限定されるものではない。
真空紫外線は、電磁波の一種であり、紫外線の中で最も波長の短い10~200nm付近の領域の電磁波である。一般に、光は波長が短いほど高エネルギーとなるため、紫外線の中でも最も波長の短い真空紫外線は、紫外線の中でも最もエネルギーの強い領域となる。
本実施形態では、このような真空紫外線を用いて、所定波長の真空紫外線を樹脂基材の表面に照射させることで、樹脂基材の分子間を切断させて基材表面を改質させることができるものである。なお、真空紫外線であれば、波長は特に限定されるものではない。
これによって、樹脂基材の表面が改質され(改質層)、具体的には、基材表面が平坦化されるとともに、基材表面が低分子量化、すなわち軟化されることになる。
その結果、図2(a)に示すように、(1)真空紫外線による基材表面の高分子鎖の切断(低分子量化,平坦化)、(2)活性種による汚染物質(有機物)の洗浄、(3)極性官能基の導入による水素結合、の各現象を生成・促進させることができる。
これによって、基材表面を改質して、基材表面同士の接触性・密着性を高めることができ、より低温の接合温度においても、両者を水素結合により強固に融着・接合させることが可能となる。
その結果、(4)エネルギー線の照射時間の短縮化も可能となり、より短時間での接合が可能となり、エネルギー線の長時間の照射による基材の加熱・高温化も防止できるようになる。
これによって、図2(b)に示すように、樹脂基材(基板11・蓋部材12)は、軟化温度未満、例えばガラス転移点以下や融点以下の温度においても接合が可能となり、例えば後述する図6(a)に示すように接合温度が30℃以下であっても、2つの基材を堅固に接合することができるようになる。
その結果、樹脂基材の軟化温度(ガラス転移点,融点)未満の温度で接合が行われることで、基板11に形成されたマイクロ流路13が変形等することはなく、マイクロ流体デバイス10の製造方法として好適に用いることができるようになる。
但し、より強固に確実に樹脂基材同士を接合するためには、適切な温度及び圧力で加熱及び加圧することが望ましい。
例えば、真空紫外線以外の高エネルギー照射としては、アルゴンプラズマ、窒素プラズマ、アルゴンと酸素などの混合プラズマ、大気圧プラズマなどのうち、いずれかを照射することもできる。
これらは、プラズマ化し易く、アタック力のあるエネルギー照射であり、上述した真空紫外線の場合と同様に、樹脂基材の表面の改質、すなわち、基材表面の平坦化及び軟化(低分子量化)に好ましいものであり、真空紫外線に代えて採用することができる。
また、これらのエネルギー線の照射は、接合する2つの樹脂基材の、少なくとも一方の接合面に対して行えば良い。但し、より強固な接合強度を得るためには、接合する2つの樹脂基材の各接合面に対してエネルギー線の照射を行うことが望ましい。
以上のような所定の酸素濃度の雰囲気下において、所定のエネルギー線を照射させる手段・装置として、図3(a)に示すような本実施形態に係る真空紫外線処理装置100を用いることができる。
図3(a)は、本実施形態に係る接合方法に用いる真空紫外線処理装置100を模式的に示す説明図である。
Xeエキシマランプ101は、外部電極102,石英ガラス管103,内部電極104,Xeガス105の各部を備えており、所定波長の真空紫外線を生成・照射できるようになっている。
本実施形態では、所定の高周波電源(例えば周波数2~3MHz・出力600W)により電力が印加されて、Xeエキシマランプ101によって所定波長(例えばλ=172nm)の真空紫外線が照射されるようになっている。
ステージ201は、処理対象となる基材を搭載する載置エリアとして機能するとともに、搭載された基材を所定温度で加熱・保温するための加熱手段として機能するものである。
このチャンバ200内に、上述したXeエキシマランプ101からの真空紫外線が照射され、ステージ201上の基材に対して、所定波長の真空紫外線が所定時間だけ照射されるようになる。
ここで、チャンバ200内を所定の酸素濃度の雰囲気に調整するには、図3(a)に示すように、密閉されたチャンバ200の空間内に、エアー(空気)及び窒素ガスを所定割合で注入・充填することで、基材の真空紫外線処理空間となるチャンバ内を、所望の酸素濃度(図6(b)参照)に設定・維持することができる。
これにより、本実施形態では、チャンバ200内を酸素濃度が、大気中の酸素濃度より低い例えば約0%~5%の範囲に設定・調整された雰囲気として、この雰囲気下において、処理対象となる基材に対する真空紫外線の照射を実行できるようにしている。
例えば、真空紫外線源として公知の技術である、ArFエキシマレーザー(193nm)やF2レーザー(157nm)等の真空紫外レーザーなどを用いることができる。
また、酸素濃度を所望の値に設定可能な雰囲気が形成できる限り、上述した真空紫外線処理装置100に備えられるチャンバ200の構成にも特に限定されるものではない。
次に、以上のような本実施形態に係る接合方法により接合される基材の接合強度と、基材表面の軟化温度、基材表面に形成される極性官能基と酸素濃度の関係、接合温度・酸素濃度・照射距離(到達照度)・照射時間(積算光量)の関係について、図3(b)及び図4~7を参照しつつ説明する。
前提として、本実施形態における樹脂基材の接合強度(結合エネルギー)は、クラックオープニング法と呼ばれる方法で測定を行うことができる。
図3(b)は、本発明の一実施形態に係る接合方法によって接合した基材の接合強度(結合エネルギー)の測定方法を模式的に示す説明図である。
[式1]
同図に示す基材表面の軟化度は、原子間力顕微鏡のnanoTAとよばれる機能を用いて測定を行ったものである。
具体的には、基材表面に原子間力顕微鏡の探針(カンチレバー)を接触させ、探針を一定の速度で昇温すると、基材表面が膨張し、探針のたわみ量が増加変動する。
したがって、同図において、カーブの「たわみ量」が減少した点における温度が、基材表面の軟化温度となる。本実施形態の基材を構成する、例えばポリメチルメタクリレートのような非晶性樹脂の場合は、軟化温度=ガラス転移温度となる。
これに対して、本実施形態の真空紫外線処理装置100において、所定の酸素濃度の雰囲気下で、真空紫外線照射を行った基材の場合(図4(中)の各点線・細線:0%・1%・2%・5%・10%)には、いずれも、基材の軟化温度が約50℃付近まで低下したことが分かる。
また、本実施形態の真空紫外線処理装置100により真空紫外線照射を行うことで、大気中と同様の酸素濃度(21%)の場合にも、基材の軟化温度が約60℃付近まで低下していることが分かる。
同図に示すように、本実施形態の真空紫外線処理装置100により真空紫外線照射を行うことで、基材表面の改質層の軟化温度(ガラス転移温度)は、酸素濃度が大気中より低い0%~10%の範囲では、いずれも60℃以下の50℃前後付近まで低下することが分かる。
また、大気中と同様の酸素濃度(21%)であっても、真空紫外線照射を行わない基材の軟化温度が約95℃であるのに対し、真空紫外線照射を行った基材では、表面軟化温度が約60℃付近まで低下することが分かる。
したがって、本実施形態の真空紫外線処理装置100により真空紫外線照射を行うことにより、基材表面が改質・軟化され、基材の接合強度を高められることが理解できる。
すなわち、大気中の酸素濃度より低い所定の酸素濃度の雰囲気中で、基材表面に真空紫外線等のエネルギー線を照射することにより、基材表面の真空紫外線の到達照度が増加するとともに、真空紫外線が雰囲気中に微量存在する酸素を解離することで酸素ラジカルやオゾンといった活性種が生成されて、活性種による基材表面の汚染物質(有機物)の洗浄と、極性官能基の導入による水素結合を生起させることができる。
具体的には、本実施形態では、基材の接合面に、炭素との原子数比で、水酸基が0.015以上、カルボキシル基が0.004以上の極性官能基を形成するようにしてある。
同図に示すように、大気中の酸素濃度の雰囲気下において、エネルギー線の照射を全く行っていない基材の場合(図5(a),(b)中の破線:コントロール)には、基材表面の極性官能基の値は、炭素との原子数比で、水酸基が0.014以下、カルボキシル基が0.003以下となっている。
以上のように基材表面に所定値以上の極性官能基を生起させることにより、上述した基材表面の軟化温度(ガラス転移温度)の低下とともに、基材表面同士の接触性・密着性を高めることができ、接合温度が基材の軟化温度未満であっても、両者を水素結合により強固に融着・接合させることができる。
そして、このような接合強度の向上により、エネルギー線の照射時間も短縮化でき、エネルギー線の長時間の照射による基材の加熱・高温化も防止できるようになる。
同図に示すように、まず、エネルギー線の照射を全く行っていない未処理の基材の場合(図6(a)中の一点鎖線)には、所望の接合強度(=約10J/m2)を得るためには、接合温度を約110℃以上に設定しなければならず、樹脂基材の軟化温度を超える高い接合温度が必要であることがわかる。
次に、エネルギー線の照射を大気中の酸素濃度(約21vol%O2)の雰囲気下で行った場合には(図6(a)中の破線)、所望の接合強度(=約10J/m2)を得るためには、接合温度として60~70℃の温度に加熱する必要があることがわかる。
したがって、本実施形態に係る接合方法を用いることで、真空紫外線処理雰囲気下の酸素濃度を大気中より低い値にコントロールすることで、基材は室温に近い接合温度でも十分な高い接合強度が得られることになる。その結果、従来のように基材の軟化温度を超える接合温度で接合されることで、基材に形成される流路空間が断面形状の変形によって狭められたり、閉塞されるといった問題を発生させることなく、正確・精密なマイクロ流体デバイス等を形成することができるようになる。
したがって、本実施形態に係る接合方法では、上述した真空紫外線処理装置の処理空間内を、酸素濃度約0~5%、好ましくは約1~3%の範囲内に調整することで、従来方法では得られない、十分な接合強度が得られることがわかる。
図7(a)は、本実施形態に係る接合方法におけるエネルギー線の照射距離と到達照度の関係を示すグラフであり、(b)は、同じくエネルギー線の照射時間と積算光量の関係を示すグラフである。
このため、従来方法では、エネルギー線源を基材に対して可能な限り近づけなければならず、エネルギー線による基材の温度上昇の問題が発生することになる。
特に、照射距離を約2~5mmに離間させても、約60~30mW/cm2の到達照度が得られ、これは従来方法と比較して、同じ照射距離(例えば約2~5mm)において、約5倍以上の到達照度が得られることになり、エネルギー線源を基材から離間させても、十分な照度が得られることがわかる。
これに対して、本実施形態に係る接合方法では、同様の積算光量500mJ/cm2を得るには、エネルギー線の照射時間は約10秒で良く(図7(b)中の実線)、従来と比較して、時間にして約45~50秒も短縮されることになる(図7(b)中の破線矢印参照)。
また、同じ照射時間(約55~60秒)であれば、積算光量は2500~3000mJ/cm2となり、従来と比較して約5~6倍の照射光量が得られることになる。
これらの点からも、本実施形態に係る接合方法では、従来と比較して、より短時間で、十分なエネルギー線の照射が可能となり、基材に対して長時間にわたってエネルギー線を照射することなく、短時間で効率的な接合が可能となることが理解できる。
したがって、例えば図3(a)に示した真空紫外線処理装置100を用いて、酸素濃度を大気中より低い所定の値(酸素濃度:約1%)に設定した真空紫外線処理では、真空紫外線源(Xeエキシマランプ101)からの照射距離:3mm,照射時間:8秒、ステージ温度:30℃の処理条件において、十分な接合強度(=約10J/m2以上)を得ることができるようになる。
この点は、上述した特許文献1において、樹脂基材の接合面に真空紫外線を長時間に亘って照射させる必要があり、その結果、接合温度の低温化が阻害されてしまうことからも、従来方法の問題点と本実施形態に係る接合方法の優位性がよく理解できる。
以上、マイクロ流体デバイス10を例にとって本発明に係る接合方法の一実施形態について説明したが、本発明に係る接合方法を適用可能なものとしては、マイクロ流体デバイスに限定されるものではない。
例えば、本発明に係る接合方法により製造される包装容器として、カレーやシチューなどの食品用の所謂レトルトパウチ,パウチ等と呼ばれる包装容器に適用することも可能である。
また、パウチは、食材用のみに限らず、例えば洗剤や調味料,酒類など、様々な分野において簡便な包装容器として用いられている。
例えば、延伸ナイロンフィルムを外層とし、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムを内層とする二層構成、延伸ポリエステルフィルムを外層とし、ポリオレフィンフィルムを内層とする二層構成、あるいはこのような内・外層フィルム間にアルミニウム等の金属箔を積層した三層構成のフィルム等がある。
同図(a)は、従来のレトルトパウチを示しており、2つの樹脂基材111a,112aの端部が加熱・加圧接合されて包装容器110aを構成するようになっている。
そして、このように包装容器110aを構成する樹脂基材111a,112aは、それぞれ複数の層からなるマルチレイヤーとなっており、具体的には、容器外装側からPET層・アルミ層・PP層の3層が積層された構成となっている。
ここで、図8に示すような層構成となっているのは、外層にPET層が配置されるのは、PET樹脂が強度や柔軟性・耐久性等に優れ、容器外装用の印刷等の適性にも優れるためである。
一方、内層にPP層が配置されるのは、PP樹脂同士はヒートシール性に優れ、熱融着により確実に接合できるためである。
このため、従来のレトルトパウチに充填される内容物は、内層のPP層に収着されることを前提として、例えばカレーであれば、本来よりも色や味の濃い,香りの強いカレーを充填して、PP層による収着があった上で、本来のカレーの色や味,香りがするように調理されたものが充填されるようになっていた。
従って、通常の料理として調理されたものを従来のレトルトパウチに充填すると、PP層の収着作用によって、色も味も香りも薄く、極端な場合には味のしない無味無臭のカレーとなってしまうことになる。
ところが、PET層を容器内層にすると、ヒートシールにより包装容器(レトルトパウチ)を構成できないという問題が生じてしまう。
PET樹脂同士をヒートシール・熱融着させるには、例えば融点である260℃以上の高温によって融着・接合させることは可能であるが、その場合PET樹脂が結晶化してしまい、例えば落下させると砕けてしまうような硬く脆い状態となってしまい、もはやレトルトパウチとしての機能を果たせないものとなってしまう。
このため、PET層を容器内層に配したレトルトパウチは、これまで一切提案されていない。
これによって、図8(b)に示すように、包装容器10aを構成する基材11a,12aとして、それぞれ容器外装側からPET層・アルミ層・PET層の3層が積層されたマルチレイヤー構成の基材を用いることができる。
この場合、容器内層側のPET層の接合面について、図2に示した真空紫外線等の高エネルギー照射を行った上で、基材11a,12aを積層した加熱・加圧することで、例えば200℃の接合温度で両基材11a,12aをヒートシールすることができる。
そして、容器内層側にPET層が配置されたパウチは、PET樹脂の収着性の低さによって、内容物の色素や味,香りなどの収着の問題が発生せず、その結果、通常の料理として調理されたものをそのまま充填しても、色や味・香りなどが変化しない、理想的なレトルトパウチ・パウチを実現することができる。
このような低温接合によって、例えばマイクロ流体デバイス10に形成された微細なマイクロ流路13が高温加熱により変形等することなく、所望の流路空間を備えたマイクロ流体デバイス10を製造することができる。
従って、本発明は、例えば簡易なインフルエンザ用の迅速診断キットを構成するマイクロ流体デバイスや、カレーなどのレトルト食品用の包装容器(レトルトパウチ)に好適な製造方法として用いることができる。
なお、本発明を以下の実施例により更に説明するが、本発明は下記実施例により何らかの制限を受けるものではない。
射出成形機でポリメチルメタクリレート(クラレ製、商品名パラペットGF)を射出成形し、外形寸法60mm×15mm×1.0mmのプレート状の基板と蓋部材を作製した。基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。続いて、真空紫外線処理装置にて酸素濃度:1%、照射距離:3mm、ステージ温度:30℃の条件下で、基材表面に真空紫外線を8秒間照射した。そして、直ちに基材の真空紫外線照射面を内側にして、基板と蓋部材を重ね、ヒートシール機で接合温度:30℃、接合圧力:1.9MPaの条件下で60秒間保持し、基板と蓋部材を接合した。クラックオープニング法にて接合強度を測定したところ、接合強度は17.5J/m2であった。
[比較例1]
射出成形機でポリメチルメタクリレート(クラレ製、商品名パラペットGF)を射出成形し、外形寸法60mm×15mm×1.0mmのプレート状の基板と蓋部材を作製した。基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。続いて、真空紫外線処理装置にて酸素濃度:21%、照射距離:2mm、ステージ温度:30℃の条件下で、基材表面に真空紫外線を22秒間照射した。そして、直ちに基材の真空紫外線照射面を内側にして、基板と蓋部材を重ね、ヒートシール機で接合温度:30℃、接合圧力:1.9MPaの条件下で60秒間保持し、基板と蓋部材を接合した。クラックオープニング法にて接合強度を測定したところ、接合強度は0.2J/m2であった。
[比較例2]
射出成形機でポリメチルメタクリレート(クラレ製、商品名パラペットGF)を射出成形し、外形寸法60mm×15mm×1.0mmのプレート状の基板と蓋部材を作製した。基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。続いて、真空紫外線照射を行わずに基板と蓋部材を重ね、ヒートシール機で接合温度:30℃、接合圧力:1.9MPaの条件下で60秒間保持したが、基板と蓋部材は接合されなかった。
[実施例2]
射出成形機でポリメチルメタクリレート(クラレ製、商品名パラペットG)を射出成形し、外形寸法60mm×15mm×1.0mmのプレート状の基板と蓋部材を作製した。基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。続いて、真空紫外線処理装置にて酸素濃度:1%、照射距離:3mm、ステージ温度:30℃の条件下で、基材表面に真空紫外線を8秒間照射した。そして、直ちに基材の真空紫外線照射面を内側にして、基板と蓋部材を重ね、ヒートシール機で接合温度:30℃、接合圧力:1.9MPaの条件下で60秒間保持し、基板と蓋部材を接合した。クラックオープニング法にて接合強度を測定したところ、接合強度は16.4J/m2であった。
[比較例3]
射出成形機でポリメチルメタクリレート(クラレ製、商品名パラペットG)を射出成形し、外形寸法60mm×15mm×1.0mmのプレート状の基板と蓋部材を作製した。基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。続いて、真空紫外線処理装置にて酸素濃度:21%、照射距離:3mm、ステージ温度:30℃の条件下で、基材表面に真空紫外線を8秒間照射した。そして、直ちに基材の真空紫外線照射面を内側にして、基板と蓋部材を重ね、ヒートシール機で接合温度:30℃、接合圧力:1.9MPaの条件下で60秒間保持し、基板と蓋部材を接合した。クラックオープニング法にて接合強度を測定したところ、接合強度は2.42J/m2であった。
[比較例4]
射出成形機でポリメチルメタクリレート(クラレ製、商品名パラペットG)を射出成形し、外形寸法60mm×15mm×1.0mmのプレート状の基板と蓋部材を作製した。基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。続いて、真空紫外線照射を行わずに基板と蓋部材を重ね、ヒートシール機で接合温度:30℃、接合圧力:1.9MPaの条件下で60秒間保持したが、基板と蓋部材は接合されなかった。
[実施例3]
延伸ポリエステル(東レ製、商品名ルミラー)を外形寸法100mm×15mm×0.1mmに裁断し、基材を作製した。基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。続いて、真空紫外線処理装置にて酸素濃度:1%、照射距離:2mm、ステージ温度:30℃の条件下で、基材表面に真空紫外線を1秒間照射した。そして、直ちに基材の真空紫外線照射面を内側にして、基材同士を重ね、ヒートシール機で接合温度:200℃、接合圧力:1.3MPa、シール幅10mmの条件下で60秒間保持し、基材同士を接合した。引張試験機で引張速度300mm/minのTピール試験にて接合強度を測定した結果、シール強度は11.4N/15mmであった。
[比較例5]
延伸ポリエステル(東レ製、商品名ルミラー)を外形寸法100mm×15mm×0.1mmに裁断し、基材を作製した。基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。続いて、真空紫外線処理装置にて酸素濃度:21%、照射距離:2mm、ステージ温度:30℃の条件下で、基材表面に真空紫外線を1秒間照射した。そして、直ちに基材の真空紫外線照射面を内側にして、基材同士を重ね、ヒートシール機で接合温度:200℃、接合圧力:1.3MPa、シール幅10mmの条件下で60秒間保持し、基材同士を接合した。引張試験機で引張速度300mm/minのTピール試験にて接合強度を測定した結果、シール強度は3.9N/15mmであった。
[比較例6]
延伸ポリエステル(東レ製、商品名ルミラー)を外形寸法100mm×15mm×0.1mmに裁断し、基材を作製した。基材表面を70%エタノールで洗浄し、CDAにより乾燥させた。続いて、真空紫外線照射を行わずに基材同士を重ね、ヒートシール機で接合温度:200℃、接合圧力:1.3MPa、シール幅10mmの条件下で60秒間保持したが、基材同士は接合されなかった。
すなわち、本願発明は、樹脂や基材を軟化温度(融点・ガラス転移点)より低い温度で加熱接合させる要請のある用途であれば、特に限定されるものではない。
11 基板
12 蓋部材(カバー体)
13 マイクロ流路
10a 包装容器
11a 基材
12a 基材
100 真空紫外線処理装置
Claims (10)
- 樹脂面同士を接合する方法であって、
酸素濃度が、0~5%以下に設定された雰囲気下で、基材の接合面にエネルギー線を照射する工程と、
前記接合面を接触させた後、基材を、加熱及び/又は加圧して接合する工程と、を有し、
接合温度が60℃以下である
ことを特徴とする接合方法。 - 前記エネルギー線の照射時間が1~10秒である
ことを特徴とする請求項1記載の接合方法。 - 前記酸素濃度が、酸素ガス又は空気の少なくともいずれかと、不活性ガスとの混合ガスによって、所定の値に設定される
ことを特徴とする請求項1又は2記載の接合方法。 - 前記不活性ガスが、窒素ガス又はアルゴンガスの少なくともいずれかの気体を含む
ことを特徴とする請求項3記載の接合方法。 - 前記エネルギー線を照射する工程において、
前記基材の接合面に、所定値以上の極性官能基を形成する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の接合方法。 - 前記基材の接合面に、炭素との原子数比で、水酸基が0.015以上、カルボキシル基が0.004以上の極性官能基を形成する
ことを特徴とする請求項5記載の接合方法。 - 前記基材を接合する工程において、
前記基材を、改質層の軟化温度未満に加熱して接合する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載の接合方法。 - 接合する2つの基材のうち、
少なくとも1つの基材の接合面に前記エネルギー線を照射する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項記載の接合方法。 - 前記エネルギー線が真空紫外線である
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項記載の接合方法。 - 前記基材が、マイクロ流体デバイスである
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項記載の接合方法。
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