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JP6938402B2 - 熱処理装置 - Google Patents

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JP6938402B2
JP6938402B2 JP2018029252A JP2018029252A JP6938402B2 JP 6938402 B2 JP6938402 B2 JP 6938402B2 JP 2018029252 A JP2018029252 A JP 2018029252A JP 2018029252 A JP2018029252 A JP 2018029252A JP 6938402 B2 JP6938402 B2 JP 6938402B2
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Description

本発明は、被処理物へ熱処理用の媒体、特に液状媒体を供給する熱処理装置に関する。
歯車を一例とする金属部品(被処理物)等に熱処理を施すための熱処理装置が知られている。熱処理の一種である焼入処理では、高周波加熱等によって加熱された被処理物に、水等の冷却媒体が供給される。熱処理装置内において、媒体は、熱処理装置内において配管を通って被処理物まで運ばれる。ここで、熱処理用の媒体を移送するための構成ではないけれども、気体を移送するためのダクトが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のダクトは、U字状のダクトの内部に気体の流れを案内する案内部材が設けられている。
特開2014−163612号公報
焼入処理用の熱処理装置では、配管のレイアウトの都合上、媒体は、水平方向に移送され、その後、垂直方向に進む最中に被処理物に浴びせられる場合がある。この場合、液状の冷却媒体は、水平に向かう箇所から垂直に向かう箇所において流れ方向を大きく変えられる。このため、冷却媒体が垂直に進む箇所において、冷却媒体の流れに乱れが生じる。このような乱れは、被処理物を通過する際における配管内での冷却媒体の乱れの原因となる。そして、被処理物に浴びせられる冷却媒体の流れが不均一であると、被処理物の各部における冷却速度が不均一となり、その結果、被処理物の歪みが大きくなる。
しかしながら、引用文献1に記載の構成は、熱処理される被処理物へ媒体を供給する構成ではなく、このような被処理物に浴びせられる時点での冷却媒体の乱れについての対策は何ら開示されていない。また、引用文献1に記載の構成であれば、案内部材の手前側(気体の流れ方向上流側)において大がかりな流量調整用ダクトを設ける必要があり、熱処理装置をコンパクトにすることができない。
本発明は、上記事情に鑑みることにより、熱処理用の媒体が被処理物を通過する際の媒体の流れの分布をより均等にすることのできる熱処理装置を提供することを、目的とする。
)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる熱処理装置は、被処理物に熱処理を施すための媒体が流入する入口管と、前記入口管における前記媒体の進行方向としての第1方向とは異なる第2方向に向けて前記媒体が進行するように前記入口管に接続されるとともに、前記被処理物が配置される出口管と、前記媒体の進行方向を前記第1方向から前記第2方向に変更するために前記出口管内に配置され、前記第2方向に沿って前記出口管を見たときに、前記出口管の内周面から離隔しており、且つ、前記入口管の出口管側開口部から前記第1方向に進んだ箇所に配置された整流部材と、を備え、前記第2方向に沿って前記出口管を見たときに、前記第1方向と直交する方向としての幅方向において、前記整流部材の両端部と前記出口管の内周面との間に、前記媒体を通過させるための隙間が形成されており、前記整流部材は、前記出口管の底面に固定されるとともに前記出口管の長さ方向と同じ角度に延びるように配置され、前記第1整流部材における前記出口管側開口部側を向く面の面積whと前記入口管の前記出口管側開口部における開口面積dとの比率である形状指数wh/dが、0.5〜6.4の範囲に設定されている。
この構成によると、整流部材は、第2方向に沿って出口管を見たときに、出口管の内周面から離隔しており、且つ、入口管の出口管側開口部から第1方向に進んだ箇所に配置されている。このような構成であれば、第1方向に沿って入口管を進んだ後に出口管に到達した媒体は、第2方向に沿って出口管を見たときに整流部材の周囲を迂回するように出口管内を進み、その後、第2方向に沿って進む。これにより、出口管のうち入口管との接続部周辺における媒体を、よりスムーズに第2方向に進むように整流部材によって案内できる。したがって、出口管を第2方向に沿って進む媒体の流れの分布(第2方向と直交する断面での流速の分布)をより均等にできる。これにより、熱処理用の媒体が被処理物を通過する際の媒体の流れの分布をより均等にできる。その結果、出口管内に配置された被処理物が媒体によって熱処理される度合いを被処理物の各部においてより均等にできる。例えば、金属製の被処理物を水等の液状媒体で焼入処理する際に、被処理物の各部をより均等に冷却できるので、被処理物に歪みが生じることをより確実に抑制できる。また、この構成によると、媒体は、整流部材の周囲において、整流部材の幅方向両側方の隙間を通って出口管の内周面の全周に到達するように流れる。このようなスムーズな媒体の流れが生じる結果、整流部材の周囲から第2方向に沿って出口管を流れる媒体の流れの分布をより均等にできる。
2)前記第1方向に沿って見て、前記整流部材は、前記出口管側開口部と前記幅方向の全域に亘って重なっている場合がある。
この構成によると、第1方向に真っ直ぐに進み入口管から出口管に到達した媒体は、出口管のうち入口管の出口管側開口部と第1方向に対向する対向内面にそのまま衝突するのではなく、整流部材に一旦受けられることとなる。このような構成であれば、媒体が第1方向に沿って対向内面に勢いよく衝突することで生じる、乱れの度合いの大きな乱流が出口管で生じることを、より確実に抑制できる。
)前記熱処理装置は、前記第2方向において前記整流部材から離隔して配置され、前記第2方向と直交する面における前記出口管の面積を絞る絞り部材をさらに備えている場合がある。
この構成によると、絞り部材は、媒体の流れを増速させる作用を通じて、出口管内通過中の媒体の流れが不安定になることを抑制する。より具体的には、絞り部材は、連続の式とベルヌーイの法則とを満たすように媒体の動圧を相対的に低い状態から高い状態に移動させる。これにより、媒体の流れが出口管内の壁摩擦の抵抗に打ち勝つようにし、流体はく離の原因となる媒体逆流の発生を抑える。その結果、簡単な機構で流体的ノイズの原因となる渦、流体はく離などが抑えられる。これにより、出口管内において、第2方向と直交する断面での第2方向の流速分布がより均等となる。
)前記熱処理装置は、前記出口管内を流れる前記媒体を整流する第2整流部材をさらに備え、前記第2方向に沿って、前記絞り部、前記第2整流部材、および、前記被処理物の配置位置の順に配置され、前記絞り部材から前記被処理物の配置位置までの距離が、前記整流部材から前記絞り部材までの距離よりも短く設定されている場合がある。
この構成によると、整流部材から絞り部材までの間の比較的長い領域において十分に流れの整った媒体は、第2整流部材でさらに流れを整えられた後に被処理物に与えられる。これにより、被処理物を通過する媒体の流れの分布をより均等にできる。
本発明によると、熱処理用の媒体が被処理物を通過する際の媒体の流れの分布をより均等にできる。
熱処理装置の模式的且つ概念的な斜視図であり、一部を切断して示している。 図2(A)は、熱処理装置の加熱装置の主要部を正面側から見た一部断面図である。図2(B)は、熱処理装置の冷却装置の背面図である。 図2(B)のIII−III線に沿う断面図であり、被処理物の搬送方向と直交する断面を示している。 冷却装置の媒体供給部の主要部の構成を示す模式図である。 冷却装置を正面側から見た断面図である。 図6(A)および図6(B)は、冷却装置における冷却処理動作を説明するための図である。 冷却装置における冷却動作の一例を説明するためのフローチャートである。 図8(A)は、一般的な焼入処理について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速を示している。図8(B)は、冷媒の流速が十分に高い場合の焼入処理について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速を示している。 図9(A)は、冷媒の流速が遅い場合の焼入処理の一例について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速を示している。図9(B)は、冷媒の流速が遅い場合の焼入処理の別の例について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速を示している。 本実施形態における、冷媒の流速が可変である場合の焼入処理の例について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速を示している。 図7に示すフローチャートにおける、被処理物への冷媒供給動作(ステップS2)の詳細を説明するためのサブルーチンを示すフローチャートである。 第1実施形態の変形例における、冷媒の流速が可変である場合の焼入処理の例について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速を示している。 図7に示すフローチャートにおける、被処理物への冷媒供給動作(ステップS2)の詳細の変形例を説明するためのサブルーチンを示すフローチャートである。 本発明の第2実施形態に係る冷却装置の概略構成を示す、一部断面側面図である。 図14に示す冷却装置の主要部を示す断面図であり、主要部を側面から見た状態を示している。 冷却装置の主要部を示す断面図であり、主要部を加熱装置側から見た状態を示している。 入口管、出口管の底面および第1整流部材を模式的に示す平面図である。 図18(A)は、第2実施形態の変形例の主要部の平面図である。図18(B)は、第2実施形態の別の変形例の主要部を示している。図18(C)は、第2実施形態のさらに別の変形例の主要部を示している。図18(D)は、第2実施形態のさらなる変形例を示している。 図19(A)は、比較例1Bのモデルを示す模式的な側面図および冷媒の流れの分布を示す模式図である。図19(B)は、実施例1Bのモデルを示す模式的な側面図および冷媒の流れの分布を示す模式図である。 図20(A)は、実施例2Bのモデルを示す模式的な側面図および冷媒の流れの分布を示す模式図である。図20(B)は、実施例3Bのモデルを示す模式的な側面図および冷媒の流れの分布を示す模式図である。 形状指数と流速ばらつき割合との関係を示すグラフである。
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、熱処理装置1の模式的且つ概念的な斜視図であり、一部を切断して示している。図2(A)は、熱処理装置1の加熱装置4の主要部を正面側から見た一部断面図である。図2(B)は、熱処理装置1の冷却装置6の背面図である。図3は、図2(B)のIII−III線に沿う断面図であり、被処理物100の搬送方向A1と直交する断面を示している。図4は、冷却装置6の媒体供給部22の主要部の構成を示す模式図である。図5は,冷却装置6を正面側から見た断面図である。図6(A)および図6(B)は、冷却装置6における冷却処理動作を説明するための図である。
なお、以下では、熱処理装置1を正面から見た状態を基準として、左右方向X1(搬送方向A1)、前後方向Y1、および、上下方向Z1を規定する。
図1を参照して、熱処理装置1は、被処理物100に熱処理を施すために設けられている。この熱処理は、加熱処理および冷却処理である。加熱処理の一例として、浸炭加熱処理、均熱処理などを例示することができる。また、冷却処理として、焼入処理などを例示することができる。本実施形態では、熱処理装置1で行われる熱処理として、焼入処理を例に説明する。本実施形態では、熱処理に用いられる媒体(冷媒)として、液状冷媒としてのポリマー水溶液が用いられるけれども、冷却水(水道水)または焼入油等が用いられてもよい。また、冷媒として、ガス等の気体が用いられてもよい。
本実施形態では、被処理物100は、鋼等の金属部品であり、例えば、歯車である。なお、被処理物100の材料として、実用上、焼入処理を必要とする材料を例示できる。このような材料として、SCM材(クロムモリブデン鋼鋼材)、SCr材(クロム鋼鋼材)、SNCM材(ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材)、SUJ(高炭素クロム軸受鋼鋼材)を例示することができる。
熱処理装置1は、焼入工程のうち、加熱後の特に冷却時において冷媒の流速制御をすることで、被処理物100内の冷却温度のばらつきを抑える。これにより、被処理物100に生じる歪み(変形)をより小さくする。より具体的には、熱処理装置1の後述する冷却装置6における、冷媒の整流化および冷媒の流速Vの均等化を通じて、被処理物100に生じる歪み(変形)を抑制する。特に、厚みの薄い(薄肉である)被処理物100においては、冷媒を整流しても、被処理物100の各部の冷却を均等にし難い傾向にあるので、本実施形態では、冷媒の流速制御も重要視している。
熱処理装置1は、搬送トレイ2と、第1搬送機構3と、加熱装置4と、中間扉ユニット5と、冷却装置6と、を有している。
搬送トレイ2は、被処理物100を支持するための搬送支持部材である。搬送トレイ2は、本実施形態では、金属製またはカーボン製の部材であり、熱処理装置1における被処理物100の熱処理において繰り返し用いられる。搬送トレイ2は、被処理物100を水平方向に沿って延びる所定の搬送方向A1に沿って搬送する。
搬送トレイ2は、枠部2aと、支持部2bと、を有している。
枠部2aは、第1搬送機構3によって支持される部分として設けられている。枠部2aは、例えば、矩形状の外形を有し、且つ、所定の厚みを有する板状に形成されている。枠部2aは、加熱装置4内に収容可能で、且つ、冷却装置6内に収容可能な大きさに形成されている。枠部2aの中央部には、孔部2c(開口部)が形成されている。この孔部2cは、例えば、円形に形成されており、枠部2aを当該枠部2aの厚み方向に貫通している。この孔部2cは、加熱装置4において被処理物100を昇降させるために設けられており、且つ、冷却装置6において、冷媒を通過させるために設けられている。冷却装置6で供給される冷媒の温度は、20℃〜25℃程度である。
孔部2cの内周部から孔部2cの中央に向けて、複数の梁状の支持部2bが延びている。支持部2bは、被処理物100を支持する部分として設けられている。これらの支持部2bの先端は、互いに離隔しており、後述する第2搬送機構15による被処理物100の持ち上げ動作を阻害しないように構成されている。
また、各支持部2bには、被処理物100を位置決め(センタリング)するための位置決め凸部2dが設けられている。凸部2dは、被処理物100の外周面を受けるように配置されており、上方に延びている。この支持部2bに、被処理物100が、点接触または線接触となるように載せられることが好ましい。この支持部2bは、後述する媒体通路40において、冷媒を整流するための整流部材として機能する。なお、搬送トレイ2に複数の被処理物100が積層されることで、バッチ処理が行われてもよい。
上記の構成を有する搬送トレイ2は、第1搬送機構3によって、搬送方向A1に沿って加熱装置4および冷却装置6に搬送される。
第1搬送機構3は、加熱室側搬送部11と、冷却室側搬送部12と、加熱室側搬送部11および冷却室側搬送部12の間に配置された中間搬送部13と、を有している。
加熱室側搬送部11は、搬送トレイ2を加熱室7内で搬送するために設けられている。また、冷却室側搬送部12は、加熱室7を通過した搬送トレイ2を冷却室8内で搬送するために設けられている。中間搬送部13は、中間扉ユニット5において、搬送トレイ2を搬送方向A1に沿って配置するために設けられている。第1搬送機構3のより具体的な構成は、後述する。
図1および図2(A)を参照して、加熱装置4は、加熱室7と、加熱コイル14と、第2搬送機構15と、を有している。
加熱室7は、図示しない真空ポンプによって真空にされた状態で、被処理物100に加熱処理を施すように構成されている。
被処理物100は、加熱室側搬送部11によって、加熱室7内に配置される。この加熱室側搬送部11は、ベルトコンベア式の搬送部であり、搬送トレイ2を搬送方向A1に搬送するように構成されている。
搬送方向A1における加熱室7の中間部に加熱コイル14が配置され、さらに、加熱コイル14の下方に、第2搬送機構15が配置されている。
加熱コイル14は、本実施形態では、加熱室側搬送部11の上方に配置されている。加熱コイル14は、本実施形態では、誘導加熱コイルであり、被処理物100に誘導加熱による加熱を行うように構成されている。加熱コイル14による誘導加熱によって、被処理物100は、所定の焼入温度Thまで加熱される。
第2搬送機構15は、加熱室7において被処理物100を、搬送トレイ2と加熱コイル14との間に上下移動させるために設けられている。第2搬送機構15は、加熱室7において、搬送トレイ2に形成された孔部2cを通して被処理物100を持ち上げることで、搬送トレイ2は持ち上げずに被処理物100を加熱コイル14に持ち上げる。搬送トレイ2、および、加熱処理がされた後の被処理物100は、加熱室側搬送部11によって、中間扉ユニット5側に搬送される。
中間扉ユニット5は、加熱室7の出口壁7bに形成された出口7hと、冷却室8の入口壁8aに形成された入口8gと、の間を気密的且つ液密的に封止した状態で閉じることが可能に構成され、且つ、これらの出口7hおよび入口8gを開いた状態にすることが可能に構成されている。
出口壁7bの出口7hは、中間扉ユニット5の中間扉16によって開閉される。中間扉16が開かれている状態で、加熱室7を通過した被処理物100は、中間搬送部13によって、冷却室8内に搬送される。
中間搬送部13は、ベルトコンベア式の搬送機構を含んでおり、冷却室8内に配置されている。中間搬送部13によって冷却室8内に搬送された被処理物100は、さらに、冷却室側搬送部12によって冷却室8内を搬送されるとともに、冷却装置6によって冷却処理を施される。
図1〜図5を参照して、冷却装置6では、加熱装置4で加熱された被処理物100を冷媒に浸漬する。これにより、被処理物100の周囲において、冷媒の蒸気膜が発生し、次いで冷媒が沸騰し、次いで冷媒が対流を生じるように構成されている。この構成により、被処理物100が冷却される。
冷却装置6は、冷却室8と、出口扉20を含む出口扉ユニット21と、媒体供給部22と、上下変位機構23と、を有している。
冷却室8は、被処理物100を冷却するために、加熱室7に隣接して配置されている。冷却室8は、縦長の略直方体状の箱状に形成されている。冷却室8は、入口壁8aと、出口壁8bと、前壁8cと、後壁8dと、天壁8eと、底壁8fと、を有している。
入口壁8aは、上下に延びる壁部である。この入口壁8aには入口8gが形成されており、この入口8gに中間扉ユニット5の枠部5aが固定されている。中間扉ユニット5の枠部5aを通過した被処理物100は、搬送方向A1における冷却室8の下流側へ向けて進む。出口壁8bには、被処理物100を冷却室8から搬出するための出口8hが形成されている。この出口8hは、出口扉20によって開閉される。
媒体供給部22は、冷媒を冷却室8の外部から冷却室8内に取り込み、この冷媒で被処理物100を浸漬するために設けられている。媒体供給部22は、電子制御によって、被処理物100への冷媒の流速Vを変更可能に構成されている。本実施形態では、媒体供給部22は、搬送トレイ2上で静止している被処理物100に向けて所定の流速V1,V2で冷媒を供給する。
媒体供給部22は、媒体供給設定部24と、媒体通路形成体25と、を有している。
媒体供給設定部24は、媒体通路形成体25(被処理物100)への冷媒の供給量を設定するために設けられている。本実施形態では、媒体供給設定部24は、媒体通路形成体25の後述する出口管42における冷媒の流速Vを設定する。なお、媒体供給設定部24は、出口管42における冷媒の流量(単位時間当たりにおける出口管42での冷媒の通過量)を設定してもよい。
媒体供給設定部24は、ポンプ26と、ポンプ26に接続された供給管27と、供給管27の途中に設けられた並列管部28と、並列管部28から流れた冷媒が通過する第4制御弁34と、制御部29と、を有している。
ポンプ26は、例えば電動ポンプである。ポンプ26は、冷媒タンク30および供給管27に接続されており、冷媒タンク30に溜められた冷媒を、供給管27へ輸送する。ポンプ26の電動モータは、PWM(Pulse Width Modulation)制御等によって制御部29で制御される。この制御により、ポンプ26は、電動モータの回転数、すなわち、ポンプ26の流量が所定値となるように制御される。
供給管27での冷媒の流れ方向におけるポンプ26の下流側に、並列管部28が設けられている。並列管部28は、出口管42に供給される媒体の流速Vを調整するために設けられている。
並列管部28は、複数(本実施形態では、3つ)の並列部分を有しており、本実施形態では、第1部分28aと、第2部分28bと、第3部分28cと、を有している。
第1部分28aは、本実施形態では、ベースラインとして設けられており、供給管27に冷媒が供給されているときには常時開いているラインである。第2部分28bおよび第3部分28cは、供給管27から出口管42へ供給される冷媒の流速Vが比較的高く設定される場合に、冷媒を通される部分である。
第1部分28aは、第1制御弁31と、第1仕切弁35と、を有している。第2部分28bは、第2制御弁32と、第2仕切弁36と、を有している。第3部分28cは、第3制御弁33と、第3仕切弁37と、を有している。
第1〜第3制御弁31〜33は、それぞれ、冷媒が通過する電磁弁である。これらの制御弁31〜33は、制御部29によって個別に開度設定される。仕切弁35〜37は、本実施形態では、手動弁であり、通常は、全開にされている。
第1部分28a、第2部分28bおよび第3部分28cにおける冷媒の合計の流量は、制御部29による第1〜第3制御弁31〜33の制御によって適宜設定される。
供給管27での冷媒の流れ方向における並列管部28の下流側に、第4制御弁34が設けられている。第4制御弁34は、出口管42への冷媒の供給のオン/オフを切り替えるために設けられている。第4制御弁34は、冷媒が通過する電磁弁であり、制御部29によって開度設定される。
ポンプ26および各制御弁31〜34は、前述したように、制御部29によって制御される。本実施形態では、制御部29は、媒体供給部22の一要素であるけれども、媒体供給部22とは別の要素として設けられてもよい。制御部29は、所定の入力信号に基づいて、所定の出力信号を出力する構成を有し、例えば、安全プログラマブルコントローラなどを用いて形成することができる。安全プログラマブルコントローラとは、JIS(日本工業規格) C 0508−1のSIL2またはSIL3の安全機能をもつ公的に認証されたプログラマブルコントローラをいう。なお、制御部29は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含むコンピュータ等を用いて形成されていてもよい。
供給管27での流れ方向における供給管27の下流端部は、媒体通路形成体25の後述する入口管41に接続されている。
媒体通路形成体25は、被処理物100に所定の冷媒を供給する媒体通路40を形成するためのユニットである。すなわち、冷媒供給部22は、被処理物100が設置され冷媒が通過する媒体通路40を含んでいる。媒体通路形成体25は、冷却室8の外側から内側に向けて延びている。
媒体通路形成体25は、入口管41と、出口管42と、搬送トレイ2と、を含んでいる。
媒体通路40内の冷媒は、入口管41において前後方向Y1に沿う水平方向としての第1方向D1に沿って進み、入口管41から出口管42の下端部に到達し、出口管42において、鉛直上方向である第2方向D2(上下方向Z1)に沿って進む。
入口管41は、被処理物100に熱処理(焼入処理)を施すための冷媒が流入する管であり、冷媒を冷却室8の外部から冷却室8内に導入する。入口管41は、前後方向Y1に沿って水平に延びる円筒管である。入口管41の内径D41は、出口管42の内径D42未満(D41<D42)に設定されている。本実施形態では、入口管41は、冷却室8の後方から前方に向けて延びている。入口管41の一端は、冷却室8の外部に配置されている。入口管41の中間部は、冷却室8の後壁8dを貫通している。
入口管41の他端部としての出口側開口部41aは、出口管42の後述する下側部材43に接続されている。この構成により、入口管41の内部が、出口管42内に開放されている。供給管27から入口管41に進入した冷媒は、入口管41の延びる方向である第1方向D1に沿って進む。すなわち、第1方向D1は、入口管41における冷媒の進行方向である。第1方向D1と直交する断面において、入口管41内の媒体がより均等な流速分布となるように、供給管27のうち入口管41との接続部と、入口管41とは、一直線に並んでいることが好ましい。
出口管42は、本実施形態では、円筒形状に形成されている。なお、出口管42は、断面四角形等の断面多角形形状の管部材であってもよい。
出口管42は、複数の冷媒通路形成部材としての下側部材43および上側部材44を含んでいる。搬送トレイ2は、被処理物100の冷却時において、下側部材43と上側部材44との間に配置される。すなわち、本実施形態では、搬送トレイ2は、被処理物100を搬送する機能と、媒体通路40の一部を形成する機能の双方を有しており、入口管41、下側部材43および上側部材44(出口管42)と協働して媒体通路40を形成する。搬送トレイ2は、出口管42の一部を構成しているともいえる。出口管42の内径D42は、被処理物100の直径D100(外径)よりも大きく設定されている。
本実施形態では、出口管42の下側部材43、搬送トレイ2、および、上側部材44は、搬送方向A1と交差する上下方向Z1(交差方向)に沿って互いに接近するように相対変位することで、被処理物100を収容した状態で媒体通路40を形成するように構成され、且つ、上下方向Z1に沿って互いに離隔するように相対変位することで、媒体通路40に対する搬送方向A1に沿った被処理物100の出し入れを許容するように構成されている。媒体通路40は、冷却室8内において被処理物100に冷媒を供給するために設けられている。
出口管42は、下側部材43、搬送トレイ2および上側部材44がこの順に重ね合わされることで形成される。そして、下側部材43に対して搬送トレイ2および上側部材44が上側に変位することで、出口管42が分割され、搬送トレイ2およびこの搬送トレイ2に載せられた被処理物100を媒体通路40に対して出し入れできる。
出口管42は、第1方向D1とは異なる第2方向D2(本実施形態では、鉛直上方向)に向けて冷媒が進行するように入口管41に接続されており、当該出口管42内に被処理物100が配置される。冷媒は、入口管41を通った後、入口管41の出口側開口部41aから、第1方向D1に進みながら出口管42の下端部に進入し、当該下端部において第2方向D2に向きを変えられ、出口管42内を第2方向D2に進む。
下側部材43は、冷却室8の底壁8fから上方に延びる円筒状の管として設けられている。下側部材43は、上下方向Z1に沿って延びる円筒管であり、一定の内径を有している。下側部材43の下端部は、閉じられた形状を有している。上下方向Z1において、下側部材43の底面、すなわち、出口管42の底面42aの高さ位置は、入口管41の底部41bの高さ位置と揃えられている。すなわち、入口管41の底部41bと出口管42の底面42aとの間に段差が生じていない。
なお、入口管41の底部41bと出口管42の底面42aとの間に段差が生じていてもよい。この場合、出口管42の底面42aの高さ位置は、入口管41の底部41bの高さ位置より高くてもよいし、低くてもよい。
下側部材43の内径は、出口管42の内径でもあり、入口管41の内径D41より大きい。下側部材43の高さは、下側部材43の内径よりも大きく設定されており、下側部材43において第2方向D2に進む冷媒の流れは、第2方向D2の下流側に進むに従いより均等な分布となる。下側部材43の上端部の高さ位置は、所定の冷却位置P1の近傍に設定されている。換言すれば、下側部材43の上端部は、冷却室側搬送部12の近傍に配置されており、搬送トレイ2の下方に位置する。下側部材43の上端部の外周部には、環状のフランジ部43aが設けられている。フランジ部43aの上面には、環状溝が形成されており、この環状溝にOリング等の環状のシール部材が嵌め込まれている。下側部材43のフランジ部43a上には、搬送トレイ2の枠部2aが載せられる。また、搬送トレイ2の枠部2a上には、上側部材44が載せられる。
上側部材44は、上下方向Z1に延びる円筒状の可動管として設けられている。上側部材44の内径は、下側部材43の内径および搬送トレイ2の孔部2cの内径と同じに設定されている。この構成により、上側部材44、搬送トレイ2および下側部材43が重ね合わされて出口管42が形成されたとき、出口管42の内周面に実質的に段差が生じないようにされている。上側部材44の下端部の外周部には、環状のフランジ部44aが設けられている。
フランジ部44aの下面には、環状溝が形成されており、この環状溝にOリング等の環状のシール部材が嵌め込まれている。上側部材44のフランジ部44aは、搬送トレイ2の枠部2aの上面に押さえつけられる。上側部材44は、被処理物100の冷却時、被処理物100の周囲を全周に亘って取り囲んでいる。本実施形態では、上下方向Z1における上側部材44の長さは、出口管42の内径D42以下に設定されているけれども、内径D42より長くてもよい。上側部材44の上端部44bの高さ位置は、被処理物100の熱処理時における被処理物100の高さ位置よりも高く設定されている。この上側部材44は、ブラケット45を介して、流体圧シリンダ46のロッド47に支持されており、このロッド47の変位に応じて上下移動する。流体圧シリンダ46は、冷却室8の天壁8eに支持されている。出口管42の上側部材44を通過した冷媒は、冷却室8内において、出口管42の外部に排出される。出口管42の外部に排出された冷媒は、排出管48を通って冷却室8の外部に排出される。
排出管48は、入口管41に隣接した位置において、冷却室8の後壁8dの下端部に形成されており、冷却室8の内部と外部とに連続している。排出管48は、図示しないドレンタンクに接続されており、このドレンタンクに貯蔵される。
搬送トレイ2は、冷却室側搬送部12によって、上側部材44および下側部材43の間に位置する所定の搬送位置P2に搬送される。
冷却室側搬送部12は、冷却室8内に配置されている。この冷却室側搬送部12は、ベルトコンベア式の搬送機構である。
冷却室側搬送部12は、冷却室8に取り付けられた電動モータである冷却室側モータ51と、冷却室側モータ51の出力を伝達する出力伝達部材52と、出力伝達部材52によって回転される駆動軸53および従動軸54と、冷却室8の内部に配置され、出力伝達部材52からの動力を受けて搬送トレイ2を搬送方向A1に変位させる一対のチェーン55,55と、を有している。そして、駆動軸53、従動軸54およびチェーン55,55を含むチェーンユニット56が形成されている。チェーンユニット56は、上下方向Z1に移動可能に構成されており、搬送位置P2および冷却位置P1に変位可能である。これにより、搬送トレイ2は、上側部材44および下側部材43に搬送トレイ2が結合されるときには冷却位置P1に向けて下方に変位することが可能であり、搬送トレイ2が上側部材44および下側部材43との結合を解除されるときには搬送位置P2に向けて上方に変位することが可能である。
出力伝達部材52は、一対の自在継手を有する軸状部材である。出力伝達部材52は、一対の自在継手を有していることにより、当該出力伝達部材52の一端部と他端部の相対位置を変更可能である。
出力伝達部材52には、駆動軸53が連結されている。駆動軸53と平行に、従動軸54が配置されている。駆動軸53と従動軸54の間に、下側部材43が配置されている。前後方向Y1における駆動軸53の一対の端部、および、前後方向Y1における従動軸54の一対の端部には、それぞれ、スプロケットが一体回転可能に連結されている。そして、搬送方向A1に並ぶ一対のスプロケットに、チェーン55,55が巻き掛けられている。チェーン55,55は、前後方向Y1に離隔して配置されており、搬送トレイ2の枠部2aを載せることが可能に構成されている。また、チェーン55,55の間に、下側部材43の上端部が配置されている。
上記の構成により、冷却室側モータ51の駆動に伴い、出力伝達部材52が回転し、この回転が駆動軸53に伝わる。そして、この駆動軸53は、チェーン55,55を駆動し、従動軸54を回転させる。これにより、一対のチェーン55,55上の搬送トレイ2は、搬送方向A1に移動する。
次に、冷却装置6における冷却動作の概要を説明する。図7は、冷却装置6における冷却動作の一例を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、フローチャートを参照しながら説明する場合、フローチャート以外の図も適宜参照しながら説明する。
図7を参照して、冷却装置6において被処理物100が冷却される際には、まず、被処理物100が出口管42内に収容される(ステップS1)。
ステップS1における動作においては、図3に示すように、搬送トレイ2が所定の搬送位置P2に到達すると、冷却室側モータ51の停止に伴いチェーン55が停止し、搬送トレイ2が搬送位置P2で停止する。次に、流体圧シリンダ46のロッド47が下方に変位する。これにより、上側部材44が変位する。上側部材44の下降移動に連動して、チェーンユニット56が下方に変位し、図4、図6(A)および図6(B)に示すように、チェーンユニット56は、冷却位置P1に到達する。このとき、搬送トレイ2は、下側部材43に受けられている。
上側部材44が下方に変位することに伴い、当該上側部材44が搬送トレイ2を下側へ加圧する。そして、下側部材43、および、上側部材44によって搬送トレイ2が挟まれた状態となり、下側部材43、搬送トレイ2、および、上側部材44によって、出口管42(媒体通路40)が形成される。すなわち、被処理物100が出口管42内に収容される。
媒体通路40は、L字状の通路である。この媒体通路40は、入口管41の内周面および出口管42の内周面42cによって形成されており、冷却室8内において、上方に開放されている。この構成により、冷媒の流れ方向における媒体通路40の下流端部(上側部材44の上端部44b)は、媒体通路40内の圧力よりも低い圧力に設定された媒体通路40の外部に開放されている。
この媒体通路40内において、搬送トレイ2に支持された被処理物100へ向けて、冷媒が下方から上方へ向けて流される(ステップS2)。媒体通路40のうち被処理物100が設置された領域における第2方向D2は、鉛直方向において下側から上側に向かっている。ステップS2での動作をより具体的に説明すると、第1制御弁31〜第4制御弁34の開度が制御部29によって設定された状態で、所定の回転数に設定されたポンプ26の駆動によって冷媒が供給管27を通過する。供給管27を通過した冷媒は、入口管41を第1方向D1に沿って通過し、出口側開口部41aを通して出口管42に到達する。出口管42に到達した冷媒は、第2方向D2に向きを変えて出口管42を上昇する。
冷媒は、出口管42を通過するときに搬送トレイ2に支持されている静止状態の被処理物100を浸漬し、被処理物100を冷却する。この冷媒は、媒体通路40の上端(上側部材44の上端部44b)まで到達した後、媒体通路40の外方に排出されることで、冷却室8の底壁8fに向けて落下する。冷却室8の底壁8fに落下した冷媒は、排出管48から冷却室8の外部に排出される。ステップS2では、媒体通路40における冷媒の流速Vが制御部29によって制御されることで、被処理物100の熱歪みのばらつきを小さくできる。
ステップS2において被処理物100への冷媒の供給が完了した後、出口管42から被処理物100が搬出される(ステップS3)。具体的には、上下変位機構23の流体圧シリンダ46のロッド47が、図3および図5に示すように、上方に変位する。これにより、上側部材44は、上方に変位する。上側部材44の変位に伴い、チェーンユニット56が冷却位置P1から搬送位置P2に上昇する。これにより、搬送トレイ2は、搬送位置P2に戻され、搬送方向A1に沿って進むことが可能となる。
次いで、冷却室側モータ51が駆動することで、チェーンユニット56のチェーン55,55が回転し、搬送トレイ2は、出口扉20側へ移動する。そして、出口扉20が開かれることで、搬送トレイ2および被処理物100は、冷却室8から搬出される。
[焼入処理における冷却処理時の状態説明]
図8(A)は、一般的な焼入処理について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物100の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速Vを示している。図8(A)を参照して、被処理物100の焼入処理に際しては、被処理物100が焼入温度Thまで加熱された後、冷媒によって冷却される。この冷却時、流速V=所定値Vαであり、被処理物100は、通常、(1)蒸気膜段階、(2)沸騰段階、(3)対流段階の3つの段階を経る。
上記(1)の蒸気膜段階は、高温の被処理物100が冷媒に浸漬された直後の段階であり、被処理物100の周囲に冷媒の蒸気膜が発生する。この段階は、上記3つの段階の中で冷却速度が最も遅い。この蒸気膜段階を経た後、上記(2)の沸騰段階に移行する。沸騰段階では、被処理物100の表面において冷媒から激しく気泡が発生し、上記3つの段階の中で最も冷却速度が早くなる。そして、被処理物100の表面温度が約400℃程度に達すると、上記(3)の対流段階に移行する。対流段階では、比較的緩い冷却速度で被処理物100が冷却される。このような熱処理では、被処理物100が冷媒に浸漬され始めてからの被処理物100の全体が冷媒に浸漬されるまでの時間が長くなり、その結果、被処理物100の各部の冷却の度合いが不均一になる。よって、被処理物100に生じる歪みが大きくなる。
一方、冷媒を被処理物100に浸漬する際の冷媒の流速Vを図8(A)に示す上記一般的な処理の場合に比べて十分に大きい流速Vβにした場合、被処理物100は、図8(B)に示す経過を辿る。図8(B)は、冷媒の流速が十分に高い場合の焼入処理について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物100の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速Vを示している。図8(B)に示すように、冷媒の流速Vが十分高いことにより、被処理物100に冷媒が勢いよく衝突する結果、被処理物100の周囲に蒸気膜が発生しても、この蒸気膜は瞬時に崩壊する(破られる)。このように、被処理物100が冷媒に浸漬され始めてから被処理物100の全体が冷媒に浸漬されるまでの時間を短かくできる。しかしながら、冷媒の流速Vが速いと、被処理物100の大きさによって焼入の効果が変化するという質量効果を無視できなくなる。その結果、対流段階において、被処理物100の形状に応じて、被処理物100の冷却速度がグラフTx1,Tx2,Tx3に示すように個体差を生じ、複数の被処理物100において均等な冷却をし難い。
一方、冷媒を被処理物100に供給する(浴びせる)際の冷媒の流速Vが上記一般的な処理の場合の流速Vαに比べて小さい流速Vγである場合、被処理物100は、図9(A)に示す経過を辿る。図9(A)は、冷媒の流速Vが遅い場合の焼入処理の一例について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物100の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速Vを示している。図9(A)に示すように、冷媒の流速Vが遅い場合、被処理物100に冷媒が接触開始するタイミングについて、被処理物100毎のばらつきを生じ易い。その結果、沸騰段階において、被処理物100内での冷却速度が不均一となり、被処理物100に歪みが生じてしまう。
図9(B)は、冷媒の流速Vが遅い場合の焼入処理の別の例について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物100の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速Vを示している。図9(B)に示すように、冷媒の流速Vが遅い場合、特に、Tx4線で示す場合において、冷媒の流速Vが遅いことにより、冷媒の流れの勢いによっても蒸気膜が破断されない箇所が生じる。その結果、冷媒による被処理物100の冷却態様が均等にならない(蒸気膜崩壊を制御できない)こととなり、被処理物100内での冷却速度が不均一となり、被処理物100に歪みが生じてしまう。
上述した被処理物100の冷却に関して、特に、被処理物100が鋼である場合の冷却における変形への影響因子として、冷却に伴う被処理物100の熱収縮と、被処理物100のマルテンサイト変態に伴う変態膨張を上げることができる。そして、これらの熱収縮・変態膨張を最適化することで、被処理物100が均等に冷却され、被処理物100の歪みをより小さくできる。
そこで、本実施形態では、冷却装置6は、被処理物100の冷却段階に応じて冷媒の流速Vを変化させることで、被処理物100の冷却時に生じる歪みを抑制している。図10は、本実施形態における、冷媒の流速Vが可変である焼入処理の例について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物100の温度の経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速Vを示している。
図4および図10を参照して、本実施形態では、制御部29は、ポンプ26、および、制御弁31〜34の少なくとも一方を制御する。これにより、制御部29は、被処理物100の冷却時における所定の第1段階において冷媒の流速Vを所定の第1流速V1に設定し、且つ、冷却時における第1段階よりも後の第2段階において流速Vを第1流速V1よりも低い第2流速V2に設定する。本実施形態では、冷媒への被処理物100の浸漬開始時の流速Vを第1流速V1に設定し、且つ、被処理物100の周囲で冷媒が対流を生じるときの流速Vを第2流速V2に設定する。
制御部29は、例えば、第1流速V1のときには、第1〜第4制御弁31〜34の全てを開き、第2流速V2のときには第1制御弁31および第4制御弁34は開くとともに第2制御弁32および第3制御弁33は閉じる。なお、制御部29は、第1〜第3制御弁31〜33を開いた状態で、ポンプ26の回転数を制御することで、流速Vを第1流速V1または第2流速V2に設定してもよい。
第1段階とは、入口管41への冷媒の供給開始から、少なくとも搬送トレイ2上の被処理物100の全体が冷媒に浸漬されるまでの間であり、この間、流速Vが第1流速V1となるように設定される。特に、本実施形態では、被処理物100の冷却が沸騰段階から対流段階に移行する時点で、第1段階(第1流速V1)から第2段階(第2流速V2)に移行する。すなわち、制御部29は、被処理物100の周囲において冷媒の対流が発生するまでの間、流速Vを第1流速V1に設定する。
そして、第1流速V1は、第2流速V2の2倍以上に設定されており、本実施形態では、5倍に設定されている。換言すれば、V1≧2×V2に設定されており、本実施形態では、V1=5×V2に設定されている。このように、第1流速V1を十分に大きな値に設定することで、冷媒の運動エネルギーによって被処理物100の周囲に生じた蒸気膜を迅速に崩壊させることができる。このため、図10に示すグラフでは、実質的に蒸気膜段階が生じていない。すなわち、被処理物100が冷媒に浸漬され始めると同時に蒸気膜の生成および崩壊が瞬時に起こる。これにより、冷却速度が遅くなり且つ冷却が不安定に行われる原因となる蒸気膜を破断するタイミングをより早くでき、被処理物100の各部のより均等な冷却を促進できる。そして、被処理物100が冷媒に浸漬され始めるのと略同時に、被処理物100の全体が冷媒に浸漬され、沸騰段階に移行する。この沸騰段階においては、流速Vは第1流速V1で一定である。
そして、被処理物100の周囲の冷媒の沸騰が収まり、対流段階に移行する時点で、制御部29は、ポンプ26および制御弁31〜34の少なくとも一方を制御することで、流速Vを第2流速V2に変更する。流速Vを第1流速V1からより低速である第2流速V2へ切り替えることにより、対流段階にある被処理物100の冷却時に、被処理物100の冷却速度を緩やかにできる。このような緩やかな冷却により、冷媒の流れが被処理物100の冷却に与える影響を抑えることができる。その結果、対流段階において被処理物100全体をより均等に冷却できる。第2段階は、被処理物100が所定の冷却完了温度Teに到達するまで継続される。
なお、流速V1,V2、第1段階が実行される時間L1、および、第2段階が実行される時間L2は、それぞれ、事前に制御部29内のメモリに設定(記憶)されている。
図11は、図7に示すフローチャートにおける、被処理物100への冷媒供給動作(ステップS2)の詳細を説明するためのサブルーチンを示すフローチャートである。図4、図10および図11を参照して、制御部29は、被処理物100へ冷媒を供給する際、まず、ポンプ26および各制御弁31〜34の少なくとも一方を制御することにより、出口管42を通過する冷媒の流速Vを第1流速V1に設定する(ステップS21)。そして、被処理物100への冷媒の供給開始から第1段階が実行される時間L1の経過後、制御部29は、ポンプ26および各制御弁31〜34の少なくとも一方を制御することにより、出口管42を通過する冷媒の流速Vを第2流速V2に減速する(ステップS22)。そして、第2段階が実行される時間L2の経過後、制御部29は、制御弁34を閉じることで、出口管42への冷媒の供給を停止する(ステップS23)。
以上説明したように、熱処理装置1の冷却装置6によると、被処理物100の冷却時における第1段階では、冷媒の流速Vを早い速度としての第1流速V1にする。換言すれば、冷却装置6によると、被処理物100の冷却開始時における、冷媒へ被処理物100を浸漬する時点では、冷媒の流速Vを早い速度としての第1流速V1にする。よって、被処理物100を冷媒中へ迅速に浸漬できる。これにより、被処理物100が冷媒に触れ始めるタイミングを、被処理物100の表面の各部でより均等にできる。その結果、被処理物100の各部をより均等に冷却できる。また、冷媒は、高速(第1流速V1)で被処理物100に当てられることで、蒸気膜段階において被処理物100の周囲に生じる蒸気膜を破ることができる。よって、被処理物100の冷却速度が遅く且つ冷却状態が不安定な蒸気膜段階から、冷却速度のより安定した沸騰段階へ、迅速に移行できる。このように、冷媒を被処理物100に供給する速度を第1流速V1にすることで、第1段階(蒸気膜段階および沸騰段階)において、被処理物100の各部をより均等に冷却できる。また、第2段階(対流段階)での冷媒の流速Vを第2流速V2とすることで、対流段階において、冷媒の流れに起因する被処理物100の冷却度合いのばらつきを抑制できる。よって、第2段階においても、被処理物100の各部をより均等に冷却できる。さらに、冷媒は、静止した被処理物100へ供給される。これにより、被処理物100の各部が冷媒に触れ始めるタイミングをより均等にできる。以上の次第で、第1段階、第2段階の何れにおいても被処理物100をより均等に冷却できる結果、被処理物100に歪みが生じることをより確実に抑制できる。
また、冷却装置6によると、被処理物100に歪みが生じることをより確実に抑制できる結果、被処理物100の歩留まりをより高くできる。また、被処理物100の熱歪みが小さいことにより、この熱歪みを修正するための作業を少なくまたは省略できる。よって、被処理物100の製造コストをより少なくできる。
また、冷却装置6によると、制御部29は、冷媒への被処理物100の浸漬が開始された後、少なくとも蒸気膜が発生する時点を含む期間L1の流速Vを、第1流速V1に設定する。この構成によると、被処理物100の周囲に発生する蒸気膜を、十分な流速V1の冷媒でより迅速に破ることができる。
また、冷却装置6によると、制御部29は、少なくとも被処理物100の全体が冷媒に浸漬されるまでの間、流速Vを第1流速V1に設定する。この構成によると、冷媒が被処理物100へ接触を開始するタイミングを、被処理物100の各部でより均等にできる。
また、冷却装置6によると、制御部29は、出口管42への冷媒の供給を開始してから対流の発生が開始するまでの間、流速Vを第1流速V1に設定する。この構成によると、冷媒の流速Vが速いことが好ましい段階において、冷媒の流速Vが高い状態を維持できる。
また、冷却装置6によると、制御部29は、ポンプ26および制御弁31〜34の少なくとも一方を制御することで、流速Vを設定する。この構成によって、制御部29による流速制御を行うための構成を実現できる。
また、冷却装置6によると、冷媒の流れ方向における媒体通路40の下流端部である上側部材44の上端部44bは、媒体通路40内の圧力よりも低い圧力に設定された媒体通路40の外部に開放されている。この構成によると、媒体通路40において、被処理物100を通過した冷媒の圧力が媒体通路40の外部に開放される。これにより、媒体供給部22における意図的な流速変化を生じさせ易くできる。
また、冷却装置6によると、媒体通路40のうち被処理物100が設置された領域における流れ方向D2は、鉛直方向において下側から上側に向かっている。この構成によると、特に冷媒が液体である本実施形態において、媒体通路40内の流れ方向D2と直交する断面における冷媒の分布をより均等にできる。その結果、冷媒を被処理物100へより均等に供給できる。
また、熱処理装置1によると、搬送トレイ2の支持部2bは、媒体通路40内において冷媒を整流するための整流部材として機能する。この構成によると、冷媒を被処理物100へより均等に供給できる。
上述の第1実施形態では、流速Vが第1流速V1と第2流速V2の2段階に設定される構成を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、制御部29によって、図12に示すように、3種類の流速としての第1流速V1、第2流速V2および第3流速V3が設定されてもよい。
図12は、第1実施形態の変形例における、冷媒の流速Vが可変である場合の焼入処理の例について説明するための模式的なグラフであり、上側のグラフは、被処理物100および流速Vの経時変化を示しており、下側のグラフは冷媒の流速Vを示している。
図4および図12を参照して、この変形例では、制御部29は、ポンプ26、および、各制御弁31〜34の少なくとも一方を制御する。これにより、制御部29は、冷媒供給開始から被処理物100の全体が冷媒に浸漬されるまでの間、流速Vを第1流速V1に設定し、対流の発生開始以降の流速Vを第2流速V2に設定し、且つ、被処理物100の全体が冷媒に浸漬された後から対流の発生開始までの間(期間L3の間)、流速Vを第1流速V1と第2流速V2とは異なる第3流速V3に設定する。
より具体的には、被処理物100への冷媒の供給開始から被処理物100の全体が冷媒に浸漬されるまでの間、流速Vが第1流速V1に設定される。そして、被処理物100の全体が冷媒に浸漬された後、蒸気膜段階および沸騰段階において流速Vが第3流速V3に設定される。そして、沸騰段階から対流段階に移行する時点で、流速Vが第2流速V2に設定される。
第1流速V1>第3流速V3>第2流速V2であることが好ましいけれども、第1流速V1>第2流速V2>第3流速V3であってもよい。第1流速V1>第3流速V3>第2流速V2である場合、第1流速V1から第3流速V3への速度変化が比較的緩やかであるので、出口管42内において冷媒の流れが乱れることを、より抑制できる。
図13は、図7に示すフローチャートにおける、被処理物100への冷媒供給動作(ステップS2)の詳細の変形例を説明するためのサブルーチンを示すフローチャートである。図4、図12および図13を参照して、この変形例では、被処理物100へ冷媒が供給される際、制御部29は、まず、ポンプ26および各制御弁31〜34の少なくとも一方を制御することにより、出口管42を通過する冷媒の流速Vを第1流速V1に設定する(ステップS31)。そして、被処理物100への冷媒供給開始から第1段階が実行される時間L1が経過した後、制御部29は、ポンプ26および各制御弁31〜34の少なくとも一方を制御することにより、出口管42を通過する冷媒の流速Vを第3流速V3に減速する(ステップS32)。そして、第3段階が実行される時間L3が経過した後、制御部29は、ポンプ26および各制御弁31〜34の少なくとも一方を制御することにより、出口管42を通過する冷媒の流速Vを第2流速V2に変更する(ステップS33)。そして、第2段階が実行される時間L2が経過した後、制御部29は、制御弁34を閉じることで、出口管42への冷媒の供給を停止する(ステップS34)。
この変形例によると、被処理物100が冷媒に浸漬されるまでの間、冷媒の流速Vを速い第1流速V1にしているので、冷媒は被処理物100を迅速に浸漬できる。また、対流段階での冷媒の流速Vを低い第2流速V2にしているので、冷媒に乱流が生じることを抑制できる。これにより、対流段階において、被処理物100をより均等に冷却できる。さらに、冷媒への被処理物100の浸漬が完了した後、対流段階に移行するまでの間、例えば、蒸気膜段階および沸騰段階(期間L3)において、より適した流速Vとしての第3流速V3で被処理物100に冷媒を供給できる。このように、冷媒の流速Vを、各段階により適した値にできる。
なお、上述の第1実施形態および変形例において、流速Vが2段階または3段階に設定される形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。流速Vは、4段階以上に設定されていてもよい。
また、上述の第1実施形態および変形例において、媒体供給部22にポンプを1つ設ける形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、並列管部28の各部分28a〜28cにポンプが設けられてもよい。この場合、複数のポンプが制御部29によって制御される。
また、上述の第1実施形態および変形例において、冷媒が全体としてL字状をなす入口管41および出口管42を通って被処理物100に供給される形態を例に説明した。しかしながら。この通りでなくてもよい。被処理物100に冷媒を供給する冷媒通路の形状は、上述の第1実施形態および変形例で説明した形状に限定されず、任意の形状でよい。例えば、断面多角形状の冷媒通路を通して冷媒が被処理物100に供給されてもよい。
また、上述の第1実施形態および変形例において、出口管42において冷媒が下方から上方に上昇し被処理物100に供給される形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。冷媒は、落下しながら被処理物100に浴びせられてもよい。この場合、冷媒の初期流速をより速くできるとともに、被処理物100が冷媒に触れ始めてから被処理物100の全体が冷媒に浸されるまでの時間をより短縮できる。また、冷媒は、水平に進みながら被処理物100に浴びせられてもよい。
また、上述の第1実施形態および変形例において、媒体通路40の下流端部(上側部材44の上端部44b)が媒体通路40内の圧力よりも低い圧力の冷却室8に開放された形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、冷媒通路は、閉回路を形成していてもよい。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下では、主に、第1実施形態と異なる構成について説明し、第1実施形態と同様の構成には図に同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
図14は、本発明の第2実施形態に係る冷却装置6Aの概略構成を示す、一部断面側面図である。図15は、図14に示す冷却装置6Aの主要部を示す断面図であり、主要部を側面から見た状態を示している。図16は、冷却装置6Aの主要部を示す断面図であり、主要部を加熱装置44側から見た状態を示している。図17は、入口管41、出口管42の底面42aおよび第1整流部材61を模式的に示す平面図である。
図14〜図17を参照して、冷却装置6Aは、冷却装置6の構成に加えて、第1整流部材61と、絞り部材62と、第2整流部材63と、を有している。すなわち、冷却装置6Aは、冷却室8と、出口扉ユニット21と、媒体供給部22と、上下変位機構23と、第1整流部材61と、絞り部材62と、第2整流部材63と、を有している。
第1整流部材61は、冷媒の進行方向を第1方向D1から第2方向D2に変更するために出口管42内に配置され、入口管41の出口側開口部41aと出口管42の対向内面42bとの間の領域の少なくとも一部を覆っている。第1方向D1に沿って見たときにおいて、第1整流部材61は、出口側開口部41aの少なくとも一部を覆っている。なお、冷媒の流れは矢印F1で模式的に図示されている。
対向内面42bは、出口管42の内周面42cの一部であって、入口管41の出口側開口部41aと第1方向D1に対向する面である。すなわち、第1方向D1に沿って見たときに、出口管42の内周面42cのうち出口側開口部41aで囲まれた空間と重なる領域が、対向内面42bである。
第1整流部材61は、冷媒の向きを第1方向D1から第2方向D2へ変更するのに際して、冷媒に乱流が生じることを抑制するように構成されている。第1整流部材61は、金属、強化繊維プラスチック(FRP)等の、高剛性材を用いて形成されており、冷媒の流れの衝撃によっては変位および変形を実質的に生じない程度の剛性を有している。
本実施形態では、第1整流部材61は、出口管42の底面42a上に設置されており、当該底面42aに固定されている。第1整流部材61は、矩形の平板状部材によって形成されており、均一な厚みE1を有している。第1整流部材61の厚みE1は特に限定されていないけれども、数mm〜数cm程度の範囲内に設定されていることが好ましい。本実施形態では、第1方向D1に沿って見たときにおいて、第1整流部材61の四隅は、何れも、90度の直角先鋭形状に形成されており、面取りが形成されていない。
第1整流部材61は、第1方向D1と直交するように延びており、本実施形態では、上下方向Z1に沿って延びている。第1整流部材61は、入口管41の出口側開口部41a側を向く一側面61aと、出口管42の対向内面42b側を向く他側面61bと、を有している。これらの側面61a,61bは、それぞれ、第2方向D2に沿って延びており、出口管42の底面42aと直交している。この構成により、第1整流部材61と、出口管42の底面42aとは、直角に交わっており、湾曲形状が設けられていない。
図17に示されているように、第2方向D2に沿って出口管42を見たとき(出口管42を平面視したとき、以下、単に平面視ともいう)、第1整流部材61は、出口管42の内周面42cから離隔しており、且つ、入口管41の出口側開口部41aから第1方向D1に進んだ箇所に配置されている。
より具体的には、平面視において、第1方向D1と直交する方向である、第1整流部材61の幅方向(前後方向Y1)において、第1整流部材61の両端部と出口管42の内周面42cとの間に、冷媒を通過させるための隙間64,65が形成されている。本実施形態では、第1整流部材61は、出口管42の底面42aにおいて、左右方向X1の中央に配置されているとともに、前後方向Y1の中央に配置されている。この構成により、平面視において、出口管42および第1整流部材61は、左右方向X1に対称な形状に形成されている。また、平面視において、出口管42および第1整流部材61は、前後方向Y1に対称な形状に形成されている。
本実施形態では、幅方向(前後方向Y1)において、出口管42の内周面42cと第1整流部材61の一端部との間の隙間64の長さk64は、出口管42の内周面42cと第1整流部材61の他端部との間の隙間65の長さk65と同じに設定されている。
なお、幅方向(前後方向Y1)における隙間64の長さk64と隙間65の長さk65とは、互いに異なっていてもよいし、一方がゼロであってもよい。すなわち、幅方向(前後方向Y1)における第1整流部材61の一対の端部の何れかは、内周面42cに接触しているか、または、内周面42cと一体化されていてもよい。
第1整流部材61の幅wは、入口管41の出口側開口部41aにおける内径D41の少なくとも50%以上(w≧0.5×D41)であることが好ましく、100%以上(w≧D41)であることがより好ましい。幅wが内径D41の50%以上であれば、第1方向D1に沿って入口管41から出口管42に進入した冷媒が、出口管42の対向内面42bに直接衝突することを抑制する効果を十分に発揮できる。そして、幅wが内径D41の100%以上である場合、第1方向D1に沿って入口管41から出口管42に進入した冷媒が、出口管42の対向内面42bに直接衝突するのを抑制する効果をより確実に高めることができる。幅wは、出口管42の内径D42未満(w<D42)に設定されることで、隙間64,65を確保することができる。より好ましくは、幅wは、出口管42の内径D42の50%以下(w≦0.5×D42)に設定されることで、隙間64,65を十分に確保することができる。
幅wは、例えば、内径D41の100%〜187.5%の範囲に設定される。
第2方向D2における第1整流部材61の高さhは、入口管41の内径D41の少なくとも50%以上(h≧0.5×D41)であることが好ましく、100%以上(h≧D41)であることがより好ましい。高さhが内径D41の50%以上であれば、第1方向D1に沿って入口管41から出口管42に進入した冷媒が出口管42の対向内面42bに直接衝突することを抑制する効果を、十分に発揮できる。そして、高さhが内径D41の100%以上である場合、第1方向D1に沿って入口管41から出口管42に進入した冷媒が出口管42の対向内面42bに直接衝突することを抑制する効果を、より確実に高めることができる。高さhは、出口管42の底面42aから絞り部材62までの距離k1未満に設定されることが好ましい(h<k1)。h<k1とすることで、第1整流部材61の一側面61a側を通過して上昇する冷媒と、第1整流部材61の他側面61b側を通過して上昇する冷媒との衝突に起因する、冷媒の流れの乱れ状態が被処理物100にまで続くことを抑制できる。
また、第1整流部材61の下端(出口管42の底面42a)から被処理物100の下端(被処理物配置位置)までの高さをHとした場合、第1整流部材61の高さhと上記高さHとの割合h/Hは、0.1≦h/H≦0.5であることが好ましい。0.1>h/Hであると、第1整流部材61から被処理物100までの距離が長くなり、第1整流部材61による冷媒の整流効果が被処理物100の周囲において低くなり易い。また、h/H>0.5であると、第1整流部材61と被処理物100との距離が近くなり過ぎ、その結果、入口管41から出口管42に至った冷媒の整流が十分になされないまま、冷媒が被処理物100に供給されるおそれがある。
高さhは、例えば、内径D41の75%〜187.5%の範囲に設定される。
そして、幅wおよび高さhがいずれも内径D41の100%以上(w≧D41、且つ、h≧D41)である構成、すなわち、第1方向D1に沿って見て、第1整流部材61が出口側開口部41aの全域(対向内面42bの全域)を覆う構成が好ましい。この構成であれば、第1方向D1に沿って入口管41から出口管42に到達した冷媒が対向内面42bに第1方向D1に沿って真っ直ぐに直接衝突することを、略確実に防止することができる。
幅wは、例えば、高さhの約50%〜200%の範囲に設定される。
特に、幅wが入口管41の内径D41の100%〜250%であることが、出口管42での被処理物100の周囲における冷媒の流れの均一化に好ましい。
また、入口管41の出口側開口部41aにおける開口面積(第1方向D1と直交する断面での開口部分の面積)をdとした場合、第1方向D1と直交する断面での第1整流部材61の面積(一側面61aの面積)w×hと開口面積dとの比率wh/dは、所定の範囲に設定されることが好ましい。この比率wh/dは、0.5〜6.4の範囲に設定されていること(0.5≦wh/d≦6.4)が好ましい。
比率wh/dが0.5未満であると、第1整流部材61の大きさを十分に確保できない。その結果、入口管41を通過して出口管42に進入した冷媒が第1方向D1に沿って対向内面42bに直接衝突することを防止する効果を、第1整流部材61は十分に発揮し難い。このため、入口管41から出口管42に到達した冷媒が第1方向D1に沿って直接対向内面42bに衝突する程度は大きくなる。その結果、出口管42を上昇する冷媒に乱流が生じやすい。このような乱流が生じる結果、被処理物100が冷媒に均等に当てられず、被処理物100の歪みが大きくなる原因となる。
また、比率wh/dが6.4を超えると、第1整流部材61の一側面61a側の冷媒は、他側面61b側に流れ難くなる。その結果、第1整流部材61の一側面61a側の冷媒の上昇速度と第1整流部材61の他側面61b側の冷媒の上昇速度とが不均一になり易い。このため、出口管42を上昇する冷媒の上昇速度のばらつきが大きくなり、出口管42を上昇する冷媒に乱流が生じやすい。
上記の構成を有する第1整流部材61の上方に、絞り部材62が設けられている。絞り部材62は、第2方向D2において第1整流部材61から離隔して配置され、第2方向D2と直交する面における出口管42の面積を絞る部材として設けられている。絞り部材62は、出口管42を第2方向D2に沿って進む冷媒を整流する部材である。絞り部材62は、出口管42の内周面42cに着脱可能な筒状部材である。絞り部材62の外径は、出口管42の内径D42と略同じに設定されている。絞り部材62の内周面は、第2方向D2に進むに従い直径が小さくなる円錐台テーパ状に形成されている。この内周面(円錐台テーパ形状)の中心軸線は、出口管42の中心軸線と一致していることが好ましい。
絞り部材62の厚み(第2方向D2における絞り部材62の内周面の長さ)は、出口管42の内径D42未満に設定されており、本実施形態では、内径D42の半分未満に設定されている。本実施形態では、絞り部材62の厚みは、第2整流部材63の厚みと略同じに設定されている。第2方向D2(上下方向Z1)に対する絞り部材62の内周面のテーパ状面の傾斜角度は、被処理物100の形状等に応じて適宜設定される。絞り部材62の上方、すなわち、絞り部材62から第2方向D2に進んだ位置に、第2整流部材63が配置されている。
第2整流部材63は、絞り部材62を通った冷媒を整流するために設けられている。第2整流部材63は、本実施形態では、出口管42の内周面42cに固定された部材であり、平面視において格子状に形成されている。第2整流部材63の外径は、出口管42の内径D42と略同じに設定されている。第2整流部材63を平面視したときに、第2整流部材63には、多数の例えば四角形状の孔部を有する格子状部分が形成されている。より具体的には、第2整流部材63には、所定の第1水平方向に延びる複数の第1隔壁と、第1水平方向とは直交する第2水平方向に延びる複数の第2隔壁と、が設けられている。そして、複数の第1隔壁は、第2水平方向に等ピッチで配置されており、複数の第2隔壁は、第1水平方向に等ピッチで配置されている。
第2整流部材63の格子状部分で形成された孔部の大きさは、被処理物100の形状等に応じて適宜設定される。
本実施形態では、被処理物100が冷媒によって冷却されているとき、第2方向D2に沿って、絞り部材62、第2整流部材63、および、被処理物100(搬送トレイ2、被処理物100の配置位置)の順に配列されている。そして、絞り部材62から被処理物100(被処理物100の配置位置)までの距離k2が、第1整流部材61から絞り部材62までの距離k3よりも短く設定されている(k2<k3)。
より具体的には、距離k2は、絞り部材62の上端から被処理物100の下端までの距離である。また、距離k3は、第1整流部材61の上端から絞り部材62の下端までの距離である。本実施形態では、距離k2は、出口管42の内径D42未満であるのに対して、距離k3は、出口管42の内径D42よりも大きい。
以上説明したように、第2実施形態に係る冷却装置6Aによると、第1整流部材61は、入口管41の出口側開口部41aと、出口管42の対向内面42bとの間の領域の少なくとも一部を覆っている。これにより、入口管41から出口管42に到達した冷媒は、第1方向D1に沿って対向内面42bに勢いよく衝突することを抑制される。その結果、冷媒が第1方向D1に沿って対向内面42bに勢いよく衝突することで生じる、乱れの度合いの大きな乱流が出口管42で生じることを、抑制できる。よって、出口管42を第2方向D2に沿って進む冷媒の流れの分布(第2方向D2と直交する断面での流速の分布)をより均等にできる。これにより、熱処理用の冷媒が被処理物100を通過する際の冷媒の流れの分布をより均等にできる。その結果、出口管42内に配置された被処理物100が冷媒によって熱処理される度合いを被処理物100の各部においてより均等にできる。本実施形態では、金属製の被処理物100を液状の冷媒で焼入処理する際に、被処理物100の各部をより均等に冷却できるので、被処理物100に歪みが生じることをより確実に抑制できる。
また、冷却装置6Aによると、第1整流部材61は、第2方向D2に沿って出口管42を見たときに、出口管42の内周面42cから離隔しており、且つ、入口管41の出口側開口部41aから第1方向D1に進んだ箇所に配置されている。このような構成であれば、第1方向D1に沿って入口管41を進んだ後に出口管42に到達した媒体は、第2方向D2に沿って出口管42を見たときに第1整流部材61の周囲を迂回するように出口管42内を進み、その後、第2方向D2に沿って進む。これにより、出口管42のうち入口管41との接続部周辺における冷媒を、よりスムーズに第2方向D2に進むように第1整流部材61によって案内できる。したがって、出口管42を第2方向D2に沿って進む冷媒の流れの分布(第2方向D2と直交する断面での流速の分布)をより均等にできる。これにより、熱処理用の冷媒が被処理物100を通過する際の冷媒の流れの分布をより均等にできる。その結果、出口管42内に配置された被処理物100が冷媒によって熱処理される度合いを被処理物100の各部においてより均等にできる。本実施形態では、金属製の被処理物100を液状の冷媒で焼入処理する際に、被処理物100の各部をより均等に冷却できるので、被処理物100に歪みが生じることをより確実に抑制できる。
また、冷却装置6Aによると、簡易な構成である第1整流部材61を設けるコンパクトな構成で、出口管42における冷媒のより均等な流れを実現できるので、冷却装置6Aをより小型にできる。
また、冷却装置6Aによると、冷媒は、第1整流部材61の周囲において、第1整流部材61の幅方向(前後方向Y1)両側方の隙間64,65を通って出口管42の内周面42cの全周に到達するように流れる。このようなスムーズな冷媒の流れが生じる結果、第1整流部材61の周囲から第2方向D2に沿って出口管42を流れる冷媒の流れの分布をより均等にできる。
また、冷却装置6Aによると、第1整流部材61は、第1方向D1と直交するように配置された平板状部材を含んでいる。この構成によると、第1整流部材61を、構成の簡易な平板状部材を用いて実現できる。さらに、第1整流部材61の周囲から第2方向D2に沿って出口管42を流れる媒体の流れの分布をより一層均等にできる。
また、冷却装置6Aによると、第1方向D1に沿って見て、第1整流部材61は、出口側開口部41aと幅方向(前後方向Y1)の全域に亘って重なっていることが好ましい。この構成によると、第1方向D1に真っ直ぐに進み入口管41から出口管42に到達した冷媒は、出口管42のうち入口管41の出口側開口部41aと第1方向D1に対向する対向内面42bにそのまま衝突するのではなく、第1整流部材61に一旦受けられることとなる。このような構成であれば、冷媒が第1方向D1に沿って対向内面42bに勢いよく衝突することで生じる、乱れの度合いの大きな乱流が出口管42で生じることを、より確実に抑制できる。
また、冷却装置6Aによると、絞り部材62は、冷媒の流れを増速させる作用を通じて、出口管42内を通過中の冷媒の流れが不安定になることを抑制する。より具体的には、絞り部材62は、連続の式とベルヌーイの法則とを満たすように冷媒の動圧を相対的に低い状態から高い状態に移動させる。これにより、冷媒の流れが出口管42の内周面42cの壁面摩擦の抵抗に打ち勝つようにし、流体はく離の原因となる冷媒逆流の発生を抑える。これにより、簡単な機構で流体的ノイズの原因となる渦、流体はく離などが抑えられる。よって、出口管42内において、第2方向D2と直交する断面での第2方向D2の流速分布がより均等となる。
また、冷却装置6Aによると、第2方向D2に沿って、絞り部材62、第2整流部材63、および、被処理物100の順に配置され、絞り部材62から被処理物100までの距離k2が、第1整流部材61から絞り部材62までの距離k3よりも短く設定されている(k1<k3)。この構成によると、第1整流部材61から絞り部材62までの間の比較的長い領域において十分に流れの整った冷媒は、第2整流部材63でさらに流れを整えられた後に被処理物100に与えられる。これにより、被処理物100を通過する冷媒の流れの分布をより均等にできる。
また、冷却装置6Aによると、第1実施形態で詳述した、制御部29による冷媒の流速制御によって、被処理物100の各部をより均等に冷却する効果に加えて、第1整流部材61、絞り部材62および第2整流部材63による冷媒の整流効果によって、被処理物100の各部をより均等に冷却する効果を発揮できる。このように、冷媒の流速Vの制御と、冷媒の流れを案内する部材61〜63との相乗効果によって、被処理物100の各部を均等に冷却することのできる効果を顕著に高めることができる。
なお、上述の第2実施形態では、第1実施形態または第1実施形態の変形例で説明した態様で制御部29が流速Vを制御する場合を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。第2実施形態においては、被処理物100の冷却処理時に流速Vを変化させる制御が行われなくてもよい。
また、第2実施形態では、絞り部材62および第2整流部材63の少なくとも一方が省略されてもよい。
また、第2実施形態では、液状またはガス状の媒体を用いて被処理物100を加熱する処理が行われてもよい。
また、上述の第2実施形態では、第1方向D1に沿って見たときにおいて、第1整流部材61が入口管41の出口側開口部41aの全体を覆う形態を図示して説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、第2実施形態の変形例の主要部の平面図である図18(A)を参照して、第1整流部材61は、第1方向D1と平行に配置されてもよい。この場合も、入口管41を第1方向D1に沿って流れてきた冷媒を第1整流部材61が第2方向D2に向かうように案内できる。なお、第2方向D2から見たときの出口管42の周方向回りの第1整流部材61の向きは、上述した形態に限定されず、任意の向きを採用することができる。
また、第2実施形態の別の変形例の主要部を示す図18(B)を参照して、第1方向D1から見たときにおいて、第1整流部材61は、幅方向(前後方向Y1)において出口側開口部41aの全体を覆うけれども第2方向D2においては出口側開口部41aの上端側の一部を覆わないように配置されてもよい。
また、上述の第2実施形態およびその変形例では、第1整流部材61が平板状部材である形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、第1整流部材61に変えて、第2実施形態のさらに別の変形例の主要部を示す図18(C)を参照して、下端部に湾曲状案内面61c,61dが設けられた第1整流部材61Aが用いられてもよい。第1整流部材61Aが第1整流部材61と異なっている点は、一対の湾曲状案内面61c,61dの下部が、下方(第2方向D2と反対の方向)に進むに従い互いに離隔するように延びている点にある。各湾曲状案内面61c,61dの下部は、円弧面状に形成されており、所定の曲率半径Rを有している。このような構成であれば、冷媒は、各湾曲状案内面61c,61dの下部の湾曲状部分を伝って第2方向D2に向きを変えられることとなる。
また、上述の第2実施形態およびその変形例では、第1方向D1と第2方向D2とが直角に交わる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。第1方向D1と第2方向D2とが交差する角度は、直角以外の角度であってもよい。例えば、第2実施形態のさらなる変形例を示す図18(D)を参照して、出口管42が鉛直方向に対して傾斜するように延びている場合、第1方向D1と第2方向D2との交差角度θ(劣角)は、数度〜90度未満に設定されていてもよい。交差角度θの下限は、30度であってもよいし、45度であってもよいし、60度であってもよいし、75度であってもよい。
以上、本発明の実施形態および変形例について説明したけれども、本発明は上述の構成に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
<冷媒の流速制御の有無に起因する、被処理物冷却の均等さの違いの検証>
図3,4に示す第1実施形態の冷却装置6を用いて、被処理物100を冷却する試験を行った。被処理物100は、焼入温度Thまで加熱された状態において出口管42内において搬送トレイ2に載せられた状態から、冷媒としての冷却水を用いて冷却された。冷却は、被処理物100が蒸気膜段階、沸騰段階および対流段階が完了するまで行われた。被処理物100は、円柱状の鋼材である。冷却装置における試験条件は、冷媒の流速以外の条件は、同一とした。
試験条件は、以下の通りである。
実施例1A:(流速制御有り):出口管42を通過する冷媒の流速Vを、冷媒が被処理物100の浸漬を開始してから沸騰段階が完了するまでの間、第1流速V1に設定し、沸騰段階の後の対流段階で第2流速V2に設定した。第1流速V1と第2流速V2の比V1:V2=5:1である。
比較例1A(低速):出口管42を通過する冷媒の流速Vを、第2流速V2(V=V2)の固定値に設定した。
比較例2A(高速):出口管42を通過する冷媒の流速Vを、第1流速V1(V=V1)の固定値に設定した。
実施例1A、比較例1Aおよび比較例2Aにおける被処理物の材質は、SCM材(クロムモリブデン鋼材)である。
評価は、実施例1A、比較例1Aおよび比較例2Aをそれぞれ複数回実施し、実施例1A、比較例1Aおよび比較例2Aのそれぞれにおける、被処理物100の焼入処理前後の真円度の変化量の平均値を測定した。
比較例2Aにおける真円度の変化量の平均値を1とした場合の、真円度の変化量の平均値は、以下の通りである。
比較例2A:1.0
比較例1A:0.6
実施例1A:0.2
上記から明らかなように、被処理物の焼入処理前後の真円度の変化量の平均値(以下、真円度平均値ともいう。)は、比較例2Aが最も大きく、次に比較例1Aが大きく、実施例1Aは格段に小さかった。このように、実施例1Aにおける真円度平均値は、比較例1Aの1/3に過ぎず、さらに、比較例2Aの1/5に過ぎない。
次に、材料をSUJ材(軸受鋼)とした点以外は実施例1Aと同一条件である実施例2Aと、材料をSUJ材(軸受鋼)とした点以外は比較例2Aと同一条件である比較例3Aと、について、真円度平均値を測定した。
比較例3Aにおける真円度平均値を1とした場合の、真円度平均値は、以下の通りである。
比較例3A:1.0
実施例2A:0.1
このように、実施例2Aにおける真円度平均値は、比較例3Aの1/10に過ぎず、極めて小さい。
以上の次第で、焼入温度Thに加熱された被処理物100を冷却する際の熱歪みが、実施例1A,2Aにおいて極めて小さいことが実証された。すなわち、実施例1A,2Aに関して、出口管42内において冷媒が高度に整流されており且つ均等な流速分布が実現されており、被処理物100へ冷媒を均等に供給できる能力が極めて高いことが実証された。
<第1整流部材の有無および第1整流部材の形状に起因する、冷媒の流れの均一度合いの違いの検証>
図18(C)に示す第2実施形態の変形例に係る冷却装置6Aの構成をモデル化したコンピュータシミュレーションを行った。
(比較例1B実および実施例1Bについて)
比較例1Bのモデルを示す模式的な側面図および冷媒の流れの分布を示す模式図である図19(A)を参照して、比較例1Bは、第1整流部材61が設けられていない点は、冷却装置6Aと実質的に同一の構成を有している。
また、実施例1Bのモデルを示す模式的な側面図および冷媒の流れの分布を示す模式図である図19(B)を参照して、実施例1Bは、図18(C)に示す冷却装置6Aの変形例に相当する構成を有している。すなわち、第1整流部材61の一対の側面61a,61bのそれぞれの下部に湾曲状案内面61c,61dが形成されている。実施例1Bにおいて、第1整流部材61の幅(紙面に垂直な方向の長さ)wの値を1としたとき、高さh=2.5w、湾曲形状部分の曲率半径R=wに設定されている。
比較例1Bおよび実施例1Bのそれぞれについて、入口管41から流速Vを一定にして冷媒を出口42管へ流したときの、被処理物100が配置される箇所での、水平断面における冷媒の流速分布を算出した。結果は、図19(A)のおよび図19(B)に示されている。
図19(A)および図19(B)では、流速Vが高い箇所ほどハッチングの間隔が狭くされている。具体的には、水平断面における流速Vが4段階Q1〜Q4で示されている。流速Q1が4段階の流速Vの中で最も早く、流速Q4が最も遅い。そして、最も速い流速Q1におけるハッチングの間隔はゼロであり、塗りつぶされている。
比較例1Bでは、被処理物100が配置される箇所において、出口管42の対向内面42b側の領域の上方において流速Vが高くなっており、水平断面における冷媒の流れの分布に大きな偏りが生じている。一方、実施例1Bでは、被処理物100が配置される箇所において、第1整流部材61の幅方向両端の領域の上方での流速Vが僅かに高くなっているものの、水平断面における冷媒の流れ分布の偏りは、小さい。
被処理物100が配置される箇所での水平断面における、流速Vの最大値(最大流速)と、平均値(平均流速)との差(偏差)について、比較例1Bにおける偏差を1とした場合、以下の通りとなる。
比較例1Bの偏差:1.000
実施例1Bの偏差:0.589
すなわち、被処理物100が配置される箇所における水平断面での流速の偏りについて、実施例1Bでは、比較例1Bの40%以上(41.1%)小さくされていることが実証された。このように、第1整流部材61Aを設けることで、被処理物100が配置される箇所における水平断面での流速Vの偏りを顕著に低減できることが実証された。
(実施例2Bおよび実施例3Bについて)
次に、実施例2Bのモデルを示す模式的な側面図および冷媒の流れの分布を示す模式図である図20(A)を参照して、実施例2Bは、第1整流部材61Aの幅(紙面に垂直な方向の長さ)wの値と1としたとき、高さh=2.5w、湾曲形状部分61c,61dの曲率半径R=0.75wである。実施例2Bは、第1整流部材61の湾曲形状部分61c,61dの曲率半径R=0.75wである点以外は、実施例1Bと同一の構成を有している。
次に、実施例3Bのモデルを示す模式的な側面図および冷媒の流れの分布を示す模式図である図20(B)を参照して、実施例2Bは、第1整流部材61の幅(紙面に垂直な方向の長さ)wを1としたときに高さh=2.5wに設定されており、湾曲形状部分が設けられていない。実施例3Bでは、第1整流部材61が平板状部材で形成されて湾曲形状部分が設けられていない点以外は、実施例2Bと同一の構成を有している。
実施例2Bおよび実施例3Bのそれぞれについて、入口管41から流速Vを一定にして冷媒を出口管42へ流したときの、被処理物100が配置される箇所での、水平断面における冷媒の流速分布を算出した。結果は、図20(A)のおよび図20(B)に示されている。
図20(A)および図20(B)では、図19(A)および図19(B)で示したのと同様に、4段階の流速Q1〜Q4で流速を模式的に示している。実施例2Bでは、出口管42の対向内面42b側の領域の上方において流速Vが僅かに高いものの、水平断面における冷媒の流れの分布は偏りが小さい。また、実施例3Bでは、出口管42の対向内面42b側の領域の上方において流速Vの大きな領域が僅かであり、水平断面における冷媒の流れの分布は偏りが極めて小さい。
実施例2B,3Bのそれぞれについて、上記水平断面における、最大流速と平均流速との差(偏差)について、実施例2Bにおける偏差を1とした場合、以下の通りとなる。
実施例2Bの偏差:1.000
実施例3Bの偏差:0.944
すなわち、被処理物100が配置される箇所における水平断面での流速の偏りについて、実施例3Bでは、実施例2Bの5%以上(約5.6%)小さくされていることが実証された。このように、第1整流部材61Aを設けることで、被処理物100が配置される箇所における水平断面での流速の偏りを顕著に低減でき、さらには第1整流部材61を平板状部材とすることで当該偏りをより一層低減できることが実証された。
<第1整流部材の面積に対する入口管の開口面積の比と、出口管における流速分布のばらつきとの関係についての検証>
図14に示す第2実施形態の冷却装置6Aの構成に相当する構成をモデル化したコンピュータシミュレーションを行った。
この冷却装置6Aの入口管41から冷媒としての冷却水を流した場合をシミュレーションした。具体的には、第2整流部材63の下流側位置(被処理物100が配置される箇所)での水平断面における冷媒の流速Vのばらつき値σ(当該水平断面での流速Vの最大値と平均値との差)を算出した。なお、以下では、被処理物100が配置される箇所での水平断面における冷媒の流速Vのばらつき値を、「流速ばらつき値」という。
シミュレーション条件は、形状指数wh/dを設定し、この形状指数wh/dが異なる複数の場合において、入口管41から同一流速の冷却水を冷媒として流す条件とした。なお、wは第1整流部材の幅であり、hは第1整流部材の高さであり、dは入口管41の出口側開口部41aの開口断面積である。
そして、形状指数wh/dがゼロ、すなわち、第1整流部材61が設けられていないときの流速ばらつき値σbを基準として、所定の形状指数wh/dにおける流速ばらつき値σの割合σ/σbを算出した。この割合を、以下では流速ばらつき割合σ/σbともいう。形状指数wh/dと流速ばらつき割合σ/σbとの関係は、以下の表1において表で示し、図21においてグラフで示している。なお、表1で示している内容と図21で示している内容とは同じである。図21においては、形状指数wh/dと流速ばらつき割合σ/σbとの関係を示す傾向線が示されている。
Figure 0006938402
表1および図21から明らかなように、形状指数wh/dが0.1または0.2のとき、流速ばらつき割合σ/σbが100%以上である。これは、第1整流部材61の面積が小さすぎることにより、第1整流部材61による冷媒の整流効果が十分に発揮されていないことを示している。一方で、形状指数wh/dが0.5以上であれば、流速ばらつき割合σ/σbが100%未満である。なお、本実施例では、形状指数wh/dの最大値は8.6である。そして、形状指数が0.5〜6.4のとき、流速ばらつき割合σ/σbは、90%未満であり、出口管42において特に流速Vの均一さの度合いが高い。以上の次第で、形状指数wh/dが0.2と0.5との間で流速ばらつき割合σ/σbが顕著に低下し、さらに、形状指数wh/dが0.5〜6.4において、流速ばらつき割合σ/σbが十分に低い値(90%未満)となることが実証された。
<第1整流部材の有無に起因する、被処理物冷却の均等さの違いの検証>
図14に示す第2実施形態の冷却装置6Aを用いて、被処理物100を冷却する試験を行った。被処理物100は、焼入温度Thまで加熱された状態において出口管42内において搬送トレイ2に載せられた状態から、冷媒としての冷却水を用いて冷却された。冷却は、被処理物100が蒸気膜段階、沸騰段階および対流段階が完了するまで行われた。被処理物100は、鋼材である。冷却装置6Aにおける試験条件は、第1整流部材61の有無以外の条件は、同一とした。
すなわち、実施例1Cは、第1整流部材61が設けられた冷却装置で冷却処理が行われ、比較例1Cは、第1整流部材61が設けられていない点以外は冷却装置6Aと同じ構成の冷却装置で冷却処理が行われた。
実施例1Cおよび比較例1Cのそれぞれにおける、焼入処理に起因する被処理物の歪み量を測定した。
比較例1Cにおける歪み量を1としたとき、実施例1Cにおける歪み量は、0.4に過ぎなかった。すなわち、比較例1Cにおける歪み量と実施例1Cにおける歪み量の比率は、以下の通りである。
比較例1C:1.0
実施例1C:0.4
以上の次第で、焼入温度Thに加熱された被処理物100を冷却する際の熱歪みが、実施例1Cにおいて極めて小さいことが実証された。すなわち、実施例1Cに関して、第1整流部材61が設けられていることにより出口管42内において冷媒が高度に整流されており且つ均等な流速分布が実現されており、被処理物100へ冷媒を均等に供給できる能力が極めて高いことが実証された。
本発明は、熱処理装置として、広く適用することができる。
1 熱処理装置
41 入口管
41a 出口管側開口部
42 出口管
42b 出口管の対向内面
42c 出口管の内周面
61 第1整流部材(整流部材)
62 絞り部材
63 第2整流部材
64,65 隙間
100 被処理物
D1 第1方向
D2 第2方向
k2 絞り部材から被処理物の配置位置までの距離
k3 整流部材から絞り部材までの距離
Y1 前後方向(幅方向)

Claims (4)

  1. 被処理物に熱処理を施すための媒体が流入する入口管と、
    前記入口管における前記媒体の進行方向としての第1方向とは異なる第2方向に向けて前記媒体が進行するように前記入口管に接続されるとともに、前記被処理物が配置される出口管と、
    前記媒体の進行方向を前記第1方向から前記第2方向に変更するために前記出口管内に配置され、前記第2方向に沿って前記出口管を見たときに、前記出口管の内周面から離隔しており、且つ、前記入口管の出口管側開口部から前記第1方向に進んだ箇所に配置された整流部材と、
    を備え
    前記第2方向に沿って前記出口管を見たときに、前記第1方向と直交する方向としての幅方向において、前記整流部材の両端部と前記出口管の内周面との間に、前記媒体を通過させるための隙間が形成されており、
    前記整流部材は、前記出口管の底面に固定されるとともに前記出口管の長さ方向と同じ角度に延びるように配置され、前記整流部材における前記出口管側開口部側を向く面の面積whと前記入口管の前記出口管側開口部における開口面積dとの比率wh/dが、0.5〜6.4の範囲に設定されていることを特徴とする、熱処理装置。
  2. 請求項1に記載の熱処理装置であって
    前記第1方向に沿って見て、前記整流部材は、前記出口管側開口部と前記幅方向の全域に亘って重なっていることを特徴とする、熱処理装置。
  3. 請求項1または請求項に記載の熱処理装置であって、
    前記第2方向において前記整流部材から離隔して配置され、前記第2方向と直交する面における前記出口管の面積を絞る絞り部材をさらに備えていることを特徴とする、熱処理装置。
  4. 請求項に記載の熱処理装置であって、
    前記出口管内を流れる前記媒体を整流する第2整流部材をさらに備え、
    前記第2方向に沿って、前記絞り部、前記第2整流部材、および、前記被処理物の配置位置の順に配置され、
    前記絞り部材から前記被処理物の配置位置までの距離が、前記整流部材から前記絞り部材までの距離よりも短く設定されていることを特徴とする、熱処理装置。
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