本実施形態の有機化合物は、エレクトロクロミック性(EC性)を有する有機化合物であり、一般式(1)で示される有機化合物である。
一般式(1)において、R
11〜R
15は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表す。ただし、R
11、R
13及びR
15のうち少なくとも1つは、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアリールオキシ基である。R
11〜R
15は、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
R5およびR6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R21からR24は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
上記一般式(1)で示される有機化合物は、下記一般式(2)で示される有機化合物を含む。これは、一般式(1)で表される化合物において、R11が、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアリールオキシ基である有機化合物である。
一般式(2)において、R
1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R12からR15は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表す。ただし、R12からR15は、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
R5およびR6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R21からR24は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
一般式(1)で表される有機化合物は、下記一般式(3)で示されるEC性を有する有機化合物を含む。これは、一般式(1)で表される有機化合物において、R11及びR15のそれぞれが、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアリールオキシ基である有機化合物である。
一般式(3)において、R1およびR2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R12からR14は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表す。ただし、R12からR14は、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
R5およびR6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R21からR24は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
また、一般式(1)で表される有機化合物は、下記一般式(4)で示されるEC性を有する有機化合物を含む。これは、一般式(1)で表される有機化合物において、R11が置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアリールオキシ基である有機化合物である。また、R23が、置換基を有するフェニル基であり、そのフェニル基のオルト位の少なくとも一方がアルコキシ基又はアリールオキシ基で置換されている有機化合物である。
一般式(4)において、R
1およびR
7は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R12〜R15およびR31〜R34は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表す。ただし、R12〜R15は、互いに結合して環構造を形成してもよい。
R5およびR6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R21、R22およびR24は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
さらに、一般式(1)で表される有機化合物は、下記一般式(5)で示されるEC性を有する有機化合物を含む。これは、一般式(1)で表される有機化合物において、R11及びR15のそれぞれが置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアリールオキシ基である有機化合物である。また、R23が置換基を有するフェニル基であり、そのフェニル基の2つのオルト位のそれぞれがアルコキシ基又はアリールオキシ基で置換されている有機化合物である。
一般式(5)において、R1、R2、R7およびR8は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R12〜R14およびR32〜R34は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
R5およびR6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R21、R22、R24は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
上記一般式(1)で示される有機化合物は、一般式(6)で示されるEC性を有する有機化合物を含む。これは、一般式(1)で表される化合物において、R13で表されるフェニル基のパラ位の置換基が、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアリールオキシ基である有機化合物である。
一般式(6)において、R
3は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R
11、R
12、R
14およびR
15は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
R5およびR6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R21からR24は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
一般式(6)で表される有機化合物は、R11及びR15の少なくとも1つが、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基であることが好ましい。このような化合物では、フェニル基のオルト位に配置されている置換基(R11、R15)の立体障害によって、フェナジン環とフェニル基とのねじれが生じる。そのため、一般式(6)で表される有機化合物の中でも、中性状態(消色状態)において高い透明性を示す。
また、一般式(1)で表される有機化合物は、下記一般式(7)で示されるEC性を有する有機化合物を含む。これは、一般式(1)で表される有機化合物において、R13で表される置換基が置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアリールオキシ基である有機化合物である。また、R23で表される置換基がパラ位がアルコキシ基又はアリールオキシ基で置換されているフェニル基である有機化合物である。
一般式(7)において、R
3およびR
9は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R11、R12、R14、R15、R31、R32、R34及びR35は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
R5およびR6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、又は置換基を有していてもよいアラルキル基を表す。
R21、R22およびR24は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、アシル基、又はハロゲン原子を表し、置換基同士で結合して環構造を形成してもよい。
一般式(7)で表される有機化合物は、R11、R15、R31及びR35の少なくとも1つが、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアラルキル基であることが好ましい。このような化合物は、フェニル基のオルト位に配置されている置換基(R11、R15、R31、R35)の立体障害によって、フェナジン環とフェニル基とのねじれが生じる。そのため、一般式(7)で表される有機化合物の中でも、中性状態(消色状態)において高い透明性を示す。
一般式(1)〜(7)における置換基の具体例を以下に示す。ただし、これらは有機化合物の代表例を例示しただけであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
R1〜R3、R7〜R9で表わされる置換基を有していてもよいアルキル基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。また、水素原子がフッ素原子又はエステル基に置き換わっていてもよい。また、R1〜R3、R7〜R9で表わされる置換基を有していてもよいアルキル基は、炭素原子数1以上20以下であることが好ましい。R1〜R3、R7〜R9で表わされるアルキル基は、具体的には、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、イソプロピル基、イソブチル基である。
R1〜R3、R7〜R9で表わされる置換基を有していてもよいアリール基は、例えば、フェニル基、トリル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、ピレニル基等が挙げられる。好ましくはフェニル基である。R1〜R3、R7〜R9で表わされるアリール基は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アシル基を置換基として有してよい。
R1〜R3、R7〜R9で表わされる置換基を有していてもよいアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。R1〜R3、R7〜R9で表わされるアラルキル基は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、アリール基、アシル基を置換基として有してよい。
R11〜R15、R31〜R35で表わされる置換基を有していてもよいアルキル基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。また、水素原子がフッ素原子又はエステル基に置き換わっていてもよい。R11〜R15、R31〜R35で表わされるアルキル基は、炭素原子数1以上20以下であることが好ましい。R11〜R15、R31〜R35で表わされるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、イソブチル基等が挙げられる。
R11〜R15、R31〜R35で表わされる置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、エチルヘキシルオキシ基、2−メトキシエトキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。なお、R11〜R15、R31〜R35で表わされるアルコキシ基は、炭素原子数1以上20以下であることが好ましい。
R11〜R15、R31〜R35で表わされる置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基等が挙げられる。R3およびR9で表わされるアリール基は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、アシル基を置換基として有してよい。
R11〜R15、R31〜R35で表わされる置換基を有していてもよいアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基などが挙げられる。R11〜R15、R31〜R35で表わされる置換基を有していてもよいアリールオキシ基の芳香環は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を置換基として有していてもよい。
R11〜R15、R31〜R35で表わされる置換基を有していてもよいアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。R11〜R15、R31〜R35で表わされるアラルキル基は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、アリール基、アシル基を置換基として有してよい。
R11〜R15、R31〜R35で表わされるアシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
R11〜R15、R31〜R35は、隣接する置換基同士で互いに結合して環構造を形成してもよい。このとき形成する環構造としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環等が挙げられる。
R5およびR6で表わされるアルキル基は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。また、水素原子がフッ素原子又はエステル基に置き換わっていてもよい。R5およびR6で表わされるアルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
R5およびR6で表わされる置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基等が挙げられる。R5およびR6で表わされるアリール基は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、アシル基を置換基として有してよい。
R5およびR6で表わされる置換基を有していてもよいアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。R5およびR6で表わされるアラルキル基は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、アリール基、アシル基を置換基として有してよい。
R21〜R24で表わされる置換基を有していてもよいアルキル基としては、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。また、水素原子がフッ素原子又はエステル基に置き換わっていてもよい。R21〜R24で表わされるアルキル基は、炭素原子数1以上20以下であることが好ましい。R21〜R24で表わされるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、イソブチル基等が挙げられる。
R21〜R24で表わされる置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、エチルヘキシルオキシ基、2−メトキシエトキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。なお、R21〜R24で表わされるアルコキシ基は、炭素原子数1以上20以下であることが好ましい。
R21〜R24で表わされる置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基等が挙げられる。R21〜R24で表わされるアリール基は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、アシル基を置換基として有してよい。
R21〜R24で表わされる置換基を有していてもよいアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基などが挙げられる。R21〜R24で表わされる置換基を有していてもよいアリールオキシ基の芳香環は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を置換基として有していてもよい。
R21〜R24で表わされる置換基を有していてもよいアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。R21〜R24で表わされるアラルキル基は、ハロゲン原子、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、アリール基、アシル基を置換基として有してよい。
R21〜R24で表わされるアシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
R21〜R24は、隣接する置換基同士で互いに結合して環構造を形成してもよい。このとき形成する環構造としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ピリジン環等が挙げられる。
次に、一般式(1)で表されるEC性を有する有機化合物であるフェナジン誘導体の構造に基づいた特性について説明する。図1は、本実施形態に係る有機化合物の一例である下記化学構造式(8)で表される有機化合物を分子モデルで示した図である。
図1は、一般式(5)において、R
1とR
2の一方がイソプロピル基で、他方がメチル基であり、R
7とR
8の一方がイソプロピル基で、他方がメチル基の場合の分子の立体構造を示している。すなわち、化学構造式(8)で表される有機化合物は、フェナジン環に結合した2つのフェニル基のそれぞれのオルト位の一方がイソプロポキシ基であり、他方がメトキシ基である。化学構造式(8)で表わされる有機化合物は、後述の例示化合物A−21に該当する。そのため、以降の説明では、化学構造式(8)で表わされる有機化合物を「例示化合物A−21」と呼ぶ。
なお、図1に示した立体構造は、電子状態計算ソフトウェアであるGaussian09*Revision C.01を用いて基底状態の構造最適化計算を行なったものである。その際、量子化学計算法として、密度汎関数法(Density Functional Theory)を採用し、汎関数にはLC−BLYPを用いた。基底関数はGaussian 09,Revision C.01では6−31+G**を用いた。
Gaussian 09,Revision C.01,
M.J.Frisch,G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,
M.A.Robb,J.R.Cheeseman,G.Scalmani,V.Barone,B.Mennucci,
G.A.Petersson,H.Nakatsuji,M.Caricato,X.Li,H.P.Hratchian,
A.F.Izmaylov,J.Bloino,G.Zheng,J.L.Sonnenberg,M.Hada,
M.Ehara,K.Toyota,R.Fukuda,J.Hasegawa,M.Ishida,T.Nakajima,
Y.Honda,O.Kitao,H.Nakai,T.Vreven,J.A.Montgomery,Jr.,
J.E.Peralta,F.Ogliaro,M.Bearpark,J.J.Heyd,E.Brothers,
K.N.Kudin,V.N.Staroverov,T.Keith,R.Kobayashi,J.Normand,
K.Raghavachari,A.Rendell,J.C.Burant,S.S.Iyengar,J.Tomasi,
M.Cossi,N.Rega,J.M.Millam,M.Klene,J.E.Knox,J.B.Cross,
V.Bakken,C.Adamo,J.Jaramillo,R.Gomperts,R.E.Stratmann,
O.Yazyev,A.J.Austin,R.Cammi,C.Pomelli,J.W.Ochterski,
R.L.Martin,K.Morokuma,V.G.Zakrzewski,G.A.Voth,
P.Salvador,J.J.Dannenberg,S.Dapprich,A.D.Daniels,
O.Farkas,J.B.Foresman,J.V.Ortiz,J.Cioslowski,
and D.J.Fox,Gaussian,Inc.,Wallingford CT,2010.
図1において、例示化合物A−21は、フェナジン環20と、フェナジン環20と結合しているフェニル基21と、を有し、フェニル基21のオルト位にはイソプロポキシ基およびメトキシ基を有している。
エレクトロクロミック特性を示すフェナジン環20を平面と考えると、オルト位にアルコキシ基を有するフェニル基21の平面は、フェナジン環20の平面と交差しており、フェナジン環20の平面とフェニル基21の平面とがなす角の角度が大きい。フェナジン誘導体において、フェナジン環の平面とフェニル基の平面とがなす角が90°に近い分子構造は、フェナジン環とフェニル基のπ電子の軌道が直交し共鳴が少なくなる。よって、フェナジン環20にHOMO(最高被占分子軌道)を局在化することで、その中性状態における吸収を短波長化することができる。
ここで、本実施形態の有機化合物と公知のフェナジン誘導体との差異について述べる。特許文献1には、下記化学構造式で表わされる化合物Ref−1、Ref−2が開示されている。
公知の化合物Ref−1は、フェナジン環に結合したフェニル基のオルト位に置換基が存在しない。そのため、分子の平面性が高く、分子全体に電子的な共鳴構造が拡がることにより、その中性状態における吸収は長波長化する。実際、発明者らが追試した結果、化合物Ref−1の中性状態における吸収端は460nm付近の可視波長域まで存在し、固体状態および溶液状態で淡赤茶色を呈する。
また、特許文献1には、例として化合物Ref−2に挙げられるようにフェナジン環に結合したフェニル基のオルト位にメチル基などのアルキル基を導入することで、中性状態の呈色が薄まることが記載されている。これはメチル基等のアルキル基の立体障害により、フェナジン環とフェニル基とがねじれることにより、中性吸収が短波長化することを意味していると考えられる。
しかしながら、特許文献1によると、着色状態における吸収ピークの波長(吸収波長)が、化合物Ref−1は532nmであるのに対して、化合物Ref−2は512nmと、Ref−2の方が、吸収波長が短波長となる。これは、前述の中性状態における分子のねじれが着色状態のラジカルカチオンの分子構造にも残り、その結果、酸化状態における吸収も短波長化していることを示している。
すなわち従来のフェナジン誘導体では、中性状態の透明性改善(吸収の短波長化)と酸化着色状態での長波長吸収は両立しなかった。
これに対し、本実施形態の有機化合物は、フェナジン環20とフェニル基21とのねじれにより中性状態では短波長化し高い透明性を有するとともに、酸化状態(着色状態)では、化合物Ref−1よりも長波長の540nm以上の波長域に吸収ピークを有する。これは、アルコキシ基を置換基として有することによって生じるもので、公知の知見からは予想できなかったアルコキシ基またはアリールオキシ基特有の効果に起因する。
なお、本明細書では、吸収スペクトルにおいて、ある波長帯域において光吸収量が極大値となり、且つ、半値幅が20nm以上のものを吸収ピークと呼ぶ。ここで、半値幅とは、吸収スペクトルにおける吸光度が、極大値における吸光度の半分の値(半値)となる波長の幅を意味する。
本実施形態に係る有機化合物は、酸化状態(着色状態)において540nm以上の波長域に吸収ピークを少なくとも1つ有していればよい。これに限らず、本実施形態に係る有機化合物は、酸化状態(着色状態)において540nm以上の波長域に吸収ピークを複数有していたり、540nm以上の波長域と540nmより短い波長域とに吸収ピークを有していたりしてもよい。
このアルコキシ基又はアリールオキシ基特有の効果について説明する。前述の量子化学計算により、例示化合物A−21と公知の化合物Ref−2とのそれぞれの中性状態および酸化(ラジカルカチオン)状態における分子構造を予測した。計算によって求めたフェナジン環とフェニル基の二面角の角度を表1に示す。
例示化合物A−21では、酸化状態における二面角の角度が45.0°であったのに対して、化合物Ref−2では49.3°となった。また、フェナジン環20とフェニル基21との結合の電子密度を表わす結合次数は、例示化合物A−21では0.9828、化合物Ref−2では0.4870であった。
これらの結果は、中性状態では例示化合物A−21と化合物Ref−2とでほぼ同等の二面角を有しているのに対して、酸化状態であるラジカルカチオン状態では、例示化合物A−21の方が化合物Ref−2よりも平面性が高いことを示している。すなわち、例示化合物A−21の方が、化合物Ref−2に比べて、酸化状態においてフェナジン環とフェニル基の軌道の混合が促進されていることを示唆している。その結果として、例示化合物A−21の方が、酸化状態における吸収ピークが長波長化する。
これは、化合物Ref−2のフェニル基上のメチル基置換基では得られなかった効果で、フェニル基がアルコキシ基またはアリールオキシ基を置換基として有する一般式(1)で表される本実施形態の有機化合物特有の効果である。すなわち、本実施形態の有機化合物は、酸化状態において中性状態よりも二面角の角度が小さくなった際に、下記に示すように、フェナジン環の水素原子とフェニル基が有する置換基としてのアルコキシ基に含まれる酸素原子との水素結合が起こる。そのため、安定な六員環を形成しやすい。その結果、酸化状態においてはフェナジン環とフェニル基の二面角が小さくなり、平面性が高くなるので、軌道の混合が従来よりも促進される。
一方、化合物Ref−2のようなアルキル置換基は、弱い電子供与性基であり酸素原子も含まれないため、酸化状態の二面角は比較的大きく、吸収ピークの長波長化が起こらない。
このように、本実施形態に係る有機化合物は、アルコキシ基の強い電子供与性と、アルコキシ基に含まれる酸素原子の孤立電子対(ローンペア)とフェナジン環上の水素原子との電子的な相互作用との寄与により、消色状態ではねじれが発生する。そのため、着色状態では平面性が向上する。
したがって、本実施形態に係る有機化合物は、消色状態ではフェナジン環とフェニル基とのねじれにより短波長化し高い透明性を有する。また、本実施形態に係る有機化合物は、着色状態ではアルコキシ基特有の電子的な効果によりフェナジン環とフェニル基の軌道の混合が促進され、その吸収は長波長化する。すなわち、本実施形態に係る有機化合物によれば、着色状態で時には540nm以上の長波長域に吸収ピークを有し、且つ、消色状態における透明性が従来よりも高い有機化合物を提供することができる。
一般式(1)で表される別の有機化合物のEC特性について説明する。下記化学構造式(9)で表される有機化合物は、一般式(1)で表される本実施形態に係る有機化合物の一例である。なお、化学構造式(9)で表わされる有機化合物は、後述の例示化合物C−6に該当するため、以降の説明では例示化合物C−6と呼ぶ。
化学構造式(9)で表わされる例示化合物C−6は、一般式(1)において、R
13がアルコキシ基であり、アルコキシ基のR
3で表される置換基がイソプロピル基である化合物である。すなわち、例示化合物C−6は、フェナジン環と、フェナジン環と結合しているフェニル基とを有し、フェニル基のパラ位にはイソプロポキシ基を有している。
ここで、例示化合物C−6と公知のフェナジン誘導体との差異について述べる。特許文献1には、下記化学構造式で表わされる化合物Ref−3が開示されている。
公知の化合物Ref−3は、フェナジン環に結合したフェニル基のパラ位にアルコキシ基が存在しない。特許文献1によると、化合物Ref−3の着色状態における吸収ピークの波長(吸収波長)は496nmである。
これに対し、例示化合物C−6は、酸化状態(着色状態)では、化合物Ref−3よりも長波長の540nm以上の波長域に吸収ピークを有する。これは、フェニル基のパラ位にアルコキシ基を置換基として有することによって生じるものである。
例示化合物C−6は、酸化状態(着色状態)において540nm以上の波長域に吸収ピークを少なくとも1つ有する。これに限らず、本実施形態に係る有機化合物は、酸化状態(着色状態)において540nm以上の波長域に吸収ピークを複数有していたり、540nm以上の波長域と540nmより短い波長域とに吸収ピークを有していたりしてもよい。
例示化合物C−6は、フェニル基のパラ位に強い電子供与性のアルコキシ基を有する。この強い電子供与性基の影響により、EC性を示すフェナジン環の電子密度が高まり、フェナジン環のHOMO(最高被占分子軌道)エネルギーは浅い準位となり、またHOMO−LUMO(最低空分子軌道)エネルギーギャップは狭くなる。このエネルギーギャップが狭いと吸収は長波長化する。
また、アルコキシ基に含まれる酸素原子の孤立電子対(ローンペア)とフェナジン環およびフェニル環上のπ電子共役系との電子的な相互作用の寄与により、酸化状態のラジカルカチオンの分子構造におけるフェナジン環とフェニル基の軌道の混合が促進される。その結果、その吸収は長波長化する。このような長波長化は、アルコキシ基又はアリールオキシ基に含まれる酸素原子の孤立電子対とフェナジン環およびフェニル環上のπ電子共役系との電子的な相互作用の寄与によっても、発生すると考えられる。
このように、本実施形態に係る有機化合物は、酸化状態ではアルコキシ基又はアリールオキシ基特有の電子的な効果により、公知の化合物Ref−3に比べてその酸化状態の吸収は長波長化する。すなわち、本実施形態に係る有機化合物によれば、着色状態で540nm以上の長波長域に吸収ピークを有する。
消色状態の中性吸収については、公知の化合物Ref−3および例示化合物C−6においては、中性状態においても分子平面性が高く、分子全体に電子的な共鳴構造が拡がるため、その中性吸収も長波長化している。実際、化合物Ref−3の中性状態における吸収端は450nm付近であり、例示化合物C−6の中性状態における吸収端は445nmの可視波長域まで存在する。
さらに、本実施形態に係る一般式(1)で表されるEC性を有する有機化合物のフェナジン誘導体の一例として、下記化学構造式(10)で表される有機化合物を説明する。この化合物は、後述の例示化合物D−2に該当するため、以降の説明では例示化合物D−2と呼ぶ。
化学構造式(10)で表わされる例示化合物D−2は、一般式(1)において、R
13がメチル基を置換基として有するメトキシ基であり、R
11がメチル基である化合物である。すなわち、例示化合物D−2は、フェナジン環と、フェナジン環と結合しているフェニル基とを有し、フェナジン環と結合したフェニル基のパラ位にはメトキシ基を、オルト位にはメチル基を有している。
例示化合物D−2において、フェナジン環に結合したフェニル基のオルト位にメチル基を導入しているため、メチル基の立体障害により、フェナジン環とフェニル基とがねじれる。すなわち、フェナジン環の平面とフェニル基の平面とがなす角の角度が大きい分子構造のため、フェナジン環とフェニル基のπ電子の軌道が直交し共鳴が少なくなる。よって、フェナジン環にHOMOを局在化することで、その中性状態における吸収を短波長化することができる。
このような分子のねじれを利用した透明性の改善は、例えば特許文献1においても同様の傾向が記載されている。しかし、従来のフェナジン誘導体では、中性状態の透明性改善(吸収の短波長化)と酸化着色状態での長波長吸収は両立しなかった。これは、前述の中性状態における分子のねじれが着色状態のラジカルカチオンの分子構造にも残り、その結果、酸化状態における吸収も短波長化するためである。
しかし、本発明に係る化学構造式(10)で表わされる例示化合物D−2は、中性時の吸収端は410nmであり、中性透明性が大きく改善するとともに、着色時の吸収波長ピークは553nmと着色状態で540nm以上の長波長域に吸収ピークを有する。すなわち、本実施形態に係る有機化合物は、中性状態ではねじれが発生する。そして、アルコキシ基の強い電子供与性と、アルコキシ基に含まれる酸素原子の孤立電子対(ローンペア)とフェニル環上の水素原子との電子的な相互作用との寄与により、酸化状態では平面性が向上する。これは、R13がアルコキシ基の場合のみに限らず、アリールオキシ基であっても同様の効果が得られると考えられる。
本実施形態に係る有機化合物は、アルコキシ基またはアリールオキシ基の強い電子供与性、及びアルコキシ基またはアリールオキシ基に含まれる酸素原子の孤立電子対とフェニル環上の水素原子との電子的な相互作用の寄与により、中性状態でねじれが発生する。そのため、酸化状態では平面性が向上する。
したがって、本実施形態に係る有機化合物は、中性状態ではフェナジン環とフェニル基とのねじれにより短波長化し高い透明性を有する。具体的には、上述したように、本実施形態の有機化合物では、フェナジン環の平面とフェニル基の平面とがなす角の角度が大きいため、消色状態における吸収が短波長化され、従来よりも透明性が向上する。
また、本実施形態に係る有機化合物は、酸化状態ではアルコキシ基またはアリールオキシ基特有の電子的な効果によりフェナジン環とフェニル基の軌道の混合が促進され、その吸収は長波長化する。すなわち、本実施形態に係る有機化合物によれば、着色状態で時には540nm以上の長波長域に吸収ピークを有する有機化合物を提供することができる。また、消色状態における透明性が従来よりも高い有機化合物を提供することができる。
なお、本実施形態の有機化合物は、消色状態において、430nm以上の波長域で吸収端を持たず、430nm以上の波長域においても透明であることがより好ましい。
以下に本実施形態に係る有機化合物の具体的な構造式を例示する。ただし、本実施形態に係る有機化合物は、これらに限定されるものではない。
例示化合物のうちA群に示す有機化合物は、一般式(4)または一般式(5)で示される化合物例であり、1つのフェナジン環に2つのフェニル基が置換した化合物例である。B群に示す有機化合物は、一般式(2)又は一般式(3)で示される化合物例である。また、例示化合物のうちC群に示す有機化合物は、一般式(6)で示される化合物であり、1つのフェナジン環に1つのフェニル基が置換した化合物例である。D群に示す有機化合物は一般式(6)で示される化合物のうち、フェニル基の少なくとも1つのオルト位に少なくとも1つの置換基を有している化合物例である。E群に示す有機化合物は一般式(7)で示される化合物であり、1つのフェナジン環に2つのフェニル基が置換した化合物例である。F群に示す有機化合物は一般式(7)で示される化合物のうち、2つのフェニル基のそれぞれの少なくとも1つのオルト位にすくなくとも1つの置換基を有している化合物例である。
上記のすべての有機化合物において、EC部位であるフェナジン環には、オルト位及びパラ位の少なくとも一方にアルコキシ基又はアリールオキシ基が導入されたフェニル基が置換されている。そのため、フェニル基のオルト位またはパラ位のアルコキシ基またはアリールオキシ基の電子的な効果により、酸化着色時にはラジカルカチオンを形成するフェナジン環と軌道が混合しやすい分子構造となる。
よって、本実施形態におけるEC性を有する有機化合物は、着色時において、従来よりも長波長域吸収を備えた特性を有する。
また、EC部位であるフェナジン環に、オルト位及びパラ位の少なくとも一方にアルコキシ基又はアリールオキシ基が導入されたフェニル基が置換されており、消色状態では両者はねじれることにより透明性が向上することが期待できる。消色状態における透明性を向上するには、フェニル基のオルト位が、アルコキシ基又はアリールオキシ基で置換されている、又は、フェニル基のオルト位が、アルキル基又はアリール基、アラルキル基で置換されていることが好ましい。
(本実施形態に係る有機化合物の合成方法)
本実施形態に係る有機化合物のうち、一般式(2)〜(5)で表される有機化合物は、下記式(11)で示される反応を用いて合成できる。式(11)において、Yはハロゲン原子である。フェナジンのハロゲン体と、オルト位にアルコキシ基を有するフェニルボロン酸もしくはボロン酸エステル化合物の組み合わせで、公知のPd触媒によるカップリング反応で前駆体を合成することができる。さらに、フェナジン環の還元とアルキル化により、本実施形態に係る有機化合物を合成することができる。一例として、一般式(3)で表わされる有機化合物の合成スキームを下記式(11)に示す。
ここで、出発原料のハロゲン化フェナジンに置換されているハロゲン原子の数を2つにすれば一般式(4)、(5)で表わされる化合物を同様に合成することができる。
また、本実施形態に係る有機化合物のうち、一般式(6)、(7)で表される有機化合物は、下記式(12)で示される反応を用いて合成できる。式(12)において、Yはハロゲン原子である。フェナジンのハロゲン体と、オルト位にアルコキシ基を有するフェニルボロン酸もしくはボロン酸エステル化合物の組み合わせで、公知のPd触媒によるカップリング反応で前駆体を合成することができる。さらに、フェナジン環の還元とアルキル化により、本実施形態に係る有機化合物を合成することができる。一例として、一般式(6)で表わされる有機化合物の合成スキームを下記式(12)に示す。
ここで、出発原料のハロゲン化フェナジンに置換されているハロゲン原子の数を2つにすれば一般式(7)で表わされる化合物を同様に合成することができる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態に係るEC性を有する有機化合物は、エレクトロクロミック素子(EC素子)のエレクトロクロミック層(EC層)として用いることができる。
以下、図2を参照しながら本実施形態に係るEC素子15について説明する。図2は、本実施形態のEC素子15の構成を説明する図である。
EC素子15は、一対の基板10と、一対の電極11と、この一対の電極11間に配置されているエレクトロクロミック層(EC層)12と、シール材13と、を有するEC素子である。EC層12は、電解質と一般式(1)で表される有機化合物とを有する。一対の電極11は、スペーサー等のシール材13によって、電極11間距離が一定となっている。このEC素子15は、一対の電極11が一対の基板10の間に配置されている。なお、EC素子15は、一対の電極11と、一対の電極11間に配置されているEC層12とを有していればよく、一対の基板10、シール材13を必ずしも有していなくてもよい。
EC層12は、本実施形態に係る一般式(1)で表わされる有機化合物と、電解質とを有する。このEC層12は、EC化合物からなる層と、電解質からなる層とを有していてもよい。また、EC化合物と電解質とを有する溶液としてEC層12を設けてもよい。本実施形態に係るEC素子は、EC層12が溶液であるEC素子であることが好ましい。
次に、本実施形態に係るEC素子を構成する部材について説明する。
電解質としては、イオン解離性の塩であり、かつ溶媒に対して良好な溶解性、固体電解質においては高い相溶性を示すものであれば限定されない。中でも電子供与性を有する電解質が好ましい。これら電解質は、支持電解質と呼ぶこともできる。
電解質としては、例えば、各種のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機イオン塩や4級アンモニウム塩や環状4級アンモニウム塩などがあげられる。
具体的にはLiClO4、LiSCN、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiPF6、LiI、NaI、NaSCN、NaClO4、NaBF4、NaAsF6、KSCN、KCl等のLi、Na、Kのアルカリ金属塩等や、(CH3)4NBF4、(C2H5)4NBF4、(n−C4H9)4NBF4、(n−C4H9)4NPF6、(C2H5)4NBr、(C2H5)4NClO4、(n−C4H9)4NClO4等の4級アンモニウム塩および環状4級アンモニウム塩等が挙げられる。
EC性の有機化合物および電解質を溶かす溶媒としては、EC性の有機化合物や電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、特に極性を有するものが好ましい。
具体的には水や、メタノール、エタノール、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオンニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジオキソラン等の有機極性溶媒が挙げられる。
上述のEC媒体に、さらにポリマーやゲル化剤を含有させて粘稠性が高いもの若しくはゲル状としたもの等を用いることもできる。
上記ポリマーとしては、特に限定されず、例えばポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ナフィオン(登録商標)などが挙げられる。
次に、基板10および電極11について説明する。基板10は、透明であることが望ましい。基板10としては、例えば、無色あるいは有色ガラス、強化ガラス等が用いられる。これらガラス材としては、Corning#7059やBK−7等の光学ガラス基板を好適に使用することができる。また、プラスチックやセラミック等の材料であっても十分な透明性があれば適宜使用が可能である。基板10は剛性で歪みを生じることが少ない材料が好ましい。なお、本実施形態において「透明」とは、可視光の透過率が50%以上の透過率であることを示す。
基板10として用いる材料は、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリノルボルネン、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
電極11は、透明電極であることが望ましい。電極11の材料としては、例えば、酸化インジウムスズ合金(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム亜鉛(IZO(登録商標))、酸化銀、酸化バナジウム、酸化モリブデン、金、銀、白金、銅、インジウム、クロムなどの金属や金属酸化物、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等のシリコン系材料、カーボンブラック、グラファイト、グラッシーカーボン等の炭素材料などを挙げることができる。また、ドーピング処理などで導電率を向上させた導電性ポリマー、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸の錯体なども好適に用いられる。
本実施形態のEC素子15においては、消色状態で高い透過率を有することが好ましいため、電極11として、例えば、ITO、IZO、NESA、PEDOT:PSS、グラフェンなどが特に好ましく用いられる。これらはバルク状、微粒子状など様々な形態で使用できる。なお、これらの電極11の材料は、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。
なお、本実施形態では、一対の電極11の両方を透明電極としているが、これに限らず、一対の電極11の一方のみを透明電極にするなど、用途に応じて適宜材料を選定することが好ましい。
シール材13としては、化学的に安定で、気体及び液体を透過せず、EC材料の酸化還元反応を阻害しない材料であることが好ましい。例えば、ガラスフリット等の無機材料、エポキシ樹脂等の有機材料、金属材料等を用いることができる。尚、シール材13は、二つの電極11間の距離を保持する機能を付与させてもよい。一方、シール材13が二つの電極11間の距離を規定するスペーサーとしての機能が付与されていない場合には、別途スペーサー(不図示)を電極11間に配置させて、このスペーサーによって電極11間の距離を保持させてもよい。スペーサーの素材としては、シリカビーズ、ガラスファイバー等の無機材料や、ポリジビニルベンゼン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム、エポキシ樹脂等の有機材料を用いることができる。このスペーサーにより、本実施形態のEC性の有機化合物を含む溶液を有するEC層12を収容するための空間を与え、電極間距離を保持することが可能である。
本実施形態に係るEC素子15は、一対の電極11とシール材13とによって形成される空間にEC化合物を含む液体を注入するための液体注入口を有していてもよい。液体注入口からEC性の有機化合物を有する溶液を封入したのちに、封止部材により注入口を覆い、さらに接着剤等で密閉することで素子とすることができる。封止部材は、接着剤とEC性有機化合物が接触しないように隔離する役割も担ってもよい。封止部材の形状は、特に限定されないが、楔形等の先細り形状が好ましい。
本実施形態に係るEC素子15の形成方法は特に限定されない。例えば、一対の電極11の間に設けた間隙に、真空注入法、大気注入法、メニスカス法等によって予め調製したEC性有機化合物を含有する液体を注入してEC層12とする方法を用いることができる。
本実施形態に係るEC素子15は、一般式(1)で表わされる本実施形態に係る有機化合物と、本実施形態に係る有機化合物とは別種の、他のEC化合物とを有していてもよい。他のEC化合物は、一種類でも複数種類でもよく、酸化状態で着色する化合物でも、還元状態で着色する化合物でも、その双方であってもよい。特に、還元状態で着色する化合物が好ましい。
なお、酸化状態で着色する化合物とは、酸化状態における可視光の透過率が、還元状態における可視光の透過率よりも低い化合物である。還元状態で着色する化合物とは、還元状態における可視光の透過率が、酸化状態における可視光の透過率よりも低い化合物である。
他のEC化合物の吸収波長領域は、消色時は400nm以下が好ましい。消色時に高い透明性を有するEC素子を提供することができるためである。一方、着色時の吸収波長領域は400nm以上800nm以下の範囲が好ましく、より好ましくは420nm以上700nm以下である。
着色時に異なる波長域を吸収する他のEC化合物と組み合わせることで、可視光領域の光を各波長で均一に吸収するEC素子とすることもできる。なお、別種のEC化合物として、上記一般式(1)で表される別種の有機化合物を含んでいてもよい。つまり、EC素子はそれぞれが一般式(1)で表わされる二つ以上の互いに異なる有機化合物を有していても良い。
本実施形態に係る他のEC化合物として、例えば、下記の化合物があげられる。
酸化状態で着色する他の化合物としては、3,3’4,4’5,5’−ヘキサメチルビチオフェン、3,4−エチレンジオキシ−2,5−ジメチルチオフェンなどのオリゴチオフェン類、5,10−ジヒドロ−5,10−ジメチルフェナジン、5,10−ジヒドロ−5,10−ジエチルフェナジンなどのフェナジン系化合物、フェロセン、テトラ−t−ブチルフェロセン、チタノセンなどのメタロセン系化合物、N,N’,N,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン系化合物、1−フェニル−2−ピラゾリンなどのピラゾリン系化合物などが挙げられる。
還元状態で着色する化合物としては、N,N’−ジヘプチルビピリジニウムジパークロレート、N,N’−ジヘプチルビピリジニウムジテトラフフオロボレート、N,N’−ジヘプチルビピリジニウムジヘキサフルオロホスフェート、N,N’−ジエチルビピリジニウムジパークロレート、N,N’−ジエチルビピリジニウムジテトラフルオロボレート、N,N’−ジエチルビピリジニウムジヘキサフルオロホスフェート、N,N’−ジベンジルビピリジニウムジパークロレート、N,N’−ジベンジルビピリジニウムジテトラフルオロボレート、N,N’−ジベンジルビピリジニウムジヘキサフルオロホスフェート、N,N’−ジフェニルビピリジニウムジパークロレート、N,N’−ジフェニルビピリジニウムジテトラフロロボレート、N,N’−ジフェニルビピリジニウムジヘキサフロロホスフェートなどのビオロゲン系化合物、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノンなどのアントラキノン系化合物、フェロセニウムテトラフルオロボレート、フェロセニウムヘキサフルオロホスフェートなどのフェロセニウム塩系化合物、スチリル化系化合物などが挙げられる。
本実施形態に係るEC素子15のEC層12に含まれる化合物は、公知の方法により抽出し、分析することで、EC素子15に含まれていることを確認することができる。例えば、クロマトグラフィーにより抽出し、各磁気共鳴スペクトル(NMR)で分析することが挙げられる。また、EC層12が固体である場合は、TOF−SIMSなどにより、分析することができる。
一般式(1)で表わされる有機化合物は、着色状態で時には540nm以上の長波長域に吸収ピークを有し、且つ、中性状態(消色状態)における透明性が従来よりも向上している。
本実施形態に係る有機化合物が着色状態に従来よりも長波長域に吸収ピークを有するため、一般式(1)で表わされる有機化合物単独又は他の波長帯域の着色吸収を有するEC化合物と組み合わせることにより、様々な吸収色のEC素子を提供することができる。また、本実施形態のEC素子によれば、消色状態における透明性を向上することができる。また、本実施形態のEC素子15は、カメラ等の撮像素子への入射光量を減光する際等に好適に用いることができる。
(第3の実施形態)
上述の実施形態に係るEC素子15は、光学フィルタ、レンズユニット、及び撮像装置等に用いることができる。本実施形態では、EC素子15を用いる光学フィルタ、レンズユニット及び撮像装置について説明する。
光学フィルタは、EC素子15と、EC素子15に接続されている駆動装置(能動素子)とを有するEC装置30を含む。図3は、EC装置30の構成を説明するためのブロック図である。EC素子15に接続された駆動装置は、駆動電源8、抵抗切替器9、および制御器7を有する。
駆動電源8は、EC層12に含まれるEC材料が電気化学反応を生じるのに必要な電圧をEC素子15に印加する。
駆動電圧は一定電圧であることがより好ましい。これは、EC材料が複数種類の材料で構成される場合は、材料の酸化還元電位差やモル吸光係数の差に起因して吸収スペクトルが変化する場合があるため、一定電圧を印加することが好ましいからである。
駆動電源8の電圧印加開始あるいは印加状態の保持は制御器7の信号で行われ、EC素子15の光透過率を制御する期間においては、一定電圧の印加状態が保持されている。
抵抗切替器9は、駆動電源8とEC素子15を含む閉回路中に、抵抗R1と抵抗R1よりも大きな抵抗R2とを切り替えて直列に接続するものである。抵抗R1の抵抗値としては、少なくとも素子閉回路の最も大きなインピーダンスよりも小さいことが好ましく、好ましくは10Ω以下である。抵抗R2の抵抗値としては、素子閉回路の最も大きなインピーダンスよりも大きいことが好ましく、好ましくは1MΩ以上である。なお、抵抗R2は空気であっても良い。この場合、厳密には閉回路は開回路となるが、空気を抵抗R2と見なすことで閉回路と考えることができる。
制御器7は、抵抗切替器9に切替信号を送り、抵抗R1と抵抗R2のスイッチングを制御する。
本実施形態に係るレンズユニットは、複数のレンズと、EC素子15を有する光学フィルタとを有している。光学フィルタは、複数のレンズの間またはレンズの外側のいずれに設けられていてもよい。光学フィルタは、レンズの光軸上に設けられることが好ましい。
本実施形態の撮像装置は、光学フィルタと、この光学フィルタを通過した光を受光する受光素子と、を有する。
撮像装置とは、具体的には、カメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話等が挙げられる。撮像装置は、受光素子を有する本体と、レンズを有するレンズユニットとが分離できる形態であってもよい。
ここで撮像装置が、本体と、レンズユニットとで分離できる場合は、撮像時に撮像装置とは別体の光学フィルタを用いる形態も本発明に含まれる。なお、係る場合、光学フィルタの配置位置としては、レンズユニットの外側、レンズユニットと受光素子との間、複数あるレンズの間(レンズユニットが複数のレンズを有する場合)等が挙げられる。
図4は、本実施形態の光学フィルタを用いた撮像装置100の構成の一例を説明する模式図である。
撮像装置100は、レンズユニット102と、撮像ユニット103と、を有する撮像装置である。
レンズユニット102は、光学フィルタ101と、複数のレンズ又はレンズ群を有する撮像光学系と、を有する。光学フィルタ101は、上述の本実施形態の光学フィルタである。
レンズユニットは、例えば、図4(a)において、絞りより後でフォーカシングを行うリアフォーカス式のズームレンズを表している。物体側より順に正の屈折力の第1のレンズ群104、負の屈折力の第2のレンズ群105、正の屈折力の第3のレンズ群106、正の屈折力の第4のレンズ群107の4つのレンズ群を有する。第2のレンズ群105と第3のレンズ群106の間隔を変化させて変倍を行い、第4のレンズ群107の一部を移動させてフォーカスを行う。
レンズユニット102は、例えば、第2のレンズ群105と第3のレンズ群106との間に開口絞り108を有し、また、第3のレンズ群106と第4のレンズ群107との間に光学フィルタ101を有する。レンズユニットを通過する光は、各レンズ群104〜107、絞り108および光学フィルタ101を通過するよう配置されており、開口絞り108および光学フィルタ101を用いた光量の調整を行うことができる。
レンズユニット102は、マウント部材(不図示)を介して撮像ユニット103に着脱可能に接続されている。
なお、本実施形態では、レンズユニット102内の第3のレンズ群106と第4のレンズ群107との間に光学フィルタ101が配置されているが、撮像装置100はこの構成に限定されない。例えば、光学フィルタ101は、開口絞り108の前(被写体側)あるいは後(撮像ユニット103側)のいずれにあってもよく、また、第1〜第4のレンズ群104〜107の任意の群の前又は後にあってもよいし、任意の2つのレンズ群の間にあってもよい。なお、光学フィルタ101を光の収束する位置に配置すれば、光学フィルタ101の面積を小さくできるなどの利点がある。
また、レンズユニット102の構成も上述の構成に限定されず、適宜選択可能である。例えば、リアフォーカス式の他、絞りより前でフォーカシングを行うインナーフォーカス式であっても良く、その他方式であっても構わない。また、ズームレンズ以外にも魚眼レンズやマクロレンズなどの特殊レンズも適宜選択可能である。
撮像ユニット103は、ガラスブロック109と、受光素子110と、を有する。
ガラスブロック109は、ローパスフィルタやフェースプレートや色フィルタ等のガラスブロックである。
また、受光素子110は、レンズユニットを通過した光を受光するセンサ部であって、CCDやCMOS等の撮像素子が使用できる。また、フォトダイオードのような光センサであっても良く、光の強度あるいは波長の情報を取得し出力するものを適宜利用可能である。
図4(a)のように、光学フィルタ101がレンズユニット102に組み込まれている場合、駆動装置はレンズユニット102内に配置されてもよく、レンズユニット102外に配置されてもよい。レンズユニット102外に配置される場合は、配線を通してレンズユニット102内のEC素子15と駆動装置を接続し、駆動制御する。
また、上述の撮像装置100の構成では、光学フィルタ101がレンズユニット102の内部に配置されている。しかし、本発明はこの形態に限らず、光学フィルタ101は、撮像装置100内部の適当な箇所に配置され、受光素子110は光学フィルタ101を通過した光を受光するよう配置されていればよい。
例えば、図4(b)に示したように、撮像ユニット103が光学フィルタ101を有していてもよい。図4(b)は、本実施形態の撮像装置の別の一例の構成を説明する図であり、光学フィルタを撮像ユニット103に有する撮像装置の構成の模式図である。図4(b)においては、例えば光学フィルタ101は受光素子110の直前に配置されている。撮像ユニット自体が光学フィルタ101を内蔵する場合、接続されるレンズユニット102自体が光学フィルタ101を持たなくてもよいため、既存のレンズユニットを用いた調光可能な撮像装置を構成することが可能となる。
本実施形態の撮像装置100は、光量調整と受光素子の組合せを有する製品に適用可能である。例えばカメラ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、デジタルビデオカメラに使用可能であり、また、携帯電話やスマートフォン、PC、タブレットなど撮像装置を内蔵する製品にも適用できる。
(第4の実施形態)
上述の実施形態に係るEC素子15は、窓材に用いることもできる。本実施形態では、EC素子15を用いる窓材111について説明する。図7(a)は窓材111の構成を説明する概観図であり、図7(b)は図7(a)のVIIBーBIIB断面の模式図である。
本実施形態の窓材111は、光学フィルタとして用いることができるEC素子15と、それを挟持する透明板113と、全体を囲繞して一体化するフレーム112と、を有する。EC素子15は、不示図の駆動装置と接続されている。不図示の駆動装置は、フレーム112内に一体化されていてもよく、フレーム112外に配置され配線を通してEC素子15と接続されていてもよい。
透明板113は光透過率が高い材料であれば特に限定されず、窓としての利用を考慮すればガラス素材であることが好ましい。
フレーム112は、材質は問わないが、光学フィルタの少なくとも一部を被覆し、一体化された形態を有するもの全般をフレームとして見なして構わない。
EC素子15は、透明板113とは独立した構成部材であるが、例えば、EC素子15の基板10を透明板113として見なしてもよい。
本実施形態の窓材111は、例えば日中の太陽光の室内への入射量を調整する用途に適用できる。太陽の光量の他、熱量の調整にも適用できるため、室内の明るさや温度の制御に使用することが可能である。また、シャッターとして、室外から室内への眺望を遮断する用途にも適用可能である。
このような調光窓は、建造物用のガラス窓、又は、自動車、飛行機及び船等の乗り物の窓等にも適用可能である。
以上、示したように、一般式(1)で表わされる有機化合物をEC層に含むEC素子を、光学フィルタ、レンズユニット、撮像装置、窓材等に用いることができる。本実施形態の光学フィルタ、レンズユニット、撮像装置、窓材のそれぞれは、一般式(1)で表わされる有機化合物単独、あるいは他の波長帯域の着色吸収を有するEC化合物と組み合わせることにより、様々な吸収色を提供することが可能となる。また、上述の実施形態の光学フィルタ、レンズユニット、撮像装置、窓材のそれぞれは、一般式(1)で表わされる有機化合物を含むため、消色状態における透明性を向上することができる。
また、本実施形態の撮像装置100によれば、光学フィルタ101を調光部材として用いることにより、調光量を一つのフィルタで適宜可変させることが可能となり、部材点数の削減や省スペース化といった利点がある。
以下、実施例について説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
<例示化合物A−21の合成>
例示化合物A−21は、例えば以下の手順で合成できる。まず、化合物XX−2を合成する。50ml反応容器に、化合物XX−1を676mg(2.0mmol)、2−イソプロポキシ−6−メトキシフェニルボロン酸を1.26g(6.0mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(7ml/7ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。なお、化合物XX−1は、Tetrahedron Letters,52,6484(2011)に従って合成した化合物である。
次にPd(OAc)2を18.0mg(0.08mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos)を82.1mg(0.10mmol)、リン酸三カリウムを2.30g(10.0mmol)、窒素雰囲気下で添加し、110℃にて加熱還流し8時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−2を得た(770mg、収率75%)。
続いて、例示化合物A−21の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−2を350mg(0.69mmol)、2−ヨードプロパンを3.51g(20.6mmol)、アセトニトリル/水(10ml/1ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを600mg(3.44mmol)、炭酸カリウムを599mg(4.13mmol)、窒素雰囲気下で添加し、90℃にて加熱還流し9時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物A−21を得た(110mg、収率26%)。
核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定により、得られた化合物の構造確認を行った。その結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物A−21であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.19(t,2H),6.8−6.65(m,10H),4.45(sep,2H),4.11(sep,2H),3.62(s,6H),1.52(d,12H),1.24(d,12H).
[実施例2]
<例示化合物B−18の合成>
例示化合物B−18は、例えば以下の手順で合成できる。
まず、化合物XX−3を合成する。100mlの反応容器で、化合物XX−1を500mg(1.48mmol)、フェノールを278mg(2.96mmol)、DMSO(5ml)中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、CuI/Sparteine錯体を62.8mg(0.074mmol)、炭酸カリウムを409mg(2.96mmol)、窒素雰囲気下添加し、110℃にて加熱還流し8時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:トルエン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−3を得た(160mg、収率32%)。
次に、化合物XX−4の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−3を160mg(0.46mmol)、2−イソプロポキシ−6−メトキシフェニルボロン酸を144mg(0.69mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(4ml/4ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。
次に、Pd(OAc)2を4.1mg(0.018mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos)を19mg(0.046mmol)、リン酸三カリウムを526mg(2.29mmol)、窒素雰囲気下添加し、110℃にて加熱還流し15時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−4を得た(170mg、収率85%)。
続いて、例示化合物B−18の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−4を170mg(0.39mmol)、2−ヨードプロパンを1.99g(11.7mmol)、アセトニトリル/水(10ml/1ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを340mg(1.95mmol)、炭酸カリウムを323mg(2.34mmol)、窒素雰囲気下添加し、90℃にて加熱還流し10時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物B−18を得た(120mg、収率59%)。
NMR測定の結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物B−18であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.35(m,2H),7.19(t,1H),7.06(t,1H),6.99(d,2H),6.8−6.65(m,6H),6.49(d,1H),6.42(dd,1H),4.47(sep,1H),4.17(sep,1H),3.97(sep,1H),3.71(s,3H),1.51(d,6H),1.46(d,6H),1.18(d,6H).
[比較例1]
比較例1として、公知のEC性化合物である比較化合物Ref−1を用いる。比較化合物Ref−1の分子構造は上述した通りである。比較化合物Ref−1は、オルト位にアルコキシ置換基を有さないフェニル基で置換されたフェナジン誘導体である。
[実施例3]
<中性透明性>
本実施例では、実施例1の例示化合物A−21、実施例2の例示化合物B−18、および比較例1の比較化合物Ref−1のそれぞれの中性状態における透明性について、図5を参照して述べる。図5は、各化合物の吸収スペクトルの測定結果を示す。吸収スペクトルは、実施例1の例示化合物A−21、実施例2の例示化合物B−18、および比較例1の比較化合物Ref−1のそれぞれをアセトニトリルに溶解し、この溶液について紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−560)を用いて測定した。
例示化合物A−21および例示化合物B−18のそれぞれは、目視でほぼ無色の固体であることに対応して、その吸収スペクトルは、紫外域に吸収ピークを有し、また吸収端が約420nmであった。例示化合物A−21および例示化合物B−18のそれぞれは、可視光領域全体にわたって吸収を持たず、従来よりも透明性が向上した材料である。一方、比較化合物Ref−1は目視で淡赤茶色固体であり、その吸収ピークの吸収端は約460nmであった。
この結果は、各フェニル基のオルト位にアルコキシ基を置換基として有する例示化合物A−21及び例示化合物B−18のそれぞれが、比較化合物Ref−1に比べて、中性状態における透明性が高いことを示すものである。
[実施例4]
<エレクトロクロミック特性の評価>
実施例1の例示化合物A−21、実施例2の例示化合物B−18、および比較例1の比較化合物Ref−1のそれぞれについて、酸化(着色)状態における吸収スペクトルの測定を行った。
吸収スペクトルの測定は、支持電解質としてのテトラブチルアンモニウム過塩素酸塩の炭酸プロピレン溶液(0.1mol/L)中に上述の各化合物を溶解(5.0×10−4mol/L)した溶液を用いて行った。取得した溶液は、光路長1mmのガラスセル中に入れ、メッシュ状の白金電極(作用電極)とワイヤー状の白金電極(対向電極)を所定の方法で並べ、参照電極RE(Ag/Ag+)を配置して測定を行った。この溶液に対して、化合物の酸化電位以上で定電位酸化を行うことにより、メッシュ電極を通過する透過光を用いて行った。駆動電圧の印加にはソーラートロン社製ポテンシオスタット(セルテスト1470E)を、分光測定にはオーシャンオプティクス社製分光器(USB2000−UV−VIS)を使用した。
着色状態(酸化状態)の吸収ピークの波長(着色吸収波長)λmaxと、および上述の実施例3の消色状態(中性状態)における吸収端波長と、を併せて表2に示す。
酸化により生成する着色種は、いずれも可視域波長の帯域に吸収を示す。しかし、例示化合物A−21、B−17のそれぞれは、酸化状態において、比較化合物Ref−1に比べて長波長に吸収ピークを有する。この酸化着色状態は、還元により再度無色透明に戻り、酸化還元に伴う可逆的なエレクトロクロミック特性が確認された。
実施例3、4より、例示化合物A−21および例示化合物B−17のそれぞれは、比較化合物Ref−1と比較して、中性吸収は短波長化し透明性が向上しており、さらに酸化着色時には化合物Ref−1より長波長の540nm以上の帯域に吸収を示した。
[実施例5]
<エレクトロクロミック素子の作製および素子駆動>
次に、アノード性EC材料としてEC性の例示化合物A−21、カソード性EC材料として下記構造のカソード性EC化合物W−1をそれぞれ100.0mMの濃度で炭酸プロピレンに溶解させ、EC溶液を調製した。
次いで、図2に示されるEC素子を以下に説明する方法により作製した。電極11としての透明導電膜(ITO)付きの基板10を2枚準備し、2枚の基板10を導電面(電極11が設けられている面)が向かい合い、かつ基板10間に一定の間隔が生じるように配置する。基板10は、ガラス基板を用いた。続いて、充填してEC層12を形成する溶液の注入口を残すように、2枚の基板10をエポキシ系接着剤により素子周辺部を封止し、注入口付き空セルを作製した。この時、厚さの異なるフィルム又は直系の異なるビーズをスペーサーとして用いてシール材13を形成することで、電極11間の距離を調整した。
このように作製したEC素子のセルに、真空注入法によりセルの開口部からEC溶液を充填することでEC層12を形成した。さらにセルの開口部をエポキシ樹脂により封止することにより、EC素子を作製した。
このEC素子に、電圧を0.7V印加すると、例示化合物A−21の酸化種に由来する吸収(λ〜560nm)およびカソード性EC化合物W−1の還元種に由来する吸収(λ〜615nm)を示し、有機EC素子は着色した。有機EC素子は、0Vを印加すると消色し、可逆的な着消色を示した。この電圧印加に伴う本実施例のEC素子の透過率スペクトルの変化を図6に示した。
図6に示したように、実施例1の例示化合物A−21を用いた有機EC素子は、電圧印加に伴い着色時に長波長域で透過率変化を示すことが確認された。
以上のように、着色状態で時には540nm以上の長波長域に吸収ピークを有し、且つ、中性状態(消色状態)における透明性が従来よりも高い、EC性の有機化合物を提供することができる。
[実施例6]
<例示化合物A−3の合成>
例示化合物A−3は、例えば以下の手順で合成できる。まず、化合物XX−5を合成する。50ml反応容器に、化合物XX−1を507mg(1.5mmol)、2−メトキシフェニルボロン酸を638mg(4.5mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(6ml/6ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次にPd(OAc)2を13.5mg(0.06mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos)を61.6mg(0.15mmol)、リン酸三カリウムを1.72g(7.5mmol)、窒素雰囲気下で添加し、100℃にて加熱還流し6時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮中に析出した粉末を再結晶により精製し、黄色固体の化合物XX−5を得た(265mg、収率45%)。
続いて、例示化合物A−3の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−5を155mg(0.40mmol)、2−ヨードプロパンを1.34g(7.9mmol)、アセトニトリル(5ml)中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウム(344mg、1.98mmol)水溶液(1.6ml)および炭酸カリウム(327mg、2.37mmol)水溶液(0.7ml)を添加し、90℃にて加熱還流し9時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物A−3を得た(175mg、収率92%)。
NMR測定により、得られた化合物の構造確認を行った。その結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物A−3であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.35−7.25(m,4H),7.09−7.01(m,4H),6.99(t,2H),6.91(dd,2H),6.80(d,2H),4.18(sep,2H),3.82(s,6H),1.53(d,12H).
[実施例7]
<例示化合物A−25の合成>
例示化合物A−25は、例えば以下の手順で合成できる。まず、化合物XX−6を合成する。50ml反応容器に、化合物XX−1を507mg(1.5mmol)、2,6−ジフェノキシフェニルボロン酸を1.38g(4.5mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(6ml/6ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次にPd(OAc)
2を13.5mg(0.06mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos)を61.6mg(0.15mmol)、リン酸三カリウムを1.72g(7.5mmol)、窒素雰囲気下で添加し、100℃にて加熱還流し4時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮中に析出した粉末を再結晶により精製し、黄色固体の化合物XX−6を得た(650mg、収率62%)。
続いて、例示化合物A−25の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−6を350mg(0.50mmol)、2−ヨードプロパンを2.55g(15.0mmol)、アセトニトリル/水(10ml/1ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを435mg(2.5mmol)、炭酸カリウムを415mg(3.0mmol)、窒素雰囲気下添加し、90℃にて加熱還流し10時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物A−25を得た(80mg、収率20%)。
NMR測定により、得られた化合物の構造確認を行った。その結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物A−25であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.41−7.32(m,10H),7.29(t,2H),7.08(t,4H),6.98(d,8H),6.87(t,4H),6.83(dd,2H),6.72(d,2H),6.61(d,2H),3.78(sep,2H),1.28(d,12H).
[実施例8]
<例示化合物B−9の合成>
例示化合物B−9は、例えば以下の手順で合成できる。まず、化合物XX−8を合成する。50ml反応容器に、化合物XX−7を518mg(2.0mmol)、2−イソプロポキシ−6−メトキシフェニルボロン酸を462mg(2.2mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(7ml/7ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次にPd(OAc)
2を18.0mg(0.08mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos)を82.1mg(0.2mmol)、リン酸三カリウムを2.30g(10.0mmol)、窒素雰囲気下で添加し、100℃にて加熱還流し9時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−8を得た(654mg、収率95%)。
続いて、例示化合物B−9の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−8を516mg(1.5mmol)、2−ヨードプロパンを5.10g(30mmol)、アセトニトリル/水(10ml/1ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを1.30g(7.5mmol)、炭酸カリウムを1.24g(9.0mmol)、窒素雰囲気下で添加し、90℃にて加熱還流し9時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物B−9を得た(226mg、収率35%)。
核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定により、得られた化合物の構造確認を行った。その結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物B−9であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.19(t,1H),6.86−6.66(m,9H),4.42(sep,1H),4.10(sep,1H),4.01(sep,1H),3.65(s,3H),1.52(d,6H),1.43(d,6H),1.17(d,6H).
[実施例9]
<中性透明性及びエレクトロクロミック特性の評価>
実施例6の例示化合物A−3、実施例7の例示化合物A−25及び実施例8の例示化合物B−9のそれぞれについて、実施例3、4と同様に、消色状態(中性状態)および着色状態(酸化状態)における吸収スペクトルの測定を行った。消色状態(中性状態)における吸収端波長および着色状態(酸化状態)の吸収ピークの波長(着色吸収波長)λmaxを表3に示した。
例示化合物A−3、A−25、B−9のそれぞれは、酸化状態において、表2に示した比較化合物Ref−1に比べて長波長に吸収ピークを有する。この酸化着色状態は、還元により再び無色透明に戻り、酸化還元に伴う可逆的なエレクトロクロミック特性が確認された。
実施例9より、例示化合物A−3、A−25および例示化合物B−9のそれぞれは、比較化合物Ref−1と比較して、中性吸収は短波長化し透明性が向上しており、さらに酸化着色時には化合物Ref−1より長波長の540nm以上の帯域に吸収を示した。
[実施例10]
<例示化合物C−6の合成>
例示化合物C−6は、例えば以下の手順で合成できる。まず、化合物XX−15を合成する。50ml反応容器に、化合物XX−7を518mg(2.0mmol)、4−イソプロポキシフェニルボロン酸を450mg(2.5mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(7ml/7ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。なお、化合物XX−5は、Tetrahedron Letters,52,6484(2011)に従って合成した化合物である。
次にPd(OAc)2を18.0mg(0.08mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos)を82.1mg(0.20mmol)、リン酸三カリウムを2.30g(10.0mmol)、窒素雰囲気下で添加し、100℃にて加熱還流し3時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−15を得た(565mg、収率90%)。
続いて、例示化合物C−6の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−15を384mg(1.22mmol)、2−ヨードプロパンを4.15g(24.4mmol)、アセトニトリル/水(18ml/8ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを1.25g(6.1mmol)、炭酸カリウムを1.01g(7.3mmol)、窒素雰囲気下で添加し、90℃にて加熱還流し9時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物C−6を得た(390mg、収率80%)。
核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定により、得られた化合物の構造確認を行った。その結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物C−6であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.49(d,2H),7.04−6.91(m,4H),6.86−6.72(m,5H),4.65(sep,1H),4.12(sep,2H),1.56(d,12H),1.32(d,6H).
[実施例11]
<例示化合物D−2の合成>
例示化合物D−2は、例えば以下の手順で合成できる。まず、化合物XX−16を合成する。50mlの反応容器で、化合物XX−7を518mg(2.00mmol)、4−メトキシ−2−メチルフェニルボロン酸を498mg(3.0mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(7ml/7ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次にPd(OAc)
2を18.0mg(0.08mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos)を82.1mg(0.20mmol)、リン酸三カリウムを2.30g(10.0mmol)、窒素雰囲気下で添加し、100℃にて加熱還流し5時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−16を得た(550mg、収率91%)。
続いて、例示化合物D−2の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−16を550mg(1.83mmol)、2−ヨードプロパンを6.23g(36.6mmol)、アセトニトリル/水(20ml/10ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを1.59g(9.15mmol)、炭酸カリウムを1.52g(11.0mmol)、窒素雰囲気下添加し、90℃にて加熱還流し10時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物D−2を得た(665mg、収率94%)。
NMR測定の結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物D−2であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.12(t,1H),6.84−6.74(m,7H),6.70(dd,1H),6.66(d,1H),4.09(sep,2H),3.79(s,3H),2.26(s,3H),1.50(d,6H),1.46(d,6H).
[実施例12]
<例示化合物F−2の合成>
例示化合物F−2は、例えば以下の手順で合成できる。まず、化合物XX−9を合成する。50mlの反応容器で、化合物XX−1を507mg(1.50mmol)、4−メトキシ−2−メチルフェニルボロン酸を747mg(4.5mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(7ml/7ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次にPd(OAc)
2を13.5mg(0.06mmol)、2−ジシクロヘキシルフォスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(S−Phos)を61.6mg(0.15mmol)、リン酸三カリウムを1.72g(7.5mmol)、窒素雰囲気下で添加し、100℃にて加熱還流し6時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−9を得た(478mg、収率76%)。
続いて、例示化合物F−2の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−9を255mg(0.61mmol)、2−ヨードプロパンを2.06g(12.1mmol)、アセトニトリル/水(10ml/4ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを528mg(3.03mmol)、炭酸カリウムを503mg(3.64mmol)、窒素雰囲気下添加し、90℃にて加熱還流し9時間反応を行った。
反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物F−2を得た(130mg、収率42%)。
NMR測定の結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物F−2であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.12(d,2H),6.86−6.81(m,4H),6.79(dd,2H),6.73−6.67(m,4H),4.16(sep,2H),3.79(s,6H),2.28(s,6H),1.52(d,12H).
[比較例2]
比較例2として、上述の公知のEC性化合物である比較化合物Ref−3を用いる。比較化合物Ref−3は、パラ位にアルコキシ置換基を有さないフェニル基で置換されたフェナジン誘導体である。
[実施例13]
<中性透明性>
本実施例では、実施例10の例示化合物C−6、実施例11の例示化合物D−2及び比較例2の比較化合物Ref−3のそれぞれの中性状態における透明性について、図8を参照して述べる。図8は、各化合物の吸収スペクトルの測定結果を示す。吸収スペクトルは、実施例3と同様の方法で測定した。
比較化合物Ref−3および例示化合物C−6は目視で濃黄色固体であり、その吸収ピークの吸収端は約450nmであった。一方、例示化合物D−2は、目視でほぼ無色の固体であることに対応して、図8に示すように、その吸収は比較化合物Ref−3や例示化合物C−6に比較して短波長側にシフトし、またその吸収端は約410nmであった。例示化合物D−2は、可視光領域全体にわたって吸収を持たず、従来よりも透明性が向上した材料である。また例示化合物F−2も吸収端は420nmであり、例示化合物D−2と同様に可視光領域全体にわたって吸収を持たず、従来よりも透明性が向上した材料である。
消色状態(中性状態)の吸収端波長を表4に示す。
この結果は、フェニル基のオルト位に置換基を有する例示化合物D−2及び例示化合物F−2のそれぞれが、比較化合物Ref−3に比べて、中性状態における透明性が高いことを示すものである。
[実施例14]
<エレクトロクロミック特性の評価>
実施例10の例示化合物C−6、実施例11の例示化合物D−2、実施例12の例示化合物F−2及び比較例2の比較化合物Ref−3のそれぞれについて、酸化(着色)状態における吸収スペクトルの測定を行った。吸収スペクトルの測定は、実施例4と同様の方法で行った。
着色状態(酸化状態)の吸収ピークの波長(着色吸収波長)λmaxを表5に示す。
酸化により生成する着色種は、いずれも可視域波長の帯域に吸収を示す。しかし、分子外側部位のフェニル基のパラ位にアルコキシ基を有する例示化合物C−6、D−2、F−2のそれぞれは、分子外側部位のフェニル基のパラ位にアルコキシ基を有さない比較化合物Ref−3に比べて、酸化状態において長波長に吸収ピークを有する。この酸化着色状態は、還元により再度無色透明に戻り、酸化還元に伴う可逆的なエレクトロクロミック特性が確認された。
実施例13、14より、分子外側部位のフェニル基のパラ位にアルコキシ基を有する例示化合物C−6、例示化合物D−2及び例示化合物F−2のそれぞれは、酸化着色時には比較化合物Ref−3より長波長の540nm以上の帯域に吸収を示す。特にフェニル基のオルト位にも置換基を有する例示化合物D−2および例示化合物F−2に関しては、それぞれの中性吸収が短波長化し、消色時透明性と着色時の長波長吸収を両立していることが示された。
[実施例15]
<エレクトロクロミック素子の作製および素子駆動>
例示化合物D−2をEC層12に含むEC素子15を作製した。まず、アノード性EC材料としてEC性の例示化合物D−2、カソード性EC材料として下記構造のカソード性EC化合物W−2をそれぞれ100.0mMの濃度で炭酸プロピレンに溶解させ、EC溶液を調製した。
次いで、実施例5と同様の方法で空セルを作製し、作製した空セルに、真空注入法によりセルの開口部から本実施例のEC溶液を充填することでEC層12を形成した。さらにセルの開口部をエポキシ樹脂により封止することにより、EC素子15を作製した。
このEC素子15に、電圧を0.7V印加すると、例示化合物D−2の酸化種に由来する吸収(λ〜550nm)およびカソード性EC化合物W−2の還元種に由来する吸収(λ〜615nm)を示し、EC素子15は着色した。EC素子15は、0Vを印加すると消色し、可逆的な着消色を示した。この電圧印加に伴う本実施例のEC素子の透過率スペクトルの変化を図9に示した。
図9に示したように、例示化合物D−2を用いたEC素子15は、電圧印加に伴い着色時に長波長域で透過率変化を示すことが確認された。
[実施例16]
<例示化合物F−14の合成>
まず、化合物XX−11を合成した。50ml反応容器に、化合物XX−1を342mg(0.97mmol)、4−メトキシ−2−メチルフェニルボロン酸を484mg(2.91mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(5ml/5ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。なお、化合物XX−1は、Tetrahedron Letters,52,6484(2011)に従って合成した。
次にPd(OAc)2を8.8mg(0.04mmol)、S−Phosを40.0mg(0.097mmol)、リン酸三カリウムを1.12g(4.9mmol)、窒素雰囲気下で添加し、100℃にて加熱還流し3時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−11を得た(410mg、収率96%)。
続いて、例示化合物F−14の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−11を391mg(0.90mmol)、2−ヨードプロパンを3.06g(18.0mmol)、アセトニトリル/水(20ml/10ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを920mg(4.5mmol)、炭酸カリウムを750mg(5.4mmol)、窒素雰囲気下添加し、90℃にて加熱還流し8時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物F−14を得た(111mg、収率24%)。
NMR測定の結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物F−14であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.15−7.05(m,3H),6.98(dd,1H),6.90−6.70(m,7H),4.48(sep,1H),3.81(s,6H),3.33(sep,1H),2.35(s,3H),2.28(s,6H),1.62(d,6H),1.23(d,6H).
[実施例17]
<例示化合物B−30の合成>
まず、化合物XX−13を合成する。50ml反応容器に、化合物XX−12を395mg(1.45mmol)、2−イソプロポキシ−6−メトキシフェニルボロン酸を456mg(2.17mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(5ml/5ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。
次にPd(OAc)2を13.0mg(0.06mmol)、S−Phosを59.0mg(0.15mmol)、リン酸三カリウムを1.66g(7.2mmol)、窒素雰囲気下で添加し、100℃にて加熱還流し4時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−13を得た(510mg、収率98%)。
続いて、例示化合物B−30の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−13を510mg(1.42mmol)、2−ヨードプロパンを5.07g(29.8mmol)、アセトニトリル/水(20ml/8ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを1.53g(7.45mmol)、炭酸カリウムを1.24g(8.94mmol)、窒素雰囲気下添加し、90℃にて加熱還流し9時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物B−30を得た(350mg、収率54%)。
NMR測定の結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物B−30であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.20(t,1H),6.99−6.83(m,5H),6.74(d,1H),6.72−6.65(m,2H),4.45(sep,2H),3.69(s,3H),3.25(sep,1H),2.28(s,3H),1.62(d,6H),1.42−1.02(d,br,12H).
[実施例18]
<例示化合物A−40の合成>
まず、化合物XX−14を合成する。50ml反応容器に、化合物XX−20を704mg(2.0mmol)、2−イソプロポキシ−6−メトキシフェニルボロン酸を1.26g(6.0mmol)、トルエン/1,4−ジオキサン(8ml/8ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。
次にPd(OAc)2を18.0mg(0.08mmol)、S−Phosを82.1mg(0.20mmol)、リン酸三カリウムを2.30g(10.0mmol)、窒素雰囲気下で添加し、110℃にて加熱還流し6時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/クロロホルム)により分離精製し、黄色固体の化合物XX−14を得た(760mg、収率73%)。
続いて、例示化合物A−40の合成を行う。50ml反応容器に、化合物XX−14を750mg(1.44mmol)、2−ヨードプロパンを4.88g(28.8mmol)、アセトニトリル/水(20ml/8ml)混合溶媒中で混合し、窒素で溶存酸素を除去した。次に、ハイドロサルファイトナトリウムを1.47g(7.18mmol)、炭酸カリウムを1.19g(8.61mmol)、窒素雰囲気下添加し、90℃にて加熱還流し10時間反応を行った。反応溶液を室温まで冷却後、減圧濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/トルエン)により分離精製し、固体の例示化合物A−40を得た(580mg、収率66%)。
NMR測定の結果、ピーク積分値の比がその構造と良く一致したので、得られた化合物は例示化合物A−40であることを確認した。NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
1H−NMR(重アセトン)δ(ppm):7.21(t,1H),7.19(t,1H),6.97(s,2H),6.89(s,1H),6.83(s,1H),6.75−6.66(m,5H),4.45(sep,1H),4.42(sep,1H),3.72(s,3H),3.69(s,3H),3.33(sep,1H),2.30(s,3H),1.64(br,6H),1.38(br,6H),1.17(d,12H).
[実施例19]
<中性透明性及びエレクトロクロミック特性の評価>
実施例16の例示化合物F−14、実施例17の例示化合物B−30及び実施例18の例示化合物A−40のそれぞれについて、実施例3、4と同様に、消色状態(中性状態)および着色状態(酸化状態)における吸収スペクトルの測定を行った。それぞれの化合物について、消色状態(中性状態)における吸収端波長および着色状態(酸化状態)の吸収ピークの波長(着色吸収波長)λmaxを表6に示した。
例示化合物F−14、B−30、A−40のそれぞれは、着色状態において、表6に示すように、540nm以上の長波長域に吸収ピークを有する。この酸化着色状態は、還元により再び無色透明に戻り、酸化還元に伴う可逆的なエレクトロクロミック特性が確認された。
また、フェナジン環の1位にメチル基を有する例示化合物F−14、B−30、A−40のそれぞれは、中性状態の吸収端がいずれも400nmであり、消色時の透明性に特に優れる。例示化合物F−14、B−30、A−40のそれぞれの中性状態の吸収は、比較化合物Ref−1と比較して大きく短波長化している。また、フェナジン環1位のメチル基が無い例示化合物F−2、B−9、A−21のそれぞれの中性吸収端(すべて420nm)よりもさらに短波長化している。
この中性吸収の短波長化は、透明性が向上するとともに、UV光に対する耐光性も改善する。特に撮像装置内でUVカットフィルターと組み合わせて本発明に係るEC材料やEC素子を用いる場合に、より短波長域の光をカットするUVカットフィルターを用いても、光に対する劣化が少なくすることが出来る。
以上のように、上述の各実施形態および各実施例によれば、着色状態で540nm以上の長波長域に吸収ピークを有するEC性の有機化合物を提供することができる。また、消色状態における透明性を従来よりも向上することができる。