JP6902748B2 - 植物成長調整剤 - Google Patents
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Description
植物の根は、主根、側根、不定根によって構成され、これらを合わせて根系と呼ばれている。主根は種子の段階で既に発達しており、発芽と同時に伸長する。このため、主根の生育を促進させることができれば、初期から土壌中の水分・栄養分の吸収が促進され、初期生育が促進できるほか、初期の乾燥ストレス耐性を付与することができる。側根は主根から分化し発達する。このため、側根の生育を促進させることができれば、根の表面積を飛躍的に増大させることができ、土壌中の水分・栄養分の吸収が促進され、生育全般が促進できるほか、乾燥ストレス耐性を付与することができる。不定根は茎や葉などといった根以外の組織から分化し、発達する。このため、植物の培養細胞から発生する根や、挿し木・挿し葉などの地上部の組織切片から発生する根は不定根に分類され、いわゆる栄養繁殖を効率よく進める上では不定根の発生を促進することは重要な産業上の技術となっている。また、イネ科作物などの単子葉植物は、発芽後まもなく幼根の成長が停止し、種子根を除くほとんどの根は茎から発生する不定根であり、冠根とも呼ばれている。これらの不定根の発生を促進することはイネ科植物の安定した生育を確保する上では重要である。特に主要な作物であるイネ、ムギ、トウモロコシなどの生育や倒伏防止にとって不定根形成は重要である。
なお、先行技術として次のようなものが例示できる。
WO2011/136285号(特許文献1)にはジクロロフェニル基やジフルオロフェニル基などを有する化合物がユーカリの不定根を発生させることが記載されている。
また特開平5−260869号公報(特許文献2)にはオーキシンとα−ナフタリン酢酸を併用するとサツマイモの茎に不定根を誘導できることが記載されている。
さらに特開平5−49484号公報(特許文献3)にはレモンバームのカルスを、オーキシンを添加した培地中で培養して不定根を誘導する技術が記載されている。
上述のように、発根促進作用をもつもの植物ホルモンのうち、オーキシンに基づき開発された化学合成品はスーパーオーキシンとも呼ばれ、主に除草剤として利用されている(非特許文献1)。例えば、8-キノリンカルボン酸誘導体であるキンクロラック(Quinclorac、3,7-ジクロロ-8-キノリンカルボン酸(特許文献4、5参照)やキンメラック(Quinmerac、7-クロロ-3-メチル-8-キノリンカルボン酸(特許文献6参照)などがある。また、5-クロロ-3-メチル-8-キノリンカルボン酸にも除草作用があることが見いだされている(特許文献7参照)。これらの8-キノリンカルボン酸の誘導体のうち、3位に塩素原子が結合したものまたはメチル基が置換したものや7位に塩素原子が結合したものは、強力なオーキシン活性を示すことにより、除草作用を示すことが明らかになっている。しかし、8-キノリンカルボン酸誘導体で、3位および7位が無置換の化合物が、生育抑制を伴わない植物成長調整作用があることはまったく知見がなかった。
1.一般式1で表される化合物もしくはその塩からなる、植物成長調整剤。
-A1-A2-A3-A4-が-N=CH-CH=CH-、又は-NH-CH2-CH2-CH2-
R1=水素原子、アルキル基、又はハロゲン原子
R2=水素原子、アルキル基、又はハロゲン原子
R3=ヒドロキシル基、又はアルコキシ基
2.-A1-A2-A3-A4-が-N=CH-CH=CH-であり、R1が水素原子、R2が水素原子、R3がヒドロキシル基である化合物もしくはその塩である1に記載の植物成長調整剤。
3.-A1-A2-A3-A4-が-N=CH-CH=CH-であり、R1が水素原子、R2がハロゲン原子、R3がヒドロキシル基である化合物もしくはその塩である1に記載の植物成長調整剤。
4.R2が塩素原子又は臭素原子である3に記載の植物成長調整剤。
5.-A1-A2-A3-A4-が-N=CH-CH=CH-であり、R1が水素原子、R2が水素原子、R3がアルコキシ基である化合物もしくはその塩である1に記載の植物成長調整剤。
6.R3がメトキシ基である化合物もしくはその塩である5に記載の植物成長調整剤。
7.-A1-A2-A3-A4-が-NH-CH2-CH2-CH2-であり、R1が水素原子、R2が水素原子、R3がヒドロキシル基である化合物もしくはその塩である1に記載の植物成長調整剤。
8.キノリン-8-カルボン酸(Quinoline-8-carboxylic acid)、6-クロロキノリン-8-カルボン酸(6-Chloro-quinoline-8-carboxylic acid)、6-ブロモキノリン-8-カルボン酸(6-Bromo-quinoline-8-carboxylic acid)、キノリン-8-カルボン酸メチル(Quinoline-8-carboxylic acid methyl ester)、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-8-カルボン酸(1,2,3,4-Tetrahydroquinoline-8-carboxylic acid)から選択される1以上の化合物を含有する植物成長調整剤。
9.1〜8のいずれかに記載の植物成長調整剤を含有する植物発根剤。
10.1〜8のいずれかに記載の植物成長調整剤を含有する肥料。
11.1〜8のいずれかに記載の植物成長調整剤を含有する農薬。
また、本発明の植物成長調整剤は、茎や葉のクロロシスといったスーパーオーキシンが示すような副作用が極めて弱いかあるいは発生しない。
本発明の植物成長調整剤は挿し木時・育苗期・移植時の発根促進剤として用いることができる。
また根系発達を促進するため、肥料成分の吸収効率が向上し、植物の生育を促進し、作物の収穫量が増大する。
-A1-A2-A3-A4-=-N=CH-CH=CH-、又は-NH-CH2-CH2-CH2-
R1=水素原子、アルキル基、又はハロゲン原子
R2=水素原子、アルキル基、又はハロゲン原子
R3=ヒドロキシル基、又はアルコキシ基
置換基R1は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基のいずれかである。ハロゲン原子としては塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基及びi−ヘキシル基などの炭素数1〜6の低級アルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
また、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、乳酸塩等の有機酸塩、等の塩が挙げられる。
キノリン-8-カルボン酸誘導体を原料として、例えば硫酸、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒の存在下にて、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール中、加熱還流することによって、R3がアルキル基に置換された化合物を得る。この時、キノリン-8-カルボン酸誘導体は1〜20質量%、特に5〜10質量%であることが好ましい。
また、キノリン-8-カルボン酸誘導体を原料として、例えばトリメチルシリルジアゾメタンなどのメチルエステル化剤の存在下にて、メタノール中にて反応することによって、R3がメチル基に置換された化合物を得ることができる。
反応後、反応液から生成物を採取するには、反応溶媒を留去し、水と混合しない生成物可溶性有機溶媒と水を加え、適宜水相のpHを調整後、溶媒抽出を行い、有機溶媒層を回収後、乾燥し、有機溶媒を留去した後、必要に応じて単一もしくは混合溶媒から再結晶すればよい。また、必要に応じて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの分離手段によって単離すればよい。
なお、上記以外の置換反応については、公知の化学反応で容易に行うことができる。
本発明に用いる化合物又はその塩は、水可溶性であることが望ましい。水不溶性化合物の場合は、水に分散する形態にして使用することができる。
キノリン-8-カルボン酸(Quinoline-8-carboxylic acid)
6-クロロキノリン-8-カルボン酸(6-Chloro-quinoline-8-carboxylic acid)
6-ブロモキノリン-8-カルボン酸(6-Bromo-quinoline-8-carboxylic acid)
キノリン-8-カルボン酸メチル(Quinoline-8-carboxylic acid methyl ester)
1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-8-カルボン酸(1,2,3,4-Tetrahydroquinoline-8-carboxylic acid)
植物に適用する場合、土壌処理剤、茎葉処理剤、播種前の種子処理剤、移植前植物の処理剤及び移植時の植物に対する処理剤等として使用することができる。また、水耕栽培においては水耕液に混合して使用してもよく、組織培養では培地中に懸濁又は溶解させて用いてもよい。
本発明の植物成長調整剤を目的の植物に適用すれば、側根数、不定根数などの根数の増加を通じて根量や根密度が増加するため、苗の移植時の活着率向上や、健苗育成、生育促進、吸水力の向上、吸肥力の向上、肥料成分利用率の向上、緑色の保持、光合成能力の向上、水ストレス耐性の向上、倒伏防止、収量増加等の効果が得られる。また、イネ科植物の登熱を向上させるので、イネ等の収量を向上させることができる。
肥料と混合する場合を含め、土壌に直接施用する場合の使用量としては、1ヘクタール当たり100〜10000g、特に500〜5000g用いるのが好ましい。特に育苗期の苗に使用する場合は、培養土1L当たり0.001〜10g用いるのが望ましい。この場合、播種前の培養土に予め混合しておいてもよく、育苗期間中に散布してもよい。
組織培養や細胞培養時に使用する場合は、通常用いられる植物組織培養用の培地(MS培地、ホワイト培地、ガンボルグのB5培地など)に培地中濃度として、好ましくは0.01〜10000ppm、特に好ましくは0.1〜1000ppmの範囲で溶解又は懸濁して用いることができる。この場合、通常行われているように、炭素源としての糖類(ショ糖、ブドウ糖など)、各種植物ホルモンとしてサイトカイニン(ベンジルアデニン、カイネチンなど)、オーキシン(インドール酢酸、ナフタレン酢酸など)、ジベレリン(GA3、GA4など)、アブシジン酸などを適宜加えることができる。
移植前の植物に直接吸収させる場合は、使用濃度として0.1〜1000ppmに希釈又は懸濁した液に、植物の根部あるいは全体を浸漬して使用することができる。また、挿し穂、挿し芽、挿し木などであれば基部又は全体を浸漬して使用することができる。この場合の浸漬時間は1秒〜1週間、特に1分〜3日間が望ましい。鉱物質粉末の固体担体を用いて製剤化したものを、根部に付着させたり、挿し穂、挿し芽、挿し木などの場合は茎基部に付着させてもよい。
本発明の植物成長調整剤の投与時期としては、生育期間中いかなる時期にも使用が可能であるが、特に植物成長調整剤として適用する場合は、播種前、播種時、苗の育成時、移植等の耕種的断根を伴う作業の前後、気象要因などで根の発育が阻害されあるいは根に障害が発生した場合などが特に有効である。
本発明の植物成長調整剤を圃場に散布したり、植物に直接散布することで栽培植物の根系の発達、生育の期間の短縮、分けつ数の増加、収量の増加などにつながる。
肥料と併用する場合、健苗育成を目的とした育苗用肥料との併用、活着促進を目的とした移植直前施用肥料との併用は特に有効である。本発明の植物成長調整剤の効力を長期間持続させ肥料成分利用率を向上させることを目的とした緩効性肥料との混用も特に有効である。
5-クロロアントラニル酸1.01gおよびヨウ素26.6mgをグリセロール0.76gに混合したものを激しく撹拌し、65℃〜70℃下で濃硫酸0.44mlを30分間かけて滴下して140℃で6時間反応させた。室温にし、0℃の水17mLを添加し、28%アンモニア水でpH6.5としたものを濾過し、固形分を冷水で洗浄した後乾燥させた。得られた残渣をクロロホルムに溶解し、不溶物を濾過して除去し、活性炭を添加して不純物を吸着させ、活性炭を濾過により除去した。溶媒を留去して得た残渣をクロロホルムと酢酸エチルの混合液下で再結晶させ、得られた結晶を酢酸エチルで洗浄した。溶媒を留去して化合物96.2mg(収率7.9%)を得た。この化合物についてNMR、マススペクトル、融点を測定し、一般式3の構造を有する化合物2(6-クロロキノリン-8-カルボン酸)であることを確認した。
5-ブロモアントラニル酸1.26gおよびヨウ素23.3mgをグリセロール0.76gに混合したものを激しく撹拌し、65℃〜70℃下で濃硫酸0.44mlを30分間かけて滴下して140℃で6時間反応させた。室温にし、0℃の水17mLを添加し、28%アンモニア水でpH6.5としたものを濾過し、固形分を冷水で洗浄した後乾燥させた。得られた残渣をエタノールに溶解して濾過し、乾燥させて得た残渣をクロロホルムに溶解し、活性炭を添加して不純物を吸着させ、活性炭を濾過により除去した。溶媒を留去して得た残渣をクロロホルムと酢酸エチルの混合液下で再結晶させ、溶媒を留去して化合物28.7mg(収率2.0%)を得た。この化合物についてNMR、マススペクトル、融点を測定し、一般式4の構造を有する化合物3(6-ブロモキノリン-8-カルボン酸)であることを確認した。
キノリン-8-カルボン酸85.6mgをアルゴン雰囲気下におき、メタノール2.5mlおよびジクロロメタン2.5mlに溶解した。トリメチルシリルジアゾメタン0.8mlを添加し、30分反応させた後、溶媒を留去した。残渣を40%酢酸エチル60%ヘキサン混合液を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して溶媒を留去し、化合物69.4mg(収率77%)を得た。この化合物についてNMR、マススペクトル、融点を測定し、一般式5の構造を有する化合物4(キノリン-8-カルボン酸メチル)であることを確認した。
キノリン−8−カルボン酸174mgと酸化白金(II)15.3mgとをエタノール3mlに溶解し、水素雰囲気下にし、5時間反応させた後アルゴン雰囲気下とした。セライトを添加して不純物を吸着させ、濾過により除去した。溶媒を留去して得た物資を温めたジエチルエーテルで洗浄し、溶媒を留去して化合物140.8mg(収率79%)を得た。この化合物についてNMR、マススペクトル、融点を測定し、一般式6の構造を有する化合物5(1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-8-カルボン酸)であることを確認した。
化合物2〜5のNMR測定結果並びに融点の測定結果を下記の表1に示す。
<アズキ切り口浸漬処理による不定根の発生誘導作用の確認試験>
化合物1〜5について蒸留水で希釈し、濃度が0.03mM、0.1mMの水溶液を調製し、希塩酸と水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7とし、アズキ発根促進アッセイ(Itagaki et al. 2003. Biological activities and structure-activity relationship of substitution compounds of N-[2-(3-indolyl)ethyl] succinamic acid and N-[2-(1-naphthyl)ethyl] succinamic acid、derived from a new category of root-promoting substance、 N-(phenethyl)succinamic acid analogs. Plant Soil 255: 67-75.)を行った。なお、化合物3のみ0.03mMの溶液を用いた試験は行わなかった。
アズキ切片は基部を72時間、0.03mM及び0.1mMの各被検液に浸漬し、7日後に発生した不定根数を数えた。なお反復数を5本とした。また、各化合物の活性を測定する際に、対照として蒸留水で処理したものを培養し、同様に不定根数を測定した。このため、対照区は複数回測定した総平均値を示した。
試験結果を下記表2に示す。
特に、化合物1は濃度0.03mMで300%以上、濃度0.1mMで500%以上の発根率を示した。また、濃度0.03mMの化合物2および濃度0.03mM 、0.1mMの化合物4および5では200%以上の発根率を示した。また、茎や葉のクロロシスなどの兆候は観察されなかった。
化合物1〜5を肥料に混入し、圃場栽培中のトウモロコシに散布した。各化合物とも、肥料のみの散布圃場に比して顕著な根系の発達と生育の促進、収穫量の増加が確認された。また散布による茎や葉のクロロシス発生は、観察されなかった。
飼料用トウモロコシ(品種LG3215;雪印種苗(株))に対し、1mMのキノリン-8-カルボン酸溶液に1/1000量の展着剤(アプローチBI:ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル:丸和バイオケミカル株式会社)を添加したものを、播種後3週間目から2週間おきに4回、葉面散布を行った。
播種後4か月の植物体20本について支持根をカウントし、平均値を算出した。
試験結果を下記表3に示す。
Claims (4)
- キノリン−8−カルボン酸(Quinoline−8−carboxylic acid)、6−クロロキノリン−8−カルボン酸(6−Chloro−quinoline−8−carboxylic acid)、6−ブロモキノリン−8−カルボン酸(6−Bromo−quinoline−8−carboxylic acid)、キノリン−8−カルボン酸メチル(Quinoline−8−carboxylic acid methyl ester)、1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−8−カルボン酸(1,2,3,4−Tetrahydroquinoline−8−carboxylic acid)から選択される1以上の化合物を含有する植物発根剤。
- 請求項1又は2に記載の植物発根剤を含有する肥料。
- 請求項1又は2に記載の植物発根剤を含有する農薬。
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