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JP6805133B2 - 電荷移動性薄膜用材料及び電荷移動性薄膜 - Google Patents

電荷移動性薄膜用材料及び電荷移動性薄膜 Download PDF

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JP6805133B2 JP2017515468A JP2017515468A JP6805133B2 JP 6805133 B2 JP6805133 B2 JP 6805133B2 JP 2017515468 A JP2017515468 A JP 2017515468A JP 2017515468 A JP2017515468 A JP 2017515468A JP 6805133 B2 JP6805133 B2 JP 6805133B2
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Description

本発明は、電荷移動性薄膜用材料及び電荷移動性薄膜に関する。より詳しくは、電界駆動による長波エレクトロマー由来の発光が抑制された電荷移動性薄膜用材料及び電荷移動性薄膜に関する。
一般的に、電界を印加する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」ともいう。)、太陽電池及び有機トランジスタ等の電子デバイスには、電界をかけて電荷キャリア(電子及び正孔の総称)を移動させることのできる有機材料を含有する電荷移動性薄膜が用いられている。
そのため、電荷移動性薄膜に用いる有機材料は、π−π相互作用によるキャリアホッピング伝導をさせるために、芳香環を組み合わせた化学構造を有していなければならない。電荷移動性薄膜中に含有された機能性の有機材料は種々の性能が要求されるため、その開発が近年盛んである。
マクロ的な薄膜安定化技術が求められている電子デバイスである、青色リン光有機EL素子に用いる有機材料としては、最低励起三重項エネルギー準位(T)が高い(以下において、「高T」ともいう。)ジベンゾフラン骨格や、カルバゾール骨格を有する芳香族化合物が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。芳香族化合物は、分子軌道計算により描像される、芳香族化合物上に分布するカルバゾールの最高被占軌道(HOMO)とジベンゾフランの最低空軌道(LUMO)を空間的に分離させることにより、最低励起三重項エネルギー準位(T)の低下(以下、「低T化」ともいう。)を抑制し、かつキャリア(電子と正孔)のホッピング伝導を促進し、青色リン光発光材料に適応した周辺材料となっている。
しかしながら、より短波の青色リン光材料に適応させる際には、これらの化合物が発光効率や発光寿命の点で十分に機能しないこともわかってきた。それは、どんなに熱的及び電気化学的に安定な材料でも、電界駆動により励起状態やラジカル状態になる回数が増えるに従い、分子は振動又は結合軸を中心として回転し、分子間の相互作用形態が変わってしまい、膜状態が変わってしまうためである。
膜状態の変化としては、含有分子の凝集による粒界形成や、キャリア輸送には好ましくない相互作用であるHOMO−LUMOスタック形成などが挙げられる。このような膜変化が起こった結果、電荷移動性薄膜を用いた有機電子デバイスでは、膜質変化による寿命劣化が起こっていた。
特開2013−155153号公報 特表2013−529188号公報
本発明は、上記問題・状況を鑑みてなされたものであり、その解決課題は、長寿命の電荷移動性薄膜用材料及び電荷移動性薄膜を提供することである。
本発明の発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、芳香族化合物が、分子軌道計算により描像される前記芳香族化合物上に分布する最高被占軌道及び最低空軌道が空間的に分離しており、炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を有し、かつ前記芳香族化合物を含有する単一層の電流励起発光スペクトルが、所定の式を満たすことで上記課題を解決できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、下記の手段により解決される。
1.芳香族化合物を含有する電荷移動性薄膜用材料であって、
前記芳香族化合物が、分子軌道計算により描像される前記芳香族化合物上に分布する最高被占軌道及び最低空軌道が空間的に分離する少なくとも2つ以上の芳香族炭化水素環又
は芳香族複素環を有し、さらに炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を有し、かつ
前記芳香族化合物を含有する単一層の電流励起発光スペクトルが、下記式(1)を満たし、
前記芳香族化合物が、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする電荷移動性薄膜用材料。
式(1):a/b>1
(式(1)中、aは、前記電流励起発光スペクトルにおいて、発光波長500nm以下に出現する最大発光強度を表し、bは、発光波長550nm以上に出現する最大発光強度を表す。aが通電開始初期値から1/5の値まで減衰する間、a及びbは常に式(1)の関係を満たす。)
一般式(1):
(R −A−(L) −B−(R
(一般式(1)中、A及びBは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。R 及びR は、炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を表す。Lは、単なる結合手、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基若しくはアルキレン基を表す。m及びnは、それぞれ1以上の整数を表す。kは1以上の整数を表す。)
.第1項に記載の電荷移動性薄膜用材料を含有することを特徴とする電荷移動性薄膜。
本発明の上記手段により、長寿命の電荷移動性薄膜用材料及び電荷移動性薄膜を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
π−π相互作用に加えて、アルキル基同士の相互作用等の効果を用い、所定の関係式を満たす電流励起発光スペクトルが得られる化合物を用いることにより、電界駆動による長波エレクトロマー由来の発光を抑制することができ、長寿命の電荷移動性薄膜用材料及び電荷移動性薄膜を提供することができたものと考えている。さらには、アルキル基による溶解性向上という副次的な効果から、ウェットプロセスによる生産適性を向上させることができたものと考えている。
比較化合物1の光励起スペクトルを示すグラフ 比較化合物1の電流励起発光スペクトルの経時変化を示すグラフ 電界駆動によるエレクトロマー生成を示す模式図 理想的な相互作用形態を示す模式図 本発明に係る芳香族化合物のHOMO−LUMOを示す模式図 アルキル基を有する化合物の理想的な相互作用形態を示す模式図 MD計算による二分子間の相互作用形態を示す模式図 照明装置の概略図 照明装置の断面図
本発明の電荷移動性薄膜用材料は、芳香族化合物を含有する電荷移動性薄膜用材料であって、前記芳香族化合物が、分子軌道計算により描像される前記芳香族化合物上に分布する最高被占軌道及び最低空軌道が空間的に分離する少なくとも2つ以上の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を有し、さらに炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を有し、かつ前記芳香族化合物を含有する単一層の電流励起発光スペクトルが、前記式(1)を満たし、前記芳香族化合物が、前記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする。
この特徴は、各請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
また、本発明の電荷移動性薄膜用材料は、前記芳香族化合物が、前記一般式(1)で表される構造を有することが、キャリア輸送に好適な相互作用形態をとりやすいため好ましい。
また、本発明の電荷移動性薄膜は、本発明の電荷移動性薄膜用材料を含有することが、効果発現の観点から好ましい。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本発明において示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
本発明に適した電荷移動性薄膜用材料は、芳香族化合物を含有し、当該芳香族化合物が、分子軌道計算により描像される前記芳香族化合物上に分布する最高被占軌道及び最低空
軌道が空間的に分離する少なくとも2つ以上の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を有し、さらに炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を有し、かつ前記芳香族化合物を含有する単一層の電流励起発光スペクトルが、下記式(1)を満たし、前記芳香族化合物が、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする。
式(1):a/b>1
式(1)中、aは、前記電流励起発光スペクトルにおいて、発光波長500nm以下に出現する最大発光強度を表し、bは、発光波長550nm以上に出現する最大発光強度を表す。aが通電開始初期値から1/5の値まで減衰する間、a及びbは常に式(1)の関係を満たす。
一般式(1):
(R −A−(L) −B−(R
一般式(1)中、A及びBは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。R 及びR は、炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を表す。Lは、単なる結合手、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基若しくはアルキレン基を表す。m及びnは、それぞれ1以上の整数を表す。kは1以上の整数を表す。
はじめに、本発明に係る芳香族化合物が、エレクトロマー由来の発光が生成しにくい機構について説明する。
≪エレクトロマーの発現≫
有機電子デバイスにおける、電界駆動により発現する長波エレクトロマーについて説明する。
有機電子デバイスに用いられる化合物は、キャリアホッピング伝導をさせるために芳香環を含む構造を有しており、光励起させると、それぞれの分子固有で通常500nm以下の波長に最大強度を有する蛍光スペクトル又はリン光スペクトルが観察される。
例えば図1に示す、比較化合物1を光励起させて測定したスペクトル(溶媒:2−メチルTHF、285nm励起)では、室温では蛍光が、低温ではリン光がそれぞれ500nm以下に最大発光強度を持つ形で観測される。
一方で、電荷移動性薄膜として電界駆動すると、蛍光及びリン光が観測されるのに加え、通電経時に伴い光励起の発光スペクトルでは観測されなかった長波の発光が観測される化合物も存在する。
この通電経時による長波の発光は、Appl.Phys.Lett.,76,2355,2000で報告されているように、電子を有する分子とホールを有する分子が近接することにより形成するエレクトロマー由来だと推測されている。
上記文献においては、エレクトロマー発光は600nm以上に観測されているが(比較化合物1:図2参照)、本発明者らが検討した結果、550nm以上においてエレクトロマー由来と考えられる発光が観測されることが明らかとなった。また、特に化合物のHOMOとLUMOの分子軌道が空間的に分離しうる有機分子は、前述のとおり、青色リン光発光材料に適した化合物ではあるが、薄膜にした際、通電により膜質が変動し、図3に示すようにある分子のHOMOとLUMOが重なった形のπ−πスタックを形成しやすく、エレクトロマーを生じやすいことが分かった。
結果、HOMOとLUMOの分子軌道が空間的に分離しうる有機化合物を電荷移動性薄膜用材料として用いた有機電子デバイスにおいては、通電経時で形成されたエレクトロマーが、キャリアのクエンチャーとなってしまい、発光性分子に渡すべきキャリアが減り、寿命劣化の一つの大きな要因となっていることがわかった。そこで、電界駆動による長波エレクトロマーの発現が抑制された安定な電荷移動性薄膜用材料の開発を行った。
≪アルキル基同士の相互作用≫
本発明においては、π−π相互作用に加えて、アルキル基同士の相互作用等を用いた電界駆動での長波エレクトロマーの抑制の技術思想について述べる。
長波のエレクトロマーは、電界駆動によるHOMO−LUMOのπ−πスタックにより生成するため、図4に示すような、HOMO−HOMO同士、LUMO−LUMO同士がπ−πスタックした構造を膜中で発現させることが理想的である。しかしながら、とりわけ高Tの青色発光材料に対応した周辺材料においては、低T化の抑制とキャリアの受け渡しを円滑にするために、HOMO、LUMOが電荷分離している構造を有していることが好ましい。
その結果HOMO−HOMO同士、LUMO−LUMO同士の静電反発が大きくなり、図3に示すようなHOMOとLUMOが交互に近接する構造をとりやすいものと考えられる。すなわち、高Tの青色発光材料に対応した周辺材料においては、低T化せずに、本来では存在確率が低いHOMO−HOMO同士、LUMO−LUMO同士を近接させる技術が必要である。
本発明の技術思想は、共役系の拡大によるT低下を生じさせない、アルキル基の微弱な分子間力のアシストを借りて、図6に示すような理想的な分子の存在状態を実現するための分子設計である。
≪HOMO、LUMOの電荷分離≫
本発明において、「最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)が空間的に分離する」とは、分子内でHOMOが局在化する部位とLUMOが局在化する部位が異なっていることを意味し、本発明に係る芳香族化合物の基底状態の安定化構造において、HOMOの電子密度分布の重心とLUMOの電子分布密度の重心が異なる部位にあることを意味する(図5参照)。すなわち、本発明に係る芳香族化合物は、HOMOとLUMOの電子密度分布の重なりが小さい、若しくは重なりが無い。
電子密度分布は、後述の分子軌道計算用ソフトウェアを用いることで算出できる。
[電子密度分布]
HOMO及びLUMOの分布状態および重心については、分子軌道計算により得られる構造最適化した際の電子密度分布から求めることができる。
本発明における電荷移動性薄膜用材料の分子軌道計算による構造最適化及び電子密度分布の算出は、計算手法として、汎関数としてB3LYP、基底関数として6−31G(d)を用いた分子軌道計算用ソフトウェアを用いて算出することができ、ソフトウェアに特に限定はなく、いずれを用いても同様に求めることができる。
本発明においては、分子軌道計算用ソフトウェアとして、米国Gaussian社製のGaussian09(Revision C.01,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,2010.)を用いた。
また、HOMOとLUMOの電子密度分離状態については、前述の汎関数としてB3LYP、基底関数として6−31G(d)を用いた構造最適化計算から、さらに時間依存密度汎関数法(Time−Dependent DFT)による励起状態計算を実施してS、Tのエネルギー(それぞれE(S)、E(T))を求めてΔEst=E(S)−E(T)として算出することも可能である。算出されたΔEstが小さいほど、HOMOとLUMOがより分離していることを示す。本発明において好ましくは、前述と同様の計算手法を用いて算出されたΔEstが1.0eV以下であり、さらに好ましくは0.5eV以下である。
≪芳香族化合物≫
本発明に係る芳香族化合物は、分子軌道計算により描像される前記芳香族化合物上に分布する最高被占軌道及び最低空軌道が空間的に分離する少なくとも2つ以上の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を有し、さらに炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を有する。本発明に係る芳香族化合物が有する環構造及び置換基について、具体例を挙げて説明する。
<芳香族炭化水素環>
本発明に係る芳香族化合物が有する芳香族炭化水素環とは、芳香族炭化水素環基を有する構造であればよく、例えば、フェニル基(アリール基ともいう。)、p−クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等を有する構造が好ましい。
<芳香族複素環>
本発明に係る芳香族化合物が有する芳香族複素環とは、芳香族複素環基を有する構造であればよく、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4−トリアゾール−1−イル基、1,2,3−トリアゾール−1−イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等を用いることができる。
<アルキル基>
本発明における炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基とは、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等を挙げることができる。
<一般式(1)で表される構造を有する芳香族化合物>
本発明においては、前記芳香族化合物が、下記一般式(1)に示す構造を有する化合物であることがキャリア輸送に好適な相互作用形態をとりやすいため好ましい。
一般式(1):
(R−A−(L)−B−(R
上記一般式(1)において、A及びBは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。R及びRは、炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を表す。Lは、単なる結合手、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基若しくはアルキレン基である。m及びnは、それぞれ0又は1以上の整数を表し、m及びnがともに0になることはない。kは1以上の整数を表す。
芳香族炭化水素環、芳香族複素環及びアルキル基としては、前述のものを用いることができる。
また、本発明で用いられるアルキレン基としては、例えば、プロピレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基等を挙げることができる。
一般式(1)中のアルキル基の好ましい炭素数については、炭素数が3〜20の範囲内とすることで、アルキル基同士の相互作用、例えば疎水性相互作用が得られると考えられる。炭素数3以上とすることで、アルキル基同士の相互作用のアシストの効果が得られやすく、炭素数20以下とすることで、キャリアホッピング伝導に必要なπ−πスタックの形成との相乗効果でHOMO同士、LUMO同士が近接する集合構造が取りやすくなるものと考えられる。
<エレクトロマー由来の発光等の観測>
エレクトロマー由来の発光は、電流励起発光スペクトルにおいて蛍光やリン光より長波長側(通常550nm以上の)領域に極大発光波長を有する発光体(発光ピーク)として観測される。
(電流励起発光スペクトル測定用のサンプル)
電流励起発光スペクトルの測定は、電荷移動性薄膜用材料のみからなる薄膜を陽極と陰極で挟持したサンプルを用いて行われる。より具体的には、例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)などの透明電極を設けた透明支持基板上に、電荷移動性薄膜用材料のみからなる単一層を形成し、その上にアルミニウムなどを蒸着して陰極を形成し、必要があればその他の層を形成したものをサンプルとしてもよい。
電荷移動性薄膜用材料を含有する単一層の形成方法は蒸着法であっても、スピンコート等の塗布法であってもよい。当該単一層の層厚は、発光が十分に得られる層厚であれば特に限定は無いが、200nm以下とすることで測定時の駆動電圧が大きくなりすぎず、50nm以上とすることでリーク電流が流れにくくなるため、50〜200nmであることが好ましい。
また、測定サンプルに電流を印加する際の電圧が非常に大きくなる場合(単一層に電荷キャリアが注入されにくい状態)には、陽極と該単一層又は陰極と該単一層の間に、該単一層へのキャリア注入効率を高め、電圧を低下させるような中間層を適宜設けてもよい。中間層の材料としては、電荷移動性薄膜用材料を含有する層からの発光を阻害せず、キャリアを輸送する材料であれば特に限定は無いが、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる正孔輸送材料や電子輸送材料等が好ましく用いられる。
(電流励起発光スペクトルの測定方法)
電流励起発光スペクトルは、得られた測定サンプルを一定電流で駆動したときの、サンプルから得られる発光スペクトルを電流励起発光スペクトルとして測定する。駆動電流値は、電荷移動性薄膜用材料を含有する層からの発光が十分に得られる電流値であれば特に限定は無いが、1〜50mA/cmであることが好ましい。
得られた電流励起発光スペクトルにおいて、500nm以下で観測される最大発光強度の値をaとし、aが、駆動初期時の値(初期a)から5分の1に減衰するまで定電流駆動しつつ、電流励起スペクトルを経時で測定する。
得られた駆動初期から測定終了までの電流励起スペクトルにおいて、経時でのaと、550nm以上で観測される最大発光強度bとの比、<a/b>を算出する。
(a及びbの構成要件)
ここで、参考論文から、bは、HOMOとLUMOが近接した、エレクトロマー由来の発光であり、aは、その他の相互作用形態、例えば、ランダムに配置している状態や、HOMO同士、LUMO同士が近接した状態での最大発光強度である。
つまり、aよりもbが強いと、膜中での化合物の会合状態としては、HOMOとLUMOが近接したエレクトロマーが、その他の相互作用形態を示す状態(ランダムに配置している状態や、HOMO同士、LUMO同士が近接した状態)よりも多くなると推定される。すなわち、その他の相互作用形態を示す状態(ランダムに配置している状態や、HOMO同士、LUMO同士が近接した状態)での発光が、エレクトロマー由来の発光よりも強いことで、エレクトロマーにクエンチされることなく、キャリア移動することができるものと考えられる。本発明においては、有機電子デバイスに用いる有機材料のエレクトロマーの生成を抑制することによって、キャリア消滅による駆動劣化を抑え、素子寿命が向上することを見いだした。
<合成例>
以下に、本発明に係る化合物の合成例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。表1中のHS−3の合成方法を例にとって以下に説明する。
《例示化合物HS−3の合成》
例示化合物HS−3は以下のスキームに従って合成できる。
Figure 0006805133
(中間体1の合成)
窒素気流下、フラスコに10.0g(59.8mmol)のカルバゾール、塩化アルミニウム8.77g(65.8mmol)、ヘキサン酸塩化物8.85g(65.8mmol)をいれ、ジクロロエタン220mLを加え、1時間室温で撹拌した。水に反応液を加え、ジクロロメタンで抽出し、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、中間体1を3.4g(収率21%)得た。構造は核磁気共鳴スペクトルで確認した。
(中間体2の合成)
窒素気流下、フラスコに1.5g(5.66mmol)の中間体1、ヒドラジン1水和物850mg(17.0mmol)、水酸化カリウム952mg(17.0mmol)をいれ、エチレングリコール28.2mLを加え、110℃で2時間撹拌し、続いて180℃で14時間撹拌した。反応液を室温に戻した後、水を加え、酢酸エチルで抽出し、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、中間体2を1.28g(収率90%)得た。構造は核磁気共鳴スペクトルで確認した。
(HS−3の合成)
窒素気流下、フラスコに1.2g(4.77mmol)の中間体2、1.79g(4.34mmol)の中間体3、リン酸カリウム3.32g(15.6mmol)、酸化銅(I)0.19g(1.30mmol)、ジピバロイルメタン0.48g(2.60mmol)をいれ、ジメチルスルホシキド29mLを加え、7時間160℃で加熱した。反応液を室温まで放冷した後、水を加え、酢酸エチルで抽出し、減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびGPCで精製し、例示化合物HS−3を1.15g(収率45%)得た。構造は核磁気共鳴スペクトルで確認した。なお、実施例にはこの化合物をさらに昇華精製したものを用いた。
<分子動力学(MD)計算を用いた安定化エネルギーの検討>
本発明に係る芳香族化合物が、アルキル基の相互作用により図6に示すような好ましい二分子間構造を形成しやすいか、MD計算によって算出される安定化エネルギーから検討した。
本発明の電荷移動性薄膜用材料を含有する透明な薄膜は、全体としてはアモルファス若しくは結晶性の低い状態であると推測される。そのような薄膜中で、図4のような好ましい相互作用をした二分子間構造を形成するには、安定化エネルギーが小さい方が好ましいと考えられる。
二分子間構造の安定化エネルギーは、分子動力学(MD)計算ソフトを用いて算出することができる。代表的なソフトとしては、例えばAccelrys社のMaterials Studioなどがある。
薄膜中には非常に多くの分子が存在するが、それら全分子を用いて安定化エネルギーを算出することは難しいため、本発明においては、モデル的に2つの分子を使った二分子構造の安定化エネルギーを用いて検討した。
以下に、MD計算を使用した検討方法を説明する。
計算ソフトは、Materials Studio(accelrys社製)を用いた。
計算は、以下の(1)〜(5)の手順で行った。
(1)Materials Studioを用いて、1分子での構造最適化を行う。
(2)(1)で最適化された構造を持つ分子が2つ含まれるセルを作成する。さらにこれらのセルを複製する。複製する個数は100〜1000が好ましい。
(3)分子動力学(MD)計算を用いて緩和させる。
Forciteを用いて、温度298K、NPT:一定の条件で緩和させた。
(4)緩和後得られた複数のセルのうち、エネルギー的に最安定な2分子構造(以下最安定構造A)と、アルキル基同士が相互作用していると推測される2分子構造の中で最も安定な構造(以下最安定構造B)とを抽出する。
この時、アルキル基同士が相互作用しているか否かの判断については、図7に示すように、分子間のアルキル基の付け根の炭素原子同士と、アルキル基末端の炭素原子同士の距離が6Å以下であれば、相互作用していると本発明においては定義した。6Å以下までアルキル基同士が近接していれば、何らかの相互作用が働いていると考えられるためである。
(5)最安定構造Aと最安定構造Bとのエネルギーを比較し、そのエネルギー差が小さいほど、薄膜中で好ましい最安定構造Bが形成しやすいと考える。
表1に実施例と参考例で用いたHS−1、HS−2、HS−3及び比較化合物2の計算結果を示す。
Figure 0006805133
表1に示す通り、本発明に係る芳香族化合物及び参考例の化合物のHS−1〜HS−3においては、比較化合物2よりも、最安定構造AとBとの間のエネルギー差が小さく、エネルギー的にアルキル基同士が相互作用した最安定構造Bがより形成されやすいという計算結果が得られた。
《有機エレクトロルミネッセンス素子の構成層》
本発明の電荷移動性薄膜用材料及び電荷移動性薄膜は、有機EL素子に好適に用いることができる。有機EL素子における代表的な素子構成としては、以下の構成を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/(電子阻止層/)発光層/(正孔阻止層/)電子輸送層/電子注入層/陰極
上記の中で(7)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
発光層は、単層又は複数層で構成されており、発光層が複数の場合は各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。
必要に応じて、発光層と陰極との間に正孔阻止層(正孔障壁層ともいう。)や電子注入層(陰極バッファー層ともいう。)を設けてもよく、また、発光層と陽極との間に電子阻止層(電子障壁層ともいう。)や正孔注入層(陽極バッファー層ともいう。)を設けてもよい。
電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層であり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
上記の代表的な素子構成において、陽極と陰極を除いた層を「有機層」とする。
(タンデム構造)
また、有機EL素子は、少なくとも1層の発光層を含む発光ユニットを複数積層した、いわゆるタンデム構造の素子であってもよい。
タンデム構造の代表的な素子構成としては、例えば以下の構成を挙げることができる。
陽極/第1発光ユニット/第2発光ユニット/第3発光ユニット/陰極
陽極/第1発光ユニット/中間層/第2発光ユニット/中間層/第3発光ユニット/陰極
ここで、上記第1発光ユニット、第2発光ユニット及び第3発光ユニットは全て同じであっても、異なっていてもよい。また、二つの発光ユニットが同じであり、残る一つが異なっていてもよい。
また、第3発光ユニットはなくてもよく、一方で第3発光ユニットと電極の間にさらに発光ユニットや中間層を設けてもよい。
複数の発光ユニットは直接積層されていても、中間層を介して積層されていてもよく、中間層は、一般的に中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれ、陽極側の隣接層に電子を、陰極側の隣接層に正孔を供給する機能を持った層であれば、公知の材料及び構成を用いることができる。
中間層に用いられる材料としては、例えば、ITO(インジウム・スズ酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO、TiN、ZrN、HfN、TiO、V、CuI、InN、GaN、CuAlO、CuGaO、SrCu、LaB、RuO、Al等の導電性無機化合物層や、Au/Bi等の2層膜や、SnO/Ag/SnO、ZnO/Ag/ZnO、Bi/Au/Bi、TiO/TiN/TiO、TiO/ZrN/TiO等の多層膜、またC60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物層、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
発光ユニット内の好ましい構成としては、例えば上記の代表的な素子構成で挙げた(1)〜(7)の構成から、陽極と陰極を除いたもの等が挙げられるが、これらに限定されない。
タンデム型有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号明細書、米国特許第7420203号明細書、米国特許第7473923号明細書、米国特許第6872472号明細書、米国特許第6107734号明細書、米国特許第6337492号明細書、国際公開第2005/009087号、特開2006−228712号公報、特開2006−24791号公報、特開2006−49393号公報、特開2006−49394号公報、特開2006−49396号公報、特開2011−96679号公報、特開2005−340187号公報、特許第4711424号公報、特許第3496681号公報、特許第3884564号公報、特許第4213169号公報、特開2010−192719号公報、特開2009−076929号公報、特開2008−078414号公報、特開2007−059848号公報、特開2003−272860号公報、特開2003−045676号公報、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
次に、有機層に含有される化合物を説明し、各層について説明する。
《発光層》
有機層は、本発明に係る芳香族化合物を含有していることが好ましく、発光層に含有されていることも好ましい。
また、有機層は、発光層を有し、電極又は隣接層から注入されてくる電子及び正孔が再結合し、励起子を経由して発光する場を提供する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても、発光層と隣接層との界面であってもよい。発光層は、本発明で規定する要件を満たしていれば、その構成に特に制限はない。
発光層の層厚の総和は、特に制限はないが、形成する層の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、かつ駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm〜5μmの範囲内に調整することが好ましく、より好ましくは2〜500nmの範囲内に調整され、更に好ましくは5〜200nmの範囲内に調整される。
また、本発明において個々の発光層の層厚としては、2nm〜1μmの範囲内に調整することが好ましく、より好ましくは2〜200nmの範囲内に調整され、更に好ましくは3〜150nmの範囲内に調整される。
本発明に係る発光層には、発光ドーパント(発光性ドーパント化合物、ドーパント化合物、単にドーパントともいう)と、ホスト化合物(マトリックス材料、ホスト化合物、単にホストともいう)とを含有することが好ましい。
〈ホスト化合物〉
本発明に用いられるホスト化合物は、発光層において主に電荷の注入及び輸送を担う化合物であり、有機EL素子においてそれ自体の発光は実質的に観測されない。
好ましくは室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物であり、さらに好ましくはリン光量子収率が0.01未満の化合物である。また、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
また、ホスト化合物の励起状態エネルギーは、同一層内に含有される発光ドーパントの励起状態エネルギーよりも高いことが好ましい。
ホスト化合物は、単独で用いてもよく、又は複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。
本発明で用いることができるホスト化合物としては、特に制限はなく、従来有機EL素子で用いられる化合物を用いることができる。低分子化合物でも繰り返し単位を有する高分子化合物でもよく、また、ビニル基やエポキシ基のような反応性基を有する化合物でもよい。
公知のホスト化合物としては、正孔輸送能又は電子輸送能を有しつつ、かつ発光の長波長化を防ぎ、さらに、有機EL素子を高温駆動時や素子駆動中の発熱に対して安定して動作させる観点から、高いガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。好ましくはTgが90℃以上であり、より好ましくは120℃以上である。
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121−2012に準拠した方法により求められる値である。
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報、米国特許公開第2003/0175553号明細書、米国特許公開第2006/0280965号明細書、米国特許公開第2005/0112407号明細書、米国特許公開第2009/0017330号明細書、米国特許公開第2009/0030202号明細書、米国特許公開第2005/0238919号明細書、国際公開第2001/039234号、国際公開第2009/021126号、国際公開第2008/056746号、国際公開第2004/093207号、国際公開第2005/089025号、国際公開第2007/063796号、国際公開第2007/063754号、国際公開第2004/107822号、国際公開第2005/030900号、国際公開第2006/114966号、国際公開第2009/086028号、国際公開第2009/003898号、国際公開第2012/023947号、特開2008−074939号公報、特開2007−254297号公報、欧州特許第2034538号明細書等である。
〈発光ドーパント〉
本発明で用いられる発光ドーパントとしては、蛍光発光性ドーパント(蛍光ドーパント、蛍光性化合物ともいう。)と、リン光発光性ドーパント(リン光ドーパント、リン光性化合物ともいう。)が好ましく用いられる。本発明においては、少なくとも1層の発光層がリン光ドーパントを含有することが好ましい。
発光層中の発光ドーパントの濃度については、使用される特定のドーパント及びデバイスの必要条件に基づいて、任意に決定することができ、発光層の層厚方向に対し、均一な濃度で含有されていてもよく、また任意の濃度分布を有していてもよい。
また、本発明に用いられる発光ドーパントは、複数種を併用して用いてもよく、構造の異なるドーパント同士の組み合わせや、蛍光発光性ドーパントとリン光発光性ドーパントとを組み合わせて用いてもよい。これにより、任意の発光色を得ることができる。
本発明の有機EL素子や本発明に用いられる化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図5.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタ(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
本発明においては、1層又は複数層の発光層が、発光色の異なる複数の発光ドーパントを含有し、白色発光を示すことも好ましい。
白色を示す発光ドーパントの組み合わせについては特に限定はないが、例えば青と橙や、青と緑と赤の組み合わせ等が挙げられる。
本発明の有機EL素子における白色とは、特に限定はなく、橙色寄りの白色であっても青色寄りの白色であってもよいが、2度視野角正面輝度を前述の方法により測定した際に、1000cd/mでのCIE1931表色系における色度がx=0.39±0.09、y=0.38±0.08の領域内にあることが好ましい。
(リン光ドーパント)
本発明に係るリン光ドーパント(以下、「リン光発光性ドーパント」ともいう。)は、最低励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
リン光ドーパントの発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光ドーパントに移動させることでリン光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型である。もう一つはリン光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光ドーパント上でキャリアの再結合が起こりリン光ドーパントからの発光が得られるというキャリアトラップ型である。いずれの場合においても、リン光ドーパントの励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
本発明において使用できるリン光ドーパントとしては、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
本発明に使用できる公知のリン光ドーパントの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物等が挙げられる。
Nature,395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.,78,1622(2001)、Adv.Mater.,19,739(2007)、Chem.Mater.,17,3532(2005)、Adv.Mater.,17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許公開第2006/835469号、米国特許公開第2006/0202194号明細書、米国特許公開第2007/0087321号明細書、米国特許公開第2005/0244673号明細書、Inorg.Chem.,40,1704(2001)、Chem.Mater.,16,2480(2004)、Adv.Mater.,16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.,2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.,86,153505(2005)、Chem.Lett.,34,592(2005)、Chem.Commun.,2906(2005)、Inorg.Chem.,42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許公開第2002/0034656号明細書、米国特許第7332232号明細書、米国特許公開第2009/0108737号明細書、米国特許公開第2009/0039776号明細書、米国特許第6921915号明細書、米国特許第6687266号明細書、米国特許公開第2007/0190359号明細書、米国特許公開第2006/0008670号明細書、米国特許公開第2009/0165846号明細書、米国特許公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7250226号明細書、米国特許第7396598号明細書、米国特許公開第2006/0263635号明細書、米国特許公開第2003/0138657号明細書、米国特許公開第2003/0152802号明細書、米国特許第7090928号明細書、Angew.Chem.lnt.Ed.,47,1(2008)、Chem.Mater.,18,5119(2006)、Inorg.Chem.,46,4308(2007)、Organometallics,23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.,74,1361(1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許公開第2006/0251923号明細書、米国特許公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7393599号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許第7445855号明細書、米国特許公開第2007/0190359号明細書、米国特許公開第2008/0297033号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許公開第2002/0134984号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許公開第2006/098120号明細書、米国特許公開第2006/103874号明細書、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008/140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許公開第2012/228583号明細書、米国特許公開第2012/212126号明細書、特開2012−069737号公報、特開2012−195554号公報、特開2009−114086号公報、特開2003−81988号公報、特開2002−302671号公報、特開2002−363552号公報等である。
中でも、好ましいリン光ドーパントとしてはIrを中心金属に有する有機金属錯体が挙げられる。さらに好ましくは、金属−炭素結合、金属−窒素結合、金属−酸素結合及び金属−硫黄結合のうち、少なくとも一つの配位様式を含む錯体が好ましい。
(蛍光ドーパント)
本発明に用いられる蛍光ドーパント(以下、「蛍光発光性ドーパント」ともいう。)は、励起一重項からの発光が可能な化合物であり、励起一重項からの発光が観測される限り特に限定されない。
本発明に用いられる蛍光ドーパントとしては、例えば、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、ペリレン誘導体、フルオレン誘導体、アリールアセチレン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、スチリルアミン誘導体、アリールアミン誘導体、ホウ素錯体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、シアニン誘導体、クロコニウム誘導体、スクアリウム誘導体、オキソベンツアントラセン誘導体、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、ピリリウム誘導体、ペリレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、又は希土類錯体系化合物等が挙げられる。
また、近年では遅延蛍光を利用した発光ドーパントも開発されており、これらを用いてもよい。
遅延蛍光を利用した発光ドーパントの具体例としては、例えば、国際公開第2011/156793号、特開2011−213643号公報、特開2010−93181号公報等に記載の化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
《電子輸送層》
本発明において電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明に用いられる電子輸送層の総層厚については特に制限はないが、通常は2nm〜5μmの範囲内であり、より好ましくは2〜500nmの範囲内であり、さらに好ましくは5〜200nmの範囲内である。
また、有機EL素子においては発光層で生じた光を電極から取り出す際、発光層から直接取り出される光と、光を取り出す電極と対極に位置する電極によって反射されてから取り出される光とが干渉を起こすことが知られている。光が陰極で反射される場合は、電子輸送層の層厚を数nm〜数μmの間で適宜調整することにより、この干渉効果を効率的に利用することが可能である。
一方で、電子輸送層の層厚を厚くすると電圧が上昇しやすくなるため、特に層厚が厚い場合においては、電子輸送層の電子移動度は1×10−5cm/Vs以上であることが好ましい。
電子輸送層に用いられる材料(以下、電子輸送材料という。)としては、電子の注入性又は輸送性、正孔の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、含窒素芳香族複素環誘導体(カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体(カルバゾール環を構成する炭素原子の一つ以上が窒素原子に置換されたもの)、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリダジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、アザトリフェニレン誘導体、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体等)、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、シロール誘導体、芳香族炭化水素環誘導体(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、トリフェニレン等)等が挙げられる。
また、配位子にキノリノール骨格やジベンゾキノリノール骨格を有する金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
また、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
本発明に用いられる電子輸送層においては、電子輸送層にドープ材をゲスト材料としてドープして、n性の高い(電子リッチ)電子輸送層を形成してもよい。ドープ材としては、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントが挙げられる。このような構成の電子輸送層の具体例としては、例えば、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等の文献に記載されたものが挙げられる。
有機EL素子に用いられる、公知の好ましい電子輸送材料の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
米国特許第6528187号明細書、米国特許第7230107号明細書、米国特許公開第2005/0025993号明細書、米国特許公開第2004/0036077号明細書、米国特許公開第2009/0115316号明細書、米国特許公開第2009/0101870号明細書、米国特許公開第2009/0179554号明細書、国際公開第2003/060956号、国際公開第2008/132085号、Appl.Phys.Lett.,75,4(1999)、Appl.Phys.Lett.,79,449(2001)、Appl.Phys.Lett.,81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.,81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.,79,156(2001)、米国特許第7964293号明細書、米国特許公開第2009/030202号明細書、国際公開第2004/080975号、国際公開第2004/063159号、国際公開第2005/085387号、国際公開第2006/067931号、国際公開第2007/086552号、国際公開第2008/114690号、国際公開第2009/069442号、国際公開第2009/066779号、国際公開第2009/054253号、国際公開第2011/086935号、国際公開第2010/150593号、国際公開第2010/047707号、EP2311826号、特開2010−251675号公報、特開2009−209133号公報、特開2009−124114号公報、特開2008−277810号公報、特開2006−156445号公報、特開2005−340122号公報、特開2003−45662号公報、特開2003−31367号公報、特開2003−282270号公報、国際公開第2012/115034号等である。
本発明におけるより好ましい電子輸送材料としては、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、トリアジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体が挙げられる。
有機EL素子の電子輸送層に用いる化合物として好ましい具体例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
電子輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
《正孔阻止層》
正孔阻止層とは、広い意味では電子輸送層の機能を有する層であり、好ましくは電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が小さい材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に用いられる正孔阻止層として用いることができる。
有機EL素子に設ける正孔阻止層は、発光層の陰極側に隣接して設けられることが好ましい。
本発明に用いられる正孔阻止層の層厚としては、好ましくは3〜100nmの範囲内であり、更に好ましくは5〜30nmの範囲内である。
正孔阻止層に用いられる材料としては、前述の電子輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物として用いられる材料も正孔阻止層に好ましく用いられる。
《電子注入層》
本発明に用いられる電子注入層(「陰極バッファー層」ともいう。)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陰極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されている。
本発明において電子注入層は、必要に応じて設け、上記のように陰極と発光層との間、又は陰極と電子輸送層との間に存在させてもよい。
電子注入層はごく薄い膜であることが好ましく、素材にもよるがその層厚は0.1〜5nmの範囲内が好ましい。また構成材料が断続的に存在する不均一な膜であってもよい。
電子注入層は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、電子注入層に好ましく用いられる材料の具体例としては、ストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等に代表されるアルカリ金属化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等に代表されるアルカリ土類金属化合物、酸化アルミニウムに代表される金属酸化物、リチウム8−ヒドロキシキノレート(Liq)等に代表される金属錯体等が挙げられる。また、前述の電子輸送材料を用いることも可能である。
また、上記の電子注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、複数種を併用して用いてもよい。
《正孔輸送層》
本発明において正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する材料からなり、陽極より注入された正孔を発光層に伝達する機能を有していればよい。
本発明に用いられる正孔輸送層の総層厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲内であり、より好ましくは2〜500nmの範囲内であり、さらに好ましくは5〜200nmの範囲内である。
正孔輸送層に用いられる材料(以下、正孔輸送材料ともいう。)としては、正孔の注入性又は輸送性、電子の障壁性のいずれかを有していればよく、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。
例えば、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、イソインドール誘導体、アントラセンやナフタレン等のアセン系誘導体、フルオレン誘導体、フルオレノン誘導体、及びポリビニルカルバゾール、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー、ポリシラン、導電性ポリマー又はオリゴマー(例えばPEDOT/PSS、アニリン系共重合体、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等が挙げられる。
トリアリールアミン誘導体としては、α−NPDに代表されるベンジジン型や、MTDATAに代表されるスターバースト型、トリアリールアミン連結コア部にフルオレンやアントラセンを有する化合物等が挙げられる。
また、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
さらに不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Appl.Phys.Lett.,80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料やp型−Si、p型−SiC等の無機化合物を用いることもできる。さらにIr(ppy)に代表されるような中心金属にIrやPtを有するオルトメタル化有機金属錯体も好ましく用いられる。
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、トリアリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、アザトリフェニレン誘導体、有機金属錯体、芳香族アミンを主鎖又は側鎖に導入した高分子材料又はオリゴマー等が好ましく用いられる。
有機EL素子に用いられる、公知の好ましい正孔輸送材料の具体例としては、上記で挙げた文献の他、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
例えば、Appl.Phys.Lett.,69,2160(1996)、J.Lumin.,72−74,985(1997)、Appl.Phys.Lett.,78,673(2001)、Appl.Phys.Lett.,90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.,90,183503(2007)、Appl.Phys.Lett.,51,913(1987)、Synth.Met.,87,171(1997)、Synth.Met.,91,209(1997)、Synth.Met.,111,421(2000)、SID Symposium Digest,37,923(2006)、J.Mater.Chem.,3,319(1993)、Adv.Mater.,6,677(1994)、Chem.Mater.,15,3148(2003)、米国特許公開第2003/0162053号明細書、米国特許公開第2002/0158242号明細書、米国特許公開第2006/0240279号明細書、米国特許公開第2008/0220265号明細書、米国特許第5061569号明細書、国際公開第2007/002683号、国際公開第2009/018009号、EP650955、米国特許公開第2008/0124572号明細書、米国特許公開第2007/0278938号明細書、米国特許公開第2008/0106190号明細書、米国特許公開第2008/0018221号明細書、国際公開第2012/115034号、特表2003−519432号公報、特開2006−135145号公報、米国特許出願番号13/585981号等である。
正孔輸送材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
《電子阻止層》
電子阻止層とは、広い意味では正孔輸送層の機能を有する層であり、好ましくは正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する正孔輸送層の構成を必要に応じて、本発明に用いられる電子阻止層として用いることができる。
有機EL素子に設ける電子阻止層は、発光層の陽極側に隣接して設けられることが好ましい。
本発明に用いられる電子阻止層の層厚としては、好ましくは3〜100nmの範囲内であり、更に好ましくは5〜30nmの範囲内である。
電子阻止層に用いられる材料としては、前述の正孔輸送層に用いられる材料が好ましく用いられ、また、前述のホスト化合物として用いられる材料も電子阻止層に好ましく用いられる。
《正孔注入層》
本発明に用いられる正孔注入層(「陽極バッファー層」ともいう。)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために陽極と発光層との間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されている。
本発明において正孔注入層は必要に応じて設け、上記のように陽極と発光層又は陽極と正孔輸送層との間に存在させてもよい。
正孔注入層は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、正孔注入層に用いられる材料としては、例えば前述の正孔輸送層に用いられる材料等が挙げられる。
中でも銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン誘導体、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体、酸化バナジウムに代表される金属酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体、トリアリールアミン誘導体等が好ましい。
前述の正孔注入層に用いられる材料は単独で用いてもよく、また複数種を併用して用いてもよい。
《その他の添加化合物》
前述した有機層は、更に他の添加含有物が含まれていてもよい。
添加含有物としては、例えば臭素、ヨウ素及び塩素等のハロゲン元素やハロゲン化化合物、Pd、Ca、Na等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属の化合物や錯体、塩等が挙げられる。
添加含有物の含有量は、任意に決定することができるが、含有される層の全質量%に対して1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。
ただし、電子や正孔の輸送性を向上させる目的や、励起子のエネルギー移動を有利にするための目的などによってはこの範囲内ではない。
《有機層の形成方法》
本発明に係る有機層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等)の形成方法について説明する。
本発明に係る有機層の形成方法は、特に制限はなく、従来公知の例えば真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう。)等による形成方法を用いることができるが、湿式法により形成することがより好ましい。
湿式法としては、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア−ブロジェット法)等があるが、均質な薄膜が得られやすく、かつ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法などのロールtoロール方式適性の高い方法が好ましい。
有機EL材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
更に層毎に異なる成膜法を適用してもよい。成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度1×10−6〜1×10−2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、層厚0.1nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
本発明に係る有機層の形成は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際は作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上、好ましくは4.5eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウム・スズ酸化物(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。
また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、又はパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
また、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。
陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10〜200nmの範囲内で選ばれる。
《陰極》
陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する。)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第2金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
《支持基板》
有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)又はアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等のフィルムを挙げられる。
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が0.01g/(m・24h)以下のガスバリアー性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10−3ml/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、1×10−5g/(m・24h)以下の高ガスバリアー性フィルムであることが好ましい。
ガスバリアー膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
ガスバリアー膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
有機EL素子の発光の室温における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であるとより好ましい。
ここで、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体として用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。
《その他の構成》
本発明に用いることができる封止手段、保護膜、保護板、光取り出し効率を向上させる技術及び集光シートとしては、特開2014−152151号公報等に記載の公知の技術を用いることができる。
《用途》
本発明の電荷移動性薄膜用材料を用いた有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。
発光光源として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
《表示装置》
本発明の電荷移動性薄膜用材料を用いた有機EL素子は、表示装置に用いることができる。表示装置は単色でも多色でもよいが、ここでは多色表示装置について説明する。
多色表示装置の場合は発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、スピンコート法、印刷法である。
表示装置に具備される有機EL素子の構成は、必要に応じて上記の有機EL素子の構成例の中から選択される。
また、有機EL素子の製造方法は、上記の有機EL素子の製造の一態様に示したとおりである。
このようにして得られた多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることによりフルカラーの表示が可能となる。
表示デバイス、ディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
発光光源としては、家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
≪照明装置の一態様≫
本発明の電荷移動性薄膜用材料を用いた有機EL素子を具備した、照明装置の一態様について説明する。
有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、図8及び図9に示すような照明装置を形成することができる。
図8は、照明装置の概略図を示し、有機EL素子101はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
図9は、照明装置の断面図を示し、図9において、105は陰極、106は有機EL層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。実施例で使用した化合物を以下に示す。
Figure 0006805133
Figure 0006805133
Figure 0006805133
《電流励起発光スペクトル観測用のサンプル作製》
電流励起発光スペクトル観測用のサンプル1−1〜1−6を作製し、照明装置に組み込んで評価を行った。
<サンプル1−1の作製>
(陽極の形成)
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITO(インジウム・スズ酸化物)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
(正孔注入層の形成)
ITO表面をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSSと略記、Bayer製、Baytron P Al 4083)を純水で希釈した溶液をスリットコート法により成膜した後、140℃にて1時間乾燥し、層厚40nmの正孔注入層を設けた。
この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方モリブデン製抵抗加熱ボートに酸化モリブデンを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに化合物EB−1を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに比較化合物1を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに化合物HB−1を200mg入れ、さらに別のモリブデン製抵抗加熱ボートに化合物ET−1を200mg入れ、真空蒸着装置に取り付けた。
(正孔輸送層の形成)
次いで真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、酸化モリブデンの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、透明支持基板に蒸着し1.0nmの正孔輸送層を設けた。
(電子阻止層の形成)
更に化合物EB−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔輸送層上に蒸着し、10nmの電子阻止層を設けた。
(発光層の形成)
更に比較化合物1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔輸送層上に共蒸着し60nmの発光層を設けた。
(正孔阻止層の形成)
更に化合物HB−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記発光層上に蒸着し10nmの正孔阻止層を設けた。
(電子輸送層の形成)
更に化合物ET−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔阻止層上に蒸着し30nmの電子輸送層を設けた。
(電子注入層及び陰極層の形成)
引き続き、電子注入層としてフッ化カリウム2nmを蒸着し、更にアルミニウム100nmを蒸着して陰極を形成し、サンプル1−1を作製した。
<サンプル1−2〜1−6の作製>
サンプル1−1の作製において、比較化合物1を表2に記載の化合物に変えた以外は同様にして、サンプル1−2〜1−6を作製した。
《サンプル1−1〜1−6の評価》
得られたサンプル1−1〜1−6を評価するに際しては、作製後の各サンプルの非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材としてエポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを上記陰極上に重ねて前記透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して硬化させて封止し、図8及び図9に示すような照明装置を作製して評価した。このようにして作製した照明装置を用いてサンプル1−1〜1−6について蛍光強度半減寿命の評価を行った。評価結果を比較化合物とともに表2に示す。本明細書中での蛍光強度半減寿命とは、各照明装置を200μAの電流で定電流駆動させた際、発光波長500nm以下に出現する最大発光強度aが、通電開始初期値から1/2まで減衰するまでの時間(単位:hr)を求め、これを半減寿命の尺度とした。
Figure 0006805133
表2に示すように、炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を有する芳香族化合物を含有する電荷移動性薄膜用材料であり、a/bの最小値が1より大きい本発明に係る芳香族化合物であるHS−1及びHS−2においては、比較化合物1〜4に比べ蛍光発光の半減寿命が長い電荷移動性薄膜用材料となることが明らかとなった。
参考例2]
《有機EL素子の作製》
<有機EL素子2−1の作製>
(陽極の形成)
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITOを100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
(正孔注入層の形成)
ITO表面をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。この上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSSと略記、Bayer製、Baytron P Al 4083)を純水で希釈した溶液をスリットコート法により成膜した後、140℃にて1時間乾燥し、層厚40nmの正孔注入層を設けた。
この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方モリブデン製抵抗加熱ボートに化合物HT−1を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに化合物EB−1を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに比較化合物2を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに化合物BD−1を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに化合物HB−2を200mg入れ、さらに別のモリブデン製抵抗加熱ボートに化合物ET−2を200mg入れ、真空蒸着装置に取り付けた。
(正孔輸送層の形成)
次いで真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、HT−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、透明支持基板に蒸着し10nmの正孔輸送層を設けた。
(電子阻止層の形成)
更に化合物EB−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔輸送層上に蒸着し、5nmの電子阻止層を設けた。
(発光層の形成)
次いで、比較化合物2とBD−1の入った抵抗加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.01nm/秒で前記正孔輸送層上に共蒸着し、層厚30nmの発光層を形成した。
(正孔阻止層の形成)
更に化合物HB−2の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記発光層上に蒸着し5nmの正孔阻止層を設けた。
(電子輸送層の形成)
更に化合物ET−2の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で、前記正孔阻止層上に蒸着し30nmの電子輸送層を設けた。
(電子注入層及び陰極の形成)
引き続き、電子注入層としてフッ化カリウム2nmを蒸着し、更にアルミニウム100nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子2−1を作製した。
<有機EL素子2−2及び2−3の作製>
有機EL素子2―1の作製において、比較化合物2をHS−1、HS−3に変更した。それ以外は同様にして、有機EL素子2−2及び2−3を作製した。
《有機EL素子2−1〜2−3の評価》
各有機EL素子について下記の評価を行った。評価結果を表3に示す。
<半減寿命>
下記に示す測定法に従って、半減寿命の評価を行った。
各有機EL素子を初期輝度8000cd/mを与える電流で定電流駆動して、初期輝度の1/2になる時間を求め、これを半減寿命の尺度とした。なお、半減寿命は有機EL素子2−1を1とする相対値で表した。
なお、値が大きい方が耐久性に優れていることを示す。
Figure 0006805133
表3に示すとおり、炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を有する芳香族化合物を含有する電荷移動性薄膜用材料であり、a/bの最小値が1より大きく、エレクトロマー生成が抑制された、HS−1及びHS−3をホストとして用いた有機EL素子は、比較例の有機EL素子に比べ、半減寿命が優れていることが分かった。
参考例3]
<有機EL素子3−1の作製>
陽極として100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上にITOを100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
(正孔輸送層の形成)
この透明支持基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用い、3000rpm、30秒の条件でスピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、層厚20nmの正孔輸送層を設けた。
(第2正孔輸送層の形成)
この基板を窒素雰囲気下に移し、正孔輸送層上に、5mgのHT−2と45mgの正孔輸送材料HT−3とを10mlのトルエンに溶解した混合溶液を2000rpm、30秒の条件で正孔輸送層上にスピンコーティングし、薄膜を形成した。窒素雰囲気下、120℃、90秒間紫外光を照射し、光重合・架橋を行い、層厚約15nmの第2正孔輸送層を形成した。
(発光層の形成)
この第2正孔輸送層上に、100mgの比較化合物2と10mgのBD−2とを10mlのトルエンに溶解した溶液を用いて600rpm、30秒の条件でスピンコート法により薄膜を形成した。60℃で1時間真空乾燥し、層厚約70nmの発光層とした。
(電子輸送層の形成)
続いて、この基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、ET−3の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/secで前記発光層上に蒸着して層厚30nmの電子輸送層を設けた。なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
(陰極の形成)
引き続き、陰極バッファー層としてフッ化リチウム0.5nmを蒸着し、更にアルミニウム110nmを蒸着して陰極を形成し、有機EL素子3−1を作製した。
<有機EL素子3−2及び3−3の作製>
有機EL素子3−1の作製において、比較化合物2をHS−1、HS−3に変えた以外は同様にして、有機EL素子3−2及び3−3を作製した。
《有機EL素子の評価》
有機EL素子3−1〜3−3に対し、実施例2と同様にして半減寿命の評価を行った。
Figure 0006805133
表4に示すとおり、参考例の電荷移動性薄膜用材料を含有する有機EL素子3−2及び3−3は、比較例の有機EL素子3−1に比べ寿命において、優れていることが明らかである。
以上から、ウェットプロセスにより成膜された発光層に、参考例の芳香族化合物を含有させることが有用であることがわかった。
本発明により、長寿命の電荷移動性薄膜用材料及び電荷移動性薄膜用材料を用いた電荷移動性薄膜を得ることができ、当該電荷移動性薄膜用材料を用いた有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として好適に利用できる。
101 有機EL素子
102 ガラスカバー
105 陰極
106 有機EL層
107 透明電極付きガラス基板
108 窒素ガス
109 捕水剤

Claims (2)

  1. 芳香族化合物を含有する電荷移動性薄膜用材料であって、
    前記芳香族化合物が、分子軌道計算により描像される前記芳香族化合物上に分布する最高被占軌道及び最低空軌道が空間的に分離する少なくとも2つ以上の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を有し、さらに炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を有し、かつ
    前記芳香族化合物を含有する単一層の電流励起発光スペクトルが、下記式(1)を満たし、
    前記芳香族化合物が、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする電荷移動性薄膜用材料。
    式(1):a/b>1
    (式(1)中、aは、前記電流励起発光スペクトルにおいて、発光波長500nm以下に出現する最大発光強度を表し、bは、発光波長550nm以上に出現する最大発光強度を表す。aが通電開始初期値から1/5の値まで減衰する間、a及びbは常に式(1)の関係を満たす。)
    一般式(1):
    (R −A−(L) −B−(R
    (一般式(1)中、A及びBは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。R 及びR は、炭素数が3〜20の範囲内のアルキル基を表す。Lは、単なる結合手、又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、芳香族複素環基若しくはアルキレン基を表す。m及びnは、それぞれ1以上の整数を表す。kは1以上の整数を表す。)
  2. 請求項1に記載の電荷移動性薄膜用材料を含有することを特徴とする電荷移動性薄膜。
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