以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
〔実施形態1〕
図1は、本発明に係る連続重合装置を含む一実施形態(以下、「実施形態1」という。)を示す部分断面図である。以下、図1に基づき、実施形態1の構成を説明する。
<ポリアリーレンスフルィド連続重合装置>
はじめに、本発明の一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド(PAS)の製造方法(以下、「本製造方法」とも称する)において使用可能なPAS連続重合装置の構成について、図1に基づいて説明する。PAS連続重合装置100は、少なくとも符号1〜29で構成される。好ましくは符号30〜33、さらに好ましくは符号34〜36までを含む。
図1は、本実施形態に係るPAS製造方法において用いることが可能なPAS連続重合装置を含む構成を示す部分断面図である。
図1を参照して説明すると、PAS連続重合装置100は、反応槽1a、1b、及び1cの複数の反応槽を収容する収容室2を備えている。
収容室2の形状としては、反応槽1aに接する側壁3aおよび反応槽1cに接する側壁3bを底面とする中空円柱形を横倒ししたものである。なお、収容室2の形状はこれに限定されず、中空角柱形を横倒ししたもの等でもよい。
収容室2の側壁3aには、各反応原料を供給するラインが接続されている。具体的には、収容室2に有機極性溶媒を供給する有機極性溶媒供給ライン4、収容室2にアルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源を供給する硫黄源供給ライン5、及び収容室2にジハロ芳香族化合物を供給するジハロ芳香族化合物供給ライン6が、それぞれ収容室2の側壁3aに接続されている。なお、必要に応じて側壁3aには収容室2に水を供給する水供給ライン(図示せず)を接続してもよい。
収容室2の側壁3bには、収容室2から反応混合物を回収するための反応混合物回収ライン7が接続されている。反応原料である有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物は、それぞれが気相を介して反応槽1aの液相に供給されてもよいし、直接、反応槽1aの液相に供給されてもよい。なお、本明細書において、反応原料とは、PAS製造方法の重合反応において用いられる原料をいう。
反応槽1aと反応槽1bとは隔壁8aによって隔てられ、反応槽1bと反応槽1cとは隔壁8bによって隔てられている。反応槽1a、反応槽1b、及び反応槽1cは、収容室2における気相を介して、互いに連通している。その結果、収容室2における気相の圧力は均一となる。なお、このように連通していることによる効果は後述する。
反応槽1a、反応槽1bおよび反応槽1cは、上記順番で直列に接続されている。なお、前記反応混合物の移動方向の最上流の反応槽1aを除いた各反応槽において、前記移動方向の上流側の隔壁の最小高さは、その反応槽の前記最大液面レベルよりも高い。即ち、反応槽1bにおいて、前記移動方向の上流側の隔壁8aの最小高さは、反応槽1bの最大液面レベルよりも高く、反応槽1cにおいて、前記移動方向の上流側の隔壁8bの最小高さは、反応槽1cの最大液面レベルよりも高い。これにより、反応槽1bから反応槽1aへの逆流、および、反応槽1cから反応槽1bへの逆流が防止される。反応槽1a、反応槽1bおよび反応槽1cは、それぞれ反応混合物9a、反応混合物9b、および反応混合物9cを収容し得る。
このように、本発明において好適に使用される連続重合装置の好ましい一実施形態において、反応槽は、隣接する反応槽同士の組み合わせにおいて少なくとも1組以上が、反応槽が収容し得る液体の最大液面レベルの高い順番で接続され、反応混合物は、最大液面レベルの高低差により、最大液面レベルのより高い反応槽から最大レベルのより低い反応槽に移動する構成としてもよい。
この構成によれば、液面レベルの差と重力とに従って反応混合物が移動するため、反応混合物を次の反応槽へ移動させるために別途手段を設ける必要がない。
収容室2においては、反応槽1a中の反応混合物9aを撹拌する撹拌翼10a、反応槽1b中の反応混合物9bを撹拌する撹拌翼10b、及び反応槽1c中の反応混合物9cを撹拌する撹拌翼10cが、同一の撹拌軸11に設置されている。撹拌軸11は、収容室2外から側壁3aを貫き、側壁3bに達するように設置されている。撹拌軸11の側壁3a側の末端には、撹拌軸11を回転させる回転駆動装置12が設置されている。
収容室2の側壁3a近傍には、排気ライン13の一端が接続されている。排気ライン13の他端には、収容室2における気相からの脱水を行う脱水部14が接続されている。脱水部14は、排気ライン13を通じて収容室2における気相と連通している。脱水部14の一端(例えば、下部)には、有機極性溶媒回収ライン15の一端が接続されている。脱水部14の他端(例えば、上部)には、蒸気回収ライン16の一端が接続されている。蒸気回収ライン16の他端には、気液分離部17が接続されている。気液分離部17の一端(例えば、上部)から分岐した気体回収ライン18の他端には反応原料分離回収部19が接続されている。反応原料分離回収部19からは、廃ガスライン20と反応原料再供給ライン21とが分岐し、反応原料再供給ライン21には、反応原料分離回収部19において分離回収した反応原料の少なくとも一部を反応槽1a〜1cの少なくとも一部に再供給する反応原料再供給部22が接続されている。一方、気液分離部17の他端(例えば、下部)から分岐した液体回収ライン23の他端には反応原料分離回収部24が接続されている。反応原料分離回収部24からは、廃水ライン25と反応原料再供給ライン26とが分岐し、反応原料再供給ライン26には、反応原料分離回収部24において分離回収した反応原料の少なくとも一部を反応槽1a〜1cの少なくとも一部に再供給する反応原料再供給部27が接続されている。前記反応原料の少なくとも一部は、気相を介して反応槽1a〜1cの少なくとも一部の液相に供給されてもよいし、直接、反応槽1a〜1cの少なくとも一部の液相に供給されてもよい。
収容室2の側壁3bには、収容室2における気相と連通し、反応混合物の移動方向の下流側から上流側に向けて、即ち、反応槽1cから反応槽1aに向けて、該気相に不活性ガスを送り込む送気部28が、送気ライン29を介して接続されている。不活性ガスとしては、特に限定されず、例えば、アルゴン等の希ガス;窒素等が挙げられる。
収容室2の側壁3bに接続された反応混合物回収ライン7の他端には、造粒を行う造粒部30が接続されている。造粒部30の一端には、相分離剤供給ライン31が接続されている。また、造粒部30の他端には、固体回収ライン32および液体回収ライン33が接続されている。固体回収ライン32の他端には、篩34が接続され、篩34のメッシュを通過した固体を回収する篩通過物回収ライン35と、メッシュを通過しない篩非通過物回収ライン36とが接続されている。造粒部30は、好ましくは、反応混合物と相分離剤とを撹拌する撹拌翼、分離相を冷却する冷却手段、および、形成された顆粒状PASからなる固体と液体とを分離する分離手段を備えている。冷却手段としては、特に限定されず、例えば、側壁ジャケット、伝熱管における熱交換、例えばリフラックスコンデンサー等を単独もしくは組み合わせて使用することができる。
別の実施態様において、反応混合物と相分離剤との混合部が、より上流に位置する反応槽、例えば反応槽1bまたは1cに接続されていてもよい。すなわち、反応槽1bまたは1cの側壁に反応混合物回収ラインを別途設け、回収した反応混合物を混合部に送り、ここで、相分離剤を添加して混合後、再び、反応槽1bまたはその他の任意の反応槽に戻すこともできる。相分離剤を含む反応混合物は、さらなる重合反応に付された後に、反応混合物回収ライン7から回収され、徐冷により造粒され、篩分手段に付されてもよい。
また別の実施態様において、反応混合物を反応槽から抜き出してから相分離剤と混合するのではなく、反応槽中の反応混合物に直接、相分離剤を添加してもよい。この場合、水を含まない相分離剤を用いることが好ましい。相分離剤を含む反応混合物は、上記と同様に、必要に応じてさらなる重合反応に付された後に、反応混合物回収ライン7から回収され、徐冷により造粒され、篩分手段に付される。
次に、図1に基づき、本実施形態に係るPAS製造方法について、PAS製造装置の動作の説明と併せて説明する。
<PAS製造方法>
本製造方法は、気相を介して互いに連通する複数の反応槽の少なくとも1つに反応原料として有機極性溶媒、硫黄源およびジハロ芳香族化合物を供給する供給工程と、少なくとも一つの前記反応槽において、前記有機極性溶媒中で、前記硫黄源と前記ジハロ芳香族化合物との重合反応を行う重合反応工程と、前記反応槽の気相部における水の少なくとも一部を、前記反応槽から除去する除去工程と、各反応槽に、重合反応が進行している反応混合物を順次移動させる移動工程と、を並行して行うことを含み、さらに、相分離剤を添加してポリアリーレンスルフィドを造粒させる造粒工程と、造粒したポリアリーレンスルフィドを回収する回収工程とを含むものである。
本製造方法について具体的に説明すると、供給工程において、収容室2には、有機極性溶媒、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源、並びにジハロ芳香族化合物の各反応原料が、それぞれ有機極性溶媒供給ライン4、硫黄源供給ライン5、及びジハロ芳香族化合物供給ライン6を通じて供給される。なお、反応原料の一部又は全部を予め混合してから収容室2に供給してもよい。例えば、有機極性溶媒とジハロ芳香族化合物とを混合物を予め調製し、この混合物を収容室2に供給してもよい。この場合、例えば、有機極性溶媒供給ライン4及びジハロ芳香族化合物供給ライン6に代えて、混合物供給ライン(図示せず)を側壁3aに接続させ、この混合物供給ラインを通じて収容室2に上記混合物を供給することができる。
供給された有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物は、重合工程において、まず、反応槽1aにおいて混合され、前記有機極性溶媒中で、前記硫黄源と前記ジハロ芳香族化合物との重合反応が行われることにより、反応混合物9aが形成される。なお、場合によっては、反応槽1aにおいては重合反応が実質的に進行せず、脱水のみを行い、反応槽1b以降で重合反応が進行する構成であってもよい。
有機極性溶媒、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の硫黄源、及びジハロ芳香族化合物としては、PASの製造において通常用いられるものを用いることができる。
有機極性溶媒としては、例えば、有機アミド溶媒が挙げられる。有機アミド溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N−メチル−ε−カプロラクタム等のN−アルキルカプロラクタム化合物;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン等のN−アルキルピロリドン化合物又はN−シクロアルキルピロリドン化合物;1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン等のN,N−ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。
硫黄源としては、例えば、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、硫化水素等を挙げることができる。硫黄源は、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物であることが、取り扱いが容易である点および価格が安価である観点から好ましい。硫黄源は、例えば、水性スラリーや水溶液の状態で扱うことができ、計量性、搬送性等のハンドリング性の観点から、水溶液の状態であることが好ましい。
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等が挙げられる。
アルカリ金属水硫化物としては、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム等が挙げられる。
ジハロ芳香族化合物としては、例えば、o−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、p−ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等が挙げられる。ジハロ芳香族化合物におけるハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指す。ジハロ芳香族化合物における2個のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。
アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、及びジハロ芳香族化合物のそれぞれは、いずれも単独で用いてもよいし、PASの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。
なお、反応槽1a〜1cのうち少なくとも一つの反応槽に水を添加してもよい。その際に添加する水の量としては、例えば硫黄源1モル当たり0.1〜10モル程度とすることができる。
前記重合反応は、170℃〜290℃で、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%以上になるまで行うことが好ましい。
また、ジハロ芳香族化合物の転化率は、好ましくは50〜100%、より好ましくは60〜100%、更に好ましくは65〜100%、特に好ましくは70〜100%である。ジハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するジハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィーまたは液体クロマトグラフィーにより求め、その残存量とジハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
本製造方法では、脱水工程において、排気ライン13を通じた脱水部14の作用(詳細は後述する。)により、収容室2内の水の少なくとも一部が、収容室2における気相を介して、収容室2から除去される。これにより、反応槽1a〜1cに存在する水の少なくとも一部は除去される。収容室2内の水としては、例えば、収容室2に供給した水、前記重合反応で生成した水等が挙げられる。ここで、収容室2に供給した水とは、例えば、積極的に収容室2に供給した水、及び、積極的に水を収容室2に供給していない場合には、通常、反応原料に含まれた状態で反応原料とともに収容室2に供給された水を指す。水は蒸気圧が高いため、収容室2の気相に水分が多く含まれると、収容室2内が高圧となりやすく、収容室2の耐圧化が必要となるため、省資源化、設備コスト削減等を図りにくい。脱水部14により脱水を行い、収容室2内を低圧化することで、省資源化、設備コスト削減等を効果的に実現することができる。
反応系である収容室2内の圧力は、供給される溶媒が沸騰しない圧力まで低下させる範囲として、ゲージ圧0MPaまで低くすることができる。各反応槽の温度にもよるが、0.0001MPaG(Gはゲージ圧を示す)まで、好ましくは0.01〜0.03MPaG程度まで低くすることができる。さらには負のゲージ圧にすることも可能ではあるが、負圧を生じさせるためのエネルギーコスト、溶媒の沸点低下などの観点から好ましくない。
例えば、0.0001MPaG以上かつ0.8MPaG以下であることが好ましく、0.01MPaG以上かつ0.65MPaG以下であることがより好ましく、0.02MPaG以上かつ0.39MPaG以下であることがさらに好ましく、0.03MPaG以上かつ0.37MPaG以下であることが特に好ましい。
反応槽1a〜1cは、上述したように、収容室2における気相を介して、互いに連通しており、収容室2における気相の圧力は均一である。このことから、脱水工程においては、脱水部14により、反応槽1a〜1cのいずれからも水が除去される。そのため、反応槽1aから反応槽1cに向かうほど、即ち、反応混合物の移動方向の上流側から下流側に向かうほど、反応混合物中の水の量が少なくなる。その結果、水による反応阻害が抑制され、重合反応が促進される。また、反応混合物の沸点が上昇するため、高温での重合が可能となり、更に重合反応を促進できる。そして、上述の重合反応促進により、反応混合物の温度が上昇しやすくなり、更に重合反応が促進されやすくなる。
以上の通り、PAS連続重合装置100では、例えば、上述の通りに各部を配置し、連続反応を行うこと全体を通じて、前記移動方向の上流側から下流側に向かうほど、反応槽1a〜1cの温度を上昇させることができる。言い換えれば、反応槽1a〜1cの内部温度が、反応混合物の移動方向の上流側から下流側に向かうほど高くなるように設けることができる。
また、上述したように、反応槽1a〜1cは、各反応槽が収容し得る液体の最大液面レベルの高い順に接続されている。これにより、反応混合物の移動工程において、最大液面レベルの高低差を利用して反応混合物を順次移動させることができる。より具体的には、反応混合物9a及び反応混合物9bがそれぞれの反応槽の最大液面レベルを超えたときに、それぞれ隔壁8a及び隔壁8bを超えることができる。なお、反応槽1a、反応槽1b、及び反応槽1cが、収容室2における気相を介して互いに連通することが妨げられない限り、隔壁8a及び8bの形状は特に限定されず、任意の形状であってもよい。また、隔壁の開口部、例えば貫通口またはスリット(いずれも図示せず)により反応液が移動する構成としてもよい。
本実施形態では、反応槽1a、1b、1cの内部温度のいずれもが、150℃以上である。好ましくは、反応原料が供給される供給反応槽、すなわち反応槽1aは、160℃以上であり、より好ましくは170℃以上であり、さらに好ましくは180℃以上である。また、供給反応槽以外の反応槽、すなわち反応槽1b及び1cそれぞれの内部温度は、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは210℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上である。さらに、供給反応槽以外の反応槽のうち、少なくとも1つの反応槽の内部温度は、好ましくは245℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、さらに好ましくは255℃以上である。本実施形態では、互いに隣接する反応槽の内部温度の差が2℃以上であることが好ましく、3℃以上であることがより好ましく、5℃以上であることがさらに好ましい。このように反応槽1a〜1cの内部温度を設定することで、供給反応槽、すなわち反応槽1aにおいて、上述した脱水工程を主として行い、反応槽1aに対して反応混合物の移動方向の下流側に設けられた反応槽、すなわち反応槽1bにおいて、重合反応を主として行うことができ、その結果、重合反応をより効率良く行うことができる。
本実施形態では、送気部28により、反応混合物の移動方向の下流側から上流側に向けて、即ち、反応槽1cから反応槽1aに向けて、収容室2における気相に不活性ガスを送り込むことが好ましい。上述の通りに、反応混合物の移動方向の上流側から下流側に向かうほど、反応混合物中の水の量が少なくなる状態を保つためには、反応混合物から蒸発した水分が上記下流側に流れて、反応混合物上で凝縮しないようにすることが好ましい。送気部28により上記の通り上記気相に不活性ガスを送り込むことにより、水蒸気が上記下流側に流れて反応混合物上で凝縮するのを効果的に防止することができる。
不活性ガスの流速としては、水蒸気が上記下流側に流れにくくなる範囲である限り、特に限定されない。
回転駆動装置12により撹拌軸11が回転し、それに伴い、撹拌軸11に設置された撹拌翼10a〜10cが撹拌軸11の周りを回転して、反応混合物9a〜9cが撹拌される。撹拌翼10a〜10cは同一の撹拌軸11に設置されている。そのため、回転駆動装置12により撹拌軸11を回転させるだけで、撹拌翼10a〜10cの全てを同じ条件で回転させ、均質な撹拌を高い効率で実現することができる。
上記重合反応が進むと、NaCl等のアルカリ金属ハロゲン化物が析出し、反応槽1a〜1cに蓄積する。その結果、例えば、反応槽1a〜1cにおいて十分な重合反応を進行させるのに有効な体積が減少し、生産性の低下等が生じやすい。また、蓄積したアルカリ金属ハロゲン化物を除去するための余計なメンテナンス作業が発生してしまう。撹拌翼10a〜10cにより反応混合物9a〜9cを撹拌することにより、アルカリ金属ハロゲン化物が反応混合物9a〜9c中に分散して、上記下流側に移動し、収容室2外に排出することが容易となる。一方で、撹拌が激しすぎると、反応混合物は、隔壁8a及び/又は隔壁8bを超えて、上流側の反応槽から下流側の反応槽へ不必要に混入しやすい。
アルカリ金属ハロゲン化物の分散を促進し、反応槽1a〜1c間での反応混合物の不必要な混入を回避できるよう、適宜、撹拌翼の形状、枚数、回転数等を調整することが好ましい。このうち、撹拌翼の回転数としては、例えば、アルカリ金属ハロゲン化物が沈降しない条件、より具体的には、撹拌翼による撹拌速度が粒子浮遊限界撹拌速度以上となるような回転数が挙げられる。なお、撹拌翼の先端における回転速度の上限は、反応混合物が隔壁8a及び/又は隔壁8bを超えるのを防ぎやすい点で、撹拌翼の回転数が120rmp以下となるような速度が好ましく、60rmp以下となるような速度がより好ましい。また、撹拌が十分に行われるように、撹拌翼の回転経路等も、適宜、調整することが好ましい。
脱水部14には、収容室2からの排気が排気ライン13を通じて供給される。脱水部14は、例えば、蒸留塔として作用し、一端(例えば、下部)からは、有機極性溶媒を主成分とする液体が回収され、他端(例えば、上部)からは、前記硫黄源、水を含む蒸気、及び場合により前記ジハロ芳香族化合物が回収される。
脱水部14から回収された有機極性溶媒は、適宜、精製等を経て、重合反応の反応原料として、再度、収容室2に供給してもよい。その際、回収された有機極性溶媒の収容室2への供給は、有機極性溶媒供給ライン4を通じて行ってもよいし、有機極性溶媒供給ライン4以外の有機極性溶媒供給ラインを通じて行ってもよい。回収された有機極性溶媒の供給先は、反応槽1a〜1cのいずれか1つでもよいし、これらの2以上の組み合わせでもよい。
脱水部14の上記他端から回収された蒸気は、蒸気回収ライン16を介して、気液分離部17に供給される。気液分離部17は、例えば、蒸留塔として作用し、一端(例えば、上部)からは、前記硫黄源を含む気体が回収され、他端(例えば、下部)からは、前記ジハロ芳香族化合物及び/又は水を含む液体が回収される。
気液分離部17の上記一端から回収された気体は、気体回収ライン18を介して、反応原料分離回収部19に供給される。反応原料分離回収部19では、上記気体を極性有機溶媒やアルカリ溶液、又はこれらの混合物に吸収させる等により、気体から前記硫黄源が分離回収され、反応原料再供給ライン21を介して、反応原料再供給部22に送られる。一方、残りの気体は、廃ガスとして廃ガスライン20を介して廃棄される。
反応原料分離回収部19により分離回収した前記硫黄源の少なくとも一部が、反応原料再供給部22により反応槽1a〜1cの少なくとも一つに再供給されることが好ましい。その際、分離回収した硫黄源の反応槽1aへの再供給は、硫黄源供給ライン5を通じて行ってもよいし、硫黄源供給ライン5以外の硫黄源供給ラインを通じて行ってもよい。前記硫黄源の少なくとも一部の再供給により、前記硫黄源が有効利用され、省資源化を図ることができる。
気液分離部17から回収された液体は、液体回収ライン23を介して、反応原料分離回収部24に供給される。反応原料分離回収部24では、上記液体から前記ジハロ芳香族化合物が分離回収され、反応原料再供給ライン26を介して、反応原料再供給部27に送られる。一方、残りの液体は、廃水として廃水ライン25を介して廃棄される。
このために、反応原料分離回収部24により分離回収した前記ジハロ芳香族化合物の少なくとも一部が、反応原料再供給部27により反応槽1a〜1cの少なくとも一つに再供給されることが好ましい。その際、分離回収したジハロ芳香族化合物の反応槽1aへの再供給は、ジハロ芳香族化合物供給ライン6を通じて行ってもよいし、ジハロ芳香族化合物供給ライン6以外のジハロ芳香族化合物供給ラインを通じて行ってもよい。前記ジハロ芳香族化合物の少なくとも一部の再供給により、前記ジハロ芳香族化合物が有効利用され、省資源化を図ることができる。
また、連続重合装置100の駆動には、最大液面レベルの高低差に基づき、重力を利用して反応混合物の移動等を行っており、多大なエネルギーが不要である。よって、連続重合装置100は、省資源化、省エネルギー化、設備コスト削減等を図りやすい。
本製造方法によって得られるPASのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量(Mw)は、その下限値は8,000以上、好ましくは10,000以上、さらに好ましくは13,000以上、特に好ましくは15,000以上であり、20,000以上の高分子量PASを得ることも可能である。その上限値は200,000以下、好ましくは100,000以下、より好ましくは70,000以下である。
また、本製造方法によって得えられるPASの単位空間・時間あたりの収量は、14g/hr・L以上であることが好ましく、14.5g/hr・L以上であることがより好ましく、15g/hr・L以上であることがさらに好ましく、16g/hr・L以上であることが特に好ましい。
このように、本製造方法によれば、気相を介して互いに連通する複数の反応槽の少なくとも1つに反応原料を供給すればよいので、複雑な制御等が不要であり、PASの製造が容易となる。
造粒部30において、反応混合物回収ライン7から供給される反応混合物と、相分離剤供給ライン31から供給される相分離剤とが、撹拌下で、PASが有機極性溶媒中に溶解または溶融している状態で混合される。なお、反応混合物回収ライン7から回収された反応混合物は、造粒部30にて相分離剤を添加される前に、適宜、混入している副生塩等の固体を濾過等により分離除去する処理に付されてもよい。
PASが有機極性溶媒中に溶解または溶融している状態のまま、反応混合物に相分離剤を添加することにより、液−液相分離が起きる。次いで、撹拌下、造粒部内に設けられた冷却手段によって液−液分離相の温度を徐々に低下させることにより、PASが固化し、顆粒状PASが形成される。形成された顆粒状PAS(固体)と、その他の液体と副生塩等の微小固体は、各種分離手段により分離され、それぞれ固体回収ライン32および液体回収ライン33から回収される。
顆粒状PASが形成された後のスラリーは、主に顆粒状PAS、重合用溶媒、副生塩等からなる。当該スラリーから顆粒状PASを回収する方法として、例えば造粒された顆粒状PASを篩分して回収する方法や、造粒された顆粒状PASを微粒子状PASやPASオリゴマーと共に回収する方法が挙げられる。
例えば篩分回収法は、造粒され顆粒状となったPASを他の成分と篩によって分離し、必要に応じて洗浄液で洗浄して清浄な顆粒状PASを得る方法である。この方法によって、加工時に揮発分となるオリゴマー成分が除かれ、また塩素含有量の少ないPASを得ることができる。
また例えば、顆粒状PASが形成された後のスラリーを、高温状態でノズルから噴出させ、溶媒の全部または一部を瞬時に蒸発させ固形物(泥状物も含む)を得る方法が挙げられる。さらに当該固形物から副生塩を水等により除去し、必要に応じてさらに洗浄液で洗浄して清浄な微粒子状PASやオリゴマー成分を含む顆粒状PASを得る方法がある。この方法によって、加工時に揮発分となるオリゴマー成分は多いものの、回収量を多くすることができる。
なお、当該固形物(泥状物も含む)を篩分して、顆粒状PASのみを回収しても良い。
あるいは例えば、顆粒状PASが形成された後のスラリーを、遠心分離機等により固液分離後、更に水洗や有機溶媒洗浄により、清浄なオリゴマー成分を含む顆粒状PASを得る方法も挙げられる。この方法によって、加工時に揮発分となるオリゴマー成分は多いものの、回収量を多くすることができる。
液体回収ライン33から回収された極性有機溶媒等は、必要に応じて適宜精製され、反応原料として反応槽に再供給される。一方、固体回収ライン32から回収された顆粒状PASは、必要に応じて、篩34に供給され、所望の目開きを有するメッシュで篩分され、所望のサイズの粒径を有する顆粒状PASと、それ以外の微粉とに分離され回収される。濾別や篩分等により分離後、有機溶媒や高温水等で洗浄処理し、乾燥させることにより、製品PAS粒子が得られる。
相分離剤としては、相分離剤として機能することが知られている公知の化合物を用いることができる。相分離剤の具体例としては、水、有機カルボン酸金属塩、有機スルホン酸金属塩、ハロゲン化リチウムなどのアルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、パラフィン系炭化水素類などが挙げられる。有機カルボン酸金属塩としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウムなどのアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。これらの相分離剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの相分離剤の中でも、水、アルカリ金属カルボン酸塩などの有機カルボン酸金属塩、塩化リチウム及びこれらの組合せが造粒効果(粒子径の増大)の点で好ましい。後処理が容易な水、コストが安価な酢酸ナトリウム、または水と酢酸ナトリウムとの組み合わせが特に好ましい。
相分離剤の添加量は、反応混合物中のPAS濃度、添加する相分離剤の種類、温度等に応じて、相の分離、即ち、液−液相分離が起きる範囲で適宜に調節することができる。相分離剤の添加量及び温度は、極性有機溶媒中に溶融・溶解するPASが液−液相分離する最少量を、透明な耐熱ガラスアンプル中で観察することで決めることができる。
例えば、水を相分離剤として使用する場合、反応混合物の有機アミド溶媒、特にNMP100質量部に対し、相分離剤(水)が0.35モル質量部以上かつ2モル質量部以下であり、好ましくは、0.41モル質量部以上かつ1.8モル質量部以下であり、さらに好ましくは0.42モル質量部以上かつ1.5モル質量部以下である。
相分離剤として、水と水以外の他の相分離剤とを併用する場合は、有機アミド溶媒、特にNMP100質量部に対し、0.01〜2モル質量部、好ましくは0.02〜1モル質量部、更に好ましくは0.03〜0.8モル質量部、特に好ましくは0.05〜0.5モル質量部の範囲内に調整するとともに、水以外の他の相分離剤を、有機アミド溶媒100質量部に対し、0.001〜0.1モル質量部の範囲内で存在させることが好ましい。水と併用することが特に好ましい他の相分離剤は、有機カルボン酸金属塩であり、中でも、アルカリ金属カルボン酸塩であり、その場合は、有機アミド溶媒、特にNMP100質量部に対し、水を0.01〜1.5モル質量部、好ましくは0.05〜1.0モル質量部、特に好ましくは0.08〜0.8モル質量部の範囲内で使用するとともに、アルカリ金属カルボン酸塩を0.0001〜0.07モル、好ましくは0.002〜0.06モル質量部、特に好ましくは0.005〜0.05モル質量部の範囲内で使用すればよい。
液−液相分離が達成された後、分離相の温度を、PASが晶出する温度以下まで徐冷する。たとえば、PASが晶出する温度の1〜10℃以下まで、0.1〜3℃/分の速度で徐冷する。晶出する温度は、例えば透明な耐熱ガラスアンプル中で液−液相分離しているPASが析出する温度を観察することで決めることができる。PASが晶出する温度の1〜10℃以下まで徐冷した後は、200℃未満、好ましくは150℃以下、さらには、100℃〜室温の範囲まで急冷してもよい。
本発明の製造方法により得られる顆粒状PASは、目開き38μmの篩に非通過のPASである。好ましくは平均粒子径が50〜5,000μmであり、より好ましくは70〜3,000μmであり、さらに好ましくは100〜2,000μmである。平均粒子径がこの範囲であることにより、PASのハンドリング性、低ダスト性に優れ、加工機材にPASを供給する際に、噛みこみ不良を引き起こす問題や粉立ちを引き起こす問題を解消することができる。
なお、本願明細書において、平均粒子径とは、JIS K−0069にしたがい、下から、400メッシュ、200メッシュ、150メッシュ、100メッシュ、60メッシュ、32メッシュ、24メッシュ、16メッシュ、12メッシュ、および7メッシュの9個の篩を積み重ね、一番上の篩に顆粒状PASを乗せ、FRITSCH社製電磁式篩振盪機(Analysette 3)を使用して、浸透時間=15分間、AMPLITUDE=5、INTERVAL=6で測定を行うことにより算出される値である。
また、顆粒状PASと微粒子PAS及びまたはPASオリゴマーが混在する場合は、顆粒状PASが、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。
本実施形態はさらに、重合工程によって得られるPASの重量平均分子量を増大させる工程を含んでいてもよい。PASの重量平均分子量の増大は、例えば重合反応において重合助剤を用いて行うことができる。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩及びアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独または2種以上を同時に用いることができる。なかでも有機カルボン酸塩が好ましく用いられる。より具体的には、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム及びp−トルイル酸ナトリウムなどが挙げられる。有機カルボン酸塩は1種または2種以上を同時に用いることができる。なかでも酢酸リチウム及び/または酢酸ナトリウムが好ましく用いられ、安価で入手しやすいことから酢酸ナトリウムがより好ましく用いられる。
これらの重合助剤は単独で用いてもよいし、PASの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。
本実施形態において、各反応原料に含まれる水の合計量を100質量%とすると、上述した供給反応槽、すなわち反応槽1a中に含まれる水の量は5質量%以上、99質量%以下であることが好ましく、6質量%以上、90質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上、80質量%以下であることがさらに好ましい。供給反応槽の中に含まれる水の量がこの範囲内であることは、重合工程において脱水する水の量が低減される点から好ましい。
また、供給反応槽の下流側に隣接する隣接反応槽、すなわち反応槽1b中に含まれる水の量は5質量%以上、50質量%以下であることが好ましく、6質量%以上、40質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上、30質量%以下であることがさらに好ましい。隣接反応槽中に含まれる水の量がこの範囲であることは、重合工程において脱水する水の量が低減される点から好ましい。
本実施形態では特定形状の反応槽を用いているが、反応槽の形状は特に限定されるものではない。
さらに、本実施形態において反応槽の数は特に限定されるものではない。また、反応槽は必ずしも図1に示すように直列に接続されている必要はない。したがって、例えば複数の反応槽のうち一部が並列に並んでいてもよい。
さらに、複数の反応槽のうち隣り合う少なくとも1対の反応槽は、各反応槽が収容し得る液体の最大液面レベルの高い方の反応槽が、反応混合物が移動する方向の上流側に位置しており、最大液面レベルの高低差を利用して、反応混合物を移動させることが好ましい。これにより、少なくとも1対の反応槽においては重力を利用して反応混合物の移動を行えるため、省資源化、省エネルギー化、設備コスト削減等を図ることができる。
さらに、本実施形態において、上述した不活性ガスを送り込む送り込み工程は、上述した供給工程、脱水工程および重合工程と並行して行うことが好ましい。さらにまた、上述したように反応原料の一部を分離して回収する分離回収工程と、反応原料の少なくとも一部を反応槽の少なくとも一つに供給する再供給工程は、上述した供給工程、脱水工程および重合工程と並行して行うことが好ましい。
さらに、本実施形態では反応槽1aに反応原料を供給する構成について説明したが、反応原料が供給される反応槽は特定されるものではない。
〔実施形態2〕
さらに、上述した実施形態1に示した連続重合装置の変形例について、図2を用いて説明する。
図2を参照して説明すると、連続重合装置200は、実施形態1の収容室2に対応する反応容器44内で、反応槽を隔離する隔離手段が、隔壁ではなく、回転中心を有する仕切板である点において、実施形態1と異なる。
本実施形態では、反応槽1aと反応槽1bとは、仕切板45aによって隔てられ、反応槽1bと反応槽1cとは、仕切板45bによって隔てられている。反応槽1a、反応槽1bおよび反応槽1cは、反応容器44における気相部を介して、互いに連通している。
また、仕切板45aの片面には、反応槽1a中の反応混合物9aを撹拌する撹拌翼10aが取り付けられている。同様に、仕切板45bの片面には、反応槽1b中の反応混合物9bを撹拌する撹拌翼10bが取り付けられている。なお、本実施形態における撹拌翼10aおよび10bは、上述の実施形態における撹拌翼10aおよび10bと異なり、内側に開口が設けられている構造を有している。
撹拌翼10aおよび10b並びに仕切板45aおよび45bは、いずれも同一の回転軸43に設置されている。回転軸43は、反応容器44外から側壁3aを貫き、側壁3bに達するように設置されている。回転軸43の側壁3a側の末端には、回転軸43を回転させる回転駆動装置12が設置されている。
なお、撹拌翼は、仕切板に対して任意の位置に設置可能である。仕切板は撹拌翼の上流側であってもよく、下流側であってもよく、またこれらが混在してもよい。仕切板は撹拌翼と離れていても良いが、図2のように密着して連結させることにより、仕切板の固定および補強ができるので好ましい。また、撹拌翼と仕切板は必ずしも、一対である必要はなく、隣接する仕切板の間に、撹拌翼が無いところがあってもよい。少なくとも1つの撹拌翼を設けることにより、重合反応の進行を補助すると共に、反応混合物中の固体の移動をよりスムーズにすることができる。あるいは、撹拌翼は設けなくてもよく、これにより、より簡素な装置構成が可能になる。
仕切板の形状としては、特に限定されず、回転中心を有し、且つ、反応容器44内の鉛直断面を部分的に塞ぐ一方で、隣り合う反応槽が連通するように、所定の幅のクリアランスまたは開口部を与える任意の形状であってよい。例えば、反応容器44が中空円柱形である場合、図2に示されるように、反応容器の内部空間よりも一回り小さい半径を有する円盤状の仕切板であってよい。なお、仕切板の形状はこれに限定されず、中心軸を有しない、かご状回転物であってもよい。
回転軸上に設けられる仕切板の数は、反応容器のサイズや重合反応の種類等に応じて、1以上の任意の数であってよい。
仕切板が2枚以上設けられている場合、これらは同一の形状であっても、またはそれぞれ異なっていてもよい。
また、各仕切板の位置は、特に限定されず、任意の位置に設けることができる。
一方、撹拌翼の形状としては、特に限定されず、仕切板と同軸に設けられ、反応混合物を撹拌する任意の形状であってよい。撹拌翼10は、図2に示されるように、仕切板のいずれか一方の面に取り付けられていてもよく、または、両面に取り付けられていてもよい。または、仕切板とは別個に、回転軸43上に取り付けられていてもよい。
反応槽1a〜1cは、その液相部どうしが互いに連通している。その結果、反応槽1aに供給された原料および溶媒は、反応混合物として重合反応を進行させながら、反応槽1bおよび1cへと順次移動する。
また、反応槽1a〜1cは、その気相部どうしも互いに連通している。その結果、反応容器44内の気相の圧力は均一となる。そして、各反応槽内で重合時に発生する蒸発成分は、装置内部の温度差等により、この気相部を介して反応槽1cから、1bおよび1aの方向へと順次移動し、排気ライン13から排出される。
本実施形態における連続重合装置200では、反応容器44の内壁と、仕切板45a〜45bのそれぞれの外縁との間には、所定の幅のクリアランスが存在する。これにより、隣接する反応槽の気相部どうし、および、液相部どうしが連通し、反応混合物、蒸発成分を含む気体等が移動する。なお、クリアランスを設ける代わりに、仕切板に開口部、例えば貫通孔またはスリットを設け、これを介して反応槽を連通させてもよい。または、クリアランスおよび開口部の両方を設けてもよい。あるいは、仕切板は、複数の細かい貫通孔を有するメッシュ状であってもよい。
クリアランスの幅または開口部のサイズは、特に限定されず、容器の形状、仕切板の形状および数等に応じて適宜に設定することができる。
実施形態2において、上記以外の点については、実施形態1において説明したとおりである。
〔実施形態3〕
さらに、上述した実施形態1に示した連続重合装置の変形例について、図3を用いて説明する。
図3を参照して説明すると、連続重合装置300は、反応混合物の移動方向の最下流に位置する反応槽1cの底部に、反応混合物に含まれる固体を沈降により分離するとともに、反応混合物の向流洗浄を行う洗浄部40が設けられている点において、実施形態1と異なる。なお、洗浄部は、最下流に位置する反応槽のさらに下流側に設けられていてもよい。
別の実施態様において、洗浄部は、上流に位置するいずれかの反応槽の底部に設けられていてもよい。例えば、副生塩が発生し易い反応槽の底部に洗浄部を設けてもよい。また別の実施態様において、洗浄部は、複数の反応槽の底部に設けることもできる。
また、連続重合装置300において、反応混合物の移動方向の最下流に位置する反応槽1cに隣接した沈降分離槽をさらに設け、当該沈降分離層の底部に洗浄部が設けられてもよい。
本実施形態では、洗浄部40は、鉛直方向に延びる筒状構造部を有し、反応槽1cの底部に垂設されている。洗浄部40を構成する筒状構造部には、その筒内に静的な混合機構41が設けられている。また、洗浄部40には、洗浄部の下方から上方に向けて、洗浄液供給ラインを通して洗浄液が供給される。そのため、筒内では、固体が沈降する下降流と、洗浄部の下方から上方に向けて供給される洗浄液による上昇流が存在し、静的な混合機構41により、これらが撹拌される。洗浄液としては、例えば、重合溶媒を用いることができる。
洗浄部40の上部には、反応槽の底部に堆積した固体を含むスラリーを供給する一方で、洗浄液を排出する開口部(図示せず)が設けられている。
洗浄部40の下部には、重合溶媒および無機固体からなるスラリーを取り出すスラリー取出ライン、および、洗浄液を供給する洗浄液供給ライン(いずれも図示せず)が設けられている。洗浄液により浄化された副生塩等の固体は、スラリー取出ラインから取り出される。
洗浄部40の筒状内部に固定される静的な混合機構41としては、筒状内に流入する固体の下降流および洗浄液の上昇流に対し、これらの流れの分割と合流を繰り返して混合・撹拌する任意の静的混合機構が挙げられ、例えば、スタティックミキサー、または内壁に任意の角度で衝突板を設けた混合機構を好適に用いることができる。
スタティックミキサーとしては、固体を含む反応混合物および洗浄液の流れを変えて撹拌できる任意の形状のものを用いることができ、例えば、筒状構造部の内壁に、1以上のらせん状捻り翼を設けたものを用いることができる。
洗浄部のサイズとしては、特に限定されず、接続される反応槽のサイズ、副生し得る塩等の固体の量、および洗浄に付される反応混合物の量等に応じて適宜に設定することができる。例えば、副生塩の量が多い場合は、筒状構造およびその内部に格納される静的な混合機構の長さを延長することにより、洗浄の程度を高めることができる。
反応混合物中には、固体、例えば、重合反応の進行に伴い副生する塩が存在し得る。これらの固体は、撹拌翼による撹拌および移動流により溶液中に分散され、隔壁を超えて順次移動し、洗浄部40を備えた反応槽1cに至る。ここで、溶液中に分散していた固体は、重力、および、洗浄部40の下方にある固体回収ラインからの排出流にしたがって反応槽1cの底部に沈殿し、湿潤状態またはスラリー状で、洗浄部の筒内を下降する。一方、洗浄液が、洗浄部40の下方から上方に向けて供給される。洗浄部40内の静的な混合機構41において、下降する固体および上昇する洗浄液が連続的に向流接触し、反応混合物の向流洗浄が行われる。
静的な混合機構41を通過して浄化された固体は、洗浄部40の下方の固体回収ラインから連続的、あるいは断続的に排出される。一方、固体が分離除去された反応処理物および洗浄液は、洗浄部40の上方の洗浄液排出口から連続的に排出され、側壁3bに接続された反応混合物回収ライン7から回収される。これにより、反応槽において重合反応を連続的に進行させると共に、洗浄部において、副生塩等の固体の向流洗浄および排出を連続的に行うことができる。回収された反応混合物に対しては、実施形態1と同様にして、造粒部において反応混合物と相分離剤とが混合され、造粒工程が行われる。
一般に、反応混合物に含まれる固体の濃度が高くなるほど、冷却によるPAS粒状化時に粒子内部にこれらの固体が取り込まれやすくなる。上記のように、反応混合物に含まれる固体を沈降により分離するとともに向流洗浄を行う分離洗浄工程を、前記造粒工程の前に有することにより、例えば反応混合物に含まれる塩濃度を低くすることができる。したがって、冷却によるPAS粒状化時に、粒子内部にこれらの固体が取り込まれにくくなる結果、不純物のより少ない粒状PASを得られる効果を有する。
実施形態3において、上記以外の点については、実施形態1において説明したとおりである。
〔実施形態4〕
続いて、PAS連続重合装置の別の実施態様について、図4を用いて説明する。
図4を参照して説明すると、PAS連続重合装置400は、第1の反応槽50、第2の反応槽51及び第3の反応槽52を備えている。第2の反応槽51は第1の反応槽50に対して、第3の反応槽52は第2の反応槽51に対して、それぞれ鉛直方向下方に配置されている。
第1の反応槽50と第2の反応槽51とは、第1の配管65によって接続されている。また、第2の反応槽51と第3の反応槽52とは、第2の配管67によって接続されている。
反応原料として有機極性溶媒、硫黄源およびジハロ芳香族化合物が、第1の反応槽50に供給され、第1の配管65は、第1の反応槽50中の反応混合物が最大液面レベルを超えたときに、反応混合物が第1の配管65を通って第2の反応槽51に移動するように設けられている。また、第2の配管67は、第2の反応槽51中の反応混合物が最大液面レベルを超えたときに、反応混合物が第2の配管67を通って第3の反応槽52に移動するように設けられている。そして、第3の反応槽52から反応混合物が回収され、造粒部において反応混合物と相分離剤とが混合され、造粒工程が行われる。実施形態1に上述したとおり、相分離剤は、より上流の反応槽、例えば第2の反応槽51から抜き出された反応混合物に添加してもよい。あるいは、反応混合物を抜き出さず、いずれかの反応槽に直接添加してもよい。
さらに、第1〜第3の反応槽50〜52のそれぞれは、通気部70が接続されている。通気部70を介して、第1〜第3の反応槽50〜52は気相を介して連通している。
このようなPAS連続重合装置400の構成によって、第1の反応槽50及び第2の反応槽51のそれぞれの最大液面レベルの高低差を利用して反応混合物を順次移動させても、実施形態1と同様の効果が得られる。さらにPAS連続重合装置400によれば、実施形態1に示したような隔壁を設ける必要がない。
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
重量平均分子量の測定方法:
ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、株式会社センシュー科学製の高温ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)SSC−7101を用いて、以下の条件で測定した。重量平均分子量はポリスチレン換算値として算出した。
溶媒: 1−クロロナフタレン、
温度: 210℃、
検出器: UV検出器(360nm)、
サンプル注入量: 200μl(濃度:0.05質量%)、
流速: 0.7ml/分、
標準ポリスチレン: 616,000、113,000、26,000、8,200、及び600の5種類の標準ポリスチレン。
[実施例]
収容室2が5枚の隔壁により仕切られて形成された6個の反応槽を有する以外は、図3に示すのと同様のPAS連続重合装置を用いた。このPAS連続重合装置は、隔壁が半円形であり、直径100mm×300mmの寸法を有するTi製反応装置であった。上記PAS連続重合装置に、NMP950gを仕込んだ後、上流側から1番目の隔壁と2番目の隔壁とで区切られた部分の温度1を180℃、3番目の隔壁と4番目の隔壁とで区切られた部分の温度2を240℃に保持し、各供給ラインより定量ポンプを用いてNMP−pDCB混合液4.61g/min(NMP:pDCB(重量比)=1317.4:342)、48重量%NaOH0.51g/min、45重量%NaSH0.76g/minの流量にて連続的に原料を供給した。同時にPAS連続重合装置に接続された蒸留装置を用いて、圧力調整弁によって圧力をゲージ圧0.32MPaに制御しながら、PAS連続重合装置より連続的に水を除去し、更に、除去した水中のpDCBについては静置槽で分離してPAS連続重合装置に戻した。また、蒸留装置からのガスは圧力調整弁の下流側で2kgのNMPに通じた後、更に、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液5kgに通じて硫化水素を完全に吸収・回収した後に排気した。
重合反応物は、反応混合物の移動方向の最下流に位置する反応槽から、その底部に設けられた洗浄部に連続的に溢流させて、重合反応生成物中の副生塩NaClを沈降させるとともに、260℃に加熱した洗浄用NMPを副生塩の沈降下流側から上流側に2.5g/分の流量で流した。かくして副生塩を沈降分離するとともに洗浄溶媒NMPで副生塩NaClを向流連続洗浄した。洗浄用NMPを含む副生塩が除去された反応混合物は、反応混合物回収ライン7から連続的に抜き出した。抜き出した副生塩が除去された反応混合物を255℃に保持し、当該反応混合物に、相分離剤としての水を、反応混合物中のNMP100質量部に対し0.7モル質量部の割合で添加し、混合した。分離相を240℃から220℃まで、0.2℃/minの速度で徐冷したところ、PASが晶出した。
さらに室温まで冷却し、晶出したPASを、篩目開き38μm(400メッシュ)の篩で篩分して溶媒等の液体及び残留したNaClとを分別し、水で洗浄した。次いで、篩目開き150μm(100メッシュ)の篩で篩分し、篩上物から、平均粒子径380μmの顆粒状PASを得た。
以上の操作を5時間継続した後に得られたPASを採取して分析したところ、このPPSのGPCによる重量平均分子量Mwは28,000であった。
得られた顆粒状PASを、加工機材に供給したところ、噛みこみ不良および粉立ちの問題が起こらず、良好な加工特性が得られた。
[比較例]
相分離剤を添加せず、造粒工程を行わなかった以外は実施例と同じようにして、PASを製造、回収した。
得られたPASは、平均粒子径38μm未満の粉末状であった。粉末状PASを、加工機材に供給したところ、噛みこみ不良および粉立ちが発生した。