<第1実施形態>
以下、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る超音波診断装置について説明する。図1には、第1実施形態に係る超音波診断装置が示されている。図1は、その全体構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は医療分野において用いられ、超音波の送受波により生体内の組織の画像を形成する機能を備えている。一例として、画像化の対象となる組織は胎児である。もちろん、他の組織が画像化されてもよい。
プローブ10は超音波を送受波する送受波器である。プローブ10は、例えば1Dアレイ振動子を有している。1Dアレイ振動子は、複数の振動素子が一次元的に配列されて形成されたものである。1Dアレイ振動子によって超音波ビームが形成され、それが繰り返し電子走査される。これにより、電子走査毎に生体内に走査面が形成される。走査面は、二次元エコーデータ取込空間に相当する。プローブ10は、1Dアレイ振動子の替りに、複数の振動素子が二次元的に配列されて形成された2Dアレイ振動子を有していてもよい。2Dアレイ振動子によって超音波ビームが形成され、それが繰り返し電子走査されると、電子走査毎に二次元エコーデータ取込空間としての走査面が形成され、超音波ビームが二次元的に走査されると、三次元エコーデータ取込空間としての三次元空間が形成される。走査方式として、セクタ走査、リニア走査、コンベックス走査等が用いられる。胎児の超音波診断を行う場合には、プローブ10が母体の腹部表面上に当接され、その状態において超音波の送受波が行われる。
送受信部12は、送信ビームフォーマ及び受信ビームフォーマとして機能する。送信時において、送受信部12は、プローブ10に含まれる複数の振動素子に対して一定の遅延関係をもった複数の送信信号を供給する。これにより、超音波の送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波がプローブ10により受波され、これによりプローブ10から送受信部12へ複数の受信信号が出力される。送受信部12は、複数の受信信号に対して整相加算処理を適用することで、受信ビームを形成する。そのビームデータが信号処理部14に出力される。すなわち、送受信部12は、各振動素子から得られる受信信号に対して、各振動素子に対する遅延処理条件に従って遅延処理を施し、複数の振動素子から得られる複数の受信信号を加算処理することで受信ビームを形成する。遅延処理条件は、受信遅延データ(遅延時間)によって規定される。複数の振動素子に対応する受信遅延データセット(遅延時間のセット)は制御部30から供給される。なお、超音波の送受波において、送信開口合成等の技術が利用されてもよい。また、送受信部12は、パラレル受信処理を実行してもよい。
送受信部12の作用により、超音波ビーム(送信ビーム及び受信ビーム)が電子的に走査され、これにより、走査面が形成される。走査面は複数のビームデータに相当し、それらは受信フレームデータ(RF信号フレームデータ)を構成する。なお、各ビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。超音波ビームの電子走査を繰り返すことにより、時間軸上に並ぶ複数の受信フレームデータが送受信部12から出力される。それらが受信フレーム列を構成する。
なお、送受信部12の作用により超音波ビームが二次元的に電子走査されると、三次元エコーデータ取込空間が形成され、その三次元エコーデータ取込空間からエコーデータ集合体としてのボリュームデータが取得される。超音波ビームの電子走査を繰り返すことにより、時間軸上に並ぶ複数のボリュームデータが送受信部12から出力される。それらがボリュームデータ列を構成する。
信号処理部14は、送受信部12から出力されるビームデータに対して、検波、対数圧縮等の信号処理を適用するモジュールである。信号処理後のビームデータはメモリに格納されてもよい。もちろん、そのような信号処理が適用されていないビームデータがメモリに格納され、ビームデータの読み出し時に、上記の処理が適用されてもよい。
DSC(デジタルスキャンコンバータ)16は、コンバート機能(座標変換機能及び補間処理機能等)を備えたモジュールであり、信号処理部14から出力された受信フレーム列に基づいて組織表示フレーム列を生成する。個々の組織表示フレーム列はBモード断層画像のデータである。組織表示フレーム列は、表示処理部18を介してモニタ等の表示部20に表示される。これにより、リアルタイムでBモード断層画像が動画像として表示される。
表示処理部18は、断層画像等に対して必要なグラフィックデータをオーバーレイ処理し、これにより表示画像を生成する。この画像データは表示部20に出力され、表示モードに従った表示態様で1又は複数の画像が並べて表示される。
表示部20は例えば液晶ディスプレイ等の表示デバイスにより構成されている。表示部20は複数の表示デバイスにより構成されてもよい。
画像処理部22は、Bモード断層画像(組織表示フレーム)に基づいて胎児の環状部位の位置や領域を検出し、その検出結果に基づいて環状部位を計測する機能を備えている。環状部位は、エッジ部分を有する環状の組織であり、例えば頭部や腹部である。なお、画像処理部22は、二次元の走査面から得られたBモード断層画像を対象として処理を行ってもよいし、三次元空間から得られたボリュームデータにおける任意の断面に対応するデータに基づいて生成された二次元のBモード断層画像を対象にして処理を行ってもよい。
画像処理部22は、例えば、位置演算部24と領域演算部26と計測部28とを含む。
位置演算部24は、Bモード断層画像に対してテンプレートマッチングを適用することで、胎児の環状部位(例えば胎児頭部や腹部)の位置の候補を演算する。例えば、位置演算部24は、胎児の環状部位の中心位置の候補を演算する。その中心位置の候補は、後述する領域演算部26にて用いられる。
領域演算部26は、位置演算部24によって演算された中心位置の候補を用いてBモード断層画像を座標変換し、座標変換後の画像に基づいて胎児の環状部位の領域を演算する。領域演算部26は、例えば、その環状部位に近似する楕円を演算する。
計測部28は、領域演算部26によって演算された環状部位の領域(例えば、環状部位に近似する楕円)と、Bモード断層画像と、を用いて胎児の環状部位を計測する。例えば、胎児の頭部が環状部位として撮影されて胎児の頭部を表わすBモード断層画像が生成されると、計測部28は、Bモード断層画像に基づいて胎児の頭部を計測する。胎児の腹部が環状部位として撮影されて胎児の腹部を表わすBモード断層画像が生成されると、計測部28は、Bモード断層画像に基づいて胎児の腹部を計測する。
制御部30は、図1に示す各構成の動作制御を行う機能を備えている。制御部30は、Bモード断層画像上に関心領域(ROI)を設定する関心領域設定部を含んでいてもよい。
制御部30には入力部32が接続されている。入力部32は、一例として、トラックボール、キーボード、各種のボタン、各種のツマミ、等の入力デバイスを含む操作パネルにより構成されている。ユーザは入力部32を用いて、走査面の位置、断面の位置、関心領域に関する情報、等を指定又は入力することができる。
上述した超音波診断装置においてプローブ10以外の構成は、例えばプロセッサや電子回路等のハードウェア資源を利用して実現することができ、その実現において必要に応じてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。また、プローブ10以外の構成は、例えばコンピュータによって実現されてもよい。つまり、コンピュータが備えるCPUやメモリやハードディスク等のハードウェア資源と、CPU等の動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により、プローブ10以外の構成の全部又は一部が実現されてもよい。当該プログラムは、CDやDVD等の記録媒体を経由して、又は、ネットワーク等の通信経路を経由して、図示しない記憶装置に記憶される。別の例として、プローブ10以外の構成は、DSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等により実現されてもよい。もちろん、GPU(Graphics Processing Unit)等が用いられてもよい。
以下、第1実施形態に係る超音波診断装置について詳しく説明する。第1実施形態では、胎児の環状部位は胎児頭部であり、胎児頭部に対して超音波が送受波されることで、胎児頭部を表わすBモード断層画像が生成されるものとする。
以下、図2を参照して位置演算部24について詳しく説明する。図2には、位置演算部24の構成が示されている。位置演算部24は、テンプレート生成部34と、エッジ強調画像生成部36と、マッチング処理部38と、を含む。
テンプレート生成部34は、マッチング処理部38によるマッチング処理に用いられるテンプレートを生成する。テンプレートは、例えば円環状(リング状)の形状を有する。テンプレート生成部34は、例えば、胎児の妊娠日数GDに基づく大きさ(つまり直径及び幅)を有する円環状のテンプレートを生成する。具体的には、テンプレート生成部34は、妊娠日数GDに基づいて児頭大横径(BPD:Biparietal Diameter)の平均値(統計値)と、そのばらつき(例えば標準偏差SD)と、を演算し、BPD平均値(統計値)を直径として有し、標準偏差SDを幅として有する円環状のテンプレートを生成する。BPD平均値(統計値)と標準偏差SDは、統計的に以下の式によって演算される。
BPD平均値(統計値)=−18.3+3.85×10−1GD+1.06×10−3GD2−3.70×10−6GD3
SD=1.73+7.96×10−3GD
上記のBPD平均値及び標準偏差SDを求めるための式は、統計的に求められた式であり、例えば、母体の国籍等によって変わり得る。
妊娠日数を示す情報は、医師等のユーザによって超音波診断装置に入力されてもよいし、他の装置から超音波診断装置に入力されてもよい。
エッジ強調画像生成部36は、Bモード断層画像に対してフィルタを適用することで、環状部位としての胎児頭部のエッジ部分(頭蓋骨に相当する部分)が強調されたエッジ強調画像を生成する。フィルタとしては、例えば、DoGフィルタ(Difference Of Gaussianフィルタ)が用いられる。DoGフィルタを用いることで、互いに異なる「ぼけ」を有する画像の差分が演算され、これにより、周囲に対して高輝度又は低輝度な部分が抽出される。例えば、頭蓋骨のような周囲に対して高輝度な部分を抽出することが可能となる。
なお、DoGフィルタを適用すると、値として正の値と負の値が得られるが、正の値のみを使用するために、負の値をゼロ(0)にする。また、DoGフィルタを適用すると、Bモード断層画像自体のエッジ部分(画像の縁の部分)も強調されてしまうため、その部分をマスク処理(例えば、輝度値を0にする処理)してもよい。別の例として、Dogフィルタを適用することで得られた値の絶対値を採用してもよいし、得られた値に−1を乗算し、負の値をゼロにしてもよい(つまり、実質的に元の負の値を用いてもよい)。
エッジ強調画像生成部36は、後述するマッチング処理部38による処理の効率化のために、処理対象のBモード断層画像のサイズを縮小した上でDoGフィルタを適用することで、エッジ強調画像を生成してもよい。
具体的には、エッジ強調画像生成部36は、係数が1:4:6:4:1となる5tapのバイノミアルフィルタをBモード断層画像に二次元的に適用し、その適用後の画像に対して、2階ダウンサンプリングした第1画像と、その画像を1段階ダウンサンプリングした後、1段階アップサンプリングした第2画像を生成し、第1画像と第2画像との差分を演算する。これにより、DoGフィルタが適用された画像、つまり、エッジ強調画像が生成される。なお、上記の例は一例であり、フィルタの種類や係数、各種サンプリング処理の手順や回数は、上記の例に限定されるものではない。
マッチング処理部38は、エッジ強調画像生成部36によって生成されたエッジ強調画像に対して、テンプレート生成部34によって生成されたテンプレートを用いたマッチング処理を適用することで、胎児頭部の位置の候補、具体的には、胎児頭部(頭蓋骨)の中心位置の候補を演算する。マッチング処理部38は、エッジ強調画像上においてテンプレートの位置を変えながら、各位置におけるテンプレートと胎児頭部像(頭蓋骨像)との相似度を演算する。マッチング処理部38は、その相似度が最大となるテンプレートの位置を特定し、その位置におけるテンプレートの中心位置を、胎児頭部(頭蓋骨)の中心位置の候補として特定する。なお、マッチング処理部38は、エッジ強調画像を用いずに、元々のBモード断層画像に対してテンプレートをマッチングさせることで、胎児頭部の中心位置を演算してもよい。この場合、エッジ強調画像生成部36は、位置演算部24に含まれていなくてもよい。
以上のようにして、胎児頭部(頭蓋骨)の中心位置の候補が演算される。このようにして演算された中心位置の候補は、領域演算部26にて行われる座標変換に用いられる。
以下、図3を参照して領域演算部26について詳しく説明する。図3には、領域演算部26の構成が示されている。領域演算部26は、変換部40、マスク設定部42、探索部44、逆変換部46、楕円演算部48、妥当性判定部50、中心部マスク部52、終了判定部54及び中心更新部56を含む。
変換部40は、位置演算部24によって演算された胎児頭部(頭蓋骨)の中心位置の候補を極座標系の原点として用いて、Bモード断層画像を極座標変換する。極座標変換は、その中心位置の候補を原点として、例えば縦軸をその中心位置の候補からの距離(動径r)、横軸を角度(偏角θ)として座標を変換する処理である。つまり、座標変換後の極座標系は、胎児頭部の中心位置の候補を原点して有する極座標系である。この変換処理によって、Bモード断層画像は、中心位置の候補を原点として展開され、これにより、展開画像(極座標系で表された画像)が生成される。第1実施形態では、位置演算部24によって演算された中心位置の候補(テンプレートマッチングによって得られた中心位置の候補)を用いることで、胎児頭部の中心位置により近い位置を用いて極座標変換を行うことが可能となり、後述する経路探索処理及び楕円演算の精度が向上する。以下では、極座標変換後の画像を「展開画像」と称することとする。
マスク設定部42は、展開画像(極座標変換後の画像)に対して、極座標系の偏角θ方向の特定領域において動径r方向に延在するマスクを設定する。そのマスクが設定された領域は、後述する動的計画法を用いた経路探索処理が行われない領域である。別の例として、マスクが設定された領域内の輝度値が0(ゼロ)に設定され、動的計画法を用いた探索処理によって、マスクが設定された領域の情報から経路が探索されないようにしてもよい。特定領域は、例えば、胎児頭部(頭蓋骨)に対して超音波ビームが平行に送受波される部分を含む領域である。超音波ビームが平行に送受波される部分の輝度値は、他の部分の輝度値よりも低くなり易く、ノイズが発生し易い。そのノイズの影響によって、後述する経路探索処理にて誤探索が発生する可能性がある。特定領域にマスクを設定することで、ノイズの影響を除去して、誤探索の発生を抑制又は防止することが可能となる。例えば、通常、胎児頭部の前面及び後面に相当する部分にてノイズが発生し易いため、その部分にマスクが設定される。
探索部44は、展開画像(極座標変換後の画像)に対して経路探索処理を適用することで、展開画像から経路を探索する。この経路が、胎児頭部のエッジ部分(頭蓋骨に相当する部分)の候補に相当する。探索部44は、例えば、展開画像に対して動的計画法を適用することで経路を探索する。このとき、探索部44は、展開画像において、マスクが設定された領域を探索領域から除外し、マスクが設定されていない領域を対象として動的計画法を適用することで経路を探索する。また、探索部44は、展開画像においてマスクが設定された領域内の経路(例えば直線状の経路)を推定する。例えば、マスクが設定されていない複数の領域の間にマスクが設定されている領域が存在する場合、探索部44は、マスクが設定されていない複数の領域内の複数の経路同士を、マスクが設定されている領域にて推定された直線状の経路によって結ぶことで、展開画像から全体の経路を演算する。
逆変換部46は、探索部44によって探索された経路を元の画像空間(座標変換前の画像空間)に逆変換する。
楕円演算部48は、逆変換部46によって得られた逆変換後の経路と、Bモード断層画像と、を用いて、胎児頭部を近似した楕円を演算する。これにより、その楕円の中心位置、短軸の長さ、長軸の長さ及び傾きが、近似楕円のパラメータとして得られる。以下、楕円演算部48によって演算された楕円(胎児頭部に近似した楕円)を「近似楕円」と称することとする。
妥当性判定部50は、楕円演算部48によって求められた近似楕円の妥当性を判定する。妥当性の判定には、楕円の長軸の長さと短軸の長さとの比が利用される。妥当性判定部50は、楕円演算部48によって求められた近似楕円の長軸の長さと短軸の長さとの比が、予め定められた許容範囲内に含まれる場合、妥当性があると判定し、その比が許容範囲に含まれない場合、妥当性がないと判定する。なお、楕円の妥当性判定には、楕円の大きさ、位置、角度等の中の少なくとも1つが用いられてもよいし、それらの中の複数の組み合わせが用いられてもよい。
中心部マスク部52は、妥当性判定部50によって妥当性がないと判定された場合に、展開画像に対し、原点から予め定められた範囲内にマスクを設定する。探索部44は、そのマスクが設定された展開画像を対象として再度探索を行う。胎児頭部が表されたBモード断層画像には、正中線と呼ばれる高輝度領域が存在し、経路探索処理にて、その高輝度領域が経路として誤探索される可能性がある。つまり、経路探索処理では、胎児の頭蓋骨に相当する経路を探索することを目的としているところ、正中線を通る経路を誤探索する可能性がある。正中線は、Bモード断層画像の中心部分に表されていると想定されるため、その中心部分に対応する範囲にマスクを設定して経路探索処理からその範囲を除外することで、正中線の影響に起因する誤探索を抑制又は防止することが可能となる。なお、中心部マスク部52が設けられずに、マスク設定部42が、展開画像において原点から予め定められた範囲内にマスクを設定してもよい。この場合、マスク設定部42は、妥当性判定部50による判定結果によらずに、マスクを設定してもよい。
終了判定部54は、領域演算部26の各部の処理の終了を判定する。例えば、変換部40から中心更新部56までの一連の処理が予め定められた回数(例えば3回)行われた場合、終了判定部54は、処理が終了したと判定する。予め定められた回数の処理が実行されていない場合、変換部40から中心更新部56までの一連の処理が実行される。また、楕円演算部48によって求められた近似楕円の位置、大きさ、角度等のパラメータの変動が小さくなった場合(例えば、予め定められた許容範囲内に含まれる場合)、終了判定部54は、処理が終了したと判定してもよい。
上記の処理をまとめると以下のようになる。変換部40から妥当性判定部50までの処理が実行され、妥当性判定部50によって妥当性があると判定された場合、終了判定部54による判定が行われる。妥当性判定部50によって妥当性がないと判定された場合、中心部マスク部52による処理を経て、探索部44から楕円演算部48までの処理が実行され、妥当性判定部50の処理を飛ばして、終了判定部54による判定が行われる。上記一連の処理が予め定められた回数実行されていない場合、中心更新部56による処理が行われる。上記の一連の処理を1セットとして、そのセットを予め定められた回数実行する。
中心更新部56は、終了判定部54によって終了判定がなされなかった場合、楕円演算部48によって求められた近似楕円の中心位置を、変換部40による極座標変換における極座標系の新たな原点として更新する。以降、変換部40から終了判定部54までの一連の処理が実行される。このとき、変換部40は、楕円演算部48によって求められた近似楕円の中心位置(更新された中心位置)を極座標系の新たな原点として用いて、Bモード断層画像を極座標変換する。これにより、胎児頭部の中心位置により近い位置を用いて極座標変換を行うことが可能となり、経路探索処理及び楕円演算の精度が向上する。
終了判定部54によって終了判定がなされた場合、計測部28は、その終了判定の時点で得られた近似楕円とBモード断層画像とを用いて、胎児頭部を計測する。
以下、図4を参照して、第1実施形態に係る超音波診断装置によって生成されたBモード断層画像について詳しく説明する。図4には、そのBモード断層画像が示されている。Bモード断層画像58には、胎児頭部像60が表されている。例えば、胎児頭部がBモード断層画像に表されるように、プローブ10の位置や角度等がユーザによって調整される。図4において、ハッチングが施された領域は高輝度(エコー)領域を示している。測定に適したBモード断層画像58では、超音波ビームが反射し易い像の上部62、下部64及び正中線66が描出され易く、それらの部分の輝度が高くなり易い。それら以外の組織68においても輝度が高くなる場合がある。一方、超音波ビームが反射し難い像の側面70,72(通常の超音波診断では、胎児頭部の前面及び後面に相当する面)(例えば、超音波ビームが平行に送受波される部分を含む領域)は描出され難く、それらの部分の輝度は低くなり易い。計測部28は、このようなBモード断層画像58から、例えば、正中線66に直交方向の長さに相当する児頭大横径(BPD:Biparietal Diameter)、児頭前後径(OFD:Occipital-Frontal Diameter)、児頭周囲長(HC:Head Circumference)、等を計測することができる。もちろん、これら以外のパラメータが計測されてもよい。
以下、図5を参照して、テンプレート生成部34によって生成されるテンプレートについて詳しく説明する。図5には、テンプレートの一例が示されている。
テンプレート74は、テンプレート生成部34によって生成された円環状の形状を有するテンプレート(ドーナツ型のテンプレート)である。テンプレート74の形状は、胎児頭部(頭蓋骨)を仮定した形状であり、円環の内部76は、頭蓋骨の内部を仮定した領域である。頭蓋骨は円に近い楕円の形状を有していると仮定できるため、テンプレートマッチングでは、全体形状が円形のテンプレート74が用いられる。テンプレートマッチングを行う段階においては、胎児頭部の向き(回転角度)が判明していない。それ故、楕円のような方向性を持ったテンプレートを用いるよりも、方向性を有さない円形のテンプレート74を用いた方が、胎児頭部の中心位置の検出精度が向上し得る。
例えば、テンプレート74の中心位置Oからテンプレート74の環状部分の中心位置までの長さが、テンプレート74の半径に相当し、その半径の2倍の長さがテンプレート74の直径Aに相当する。直径Aは、妊娠日数を用いて演算されたBPD平均値(統計値)である。テンプレート74の幅B、つまり、環状部分の幅Bは、妊娠日数を用いて演算されたBPD平均値の標準偏差SDである。このように、テンプレート74は、妊娠日数から推定された大きさが反映されたテンプレートである。このような特徴を有するテンプレート74は、実際の頭蓋骨の大きさや形状を反映したテンプレートであるため、テンプレート74を用いてテンプレートマッチングを行うことで、頭蓋骨の中心位置により近い位置がその中心位置の候補として検出され易くなる。
以下、図6を参照して、マッチング処理部38によるマッチング処理について詳しく説明する。図6には、エッジ強調画像の一例が示されている。
エッジ強調画像78はエッジ強調画像生成部36によって生成された画像である。つまり、エッジ強調画像78は、図4に示されているBモード断層画像58に対してDoGフィルタを適用することで生成された画像である。エッジ強調画像78においては、胎児の頭蓋骨に相当する部分等が強調されている。
マッチング処理部38は、このエッジ強調画像78に対して、テンプレート74を用いたマッチング処理を適用することで、胎児頭部(頭蓋骨)の中心位置の候補を演算する。具体的には、マッチング処理部38は、エッジ強調画像78上で、矢印80で示すように、テンプレート74の位置を変えながら、各位置におけるテンプレート74と胎児頭部像(頭蓋骨像)との相似度を演算する。これにより、相似度の二次元マップ(相似度マップ)が生成される。相似度は、以下に示す式(1)によって演算される。
ここで、I(i,j)は、エッジ強調画像78(DoG画像)の輝度(0〜255)である。T(x,y)は、テンプレート74の輝度(0又は1)である。
マッチング処理部38は、上記の相似度マップに対してフィルタ処理を適用してもよい。例えば、2種類のフィルタが用いられる。第1フィルタは、例えば、(5×5)、σ=2.0のガウシアンフィルタであり、第2フィルタは、例えば、画像の横×縦サイズの半分の大きさを有するガウシアンフィルタである。第1フィルタは、局所的な高輝度値を取り除き、周辺領域も高輝度値を有する領域から候補が検出されるように、周辺領域を平滑化するためのフィルタである。第2フィルタは、Bモード断層画像の特性として観察対象がBモード断層画像の中心に近い位置に配置されていると仮定した場合に、Bモード断層画像の端部から候補が検出され難いように、Bモード断層画像の中心部分に若干の重み付けを行うフィルタである。もちろん、これらのフィルタが適用されなくてもよい。
マッチング処理部38は、上記の相似度マップにおいて、相似度が最大となる位置を、胎児頭部(頭蓋骨)の中心位置の候補として検出する。この中心位置の候補が、後述する極座標変換にて用いられる。
以下、図7から図15を参照して、領域演算部26による処理について詳しく説明する。
図7には、極座標変換によって生成された展開画像の一例が示されている。展開画像82は、変換部40による極座標変換よって生成された画像である。具体的には、展開画像82は、マッチング処理部38によって得られた胎児頭部(頭蓋骨)の中心位置の候補を用いて、図4に示されているBモード断層画像58を極座標変換することで生成された画像である。横軸は、極座標系の角度θ(偏角θ)を示しており、縦軸は、極座標系の距離r(動径r)を示している。展開画像82の原点(θ=0、r=0)は、マッチング処理部38によって得られた胎児頭部(頭蓋骨)の中心位置の候補に対応する位置である。展開画像82中の像84は、Bモード断層画像58に表された上部62、下部64及び正中線66に対応する像であり、像86は、Bモード断層画像58に表された組織68に対応する像である。
図8には、マスクが適用された展開画像の一例が示されている。展開画像82には、マスク設定部42によってマスク88が設定されている。例えば、展開画像82において、角度θが90°の位置と−90°の位置に、角度θ方向へ±45°の幅を持ったマスク88が設定されている。もちろん、その角度の幅は一例に過ぎず、他の値が用いられてもよいし、ユーザによってその幅を変更できるようにしてもよい。マスク88は、距離r=0の位置から距離r方向に延在する形状を有している。角度θが±90°の位置は、通常、胎児頭部の前面及び後面に対応する位置であり、その部分には超音波ビームが平行に送受波され易いため、その部分が描出され難い。その部分が経路探索の対象領域に含まれていると、経路探索処理にて誤探索が発生する可能性がある。また、頭蓋骨が描出され難い部分の付近に、輝度が高い他の組織が描出されていると、経路探索処理にて誤探索が発生する可能性がある。これに対処するために、頭蓋骨が描出され難い部分(角度θが±90°の位置)に、角度θ方向に幅を持ったマスク88を設定する。これにより、その部分が経路探索の領域から除外されるので、誤探索の発生を抑制又は防止することができる。例えば、角度θが±90°の付近に、図7に示されている像86が存在すると、その像86の部分が経路として抽出され、頭蓋骨以外の部分が経路として抽出される可能性がある。マスクを設定することで、そのような誤探索を防止できる。
以下、探索部44による経路探索処理について詳しく説明する。図9には、展開画像82が示されている。探索部44は、展開画像82から経路上の輝度値の総和が最大となるような経路を探索する。輝度値の総和が最大となるような経路の探索にはどのような手法を用いてもよいが、探索部44は、一例として動的計画法を用いて経路を探索する。このとき、探索部44は、マスク88が設定されている領域を経路探索領域から除外して経路を探索する。図9において実線で表示された経路90が、動的計画法を適用することで探索された経路である。経路90は像84に沿っている。また、探索部44は、マスク88が設定されている領域における経路92を推定する。探索部44は、例えば、動的計画法によって探索された複数の経路90の端部同士を、直線状の経路92(破線で示す経路)によって結ぶことで、全体の経路を演算する。経路92は、マスク88が設定された領域内の直線状の経路である。なお、探索された経路が元の画像空間(座標変換前の画像空間)において閉曲線となるように、探索部44は、展開画像82の左右端部においてr座標が近接するような経路を探索してもよい。
以下、図10から図12を参照して、動的計画法について説明する。図10,12には、経路探索処理を説明するための画像が示されている。図11には、探索マップの一例が示されている。
まず、図10に示すように、探索部44は、注目画素94の左側に配置された3個の画素96の中で、最大の輝度値を有する画素のその輝度値を注目画素94に加算する。探索部44は、この工程を画像の上端から下端に向けて行い、次に、画像の左端から右端に向けて行うことで、二次元の探索マップを生成する。探索マップにおいて、輝度が高い部分ほど輝度値の総和が大きい領域に対応している。
図11には、上記のようにして得られた探索マップの一例が示されている。探索部44は、探索マップの右端から最大輝度の画素98を検出する。
次に、図12に示すように、探索部44は、現在の画素100(上記の画素98)の左側に配置された3個の画素102の中で最大の輝度値を有する画素を選択し、この工程を画像の左端まで行う。探索部44は、経路が画像の左端に到達した後、探索開始点のr座標と探索終了点のr座標とを比較し、その差が大きい場合(例えば差が閾値以上の場合)、探索マップの右端から2番目に高い輝度値を有する画素を探索開始点として選択し、再度探索を行う。探索部44は、探索開始点と探索終了点との差が予め定められた許容範囲内に含まれるまで、この処理を繰り返す。
探索部44は、上記の処理によって、輝度値の総和が最大となる経路を探索する。なお、探索部44は、輝度値以外のパラメータとして、輝度の勾配情報、エッジ量、エントロピー、尤度、Hog、SaliencyMap、L1,L2ノルム等のパラメータ群の中から選択された少なくとも1つのパラメータや、選択された複数のパラメータの組み合わせを用いて、経路を探索してもよい。また、使用されるパラメータによっては、最大化ではなく最小化又は最適化が行われる場合がある。また、探索マップの生成方向は、上述した例とは逆の方向であってもよい。
上記のように探索部44によって経路が探索されると、逆変換部46は、その経路を元の画像空間(座標変換前の画像空間)に逆変換する。図13には、逆変換によって生成された経路線104が示されている。なお、図13には、図4に示されている座標変換前のBモード断層画像58も示されており、経路線104は、そのBモード断層画像58上に重畳して示されている。
逆変換によって経路線104が生成されると、楕円演算部48は、その経路線104とBモード断層画像58とを用いて、胎児頭部を近似した楕円(近似楕円)を演算する。以下、この処理について詳しく説明する。まず、楕円演算部48は、経路線104上の全画素の中で、より高輝度な一定割合の画素(例えば50%の画素)を抽出する。この抽出処理は、経路上に存在する画素の中で頭蓋骨上に存在する画素を抽出して使用することで、楕円近似の精度を高めるためである。次に、楕円演算部48は、抽出された画素群の中から5点以上の候補点を無作為に選択し、これらの候補点群に楕円を当てはめる。楕円の当てはめ方法として、例えば、ハフ変換、最小二乗法、多項式を用いた最適化法、等を用いることができる。図14には、候補点群に当てはめられた楕円106が示されている。次に、楕円演算部48は、その当てはめによって演算された楕円と、抽出された画素群(経路線104上の全画素から抽出された画素群)と、の距離を演算し、その距離が予め定められた閾値以内の画素の数(例えば、その距離が5画素以内の画素の数)を、楕円上画素数として演算する。楕円演算部48は、これらの処理を予め定められた回数(例えば100回)行い、楕円上画素数が最大となった楕円を、胎児頭部を近似した楕円(近似楕円)として採用する。これにより、その近似楕円の中心位置、短軸の長さ、長軸の長さ、及び、角度が特定される。
妥当性判定部50は、上記のようにして楕円演算部48によって採用された近似楕円の妥当性を判定する。妥当性判定部50は、その近似楕円の長軸の長さと短軸の長さとの比が、予め定められた許容範囲内に含まれる場合、妥当性があると判定し、その比が許容範囲内に含まれない場合、妥当性がないと判定する。妥当性がないと判定された場合、探索部44は、再度探索を行う。
終了判定部54によって、処理が終了したと判定されていない場合、つまり、予め定められた回数の処理が実行されていない場合、中心更新部56は、楕円演算部48によって採用された近似楕円の中心位置を、変換部40による極座標変換における極座標系の新たな原点として更新する。予め定められた回数の処理が実行された場合、例えば、最後の処理で得られた近似楕円を、計測部28による計測用の楕円として採用してもよいし、楕円の位置、大きさ、角度等のパラメータの変動が最小になった楕円を、計測用の楕円として採用してもよい。
以下、図15及び図16を参照して、計測部28による処理について詳しく説明する。図15及び図16には、Bモード断層画像58の一部と楕円の軸が示されている。図15に示すように、上記の処理によって、胎児頭部に近似した楕円(近似楕円)(計測用の楕円)の短軸108と長軸110が求められる。計測部28は、近似楕円の短軸108と、胎児の頭蓋骨像(上部62と下部64)の外側及び内側と、の交点112,114,116,118を検出する。胎児頭部の計測方法として、上部外側と下部内側との間の長さを計測する場合と、上部外側と下部外側との間の長さを計測する場合と、があるためである。例えば勾配を用いることで交点が検出される。勾配の算出として、例えば、差分値やSobelフィルタ、ラプラシアンフィルタ、ブリューイットフィルタ等を用いることができる。
以下、図16を参照して、一例として、Sobelフィルタを用いた場合について説明する。計測部28は、近似楕円(計測用の楕円)の短軸108を延長した直線120上に探索範囲を設定する。その探索範囲は、上部外側の探索範囲122、上部内側の探索範囲124、下部内側の探索範囲126、及び、下部外側の探索範囲128を含む。次に、計測部28は、図16において黒丸にて示す各点での勾配強度を演算し、各探索範囲内において勾配強度が最大となる点を上記の交点として検出する。これにより、探索範囲122内にて交点112が検出され、探索範囲124内にて交点114が検出され、探索範囲126内にて交点116が検出され、探索範囲128内にて交点118が検出される。
また、計測部28は、複数方向について上記の処理を行うことで、図15に示されている胎児頭部(頭蓋骨)の外周楕円130を演算してもよい。この場合、計測部28は、外周楕円130の周囲長を頭部周囲長HCとして演算し、長軸110の長さを児頭前後径OFDとして演算してもよい。
計測部28によって胎児頭部が計測された場合、例えば、表示部20に計測結果が表示される。
以上のように、第1実施形態においては、胎児頭部(頭蓋骨)の形状に近似するテンプレートを用いたマッチング処理を行うことで、胎児頭部の中心位置の候補が得られる。その中心位置の候補を用いて極座標変換を行うことで、より正確な中心位置が反映された極座標変換が可能となるので、極座標変換によって生成された展開画像を用いた経路探索処理の精度、つまり、楕円近似の精度が向上する。胎児頭部(頭蓋骨)により近似した楕円が得られるため、その楕円を用いた胎児頭部の計測精度が向上する。このように、第1実施形態では、極座標変換後の画像に対する経路探索処理の精度を高めるために、その経路探索処理を前提とした極座標変換の前処理として、テンプレートマッチングによって胎児頭部の中心位置の候補を演算する。
(変形例1)
以下、図17を参照して変形例1について説明する。図17には、展開画像の一例が示
されている。図17に示されている展開画像82は、図8に示されている展開画像82と同じ画像である。
変形例1では、マスク設定部42は、展開画像82にマスクを設定する替わりに、展開画像82に対して重み付け処理を適用する。例えば、展開画像82において、角度θが90°の位置と−90°の位置に、角度θ方向へ±45°の幅を持った重み付け領域132が設定されている。重み付け領域132は、距離r=0の位置から距離r方向に延在する形状を有する。重み付け領域132内においては、±90°の位置における重み係数が最も小さく設定されており、±90°の位置から角度θ方向に離れた位置ほど、大きい重み係数が割り当てられている。マスク設定部42は、展開画像82の各画素の輝度値に重み係数を乗算し、探索部44は、その重み係数が乗算された輝度値を用いて経路探索処理を行う。これにより、頭蓋骨が検出され難い部分の輝度値は、経路探索処理にて用いられ難くなるため、その部分のノイズの影響を抑制又は防止することが可能となる。なお、マスク設定部42は、展開画像82の全体に対して重み付け処理を行ってもよい。この場合も、±90°の位置における重み係数が最も小さく設定されており、±90°の位置から角度θ方向に離れる位置ほど、大きい重み係数が割り当てられる。
(変形例2)
以下、図18を参照して変形例2について説明する。図18には、Bモード断層画像の一例が示されている。図18に示されているBモード断層画像58は、図4に示されているBモード断層画像58と同じ画像である。
変形例2にでは、マスク設定部42は、プローブ10の種類に応じたマスクを展開画像に設定する。プローブ10の種類によって超音波ビームの送受波方向が変わるため、マスク設定部42は、その送受波方向に応じたマスクを展開画像に設定する。マスク設定部42は、例えば、位置演算部24によって演算された楕円中心位置の候補を基準位置として、矢印134で示す超音波ビームの送受波方向に直交する方向を含み、予め定められた幅を有する領域136に、マスクを設定する。実際には、極座標変換によって生成された展開画像において、その領域136に対応する領域にマスクが設定される。そのような領域136においては、胎児の頭蓋骨に対して超音波ビームが平行に送受波され易いため、頭蓋骨が描出され難い。この領域136にマスクを設定することで、その領域136におけるノイズに起因する経路の誤探索を抑制又は防止することが可能となる。プローブ10の種類によって領域136の位置及び大きさが変わるため、マスク設定部42は、プローブ10の種類に応じて領域136の位置及び大きさを変える。
例えば、各プローブ10の種類に対応する領域136の位置及び大きさを示すマスク情報が、超音波診断装置に予め記録されている。プローブ10が超音波診断装置本体に接続されると、マスク設定部42は、プローブ10からプローブの種類を示す情報を取得し、その種類に関連付けられたマスク情報を取得し、マスク情報に従って展開画像にマスクを設定する。
<第2実施形態>
以下、図19を参照して、本発明の第2実施形態に係る超音波診断装置について説明する。図19には、第2実施形態に係る超音波診断装置が示されている。図19は、その全体構成を示すブロック図である。
第2実施形態に係る超音波診断装置は、第1実施形態に係る超音波診断装置の画像処理部22の替わりに画像処理部22Aを含む。画像処理部22Aは、画像処理部22に含まれる構成に加えて、更に角度補正部138を含む。角度補正部138以外の構成は、第1実施形態に係る超音波診断装置の構成と同じであるため、以下では、角度補正部138について説明し、それ以外の構成の説明は省略する。
角度補正部138は、領域演算部26によって演算された胎児頭部(頭蓋骨)に近似する楕円(近似楕円)の角度を補正する。図4に示すように、胎児頭部が表されたBモード断層画像には、胎児頭部の前後方向に延在する正中線66と呼ばれる高輝度領域が描出される。胎児頭部の計測精度を高めるためには、胎児頭部に近似する楕円(近似楕円)の長軸と正中線が同一方向になることが望ましい。そこで、角度補正部138は、胎児頭部に近似する楕円(近似楕円)の長軸方向と正中線の方向とが一致するように、近似楕円の角度を補正する。以下、角度補正部138による角度補正処理について詳しく説明する。
図20には、胎児頭部の正中線と胎児頭部に近似する楕円(近似楕円)の一例が示されている。高輝度領域140は、胎児頭部の正中線を表わす像(図4中の正中線66)に相当する。近似楕円142は、上述した第1実施形態の処理によって演算された胎児頭部に近似する楕円である。短軸直線144は、近似楕円142の短軸を延長した直線であり、長軸直線146は、近似楕円142の長軸を延長した直線である。中心位置148は、近似楕円142の中心位置である。
まず、角度補正部138は、短軸直線144上に中心位置148の移動範囲150を設定する。移動範囲150は、短軸方向に中心位置148が移動可能な範囲である。移動範囲150の短軸方向の長さは、例えば予め定められた長さ2Lであり、移動範囲150は、移動前の中心位置148を基準として、短軸方向に±Lの範囲に設定されている。長さLは、例えば近似楕円142の短軸の長さのa%(例えば2.5%)である。処理の効率化のために、移動範囲150の長さが規定されている。もちろん、移動範囲150は、近似楕円142の短軸の全範囲に設定されてもよい。
次に、角度補正部138は、長軸直線146上に参照エリア152を設定する。参照エリア152は、長軸方向に延在して長さMを有すると共に、短軸方向に幅Wを有する長方形状の形状を有する。長さMは、例えば近似楕円142の長軸の長さのb%(例えば80%)である。もちろん、長さMは、近似楕円142の長軸の長さ自体であってもよい。幅Wは、例えばc個の画素分の長さ(例えば5個の画素分の長さ)である。もちろん、幅Wは、1画素分の長さであってもよい。
次に、角度補正部138は、移動範囲150内において中心位置148を移動させながら、かつ、長軸方向に延びる参照エリア152を、移動後の中心位置148にて移動後の中心位置148を回転中心として、移動後の長軸直線146を基準として回転角度±αの範囲内で回転させながら、移動範囲150内の各位置及び各回転角度において、参照エリア152内の評価値を演算する。評価値は、例えば、参照エリア152内の輝度値の総和である。回転角度αは、例えば20°である。もちろん、この回転角度αの値は一例に過ぎず、別の値が用いられてもよいし、角度補正部138は、回転角度±90°の範囲(つまり、全回転角度の範囲)にわたって参照エリア152を回転させてもよい。角度補正部138は、移動範囲150内において、予め定められた画素数分ずつ(例えば1画素分ずつ)中心位置148を移動させながら、かつ、回転角度±αの範囲内にて、予め定められた各度ずつ(例えば1°ずつ)参照エリア152を回転させながら、参照エリア152内の評価値を演算する。もちろん、その移動量(画素数)は一例に過ぎず、他の移動量が用いられてもよい。また、その角度は一例に過ぎず、他の角度が用いられてもよい。
角度補正部138は、各位置及び各回転角度において得られた輝度値総和と、その輝度値総和の分散と、を用いて、胎児頭部(頭蓋骨)に対する近似楕円142の角度を補正する。具体的には、角度補正部138は、移動範囲150内の位置毎に、各回転角度における参照エリア152内の輝度値総和を演算し、移動範囲150内の位置毎に、各回転角度における輝度値総和の分散を演算する。次に、角度補正部138は、分散が最も大きい位置を決定し、その位置において最も輝度値総和が大きい回転角度を決定し、その回転角度に近似楕円142の角度を補正する。
以下、具体例を挙げつつ、角度補正部138による角度補正処理について更に詳しく説明する。
図20には、中心位置148が移動する前の状態の近似楕円142が示されている。このときの中心位置148は、移動範囲150内の初期位置(位置A1)に配置されている。角度補正部138は、中心位置148が位置A1に配置されている状態で、参照エリア152を、長軸直線146を基準として回転角度±αの範囲内(例えば回転角度φ1〜φnの範囲内)で回転させながら、各回転角度において、参照エリア152内の輝度値総和を演算する。これにより、位置A1において、回転角度φ1〜φnのそれぞれについての輝度値総和T1〜Tnが得られる。角度補正部138は、位置A1で得られた輝度値総和T1〜Tnの分散S1を演算する。
次に、角度補正部138は、移動範囲150内において中心位置148を短軸直線144に沿って移動させる。図21には、中心位置148が移動した後の状態の近似楕円142が示されている。このとき、中心位置148は、移動範囲150内の位置A2に配置されているものとする。角度補正部138は、中心位置148が位置A2に配置されている状態で、参照エリア152を、長軸直線146を基準として回転角度±αの範囲内(回転角度φ1〜φnの範囲内)で回転させながら、各回転角度において、参照エリア152内の輝度値総和を演算する。これにより、位置A2において、回転角度φ1〜φnのそれぞれについての輝度値総和T1〜Tnが得られる。角度補正部138は、位置A2で得られた輝度値総和T1〜Tnの分散S2を演算する。
例えば、移動範囲150内に位置A1〜Anが設定されている場合、角度補正部138は、中心位置148を位置A1〜Anのそれぞれに移動させ、位置A1〜Anのそれぞれにおいて上記の処理を行うことで、位置A1〜Anのそれぞれにおいて輝度値総和T1〜Tnと分散とを演算する。これにより、位置A1〜Anにおける分散S1〜Snが得られる。
角度補正部138は、位置A1〜Anで得られた分散S1〜Snの中で最も大きい分散を特定する。例えば、分散Scが、分散S1〜Snの中で最も大きい分散であるとする。次に、角度補正部138は、その分散Scが得られた移動範囲150内の位置(位置Acと称する)を特定する。次に、角度補正部138は、その位置Acにて得られた輝度値総和T1〜Tnの中で最も大きい輝度値総和(輝度値総和Tcと称する)を特定する。角度補正部138は、その輝度値総和Tcが得られた回転角度(回転角度φcと称する)を特定する。これにより、分散Scが得られた位置Ac、そのAcにて輝度値総和Tcが得られた回転角度φcが特定される。
角度補正部138は、上記の回転角度φcに近似楕円142の長軸の角度を合わせる。つまり、角度補正部138は、近似楕円142を回転させることで、近似楕円142の長軸の傾きを、回転角度φcを有する直線の傾きに一致させる。これにより、近似楕円142の角度が補正される。図22には、角度が補正された状態の近似楕円142が示されている。短軸直線153は、角度補正された状態の近似楕円142の短軸を延長した直線であり、長軸直線154は、角度補正された状態の近似楕円142の長軸を延長した直線である。長軸直線154の傾きは、回転角度φcを有する直線の傾きに一致している。図22に示すように、角度補正された近似楕円142の長軸(長軸直線154)は、正中線を表わす高輝度領域140に平行又はほぼ平行(角度差が僅か)に配置されている。
輝度値総和T1〜Tnの分散が大きいということは、輝度値総和T1〜Tnのばらつきが大きいことを示している。参照エリア152が正中線と一致するほど輝度値総和が大きくなり、参照エリア152が正中線に一致しないほど輝度値総和は小さくなる。ある位置Axにおける輝度値総和の分散が小さい(ばらつきが小さい)ということは、その位置Axでの回転角度φ1〜φnの範囲内において、輝度値総和T1〜Tnのばらつきが小さいということを示している。仮に、位置Axでの回転角度φ1〜φnの範囲内に正中線の一部又は全部が含まれている場合、参照エリア152が正中線と交差する回転角度においては輝度値総和が大きくなり(交差する領域が広いほど輝度値総和は大きくなる)、参照エリア152が正中線と交差しない回転角度では輝度値総和が小さくなると推測されるため、輝度値総和の分散が大きくなると推測される。一方、回転角度φ1〜φnの範囲内に正中線が存在していない場合、各回転角度での輝度値総和が小さくなると推測されるため、輝度値総和T1〜Tnのばらつき、つまり分散が小さくなると推測される。このように、ある位置Axにおける回転角度φ1〜φnの範囲内に正中線の一部又は全部が含まれている場合、その範囲内で得られた輝度値総和T1〜Tnの分散は大きくなると推測される。このことから、輝度値総和T1〜Tnの分散が大きくなる位置Axにおける回転角度φ1〜φnの範囲内に、正中線が存在する可能性が高いと推測できる。
また、参照エリア152が正中線と一致するほど、輝度値総和が大きくなるため、輝度値総和T1〜Tnの分散が大きくなる位置Axにおける回転角度φ1〜φnの範囲内において輝度値総和が最大となる回転角度が、正中線が延在する方向の角度により近い角度であると推測できる。
上記のことをまとめると、輝度値総和T1〜Tnの分散が最大となる位置Acにおいて輝度値総和が最大となる回転角度φcが、正中線が延在する方向であると推測され、角度補正部138は、近似楕円の角度を、その回転角度に一致させる。これにより、近似楕円の角度が補正され、近似楕円の傾きが胎児頭部(頭蓋骨)の傾きに近くなる。
図23には、各位置における輝度値総和T1〜Tnの分散が示されている。横軸は、短軸方向の位置(+L〜−Lの範囲内の位置)を示しており、縦軸は、短軸方向の各位置における輝度値総和T1〜Tnの分散を示している。例えば分散曲線156が得られた場合、その分散曲線156において分散が最大となる位置Acが特定される。
図24には、位置Acにおける輝度値総和T1〜Tnが示されている。横軸は、回転角度(+α〜−αの範囲)を示しており、縦軸は、輝度値総和を示している。例えば、位置Acにて輝度値総和曲線160が得られた場合、その輝度値総和曲線160において輝度値総和が最大となる回転角度φcが特定される。この回転角度φcが、正中線が延在する方向の角度であると推測され、角度補正部138は、近似楕円の角度を回転角度φcに補正する。
以上のように、第2実施形態によれば、胎児頭部の正中線が延在する方向が検出され、近似楕円の長軸の方向がその正中線が延在する方向と一致するように、近似楕円の角度が補正される。そのため、近似楕円の傾きが胎児頭部(頭蓋骨)の傾きに近くなるので、胎児頭部の計測精度が更に向上する。
なお、角度補正部138は、分散曲線156に対して、短軸方向の位置に応じた重み付けを行ってもよい。角度補正部138は、例えば、移動前の元々の中心位置148(位置A1)から離れた位置ほど重み係数を小さくして、重み係数を分散曲線156に乗算し、重み付け処理された分散曲線において分散が最大となる位置Acを特定してもよい。つまり、角度補正部138は、中心位置148の移動量に応じた重み付け処理を分散曲線に適用する。移動前の中心位置148は、胎児頭部の中心位置に近い位置であると評価されているため、移動前の中心位置148に近い位置ほど、正中線の方向がより精度高く検出される可能性がある。そこで、移動前の中心位置148に近い位置ほど重み係数を大きくすることで、正中線の方向がより精度高く検出され得る。
また、図23に示されている分散曲線158のように、分散の最大値が予め定められた閾値Sth以下となる場合、角度補正部138は、その最大値が得られた位置Acにて得られた輝度値総和T1〜Tnを用いずに、初期の位置A1(移動していない中心位置148)において得られた輝度値総和T1〜Tnの中で最大の輝度値総和が得られた回転角度に、近似楕円の角度を補正してもよい。
また、図24に示されている輝度値総和曲線162のように、分散が最大となる位置Acにて得られた輝度値総和T1〜Tnを示す輝度値総和曲線において、輝度値総和の最大値が予め定められた閾値Tth以下となる場合、角度補正部138は、近似楕円の角度を補正しなくてもよい。有意な回転角度が検出されなかったためである。
なお、領域演算部26によって演算された近似楕円の中心位置が、胎児頭部の中心位置に近い位置であると推測されるため、角度補正部138は、近似楕円142の中心位置148を補正しない。図22に示す例では、近似楕円142の中心位置148は補正されておらず、角度補正された状態の近似楕円142の中心位置148は、角度補正される前の状態の近似楕円142の中心位置148と同じ位置である。これにより、胎児頭部の中心位置又はそこに近い位置に近似楕円142の中心位置148が配置された状態で、近似楕円142の傾きを胎児頭部の傾きに近づけることが可能となる。もちろん、角度補正部138は、中心位置148を補正してもよい。例えば、上記の位置Acを中心位置148として採用してもよい。
上記の例では、輝度値総和が用いられているが、補正手法として、パターンマッチング、主成分分析による角度推定等が用いられてもよい。また、輝度値総和の分散が用いられているが、ばらつきを表わす指標として別の値(例えば標準偏差等)が用いられてもよい。また、分散を用いずに、輝度値総和の最大値を用いて角度補正を行ってもよい。
なお、第2実施形態においては、第1実施形態に係る処理によって演算された近似楕円を対象としているが、角度補正部138による角度補正処理の対象となる楕円は、第1実施形態に係る処理以外の処理によって演算された楕円であってもよい。例えば、公知技術を適用することで胎児頭部に近似する楕円が演算された場合、その楕円を対象として角度補正処理を適用してもよい。この場合、画像処理部22Aは、位置演算部24及び領域演算部26を含んでいなくてもよく、角度補正部138は、これら以外の処理によって演算された楕円に角度補正処理を適用する。例えば、公知技術に係る楕円近似技術を適用することで近似楕円が得られた場合、角度補正部138は、その近似楕円に対して角度補正処理を適用することで、その近似楕円の角度を補正してもよい。
<第3実施形態>
以下、本発明の第3実施形態に係る超音波診断装置について説明する。第3実施形態では、胎児の環状部位は胎児の腹部であり、胎児腹部に対して超音波が送受波されることで、胎児腹部を表わすBモード断層画像が生成されるものとする。第3実施形態に係る超音波診断装置は、第1実施形態に係る超音波診断装と同じ構成を有する。
第3実施形態においても、第1実施形態と同様に、位置演算部24は、Bモード断層画像に対してテンプレートマッチングを適用することで、胎児腹部の位置の候補(例えば中心位置の候補)を演算する。領域演算部26は、位置演算部24によって演算された中心位置の候補を用いてBモード断層画像を極座標変換し、極座標変換後の画像(展開画像)に基づいて胎児腹部に近似する楕円(近似楕円)を演算する。計測部28は、その近似楕円を用いてBモード断層画像に基づいて胎児腹部を計測する。計測部28は、例えば、躯幹前後径(APTD:Antero Posterior Trunk Diameter)、躯幹横径(TTD:Transverse Trunk Diameter)、腹部周囲長(AC:Abdominal Circumference)、胎児躯幹面積(FTA:Fetal Trunk cross-sectional Area)、等のパラメータを計測することができる。もちろん、これら以外のパラメータが計測されてもよい。
以下、第3実施形態に係る超音波診断装置について詳しく説明する。
テンプレート生成部34は、例えば、胎児の妊娠日数GDに基づく直径及び幅を有する円環状のテンプレートを生成する。具体的には、テンプレート生成部34は、妊娠日数GDに基づいて胎児腹部の直径Rの平均値(統計値)と、そのばらつき(例えば標準偏差SD)と、を演算し、直径Rの平均値(統計値)を直径Aとして有し、標準偏差SDを幅Bとして有する円環状のテンプレート(例えば図5に示されているテンプレート74)を生成する。胎児腹部の直径Rの平均値(統計値)として、例えば、躯幹横径(TTD:Transverse Trunk Diameter)の平均値(統計値)が用いられ、直径Rの平均値のばらつき(例えば標準偏差SD)として、TTD平均値(統計値)のばらつき(例えば標準偏差SD)が用いられてもよい。
エッジ強調画像生成部36は、第1実施形態と同様に、例えばDoGフィルタをBモード断層画像に適用することで、胎児腹部のエッジが強調されたエッジ強調画像を生成する。
なお、上記のDoGフィルタを用いた処理では、正の値を用いているが、胎児腹部は胎児頭部と比べて骨が少なく、エッジ部分の情報が極端には描出され難い。そのため、一部のエッジ部分が強い場合や、弱いエッジ部分が非常に多く存在すると、それらの部分の影響を受けて胎児腹部のエッジ部分が適切に描出され難くなる。そこで、エッジ強調画像生成部36は、DoGフィルタを適用することで得られた正の値の平均値を演算し、その平均値以上の輝度値を有する画素の値を「1」に設定し、その平均値未満の輝度値を有する画素の値を「0」に設定する。このように、エッジ強調画像生成部36は、DoGフィルタが適用された後の画像を2値化する。これにより、弱いエッジ部分が除去される。次に、エッジ強調画像生成部36は、2値化された画像に対して横方向にメディアンフィルタ(1×3)を適用することで、2値化処理にて生じた空洞部分を埋める。次に、エッジ強調画像生成部36は、メディアンフィルタが適用された画像の中心部分に重み付け処理を適用する。その重み付け関数は、例えば、画像中心の重み係数が1.0であり、画像端部に向かうに従って値が減少する関数(正規分布)である。これにより、画像のより中心付近に存在する円になりそうな部位を強調することが可能となる。
マッチング処理部38は、第1実施形態と同様に、エッジ強調画像に対して、上記のテンプレートを用いたマッチング処理を適用することで、胎児腹部の位置の候補、具体的には、胎児腹部の中心位置の候補を演算する。
第3実施形態においても第1実施形態と同様に、変換部40による極座標変換、マスク設定部42によるマスク処理、探索部44による経路探索処理、逆変換部46による逆変換、及び、楕円演算部48による楕円演算処理が行われる。変換部40は、上記の胎児腹部の中心位置の候補を用いて、Bモード断層画像を極座標変換する。なお、妥当性判定部50による処理、及び、中心部マスク部52による処理が実行されてもよい。
計測部28は、上記の処理によって得られた近似楕円とBモード断層画像とを用いて、胎児腹部を計測する。
上記の例では、円環状のテンプレート74(図5参照)を用いてマッチング処理が行われているが、別の形状を有するテンプレートが用いられてもよい。胎児腹部は胎児頭部に比べて骨が少なく、エッジ部分の情報が極端には描出され難い。それに加えて、第1実施形態でも説明したように、Bモード断層画像にはエッジ部分が描出され難い部分が存在する(例えば、極座標系において偏角θ方向が±90°の領域)。その部分からの情報はノイズの可能性がある。
そこで、第3実施形態では、円環の一部が欠けた形状(円環の一部が切断された状態の形状)を有するテンプレートが用いられてもよい。図25には、そのテンプレートの一例が示されている。テンプレート164は、テンプレート生成部34によって生成されたテンプレートである。テンプレート164の形状は、胎児腹部を仮定した形状である。テンプレート164は、弧状の形状を有する上側アーチ部166と下側アーチ部168とを含む。上側アーチ部166と下側アーチ部168は、互いに逆向きに配置されている。上側アーチ部166の両端部と下側アーチ部168の両端部との間には、空間170,172が形成されている。空間170,172の位置は、Bモード断層画像においてエッジ部分が描出され難い部分、つまり、極座標系において偏角θ方向が±90°の領域に相当する。上側アーチ部166と下側アーチ部168とで囲まれた領域174は、胎児腹部の内部を仮定した領域である。胎児腹部は円に近い楕円の形状を有していると仮定できるため、テンプレートマッチングでは、その形状を模したテンプレート164が用いられる。テンプレート164を、空間170,172を含めて円環状の形状とみなした場合、その円環の直径Aは、妊娠日数を用いて演算された直径Rの平均値(統計値)(例えばTTD平均値(統計値))であり、円環の幅B、つまり、上側アーチ部166と下側アーチ部168の幅Bは、妊娠日数を用いて演算された直径R平均値(統計値)の標準偏差SDである。このように、テンプレート164は、妊娠日数から推定された大きさと、その大きさのばらつきと、が反映されたテンプレートである。また、テンプレート164においては、Bモード断層画像においてエッジ部分が描出され難い部分に空間170,172が形成されているため、マッチング処理においてノイズが検出され難くなる。このような特徴を有するテンプレート164は、実際の胎児腹部の大きさや形状を反映しつつ、ノイズが検出され難い形状を有するテンプレートであるため、テンプレート164を用いてテンプレートマッチングを行うことで、胎児腹部の中心位置により近い位置がその中心位置の候補として検出され易くなる。
以下、図26を参照して、テンプレート164を用いたマッチング処理について詳しく説明する。図26には、エッジ強調画像の一例が示されている。
例えば、胎児腹部がBモード断層画像に表されるように、プローブ10の位置や角度等がユーザによって調整されて、胎児腹部を表わすBモード断層画像が生成される。そのBモード断層画像からエッジ強調画像生成部36によってエッジ強調画像176が生成される。図26において、ハッチングが施された領域は高輝度領域を示している。胎児腹部は胎児頭部と比べて骨が少なく、エッジ強調画像176(Bモード断層画像)には、胎児腹部のエッジ部分が描出され難い。図26に示す例では、胎児腹部の一部(上部と下部)を表わす像178がエッジ強調画像176に表されているが、他の多くの組織も描出されているため、胎児頭部と比べて、胎児腹部の判別が困難となっている。また、上述したように、胎児腹部の側面(極座標系において偏角θ方向が±90°の領域)には超音波ビームが平行に送受波されるため、その部分が描出され難い。これに対処するために、Bモード断層画像に対してDoGフィルタ処理の他、メディアンフィルタ処理や重み付け処理が行われており、円に近い形状を有する領域が描出され易いようになっている。また、マッチング処理にてノイズが検出され難いように、テンプレート164が用いられる。
マッチング処理部38は、第1実施形態と同様に、エッジ強調画像176に対して、テンプレート164を用いたマッチング処理を適用することで、胎児腹部の中心位置の候補を演算する。具体的には、マッチング処理部38は、エッジ強調画像176上で、矢印180で示すように、テンプレート164の位置を変えながら、各位置におけるテンプレート164と胎児腹部像との相似度を演算する。これにより、相似度の二次元マップ(相似度マップ)が生成される。相似度は、上記の式(1)によって演算される。マッチング処理部38は、第1実施形態と同様に、2種類のフィルタを用いたフィルタ処理を行ってもよい。マッチング処理部38は、相似度マップにおいて、相似度が最大となる位置を、胎児腹部の中心位置の候補として検出する。この中心位置の候補が、極座標変換にて用いられる。
領域演算部26は、上記の中心位置の候補を用いた極座標変換、マスク処理、経路探索処理、逆変換、及び、楕円演算処理を行うことで、胎児腹部に近似する楕円(近似楕円)を演算する。計測部28は、近似楕円とBモード断層画像とを用いて胎児腹部を計測する。
以上のように、第3実施形態によれば、胎児腹部の形状に近似するテンプレートを用いたマッチング処理を行うことで、胎児腹部の中心位置の候補が得られる。その中心位置の候補を用いて極座標変換を行うことで、より正確な中心位置が反映された極座標変換が可能となるので、楕円近似の精度が向上する。これにより、胎児腹部により近似した楕円が得られるため、その楕円を用いた胎児腹部の計測精度が向上する。
上記のように、胎児腹部は胎児頭部に比べて骨が少なく、エッジ部分が描出され難い。そこで、マスク処理によって、展開画像において経路探索処理が適用される領域をより狭めてもよい。図27には、そのマスクが適用された展開画像の一例が示されている。展開画像182は、変換部40による極座標変換によって生成された画像である。具体的には、展開画像182は、マッチング処理部38によって得られた胎児腹部の中心位置の候補を用いて、Bモード断層画像を極座標変換することで生成された画像である。展開画像182の原点(θ=0、r=0)は、マッチング処理部38によって得られた胎児腹部の中心位置の候補に対応する位置である。展開画像182中の像184は、Bモード断層画像に表された像178に対応する像である。
展開画像182には、マスク設定部42によってマスク186,188,190が設定されている。第1実施形態と同様に、展開画像182において、角度θが90°の位置と−90°の位置に、角度θ方向へ±45°の幅を持ったマスク186が設定されている。マスク186は、距離r=0の位置から距離r方向に延在する形状を有している。角度θが±90°の位置は、胎児腹部の側面に対応する位置であり、その部分には超音波ビームが平行に送受波され易いため、その部分が描出され難い。その部分が経路探索の対象領域に含まれていると、経路探索処理にて誤探索が発生する可能性がある。また、胎児腹部が描出され難い部分に、輝度が高い他の組織が描出されていると、経路探索処理にて誤探索が発生する可能性がある。これに対処するために、胎児腹部が描出され難い部分(角度θが±90°の位置)に、角度θ方向に幅を持ったマスク186を設定する。これにより、その部分が経路探索の領域から除外されるので、誤探索の発生を抑制又は防止することができる。
また、マスク設定部42は、妊娠日数から推定される胎児腹部の直径R平均値(統計値)に基づいて、胎児腹部のエッジ部分(境界)が存在しない可能性が高い範囲を推定し、その範囲にマスク188,190を設定する。マスク188は、距離r=0の位置から予め定められた範囲(距離a)内に設定されたマスク(0〜aの範囲に設定されたマスク)であり、マスク190は、胎児腹部のエッジ部分の外側と想定される範囲に設定されたマスク(R−aの範囲に設定されたマスク)である。このようにマスクを設定することで、胎児腹部のエッジ部分が存在しないと想定される領域からのノイズを除去して、誤探索の発生を抑制又は防止することができる。
なお、マスク設定部42は、第1実施形態の変形例1と同様に、マスクを設定する替わりに、展開画像に対して重み付け処理を適用してもよいし、第1実施形態に係る変形例2と同様に、プローブ10の種類に応じたマスクを展開画像に設定してもよい。
第3実施形態に係る超音波診断装置は、第2実施形態に係る超音波診断装置と同じ構成を有してもよい。この場合、角度補正部138は、胎児腹部に近似する楕円の角度を補正する。例えば、胎児の背骨を基準として角度補正してもよい。
第3実施形態にて用いられるテンプレート164は、第1実施形態にて用いられてもよい。上述したように、Bモード断層画像においては、胎児頭部の側面が描出され難く、胎児頭部の中心位置の候補の演算処理において、その部分に起因するノイズの影響を受ける場合がある。円環の一部が欠けたテンプレート164を用いることで、胎児頭部の側面におけるノイズの影響を低減することができるので、胎児頭部の中心位置の候補の検出精度が高くなる。また、図27に示されているマスク188,190が、第1実施形態に係る展開画像に設定されてもよい。