二酸化チタンやスピネル型リチウムチタン複合酸化物などといったチタン酸化物の単位重量あたりの容量が低いという問題を鑑み、TiとNbを含む新たな電極材料が検討されている。そのような材料は、高い充放電容量を有すると期待されている。中でも、TiNb2O7で表される複合酸化物は300 mAh/gを超える高い理論容量を有する。しかし、TiNb2O7のような複合酸化物は電子導電性が低いうえ、電解液との副反応性が高いために電池の抵抗上昇が起こりやすい。
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係る活物質は、ニオブ−チタン複合酸化物とCuとを含む。この活物質は、例えば電池用活物質として用いることができる。
詳細は後述するが、ニオブ−チタン複合酸化物は、高いエネルギー密度を有することにより単位重量あたりの容量が高く、且つ急速充放電を安定して繰り返すことのできる二次電池を提供することができる。
一方で、ニオブ−チタン複合酸化物は、焼結性に乏しく、電子導電性に乏しい絶縁性材料である。そのため、ニオブ−チタン複合酸化物の焼結性を向上したり、電子導電性を向上するために、KやFeなどといった元素を添加したり、炭素被覆が実施されたりしている。一方で、これらの元素添加または炭素被覆を行うことで、結晶格子中の酸化物イオンに欠陥(酸素欠損)が生じやすくなる。元素添加により欠陥が生じやすい理由は、ニオブ−チタン複合酸化物の焼成工程において構成元素の価数変動が起きやすくなることで酸素欠損が誘発されるためと考えられる。炭素被覆の実施により欠陥が生じやすい理由は、炭素被覆時に還元雰囲気中で焼成することに由来すると考えられる。
焼結性が向上したり、電子導電性が向上したりすることで、初期の充放電容量及びレート性能は高くなる。その反面、酸素欠損が生じた状態においては、充放電サイクル中における容量低下が大きい。また、酸素欠損により電解質との副反応性も高まることから、寿命性能を両立することができないという問題がある。
これに対し、本実施形態に従って活物質中にCuを含ませることにより、ニオブ−チタン複合酸化物の元素添加及び炭素被覆による酸素欠損量を低下させることが可能である。
実施形態に係る好ましい態様の活物質は、ニオブ−チタン複合酸化物とCuとに加え、元素Mをさらに含む。元素Mは、Na、K、Si、S、Sn、P、Ta、Mo、Mn、Co、Ni及びFeから成る群から選択される少なくとも1つである。上記活物質では、Tiに対するCuのモル比(Cu/Ti)が式(I)を満たす。また、Tiに対する元素Mのモル比(M/Ti)が式(II)を満たす。そして、Tiに対するNbのモル比(Nb/Ti)が式(III)を満たす。
1×10−4≦ Cu/Ti ≦0.5 (I)
0< M/Ti ≦0.6 (II)
1≦ Nb/Ti ≦5 (III)。
ニオブ−チタン複合酸化物を含んだ活物質において、モル比1×10−4≦ Cu/Ti ≦0.5の範囲でCu元素を含むことにより、ニオブ−チタン複合酸化物のフェルミレベルを下げることができる。これにより、焼成環境によって金属酸化物の酸化還元に寄与する電子が補足されるため、酸素欠損を効果的に抑制することができる。
当該活物質では、Tiに対するNbのモル比(Nb/Ti)が1〜5の範囲内である。モル比(Nb/Ti)が1未満であると、NbとTiの複合酸化物相が均一に得られず相分離を生じるため、電極性能が低下する。一方、モル比(Nb/Ti)が5を超えると、単位格子あたりに挿入可能なLi量に対してNb量が過剰となり、重量あたりの電極エネルギー密度が低下する。
活物質中にCuを含んだ状態で元素Mを添加することにより、ニオブ−チタン複合酸化物の元素添加及び炭素被覆における酸素欠損量を低下させることが可能である。元素Mは、Na、K、Si、S、Sn、P、Ta、Mo、Mn、Co、Ni及びFeから選択される。元素Mは、1種のみが含まれてもよく、二種以上が含まれてもよい。元素Mは、K、Fe、Ta、P、及びSiから成る群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
ニオブ−チタン複合酸化物に含まれるNbの一部は、酸化還元反応に寄与していない。活物質中の元素Mの含有量がモル比(M/Ti)に基づいて0.6以下(0を含まず)であると、電極反応に寄与していないNbを置換することができるため、容量を低下させることなく、ニオブ−チタン複合酸化物の酸素欠損量を低下させることが可能である。モル比(M/Ti)が0.6を超えると、挿入可能なLi量に対して必要なNb量が低下するため活物質の容量が低下する。
以上のとおり、実施形態に係る好ましい態様の活物質は、ニオブ−チタン複合酸化物とCuとM元素とを含んでいるため、高い容量と急速充放電性能とを有し、且つ酸素欠損が抑制されている。そのため、導電性を確保するために添加元素を加えたり炭素被覆を施したりしても、寿命性能の低下を含む酸素欠損に起因する性能低下が生じにくい。
元素Mとして用いられ得る上記で挙げられた元素は、何れもニオブ−チタン複合酸化物を活物質として用いた電池の充放電電位では酸化還元反応を生じない元素である。従って、それらの元素Mは、電池の電位平坦性を損なわないために、好適に用いることができる。
また、元素MとしてNbより軽い元素を用いることにより、活物質の重量を減少させて単位重量あたりのエネルギー密度を向上させることも可能である。
元素Mは、例えば、ニオブ−チタン複合酸化物の焼結性を向上させるための添加元素であり得る。
Cu及び元素Mは、ニオブ−チタン複合酸化物の結晶格子中のNbの一部を置換して、結晶格子中に固溶された状態で存在することができる。或いは、Cu及び元素Mは均一に結晶格子中に存在せずに、ニオブ−チタン複合酸化物の粒子間に偏析した状態、または活物質粒子のドメイン内で偏析した状態で存在することもできる。また或いは、Cu及び元素Mは、結晶中に固溶した状態及び偏析した状態の両方の状態で存在してもよい。何れの状態であっても、活物質中にCuと元素Mとが共存することにより、ニオブ−チタン複合酸化物の寿命性能を向上させることができる。
さらに好ましい態様では、Cu元素がCuO又はCu2Oとしてニオブ−チタン複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部に存在する。CuOやCu2Oは、ニオブ−チタン複合酸化物表面の反応活性を低下させるため、活物質と電解質との分解反応を抑制する効果が得られる。粒子表面に存在するCuOやCu2Oは、ニオブ−チタン複合酸化物の結晶格子中に固溶されており且つ粒子表面に位置するCu元素と、結晶格子中のO元素のうちこのCu元素の周囲に位置するO元素とからなるものであり得る。或いは、CuOやCu2Oはニオブ−チタン複合酸化物の結晶格子中には含まれていない、粒子表面の少なくとも一部を覆う相であり得る。
実施形態に係る活物質のより好ましい態様では、ニオブ−チタン複合酸化物は、LixTiNb2-(y+z)CuyMzO7+δで表される銅含有ニオブ−チタン複合酸化物である。上記式において、0≦ x ≦5、1×10−4≦ y ≦0.5、0≦ z ≦0.6、−0.05≦ δ ≦0.05である。
LixTiNb2-(y+z)CuyMzO7±δで表される複合酸化物は、化学式あたり4価から3価に還元可能であるTiカチオンを一つ有し、5価から3価まで還元可能であるNbカチオンを2−(y+z)個有しており、理論上、最大で5−2(y+z)個のリチウムイオンを挿入することが可能である。このため、上記の化学式においてより好ましい添字xの範囲は、0以上5−2(y+z)以下である。
活物質に含まれるCu及び元素Mが、全てニオブ−チタン複合酸化物の結晶格子中のNbを置換するなどして結晶格子中に固溶した状態で存在する場合、上記式における添字yの値がモル比(Cu/Ti)に等しく、添字zがモル比(M/Ti)に等しい。即ち、それぞれの最大値はy=0.5、z=0.6である。一方、活物質に含まれるCu及び元素Mが、均一に結晶格子中に存在せず偏析している場合、モル比(Cu/Ti)及びモル比(M/Ti)の値に関わらず、y=0、z=0である。
δは単斜晶型ニオブ−チタン複合酸化物の還元状態によって変動する。δが−0.05未満であると、ニオブが予め還元されてしまい電解液との反応性が高まるため、サイクル寿命性能が低下する。一方、δ=0.05までは測定誤差の範囲である。
LixTiNb2-(y+z)CuyMzO7+δ(0≦x≦5、1×10-4≦y≦0.5、0≦z≦0.6、-0.05≦δ≦0.05)で表される複合酸化物は、ニオブの一部がCu及びMで置換されても実質的に容量が低下せず、異種元素置換により電子導電性の向上も期待できるため好ましい。
ニオブ−チタン複合酸化物は、主に単斜晶型の結晶構造を示す。一例として、単斜晶型TiNb2O7の結晶構造の模式図を図1及び2に示す。
図1に示すように、単斜晶型TiNb2O7の結晶構造は、金属イオン101と酸化物イオン102が骨格構造部分103を構成している。なお、金属イオン101には、NbイオンとTiイオンがNb:Ti=2:1の比でランダムに配置されている。この骨格構造部分103が三次元的に交互に配置されることで、骨格構造部分103同士の間に空隙部分104が存在する。この空隙部分104がリチウムイオンのホストとなる。
図1において、領域105及び領域106は、[100]方向と[010]方向に2次元的なチャネルを有する部分である。それぞれ図2に示すように、単斜晶型TiNb2O7の結晶構造には、[001]方向に空隙部分107が存在する。この空隙部分107は、リチウムイオンの導電に有利なトンネル構造を有しており、領域105と領域106とを繋ぐ[001]方向の導電経路となる。この導電経路が存在することによって、リチウムイオンは領域105と領域106を行き来することが可能となる。
このように、単斜晶型の結晶構造は、リチウムイオンの等価的な挿入空間が大きく且つ構造的に安定であり、さらに、リチウムイオンの拡散が速い2次元的なチャネルを有する領域とそれらを繋ぐ[001]方向の導電経路が存在することによって、挿入空間へのリチウムイオンの挿入脱離性が向上すると共に、リチウムイオンの挿入脱離空間が実効的に増加する。これにより、高い容量と高いレート性能を提供することが可能である。
実施形態の活物質に含まれるニオブ−チタン複合酸化物の結晶構造は、チタン酸ニオブの結晶構造(単斜晶系)を主相として含み得る。なお、実施形態の活物質に含まれるニオブ−チタン複合酸化物は、これに限定されないが、空間群C2/mの対称性を持ち、非特許文献1(Journal of Solid State Chemistry 53, pp144-147 (1984))に記載の原子座標を有する結晶構造を有することが好ましい。
さらに、上記の結晶構造は、リチウムイオンが空隙部分104に挿入されたとき、骨格を構成する金属イオン101が3価に還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。実施形態のニオブ−チタン複合酸化物は、Tiイオンが4価から3価へ還元されるだけでなく、Nbイオンが5価から3価へと還元される。このため、活物質重量あたりの還元価数が大きい。それ故、多くのリチウムイオンが挿入されても結晶の電気的中性を保つことが可能である。このため、4価カチオンだけを含む酸化チタンのような化合物に比べて、エネルギー密度が高い。例えば、TiNb2O7で表されるニオブ−チタン複合酸化物の理論容量は387 mAh/g程度であり、これはスピネル構造を有するチタン酸化物の2倍以上の値である。
また、ニオブ−チタン複合酸化物は、1.5V(vs. Li/Li+)程度のリチウム吸蔵電位を有する。それ故、該複合酸化物を含む活物質を用いることにより、安定した繰り返し急速充放電が可能な電池を提供することが可能である。
以上のことから、ニオブ−チタン複合酸化物を含む活物質を用いることにより、優れた急速充放電性能と高いエネルギー密度を有する電池用活物質を提供することが可能である。
第1の実施形態に係る活物質が含む複合酸化物は、例えば、粒子の形態をとることができる。第1の実施形態に係る活物質が含む複合酸化物の平均粒子径は、特に制限されず、所望の電池性能に応じて変化させることができる。
活物質に含まれるニオブ−チタン複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部に炭素材料を設けてもよい。例えば、ニオブ−チタン複合酸化物の粉末粒子の少なくとも一部を炭素材料で被覆することで、活物質の導電性を向上させることができる。炭素被覆の結果、活物質の粉体比抵抗が5×101Ω・cm以下になり得る。
第1の実施形態に係る活物質では、Cuを含むことで炭化処理時の複合酸化物表面の還元が抑えられている。それにより、炭素材料の導電率を高くすることができる。また、炭化処理による複合酸化物中の酸素欠損を抑えることで、結晶格子が安定化するためサイクル寿命を高めることが出来る。
ニオブ−チタン複合酸化物の粒子表面に設けられる炭素材料の量は、重量比(炭素材料とニオブ−チタン複合酸化物粒子との合計重量を100重量%とする)で0.1重量%以上5重量%以下が好ましい。より好ましい重量比は、0.2重量%以上3重量%以下である。
また、表面の少なくとも一部に炭素材料が設けられたニオブ−チタン複合酸化物粉末の平均二次粒子径は、電極密度を高くするために1μm以上20μm以下であることが好ましい。
<BET比表面積>
第1の実施形態に係る活物質が含むニオブ−チタン複合酸化物のBET比表面積は特に制限されないが、0.1m2/g以上100m2/g未満であることが好ましい。
BET比表面積が0.1m2/g以上であれば、活物質と電解質との接触面積を確保することができ、良好な放電レート性能が得られやすい。また、充電時間を短縮できる。一方、BET比表面積が100m2/g未満であれば、活物質と電解質との反応性が高くなり過ぎず、寿命性能を向上させることができる。また、この場合、後述する電極の製造に用いる、活物質を含むスラリーの塗工性を良好なものにすることができる。
ここで、比表面積の測定は、粉体粒子表面に吸着占有面積が既知である分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法を用いる。最も良く利用されるのが不活性気体の低温低湿物理吸着によるBET法である。このBET法は、単分子層吸着理論であるLangmuir理論を多分子層吸着に拡張した、比表面積の計算方法として最も有名な理論であるBET理論に基づく方法である。これにより求められた比表面積のことを、BET比表面積と称する。
<製造方法>
実施形態に係る活物質は、例えば、以下の方法により製造することができる。
まず、出発原料を混合する。ニオブ−チタン複合酸化物のための出発原料として、Li、Ti、Nbを含む酸化物又は塩を用いる。元素Mのための出発原料(Mソース)として、Na、K、Si、S、Sn、P、Ta、Mo、Mn、Co、Ni及びFeから成る群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物または塩を用いる。出発原料として用いる塩は、炭酸塩及び硝酸塩のような、比較的低温で分解して酸化物を生じる塩であることが好ましい。また、Cu元素のための出発原料として、Cuを含む酸化物または塩を用いる。具体的には、例えば、CuO、CuCl2、及びCuSO4などをCu元素のための出発原料として用いることができる。
出発原料は、モル比(Cu/Ti)及び(M/Ti)が、1×10−4≦ Cu/Ti ≦0.5及び0< M/Ti ≦0.6となる割合で混合する。好ましくは、Nbの一部が元素Mで置換された結晶の全電荷が中性に保たれるようなモル比で混合する。これにより、LixTiNb2O7の結晶構造を維持した結晶を得ることができる。一方、全電荷が中性に保たれないようなCu又はMの添加方法でも、添加量を調整することで、大部分でLixTiNb2O7の結晶構造を維持した結晶を得ることができる。混合方法は特に限定されないが、溶媒を加えたボールミル又はビーズミルを用いた湿式混合を用いることが好ましい。湿式混合に用いる溶媒としては、例えば、エタノール、水、及びイソプロピルアルコールが挙げられる。
次に、得られた混合物を粉砕し、できるだけ均一な混合物を得る。次いで、得られた混合物を焼成する。焼成は、500℃以上1200℃以下の温度範囲で、複数回の焼成に分けて延べ10時間以上40時間以下行う。なお、複数回の焼成は、仮焼成および本焼成を含む。元素Mの添加には、融点を低下させる効果があるため、1200℃以下の温度でも、結晶性の高い複合酸化物を得ることが可能である。焼成は、800℃以上1100℃以下の温度範囲で行うことがより好ましい。焼成温度が1000℃以下であれば、従来の設備を利用することができる。
このような方法により、LixTiNb2-(y+z)CuyMzO7+δ(0≦x≦5、1×10-4≦y≦0.5、0≦z≦0.6、-0.05≦δ≦0.05)で表される銅含有ニオブ−チタン複合酸化物を得ることができる。得られた合成生成物は、例えば、Cu及びMを含んだニオブ−チタン複合酸化物の固溶体であり得る。
或いは、Cu元素およびM元素を含まない単斜晶型ニオブ−チタン複合酸化物(例えば、TiNb2O7)を予め合成した後、Cu及びMを外部添加することもできる。
具体的には、先ず次のとおりCu及びMを加えずに、ニオブ−チタン複合酸化物を合成する。
出発原料として、Li、Ti、Nbを含む酸化物又は塩を用いる。出発原料として用いる塩は、炭酸塩及び硝酸塩のような、比較的低温で分解して酸化物を生じる塩であることが好ましい。目的とするニオブ−チタン複合酸化物の組成式に応じて適切な割合で出発原料を混合し、原料混合物を得る。混合方法は特に限定されないが、溶媒をエタノール、水、又はイソプロピルアルコールなどとして、ボールミルまたはビーズミルを用いた湿式混合をすることが好ましい。
次に、得られた混合物を粉砕し、できるだけ均一な混合物を得る。次いで、得られた混合物を焼成する。焼成は、500℃以上1200℃以下の温度範囲で、複数回の焼成に分けて延べ10時間以上40時間以下行う。なお、複数回の焼成は、仮焼成および本焼成を含む。焼成は、800℃以上1100℃以下の温度範囲で行うことがより好ましい。
続いて、上記のとおり合成したニオブ−チタン複合酸化物に対し、目的とするモル比になるように外部添加の原料を混合する。より具体的には、モル比(Cu/Ti)及び(M/Ti)が、1×10−4≦ Cu/Ti ≦0.5及び0< M/Ti ≦0.6となる割合でCu元素およびM元素の供給源となる酸化物や塩化物を添加し、混合する。このときの混合方法も特に限定されないが、溶媒をエタノール、水、又はイソプロピルアルコールとして、ボールミルまたはビーズミルを用いた湿式混合をすることが好ましい。
次に、かくして得られた混合物に対し、1000℃以上1200℃以下の温度で1時間以上6時間以下加熱する。これにより、単斜晶ニオブ−チタン複合酸化物の粒界付近に、添加元素の酸化物を生成することができる。なお、加熱の際、外部添加したM元素がフラックス効果を発揮し、単斜晶ニオブ−チタン複合酸化物の融点が低下される。そのため、1200℃以下の温度でも、結晶性の高い複合酸化物を得ることが可能である。
なお、上記方法により合成されたニオブ−チタン複合酸化物は、電池を充電することによりリチウムイオンが挿入されてもよい。或いは、出発原料として、炭酸リチウムのようなリチウムを含む化合物を用いることにより、リチウムを含む複合酸化物として合成されてもよい。
合成したニオブ−チタン複合酸化物粉末の粒子表面の少なくとも一部に炭素材料を設けるには、次の方法を用いることができる。
得られた単斜晶型のニオブ−チタン複合酸化物を含む酸化物粉末に炭素材料の前駆体を所定量添加(重量比10%以下)し、エタノールを加えボールミルなどで均一に混合する。その後、不活性雰囲気下(例えば、窒素、アルゴン雰囲気)で600℃以上1000℃以下で熱処理を施すことで、ニオブ−チタン複合酸化物の粉末表面の少なくとも一部が被覆された粉末が得られる。熱処理後、得られた粉末の二次粒子径を調製にするために、再度粉砕を行うことが好ましい。
熱処理温度が上記範囲より低いと、活物質中の抵抗が増大すると共に、活物質と電解質との反応性が高くなり、サイクル寿命性能が低下する。熱処理温度が上記範囲を超えると、ニオブ−チタン複合酸化物粒子の表面が炭素材料により還元される反応が促進されるため、電極容量が低下する。
炭素材料の前駆体として、ピッチ類、樹脂類、酸類、アルコール類、糖類、フェノール類、セルロース類などが挙げられる。中でも、より低い熱処理温度で炭化されるカルボキシメチルセルロース(CMC)、スクロース、ポリビニルアルコール(PVA)などを炭素材料前駆体として用いることが好ましい。
一方、炭素材料前駆体で被覆する方法の代わりに、炭素材料前駆体を蒸発させ、粒子表面に蒸着させた後、熱処理を施す方法も可能である。
<活物質の測定方法>
次に、粉末X線回折法や放射光X線回折法による活物質のX線回折図の取得方法、活物質中の組成、及び炭素材料(例えば、炭素被覆層)の有無の確認方法を説明する。
測定対象たる活物質が二次電池の電極材料に含まれている場合は、以下のように前処理を行う。
まず、活物質の結晶状態を把握するために、ニオブ−チタン複合酸化物からリチウムイオンが完全に離脱した状態に近い状態にする。例えば、測定対象たる活物質が負極に含まれている場合、電池を完全に放電した状態にする。例えば、電池を25℃環境において0.1C電流で定格終止電圧又は電池電圧が1.0Vに到達するまで放電させることを複数回繰り返し、放電時の電流値が定格容量の1/100以下となるようにすることで、電池を放電状態にすることができる。但し、放電状態でも残留したリチウムイオンが存在することもあるが、以下に説明するX線回折測定(粉末X線回折測定、又は放射光X線回折測定)の結果に大きな影響は与えない。
次に、アルゴンを充填したグローブボックスなどのドライ雰囲気中で電池を分解して電極を取り出す。取り出した電極を、適切な溶媒で洗浄して減圧乾燥する。例えば、エチルメチルカーボネートなどを用いることができる。洗浄乾燥後、表面にリチウム塩などの白い析出物がないことを確認する。
洗浄した電極を、それぞれの測定方法に応じて適切に加工や処理するなどして測定試料とする。例えば、粉末X線回折測定に供する場合は、洗浄した電極を粉末X線回折装置のホルダーの面積とほぼ同じ面積に切断し、測定試料とする。
また、必要に応じて電極から活物質を取り出して、測定試料とする。例えば、組成分析に供する場合や炭素材料の量を測定する場合には、後段で説明するように、洗浄した電極から活物質を取り出して、取り出した活物質について分析を行う。
(粉末X線回折測定)
活物質に含まれているニオブ−チタン複合酸化物の結晶構造は、粉末X線回折(XRD)により確認することができる。
活物質に対する粉末X線回折測定は、次のように行う。
まず、対象試料を平均粒子径が10μm程度となるまで粉砕する。もともと平均粒子径が10μmより小さい場合でも、凝集塊を粉砕するために乳鉢等で粉砕処理することが好ましい。5μm程度まで粉砕することがより好ましい。平均粒子径は、例えばレーザー回折法によって求めることができる。
粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填する。ガラス試料板には、例えばRigaku社製のガラス試料板を用いる。このとき、試料が十分にホルダー部分に充填されるように留意する。また、試料の充填不足により、ひび割れ及び空隙等が起きないように注意する。次いで、外部から別のガラス板を使い、試料を充分に押し付けて平滑化する。この際、充填量の過不足により、ホルダーの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。
次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu−Kα線を用いて回折パターン(XRDパターン;X‐Ray Diffraction pattern)を取得する。
測定対象たる活物質が二次電池の電極材料に含まれている場合は、まず、先に説明した手順により、測定試料を準備する。得られた測定試料を、ガラスホルダーに直接貼り付けて測定を行う。
この際、金属箔などの電極基板に由来するピークの位置を予め測定しておく。また、導電剤や結着剤などの他の成分のピークも予め測定しておく。基板のピークと活物質のピークが重なる場合、基板から活物質が含まれる層(例えば、後述する活物質含有層)を剥離して測定に供することが望ましい。これは、ピーク強度を定量的に測定する際、重なったピークを分離するためである。例えば、溶媒中で電極基板に超音波を照射することにより活物質含有層を剥離することができる。
なお、試料の配向性が高い場合には、試料の充填の仕方によってピークの位置がずれたり、ピーク強度比が変化したりする可能性がある。例えば、後述するリートベルト解析の結果から、試料を充填する際に、粒子の形状によって特定の方向に結晶面が並ぶという配向性が認められる場合がある。或いは、電池から取り出して得られた測定試料を測定した際に、配向性の影響が見られる場合がある。
このような配向性が高い試料は、ペレットの形状にして測定する。ペレットは、例えば直径10 mm、厚さ2 mmの圧粉体であってよい。該圧粉体は、試料に約250 MPaの圧力を15分間かけて製作することができる。得られたペレットをX線回折装置に設置し、その表面を測定する。このような方法で測定することにより、オペレータによる測定結果の違いを排除し、再現性を高くすることができる。
この方法で測定した強度比と、前述の平板ホルダー又はガラスホルダーを用いて測定した強度比とが異なる場合、配向による影響が考えられるため、ペレットを用いた測定結果を採用する。
粉末X線回折測定の装置としては、例えばRigaku社製SmartLabを用いる。測定条件は以下の通りとする:
X線源:Cuターゲット
出力:45kV 200mA
ソーラスリット:入射及び受光共に5°
ステップ幅(2θ):0.02deg
スキャン速度:20deg/分
半導体検出器:D/teX Ultra 250
試料板ホルダー:平板ガラス試料板ホルダー(厚さ0.5mm)
測定範囲:5°≦2θ≦90°
その他の装置を使用する場合は、上記と同等の測定結果が得られるように、粉末X線回折用標準Si粉末を用いた測定を行い、ピーク強度及びピークトップ位置が上記装置と一致する条件に調整して測定を行う。
上記粉末X線回折測定の条件は、リートベルト解析に適用できるXRDパターンを取得できる条件とする。リートベルト解析用のデータを収集するには、具体的にはステップ幅が回折ピークの最小半値幅の1/3−1/5となるようにし、最強度反射のピーク位置における強度が5000cps以上となるように適宜、測定時間またはX線強度を調整する。
(放射光X線回折測定)
ニオブ−チタン複合酸化物における酸素の欠損状態を調べるには、粉末X線回折測定に加え、より強力なX線源をもつ放射光X線回折測定を実施することが好ましい。特に、炭素被覆などによりその表面の少なくとも一部に炭素材料が存在しているニオブ−チタン複合酸化物を測定する場合、粉末X線回折測定のみでは、バックグラウンド(例えば、炭素に由来するノイズ)が高くなるため測定精度が低下する。このような場合においては、放射光X線回折測定を用いてS/N(信号/雑音)比を向上させることができる。
放射光X線回折測定においては、リンデマンガラス製のキャピラリ(円柱状のガラス細管)を用いて測定することが望ましい。具体的には、試料をリンデマンガラス製のキャピラリに挿入し、このキャピラリを回転式試料台に載置して、回転させながら測定する。このような測定方法により、ニオブ−チタン複合酸化物粒子の配向性を軽減した結果を得ることができる。
放射光X線回折測定の装置としては、例えば理化学研究所が所有する日本国文部科学省管轄下の共用施設SPring-8にある、BL02B2を用いる。測定条件は以下の通りとする:
大型Debye-Scherrerカメラを使用
検出器:散乱角2θが高角度の回折線まで捉えられるImaging-Plate (IP)
測定に使用する波長:0.6999 Å
測定温度:室温
試料ホルダー:ガラスキャピラリを測定中に自転することで回折線に与える粉末粒子の選択配向や粗大粒子の影響が最小限になるようにする。
積算時間:IP のサチレーション・タイムによるが、最低5分以上とする。
回折パターンの取得方法:測定終了後、IP に記録した回折線の強度と位置を読み取り、回折線位置と回折線強度の2次元回折パターンデータを得る(2θ / 強度データ)。
(結晶構造および酸素欠損状態の確認)
上記粉末X線回折または放射光X線回折により得られた測定データを、リートベルト法によって解析する。リートベルト法では、あらかじめ推定した結晶構造モデルから計算された回折パターンを実測値と全フィッティングして、結晶構造に関するパラメータ(格子定数、原子座標、占有率等)を精密化することができる。これにより、測定試料の結晶構造の特徴を調べることができる。
このとき、放射光X線回折データから酸化物イオンの占有率を精密化することで、酸素の欠損状態(δ)を調べることができる。より定量的に酸素欠損量を求めるためには、ラマン分光法を併用して調べることが好ましい。ラマン分光法は、結晶格子中に局在している欠損に対して敏感な測定感度を有する。得られたラマンピークから、酸素の振動のみから構成されるモードに着目し、酸素欠損量とピークシフト量の関係を調べることで、酸素欠損量の定量が可能となる。
その他、雰囲気制御高温微重量天秤を用いた平衡測定を用いて直接的に欠損量を調べることもできる。
(活物質中の組成の確認)
活物質中の複合酸化物の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光法を用いて分析することができる。この際、各元素の存在比(モル比)は、使用する分析装置の感度に依存する。従って、例えば、第1の実施形態に係る一例の活物質に含まれている複合酸化物の組成を、ICP発光分光法を用いて分析した際、先に説明したモル比から測定装置の誤差分だけ数値が逸脱することがある。しかしながら、分析装置の誤差範囲で測定結果が上記のように逸脱したとしても、第1の実施形態に係る一例の活物質は先に説明した効果を十分に発揮することができる。
電池に組み込まれている活物質の組成をICP発光分光法により測定するには、具体的には以下の手順により行う。
まず、先に説明した手順により、二次電池から、測定対象たる活物質を含んだ電極を取り出し、洗浄する。洗浄した電極から、活物質含有層など電極活物質が含まれている部分を剥離する。例えば、超音波を照射することにより電極活物質が含まれている部分を剥離することができる。具体例として、例えば、ガラスビーカー中に入れたエチルメチルカーボネートに電極を入れ、超音波洗浄機中で振動させることで、電極集電体から電極活物質を含む活物質含有層を剥離させることができる。
次に、剥離した部分を大気中で短時間加熱して(例えば、500℃で1時間程度)、バインダー成分やカーボンなど不要な成分を焼失させる。この残渣を酸で溶解することで、活物質を含む液体サンプルを作成できる。このとき、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素などを使用できる。この液体サンプルをICP分析に供することで、活物質中の組成を知ることができる。
また、ICP分析により、モル比(Cu/Ti)、(M/Ti)及び(Nb/Ti)を計算することができる。複合酸化物における元素モル比は加熱により変化しないため、モル比を測定することができる。
(Cu及び元素Mの状態の確認)
活物質中のCu及び添加した元素Mがニオブ−チタン複合酸化物の結晶格子中に固溶した状態にあるか否かは、次のとおり判断することができる。透過型電子顕微鏡(TEM)観察及び電子プローブ微量分析(EPMA)測定を行うことにより、添加元素の分布状態を知ることができる。これによりCu及び添加元素Mが固体中に均一に分布しているか、偏析しているかを判断することができる。この方法では、添加量が微量の場合でも判断が可能である。
(粒子表面上の炭素材料の有無の確認)
ニオブ−チタン複合酸化物の粒子表面に炭素材料が設けられているか否かは、次のようにして確認することができる。
先ず、先に説明した手順により、二次電池から、測定対象たる活物質を含んだ電極を取り出し、洗浄する。
洗浄した電極から活物質粉末を取り出す。活物質粉末は、例えば次のようにして取り出すことができる。先ず結着剤を含む電極を溶媒中に分散する。このとき用いる溶媒としては、例えば、結着剤が有機溶剤系結着剤であればN−メチルピロリドン、結着剤が水系結着剤(例えば、水溶性の結着剤)であれば純水を用いる。溶媒に対し超音波を30分以上照射して電極を分散させる。これにより結着剤を溶解して集電体から電極材料を粉末として分離できる。次に電極材料の粉末を含む溶媒を遠心分離器に入れ、導電剤及び活物質粒子に分離した後フリーズドライで回収する。かくして粒子表面上に設けられた炭素材料を維持したまま活物質粉末を取り出すことができる。
取出した活物質をジエチルカーボネート溶媒などの有機溶媒で洗浄してリチウム塩を溶解して除去した後、乾燥させる。乾燥後、空気中で十分に水洗して残留リチウムイオンを除去した活物質を測定対象とする。
粒子表面上の炭素材料は、以下の無機元素分析法によって分析することができる。測定対象として準備した活物質試料を助燃剤と共にアルミナるつぼに入れ、酸素気流中で高周波誘導加熱により燃焼する。この際、炭素が二酸化炭素として放出されるため、赤外検出器により二酸化炭素を検出することで、炭素量を定量する。測定装置としては、例えば、LECO社製CS844型を用いることができる。
(粉体比抵抗の測定)
活物質の粉体比抵抗は、例えば、下記のとおり測定できる。測定に用いる活物質試料の準備には、粒子表面上の炭素材料を確認する際に測定試料を準備する方法と同様の手順を用いることができる。
測定装置としては、例えば、三菱ケミカルアナリテック社製粉体抵抗測定システムMCP−PD51型を用いることができる。電極半径10mmの対向電極シリンダーに3gの活物質試料を入れ、20kg・Nの圧力をかけて体積抵抗率を測定する。印加電圧を10Vとして電気抵抗を測定し、電極厚さと直径から粉体の比抵抗率(Ωcm)を算出する。
以上、第1の実施形態によれば、高いエネルギー密度を示し、且つ、優れた急速充放電性能と長寿命性能を有する活物質を提供することができる。この活物質は、高容量で、優れた急速充放電性能を有する長寿命な二次電池を実現することができる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態によると、電極が提供される。
第2の実施形態に係る電極は、第1の実施形態に係る活物質を含む。この電極は、第1の実施形態に係る活物質を電池用活物質として含む電池用電極であり得る。電池用電極としての電極は、例えば、第1の実施形態に係る活物質を負極活物質として含む負極であり得る。
第2の実施形態に係る電極は、集電体と活物質含有層とを含むことができる。活物質含有層は、集電体の片面又は両面に形成され得る。活物質含有層は、活物質と、任意に導電剤及び結着剤とを含むことができる。
活物質含有層は、第1の実施形態に係る活物質を単独で含んでもよく、第1の実施形態に係る活物質を2種類以上含んでもよい。さらに、第1の実施形態に係る活物質を1種又は2種以上と、更に1種又は2種以上の他の活物質とを混合した混合物を含んでもよい。
例えば、第1の実施形態に係る活物質を負極活物質として含む場合は、他の活物質の例には、ラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム(例えばLi2+yTi3O7、0≦y≦3)、スピネル構造を有するチタン酸リチウム(例えば、Li4+xTi5O12、0≦x≦3)、単斜晶型二酸化チタン(TiO2)、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、ホランダイト型チタン複合酸化物、斜方晶型チタン複合酸化物、及び単斜晶型ニオブチタン複合酸化物が挙げられる。
上記斜方晶型チタン含有複合酸化物の例として、Li2+aM(I)2-bTi6-cM(II)dO14+σで表される化合物が挙げられる。ここで、M(I)は、Sr,Ba,Ca,Mg,Na,Cs,Rb及びKからなる群より選択される少なくとも1つでる。M(II)はZr,Sn,V,Nb,Ta,Mo,W,Y,Fe,Co,Cr,Mn,Ni,及びAlからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦a≦6、0≦b<2、0≦c<6、0≦d<6、−0.5≦σ≦0.5である。斜方晶型チタン含有複合酸化物の具体例として、Li2+aNa2Ti6O14(0≦a≦6)が挙げられる。
上記単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の例として、LixTi1-yM1yNb2-zM2zO7+δで表される化合物が挙げられる。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z≦2、−0.3≦δ≦0.3である。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の具体例として、LixNb2TiO7(0≦x≦5)が挙げられる。
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の他の例として、Ti1-yM3y+zNb2-zO7-δで表される化合物が挙げられる。ここで、M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoより選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦y<1、0≦z≦2、−0.3≦δ≦0.3である。
導電剤は、集電性能を高め、且つ、活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。あるいは、導電剤を用いる代わりに、活物質粒子の表面に、炭素コートや電子導電性無機材料コートを施してもよい。
結着剤は、分散された活物質の間隙を埋め、また、活物質と負極集電体を結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジェンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
活物質含有層中の活物質、導電剤及び結着剤の配合割合は、電極の用途に応じて適宜変更することができる。例えば、電極を二次電池の負極として用いる場合は、活物質(負極活物質)、導電剤及び結着剤を、それぞれ、68質量%以上96質量%以下、2質量%以上30質量%以下及び2質量%以上30質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の量を2質量%以上とすることにより、活物質含有層と集電体との結着性が十分となり、優れたサイクル性能を期待できる。一方、導電剤及び結着剤はそれぞれ30質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
集電体は、活物質にリチウム(Li)が挿入及び脱離される電位において電気化学的に安定である材料が用いられる。例えば、活物質が負極活物質として用いられる場合は、集電体は、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金から作られることが好ましい。集電体の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
また、集電体は、その表面に負極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。
電極は、例えば次の方法により作製することができる。まず、活物質、導電剤及び結着剤を溶媒に懸濁してスラリーを調製する。このスラリーを、集電体の片面又は両面に塗布する。次いで、塗布したスラリーを乾燥させて、活物質含有層と集電体との積層体を得る。その後、この積層体にプレスを施す。このようにして、電極を作製する。
或いは、電極は、次の方法により作製してもよい。まず、活物質、導電剤及び結着剤を混合して、混合物を得る。次いで、この混合物をペレット状に成形する。次いで、これらのペレットを集電体上に配置することにより、電極を得ることができる。
第2の実施形態に係る電極は、第1の実施形態に係る活物質を含んでいる。そのため、第2の実施形態に係る電極は、高いエネルギー密度を有し、且つ急速充放電性能と長寿命性とを両立する二次電池を実現することができる。
[第3の実施形態]
第3の実施形態によると、負極と、正極と、電解質とを含む二次電池が提供される。この二次電池は、負極として、第2の実施形態に係る電極を含む。つまり、第3の実施形態に係る二次電池は、第1の実施形態に係る活物質を電池用活物質として含む電極を、負極として含む。
第3実施形態に係る二次電池は、正極と負極との間に配されたセパレータを更に具備することもできる。負極、正極及びセパレータは、電極群を構成することができる。電解質は、電極群に保持され得る。
また、第3の実施形態に係る二次電池は、電極群及び電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。
さらに、第3の実施形態に係る二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
第3の実施形態に係る二次電池は、例えばリチウム二次電池であり得る。また、二次電池は、非水電解質を含んだ非水電解質二次電池を含む。
以下、負極、正極、電解質、セパレータ、外装部材、負極端子及び正極端子について詳細に説明する。
1)負極
負極は、負極集電体と、負極活物質含有層とを含むことができる。負極集電体及び負極活物質含有層は、それぞれ、第2の実施形態に係る電極が含むことのできる集電体及び活物質含有層であり得る。負極活物質含有層は、第1の実施形態に係る活物質を負極活物質として含む。
負極の詳細のうち、第2の実施形態について説明した詳細と重複する部分は、省略する。
負極活物質含有層の密度(集電体を含まず)は、1.8g/cm3以上2.8g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.1g/cm3以上2.6g/cm3以下であることがより好ましい。
負極は、例えば、第2の実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
2)正極
正極は、正極集電体と、正極活物質含有層とを含むことができる。正極活物質含有層は、正極集電体の片面又は両面に形成され得る。正極活物質含有層は、正極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
正極活物質としては、例えば、酸化物又は硫化物を用いることができる。正極は、正極活物質として、1種類の化合物を単独で含んでいてもよく、或いは2種類以上の化合物を組み合わせて含んでいてもよい。酸化物及び硫化物の例には、Li又はLiイオンを挿入及び脱離させることができる化合物を挙げることができる。
このような化合物としては、例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4又はLixMnO2;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4;0<x≦1、0<y<2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4;0<x≦1、LixFe1-yMnyPO4;0<x≦1、0<y<1、LixCoPO4;0<x≦1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV2O5)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-x-yCoxMnyO2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。
上記のうち、正極活物質としてより好ましい化合物の例には、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoyO2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiyO4;0<x≦1、0<y<2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-yO2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムリン酸鉄(例えばLixFePO4;0<x≦1)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-x-yCoxMnyO2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。これらの化合物を正極活物質に用いると、正極電位を高めることができる。
電池の電解質として常温溶融塩を用いる場合、リチウムリン酸鉄、LixVPO4F(0≦x≦1)、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、又はこれらの混合物を含む正極活物質を用いることが好ましい。これらの化合物は常温溶融塩との反応性が低いため、サイクル寿命を向上させることができる。常温溶融塩の詳細については、後述する。
正極活物質の一次粒径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒径が1μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、Liイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
結着剤は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
導電剤は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
正極活物質含有層において、正極活物質及び結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、及びクロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
また、正極集電体は、その表面に正極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
正極は、例えば、正極活物質を用いて、第2の実施形態に係る電極と同様の方法により作製することができる。
3)電解質
電解質としては、例えば液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、溶質としての電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。電解質塩の濃度は、0.5 mol/L以上2.5 mol/L以下であることが好ましい。
電解質塩の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質塩は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate;MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane;DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)、ジエトキシエタン(diethoxy ethane;DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;GBL)、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、及びスルホラン(sulfolane;SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
ゲル状非水電解質は、液状非水電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide;PEO)、又はこれらの混合物が含まれる。
或いは、非水電解質としては、液状非水電解質及びゲル状非水電解質の他に、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、及び無機固体電解質等を用いてもよい。
常温溶融塩(イオン性融体)は、有機物カチオンとアニオンとの組合せからなる有機塩の内、常温(15℃以上25℃以下)で液体として存在し得る化合物を指す。常温溶融塩には、単体で液体として存在する常温溶融塩、電解質塩と混合させることで液体となる常温溶融塩、有機溶媒に溶解させることで液体となる常温溶融塩、又はこれらの混合物が含まれる。一般に、二次電池に用いられる常温溶融塩の融点は、25℃以下である。また、有機物カチオンは、一般に4級アンモニウム骨格を有する。
高分子固体電解質は、電解質塩を高分子材料に溶解し、固体化することによって調製される。
無機固体電解質は、Liイオン伝導性を有する固体物質である。
4)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。安全性の観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムを用いることが好ましい。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能なためである。
5)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
6)負極端子
負極端子は、上述の負極活物質のLi吸蔵放出電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
7)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し3V以上4.5V以下の電位範囲(vs.Li/Li+)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
次に、第3の実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
図3は、第3の実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。図4は、図3に示す二次電池のA部を拡大した断面図である。
図3及び図4に示す二次電池100は、図3に示す袋状外装部材2と、図3及び図4に示す電極群1と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、袋状外装部材2内に収納されている。電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。
袋状外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
図3に示すように、電極群1は、扁平状の捲回型電極群である。扁平状で捲回型である電極群1は、図4に示すように、負極3と、セパレータ4と、正極5とを含む。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3のうち、捲回型の電極群1の最外殻に位置する部分は、図4に示すように負極集電体3aの内面側のみに負極活物質含有層3bが形成されている。負極3におけるその他の部分では、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。
正極5は、正極集電体5aと、その両面に形成された正極活物質含有層5bとを含んでいる。
図1に示すように、負極端子6及び正極端子7は、捲回型の電極群1の外周端近傍に位置している。この負極端子6は、負極集電体3aの最外殻に位置する部分に接続されている。また、正極端子7は、正極集電体5aの最外殻に位置する部分に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。袋状外装部材2の内面には、熱可塑性樹脂層が設置されており、これが熱融着されていることにより、開口部が閉じられている。
第3の実施形態に係る二次電池は、図3及び図4に示す構成の二次電池に限らず、例えば図5及び図6に示す構成の電池であってもよい。
図5は、第3の実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図である。図6は、図5に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。
図5及び図6に示す二次電池100は、図5及び図6に示す電極群1と、図5に示す外装部材2と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、外装部材2内に収納されている。電解質は、電極群1に保持されている。
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
電極群1は、図6に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bとを備えている。
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分3cを含む。この部分3cは、負極集電タブとして働く。図6に示すように、負極集電タブとして働く部分3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ(部分3c)は、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)と同様に、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)に対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
第3の実施形態に係る二次電池は、第1の実施形態に係る活物質を負極活物質として含んでいる。そのため、第3の実施形態に係る二次電池は、高いエネルギー密度を有し、且つ急速充放電性能と長寿命性とを両立することができる。
[第4の実施形態]
第4の実施形態によると、組電池が提供される。第4の実施形態に係る組電池は、第3の実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
第4の実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
次に、第4の実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
図7は、第4の実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。図7に示す組電池200は、5つの単電池100a〜100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a〜100eのそれぞれは、第3の実施形態に係る二次電池である。
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、図7の組電池200は、5直列の組電池である。
図7に示すように、5つの単電池100a〜100eのうち、左端に位置する単電池100aの正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に接続されている。また、5つの単電池100a〜100eうち、右端に位置する単電池100eの負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に接続されている。
第4の実施形態に係る組電池は、第3の実施形態に係る二次電池を具備する。したがって、高いエネルギー密度を有し、且つ急速充放電性能と長寿命性とを両立することができる。
[第5の実施形態]
第5の実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第4の実施形態に係る組電池を具備している。この電池パックは、第4の実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第3の実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
第5の実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
また、第5の実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
次に、第5の実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
図8は、第5の実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。図9は、図8に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
図8及び図9に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
図8に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
単電池100は、図3及び図4に示す構造を有している。複数の単電池100の少なくとも1つは、第2の実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100は、外部に延出した負極端子6及び正極端子7が同じ向きになるように揃えて積層されている。複数の単電池100の各々は、図9に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
正極側リード22の一端は、単電池100の積層体において、最下層に位置する単電池100の正極端子7に接続されている。負極側リード23の一端は、単電池100の積層体において、最上層に位置する単電池100の負極端子6に接続されている。
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ341と、負極側コネクタ342と、サーミスタ343と、保護回路344と、配線345及び346と、通電用の外部端子347と、プラス側配線348aと、マイナス側配線348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200において負極端子6及び正極端子7が延出する面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
正極側コネクタ341には、貫通孔が設けられている。この貫通孔に、正極側リード22の他端が挿入されることにより、正極側コネクタ341と正極側リード22とは電気的に接続される。負極側コネクタ342には、貫通孔が設けられている。この貫通孔に、負極側リード23の他端が挿入されることにより、負極側コネクタ342と負極側リード23とは電気的に接続される。
サーミスタ343は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ343は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路344に送信する。
通電用の外部端子347は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子347は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。
保護回路344は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路344は、プラス側配線348aを介して通電用の外部端子347と接続されている。保護回路344は、マイナス側配線348bを介して通電用の外部端子347と接続されている。また、保護回路344は、配線345を介して正極側コネクタ341に電気的に接続されている。保護回路344は、配線346を介して負極側コネクタ342に電気的に接続されている。更に、保護回路344は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
保護回路344は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路344は、サーミスタ343から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路344と外部機器への通電用の外部端子347との電気的な接続を遮断する。
サーミスタ343から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
なお、保護回路344としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子347を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子347を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子347を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子347を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子として用いてもよい。
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
第5の実施形態に係る電池パックは、第3の実施形態に係る二次電池又は第4の実施形態に係る組電池を備えている。したがって、高いエネルギー密度を有し、且つ急速充放電性能と長寿命性とを両立することができる。
[第6の実施形態]
第6の実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第5の実施形態に係る電池パックを搭載している。
第6の実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。
第6の実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車、及び鉄道用車両が挙げられる。
第6の実施形態に係る車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
第6の実施形態に係る車両は、複数の電池パックを搭載してもよい。この場合、電池パックは、電気的に直列に接続されてもよく、電気的に並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて電気的に接続されてもよい。
次に、第6の実施形態に係る車両の一例について、図面を参照しながら説明する。
図10は、第6の実施形態に係る車両の一例を概略的に示す断面図である。
図10に示す車両400は、車両本体40と、第4の実施形態に係る電池パック300とを含んでいる。図10に示す例では、車両400は、四輪の自動車である。
この車両400は、複数の電池パック300を搭載してもよい。この場合、電池パック300は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。
図10では、電池パック300が車両本体40の前方に位置するエンジンルーム内に搭載されている例を図示している。上述したとおり、電池パック300は、例えば、車両本体40の後方又は座席の下に搭載してもよい。この電池パック300は、車両400の電源として用いることができる。また、この電池パック300は、車両400の動力の回生エネルギーを回収することができる。
次に、図11を参照しながら、第6の実施形態に係る車両の実施態様について説明する。
図11は、第6の実施形態に係る車両の一例を概略的に示した図である。図11に示す車両400は、電気自動車である。
図11に示す車両400は、車両本体40と、車両用電源41と、車両用電源41の上位制御手段である車両ECU(ECU:Electric Control Unit;電気制御装置)42と、外部端子(外部電源に接続するための端子)43と、インバータ44と、駆動モータ45とを備えている。
車両400は、車両用電源41を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。なお、図11に示す車両400では、車両用電源41の搭載箇所については概略的に示している。
車両用電源41は、複数(例えば3つ)の電池パック300a、300b及び300cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)411と、通信バス412とを備えている。
3つの電池パック300a、300b及び300cは、電気的に直列に接続されている。電池パック300aは、組電池200aと組電池監視装置301a(例えば、VTM:Voltage Temperature Monitoring)とを備えている。電池パック300bは、組電池200bと組電池監視装置301bとを備えている。電池パック300cは、組電池200cと組電池監視装置301cとを備えている。電池パック300a、300b、及び300cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パック300と交換することができる。
組電池200a〜200cのそれぞれは、直列に接続された複数の単電池を備えている。複数の単電池の少なくとも1つは、第3の実施形態に係る二次電池である。組電池200a〜200cは、それぞれ、正極端子413及び負極端子414を通じて充放電を行う。
電池管理装置411は、車両用電源41の保全に関する情報を集めるために、組電池監視装置301a〜301cとの間で通信を行い、車両用電源41に含まれる組電池200a〜200cに含まれる単電池100の電圧、及び温度などに関する情報を収集する。
電池管理装置411と組電池監視装置301a〜301cとの間には、通信バス412が接続されている。通信バス412は、1組の通信線を複数のノード(電池管理装置と1つ以上の組電池監視装置と)で共有するように構成されている。通信バス412は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
組電池監視装置301a〜301cは、電池管理装置411からの通信による指令に基づいて、組電池200a〜200cを構成する個々の単電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての単電池の温度を測定しなくてもよい。
車両用電源41は、正極端子413と負極端子414との接続を入り切りするための電磁接触器(例えば図11に示すスイッチ装置415)を有することもできる。スイッチ装置415は、組電池200a〜200cへの充電が行われるときにオンするプリチャージスイッチ(図示せず)、及び、電池出力が負荷へ供給されるときにオンするメインスイッチ(図示せず)を含んでいる。プリチャージスイッチおよびメインスイッチは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオン又はオフされるリレー回路(図示せず)を備えている。
インバータ44は、入力された直流電圧を、モータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ44の3相の出力端子は、駆動モータ45の各3相の入力端子に接続されている。インバータ44は、電池管理装置411、あるいは車両全体の動作を制御するための車両ECU42からの制御信号に基づいて、出力電圧を制御する。
駆動モータ45は、インバータ44から供給される電力により回転する。この回転は、例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達される。
また、図示はしていないが、車両400は、回生ブレーキ機構を備えている。回生ブレーキ機構は、車両400を制動した際に駆動モータ45を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ44に入力され、直流電流に変換される。直流電流は、車両用電源41に入力される。
車両用電源41の負極端子414には、接続ラインL1の一方の端子が、電池管理装置411内の電流検出部(図示せず)を介して接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ44の負極入力端子に接続されている。
車両用電源41の正極端子413には、接続ラインL2の一方の端子が、スイッチ装置415を介して接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ44の正極入力端子に接続されている。
外部端子43は、電池管理装置411に接続されている。外部端子43は、例えば、外部電源に接続することができる。
車両ECU42は、運転者などの操作入力に応答して他の装置とともに電池管理装置411を協調制御して、車両全体の管理を行なう。電池管理装置411と車両ECU42との間では、通信線により、車両用電源41の残容量など、車両用電源41の保全に関するデータ転送が行われる。
第6の実施形態に係る車両は、第5の実施形態に係る電池パックを搭載している。したがって、電池パックの高いエネルギー密度および急速充放電性能の恩恵により、高性能な車両が提供される。また、電池パックの長寿命性により、車両の信頼性が高い。
[実施例]
以下、実施例に基づいて上記実施形態をさらに詳細に説明する。なお、合成したニオブ−チタン複合酸化物の結晶相の同定及び結晶構造の推定、酸化物イオンの欠損量の定量化には、顕微レーザーラマン測定及びシンクロトロン放射光X線回折を用いた。また、生成物の組成をICP法により分析し、目的物が得られていることを確認した。また、TEM観察ならびにEPMA測定を行い、元素Mの状態を確認した。
(合成)
<実施例1〜3、参考例4>
実施例1〜3及び参考例4では、Nb2TiO7を合成したのち、外部からCu元素、M元素の供給源となる酸化物または塩化物を混合して加熱処理をすることで、粒界部に添加元素を偏析した試料を合成した。
まず、出発原料として、表1に示した市販の酸化物試薬を、記した原料モル比にて混合した粉末を乳鉢中に投入した。この乳鉢にエタノールを添加し、湿式混合を行った。
次に、かくして得られた混合物を電気炉に入れて加熱処理を行った。まず初めに850℃の温度で6時間にわたって仮焼成を行った。次いで、仮焼成した粉末を、炉から取出し、再粉砕し、更に混合した。
かくして得られた混合物に対し、続けて、1100℃の温度で6時間かけて1回目の焼成を行った。焼成の後、炉から焼成粉を取り出し、焼成粉を再混合した。
続けて、再混合した焼成粉を炉に入れ、1100℃の温度で6時間にわたる2回目の焼成に供した。焼成の後、炉から焼成粉を取り出し、焼成粉を再混合した。
続けて、再混合した焼成粉を炉に入れ、1100℃の温度で12時間にわたる3回目の焼成に供した。このとき1100℃で焼成を終えた粉末を速やかに電気炉から取り出し、室温大気中で放冷した。
3回目の焼成後、すなわち、1100℃の温度での延べ24時間の焼成の結果得られた粉末を、実施例1〜3及び参考例4の主相組成物とした。
次に、得られた主相組成物に外部添加種としてのCu元素の供給源及びM元素の供給源を適量加えたのち、乳鉢中に投入した。実施例1では、主相組成物1モルあたりに、CuO(Cu元素供給源)を1x10-4モル、NaCl(M元素供給源)を0.1モルとなる量で加えた。実施例2〜3及び参考例4では、外部添加種として表1に記載された酸化物を記載のモル比で加えた。それぞれの乳鉢にエタノールを添加し、湿式混合を行った。
次に、かくして得られた混合物に対し、1000℃の温度で1時間加熱した結果得られた粉末をそれぞれ実施例1〜3及び参考例4の活物質粉末とした。
<実施例5>
LixTiNb2-(y+z)CuyMzO7+δ(0≦x≦5、1×10-4≦y≦0.5、0≦z≦0.6、-0.05≦δ≦0.05)で表される銅含有ニオブ−チタン複合酸化物を含み、M元素がMoである活物質を合成した。また、添字xが0、添字yが0.01、添字zが0.03、添字δが0である活物質粉末を目的として合成を行った。
まず、出発原料として、表1に示した市販の酸化物試薬を記した原料モル比にて混合して混合粉末を得た。出発原料の混合粉末を乳鉢中に投入した。この乳鉢にエタノールを添加し、湿式混合を行った。
次に、かくして得られた混合物を電気炉に入れて下記の通り加熱処理を行った。
まず初めに850℃の温度で6時間にわたって仮焼成を行った。次いで、仮焼成した粉末を、炉から取出し、再粉砕し、更に混合した。
かくして得られた混合物に対し、続けて、1100℃の温度で6時間かけて1回目の焼成を行った。焼成の後、炉から焼成粉を取り出し、焼成粉を再混合した。
続けて、再混合した焼成粉を炉に入れ、1100℃の温度で6時間にわたる2回目の焼成に供した。焼成の後、炉から焼成粉を取り出し、焼成粉を再混合した。
続けて、再混合した焼成粉を炉に入れ、1100℃の温度で12時間にわたる3回目の焼成に供した。このとき1100℃で焼成を終えた粉末を速やかに電気炉から取り出し、室温大気中で放冷した。
3回目の焼成後、すなわち、1100℃の温度での延べ24時間の焼成の結果得られた粉末を、実施例5の活物質粉末とした。
<実施例6〜7>
実施例5と同様の活物質粉末に対し炭素被覆処理を実施した。
先ず、実施例5と同様の手順でM元素がMoである銅含有ニオブ−チタン複合酸化物を含む活物質粉末を合成した。
得られた活物質粉末を前駆体として、スクロースをこの前駆体に対し重量比10%添加し、エタノールを加えた。前駆体を含む混合物をボールミルで15分間均一に混合した。その後、混合物に対しアルゴン雰囲気下で加熱処理を施した。実施例6では、500℃で1時間加熱した。実施例7では、700℃で1時間加熱処理した。
このようにして炭素材料で被覆した活物質粉末を実施例6及び7の活物質粉末とした。
<実施例8〜10>
LixTiNb2-(y+z)CuyMzO7+δ(0≦x≦5、1×10-4≦y≦0.5、0≦z≦0.6、-0.05≦δ≦0.05)で表される銅含有ニオブ−チタン複合酸化物を含み、M元素がMoである活物質を複数種類合成した。組成式における各添字は、表3に示す通りにした。
出発原料として表1に記載した原料を、記載のモル比にて混合した以外は、実施例5と同様の方法で合成し、実施例8〜10の活物質粉末を得た。
<実施例11〜14、参考例15、実施例16〜18>
LixTiNb2-(y+z)CuyMzO7+δ(0≦x≦5、1×10-4≦y≦0.5、0≦z≦0.6、-0.05≦δ≦0.05)で表される銅含有ニオブ−チタン複合酸化物を含み、M元素が表3に示す種々の元素である活物質粉末を合成した。具体例として、実施例9ではMo及びTaをM元素として含む活物質粉末を合成した。
出発原料として表1に記載した原料を、記載のモル比にて混合した以外は、実施例5と同様の方法で合成し、実施例11〜14、参考例15、実施例16〜18の活物質粉末を得た。
<比較例1>
特許文献1に記載の方法に従って、TiNb2O7を合成した。具体的には、酸化チタン粉末と五酸化ニオブ粉末をモル比で1:1になるように秤量し、乳鉢中で、エタノールを使った湿式混合を行った。これを白金るつぼに入れて、特許文献1の実施例に記載の方法に従って熱処理を行った。具体的には、電気炉を用いて大気雰囲気下1000℃で24時間熱処理した。自然放冷した後、再度乳鉢中で粉砕および混合を行い、1000℃で24時間熱処理した。
<比較例2>
比較例1と同様の活物質粉末に対し炭素被覆処理を実施した。
先ず、比較例1と同様の手順でTiNb2O7を合成した。
得られたTiNb2O7を前駆体として、スクロースをこの前駆体に対し重量比10%添加し、エタノールを加えた。前駆体を含む混合物をボールミルで15分間均一に混合した。その後、混合物に対しアルゴン雰囲気下で700℃及び1時間の加熱処理を施した。
<比較例3>
特許文献2の記載の方法に従って、TiNb1.9Mo0.075Mg0.025O7を合成した。具体的には、出発原料として表2に記載した原料を、記載のモル比になるように秤量し、乳鉢で混合した。次に、電気炉に入れ、1000℃で延べ36時間焼成した。
<比較例4>
特許文献2に記載の方法に従って、TiNb2O7の結晶構造を有し、さらに、元素Vが固溶した状態で存在する複合酸化物を合成した。
出発原料として、Nb2O5、TiO2、及び、V2O5を準備した。Nb2O5、TiO2をモル比1:1の割合で混合し、V2O5は、モル比(M/Ti)が0.01となる割合で添加した。なお、この合成方法では、元素Vがフラックスとして機能し得る。
表1に各実施例に用いた出発原料および外部添加種の組成、及び原料モル比を示す。
表2に各比較例に用いた出発原料および外部添加種の組成、及び原料モル比を示す。
(X線回折測定、レーザーラマン測定、TEM測定、EPMA測定、ICP分析)
各々の実施例および比較例にて合成した試料について行った種々の測定結果を以下に示す。
上述した方法により粉末X線回折測定を行った。取得した回折パターンを用いてリートベルト解析を実施した。
リートベルト解析の結果から、実施例1〜3、5〜14、16〜18、並びに参考例4及び15では、主相として目的とする結晶相が得られたことが確認できた。
比較例1及び2では、主なXRDピークはTiNb2O7とほぼ一致したが、ピークの線幅が広く、結晶性が低いことが示唆された。更に未反応分の二酸化チタンに起因すると思われる不純物相が存在している可能性があった。
比較例3及び4では、XRDピークはTiNb2O7構造とすべて一致した。比較例3及び4では、比較例1及び2と比べて線幅が狭く、結晶性が高いことが確認された。
TEM観察およびEPMA測定の結果から、実施例1〜3及び参考例4の活物質では、添加元素であるM元素(Na、K、又はFe及びS)及びCuが、粒界部に偏析していることが確認された。また、比較例4の活物質では、結晶を構成するドメイン中の一部に元素Vが偏析していることがわかった。つまり、これらの場合は、外部添加種として添加した元素が主相としてのニオブ−チタン複合酸化物のNbを置換していなく、固溶体を生成していなかった。一方、実施例5〜14、16〜18、参考例15及び比較例3の活物質では、添加元素がニオブ−チタン複合酸化物の結晶内に置換されている、又は結晶内に固溶しており、固溶体が生成されていることが確認できた。
表3には、ICP分析から求められた活物質中の元素構成を示す。具体的には、活物質粉末の主相組成、外部添加種、外部添加種の添加量を示す。また、主相組成について、組成式LixTiNb2-(y+z)CuyMzO7+δにおける各添字の値をまとめる。
表4には、ICP分析から得られた元素構成のモル比を示す。具体的には、モル比(Cu/Ti)、モル比(M/Ti)、及びモル比(Nb/Ti)をまとめる。
放射光X線回折測定およびレーザーラマン測定を併用して酸化物イオンの欠損量を定量化した結果、比較例2の活物質に酸素欠損が確認された。その他の試料では、酸素欠損は確認されなかった。
上述した方法により各々の試料の粉体比抵抗を測定した結果から、実施例6及び7では、炭素被覆処理によって導電性が向上したことが確認された。比較例2においても炭素被覆前(比較例1)と比較して粉体比抵抗が低下したものの、実施例6及び7と比べて粉体比抵抗が高かった。比較例2と実施例7とで炭化温度が同じだったにも関わらず比較例2では粉体比抵抗が高かった理由は、複合酸化物表面が還元されたことにより炭化が十分でない箇所が炭素材料に生じているためと考えられる。
表5に、炭素被覆処理における炭化処理温度、炭化処理時間、並びに粉体比抵抗および酸素欠損量を示す。なお、実施例1〜3、5、8〜14、及び16〜18、参考例4及び15、並びに比較例1及び3〜4では、炭素被覆処理を実施しなかった。
(電気化学測定セルの作製)
上記で合成した活物質粉末と、導電剤としてのアセチレンブラックとを混合した。混合比は、活物質100重量部に対してアセチレンブラックを10重量部とした。この混合物をNMP(N-メチル-2-ピロリドン)中に分散した。得られた分散液に、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を混合し、電極スラリーを作製した。PVdFは、活物質100重量部に対して10重量部を用いた。スラリーを、アルミニウム箔から成る集電体の両面にブレードを用いて塗布した。その後、真空下、130℃で12時間乾燥し、電極を得た。
エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比1:1で混合し、混合溶媒を調製した。この混合溶媒中に、六フッ化リン酸リチウムを1Mの濃度で溶解させて非水電解質を調製した。
上記で作製した電極と、対極としての金属リチウム箔と、調整した非水電解質とを用いて、電気化学測定セルを作製した。
(電気化学測定)
作製した各々の電気化学測定セルを用いて室温で充放電試験を行った。充放電は、リチウムの酸化還元電位を基準として1.0V以上3.0V以下(vs.Li/Li+)の電位範囲で、充放電電流値を0.2C(時間放電率)として行った。
初回の充放電における充電容量と放電容量とを測定した。初回の充放電における放電容量を充電容量で除することで、初回充放電効率を算出した(初回充放電効率=初回放電容量/初回充電容量×100%)。
次に、充放電を100サイクル繰り返して行った。1回充電して1回放電したことで1サイクルとした。ここで、充放電は、リチウムの酸化還元電位を基準として1.0V以上3.0V以下(vs.Li/Li+)の電位範囲で、電流値を1C(時間放電率)とし、室温で行った。
100サイクル目の充放電の後、再び0.2C(時間放電率)で充放電を行い、放電容量を測定した。この100サイクル後の放電容量を初回放電容量で除することで、100サイクル後容量維持率を算出した(100サイクル後容量維持率=100サイクル後の放電容量/初回放電容量×100%)。
また、レート性能(急速充放電性能)を調査した。0.2C放電容量および10C放電容量を測定した。0.2C放電容量に対する10C放電容量の比(0.2C放電容量/10C放電容量×100%)を算出した。
表3に各電気化学測定セルに対する試験により得られた初回放電容量、初回充放電効率(%)、100サイクル後の放電容量維持率(%)、及び0.2C/10C放電容量比を示す。
表6に示したように、実施例1〜3、5、7〜8、11〜14、16〜18、参考例4及び15では、比較例1〜4に比べて、電気化学測定セルの放電容量、充放電効率、レート性能、及び容量維持率が高かった。
実施例6では、比較例1〜2に比べて、電気化学測定セルの放電容量、充放電効率、レート性能、及び容量維持率が高かった。また、実施例6では、電気化学測定セルの初回充放電効率が比較例3及び4と同程度であったものの、実施例6における初回放電容量、レート性能、及び容量維持率は比較例3及び4より高かった。
実施例9及び10では、比較例1〜2及び4に比べて、電気化学測定セルの放電容量、充放電効率、レート性能、及び容量維持率が高かった。また、実施例9及び10では、電気化学測定セルの放電容量が比較例3と同程度であったものの、実施例9及び10における充放電効率、レート性能、及び容量維持率は比較例3より高かった。
比較例1は、100サイクル後の容量維持率が75.7%であったのに対して、実施例1〜3、5〜14、16〜18、並びに参考例4及び15は、全て94%以上の高い容量比を示した。即ち、これら実施例は、100サイクル後における放電容量について優れた性能を示した。
また、実施例1〜3、5〜14、16〜18、並びに参考例4及び15は、10Cもの電流でのハイレートな放電における容量維持率が高く、出力性能に優れることが示された。
以上説明した少なくとも1つの実施形態及び実施例によると、ニオブ−チタン複合酸化物とCuとを含む活物質が提供される。この活物質は、高いエネルギー密度を示し、且つ急速充放電性能と長寿命性が両立されている二次電池および電池パック、並びに該電池パックが搭載されている車両を提供することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] ニオブ−チタン複合酸化物とCuとを含む活物質。
[2] Na、K、Si、S、Sn、P、Ta、Mo、Mn、Co、Ni及びFeから成る群から選択される少なくとも1つの元素Mをさらに含み、Tiに対するCuのモル比(Cu/Ti)が式(I)を満たし、Tiに対する前記元素Mのモル比(M/Ti)が式(II)を満たしており、Tiに対するNbのモル比(Nb/Ti)が式(III)を満たす[1]に記載の活物質:
1×10 −4 ≦ Cu/Ti ≦0.5 (I)
0< M/Ti ≦0.6 (II)
1≦ Nb/Ti ≦5 (III)。
[3] 前記ニオブ−チタン複合酸化物がLi x TiNb 2-(y+z )Cu y M z O 7+δ で表され0≦ x ≦5、1×10 −4 ≦ y ≦0.5、0≦ z ≦0.6、−0.05≦ δ ≦0.05である銅含有ニオブ−チタン複合酸化物である[1]又は[2]に記載の活物質。
[4] 前記ニオブ−チタン複合酸化物の粒子表面の少なくとも一部に設けられている炭素材料をさらに含む[1]−[3]の何れか1つに記載の活物質。
[5] 5×10 1 Ω・cm以下の紛体比抵抗を有する[4]に記載の活物質。
[6] [1]−[5]の何れか1つに記載の活物質を含む電極。
[7] 前記電極は、前記活物質を含む活物質含有層を含む[6]に記載の電極。
[8] 前記活物質含有層は、導電剤と結着剤とをさらに含む[7]に記載の電極。
[9] 正極と、
負極と、
電解質と
を具備する二次電池であって、
前記負極は、[6]−[8]の何れか1つに記載の電極である二次電池。
[10] [9]に記載の二次電池を具備する電池パック。
[11] 通電用の外部端子と、
保護回路と
をさらに含む[10]に記載の電池パック。
[12] 複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている[10]又は[11]に記載の電池パック。
[13] [10]−[12]の何れか1つに記載の電池パックを搭載した車両。
[14] 前記車両の運動エネルギーを回生エネルギーに変換する機構を含む、[13]に記載の車両。