以下に図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の形状及びそれらの相対配置などは、この発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲が以下の実施の形態に限定される趣旨のものではない。なお、以下の説明においては、モータ制御装置が画像形成装置に設けられる場合について説明するが、モータ制御装置が設けられるのは画像形成装置に限定されるわけではない。例えば、記録媒体や原稿等のシートを搬送するシート搬送装置等にも用いられる。
〔第1実施形態〕
[画像形成装置]
図1は、本実施形態で用いられるシート搬送装置を有するモノクロの電子写真方式の複写機(以下、画像形成装置と称する)100の構成を示す断面図である。なお、画像形成装置は複写機に限定されず、例えば、ファクシミリ装置、印刷機、プリンタ等であっても良い。また、記録方式は、電子写真方式に限らず、例えば、インクジェット等であっても良い。更に、画像形成装置の形式はモノクロ及びカラーのいずれの形式であっても良い。
以下に、図1を用いて、画像形成装置100の構成および機能について説明する。図1に示すように、画像形成装置100は、原稿給送装置201、読取装置202及び画像印刷装置301を有する。
原稿給送装置201の原稿積載部203に積載された原稿は、給紙ローラ204によって1枚ずつ給紙され、搬送ガイド206に沿って読取装置202の原稿ガラス台214上に搬送される。更に、原稿は、搬送ベルト208によって一定速度で搬送されて、排紙ローラ205によって不図示の排紙トレイへ排紙される。読取装置202の読取位置において照明209によって照明された原稿画像からの反射光は、反射ミラー210、211、212からなる光学系によって画像読取部111に導かれ、画像読取部111によって画像信号に変換される。画像読取部111は、レンズ、光電変換素子であるCCD、CCDの駆動回路等で構成される。画像読取部111から出力された画像信号は、ASIC等のハードウェアデバイスで構成される画像処理部112によって各種補正処理が行われた後、画像印刷装置301へ出力される。前述の如くして、原稿の読取が行われる。即ち、原稿給送装置201及び読取装置202は、原稿読取装置として機能する。
また、読取装置202における原稿の読取モードとして、流し読みモードと固定読みモードがある。流し読みモードは、照明系209及び光学系を所定の位置に固定した状態で、原稿を一定速度で搬送しながら原稿の画像を読み取るモードである。固定読みモードは、読取装置202の原稿ガラス214上に原稿を載置し、照明系209及び光学系を一定速度で移動させながら、原稿ガラス214上に載置された原稿の画像を読み取るモードである。通常、シート状の原稿は流し読みモードで読み取られ、本や冊子等の綴じられた原稿は固定読みモードで読み取られる。
画像印刷装置301の内部には、シート収納トレイ302、304が設けられている。シート収納トレイ302、304には、それぞれ異なる種類の記録媒体を収納することができる。例えば、シート収納トレイ302にはA4サイズの普通紙が収納され、シート収納トレイ304にはA4サイズの厚紙が収納される。なお、記録媒体とは、画像形成装置によって画像が形成されるものであって、例えば、用紙、樹脂シート、布、OHPシート、ラベル等は記録媒体に含まれる。
シート収納トレイ302に収納された記録媒体は、給紙ローラ303によって給送されて、搬送ローラ306によってレジストレーションローラ308へ送り出される。また、シート収納トレイ304に収納された記録媒体は、給紙ローラ305によって給送されて、搬送ローラ307及び306によってレジストレーションローラ308へ送り出される。
読取装置202から出力された画像信号は、半導体レーザ及びポリゴンミラーを含んでいる光走査装置311に入力される。また、感光ドラム309は、帯電器310によって外周面が帯電される。感光ドラム309の外周面が帯電された後、読取装置202から光走査装置311に入力された画像信号に応じたレーザ光が、光走査装置311からポリゴンミラー及びミラー312、313を経由し、感光ドラム309の外周面に照射される。この結果、感光ドラム309の外周面に静電潜像が形成される。なお、感光ドラムの帯電には、例えば、コロナ帯電器や帯電ローラを用いた帯電方法が用いられる。
続いて、その静電潜像が現像器314内のトナーによって現像され、感光ドラム309の外周面にトナー像が形成される。感光ドラム309に形成されたトナー像は、感光ドラム309と対向する位置(転写位置)に設けられた転写分離器315によって記録媒体に転写される。この際、レジストレーションローラ308は、トナー像にタイミングを合わせて、記録媒体を転写位置へ送り込む。
前述の如くして、トナー像が転写された記録媒体は、搬送ベルト317によって定着器318へ送り込まれ、定着器318によって加熱加圧されて、トナー像が記録媒体に定着される。このようにして、画像形成装置100によって記録媒体に画像が形成される。
片面印刷モードで画像形成が行われる場合は、定着器318を通過した記録媒体は、排紙ローラ319、324によって、不図示の排紙トレイへ排紙される。また、両面印刷モードで画像形成が行われる場合は、定着器318によって記録媒体の第1面に定着処理が行われた後に、記録媒体は、排紙ローラ319、搬送ローラ320、及び反転ローラ321によって、反転パス325へと搬送される。その後、記録媒体は、搬送ローラ322、323によって再度レジストレーションローラ308へと搬送され、前述した方法で記録媒体の第2面に画像が形成される。その後、記録媒体は、排紙ローラ319、324によって不図示の排紙トレイへ排紙される。
また、第1面に画像形成された記録媒体をフェースダウンで画像形成装置100の外部へ排紙する場合は、定着器318を通過した記録媒体を、排紙ローラ319を通って搬送ローラ320へ向かう方向へ搬送する。その後、記録媒体の後端が搬送ローラ320のニップ部を通過する直前に、搬送ローラ320の回転を反転させる。この結果、記録媒体の第1面が下向きになった状態で、記録媒体が排紙ローラ324を経由して、画像形成装置100の外部へ排出される。
以上が画像形成装置100の構成および機能についての説明である。なお、本発明における負荷とはモータによって駆動される対象物である。例えば、給紙ローラ204、303、305、レジストレーションローラ308及び排紙ローラ319等の各種ローラ(搬送ローラ)や感光ドラム309、搬送ベルト208、317、照明系209及び光学系等は本発明における負荷に対応する。本実施形態のモータ制御装置は、これら負荷を駆動するモータに適用することができる。
図2は、画像形成装置100の制御構成の例を示すブロック図である。システムコントローラ151は、図2に示すように、CPU151a、ROM151b、RAM151cを備えている。また、システムコントローラ151は、画像処理部112、操作部152、アナログ・デジタル(A/D)変換器153、高圧制御部155、モータ制御装置157、センサ類159、ACドライバ160と接続されている。システムコントローラ151は、接続された各ユニットとの間でデータやコマンドの送受信をすることが可能である。
CPU151aは、ROM151bに格納された各種プログラムを読み出して実行することによって、予め定められた画像形成シーケンスに関連する各種シーケンスを実行する。
RAM151cは記憶デバイスである。RAM151cには、例えば、高圧制御部155に対する設定値、モータ制御装置157に対する指令値及び操作部152から受信される情報等の各種データが記憶される。
システムコントローラ151は、画像処理部112における画像処理に必要となる、画像形成装置100の内部に設けられた各種装置の設定値データを画像処理部112に送信する。更に、システムコントローラ151は、各種装置からの信号(センサ類159等からの信号)を受信して、受信した信号に基づいて高圧制御部155の設定値を設定する。高圧制御部155は、システムコントローラ151によって設定された設定値に応じて、高圧ユニット156(帯電器310、現像器314、転写分離器315等)に必要な電圧を供給する。なお、センサ類159には、搬送ローラによって搬送される記録媒体を検知するセンサ等が含まれる。
モータ制御装置157は、CPU151aから出力された指令に応じて、前述した負荷を駆動するモータ509を制御する。
A/D変換器153は、定着ヒータ161の温度を検出するためのサーミスタ154が検出した検出信号を受信し、前記検出信号をアナログ信号からデジタル信号に変換してシステムコントローラ151に送信する。システムコントローラ151は、A/D変換器153から受信したデジタル信号に基づいて、ACドライバ160の制御を行う。ACドライバ160は、定着ヒータ161の温度が定着処理を行うために必要な温度となるように定着ヒータ161を制御する。なお、定着ヒータ161は、定着処理に用いられるヒータであり、定着器318に含まれる。
システムコントローラ151は、使用する記録媒体の種類(以下、紙種と称する)等の設定をユーザが行うための操作画面を、操作部152に設けられた表示部に表示するように、操作部152を制御する。システムコントローラ151は、ユーザが設定した情報を操作部152から受信し、前記ユーザが設定した情報に基づいて画像形成装置100の動作シーケンスを制御する。また、システムコントローラ151は、画像形成装置の状態を示す情報を操作部152に送信する。なお、画像形成装置の状態を示す情報とは、例えば、画像形成枚数、画像形成中か否か、ジャム発生及びその発生箇所等の情報である。操作部152は、システムコントローラ151から受信した情報を表示部に表示する。
前述の如くして、システムコントローラ151は、画像形成装置100の動作シーケンスを制御する。
[ベクトル制御]
次に、本実施形態におけるモータ制御装置について説明する。本実施形態におけるモータ制御装置は、ベクトル制御を用いてモータを制御する。なお、以下の説明においては、負荷を駆動するモータとしてステッピングモータが用いられているが、これに限定されるものではない。また、モータは2相モータであるとは限らない。更に、本実施形態におけるモータには、モータの回転子の回転位相を検出するためのロータリエンコーダなどのセンサは設けられていないものとする。
図3は、ステッピングモータ(以下、モータと称する)509を制御するモータ制御装置157の構成の例を示すブロック図である。
まず、図3及び図4を用いて、本実施形態におけるモータ制御装置157がベクトル制御を行う方法について説明する。
図4は、A相(第1相)とB相(第2相)の2相から成るモータ509と回転座標系のd軸及びq軸との関係を示す図である。図4では、静止座標系において、A相の巻線に対応した軸をα軸、B相の巻線に対応した軸をβ軸と定義している。また、静止座標系におけるα軸と、回転子402に用いられている永久磁石の磁極によって作られる磁束の方向(d軸方向)との成す角度をθと定義している。回転子402の回転位相は、角度θによって表される。ベクトル制御では、回転子402の磁束方向に沿ったd軸と、d軸から反時計回りに90度進んだ方向に沿った(d軸と直交する)q軸とで表される、モータ509の回転子402の回転位相θを基準とした回転座標系が用いられる。
ベクトル制御とは、モータの回転子の回転位相を基準とした回転座標系における電流値を制御することによってモータを制御する制御方法である。具体的には、例えば、回転子の目標位相を表す指令位相と実際の回転位相との偏差が小さくなるように前記電流値を制御する位相フィードバック制御を行うことによってモータを制御する。また、回転子の目標速度を表す指令速度と実際の回転速度との偏差が小さくなるように前記電流値を制御する速度フィードバック制御を行うことによってモータを制御する手法もある。回転座標系における電流値とは、モータの回転子にトルクを発生させるq軸成分(トルク電流成分)の電流値と、モータの回転子の磁束強度に影響するd軸成分(励磁電流成分)の電流値とに対応する。
モータ制御装置157には、ベクトル制御を行う回路として、位相制御器502、電流制御器503、座標逆変換器505、座標変換器511、モータの巻線に駆動電流を供給するPWMインバータ506等が設けられている。座標変換器511は、モータ509のA相及びB相の巻線に流れる駆動電流に対応する電流ベクトルを、α軸及びβ軸で表される静止座標系から、q軸及びd軸で表される回転座標系に座標変換する。この結果、モータ509のA相及びB相の巻線に供給する駆動電流を、回転座標系において、q軸成分の電流値(q軸電流)及びd軸成分の電流値(d軸電流)を用いて表すことができる。なお、q軸電流は、モータ509の回転子402にトルクを発生させるトルク電流に相当する。また、d軸電流は、モータ509の回転子402の磁束強度に影響する励磁電流に相当し、回転子402のトルクの発生には寄与しない。モータ制御装置157は、q軸電流及びd軸電流をそれぞれ独立に制御することができる。即ち、回転子402が回転するために必要なトルクを、効率的に発生させることができる。
モータ制御装置157は、モータ509の回転子402の回転位相θを後述する方法により決定し、その決定結果に基づいてベクトル制御を行う。CPU151aは、モータ509の回転子402の目標位相を表す指令位相θ_refを生成し、所定の時間周期で指令位相θ_refをモータ制御装置157へ出力する。
加算器101は、モータ509の回転子402の回転位相θと指令位相θ_refとの偏差を演算し、該偏差を位相制御器502に出力する。
位相制御器502は、比例(P)、積分(I)補償器から構成されている。位相制御器502は、比例(P)、積分(I)補償器を用いて、加算器101から出力された偏差が小さくなるように、q軸電流指令値iq_ref及びd軸電流指令値id_refを生成して出力する。具体的には、位相制御器502は、比例(P)、積分(I)補償器を用いて、加算器101から出力された偏差が0になるように、q軸電流指令値iq_ref及びd軸電流指令値id_refを生成して出力する。なお、本実施形態における位相制御器502は、比例(P)、積分(I)補償器から構成されているが、比例(P)、積分(I)、微分(D)補償器から構成されていても良い。また、回転子402に永久磁石を用いる場合、通常は回転子402の磁束強度に影響するd軸電流指令値id_refは0に設定されるが、これに限定されるものではない。
モータ509のA相及びB相の巻線に流れる駆動電流は、電流検出器507、508によって検出され、その後、A/D変換器510によってアナログ値からデジタル値へと変換される。
電流値取得器516は、A/D変換器510によってアナログ値からデジタル値へと変換された駆動電流の電流値を所定の周期で取得する。電流値取得器516によって取得された電流値は、静止座標系における電流値iα及びiβとして、図4に示す電流ベクトルの位相θeを用いて次式によって表される。なお、電流ベクトルの位相θeは、α軸と電流ベクトルとの成す角度と定義する。
iα=I*cosθe (1)
iβ=I*sinθe (2)
これらの電流値iα及びiβは、座標変換器511と間引き制御器519に入力される。
座標変換器511において、電流値iα及びiβは、次式によって回転座標系におけるq軸電流の電流値iq及びd軸電流の電流値idに座標変換される。
id= cosθ*iα+sinθ*iβ (3)
iq=−sinθ*iα+cosθ*iβ (4)
前述のように、座標変換器511は、モータ509のA相及びB相の巻線に流れる駆動電流に対応する電流ベクトルを、α軸及びβ軸で表される静止座標系から、q軸及びd軸で表される回転座標系に座標変換する。
加算器102は、位相制御器502から出力されたiq_refと座標変換器511から出力された前記電流値iqとの偏差を演算し、該偏差を電流制御器503に出力する。また、加算器103は、位相制御器502から出力されたid_refと座標変換器511から出力された前記電流値idとの偏差を演算し、該偏差を電流制御器503に出力する。
電流制御器503は、比例(P)、積分(I)補償器から構成されている。電流制御器503は、前記偏差がそれぞれ小さくなるように電流値iq*及びid*を生成する。具体的には、電流制御器503は、前記偏差がそれぞれ0になるように電流値iq*及びid*を生成する。その後、電流制御器503は、それぞれの電流値iq*及びid*に対応した駆動電圧Vq及びVdを生成して座標逆変換器505に出力する。即ち、電流制御器503は、電圧生成手段として機能する。なお、本実施形態における電流制御器503は、比例(P)、積分(I)補償器から構成されているが、比例(P)、積分(I)、微分(D)補償器から構成されていても良い。
座標逆変換器505は、電流制御器503から出力された回転座標系における駆動電圧Vq及びVdを、次式によって、静止座標系における駆動電圧Vα及びVβに座標逆変換する。
Vα=cosθ*Vd−sinθ*Vq (5)
Vβ=sinθ*Vd+cosθ*Vq (6)
座標逆変換器505は、回転座標系における駆動電圧Vq及びVdを静止座標系における駆動電圧Vα及びVβに座標逆変換した後、Vα及びVβを間引き制御器519とPWMインバータ506に出力する。なお、本実施形態においては、電流値iq*及びid*に対応した駆動電圧Vq及びVdを生成し、前記駆動電圧Vq及びVdを座標逆変換することによって静止座標系における駆動電圧Vα及びVβを得たが、この限りではない。例えば、電流値iq*及びid*を静止座標系における電流値iα*及びiβ*に座標逆変換し、前記電流値iα*及びiβ*に対応した駆動電圧Vα及びVβを生成する構成であっても良い。
PWMインバータ506は、フルブリッジ回路を有する。フルブリッジ回路は座標逆変換器505から入力された駆動電圧Vα及びVβに基づくPWM信号によって駆動される。その結果、PWMインバータ506は、駆動電圧Vα及びVβに応じた駆動電流iα及びiβを生成し、駆動電流iα及びiβをモータ509の各相の巻線に供給することによって、モータ509を駆動させる。即ち、PWMインバータ506は、モータ509の各相の巻線に電流を供給する供給手段として機能する。なお、本実施形態においては、PWMインバータはフルブリッジ回路を有しているが、PWMインバータは、例えば、ハーフブリッジ回路を有する構成であっても良い。また、PWMインバータが駆動電圧Vα及びVβに応じた駆動電流iα及びiβを生成して巻線に供給する周期は(以下、インバータ周期と称する)電流値取得器516が電流値を取得する周期に同期している。これは、電流値取得器516が取得した電流値に基づいて生成される駆動電圧Vα及びVβによって、PWMインバータが駆動されるからである。
次に、回転位相θの決定方法について説明する。
前述したように、A/D変換器510によってアナログ値からデジタル値へと変換された電流値iα及びiβ、座標逆変換器505から出力された駆動電圧Vα及びVβは間引き制御器519にも入力される。間引き制御器519による間引き処理が適用された電流値iα及びiβ、駆動電圧Vα及びVβはローパスフィルタ514に出力される。ローパスフィルタ514は、電流値iα及びiβ、駆動電圧Vα及びVβに含まれる高調波成分の信号を低減し、高調波成分の信号が低減された電流値iα及びiβ、駆動電圧Vα及びVβを誘起電圧決定器512に出力する。即ち、ローパスフィルタ514は、本発明におけるフィルタ回路として機能する。なお、間引き制御器519及びローパスフィルタ514については後述する。
誘起電圧決定器512は、回転子が回転することによってモータの各相の巻線に発生した誘起電圧を決定する。具体的には、ローパスフィルタ514から出力された電流値iα及びiβと駆動電圧Vα及びVβとに基づいて、次式によって、誘起電圧Eα及びEβを演算する。
Eα=Vα−R*iα−L*diα/dt (7)
Eβ=Vβ−R*iβ−L*diβ/dt (8)
ここで、Rは巻線レジスタンス、Lは巻線インダクタンスである。R及びLの値は使用されているモータ509に固有の値であり、ROM151b又はモータ制御装置157に設けられたメモリ(不図示)等に予め格納されている。
誘起電圧決定器512によって決定された誘起電圧Eα及びEβは位相決定器513に出力される。
位相決定器513は、誘起電圧決定器512から出力された誘起電圧Eαと誘起電圧Eβとの比に基づいて、次式によってモータ509の巻線に流れる駆動電流の電気角θ´を決定する。
θ´=tan^−1(−Eβ/Eα) (9)
更に、位相決定器513は、次式によって、電気角θ´に基づいて回転位相θを決定する。
θ=θ´*2/P (10)
なお、Pは、回転子の磁極数である。
前述の如くして得られた回転子402の回転位相θは、加算器101、座標逆変換器505及び座標変換器511に入力され、その後は、前述の制御を繰り返し行う。
前述の如くして、本実施形態におけるベクトル制御では、指令位相θ_refと回転位相θとの偏差が小さくなるように、回転座標系における電流値を制御する位相フィードバック制御を行うことによってモータを制御する。ベクトル制御を行うと、モータが脱調状態となることや、余剰トルクに起因してモータ音が増大すること及び消費電力が増大することを抑制することができる。また、位相フィードバック制御を行っているため、回転子の回転位相が所望の位相になるように制御することができる。したがって、画像形成装置において、記録媒体への画像形成を適切に行うために回転位相を精度よく制御する必要がある負荷(例えば、レジストレーションローラ等)を駆動するモータに位相フィードバック制御を用いたベクトル制御を適用する。この結果、記録媒体への画像形成を適切に行うことができる。
なお、本実施形態におけるベクトル制御では、前述した位相フィードバック制御を行うことによってモータ509を制御しているが、これに限定されるものではない。例えば、回転子402の回転速度ωをフィードバックしてモータ509を制御する構成であっても良い。具体的には、図5に示すように、モータ制御装置内部に速度決定器515を設け、速度決定器515が位相決定器513から出力された回転位相θの時間変化に基づいて回転速度ωを決定する。速度の決定には、次式(11)が用いられるものとする。
ω=dθ/dt (11)
そして、CPU151aは回転子の目標速度を表す指令速度ω_refを出力する。更に、モータ制御装置内部に速度制御器500を設け、速度制御器500が回転速度ωと指令速度ω_refとの偏差が小さくなるように、q軸電流指令値iq_ref及びd軸電流指令値id_refを生成して出力する構成とする。このような速度フィードバック制御を行うことによって、モータ509を制御する構成であっても良い。このような構成においては回転速度をフィードバックしているため、回転子の回転速度が所定の速度になるように制御することができる。したがって、画像形成装置において、記録媒体への画像形成を適切に行うために回転速度を一定速度に制御する必要がある負荷(例えば、感光ドラム、搬送ベルト等)を駆動するモータに速度フィードバック制御を用いたベクトル制御を適用する。この結果、記録媒体への画像形成を適切に行うことができる。
[ローパスフィルタ]
次に、本実施形態におけるローパスフィルタ514について説明する。
前述したように、本実施形態においては、電流検出器507、508によって検出された駆動電流の電流値に基づいて回転位相θの決定が行われる。検出された電流値には、モータの電気角の基本周波数の高調波成分の信号等が含まれている。高調波成分の信号を含む電流値に基づいて回転子の位相を決定し、前記位相決定結果に基づいてモータの駆動を制御すると、モータの制御が不安定になってしまう。
そこで、本実施形態におけるモータ制御装置157には、図3に示すように、所定の周波数以上の信号を低減するローパスフィルタ514が設けられている。ローパスフィルタによって高調波成分の信号が低減された電流値に基づいて回転子の位相を決定し、前記位相決定結果に基づいてモータの駆動を制御することによって、モータの制御が不安定になることを抑制することができる。
図6は、ローパスフィルタ514の構成の例を示すブロック図である。本実施形態におけるローパスフィルタ514は、所定のフィルタ次数が設定されたデジタルフィルタである。以下に、ローパスフィルタ514について説明する。なお、本実施形態においては、フィルタ次数は予め30次に設定されている。また、本実施形態においては、フィルタ次数を30次以下の範囲で変更することができるものとする。
図6に示すように、ローパスフィルタ514には、電流値取得器516から出力された電流値を複数個記憶するメモリ514a、メモリ514aに記憶されている複数個の電流値の平均値を演算する平均値演算器514bが設けられている。
ローパスフィルタ514は、電流値取得器516から出力された電流値を取得してメモリ514aに記憶する。また、平均値演算器514bは、メモリ514aに記憶されている電流値の平均値を演算して出力する。具体的には、例えば、ローパスフィルタ514の次数が30次である場合は、ローパスフィルタ514は、電流値取得器516から出力された電流値を30個メモリ514aに記憶し、前記30個の電流値の平均値を演算する。なお、メモリ514aは、31個目以降の電流値を取得する際は、電流値を1個取得する毎に、記憶している電流値のうち最も古く記憶した電流値を削除して取得した電流値を記憶するものとする。また、平均値演算器514bは、メモリ514aが電流値を記憶する度に前述した演算を行うものとする。更に、フィルタの構成は上述したような平均値を演算する構成に限定されるものではなく、信号を低減することができるデジタルフィルタであれば良い。
デジタルフィルタで構成されたローパスフィルタを用いて高調波成分の信号を低減する場合において、該ローパスフィルタが低減することができる周波数帯はフィルタの次数によって異なる。具体的には、フィルタの次数を大きくすればするほど、低周波の高調波成分の信号を低減することができる。したがって、低周波の高調波成分の信号を低減するためには、フィルタの次数を大きくする必要がある。
また、高調波成分の周波数はモータの回転子の回転速度によって異なる。具体的には、回転子の回転速度が遅ければ遅いほど、高調波成分の周波数は低くなる。したがって、回転子の回転速度を変えることによって高調波成分の周波数が変化し、予め設定されている次数のフィルタでは高調波成分の信号を低減することができない可能性がある。具体的には、例えば、回転子の回転速度を遅くすると、予め設定されている次数のフィルタでは高調波成分の信号を低減できない可能性がある。高調波成分の信号が低減されていない電流値に基づいて回転子の位相を決定し、前記位相決定結果に基づいてモータの駆動を制御すると、モータの制御が不安定になってしまう。
次に、高調波成分の信号の周波数について説明する。なお、以下の説明においては、回転子の磁極数が100個(N極とS極とがそれぞれ50個)であるモータAを用いるが、用いられるモータの磁極数はこれに限定されるものではない。また、本実施形態においては、電流値取得器516が電流値を取得する周期(サンプリング周期)は25μsであるとする。
モータAにおいては、機械角(回転位相θ)7.2°が電気角360°に相当する。即ち、モータAの回転子が1周すると電気角は50周する。したがって、例えば、モータAを回転速度10rpsで駆動する場合、電気角周波数は500Hzとなる。
電流検出器によって検出された駆動電流には、これらの電気角周波数の信号だけではなく、前記電気角周波数の高調波成分の信号が重畳されている。例えば、電気角周波数の3次成分、5次成分等が重畳されている。
図7(a)は、電気角周波数の1次成分及び3次成分の信号の例を示す図である。また、図7(b)は、電気角周波数の1次成分の信号と3次成分の信号とを合成した信号の例を示す図である。更に、図7(c)は、図7(b)に示す信号に基づいて決定された誘起電圧及び該誘起電圧に基づいて決定された電気角の例を示す図である。
図7(c)に示すように、電気角周波数の高調波成分を含む電流値に基づいて電気角θ´を決定すると、決定された電気角θ´が歪んだ波形になる。波形の歪んだ電気角θ´に基づいて回転位相θを決定し、該回転位相θに基づいてモータの駆動を制御すると、モータの制御が不安定になってしまう。したがって、例えば、モータAを回転速度10rpsで駆動する場合は、電気角周波数の3次成分である1500Hzの信号を低減する必要がある。
次に、検出された駆動電流に含まれる高調波成分の信号を低減するために必要なフィルタの次数について説明する。本実施形態においては、高調波成分の信号が低減されるためには、該高調波成分の1周期で取得される(1周期に含まれる)すべての電流値のデータの平均値が演算される必要がある。具体的には、例えば、高調波成分の周期が1000μsであって電流値取得器が電流値を取得する周期が25μSである場合、該高調波成分の1周期で取得される電流値の個数は40個である。したがって、この場合、周期が1000μsである高調波成分の信号が低減されるためには、フィルタの次数は40次以上である必要がある。なお、本実施形態においては、高調波成分の1周期に含まれるすべての電流値のデータの平均値が演算されることによって高調波成分の信号が低減される構成としているが、これに限定されるものではない。例えば、高調波成分のn周期(nは正の整数)に含まれるすべての電流値のデータの平均値が演算される構成であっても良い。また、n周期に含まれる電流値のデータすべてが用いられる構成でなくても良い。
前述したように、モータAを回転速度10rpsで駆動する場合は、電気角周波数の3次成分の信号の周波数は1500Hz(周期は1/1500S)である。また、本実施形態においては、電流値取得器が電流値を取得する周期は25μsである。したがって、モータAを回転速度10rpsで駆動する場合における、電気角周波数の3次成分の信号の1周期に含まれる電流値の個数は以下の式を用いて求められる。
(1/1500s)/25μs≒26.7 (12)
したがって、モータAを回転速度10rpsで駆動する場合において、電気角周波数の3次成分の信号を低減するためには、27次以上のフィルタを用いる必要がある。
また、例えば、モータAを回転速度3rpsで駆動する場合は、電気角周波数の3次成分の信号の周波数は450Hz(周期は1/450S)である。また、本実施形態においては、電流値取得器が電流値を取得する周期は25μsである。したがって、モータAを回転速度3rpsで駆動する場合における、電気角周波数の3次成分の信号の1周期に含まれる電流値の個数は以下の式を用いて求められる。
(1/450s)/25μs≒88.8 (13)
したがって、モータAを回転速度3rpsで駆動する場合において、電気角周波数の3次成分の信号を低減するためには、89次以上のフィルタを用いる必要がある。
以上のように、高調波成分の信号の周波数は回転子の回転速度によって異なる。したがって、回転子の回転速度を10rpsから3rpsへと変化させると、予め設定されている次数のフィルタでは高調波成分の信号を低減することができない。具体的には、モータAを回転速度10rpsで駆動する場合はフィルタの次数を30次に設定することによって、3次成分の信号を低減することができる。しかしながら、モータAを回転速度3rpsで駆動する場合は、フィルタの次数が30次であると3次成分の信号を低減することができない。
高調波成分の信号が低減されていない電流値に基づいて回転子の位相を決定し、前記位相決定結果に基づいてモータの駆動を制御すると、モータの制御が不安定になってしまう。
この場合、フィルタの次数を大きくすることが考えられる。即ち、ローパスフィルタの構成を、フィルタの次数を89次以上に設定することができる構成にすることが考えられる。しかしながら、フィルタの次数を大きくすればするほど、メモリ514aの容量が増大し、その結果、コストが増大してしまう。また、フィルタの次数を大きくすればするほど、フィルタ処理に起因する位相の遅れ量が大きくなってしまう。即ち、フィルタの次数を変えることによってフィルタ処理に起因する位相の遅れ量も変わってしまうため、前記位相遅れを補正する構成が複雑になる等の問題も生じてしまう。そのため、回転速度を遅くしたとしても、フィルタの次数を大きくすることなく、高調波成分の信号を低減することができる構成が求められている。
以下に、本実施形態の一例として、フィルタの次数が30次である状態において、モータ制御装置が回転子の回転速度を10rpsから3rpsに変化する場合における、高調波成分の信号の低減方法について説明する。
式(12)及び式(13)において説明したように、高調波成分の信号を低減するために必要なフィルタの次数は、該高調波成分の1周期に含まれる電流値のデータの個数によって決まる。即ち、電流値取得器が電流値のデータを取得する周期(サンプリング周期)によって決まる。具体的には、サンプリング周期が長ければ長いほど該高調波成分の1周期分の電流値のデータの個数が減るため、フィルタの次数をより小さくすることができる。
したがって、フィルタの次数が30次である状態において、モータAを駆動する際の回転速度を10rpsから3rpsに変化させた場合に、フィルタの次数を大きくすることなく高調波成分の信号を低減するためには、サンプリング周期を長くすれば良い。しかしながら、前述したように、サンプリング周期とインバータ周期とは同期しているため、サンプリング周期を長くすると、インバータ周期も長くなってしまう。インバータ周期が長くなると、CPU151aから出力される指令に対するモータの応答性が悪くなってしまう。また、インバータ周期は50μs以下(周波数は20kHz以上)でなければ騒音等の問題が起こる。即ち、サンプリング周期は50μs以下(周波数は20kHz以上)でなければ騒音等の問題が起こる。これは、人間の可聴周波数領域の最大値が約20kHzであるためである。仮にサンプリング周期を50μsに設定したとしても、回転速度3rpsにおける3次成分の信号を低減するためには、フィルタの次数を45次以上に設定する必要がある。即ち、仮にサンプリング周期を50μsに設定したとしても、フィルタの次数が30次である状態のまま回転速度3rpsにおける3次成分の信号を低減することはできない。
[間引き制御]
図3に示すように、本実施形態におけるモータ制御装置157には間引き制御器519が設けられている。電流値取得器516は、A/D変換器510から取得した電流値iα及びiβを間引き制御器519に出力する。また、座標逆変換器505は、駆動電圧の電圧値Vα及びVβを間引き制御器519に出力する。間引き制御器519は、取得した全ての電流値及び電圧値のうちの一部のデータを間引いてローパスフィルタ514に出力する。
図8は、間引き制御器519が取得した全ての電流値及び電圧値のうちの一部のデータを間引く方法を説明する図である。以下に、間引き制御器519が取得した全ての電流値のうちの一部のデータを間引く方法について説明する。なお、電圧値のうちの一部のデータを間引く方法については、電流値のうちの一部のデータを間引く方法と同様であるため説明を省略する。
図8に示すように、間引き制御器519は、電流値取得器516がサンプリング周期25μsで取得した全ての電流値のうちの一部のデータを、決定された間引き率に基づいて間引く。即ち、間引き制御器519は、間引き処理後の電流値のデータの時間間隔が例えば100μsとなるように間引き処理を行う。更に、間引き制御器519は、間引き処理後の電流値のデータをローパスフィルタ514に出力する。なお、データが間引かれないときの間引き率は0であり、間引き率が大きいほど間引かれるデータの個数は多くなる。この結果、電流値のデータは、見かけ上、サンプリング周期100μsで電流値取得器516によって取得され、ローパスフィルタ514に入力される状態となる。この場合、モータAを回転速度3rpsで駆動する場合における、電気角周波数の3次成分の信号の1周期で取得される電流値の個数は以下の式を用いて求められる。
(1/450s)/100μs≒22.2 (14)
したがって、この場合、23次以上のフィルタを用いれば、モータAを回転速度3rpsで駆動する場合における電気角周波数の3次成分の信号を低減することができる。即ち、フィルタの次数が30次である状態のまま、回転速度3rpsにおける3次成分の信号を低減することができる。なお、この場合、フィルタの次数を23次に変えても良い。
次に、本実施形態における間引き率の決定(設定)方法について説明する。本実施形態においては、回転子の回転速度に基づいて間引き率を決定する。なお、以下の説明においては、サンプリング周期は25μsであって、ローパスフィルタのフィルタ次数は30次であるものとする。
本実施形態におけるCPU151aは、指令位相θ_refの時間変化に基づいて指令速度ω_refの代わりとなる回転速度ω_ref´を演算する。なお、演算には、式(11)が用いられる。CPU151aは、回転速度ω_ref´、サンプリング周期、ローパスフィルタのフィルタ次数に基づいて、前述した方法によって間引き率を決定する。具体的には、フィルタ次数が30次であっても高調波成分の信号を低減できるように、式(14)のように間引き率を決定する。CPU151aは、決定した間引き率を間引き制御器519に出力する。
なお、間引き率が大きすぎると、電流値のデータの個数が少なくなりすぎて、精度良く位相の決定を行えなくなる可能性がある。本実施形態では、モータの電気角周波数の1次成分の信号において、1周期あたり32個の電流値のデータがあれば、精度良く位相の決定を行えるものとするが、これに限定されるものではない。したがって、間引き率が決定される際には、モータの電気角周波数の1次成分の信号において、1周期あたり少なくとも32個の電流値のデータがあるように間引き率が決定される。
また、本実施形態においては、CPU151aは、間引き率を回転速度ω_ref´、サンプリング周期及びローパスフィルタのフィルタ次数に基づいて算出することによって決定したが、この限りではない。例えば、CPU151aの内部に回転速度ω_ref´と間引き率との関係を示すテーブルを設け、前記テーブルに基づいて間引き率を決定しても良い。
更に、本実施形態においては、CPU151aが間引き率を決定したが、この限りではない。例えば、回転速度ω_ref´が間引き制御器519に入力され、間引き制御器519が前述した方法によって間引き率を決定する構成であっても良い。
間引き制御器519は、入力された間引き率に基づいて、電流値iα及びiβと電圧値Vα及びVβとに間引き処理を施し、間引き処理を適用した電流値iα及びiβと電圧値Vα及びVβをローパスフィルタ514に出力する。ローパスフィルタ514は前述した方法によって高調波成分の信号を低減する。更に、位相決定器513は、高調波成分の信号が低減された電流値に基づいて位相θを決定し、モータ制御装置157は前記位相決定結果に基づいてモータの駆動を制御する。この結果、モータの制御が不安定になることを抑制することができる。
図9は、本実施形態におけるモータ制御装置が間引き率を決定する方法を示すフローチャートである。以下、図9を用いて、本実施形態における間引き率の決定方法について説明する。このフローチャートの処理は、CPU151aからの指示を受けたモータ制御装置157によって実行される。なお、以下の説明においては、フィルタ次数は予め30次に設定されているものとする。また、サンプリング周期は25μsとする。
まず、S101において、CPU151aからモータ制御装置157にenable信号‘H’が出力されると、モータ制御装置157はCPU151aから出力される指令に基づいてモータ509の駆動制御を開始する。enable信号とは、モータ制御装置157の稼働を許可又は禁止する信号である。enable信号が‘L(ローレベル)’である場合は、CPU151aはモータ制御装置157の稼働を禁止する。即ち、モータ制御装置157によるモータ509の制御は終了される。また、enable信号が‘H(ハイレベル)’である場合は、CPU151aはモータ制御装置157の稼働を許可して、モータ制御装置157はCPU151aから出力される指令に基づいてモータ509の駆動制御を行う。
次に、S102において、回転速度ω_ref´が10rps以上の場合は、S103において、CPU151aは間引き率を0に設定する。これは、回転速度ω_ref´が10rps以上であれば、フィルタ次数が30次であっても、電流値のデータを間引くことなく高調波成分の信号を低減することができるからである。CPU151aは、決定した間引き率を間引き制御器519に出力する。その後、モータ制御装置157は処理をS105に進める。
また、S102において、回転速度ω_ref´が10rpsよりも小さい場合は、S104において、CPU151aは間引き率を0より大きい値に設定する。なお、間引き率は以下の2つの条件が満たされるように設定される。1つ目の条件は、間引かれた後の電流値のデータが、モータの電気角周波数の1次成分の信号において1周期あたり32個以上あることである。2つ目の条件は、回転速度ω_ref´に基づいて間引き率が設定されることである。具体的には、例えば、回転速度ω_ref´が5rpsの場合は5rpsに対応する間引き率が設定され、回転速度ω_ref´が3rpsの場合は3rpsに対応する間引き率が設定されることである。CPU151aは、決定した間引き率を間引き制御器519に出力する。その後、モータ制御装置157は処理をS105に進める。
次に、S105において、モータ制御装置157は、決定された間引き率に基づいて電流値取得器516によって取得された電流値のデータの間引き処理を行い、間引かれた電流値のデータにフィルタ処理を施す。そして、モータ制御装置157は、フィルタ処理が施された電流値のデータに基づいて上述のベクトル制御を行う。
以降、CPU151aがモータ制御装置157にenable信号‘L’を出力するまで、モータ制御装置157は前述した制御を繰り返し行い、モータ509を制御する。なお、本実施形態においては、予め設定されているフィルタ次数(30次)で間引き制御を行うことなく高調波成分の信号を除去できる回転子の回転速度である10rpsを、間引き率を0にするか否かの閾値としているが、これに限定されるものではない。
以上のように、本実施形態においては、電流値及び電圧値のデータの間引き処理を行い、間引き処理が適用された電流値及び電圧値にフィルタ処理を行う。この結果、サンプリング周期を長くしたりフィルタ次数を大きくしたりしなくても、高調波成分の信号を低減することができる。また、回転子の回転速度に応じて間引き率を決定する。具体的には、回転速度ω_ref´が10rps以上の場合は間引き率を0に決定する。即ち、間引き制御器519は間引き処理を行わない。また、回転速度ω_ref´が10rpsよりも小さい場合は間引き率を0より大きい値に設定する。この結果、回転子の回転速度が変わったことによって高調波成分の周波数が変化した場合であっても、フィルタの次数を予め設定されている次数よりも大きくすることなく、高調波成分の信号を低減することができる。
なお、本実施形態においては、モータ制御装置は機械角に基づいてモータを制御した。即ち、CPU151aは機械角の指令位相をモータ制御装置に出力し、位相決定器513は回転子の回転位相(機械角)を決定した。そして、加算器は、前記指令位相と回転位相との偏差を演算し、位相制御器は前記偏差に基づいて指令電流値を出力したが、この限りではない。例えば、モータ制御装置は電気角に基づいてモータを制御する構成であっても良い。具体的には、例えば、CPU151aは駆動電流の電気角の目標位相である指令位相をモータ制御装置に出力し、位相決定器513は駆動電流の電気角の位相を決定する。また、加算器は、前記電気角の指令位相と決定された電気角の位相との偏差を演算し、位相制御器は前記偏差に基づいて指令電流値を出力する、という構成であっても良い。
また、本実施形態におけるベクトル制御では、回転子402の回転位相θを基準とした回転座標系が用いられているが、これに限定されるものではない。例えば、指令位相θ_refを基準とした回転座標系が用いられても良い。
本実施形態における間引き処理は、ローパスフィルタによるフィルタ処理だけでなく、バンドパスフィルタ等を用いる場合に適用されても良い。
また、本実施形態においては、指令速度ω_refの代わりとなる回転速度ω_ref´に基づいて間引き率を決定したが、これに限定されるものではない。例えば、図5に示す速度決定器515によって決定された回転速度ωに基づいて間引き率を決定しても良い。
また、本実施形態においては、回転速度ω_ref´が10rps以上の場合は、間引き率を0としたが、この限りではなく、回転速度ω_ref´が10rps以上の場合であっても間引き制御を行っても良い。この場合、回転速度ω_ref´が10rpsよりも小さい場合における間引き率は、回転速度ω_ref´が10rps以上の場合における間引き率よりも大きい値に決定される。
〔第2実施形態〕
画像形成装置及びローパスフィルタ514の構成は第1実施形態と同様である。以下、本実施形態におけるモータ制御装置がモータを制御する方法について説明する。なお、ベクトル制御を用いたモータの駆動制御方法及びローパスフィルタ514の構成は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
前述したように、デジタルフィルタで構成されたローパスフィルタを用いて高調波成分の信号を低減する場合、該ローパスフィルタが低減することができる周波数帯はフィルタの次数によって異なる。具体的には、フィルタの次数を大きくすればするほど、低周波の高調波成分の信号を低減することができる。したがって、低周波の高調波成分の信号を低減するためには、フィルタの次数を大きくする必要がある。
高調波成分の周波数はモータの種類によっても異なる。したがって、モータが取り換えられることによって種類の異なるモータが取り付けられた場合、予め設定されている次数のフィルタでは、高調波成分の信号を低減することができない可能性がある。具体的には、例えば、取り換えられた後のモータの検出電流に含まれる高調波成分の周波数が取り換えられる前のモータの検出電流に含まれる高調波成分の周波数よりも低い場合、予め設定されている次数のフィルタではノイズを低減できない可能性がある。高調波成分の信号が低減されていない電流値に基づいて回転子の位相を決定し、前記位相決定結果に基づいてモータの駆動を制御すると、モータの制御が不安定になってしまう。
次に、高調波成分の信号の周波数について説明する。なお、以下の説明においては、回転子の磁極数が100個(N極とS極とがそれぞれ50個)であるモータAと、回転子の磁極数が24個(N極とS極とがそれぞれ12個)であるモータBとを用いる。しかしながら、用いられるモータの磁極数はこれに限定されるものではない。また、本実施形態においては、電流値取得器516が電流値を取得する周期(サンプリング周期)は25μsであるとする。
第1実施形態において説明したように、モータAを回転速度10rpsで駆動する場合、電気角周波数は500Hzとなる。
また、磁極数が24個であるモータBにおいては、機械角30°が電気角360°に相当する。即ち、モータBの回転子が1周すると電気角は12周する。したがって、例えば、モータBを回転速度10rpsで駆動する場合、電気角周波数は120Hzとなる。
電流検出器によって検出された駆動電流には、これらの電気角周波数の信号だけではなく、前記電気角周波数の高調波成分の信号が重畳されている。例えば、電気角周波数の3次成分、5次成分等が重畳されている。
したがって、モータAを回転速度10rpsで駆動する場合は、電気角周波数の3次成分である1500Hzの信号を低減する必要がある。また、モータBを回転速度10rpsで駆動する場合は、電気角周波数の3次成分である360Hzの信号を低減する必要がある。
次に、検出された駆動電流に含まれる高調波成分の信号を低減するために必要なフィルタの次数について説明する。高調波成分の信号を低減するためには、該高調波成分の1周期に含まれるすべての電流値のデータの平均値を演算する必要がある。具体的には、例えば、高調波成分の周期が1000μsであって電流値取得器が電流値を取得する周期が25μSである場合、該高調波成分の1周期に含まれる電流値の個数は40個である。したがって、この場合、周期が1000μsである高調波成分の信号を低減するためには、フィルタの次数は40次以上である必要がある。なお、本実施形態においては、高調波成分の1周期に含まれるすべての電流値のデータの平均値を演算することによって高調波成分の信号を低減する構成としているが、これに限定されるものではない。例えば、高調波成分のn周期(nは正の整数)に含まれるすべての電流値のデータの平均値を演算する構成であっても良い。また、n周期に含まれる電流値のデータすべてを用いる構成でなくても良い。
第1実施形態において説明したように、モータAを回転速度10rpsで駆動する場合において、電気角周波数の3次成分の信号を低減するためには、27次以上のフィルタを用いる必要がある。
また、モータBを回転速度10rpsで駆動する場合は、電気角周波数の3次成分の信号の周波数は360Hz(周期は1/360S)である。したがって、モータBを回転速度10rpsで駆動する場合における、電気角周波数の3次成分の信号の1周期に含まれる電流値の個数は以下の式を用いて求められる。
(1/360s)/25μs≒111.1 (15)
したがって、モータBを回転速度10rpsで駆動する場合において、電気角周波数の3次成分の信号を低減するためには、112次以上のフィルタを用いる必要がある。
以上のように、高調波成分の信号の周波数はモータの磁極数によって異なる。したがって、モータが取り換えられることによって磁極数の異なるモータが取り付けられた場合、予め設定されている次数のフィルタでは、高調波成分の信号を低減することができない可能性がある。具体的には、例えば、取り換えられる前のモータが前記モータAであって、取り換えられた後のモータが前記モータBである場合、予め設定されている次数のフィルタでは高調波成分の信号を低減できない可能性がある。より具体的には、例えば、モータAの駆動を制御する場合はフィルタの次数を30次に設定することによって、3次成分の信号を低減することができる。しかしながら、モータAがモータBに取り換えられると、フィルタの次数が30次である場合は3次成分の信号を低減することができない。
高調波成分の信号が低減されていない電流値に基づいて回転子の位相を決定し、前記位相決定結果に基づいてモータの駆動を制御すると、モータの制御が不安定になってしまう。
この場合、フィルタの次数を大きくすることが考えられる。即ち、ローパスフィルタの構成を、フィルタの次数を112次以上に設定することができる構成にすることが考えられる。しかしながら、フィルタの次数を大きくすればするほど、メモリ514aの容量が増大し、その結果、コストが増大してしまう。また、フィルタの次数を大きくすればするほど、フィルタ処理に起因する位相の遅れ量が大きくなってしまう。即ち、フィルタの次数を変えることによってフィルタ処理に起因する位相の遅れ量も変わってしまうため、前記位相遅れを補正する構成が複雑になる等の問題も生じてしまう。そのため、モータが取り換えられることによって種類の異なるモータが取り付けられた場合であっても、フィルタの次数を大きくすることなく、低周波の高調波成分の信号を低減することができる構成が求められている。
以下に、本実施形態の一例として、フィルタの次数が30次である状態において、モータ制御装置が制御するモータがモータAからモータBに取り換えられた場合における、高調波成分の信号の低減方法について説明する。
式(12)乃至式(15)において説明したように、高調波成分の信号を低減するために必要なフィルタの次数は、該高調波成分の1周期に含まれる電流値の個数によって決まる。即ち、電流値取得器が電流値のデータを取得する周期(サンプリング周期)によって決まる。具体的には、サンプリング周期が長ければ長いほど該高調波成分の1周期分の電流値のデータの個数が減るため、フィルタの次数をより小さくすることができる。
したがって、フィルタの次数が30次である状態において、モータがモータAからモータBに取り換えられた場合に、フィルタの次数を大きくすることなく低周波の高調波成分の信号を低減するためには、サンプリング周期を長くすれば良い。しかしながら、前述したように、サンプリング周期とインバータ周期とは同期しているため、サンプリング周期を長くすると、インバータ周期も長くなってしまう。インバータ周期が長くなると、CPU151aから出力される指令に対するモータ制御装置の応答性が悪くなってしまう。また、インバータ周期は50μs以下(周波数は20kHz以上)でなければ騒音等の問題が起こる。即ち、サンプリング周期は50μs以下(周波数を20kHz以上)でなければ騒音等の問題が起こる。これは、人間の可聴周波数領域の最大値が約20kHzであるためである。仮にサンプリング周期を50μsに設定したとしても、モータBにおける3次成分の信号を低減するためには、フィルタの次数を56次以上に設定する必要がある。即ち、仮にサンプリング周期を50μsに設定したとしても、フィルタの次数が30次である状態のままモータBにおける3次成分の信号を低減することはできない。
[間引き制御]
図10は本実施形態におけるモータ制御装置157の構成を示すブロック図である。
図10に示すように、本実施形態におけるモータ制御装置157には間引き制御器519が設けられている。電流値取得器516は、A/D変換器510から取得した電流値iα及びiβを間引き制御器519に出力する。また、座標逆変換器505は、駆動電圧の電圧値Vα及びVβを間引き制御器519に出力する。間引き制御器519は、取得した全ての電流値及び電圧値のうちの一部のデータを間引いてローパスフィルタ514に出力する。
間引き制御器519は、電流値取得器516がサンプリング周期25μsで取得した全ての電流値のうちの一部のデータを、決定された間引き率に基づいて間引く。即ち、間引き制御器519は、間引き処理後の電流値のデータの時間間隔が例えば100μsとなるように間引き処理を行う。更に、間引き制御器519は、間引き処理後の電流値のデータをローパスフィルタ514に出力する。この結果、電流値のデータは、見かけ上、サンプリング周期100μsで電流値取得器516によって取得され、ローパスフィルタ514に入力される状態となる。この場合、モータBを回転速度10rpsで駆動する場合における、電気角周波数の3次成分の信号の1周期に含まれる電流値の個数は以下の式を用いて求められる。
(1/360s)/100μs≒27.7 (15)
したがって、この場合、28次以上のフィルタを用いれば、モータBを回転速度10rpsで駆動する場合における電気角周波数の3次成分の信号を低減することができる。即ち、フィルタの次数が30次である状態のままモータBにおける3次成分の信号を低減することができる。なお、この場合、フィルタの次数を28次に変えても良い。
次に、モータ制御装置に取り付けられたモータの種類を判別する方法及び該判別結果に基づいて間引き率を決定する方法について説明する。本実施形態においては、取り付けられているモータの磁極数を判別し、該判別結果に基づいて間引き率を決定する。なお、以下の説明においては、モータを回転速度10rpsで駆動するものとする。また、サンプリング周期は25μsであって、ローパスフィルタのフィルタ次数は30次であるものとする。
本実施形態においては、図10に示す情報取得器700がモータの情報を取得する。具体的には、モータ制御装置157に取り付けられるモータには、例えば、モータの種類を判別するためのバーコードが備え付けられており、情報取得器700は、前記バーコードを読み取る。情報取得器700には、前記バーコードとモータの情報との関係を示すテーブル701が設けられており、情報取得器700は該テーブル701を参照することによってモータの情報を取得する。なお、モータの情報とは、例えば、モータの回転子の磁極数に対応する。情報取得器700は、取得した情報をCPU151aに出力する。
なお、本実施形態においては、モータに取り付けられたバーコードを情報取得器700が読み取ることによってモータの情報を取得したが、これに限定されるものではない。例えば、サービスマンがモータを取り換えた際に、操作部152を用いて、取り付けたモータの情報をCPU151aに送信する構成であっても良い。
CPU151aは、モータの磁極数、モータの回転速度、サンプリング周期、ローパスフィルタのフィルタ次数に基づいて、前述した方法によって間引き率を決定する。具体的には、フィルタ次数が30次であっても高調波成分の信号を低減できるように、式(15)のように間引き率を決定する。CPU151aは、決定した間引き率を間引き制御器519に出力する。間引き制御器519は入力された間引き率を不図示のメモリに記憶しておく。
なお、間引き率が多すぎると、電流値のデータの個数が少なくなりすぎて、精度良く位相の決定を行えなくなる可能性がある。本実施形態では、モータの電気角周波数の1次成分の信号において、1周期あたり32個の電流値のデータがあれば、精度良く位相の決定を行えるものとする。したがって、間引き率が決定される際には、モータの電気角周波数の1次成分の信号において、1周期あたり少なくとも32個の電流値のデータがあるように間引き率が決定される。
また、本実施形態においては、CPU151aは、間引き率をモータの情報、回転速度、サンプリング周期及びローパスフィルタのフィルタ次数に基づいて算出することによって決定したが、この限りではない。例えば、CPU151aの内部にモータの情報と間引き率との関係を示すテーブルを設け、前記テーブルに基づいて間引き率を決定しても良い。
更に、本実施形態においては、CPU151aが間引き率を決定したが、この限りではない。例えば、モータの情報及び回転速度等が間引き制御器519に入力され、間引き制御器519が間引き率を決定する構成であっても良い。
間引き制御器519は、メモリに記憶されている間引き率に基づいて、電流値iα及びiβと電圧値Vα及びVβとに間引き処理を施し、間引き処理を適用した電流値iα及びiβと電圧値Vα及びVβをローパスフィルタ514に出力する。ローパスフィルタ514は前述した方法によって高調波成分の信号を低減する。更に、位相決定器513は、高調波成分の信号が低減された電流値に基づいて位相θを決定し、モータ制御装置157は前記位相決定結果に基づいてモータの駆動を制御する。この結果、モータの制御が不安定になることを抑制することができる。
図11(a)は、モータBを回転速度10rpsで駆動した場合において、電流値取得器516がサンプリング周期25μsで取得した電流の波形を示す図である。図11(a)に示すように、電流波形は電気角周波数の3次成分等の高調波成分に起因して歪んでしまっている。
図11(b)は、図11(a)に示す電流に30次のフィルタを適用した場合における電流の波形を示す図である。モータBを回転速度10rpsで駆動した場合において、30次のフィルタで低減できる信号の周波数は以下の式(16)によって導出される。
1/(25μs*30)=1333.3 (16)
よって、モータBを回転速度10rpsで駆動した場合において30次のフィルタを用いると、周波数が1333.3Hz以上の高調波成分の信号を低減することができる。モータBを回転速度10rpsで駆動する場合における電気角周波数の1次成分は120Hzであるので、図11(b)に示す電流波形は、30次のフィルタを適用したことによって電気角周波数の12次以上の成分の信号が低減されている。しかしながら、前述したように、モータBを回転速度10rpsで駆動している状態において電流値取得器516がサンプリング周期25μsで取得した電流値のデータに30次のフィルタを適用しても、電気角周波数の3次成分の信号を低減することはできない。したがって、図11(b)に示す電流波形には、電気角周波数の3次成分等の高調波成分に起因した歪みが残っている。
図11(c)は、図11(b)に示す電流に間引き処理を適用した場合における電流の波形を示す図である。図11(c)に示す電流波形は図11(b)に示す電流波形に比べて、前述した間引き処理を適用したことによって電気角周波数の3次以上の成分の信号が低減されている。図11(c)に示す電流波形に基づいて位相θを決定し、前記位相決定結果に基づいてモータの駆動を制御することによって、モータの制御が不安定になることを抑制することができる。
図12は、本実施形態におけるモータ制御装置が間引き率を決定する方法を示すフローチャートである。以下、図12を用いて、本実施形態における間引き率の決定方法について説明する。このフローチャートの処理は、CPU151aによって実行される。なお、このフローチャートの処理は、例えば、サービスマンがモータを取り換えた際に、モータを取り換えたことを操作部152を用いてCPU151aに入力することによって実行される。以下の説明においては、フィルタ次数は予め30次に設定されているものとする。また、回転子の回転速度は10rpsとする。更に、サンプリング周期は25μsとする。
まず、S201においてモータが取り換えられると、S202において、情報取得器700は取り付けられたモータの情報(磁極数の情報)を前述した方法によって取得する
次に、S203において、取り付けられたモータの回転子の磁極数が100個以上の場合は、CPU151aは処理をS204に進める。S204において、CPU151aは間引き率を0に決定する。これは、磁極数が100個以上であれば、フィルタ次数が30次であっても、電流値のデータを間引くことなく高調波成分の信号を低減することができるからである。CPU151aは、決定した間引き率を間引き制御器519に出力する。その後、CPU151aは処理をS206に進める。
また、S203において、取り付けられたモータの回転子の磁極数が100個よりも少ない場合は、CPU151aは処理をS205に進める。S205において、CPU151aは、前述した方法で間引き率を0より大きい値に設定する。なお、間引き率は以下の2つの条件が満たされるように設定される。1つ目の条件は、間引かれた後の電流値のデータが、モータの電気角周波数の1次成分の信号において1周期あたり32個以上あることである。2つ目の条件は、磁極数に基づいて間引き率が設定されることである。具体的には、例えば、磁極数が50個の場合は50個に対応する間引き率が設定され、磁極数が24個の場合は24個に対応する間引き率が設定されることである。CPU151aは決定した間引き率を間引き制御器519に出力する。その後、CPU151aは処理をS206に進める。
その後、S206において、間引き制御器519は入力された間引き率を不図示のメモリに記憶する。
以上のように、本実施形態においては、電流値及び電圧値のデータに対して間引き処理を行い、間引き処理が適用された電流値及び電圧値にフィルタ処理を行う。この結果、サンプリング周期を長くしたりフィルタ次数を大きくしたりしなくても、高調波成分の信号を低減することができる。また、モータを取り換えた場合に、取り付けられたモータの種類(磁極数)に応じて電流値及び電圧値のデータを間引く間引き率を決定する。具体的には、モータを取り換えたことをユーザが操作部152を用いてCPU151aに入力すると、CPU151aはモータの磁極数に基づいて間引き率を決定する。より具体的には、回転子の磁極数が100個以上の場合は間引き率を0に決定する。即ち、間引き制御器519は間引き処理を行わない。また、回転子の磁極数が100個よりも少ない場合は、間引き率を0より大きい値に設定する。この結果、取り換えられた後のモータの検出電流に含まれる高調波成分の周波数が取り換えられる前のモータの検出電流に含まれる高調波成分の周波数よりも低い場合であっても、フィルタの次数を大きくすることなく、高調波成分の信号を低減することができる。即ち、モータが取り換えられることによって種類の異なるモータが取り付けられた場合であっても、フィルタの次数を予め設定されている次数よりも大きくすることなく、高調波成分の信号を低減することができる。
また、本実施形態においては、モータ制御装置は機械角に基づいてモータを制御した。即ち、CPU151aは機械角の指令位相をモータ制御装置に出力し、位相決定器513は回転子の回転位相(機械角)を決定した。そして、加算器は、前記指令位相と回転位相との偏差を演算し、位相制御器は前記偏差に基づいて指令電流値を出力したが、この限りではない。例えば、モータ制御装置は電気角に基づいてモータを制御する構成であっても良い。具体的には、例えば、CPU151aは駆動電流の電気角の目標位相である指令位相をモータ制御装置に出力し、位相決定器513は駆動電流の電気角の位相を決定する。また、加算器は、前記電気角の指令位相と決定された電気角の位相との偏差を演算し、位相制御器は前記偏差に基づいて指令電流値を出力する、という構成であっても良い。
更に、本実施形態におけるベクトル制御では、回転子402の回転位相θを基準とした回転座標系が用いられているが、これに限定されるものではない。例えば、指令位相θ_refを基準とした回転座標系が用いられても良い。
本実施形態における間引き処理は、ローパスフィルタによるフィルタ処理だけでなく、バンドパスフィルタ等を用いる場合に適用されても良い。
また、本実施形態においては、間引き率を決定する際に、指令速度ω_refの代わりとなる回転速度ω_ref´を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、図5に示す速度決定器515によって決定された回転速度ωを用いて間引き率を決定しても良い。
また、本実施形態においては、磁極数が100個以上の場合は、間引き率を0としたが、この限りではなく、磁極数が100個以上の場合であっても間引き制御を行っても良い。この場合、磁極数が100個よりも少ない場合における間引き率は、磁極数が100個以上の場合における間引き率よりも大きい値に決定される。
なお、本実施形態においては、回転子の磁極数100個を、間引き率を0にするか否かの閾値としているが、これに限定されるものではない。
なお、本実施形態においては、モータを駆動する際の回転速度を10rpsとし、モータAとモータBとが取り換えられる場合における間引き率決定方法について説明したが、この限りではない。例えば、第1実施形態において説明したような、回転速度に基づいて間引き率を決定する構成と、本実施形態において説明したような、モータの磁極数に基づいて間引き率を決定する構成とを組み合わせても良い。即ち、回転子の回転速度及びモータの磁極数に基づいて間引き率を決定する構成としても良い。この結果、モータが取り換えられ、また、複数の回転速度でモータを駆動する場合であっても、フィルタの次数を大きくすることなく、高調波成分の信号を低減することができる。
〔第3実施形態〕
画像形成装置及びローパスフィルタ514の構成は第1実施形態と同様である。以下、本実施形態におけるモータ制御装置がモータを制御する方法について説明する。なお、ベクトル制御を用いたモータの駆動制御方法及びローパスフィルタ514の構成は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
第1実施形態及び第2実施形態においては、図3及び図10に示すように、電流値取得器516が取得した電流値は、巻線に供給する駆動電流の制御を行うため及び回転位相を決定するために用いられている。回転位相を決定する過程においては、予め設定されているフィルタ次数で高調波成分の3次成分の信号を低減するためにサンプリング周期を長くする必要がある。しかしながら、サンプリング周期とインバータ周期とは同期しているため、サンプリング周期を長くするとインバータ周期も長くなってしまう。その結果、巻線に供給する駆動電流の制御を行う過程において、モータの応答性が悪くなったり騒音等の問題が起こったりしてしまう。したがって、第1実施形態及び第2実施形態においては、上述した問題が起こりにくいサンプリング周期25μsで取得した全ての電流値を巻線に供給する駆動電流の制御に用いた。また、回転位相を決定する過程においては、サンプリング周期25μsで取得した全ての電流値のうちの一部を用いた。具体的には、サンプリング周期25μsで取得した全ての電流値のうちの一部のデータを、決定された間引き率に基づいて間引くことによって見かけ上サンプリング周期が長くなるようにした。
本実施形態では、図13に示すように、モータ制御装置157に、巻線に供給する駆動電流の制御を行う際に用いられる電流値を取得する電流値取得器516と回転位相を決定する際に用いられる電流値及び電圧値を取得する電流値・電圧値取得器520とを設ける。即ち、巻線に供給する駆動電流の制御を行うために用いられるデータを取得する構成と回転位相を決定するために用いられるデータを取得する構成とを別々に設ける構成とする。
電流値・電圧値取得器520はサンプリング周期を可変できる構成である。なお、電流値・電圧値取得器520のサンプリング周期を決定する方法については、第1実施形態で述べたような回転速度ω_ref´に基づいて決定する方法や第2実施形態で述べたような磁極数に基づいて決定する方法を適用することができるものとする。
以上のような構成において、電流値取得器516のサンプリング周期を25μsに設定しておけば、電流値・電圧値取得器520のサンプリング周期を50μs以上に設定したとしても、モータの応答性の悪化や騒音等の問題が起こることを低減することができる。即ち、モータの応答性の悪化や騒音等の問題が起こることなく、且つ、フィルタ次数を予め設定されている次数よりも大きくすることなく、且つ、間引き処理を行わずに高調波成分の信号を低減することができる。