JP6668568B2 - 連続鋳造用タンディッシュ、及びそのタンディッシュを用いた連続鋳造方法 - Google Patents
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Description
連続鋳造を効率よく操業を行うためには、タンディッシュ内において、注入室からストランド室へ溶鋼をスムーズに流通させる際に、各ストランド間における溶鋼温度を均一化させることが必要となる。
特許文献1は、多ストランドタンディッシュにおいて、各ストランド間における溶鋼温度のバラツキを低減することを目的としている。具体的には、注入室とストランド室が堰で仕切られたT型タンディッシュにおいて、堰には二つの孔(湯道)が開口されており、孔の向きを所定のストランド間を向かせることで、各ストランド間における溶鋼温度のバラツキを低減させている。
このようなタンディッシュ内の介在物の流出を防止するための手段として、特許文献4〜6に開示されているものがある。
特許文献4は、溶鋼を分配する際に、タンディッシュ内の大型介在物が鋳型へ流出するのを防止することを目的としている。具体的には、注入室とストランド室が堰で仕切られたタンディッシュにおいて、その堰には1つないしは2つの孔が開口されている。この堰孔の向きは、溶鋼が鋳型注入孔へ直接流入する、溶鋼の鋳型注入孔への直送流が発生しやすい流出域を外した向きとしている。このような堰孔の向きにすることにより、大型介在物の流出を防止している。
ところが、この文献においては、堰孔の向きを溶鋼が所定のストランド間に流れるような向きとなるように狙う、とのみの規定であるので、非常に稀ではあるが、実操業の条件によっては鋳型注入孔への溶鋼の直送流発生することが考えられる。それ故、可能性としては低いが、溶鋼温度がばらついてしまうことが考えられる。
それ故、溶鋼温度のバラツキが大きくなる可能性が大である。たとえ、プラズマ加熱装置を用いても、溶鋼流の向きを適正化しない限りは、各ストランド間における溶鋼温度のバラツキが大きくなる虞がある。
ところが、左右のストランド室間に設けられた堰の堰孔においては、溶鋼の流れが弱いため、その堰孔に流入した介在物が滞留してしまうので、その堰孔の内径が段々と細くなってゆき、滞留した多くの介在物により内部が詰まってしまう可能性がある。
以上の技術では、多ストランドタンディッシュにおいて、注入室からストランド室へ流出した溶鋼は、直送流を含めて、注入室に近い鋳型注入孔(ストランド)に優先的に流れ込むこととなり、注入室に近い鋳型注入孔においては、溶鋼温度が高くなる。一方で、注入室から遠い鋳型注入孔においては、温度が低くなった溶鋼が流れ込むこととなる。つまり、多ストランドタンディッシュ内における溶鋼温度のバラツキが大きくなってしまう虞がある。
さて、特許文献4は、鋳型注入孔への溶鋼の直送流を防いでいるものの、実操業の条件によっては、各ストランド間における溶鋼温度のバラツキが大きくなる虞がある。また同文献の技術においては、堰孔からの噴流が堰近くの鋳型注入孔を超える条件でないために、特に4ストランド以上のタンディッシュに適用させた場合、そのタンディッシュおける溶鋼温度のバラツキを低減させることは不可能である。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、注入室と鋳型注入孔を複数有するストランド室とを有する、平面視でT字状のタンディッシュにおいて、各鋳型注入孔に流れる溶鋼の到達時間の差を制御することで、そのタンディッシュ内における各ストランド間の溶鋼温度のバラツキを抑制することが可能な連続鋳造用タンディッシュと、そのタンディッシュを用いた連続鋳造方法を提供することを目的とする。
本発明にかかる連続鋳造用タンディッシュは、取鍋からの溶鋼が注入される注入室と、前記注入室の前方であって、当該注入室より左右方向に長尺とされ、且つ底部に前記溶鋼を鋳型に装入する鋳型注入孔を複数有するストランド室と、前記注入室と前記ストランド室とを仕切る仕切堰と、前記仕切堰に設けられ且つ前記注入室から前記ストランド室へ直線状に貫通する湯道と、を備えたタンディッシュにおいて、前記湯道は、平面視で水平方向斜め左側に移行し、且つ側面視で前記注入室の底部側、前記仕切堰の内壁面から前記ストランド室の上部側、前記仕切堰の内壁面に向けて、直線状に貫通する第1湯道と、平面視で水平方向斜め右側に移行し、且つ側面視で前記注入室の底部側、前記仕切堰の内壁面から前記ストランド室の上部側、前記仕切堰の内壁面に向けて、直線状に貫通する第2湯道と、を有し、さらに、前記湯道は、前記第1湯道と前記第2湯道との間であって、側面視で前記注入室から前記ストランド室に向けて水平もしくは下方を向いて移行し、且つ平面視で前後方向を向いて直線状に貫通する第3湯道と、前記第3湯道に隣接配備されていて、側面視で前記注入室から前記ストランド室に向けて水平もしくは下方を向いて移行し、且つ平面視で前後方向を向いて直線状に貫通する第4湯道と、を有し、前記第1湯道は、平面視で前記第3湯道及び前記第4湯道の左側に設けられていて、前記第2湯道は、平面視で前記第3湯道及び前記第4湯道の右側に設けられていて、前記複数の鋳型注入孔のうち1つは、前記第3湯道の水平方向を向く中心軸の延長線が前記前側壁面に対して交差する点と、前記第4湯道の水平方向を向く中心軸の延長線が前記前側壁面に対して交差する点との2点間の領域内に備えられ、他の前記鋳型注入孔は、上方を向いた前記第1湯道の水平方向を向く中心軸の延長線、上方を向いた前記第2湯道の水平方向を向く中心軸の延長線より左右方向外側の領域に位置し、前記第3湯道の出口及び前記第4湯道の出口と繋がる前記ストランド室の底部は、当該第3湯道の出口及び当該第4湯道の出口の下端以下に位置し、且つ、式(1)〜式(8)を満たしていることを特徴とする。
D1≦0.3 [m] ・・・(2)
x1≧0.1z1+D2/2 [m] ・・・(3)
θ1≦60 [deg.] ・・・(4)
z2tanθ2-0.1z1/cosθ2≧H/3 [m] ・・・(5)
z2tanθ2+D1+0.1z1/cosθ2≦H [m] ・・・(6)
x2≧0.1(z1+z3)+(d2+D2)/2 [m] ・・・(7)
x4≧0.1z3+d2/2 [m] ・・・(8)
d1:第3湯道、及び、第4湯道の縦径
d2:第3湯道、及び、第4湯道の横径
D1:第1湯道、及び、第2湯道の縦径
D2:第1湯道、及び、第2湯道の横径
x1:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点と、仕切堰に最近側の鋳型注入孔の上下方向を向く中心軸を通過する水平方向を向く延長線がストランド室の前側壁面と交差する点との距離
θ1:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の中心軸の延長線ストランド室の前側壁面と交差する点におけるストランド室幅方向の中心側の水平角度
θ2:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の上向き角度
z1:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の軸心の延長線上におけるストランド室の水平長さ
z2:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の軸心における、注入室の前端部からストランド室の前側壁面までの水平距離
z3:水平もしくは下方を向いた第3湯道又は第4湯道の軸心の延長線上におけるストランド室の水平長さ
H:溶鋼の深さ
x2:第1湯道又は第2湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点と、第3湯道又は第4湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点との間の距離
x4:第3湯道又は第4湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点と、2点間の領域内に位置している鋳型注入孔の上下方向を向く中心軸を通過する水平方向を向く延長線がストランド室の前側壁面と交差する点との距離
好ましくは、前記ストランド室には、前記注入室の前方であって、当該ストランド室の前側壁面に当接し、当該ストランド室の底部から上方を向いて立設された突起物が備えられていて、前記突起物は、所定の間隔を空けて、左右一対備えられ、且つ式(9)〜式(12)を満たしているとよい。
L≧0.2[m] ・・・(10)
d1+0.1z1≦h≦z2tanθ2-0.1z1/cosθ2 [m] ・・・(11)
x3≧0.1z3+d2/2 [m] ・・・(12)
y:突起物の前後方向の長さ
L:突起物の幅
h:突起物の高さ
x3:第3湯道又は第4湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点と、突起物における第3湯道又は第4湯道の中心軸の延長線側の端部との距離
本発明にかかる連続鋳造方法は、上記の連続鋳造用タンディッシュを用いて、連続鋳造を行うことを特徴とする。
図23に示すように、連続鋳造用タンディッシュ1は、溶鋼14を鋳型17に装入する鋳型注入孔6(ストランド)が設けられた底部2a,2bと、その底部2a,2bの周縁から立ち上がる周壁3とを備えている。なお以降、単にタンディッシュ1と呼ぶこともある。
注入室4は、ストランド6が設けられていない底部2aと、底部2aの3つ周縁それぞれから上方に向かって立設された3つの周壁3と、ストランド室5に対して分割するように仕切る仕切堰8とで囲まれた部分で構成されている。一方、ストランド室5は、ストランド6が複数設けられた底部2bと、底部2bの周縁それぞれから上方に向かって立設された周壁3と、当該ストランド室5と注入室4とを仕切る仕切堰8とで囲まれた部分で構成されている。
また、図3A、図3Bは、注入室4及びストランド室5の断面図(図1のA−A断面)である。なお、図3Cも注入室4及びストランド室5の断面図であり、図1のA−A断面に相当するものである。
図2A、図2B、図3A、図3Bに示すように、注入室4とストランド室5を仕切る仕切堰8には、注入室4からストランド室5へ直線状に貫通する湯道9が設けられている。すなわち、注入室4とストランド室5は、仕切堰8の下部に開口された湯道9によって繋げられている。
湯道9は、平面視で、注入室4からストランド室5に向かうにしたがって、水平方向斜め左側に移行し、且つ側面視で注入室4の底部2a側、仕切堰8の内壁面下端(仕切堰8の後壁面下端)からストランド室5の上部側、仕切堰8の内壁面(仕切堰8の前壁面)に向けて、直線状に貫通する湯道9a(第1湯道)と、平面視で、注入室4からストランド室5に向かうにしたがって、水平方向斜め右側に移行し、且つ側面視で注入室4の底部2a側、仕切堰8の内壁面下端からストランド室5の上部側、仕切堰8の内壁面に向けて、直線状に貫通する湯道9b(第2湯道)とを有している。
すなわち、本発明においては、各湯道9c,9dの出口10c,10dと繋がるストランド室5の底部2bは、各湯道9c,9dの出口10c,10dの最下端部と同じ高さ(図3A参照)、或いは、各湯道9c,9dの出口10c,10dの最下端部よりも低い位置である(図3B参照)。
一方、図3Cは、仕切堰8に各湯道9c,9dを形成した場合であって、各湯道9c,9dの出口と繋がる底部2bを見たとき、当該底部2bが各湯道9c,9dの出口の下端よりも上方に位置する場合のタンディッシュを示している。
さて、図4は、仕切堰8を幅方向で且つ垂直に断面した場合(図1のB−B断面)の断面図である。図4に示すように、仕切堰8に形成する湯道9(第1湯道9a〜第4湯道9d)の断面視の形状は、円形であっても、楕円形であっても、四角形であっても、扁平した円であってもよい。
図5Aに示すように、湯道9が注入室4からストランド室5へ直線状に貫通する形状であれば、仕切堰8を溶損させることなく、湯道9内の地金を除去することができる。
したがって、湯道9(第1湯道9a〜第4湯道9d)は、仕切堰8内を注入室4からストランド室5へ直線的に貫通していることが必要である。
以降、ストランド室5の前後方向を奥行き方向とし、ストランド室5の左右方向を幅方向とする。これはタンディッシュ1の前後方向及び左右方向と一致する。
また、第1湯道9aを第1堰孔と呼び、第2湯道9bを第2堰孔と呼ぶこととする。また、第3湯道9cを第1底部堰孔と呼ぶこととし、第4湯道9dを第2底部堰孔と呼ぶこととする。
すなわち、ストランド6のうち1つは、平面視で、仕切堰8の左右方向中央の前方に配置されている。
すなわち、ストランド6は、ストランド室5の底部2bであって、第1堰孔9aの中心軸の延長線、及び、第2堰孔9bの中心軸の延長線より外側にそれぞれ備えられている。
これら各底部堰孔9c,9dの縦径「d1」は、式(1)に示すように、0.3m以下である。
d1≦0.3 [m] ・・・(1)
ところが、各底部堰孔9c,9dの縦径d1が0.3mを超える場合、取鍋16のノズルの開口時に当該ノズルから落下した砂等の大部分が各底部堰孔9c,9dを通ってストランド室5に流入し易くなる。その取鍋16の開口時における多量の砂が各底部堰孔9c,9dを経てストランド室5に入ってしまうと、介在物欠陥になり易い。
なお、「d2」は、各底部堰孔9c,9dを垂直に断面した場合における水平方向の内径(横径)である。
また、図4に示すように、「D1」は、第1堰孔9a及び第2堰孔9bを垂直に断面した場合における、垂直(上下)方向の内径(縦径)である。
D1≦0.3 [m] ・・・(2)
ところが、第1堰孔9a及び第2堰孔9bの縦径D1の縦径d1が0.3mを超える場合、取鍋16のノズルの開口時に当該ノズルから落下した砂等の大部分が各堰孔9a,9bを通ってストランド室5に流入し易くなる。その取鍋16の開口時における多量の砂が各堰孔9a,9bを経てストランド室5に入ってしまうと、介在物欠陥になり易い。
図2A、図6Aに示すように、「x1」は、平面視での第1堰孔9a及び第2堰孔9bの中心軸が、対面するストランド室5の前側壁面7(正面壁)と交わる点と、仕切堰8から最も近い(上記した左右方向外側領域)ストランド6の中心を通過する前後方向を向く直線が、ストランド室5の正面壁7と交わる点との距離である。すなわち、距離「x1」は、交点a1と交点a2との距離、又は、交点a3と交点a4との距離である。
x1≧0.1z1+D2/2 [m] ・・・(3)
ただし、「z1」は、第1堰孔9a及び第2堰孔9bの中心軸(軸心)の延長線上における、各堰孔9a,9bの出口からストランド室5の正面壁7までの距離(ストランド室5の長さ)である。
なお、式(3)は、各堰孔9a,9bの出口から流出する噴流(上向噴流)と、仕切堰8に最も近いストランド6の位置との関係を表す式である。また、「0.1z」は、上向噴流の広がり幅(片側)の理論式であり、「N.ラジャラトナム著、野村安正訳:「噴流」森北出版(1985)p.43」に記載されている。
このような位置関係となると、流出して広がった上向噴流が、正面壁7前で左右方向に逸れてしまうこととなる。その結果、仕切堰8近くのストランド6への直送流が発生しやすくなる。
すなわち、式(4)は、各堰孔9a,9bの出口から流出する上向噴流が、ストランド室5の正面壁7に衝突する水平角度を表す式である。
θ1≦60 [deg.] ・・・(4)
ところが、図7Bに示すように、水平角度θ1が60[deg.]を超える場合、正面壁7に衝突した上向噴流が、左右方向外側に広がりにくくなる。その結果、仕切堰8近く(最近側)のストランド6と、その仕切堰8から遠方にあるストランド6との間で、溶鋼14の温度差が生じやすくなる。
z2tanθ2-0.1z1/cosθ2≧H/3 [m] ・・・(5)
ただし、「θ2」は、側方断面視での上方を向いた各堰孔9a,9bの中心軸の延長線がストランド室の正面壁7と交差する点における上下方向における内側の角度で(上向き角度)ある。
「z2」は、上方を向いた各堰孔9a,9bの軸心における、注入室4の前端からストランド室5の正面壁7までの水平距離である。
「H」は、ストランド室5内の溶鋼14の深さである。
図2B、図9Aに示すように、側方断面視での仕切堰8の両外側に設けられている第1堰孔9aの出口10a及び、第2堰孔9bの出口10bから流出する上向噴流が、ストランド室5の正面壁7と衝突する際の上端位置(底部2bから見た上向噴流の上端高さ)は、式(6)を満たしている。
ところが、図9Bに示すように、上記の規定を超える(z2tanθ2+D1+0.1z1/cosθ2>H)場合、上向噴流が正面壁7に衝突する前に溶鋼湯面に到達してしまい、下降流が生じてしまう。その結果、各堰孔9a,9b近くのストランド6への直送流が発生しやすくなる。
この距離「x2」は、は、式(7)を満たしている。
x2≧0.1(z1+z3)+(d2+D2)/2 [m] ・・・(7)
ただし、「z3」は、水平もしくは下方を向いた各底部堰孔9c,9dの中心軸上におけるストランド室5の前後方向の水平長さである。
x4≧0.1z3+d2/2 [m] ・・・(8)
ところが、上記の規定を下回る(x4<0.1z3+d2/2)場合、各底部堰孔9c,9dからの底部噴流が、仕切堰8の前方で且つ、第1底部堰孔9cの中心軸の延長線と第2底部堰孔9dの中心軸の延長線の間の領域に配置されているストランド6への直送流が発生しやすくなる。
この突起物11は、所定の間隔を空けて、左右一対備えられていて、側方断面視で、略矩形状とされている。
この厚み「y」は、式(9)を満たしている。
y≧0.1 [m] ・・・(9)
なお、左右一対備えられた突起物11に挟まれた空間、すなわち平面視における凹部は、各底部堰孔9c,9dの出口10c,10dから流出する底部噴流の流れ(図13A中の太線矢印)を、上昇流にするガイドの役割を果たしている。
また、図12A、図13Aに示すように、「L」は、平面視での突起物11の左右方向における長さである。すなわち「L」は、突起物11の幅である。
L≧0.2 [m] ・・・(10)
ところが、突起物11の幅Lが0.2mを下回る場合、当該突起物11の耐久性が低くなり、溶鋼流によって、溶損・欠損しやすくなる。
なお、突起物11の水平断面視(平面視)における形状については、図12A、図13Aに示すように矩形状でもよいし、図14に示すように円弧形状でもよい。
図15Aに示すように、高さ「h」は(h≦z2tanθ2-0.1z1/cosθ2)を満たしている。また、図16Aに示すように、高さ「h」は(d1+0.1z1≦h)を満たしている。
すなわち、この高さ「h」は、式(11)を満たしている。
ところが、図15Bに示すように、突起物11の幅高さhが上記の規定を超える(h>z2tanθ2-0.1z1/cosθ2)場合、上方向を向いた各堰孔9a,9bの出口10a,10bから流出した上向噴流の下端より、突起物11の上端が高くなり、各堰孔9a,9bからの上向噴流を妨げることとなる。
また、図16Bに示すように、突起物11の幅高さhが上記の規定を下回る (d1+0.1z1>h)場合、各底部堰孔9c,9dから流出した底部噴流の上端より、突起物11の上端が低くなり、各底部堰孔9c,9dからの底部噴流を上昇流にするガイドの役割が弱くなる。つまり、底部噴流が上昇流になりにくくなる。
図12A、図18Aに示すように、「x3」は、第1底部堰孔9c又は第2底部堰孔9dの中心軸の延長線が正面壁7に交差する点と、突起物11の一方端部との間の距離である。
具体的には、第1底部堰孔9cの中心軸の延長線が正面壁7に交差する点と、平面視で左側に配備されている突起物11の右側端部(底部堰孔9c側の端部)との間の距離、又は、第2底部堰孔9dの中心軸の延長線が正面壁7に交差する点と、平面視で右側に配備されている突起物11の左側端部(底部堰孔9c側の端部)との間の距離である。
すなわち、距離「x3」は、交点a6と交点a8との距離、又は、交点a7と交点a9との距離である。
x3≧0.1z3+d2/2 [m] ・・・(12)
ところが、図18Bに示すように、距離x3が上記の規定を下回る(x3<0.1z3+d2/2)場合、各底部堰孔9c,9dから流出する底部噴流の広がりよりも、左右一対の突起物11間が狭いために、底部噴流を上昇流に変えるガイドとしての役割が弱くなる。
ブレークアウトが発生すると、漏れてきた地金が連続鋳造装置15のロールスタンドに付着してしまい、それを除去する作業が発生する。また、地金除去が困難な場合は、ロールスタンドの交換等を実施しなければならなくなる。このような、余計な作業をしなければならない問題が発生すると、連続鋳造装置15の多大な復旧費用がかかってしまい、鋳片19の生産に大きな影響を与えてしまう。
一方で、多ストランドタンディッシュを用いた連続鋳造では、各ストランド6から各鋳型17へ注入される溶鋼14の温度に偏差が発生する。それ故、ブレークアウトを防止するために、溶鋼14の温度偏差の高温側を基準にして、タンディッシュ1内の溶鋼温度を制御している。
このように、ノズル詰りが発生したストランド6においては、連続鋳造を停止しなければならず、鋳片19の生産に大きな影響を及ぼす。
図19は、タンディッシュ1内における溶鋼温度の測定位置を示す図である。図19に示すように、本実施形態においては、ストランド6のほぼ真上であって、溶鋼14の湯面から0.3mの深さにおける溶鋼温度の測定を行った。
以上述べた本発明のタンディッシュ1を用いれば、溶鋼14の温度偏差を小さくすること、すなわち多ストランドタンディッシュ内における各ストランド6間の溶鋼温度のバラツキを抑制することができるので、温度が低い溶鋼14が流れ込む(低ΔT側)ストランド6におけるノズル詰まりと、温度が高い溶鋼14が流れ込む(高ΔT側)ストランド6による鋳型17下方のブレークアウトを抑制することができる。
[実施例]
まず、水モデル実験について説明する。
また、水モデル実験のタンディッシュ1において、仕切堰8に設けた第1堰孔9a及び第2堰孔9bについては、注入室4からストランド室5へ向けて、平面視で水平方向斜め左右外側に移行し、且つ側面視で注入室4の底部側内壁面からストランド室5の上部側内壁面に向けて延びる、直線状に貫通するものとしている。
また、第1底部堰孔9cの出口10c及び、第2底部堰孔9d出口10dと繋がるストランド室5の底部2bは、当該各底部堰孔9c,9dの出口10c,10dの下端以下に位置させている。
水モデル実験の方法においては、以下のようにした。
1)溶鋼14のモデルとした水を、タンディッシュ1内に満たしておき、フルード数近似で水を通水させる。
なお、この各ストランド6へ到達するまでの時間の差が大きいと温度偏差が大であり、ストランド6の到達時間の差が小さいと温度偏差が小である。
数値計算条件として、熱流体解析ソフト:Fluent、計算モデル:k-εで行った。この数値計算では、実機とほぼ同じ1/1モデルで行った。数値計算で用いたタンディッシュ1は、図21A〜Dに示すT型タンディッシュとした。また、ストランド6の数は4つのものと5つのものとした。
図21Bに示すタンディッシュは、仕切堰を設けているが、高さが低いものであるので、注入室4とストランド室5が明確に仕切られていない。また、その仕切堰には、湯道9は設けられていない。すなわち、図21Bに示すタンディッシュおいては、注入室4に注入された溶鋼14は、低い仕切堰を乗り越えて、ストランド室5へ流れ込むようになっている(比較例、形状B)。
仕切堰8に設けられた第1堰孔9aについては、注入室4からストランド室5へ向けて上方向を向き、且つ左方向外側を向いて延びる直線状としている。また、第2堰孔9bについては、注入室4からストランド室5へ向けて上方向を向き、且つ右方向外側を向いて延びる直線状としている。
なお、第1底部堰孔9cの出口10c、第2底部堰孔9dの出口10dと繋がるストランド室5の底部2bは、各底部堰孔9c,9dの出口10c,10dの下端以下に位置させている。
また、第1底部堰孔9c、第2底部堰孔9dについては、注入室4からストランド室5へ向けて水平もしくは下方に延びる直線状としている。
表3に、数値計算における計算条件を示す。表4、表5に、タンディッシュ1の形状A〜Dについての寸法、構成の詳細を示す。
トレーサーは、溶鋼14と同密度の粒子を設定して、注入室4の注入位置(図21A〜D中の×印)に投入した。
表6に示すように、実測した結果、ΔT(=Tmax-Tmin)が8℃と算出され、数値計算の結果、ΔTが10℃と算出された。このように、溶鋼温度の数値計算の結果は、実測した結果との差が小さく、実機の現象を精度良く反映できていることが確認できる。
「tmin」は、注入室4の注入位置(図21中A〜Dの×印)にトレーサー(墨汁)を投入してから、ストランド6に到達するまでの最短滞留時間である。「tmax」は、注入室4の注入位置にトレーサー(墨汁)を投入してから、ストランド6に到達するまでの最長滞留時間である。「Δt」は、トレーサーの最長滞留時間と最短滞留時間との差(tmax-tmin)である。
なお、(Δt/tr)の値が大きいほど、トレーサーが各ストランド6に到達するタイミングの差が大きくなる。
次に、本発明における連続鋳造用タンディッシュ1の実施例及び比較例について、説明する。
なお、表8、表9の実施例は、表10に示す水モデルによる結果に基づいて、実機に換算したものである。
また、実施例(No,8)以降においては、正面壁7に突起物11が左右一対備えられている。
表8〜表10のNo,1(実施例)を参照すると、湯道9の断面形状が円形状とされている。
距離x1が0.3mであり、且つ(0.1z1+D2/2)が0.19mであるので、式(3)を満たしている。水平角度θ1が50[deg.]であり、式(4)を満たしている。
(z2tanθ2-0.1z1/cosθ2)が0.38であり、且つ(H/3)が0.27mであるので、式(5)を満たしている。
距離x4が0.3mであり、且つ(0.1z3+d2/2)が0.27mであるので、式(8)を満たしている。
表8〜表10のNo,2(実施例)を参照すると、湯道9の断面形状が扁平した円形状(楕円形状)とされている(例えば、図4参照)。
距離x1が0.3mであり、且つ(0.1z1+D2/2)が0.21mであるので、式(3)を満たしている。水平角度θ1が60[deg.]であり、式(4)を満たしている。
(z2tanθ2-0.1z1/cosθ2)が0.33であり、且つ(H/3)が0.27mであるので、式(5)を満たしている。
(Δt/tr)が0.18となっているので、温度偏差が小さく、溶鋼14の温度のバラツキを抑制されていることが分かる。また、鋳型17への介在物の流出も抑制されていることが分かった。
各底部堰孔9c,9dの高さ(縦径)d1が0.2mであり、式(1)を満たしている。また、各堰孔9a,9bの高さ(縦径)D1が0.2mであり、式(2)を満たしている。
距離x1が0.3mであり、且つ(0.1z1+D2/2)が0.2mであるので、式(3)を満たしている。水平角度θ1が45[deg.]であり、式(4)を満たしている。
(z2tanθ2+D1+0.1z1/cosθ2)が0.71mであり、且つ溶鋼14の深さHが0.8mであるので、式(6)を満たしている。距離x2が1.08mであり、且つ(0.1(z1+z3)+(d2+D2)/2)が0.42mであるので、式(7)を満たしている。
また、突起物11の厚みyが0.2mであり、式(9)を満たしている。突起物11の幅Lが0.2mであり、式(10)を満たしている。
突起物11の高さhが0.3mであり、(d1+0.1z1)が0.3mであり、(z2tanθ2-0.1z1/cosθ2)が0.3mであるので、式(11)を満たしている。距離x3が0.98mであり、且つ(0.1z3+d2/2)が0.22mであるので、式(12)を満たしている。
表8〜表10のNo,9(実施例)を参照すると、湯道9の断面形状が円形状とされている。
距離x1が0.3mであり、且つ(0.1z1+D2/2)が0.2mであるので、式(3)を満たしている。水平角度θ1が45[deg.]であり、式(4)を満たしている。
(z2tanθ2-0.1z1/cosθ2)が0.38mであり、且つ(H/3)が0.27mであるので、式(5)を満たしている。
距離x4が0.3mであり、且つ(0.1z3+d2/2)が0.22mであるので、式(8)を満たしている。
突起物11の高さhが0.38mであり、(d1+0.1z1)が0.3mであり、(z2tanθ2-0.1z1/cosθ2)が0.38mであるので、式(11)を満たしている。距離x3が0.88mであり、且つ(0.1z3+d2/2)が0.22mであるので、式(12)を満たしている。
以上、表8〜表10に示す、実施例(No,1〜No,14)は、優れているものであることが分かる。
なお、表11、表12の比較例は、表13に示す水モデルによる結果に基づいて、数値計算を行って実機に換算したものである。
また、比較例(No,9)に関しては、正面壁7に突起物11が左右一対備えられている。
表11〜表13のNo,4(比較例)を参照すると、湯道9の断面形状が円形状とされている。距離x1が0.15mであり、且つ(0.1z1+D2/2)が0.19mであるので、式(3)を満たしていない。(Δt/tr)が0.22となり、0.18を超えているので、温度偏差が大きく、溶鋼14の温度のバラツキを抑制されていない。
表11〜表13のNo,9(比較例)を参照すると、湯道9の断面形状が円形状とされている。水平角度θ1が70[deg.]であり、式(4)を満たしていない。距離x2が0.35mであり、且つ(0.1(z1+z3)+(d2+D2)/2)が0.39mであるので、式(7)を満たしていない。(Δt/tr)が0.23となり、0.18を超えているので、温度偏差が大きく、溶鋼14の温度のバラツキを抑制されていない。
また、本発明によれば、低ΔT側のストランド6における浸漬ノズル13のノズル詰りを抑制するとともに、高ΔT側のストランド6におけるブレークアウトを抑制することができる。
図23に示すように、連続鋳造装置15は、例えば、二次精錬処理後の溶鋼14を連続的に鋳造する装置であり、取鍋16内の溶鋼14が注入されるタンディッシュ1と、当該タンディッシュ1内の溶鋼14を鋳込む鋳型17と、鋳型17によって形成された鋳片19を支持するサポートロール18を備えている。なお、連続鋳造装置15で鋳造される鋳片19の形状は、限定されず、スラブ、ブルーム、ビレット等であってもよい。
2a 底部(注入室)
2b 底部(ストランド室)
3 周壁
4 注入室
5 ストランド室
6 鋳型注入孔(ストランド)
7 前側壁面(正面壁)
8 仕切堰
9 湯道
9a 第1湯道(第1堰孔)
9b 第2湯道(第2堰孔)
9c 第3湯道(第1底部堰孔)
9d 第4湯道(第2底部堰孔)
10a 第1湯道の出口
10b 第2湯道の出口
10c 第3湯道の出口
10d 第4湯道の出口
11 突起物(段差部)
13 浸漬ノズル
14 溶鋼
15 連続鋳造装置
16 取鍋
17 鋳型
18 サポートロール
19 鋳片
20 酸素パイプ
Claims (3)
- 取鍋からの溶鋼が注入される注入室と、前記注入室の前方であって、当該注入室より左右方向に長尺とされ、且つ底部に前記溶鋼を鋳型に装入する鋳型注入孔を複数有するストランド室と、前記注入室と前記ストランド室とを仕切る仕切堰と、前記仕切堰に設けられ且つ前記注入室から前記ストランド室へ直線状に貫通する湯道と、を備えたタンディッシュにおいて、
前記湯道は、平面視で水平方向斜め左側に移行し、且つ側面視で前記注入室の底部側、前記仕切堰の内壁面から前記ストランド室の上部側、前記仕切堰の内壁面に向けて、直線状に貫通する第1湯道と、
平面視で水平方向斜め右側に移行し、且つ側面視で前記注入室の底部側、前記仕切堰の内壁面から前記ストランド室の上部側、前記仕切堰の内壁面に向けて、直線状に貫通する第2湯道と、を有し、
さらに、前記湯道は、前記第1湯道と前記第2湯道との間であって、側面視で前記注入室から前記ストランド室に向けて水平もしくは下方を向いて移行し、且つ平面視で前後方向を向いて直線状に貫通する第3湯道と、
前記第3湯道に隣接配備されていて、側面視で前記注入室から前記ストランド室に向けて水平もしくは下方を向いて移行し、且つ平面視で前後方向を向いて直線状に貫通する第4湯道と、を有し、
前記第1湯道は、平面視で前記第3湯道及び前記第4湯道の左側に設けられていて、
前記第2湯道は、平面視で前記第3湯道及び前記第4湯道の右側に設けられていて、
前記複数の鋳型注入孔のうち1つは、前記第3湯道の水平方向を向く中心軸の延長線が前記前側壁面に対して交差する点と、前記第4湯道の水平方向を向く中心軸の延長線が前記前側壁面に対して交差する点との2点間の領域内に備えられ、
他の前記鋳型注入孔は、上方を向いた前記第1湯道の水平方向を向く中心軸の延長線、上方を向いた前記第2湯道の水平方向を向く中心軸の延長線より左右方向外側の領域に位置し、
前記第3湯道の出口及び前記第4湯道の出口と繋がる前記ストランド室の底部は、当該第3湯道の出口及び当該第4湯道の出口の下端以下に位置し、且つ、式(1)〜式(8)を満たしていることを特徴とする連続鋳造用のタンディッシュ。
d1≦0.3 [m] ・・・(1)
D1≦0.3 [m] ・・・(2)
x1≧0.1z1+D2/2 [m] ・・・(3)
θ1≦60 [deg.] ・・・(4)
z2tanθ2-0.1z1/cosθ2≧H/3 [m] ・・・(5)
z2tanθ2+D1+0.1z1/cosθ2≦H [m] ・・・(6)
x2≧0.1(z1+z3)+(d2+D2)/2 [m] ・・・(7)
x4≧0.1z3+d2/2 [m] ・・・(8)
d1:第3湯道、及び、第4湯道の縦径
d2:第3湯道、及び、第4湯道の横径
D1:第1湯道、及び、第2湯道の縦径
D2:第1湯道、及び、第2湯道の横径
x1:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点と、仕切堰に最近側の鋳型注入孔の上下方向を向く中心軸を通過する水平方向を向く延長線がストランド室の前側壁面と交差する点との距離
θ1:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の中心軸の延長線ストランド室の前側壁面と交差する点におけるストランド室幅方向の中心側の水平角度
θ2:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の上向き角度
z1:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の軸心の延長線上におけるストランド室の水平長さ
z2:上方を向いた第1湯道、及び、第2湯道の軸心における、注入室の前端部からストランド室の前側壁面までの水平距離
z3:水平もしくは下方を向いた第3湯道又は第4湯道の軸心の延長線上におけるストランド室の水平長さ
H:溶鋼の深さ
x2:第1湯道又は第2湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点と、第3湯道又は第4湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点との間の距離
x4:第3湯道又は第4湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点と、2点間の領域内に位置している鋳型注入孔の上下方向を向く中心軸を通過する水平方向を向く延長線がストランド室の前側壁面と交差する点との距離 - 前記ストランド室には、前記注入室の前方であって、当該ストランド室の前側壁面に当接し、当該ストランド室の底部から上方を向いて立設された突起物が備えられていて、
前記突起物は、所定の間隔を空けて、左右一対備えられ、且つ式(9)〜式(12)を満たしている
ことを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用のタンディッシュ。
y≧0.1[m] ・・・(9)
L≧0.2[m] ・・・(10)
d1+0.1z1≦h≦z2tanθ2-0.1z1/cosθ2 [m] ・・・(11)
x3≧0.1z3+d2/2 [m] ・・・(12)
y:突起物の前後方向の長さ
L:突起物の幅
h:突起物の高さ
x3:第3湯道又は第4湯道の中心軸の延長線がストランド室の前側壁面と交差する点と、突起物における第3湯道又は第4湯道の中心軸の延長線側の端部との距離 - 請求項1又は2に記載された連続鋳造用タンディッシュを用いて、連続鋳造を行うことを特徴とする連続鋳造方法。
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