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JP6516977B2 - 加熱調理用油脂組成物 - Google Patents

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JP6516977B2 JP2014122862A JP2014122862A JP6516977B2 JP 6516977 B2 JP6516977 B2 JP 6516977B2 JP 2014122862 A JP2014122862 A JP 2014122862A JP 2014122862 A JP2014122862 A JP 2014122862A JP 6516977 B2 JP6516977 B2 JP 6516977B2
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Description

本発明は、フライ食品等の加熱調理食品の調理に熱媒体として使用される加熱調理用油脂組成物に関する。
一般に加熱調理したフライ食品は、各素材特有の風味と共に、揚げた後の食感が嗜好に合うことが求められる。近年では嗜好性が多様化し、例えば、ドーナツ等のフライ食品は、サクさのある食感が好まれているが、それとは相反し、ソフトでジューシーな食感のあるものも好まれている。
フライ食品は、揚げることによって材料の水分が失われ、その代わりに油脂が吸収されるが、ソフトでジューシーな食感は、加熱調理した食品中で水分と置換されて食品中に含まれる油脂のうち、主に2不飽和トリグリセリド及び3不飽和トリグリセリド等の低融点トリグリセリドである液状油に起因する。加熱調理後に食品中の油脂の結晶化が過度になると食感が硬いと感じるようになり、またあっさりとした風味にもなりやすく、ソフトでジューシーな食感は低下する。
しかし、ソフトでジューシーな食感を得ようと菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油等の液状油を使用すると、加熱調理後に食品から液状油が染みだし、手で持ったときにベタツキを生じたり、加熱調理後の食品を包装した場合、包装に染みだした液状油が付着し汚れたりする。
このような加熱調理後の食品の食感や液状油の染みだしは、加熱調理後の食品中に含まれる油脂の結晶化の程度や性状のような油脂の結晶化挙動が密接に影響する。
フライ食品等の加熱調理食品の調理に使用される加熱調理用油脂組成物は、[1]菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油等の液状油を主体とした常温で液状の油脂組成物と、[2]パーム油及びそれを含むエステル交換油脂や、水素添加した硬化油等を使用した常温で固形状から半固形状の油脂組成物に大別される。
前者[1]の常温で液状の油脂組成物は、フライヤーへの投入後に加温して流動性を高める工程を要しないことから作業性が良く、加熱調理した食品はジューシーな食感を得やすい反面、加熱調理後に食品から液状油が染みだし、手で持ったときにベタツキを生じたり、加熱調理後の食品を包装した場合、包装に染みだした液状油が付着し汚れたりする。また、結晶性の低い油脂として不飽和脂肪酸を多く含有するため、熱安定性に劣り、繰り返し使用すると加水分解による酸価の上昇や酸化による過酸化脂質の生成を起こしやすくなる。そのため加熱調理した食品の風味が悪くなったり、またフライ油等の加熱調理用油脂組成物で調理した菓子、惣菜などの使用基準に関する食品衛生法を満たすためにフライ油を交換する頻度が高くなるため、コスト面での問題がある。
一方、後者[2]の常温で固形状から半固形状の油脂組成物は、2飽和及び3飽和トリグリセリドのような結晶核となる油脂を多く含有しているので、加温下で油脂に添加剤を均一に溶解させた後、そのまま放冷すると固体脂が析出して固液分離を起こす。そのため、製造工程において加温下で溶解状態にある加熱調理用油脂組成物は、急冷捏和装置によって、急冷しながら結晶化させつつ練り合わせることで、均質な性状を安定に保つようにしている。この油脂組成物は、不飽和脂肪酸が比較的少ないため熱安定性は良好であるが、加熱調理した食品はあっさりした風味となりやすく、ソフトでジューシーな食感を得ることは難しい。例えば、このような油脂組成物として近年では、健康上の懸念も指摘されているトランス酸量の高い油脂に代替するものとして、トランス酸量の比較的少ないパーム油及びそれを含むエステル交換油脂等が使用されてきているが、加熱調理した食品はあっさりした風味となりやすく、ソフトでジューシーな食感を得ることは難しい。
このように、ソフトでジューシーな食感と、液状油の染みだし抑制の双方を満たすことは困難で、上記[1]と[2]の油脂組成物の各長所を併せ持つ加熱調理油脂組成物の開発が望まれていた。
従来、加熱調理用油脂組成物における液状油の染みだしを抑制する技術として、特許文献1には、液状油に極度硬化油と特定融点のポリグリセリン脂肪酸エステルとを含有させ、油脂の結晶化を促進することが提案されている。
しかし、液状油の染みだしを抑制するために、結晶化促進用の乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを配合しているが、30℃で10〜30分程度で流動性を失うと記載されているように、結晶化の促進によって固化が過度に進行すると、ソフトでジューシーな食感を得ることが難しい。ソフトでジューシーな食感を得るためには、結晶化を遅延させて非結晶部分を残すことも考慮される。また結晶化を促進するために高融点のポリグリセリン脂肪酸エステルを多量に添加するため、フライした食品の風味が低下する。
油脂の結晶化を遅延させることに関して、特許文献2、3には、パーム油の低融点画分であるパームオレインや、これと他の液状油とのブレンドについて、長期保存における液状油からの結晶析出やそれによる白濁を抑制する技術が提案されている。すなわち液状油の中には若干の固体脂成分が含まれているものもあり、特に冬場や商品陳列時の温度において白濁を起こして外観が悪化することを抑制するものである。
特許文献2には、ポリグリセリン脂肪酸エステルとソルビタン脂肪酸エステルの混合物を結晶防止剤として用いる技術が提案されている。実施例での試験においては、パームオレインと他の液状油のブレンドを使用し、ソルビタン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸が炭素数14〜20、エステル化率が80〜100%、ケン化価が170〜190であることが記載されているが、それ以上の具体的な開示はされていない。
また加熱調理用油脂組成物に関するものではないが、特許文献3には、スーパーマーケットの棚に陳列される、パームオレインや他の液状油とのブレンドの結晶析出やそれによる白濁を抑制する技術として、ソルビタントリステアレートを混合することが提案されている。具体的には、パームオレインとしてヨウ素価55〜70のものを使用し、主には30質量%以下のパームオレインを70質量%以上の他の液状油とブレンドした油脂を対象として、ソルビタントリステアレートを混合することによって白濁を遅延させることが提案されている。
特開2007−267603号公報 特開平9−310088号公報 特開2003−119488号公報
しかしながら、特許文献2、3の技術では、パーム油の低融点画分であるパームオレインや、これと他の液状油とのブレンドのような油脂を使用した場合における白濁抑制について検討されているが、パーム油やそのエステル交換油脂、ラード、極度硬化油等を主体とした、2飽和及び3飽和トリグリセリドのような結晶核となる油脂を多く含有し、特に2飽和トリグリセリドのうち結晶化しやすい非対称型トリグリセリドの比率が対称型トリグリセリドに比べて比較的高い油脂組成での結晶化挙動についての検討はされておらず、そしてこのような油脂組成における、加熱調理用油脂組成物に特有の課題であるソフトさやジューシー感等の食感と液状油の染みだし抑制との両立、特に特許文献2、3の技術では、長期にわたり液状を呈するものであり、加熱調理に用いた場合、加熱調理した食品中でも同様に液状を保ち、手で持ったときにベタツキや包装時の液状油付着による汚れ防止はできないが、このような液状油の染みだしを抑制することとの両立について、油脂の結晶化挙動の点から特性を改善することは検討されていなかった。
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、熱安定性が良好であり、加熱調理した食品はソフトでジューシーな食感を有し、加熱調理した食品からの液状油の染みだしも抑制することができる加熱調理用油脂組成物を提供することを課題としている。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、構成脂肪酸としてパルミチン酸を多く含む特定のソルビタン脂肪酸エステルを、油脂の結晶化に主に関与する2飽和及び3飽和トリグリセリドが特定の組成を有し、特に2飽和トリグリセリドのうち結晶化しやすい非対称型トリグリセリドが、対称型トリグリセリドに対して特定比率の油脂組成を持つ油脂に添加した際に、加熱調理時を想定した徐冷条件において、顕微鏡で観察すると油脂の結晶部分と非結晶部分(液状部分)が明確に分かれた形態になり、すなわち結晶化する部分と液状部分が明確に分かれる形で油脂結晶の析出を遅延させて非結晶状態が維持されることを知見した。これによって、加熱調理した食品を喫食した際に、非結晶部分が多いため硬い結晶部分を感じることが少なく、ソフトでジューシーな食感を有し、また口溶けも良好であることを見出した。
また、ある程度の大きさを持つまで結晶成長した油脂の結晶部分が非結晶部分に均質に分散した海島構造様となって非結晶状態が維持されるため、液状油が分離して染みだすことも抑制でき、上記課題を解決できることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の加熱調理用油脂組成物は、2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が20〜70質量%である油脂と、パーム油の固化開始温度の変化量が1.0℃未満であり、かつ全構成脂肪酸中の80質量%以上がパルミチン酸であるソルビタン脂肪酸エステルとを含有することを特徴としている。
本発明によれば、熱安定性が良好であり、加熱調理した食品はソフトでジューシーな食感を有し、口溶けも良好で、加熱調理した食品からの液状油の染みだしも抑制することができる。
実施例1の油脂結晶の顕微鏡写真(倍率100倍)である。 比較例1の油脂結晶の顕微鏡写真(倍率100倍)である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
(油脂)
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。なお、トリグリセリドの構成脂肪酸の略称として、S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸、を用いる。
飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。
飽和脂肪酸Sとしては、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸Uとしては、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、およびリノレン酸(18:3)、エルカ酸(22:1)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数の組み合わせである。
本発明の加熱調理用油脂組成物に使用される油脂は、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位及び3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)と、1位及び2位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU)とを含む。また、1位、2位、及び3位の全てに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリドを更に含んでもよく、その他に1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリド、1位、2位、及び3位の全てに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリドを更に含んでもよい。
本発明の加熱調理用油脂組成物における油脂の含有量は、好ましくは70〜99.9質量%、より好ましくは90〜99.8質量%、更に好ましくは96〜99.8質量%である。
本発明の加熱調理用油脂組成物に使用される油脂は、2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が20〜70質量%、好ましくは25〜70質量%である。この範囲内であると、パーム油の固化開始温度の変化量が1.0℃未満であり、かつ全構成脂肪酸中の80質量%以上がパルミチン酸であるソルビタン脂肪酸エステルと併用することで、本発明の加熱調理用油脂組成物を熱媒体に用いたフライ食品等の加熱調理食品の加熱調理後における徐冷条件において、油脂結晶の析出が遅延し、顕微鏡で観察すると油脂の結晶部分と非結晶部分が分かれた形態になって、ある程度の大きさを持つまで結晶成長した油脂の結晶部分が非結晶部分に均質に分散した海島構造様となって非結晶状態が維持される。そのため、喫食したときに硬い結晶部分を感じることが少なく、ソフトでジューシーな食感を有する。また固体脂として口溶けを向上させる油脂を選択することにより、口に入れて噛んだときにはソフトでジューシーな食感で、その後は速やかに溶ける口溶けの良い加熱調理食品が得られる。そして、油脂結晶の析出を遅延させつつ適度な結晶化が進行し、この油脂の結晶部分が非結晶部分に均質に分散することで、油脂中の2不飽和トリグリセリド及び3不飽和トリグリセリド等の低融点トリグリセリドである液状油が染みだすことが抑制され、加熱調理後に食品から液状油が染みだして手で持ったときにベタツキが生じたり、包装した場合、包装に染みだした液状油が付着し汚れたりすることを抑制できる。更に本発明の加熱調理用油脂組成物は、不飽和脂肪酸の比較的少ない上記の油脂組成とすることによって熱安定性が良好で、繰り返し使用しても加水分解による酸価の上昇や酸化による過酸化脂質の生成が抑制され、加熱調理用油脂組成物を長期にわたり使用することができる。
2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が20質量%以上であると、液状油の染みだしが抑制され、熱安定性も良好である。2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が70質量%以下であると、ソフトでジューシーな食感が得られる。
本発明の加熱調理用油脂組成物に使用される油脂は、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が好ましくは0.1〜5.0である。
2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が20質量%以上でかつSUS/SSUが5.0以下であると、上記ソルビタン脂肪酸エステルを併用することで、特に、適度な結晶化によって、液状油が染みだすことが抑制され、加熱調理後に食品から液状油が染みだして手で持ったときにベタツキが生じたり、包装した場合、包装に染みだした液状油が付着し汚れたりすることを抑制できる。過度な結晶化やその他の特性の低下を抑制することを全体的に考慮すると、SUS/SSUは0.1以上が好ましい。
本発明の加熱調理用油脂組成物に使用される油脂としては、パーム油、ヤシ油、パーム核油、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、コーン油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油等の植物油脂、ラード、牛脂等の動物油脂、乳脂、これらの分別油、硬化油(部分水素添加油又は極度硬化油)、エステル交換油脂等が挙げられる。これらは油脂中の2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量とSUS/SSUのバランスを適宜調整するために、1種又は2種以上を選択する。
なお、硬化油は、原料の植物油脂又は動物油脂を常法によりニッケル触媒等の触媒を用いて水素添加することによって得ることができる。極度硬化油は、ヨウ素価が好ましくは3以下、より好ましくは2以下である。
また、動物油脂としては、動物の脂肉から溶出法により採取した脂肪を精製したものを用いることができ、その精製方法も特に制限はなく、溶剤分別等により得られる分別油脂であってもよい。
好ましい例としては、20℃で固形状の油脂を1種単独で又は2種以上組み合わせて使用し、あるいは、この20℃で固形状の油脂と共に、20℃で液状を呈する液状油を組み合わせて使用する。
上記20℃で固形状の油脂としては、パーム系油脂、ラウリン系油脂、ラードなどの動植物油脂、動植物油脂の硬化油、分別油、エステル交換油脂などが挙げられる。
ここでパーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油、及びこれらの硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。パーム分別油としては、硬質部(パームステアリン等)、軟質部(パームオレイン等)、中融点部(PMF等)等を用いることができる。これらの中でも、ヨウ素価30〜60のパーム系油脂を使用することが好ましく、このようなパーム系油脂としては、パーム油、パーム分別軟質油、パーム分別中融点油等が挙げられる。ラウリン系油脂としては、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油、硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
上記20℃で液状を呈する液状油としては、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油を分別したパームスーパーオレイン等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
本発明の加熱調理用油脂組成物における上記20℃で液状を呈する液状油の含有量は、油脂全量に対して60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
本発明の加熱調理用油脂組成物に使用される油脂は、3飽和トリグリセリドの含有量が30質量%以上である油脂を含有することが好ましい。この油脂を含有することで、この油脂が結晶核となるため、結晶核による結晶化と、上記ソルビタン脂肪酸エステルによる結晶化の遅延による液状化とがより明確となり、加熱調理した食品におけるソフトでジューシーな食感と、液状油の染みだし抑制の両立に特に効果を発揮し易くなる。
3飽和トリグリセリドの含有量が30質量%以上である油脂としては、特に限定されるものではないが、植物油脂又は動物油脂の硬化油(部分水素添加油又は極度硬化油)や分別油の硬質油、これを含む油脂を原料とするエステル交換油脂等が挙げられる。その中でも、植物油脂又は動物油脂の極度硬化油、あるいはこれを含む油脂を原料とするエステル交換油脂が好ましい。ここで植物油脂の極度硬化油としては、ヤシ極度硬化油、パーム極度硬化油、パーム核極度硬化油、菜種極度硬化油等が挙げられ、動物油脂の極度硬化油としては、ラード極度硬化油、牛脂極度硬化油等が挙げられる。
3飽和トリグリセリドの含有量が30質量%以上である油脂の含有量は、油脂全量に対して0.5〜65質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましい。
特に、3飽和トリグリセリドの含有量が30質量%以上の油脂として、パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂を用いると、フライ食品等の加熱調理食品の加熱調理時における徐冷条件において、この油脂が結晶核となるため、結晶核による結晶化と、上記ソルビタン脂肪酸エステルによる結晶化の遅延による液状化とがより明確となり、加熱調理した食品におけるソフトでジューシーな食感と、液状油の染みだし抑制の両立に特に効果を発揮し易くなくなるとともに、ドーナツ等のフライ食品の表面がソフトで、口溶けが良好な食感となる。
上記パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂は、ヨウ素価が20〜45であることが好ましく、25〜40であることがより好ましい。この範囲であると、結晶化を促進するとともに、加熱調理食品として口溶けがより良好なものを得ることができる。
ここでパーム系油脂及びラウリン系油脂としては、前述のものが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
上記パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂を得るために用いるエステル交換反応は、化学的エステル交換反応であっても酵素的エステル交換反応であってもよい。化学的エステル交換反応は、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる、位置特異性の乏しいエステル交換反応である(ランダムエステル交換とも言われる)。
化学的エステル交換反応は、例えば、常法に従って、原料油脂を十分に乾燥させ、触媒を原料油脂に対して0.05〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、触媒を水洗にて洗い流した後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
酵素的エステル交換反応は、リパーゼを触媒として用いて行われる。リパーゼとしては、リパーゼ粉末やリパーゼ粉末をセライト、イオン交換樹脂等の担体に固定化した固定化リパーゼを使用するができる。酵素的エステル交換によるエステル交換反応は、リパーゼの種類によって、位置特異性の乏しいエステル交換反応とすることもできるし、1、3位特異性の高いエステル交換反応とすることもできる。
位置特異性の乏しいエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、アルカリゲネス属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPL等)、キャンディダ属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOF等)等が挙げられる。
1,3位特異性の高いエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、リゾムコールミーハイ由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製のリポザイムTLIM、リポザイムRMIM等)等が挙げられる。
上記パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂の含有量は、油脂全量に対して5〜65質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましい。
本発明の加熱調理用油脂組成物に使用される油脂は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が0.5〜12質量%であることが好ましい。この範囲でラウリン酸を含有すると、体温に近い温度でシャープな融解性を持ち、加熱調理した食品は室温で固まっていた油脂が口の中で速やかに溶け、口溶けが良好となる。全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量は、構成脂肪酸にラウリン酸を多く含むラウリン系油脂を使用すると高めることができることから、特に上記パーム系油脂とラウリン系油脂とのエステル交換油脂は好適である。
(ソルビタン脂肪酸エステル)
本発明の加熱調理用油脂組成物は、パーム油の固化開始温度の変化量が1.0℃未満であり、かつ全構成脂肪酸中の80質量%以上がパルミチン酸であるソルビタン脂肪酸エステルを含有する。ソルビタン脂肪酸エステルのパーム油の固化開始温度の変化量((ソルビタン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度)−(パーム油の固化開始温度))は好ましくは0℃以下、より好ましくは−0.5〜0℃、更に好ましくは−0.4〜−0.1℃であり、全構成脂肪酸中の好ましくは85%質量以上、より好ましくは90質量%以上がパルミチン酸である。
ここでソルビタン脂肪酸エステルの全構成脂肪酸中のパルミチン酸量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)により測定することができる。
またパーム油の固化開始温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定した値である。固化開始温度の測定には、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いることができる。より詳細には、パーム油100質量部にソルビタン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、80℃から毎分10℃の速度で冷却し、固化開始温度を測定した。
このソルビタン脂肪酸エステルを用いることで、2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が前述の範囲にある油脂、特にSUS/SSUが前述の範囲にある油脂を用いた際に、本発明の加熱調理用油脂組成物を用いたフライ食品等の加熱調理食品の加熱調理時における徐冷条件において、油脂結晶の析出が遅延し、油脂の結晶部分と非結晶部分が分かれた形態になって、ある程度の大きさを持つまで結晶成長した油脂の結晶部分が非結晶部分に均質に分散した海島構造様となって非結晶状態が維持される。そのため、喫食したときに硬い結晶部分を感じることが少なく、ソフトでジューシーな食感を有する。そして、油脂結晶の析出を遅延させつつ適度な結晶化が進行し、この油脂の結晶部分が非結晶部分に均質に分散することで、油脂中の2不飽和トリグリセリド及び3不飽和トリグリセリド等の低融点トリグリセリドである液状油が分離して染みだすことが抑制され、加熱調理後に食品から液状油が染みだして手で持ったときにベタツキが生じたり、包装した場合、包装に染みだした液状油が付着し汚れたりすることを抑制できる。
本発明に使用されるソルビタン脂肪酸エステルは、HLB値が好ましくは1.0〜4.0である。HLB値がこの範囲であると、上記のようなソフトでジューシーな食感及び液状油の染みだし抑制に適している。
ここでHLB値は、Griffin式(Atlas社法)により求めることができる。
本発明においては、上記のようなソルビタン脂肪酸エステルとして、市販のものを用いることができる。
上記ソルビタン脂肪酸エステルの含有量は、油脂全量に対して、好ましくは0.1〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.2〜4.0質量%である。ソルビタン脂肪酸エステルの含有量が0.1質量%以上であると、2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が前述の範囲にある油脂、特にSUS/SSUが前述の範囲にある油脂を用いた際に、本発明の加熱調理用油脂組成物を用いたフライ食品等の加熱調理食品の加熱調理時における徐冷条件において、油脂結晶の析出が遅延し、油脂の結晶部分と非結晶部分が分かれた形態になって、上記のようなソフトでジューシーな食感及び液状油の染みだし抑制に適している。ソルビタン脂肪酸エステルの含有量が10質量%以下であると、乳化剤としての異味が最終製品の加熱調理食品に影響を及ぼすことを抑制できる。
(その他の成分)
本発明の加熱調理用油脂組成物は、その効果を損なわない範囲において、上記の油脂及びソルビタン脂肪酸エステルに加えて、食品添加物等のその他の成分を配合することができる。
食品添加物は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、酸化防止剤、消泡剤、乳化剤、着色料、フレーバー等が挙げられる。
酸化防止剤としては、L−アスコルビン酸やL−アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物等が挙げられる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
乳化剤としては、上記のソルビタン脂肪酸エステルによる結晶化の特性を阻害しないものであれば添加することができる。例えば、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
着色料としては、カロテン、アスタキサンチン、アナトー等が挙げられる。
フレーバーとしては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。
(加熱調理用油脂組成物の製造方法)
本発明の加熱調理用油脂組成物は、例えば、原料となる1種又は2種以上の前述したような油脂を加温下で溶解し、溶解した油脂中に前述したソルビタン脂肪酸エステルと、必要に応じて前述した食品添加物等のその他の成分とを添加し、公知の方法で均一に分散し、溶解することによって製造することができる。
製造工程において加温下で溶解状態にある本発明の加熱調理用油脂組成物は、急冷捏和装置によって、急冷しながら練り合わせると、油脂が結晶化して半固形状や可塑性のある固形状態となる。急冷捏和することで固体脂と液状油が分離状態となることを防止し、均質な加熱調理用油脂組成物を得ることができる。
急冷捏和処理は、通常、可塑性油脂組成物を製造する場合と同様にして行うことができる。例えば、冷却条件は、20℃/分以上、好ましくは30℃/分以上とすることができる。また、急冷捏和処理は、従来公知の急冷捏和装置を用いて行うことができ、必要に応じてガス、例えば窒素等を混入することもできる。密閉状態で連続的に急冷し、同時に捏和して均質な油脂組成物を得る装置としては、ボテーター、パーフェクター、コンビネーター、オンレーター等を用いることができる。急冷捏和装置の出口での油脂組成物の温度は、通常は5〜40℃の範囲である。
急冷捏和装置の出口の形状は充填口で、製造した本発明の加熱調理用油脂組成物は、業務用等に使用される製品として出荷するために、急冷捏和機の充填口から天切り缶等の容器に充填される。
本発明の加熱調理用油脂組成物は、不飽和脂肪酸の比較的少ない上記の油脂組成とすることによって熱安定性が良好で、繰り返し使用しても加水分解による酸価の上昇や酸化による過酸化脂質の生成が抑制され、加熱調理用油脂組成物を長期にわたり使用することができる。
(加熱調理食品)
本発明の加熱調理用油脂組成物は、業務用及び家庭用の加熱調理に使用できる。例えば業務用の場合には、天切り缶等の容器に充填された固形状又は半固形状の加熱調理用油脂組成物を容器から器具によってすくい出してフライヤー等の油槽に入れる。
本発明の加熱調理用油脂組成物を熱媒体に用いて、通常のフライ食品等の加熱調理食品に使用される具材や生地を、例えば120〜200℃、好ましくは150〜200℃に加熱して調理することにより加熱調理食品を得ることができる。
本発明において加熱調理とは、加熱調理用油脂組成物を熱媒体として食品を加熱調理することを意味し、主に揚げ物(フライ食品)の調理が代表的なものとして挙げられるが、その他、炒め物(例えば焼きそば、野菜炒め等)、焼き物(例えば焼き肉、お好み焼き等)等が含まれる。
本発明の加熱調理用油脂組成物は、加熱調理した食品中に浸透した油脂含量が多い食品であると効果の発現がより顕著であり、好適である。油脂含量が多い食品としては、揚げ物(フライ食品)であり、中でもドーナツ類が好適である。
具体的な加熱調理方法としては、フライ食品の場合には、本発明の加熱調理用油脂組成物をフライヤー等の油槽に入れた後、調理温度までヒーターやガス等で昇温させて加熱溶解する。加熱調理用油脂組成物の油温を制御しながら、生地等の加熱調理する食品を投入し、連続生産の場合にはコンベア等で搬送しながら、加熱調理を行う。加熱調理用油脂組成物の量、加熱温度及び加熱時間については、使用する食品の種類、調理の方法等により適宜に調整する。
本発明の加熱調理用油脂組成物により加熱調理した食品は、熱して食品を調理した後、通常は室温までゆっくりと冷却される。すなわち熱媒体としての加熱調理用油脂組成物は、加熱調理温度まで上昇して一旦溶解し、その後、加熱調理した食品に含まれて室温に置かれるため、徐冷条件で冷却され、油脂は結晶化する。
本発明の加熱調理用油脂組成物は、このような徐冷条件において、油脂結晶の析出が遅延し、油脂の結晶部分と非結晶部分が分かれた形態になって、ある程度の大きさを持つまで結晶成長した油脂の結晶部分が非結晶部分に均質に分散した海島構造様となって非結晶状態が維持される。そのため、喫食したときに硬い結晶部分を感じることが少なく、ソフトでジューシーな食感を有し、口溶けも良好で、そして液状油が染みだすことが抑制され、加熱調理後に食品から液状油が染みだして手で持ったときにベタツキが生じたり、包装した場合、包装に染みだした液状油が付着し汚れたりすることを抑制できる。
これらの点から、本発明の加熱調理用油脂組成物は、ドーナツ類、揚げパイ類、揚げ和菓子類等の揚げ菓子類や、揚げパン類等の揚げ物の加熱調理に好適である。
ドーナツ類は、ベーキングパウダー等の膨張剤を用いて生地を膨化させて製造されるケーキドーナツや、イーストで発酵させた生地を用いたイーストドーナツ等が挙げられる。これらは食材でコーティングしたものや砂糖等の粉末を掛けたものであってもよい。また、リング状に成形して揚げたものだけでなく、球状のもの、スティック状のもの、ツイスト状のものや、中に具を入れた餡ドーナツや、クリームドーナツ等であってもよい。
ケーキドーナツの生地の原材料としては、小麦粉(薄力粉やこれに中力粉や強力粉を混ぜたものなど)等の穀粉や膨張剤(ベーキングパウダーなど)、澱粉等を配合し、その他、一般にケーキドーナツの生地に使用されているその他の原材料を配合することができる。例えば、水、糖、糖アルコール、卵、卵加工品、食塩、乳化剤、全脂粉乳、脱脂粉乳、牛乳、濃縮乳、合成乳、発酵乳、生クリーム、ヨーグルト、油脂類(ショートニング、マーガリンなど)、着色料、フレーバー等が挙げられる。
これらの原材料を配合して常法に従って混合し、この生地を成型してそのままあるいは成型後に冷凍保存した後に加熱調理に供するか、又は生地にフィリングを包み込んで、フライヤー等の油槽内の本発明の加熱調理用油脂組成物に投入し、常法に従ってフライし膨張剤で生地を膨化させる。ケーキドーナツの揚げ温度は一般に170〜190℃である。
揚げパイ類としては、肉類、魚介類、卵、野菜類等の具材をパイ生地で包んだものをフライしたものが挙げられる。例えば、リンゴから作製されたペーストをパイ生地に包んだアップルパイをフライしたもの、カスタードクリームをパイ生地で包んだクリームパイをフライしたもの、ミンチ肉を炒めたものをパイ生地で包んだミートパイをフライしたもの等が挙げられる。
揚げ和菓子類としては、揚げ万頭、揚げ大福、かりんとう饅頭、かりんとう、芋けんぴ等が挙げられる。
揚げパン類としては、パン生地を直接揚げて調理した揚げパン、コッペパン等の焼いたパンを揚げたものに砂糖などで味付けした菓子パン、砂糖やシナモンをまぶして食べるチュロス、カレーパン、ピロシキ、揚げ中華まん、花巻揚げパン等が挙げられる。
揚げパン類の生地の原材料としては、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉など)等の穀粉を配合し、その他、一般に揚げパン類の生地に使用されているその他の原材料を配合することができる。例えば、水、糖、糖アルコール、卵、卵加工品、澱粉、食塩、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、チーズ、ホエイ、生クリーム、合成クリーム、ヨーグルト、全脂粉乳、脱脂粉乳、牛乳、濃縮乳、合成乳、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、油脂類(ショートニング、マーガリンなど)、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバー等が挙げられる。これらの原材料を用いて揚げパン類を製造する際には、直捏法、中種法、液種法、老麺法、湯種法等によりパン生地を調製し、これを所望する揚げパン類の形状に成型する。
その他、揚げ物の加熱調理食品としては特に限定されるものではなく、具材として野菜類、果物類、肉類、魚介類、乳製品、及びこれらの加工調理品、冷凍品等を用いた、揚げ種にバッターやブレッダー、パン粉をつけて油ちょうする衣揚げ、揚げ種に衣をつけずにそのまま油ちょうする素揚げ等に使用できる。このような加熱調理食品としては、例えば、フライ(トンカツ等のカツ類、コロッケ類、エビフライ等)、天ぷら、唐揚げ、素揚げ、揚げぎょうざや春巻き等の包み揚げ類、フリッター、フライドポテト、フライドチキン等が挙げられる。
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、表1及び表2における各原料の配合量は質量部を示す。
1.測定方法
各油脂のヨウ素価は基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1−2013ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」で測定した。
油脂における2飽和トリグリセリド及び3飽和トリグリセリドの合計含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
油脂における対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)により求めたSUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドの質量より算出した。
油脂における全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法」)により測定した。
2.加熱調理用油脂組成物の製造
表1及び表2に示す配合比にて各原料油脂をタンク内で混合し、プロペラ撹拌機で撹拌しながら75℃に調温後、乳化剤を添加し、均一に分散し溶解させた混合物をパーフェクターで25℃/分の条件により急冷捏和して加熱調理用油脂組成物を得た。
(エステル交換油脂1、2)
エステル交換油脂1は次の方法で製造した。パーム核極度硬化油20質量%、パーム油60質量%、パーム油極度硬化油20質量%を混合し、触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭し、エステル交換油脂1を得た。エステル交換油脂1のSUS含有量は12.1質量%、SSU含有量は24.2質量%、ヨウ素価33であった。
エステル交換油脂2は次の方法で製造した。パーム分別軟質油(ヨウ素価56)に触媒としてナトリウムメチラートを添加し、減圧下でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗、脱水、脱色、脱臭し、エステル交換油脂2を得た。エステル交換油脂2のSUS含有量は11.1質量%、SSU含有量は22.3質量%であった。
(ソルビタン脂肪酸エステル1〜3)
加熱調理用油脂組成物に添加したソルビタン脂肪酸エステル1〜3は市販品を用いた。その詳細は表3に示すとおりである。
ソルビタン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度(℃)の変化量は、以下のようにして測定した。まず、パーム油(ヨウ素価53)100質量部にソルビタン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、それを測定用のアルミニウムパンに3.5mg量り、更にサンプルを何も入れない空パン(リファレンス)を用いて、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)で以下の条件で固化開始温度を測定した。
次に、同様にして、ソルビタン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度を測定した。
ソルビタン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度とソルビタン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度の差((ソルビタン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度)−(パーム油の固化開始温度))を、パーム油の固化開始温度(℃)の変化量とした。
<測定条件>
示差走査熱量計のセル内の温度を80℃まで昇温し、5分間保持し、完全にサンプルを溶解させた。その後、毎分10℃(10℃/min.)で80℃から−40℃まで降温させ、その過程における固化開始温度(発熱ピークにおける発熱開始温度)を測定した。固化開始温度は、ベースラインとピークとの接線における交点とした。
更に、実施例1、比較例1の油脂組成物を80℃で溶解後、20℃で72時間放置した徐冷後の様子を顕微鏡で観察した。その結果の顕微鏡写真を図1、図2に示す。
図1では、油脂の白い結晶部分と黒い非結晶部分(液状部分)がはっきりと分かれた海島構造様となった。図2では、細かい結晶が析出していた。これらの結果から、パーム油の固化開始温度の変化量が1.0℃未満であり、かつ全構成脂肪酸中の80質量%以上がパルミチン酸であるソルビタン脂肪酸エステルを使用することで、油脂結晶の析出を遅延させて、非結晶状態を維持できることがわかった。また図1にように非結晶部分が多いと、加熱調理した食品を喫食したときに、硬い結晶部分を感じることが少ないため、ソフトでジューシーな食感が得られると考えられる。一方、図2のように結晶部分が多いと、加熱調理した食品を喫食したときに、硬い結晶部を感じ、ソフトでジューシーな食感を得ることができないと考えられる。
3.評価
実施例1〜9及び比較例1〜4の油脂組成物について、次の評価を行った。各評価結果を表4及び表5に示す。
[CDM試験(Conductometric Determination Method:ランシマット法]
基準油脂分析試験法 2.5.1.2(日本油化学会編)によりCDM値を求め、以下基準で評価した。具体的には、120℃に加熱した油脂に空気を吹き込み、酸化により生成した揮発性分解物を水中に捕集し、水の導電率が急激に変化する変曲点までの時間(hr)を調べた。CDM値が高いほど油脂の酸化安定性が高いことを示す。
(ケーキドーナツの作製)
次の手順でケーキドーナツを作製した。
[1] 下記配合のショートニング、全卵、水を除くすべての原料を均一に篩っておく。
[2] 篩った原材料をミキサーボールに入れ全卵と水を加えビータで低速30秒、中低速1分ミキシングする。
[3] ショートニングを加え低速30秒、中低速2分ミキシングする。
[4] 出来た生地を、麺棒で1cm厚に延ばしドーナツ型で型抜きし、ドーナツフライテストに供した。
ドーナツフライテストは、各油脂組成物を電気フライヤーに7000g採取し、油温180℃でコントロールし、ケーキドーナツ生地を投入後、片面90秒、さらに反転して90秒フライした。
〈ケーキドーナツの配合〉
薄力粉 1000質量部
砂 糖 400質量部
食 塩 15質量部
ショートニング※1 100質量部
全卵(正味) 220質量部
ベーキングパウダー 30質量部
水 280質量部
※1 ショートニング:ミヨシ油脂製「ショートニングAVS」
[ソフトさ]
フライしたケーキドーナツを25℃に調温した恒温器内に保管し、24時間後のソフトさをパネル10名により次の基準で評価した。
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が、ソフトであると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、ソフトであると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、ソフトであると評価した。
×:パネル10名中、ソフトであると評価したのは2名以下であった。
[ジューシーさ]
フライしたケーキドーナツを25℃に調温した恒温器内に保管し、24時間後のジューシーさをパネル10名により次の基準で評価した。
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が、ジューシーであると評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、ジューシーであると評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、ジューシーであると評価した。
×:パネル10名中、ジューシーであると評価したのは2名以下であった。
[ベタツキ]
25℃に調温した恒温器内で24時間保管したドーナツについて、表面のベタツキを次の基準で評価した。
評価基準
◎:まったくベタツキがない。
○:わずかにベタツキを感じる。
△:ベタツキを感じる。
×:非常にベタツキを感じる。
[口溶け]
フライしたケーキドーナツを25℃に調温した恒温器内に保管し、24時間後の口溶けをパネル10名により次の基準で評価した。
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が、口溶けが良いと評価した。
○:パネル10名中5〜7名が、口溶けが良いと評価した。
△:パネル10名中3〜4名が、口溶けが良いと評価した。
×:パネル10名中、口溶けが良いと評価したのは2名以下であった。

Claims (5)

  1. 2飽和及び3飽和トリグリセリドの含有量が20〜70質量%である油脂と、パーム油の固化開始温度の変化量が0℃以下であり、かつ全構成脂肪酸中の80質量%以上がパルミチン酸であるソルビタン脂肪酸エステルとを含有する加熱調理用油脂組成物。
  2. 前記油脂は、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.1〜5.0である請求項1に記載の加熱調理用油脂組成物。
  3. 前記油脂は、3飽和トリグリセリドの含有量が30質量%以上である油脂を含有する請求項1又は2に記載の加熱調理用油脂組成物。
  4. 前記油脂は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が0.5〜12質量%である請求項1から3のいずれかに記載の加熱調理用油脂組成物。
  5. 前記油脂は、パーム系油脂およびパーム系油脂を原料に含むエステル交換油脂から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の加熱調理用油脂組成物。
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