しかしながら、特許文献1の技術では、被転写素材に転写するカラー画像を印刷するのにあたり、汎用性の高い市販の普通紙が使用できず、専用の第1転写用紙を用いる必要があるため、この技術はコスト高である。加えて、木材等のように、表面に比較的大きな凹凸のある材質で形成した鉢ケースに、特許文献1の転写技術で図柄を描写すると、画像インクが適切な状態で付着できない虞や、ケースに転写した図柄に歪みが生じてしまう虞がある。
また、パーソナル・コンピュータ(通称「パソコン」)やこれに接続するプリンタが、広く普及している今日では、好みの図柄が、パソコンからプリンタに自由に出力して印刷できるため、鉢ケースを販売する店頭で、好みの図柄を描写した木製のオリジナル鉢ケースを、簡単かつ安価に創作できるよう、その技術開発が、観葉植物の愛好家から強く望まれていた。特許文献1の技術では、インクジェットプリンタにより第1転写用紙に印刷されるカラー画像は、美しく鮮明な画質であるが、その画質状態が維持されたまま、このカラー画像は、被転写素材に移動して描写されてしまう。そのため、前述した愛好家の要望を満たすのに、特許文献1の技術では、例えば、おぼろげな画質、セピア調の画質、アンティーク調の画質等のような、温かみのある視覚を与える表現で図柄を、凹凸の大きい木製の鉢ケースに描写することは、技術的に困難を伴う。他方、おぼろげな画質、セピア調の画質、アンティーク調等の図柄が、シールの貼付やペイントにより、凹凸の大きいケース表面に描写されていても、温かみのある手触り感と視覚は人に伝わり難い。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、比較的大きな凹凸を有する面形状の被転写物に、印刷対象物を転写して描写する場合でも、紙に印刷された好みの印刷対象物を、安価かつ簡単に、風合いを持たせて被転写物に転写することができる印刷対象物転写方法、及びこのような印刷対象物が転写された転写印刷対象物付き装飾物を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、入力側基材として紙材の表面上に、プリンタにより印刷された印刷対象物を、該印刷対象物の出力先である被転写物の表面に重ね合わせて転写する印刷対象物転写方法において、前記入力側基材は、水溶性糊が乾燥した糊硬化層を前記紙材の表面に積層したものであり、前記印刷対象物は、前記糊硬化層の外側表面上に印刷されていること、前記印刷対象物をなす色剤が、前記糊硬化層に対し、滲まない性状であること、前記色剤を吸着可能とする接着剤が前記被転写物の表面に塗布され、前記印刷対象物を、前記接着剤による接着層の外側表面に重ね合わせて密着させること、前記印刷対象物の密着後、水の浸透により前記糊硬化層が軟化した剥離層を形成し、前記剥離層と前記接着層との間で、前記紙材を剥離すること、前記剥離層にある前記印刷対象物の前記色剤が、前記接着層による接着力により、前記剥離層から前記接着層に吸着されて転写されること、を特徴とする。
この態様によれば、被転写物の表面が、触感で、比較的ざらついていると判る程度に凹凸を有した面形状や、曲面、角部、R形状のコーナー部等の面形状であっても、専用設備を必要とせず、接着層の厚みを制御するだけで、印刷対象物を転写した転写対象物が、この被転写物の表面全体に亘り歪まずに、色剤が斑なく付着した状態で、描写できる。特に、この転写対象物の元となる印刷対象物が、例えば、雪等の結晶、装飾した文字、幾何学的模様や図柄等のほか、特に浮世絵や枯山水等の日本画であっても、被転写物の表面に描写される転写対象物は、シール貼付やペイントによる描写方法と異なり、おぼろげな画質、セピア調の画質、アンティーク調等、風合いのある高い画質で表現でき、それを見る人に温かみのある視覚を与える。また、前述した観葉植物の愛好家等の人による好みの印刷対象物を、パーソナル・コンピュータのほか、タブレット端末、スマートフォン等の携帯端末から自由に出力し、プリンタで印刷できるため、好みの印刷対象物を元に転写対象物を描写したオリジナルの被転写物が、当該被転写物を販売する店頭等で、簡単かつ安価に創作できる。
上記の態様においては、前記色剤は、顔料インクであること、が好ましい。
この態様によれば、顔料インクによる糊硬化層への浸透性が比較的小さく、顔料インクは、糊硬化層の外側表面上に付着した状態を維持し易い。そのため、剥離層にある印刷対象物の色剤が、剥離層から接着層に吸着され易くなり、転写対象物が、高い仕上がり精度で形成できる。
上記の態様においては、前記紙材は、普通紙または和紙であること、が好ましい。
この態様によれば、普通紙は特に、安価であり、入手も容易である。そのため、被転写物の表面に転写対象物を描写するのに必要なコストが抑制できる。また、例えば、厚み0.08〜0.10mm程度の普通紙や、厚み0.10〜0.15mm程度等の和紙は、自在に折り曲げできる屈曲性に優れており、印刷対象物の転写先である被転写物の表面が、曲面のほか、角部、R形状のコーナー部等であっても、普通紙や和紙は、被転写物の表面形状に沿ってぴったりと曲げられる。これにより、印刷対象物が、欠落なく被転写物の表面に転写でき、転写された転写対象物の仕上がり精度が高くなる。
上記の態様においては、前記水溶性糊は、澱粉糊であること、が好ましい。
この態様によれば、紙材との接着状態が、澱粉糊に有する接着力によって得られる。また、色剤が、紙材に色剤で直接印刷を行った場合の画質とほとんど見劣りなく、澱粉糊の乾燥により得られた糊硬化層上に、滲まずに付着できる。また、水により、糊硬化層に湿り気を与えれば、剥離層が簡単に生成され、紙材の剥離が容易にできる。
上記の態様においては、前記接着剤は、少なくとも酢酸ビニル樹脂エマルジョン系、アクリル樹脂エマルジョン系、ポリビニルアルコール系、またはα‐オレフィン系のいずれかの有機系に属する木工用接着剤であること、が好ましい。
この態様によれば、木工用接着剤は、安価であり、入手も容易である。また、木工用接着剤の取扱いが簡単である。また、木工用接着剤は、速乾性ではなく、塗布直後に急激に大きな接着力を有しない特性とした上で、木工用接着剤による接着層の接着力は、塗布後の時間の経過と共に、糊硬化層(澱粉糊)の接着力との相対的な差(絶対値)を徐々に小さくしながら増大する。そのため、糊硬化層上に付着した色剤を吸着し易い状態下にすることができる。これにより、印刷対象物を元に転写された転写対象物が、例えば、雪等の結晶、装飾した文字、幾何学的模様や図柄等のほか、特に浮世絵や枯山水等の日本画の場合、転写対象物は、おぼろげな画質、セピア調の画質、アンティーク調等、風合いのある高い画質で表現でき、それを見る人に温かみのある視覚を与える。
上記の態様においては、前記剥離層の形成にあたり、水の浸透を促す界面活性剤が、用いられること、が好ましい。
この態様によれば、剥離層の生成に要する時間が、水だけを用いた場合に比して、短くできる。特に、水だけで剥離層を生成しようとすると、水が接着層に触れている時間が、界面活性剤を併用する場合に比べて、長くなり、接着層をなす接着剤と、滴下した水とが溶解してしまうことがある。このような場合、接着層に十分な接着力を有したジェル状の剥離層が得られ難い。そのため、紙材の剥離を行っても、接着層の接着力を十分に確保できていないことに起因して、色剤が、印刷対象物から転写対象物に移動できず、転写対象物に色剤の欠けが発生することがある。これに対し、水と併用して界面活性剤を用いると、水が接着層に触れている時間がより短くできることから、滴下した水等により接着層が溶解してしまう前に、接着層に十分な接着力を有したジェル状の剥離層が得られ易くなる。そのため、紙材の剥離を行っても、色剤が、印刷対象物から転写対象物に万遍なく移動して、転写対象物で色剤の欠けの発生を抑止することができる。
上記の態様においては、前記プリンタは、インクジェットプリンタであること、が好ましい。
この態様によれば、インクジェットプリンタは、一般向けに市販されているインクジェットプリンタでもよく、市販品のインクジェットプリンタは特に、入手も容易であり、専用のプリンタ装置を用いる場合に比べて安価である。
上記の態様における転写印刷対象物付き装飾物は、本発明の前記一態様における印刷対象物転写方法により、前記印刷対象物が、外部から視認可能な位置にある前記被転写物の表面に描写されていること、前記被転写物は、インテリアとして配置される装飾物であること、が好ましい。
この態様によれば、例えば、サボテンや多肉植物、ポトス等の観葉植物が、装飾物に収納されて室内に配置されると、観葉植物により、人を和ます寛ぎ空間を演出する等の特有な効果がある。そのほかに、この装飾物に、印刷対象物を元に転写した転写対象物を表現することにより、観葉植物の愛好家等の人による趣向が反映され、観葉植物全体が、オリジナリティに富んだ置物となる。また、装飾物の付加価値が高まる。
上記の態様においては、前記装飾物は、木、樹脂、あるいは木粉と樹脂との混合材のいずれかの材料からなること、が好ましい。
この態様によれば、このような材料からなる装飾物で、従来の印刷対象物転写方法では描写できなかった、比較的大きな凹凸を有した装飾物にも、印刷対象物の転写による転写対象物が描写できる。また、印刷対象物の転写先である装飾物の表面が、曲面のほか、角部、R形状のコーナー部等でも、専用設備を必要とせず、接着層の厚みを制御するだけで、印刷対象物の転写による転写対象物が簡単に描写できる。そのため、転写対象物を描写した装飾物は、より付加価値を高めた製品となり得る。
上記の態様においては、前記装飾物は、前記混合材を射出成形してなること、が好ましい。
この態様によれば、装飾物は、割れ難く、軽量な一体成形品で形成できる上に、木から醸し出される独特の温かみを具備した製品となる。特に、装飾物が、射出成形により曲面やR形状のコーナー部を有した形状に形成されていると、混合材の木粉から伝わる木の持つ温もりと共に、丸みを帯びた装飾物本体そのものが、独特の温かみのあるデザインに仕上がるため、転写対象物を描写した装飾物は、より付加価値の高い製品となり得る。
上記の態様においては、前記混合材には、前記木粉が重量混合率50%以上の配合比で含まれていること、が好ましい。
この態様によれば、混合材は、容器リサイクル法等に基づき、「木材」と認定される材質となり得る。また、木粉が、混合材からなる装飾物全体の表面に表れるため、木の持つ風合いに似た様相で装飾物を形成することができる。加えて、混合材からなる装飾物が、使用済み樹脂製品の樹脂再利用や、間伐材、廃材等の有効利用に基づいて、製造される場合には、この装飾物の販売により、限りある資源を有効に活用することができると共に、産業の発展に貢献することができる。
上記の態様においては、前記装飾物は、植木鉢、または植物を植えた植木鉢を入れる鉢ポットであること、が好ましい。
この態様によれば、サボテンや多肉植物、ポトス等の観葉植物を植えた植木鉢が、そのまま、あるいは鉢ポットに収納されて室内に配置されると、観葉植物により、人を和ます寛ぎ空間を演出する等の特有な効果がある。このほか、この植木鉢のカバーである鉢ポットに、印刷対象物を元に転写した転写対象物を表現することにより、観葉植物の愛好家の趣向が反映され、観葉植物全体が、オリジナリティに富んだ置物となり、高い付加価値を有する。特に転写対象物が、例えば、雪等の結晶、装飾した文字、幾何学的模様や図柄等のほか、特に浮世絵や枯山水等の日本画で、おぼろげな画質、セピア調の画質、アンティーク調等、風合いのある高い画質で表現できていれば、それを見る人に温かみのある視覚と触感を与え、その人を和ます。
本発明に係る印刷対象物転写方法、及び転写印刷対象物付き装飾物によれば、比較的大きな凹凸を有する面形状の被転写物に、印刷対象物を転写して描写する場合でも、紙に印刷された好みの印刷対象物を、安価かつ簡単に、風合いを持たせて被転写物に転写することができる。
(実施形態)
以下、本発明に係る印刷対象物転写方法、及び転写印刷対象物付き装飾物について説明する。転写印刷対象物付き装飾物は、インテリアとして配置される装飾物であり、本実施形態では、植物を植えた植木鉢を入れる鉢ポットである。図1は、実施形態に係る印刷対象物転写方法で転写図柄を描写した植木鉢ポットの正面図である。図4は、本実施形態の印刷対象物転写方法のうち、印刷工程で転写用紙に印刷した図柄を示す説明図である。
はじめに、鉢ポット2(本発明の装飾物、被転写物に対応)に説明する。鉢ポット2は、外形が略直方体形状で、側部同士の縁と、側部と底部との縁をそれぞれ、R形状に形成した植木鉢1のカバー部材である。この鉢ポット2は、植木鉢1を内部空間3に収納するための出入口となる開口部を上方に有している。植木鉢1は、当該植木鉢1上端の外縁にあるR形状の鍔部を鉢ポット2の上端部に載置することにより、鉢ポット2と一体化して配置できる。
植木鉢1と鉢ポット2は何れも、添加剤と共に、木粉7A(図1では、細かいドットで図示)と樹脂7B(図1では、木粉7Aのドットがない部分)とを所定の方法で混ぜ合わせた混合材7を、射出成形してなる。この植木鉢1と鉢ポット2では、表面が、例えば、十点平均粗さRzが12.5z〜400zに相当する面粗度等、触感で、比較的ざらついていると判る程度に凹凸を有した面形状となっている。
木粉7Aは、例えば、間伐材や廃材等の木材を、リサイクル使用する目的で、米粒程度の大きさに細かく砕いたものである。樹脂7Bは、例えば、ポリエチレン(PE; polyethylene)、ポリプロピレン(PP; polypropylene)、ポリスチレン(PS; polystyrene)等、主に熱可塑性樹脂である。混合材7には、木粉7Aが、樹脂7Bとの配合比で、重量混合率50%以上含まれている。すなわち、混合材7は、容器リサイクル法等に基づき、「木材」と認定される材質となっている。
鉢ポット2には、画像が、外部から視認可能な位置にある外面2a(本発明の被転写物の表面に対応)に描写されている。この画像は、次述する本実施形態の印刷対象物転写方法により、図4に示すように、予めプリンタで印刷した図柄20(本発明の印刷対象物に対応)を転写した転写図柄5である。
なお、本発明の装飾物、被転写物を、混合材7からなる鉢ポット2としたが、本発明の装飾物、被転写物は、鉢ポット2に限定されるものではなく、印刷対象物を転写した被印刷対象物が描写されたものであれば、何でも良い。また、装飾物、被転写物を構成する材質を、木粉7Aと樹脂7Bとの混合材7としたが、木材、樹脂等の材質でも良い。
次に、本実施形態の印刷対象物転写方法について、図2〜図7を用いて説明する。本実施形態の印刷対象物転写方法は、入力側基材である転写用紙10の普通紙11(本発明の紙材に対応)の上面11a上に、インクジェットプリンタ(図示省略)により印刷された図柄20を、この図柄20の出力先である鉢ポット2の外面2aに重ね合わせて転写する方法である。この印刷対象物転写方法は、大別して、転写用紙作成工程、印刷工程、接着材塗布工程、重合転写工程、剥離工程、及び乾燥工程の6工程からなり、この順で実施される。
はじめに、転写用紙作成工程について、図2を用いて説明する。図2は、実施形態に係る印刷対象物転写方法の転写用紙作成工程の工程図である。転写用紙作成工程は、図柄20を印刷する転写用紙10を作成する工程である。転写用紙10は、本実施形態では、普通紙11と、糊硬化層15と、コーティング剤硬化層17と、を積層してなる。糊硬化層15は、普通紙11の上面11aに塗布した澱粉糊13(本発明の水溶性糊に対応)を乾燥させてなる。コーティング剤硬化層17は、糊硬化層15の外側表面15aに塗布したコーティング剤を乾させてなる。図柄20は、糊硬化層15の外側表面15a上に印刷される。
具体的に説明する。普通紙11は、一般に市販されているコピー用紙等の紙材である(図2(a))。この普通紙11の片面である上面11aに、澱粉糊13を、例えば、刷毛、ヘラ、スクレーパ、またはこのような道具を具備した専用装置等により、均一な厚みで塗布する(図2(b))。澱粉糊13の塗布量は、例えば、3.0g/10cm2等を目安とする。塗布量がこの目安値より多いと、後述するように、インクジェットプリンタで図柄20を印刷するときに、プリンタの故障の原因になるほか、転写用紙10が印刷時に、プリンタ内の送出経路をスムースに移動できない等の虞がある。また、塗布量がこの目安値より少ないと、図柄20を構成する顔料インク31が、転写用紙10の糊硬化層15に、適切な状態で付かず、普通紙11への浸透等に起因して、印刷された図柄20の画質が悪化するほか、転写用紙10の剥離時に、普通紙11の上面11aが、木工用接着剤32による接着層33に付いてしまい、転写図柄5が得られない。
次に、澱粉糊13と、この澱粉糊13の塗布により湿った状態になった普通紙11を乾燥する。これにより、澱粉糊13が乾燥した糊硬化層15が形成され、普通紙11の上面11aに積層される(図2(c))。澱粉糊13は、水溶性であり、水に、比較的短時間で溶解し易い性質である。糊硬化層15は、この性質を利用して形成されるものであり、後述するように、水及び剥離剤を糊硬化層15に浸透させることで、転写用紙10において、糊硬化層15の外側表面15a上に積層された顔料インク31による画像層と、普通紙11とを、剥離し易くするのに設けられる。
次に、本実施形態では、コーティング剤を糊硬化層15の外側表面15aに塗布し、乾燥させてコーティング剤硬化層17を形成する(図2(d))。コーティング剤は、例えば、ミョウバンや膠(ゼラチン)等のドーサ液のほか、水溶性ニス等のアクリル樹脂溶液等である。コーティング剤の塗布量は、例えば、0.6g/10cm2等を目安とする。コーティング剤を塗布すると、図柄20を構成する顔料インク31が、糊硬化層15の外側表面15a上に、滲みなく、安定した状態でしっかりと付着できる。これにより、光沢のある図柄20が得られて、図柄20の仕上がり精度が向上する。なお、コーティング剤を塗布する場合、コーティング剤を普通紙11の上面11aに塗布し、このコーティング剤の上面に糊硬化層15を形成しても良い。この場合には、糊硬化層15の外側表面15aに、図柄20を印刷する。
また、糊硬化層15が澱粉糊13で形成されている場合、転写用紙10の剥離時に、糊硬化層15の大半が、接着層33との癒着により、この接着層33側に残ってしまい、癒着した糊硬化層15によって、転写図柄5の画質が低下してしまうこともある。このような事態を避けるため、コーティング剤硬化層17が、糊硬化層15の外側表面15a上に形成され、糊硬化層15の外側表面15a上に印刷された図柄20の顔料インク31が主として接着層33に転写されるよう、この顔料インク31をしっかりと保持している。
また、糊硬化層15の外側表面15aでは、凹凸が比較的大きくなるため、コーティング剤の塗布により、外側表面15a上をより平坦に調整することができ、顔料インク31が定着し易くなる。なお、コーティング剤の塗布を特に行わなくても、本実施形態の印刷対象物転写方法により、図柄20に基づいて転写された転写図柄5を、鉢ポット2の外面2aに高い仕上がり精度で描写することはできるが、コーティング剤を使用すると、この転写図柄5が、より高い仕上がり精度で得られる。
転写用紙作成工程では、澱粉糊13の塗布とコーティング剤の塗布により、その湿り気で普通紙11に皺が生じ易くなるため、皺取りを適宜行って、普通紙11を平坦に維持しておくことが重要である。また、本実施形態では、紙材を普通紙11としたが、普通紙11のほか、和紙や、例えば、紙粉が比較的少ない性状や、紙繊維が比較的強い性状の紙を、紙材としても良い。このような性質の紙材を使うと、本実施形態の印刷対象物転写方法の剥離工程で、転写図柄5の剥離を効率良く行うことができ、転写図柄5の仕上がり精度が高くなる。
次に、印刷工程について、図3を用いて説明する。図3は、実施形態に係る印刷対象物転写方法の印刷工程の工程図である。印刷工程は、好みの図柄20を、転写用紙10の糊硬化層15の外側表面15aに印刷する工程である。図4には、図柄20として、便宜上、花が図示されているが、図柄20は、例えば、浮世絵や枯山水等の日本画、雪等の結晶、装飾した文字、幾何学的模様や図柄等のような、意匠上、特徴のある図柄や模様、文字、写真等の画像である。転写図柄5と図柄20との向きは、幾何学的に180度反転した位置関係になることから、転写図柄5の向きを「正」とするためには、印刷工程では、転写図柄5の向きを反転した向きの図柄20を転写用紙10に印刷する。
図柄20は、一般家庭等向けとして市販されているプリンタで、油性の顔料インク31を色剤とするインクジェットプリンタにより、転写用紙10の糊硬化層15の外側表面15a上(コーティング剤硬化層17の表面)に印刷される(図3(e))。顔料インク31は、糊硬化層15やコーティング剤硬化層17に対し、滲まない性状であり、印刷された図柄20は、通常普通紙11に直接印刷する場合との対比で、ほとんど見劣りない画質(図4では、高画質であることを細かなドットで表示)である。転写用紙10に印刷後、図柄20周囲にある不要部分が切り取られ、転写元の図柄20の大きさを、描写する転写図柄5の大きさに合わせる。
次に、接着材塗布工程について、図5を用いて説明する。図5は、接着材塗布工程の工程図である。接着材塗布工程は、鉢ポット2の外面2aにおける転写図柄5の描写位置に、図柄20をなす顔料インク31が吸着可能な接着剤を、塗布する工程である。接着剤は、当該接着剤に有する接着力により、糊硬化層15の外側表面15a上(コーティング剤硬化層17、またはこの硬化層17を設けない場合には外側表面15a)に付着した顔料インク31を接着させ、糊硬化層15の外側表面15aから引き離して吸着させるために塗布される。
具体的には、接着剤は、例えば、水溶性グルー、水溶性メディウム等の水溶性接着剤であり、本実施形態では、木材同士を接着するのに用いる市販の接着剤で、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンタイプの木工用接着剤32である。この木工用接着剤32は、塗布直後に急激に大きな接着力を有しない特性である。また、木工用接着剤32が乾燥すると、硬化したその木工用接着剤32(接着層33)は無色透明である。なお、使用可能な木工用接着剤32の中には、その種類によって、比較的大きな接着力を有した接着剤があるため、このような接着剤を使用する場合には、木工用接着剤32との混合比で、水を数〜数十%(重量混合率)だけ混ぜて、木工用接着剤32を希釈しても良い。
接着材塗布工程ではまず、外面2aの転写図柄5の描写位置に付着した汚れや埃、鉢ポット2の外面2a上にある素材のカエリ等の異物が取り除かれる(図5(f))。この後、木工用接着剤32が、鉢ポット2の外面2aに、例えば、刷毛、ヘラ、スクレーパ、またはこのような道具を具備した専用装置等により、均一な厚みで塗布される(図5(g))。
木工用接着剤32の塗布量は、その種類にも依るが、例えば、1.2g/10cm2等を目安とする。塗布量がこの目安値より多いと、転写用紙10の剥離時に、普通紙11が、木工用接着剤32による接着層33に付いてしまい、転写図柄5が適切な状態で得られない。また、木工用接着剤32(転写図柄5)の乾燥時間も長くなる。加えて、木工用接着剤32の乾燥後、鉢ポット2の外面2aにおいて、転写図柄5とその周囲との間で顕著な段差が生じてしまい、鉢ポット2の美観が損なわれてしまう。他方、混合材7や木材等の材料の表面粗度は、比較的粗いため、塗布量がこの目安値より少ないと、転写図柄5の描写位置において、塗布した木工用接着剤32が、鉢ポット2の外面2aを完全に被覆することができず、図柄20を構成する顔料インク31が、鉢ポット2の外面2a側に適切に転写できない。
次に、重合転写工程について、図6を用いて説明する。図6は、実施形態に係る印刷対象物転写方法の重合転写工程の工程図である。重合転写工程は、接着材塗布工程において、木工用接着剤32を塗布して形成された接着層33の外側表面33aに、印刷工程で転写用紙10に印刷した図柄20を重ね合わせて密着させ、この外側表面33aに図柄20を転写する工程である。具体的には、塗布した木工用接着剤32を平坦状に引き伸ばした直後に、周囲の不要部分を取り除いた状態の図柄20が、木工用接着剤32による接着層33の外側表面33aに貼付される(図6(h))。
図柄20の貼付後、この状態で接着層33の乾燥を行う。乾燥は、自然乾燥、または熱風乾燥装置等を用いた強制乾燥のどちらでも良い。但し、乾燥装置を用いた場合、接着層33やこの接着層33に付着した顔料インク31に、熱が局部的に伝わらないよう、接着層33を乾燥させる。特に、転写図柄5を形成する顔料インク31に、加熱による変質を避け、顔料インク31を、より均一な状態で接着層33に定着させる。接着層33は、当該接着層33が完全に硬化した「湿り気なし」の状態まで、乾燥を行う必要はなく、例えば、完全に硬化した状態に有する当該接着層33の接着力に対し、その概ね60〜80%の接着力を生じ得た程度等まで、乾燥されていれば良い。接着層33が、完全に硬化した状態になるまで乾燥されていると、例えば、浮世絵や枯山水等の日本画等のように、図柄20より淡い色調の転写図柄5が得られないからである。
接着層33の乾燥を行った後、水と剥離剤を、転写用紙10の普通紙11に滴下して染み込ませ、糊硬化層15を通じてコーティング剤硬化層17まで浸透させて、糊硬化層15とコーティング剤硬化層17を湿らせる(図6(i))。これにより、糊硬化層15が軟化して糊軟化層15Xとなると共に、コーティング剤硬化層17が軟化してコーティング剤軟化層17Xとなり、糊軟化層15Xとコーティング剤軟化層17Xとからなる剥離層19が、生成される(図6(j))。剥離剤は、例えば、ノニオン系界面活性剤等の界面活性剤水溶液であり、この剥離層19の形成にあたり、水の浸透を促すために補助的に用いられる。なお、剥離剤を使用しなくても、剥離層19を生成することはできるが、剥離層19の生成時間が、より長くなる。
次に、剥離工程について、図7及び図8を用いて説明する。図7は、剥離工程の工程図である。図8は、実施形態に係る印刷対象物転写方法において、澱粉糊による接着力と、木工用接着剤による接着力とについて、接着後の経過時間との関係を示したグラフである。
剥離層19が十分に湿った状態になったら、剥離工程が行われる。剥離工程は、重合転写工程で用いた剥離剤と水(図示省略)により、転写用紙10と接着層33を湿らせながら、剥離層19と接着層33との間を境に、転写用紙10を接着層33からゆっくりと引き剥がす工程である(図7(k))。剥離工程は、図8に示すように、接着材塗布工程で木工用接着剤32を塗布した後、時間T1(0<T1)が経過した剥離層生成開始時以降、前述したように、木工用接着剤32による接着層33が完全に硬化する前の状態にあるタイミングで、行われる。
すなわち、澱粉糊13の硬化後、糊硬化層15では、普通紙11との接着力は、剥離層生成開始時T1になるまで接着力F1で一定に維持されているが、剥離層生成開始時T1以降、水と剥離剤との浸透により、接着力F1から急激に低下し始め、転写用紙10の剥離完了時に完全に消失する。一方、木工用接着剤32の塗布後、接着層33では、鉢ポット2の外面2aとの接着力は、時間の経過と共に徐々に増加し始めるものの、重合転写工程の剥離層生成開始時T1に、水と剥離剤を浸透させることにより、一旦低下した後、再び徐々に増加する。
しかしながら、重合転写工程の剥離層生成開始時T1の直後まで、糊硬化層15における普通紙11との接着力が、接着層33における鉢ポット2の外面2aとの接着力に比して、大きくなっている状態にある。そして、この剥離層生成開始時T1から時間Δt(0<t)が経過したとき、外面2aとの接着力が、普通紙11との接着力を上回り、普通紙11との接着力の消失後も増加していくタイミングで、剥離工程を行うことが重要である。
剥離工程をこのタイミングで行う理由として、糊硬化層15の外側表面15a上に印刷された図柄20の顔料インク31が、糊硬化層15の接着力によりこの糊硬化層15に保持された状態にあるものの、時間(T1+Δt)以降になると、接着層33の接着力が糊硬化層15の接着力より大きくなる。これにより、接着層33が、その接着力により、糊硬化層15に保持されている図柄20の顔料インク31を、糊硬化層15から離して当該接着層33に引き寄せる。すなわち、図柄20の顔料インク31は、糊硬化層15側から接着層33側に移動し、時間(T1+Δt)以降、次第に増加する接着層33の接着力より、接着層33に定着して保持される。
ここで、接着層33側に移動する顔料インク31について、説明する。図柄20全体をなす顔料インク31全量が、接着層33に引き寄せられれば、得られる転写図柄5もまた、図柄20と同じように、きめ細かで、はっきりとした画質で形成される。一方、時間(T1+Δt)の直後において、接着層33(木工用接着剤32)の接着力と、糊硬化層15(澱粉糊13)の接着力との相対的な差(絶対値)が比較的小さい状態に収まっていれば、接着層33に移動して保持される顔料インク31の量は、図柄20全体をなす顔料インク31全量の一部に過ぎない。その残りの顔料インク31は、転写用紙10の剥離層19に付着したままである。これにより、図柄20を元に転写された転写図柄5が、例えば、雪等の結晶、装飾した文字、幾何学的模様や図柄等のほか、特に浮世絵や枯山水等の日本画の場合、転写図柄5は、おぼろげな画質、セピア調の画質、アンティーク調等、風合いのある高い画質で表現でき、それを見る人に温かみのある視覚と触感を与える。
次に、剥離工程の完了後、乾燥工程が行われる。乾燥工程は、鉢ポット2の外面2aに描写された転写図柄5と、この転写図柄5周囲に残る接着層33を主に、水で洗浄した後に行われる。転写図柄5を形成した鉢ポット2の外面2a上には、重合転写工程で滴下した剥離剤が残っているため、この剥離剤を水で洗い流す。また、接着層33の外側表面33aには、顔料インク31と共に、普通紙11の紙粉や澱粉糊13の成分等の異物が、剥離工程を行うことにより、剥離層19から接着層33に移動してしまうものもあり、接着層33に残るこれらの異物を水で洗い流す。
また、転写図柄5に風合いを持たせて鉢ポット2の外面2aに描写するのにあたり、接着層33の外側表面33aに付着し過ぎた顔料インク31を、適度な付着量に減らすため、水で洗い流すことが必要な場合もある。洗浄後、自然乾燥のほか、顔料インク31や接着層33を変質させないよう、熱風乾燥、遠赤外線乾燥等による乾燥装置で、鉢ポット2の外面2a上の水分を取り除く。かくして、糊硬化層15の外側表面15a上に印刷された図柄20から、その顔料インク31を接着層33に転写して保持されることにより、図1に示すような転写図柄5が得られる。
ここで、図柄20と転写図柄5を対比して、双方の画質を考察する。図9は、鉢ポット表面に描写した転写図柄の断面の様子を拡大して示す模式図である。前述したように、本実施形態では、鉢ポット2は、木粉7Aと樹脂7Bとの混合材7からなり、その外面2aは、図9に示すように、触感でも、比較的ざらついていると判る程度に凹凸を有した面形状となっている。一方、転写用紙10の糊硬化層15の外側表面15a上に印刷された図柄20は、通常普通紙11に直接印刷する場合との比較で、ほとんど見劣りない画質(図4では、高画質であることを細かなドットで表示)を有している。
実施形態に係る印刷対象物転写方法により、転写図柄5を描写した鉢ポット2では、転写図柄5をなす顔料インク31が、主に接着層33内で、外面2aに積層した状態で保持されているが、顔料インク31によるインク層は、外面2aの凹凸形状に起因して、外面2a全体に亘って均等な厚みに形成されていない。具体的には、例えば、図9に示すように、インク層が外面2a上に適度な厚みで形成された第1の部位P1や、外面2aの凸が比較的大きく、インク層が局部的に外面2a上に僅かに形成されていない第2の部位P2がある。また、外面2aの凹みが比較的大きく、インク層がより厚くなった第3の部位P3や、外面2a上にインク層が薄く形成されている第4の部位P4等もある。
このように、顔料インク31によるインク層の厚みが均等でないものの、転写図柄5を構成する顔料インク31は、大きく欠落することなく、一様に外面2aの描写部位上に定着され、図1に示すように、ソフトな画質(図1では、ドット表示を図4より薄くすると共に、白色部分を設けた表示で、図4の画質よりも柔らかさを表現)の転写図柄5が形成される。これにより、転写図柄5が、例えば、雪等の結晶、装飾した文字、幾何学的模様や図柄等のほか、特に浮世絵や枯山水等の日本画でも、鉢ポット2の外面2aに、おぼろげな画質、セピア調の画質、アンティーク調等、風合いのある高い画質で描写でき、転写図柄5は、それを見る人に温かみのある視覚と触感を与える。
次に、実施形態に係る印刷対象物転写方法の作用・効果を説明する。実施形態では、転写用紙10である普通紙11の上面11a上に、インクジェットプリンタにより印刷された図柄20を、この図柄20の出力先である鉢ポット2の外面2aに重ね合わせて転写する印刷対象物転写方法において、転写用紙10は、澱粉糊13が乾燥した糊硬化層15を普通紙11の上面11aに積層したものであり、図柄20は、糊硬化層15の外側表面15aに印刷されている。図柄20をなす色剤(顔料インク31)が、糊硬化層15に対し、滲まない性状である。顔料インク31を吸着可能とする木工用接着剤32が鉢ポット2の外面2aに塗布され、顔料インク31が、木工用接着剤32による接着層33の外側表面33aに重ね合わせて密着される。図柄20の密着後、水と剥離剤の浸透により糊硬化層15を軟化させた剥離層19が形成され、剥離層19と接着層33との間で、転写用紙10の普通紙11を剥離する。剥離層19にある図柄20の顔料インク31が、接着層33による接着力により、剥離層19から接着層33に吸着されて転写される。
これにより、本実施形態で挙げた鉢ポット2のように、その外面2aが、触感で、比較的ざらついていると判る程度に凹凸を有した面形状や、曲面、角部、R形状のコーナー部等の面形状であっても、専用設備を必要とせず、接着層33の厚みを制御するだけで、転写図柄5が、鉢ポット2の外面2aの描写部位全体に亘り歪まずに、顔料インク31が斑なく付着した状態で、描写できる。特に、この転写図柄5の元となる図柄20が、例えば、雪等の結晶、装飾した文字、幾何学的模様や図柄等のほか、特に浮世絵や枯山水等の日本画であっても、鉢ポット2の外面2aに描写される転写図柄5は、シール貼付やペイントによる描写方法と異なり、おぼろげな画質、セピア調の画質、アンティーク調等、風合いのある高い画質で表現でき、それを見る人に温かみのある視覚と触感を与える。また、前述した観葉植物の愛好家等の人による好みの図柄20を、パーソナル・コンピュータ(通称「パソコン」)のほか、タブレット端末、スマートフォン等の携帯端末から自由に出力し、市販のインクジェットプリンタで印刷できるため、好みの図柄20を元に転写図柄5を描写したオリジナルの鉢ポット2が、当該鉢ポット2を販売する店頭等で、簡単かつ安価に創作できる。
従って、本実施形態に係る印刷対象物転写方法によれば、比較的大きな凹凸を有する面形状の鉢ポット2の外面2aに図柄20を転写して描写する場合でも、普通紙11に積層した糊硬化層15の外側表面15aに印刷された好みの図柄20を、安価かつ簡単に、風合いを持たせて鉢ポット2の外面2aに転写することができる、という優れた効果を奏する。
また、色剤は、顔料インク31であるので、顔料インク31による糊硬化層15への浸透性が比較的小さく、顔料インク31は、糊硬化層15の外側表面15a上に付着した状態を維持し易い。そのため、本実施形態に係る印刷対象物転写方法の剥離工程で、剥離層19にある図柄20の顔料インク31が、剥離層19から接着層33に吸着され易くなり、転写図柄5が、高い仕上がり精度で形成できる。
また、紙材は、普通紙11であるので、普通紙11は特に、安価であり、入手も容易である。そのため、鉢ポット2の外面2aに転写図柄5を描写するのに必要なコストが抑制できている。また、例えば、厚み0.08〜0.10mm程度の普通紙11は、自在に折り曲げできる屈曲性に優れており、図柄20の転写先である鉢ポット2の外面2aが、曲面のほか、角部、R形状のコーナー部等であっても、普通紙11は、鉢ポット2の表面形状に沿ってぴったりと曲げられる。これにより、図柄20が、欠落なく鉢ポット2の外面2aに転写でき、転写された転写図柄5の仕上がり精度が高くなる。
また、水溶性糊は、澱粉糊13であるので、転写用紙作成工程では、普通紙11との接着状態が、澱粉糊13に有する接着力によって得られる。また、印刷工程では、顔料インク31が、普通紙11に顔料インク31で印刷を行った場合の画質とほとんど見劣りなく、澱粉糊13の乾燥により得られた糊硬化層15上に、滲まずに付着できる。また、剥離工程では、剥離剤と水により、糊硬化層15に湿り気を与えれば、剥離層19が簡単に生成され、転写用紙10の剥離が容易にできる。
また、接着剤は、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンタイプの木工用接着剤32であるので、安価であり、入手も容易である。また、木工用接着剤32の取扱いが簡単である。また、接着層33に移動した後も、顔料インク31が滲まず接着層33に保持でき、転写図柄5の画質は良好な状態になり易い。木工用接着剤32は、速乾性ではなく、塗布直後に急激に大きな接着力を有しない特性であるため、木工用接着剤32による接着層33の接着力は、塗布後の時間の経過と共に、糊硬化層15(澱粉糊13)の接着力との相対的な差(絶対値)を徐々に小さくしながら増大する。そのため、糊硬化層15上に付着した顔料インク31を吸着し易い状態下にすることができる。
また、剥離層19の形成にあたり、水の浸透を促す界面活性剤が、用いられるので、剥離工程で、剥離層19の生成に要する時間が、水だけを用いた場合に比して、短くできる。特に、水だけで剥離層19を生成しようとすると、水が接着層33に触れている時間が、界面活性剤を併用する場合に比べて、長くなり、接着層33をなす木工用接着剤32と、滴下した水とが溶解してしまうことがある。このような場合、接着層33に十分な接着力を有したジェル状の剥離層19が得られ難い。そのため、剥離工程を行っても、接着層33の接着力を十分に確保できていないことに起因して、顔料インク31が、図柄20から転写図柄5に移動できず、転写図柄5に顔料インク31の欠けが発生することがある。これに対し、水と併用して界面活性剤を用いると、水が接着層33に触れている時間がより短くできることから、滴下した水等により接着層33が溶解してしまう前に、接着層33に十分な接着力を有したジェル状の剥離層19が得られ易くなる。そのため、剥離工程を行っても、顔料インク31が、図柄20から転写図柄5に万遍なく移動して、転写図柄5で顔料インク31欠けの発生を抑止することができる。
また、プリンタは、一般向けに市販されているインクジェットプリンタであるので、入手も容易であり、専用のプリンタ装置を用いる場合に比べて安価である。
また、本実施形態に係る印刷対象物転写方法により、図柄20が、外部から視認可能な位置にある鉢ポット2の外面2aに描写されており、この鉢ポット2は、植物を植えた植木鉢を入れるポットとして、インテリアとして配置される装飾物である。これにより、サボテンや多肉植物、ポトス等の観葉植物を植えた植木鉢1が、鉢ポット2に収納されて室内に配置されると、観葉植物により、人を和ます寛ぎ空間を演出する等の特有な効果がある。そのほかに、この植木鉢1のカバーである鉢ポット2に転写図柄5を表現することにより、観葉植物の愛好家等の趣向が反映され、観葉植物全体が、オリジナリティに富んだ置物となる。また、鉢ポット2の付加価値が高まる。特に転写図柄5が、例えば、雪等の結晶、装飾した文字、幾何学的模様や図柄等のほか、特に浮世絵や枯山水等の日本画で、おぼろげな画質、セピア調の画質、アンティーク調等、風合いのある高い画質で表現できていれば、それを見る人に温かみのある視覚を与え、その人を和ます。
また、鉢ポット2は、木粉7Aと樹脂7Bとの混合材7からなり、射出成形で形成されている。これにより、従来の印刷対象物転写方法では描写できなかった、混合材7からなる装飾物にも、転写図柄5が描写できる。また、図柄20の転写先である鉢ポット2の外面2aが、曲面のほか、角部、R形状のコーナー部等でも、専用設備を必要とせず、接着層33の厚みを制御するだけで、図柄20の転写による転写図柄5が簡単に描写できる。そのため、転写図柄5を描写した鉢ポット2は、より付加価値を高めた製品となり得る。また、鉢ポット2は、割れ難く、軽量な一体成形品で形成できる上に、木から醸し出される独特の温かみを具備した製品となる。特に、植木鉢1と鉢ポット2が、射出成形により曲面やR形状のコーナー部を有した形状に形成されていると、混合材7の木粉7Aから伝わる木の持つ温もりと共に、丸みを帯びた鉢ポット2本体そのものが、独特の温かみのあるデザインに仕上がるため、転写図柄5を描写した鉢ポット2は、より付加価値の高い製品となり得る。
また、混合材7には、木粉7Aが重量混合率50%以上の配合比で含まれているので、混合材7は、容器リサイクル法等に基づき、「木材」と認定される材質となり得る。また、本実施形態に係る印刷対象物転写方法の被転写物(装飾物)が鉢ポット2の場合、木粉7Aが、鉢ポット2全体の表面(外面2aを含む)に表れるため、木の持つ風合いに似た様相で鉢ポット2を形成することができる。また、鉢ポット2は、木と似た風合いを持つため、植木鉢1に植えたサボテンや多肉植物、ポトス等の観葉植物との一体的な演出が可能となり、この観葉植物をより一層映えさせる役割を担うことができる。加えて、使用済み樹脂製品の樹脂再利用や、間伐材や廃材等の有効利用に基づいて、植木鉢1や鉢ポット2が製造される場合には、植木鉢1や鉢ポット2の販売により、限りある資源を有効に活用することができると共に、産業の発展に貢献することができる。
なお、上記した実施の形態は単なる例示に過ぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
(1)例えば、装飾物を鉢ポット2としたが、装飾物は、鉢ポット2のほかにも、植木鉢本体、雑貨品、文具等でも良く、転写印刷対象物付き装飾物は、インテリアとして配置される物であれば、何でも良い。
(2)本実施形態では、図柄20を、油性の顔料インク31を色剤とするインクジェットプリンタを用いて印刷したが、印刷対象物を行うプリンタは、色剤を水性染料インクとするプリンタを除き、例えば、トナーを色剤とするレーザプリンタ等でも良い。
(3)本実施形態では、植木鉢1と鉢ポット2を、射出成形法により構成したが、転写印刷対象物付き装飾物は、射出成形法に限定されるものではなく、例えば、3Dプリンタ(3D; printer)等により成形されたものでも良い。
(4)本実施形態では、接着剤を、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンタイプの木工用接着剤32としたが、接着剤は、例えば、アクリル樹脂エマルジョン系のように、樹脂エマルジョン系水溶性接着剤のほか、ニトリルゴム系の接着剤のように、溶剤系接着剤であっても良い。