JP6570170B2 - 補修壁、補修天井及びコテ仕上げ面体の補修方法 - Google Patents
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Description
中塗り材は、目的に応じて土粒子のサイズや混合する材料を変更して、荒壁、大むら直し壁、小むら直し壁等の複数の層を有する形態で形成されていることがある。
また。明治時代頃から盛んに建築された西洋風建造物では、装飾的な漆喰壁、漆喰天井を有するものが多数あり、これら建造物の歴史的価値、装飾的外観を大きく損なうことなく修復する技術が求められている。
しかしながら、伝統的建物に使用される左官材料の多くは、水硬性材料や気硬性材料であるために、コテ仕上げを用いた修復時に水を一定量使用することが必要であり、施工後の硬化の過程において乾燥することにより修復部分が収縮現象を起こすことがある。その結果、損傷が生じていない部分と接する修復箇所が硬化の過程で収縮現象を起こし、再劣化が別の箇所で生じたり、修復箇所と修復が行なわれていない箇所との壁面としての一体性が保てなかったりする問題があった。
即ち、既述のように部分的な補修が困難であったため、外観を維持するためには、結果的に補修対象である土壁と同類の左官材料を用い、全面の左官材料をはつり,再び土壁と同等の左官材料を下地材に1から塗り直す全面補修となり、多大な時間と費用とを要するものであった。
このため、左官材料等の修復に用いる硬化収縮率の少ない補修材として、セメント、表面がポリビニルアルコールの水溶性保護コロイドで被覆されているアクリル共重合再乳化形樹脂粉末、膨張材及び収縮低減剤を含むセメント組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
コテ仕上げの壁面とは異なり、漆喰天井は補強がより困難であるため、外観上ひび割れを生じた箇所にはモルタル等の充填材を適用するが、崩落が懸念される箇所では、漆喰天井の下部にプレートを貼る等の方法しかなく、外観が著しく損なわれ、且つ、修復、補強等の根本的な解決には至っていないのが現状である。
また、特許文献2に記載の技術も同様にモルタル材料の構築物への適用を意図した技術であり、壁体などの表面の亀裂の補修には適用できるが、表面にポリマーセメント組成物を塗布する必要があり、特許文献1に記載の技術と同様に、外観上の観点から、伝統的な左官仕上げの面体の補修に適用することは困難である。
本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1の態様は、下地材と、前記下地材にコテで仕上げられた中塗り材と、前記中塗り材にコテで仕上げられた表面材と、を備えた壁体と、前記表面材の表面から前記壁体の中へ穿孔された注入孔と、前記注入孔に充填されると共に前記注入孔の孔壁から前記壁体へ浸透して硬化したアクリル樹脂硬化体と、を有する補修壁である。
また、注入孔へ充填されたアクリル樹脂組成物は、表面材に発生した亀裂、或は、表面材が浮いて形成された表面材と中塗り材との間の空隙に浸透しており、表面材の表面が修復される。
なお、本発明において「コテ仕上げにより形成された壁又は天井」とは、土壁、漆喰壁、モルタル壁、漆喰天井、モルタル天井等、人手でコテにより仕上げる構造を包含するものである。また、本発明における「破損個所」とは、壁又は天井におけるひび割れ、表面の砂すじ、あばた、表面材或は中塗り材等の部分剥離およびこれらの全面剥離、壁体の奥行きへの欠損、さらには、これら破損部分における強度が低下した箇所等、面的な、及び奥行き方向への破損箇所のいずれをも包含する。
図1に示すように、補修壁10は、下地材12と、前記下地材12にコテで仕上げられた中塗り材14(以下、単に「中塗り材14」と称することがある)と、前記中塗り材14にコテで仕上げられた表面材16(以下、単に「表面材16」と称することがある)と、を備えた補修対象となる壁体11に対し、前記表面材16の表面から前記壁体11の中へ穿孔された注入孔18と、前記注入孔18に充填されると共に前記注入孔18の孔壁から前記壁体11へ浸透して硬化したアクリル樹脂硬化体20と、を有する。
図2に示すように、アクリル樹脂硬化体20は、注入孔18に充填された幹に相当する部分から、表面材16と中塗り材14との空隙、及び中塗り材14が含む土粒子間の空隙へと幹から生じる根の如き形状で連続して形成されている。注入孔18を、表面材16に生じた亀裂22箇所又は亀裂22の近傍に形成することにより、亀裂22の補修と壁体11内部の補強とを同時に行なうことができるため好ましい。
形成されたアクリル樹脂硬化体20はアンカーの役割を果たしており、下地材12、中塗り材14及び表面材16が一体に固着され、表面材16の剥離、中塗り材14及び表面材16の崩落が抑制される。
また、注入孔18へ充填されたアクリル樹脂組成物は、表面材16に発生した亀裂22に浸透しており、表面材16の表面が修復される。
例えば、注入孔18の深さを中塗り材14の表面に達する深さとすることで、表面材16と中塗り材14との空隙にアクリル樹脂組成物が浸透していき、アクリル樹脂硬化体20が形成されることで、表面材16と中塗り材14とを固着するため、表面材16のはらみによる剥離が抑制される。
注入孔18の深さを下地材12の近傍までとすることで、中塗り材14の深部まで、中塗り材14が含む土粒子等の間の空隙にアクリル樹脂硬化体20が形成され、コテ仕上げて形成された土壁に相当する中塗り材14が補強され、壁体における変形、崩落等の発生が抑制され、補修前よりも耐久性に優れた中塗り材14を備える補修壁10となる。
注入孔18の孔壁面を下り勾配とすることで、注入孔18内部に形成されたアクリル樹脂硬化体20へ作用する壁体の荷重の一部を、アクリル樹脂硬化体20の軸力として負担できるため、水平に形成された注入孔18に充填されたアクリル樹脂硬化体20と比較すると、負担できる荷重が大きくなる。また、アクリル樹脂硬化体20を形成するため、アクリル樹脂組成物を注入する際に、注入孔18が下り勾配であることで、注入されたアクリル樹脂組成物は注入孔18の深部まで速やかに流入するため、単位時間当たりの注入量を増やすことができる。さらに、孔壁面から注入孔18の周辺に向かって土粒子間の空隙により多くのアクリル樹脂組成物が浸透するため、より効率よく、より広範囲に亘りアクリル樹脂硬化体20を形成することができ、より強度が向上する。
アクリル樹脂硬化体20中に補強材24を固着させることで、アクリル樹脂硬化体20が補強される、また、紐状の補強材24の繊維が表面材16の表面に拡がって鍔部17を形成し、紐状の補強材24の繊維間に浸透したアクリル樹脂組成物により補強材24が表面材16の表面に固着されるため、表面材16の剥離、剥落に対する抵抗がより大きくなるという利点をも有する(図3(E)参照)。
本発明の補修壁10を形成する一態様としての補修方法について説明する。
本発明の修復方法は、下地材と、前記下地材にコテで仕上げられた中塗り材と、前記中塗り材にコテで仕上げられた表面材と、を備えた天井又は壁の面体の補修対象部位に、前記面体の表面から注入孔を穿孔する工程(注入孔形成工程)と、前記注入孔にアクリル樹脂組成物を充填し前記注入孔の孔壁からアクリル樹脂組成物を前記面体へ注入する工程(アクリル樹脂注入工程)と、前記注入孔から注入したアクリル樹脂組成物を、面体が有する空隙に浸透させて硬化させ、アクリル樹脂硬化体を形成する工程(アクリル樹脂硬化体形成工程)と、を有する天井又は壁の面体の補修方法である。
(注入孔形成工程)
まず、図3(A)に示すように、補修対象となる壁体11の表面材16から中塗り材14へ向かって注入孔18を形成する。注入孔18は、ドリルで穿孔する方法等、公知の穿孔方法を用いて形成することができる。穿孔時に用いるドリルとしては、補修対象となる壁体11の強度、即ち穿孔時の抵抗力に応じた回転数に制御が可能な回転ドリルを用い、穿孔により形成される注入孔18周辺の成分の付着や補修壁10を構成する中塗り材14等を損傷しない方法で行うことが好ましい。注入孔18の形成後には、注入孔18内に穿孔時に発生した切削屑、切削粉末等を除去する注入孔18内の清掃を適切に行うことが、アクリル樹脂の浸透性をより向上させる観点から好ましい。注入孔18内の清掃は、簡易な空気式のスポイトにより、切削屑、切削粉末を飛散除去する方法等により行なうことができる。
下り勾配の大きさは、θが0°を超え、60°以下であることが好ましく、15°〜50°の範囲にあることがより好ましく、30°〜45°の範囲にあることがさらに好ましい。
壁体26の表面材16近傍の修復及び補強を行なう際には下り勾配は小さくてもよい。一方、壁体26における中塗り材14の深部に至るまで補強する場合には、θは45°以上とすることが好ましい。
補強材24は必ずしも必要ではないが、形成されたアクリル樹脂硬化体20中に補強材24が固着されることで、アクリル樹脂硬化体を補強することができる。
図3(B)に示すように、紐状の補強材24の繊維を表面材16の表面に拡がるように配置することにより、次工程でアクリル樹脂組成物を注入し、その後、アクリル樹脂組成物を硬化させてアクリル樹脂硬化体20を形成した際に、紐状の補強材24の繊維が表面材16の表面に固着されるため、表面材16の剥離、剥落に対する抵抗をより大きくすることができる。
補強材24としては、比較的繊維径が細く、破断強度が高い材料が好ましく、例えば、麻繊維、稲ワラなどを撚って紐状とした材料が挙げられる。また、撚って形成された紐状の補強材24には、後述するアルカリ樹脂組成物が浸透できる空隙を有することが好ましい。なかでも、補強材24としては、麻紐等ある程度の太さと繊維強度を有する繊維を撚って形成された紐状の補強材であることが、補強効果が良好であるという観点から好ましい。稲ワラを撚って形成された縄等を補強材とした場合、撚り方によっては、繊維が剛直で繊維間の空隙が広いことがあり、そのような場合、アクリル樹脂組成物が繊維間に浸透し難く、所望の強度向上効果が達成されないことがある。
次に、図3(C)に示すように、注入孔18に紐状の補強材24を挿入し、補強材の端部を注入孔18から外へ出した状態でアクリル樹脂組成物を注入する。注入は公知の方法で行なうことができる。例えば、注入孔18の奥側に注射器等のピストンを備えた注入器19を用いてアクリル樹脂を注入する方法が好ましい。アクリル樹脂の注入は、アクリル樹脂が注入孔18内、及び注入孔18内壁面より中塗り材14の空隙に空気等を巻き込むことなく自然に浸透させるため、低圧注入方式により、内部の空隙部分に一定の圧力を保ち注入し、充填させる方法をとることが好ましい。
ここで、注入孔18の深さが、例えば、下地材12に至るような深さである場合、注射針の先端から注入する方法だと、アクリル樹脂組成物が注入孔18の深部まで確実に流下せず、注入孔18の内壁面より浸透し、十分な深さまで至って注入孔18の底部に滞留しないことが懸念される。従って、深い注入孔18では、アクリル樹脂組成物の注入における開示時には、注射器の先端に可撓性のホース等を取り付けて、まず注入孔18の深部から流し込みを開始することが好ましい。このように深部からアクリル樹脂組成物を、粗な材料が多く空隙が比較的多い、下地材12近傍の中塗り材14に到達させることで、中塗り材の深部をも確実に補修できるようになるため好ましい。
アクリル樹脂注入工程が完了した際に注入孔18をアクリル樹脂組成物が満たした状態となることが形成される補修壁10の強度向上の観点からは好ましい。
なお、壁体の空隙が大きく、注入孔18内にアクリル樹脂組成物を満たすことが流動性の観点から困難な場合には、穿孔時に得られた壁体の切削粉末等をアクリル樹脂組成物と混合し、アクリル樹脂組成物の粘度を向上させたのち、注入孔18に注入することもできる。
本発明においてアクリル樹脂硬化体の形成に用いられるアクリル樹脂組成物は、アクリルモノマー及びメタクリルモノマーから選ばれる1種以上のモノマーを含むアクリル樹脂組成物であることが、浸透性の観点から好ましい。
なお、本明細書では、アクリル、メタクリルのいずれか又は双方を指す場合(メタ)アクリルと称し、アクリレート、メタクリレートのいずれか又は双方を指す場合(メタ)アクリレートと称することがある。
本発明に用いうる好ましいアクリル樹脂組成物としては、(メタ)アクリルモノマーと、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、を含有するアクリル樹脂組成物が挙げられる。
中塗り材14が含む土粒子、藁等の空隙への浸透性を考慮すれば、アクリル樹脂組成物は、常温(25℃)における粘度が80mPa・s〜100mPa・sの範囲であることが好ましい。アクリル樹脂組成物の粘度は、B形粘度計を用いて、JIS K6833−1(2008年)に準拠した方法で測定することができる。
アクリル樹脂組成物の粘度が上記範囲であることで、本発明に使用しうるアクリル樹脂は、表面材16に発生した亀裂、中塗り材14に含まれる土粒子間の空隙等に速やかに浸透する。具体的には、中塗り材14に含まれる粘土粒子の一般的な径と同程度の0.05mm程度の微細なひび割れや土粒子間の空隙に対し、大気圧の条件下で自然浸透が可能であり、それ以上の狭小部に対しても毛管現象により重力抵抗に関わりなく自然浸透することができる。
(メタ)アクリルモノマーとしては、ジシクロペンテニールオキシエチレンメタクリレート、メトキシポリエチレングリコール#900メタアクリレート等が好ましく挙げられる。
(メタ)アクリレートモノマーは市販品を用いてもよく、例えば、リビルト樹脂 リビルト300(商品名、福田実業(株)製:ジシクロペンテニールオキシエチレンメタクリレート)、NK−エステルM−20G(商品名、新中村化学工業(株)製:メトキシポリエチレングリコール#900メタアクリレート)等が挙げられる。
アクリル樹脂組成物全量に対する(メタ)アクリルモノマーの含有量は、80質量%〜90質量%の範囲であることが好ましく、83質量%〜88質量%の範囲であることがより好ましい。
また、流動性を損なわない範囲で、アクリル樹脂組成物は(メタ)アクリル樹脂粒子を含有してもよい。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。
アクリル樹脂組成物全量に対する熱硬化性樹脂の含有量は、10質量%〜20質量%の範囲であることが好ましく、12質量%〜16質量%の範囲であることがより好ましい。
熱硬化性樹脂の硬化剤としては、過酸化物が好ましい。硬化剤の含有量は、用いられる熱硬化性樹脂の種類、含有量に従い、適宜決定することができる。
添加剤としては、軟化剤としてのクロロプレンゴム、粘度調整剤としてのアエロジル等の無機粒子、遅延剤としてのアルキルフェノール、促進剤としてのナフテンコバルト等が挙げられる。
本工程では、注入孔18から注入し、面体が有する空隙、例えば、表面材16と中塗り材14との間の空隙、中塗り材14に含まれる土粒子、藁等の間の空隙等に浸透したアクリル樹脂組成物を硬化させ、図3(D)、及び図3(E)に示すように、補強材24で補強されたアクリル樹脂硬化体20を形成する。
アクリル樹脂組成物が浸透可能な対象としては、漆喰、土壁、木材、縄、布、藁、紙等が挙げられ、アクリル樹脂組成物が硬化して固着しうる材料としては、漆喰、土壁及び土壁に含まれる土粒子、木材、縄、布、藁、紙等が挙げられる。また、アクリル樹脂組成物は、コンクリート、モルタル、金属、石材等を固着することができるため、石材や、修復に用いられたモルタル硬化体等の異種素材と接触した壁体を異種素材と固着させることもできる。
補修壁10表面には、注入孔18が形成されるが、形成された注入孔18の内部はアクリル樹脂硬化体20により充填されるため、補修壁10表面の外観を大きく損なうことなく、表面材16と中塗り材14との間を固着したり、中塗り材14内部をアクリル樹脂硬化体20により補強したりしてなる補修壁10を得ることができる。この補強壁10の表面に、表面材16を上塗りして補修部分を化粧することが好ましい。
図4は、注入孔18の深さを表面材16と中塗り材14との間に至る深さとし、表面材16と中塗り材14との空隙にアクリル樹脂硬化体20が形成された態様を示す概略図である。表面材16と中塗り材14との空隙にアクリル樹脂硬化体20が形成されることで、表面材16と中塗り材14とが固着され、表面材16の中塗り材14からの剥離、崩落を抑制することができる。
図5(A)は、本発明の一態様の補修天井30を示す部分斜視図であり、図5(B)は部分拡大図である。
補修天井30は、梁32間に間隔を空けて架け渡された板材34と、前記板材34の下面からコテで仕上げられた天井材36と、前記板材34の上面から前記天井材36の中に至り、前記板材34の長手方向へ間隔を空けて形成された複数の注入孔38と、前記注入孔38に充填されると共に前記注入孔38内、及び天井材36と板材34との間の空隙内に浸透して硬化したアクリル樹脂硬化体40と、を有している。
注入孔38には、板材34の上面を通して隣り合う板材34に形成された注入孔38へ跨る紐状の補強材42が挿入されている。隣り合う板材34に形成された注入孔38へ跨る紐状の補強材42を配置することで、アクリル樹脂組成物が紐状の補強材42へも浸透して補強材42が硬化したアクリル樹脂硬化体40が形成され、補修天井30の支持強度がより向上する。
図6は、本発明の一態様の補修天井の製造方法を示す概略断面図である。
図6(A)は補修前の天井であり、図6(B)に示すように、まず、板材34の上面から天井材36の中に至り、板材34の長手方向へ間隔を空けて複数の注入孔38を穿孔する。
一般に、板材34のからコテで仕上げられた天井材36としては、漆喰が使用される。漆喰を板材34の下面からコテで塗布すると、図6(A)に示すように、漆喰の一部が板材34の側面に添って天井の上方まで至り、板材34の側面と上面とを覆う漆喰の立ち上り部36Aが形成され、板材34と天井材36との密着強度が向上する。
このとき、図6(A)に示すように、板材34の厚みをtとし、隣接する板材34間の間隔をlとしたとき、t/lをアンカー係数と称し、t/lが1を超えることにより、漆喰の立ち上り部36Aが形成されやすくなり、漆喰の硬化後の板材34と天井材36との固着強度がより向上するため好ましい。
次に、図6(C)に示すように、穿孔された注入孔38の内部に、紐状の補強材42を挿入する。紐状の補強材42は、図5(A)に示すように、板材36の上面を通して隣り合う板材34に形成された注入孔38へ跨って挿入する。補強材42は必ずしも必要ではないが、補強材42を用いることで補修天井30の強度、崩落に対する抵抗力が上がる。
補強材42は、補修壁10において用いられた補強材24と同様に、麻紐等、ある程度の太さと繊維強度を有する繊維により形成された紐状の補強材であることが、補強効果がより良好であるという観点から好ましい。
その後、アクリル樹脂組成物が硬化することで、図5(B)に示されるように、注入孔38の内部、板材34と天井材36との空隙及び紐状の補強材42にアクリル樹脂硬化体20が形成され、板材34と天井材36との間が固着され、本発明の補修天井30が形成される。
本発明の補修天井30は、漆喰等のコテ仕上げで形成された天井材36の内部、及び板材34と天井材36との間にアクリル樹脂硬化体20を有するため、天井材36自体の強度が向上し、板材34と天井材36とがアクリル樹脂硬化体20により固着されているため、破損、崩落が効果的に抑制された補修天井30となる。また、隣り合う板材34に形成された注入孔38へ跨る紐状の補強材42を用いることで、隣接する板材34間の結合強度がより向上する。
〔漆喰土壁試験体の作製〕
まず、本発明の一態様の補修壁を作製するための、下地材12と、下地材12にコテで仕上げられた中塗り材14と、中塗り材14にコテで仕上げられた表面材16とを備え、表面材16として漆喰を用いた漆喰土壁試験体を作製した。
以下の材料にて、木舞下地を形成し、一般的な工法で作製したグレードA試験体と、劣化状態を想定した前記グレードA試験体よりも低い強度を想定したグレードB試験体の漆喰土壁試験体を作製した。
まず、下地となる木舞下地を作製する。木舞下地は、躯体として杉材を用い、木舞下地は、さらし竹(直径25cm〜30cm)としめ縄を用いて作製した。
グレードA試験体は、木舞下地に対し、(i)下塗り荒壁作製、(ii)下げ縄作製、(iii)縦縄作製、(iv)横縄作製、(v)大むら直し塗布、(vi)小むら直し塗布、(vii)中塗り塗布、(vii)上塗り漆喰コテ仕上げ、の8工程を順に施工をした。
これらのうち木舞下地が本発明における下地材12であり、下塗り荒壁、大むら直し、小むら直し、及び中塗りが、本発明における中塗り材14に相当し、上塗り漆喰が本発明における表面材16に相当する。
コテ仕上げ中塗り材の作製に使用した土は、荒壁土:(荒木田土:藁:水)=405:11.5:50(kg)、大むら直し土:(荒木田土:砂:ひだしすさ:水)=(53.8:44.9:1.4:17.2)(kg)、小むら直し土(荒木田土:砂:ひだしすさ:ふるった藁:水)=(26.9:23.0:1.9:1.6:8.6)(kg)であり、表面材の作製には、漆喰=3.32(kg)を用いた。
−グレードA試験体の材料(単位kg)−
下塗:荒壁土=80.6
下げ縄 :(荒壁土:砂:水)=(24.4:18.4:少量)2
縦縄:(荒壁土:砂:水)=(32.5:9.2:少量)
横縄:(荒壁土:砂:水)=(52.2:9.3:少量)
大むら直し:(大むら直し土:砂:水:スサ)=(31.4:9.6:少量:1.4)
小むら直し:(小むら直し土:砂:ふるった藁)=(24.8:2.7:0.01)
中塗り:(小むら直し土:砂:水:スサ)=(24.8:2.7:2.3:3.2)
表面材:漆喰=3.3
グレードB試験体は、グレードA試験体と同じ木舞下地を用い、グレードA試験体の作製工程において、(i)工程、(v)工程、(vi)工程、及び(vii)工程の後に行なわれる「ひがき」と称される表面積を増やし乾燥を早める工程を省いた。また、各工程でコテ仕上げする材料を以下に記載の左官材料に変更した。
−グレードB試験体の材料(単位kg)−
下塗:荒壁土=80.6
下げ縄:荒壁土=28.2
縦縄:荒壁土=31.8
横縄:荒壁土=52.0
大むら直し:大むら直し土=43.6
小むら直し:小むら直し土=19.6
中塗り:小むら直し土=31.4
表面材 漆喰=3.3
即ち、グレードB試験体では、グレードA試験体の作製時に用いた補強に有効なワラやスサを混合した材料を用いず、土のみを材料としてコテ仕上げを行ない、壁体に相当する試験体を作製した。
(注入孔の穿孔)
得られた試験体に電動ドリルで注入孔18を穿孔した。
(表層補修壁試験)
表層補修効果の検討では、注入孔18は、深さを小むら直し土による中塗に達する深さでまでの注入孔(a):直径4mm、深さ50mmを穿孔した。
注入孔18は、試験体表面に対して垂直の注入孔(θ=0°、以下注入孔(a−0)と称する)、試験体の表面材16から試験体の中に向かって下り勾配の注入孔(θ=30°、以下、注入孔(a−30)と称する)、及び下り勾配の注入孔(θ=45°、以下注入孔(a−45)と称する)をそれぞれ異なる試験体に穿孔した。
深部補修壁試験では、荒壁土による下塗に達する深さである注入孔(b):直径10mm、深さ100mmのものを穿孔した。
注入孔18は、試験体表面に対して垂直の注入孔(θ=0°、以下注入孔(b−0)と称する)、試験体の表面材16から試験体の中に向かって下り勾配の注入孔(θ=30°、以下、注入孔(b−30)と称する)、及び下り勾配の注入孔(θ=45°、以下注入孔(b−45)と称する)をそれぞれ異なる試験体に穿孔した。
穿孔した注入孔18に対し、アクリル樹脂組成物〔ジャスト(株)製、浸透性アクリル樹脂、浸透ジャスト(商品名)〕を、注射器を使用して注入した。
注入孔(a−0)、注入孔(a−30)、及び注入孔(a−45)に対しては、1回の注入で注入孔18がアクリル樹脂組成物で満たされたため、そのまま1日間室温にて放置し、注入孔18及び試験体に浸透したアクリル樹脂組成物を硬化させてアクリル樹脂硬化体を形成させ、補修壁10を得た。
注入孔(b−0)、注入孔(b−30)、及び注入孔(b−45)に対しては、1回注入し、放置したところ、注入孔18内壁面から中塗り材の空隙へアクリル樹脂組成物が浸透したため、注入及び放置の操作を3回行なった。3回目の注入で注入孔18がアクリル樹脂組成物で満たされたため、そのまま5日間室温にて放置し、注入孔18及び試験体に浸透したアクリル樹脂組成物を硬化させてアクリル樹脂硬化体を形成し、補修壁10を得た。
補修壁の評価として、強度の測定を行なった。
補修壁の強度は、デジタルフォースゲージ(商品名:A&D社製)を用いて測定した。前記各漆喰土壁試験体に40mm×40mmの鋼製アタッチメントをエポキシ樹脂(コニシ社製、クイック5:商品名)で測定箇所に接着し、アタッチメント部分に沿ってせん断力での抵抗が発生しないよう約3mmの切り込みを入れた。
その後、専用の器具を装着して、各層間の付着強度を測定した。
中塗り材14における(II)中塗りと小村直しとの界面、中塗り材14における(III)小むら直し大むら直しとの界面、及び(IV)荒壁と大むら直しとの界面の付着強度のそれぞれを測定した。さらに、(V)荒壁の強度を測定した。
測定箇所は漆喰土壁試験体の左下部である。測定はそれぞれの試験体について4箇所行なった。
表層補修壁試験として、(II)中塗りと小村直しとの界面近傍、中塗り材14における(III)小むら直し大むら直しとの界面、及び(IV)荒壁と大むら直しとの界面の付着強度における4箇所の測定結果の平均値を表層補強の評価とした。
(V)荒壁の強度としては、4箇所の測定結果の平均値を深部補強の評価とした。
対照例としてアクリル樹脂組成物を注入しない試験体についても同様の測定を行なった。対照例では、さらに(I)表面材である漆喰と中塗りとの界面の付着強度を測定した。
本発明の補修壁は付着されたタイルと異なり一体化された壁体である。このため、波線で示した付着強度基準の近傍の強度を達成していれば、壁体として十分な強度を示すと評価できる。
図7に明らかなように、対照例に比較して、本発明の補修壁はいずれも、大幅な付着強度の向上が確認された。
深部補修は、注入孔18の形成角度(θ)による付着強度の差が顕著に表れた。深部補修においては、補修壁内部の詳細な検討によれば、アクリル樹脂硬化体が、荒壁の横縄、縦縄まで到達して形成されていた。
荒壁は中塗りに比べ構成される土粒子が大きく空隙が多い、そのためアクリル樹脂組成物が土粒子の空隙に表層近傍よりも多量に充填され、その結果、広い領域に亘り高強度のアクリル樹脂硬化体が形成され、このアクリル樹脂硬化体により強度が飛躍的に向上したものと考えられる。
また、注入孔18の形成深さが深部に至ることで、荒壁よりも表面に近い大むら直し、小むら直し、中塗りの各層にもアクリル樹脂組成物がある程度浸透しているため、全体の強度がより向上したものと考えられる。
このとき、注入孔18の角度が下り勾配であることで、アクリル樹脂組成物が注入孔18の深部まで速やかに到達し、さらに、注入孔18内壁から土粒子に速やかに浸透するため、より多くのアクリル樹脂組成物を注入孔18から供給することができ、アクリル樹脂硬化体の形成面積が、下り勾配を有さないθ=0の注入孔18よりも大きくなり、より効果的な補強が可能となったものと考えられる。
また、正規の工程を得て作製されたグレードA試験体においても、著しい強度向上が見られた。これは、土と共に、ワラ、スサ等を混入することで、空隙ができ、当初の強度は低下するが、アクリル樹脂組成物を浸透させるための空隙が多く存在することから、有効な強度向上効果が得られたと考えられる。
グレードA試験体の結果より、新規なコテ仕上げの壁体、天井材に対し、本発明の補修方法を当初より実施することで、外観は伝統的な漆喰仕上げの壁体、天井材であっても、経時による面剥離、崩落、亀裂の発生等のリスクを著しく低減させることができるものと考えられる。
12 下地材
14 表面材
16 中塗り材
18、38 注入孔
20 アクリル樹脂硬化体
30 補修天井
Claims (7)
- 下地材と、前記下地材にコテで仕上げられ、粘土又は土に対し、藁、麻繊維、ふのり及び消石灰から選ばれる材料を混ぜた混合物からなる中塗り材と、前記中塗り材にコテで仕上げられ、消石灰を含む漆喰からなる表面材と、を備えた壁体と、
前記表面材の表面から前記壁体の中へ穿孔された注入孔と、
前記注入孔に充填されると共に前記注入孔の孔壁から前記中塗り材に含まれる土粒子間の空隙へ浸透して前記空隙内で硬化したアクリル樹脂硬化体と、
を有する補修壁。 - 前記注入孔の孔壁面が、前記壁体の表面材から壁体の中に向かって下り勾配となっている請求項1に記載の補修壁。
- 前記アクリル樹脂硬化体の中に、前記注入孔から前記壁体の深部に亘って紐状の補強材が固着されている請求項1又は請求項2に記載の補修壁。
- 前記アクリル樹脂硬化体を形成するアクリル樹脂組成物が、アクリルモノマー及びメタクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマーと、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、を含有するアクリル樹脂組成物である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の補修壁。
- 下地材と、前記下地材にコテで仕上げられ、粘土又は土に対し、藁、麻繊維、ふのり及び消石灰から選ばれる材料を混ぜた混合物からなる中塗り材と、前記中塗り材にコテで仕上げられ、消石灰を含む漆喰からなる表面材と、を備えた天井又は壁の面体の補修対象部位に、前記面体の表面から注入孔を穿孔する工程と、
前記注入孔にアクリル樹脂組成物を充填し前記注入孔の孔壁から前記アクリル樹脂組成物を前記面体へ注入する工程と、
前記注入孔から注入した前記アクリル樹脂組成物を、面体が有する前記表面材と前記中塗り材との間の形成された空隙、及び前記中塗り材に含まれる土粒子間の空隙に浸透させて硬化させ、前記空隙内にアクリル樹脂硬化体を形成する工程と、
を有する天井又は壁の面体の補修方法。 - 梁間に間隔を空けて架け渡された板材と、
前記板材の下面からコテで仕上げられた天井材と、
前記板材の上面から前記天井材の中に至り、前記板材の長手方向へ間隔を空けて形成された複数の注入孔と、
前記注入孔に充填されると共に前記天井材へ浸透して硬化したアクリル樹脂硬化体と、
を有する補修天井。 - 前記注入孔に、前記注入孔へ挿入されると共に、前記板材の上面を通して隣り合う板材に形成された注入孔へ跨る紐状の補強材を有し、
アクリル樹脂組成物が前記補強材へ浸透して硬化したアクリル樹脂硬化体をさらに有する請求項6に記載の補修天井。
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