以下、図面について、本発明の一実施の形態について詳述する。
(1)本実施の形態による信号保安システムの構成
図1は、本実施の形態による信号保安システムの概略構成の一例を示す。この信号保安システムは、車上装置11,13、転てつ機41(41a,41b)、及び転てつ機制御装置21を備えている。
本実施の形態では、転換点41a,41bを制御する2動の転てつ機41を例示するが、例えば3動又は4動などのように3動以上の転てつ機を用いる場合にも同様の考えが適用することができる。このように転換点を複数有する転てつ機41は、2動の転てつ機などと呼ばれている。
この信号保安システムでは、複数の区間に亘って列車10及び列車12が走行している。列車10には車上装置11が搭載されている一方、列車12には車上装置13が搭載されている。その区間内には、転てつ機41(41a,41b)、その転てつ機41を制御する転てつ機制御装置21、及び、2動の転てつ機41の転換点41a,41bが存在している。転てつ機41(41a、41b)は、同時に、物理的に同一方向に制御されうる機構を備えている。例えば、転てつ機41aが定位方向(例えば図示の直進方向)に転換したときには、転てつ機41bも定位方向(例えば図示の直進方向)に転換する。
車上装置11,13及び転てつ機制御装置21は、予め決められた区間の情報をデータベースを用いて管理している。車上装置11,13及び転てつ機制御装置21は、それぞれ、信号保安システムにおいて用いる電文として、詳細は後述する保安電文1を送受信する機能を有する。
信号保安システムでは、転てつ機制御装置21、及び、複数の区間のうち予め決められた区間内に存在する列車に搭載された車上装置11,13(以下、「車上装置等」と呼ぶ)が後述の保安電文1を送受信する。
図2は、車上装置11,13の機能構成の一例を示す。車上装置13は、車上装置11とほぼ同様な構成及び機能を有するため、以下、主として車上装置11を例示して説明する。
車上装置11は、電文送受信部101、演算部102、及びデータベース103を有する。電文送受信部101は、演算部102の制御によって、無線によって、車上装置11以外の装置、例えば、転てつ機制御装置21若しくは図示しない他の転てつ機制御装置、又は他の車上装置13との間で保安電文1を受信したり送信する。
演算部102は、車上装置11全体の動作を制御する中央演算処理装置である。演算部102は、上述したように電文送受信部101を制御する他にも、データベース103との間でデータの登録、検索、更新及び削除を行う機能を有する。演算部102は、後述する2動以上の転てつ機に対する転てつ機方向指示処理を実行する(後述する図9に相当)。
データベース103は、例えば、少なくとも1つのテーブルを用いてデータを表形式で管理している。上述のようにデータベース103のテーブルのデータは、演算部102によって登録、検索、更新及び削除のいずれかが随時行われる。データベース103には、その一部のテーブルにおいて、各転てつ機41の転換点41a,41bの数に関する情報が格納されている。
車上装置11は以上のような構成であり、次にその動作について簡単に説明する。車上装置11は、転てつ機制御装置21のみならず、他の車上装置13からも保安電文1を受信する。
他の転てつ機制御装置から伝送される保安電文1は、電文送受信部101によって受信されると、演算部102において処理される。演算部102は、データベース103において管理されているデータに基づき、詳細は後述するが、各転てつ機41(41a,41b)に関して保安電文1の転てつ機方向指示欄及び転てつ機方向状態欄の参照要否を判別し、後述する転てつ機方向指示処理を実行する。処理後の保安電文1は、電文送受信部101を介して、再度、他の車上装置13及び図示しない他の転てつ機制御装置に送信される。
図3は、走行路を仮想的に複数のブロックに分けた場合の一例を示す。図示の例では、列車が走行する走行路全体を複数の区間に分割する。次に、1つの区間を1列車のみが占有を許される単位に分割する。本実施の形態では、これら分割された各区間を「ブロック」と呼ぶものとする。図3では、図示の走行路を6つのブロックBLK1〜BLK6に分割している。
これらブロックBLK1〜BLK6には、転てつ機41a,41bが設けられているブロックBLK2,BLK5が存在する一方、転てつ機41a,41bが設けられていないブロックBLK1,BLK3,BLK4,BLK6が存在している。
図4は、保安電文1のデータ構成例を示す。保安電文1は、このメンバーリストに従って車上装置11,13等の間で送受信され、車上装置11,13などによって内容が参照される。保安電文1は、その項目として、識別欄51、通信制御欄52、ブロック占有権欄53、転てつ機方向指示欄54、転てつ機方向状態欄55、及びメンバーリスト56を有する。
識別欄51には、各区間を互いに識別可能な番号が格納されている。保安電文1を受信した車上装置11,13等は、保安電文1の識別欄51を参照することにより、この保安電文1を送受信すべき区間を識別することができる。
通信制御欄52は、送信先及び送信元の情報が記載される項目であり、例えば、送信元の装置等を示す識別情報と、送信先の装置等を示す識別情報とを格納する。車上装置11,13等は、保安電文1の通信制御欄52を参照することにより、この保安電文1の送信元及び送信先を把握することができる。
ブロック占有権欄53は、個々のブロックBLK1〜BLK6に列車の占有権を設定するための項目である。ブロック占有権欄53には、ブロックBLK1〜BLK6の占有権を有する列車の識別情報が記入される。ブロック占有権とは、列車10,12が各ブロックBLK1〜BLK6に進入するために必ず確保しなければならない権利である。このブロック占有権は、各ブロックBLK1〜BLK6に対して1つだけ存在し、他の列車による記入がない場合に限り、自列車の識別情報を記入することによって、当該時列車が特定のブロックについてブロック占有権を確保することができる。
ブロック占有権欄53において図示中段には、各ブロックの識別情報(図示の「1」、「2」などに相当)が表されている。ブロック占有権欄53における識別情報、例えば「1」、「2」などは、それぞれ、例えば、図3に示すブロックBLK1、BLK2などに相当する。このブロック占有権欄53において下段には、各ブロックの占有権を有する列車の識別情報が表されている。例えば図示の場合、ブロックBLK1に列車10が設定されている。
以上のように保安電文1において、各ブロック内に存在する列車に対応する情報を対応付けることによって、ブロック単位で列車の排他制御が可能となる。
転てつ機方向指示欄54には、車上装置11,13によって、転てつ機41の方向を転換すべき旨の転換指示を行う際に情報が書き込まれる。転てつ機41は、保安電文1の転てつ機方向指示欄54に書き込まれた転換指示に従って、転てつ機制御装置21によって転換点41a,41bの方向が各々制御される。このように保安電文1が転てつ機41に対する転換指示を含むことによって、これを受け取りうる車上装置11,13は、当該転てつ機41の方向を制御することが可能となる。図示のように2動の転てつ機41を含む場合、転てつ機方向指示欄54は各転換点41a,41b用の2つの欄を有する。図4の場合、2動の転てつ機41は、2動の転換点41a,41bを有する。
転てつ機方向状態欄55には、転てつ機制御装置21によって、転てつ機方向状態情報が記入される。列車10,12は、受信した保安電文1の転てつ機方向状態欄55を確認することによって、転てつ機41の転換点41a,41bの開通方向を認識することができる。
このように保安電文1が転てつ機方向状態情報を含むことによって、列車10,12は、保安電文1を受け取った時に転てつ機41の方向を確認することが可能となる。図4に示す例の場合、転てつ機制御装置21では、2動の転てつ機41の転換点41a,41bを同時に制御するため、転てつ機方向状態欄55が1つ用意されている。もちろん、転換点41a,41bごとに制御に要する時間に差がある場合などは、各転換点41a,41bの欄を保持するようにしてもよい。列車10,13は、走行するブロックに含まれる転てつ機41の状態を照査して、ブロックBLKの進入可否を判断する。
メンバーリスト情報56には、保安電文1を送受信するメンバーリスト情報が記載される。このメンバーリスト情報は、車上装置11,13等が保安電文1を送受信する順番を示したメンバーリストを表している。
メンバーリスト56には、保安電文1を巡回させる車上装置11,13を搭載した列車と転てつ機制御の識別情報が送受信する順に記入される。送受信するメンバーは、区間内に既に進入している全列車と、区間内に進入しようとしている全列車と、区間内の全転てつ機制御装置21である。
このように保安電文1自身が、保安電文1を送受信する車上装置11,13などのメンバーの順番を含むリストを保有し管理していることによって、各メンバーは、保安電文1を受け取った時に保安電文1を送受信するメンバーの順番を確認することが可能となる。
本実施形態による信号保安システムの構成例は以上であり、次に列車10が実際に本線の入れ替えを行う様子の一例について説明する。
図5は、列車10が転換点41a,41bにて本線を入れ換える場合の走行経路aを示す図である。列車10は、2動の転てつ機41の転換点41a及び転換点41bを通過して、図示上段の本線から図示下段の本線に入れ換えて走行する。
このとき、列車10は、走行路上を直進する代わりに、転換点41aで本線を入れ替えるとともに転換点41bで本線を入れ替えることにより走行経路aを走行するために、保安電文1を用いて転てつ機制御装置21に対して、2動の転てつ機41を反位方向に転換すべき旨の転換指示を与える。その結果、当該指示を受けた転てつ機制御装置21は、転換点41aを反位方向に、転換点41bも同様に反位方向に転換する。
図6(A)〜図6(F)は、それぞれ、図5において列車10が本線の入れ換えを行う場合における保安電文1の更新内容の一例を示す。図示の例では、保安電文1における一部として、例えば、転てつ機方向指示欄54及び転てつ機方向状態欄55のみを示し、その他の欄を省略している。
図6(A)のステップS1において示す保安電文1の内容は、列車10が、走行経路aとして図5上段の本線を走行しており、転てつ機制御装置21に対して転てつ機41の転換指示を行う前の状態を示している。
図6(B)のステップS2において示す保安電文1の内容は、列車10が、走行経路aを走行するために、転てつ機制御装置21に対して転てつ機41の転換指示を行ったときの状態を示している。
図6(C)のステップS3において示す保安電文1の内容は、上述したステップS2の保安電文1が巡回され、転てつ機制御装置21に伝達された後の状態を示している。転てつ機制御装置21は、転てつ機41の制御を開始したので、転てつ機方向状態欄55の2動の転てつ機41における転換点41a及び転換点41bの状態は同時に「転換中」となっている。
図6(D)のステップS4において示す保安電文1の内容は、上述したステップS2の保安電文1が巡回され、転てつ機制御装置21が2動の転てつ機41の転換点41a及び転換点41bの両転換及び両鎖錠が完了した後を示している。
このような図6(D)のステップS4において示す保安電文1の内容は、列車10,12に巡回されて、これを受け取った列車10は、2動の転てつ機41の転換点41a及び転換点41bの転てつ機方向状態欄55の鎖錠された方向が転てつ機方向指示の方向と一致することを照査して転換点41aを含むブロックBLK2と転換点41bを含むブロックBLK5に進入可能と判断し、走行経路aに沿って走行する。
図6(E)のステップS5において示す保安電文1の内容は、列車10が図3のブロックBLK2を通過した後の状態を示している。列車10は、転換点41aを含むブロックBLK2から退出した後、搭載された車上装置11によって保安電文1において転換点41aに対する方向指示を削除し、このように削除した旨の保安電文1を巡回させる。続けて列車10は、ブロックBLK5に進入する。
図6(F)のステップS6において示す保安電文1の内容は、列車10がブロックBLK5を通過後の状態を示す。列車10に搭載された車上装置11は、列車10が転換点41bを含むブロックBLK5から退出した後、搭載された車上装置11によって保安電文1において転換点41bに対する方向指示を削除し、このように削除した保安電文1を巡回させる。
図7は、2つの列車10,12が本線で互いにすれ違う場合の走行経路b,cの一例を示す。列車10は、転換点41aを通過して、上段の本線を走行経路bに沿って走行する。一方、列車12は、転換点41bを通過して、下段の本線を走行経路cに沿って走行する。
このとき、列車10に搭載された車上装置11は、列車10を走行経路bに沿って走行させるために、巡回させる保安電文1を用いて転てつ機制御装置21に対して、2動の転てつ機41の転換点41aを定位方向(例えば直進方向)に転換するように転換指示を行う。
一方、列車12に搭載された車上装置13は、列車12を走行経路cに沿って走行させるために、巡回させる保安電文1を用いて転てつ機制御装置21に対して、2動の転てつ機41の転換点41bを定位方向(例えば直進方向)に転換するように転換指示を行わせるための保安電文1を巡回させる。
図8(A)〜図8(G)は、それぞれ、図7において、列車10と列車12とが本線で互いにすれ違う場合の保安電文1の更新内容の一例を示す。図示の例では、保安電文1の一部として、例えば、転てつ機方向指示欄54及び転てつ機方向状態欄55のみを示し、その他の欄を省略している。
図8(A)のステップS1において示す保安電文1の内容は、列車10が図7の上段の本線を走行しており、まだ、この列車10が転てつ機制御装置21へ転てつ機41に対して転換指示を行う前の状態を示している。この状態では、列車12も転てつ機41に対して転換指示を行う前の状態にある。
図8(B)のステップS2において示す保安電文1の内容は、列車10が走行経路bを走行するために、転てつ機方向指示欄54のうち転換点41aを「定位」に設定し、転てつ機制御装置21に対して転てつ機41の転換指示を行ったときの状態を示す。
図8(C)のステップS3において示す保安電文1の内容は、上述したステップS2の保安電文1が巡回され、転てつ機制御装置21に伝達された後の状態である。転換点41aと転換点41bとは2動の転てつ機41によって転換されるため、転てつ機制御装置21は、転てつ機41を制御することにより、結果として転換点41a及び転換点41bを同時に転換することなる。この転てつ機制御装置21が転てつ機41の制御を開始したので、転てつ機方向状態欄55の転換点41a及び転換点41bの状態は共に「転換中」となる。
図8(D)のステップS4において示す保安電文1の内容は、ステップS3の保安電文1が巡回され、転てつ機制御装置21が2動の転てつ機41の転換点41a及び転換点41bの両転換及び両鎖錠が完了した後の状態を示している。ステップS4において示す保安電文1によれば、この保安電文1が列車10に巡回されると、この列車10は、転換点41aの転てつ機方向状態欄55の鎖錠された方向が転てつ機方向指示の方向と一致することを照査して転換点41aを含むブロックBLK2に進入可能と判断し、図7の走行経路bに沿って走行する。
図8(E)のステップS5において示す保安電文1の内容は、列車12が走行経路cを走行するために、転てつ機制御装置21に対して転てつ機41の転換指示を行ったときの状態を示している。このとき、列車12に搭載された車上装置13は、それぞれ、2動の転てつ機41の転換点41aの方向指示内容を確認する。
列車12の車上装置13は、既に(列車10の車上装置11によって)設定されている転換点41aの方向指示内容と、車上装置13による転換点41bの指示内容が一致する場合、転換点41bの方向指示欄に定位方向(例えば直進方向)の転換指示を設定する。一方、車上装置13は、仮に両者が不一致の場合、2動の転てつ機41の転換点41aと転換点41bとは異なる方向への同時転換は不可能であるため、転換点41bへの方向指示を設定しない。つまり、列車12は、転換点41bを含むブロックBLK5への進入が許可されない。
図8(F)のステップS6において示す保安電文1の内容は、列車10がブロックBLK2を通過後の状態を示す。列車10に搭載された車上装置11は、列車10が転換点41aを含むブロックBLK2を退出した後、転換点41aに対する方向指示を削除し、このように削除した保安電文1を巡回させる。
図8(G)のステップS7において示す保安電文1の内容は、列車12がブロックBLK5を通過後の状態を示す。列車12に搭載された車上装置13は、列車12が転換点41bを含むブロックBLK5を進出した後、転換点41bに対する方向指示を削除する。
図9は、転てつ機方向指示処理の一例を示すフローチャートである。なお、以下の説明では、列車10を例示し、その車上装置11が処理を実行することを例示する。なお、既述のように車上装置13は、車上装置11とほぼ同様な構成及び機能を有するため、以下に示す処理を同様に行うことができる。
ステップS101では、列車10の車上装置11が、転換指示の対象である転てつ機41が複数の制御主体を有するか否かを判定する。ここでいう「転てつ機41を制御しうる制御主体が複数存在する」とは、車上装置11及び車上装置13のように転てつ機41を制御する可能性がある主体が複数存在し、ここで主体として例示した車上装置11以外にも、例えば車上装置13が存在していることを意味する。
例えば、転てつ機41のように複数の転換点41a,41bを有し、それぞれの転換点41a,41bが異なるブロックBLK2,BLK5に属している場合には、それぞれのブロックBLK2,BLK5の占有権を確保した車上装置11,13から指示を受け付ける必要があるため、複数の制御主体が存在することになる。
その一方、図示しないが、例えば指示対象の転てつ機41が単動の場合には、制御主体は転てつ機41の属するブロックの占有権を確保した車上装置からのみ指示を受け付ければ良いため、制御主体は1つとなる。その場合、列車10の車上装置11は、ステップS101〜S104をスキップし、次にステップS105を実行する。転換指示の対象となる転てつ機が2動以上の場合、車上装置11はステップS103へ進んで実行する。
ステップS103では、列車10の車上装置11が、既に他の制御主体からの指示があるかどうかを判定する。他の制御主体からの転換指示が無い場合、車上装置11が、ステップS104をスキップし、指示設定処理(ステップS105)を実行する。一方、他の制御主体からの転換指示がある場合、車上装置11は、ステップS104に進んで実行する。
ステップS104では、車上装置11が、当該転てつ機41に指示する方向と、既にある他の制御主体からの指示方向とを比較する処理である。両者が同一方向である場合、車上装置11は、指示設定処理(ステップS105)へ進んでこれを実行する。両者が異なる方向である場合、車上装置11は、走行経路の設定を保留し、本処理を終了する。
ステップS105では、車上装置11が、保安電文1の転てつ機方向指示欄54に転換指示を設定する。車上装置11は、このような転換指示を書き込んだ後、ステップS106へ進んでこれを実行する。
ステップS106では、車上装置11が保安電文送信処理を実行する。車上装置11は、上述したステップS105において、転てつ機指示方向を設定した保安電文1を、上述したメンバーリストの次のメンバー(車上装置13など)へ送信する。保安電文1の送信が終了後、車上装置11は、保安電文受信処理(ステップS107)へ進んでこれを実行する。
ステップS107では、車上装置11が保安電文受信処理を実行する。この保安電文受信処理では、車上装置11が、巡回している保安電文1を受信する。
ステップS108は、車上装置11が、ステップS107において受信された保安電文1の転てつ機方向状態を照査する。指示対象の転てつ機41に関してステップS105において設定した方向と、保安電文1の転てつ機方向状態欄55の方向とが同一方向の場合、車上装置11が、指示方向への転換完了を認識し、本処理を終了する。車上装置11は、転換中、または、方向が異なる場合、ステップS107の保安電文受信処理へ進む。
以上説明したように、上記実施の形態における信号保安システムでは、保安電文1には、上述した転換指示として、多動の転てつ機41に対してほぼ同時に各転換点41a,41bの転換指示を与えうる制御主体の数分の転てつ機方向指示欄54が設けられており、多動の転てつ機41は、制御主体の数分の転てつ機方向指示欄54のうち一の車上装置11によって指示された一の転換指示と、制御主体数分の転てつ機方向指示欄54のうち他の車上装置13によって指示された他の転換指示とが一致していることを照査した場合には実際に各転換点41a,41bの転換制御を実施する一方、上記一の転換指示と上記他の転換指示とが一致しない場合には各転換点41a,41bの転換制御の実施を保留する。
このような構成によれば、転てつ機の各転換点を同時に作動させても安全性が高く、かつ、安価な信号保安システムを実現することができる。
また本実施の形態では、複数の列車10,12が走行しうる各走行路及び分岐走行路は、所定の区間ごとに仮想的に複数のブロックBLK1〜BLK6に分けて管理されている。これら複数の列車10,12に搭載されている一の車上装置11及び他の車上装置13は、それぞれ、複数のブロックBLK1〜BLK6のうち各転換点41a,41bが所属する一部のブロックBLK2,BLK5の占有権を確保したことを条件として当該一部ブロックBLK2,BLK5に対応する一部の走行路の走行が許可される。制御主体の数分の転てつ機方向指示欄54は、これら一の車上装置11及び他の車上装置13のうち一のブロックBLK2,BLK5の占有権を確保したいずれか特定の車上装置によって各転換点41a,41bの転換指示が書き込まれるようにしている。
このような構成よれば、一のブロックBLK2,BLK5の占有権を確保可能な特定の車上装置が1台だけであるため、この特定の車上装置を搭載する列車は、一のブロックBLK2,BLK5においてその他の車上装置を搭載する他の列車と衝突するおそれがなくなる。
(2)第2の実施の形態
第2の実施の形態による信号保安システムは、第1の実施の形態による信号保安システムとほぼ同様の構成であるとともにほぼ同様の動作を行うため、同様の構成及び動作については同一の符号を用いるとともにその説明を省略し、以下、第1の実施の形態とは異なる点を中心として説明する。
第2の実施の形態では、第1の実施の形態とは異なり、車上装置15,17が列車の走行経路上に存在しない転てつ機(図示の転てつ機43に相当)を制御する一例を表している。
図10及び図11は、それぞれ、車上装置15,17が、列車14,16の走行経路b,c上に存在していない転てつ機43を制御する場合の一例を示す。なお、車上装置15,17は、第1実施の形態における車上装置11,13に相当しており、列車14,16は、第1の実施の形態における列車10,12に相当している。車上装置15が列車の走行経路b,c上に無い転てつ機43を制御しなければならない場合とは、例えば、図10に示すようにブロックBLK64と、ブロックBLK62,BLK66との間に列車接触限界Zが存在する状況においてすれ違い走行を行う場合である。
この列車接触限界Zは、図11に示す走行経路eを走行している列車16が既にブロックBLK64を抜けていたとしても、走行経路dを走行する列車14と接触してしまう可能性があることを示している。なお、この列車16には、既述の車上装置11とほぼ同様な構成及び動作である車上装置17が搭載されている。
このような列車の接触を防ぐために、転てつ機44が反位(例えば進行方向が変わる方向)に転換されている場合には走行経路dを設定できないようにし、走行経路dを設定する際には転てつ機44を定位(例えば直進方向)に転換しておくことが求められる。
このような場合も、第1の実施の形態で示した複数の転換点41a,41bを有する転てつ機41へ転換方向を指示する方法と同様に、保安電文1において当該転てつ機の転てつ機方向指示欄54には、当該転てつ機の属するブロックの占有権を確保した車上装置(例えば車上装置15)が指示する欄と、列車接触限界Zによって予め転換しておかなければならない走行経路を設定する際に車上装置11が指示する欄を用意しておく。
図10の単動転てつ機44の場合、図12に示すように転てつ機方向指示欄54としては、ブロックBLK66の占有権を確保した車上装置(例えば車上装置15)が指示する欄(図示の「ブロック66」に相当)と、走行経路dを設定する際に車上装置15が指示する欄の2つの欄(図示の「走行経路d」に相当)が用意されている。
次に、列車16が走行経路eを走行し、その後に列車14が走行経路dを走行する場合、保安電文1は以下のように更新される。まず、列車16の車上装置17が走行経路eを設定するため、保安電文1において転てつ機44の転てつ機方向指示欄54のブロックBLK66の占有権を確保した車上装置15が指示する欄に「反位」を書き込む。ここでいう「反位」は、例えば図示の直進ではないもう一方の方向(列車14が転換点42で右斜め前に進む方向)を示している。
この保安電文1を受け取った転てつ機制御装置21は、転てつ機44を反位に転換し、転換及び鎖錠が完了した後、保安電文1の転てつ機方向状態欄55に「反位鎖錠」を書き込み、このように更新後の保安電文1を巡回させる。その後、この保安電文1を受け取った列車16の車上装置17は、転てつ機43が反位に鎖錠されたことを認識することができる。
この時、列車14が走行経路dを走行するためには、転てつ機43を定位に転換しなければならないが、この列車14の車上装置15は、転てつ機43の転てつ機方向指示欄54のブロックBLK66の占有権を確保した車上装置17が指示する欄に「反位」が記入されているため、走行経路dを設定する際に車上装置17が指示する欄に、それとは異なる「定位」の指示を書き込まない。これは、第1実施形態における転てつ機方向指示処理(図9参照)と同様である。
従って、列車14の車上装置15による走行経路dの設定は、列車16がブロックBLK66を抜け、列車16の車上装置17による転てつ機44への「反位」指示が削除された後とならざるを得ないため、列車14,16同士の接触を防ぐことができる。
一方、図13に示すように、既述の車上装置11と同様の構成及び動作である車上装置19を搭載する列車18が走行経路fを直進走行している時に、列車14が走行経路dを走行しようとする場合がある。これは、説明するまでもなく列車14,18同士が接触しようがないため、列車接触限界Zに関係無く安全である。
この場合、列車18の車上装置19は、保安電文1において転てつ機44の転てつ機方向指示欄54のブロックBLK66の占有権を確保した車上装置が指示する欄に「定位」を記入しているが、列車14の車上装置15も、転てつ機44の転てつ機方向指示欄54のブロックBLK66の占有権を確保した車上装置が指示する欄に同じ「定位」の指示を記入することができる。これも、第1の実施の形態における転てつ機方向指示処理(図9参照)と同様である。
従って、列車14の車上装置15による走行経路dの設定は、走行経路fを走行している列車18の影響を受けずに設定することができることになる。
以上のように本実施の形態では、図11に示すように、複数の列車14,16が走行しうる各走行路とこの各走行路に接続された各分岐走行路とが、これら複数の列車14,16の進行方向を切り替え可能な各転てつ機42,44(上記各転換点41,41bに相当)において接続されている一方、当該各転てつ機42,44とは逆側の各分岐走行路同士が特定の転てつ機43で接続されて、かつ、特定の転てつ機43から特定の走行路がさらに延びているという条件において、多動の転てつ機42,43,44が次のように制御される。
転てつ機42,43,44は、複数の列車14,16のうち一の列車16が特定の転てつ機43を通過した後も、当該一の列車26が次の転てつ機44を通過するまで特定の転てつ機43に複数の列車14,16のうちの他の列車14が進入しないように作成された電文によって各転てつ機42,43,44の転換制御がなされる。
このように、第2の実施の形態による本信号保安システムによれば、走行経路dを設定する上で、列車14,16同士の安全のために経路上に無い転てつ機44を制御しなければならない場合に当該転てつ機44を適切に制御することができ、その際、安全上問題の無い列車間に不必要な支障を生じさせることもない。
以上の実施の形態では、区間内に2台の列車が存在する場合で説明したが、当然、列車が2台以上存在してもよい。また、上述した実施の形態では、6個のブロックBLK1〜BLK6に分割したが、7個以上のブロックにより細かく分割してもよい。上述した実施の形態では、全てのブロック占有権、転てつ機方向指示欄54、転てつ機方向状態欄55などを1つの保安電文1で管理するとしたが、管理する内容が重複しないようにすれば、複数の保安電文1で管理してもよいことはいうまでもない。
(3)その他の実施形態
上記実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
本実施の形態では、各列車の占有範囲や予約範囲をブロック単位で表したが、当然、ある基準点からの相対位置で表してもよいし、緯度経度等の絶対位置で表してもよい。その際、保安電文1にはある基準点からの相対位置や緯度経度等の絶対位置で表された各列車の占有範囲が記入される。