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JP6433245B2 - 熱電素子および熱電モジュール - Google Patents

熱電素子および熱電モジュール Download PDF

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Description

本発明は、熱電素子および熱電モジュールに関する。
トムソン効果、ペルチェ効果、ゼーベック効果等の熱電効果を利用して熱エネルギーと電気エネルギーとを変換する熱電モジュールが存在する。
このような熱電モジュールでは、熱電変換材料からなる熱電変換層を有する2種類の熱電素子が組み合わされて用いられる。例えば、熱電モジュールは、p型熱電材料からなる複数のp型熱電素子と、n型熱電材料からなる複数のn型熱電素子とが、電極により直列に接続されて用いられる。
熱電モジュールに用いられる熱電素子では、熱電変換層からの元素拡散の抑制や、熱電変換層の熱膨張による応力緩和等の目的で、チタン単体やチタン合金等のチタンを主成分とする金属層を熱電変換層上に設ける場合がある。
特許文献1には、フィルドスクッテルダイト型の合金からなる熱電変換層を備える熱電素子において、熱電素子と電極との接合部での元素の拡散を抑制するために、熱電変換層の両端面に、チタンまたはチタン合金からなる金属層を設ける技術が開示されている。
特開2003−309294号公報
ところで、一般に、熱電モジュールでは、熱電素子に対して銀ペースト等の金属ペーストを介して電極が接続される。チタンを主成分とする金属層を備える熱電素子では、金属層に対して金属ペーストを介して電極を接続した場合に、熱電素子から電極が剥がれる場合がある。
本発明は、熱電変換層と、チタンを主成分とし熱電変換層に積層される金属層とを有する熱電素子において、金属ペーストを介して電極を接合した場合の電極の剥がれを抑制することを目的とする。
本発明の熱電素子は、熱電変換材料からなる熱電変換層と、チタンを主成分とする金属材料からなり、前記熱電変換層に積層される金属層と、窒化チタンを含み、前記金属層に積層される第1被覆層と、チタン単体を含み、前記第1被覆層に積層される第2被覆層と、銅、銀、金のいずれか一つ以上を含み、前記第2被覆層に積層され外部に露出する第3被覆層とを備える。
ここで、前記第2被覆層は、前記第1被覆層および前記第3被覆層と比較して薄いことを特徴とすることができる。
また、前記熱電変換層は、アンチモンを含むフィルドスクッテルダイト構造の合金からなることを特徴とすることができる。
さらに、前記熱電変換層は、REx(Fe1-yy4Sb12(REは、希土類元素から選ばれた少なくとも一種。Mは、Co、Niからなる群から選ばれた少なくとも1種。0.01≦x≦1、0≦y≦0.3)で表される、フィルドスクッテルダイト構造の合金からなり、前記金属層は、チタン単体および鉄単体を含み前記熱電変換層に積層される第1金属層と、チタン単体を含み当該第1金属層に積層され前記第1被覆層が積層される第2金属層とを有することを特徴とすることができる。
さらにまた、前記熱電変換層は、REx(Co1-yy4Sb12(REは、希土類元素から選ばれた少なくとも一種。Mは、Fe、Niからなる群から選ばれた少なくとも1種。0.01≦x≦1、0≦y≦0.3)で表される、フィルドスクッテルダイト構造の合金からなり、前記金属層は、チタン単体およびアルミニウム単体を含み前記熱電変換層に積層される第1金属層と、チタン単体を含み当該第1金属層に積層され前記第1被覆層が積層される第2金属層とを有することを特徴とすることができる。
また、本発明を他の観点で捉えると、本発明の熱電モジュールは、熱電変換材料からなる熱電変換層と、チタンを主成分とする金属材料からなり当該熱電変換層に積層される金属層と、窒化チタンを含み当該金属層に積層される第1被覆層と、チタン単体を含み当該第1被覆層に積層される第2被覆層と、銅、銀、金のいずれか一つ以上を含み当該第2被覆層に積層される第3被覆層とを有する熱電素子と、前記熱電素子の前記第3被覆層に対して金属ペーストを介して接合される電極とを備える。
本発明によれば、熱電変換層と、チタンを主成分とし熱電変換層に積層される金属層とを有する熱電素子において、金属ペーストを介して電極を接合した場合の電極の剥がれを抑制することができる。
本実施の形態が適用される熱電モジュールの一例を示した模式図である。 (a)〜(b)は、本実施の形態が適用されるp型熱電素子を示した模式図である。 (a)〜(b)は、本実施の形態が適用されるn型熱電素子を示した模式図である。 p型熱電素子に設けられた被覆層の構造を示した図である。
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
(熱電モジュール)
図1は、本実施の形態が適用される熱電モジュール1の一例を示した模式図である。
本実施の形態の熱電モジュール1は、図1に示すように、上下に対向する2枚の絶縁性の基板7の間に、複数のp型熱電素子2と、複数のn型熱電素子3とが配置されている。そして、複数のp型熱電素子2および複数のn型熱電素子3は、複数の電極4により交互に直列接続されるとともに、電極4を介してそれぞれの基板7に取り付けられている。また、直列接続される複数のp型熱電素子2および複数のn型熱電素子3のうち、一端に位置するp型熱電素子2および他端に位置するn型熱電素子3には、電極4を介してリード線6が接続されている。
なお、それぞれのp型熱電素子2およびn型熱電素子3の形状は、特に限定されるものではないが、通常、角柱状または円柱状である。図1に示す熱電モジュール1では、それぞれのp型熱電素子2およびn型熱電素子3は、角柱状の形状を有している。また、それぞれのp型熱電素子2およびn型熱電素子3の側面(電極4に接続されない面)は、例えば窒化チタン等からなる被覆層により被覆されていてもよい。
また、図示は省略するが、この熱電モジュール1では、一方の基板7(この例では、上側の基板7)に隣接して高温側熱交換器が配置され、他方の基板7(この例では、下側の基板7)に隣接して低温側熱交換器が配置される。
本実施の形態の熱電モジュール1では、矢印Xで示すように、高温側熱交換器により熱を加えるとともに、低温側熱交換器により熱を奪うことによって、各熱電素子(p型熱電素子2、n型熱電素子3)の高温側と低温側とに大きな温度差が生じて起電力が発生する。そして、2本のリード線6の間に電気抵抗負荷を与えることで、矢印Yで示すように電流が流れる。
なお、以下の説明では、熱電モジュール1において高温側熱交換器が設けられる側を単に高温側と称し、低温側熱交換器が設けられる側を単に低温側と称する場合がある。
(電極)
本実施の形態の電極4は、例えば銅や鉄等の高温における機械強度の高い金属により構成される。また、電極4として、例えば鉄の表面に銅をメッキ処理したものを用いてもよい。
(p型熱電素子)
続いて、本実施の形態が適用されるp型熱電素子2について説明する。図2(a)は、本実施の形態が適用されるp型熱電素子2の一例を示した模式図であり、図2(b)は、本実施の形態が適用されるp型熱電素子2の他の一例を示した模式図である。
図2(a)に示すように、本実施の形態のp型熱電素子2は、高温側と低温側との温度差により起電力が発生する熱電変換層の一例としてのp型熱電変換層21と、p型熱電変換層21の対向する2面に積層されるp側第1金属層22と、それぞれのp側第1金属層22上に積層される金属層の一例としてのp側第2金属層23とを備えている。さらに、本実施の形態のp型熱電素子2は、それぞれのp側第2金属層23上に積層されp側第2金属層23の表面を被覆する被覆層50を有している。
そして、本実施の形態のp型熱電素子2では、被覆層50上に、金属ペーストを介して上述した電極4(図1参照)が接合される。被覆層50の構造、および被覆層50に対する電極4の接合等については、後段にて詳細に説明する。
なお、図2(b)に示すように、p側第1金属層22は、p型熱電変換層21の対向する2つの面のうちいずれか一方の面のみに設けてもよい。この場合、p側第1金属層22が設けられない側の面には、p型熱電変換層21上にp側第2金属層23が直接、積層されるようになる。図2(b)に示す例のようにp側第1金属層22がp型熱電変換層21の一方の面のみに設けられる場合、p型熱電素子2は、p側第1金属層22が設けられる側を高温側に、p側第1金属層22が設けられない側を低温側にして配置する。
(p型熱電変換層)
本実施の形態のp型熱電変換層21は、例えばREx(Fe1-yy4Sb12(REは、希土類元素から選ばれた少なくとも一種。Mは、Co、Niからなる群から選ばれた少なくとも1種。0.01≦x≦1、0≦y≦0.3)で表される、アンチモンを含むフィルドスクッテルダイト型の合金からなる半導体が採用可能である。
ここで、REとしては、La、Ce、Nd、Pr、Ybのうち少なくとも1種を用いることが好ましい。
具体的に説明すると、本実施の形態のp型熱電変換層21を構成する、アンチモン(Sb)を含むフィルドスクッテルダイト型の合金では、Sbが八面体の頂点位置に配置され、FeおよびMがSbに囲まれた結晶構造をとっている(スクッテルダイト構造)。そして、スクッテルダイト構造をとるFe、MおよびSbの間に形成される空隙に、REが入り込んだ構造となっている。そして、本実施の形態のp型熱電変換層21では、通常、スクッテルダイト構造をとるFe、MおよびSbにより、熱電変換作用が生じる。
なお、p型熱電変換層21には、原料に含まれる不可避不純物を含んでいてもよい。p型熱電変換層21の結晶構造については、例えばX線回折等により確認することができる。
p型熱電変換層21として上述したフィルドスクッテルダイト構造の合金を用いる場合、xは、0.01以上1以下の範囲が好ましく、yは、0以上0.3以下の範囲が好ましい。
xが0.01未満であると、p型熱電変換層21の熱伝導度が増加し、p型熱電変換層21の高温側と低温側との温度差が小さくなるため、熱電変換効率が低下するおそれがある。また、xが1を超えると、結晶格子に入りきらない希土類元素が析出してp型熱電変換層21の電気特性が低下するおそれがある。
また、yが0.3を超えると、p型熱電変換層21のゼーベック係数が低下するおそれがある。
(p側第1金属層)
本実施の形態のp側第1金属層22は、鉄とチタンとの混合層により構成され、単体(純金属)の鉄および単体(純金属)のチタンを含んでいる。具体的に説明すると、p側第1金属層22は、鉄単体が塊状に存在する部分と、チタン単体が塊状に存在する部分とを含んでおり、これらが斑に混在している。
なお、p側第1金属層22において、例えば鉄単体とチタン単体との境界部分等に、鉄とチタンとの合金を含んでいてもよい。また、p側第1金属層22は、鉄およびチタン以外の金属等の不純物を含んでいてもよい。
本実施の形態のp側第1金属層22は、例えば、鉄の粉末とチタンの粉末とを焼結することにより形成される。なお、p側第1金属層22の作製方法等については、後述する。
本実施の形態のp型熱電素子2では、p側第1金属層22を設けることで、p型熱電変換層21からのアンチモンの拡散を抑制するとともに、p型熱電変換層21とp側第2金属層23との間で発生する熱応力を緩和することが可能になっている。
これにより、p型熱電素子2や熱電モジュール1の性能低下および破損が抑制される。
すなわち、本実施の形態のp側第1金属層22では、鉄が単体の状態で存在することで、p型熱電変換層21からアンチモンが遊離した場合に、アンチモンが鉄と反応して鉄アンチモン化合物が形成される。この結果、p型熱電変換層21からのアンチモンがp側第1金属層22にて捕捉され、p型熱電変換層21から被覆層50を介して電極4にアンチモンが拡散することを抑制できる。
これにより、本実施の形態のp型熱電素子2では、p型熱電変換層21の熱電性能の劣化および電極4の性能低下が抑制される。
なお、鉄アンチモン化合物は、通常、p型熱電変換層21に不純物として含まれる物質である。したがって、p側第1金属層22において鉄アンチモン化合物が生じた場合であっても、p型熱電素子2において、鉄アンチモン化合物による不具合は生じにくい。
また、通常、鉄は、約910℃以下の温度では、体心立方型の結晶構造を有する。また、上述したp型熱電変換層21を構成するフィルドスクッテルダイト型の合金も、体心立方型に似た結晶構造を有する。すなわち、本実施の形態のp型熱電変換層21は、p側第1金属層22に含まれる鉄と、結晶構造が近い。
そして、単体の鉄の線膨張率(約12×10−6/℃)は、フィルドスクッテルダイト型の合金からなるp型熱電変換層21の線膨張率と近い。また後述するように、本実施の形態のp側第2金属層23は、チタン(線膨張率:約8.4×10−6/℃)により構成されている。
この結果、本実施の形態では、p側第1金属層22が単体の鉄と単体のチタンとの混合層により構成されることで、p側第1金属層22の線膨張率が、p型熱電変換層21と比較して小さく、p側第2金属層23と比較して大きくなっている。
これにより、本実施の形態のp型熱電素子2では、p型熱電変換層21とp側第1金属層22との界面、およびp側第1金属層22とp側第2金属層23との界面において、良好な接合性を得ることができる。
また、例えば熱電モジュール1の使用時等においてp型熱電素子2が高温になり、p型熱電素子2の各層で熱膨張が起こった場合であっても、各層の界面での熱応力の発生を抑制でき、各層の破断や剥がれの発生を抑制することができる。
ここで、本実施の形態のp側第1金属層22では、チタンと比較して鉄の含有量が多いことが好ましい。鉄の含有量をチタンの含有量と比較して多くすることで、p側第1金属層22の線膨張率がp型熱電変換層21の線膨張率により近くなるため、p型熱電変換層21とp側第1金属層22との界面での剥がれ等をより抑制できる。
また、鉄の含有量をチタンの含有量と比較して多くすることで、p側第1金属層22においてアンチモンをより捕捉しやすくなり、p型熱電変換層21からのアンチモンの拡散をより抑制することが可能になる。
p側第1金属層22における鉄とチタンとの含有量比(重量比)は、特に限定されるものではないが、チタン:鉄=10:90〜40:60の範囲であることが好ましい。
p側第1金属層22の厚さは、例えば、20μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。また、p側第1金属層22の厚さは、例えば500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。
p側第1金属層22の厚さが500μmよりも厚い場合には、p型熱電素子2の厚さが厚くなりやすい。また、高温側熱交換器からp型熱電変換層21への熱の伝導、またはp型熱電変換層21から低温側熱交換器への熱の伝導が抑制され、p型熱電素子2における熱電変換効率が低下するおそれがある。
一方、p側第1金属層22の厚さが20μmよりも薄い場合には、p側第1金属層22による熱応力緩和やアンチモンの捕捉の効果が不十分になるおそれがある。
(p側第2金属層)
本実施の形態のp側第2金属層23は、チタンにより構成される。なお、p側第2金属層23には、チタン以外の金属や、チタンと他の金属との合金等が一部含まれていてもよい。
本実施の形態のp型熱電素子2では、p側第2金属層23を設けることで、p型熱電変換層21からのアンチモンの拡散や、電極4等からp型熱電変換層21、p側第1金属層22への元素の拡散を抑制することが可能になっている。
本実施の形態のp型熱電素子2では、上述したように、p側第1金属層22を設けることで、p型熱電変換層21からのアンチモンとp側第1金属層22に含まれる鉄とが反応し、p型熱電変換層21からのアンチモンをp側第1金属層22で捕捉することが可能である。
しかし、例えばp型熱電変換層21から拡散するアンチモンの量が多い場合や、p型熱電変換層21から継続してアンチモンが拡散するような場合等には、全てのアンチモンをp側第1金属層22で捕捉することが困難になる場合がある。
これに対し、本実施の形態では、チタンを含むp側第2金属層23を設けることで、p型熱電変換層21から遊離しp側第1金属層22で捕捉しきれなかったアンチモンをp側第2金属層23にて遮断することが可能になっている。これにより、p型熱電素子2において、p型熱電変換層21から被覆層50を介して電極4へアンチモンが拡散することを抑制できる。また、本実施の形態の熱電モジュール1では、p側第2金属層23を設けることで、電極4からp型熱電素子2への元素の拡散を抑制することができる。
この結果、p型熱電素子2のp型熱電変換層21における熱電変換効率の低下や、電極4の性能低下を抑制することができる。
なお、本実施の形態のp型熱電素子2では、p型熱電変換層21から遊離したアンチモンとp側第2金属層23のチタンとが反応することで、p側第2金属層23のうち被覆層50に接する側にチタンとアンチモンとの合金からなる反応層が形成される場合がある。
この反応層も、p型熱電変換層21からのアンチモンの拡散を抑制する。
p側第2金属層23の厚さは、例えば、20μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。また、p側第2金属層23の厚さは、例えば、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。
p側第2金属層23の厚さが500μmよりも厚い場合には、p型熱電素子2が厚くなり、熱電モジュール1が大型化しやすい。
また、p側第2金属層23の厚さが20μmよりも薄い場合には、p型熱電素子2と被覆層50、電極4との間での元素の拡散を抑制する効果が不十分になるおそれがある。
(n型熱電素子)
続いて、本実施の形態が適用されるn型熱電素子3について説明する。図3(a)は、本実施の形態が適用されるn型熱電素子3の一例を示した断面模式図であり、図3(b)は、本実施の形態が適用されるn型熱電素子3の他の一例を示した断面模式図である。
図3(a)に示すように、本実施の形態のn型熱電素子3は、高温側と低温側との温度差により起電力が発生する熱電変換層の他の一例としてのn型熱電変換層31と、n型熱電変換層31上に積層されn型熱電変換層31を挟んで対向するn側第1金属層32と、n側第1金属層32上に積層される金属層の他の一例としてのn側第2金属層33とを備えている。さらに、本実施の形態のn型熱電素子3は、それぞれのn側第2金属層33上に積層されn側第2金属層33の表面を被覆する被覆層50を有している。
そして、本実施の形態のn型熱電素子3では、被覆層50上に、銀ペーストを介して上述した電極4(図1参照)が接続される。n型熱電素子3における被覆層50は、上述したp型熱電素子2における被覆層50と同様の構造を有している。
なお、図3(b)に示すように、本実施の形態のn型熱電素子3では、n側第2金属層33を設けることなく、n型熱電変換層31上にn側第1金属層32のみを設けてもよい。この場合、n側第1金属層32が金属層を構成する。
本実施の形態のn型熱電素子3では、上述したp型熱電素子2と比較して、n型熱電変換層31の熱膨張率が小さいため、n側第2金属層33を設けない場合であっても割れ等が生じにくいからである。さらに、上述したp型熱電素子2のp型熱電変換層21と比較して、n型熱電変換層31はアンチモンが遊離しにくいので、n側第1金属層32のみでもアンチモンの拡散を抑制することができる。
図3(b)に示すn型熱電素子3のように、n型熱電変換層31上にn側第1金属層32のみを設ける場合、被覆層50は、n側第1金属層32上に積層されn側第1金属層32の表面を被覆する。
(n型熱電変換層)
本実施の形態のn型熱電変換層31は、REx(Co1-yy4Sb12(REは、希土類元素から選択される少なくとも1種。Mは、Fe、Niからなる群から選ばれた少なくとも1種。0.01≦x≦1、0≦y≦0.3)で表されるフィルドスクッテルダイト型の合金からなる半導体が採用可能である。この合金中には、原料に含まれる不可避不純物を含んでいてもよい。
ここで、REとしては、La、Ce、Nd、Pr、Ybのうち少なくとも1種を用いることが好ましい。
n型熱電変換層31として上述したフィルドスクッテルダイト型の合金を用いる場合、xは、0.01以上1以下の範囲が好ましく、yは、0以上0.3以下の範囲が好ましい。
xが0.01未満であると熱伝導度が増加するため、n型熱電素子3の特性が低下するおそれがある。また、xが1を超えると、n型熱電変換層31の電気特性が低下するおそれがある。
さらに、yが0.3を超えると、ゼーベック係数が低下するおそれがある。
(n側第1金属層)
n側第1金属層32は、例えば、チタンとコバルトとの混合層またはチタンとアルミニウムとの混合層により構成される。
n側第1金属層32は、上述した構成を有することで、線膨張率が、n型熱電変換層31と比較して小さく、またn側第2金属層33と比較して大きくなる。これにより、熱膨張によりn型熱電変換層31が変形した場合に、n型熱電変換層31とn側第2金属層33との間の熱応力を緩和することが可能になる。
なお、n側第1金属層32の厚さは、例えば20μm以上200μm以下の範囲とすることができる。
(n側第2金属層)
n側第2金属層33は、n型熱電変換層31からのアンチモンの拡散を抑制するために設けられ、p側第2金属層23と同様に、チタンから構成される。なお、n側第2金属層33には、チタン以外の金属や、チタンと他の金属との合金等が含まれていてもよい。
n側第2金属層33の厚さは、例えば20μm以上500μm以下の範囲とすることができる。
(被覆層)
続いて、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に設けられる被覆層50の構造について説明する。図4は、p型熱電素子2に設けられた被覆層50の構造を示した図である。なお、図4には、図2(a)に示したp型熱電素子2に設けられた被覆層50を示しているが、図2(b)に示したp型熱電素子2、図3(a)〜(b)に示したn型熱電素子3に設けられた被覆層50も同様の構成を有する。
図4に示すように、本実施の形態の被覆層50は、p側第2金属層23側から、第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53が順に積層された構造を有する。詳細については後述するが、本実施の形態の第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53は、PVD(Physical Vapor Deposition)法により一連のバッチ処理にて形成される。
(第1被覆層)
第1被覆層51は、図4に示すように、p側第2金属層23の表面に積層される。なお、図示は省略するが、図3(a)に示したn型熱電素子3においては、第1被覆層51は、n側第2金属層33の表面に積層される。また、図3(b)に示したn型熱電素子3においては、第1被覆層51は、n側第1金属層32の表面に積層される。
本実施の形態の第1被覆層51は、窒化チタン(TiN)により構成される。
本実施の形態の第1被覆層51は、p側第2金属層23(n側第1金属層32、n側第2金属層33)に対する被覆層50の密着性を向上させるために設けられる。
上述したように、p側第2金属層23は、チタンにより構成される。第1被覆層51を構成する窒化チタンは、p側第2金属層23を構成するチタンとの密着性が高い。このため、本実施の形態では、第1被覆層51を設けることにより、p側第2金属層23からの被覆層50の剥がれが抑制される。
第1被覆層51の厚さは、1μm以上10μm以下の範囲であることが好ましく、2μm以上5μm以下の範囲であることがより好ましい。第1被覆層51の厚さが1μm未満である場合、p側第2金属層23、n側第2金属層33またはn側第1金属層32に対する被覆層50の密着性が低下するおそれがある。また、第1被覆層51の厚さが10μmよりも厚い場合、第1被覆層51の積層に要する時間が長くなりやすく、熱電モジュール1のコストが高くなりやすい。
(第2被覆層)
第2被覆層52は、図4に示すように、被覆層50において第1被覆層51と第3被覆層53との間に設けられる。本実施の形態の第2被覆層52は、チタンにより構成される。
本実施の形態の第2被覆層52は、第1被覆層51に対して第3被覆層53の密着性を向上させるために設けられる層である。後述するように、被覆層50に対する銀ペーストの濡れ性を向上させるため、第3被覆層53は銅、銀、金のいずれか一つ以上を含む金属により構成される。銅、銀および金は第1被覆層51を構成する窒化チタンに対して密着性が悪いため、第1被覆層51に直接、銅、銀または金からなる第3被覆層53を積層した場合、剥がれが生じる場合がある。
これに対し、チタンは、第1被覆層51を構成する窒化チタン、および第3被覆層53を構成する銅に対して密着性が高い。したがって、本実施の形態の被覆層50では、チタンからなる第2被覆層52を設けることで、第1被覆層51と第2被覆層52との間、第2被覆層52と第3被覆層53との間での剥がれが抑制される。
本実施の形態の被覆層50では、第2被覆層52は、厚さが、第1被覆層51および第3被覆層53と比較して薄くなっている。第2被覆層52の厚さは0.1μm以上1μm以下の範囲であることが好ましい。
第2被覆層52の厚さが0.1μmよりも薄い場合、第2被覆層52を設けることによる剥がれ抑制の効果が不十分になるおそれがある。
また第2被覆層52の厚さが1μmよりも厚い場合、第2被覆層52に対する第3被覆層53の密着性が低下するおそれがある。
(第3被覆層)
第3被覆層53は、図4に示すように、第2被覆層52上に積層される。また、p型熱電素子2またはn型熱電素子3(図1参照)に電極4(図1参照)が接合されていない状態では、第3被覆層53は、第2被覆層52に接する面とは反対側の面が、外部に露出するようになっている。
本実施の形態の第3被覆層53は、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)を含む金属により構成される。
本実施の形態の第3被覆層53は、p型熱電素子2またはn型熱電素子3に銀ペースト等の金属ペーストを介して電極4を取り付ける際に、金属ペーストの濡れ性を向上させ、p型熱電素子2またはn型熱電素子3と電極4との接合性を向上させるために設けられる層である。
第3被覆層53の厚さは、1μm以上10μm以下の範囲であることが好ましく、2μm以上5μm以下の範囲であることがより好ましい。第3被覆層53の厚さが1μm未満である場合、金属ペーストの濡れ性を向上させる効果が不十分になるおそれがある。また、第3被覆層53の厚さが10μmよりも厚い場合、第3被覆層53の積層に要する時間が長くなりやすく、熱電モジュール1のコストが高くなりやすい。
<熱電素子の製造方法>
続いて、本実施の形態の熱電素子の製造方法について説明する。ここでは、図2(a)に示したp型熱電素子2を製造する場合を例に挙げて説明するが、図2(b)に示したp型熱電素子2や、図3(a)〜(b)に示したn型熱電素子3も同様の方法で製造することができる。
本実施の形態のp型熱電素子2を製造するには、まず、p型熱電変換層21の材料となる合金粉末を作製する。続いて、作製したp型熱電変換層21の材料となる合金粉末、p側第1金属層22およびp側第2金属層23の材料となる金属粉末を焼結して、焼結体を得る。さらに続いて、得られた焼結体に対して被覆層50を形成する。その後、被覆層50が形成された焼結体を所望の大きさに切断することで、図2(a)に示したp型熱電素子2が得られる。以下、それぞれの工程について説明する。
(合金粉末の作製)
p型熱電変換層21の材料となる合金粉末は、例えば以下のように鋳造により調製することができる。
まず、p型熱電変換層21を構成する合金粉末の材料となる、RE(希土類元素から選択される少なくとも1種)、鉄、M(Co、Niからなる群から選ばれた少なくとも1種)およびアンチモンのそれぞれを秤量し混合する。ここで、それぞれの材料の混合比は、後の工程等における損失を考慮し、最終的に得るp型熱電変換層21の化学量論的組成比よりもアンチモンを過剰に配合することが好ましい。
アンチモンは、拡散しやすく、またp型熱電変換層21においてアンチモンが不足した場合、p型熱電変換層21における熱電変換効率の低下等の不具合が生じやすいからである。
続いて、秤量した各材料を、アルミナ等からなるるつぼ内に入れて加熱し、溶融させる。なお、溶融温度は、例えば1450℃程度とすることができる。次いで、溶融した材料を、ストリップキャスト法を用いて急冷し合金化させる。ストリップキャスト法では、アルゴン雰囲気中にて溶融した材料を、水冷した回転ロールに注いで冷却し、厚み0.1mm〜0.5mm程度の急冷凝固合金を得る。冷却速度は、例えば500℃/秒〜2000℃/秒の範囲とすることができる。
そして、得られた急冷凝固合金を粉砕することで、p型熱電変換層21の材料となる、RE(希土類元素から選択される少なくとも1種)、鉄、M(Co、Niからなる群から選ばれた少なくとも1種)およびアンチモンを含む合金粉末を得ることができる。
なお、p型熱電変換層21の材料となる粉末を調製する方法は、上述した方法に限られず、例えばアトマイズ法等により調製してもよい。また、秤量したRE(希土類元素から選択される少なくとも1種)、鉄、M(Co、Niからなる群から選ばれた少なくとも1種)およびアンチモンの粉末を混合した混合粉末を焼成し、粉砕したものをp型熱電変換層21の材料として用いてもよい。
(焼結体の作製)
次に、p側第2金属層23を構成するチタン粉末を秤量し、グラファイト等からなる焼結用のダイス内に入れる。続いて、p側第1金属層22を構成するチタン粉末および鉄粉末を秤量し、混合する。そして、この混合粉末を、ダイス内に入れられたp側第2金属層23を構成するチタン粉末上に積層する。
次いで、上記のように作製したp型熱電変換層21を構成する合金粉末を、ダイス内に積層されたp側第2金属層23を構成するチタン粉末およびp側第1金属層22を構成する混合粉末上に積層する。
その後、さらにp側第1金属層22を構成するチタン粉末と鉄粉末との混合粉末、p側第2金属層23を構成するチタン粉末を順にダイス内に入れる。
これにより、ダイス内に、p側第2金属層23、p側第1金属層22、p型熱電変換層21、p側第1金属層22およびp側第2金属層23のそれぞれを構成する粉末状の材料が、順に積層された状態となる。
続いて、真空中またはアルゴン等の不活性ガス中で、ダイス内に積層されたこれらの粉末を各層の積層方向に加圧しながらパルス電流を印加し、焼結(放電プラズマ焼結)する。加える圧力の大きさは、例えば、60MPa程度とすることができる。また、電流の印加により、積層された各材料の温度は、約600℃〜700℃程度になる。
これにより、p側第2金属層23、p側第1金属層22、p型熱電変換層21、p側第1金属層22およびp側第2金属層23が順次積層され一体化したウエハ状の焼結体を得ることができる。
(被覆層の作製)
続いて、ウエハ状の焼結体におけるp側第2金属層23上に、被覆層50を形成する。本実施の形態では、スパッタや真空蒸着等のPVD(Physical Vapor Deposition)法により被覆層50を形成する。ここでは、スパッタ法を用い、同一のバッチ処理にて、被覆層50を構成する第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53を形成する。言い換えると、p側第2金属層23上に、第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53を、この順で連続的に形成する。
まず、プラズマ焼結により作製したウエハ状の焼結体を、スパッタ装置に収容する。この際、焼結体の両面に形成されたp側第2金属層23のうちの一方が、スパッタターゲットに対向するように、焼結体を設置する。
そして、スパッタターゲットとしてTiターゲットを用い、アルゴンガスと窒素ガスとの混合ガス雰囲気下でスパッタを行い、p側第2金属層23上に、窒化チタンからなる第1被覆層51を形成する。
なお、スパッタターゲットとして窒化チタンを用い、アルゴンガス雰囲気下でスパッタを行うことで窒化チタンからなる第1被覆層51を形成してもよい。
次に、第1被覆層51が形成された焼結体をスパッタ装置に収容したまま、引き続いて第2被覆層52を形成する。具体的には、まず、第1被覆層51が形成された焼結体を収容したままスパッタ装置内のアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスを排気し、アルゴンガスに置換する。続いて、第1被覆層51がスパッタターゲットに対向した状態で、スパッタターゲットとしてTiターゲットを用い、アルゴンガス雰囲気下でスパッタを行う。これにより、第1被覆層51上にチタンからなる第2被覆層52を形成する。
次いで、第1被覆層51および第2被覆層52が形成された焼結体をスパッタ装置に収容したまま、引き続いて第3被覆層53を形成する。具体的には、まず、スパッタ装置を開けて、第1被覆層51および第2被覆層52が形成された焼結体を収容したままTiターゲットをCuターゲットに交換する。次に、スパッタ装置を閉じて、スパッタ装置内を真空引きする。続いて、第2被覆層52がスパッタターゲットに対向した状態で、Cuターゲットを用い、アルゴンガス雰囲気下でスパッタを行う。これにより、第2被覆層52上に銅からなる第3被覆層53を形成する。また、Cuターゲットの代わりにAgターゲットまたはAuターゲットを用いて、第2被覆層52上に銀または金からなる第3被覆層53を形成してもよい。
なお、複数のターゲットを設置できるスパッタ装置を用いて、第2被覆層52と第3被覆層53とを連続して形成してもよい。
以上より、ウエハ状の焼結体に形成された一方のp側第2金属層23上に、第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53が積層された被覆層50が形成される。続いて、被覆層50が形成されていない他方のp側第2金属層23がスパッタターゲットに対向するように、焼結体をスパッタ装置に収容し、上記と同様の処理により被覆層50を形成する。
本実施の形態では、第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53を一連のバッチ処理で形成することで、被覆層50の各層間での密着性が向上する。また、第1被覆層51と第2被覆層52との間、第2被覆層52と第3被覆層53との間に不純物等が入り込むことが抑制される。これにより、例えば第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53を異なる処理で形成する場合と比較して、被覆層50の各層の剥がれが抑制される。
また、第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53を異なる処理で形成する場合と比較して、p型熱電素子2およびn型熱電素子3の製造工程が簡略化される。
(切断)
続いて、被覆層50が形成されたウエハ状の焼結体を切断し、複数のp型熱電素子2に分割する。焼結体の切断方法としては特に限定されないが、ワイヤソーやブレードソー等が用いられる。また、分割後の各焼結体の形状は、例えば直方体状とすることができる。
以上の工程を経ることで、図2(a)に示したp型熱電素子2が得られる。
なお、上記の例では、ウエハ状の焼結体に被覆層50を形成した後、被覆層50が形成された焼結体を切断・分割することで、p型熱電素子2を得る例について説明した。しかし、例えばウエハ状の焼結体を複数に切断・分割した後、個々の焼結体に対して被覆層50を形成し、p型熱電素子2を得てもよい。
<熱電モジュールの製造方法>
続いて、上述した方法で作製したp型熱電素子2およびn型熱電素子3を用いて熱電モジュール1を作製する方法の一例について説明する。
熱電モジュール1を作製するには、まず、p型熱電素子2とn型熱電素子3とが交互に直列的に接続されるように、金属ペーストを用いてp型熱電素子2およびn型熱電素子3に電極4を接合する。電極4の接合に用いる金属ペーストとしては、銀ペースト、金ペースト、白金ペースト等を用いることができ、これらの中でも銀ペーストを用いることが好ましい。ここでは、銀ペーストを用いて電極4を接合する場合について説明する。
まず、電極4上に所定量の銀ペーストを塗布する。
続いて、電極4に塗布された銀ペースト上にp型熱電素子2およびn型熱電素子3を載せ、予め定めた第1圧力(例えば1MPa)で加圧しながら、予め定めた第1温度(例えば100℃)の真空雰囲気下で所定時間(例えば15分間)保持する。これにより、銀ペーストに含まれる有機溶媒を揮発させる。
次に、温度を第1温度から第2温度(例えば500℃)に上昇させ、第1圧力よりも高い第2圧力(例えば3.7MPa)で加圧しながら、所定時間(例えば30分間)保持する。これにより、銀ペーストに含まれる銀粒子同士が凝集し、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に対して銀ペーストにより電極4が接合される。
続いて、電極4にリード線6を接続するとともに、セラミック等からなる絶縁性の基板7に貼り付け、図1に示した熱電モジュール1を得る。
ところで、従来、熱電素子に金属ペーストを介して電極を接合する場合、熱電素子から電極が剥がれたり、熱電素子と電極との間に隙間ができたりする場合がある。
具体的に説明すると、本実施の形態のp型熱電素子2およびn型熱電素子3のように、熱電変換層(p型熱電変換層21、n型熱電変換層31)としてフィルドスクッテルダイト構造の合金を用いる場合、例えば元素の拡散を抑制する等の目的で、熱電変換層の両面にチタンを主成分とする金属層を設ける場合がある。このような熱電素子では、チタンを主成分とする金属層の金属ペーストに対する濡れ性、密着性が悪いため、上述したように、熱電素子からの電極の剥がれ等が生じやすくなる。
一般に、銀ペースト等の金属ペーストは、金属や合金に対する濡れ性、密着性が高いものである。
しかしながら、従来の熱電素子では、製造工程等において、チタンを主成分とする金属層の表面が酸化等の変性を起こし、金属層の表面に酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン等が生じたため、金属ペーストの濡れ性や密着性が低下したものと推測される。そして、熱電素子において金属層の金属ペーストに対する濡れ性、密着性が低下することで、従来の熱電素子では、上述したような電極の剥がれ等が生じるものと推測される。
これに対し、本実施の形態のp型熱電素子2およびn型熱電素子3では、第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53が積層された被覆層50を設けることで、電極4の剥がれが抑制される。
すなわち、本実施の形態では、被覆層50の最表面に設けられp型熱電素子2およびn型熱電素子3の外部に露出する第3被覆層53は、銅、銀、金のいずれか一つ以上を含む金属により構成される。銅、銀および金は、銀ペースト等の金属ペーストに対する濡れ性、密着性が高い。
これにより、銀ペースト等の金属ペーストを介してp型熱電素子2およびn型熱電素子3に対して電極4を接合する際に、p型熱電素子2およびn型熱電素子3と電極4との間に、金属ペーストが存在しない空隙が形成されることが抑制される。これにより、金属ペーストを介して電極4と第3被覆層53とが強固に接合されることになり、p型熱電素子2およびn型熱電素子3からの電極4の剥がれが抑制される。
また、本実施の形態の被覆層50では、p型熱電素子2のp側第2金属層23、n型熱電素子3のn側第2金属層33またはn側第1金属層32上に設けられる第1被覆層51は、窒化チタンにより構成される。窒化チタンは、チタンや、酸化チタン、窒化チタン、炭化チタン等に対する密着性が高い。
さらに、本実施の形態の被覆層50では、第1被覆層51と第3被覆層53との間に設けられる第2被覆層52は、チタン単体により構成される。チタン単体は、第1被覆層51を構成する窒化チタン、および第3被覆層53を構成する銅、銀、金のいずれか一つ以上を含む金属の双方に対する密着性が高い。
これにより、本実施の形態では、p型熱電素子2およびn型熱電素子3と被覆層50との間、被覆層50における第1被覆層51と第2被覆層52の間、および被覆層50における第2被覆層52と第3被覆層53との間で、剥がれが生じることが抑制される。
以上説明したように、本実施の形態では、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に被覆層50を設けることで、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に金属ペーストを介して電極4を接合した場合に、電極4の剥がれが抑制される。
これにより、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に被覆層50を設けない場合と比較して、熱電モジュール1の耐久性が向上する。
また、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に対して電極4を接合する際に、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に被覆層50を設けない場合と比較して、低温、低圧力で電極4を接合することが可能になる。これにより、高温、高圧力を加えることによるp型熱電変換層21またはn型熱電変換層31の変形が抑制される。
なお、本実施の形態では、p側第1金属層22およびp側第2金属層23の双方を備えたp型熱電素子2(図2(a)〜(b)参照)、n側第1金属層32およびn側第2金属層33の双方を備えたn型熱電素子3(図3(a)参照)、およびn側第1金属層32を備えたn型熱電素子3(図3(b)参照)を例に挙げて説明した。
しかし、熱電変換層(p型熱電変換層21およびn型熱電変換層31)に対してチタンを主成分とする金属層が積層された熱電素子では、金属層に対して金属ペーストを介して電極を接合した場合に上述した課題が生じうる。したがって、少なくとも熱電変換層と、チタンを主成分とする金属層と、金属層上に積層された被覆層50とを有する熱電素子であれば、熱電素子の構成は上述したものに限定されない。
なお、本実施の形態においてチタンを主成分とする金属層とは、チタンを原子比で最も多く含む金属材料からなる層を意味し、チタン単体、チタン合金、チタンと他の金属との固溶体等を含む。
続いて、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(1)p型熱電素子2の作製
上述したストリップキャスト法により、プラセオジム、ネオジム、鉄、ニッケル、アンチモンをそれぞれ1.2%、3.4%、20.3%、3.6%、71.5%の比(原子比)で含み、平均粒子径が100μmのp型熱電変換層21の材料粉末を作製した。ここで、材料の溶解および冷却は、大気圧のアルゴン雰囲気下で行い、溶融温度を1450℃、冷却速度を500℃〜2000℃/秒、ロールの回転速度を1.0m/秒とした。
続いて、直径3cmの黒鉛製のダイス内に、平均粒子径15μmのチタン粉末からなるp側第2金属層23の材料粉末と、平均粒子径15μmのチタン粉末および平均粒子径100μmの鉄粉末をTi:Fe=16:84の比(重量比)で含むp側第1金属層22の材料粉末と、上記で作製したp型熱電変換層21の材料粉末と、上記p側第1金属層22の材料粉末と、上記p側第2金属層23の材料粉末とを、この順序で入れた。
続いて、焼結温度600℃、焼結圧力60MPaの条件で放電プラズマ焼結を行い、アンチモンを含むフィルドスクッテルダイト型の合金からなるp型熱電変換層21の上下両端面に、鉄およびチタンの焼結体からなり鉄およびチタンを単体の状態で含むp側第1金属層22と、チタンの焼結体からなるp側第2金属層23とが積層されたウエハ状の焼結体を作製した。
ここで、p型熱電変換層21の厚さは約4mmであり、p側第1金属層22の厚さは約0.2mmであり、p側第2金属層23の厚さは0.1mmであった。
続いて、得られたウエハ状の焼結体をワイヤソーにより切断し、縦3.7mm、横3.7mm、高さ4.6mmの個別の焼結体を得た。
次に、上述したPVD法、より具体的には一連のスパッタ法により、焼結体のp側第2金属層23上に第1被覆層51として窒化チタン、第2被覆層52としてチタンおよび第3被覆層53として銅を順に積層し、被覆層50を形成した。
ここで、第1被覆層51の積層は、フローガスとして窒素ガス(125cm3/min)とアルゴンガス(75cm3/min)との混合ガスを供給して圧力を2.6Paとし、雰囲気温度を450℃として、30分間行った。
また、第2被覆層52の積層は、フローガスとしてアルゴンガス(75cm3/min)を供給して圧力を2.2Paとし、雰囲気温度を450℃として、5分間行った。
さらに、第3被覆層53の積層は、フローガスとしてアルゴンガス(75cm3/min)を供給して圧力を2.2Paとし、雰囲気温度を450℃として、30分間行った。
以上の工程により、図2(a)に示した積層構造を有するp型熱電素子2を得た。
ここで、被覆層50における第1被覆層51の厚さは2μm〜5μmであり、第2被覆層52の厚さは1μmであり、第3被覆層53の厚さは2μm〜5μmであった。
(2)n型熱電素子3の作製
上述したストリップキャスト法により、バリウム、鉄、イッテルビウム、コバルト、アンチモンをそれぞれ0.4%、1.4%、1.4%、23.2%、73.6%の比(原子比)で含み、平均粒子径が100μmのn型熱電変換層31の材料粉末を作製した。ここで、材料の溶解および冷却は、大気圧のアルゴン雰囲気下で行い、溶融温度を1450℃、冷却速度を500℃〜2000℃/秒、ロールの回転速度を1.0m/秒とした。
続いて、直径3cmの黒鉛製のダイス内に、平均粒子径44μmのチタン粉末および平均粒子径5μmのアルミニウム粉末をTi:Al=9:1の比(重量比)で含むn側第1金属層32の材料粉末と、上記で作製したn型熱電変換層31の材料粉末と、上記n側第1金属層32の材料粉末とを、この順序で入れた。
続いて、焼結温度700度、焼結圧力60MPaの条件で放電プラズマ焼結を行い、アンチモンを含むフィルドスクッテルダイト型の合金からなるn型熱電変換層31の上下両端面に、アルミニウム及びチタンの焼結体からなりアルミニウムおよびチタンを単体の状態で含むn側第1金属層32が積層された焼結体を作製した。
ここで、n型熱電変換層31の厚さは約4mmであり、n側第1金属層32の厚さは約0.3mmであった。
続いて、得られたウエハ状の焼結体をワイヤソーにより切断し、縦3.7mm、横3.7mm、高さ4.6mmの個別の焼結体を得た。
次いで、上述したp型熱電素子2と同様にして、それぞれの焼結体のn側第1金属層32上に、第1被覆層51、第2被覆層52および第3被覆層53の積層構造からなる被覆層50を形成した。
以上より、図3(b)に示した積層構造を有するn型熱電素子3を得た。
(3)熱電モジュール1の作製
幅4.1mm、長さ8.8mm、厚さ0.5mmの銅からなる電極4上に、銀ペーストを厚さ20μm〜50μmとなるように塗布した。続いて、18対のp型熱電素子2およびn型熱電素子3を、塗布した銀ペースト上に載せ、1MPaの圧力で加圧しながら、100℃の真空雰囲気下で15分間保持した。続いて、温度を500℃に上昇させ、3.7MPaの圧力で加圧しながら、30分間保持した。
これにより、18対のp型熱電素子2およびn型熱電素子3を電極4により直列に接続し、縦30mm、横30mm、高さ6mmの熱電モジュール1を得た。
(実施例2)
第3被覆層53を銀層とした以外は実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3を得た。銀層からなる第3被覆層53の厚さは、5μmとした。
また、実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に電極4を取り付け、熱電モジュール1を得た。
(実施例3)
第3被覆層53を金層とした以外は実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3を得た。金層からなる第3被覆層53の厚さは、5μmとした。
また、実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に電極4を取り付け、熱電モジュール1を得た。
(比較例1)
被覆層50を、単層の炭化チタン(TiC)層とした以外は実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3を得た。炭化チタン層の厚さは5μmとした。
また、実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に電極4を取り付け、熱電モジュール1を得た。
(比較例2)
被覆層50を、p型熱電素子2のp側第2金属層23側またはn型熱電素子3のn側第1金属層32側から順に積層される、窒化チタン(TiN)層と炭窒化チタン(TiCN)層と炭化チタン(TiC)層との積層構造とした以外は実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3を得た。窒化チタン層の厚さは5μm、炭窒化チタン層の厚さは1μm、炭化チタン層の厚さは5μmとした。
また、実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に電極4を取り付け、熱電モジュール1を得た。
(比較例3)
被覆層50を、単層の窒化チタン(TiN)層とした以外は実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3を得た。窒化チタン層の厚さは5μmとした。
また、実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に電極4を取り付け、熱電モジュール1を得た。
(比較例4)
被覆層50を、p型熱電素子2のp側第2金属層23側またはn型熱電素子3のn側第1金属層32側から順に積層される、窒化チタン(TiN)層と銀(Ag)層との積層構造とした以外は実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3を得た。窒化チタン層の厚さは5μmとし、銀層の厚さは5μmとした。
また、実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に電極4を取り付け、熱電モジュール1を得た。
(比較例5)
被覆層50を、p型熱電素子2のp側第2金属層23側またはn型熱電素子3のn側第1金属層32側から順に積層される、窒化チタン(TiN)層と銅(Cu)層との積層構造とした以外は実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3を得た。窒化チタン層の厚さは5μmとし、銅層の厚さは5μmとした。
また、実施例1と同様にして、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に電極4を取り付け、熱電モジュール1を得た。
(評価)
実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例5で得られたp型熱電素子2、n型熱電素子3および熱電モジュール1について、以下の基準で評価を行った。
(1)被覆層50の密着性の評価
実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例5のp型熱電素子およびn型熱電素子3に形成された被覆層50の密着性を評価した。具体的には、p型熱電素子2のp側第2金属層23に対する被覆層50の密着性、およびn型熱電素子3のn側第1金属層32に対する被覆層50の密着性を、それぞれ目視により評価した。
評価は以下の基準で行った。
A:密着性が良好。被覆層50の剥がれが見られない。
C:密着性が不良。被覆層50のひび割れや剥がれが見られる。
(2)銀ペーストの濡れ性の評価
実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例5の熱電モジュール1について、p型熱電素子2およびn型熱電素子3それぞれの被覆層50に対する銀ペーストの濡れ性を目視により評価した。
評価は以下の基準で行った。
A:濡れ性良好。被覆層50と電極4との間に、隙間が見られない。
B:濡れ性不十分。被覆層50と電極4との間に、隙間が見られる。
C:p型熱電素子2、またはn型熱電素子3に対して電極4が接合できない。電極の剥がれ、またはp型熱電素子2、n型熱電素子3の変形が見られる。
(3)電極4の接合性の評価
実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例5の熱電モジュール1について、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に対する電極4の接合性をピーリング試験により評価した。具体的には、p型熱電素子2およびn型熱電素子3に接合された電極4に粘着テープを貼り付けた後、粘着テープを剥がした際に、p型熱電素子2およびn型熱電素子3から電極4が剥がれるか否かを観察し、評価を行った。
評価は以下の基準で行った。
A:ピーリング試験により電極の剥がれが生じない。
C:ピーリング試験により電極の剥がれが生じる。
(評価結果)
表1に、実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例5のそれぞれにおける被覆層50の構成と評価結果との関係を示した。
Figure 0006433245
表1に示すように、実施例1〜実施例3のp型熱電素子2およびn型熱電素子3では、被覆層50の密着性、銀ペーストの濡れ性および電極4の接合性が、何れも良好であることが確認された。
これに対し、比較例1では、p型熱電素子2において、被覆層50にひび割れが見られ、p側第2金属層23と被覆層50との密着性が不十分であることが確認された。
また、比較例2および比較例3では、p型熱電素子2およびn型熱電素子3の双方において電極4が接合されず、p型熱電素子2およびn型熱電素子3の変形が確認された。
さらに、比較例4では、p型熱電素子2およびn型熱電素子3の双方において電極4が接合されず、p型熱電素子2のp側第2金属層23、n型熱電素子3のn側第1金属層32から電極4の剥がれが確認された。
さらにまた、比較例5では、p型熱電素子2において、銀ペーストの濡れ性が不十分であり、p側第2金属層23と電極4との間に隙間が確認された。また、n型熱電素子3では、電極の接続強度が不足しており、ピーリング試験により電極の剥がれが確認された。
1…熱電モジュール、2…p型熱電素子、3…n型熱電素子、4…電極、21…p型熱電変換層、22…p側第1金属層、23…p側第2金属層、31…n型熱電変換層、32…n側第1金属層、33…n側第2金属層、50…被覆層、51…第1被覆層、52…第2被覆層、53…第3被覆層

Claims (6)

  1. 熱電変換材料からなる熱電変換層と、
    チタンを主成分とする金属材料からなり、前記熱電変換層に積層される金属層と、
    窒化チタンを含み、前記金属層に積層される第1被覆層と、
    チタン単体を含み、前記第1被覆層に積層される第2被覆層と、
    銅、銀、金のいずれか一つ以上を含み、前記第2被覆層に積層され外部に露出する第3被覆層と
    を備える熱電素子。
  2. 前記第2被覆層は、前記第1被覆層および前記第3被覆層と比較して薄いことを特徴とする請求項1に記載の熱電素子。
  3. 前記熱電変換層は、アンチモンを含むフィルドスクッテルダイト構造の合金からなることを特徴とする請求項1または2に記載の熱電素子。
  4. 前記熱電変換層は、REx(Fe1-yy4Sb12(REは、希土類元素から選ばれた少なくとも一種。Mは、Co、Niからなる群から選ばれた少なくとも1種。0.01≦x≦1、0≦y≦0.3)で表される、フィルドスクッテルダイト構造の合金からなり、
    前記金属層は、チタン単体および鉄単体を含み前記熱電変換層に積層される第1金属層と、チタン単体を含み当該第1金属層に積層され前記第1被覆層が積層される第2金属層とを有することを特徴とする請求項3に記載の熱電素子。
  5. 前記熱電変換層は、REx(Co1-yy4Sb12(REは、希土類元素から選ばれた少なくとも一種。Mは、Fe、Niからなる群から選ばれた少なくとも1種。0.01≦x≦1、0≦y≦0.3)で表される、フィルドスクッテルダイト構造の合金からなり、
    前記金属層は、チタン単体およびアルミニウム単体を含み前記熱電変換層に積層される第1金属層と、チタン単体を含み当該第1金属層に積層され前記第1被覆層が積層される第2金属層とを有することを特徴とする請求項3に記載の熱電素子。
  6. 熱電変換材料からなる熱電変換層と、チタンを主成分とする金属材料からなり当該熱電変換層に積層される金属層と、窒化チタンを含み当該金属層に積層される第1被覆層と、チタン単体を含み当該第1被覆層に積層される第2被覆層と、銅、銀、金のいずれか一つ以上を含み当該第2被覆層に積層される第3被覆層とを有する熱電素子と、
    前記熱電素子の前記第3被覆層に対して金属ペーストを介して接合される電極と
    を備える熱電モジュール。
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