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JP6431707B2 - 全固体電池用電極層および全固体電池 - Google Patents

全固体電池用電極層および全固体電池 Download PDF

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Description

本発明は全固体電池用電極層および全固体電池に関し、特に、リチウムイオンが電気伝導を担う全固体電池用の電極層および全固体電池に関する。
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物等を使用することが検討されている。しかしながら、酸化物およびリン酸化合物は、酸化還元に対する耐性が弱く、リチウムイオン二次電池において安定に存在することが難しい。また負極として金属リチウムや低結晶性カーボン、黒鉛等の材料を用いた場合に、固体電解質と負極とが反応してしまうという欠点も有する(特許文献1)。
さらに、酸化物やリン酸化合物は、その粒子が堅いという特性を有する。従って、これらの材料を使用して固体電解質層を形成するには、一般的に600℃以上の高い温度での焼結を必要とし、手間がかかる。更には、固体電解質層の材料として酸化物やリン酸化合物を使用した場合、電極活物質との間の界面抵抗が大きくなってしまうという欠点も有する。有機高分子については、室温におけるリチウムイオン伝導性が低く、温度が下がると急激に伝導性が低くなるという欠点を有する。
一方、硫化物は、室温で1.0×10−3S/cm以上(特許文献2)および0.2×10−3S/cm以上(特許文献3)という高いリチウムイオン伝導性を有することが知られている。さらに、粒子がやわらかいことから、コールドプレスにて固体電解質層を作製することが可能であり、且つ接触界面を容易に良好な状態とすることができる。しかしながら、硫化物固体電解質材料としてGeやSiを含む材料を使用した場合(特許文献2および特許文献4)、これらの材料は還元されやすいという問題を有する。また、単セルにおいて高電圧を確保できるリチウム金属やカーボン系活物質に代表される電極電位が0V付近(Li基準)の負極活物質を用いて電池を構成すると(特許文献4)、硫化物固体電解質の還元反応が生じてしまうという問題もある。
上記のような問題を防ぐために、負極活物質の表面に皮膜を設ける方法(特許文献5)、固体電解質の組成を工夫する方法(特許文献6〜10)等が提案されている。特に、特許文献10ではPを含む固体電解質が使用されているが、このような硫化物固体電解質を使用した場合であっても、負極活物質との反応に対する懸念は残る(非特許文献1)。また、負極の安定性は、固体電解質層中の微量不純物によって変わりやすく、その制御は容易ではない。このようなことから、リチウムイオン伝導性が高く、電極活物質の安定性に悪影響を及ぼさず、且つ隣接する物質との間に良好な界面を形成することができる固体電解質が切望されている。
新しいリチウムイオン伝導性固体電解質に関しては、2007年にLiBHの高温相が高いリチウムイオン伝導性を有することが報告され(非特許文献2)、2009年にはLiBHにLiIを加えることによってできる固溶体が、室温においても高温相を保つことができることが報告された(非特許文献3および特許文献11;以下、例えばLiBH等の錯体水素化物を含むイオン伝導体を錯体水素化物固体電解質とも称する)。LiBHは密度が小さく、これらを固体電解質として用いた場合には軽い電池が作成できる。また、200℃までは安定であり、耐熱性の電池を作成することも可能である。この錯体水素化物固体電解質を用いて電池を構成することが検討されており、特に負極に金属リチウムを使用する場合において効果を発揮することが開示されている(特許文献12および特許文献13)。
しかし、LiBHを含む固体電解質は、一般的に使用される正極活物質である酸化物、例えばLiCoOを還元してしまうという欠点を有している。これを防ぐ手法としては、パルスレーザー堆積法(PLD;Pulse Laser Deposition)にて製膜した100nmのLiCoO層上にLiPOを約10nmコートすることによって、120℃での充放電サイクルが可能なことが報告されている(非特許文献4)。しかしながら、これは、バルク型ではなく気相成膜を用いて製造された薄膜電池であるため、一つのセル当たりの容量をバルク型ほど確保できず、生産性も良くないという欠点を有する。
特定の正極活物質を用いることによって、錯体水素化物による還元を回避する方法も見出されているが、使用可能な正極活物質が極めて限定される(例えば、ポリアセン系骨格構造を有する多環芳香族炭化水素、ペロブスカイト型フッ化物等)(特許文献12)。また、これらの正極活物質は、現在市販されているリチウムイオン二次電池に一般的に使用されている酸化物型正極活物質ではなく、長期安定性に関する実績もない。特許文献12には、酸化物型正極活物質に特定のイオン伝導体や炭素をコートしたものが還元されにくいことも述べられているが、実施例で示しているデータは充電時の還元作用を示しているのに留まり、必ずしも充放電を繰り返した時の効果を述べてはいない。
なお、非特許文献4においては、LiBHによるLiCoOの還元は充電中に生じることが示されおり、非特許文献4のFig.1には充放電サイクルを重ねることで、電池抵抗が増大していくことが明確に示されている。このことから、錯体水素化物による正極活物質の還元を短期的に抑えるだけではなく、充放電を繰り返した後においても電池抵抗の増大を抑制できる有効な手段が求められていると言える。
特開2000−223156号公報 国際公開第2011/118801号 特開2012−43646号公報 特開2006−277997号公報 特開2011−150942号公報 特許第3149524号公報 特許第3163741号公報 特許第3343934号公報 特許第4165536号公報 特開2003−68361号公報 特許第5187703号公報 特開2012−209106号公報 特開2012−209104号公報
SEIテクニカルレビュー、2005年9月、第167号、p.54−60 Applied PhysiCS Letters(2007) 91、p.224103 JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY(2009)、131、p.894−895 Journal of Power Sources(2013)、226、p.61−64
発明者らは、錯体水素化物固体電解質および活物質により構成される電極層について鋭意検討した。その結果、錯体水素化物固体電解質を含む電極層は、充放電時の電圧が高い場合、錯体水素化物が副反応によって分解を起こして変質してしまうことを新たに見出した。
上記問題点を解決すべく、本発明は、イオン伝導性が高く、且つ安定性に優れた全固体電池を得るための電極層およびそのような電極層を含む全固体電池を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決できる電極層の構成として、錯体水素化物固体電解質と電極電位が比較的低い特定の活物質を組み合わせることが有効であることを見出した。よって、本発明は、例えば以下の通りである。
[1] 活物質と錯体水素化物固体電解質とを含む電極層であって、前記活物質はチタン酸リチウムを含む電極層。
[2] 前記チタン酸リチウムは、LiTi、LiTi12およびLiTiからなる群より選択される[1]に記載の電極層。
[3] 前記チタン酸リチウムは、LiTi12である[2]に記載の電極層。
[4] 前記錯体水素化物固体電解質は、LiBHまたはLiBHと下記式(1)で表されるアルカリ金属化合物との混合物である、[1]〜[3]のいずれかに記載の電極層:
MX (1)
[式(1)中、Mは、リチウム原子、ルビジウム原子およびセシウム原子からなる群より選択されるアルカリ金属原子を表し、Xは、ハロゲン原子またはNH基を表す。]。
[5] 前記アルカリ金属化合物は、ハロゲン化ルビジウム、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化セシウムおよびリチウムアミドからなる群より選択される[4]に記載の電極層。
[6] 前記電極層は正極層であり、前記錯体水素化物固体電解質はLiBHであり、前記正極層に含まれる全活物質の90重量%以上が、リチウム基準で1.20V〜1.80Vの電極電位を有する活物質である、[1]〜[5]のいずれかに記載の電極層。
[7] 前記電極層は正極層であり、前記錯体水素化物固体電解質は3LiBH−LiIであり、前記正極層に含まれる全活物質の90重量%以上が、リチウム基準で1.20V〜2.70Vの電極電位を有する活物質である、[1]〜[5]のいずれかに記載の電極層。
[8] 正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置されたリチウムイオン伝導性を有する固体電解質層とを具備し、
前記正極層または前記負極層のいずれか一方は、[1]〜[7]のいずれかに記載の電極層である
全固体電池。
[9] 前記負極層が[1]〜[5]のいずれかに記載の電極層である、[8]に記載の全固体電池。
[10] 前記正極層が[1]〜[7]のいずれかに記載の電極層である、[8]に記載の全固体電池。
[11] 前記正極層に含まれる錯体水素化物固体電解質はLiBHであり、前記正極層にかかる上限充電電圧はリチウム基準で1.55V〜1.80Vである、[10]に記載の全固体電池。
[12] 前記正極層に含まれる錯体水素化物固体電解質は3LiBH−LiIであり、前記正極層にかかる上限充電電圧はリチウム基準で1.55V〜2.70Vである、[10]に記載の全固体電池。
本発明によれば、イオン伝導性が高く、且つ安定性に優れた全固体電池を得るための電極層およびそのような電極層を含む全固体電池を提供することができる。
本発明の実施形態に係る全固体電池の断面図。 実施例1で作製した全固体電池の充電容量およびクーロン効率の推移を示す図。 実施例2で作製した全固体電池の充電容量およびクーロン効率の推移を示す図。 実施例1で作製した全固体電池について、1、2および20サイクル目の充放電曲線を示す図(充放電試験1)。 実施例1で作製した全固体電池について、1および2サイクル目の充放電曲線を示す図(充放電試験2)。 実施例2で作製した全固体電池について、1、2および20サイクル目の充放電曲線を示す図。 比較例1で作製した全固体電池について、1サイクル目の充放電曲線を示す図。 比較例2で作製した全固体電池について、1サイクル目の充放電曲線を示す図。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する材料、構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
1.電極層
本発明の1つの実施形態によると、活物質と錯体水素化物固体電解質とを含む電極層であって、活物質がチタン酸リチウムを含む電極層が提供される。この電極層は、好ましくは全固体電池において使用される電極層であり、より好ましくは全固体リチウムイオン二次電池において使用される電極層である。本発明の電極層は、負極層および正極層のいずれにも使用することができ、必要に応じて、導電助剤、結着材等をさらに含有していてもよい。以下、チタン酸リチウム、錯体水素化物固体電解質、および電極層に使用され得るその他の材料を合わせて「電極材料」とも称する。
以下、電極材料について詳細に説明する。
(1)チタン酸リチウム
本発明の電極層は、活物質としてチタン酸リチウムを含む。チタン酸リチウムとしては、スピネル型のLiTi、スピネル型のLiTi12、ラムスデライト型のLiTi等を用いることができ、好ましくはスピネル型のLiTi12である。LiTi12は、Li4/3Ti5/3やLi[Li1/6Ti5/6と表記されることもあり、空間群はFd−3mEである。これにリチウムイオンが挿入されると、岩塩型の構造に変化する特徴を有する。
チタン酸リチウムのようにリチウムおよびチタンを含む酸化物からなる活物質の製法は様々であり、液相法、固相法等、いずれの手法を用いて製造されたものでもよい。
チタン酸リチウムの粒子径は、電子顕微鏡で観察した際に0.05〜200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜100μmである。出力型の電極を作製したい場合には、粒径の小さいものを使用する方が良い。
上述したように、発明者らは、錯体水素化物固体電解質を含む電極層は、充放電時の電圧が高い場合、錯体水素化物が副反応によって分解を起こして変質してしまうことを見出した。本発明では、活物質として電極電位が比較的低いチタン酸リチウムを使用することにより、充放電時の電圧の上昇を抑えることができ、そのため、錯体水素化物の副反応による分解も防ぐことができる。よって、上記で具体例を示したような電極電位(リチウム基準)が1.0〜1.8Vのチタン酸リチウムが好ましい。また、上述したように、錯体水素化物を固体電解質として使用した場合、正極活物質の還元が懸念される。しかしながら、チタン酸リチウムは錯体水素化物による還元を受けにくい。そのため、チタン酸リチウムを正極活物質として使用することにより、錯体水素化物による正極活物質の還元を懸念することなく、リチウムイオン伝導性の高い錯体水素化物を固体電解質として使用することができる。このように、チタン酸リチウムおよび錯体水素化物固体電解質を含む電極層を全固体電池の電極層として使用することにより錯体水素化物の副反応による分解が抑制され、また、上記電極層を正極層として使用した場合には、正極活物質の還元も防ぐことができる。その結果、充放電サイクルを繰り返しても長期間にわたって安定に動作する全固体電池を提供することができる。
本発明の電極層は、チタン酸リチウム以外の活物質を含んでもよい。チタン酸リチウム以外の活物質としては、α−Fe、LiCoO、LiCo4、LiMnO、LiMn、LiMn4、LiMnCoO4、LiMnCoO4、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.5Mn0.5、LiNiMn、LiVO、V、LiV、LiC rO、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、LiVOPO、LiNiO、LiNi4、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiFeSiO、LiMnSiO、LiFeBO等を挙げることができる。
電極層に含まれる活物質全量に対するチタン酸リチウムの割合は、90重量%以上であることが好ましく、95重量%であることがより好ましく、98重量%以上であることがさらに好ましい。
本発明の電極層においては、活物質(複数種であってもよい)と錯体水素化物固体電解質とがバルク型で存在することが好ましい。一方、チタン酸リチウムは、チタン酸リチウム以外の活物質の表面を被覆する被覆層として使用され得ることが知られている。このような態様で使用される場合、上述した充放電時の電圧の制限の必要性に鑑みると、チタン酸リチウム以外の活物質として、錯体水素化物の副反応を起こす電圧よりも高い電極電位を有する活物質を用いることは好ましくない。錯体水素化物の副反応を起こす電圧よりも高い電極電位を有する活物質を用いることは、錯体水素化物の副反応を起こす電圧よりも低い電圧で充放電を行い、被覆層のチタン酸リチウムの容量のみを使用して電池を動作させれば不可能ではないが、電極全体での容量密度は低下する。
特に正極層において、正極活物質にチタン酸リチウムをはじめとしたイオン伝導体をコートすることは、硫化物系固体電解質を使用した全固体電池について、よく知られたものである。正極活物質と硫化物系固体電解質が直接接触すると、接触した界面から50nm程度の範囲において元素拡散(活物質中の遷移金属が固体電解質側に、固体電解質の構成元素が活物質側に、それぞれ拡散する)が生じることが知られている(例えば、「全固体リチウムイオン二次電池の開発と製造技術」,サイエンス&テクノノロジー出版,p149〜p151)。すなわち、チタン酸リチウムを含む被覆層が元素拡散が生じる範囲内の膜厚を有する場合、チタン酸リチウムは純粋な状態で存在しておらず、純粋なチタン酸リチウムに対して電極電位のずれが生じていると考えられる。また、このような被覆層は、その厚さが厚くなると抵抗層となることも知られている(「全固体リチウムイオン二次電池の開発と製造技術」,p62〜p68)。これらの現象は、硫化物固体電解質を使用した場合のみならず、錯体水素化物固体電解質を使用した場合にも生じる可能性が十分に考えられる(「全固体リチウムイオン二次電池の開発と製造技術」,p62)。
上記のような正極活物質にチタン酸リチウムをコートするという技術を用いて、本発明の目的の1つである錯体水素化物固体電解質にかかる電位を低く抑えて副反応の発生を防止することを達成しようとすると、種々の問題が生じ得る。例えば、電極電位が高い公知の活物質にチタン酸リチウムをコートした場合、副反応による錯体水素化物固体電解質の分解を防ぐためには、チタン酸リチウムの容量のみを使用して低い電圧で充放電を行う必要がある。よって、チタン酸リチウムを含む被覆層の厚みを大きくする必要があり、少なくとも元素拡散の影響をほぼ受けなくなる50nm以上の膜厚を確保することが必要である。被覆層の膜厚は、例えば100nm以上にする必要があり、好ましくは500nm以上、より好ましくは1000nm以上、特に好ましくは2000nm以上にする必要がある。上述したように、被覆層の膜厚を大きくすることにより、抵抗層となり得る。従って、正極活物質をチタン酸リチウムでコートするという公知の方法において、被覆層の膜厚を上記のような大きな範囲に設定することは想定されておらず、そのような必要性もない。以上の通り、正極活物質をチタン酸リチウムでコートする公知の方法においては、固体電解質の分解を抑制することは想定されていないと言える。
(2)錯体水素化物固体電解質
錯体水素化物固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する錯体水素化物を含む材料であれば、特に限定されない。例えば、錯体水素化物固体電解質は、LiBHまたはLiBHと下記式(1)で表されるアルカリ金属化合物との混合物である:
MX (1)
[式(1)中、Mは、リチウム原子、ルビジウム原子およびセシウム原子からなる群より選択されるアルカリ金属原子を表し、Xは、ハロゲン原子またはNH基を表す。]。
上記式(1)におけるXとしてのハロゲン原子は、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子、塩素原子等であってよい。Xは、ヨウ素原子、臭素原子またはNH基であることが好ましく、ヨウ素原子またはNH基であることがより好ましい。
具体的には、アルカリ金属化合物は、ハロゲン化リチウム(例えば、LiI、LiBr、LiFまたはLiCl)、ハロゲン化ルビジウム(例えば、RbI、RbBr、RbFまたはRbCl)、ハロゲン化セシウム(例えば、CsI、CsBr、CsFまたはCsCl)、あるいはリチウムアミド(LiNH)であることが好ましく、LiI、RbI、CsIまたはLiNHであることがより好ましい。アルカリ金属化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。好ましい組合せとしては、LiIとRbIとの組合せが挙げられる。
LiBHおよびアルカリ金属化合物としては、各々公知の化合物を使用することができる。また、これら化合物の純度は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。純度が上記範囲である化合物は、固体電解質としての性能が高いためである。
LiBHとアルカリ金属化合物とのモル比は、1:1〜20:1であることが好ましく、2:1〜7:1であることがより好ましい。モル比を上記範囲とすることにより、電極層中のLiBHの量を十分に確保することができ、高いイオン伝導性を得ることができる。一方、LiBHの量が多すぎると、高温相(高イオン伝導相)の転移温度が低下しにくく、LiBHの高温相の転移温度(115℃)未満において十分なイオン伝導性を得られない傾向にある。
2種以上のアルカリ金属化合物を併用する場合、その混合比は特に限定されない。例えば、LiIと他のアルカリ金属化合物(好ましくはRbIまたはCsI)とを併用する場合においては、LiIと他のアルカリ金属化合物とのモル比=1:1〜20:1であることが好ましく、5:1〜20:1であることがより好ましい。このような混合比とすることにより、リチウムドープ後に材料が残存した場合に、固体電解質として好ましく作用するためである。
錯体水素化物固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=24.0±1.0deg、25.6±1.2deg、27.3±1.2deg、35.4±1.5degおよび42.2±2.0degに回折ピークを有することが好ましい。少なくとも2θ=23.7±0.7deg、25.2±0.8deg、26.9±0.8deg、35.0±1.0degおよび41.3±1.0degに回折ピークを有することがより好ましく、少なくとも2θ=23.6±0.5deg、24.9±0.5deg、26.7±0.5deg、34.6±0.5degおよび40.9±0.5degに回折ピークを有することが特に好ましい。また、少なくとも2θ=23.6±0.3deg、24.9±0.3deg、26.7±0.3deg、34.6±0.3degおよび40.9±0.3degに回折ピークを有することがさらに好ましい。これら5領域の回折ピークは、LiBHの高温相の回折ピークに相当するものである。LiBHの高温相の転移温度未満においてもこのように5領域に回折ピークを有する材料は、上記転移温度未満においても高いイオン伝導性を示す傾向にある。
錯体水素化物固体電解質の製造方法は特に限定されないが、メカニカルミリングや特許第5187703号公報に記載の溶融混合等によって製造することが好ましい。
(3)導電助剤
電極層に用いられる導電助剤としては、所望の導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料からなる導電助剤を挙げることができる。具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックおよびカーボンファイバー等を挙げることができる。
電極層における導電助剤の含有量は、所望の電子伝導性を確保できる範囲であれば、より少ないことが好ましい。電極材料に対する導電助剤の含有量は、例えば0.1質量%〜40質量%であり、1質量%〜20質量%であることが好ましい。
(4)結着剤
電極層に用いられる結着剤としては、一般的にリチウムイオン二次電池の正極層に用いられているものであれば使用することが可能である。例えば、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等を使用することができる。必要に応じて、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤も使用することができる。
また、結着剤として、電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、結着剤が導電助剤の機能も発揮するので、導電助剤を添加しなくてもよい。
結着剤の含有量は特に限定されないが、活物質、導電助剤および結着剤の質量の和を基準にして、0.1〜10質量%であることが好ましく、0.1〜4質量%であることがより好ましい。結着剤の量が過剰になると、電極層中の活物質の割合が低下して、エネルギー密度が低下することになることから、電極層の成型強度を十分に保持できる最低限の量とすることが好ましい。なお、リチウム含有錯体水素化物および硫黄系電極活物質は、結着剤としての機能を少なからず有していることから、これらの材料を電極材料として使用する場合には、結着剤を使用しないで電極層を作製することも可能である。
続いて、電極層の作製方法について説明する。
まず、チタン酸リチウムおよび錯体水素化物固体電解質を含む電極材料を混合する。混合は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。混合の方法としては、特に限定されるものではないが、ライカイ機、ボールミル、遊星型ボールミル、ビーズミル、自転・公転ミキサー、高速攪拌型の混合装置、タンブラーミキサー等を使用した方法が挙げられる。ただし、遊星型ボールミルを用いた混合に代表されるような、混合時に大きなエネルギーが与えられる手法を用いると、混合のみならずチタン酸リチウムと錯体水素化物が反応する可能性があり、マイルドに混合できるライカイ機、タンブラーミキサー、自転・公転ミキサー等を使用することが好ましい。小さな規模で行う時には、手作業による乳鉢混合が好ましい。混合は乾式で行うことが好ましいが、耐還元性を有する溶媒下で実施することもできる。溶媒を用いる場合には、非プロトン性の非水溶媒が好ましく、より具体的にはテトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を挙げることができる。
電極層におけるチタン酸リチウムと錯体水素化物固体電解質との割合は、電極層の形状が維持でき、かつ、必要なイオン伝導性が確保できる範囲内であればチタン酸リチウムの割合が高い方がよい。例えば、重量比でチタン酸リチウム:錯体水素化物固体電解質=9:1〜1:9の範囲内であることが好ましく、8:2〜2:8であることがより好ましい。
電極層は、通常用いられる方法により作製できる。例えば、上記のように混合した電極材料を集電体上に塗布し、集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去することにより製造することができる。
使用できる集電体としては、特に限定はなく、従来からリチウムイオン二次電池用の集電体として使用されている材料、例えば、アルミ、ステンレス、銅、ニッケルまたはそれらの合金の薄板やメッシュを用いることができる。また、カーボン不織布、カーボン織布なども集電体として使用できる。
電極材料を集電体上に塗布する際に使用する溶媒としては、例えば、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性の非水溶媒を用いることができる。
塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極層を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
集電体上に塗布された塗料中の溶媒を除去する方法は特に限定されず、塗料が塗布された集電体を、例えば80〜150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
そして、このようにして作製された電極層を、必要に応じて、例えばロールプレス装置等によりプレス処理すればよい。ロールプレスの線圧は例えば、10〜50kgf/cmとすることができる。
なお、溶媒を用いずに、電極材料の混合粉末をプレスで成型する方法、混合粉末を集電体にのせた後で振動を与える方法や電極材料をヘラ等で押し込むなどして集電体の多孔部分へ充填する方法にて電極層を作製することも可能である。また、予め電極材料を成型してから集電体と接着したり、電極材料を固体電解質層や他方の電極層と一体成型した後に、集電体と接着することも可能である。
電極層の厚さは、電極として機能する限り特に限定されないが、1μm〜1000μmであることが好ましく、10μm〜200μmであることがより好ましい。
2.全固体電池
本発明の電極層は、全固体電池の正極層もしくは負極層のいずれか一方に使用することができる。よって、本発明の1つの実施形態によると、上記電極層を具備する全固体電池が提供される。
すなわち、本発明の全固体電池は、正極層と、負極層と、正極層と負極層との間に配置されたリチウムイオン伝導性を有する固体電解質層とを具備し、正極層または負極層のいずれか一方は、上述したチタン酸リチウムおよび錯体水素化物固体電解質を含む電極層である。
以下、本発明の電極層を正極層として使用する場合を「第1実施形態」として、本発明の電極層を負極層として使用する場合を「第2実施形態」として詳細に説明する。
(第1実施形態)
本発明の1つの実施形態によると、正極層と、負極層と、正極層と負極層との間に配置されたリチウムイオン伝導性を有する固体電解質層とを具備し、正極層は、上述したチタン酸リチウムおよび錯体水素化物固体電解質を含む電極層である全固体電池が提供される。全固体電池の構成について、図1を参照して説明する。
図1は、本発明の全固体電池の断面図である。
本発明における全固体電池10は、例えば、全固体リチウムイオン二次電池であり、携帯電話、パソコン、自動車等をはじめとする各種機器において使用することができる。全固体電池10は、正極層1と負極層3との間に固体電解質層2が配置された構造を有する。第1実施形態においては、正極層1として、上述したチタン酸リチウムおよび錯体水素化物固体電解質を共に含む電極層を用いる。
(1)正極層
正極層1の構成および作製方法については、上記「1.電極層」の項目で説明した通りである。なお、正極層1に含まれる活物質の電極電位としては、正極層1に使用される錯体水素化物固体電解質の副反応が生じる電位より下であれば、より高い方が電池のエネルギー密度が向上することから、好ましい。
具体的には、正極層1に使用される錯体水素化物固体電解質がLiBHである場合、正極層1に含まれる全活物質の90重量%以上が、リチウム基準で1.20V〜1.80Vの電極電位を有する活物質であることが好ましく、上記範囲の電極電位を有する活物質が95重量%以上であることがより好ましく、98重量%以上であることがさらに好ましい。
正極層1に含まれる錯体水素化物固体電解質が3LiBH−LiIである場合、正極層1に含まれる全活物質の90重量%以上がリチウム基準で1.20V〜2.70Vの電極電位を有する活物質であることが好ましく、上記範囲の電極電位を有する活物質が95重量%以上であることがより好ましく、98重量%以上であることがさらに好ましい。
(2)固体電解質層
固体電解質層2は、正極層1と負極層3との間に配置されるリチウムイオン伝導性を有する層であり、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質から形成される。固体電解質としては、錯体水素化物固体電解質、酸化物系材料、硫化物系材料、高分子系材料、LiN等を用いることができる。より具体的には、酸化物ガラスであるLiPO−LiSiOおよびLiBO−LiSiO;ペロブスカイト型酸化物であるLa0.5Li0.5TiO;NASICON型酸化物であるLi1.3Al0.3Ti1.7(POおよびLi1.5Al0.5Ge1.5(PO;LISICON型酸化物であるLi14Zn(GeO、LiPOおよびLiSiO;ガーネット型酸化物であるLiLaZr12、LiLaTa12およびLiLaNb12;硫化物ガラスまたは硫化物ガラスセラミックである、LiS−P、80LiS−20P、70LiS−27P−3PおよびLiS−SiS;thio−LISICON型材料であるLi3.25Ge0.250.75、LiSiS、LiGeSおよびLiPS;高いリチウムイオン伝導性を示すLi10GeP12;LiPOを一部分窒化したLIPONと称される材料である、Li3.3PO3.80.22およびLi2.9PO3.30.46;ポリマー系材料であるポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリ(シアノエトキシビニル)誘導体(CNPVA)等が挙げられる。中でも、上述の正極層1との間の界面状態が良好となることから、錯体水素化物固体電解質が好ましい。錯体水素化物固体電解質としては、上記「1.電極層、(2)錯体水素化物固体電解質」で述べたものと同様の材料を使用することができる。
固体電解質層2は、必要に応じて、上記以外の材料を含んでいてもよい。例えば、結着材を用いてシート状とした固体電解質層を使用することも可能である。また、正極層1および負極層3において使用される電極材料に適応させるために、固体電解質層2を2層以上とすることも可能である。
固体電解質層2の厚みは薄い方が好ましい。具体的には、0.05μm〜1000μmの範囲であることが好ましく、0.1μm〜200μmの範囲であることがより好ましい。
(3)負極層
負極層3は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、結着材等を含有していてもよい。
負極活物質としては、例えば、金属活物質およびカーボン活物質等を使用することができる。上記金属活物質としては、例えばLi、In、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。また、上記カーボン活物質としては、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。中でも、電池のエネルギー密度が向上して動作電圧が高まるため、負極としての電極電位がより低くなる活物質を用いることが好ましい。そのような負極活物質としては、Li、カーボン活物質およびSiが挙げられる。
負極層3に用いられる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、且つ負極活物質との間で安定なものであれば特に限定されないが、例えば、錯体水素化物固体電解質を使用することができる。錯体水素化物固体電解質は比較的柔らかいため、グラファイト等の負極活物質との間で良好な界面を形成できると共に、還元に対して安定であることから好ましい。負極層3は、負極活物質と固体電解質とを共に含むバルク型であることが好ましい。負極層3に含まれる錯体水素化物固体電解質としては、上記「1.電極層、(2)錯体水素化物固体電解質」で述べたものと同様の材料を使用することができる。特に、負極層3と固体電解質層2に、同一の錯体水素化物固体電解質が含まれることが好ましい。異なる組成の固体電解質を含む層が接すると、固体電解質同士が反応したり、各層の間で固体電解質構成元素の拡散が生じる可能性が高く、それによってリチウムイオン伝導性が低下することがあるためである。
負極活物質と固体電解質との割合は、負極層3の形状が維持でき、かつ、必要なイオン伝導性が確保できる範囲内であれば負極活物質の割合が高い方がよい。例えば、重量比で負極活物質:固体電解質=9:1〜1:9の範囲内であることが好ましく、8:2〜2:8であることがより好ましい。
負極層3に用いられる導電助剤としては、正極層1における導電助剤と同様のものを使用することができる。負極層形成材料に対する導電助剤の含有量は、例えば0.1質量%〜20質量%であり、3質量%〜15質量%であることが好ましい。
負極層3に用いられる結着剤としては、一般的にリチウムイオン二次電池の負極層に用いられているものであれば使用することが可能である。例えば、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸等が挙げられる。必要に応じて、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤も使用することができる。
負極層3の厚さは、負極層として機能する限り限定されないが、0.05μm〜1000μmであることが好ましく、0.1μm〜200μmであることがより好ましい。
(第2実施形態)
本発明の1つの実施形態によると、正極層と、負極層と、正極層と負極層との間に配置されたリチウムイオン伝導性を有する固体電解質層とを具備し、負極層は、上述したチタン酸リチウムおよび錯体水素化物固体電解質を含む電極層である全固体電池が提供される。全固体電池の構成は、上記第1実施形態と同じであるため、図1を再び参照して説明する。第2実施形態においては、負極層3として、上述したチタン酸リチウムおよび錯体水素化物固体電解質を共に含む電極層を用いる。
(1)正極層
正極層1は、少なくとも正極活物質を含有する層である。正極層1は、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、結着材等を含有していてもよい。
正極活物質としては、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であれば使用することができ例えば、遷移金属を有する金属酸化物、硫黄系正極活物質、有機系正極活物質、コンバージョン反応を利用したFeFやVFをあげることができる。
遷移金属を有する金属酸化物としては、遷移金属であるMn、Co、Ni、Fe、Cr、Vのうちいずれか1つ以上とリチウムとを含む金属酸化物の粒子や薄膜を用いることができる。具体的には、α−Fe、LiCoO、LiCo4、LiMnO、LiMn、LiMn4、LiMnCoO4、LiMnCoO4、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.5Mn0.5、LiNiMn、LiVO、V、LiV、LiC rO、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、LiVOPO、LiNiO、LiNi4、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiFeSiO、LiMnSiO、LiFeBO等を挙げることができる。その中でも、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiMn、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.5Mn0.5、LiNiMn、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、LiVOPO、LiNiOおよびLiNi1/3Co1/3Mn1/3が好ましい。
硫黄系正極活物質としては、S、TiS、TiS、TiS4、NiS、NiS、CuS、FeS、LiS、MoS、硫黄変性ポリアクリトニトリル、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ジスルフィド化合物等を挙げることができる。その中でも、TiS、TiS、TiS4、NiS、NiS、FeS、LiS、MoS、硫黄変性ポリアクリトニトリル、ルベアン酸(ジチオオキサミド)が好ましい。
有機系正極活物質としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシル−4−イルメタクリレートやポリテトラメチルピペリジノキシビニルエーテルに代表されるラジカル化合物、キノン化合物、ラジアレン化合物、テトラシアキノジメタン、フェナンジオキシド等をあげることができる。その中でも、ラジカル化合物、キノン化合物は大きな理論容量を有し、放電容量を比較的良好に維持できることから好ましい。
正極層1に用いられる固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有し、且つ正極活物質との間で安定なものであれば特に限定されない。例えば、錯体水素化物固体電解質、酸化物固体電解質、リン酸化合物固体電解質、硫化物固体電解質、およびこれらの混合系である酸硫化物系固体電解質等を挙げることができるが、使用する正極活物質によって、適切な固体電解質を用いればよい。例えば、錯体水素化物固体電解質を用いる場合には、上述したように錯体水素化物による正極活物質の還元が懸念されるため、還元されやすい正極活物質は不向きである。また、錯体水素化物固体電解質を用いる場合には、充放電時の電圧が高いと錯体水素化物が副反応による分解を起こして変質してしまうという問題が生じ得るため、電極電位が高くなるような活物質も不向きである。活物質による制限がなければ、錯体水素化物固体電解質や硫化物固体電解質を用いることが好ましい。錯体水素化物固体電解質や硫化物固体電解質は比較的柔らかいため、固い遷移金属酸化物正極活物質との間であっても良好な界面を形成できる。正極層1は、正極活物質と固体電解質とを共に含むバルク型であることが好ましい。
正極層1に用いられる各固体電解質の詳細に関しては、上記第1実施形態の「(2)固体電解質層」で述べたものと同様である。
正極層1における正極活物質と固体電解質との割合は、正極の形状が維持でき、かつ、必要なイオン伝導性が確保できる範囲内であれば正極活物質の割合が高い方がよい。例えば、重量比で正極活物質:固体電解質=9:1〜2:8の範囲内であることが好ましく、8:2〜4:6であることがより好ましい。
正極層1に用いられる導電助剤としては、所望の導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料からなる導電助剤を挙げることができる。具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックおよびカーボンファイバー等を挙げることができる。
正極層1における導電助剤の含有量は、所望の電子伝導性を確保できる範囲であれば、より少ないことが好ましい。正極層形成材料に対する導電助剤の割合は、例えば0.1質量%〜20質量%であり、3質量%〜15質量%であることが好ましい。
正極層1に用いられる結着剤としては、一般的にリチウム二次電池の正極層に用いられているものであれば使用することが可能である。例えば、ポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等を使用することができる。必要に応じて、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤も使用することができる。
正極活物質と固体電解質、導電助剤または集電体との界面状態を改善するために、正極活物質の粒子や薄膜に対して被覆層を設けることも可能である。具体的な方法としては、以下の特許文献に記載の方法が挙げられる。例えば硫化物固体電解質を用いた場合に効果的な被覆層として、特開2012−054151号公報では異種イオン伝導体界面で発生する空乏層の制御のためにLiNbOを用いている。また、特開2011−159639号公報には、正極活物質に対してLiNbOやLiTi12の被覆層を設けることにより、界面抵抗が低減されることが開示されている。さらに、特開2008−103280号公報には、正極を被覆することによりレート特性が改善されることが開示されている。その被覆材としては、チタン酸スピネル、タンタル系酸化物、ニオブ系酸化物等が挙げられており、具体的には、LiTi12、LiTaO、LiNbO、LiAlO、LiZrO、LiWO、LiTiO、Li、LiPO、LiMoOおよびLiBOが挙げられている。
また、電子伝導性の低いLiFePOやLiCoPOに代表されるオリビン型の構造を有する活物質を使用する場合、電荷移動反応を円滑に行わせるために活物質を炭素で被覆することが行われ得るが、この手法は本発明においても有効である。
正極層1の厚さは、正極層として機能する限り特に限定されないが、0.05μm〜1000μmであることが好ましく、0.1μm〜200μmであることがより好ましい。
(2)固体電解質層
固体電解質層2の構成および作製方法については、上記第1実施形態の「(2)固体電解質層」の項目で説明した通りである。
(3)負極層
負極層3の構成および作製方法については、上記「1.電極層」の項目で説明した通りである。
3.全固体電池の作製方法
上述した各層を作製して積層し、全固体電池を製造するが、各層の作製方法および積層方法については、特に限定されるものではない。例えば、固体電解質や電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレード、スピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて成膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していくプレス法等がある。比較的やわらかい錯体水素化物固体電解質や硫化物固体電解質を用いる場合には、各層をプレスによって成形および積層して電池を作製することが特に好ましい。プレス方法としては、加温して行うホットプレスと加温しないコールドプレスとがあるが、固体電解質と活物質の組み合わせによって適切な方を選べばよい。プレスにて各層を一体成型することが好ましく、その際の圧力は、50〜800MPaであることが好ましく、114〜500MPaであることがより好ましい。上記範囲の圧力でプレスを行うことにより、粒子間の空隙が少なく、密着性が良好な層を得ることができるため、イオン導電性の観点から好ましい。必要以上に圧力を高くすることは、高価な材質の加圧装置や成形容器を使用する必要が生じると共に、それらの耐用寿命が短くなることから実用的ではない。
4.充放電時の電圧条件
上述した通り、錯体水素化物固体電解質を含む電極層は、充放電時の電圧が高い場合、錯体水素化物が副反応による分解を起こして変質し得る。分解を生じる電圧は、使用する錯体水素化物固体電解質によって異なるが、例えばLiBHを使用する場合には、リチウム基準で1.80V以下の電圧で充電することが好ましく、上限充電電圧を1.55V〜1.80Vとすることがより好ましい。また、3LiBH−LiIを使用する場合には、リチウム基準で2.70V以下の電圧で充電することが好ましく、上限充電電圧を1.55V〜2.70Vとすることがより好ましい。上記範囲の電圧で充電することにより、錯体水素化物固体電解質の副反応による分解を防ぐことができる。また、本発明のように電極活物質としてチタン酸リチウムを使用することにより、上記範囲の電圧で充電することが可能である。
従って、本発明の1つの実施形態によると、上記電極層は正極層であり、正極層における錯体水素化物固体電解質はLiBHであり、正極層にかかる上限充電電圧はリチウム基準で1.55V〜1.80Vである全固体電池が提供される。
また、本発明の他の実施形態によると、上記電極層は正極層であり、正極層における錯体水素化物固体電解質は3LiBH−LiIであり、正極層にかかる上限充電電圧はリチウム基準で1.55V〜2.70Vである全固体電池が提供される。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
<実施例1>
(錯体水素化物固体電解質の調製)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiBH(シグマ・アルドリッチ社製、純度90%)を計り取り、メノウ乳鉢にて粉砕し、錯体水素化物固体電解質(LiBH)を得た。
(正極層粉末の調製)
活物質LiTi12(東邦チタニウム社製):錯体水素化物固体電解質(LiBH):カーボンブラック(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.9%)=38:55:7(重量比)とした粉末をグローブボックス内で計り取り、乳鉢にて混合して正極層粉末とした。活物質LiTi12の電極電位(リチウム基準)は、1.5Vである。
(全固体電池の作製)
上記で調製した錯体水素化物固体電解質の粉末を直径8mmの粉末錠剤成形機に入れ、圧力143MPaにて円盤状にプレス成形した(錯体水素化物固体電解質層の形成)。成形物を取り出すことなく、上記で調製した正極層粉末を錠剤成形機に入れ、圧力285MPaにて一体成型した。このようにして、正極層(75μm)および錯体水素化物固体電解質層(600μm)が積層された円盤状のペレットを得た。このペレットの正極層の反対側に、厚さ200μm、φ8mmの金属リチウム箔(本城金属社製)を貼り付けてLi負極層とし、SUS304製の電池試験セルに入れて全固体二次電池とした。
(充放電試験1)
上記のように作製した全固体電池について、ポテンショスタット/ガルバノスタット(Bio−Logic製VMP3)を用い、試験温度120℃、カットオフ電圧1.4〜1.7V、0.1Cレートの条件の下で定電流にて放電から充放電を行い、充放電容量を求めた。なお、充電後と放電後にはそれぞれ3分間の休止を設けた。2サイクル目の放電開始直前の開回路電圧は1.67Vであった。また、この時の(LiTi12の容量)/(LiTi12の理論容量=175)は96.6%であり、理論値である電極電位よりも少し高い電位で、十分にチタン酸リチウムの容量をほぼ全量引き出せていることがわかる。
(充放電試験2)
1サイクル目のカットオフ電圧を1.1〜2.0Vとし、2サイクル目以降はカットオフ電圧を1.4〜1.7Vとした以外は、充放電試験1と同様に充放電を行い、充放電容量を求めた。充電時に電圧が1.8Vより少し高くなった時点から、大きな不可逆容量が生じた。これは、LiBHが副反応によって分解していることによると推測される。すなわち、LiBHにリチウム基準で1.8V以上の電圧をかけると、サイクル試験の初期にLiBHが副反応によって分解されることに起因する大きな不可逆容量が引き起こされると共に、固体電解質の変質が生じ得ると考えられる。高い電圧で充放電サイクルを繰り返すことによりこのような固体電解質の変質が繰り返し生じると、長期のサイクル試験に対して悪影響を及ぼし得る。従って、実施例1のような構成を有する電池を長期にわたって安定に使用するためには、充電時にリチウム基準で1.8Vを超える電圧がかからないようにすることが好ましいと言える。1および2サイクル目の放電開始直前の開回路電圧は、それぞれ1.83Vおよび1.67Vであった。
<実施例2>
(錯体水素化物固体電解質の調製)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiBH(シグマ・アルドリッチ社製、純度90%)とLiI(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.999%)とを、LiBH:LiI=3:1のモル比になるようにメノウ乳鉢にて混合した。次に、混合した出発原料を45mLのSUJ−2製ポットに投入し、さらにSUJ−2製ボール(φ7mm、20個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチェ製P7)に取り付け、回転数400rpmで5時間メカニカルミリングを行い、錯体水素化物固体電解質(3LiBH−LiI)を得た。
(正極層粉末の調製)
活物質LiTi12(東邦チタニウム社製):錯体水素化物固体電解質(3LiBH−LiI):カーボンブラック(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.9%)=27:64:9(重量比)となるように、粉末をグローブボックス内で計り取り、乳鉢にて混合して正極層粉末とした。活物質LiTi12の電極電位(リチウム基準)は、1.5Vである。
(全固体電池の作製)
上記で調製した固体電解質および正極層粉末を用いた以外は、実施例1と同様に全固体電池を作製した。
(充放電試験)
ポテンショスタット/ガルバノスタット(Bio−Logic製VMP3)を用い、試験温度25℃、カットオフ電圧1.1〜2.1V、0.1Cレートの条件の下で定電流にて放電から充放電を行い、充放電容量を求めた。なお、充電後と放電後にはそれぞれ3分間の休止を設けた。2サイクル目の放電開始直前の開回路電圧は1.76Vであった。
<比較例1>
(正極層粉末の調製)
正極活物質LiCoO(日本化学工業製日本化学工業製セルシードC−5H):錯体水素化物固体電解質(LiBH):カーボンブラック(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.9%)=40:60:6(重量比)とした粉末をグローブボックス内で計り取り、乳鉢にて混合して正極層粉末とした。活物質LiCoOの電極電位(リチウム基準)は、3.95Vである。
上記の正極層粉末を用いた以外は、実施例1と同様に全固体電池を作製した。充放電試験については、充電より試験を開始し、カットオフ電圧を3.2〜4.2Vとした以外は、実施例1と同様に行った。充電時に、1.8V付近から大きな不可逆容量が生じた。1サイクル目の放電開始直前の開回路電圧は3.43Vであった。
<比較例2>
(正極層粉末の調製)
正極活物質LiCoO(日本化学工業製日本化学工業製セルシードC−5H):錯体水素化物固体電解質(3LiBH−LiI):カーボンブラック(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.9%)=40:60:6(重量比)とした粉末をグローブボックス内で計り取り、乳鉢にて混合して正極層粉末とした。活物質LiCoOの電極電位(リチウム基準)は、3.95Vである。
上記の正極層粉末を用いた以外は、実施例1と同様に全固体電池を作製した。充放電試験については、充電より試験を開始し、カットオフ電圧を3.2〜4.2Vとした以外は、実施例2と同様に行った。充電時に2.70V付近の電圧から、大きな不可逆容量が生じた。1サイクル目の放電開始直前の開回路電圧は3.86Vであった。
<比較例3>
(正極層粉末の調製)
正極活物質LiFePO(SLFP−ES01):錯体水素化物固体電解質(LiBH):カーボンブラック(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.9%)=40:60:6(重量比)とした粉末をグローブボックス内で計り取り、乳鉢にて混合して正極層粉末とした。活物質LiFePOの電極電位(リチウム基準)は、3.4Vである。
上記の正極層粉末を用いた以外は、実施例1と同様に全固体電池を作製した。充放電試験については、充電より試験を開始し、カットオフ電圧を2.5〜3.8Vとした以外は、実施例1と同様に行った。
実施例1で作製した電池の充電容量の推移を図2に、実施例2で作製した電池の充電容量の推移を図3に示した。実施例1および2の充放電曲線を、それぞれ図4(実施例1の充放電試験1;1、2および20サイクル目)、図5(実施例1の充放電試験2;1および2サイクル目)ならびに図6(実施例2;1、2および20サイクル目)に示した。比較例1および2の、1サイクル目の充放電曲線を、それぞれ図7および8に示した。実施例1〜2および比較例1〜3で作製した電池について、2サイクル目および20サイクル目における、電池抵抗、クーロン効率および充電容量を、以下の表1に示す。なお、充電容量は、試験した電池で得られた充電容量を正極活物質1g当たりの値として算出した。電池抵抗は、放電開始直後のIRドロップより算出した。クーロン効率は、充電容量/放電容量より算出した。なお、「放電容量得られず」とは、活物質1g当たりの放電容量が5mAh未満であることを示す。
比較例1〜3については、放電容量が得られず(活物質1g当たりの放電容量が5mAh未満)、電池として機能しなかった。これは、比較例1〜3では、錯体水素化物固体電解質によって正極活物質が還元されたこと、および電極電位の比較的高い正極活物質を使用したことにより錯体水素化物固体電解質が副反応によって分解したことに由来すると考えられる。
一方、本発明の全固体電池は、充電時の大きな不可逆容量を回避でき、充放電サイクルを繰り返しても電池抵抗が増大しにくく、それに伴い放電容量も低下しにくいことが分かる。従って、本発明の全固体電池は、長期にわたって安定に動作可能であると言える。また、本発明の全固体電池は、充放電サイクルを繰り返した後であってもクーロン効率が低下しにくいという利点も有することが分かった。これらの結果より、本発明においては、錯体水素化物によるチタン酸リチウムの還元がほとんど生じないと共に、充放電時の電圧負荷による錯体水素化物固体電解質の副反応による分解が回避できていると言える。
具体的には、正極層に混合される固体電解質がLiBHの場合には正極層にかかる充電電圧を1.8V以下(リチウム基準)に、3LiBH−LiIの場合には正極層にかかる充電電圧を2.70V以下(リチウム基準)にすることにより、大きな不可逆容量が生じることを回避できることが分かった。
さらに、上述したように、本発明によると、錯体水素化物による正極活物質の還元を懸念することなくリチウムイオン伝導性の高い錯体水素化物を固体電解質として使用することができる。また、活物質と固体電解質との間で良好な界面が形成される結果、界面抵抗が低くなり、電池全体のリチウムイオン伝導性を向上させることもできる。
1…正極層、2…固体電解質層、3…負極層、10…全固体電池。

Claims (5)

  1. 活物質と錯体水素化物固体電解質とを含む正極層であって、前記活物質はチタン酸リチウムを含み、前記錯体水素化物固体電解質はLiBH であり、前記正極層に含まれる全活物質の90重量%以上が、リチウム基準で1.20V〜1.80Vの電極電位を有する活物質である正極層。
  2. 前記チタン酸リチウムは、LiTi、LiTi12およびLiTiからなる群より選択される請求項1に記載の正極層。
  3. 前記チタン酸リチウムは、LiTi12である請求項2に記載の正極層。
  4. 正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置されたリチウムイオン伝導性を有する固体電解質層とを具備し、
    前記正極層は、請求項1〜のいずれか1項に記載の正極層である
    全固体電池。
  5. 記正極層にかかる上限充電電圧はリチウム基準で1.55V〜1.80Vである、請求項に記載の全固体電池。
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