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JP6428018B2 - 多孔質体、多孔質体形成用組成物および多孔質体の製造方法 - Google Patents

多孔質体、多孔質体形成用組成物および多孔質体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、多孔質体、多孔質体形成用組成物および多孔質体の製造方法に関するものであり、特に微細化セルロース繊維によって形成される多孔質体に関するものである。
近年、化石資源の枯渇問題の解決を目指して、持続的に利用可能な環境調和型材料であるバイオマスを用いた機能性材料の開発が盛んに行われている。その中でも、木材の主成分であるセルロースは、地球上で最も大量に蓄積された天然高分子材料であることから、資源循環型社会への移行に向けたキーマテリアルとして期待が寄せられている。木材中では、数十本以上のセルロース分子が束になって、高結晶性でナノメートルオーダーの繊維径をもつ微細繊維(ミクロフィブリル)を形成しており、さらに多数の微細繊維が互いに水素結合してセルロース繊維を形成し、植物の支持体となっている。このように、安定な構造を有することから、木材に含まれる天然のセルロースは、特殊な溶媒以外には不溶であり、成形性にも乏しく、機能性材料としては扱いにくい面があった。そこで、木材中のセルロース繊維を、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化して利用しようとする試みが活発に行われている。
セルロースの微細化のための優れた手法として、比較的安定なN−オキシル化合物である2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシラジカル(TEMPO)を触媒として用い、セルロースの微細繊維表面を選択的に酸化したのち軽微な機械解繊を行う方法が報告されている。TEMPO酸化反応は水系、常温、常圧で進行する環境調和型の化学改質が可能で、木材中のセルロースに適用した場合、結晶内部には反応が進行せず、結晶表面のセルロース分子鎖が持つアルコール性1級炭素のみを選択的にカルボキシ基へと変換することができる。
このように、結晶表面に導入されたカルボキシ基同士の静電的な反発により、水溶媒中でセルロースをミクロフィブリル単位に分散可能となり、ナノサイズオーダーの微細化セルロース繊維が得られる。木材からTEMPO酸化反応によって得られる木材由来の微細化セルロース繊維は、短軸径が3nm前後、長軸径が数十nm〜数μmに及ぶ高アスペクト比を有する構造体であり、その水分散液および積層体は高い透明性を有することが報告されている。
本発明者らは微細化セルロース繊維を初めとする微細化セルロース材料の応用に関して様々な検討を行ってきたが、特に微細化セルロース繊維によって形成された多孔質体が優れた性能を有することを見出し、本発明にいたった。
一般的に多孔質体とは無数の細孔を有する材料で比表面積が高く、吸着剤・触媒担持剤・フィルターなど様々な機能性材料として用いられている。微細化セルロース繊維によって構成された多孔質体材料を製造することができれば、膨大な比表面積を有するため非常に有用である。しかしながら微細化セルロース繊維を含む水分散体から水分を除去することによって成型体を得る場合、水分の蒸発に伴い微細化セルロース繊維同士が凝集してしまうため、細孔を有する材料は得られない。そのため、微細化セルロース繊維を用いた多孔質体を製造するためには様々な工夫が必要となる。
微細化セルロース繊維を用いた多孔質体の製造例としては例えば特許文献1に示されるように、微細化セルロース繊維の分散に混合溶媒を用いた上で凍結乾燥を行い、微細化セルロース繊維を含む多孔質体が得られることが開示されている。また、特許文献2に示されるように、多数の孔が連通した多孔質の支持体の孔内に微細化セルロース繊維分散液を含浸させた後、溶媒を除去することによって支持体の内部でナノファイバーが絡み合った網目状構造体を形成する例が開示されている。
特開2013−253137号 特開2012−081533号 特開2006−022314号
しかしながら、特許文献1に記載の方法では溶媒を除去する際に凍結乾燥を必要とするため、得られる多孔質体の成形性および生産性に難がある。また、特許文献2に記載の方法は、多孔質支持体を別途用意する必要があり、用途が限られてしまうため汎用性に乏しいという問題がある。
一方、特許文献3にはアリール基を有するポリシランと表面フェニル基修飾されたシリカ微粒子を有機溶媒中で混合したのちにオーブンなどで乾燥して溶媒除去することによって、多数の空隙を有する成型体を製造する技術が開示されている。これはポリシランのアリール基とシリカ微粒子表面のフェニル基とのπ−π相互作用によりスタッキング構造を形成しやすくなり、ナノサイズレベルでの空隙が形成されているためだと考えられる。
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、カーボンニュートラル材料である微細化セルロース繊維によって構成される多孔質体および多孔質体形成用組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記多孔質体を成形性が高く、簡便な方法で提供することが可能な多孔質体の製造方法を提供することを課題とする。
上記の課題を解決するため、本願発明者がカーボンニュートラル材料である微細化セルロースを用いて多孔質体の創出を試みたところ、驚くべきことに、表面にアリール基が結合した微細化セルロース繊維と、アリール基を有するポリシラン化合物を有機溶媒中で混合した後、オーブンなどで乾燥して溶媒を除去するだけで多孔質体が得られることを新たに見出し、本発明を完成させた。
上記課題を解決するための本発明の一局面は、少なくともカルボキシ基が導入され微細化されたセルロース繊維であって該カルボキシ基の対イオンの少なくとも一部が下記一般式(1)で表される有機オニウムイオンである微細化セルロース繊維(A)と、少なくとも下記一般式(2)で表される単位を有するポリシラン(B)とを含有する多孔質体である。
式(1)中、Mは窒素原子あるいはリン原子を表し、R、R、RおよびRはアリール基、水素原子、炭化水素基、ポリエーテルあるいはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。ただし、R、R、RおよびRのうち少なくともひとつについてはその構造の中にアリール基を含む。
式(2)中、RおよびRは、各々独立にアリール基、炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、シリル基、およびハロゲン原子からなる群より選ばれる。ただし、RおよびRの少なくとも一方はアリール基である。
また、微細化セルロース繊維に導入されたカルボキシ基の含有量が、セルロース1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下であってもよい。
また、微細化セルロース繊維の結晶構造が、セルロースI型であってもよい。
また、微細化セルロース繊維の形状が、天然セルロースのミクロフィブリル構造由来の繊維状であってもよい。
また、微細化セルロース繊維は、数平均短軸径が1nm以上100nm以下、数平均長軸径が100nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の10倍以上であってもよい。
また、ポリシラン(B)の重量平均分子量が30000以下であってもよい。
また、窒素吸着BET法により測定される比表面積が100m/g以上であってもよい。
また、本発明の他の局面は、上述に記載の多孔質体を形成するための多孔質体形成用組成物であって、微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)とを、有機溶媒に分散させた、多孔質体形成用組成物である。
また、本発明の他の局面は、上述の多孔質体の製造方法であって、微細化セルロース繊維(A)を有機溶媒中に分散させる工程と、ポリシラン(B)を有機溶媒中に溶解させる工程と、微細化セルロース繊維(A)を含む分散液とポリシラン(B)を含む溶液とを混合し多孔質体形成用組成物を得る工程と、多孔質体形成用組成物に含まれる溶媒を除去することによって多孔質体を得る工程とを含む、多孔質体の製造方法である。
本発明によれば、微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)との間に介在するアリール基同士のπ−π相互作用によりスタッキング構造が形成された、ナノサイズレベルで空隙を有するカーボンニュートラルで新規な多孔質体を提供することができる。
また、本発明によれば、微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)とを有機溶媒中で混合することで、簡便に多孔質体形成用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)とを有機溶媒中で混合し多孔質体形成用組成物を製造する工程と、多孔質体形成用組成物から溶媒を除去する工程とにより、多孔質体を成形性が高く、簡便な方法で提供することができる。
本発明の一実施形態に係る多孔質体の構成を模式的に示すモデル図である。
以下、本発明の一実施形態に係る多孔質体について、その形成用組成物および製造方法とあわせて詳細に説明する。
<多孔質体>
図1は、本発明に係る多孔質体の実施形態を模式的に示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の多孔質体1は、微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)とを溶媒中で混合した後、溶媒を除去することによって製造されるものである。以下、より具体的に説明する。まず、微細化セルロース繊維(A)にはカルボキシ基と一般式(1)に示されるオキソアンモニウム化合物との結合を介してアリール基が導入されている。また、ポリシラン(B)にも一般式(2)に示されるようにアリール基が導入されている。このような微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)とを溶媒中で均一に混合したのち溶媒を除去する。溶媒除去の過程で微細化セルロース繊維(A)表面に存在するアリール基とポリシラン(B)との側鎖に導入されたアリール基との間でπ−π相互作用によりスタッキング構造を形成しやすくなり、微細化セルロース繊維(A)同士が凝集することなく溶媒を除去することが可能となる。その結果、溶媒が完全に除去された後も微細化セルロース繊維(A)の間隙を保持することが可能となり、対イオンの少なくとも一部が下記一般式(1)で表される有機オニウムイオンであるカルボキシ基が導入された微細化セルロース繊維と、少なくとも下記一般式(2)で表される単位を有するポリシランとを含有する、ナノサイズレベルの空隙を有する多孔質体を簡便に製造することが可能となる。得られる多孔質体の比表面積は、窒素吸着BET法により測定した場合、100m/g以上であることが好ましい。なお、式(1)中、Mは窒素原子あるいはリン原子を表し、R、R、RおよびRはアリール基、水素原子、炭化水素基、ポリエーテルあるいはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。ただし、R、R、RおよびRのうち少なくともひとつについてはその構造の中にアリール基を含む。また、式(2)中、RおよびRは、各々独立にアリール基、炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、シリル基、およびハロゲン原子からなる群より選ばれる。ただし、RおよびRの少なくとも一方はアリール基である。
<多孔質体形成用組成物>
続いて、本発明の実施形態に係る多孔質体形成用組成物について説明する。多孔質体形成用組成物とは、例えば図1に示すように、多孔質体を形成するための組成物である。より具体的には、微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)とを溶媒中で均一に混合した分散液として提供される。この分散液から溶媒を除去することによって、簡便に多孔質体1を提供することが可能となる。例えば基材となる物体表面に塗布し乾燥することによって、基材表面に多孔質体1の層を設けることが可能である。
多孔質体形成用組成物に用いられる分散溶媒としては微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)とが均一に分散する溶媒であれば特に限定しないが、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、あるいはそれらの混合溶媒などが好ましい。
また、多孔質体形成用組成物は微細化セルロース繊維(A)、ポリシラン(B)および分散溶媒以外にその他の成分(C)を含んでも良い。その他の成分(C)としては例えばアルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、等が挙げられる。
以上説明したように、本実施形態の多孔質体1は、微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)とを含む多孔質体であって、微細化セルロース繊維(A)表面に存在するアリール基とポリシラン(B)との側鎖に導入されたアリール基との間でπ−π相互作用によりスタッキング構造を形成し、微細化セルロース繊維(A)同士が凝集することなく溶媒を除去することでナノサイズ空隙を有した多孔質体を形成することを特徴とする、カーボンニュートラルな、新規なナノ多孔質体である。
<多孔質体の製造方法>
次に、上述した本実施形態の多孔質体1の製造方法について説明する。本実施形態の多孔質体1の製造方法は、微細化セルロース繊維(A)とポリシラン(B)とを溶媒中で均一に混合した分散液とし、分散液から溶媒を除去することによって、簡便に多孔質体1を得る方法である。
より具体的には、本実施形態の複合体の製造方法は、セルロースにカルボキシ基を導入する工程(第1工程)と、カルボキシ化セルロースに一般式(1)で表される有機オニウムイオンを結合させた状態で、溶媒中で微細化処理を行い、微細化セルロース繊維(A)を含む分散液を得る工程(第2工程)と、微細化セルロース繊維(A)を含む分散液と、ポリシラン(B)を含有する溶液と、を混合して混合溶液を得る工程(第3工程)と、混合溶液中の溶媒を除去して多孔質体を得る工程(第4工程)と、を含んで概略構成されている。以下に、各工程について、詳細に説明する。
(第1工程)
先ず、第1工程では、本実施形態の多孔質体を構成する微細化セルロースを調製する。この第1工程は、繊維状の微細化セルロースを調製する工程と、微細化セルロースの結晶表面にカルボキシ基を導入する工程と、を含んでいる。
「繊維状の微細化セルロースを調製する工程」
本実施形態の多孔質体の製造方法に用いる微細化セルロースは、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーであればよく、その調製方法については特に限定されない。通常、微細化セルロース繊維は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状を取るため、本実施形態の製造方法に用いる微細化セルロース繊維の形状も、例えば天然セルロースのミクロフィブリル構造由来の繊維状であり、以下に示す範囲にある繊維形状の物が好ましい。すなわち、微細化セルロースの形状としては、繊維状であることが好ましい。また、繊維状の微細化セルロースは、短軸径において数平均短軸径が1nm以上100nm以下であればよく、好ましくは2nm以上50nm以下であればよい。ここで、数平均短軸径が1nm未満では高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとることが出来ず、多孔質体を形成することが出来ない。一方、100nmを超えると、多孔質体としての比表面積が減少し、用途が限られてしまう。また、数平均長軸径においては特に制限はないが、好ましくは100nm以上且つ数平均短軸径の10倍以上であればよい。数平均長軸径が数平均短軸径の10倍未満であると、微細化セルロース繊維の絡み合いが不足し、多孔質体を形成した際に多孔質体の機械強度が損なわれるために好ましくない。
微細化セルロース繊維の数平均短軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、微細化セルロース繊維の数平均長軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
微細化セルロース繊維の原料として用いることが出来るセルロースの種類や結晶構造も特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることが出来る。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。
セルロースの微細化方法もとくに限定されないが、例えばグラインダーによる機械処理、TEMPO酸化処理等による化学処理の他、希酸加水分解処理や酵素処理などを用いても良いし、これらの処理を組み合わせて用いても良い。また、バクテリアセルロースも微細化セルロース繊維として用いることが出来る。さらには各種天然セルロースを各種セルロース溶剤に溶解させたのち、電解紡糸することによって得られる微細再生セルロース繊維を用いても良い。本実施形態で用いる微細化セルロースとしてはカルボキシ基が導入された微細化セルロース繊維が好ましく、価格および供給の面から木材をTEMPO酸化することで得られる微細化セルロース繊維がより好ましい。
以下、木材由来の微細化セルロース繊維を製造する方法について説明する。
本実施形態で用いられる木材由来の微細化セルロース繊維は、木材由来のセルロースを酸化する工程と、微細化して分散液化する工程と、によって得ることができる。また、微細化セルロース繊維に導入するカルボキシ基の含有量としては、0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましい。ここで、カルボキシ基量が0.1mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に静電的な反発が働かないため、セルロースを微細化して均一に分散させることは難しい。また、5.0mmol/gを超えると化学処理に伴う副反応によりセルロースミクロフィブリルが低分子化するため、高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとることが出来ず、多孔質体を形成することができない。
「セルロースにカルボキシ基を導入する工程」
木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ、など、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。精製および微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
木材由来のセルロースの繊維表面にカルボキシ基を導入する方法としては、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行っても良い。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースとを直接反応させてカルボキシ基を導入しても良い。さらには、水系の比較的温和な条件で、セルロースのI型結晶構造を保ちながら、アルコール性1級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性および環境負荷の問題からTEMPO酸化がより好ましい。
ここで、N−オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシラジカル)、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、等が挙げられる。その中でも、TEMPOが好ましい。N−オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01〜5.0質量%程度である。
N−オキシル化合物を用いた酸化方法としては、木材系天然セルロースを水中に分散させ、N−オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N−オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N−オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。かかる酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1〜200質量%程度である。
また、N−オキシル化合物および共酸化剤とともに、臭化物およびヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、臭化ナトリウムまたは臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1〜50質量%程度である。
酸化反応の反応温度は、4℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上70℃以下がより好ましい。4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまう。80℃を超えると副反応が促進して試料が低分子化して高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造が崩壊し、多孔質体を形成することが出来ない。
また、酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分〜5時間程度である。
酸化反応時の反応系のpHは、9以上11以下が好ましい。pHが9以上であると反応を効率よく進めることができる。pHが11を超えると副反応が進行し、試料の分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9以上11以下に保つことが好ましい。反応系のpHを9以上11以下に保つ方法としては、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
N−オキシル化合物による酸化反応は、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上述の範囲内に保つことが好ましい。添加するアルコールとしては、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N−オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。この際、反応液に酸を添加して系内を酸性下に調整し、カルボン酸としてろ別することが好ましい。ハンドリング性や回収効率が改善することに加え、後述する有機オニウム化合物を用いたアリール基の導入において、対イオンとして金属イオンを含有しないほうが導入効率に優れるためである。ろ別したカルボン酸型の酸化セルロースはさらに希塩酸などで複数回ろ過洗浄した後、蒸留水でさらにろ過洗浄することが好ましい。
(第2工程)
第1工程で調製したカルボン酸型酸化セルロースに一般式(1)で表される有機オニウムイオンを結合させ、さらに溶媒中で微細化処理を行い、表面にアリール基が導入された微細化セルロース繊維(A)を含む分散液を得る。
微細化セルロース繊維(A)を含む分散液を調製する方法としては、まず、カルボン酸型酸化セルロースに水性媒体を加えて懸濁させる。具体的には、50%以上の水を含み、水以外の溶媒としては親水性溶媒が好ましい。水の割合が50%未満になると後述する有機オニウム化合物を用いたアリール基の導入効率が低下するためである。親水性溶媒については特に制限は無いが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。必要に応じて、セルロースや生成する微細化セルロース繊維の分散性を上げるために、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、上述したアルカリ水溶液と同様のものが挙げられる。
続いて、得られた懸濁液に有機オニウム化合物を接触させる。有機オニウム化合物としては一般式(1)に示される有機オニウムイオンを形成するものであれば特に制限はなく、例えば、Mとして窒素元素であり、R、R、Rが水素原子でRがアリール基の場合として、例えばアニリンを用いることもできる。また、R、R、RおよびRが炭化水素基である場合、アルキル基、アラルキル基、芳香族基等を挙げることができる。アルキル基としては、炭素数1〜50のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシルなどを用いることができる。アラルキル基としては、炭素数7〜50が好ましく、ベンジル基、o−トルイルメチル基、m−トルイルメチル基、p−トルイルメチル基、2−フェニルエチル基、1−ナフチルメチル基、2−ナフチルメチル基などが挙げられる。また、芳香族基としては、炭素数6〜50が好ましく、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トシル基などが挙げられる。また、R、R、RおよびRはヘテロ原子を含む炭化水素基であってもよく、R、R、RおよびRが環を形成しても良い。ただし、R、R、RおよびRのうち少なくともひとつについてはその構造の中にアリール基を含むことが好ましい。アリール基が含まれない場合、ポリシラン(B)の側鎖に導入されたアリール基との間でπ−π相互作用によりスタッキング構造を形成することができず、空隙を有する多孔質体が得られないためである。
カルボン酸型酸化セルロースを微細化する場合には、セルロースと分散媒とを混合させて後述の方法を用いて分散処理することにより、セルロースを均質な分散体まで分散させることが可能となる。分散媒と混合させる前処理として、酸化処理したセルロースを溶媒置換することができる。ここで、セルロースの酸化工程において反応媒体が水であること、反応後の洗浄に用いる洗浄剤が主に水であることから、酸化処理後のセルロースは水を包含した湿潤状態として回収される。そのため、分散媒として水以外の有機溶媒を含む場合において、分散媒中に不純物となる水を除去する目的や、セルロースと分散媒を予め親和させ分散性を向上させる目的、或いは分散媒不溶成分を除去する目的により溶媒置換を行うことが好ましい。
続いて、カルボキシ基と有機オニウムイオンとを介してアリール基が導入された酸化セルロースに対し物理的解繊処理を施して、セルロースを微細化する。物理的解繊処理としては、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理が挙げられる。このような物理的解繊処理によって、上述したカルボキシ基と有機オニウムイオンとを介してアリール基が導入された酸化セルロースが溶媒中で微細化され、本発明で用いる微細化セルロース繊維(A)を含む分散液を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、分散液に含まれる微細化セルロース繊維(A)の数平均短軸径および数平均長軸径を調整することができる。
(第3工程)
次に、第3工程では、上述の第2工程で得られた微細化セルロース繊維(A)を含む分散液中に、ポリシラン(B)を含む溶液を混合して混合分散液を得る。具体的には、先ず、ポリシラン(B)を溶媒に溶解させる。本実施形態において用いられるポリシラン(B)としては一般式(2)で表されるポリシランであれば特に制限はなく、式(2)中、RおよびRは、各々独立にアリール基、炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、シリル基、およびハロゲン原子からなる群より選ばれる。ただし、RおよびRの少なくとも一方はアリール基である。ポリシラン(B)の重量平均分子量は30000以下であることが好ましい。ポリシラン(B)を第2工程で得られた微細化セルロース繊維(A)を含む分散液中に直接添加してもよいが、予めポリシラン(B)を溶解させた溶液を準備しておき、微細化セルロース繊維(A)を含む分散液と、ポリシラン(B)を含有する溶液と、を混合して混合分散液を得る工程がより好ましい。
こうして得られた混合分散液は、そのまま、または希釈、濃縮等を行って、多孔質体形成用組成物として利用することができる。
また、多孔質体形成用組成物は微細化セルロース繊維(A)、ポリシラン(B)および分散溶媒以外にその他の成分(C)を含んでも良い。その他の成分(C)としては特に限定されず、木材微細化セルロース繊維の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、等が挙げられる。
(第4工程)
次に、第4工程では、上述の第3工程で得られた混合分散液中の溶媒を除去するとともに、微細化セルロース繊維(A)表面に存在するアリール基とポリシラン(B)との側鎖に導入されたアリール基との間でπ−π相互作用によりスタッキング構造を形成し、微細化セルロース繊維(A)同士が凝集することなく溶媒が除去されてナノサイズの空隙を有する多孔質体を得る。
溶媒の除去については、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射など、公知の乾燥方法を用いて実施できる。乾燥条件としては、特に限定しないが、乾燥温度としては20℃以上200℃以下が好ましく、30℃以上150℃以下がより好ましい。20℃未満では溶媒の除去に時間がかかりすぎてしまい、200℃より高温ではセルロースが熱分解してしまうおそれがある。
多孔質体の成型形状や成型方式も特に限定されない。例えば適当な容器などに分散液をキャストし、溶媒を除去することによって成型体を得ても良い。また、その他多孔質体形成の一態様として、混合分散液を塗液として基材上に塗布し、乾燥させることによって多孔質体を含む積層体を提供することも可能である。混合分散液を基材に塗布する際には公知の塗布方法を用いることができ、例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーター、スピンコーター等を用いることができる。こうして得られた多孔質体薄膜は例えば断熱材、反射防止材、電池セパレーター、あるいは異物除去用フィルターなどとしての利用が可能である。
以上に説明したように、本実施形態の多孔質体1は微細化セルロース繊維(A)表面に存在するアリール基とポリシラン(B)との側鎖に導入されたアリール基との間でπ−π相互作用によりスタッキング構造を形成することによって、微細化セルロース繊維(A)間にナノサイズの空隙が維持されることを特徴とする、カーボンニュートラルな、新規なナノ多孔質体である。
また、本実施形態の多孔質体形成用組成物は、簡便な乾燥方法を用いても微細化セルロース繊維(A)同士が凝集することなく溶媒を除去することが可能であり、成形性および生産性が良好である。
また、本実施形態の多孔質体1の製造方法によれば、微細化セルロース(A)とポリシラン(B)とを含む混合分散液を調製する工程と、混合分散液から溶媒を除去する工程とを有しているため、多孔質体1を環境への負荷が低く、簡便に提供することができる。
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
<実施例1>
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロースの重量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプを得た。なお、この際導入されたカルボキシル基は反応媒中に残存する反応試薬に由来するナトリウムイオンを対イオンとした塩を形成している。続いて0.5Nの塩酸を滴下してpHを2まで低下させた。ガラスフィルターを用いてセルロースをろ別し、さらに0.05Nの塩酸で3回洗浄してカルボキシル基をカルボン酸とした後に純水で5回洗浄し、固形分濃度25%程度の湿潤状態の酸化パルプを得た。
(酸化パルプのカルボキシ基量測定)
TEMPO酸化で得た酸化パルプおよび再酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
(有機オニウム化合物による対イオン交換)
上記により調製した乾燥重量5gの酸化セルロースを固形分濃度5%となるように水を加えて懸濁液とし、ここにアルカリ種として有機オニウム化合物である、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウムを酸化セルロースのカルボキシル基量に対して1.0当量加えた。3時間攪拌した後ガラスフィルターを用いて酸化セルロースをろ別し、対イオン置換酸化セルロースを得た。
(溶媒置換)
上記により対イオン置換した酸化セルロースを、置換溶媒となる有機溶媒としてアセトンを用いて溶媒置換した。具体的には、まず酸化セルロースをアセトンに投入し、30分間攪拌した後にガラスフィルターを用いて酸化セルロースをろ別し回収した。さらに同様の作業を2回行った。続いて置換溶媒としてトルエンを用い、前述と同様の手順でアセトンからトルエンへの溶媒置換を行った。こうしてトルエンを包含した酸化セルロースを得た。
(セルロースの微細化)
溶媒置換した乾燥重量2g相当の酸化セルロースを分散媒となる有機溶媒であるトルエンに加え、ミキサー(大阪ケミカル、アブソルートミル、14000rpm)を用いて1時間処理することにより固形分濃度0.5%の微細化セルロース分散体を得た。得られた分散体の660nmにおける光線透過率は94%を示した。微細化セルロース繊維の繊維幅は3nmであった。
(ポリシラン溶液の調製)
ポリシラン化合物として、ポリメチルフェニルシラン(PMPS、大阪ガスケミカル)を固形分2%でトルエンに溶解し、PMPS溶液を調製した。
(微細化セルロース繊維とポリシランの混合分散液の調製)
微細化セルロース分散液を攪拌しながらPMPS溶液を最終的に分散液の質量比で1:1となるまで少しずつ添加しながら混合し、微細化セルロース繊維とPMPSとが均一に分散した混合分散液を調製した。すなわち、最終的な混合分散液中の微細化セルロース繊維濃度は0.25%となり、PMPSの濃度は1%となった。
(多孔質体の作製)
混合分散液を、膜厚25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にバーコーター#100を用いて塗布し、80℃で5分乾燥して積層体を形成した。
(多孔質体の比表面積測定)
積層体から微細化セルロース繊維を含む層を剥離し、窒素吸着BET法によりオートソーブ1−MP(ユアサアイオニクス社製)を用いて比表面積を測定した。測定結果を表1に示す。
<実施例2>
実施例1において、有機オニウム化合物として水酸化トリメチルフェニルアンモニウムを用いた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を作成し、比表面積測定を行った。
<実施例3>
実施例1において、有機オニウム化合物としてアニリンを用いた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を作成し、比表面積測定を行った。
<実施例4>
実施例1において、有機オニウム化合物として末端にアミン基および側鎖にフェニル基を有する重合度20のポリエチレングリコール(PEG修飾体)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で積層体を作成し、比表面積測定を行った。
<実施例5>
実施例1において、微細化セルロースおよびPMPSの分散溶媒としてクロロホルムを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で積層体を作成し、比表面積測定を行った。
<実施例6>
実施例1において、微細化セルロースおよびPMPSの分散溶媒としてテトラヒドロフランを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で積層体を作成し、比表面積測定を行った。
<比較例1>
実施例1において、有機オニウム化合物として水酸化テトラメチルアンモニウムを用いた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を作成し、比表面積測定を行った。
<比較例2>
実施例1において、有機オニウム化合物として水酸化テトラエチルアンモニウムを用いた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を作成し、比表面積測定を行った。
<比較例3>
実施例1において、有機オニウム化合物として水酸化テトラプロピルアンモニウムを用いた以外は、実施例1と同様の条件で積層体を作成し、比表面積測定を行った。
表1に示されるように、実施例1乃至6において比表面積を測定したところ、微細化セルロース繊維同士の凝集が妨げられることによって空隙が維持され、多孔質体を形成していることが確認された。特に実施例4においては、全実施例の中で最大の比表面積を有していた。これは実施例4において用いたPEG修飾体の重合度が比較的大きいため、PEG修飾体が微細化セルロース繊維表面にアミノ基、カルボキシ基を介して結合することによって微細化セルロースとトルエンの溶媒和が促進され、混合溶液中での分散状態が特に良好な状態で溶媒が除去されたためであると考えられる。
一方、比較例1乃至比較例3においては微細化セルロース繊維同士が凝集して緻密な積層膜を形成しており、多孔質体が形成されていないことが比表面積測定により確認された。これは用いた有機オニウム化合物がアリール基を含まないため、微細化セルロース繊維とPMPSの間でπ−πスタッキング構造を形成できず、微細化セルロース繊維同士が凝集してしまったためであると考えられる。
本発明によれば、バイオマス材料を用いた低環境負荷且つ簡便なプロセスにより、ナノサイズレベルの空隙を有する多孔質体とその製造方法、ならびに多孔質体形成用組成物を提供することが可能となる。また、多孔質体は、これまでに報告の無いカーボンニュートラルな新規多孔質体であり、そのナノサイズレベルの空隙や膨大な比表面積を活かせば、触媒担持体、エアフィルター、断熱材、反射防止材、電池セパレーターなどへの応用も考えられ、様々な分野への波及効果が期待できる。
1 多孔質体

Claims (9)

  1. 少なくともカルボキシ基が導入され微細化されたセルロース繊維であって、前記カルボキシ基の対イオンの少なくとも一部が下記一般式(1)で表される有機オニウムイオンである微細化セルロース繊維(A)と、少なくとも下記一般式(2)で表される単位を有するポリシラン(B)とを含有する、多孔質体。
    (式(1)中、Mは窒素原子あるいはリン原子を表し、R、R、RおよびRはアリール基、水素原子、炭化水素基、ポリエーテルあるいはヘテロ原子を含む炭化水素基を表す。ただし、R、R、RおよびRのうち少なくともひとつについてはその構造の中にアリール基を含む。)
    (式(2)中、RおよびRは、各々独立にアリール基、炭化水素基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アミノ基、シリル基、およびハロゲン原子からなる群より選ばれる。ただし、RおよびRの少なくとも一方はアリール基である。)
  2. 前記微細化セルロース繊維に導入されたカルボキシ基の含有量が、セルロース1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下である、請求項1に記載の多孔質体。
  3. 前記微細化セルロース繊維の結晶構造が、セルロースI型である、請求項1又は2に記載の多孔質体。
  4. 前記微細化セルロース繊維の形状が、天然セルロースのミクロフィブリル構造由来の繊維状である、請求項1乃至3のいずれかに記載の多孔質体。
  5. 前記微細化セルロース繊維は、数平均短軸径が1nm以上100nm以下、数平均長軸径が100nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の10倍以上である、請求項1乃至4のいずれかに記載の多孔質体。
  6. 前記ポリシラン(B)の重量平均分子量が30000以下である、請求項1乃至5のいずれかに記載の多孔質体。
  7. 窒素吸着BET法により測定される比表面積が100m/g以上である、請求項1乃至6のいずれかに記載の多孔質体。
  8. 請求項1乃至7のいずれかに記載の多孔質体を形成するための多孔質体形成用組成物であって、
    前記微細化セルロース繊維(A)と前記ポリシラン(B)とを、有機溶媒に分散させた、多孔質体形成用組成物。
  9. 請求項1乃至7のいずれかに記載の多孔質体の製造方法であって、
    前記微細化セルロース繊維(A)を有機溶媒中に分散させる工程と、
    前記ポリシラン(B)を有機溶媒中に溶解させる工程と、
    前記微細化セルロース繊維(A)を含む分散液と前記ポリシラン(B)を含む溶液とを混合し多孔質体形成用組成物を得る工程と、
    前記多孔質体形成用組成物に含まれる溶媒を除去することによって多孔質体を得る工程とを含む、多孔質体の製造方法。
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