(1)エンジンシステムの全体構成
図1は、本発明の実施形態にかかる直噴エンジンの燃焼室構造が適用されたエンジンシステムの構成を示した図である。本実施形態のエンジンシステムは、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気を導入するための吸気通路30と、エンジン本体1で生成された排ガスを排出するための排気通路40と、排ガスの一部を吸気に還流するEGR装置50とを備える。エンジン本体1は、例えば、4つの気筒2を有する4気筒エンジンである。エンジン本体1に供給する燃料の種類は限定されないが、本実施形態ではガソリンを含む燃料が用いられる。このエンジンシステムは車両に搭載され、エンジン本体1は車両の駆動源として利用される。
吸気通路30には、上流側から順に、エアクリーナ31、スロットルバルブ32、サージタンク33が設けられており、これらを通過した後の空気がエンジン本体1に導入される。
スロットルバルブ32は、吸気通路30を開閉するものである。ただし、本実施形態では、エンジンの運転中、スロットルバルブ32は基本的に全開もしくはこれに近い開度に維持されており、エンジンの停止時等の限られた運転条件のときにのみ閉弁されて吸気通路30を遮断する。
排気通路40には、三元触媒等を含み排ガスを浄化するための触媒装置41が設けられている。
EGR装置50は、EGR通路51と、これを開閉するEGRバルブ52と、EGRクーラ53とを有する。EGR通路51は、排気通路40のうち触媒装置41の上流側の部分と吸気通路30のうちスロットルバルブの下流側の部分(図1の例では、サージタンク33)とを接続しており、排気通路40を流通する排ガスの一部は、EGR通路51を通って吸気通路30に還流する。吸気通路30に還流する排ガスすなわちEGRガスの量は、EGRバルブ52の開弁量によって調整される。EGRクーラ53は、EGRガスを冷却するためのものであり、EGRガスはEGRクーラ53にて冷却された後、吸気通路30に還流される。
(2)エンジン本体の構成
エンジン本体1の構成について次に説明する。
図2は、エンジン本体1の一部を拡大して示した断面図である。本明細書では、図2に示す上下方向を単に上下方向といい、図2の上、下を単に上、下として説明する。
図2に示すように、エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復動可能に嵌装されたピストン5とを有している。
ピストン5の上方には燃焼室8が形成されている。具体的には、燃焼室8は、気筒2の壁面(内側面)と、ピストン冠面50(以下、単に、ピストン冠面50という)と、シリンダヘッド4の下面とで区画されている。
燃焼室8の詳細な構造については後述するが、燃焼室8の天井面80はいわゆるペントルーフ状を呈しており、この天井面80は、その中央部分に位置する頂部P1から気筒2の径方向外側に向かって下方に傾斜している。なお、本実施形態では、頂部P1の位置は、天井面80の中心から後述する排気側に少しずれた位置となっている。また、以下では、気筒2の径方向を単に径方向として説明する。
燃焼室8の底面を構成するピストン冠面50には、その中央部分を下方に凹ませたキャビティ7が形成されている。キャビティ7の容積は、ピストン5が上死点にある状態で燃焼室8のほぼ全容積を占めるように設定されている。本実施形態では、エンジン本体1の幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室8の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室8容積との比は、17以上35以下(例えば25程度)に設定されている。
シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気を気筒2内に導入するための吸気ポート11と、気筒2内で生成された燃焼ガスを排気通路40に導出するための排気ポート12とが設けられている。各ポート11,12は、それぞれ燃焼室8の天井面80に開口している。各ポート11,12の開口部分はそれぞれ吸気弁13、排気弁14によって開閉される。すなわち、シリンダヘッド4には、燃焼室8の天井面80に形成された吸気ポート11の開口部分を開閉する吸気弁13と、燃焼室8の天井面80に形成された排気ポート12の開口部分を開閉する排気弁14とが設けられている。
本実施形態では、1つの気筒2に対して吸気ポート11と排気ポート12とがそれぞれ2つずつ設けられており、図3(燃焼室8の天井面80の概略平面図)に示すように、燃焼室8の天井面80には吸気ポート11と排気ポート12とがそれぞれ2つずつ開口している。そして、1つの気筒2に対して、吸気弁13と排気弁14とがそれぞれ2つずつ設けられている。
また、図3に示すように、これら吸気弁13と排気弁14(吸気ポート11の開口部分と排気ポート12の開口部分)とは、燃焼室8の天井面80の頂部P1を通る直線を挟んで互いに反対側(図3の右側と左側)となる部分に設けられている。ここで、図3に示す例では、吸気ポート11の開口部分の面積すなわち吸気弁13のバルブヘッドの面積の方が、排気ポート12の開口部分の面積すなわち排気弁14のバルブヘッドの面積よりも小さくなっている。そして、これに伴い、上記のように、燃焼室8の天井面80の頂部P1は、天井面80の中心よりも排気側に位置している。
図2に示すように、吸気ポート11は、気筒2内にタンブル流を発生可能ないわゆるタンブルポートであって、燃焼室8の天井面80から上方かつ径方向外側に向かって緩やかに湾曲している。詳細には、吸気ポート11は、その中心線が、燃焼室8の天井面80に対して略直角(85°〜95°程度)となる姿勢で形成されている。
吸気弁13は、吸気弁開閉機構15によって開閉される。吸気弁開閉機構15には、吸気弁13の開閉時期を変更可能な吸気開閉時期変更機構(吸気閉弁時期変更手段)15aが設けられており、運転条件等に応じて吸気弁13の開弁時期および閉弁時期が変更される。本実施形態では、吸気弁13の開弁期間が一定に維持された状態でその開閉時期が変更される。
なお、本実施形態では、燃焼室8内の燃焼ガスの熱が燃焼室8の外部に放出されるのを抑制して冷却損失を低減するべく、燃焼室8の壁面(内側面)の表面に、熱伝導率が低い断熱材71が設けられている。具体的には、気筒2の内側面の上端部分と、ピストン冠面50と、燃焼室8の天井面80と、吸気弁13および排気弁14の各バルブヘッドの面とに、それぞれ断熱材71が設けられている。なお、気筒2の壁面に設けられた断熱材71は、ピストン5が上死点に位置した状態でピストンリングよりも上側となる部分に限定されており、ピストンリングが断熱材71上を摺動しないようになっている。
断熱材71としては、上記のように熱伝導率が低い材料で形成されればよく具体的な材料は限定されない。ただし、断熱材71として、燃焼室8の壁面よりも容積比熱が小さい材料を用いるのが好ましい。すなわち、エンジン本体1が冷却水により冷却される場合、燃焼室8内のガス温度は燃焼サイクルの進行によって変動する一方、燃焼室8の壁面の温度は略一定に維持される。そのため、この温度差に伴って冷却損失が大きくなる。そこで、断熱材71を容積比熱の小さい材料で形成すれば、断熱材71の温度が燃焼室8内のガスの温度の変動に追従して変化するため、冷却損失を小さく抑えることができる。
例えば、断熱材71は、燃焼室8の壁面上にZrO2等のセラミック材料がプラズマ溶射によりコーティングされることで形成されている。なお、このセラミック材料の中に多数の気孔が含まれるようにし、これにより断熱材71の熱伝導率および容積比熱をさらに小さくしてもよい。また、図2に示す例では、吸気ポート11の内側面にも断熱層72が形成されている。
シリンダヘッド4には、燃焼室8内に燃料を噴射する燃料噴射装置21と、燃焼室8内に形成された燃料と空気の混合気を点火するための点火プラグ22とが取り付けられている。
点火プラグ22は、その先端が、燃料噴射装置21の側方であって吸気弁13と排気弁14との間に位置するように配置されている。
燃料噴射装置21は、図外の燃料ポンプにより圧送された燃料を燃焼室8内に噴射する。本実施形態では外開き弁式の燃料噴射装置21が用いられている。
図4は、燃料噴射装置21の概略断面図である。図4に示すように、燃料噴射装置21は、先端(燃焼室8側の端部)にノズル口21bが形成された燃料管21cと、燃料管21cの内側に配設されてノズル口21bを開閉する外開き弁21aとを有する。
燃料噴射装置21は、図2等に示すように、その先端が燃焼室8の天井面80の頂部P1に位置してキャビティ7の中央部分を臨むように配置されている。また、燃料噴射装置21は、ノズル口21bおよび燃料管21cの中心軸が、燃焼室8の天井面80の頂部P1を通り気筒2の中心軸と平行に延びる燃焼室基準線L2に沿うように配置されている。
外開き弁21aは、印加された電圧に応じて変形するピエゾ素子21dに接続されている。外開き弁21aは、ピエゾ素子21dに電圧が印加されていない状態でノズル口21bと当接してノズル口21bを閉弁し、ピエゾ素子21dが電圧の印加に伴って変形することで、ノズル口21bから先端側に突き出してノズル口21bを開弁する。
ノズル口21bおよび外開き弁21aのうちノズル口21bと当接する部分は、先端側ほど径が大きくなるテーパ状を有しており、ノズル口21bからは、ノズル口21bの中心軸すなわち気筒2のほぼ中心軸を中心として、燃料がコーン状(詳しくはホローコーン状)に噴射される。例えば、このコーンのテーパ角は90°〜100°(ホローコーンにおける内側の中空部のテーパ角は70°程度)となっている。
ここで、外開き弁21aの開弁期間およびリフト量(リフト量は、外開き弁21aの閉弁位置からの突出量でありノズル口21bの開口量である)は、ピエゾ素子21dへの電圧の印加期間および電圧の大きさに応じて変化する。そして、外開き弁21aのリフト量に応じて、ノズル口21bから噴射される燃料噴霧のペネトレーション、単位時間あたりに噴射される燃料量および燃料噴霧の粒径は変化する。具体的には、リフト量が大きくノズル口21bの開口量が大きくなると、燃料噴霧のペネトレーションは大きくなり、単位時間あたりの噴射燃料量が大きくなるとともに燃料噴霧の粒径が大きくなる。
上記構成に伴い、燃料噴射装置21は、1〜2msecの間に20回程度の多段噴射を行うことができる。また、燃料噴射装置21は、燃料噴射の間隔と、リフト量とをそれぞれ変更することによって、径方向(ノズル口21bの中心軸と直交する方向)に対する燃料噴霧の広がりと、軸方向(ノズル口21bの中心軸に沿う方向)に対する燃料噴霧の広がりとを独立して制御することが可能となっている。
例えば、燃料の噴射間隔が短くされることで、燃料噴霧の軸方向の広がりは促進される。すなわち、燃料の噴射間隔が短い方が、ホローコーンの内側により継続して負圧領域が形成されて軸方向により長い負圧領域が形成される。そのため、燃料の噴射間隔が短い方が、この負圧領域に引き寄せられて燃料噴霧が軸方向に広がりやすくなる。
一方、燃料噴射装置21のリフト量が大きくされると、燃料噴霧の径方向の広がりが促進される。すなわち、リフト量が大きい場合には、上記のように燃料噴霧の粒径が大きくなって燃料噴霧の運動量が大きくなる。そのため、リフト量が大きい場合には、燃料噴霧は負圧領域に引き寄せられにくくなり、径方向の外方へより広がることになる。
(3)燃焼室の詳細構造
燃焼室8の詳細構造について次に説明する。図5は、ピストン5が上死点付近にある状態の燃焼室8周辺を拡大して示した断面図であり、図3のV−V線断面図である。図6は、ピストン冠面50の概略斜視図である。
燃焼室8の天井面80は、上記のようにペントルーフ状を呈している。すなわち、燃焼室8の天井面80は、吸気側(吸気ポート11が開口する側)と、排気側(排気ポート12が開口する側))とにそれぞれ設けられた2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしており、天井面80は、吸気側において頂部P1付近から径方向外側に向かって下方に傾斜する吸気側燃焼室斜面83と、排気側において頂部P1付近から径方向外側に向かって下方に傾斜する排気側燃焼室斜面84とを備える。
詳細には、燃焼室8の天井面80の頂部P1付近には上方に凹む凹部89が形成されており、吸気側燃焼室斜面83と排気側燃焼室斜面84とはこの凹部89の外周縁から径方向外側かつ下方に延びている。
本実施形態では、燃焼室基準線L2と直交する平面と吸気側燃焼室斜面83とがなす角度α1と、この平面と排気側燃焼室斜面84とがなす角度α2とは、ほぼ同じであり、
図5に示す断面において、吸気側燃焼室斜面83と排気側燃焼室斜面84とは、燃焼室基準線L2についてほぼ対称となっている。
図5に示した例では、燃焼室基準線L2と直交する平面に対するこれら斜面83,84の傾斜角度α1,α2は、いずれも20度程度である。そして、これに伴い、吸気弁13と排気弁14との挟み角(吸気弁13の軸と排気弁14の軸とがなす角度)は40度程度となっている。なお、斜面83,84の上記平面に対する角度α1,α2は、20度に限らないが、5〜25度程度に設定されるのが好ましい
ピストン冠面50には、その中央部分を囲むように上方に隆起する部分が設けられており、この隆起部分の径方向内側にキャビティ7が区画されている。キャビティ7は、その中心と燃焼室8の天井面80の頂部P1とがほぼ対向するように形成されている。
ピストン冠面50のうち上記隆起部分よりも径方向外側の部分すなわちキャビティ7の外周縁7aから径方向外側の部分は、全体として径方向外側に向かって下方に傾斜している。この傾斜部分には、吸気側バルブリセス53,53および排気側バルブリセス54,54がそれぞれ形成されている。すなわち、ピストン冠面50のうち各吸気弁13,各排気弁14と対向する部分(詳細には、ピストン5が上死点に位置する状態で各吸気弁13,各排気弁14と対向する部分)は、それぞれ下方に凹んでおり、これにより、各吸気弁13,各排気弁14とピストン5との接触を回避するためのバルブリセス53,54が区画されている。
これらバルブリセス53,54は、各弁13,14のバルブヘッドにほぼ対応する形状を有している。ただし、本実施形態では、図2等に示すように、キャビティ7は、その一部が各弁13,14と対向するような大きさを有している。これに伴い、図6に示すように、各バルブリセス53,54のうち径方向内側の部分はキャビティ7側に開放されている。そして、各バルブリセス53,54の底面53a,54aはキャビティ7の外周縁7aから径方向外側に向かって下方に傾斜している。
このようにして、本実施形態では、ピストン冠面50に、バルブリセス53,54の底面53a,54aであって、キャビティ7の外周縁7aから径方向外側に向かって下方に傾斜するピストン斜面53a,54aが区画されている。すなわち、ピストン冠面50は、吸気側に設けられて吸気側バルブリセス53,53の底面53a,53aによって構成される吸気側ピストン斜面53a,53aと、排気側に設けられて排気側バルブリセス54,54の底面54a,54aによって構成される排気側ピストン斜面54a,54aとを有している。
そして、ピストン冠面50のうち吸気側バルブリセス53どうしの間の部分には、吸気側バルブリセス53の底面(吸気側ピストン斜面)53aに対して上方に隆起する吸気側隆起部55が区画されるとともに、ピストン冠面50のうち排気側バルブリセス54どうしの間の部分に、排気側バルブリセスの底面(排気側ピストン斜面)54aに対して上方に隆起する排気側隆起部56が区画されている。
図5に示すように、吸気側隆起部55は、吸気側燃焼室斜面83とほぼ平行に延びている。また、排気側隆起部56は、排気側燃焼室斜面84とほぼ平行に延びている。
ここで、上記のように、本実施形態では、各燃焼室斜面83,84は燃焼室基準線L2と直交する平面に対して同じおよそ20度で傾斜している。従って、これら隆起部85,8699も燃焼室基準線L2と直交する平面に対して同じおよそ20度で傾斜している。
一方、吸気側ピストン斜面53とこれに対向する吸気側燃焼室斜面83とのなす角度(吸気側燃焼室斜面83に対する吸気側ピストン斜面53の傾斜角度)β1と、排気側ピストン斜面54とこれに対向する排気側燃焼室斜面84とのなす角度(排気側燃焼室斜面84に対する排気側ピストン斜面54の傾斜角度)β2とは異なっており、吸気側ピストン斜面53の傾斜角度β1の方が、排気側ピストン斜面54の傾斜角度β2よりも大きくなっている。
本実施形態では、排気側ピストン斜面54と吸気側燃焼室斜面83とのなす角度β2は0度程度に設定されて、これら斜面54,84どうしは互いにほぼ平行となっている。
一方、吸気側ピストン斜面53は、径方向内側に向かうほど吸気側燃焼室斜面83からの離間距離が大きくなるように傾斜している。そして、吸気側ピストン斜面53と吸気側燃焼室斜面83とのなす角度β1は、15度程度とされている。
上記のように、各燃焼室斜面83,84は燃焼室基準線L2と直交する平面に対して同じおよそ20度で傾斜していることから、本実施形態では、排気側ピストン斜面54も燃焼室基準線L2と直交する平面に対して同じおよそ20度で傾斜していることになる。一方、吸気側ピストン斜面53は、燃焼室基準線L2と直交する平面に対しておよそ5度で傾斜していることになる。
また、各ピストン斜面は、吸気側ピストン斜面53に沿って延びる仮想面(吸気側仮想面)F21と燃焼室基準線L2との交点P21の方が、排気側ピストン斜面54に沿って延びる仮想面(排気側仮想面)F22と燃焼室基準線L22との交点P22よりも下側に位置するように形成されている。
なお、本実施形態では、吸気側ピストン斜面53の方が、排気側ピストン斜面54よりも径方向外側および下方の位置まで広がっている。ただし、図5の断面において、燃焼室基準線L2と直交して排気側ピストン斜面54の下端を通るラインL10上における、燃焼室基準線L2と吸気側ピストン斜面53との離間距離と、燃焼室基準線L2から排気側ピストン斜面54との離間距離とはほぼ同じである。
(4)制御系統
(4−1)システム構成
図7は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示すように、当実施形態のエンジンシステムは、PCM(パワートレイン・コントロール・モジュール、制御手段)100によって統括的に制御される。PCM100は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
PCM100は、エンジンの運転状態を検出するための各種センサと電気的に接続されている。
例えば、シリンダブロック3には、クランク軸の回転角度および回転速度すなわちエンジン回転数を検出するクランク角センサSN1が設けられている。また、吸気通路30には、エアクリーナ31を通過して各気筒2に吸入される空気量(新気量)を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。また、車両には、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN3が設けられている。
PCM100は、上記各種センサからの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、PCM100は、スロットルバルブ32、吸気開閉時期変更機構15a、燃料噴射装置21、EGRバルブ52、点火プラグ22等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
具体的には、PCM100は、アクセル開度とエンジン回転数等から求められるエンジン負荷の要求値に応じて燃料の噴射量を算出して、これに対応する燃料を燃料噴射装置21に噴射させる。また、PCM100は、図8に示す運転領域に応じて噴射モード等を変更する。図8は、横軸がエンジン回転数、縦軸がエンジン負荷のマップであり、本実施形態では、運転領域として、大きく、エンジン負荷が予め設定された基準負荷T1未満の低負荷領域A1と、エンジン負荷が基準負荷T1以上の高負荷領域A2とに分けられている。また、低負荷領域A1が、エンジン負荷に応じて第1領域A1_aと、第2領域A1_cと、切替領域A1_bとに分けられている。各領域の制御内容について以下に説明する。
(4−2)低負荷領域
低負荷領域A1では、燃料と空気との混合気を予め混合させて、この混合気を圧縮上死点(TDC)付近で自着火させる予混合圧縮自着火燃焼が実施される。そのため、低負荷領域A1では、点火プラグ22の駆動は停止される。
また、低負荷領域A1では、冷却損失をより小さく抑えるべく、吸気弁13の閉弁時期が吸気下死点よりも遅角側の時期に制御される。
すなわち、吸気弁13の閉弁時期をより遅角側とすれば、吸気弁13が閉弁してから圧縮上死点までの時間すなわち吸気が圧縮される時間を短くすることができる。そして、圧縮されることに伴って高温となった吸気と気筒2の壁面(燃焼室8の壁面)との接触時間を短く抑えることができる。従って、吸気弁13の閉弁時期をより遅角側とすれば、上記接触に伴って高温の吸気から気筒2の壁面を介して外部に放出される熱エネルギーを小さく抑えることができる。そこで、低負荷領域A1では、上記のように、吸気開閉時期変更機構15aによって、吸気弁13の閉弁時期を吸気下死点よりも遅角側の時期に制御する。ここで、吸気弁13の閉弁時期を吸気下死点よりも遅角側とすれば、ポンピングロスを小さく抑えることもでき、エネルギー効率をより高めることができる。なお、吸気弁13の閉弁時期を吸気下死点よりも遅角側とすると有効圧縮比が小さくなるが、低負荷領域A1は、エンジン負荷が小さい領域であるため、有効圧縮比を小さくしても要求に応じたエンジン出力を確保することができる。
また、低負荷領域A1では、混合気の発熱量が小さく燃焼温度が比較的低いため、燃焼により生成されるNOx(いわゆるRaw NOx)が少なく抑えられる。そのため、この領域A1では、三元触媒41によりNOxを浄化させる必要がなく、空燃比を三元触媒によるNOx浄化が可能な理論空燃比にする必要がない。そこで、低負荷領域A1では、燃費性能を高めるべく混合気の空燃比がリーンすなわち空気過剰率λ>1とされる。
また、低負荷領域A1では、EGRガスが気筒2内に還流される。すなわち、低負荷領域A1では、EGRバルブ52が開弁されて、排気通路40内の排ガスの一部がEGRガスとして吸気通路30に還流される。
本実施形態では、低負荷領域A1において、燃料量に対する燃焼室8内の全ガス重量の割合であるG/Fが35以上となるようにEGRガスが還流される。また、エンジン負荷が高いほどEGR率(気筒2内の全ガス重量のうちEGRガスの重量が占める割合)が大きくされる。
また、低負荷領域A1では、圧縮上死点付近すなわち燃焼室8内での混合気の燃焼開始直前において、燃焼室8の中央部分、詳細には、キャビティ7の中央部分に、燃料濃度の高い混合気が形成されて、燃焼室8内(キャビティ7内)において、中央部分の方が外周部分よりも燃料濃度が高い成層化された混合気が形成されるように、圧縮行程後半(圧縮上死点前90°CA〜圧縮上死点まで)に、燃料噴射装置21からすべての燃料(1燃焼サイクルで噴射される燃料の全量)がキャビティ7内に噴射される。例えば、圧縮上死点前30°CA付近で全燃料が燃焼室8内に噴射される。
本実施形態では、混合気の燃焼開始直前において燃焼室8(キャビティ7)の外周部分に燃料をほぼ含まないガス層(以下、適宜、非燃焼ガス層という)が形成されるように、すなわち、燃焼室8(キャビティ7)の外周部分の燃料濃度がほぼゼロとなるように、エンジン負荷に応じて噴射モードが切り替えられるようになっている。
具体的には、低負荷領域A1のうちよりエンジン負荷が低い第1領域A1_aと、これよりもエンジン負荷の高い第2領域A1_cと、第1領域A1_aと第2領域A1_cとの切替領域A1_bとにおいて、それぞれ噴射モードが、それぞれ図9(a)〜(c)に示される第1噴射モード、第2噴射モード、切替領域噴射モードとされる。以下、各噴射モードの詳細について説明する。
図9(a)は、低負荷領域A1のうちよりエンジン負荷が低い第1領域A1_aで実施される第1噴射モードである。第1噴射モードでは、燃料噴射装置21のリフト量が小さくかつ噴射間隔が短い噴射が複数回連続して行われる。なお、噴射回数は図の例に限らず適宜変更可能である。
上記のように、噴射間隔が短いと燃料噴霧は軸方向に長くなる。そして、リフト量が小さいと燃料噴霧の径方向の外方への広がりは抑制される。従って、第1噴射モードでは、燃料噴霧および燃料と空気との混合気は、径方向に対して軸方向の長さが相対的に長い縦長形状となる。ここで、第1領域A1_aはエンジン負荷が特に低く、噴射される燃料量が小さい。そのため、混合気層が縦長形状とされつつその軸方向の長さは短く抑えられる。従って、燃焼室8の外周部分に非燃焼ガス層を形成することが可能となる。
図9(c)は、第2領域A1_cで実施される第2噴射モードである。第2噴射モードでは、燃料噴射装置21のリフト量が第1噴射モードのリフト量よりも大きくかつ噴射間隔が第1噴射モードよりも長い噴射が複数回連続して行われる。なお、噴射回数は図の例に限らず適宜変更可能である。
上記のように、噴射間隔が長いと燃料噴霧は軸方向に短くなる。そして、リフト量が大きいと燃料噴霧は径方向の外方へ広がる。従って、第2噴射モードでは、燃料噴霧および混合気は、軸方向に対して径方向の長さが相対的に長い横長形状となる。ここで、圧縮上死点付近における燃焼室8の寸法は軸方向よりも径方向の方が長く、径方向については空間に余裕がある。そのため、横長形状であっても燃焼室の壁面までは混合気は到達しない。従って、燃焼室8の外周部分に非燃焼ガス層を形成することが可能となる。
図9(b)は、切替領域A1_bで実施される切替領域噴射モードである。切替領域噴射モードは、第1噴射モードと第2噴射モードとを組み合わせたモードである。例えば、図9(b)に示すように、第2噴射モードの噴射を行った後(リフト量が大きくかつ噴射間隔が長い噴射を複数回連続させた後)、第1噴射モードの噴射を行う(リフト量が小さくかつ噴射間隔が短い噴射を複数回連続させる)。なお、これに代えて、第1噴射モードの噴射を行った後、第2噴射モードの噴射を行ってもよい。また、噴射回数は図の例に限らず適宜変更可能である。
切替領域噴射モードでは、第1噴射モードと第2噴射モードとの組み合わせにより、混合気層の特に径方向の外方への広がりが調整される。その結果、混合気層は、第1噴射モード時の混合気層よりも長くかつ、第2噴射モードの混合気層よりも短い形状となる。これにより、第1領域A1_aと第2領域A1_cとの境界領域である切替領域A1_bでは、混合気の軸方向および径方向の広がりが適切に調整されて、燃焼室8の外周部分に非燃焼ガス層を形成することが可能となる。
なお、切替領域噴射モードは省略可能である。また、本実施形態では、上記のように、低負荷領域A1では、空気過剰率λが1より大きくされて燃焼に寄与しない余剰の空気が存在するため、上記のように燃焼室8の外周部分に空気層が形成されても、燃焼室8の中央部分には燃焼に必要な空気が確保され、この部分の空燃比は適正な範囲におさめられる。
(4−3)高負荷領域
高負荷領域A2での制御について簡単に説明する。
高負荷領域A2では、スモークの悪化を抑制するべく、燃焼室8内の混合気がより均質化された状態(空燃比が均一とされた状態)で燃焼が開始するように圧縮行程後期から吸気行程初期にかけて燃料が噴射されるとともに、燃焼室8全体に形成された混合気に点火が行われて、これにより燃焼が開始される。
また、高負荷領域A2では、三元触媒によるNOx浄化が可能となるように、空燃比が理論空燃比とされる。すなわち、空気過剰率λが1とされる。また、高負荷領域A2では、EGRバルブ52が閉弁側に設定されてEGRガスの還流が縮小あるいは停止され、G/Fが35より小さい値とされる。
(5)作用等
以上のように、本実施形態では、低負荷領域A1において、燃焼室8(キャビティ7)内に中央部分の燃料濃度の方が外周部分の燃料濃度よりも高い混合気が形成されるように、圧縮行程後期にキャビティ7内に燃料が噴射される。そのため、燃焼室8の壁面近傍で生成される燃焼ガスの量を少なく抑えることができる。特に、本実施形態では、圧縮上死点前において燃料が複数回に分けて噴射されることによって、さらには、エンジン負荷に応じて上記各噴射モードが実施されることによって、燃焼室8の壁面近傍に燃料をほとんど含まない非燃焼ガスの層の形成が可能となる。従って、燃焼ガスと燃焼室8の壁面との接触を抑制することができ、燃焼室8の壁面から外部に放出される燃焼ガスの熱エネルギーの増大すなわち冷却損失の増大を抑制して燃費性能を高めることができる。
しかも、本実施形態では、吸気側ピストン斜面53が、径方向内側に向かって燃焼室8の天井面80からの離間距離が大きくなるように構成され、吸気側ピストン斜面53と吸気側燃焼室斜面83とがなす角度β1が、排気側ピストン斜面54と排気側燃焼室斜面84とがなす角度β2よりも大きく設定され、かつ、燃焼室基準線L2と吸気側ピストン斜面53に沿って延びる仮想面F21との交点P21が、燃焼室基準線L2と排気側ピストン斜面54に沿って延びる仮想面F22との交点P22よりも下側つまり燃焼室8の天井面80から離間する側に位置するように構成されている。そのため、以下に説明するように、燃焼ガスと燃焼室8の壁面との接触をより効果的に抑制することができる。
図10(a)〜(d)は、本実施形態に係るエンジンの気筒2内の吸気の流れを模式的に示した図である。図11は、図10(d)を拡大して示した図である。図12(a)〜(d)は、比較例に係るエンジンの気筒2内の吸気の流れを模式的に示した図である。図13は、図12(d)を拡大して示した図である。図10、図12において、(a)〜(d)は、それぞれ吸気行程から圧縮行程にかけての各クランク角での吸気の流れを順に示している。
比較例に係るエンジンは、図14に示すように、吸気側ピストン斜面153が本実施形態に係る排気側ピストン斜面154と同様に傾斜しており、各ピストン斜面153,154が、いずれも対向する各燃焼室斜面83,84とほぼ平行に延びるとともに、これらピストン斜面153,154に沿って延びる仮想面F121,F122と燃焼室基準線L2との交点P121,P122がほぼ一致するように構成されたものである。
なお、また、図10〜図14は、図5に対応しており、図3のV−V線についての断面図である。
まず、比較例について説明する。
図12(a)に示すように、吸気行程中、吸気ポート11から気筒2内に向かって吸気(空気とEGRガスとを含むガス)が流入する。このとき、気筒2内には、タンブル流が発生し、吸気ポート11からピストン冠面50に向かって排気側寄りの部分を通過しながら下降した後、ピストン冠面50付近から吸気側を通って上昇する吸気の流れが生じる。すなわち、排気側では吸気は主に下降し、吸気側では吸気は主に上昇する。
その後、吸気下死点を超えてピストン5が上昇を開始すると、図12(b)に示すように、ピストン5に押しあげられることで気筒2内の吸気側において生じている吸気の上向きの流れは強くなる。特に、このとき吸気弁13が開弁していると、気筒2内の吸気は吸気ポート11に向かって流れ、吸気側の上向きの吸気の勢いはより強くなる。
さらにピストン5が上昇して吸気弁13が閉弁すると、図12(c)に示すように、上昇した吸気は吸気弁13に衝突し、燃焼室8の天井面80に沿って排気側に移動するようになる。この流れは圧縮上死点付近でも残り、図12(d)に示すように、圧縮上死点付近において、気筒2内(燃焼室8内)では、燃焼室8の天井面80に沿って吸気側から排気弁側に向かうタンブル流に起因した流が形成される。
ここで、圧縮上死点付近では、図13の矢印Y,Y2に示すように、ピストン斜面153,154と燃焼室斜面83,84との間の隙間(いわゆるスキッシュエリア)からキャビティ7側に向かって吸気が移動し、燃焼室8内にはいわゆるスキッシュ流が発生する。
ただし、上記のように、比較例では、吸気側ピストン斜面153と排気側ピストン斜面154とがいずれも対向する燃焼室斜面183,184と平行に延び、かつ、これらピストン斜面153,154に沿う仮想面F121,F122と燃焼室基準線L2との交点P121,P122とが一致するように構成されている。
そのため、吸気側のスキッシュ流(吸気側ピストン斜面153と吸気側燃焼室斜面183との間からキャビティ7に向かう吸気の流れ)の勢いと、排気側のスキッシュ流(排気側ピストン斜面154と吸気側燃焼室斜面184との間からキャビティ7に向かう吸気の流れ)の勢いとはほぼ同等になる。また、吸気側のスキッシュ流の向きと排気側スキッシュ流の向きとは、燃焼室基準線L2に対してほぼ対称となる。そのため、これらスキッシュ流は互いに打ち消され、燃焼室8には、タンブル流に起因する上記吸気側から排気側に向かう吸気の流れのみが残ることになる。
この結果、比較例では、図13に示すように、上記本実施形態に係る各噴射モードで燃料を噴射しても圧縮上死点付近において混合気が燃焼室8の天井面80に沿って排気側に流れてしまい、混合気Qは図13に示すように燃焼室8の天井面80に沿うように形成されてしまう。そして、混合気ひいては燃焼ガスと燃焼室8の天井面80とが接触する。特に、燃焼室8の天井面80の排気側の部分(排気側燃焼室斜面84)と燃焼ガスとが広い領域で接触してしまう。
一方、本実施形態でも、図10(a)〜(c)に示すように、圧縮上死点付近に至るまでの間は、比較例と同様に燃焼室8内には吸気側において上方に向かう比較的強い吸気流れが生じる。また、本実施形態でも、図10(d)に示すように、圧縮上死点付近においてピストン斜面53,54と燃焼室斜面83,84との隙間からそれぞれキャビティ7側に向かうスキッシュ流が発生する。
しかしながら、本実施形態では、吸気側ピストン斜面53と吸気側燃焼室斜面83とがなす角度β1の方が、排気側ピストン斜面54と排気側燃焼室斜面84とがなす角度β2よりも大きく設定されている。そのため、吸気側のスキッシュ流の勢い(流速)は、排気側のスキッシュ流の勢い(流速)よりも小さく抑えられる。
さらに、本実施形態では、吸気側ピストン斜面53に沿う仮想面F21と燃焼室基準線L2との交点P21の方が、排気側ピストン斜面54に沿う仮想面F22と燃焼室基準線L2との交点P22よりも下方に位置している。そのため、吸気側ピストン斜面53に沿って流れる吸気側のスキッシュ流は、排気側ピストン斜面に沿って流れる排気側のスキッシュ流よりも下側を通過することになり、天井面80付近において吸気側から排気側への吸気の勢いが弱くなる。従って、燃焼室8の天井面80付近において、排気側のスキッシュ流の勢いの方が吸気側のスキッシュ流の勢いよりも十分に強くなる。
また、吸気側のスキッシュ流がより下側を通過することで、燃料噴射装置21から噴射された後、速度がある程度低下した燃料噴霧に吸気側のスキッシュ流を当てることができる。そのため、燃料噴霧およびこれと空気との混合気を効果的に吸気側スキッシュ流にのせて移動させることができ、混合気がタンブル流に起因する流れにのって燃焼室8の天井面80側に移動するのを効果的に抑制することができる。
すなわち、横軸を時間として噴霧の到達距離を示した図15のように、噴霧の到達距離が非常に短いときは噴霧の速度(図15に示すラインの傾き)は非常に速い。そのため、燃料噴射装置21のノズル口21b近傍では、燃料噴霧は周囲の吸気の流れからほとんど影響を受けない。これに対して、噴霧の到達距離が所定値以上になると、噴霧の速度は遅くなり、吸気の流れに影響を受けやすくなる。そのため、上記のように、吸気側のスキッシュ流をより下側すなわちノズル口21bからより遠い位置を通過するように構成すれば、速度が比較的遅くなった燃料噴霧に吸気側のスキッシュ流を当てて、燃料噴霧を吸気側のスキッシュ流にのせて効果的に径方向内側に移動させることができる。
このようにして、本実施形態では、タンブル流に起因して燃焼室8の天井面80に沿って吸気側から排気側に向かう吸気を、排気側のスキッシュ流によって吸気側に押し戻すことができ、図11に示すように、燃焼室8の天井面80と混合気Qひいては燃焼ガスとの接触が抑制されて、燃焼ガスの周囲に非燃焼ガスの層を形成することができる。
(6)変形例
上記実施形態では、吸気側ピストン斜面53と吸気側燃焼室斜面83とのなす角度β1を5度とした場合について説明したが、この角度β1の具体的な値はこれに限らない。
ただし、この角度β1を小さくしすぎると、吸気側スキッシュ流が燃焼室8の天井面80に近い位置を通過することになるため、燃焼室8の天井面80に沿って吸気側から排気側に向かう吸気流れの勢いを十分に弱くすることが難しくなる。
一方、この角度β1を大きくしすぎると、今度は、吸気側スキッシュ流が過剰に下方を通過することになり、吸気が燃焼室8(キャビティ7)の底面に向かって流れやすくなり、混合気および燃焼ガスとキャビティ7の底面すなわち燃焼室8の壁面と接触しやすくなる。
そこで、吸気側ピストン斜面53と吸気側燃焼室斜面83とのなす角度β1は所定の範囲内とするのが好ましい。
これについて、本願発明者らは、吸気側ピストン斜面53と吸気側燃焼室斜面83とのなす角度β1と、混合気が燃焼室8の壁面と接触する面積との関係を調べた。その結果、図16に示すような結果を得た。図16は、横軸を角度β1とし、縦軸を接触面積としたグラフである。この図16に示すように、吸気側ピストン斜面53と吸気側燃焼室斜面83とのなす角度β1を2度よりも小さくすると、混合気と燃焼室8の壁面との接触面積は急増する。また、この角度β1を15度より大きくしても、接触面積は急増する。従って、吸気側ピストン斜面53と吸気側燃焼室斜面83とのなす角度β1としては、2度以上15度以下に設定されるのが好ましい。なお、図16は、排気側ピストン斜面54と排気側燃焼室斜面84とのなす角度β2を2度としたときの結果であるが、図16に示した角度β1と接触面積との関係は、角度β2の値を変更すると、その値より小さい側は接触面積が大きくなり,その値より大きい側は15度まで接触面積が小さくなる同じ傾向となり、角度β1を2度以上15度以下とすれば上記接触面積が小さく抑えられる。
また、上記実施形態では、排気側ピストン斜面54と排気側燃焼室斜面84とを平行として、これらのなす角度β2を0度とした場合について説明したが、この角度β2の具体的な値はこれに限らない。
ただし、この角度β2を大きくしすぎると、排気側スキッシュ流の勢いが小さくなって、タンブル流に起因する吸気側から排気側への吸気の流れに十分に抗することができない。そのため、この角度β2は所定値以下に抑えるのが好ましい。
これについて、本願発明者らは、排気側ピストン斜面54と排気側燃焼室斜面84とのなす角度β2と、混合気が燃焼室8の壁面と接触する面積との関係を調べた。その結果、図17に示すような結果を得た。図17は、横軸を角度β2とし、縦軸を接触面積としたグラフである。この図17に示すように、排気側ピストン斜面54と排気側燃焼室斜面84とのなす角度β2を13度よりも大きくすると、混合気と燃焼室8の壁面との接触面積は急増する。従って、排気側ピストン斜面54と排気側燃焼室斜面84とのなす角度β2としては、13度以下に設定されるのが好ましい。なお、この角度β2を0度未満とした場合、すなわち、排気側ピストン斜面54を、径方向内側に向かって排気側燃焼室斜面84に近づくように傾斜させた場合には、適切な排気スキッシュ流が得られないため、この角度β2は0度以上であるのが好ましい。また、図17は、吸気側ピストン斜面53と吸気側燃焼室斜面83とのなす角度β1を15度としたときの結果であるが、図17に示した角度β2と接触面積との関係は、角度β1の値を変更してもその値より小さい側が0度まで接触面積が小さくなる同じ傾向となり、角度β1を13度以下とすれば上記接触面積が小さく抑えられる。
また、上記実施形態では、各燃焼室斜面83,84が、燃焼室基準線L2と直交する平面に対しておよそ20度傾斜している場合について説明したが、この傾斜角度はこれに限らない。また、吸気側燃焼室斜面83の上記平面に対する傾斜角度と、排気側燃焼室斜面84の上記壁面に対する傾斜角度とは異なるように設定されてもよい。
また、上記実施形態では、低負荷領域A1において図9(a)〜(c)に示す噴射モードで燃料を噴射した場合について説明したが、低負荷領域A1では、燃焼開始直前の燃焼室8内の燃料濃度がその中央部分の方がその外周部分よりも高くなるように圧縮行程後期に燃料が噴射されればよく、具体的な噴射パターンはこれに限らない。ただし、圧縮行程後期において複数回に分けて燃料を噴射すれば、燃料の到達距離を短く抑えることができ、燃料濃度をより確実に成層化することができる。また、図9(a)〜(c)に示す噴射モードとすれば、燃焼室8の外周部分に非燃焼ガスの層を形成することができ、冷却損失をより確実に小さく抑えることができる。
また、断熱材71は省略可能である。ただし、断熱材71を設ければ、より効果的に冷却損失を小さく抑えることができる。
また、燃料として、ガソリンを含まない燃料が用いられてもよい。