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JP6497296B2 - タンクの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、タンクの製造方法に関する。
高圧の流体を貯蔵・密封するためのタンクとして、流体を貯蔵する空間を形成するライナと、ライナに取り付けられた口金と、を備えるタンクが知られている。このようなタンクでは、流体の密閉性を確保するために、ライナと口金との間の接続部において十分なシール性が確保されることが望まれる。従来、ライナと口金との間のシール性を確保するための構造として、口金の表面に設けた環状溝の内部にライナを嵌入させる構造であって、上記環状溝の形状を、ライナにおける嵌入部分が拡径方向にスライド可能になる形状にする構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような構造を採用することで、ライナが収縮膨張する場合であっても、ライナの嵌入部分が環状溝内でスライドすることによってライナの収縮膨張を吸収して、ライナと口金とが係合する状態を維持し、ライナと口金との間のシール性の確保を図っている。
特開2000−291888号公報 特開2004−211783号公報
しかしながら、上記のように環状溝内でライナの嵌入部分をスライドさせる場合には、ライナの嵌入部分のスライドに伴って環状溝内に空間が生じるため、この空間内に高圧の流体が入り込む可能性がある。上記空間内に流体が入り込むと、入り込んだ流体に起因して、ライナと口金との間の接触圧を低下させる力が生じるため、ライナと口金との間のシール性の低下を引き起こし得る。そのため、ライナと口金との間のシール性をさらに向上させる技術が望まれていた。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本発明の一形態によれば、流体を密閉するための内部空間を形成するライナと、該ライナに取り付けられた口金と、を備えるタンクの製造方法が提供される。このタンクの製造方法において、前記口金は、前記内部空間に連通する中空の筒状部と、該筒状部から該筒状部の径方向外側に張り出して形成されたフランジと、を備え;前記フランジの外表面は、前記内部空間側に配置される底面と、前記内部空間から離間する側に配置される上面とを含み;前記底面は、前記筒状部の開口部を囲む環状溝と、前記底面において最も前記径方向外側に位置する外周部と、前記環状溝と前記外周部との間に形成された段差部と、を含む。そして、タンクの製造方法は、前記ライナの一部を構成する底面層であって、前記環状溝よりも前記径方向内側の位置から前記外周部まで前記フランジの前記底面を覆う底面層として、前記環状溝を塞ぐと共に前記段差部の形状に沿った折れ曲がり形状を有する底面層を形成しつつ、前記ライナを前記口金と一体形成する第1のライナ形成工程と;前記第1のライナ形成工程の後、前記ライナの収縮により、前記底面における前記環状溝よりも前記径方向内側の領域および前記外周部が前記ライナと接する状態で、前記底面の前記段差部と前記底面層との間に空間を生じさせる第2のライナ形成工程と、を備える。
この製造方法によれば、フランジの底面において、環状溝と外周部との間に段差部を設け、この段差部に沿う折れ曲がり形状を有する底面層を形成している。そのため、第1のライナ形成工程の後にライナが収縮する際に、段差部と底面層との間に空間が生じて、段差部から剥離した底面層が伸びることにより、ライナの収縮を吸収することができる。そのため、フランジの底面における環状溝よりも径方向内側の領域に接するライナの底面層において、径方向外側に向かう収縮応力が生じることを抑えて密着性を維持し、ライナとフランジとの間のシール性を向上させることができる。
本発明は、上記以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、高圧タンク等の形態で実現することができる。
高圧タンクの概略構成を表わす説明図である。 高圧タンクの製造方法を示すフローチャートである。 口金と第3ライナとの接合部の様子を表わす断面図である。 シミュレーションによる解析結果を説明する図である。 口金と第3ライナとの接合部の様子を表わす断面図である。 シミュレーションによる解析結果を説明する図である。 接触圧を求めた領域を表わす説明図である。 口金と第3ライナとの接合部の様子を表わす断面図である。 シミュレーションによる解析結果を説明する図である。 第1の実施形態と第2実施形態とを比較する説明図である。 口金と第3ライナとの接合部の様子を表わす断面図である。 シミュレーションによる解析結果を説明する図である。 口金と第3ライナとの接合部の様子を表わす断面図である。 シミュレーションによる解析結果を説明する図である。
A.第1実施形態:
図1は、本発明の第1実施形態としての高圧タンク10の概略構成を表わす説明図である。図1では、高圧タンク10の中心軸を軸線Oとして示しており、軸線Oの左半分に外観を示し、右半分に断面を示す。
高圧タンク10は、本実施形態では圧縮水素を貯蔵し、例えば燃料電池車に搭載される。高圧タンク10は、ライナ20と、補強層30と、一対の口金40と、を備える。ライナ20、補強層30、および口金40のそれぞれは、概ね、軸線Oを中心とする回転対称に形成されている。以下、軸線Oを通過して軸線Oに直交する方向を径方向と呼ぶ。
ライナ20は、ナイロン(ポリアミド系合成繊維)等の樹脂製部材であり、流体を密封するための空間を、口金40と共に形成する。ライナ20と口金40とによって形成された水素を充填するための空間を、以下「内部空間」と呼ぶ。ライナ20は、円筒状の第1ライナ21と第2ライナ22とを溶着すると共に、その両端に、略半球状の第3ライナ23および第4ライナ24を溶着するによって形成されている。第3ライナ23および第4ライナ24は、それぞれ、後述するように口金40と一体成形される。
補強層30は、ライナ20の外表面を覆うように形成されている。この補強層30は、ライナ20を補強して高圧タンク10の強度を向上させるためのものであり、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)によって形成されている。補強層30は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維をライナ20の外周に巻き付けた後に、上記含浸させた樹脂を硬化させることにより形成することができる。
口金40は、アルミニウム等の金属製部材であり、ライナ20の両端に配置される第3ライナ23および第4ライナ24の各々に取り付けられる。一方の口金40は、高圧タンク10への水素の供給および高圧タンク10からの水素の放出に係る配管が接続され、他方の口金40は、高圧タンク10の内部空間を密閉する。双方の口金40とライナ20との接続に係る構造は同様であるため、以下では、上記配管が接続される口金40と、この口金40と一体形成される第3ライナ23と、に係る構造について説明する。
図2は、本実施形態の高圧タンク10の製造方法を示すフローチャートである。高圧タンク10を製造する際には、まず、一対の口金40と、第1ライナ21および第2ライナ22とを用意する(ステップS100)。口金40は、鍛造および切削により作製する。第1ライナ21および第2ライナ22は、射出成形により形成する。
その後、口金40と第3ライナ23あるいは第4ライナ24とを一体成形する(ステップS110)。すなわち、一方の口金40をインサートとして第3ライナ23を射出成形すると共に、他方の口金40をインサートとして第4ライナ24を射出成形する。
その後、第1ライナ21〜第4ライナ24を溶着して、ライナ20を完成する(ステップS120)。そして、ライナ20の外周に補強層30を構成する樹脂含浸炭素繊維を巻き付けた後(ステップS130)、上記樹脂を硬化させて(ステップS140)、高圧タンク10を完成する。
本実施形態では、ステップS100で用意する口金40の形状、および、ステップS110において口金40と第3ライナ23および第4ライナ24とを一体形成する工程に特徴があるため、以下に詳しく説明する。
図3は、口金40と第3ライナ23との接合部の様子を表わす断面図である。図3は、ステップS110において第3ライナ23を口金40と共に金型内でインサート成形したときの様子を表わす。ただし、図3では、金型の図示は省略している。また、図3では、高圧タンク10の軸線Oを含む図1と同様の断面における、軸線Oよりも右側の部分であって、口金40および第3ライナ23の断面のみを示している。
図3に示すように、口金40は、筒状部50とフランジ52とを有する。筒状部50は、貫通孔51を有する中空の部位である。貫通孔51は、高圧タンク10の外部と高圧タンク10の内部空間とを連通させる流路を形成し、高圧タンク10の内部空間に対して開口部53で開口する。貫通孔51の内周面には、配管用バルブを取り付けるための雌ねじが形成されている。
フランジ52は、筒状部50から径方向外側に張り出して形成された部位である。フランジ52の外表面は、内部空間側に配置される底面47と、内部空間から離間する側に配置される上面48と、を含む。底面47において最も径方向外側であって、上面48との境界を、以下、外周部46と呼ぶ。
フランジ52の底面47には、凹凸形状が形成されている。具体的には、底面47には、貫通孔51の開口部53を囲んで形成された溝である第1の環状溝41と、第1の環状溝41よりも外周部46寄りに設けられた第2の環状溝42と、第1の環状溝41と第2の環状溝42との間に形成された段差部44と、が形成されている。フランジ52は、軸線Oに平行な方向の厚みが、径方向外側に向かって次第に薄くなっており、段差部44は、径方向外側に向かって上記厚みが急激に薄くなるように形成されている。第1の環状溝41および第2の環状溝42は、フランジ52にライナ20が密着する力を強めるための構造である。また、第1の環状溝41よりも径方向内側には、軸線Oに対して直交する平面である第1平面部49が形成されており、第1の環状溝41と段差部44との間には、軸線Oに対して直交する平面である第2平面部43が形成されており、段差部44と第2の環状溝42との間には、軸線Oに対して直交する平面である第3平面部45が形成されている。なお、第1の環状溝41が、本願の「課題を解決するための手段」における「環状溝」に相当する。
ステップS110では、ライナ20(第3ライナ23)は、フランジの底面47および上面48を覆うように金型内で口金40と一体成形される。底面47側では、ライナ20は、第1の環状溝41よりも径方向内側の領域(第1平面部49の外周部分)から外周部46まで、連続して形成される。図3では、ライナ20の軸線O側の端部を、内周端25として示している。以下では、ライナ20において、フランジ52の底面47を覆う部分を底面層26とも呼び、フランジ52の上面48を覆う部分を上面層27とも呼ぶ。底面層26は、第1の環状溝41および第2の環状溝42を中実な状態で完全に塞いでおり、底面層26における内部空間側の表面は、第1の環状溝41および第2の環状溝42に対応する溝形状を有しない。具体的には、底面層26における内部空間側の表面において、第1の環状溝41を覆う部分は、第2平面部43を覆う部分と同一平面を構成し、第2の環状溝42を覆う部分は、第3平面部45を覆う部分と同一平面を構成する。
これに対して、底面層26における段差部44を覆う部分は、段差部44を塞ぐことなく、段差部44に沿った形状に形成される。すなわち、底面層26における内部空間側の表面の、段差部44を覆う部分には、段差部44と同様の段差が形成される。そのため、底面層26は、第2平面部43と第3平面部45との間において、段差部44に沿った折れ曲がり形状を有している。なお、本実施形態では、段差部44を経由して第2平面部43から第3平面部45までの範囲にわたって、底面層26は、ほぼ均一の厚みに形成されている。
図4は、本実施形態の高圧タンク10について、シミュレーション・ツールを用いて解析を行なった結果を示し、その結果を説明する図である。ここでは、汎用性非線形有限要素法解析ソフトウェアであるAbaqus(ダッソー・システムズ社製)を用いて、フランジ52とライナ20(底面層26)との間の接触圧を算出し、ライナ20の変形量を求めて、フランジ52とライナ20との間のシール性を評価した。本実施形態の高圧タンク10におけるシール性を評価するために、本実施形態の高圧タンク10と、比較例の高圧タンクとを比較した。
図5は、比較例の高圧タンクの構成を、図3と同様に示した説明図である。また、図6は、図5に示した比較例の高圧タンクについて、本実施形態の高圧タンク10と同様にして評価した結果を示す説明図である。比較例の高圧タンクは、口金40に代えて、フランジの底面47の形状が異なる口金140を備えると共に、ライナ20に代えて、ライナ120を備えること以外は、各部の構成材料および寸法を含めて、第1実施形態と同様の構成を有する。そのため、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明を省略する。
図5に示すように、比較例の高圧タンクの口金140の底面47には、第1の環状溝41および第2の環状溝42が形成されているが、段差部44は形成されていない。そして、底面47において、第1の環状溝41と第2の環状溝42との間の領域は、軸線Oに対して直交する平面である第2平面部143を構成している。
図4および図6における「成形収縮後」の図は、口金と一体成形したライナが、収縮して変形した様子を示す。ステップS110では、口金をインサートとして配置した金型内に溶融樹脂を射出することによりライナを成形するが、ライナを構成する樹脂は、冷却されて硬化する際に収縮する。なお、上記冷却の際には金属製の口金も収縮するが、収縮率は、口金よりも硬化時の上記樹脂の方が大きい。そのため、金型内ではライナにおいて収縮応力が発生する。
射出成形の後、口金と一体成形したライナを金型から取り出すと、上記収縮応力によってライナが変形する。図4および図5における「成形収縮後」の図は、このように、口金と一体成形したライナを金型から取り出した後に変形した様子を表わす。なお、図4および図6、並びに、後述する図9、図12、および図14における「成形収縮後」の図は、解析結果から得られたライナの変形量を5倍にして、変形の様子を分かり易く示した模式図である。本実施形態のステップS110において、金型内で口金をインサートとしてフランジを射出成形する工程が、「課題を解決するための手段」における「第1のライナ形成工程」に相当し、金型から取り出すことによって収縮したフランジと口金とが一体形成された構造を得る工程が、「課題を解決するための手段」における「第2のライナ形成工程」に相当する。
図4の「成形収縮後」の図に示すように、本実施形態の高圧タンク10では、成形収縮が終わった後のライナ20の底面層26は、内周端25から第1の環状溝41と重なる部分までの領域はフランジ52と密着する状態を維持する。しかしながら、段差部44と接していた領域は、フランジ52から離間する結果となった。その理由は、以下のように考えられる。
すなわち、ライナ20は筒状であるため、ライナ20が収縮するときには、軸線O側に向かって収縮する力が働く。また、ライナ20の底面層26において内周端25の近傍には、フランジ52の第1の環状溝41に係合する凸構造が設けられているため、内周端25の近傍において底面層26とフランジ52との密着性が高められている。そのため、図4の「成形収縮後」の「変形の状態」に示すように、内周端25の近傍では、底面層26において軸線O側に向かって収縮力が働く。一方、ライナ20は、フランジ52の底面47および上面48の双方に沿って設けられているため、外周部46の近傍においてライナ20は、フランジ52に対して強く拘束されている。したがって、図4の「成形収縮後」の「変形の状態」に示すように、外周部46の近傍では、底面層26において径方向外側に向かって収縮力が働く。そのため、段差部44近傍において、底面層26は、径方向外側と内側の両方に向かって引っ張られることによりフランジ52から離間する。その結果、段差部44上から離間した底面層26の折れ曲がり形状が引き延ばされて収縮力を吸収する。そして、底面層26は、内周端25側および径方向外側の端部においてフランジ52に密着しつつ、段差部44を含む領域上が開いた(フランジ52との間に空間が形成された)状態で安定する。
これに対して、比較例の高圧タンクでは、図5の「成形収縮後」の図に示すように、内周端25を含む端部領域において、ライナ120の底面層126はフランジ52から離間して脱落する。その理由は、以下のように考えられる。すなわち、比較例の高圧タンクでは、フランジ52に段差部が形成されておらず、底面層126は、第1の環状溝41と第2の環状溝42との間において折れ曲がり形状を有していない。そのため、外周部46近傍で拘束される底面層126において、径方向外側に向かって収縮する力は、特別な構造によって途中で吸収されることなく内周端25まで働く。内周端25近傍において底面層126は第1の環状溝41に係合するものの、外周部46近傍で拘束された状態で径方向外側に向かって収縮する力が強いために、底面層126における内周端25を含む端部領域は、フランジ52の底面47から剥がれることになる。
なお、高圧タンク10において、ライナ20が硬化して金型から取り出された後に、段差部44の近傍において底面層26とフランジ52との間に空間が形成されたことは、例えば、X線CTによる非破壊検査を行なうことにより確認できる。このような検査は、フランジ52と一体化した第3ライナ23を金型から取り出した後、高圧タンク10を完成させて水素を充填するまでの間に行なうことができる。上記空間の大きさ、具体的には、底面層26とフランジとの間の距離の最大値は、例えば、0.5mm〜5mmとすることができる。
図4および図6における「成形収縮後」の「内圧付与範囲」では、「変形の状態」と同様の図において、各々の高圧タンクに水素ガスを充填したときに内部空間の圧力(タンク内圧)が直接かかるタンク内表面の領域を、太線で示している。図4から分かるように、第1実施形態の高圧タンクでは、段差部44の近傍において底面層26とフランジ52との間に空間が存在するものの、内周端25を含む領域において底面層26とフランジ52との間の密着性が保たれる(破線で囲んで示す領域を参照)。そのため、ライナ20の収縮後であっても、ライナ20とフランジ52との間のシール性は維持される。これに対して、比較例の高圧タンクでは、底面層126において内周端25を含む端部領域が脱落しており、射出成形時にはフランジ52と接していた領域にもタンク内圧がかかる(破線で囲んで示す領域を参照)。このような領域にタンク内圧がかかると、タンク内圧は、底面層126をフランジ52からさらに剥がす方向に働く。そのため、ライナ120とフランジ52との間のシール性が低下すると考えられる。
ここで、図6における「成形収縮後」の図では、比較例の高圧タンクの製造時にフランジ52と一体形成したライナ120を金型から取り出した後に、内周端25を含む領域において底面層126がフランジ52から離間する様子を示している。しかしながら、このような高圧タンク内に加圧水素を充填すると、タンク内圧によって底面層126がフランジ52側に押圧されるため、上記離間した領域もフランジ52に接して接触圧が発生する。ただし、上記離間した領域では、底面層126とフランジ52との密着性が十分でないため、既述したように接触面内に水素が入り込んで接触圧が低下すると考えられる。
図4および図6における「シール性評価結果」は、上記した第1実施形態の高圧タンクおよび比較例の高圧タンクに充填する水素圧を変更したときに、ライナの底面層とフランジとの間に発生する接触圧を解析した結果を示す。ここでは、グラフAとグラフBとで、異なる領域における接触圧の解析結果を示している。
図7は、上記「シール性評価結果」においてグラフAおよびグラフBに示す接触圧を求めた領域を示す説明図である。グラフAは、図7で領域Aとして示す範囲における接触圧の最大値を表わす。すなわち、内周端25から、第1の環状溝41の内周側の境界までの範囲における接触圧の最大値を表わす。また、グラフBは、図7で領域Bとして示す範囲における接触圧の最大値を表わす。すなわち、第1の環状溝41の頭頂部(溝が最も深い位置)から、第2平面部(43,143)における内周側端部近傍までの範囲における、接触圧の最大値を表わす。図4および図6における「シール性評価結果」では、上記領域Aおよび領域Bの各々における接触圧の最大値の、タンク内圧に対する比の値によって、接触圧の解析結果を示している。
図4に示すように、第1実施形態の高圧タンクでは、領域Aおよび領域Bのいずれにおいても、上記比の値は1以上であり、タンク内圧よりも大きな接触圧が発生する結果となった。特に、内周端25を含む領域Aでは上記比の値は大きな値を示し、ライナ20とフランジ52との間で高いシール性が維持できることが確認された。これに対し、比較例の高圧タンクでは、タンク内圧を広い範囲で変更したときに、領域Aにおける上記比の値が1を大きく下回る結果となった。すなわち、タンク内圧が高まると、底面層において製造時の収縮によってフランジから剥がれた部分もフランジに押しつけられて接触圧が発生するが、この接触圧はタンク内圧よりも小さくなり、ライナ120とフランジ52との間のシール性が不十分になると考えられる。
以上のように構成された本実施形態の高圧タンクによれば、フランジ52の底面47において、第1の環状溝41と外周部46との間に段差部44を設け、この段差部44に沿う形状の底面層26を形成することによって、底面層26に折れ曲がり形状を設けている。そのため、ライナ20の作製時にライナ20が収縮する際に、底面層26の収縮を、上記折れ曲がり形状がフランジ52から剥離して伸びることにより吸収可能となる。そして、底面層26の内周端25近傍において、底面層26とフランジ52との間の密着性を確保することができる。その結果、ライナ20とフランジ52との間のシール性を高めることができる。
B.第2実施形態:
図8は、本発明の第2実施形態としての高圧タンクにおける口金と第3ライナとの接合部の様子を、図3と同様に示す断面図である。また、図9は、図8に示した第2実施形態の高圧タンクについて、図4と同様に評価した結果を示す説明図である。第2実施形態の高圧タンクは、口金40に代えて、フランジの底面47の形状が異なる口金240を備えると共に、ライナ20に代えて、ライナ220を備えること以外は、各部の構成材料および寸法を含めて、第1実施形態と同様の構成を有する。そのため、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明を省略する。
図8に示すように、第2実施形態の高圧タンクの口金240の底面47には、第1の環状溝41および第2の環状溝42が形成されており、さらに、第1の環状溝41と第2の環状溝42との間に段差部244が形成されている。そして、第1の環状溝41と段差部244との間には、軸線Oに対して直交する平面である第2平面部43が形成されており、段差部244と第2の環状溝42との間には、軸線Oに対して直交する平面である第3平面部45が形成されている。ここで、第2実施形態のフランジ52では、径方向内側から外側に向けて、急激にフランジ52の厚みが増すように段差部244が形成されている。また、第2実施形態では、ステップS110において、ライナ220の底面層226は、第1実施形態と同様に第1の環状溝41および第2の環状溝42を完全に塞ぐように形成されると共に、段差部244を塞ぐことなく、段差部244に沿った折れ曲がり形状に形成される。
図9の「成形収縮後」の「変形の状態」に示すように、第2実施形態の高圧タンクは、成形収縮後において、第1実施形態と同様に、内周端25の近傍、および外周部46の近傍では、底面層226とフランジ52との間の密着状態を維持する。そして、底面層226において段差部244と接していた領域は、フランジ52から離間して、折れ曲がり形状が伸びることによって収縮を吸収する。すなわち、図9の「成形収縮後」の「内圧付与範囲」に示すように、第2実施形態の高圧タンクでは、段差部244の近傍において底面層226とフランジ52との間に空間が存在するものの、内周端25を含む領域において底面層226とフランジ52との間の密着性が保たれる(破線で囲んで示す領域を参照)。そのため、ライナ220の収縮後であっても、ライナ220とフランジ52との間のシール性は維持される。
また、図9の「シール性評価結果」に示すように、第2実施形態の高圧タンクでは、領域Aおよび領域B(図7参照)のいずれにおいても、各々の領域における接触圧の最大値のタンク内圧に対する比の値は1以上であり、タンク内圧よりも大きな接触圧が発生する結果となった。特に、内周端25を含む領域Aにおいて、第1実施形態と同様に、上記比の値は大きな値を示し、ライナ220とフランジ52との間で高いシール性が維持できることが確認された。
図10は、第1実施形態と第2実施形態とを比較する説明図である。図10(A)は第1実施形態を示し、図10(B)は第2実施形態を示す。第1実施形態と第2実施形態とは、既述したようにシール性向上に係る同様の効果を奏するが、段差部の形状の違いにより、以下の点で異なる。
第1に、第1および第2実施形態では、口金の耐久性に違いが生じる。第1および第2の実施形態の高圧タンクでは、口金の上面48側のR部(表面が凹方向の曲面となっている部位)において、比較的強い応力が生じる。表面が曲面となっている部位の中でも、応力解析(ミーゼス応力コンター)の結果、特に大きな応力が発生することが確認された箇所を、図10(A)の第1実施形態では領域Rとして示し、図10(B)の第2実施形態では領域Rとして示す。このように特に大きな応力が発生する領域Rと領域Rとを比較すると、第2実施形態の方が、より大きな応力が発生することが確認された(ミーゼス応力コンターの図示は省略する)。その理由は、以下のように考えられる。
すなわち、領域Rおよび領域Rは、軸線O方向に平行に投影すると第1の環状溝41と重なる位置にあり、他の領域に比べて軸線O方向の厚みが薄く、タンク内圧が伝わりやすい部位といえる。図10では、第1実施形態の口金40の領域Rにおける軸線O方向の厚みを、厚みTHとして示しており、第2実施形態の口金240の領域Rにおける軸線O方向の厚みを、厚みTHとして示している。そして、第1実施形態の口金40では、段差部44において径方向外側の厚みが急激に薄くなるのに対し、第2実施形態の口金240では、段差部244において径方向内側(第1の環状溝41を含む部位)の厚みが急激に薄くなる。そのため、第2実施形態の口金240では、第1の環状溝41と軸線O方向に重なる領域Rにおける軸線O方向の厚みTHが特に薄くなる。その結果、領域Rではタンク内圧がより伝わりやすくなり、より大きな応力が発生すると考えられる。R部に生じる応力が小さい方が、口金の耐久性が向上すると考えられるため、口金の耐久性の観点からは、第1実施形態の方が第2実施形態よりも好ましいと考えられる。
また、第2に、第1および第2実施形態では、口金の加工コストに違いが生じる。第1および第2実施形態において、口金に段差部を形成する際には、口金に対して旋盤等による切削加工を行なう。切削加工においては、概ね、加工すべき部位の体積が大きいほどコストが掛かると考えることができる。図10に示すように、段差部44あるいは段差部244を形成するには、断面が略矩形となるような円環状の溝構造を、口金に形成すればよいと考えられる。その際に、断面における上記矩形部分の面積(径方向の長さWおよび軸線O方向の高さH)が同じである場合には、より軸線Oに近い部位を切削し、上記円環形状の半径が短い第2実施形態の方が、切削すべき部分の体積が小さいといえる。そのため、口金の加工コストの観点からは、第2実施形態の方が第1実施形態よりも好ましいと考えられる。
C.第3実施形態:
図11は、本発明の第3実施形態としての高圧タンクにおける口金と第3ライナとの接合部の様子を、図3と同様に示す断面図である。また、図12は、図11に示した第3実施形態の高圧タンクについて、図4と同様に評価した結果を示す説明図である。第3実施形態の高圧タンクは、口金40に代えて、フランジの底面47の形状が異なる口金340を備えると共に、ライナ20に代えて、ライナ320を備えること以外は、各部の構成材料および寸法を含めて、第1実施形態と同様の構成を有する。そのため、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明を省略する。
図11に示すように、第3実施形態の高圧タンクの口金340の底面47には、第1の環状溝41および第2の環状溝42が形成されており、さらに、第1の環状溝41と第2の環状溝42との間に、第3の環状溝344が形成されている。そして、第1の環状溝41と第3の環状溝344との間には、軸線Oに対して直交する平面である第2平面部43が形成されており、第3の環状溝344と第2の環状溝42との間には、軸線Oに対して直交する平面である第3平面部45が形成されている。第3実施形態のステップS110において、ライナ320の底面層326は、第1の環状溝41および第2の環状溝42を完全に塞ぐように形成されると共に、第3の環状溝344を塞ぐことなく、第3の環状溝344に沿った折れ曲がり形状に形成される。本実施形態では、第3の環状溝344が、「課題を解決するための手段」における「段差部」に相当する。
図12の「成形収縮後」の「変形の状態」に示すように、第3実施形態の高圧タンクは、成形収縮後において、第1実施形態と同様に、内周端25の近傍、および外周部46の近傍では、底面層326とフランジ52との間の密着状態を維持する。そして、底面層326において第3の環状溝344と接していた領域は、フランジ52から離間して、折れ曲がり形状が伸びることによって収縮を吸収する。すなわち、図12の「成形収縮後」の「内圧付与範囲」に示すように、第3実施形態の高圧タンクでは、第3の環状溝344の近傍において底面層326とフランジ52との間に空間が存在するものの、内周端25を含む領域において底面層326とフランジ52との間の密着性が保たれる(破線で囲んで示す領域を参照)。そのため、ライナ320の収縮後であっても、ライナ320とフランジ52との間のシール性は維持される。
また、図12の「シール性評価結果」に示すように、第3実施形態の高圧タンクでは、領域Aおよび領域B(図7参照)のいずれにおいても、水素充填後の各々の領域における接触圧の最大値のタンク内圧に対する比の値は1以上であり、タンク内圧よりも大きな接触圧が発生する結果となった。特に、内周端25を含む領域Aにおいて、第1実施形態と同様に、上記比の値は大きな値を示し、ライナ320とフランジ52との間で高いシール性が維持できることが確認された。
D.第4実施形態:
図13は、本発明の第4実施形態としての高圧タンクにおける口金と第3ライナとの接合部の様子を、図3と同様に示す断面図である。また、図14は、図13に示した第4実施形態の高圧タンクについて、図4と同様に評価した結果を示す説明図である。第4実施形態の高圧タンクは、口金40に代えて、フランジの底面47の形状が異なる口金440を備えると共に、ライナ20に代えて、ライナ420を備えること以外は、各部の構成材料および寸法を含めて、第1実施形態と同様の構成を有する。そのため、第1実施形態と共通する部分には同じ参照番号を付して詳しい説明を省略する。
図13に示すように、第4実施形態の高圧タンクの口金440の底面47には、第1の環状溝41および第2の環状溝42が形成されており、さらに、第1の環状溝41と第2の環状溝42との間に、内部空間側に突出する環状凸部444が形成されている。そして、第1の環状溝41と環状凸部444との間には、軸線Oに対して直交する平面である第2平面部43が形成されており、環状凸部444と第2の環状溝42との間には、軸線Oに対して直交する平面である第3平面部45が形成されている。第4実施形態のステップS110において、ライナ420の底面層426は、第1の環状溝41および第2の環状溝42を完全に塞ぐように形成されると共に、環状凸部444を塞ぐことなく、環状凸部444に沿った折れ曲がり形状に形成される。本実施形態では、環状凸部444が、「課題を解決するための手段」における「段差部」に相当する。
図14の「成形収縮後」の「変形の状態」に示すように、第4実施形態の高圧タンクは、成形収縮後において、第1実施形態と同様に、内周端25の近傍、および外周部46の近傍では、底面層426とフランジ52との間の密着状態を維持する。そして、底面層426において環状凸部444と接していた領域は、フランジ52から離間して、折れ曲がり形状が伸びることによって収縮を吸収する。すなわち、図14の「成形収縮後」の「内圧付与範囲」に示すように、第4実施形態の高圧タンクでは、環状凸部444の近傍において底面層426とフランジ52との間に空間が存在するものの、内周端25を含む領域において底面層426とフランジ52との間の密着性が保たれる(破線で囲んで示す領域を参照)。そのため、ライナ420の収縮後であっても、ライナ420とフランジ52との間のシール性は維持される。
また、図14の「シール性評価結果」に示すように、第4実施形態の高圧タンクでは、領域Aおよび領域B(図7参照)のいずれにおいても、水素充填後の各々の領域における接触圧の最大値のタンク内圧に対する比の値は1以上であり、タンク内圧よりも大きな接触圧が発生する結果となった。特に、内周端25を含む領域Aにおいて、第1実施形態と同様に、上記比の値は大きな値を示し、ライナ420とフランジ52との間で高いシール性が維持できることが確認された。
E.変形例:
・変形例1:
フランジの底面に設ける段差部は、上記各実施形態の段差部44,244、第3の環状溝344、および環状凸部444の他、種々の変形が可能である。段差部は、軸線Oを含む断面において、軸線O方向のフランジの厚みが急激に変化する段差を、第1および第2実施形態のように1箇所有していてもよく、第3および第4実施例のように2箇所以上有していてもよい。フランジの底面が、軸線Oを含む断面において折れ曲がり形状を有する線として表われる段差部を有し、ライナの底面層において、上記折れ曲がり形状に沿った折れ曲がり形状を有する折れ曲がり部が形成されていればよい。これにより、ライナを製造する際のライナ収縮時に、ライナの底面層が内周端25側と外周部46側とが固定された状態で段差部から離間して、上記折れ曲がり部が伸びることによってフランジの収縮を吸収することができる。
・変形例2:
上記各実施形態では、ライナとフランジとの間の密着性を高めるために、段差部以外の構成として第1の環状溝41および第2の環状溝42を設けたが、異なる構成としてもよい。例えば、第2の環状溝42は設けないこととしてもよく、また、第1の環状溝41の他に、第1の環状溝41よりも外周側に2以上の環状溝を設けてもよい。フランジにおいて、ライナの底面層の内周端25の近傍に第1の環状溝41を設け、内周端25の近傍における底面層とフランジとの密着性が高められていれば、第1の環状溝41よりも外周側に設けた段差部に沿った折れ曲がり形状を底面層に設けることで、各実施形態と同様の効果が得られる。
・変形例3:
上記各実施形態では、第1の環状溝41は、高圧タンクの軸線Oを含む断面において半円形となる形状に形成したが異なる構成としてもよい。第1の環状溝41は、底面層の一部が入り込むことによって、内周端25の近傍における底面層とフランジとの密着性を高めることができればよく、その結果、ライナ形成時に段差部において底面層とフランジとが離間する際に、内周端25近傍における底面層とフランジとの密着性が維持可能であればよい。
・変形例4:
上記各実施形態では、ライナは、フランジの底面47を覆う底面層と共に、フランジの上面48を覆う上面層27を備えることとしたが、上面層27は設けないこととしてもよい。このような場合であっても、ライナの底面層が、フランジの外周部46近傍で拘束されていれば、フランジの底面に第1の環状溝41および段差部を設け、ライナの底面層に段差部に沿った折れ曲がり形状を設けることで、各実施形態と同様の効果が得られる。
・変形例5:
上記各実施形態では、高圧タンクは加圧水素の貯蔵に用いたが、水素以外の他の加圧流体の貯蔵に用いてもよい。
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
10…高圧タンク
20,120,220,320,420…ライナ
21…第1ライナ
22…第2ライナ
23…第3ライナ
24…第4ライナ
25…内周端
26,126,226,326,426…底面層
27…上面層
30…補強層
40,140,240,340,440…口金
41…第1の環状溝
42…第2の環状溝
43,143…第2平面部
44,244…段差部
45…第3平面部
46…外周部
47…底面
48…上面
49…第1平面部
50…筒状部
51…貫通孔
52…フランジ
53…開口部
344…第3の環状溝
444…環状凸部

Claims (1)

  1. 流体を密閉するための内部空間を形成するライナと、該ライナに取り付けられた口金と、を備えるタンクの製造方法であって、
    前記口金は、前記内部空間に連通する中空の筒状部と、該筒状部から該筒状部の径方向外側に張り出して形成されたフランジと、を備え、
    前記フランジの外表面は、前記内部空間側に配置される底面と、前記内部空間から離間する側に配置される上面とを含み、
    前記底面は、前記筒状部の開口部を囲む環状溝と、前記底面において最も前記径方向外側に位置する外周部と、前記環状溝と前記外周部との間に形成された段差部と、を含み、
    前記製造方法は、
    前記ライナの一部を構成する底面層であって、前記環状溝よりも前記径方向内側の位置から前記外周部まで前記フランジの前記底面を覆う底面層として、前記環状溝を塞ぐと共に前記段差部の形状に沿った折れ曲がり形状を有する底面層を形成しつつ、前記ライナを前記口金と一体形成する第1のライナ形成工程と、
    前記第1のライナ形成工程の後、前記ライナの収縮により、前記底面における前記環状溝よりも前記径方向内側の領域および前記外周部が前記ライナと接する状態で、前記底面の前記段差部と前記底面層との間に空間を生じさせる第2のライナ形成工程と、
    を備えるタンクの製造方法。
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