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JP6496702B2 - 抗原結合分子の血漿中滞留性と免疫原性を改変する方法 - Google Patents

抗原結合分子の血漿中滞留性と免疫原性を改変する方法 Download PDF

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Description

本発明は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子のFc領域を改変することにより、抗原結合分子が投与された生体による薬物動態を改善する方法、または抗原結合分子の免疫応答を低減する方法に関する。また本発明は、生体に投与された際にその薬物動態が改善された、または当該生体による免疫応答が低減された抗原結合分子に関する。さらに本発明は、当該抗原結合分子の製造方法、および当該抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物に関する。
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、および非特許文献2)。一方、第二世代の抗体医薬に適用可能な技術として様々な技術が開発されており、エフェクター機能、抗原結合能、薬物動態、安定性を向上させる、あるいは、免疫原性リスクを低減させる技術等が報告されている(非特許文献3)。抗体医薬は一般に投与量が非常に高いため、皮下投与製剤の作製が困難であること、製造コストが高いこと等が課題として考えられる。抗体医薬の投与量を低減させる方法として、抗体の薬物動態を向上する方法と、抗体と抗原のアフィニティーを向上する方法が考えられる。
抗体の薬物動態を向上させる方法として、定常領域の人工的なアミノ酸置換が報告されている(非特許文献4、および5)。抗原結合能、抗原中和能を増強させる技術として、アフィニティーマチュレーション技術(非特許文献6)が報告されており、可変領域のCDR領域などのアミノ酸に変異を導入することで抗原への結合活性を増強することが可能である。抗原結合能の増強によりインビトロの生物活性を向上させる、あるいは投与量を低減することが可能であり、さらにin vivo(生体内)での薬効を向上させることも可能である(非特許文献7)。
一方、抗体一分子あたりが中和できる抗原量はアフィニティーに依存し、アフィニティーを強くすることで少ない抗体量で抗原を中和することが可能であり、様々な方法で抗体のアフィニティーを強くすることが可能である(非特許文献6)。さらに抗原に共有結合的に結合し、アフィニティーを無限大にすることができれば一分子の抗体で一分子の抗原(二価の場合は二抗原)を中和することが可能である。しかし、これまでの方法では一分子の抗体で一分子の抗原(二価の場合は二抗原)の化学量論的な中和反応が限界であり、抗原量以下の抗体量で抗原を完全に中和することは不可能であった。つまり、アフィニティーを強くする効果には限界が存在していた(非特許文献9)。中和抗体の場合、その中和効果を一定期間持続させるためには、その期間に生体内で産生される抗原量以上の抗体量が投与される必要があり、上述の抗体の薬物動態向上、あるいは、アフィニティーマチュレーション技術だけでは、必要抗体投与量の低減には限界が存在していた。そのため、抗原量以下の抗体量で抗原の中和効果を目的期間持続するためには、一つの抗体で複数の抗原を中和する必要がある。これを達成する新しい方法として、最近、抗原に対してpH依存的に結合する抗体が報告された(特許文献1)。抗原に対して血漿中の中性条件下においては強く結合し、エンドソーム内の酸性条件下において抗原から解離するpH依存的抗原結合抗体はエンドソーム内で抗原から解離することが可能である。pH依存的抗原結合抗体は、抗原を解離した後に抗体がFcRnによって血漿中にリサイクルされると再び抗原に結合することが可能であるため、一つのpH依存的抗原結合抗体で複数の抗原に繰り返し結合することが可能となる。
また、抗原の血漿中滞留性は、FcRnに結合してリサイクルされる抗体と比較して非常に短い。このような血漿中滞留性が長い抗体がその抗原に結合すると、抗体抗原複合体の血漿中滞留性は抗体と同様に長くなる。そのため、抗原は抗体と結合することにより、むしろ血漿中滞留性が長くなり、血漿中抗原濃度は上昇する。
IgG抗体はFcRnに結合することで長い血漿中滞留性を有する。IgGとFcRnの結合は酸性条件下(pH6.0)においてのみ認められ、中性条件下(pH7.4)においてはほとんどその結合が認められない。IgG抗体は非特異的に細胞に取り込まれるが、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内のFcRnに結合することで細胞表面上に戻り、血漿中の中性条件下においてFcRnから解離する。IgGのFc領域に変異を導入し、酸性条件下におけるFcRnに対する結合を失わせると、エンドソーム内から血漿中にリサイクルされなくなるため、抗体の血漿中滞留性は著しく損なわれる。IgG抗体の血漿中滞留性を改善する方法として、酸性条件下におけるFcRnに対する結合を向上させる方法が報告されている。IgG抗体のFc領域にアミノ酸置換を導入し、酸性条件下のFcRnに対する結合を向上させることで、エンドソーム内から血漿中へのリサイクル効率が上昇し、その結果、血漿中滞留性が改善する。アミノ酸置換を導入する際に重要なのは、中性条件下におけるFcRnに対する結合を高めないことである。中性条件下においてFcRnに結合してしまうと、エンドソーム内の酸性条件下においてFcRnに結合することで細胞表面上に戻っても、中性条件下の血漿中においてIgG抗体がFcRnから解離しないとIgG抗体が血漿中にリサイクルされないため、逆に血漿中滞留性は損なわれることになる。例えば、IgG1に対してアミノ酸置換を導入することによって中性条件下(pH7.4)においてマウスFcRnに対する結合が認められるようになった抗体をマウスに投与した場合、抗体の血漿中滞留性が悪化することが報告されている(非特許文献10)。また、IgG1に対してアミノ酸置換を導入することによって酸性条件下(pH6.0)におけるヒトFcRnの結合が向上するが、同時に中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合が認められるようになった抗体をカニクイザルに投与した場合、抗体の血漿中滞留性は改善することは無く、血漿中滞留性に変化が認められなかったことが報告されている(非特許文献10、11および12)。そのため、抗体の機能を向上させる抗体工学技術においては、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合を増加させることなく酸性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増加させることで抗体の血漿中滞留性を改善することにのみ注力されており、これまでにIgG抗体のFc領域にアミノ酸置換を導入し、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合を増加させることの利点は報告されていない。抗体の抗原に対するアフィニティーを向上させても抗原の血漿中からの消失を促進することはできない。上述のpH依存的抗原結合抗体は、通常の抗体と比較して抗原の血漿中からの消失を促進する方法としても有効であることが報告されている(特許文献1)。
このようにpH依存的抗原結合抗体は1つの抗体で複数の抗原に結合し、通常の抗体と比較して抗原の血漿中からの消失を促進することができるため、通常の抗体では成し得なかった作用を有する。しかしながら、これまでにこのpH依存的抗原結合抗体の抗原に繰り返し結合できる効果、および、抗原の血漿中からの消失を促進する効果をさらに向上させる抗体工学の手法は報告されていない。
一方、抗体医薬の免疫原性は、抗体医薬をヒトに投与した場合の血漿中滞留性、有効性、安全性の点において非常に重要である。ヒトの体内において、投与された抗体医薬に対する抗体が産生されると、抗体医薬の血漿中での消失が早まる、有効性が低下する、過敏症反応を引き起こし安全性に影響する、といった望ましくない事象を引き起こすことが報告されている(非特許文献13)。
抗体医薬の免疫原性を考慮する上で、そもそも天然の抗体が生体内において果たしている機能について理解することが必要である。まず、多くの抗体医薬はIgGクラスに属する抗体であるが、IgG抗体のFc領域に結合して作用するFcレセプターとして、Fcγレセプター(以下、FcγRとも記載される)の存在が知られている。FcγRは樹上細胞やNK細胞、マクロファージ、好中球、脂肪細胞等の細胞膜上に発現し、IgGのFc領域が結合することにより、免疫細胞に対して活性型あるいは抑制型の細胞内シグナルを伝えることが知られている。ヒトFcγRのタンパク質ファミリーとして、FcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIbのアイソフォームが報告されており、それぞれのアロタイプも報告されている(非特許文献14)。ヒトFcγRIIaのアロタイプとして、131番目がArg (hFcγRIIa(R))とHis(hFcγRIIa(H))の2種類が報告されている。またヒトFcγRIIIaのアロタイプとして158番目がVal(hFcγRIIIa(V))とPhe(hFcγRIIIa(F))の2種類が報告されている。また、マウスFcγRのタンパク質ファミリーとしては、FcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIVが報告されている(非特許文献15)。
ヒトFcγRは、活性型受容体であるFcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIIa、FcγRIIIbと、抑制性受容体であるFcγRIIbに分類される。同様に、マウスFcγRは、活性型受容体であるFcγRI、FcγRIII、FcγRIVと、抑制性受容体であるFcγRIIbに分類される。
活性型FcγRは免疫複合体と架橋されると、細胞内ドメインもしくは相互作用相手であるFcR common γ-chainに含まれるimmunoreceptor tyrosine-based activating motifs (ITAMs) のリン酸化を引き起こし、シグナル伝達物質であるSYKを活性化し、活性化シグナルカスケードを開始することで炎症性免疫反応を引き起こす(非特許文献15)。
Fc領域とFcγRとの結合については、抗体のヒンジ領域及びCH2ドメイン内のいくつかのアミノ酸残基およびCH2ドメインに結合しているEUナンバリング297位のAsnに付加される糖鎖が重要であることが示されている(非特許文献15、非特許文献16、非特許文献17)。これらの個所へ変異を導入した抗体を中心に、これまでに様々なFcγRに対する結合特性を持つ変異体が研究され、活性型FcγRに対するより高い親和性を有するFc領域変異体が得られている(特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。
一方、抑制型FcγRであるFcγRIIbは、B細胞に発現している唯一のFcγRである(非特許文献18)。FcγRIIbに対して抗体のFc領域が相互作用することで、B細胞の初回免疫が抑制されることが報告されている(非特許文献19)。また、B細胞上のFcγRIIbとB細胞受容体(B cell receptor:BCR)とが血中の免疫複合体を介して架橋されると、B細胞の活性化が抑制され、B細胞の抗体産生が抑制されることが報告されている(非特許文献20)。このBCRとFcγRIIbを介した免疫抑制的なシグナルの伝達にはFcγRIIbの細胞内ドメインに含まれるimmunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif(ITIM)が必要である(非特許文献21、非特許文献22)。この免疫抑制的な作用はITIMのリン酸化を介して生じる。リン酸化の結果、SH2-containing inositol polyphosphate 5-phosphatase(SHIP)がリクルートされ、他の活性型FcγRのシグナルカスケードの伝達を阻害し、炎症性免疫反応を抑制する(非特許文献23)。
この性質により、FcγRIIbは抗体医薬に対する免疫原性を直接的に低下させる手法として期待されている。マウスにとっての異種タンパク質であるExendin-4(Ex4)に、マウスIgG1を融合させた分子(Ex4/Fc)は、マウスに投与しても抗体が産生されないが、Ex4/Fcに改変を加えることでB細胞上のFcγRIIbに結合しないようにした分子(Ex4/Fc mut)の投与によって、Ex4に対する抗体が産生される(非特許文献24)。この結果は、Ex4/FcがB細胞上のFcγRIIbに結合することにより、B細胞によるEx4に対するマウス抗体の産生を抑制していることを示唆している。
また、FcγRIIbは樹状細胞、マクロファージ、活性化された好中球、マスト細胞、好塩基球でも発現している。これらの細胞においても、FcγRIIbはphagocytosisや炎症性サイトカインの放出等の活性型FcγRの機能を阻害し、炎症性免疫反応を抑制する(非特許文献25)。
FcγRIIbの免疫抑制的な機能の重要性については、これまでにFcγRIIbノックアウトマウスを用いた研究により説明されてきた。FcγRIIbノックアウトマウスでは、液性免疫が適切に制御されず(非特許文献26)、コラーゲン誘導関節炎(CIA)に対する感受性が増加したり(非特許文献27)、ループス(lupus)様の症状を呈したり、グッドパスチャー(Goodpasture)シンドローム様の症状を呈したりする(非特許文献28)ことが報告されている。
また、FcγRIIbの調節不全はヒトの自己免疫疾患との関連も報告されている。例えば、FcγRIIbのプロモーター領域や細胞膜貫通領域における遺伝子多型と、全身性エリテマトーデス(SLE)の発症頻度との関連(非特許文献29、非特許文献30、非特許文献31、非特許文献32、非特許文献33)や、SLE患者のB細胞表面におけるFcγRIIbの発現低下が報告されている(非特許文献34、非特許文献35)。
このようにマウスモデルおよび臨床上の知見から、FcγRIIbはB細胞との関与を中心に、自己免疫疾患、炎症性疾患を制御する役割を果たしていると考えられ、自己免疫疾患、炎症性疾患を制御するための有望な標的分子である。
市販の抗体医薬として主に用いられているIgG1はFcγRIIbだけでなく、活性型FcγRにも強く結合することが知られている(非特許文献36)。FcγRIIbに対する結合を増強した、あるいは活性型FcγRと比較してFcγRIIbへの結合の選択性を向上させたFc領域を利用することで、IgG1と比べて免疫抑制的な性質を有した抗体医薬の開発可能性が考えられる。例えば、BCRに結合する可変領域と、FcγRIIbに対する結合を増強したFcとを有する抗体を利用することで、B細胞の活性化を阻害できる可能性が示唆されている(非特許文献37)。
しかし、FcγRIIbは活性型FcγRの1つであるFcγRIIaと、細胞外領域の配列が93%一致し、極めて構造が類似することが知られている。さらにFcγRIIaには遺伝子多型として第二Igドメインの131番目のアミノ酸がHisであるH型とArgであるR型とが存在し、それぞれで抗体との相互作用が異なる(非特許文献38)。そのため、FcγRIIbに対して特異的に結合するFc領域を創製するには、FcγRIIaの各遺伝子多型に対する結合活性を増加させない、あるいは減少させる一方で、FcγRIIbに対する結合活性を増加させるという、FcγRIIbに対する結合活性を選択的にを向上させた性質を抗体のFc領域に付与することが、最も困難な課題であると考えられる。
これまでにFc領域にアミノ酸改変を導入することで、FcγRIIbに対する結合の特異性を上昇させた例が報告されている(非特許文献39)。この文献中ではIgG1と比べて、両遺伝子多型のFcγRIIaよりもFcγRIIbに対する結合の方が維持されている変異体を作製していた。しかし、この文献中で報告されているFcγRIIbに対する特異性が改善したとされるいずれの変異体においても、天然型IgG1と比べてFcγRIIbに対する結合が減少していた。そのため、これらの変異体が実際にFcγRIIbを介した免疫抑制的な反応をIgG1以上に引き起こすことは困難であると考えられる。
FcγRIIbに対する結合を増強させたという報告もなされている(非特許文献37)。この文献中では、抗体のFc領域にS267E/L328F、G236D/S267E、S239D/S267E等の改変を加えることで、FcγRIIbに対する結合を増強させていた。この中で、S267E/L328Fの変異を導入した抗体が最も強くFcγRIIbに対して強く結合したが、この変異体はFcγRIaおよびFcγRIIaのH型に対する結合を天然型IgG1と同程度に維持していた。仮にFcγRIIbに対する結合がIgG1と比べて増強していたとしても、FcγRIIbを発現せずFcγRIIaを発現している血小板のような細胞(非特許文献25)に関しては、FcγRIIbに対する結合の増強ではなく、FcγRIIaに対する結合の増強の効果のみが影響すると考えられる。例えば、全身性エリテマトーデスにおいてはFcγRIIa依存的な機構によって血小板が活性化し、血小板の活性化は重症度と相関するという報告がある(非特許文献40)。さらに、別の報告によると、この改変はFcγRIIaのR型に対する結合がFcγRIIbに対する結合と同程度に数百倍増強しており、R型においては、FcγRIIaと比較したFcγRIIbに対する結合の選択性が向上していない(特許文献17)。また、樹状細胞やマクロファージ等のFcγRIIaとFcγRIIbの両方を発現した細胞種に対しては、抑制性シグナルの伝達のためにはFcγRIIaと比較したFcγRIIbに対する結合の選択性が必要であるが、R型においてはそれが達成できていない。
FcγRIIaのH型とR型とはCaucasianやAfrican-Americanでほぼ同程度の頻度で観察される(非特許文献41、非特許文献42)。これらのことから、FcγRIIa R 型に対する結合が増強している抗体を自己免疫疾患の治療に用いることには一定の制限があると考えられる。仮にFcγRIIbに対する結合が活性型FcγRと比べて増強していたとしても、FcγRIIaのいずれかの遺伝子多型に対して結合を増強しているという点は、自己免疫疾患の治療薬として用いるという観点からは看過できない。
FcγRIIbを利用した自己免疫疾患治療を目的とした抗体医薬を創製するにあたっては、天然型IgGと比較して、FcγRIIaのいずれの遺伝子多型に対してもFcを介した結合が増加していないか、好ましくは減少し、かつFcγRIIbに対する結合が増強していることが重要である。しかし、これまでに、このような性質を持つ変異体の報告はなく、その開発が求められていた。
なお、本発明の先行技術文献を以下に示す。
WO2009/125825 WO2000/042072 WO2006/019447 WO2004/099249 WO2004/029207
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投与した抗体医薬に対して免疫応答が引き起こされる要因としては、先述した活性型FcγRの関与に加えて、抗原提示と呼ばれる作用が非常に重要である。抗原提示とは、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞が、細菌などの外来性および内因性抗原を細胞内へ取り込んで分解を行った後に、細胞表面へその一部を提示する免疫機構である。提示された抗原はT細胞などにより認識され、細胞性免疫及び液性免疫を活性化する。
樹状細胞における抗原提示として、免疫複合体(多価の抗体と抗原から形成される複合体)として細胞内に取り込まれた抗原がライソソームで分解され、抗原由来のペプチドがMHCクラスIIに提示されるという経路が存在する。この経路において、FcRnが重要な役割を果たしており、FcRnを欠損させた樹上細胞を用いた場合、あるいはFcRnに結合しない免疫複合体を用いた場合には、抗原提示とそれによるT細胞の活性化が起こらないことが報告されている(非特許文献43)。
正常動物に対して異物である抗原タンパク質を投与した場合、投与した抗原タンパク質に対する抗体が高頻度で産生される。例えば、マウスに対して異種タンパク質である可溶型ヒトIL-6レセプターを投与した場合、可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体が産生される。しかし、マウスに対して異種タンパク質であるヒトIgG1抗体を投与しても、ヒトIgG1抗体に対するマウス抗体はほとんど産生されない。この差異は、投与した異種タンパク質の血漿中における消失速度が影響していると考えられる。
参考実施例4に示したとおり、ヒトIgG1抗体はマウスFcRnに対して酸性条件下での結合能を有するため、エンドソーム内に取り込まれたヒトIgG1抗体は、マウス抗体と同様にマウスFcRnを介したリサイクルを受ける。そのため、ヒトIgG1抗体をノーマルマウスに投与した場合、その血漿中からの消失は非常に遅い。一方、可溶型ヒトIL-6レセプターは、マウスFcRnを介したリサイクルを受けないため、投与後速やかに消失する。一方、参考実施例4に示したとおり、可溶型ヒトIL-6レセプターを投与したノーマルマウスにおいては可溶型ヒトIL-6R抗体に対するマウス抗体の産生が認められるが、一方で、ヒトIgG1抗体を投与したノーマルマウスにおいてはヒトIgG1抗体に対するマウス抗体の産生は見られない。すなわち、マウスにおいては、消失の遅いヒトIgG1抗体よりも消失の早い可溶型ヒトIL-6レセプターのほうが免疫原性が高い。
これら異種タンパク質(可溶型ヒトIL-6レセプターあるいはヒトIgG1抗体)の血漿中からの消失経路の一部は、抗原提示細胞による取り込みであると考えられる。抗原提示細胞に取り込まれた異種タンパク質は、細胞内でプロセシングを受けた後、MHCクラスII分子と会合し、細胞膜上へと輸送される。そこで、抗原特異的T細胞(例えば、可溶型ヒトIL-6レセプターあるいはヒトIgG1抗体に対して、特異的に応答するT細胞)への抗原提示が起こると、抗原特異的T細胞の活性化が起こる。そのため、血漿中からの消失が遅い異種タンパク質は、抗原提示細胞でのプロセシングを受けにくく、結果的に抗原特異的T細胞への抗原提示が起こりにくくなっていることが考えられた。
中性条件下においてFcRnに結合することで抗体の血漿中滞留性が悪化することが知られている。中性条件下においてFcRnに結合してしまうと、エンドソーム内の酸性条件下においてFcRnに結合することで細胞表面上に戻っても、中性条件下の血漿中においてIgG抗体がFcRnから解離しないとIgG抗体が血漿中にリサイクルされないため、逆に血漿中滞留性は損なわれることになる。例えば、IgG1に対してアミノ酸置換を導入することによって中性条件下(pH7.4)においてマウスFcRnに対する結合が認められるようになった抗体をマウスに投与した場合、抗体の血漿中滞留性が悪化することが報告されている(非特許文献10)。しかし、一方で、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合が認められるようになった抗体をカニクイザルに投与した場合、抗体の血漿中滞留性は改善することは無く、血漿中滞留性に変化が認められなかったことが報告されている(非特許文献10、11および12)。抗原結合分子の中性条件下(pH7.4)においてFcRnに対する結合を増強することで血漿中滞留性が悪化した場合、抗原結合分子の消失が速くなるため免疫原性が高くなる可能性が考えられる。
また、FcRnは抗原提示細胞に発現しており、抗原提示に関与していることが報告されている。抗原結合分子ではないが、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)にマウスIgG1のFc領域を融合させたタンパク質(以下MBP-Fc)の免疫原性を評価した報告において、MBP-Fc特異的に反応するT細胞はMBP-Fcの存在下で培養することにより活性化、増殖が起こる。ここで、MBP-FcのFc領域にFcRnへの結合を増強させる改変を加えることにより、in vitroにおいては抗原提示細胞に発現するFcRnを介した抗原提示細胞への取り込みが増大することでT細胞の活性化は増強されることが知られている。しかしながら、FcRnへの結合を増強させる改変を加えることにより血漿中からの消失が早くなるにもかかわらず、in vivoにおいてはT細胞の活性化が逆に減弱することが報告されており(非特許文献44)、必ずしもFcRnへの結合を増強させて消失が早くなることで免疫原性が高くなるとは限らない。
以上のことから、FcRn結合ドメインを有する抗原結合分子の中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を増強することによる抗原結合分子の血漿中滞留性への影響、および、免疫原性への影響はこれまで十分に研究されていない。そのため、中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子の血漿中滞留性および免疫原性を改善させる方法はこれまで報告されていない。
イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する抗原結合ドメイン、および、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子を用いることで、抗原の血漿中から消失を促進することができることが見出されたが、Fc領域のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を増強することによる抗原結合分子の血漿中滞留性および免疫原性への影響はこれまで十分に研究されていなかった。本発明者らは研究を進める中で、Fc領域のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を増強することで、抗原結合分子の血漿中滞留性が低下し(薬物動態が悪化し)、抗原結合分子の免疫原性が高くなる(抗原結合分子に対する免疫応答が増悪する)、という課題があることが見出された。
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子のFc領域を改変することにより、抗原結合分子が投与された生体による薬物動態を改善する方法を提供することである。また、本発明の目的は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子のFc領域を改変することにより、抗原結合分子の免疫応答を低減する方法を提供することである。また、本発明の目的は、それが生体に投与された際にその薬物動態が改善された、または当該生体による免疫応答が低減された抗原結合分子の提供である。さらに、本発明は、当該抗原結合分子の製造方法の提供を目的とするとともに、当該抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物の提供も目的とするものである。
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を進めたところ、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子が抗原結合分子/二分子のFcRn/活性型Fcγレセプターの四者を含むヘテロ複合体(図48)を形成することを見出し、この四者複合体の形成が薬物動態および免疫応答に悪影響を及ぼしていることを見出した。このような抗原結合分子のFc領域をpH中性域の条件下で二分子のFcRnおよび活性型Fcγレセプターの四者を含むヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することによって、pH中性域の条件下で二分子のFcRnおよび活性型Fcγレセプターとの四者複合体を形成しないFc領域に改変することによって、抗原結合分子の薬物動態が改善されることを見出した。また、抗原結合分子が投与された生体による免疫応答を改変する事ができることを見出した。また、pH中性域の条件下で二分子のFcRnおよび活性型Fcγレセプターの四者を含むヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することによって、抗原結合分子の免疫応答が低減されることを見出した。また、本発明者らは上記の性質を有する抗原結合分子、その製造方法を見出すとともに、そのように抗原結合分子あるいは本発明に係る製造方法によって製造された抗原結合分子を有効成分として含有する医薬組成物が投与された際に、薬物動態が改善され、投与された生体による免疫応答が低減されるという、従来の抗原結合分子に比して優れた特性を有することを見出して本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
〔1〕イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子のFc領域が、pH中性域の条件下で二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターを含むヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することを含む、以下のいずれかの方法;
(a) 抗原結合分子の薬物動態を改善する方法、または
(b) 抗原結合分子の免疫原性を低減させる方法、
〔2〕前記ヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することが、Fc領域の活性型Fcγレセプターに対する結合活性が、天然型ヒトIgGのFc領域の当該活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも低いFc領域に改変することを含む、〔1〕に記載の方法、
〔3〕前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
〔4〕前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される235位、237位、238位、239位、270位、298位、325位および329位のいずれかひとつ以上のアミノ酸を置換することを含む、〔1〕から〔3〕のいずれか一項に記載の方法、
〔5〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
234位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、ThrまたはTrpのいずれか、
235位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸をArg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、ProまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、TyrまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸をAla、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、TrpまたはArgのいずれか、
239位のアミノ酸をGln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、TyrまたはArgのいずれか、
265位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
266位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
267位のアミノ酸をArg、His、Lys、Phe、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
269位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
270位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
271位のアミノ酸をArg、His、Phe、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸をArg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸をArg、Gly、LysまたはProのいずれか、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をArg、Gly、Lys、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
324位のアミノ酸をLysまたはProのいずれか、
325位のアミノ酸をAla、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、TrpTyr、もしくはValのいずれか、
327位のアミノ酸をArg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
328位のアミノ酸をArg、Asn、Gly、His、LysまたはProのいずれか、
329位のアミノ酸をAsn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、ValまたはArgのいずれか、
330位のアミノ酸をProまたはSerのいずれか、
331位のアミノ酸をArg、GlyまたはLysのいずれか、もしくは
332位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
のいずれかひとつ以上に置換することを含む、〔4〕に記載の方法、
〔6〕前記ヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することが、Fc領域の抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いFc領域に改変することを含む、〔1〕に記載の方法、
〔7〕前記抑制型FcγレセプターがヒトFcγRIIbである、〔6〕に記載の方法、
〔8〕前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、〔6〕または〔7〕に記載の方法、
〔9〕EUナンバリングで表される238または328のアミノ酸を置換することを含む〔6〕から〔8〕のいずれか一項に記載の方法、
〔10〕EUナンバリングで表される238のアミノ酸をAsp、または328のアミノ酸をGluに置換することを含む、〔9〕に記載の方法、
〔11〕 EUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
233位のアミノ酸をAsp、
234位のアミノ酸をTrp、またはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Leu、Met、Phe、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸をAsp、
267位のアミノ酸をAla、GlnまたはValのいずれか、
268位のアミノ酸をAsn、Asp、またはGluのいずれか、
271位のアミノ酸をGly、
326位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Leu、Met、SerまたはThrのいずれか、
330位のアミノ酸をArg、Lys、またはMetのいずれか、
323位のアミノ酸をIle、Leu、またはMetのいずれか、
296位のアミノ酸をAsp、
のいずれかひとつ以上に置換することを含む〔9〕または〔10〕に記載の方法、
〔12〕前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含むFc領域である、〔1〕から〔11〕のいずれか一項に記載の方法、
〔13〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
298位のアミノ酸がGly、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis、Ile、Leu、Phe、ThrまたはVal 、
のいずれかひとつ以上の組合せである、〔12〕に記載の方法、
〔14〕前記抗原結合ドメインが、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔1〕から〔13〕のいずれか一項に記載の方法、
〔15〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔14〕に記載の方法、
〔16〕前記抗原結合ドメインが、pHの条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔1〕から〔13〕のいずれか一項に記載の方法、
〔17〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔16〕に記載の方法、
〔18〕前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、〔1〕から〔17〕のいずれか一項に記載の方法、
〔19〕前記抗原結合分子が抗体である、〔1〕から〔18〕のいずれか一項に記載の方法、
〔20〕前記ヘテロ複合体を形成しないFc領域に改変することが、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRn結合活性を有し、他方がpH中性域の条件下でのFcRn結合活性を有しないFc領域に改変することを含む、〔1〕に記載の方法、
〔21〕前記Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上のアミノ酸を置換することを含む、〔20〕に記載の方法、
〔22〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸をMet、
248位のアミノ酸をIle、
250位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyr、
252位のアミノ酸をPhe、Trp、またはTyr、
254位のアミノ酸をThr、
255位のアミノ酸をGlu、
256位のアミノ酸をAsp、Asn、Glu、またはGln、
257位のアミノ酸をAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはVal、
258位のアミノ酸をHis、
265位のアミノ酸をAla、
286位のアミノ酸をAlaまたはGlu、
289位のアミノ酸をHis、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をGly、
303位のアミノ酸をAla、
305位のアミノ酸をAla、
307位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyr、
308位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThr、
309位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Pro、またはArg、
311位のアミノ酸をAla、His、またはIle、
312位のアミノ酸をAlaまたはHis、
314位のアミノ酸をLysまたはArg、
315位のアミノ酸をAla、AspまたはHis、
317位のアミノ酸をAla、
332位のアミノ酸をVal、
334位のアミノ酸をLeu、
360位のアミノ酸をHis、
376位のアミノ酸をAla、
380位のアミノ酸をAla、
382位のアミノ酸をAla、
384位のアミノ酸をAla、
385位のアミノ酸をAspまたはHis、
386位のアミノ酸をPro、
387位のアミノ酸をGlu、
389位のアミノ酸をAlaまたはSer、
424位のアミノ酸をAla、
428位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyr、
433位のアミノ酸をLys、
434位のアミノ酸をAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyr、もしくは
436位のアミノ酸をHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal
のいずれかひとつ以上に置換することを含む、〔21〕に記載の方法、
〔23〕前記抗原結合ドメインが、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔20〕から〔22〕のいずれか一項に記載の方法、
〔24〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔23〕に記載の方法、
〔25〕前記抗原結合ドメインが、pHの条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔20〕から〔22〕のいずれか一項に記載の方法、
〔26〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔25〕に記載の方法、
〔27〕前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、〔20〕から〔26〕のいずれか一項に記載の方法、
〔28〕前記抗原結合分子が抗体である、〔20〕から〔27〕のいずれか一項に記載の方法、
〔29〕イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
234位のアミノ酸がAla、
235位のアミノ酸がAla、LysまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸がArg、238位のアミノ酸がArg、
239位のアミノ酸がLys、
270位のアミノ酸がPhe、
297位のアミノ酸がAla、
298位のアミノ酸がGly、
325位のアミノ酸がGly、
328位のアミノ酸がArg、もしくは329 位のアミノ酸がLys、またはArg、
の中から選択されるいずれかひとつ以上のアミノ酸を含むFc領域を含む抗原結合分子、
〔30〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸がLys
239位のアミノ酸がArg、または
329位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
の中から選択されるいずれかひとつ以上のアミノ酸を含む、〔29〕に記載の抗原結合分子、
〔31〕イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびFc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しないFc領域を含む抗原結合分子、
〔32〕前記Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域のアミノ酸と異なるFc領域である、〔29〕から〔31〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔33〕前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyr、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyr、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGln、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはVal、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGlu、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyr、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThr、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArg、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIle、
312位のアミノ酸がAlaまたはHis、
314位のアミノ酸がLysまたはArg、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHis、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHis、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSer、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyr、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyr、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
のいずれかひとつ以上の組合せである、〔32〕に記載の抗原結合分子、
〔34〕前記抗原結合ドメインがカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔29〕から〔33〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔35〕前記抗原結合ドメインが、低カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下での抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔34〕に記載の抗原結合分子、
〔36〕前記抗原結合ドメインがpHの条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔29〕から〔33〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔37〕前記抗原結合ドメインが、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔36〕に記載の抗原結合分子、
〔38〕前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、〔29〕から〔37〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔39〕前記抗原結合分子が抗体である、〔29〕から〔38〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、
〔40〕〔29〕から〔39〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド、
〔41〕〔40〕に記載のポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクター、
〔42〕〔41〕に記載のベクターが導入された細胞、
〔43〕〔42〕に記載の細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程を含む、〔29〕から〔39〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子の製造方法、
〔44〕〔29〕から〔39〕のいずれか一項に記載の抗原結合分子、または〔43〕に記載の製造方法によって得られる抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物。
また本発明は、本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を含む、本発明の方法に用いるためのキットに関する。また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を有効成分として含有する、抗原結合分子の薬物動態改善剤、または抗原結合分子の免疫原性低減剤に関する。また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を対象へ投与する工程を含む、免疫炎症性疾患の治療方法に関する。また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子の、抗原結合分子の薬物動態改善剤、または抗原結合分子の免疫原性低減剤の製造における使用に関する。また本発明は、本発明の方法に使用するための、本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子に関する。
本発明により、抗原結合分子の薬物動態を改善する方法、または抗原結合分子の免疫原性を低減させる方法が提供された。本発明により、通常の抗体と比較して生体における望ましくない事象を引き起こさずに、抗体による治療を行うことが可能となる。
既存の中和抗体と、中性条件でFcRnへの結合を増強したpH依存的抗原結合抗体が可溶型抗原に及ぼす効果について示した図である。 ノーマルマウスにFv4-IgG1あるいはFv4-IgG1-F1が、静脈内あるいは皮下に投与された際の血漿中濃度推移を示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIaに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIIa (R)に対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIIa (H)に対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIIbに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIIIa (F)に対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、マウスFcγRIに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、マウスFcγRIIbに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、マウスFcγRIIIに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、マウスFcγRIVに対して結合することを示した図である。 マウスFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F20が、マウスFcγRI、マウスFcγRIIb、マウスFcγRIII、マウスFcγRIVに対して結合することを示した図である。 マウスFcRnに結合した状態のmPM1-mIgG1-mF3が、マウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける、Fv4-IgG1-F21、Fv4-IgG1-F140、Fv4-IgG1-F157、Fv4-IgG1-F424の血漿中濃度推移を示した図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける、Fv4-IgG1およびFv4-IgG1-F760の血漿中濃度推移を示した図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける、Fv4-IgG1-F11、Fv4-IgG1-F890、Fv4-IgG1-F947、Fv4-IgG1-F821、Fv4-IgG1-F939、Fv4-IgG1-F1009の血漿中濃度推移を示した図である ノーマルマウスにおける、mPM1-mIgG1-mF14、mPM1-mIgG1-mF38、mPM1-mIgG1-mF39、mPM1-mIgG1-mF40の血漿中濃度推移を示した図である。 Fv4-IgG1-F21、Fv4-IgG1-F140を用いた免疫原性評価の結果を示した図である。 hA33-IgG1-F21、hA33-IgG1-F140を用いた免疫原性評価の結果を示した図である。 hA33-IgG1-F698、hA33-IgG1-F699を用いた免疫原性評価の結果を示した図である。 hA33-IgG1-F698、hA33-IgG1-F763を用いた免疫原性評価の結果を示した図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F11に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F821に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F890に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。BはAの拡大図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F939に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F947に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F1009に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。 ノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-IgG1-mF14に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。 ノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-IgG1-mF39に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。 ノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-IgG1-mF38に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。 ノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-IgG1-mF40に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示す図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから15分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、4日後および7日後の血漿中のFv4-IgG1-F947およびFv4-IgG1-FA6a/FB4aの抗体濃度を示す図である。 各B3変異体のFcγRIIbに対する結合と、FcγRIaに対する結合との分散を示す図である。 各B3変異体のFcγRIIbに対する結合と、FcγRIIa(H)に対する結合との分散を示す図である。 各B3変異体のFcγRIIbに対する結合と、FcγRIIa(R)に対する結合との分散を示す図である。 各B3変異体のFcγRIIbに対する結合と、FcγRIIIaに対する結合との分散を示す図である。 ノーマルマウスにおける可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中動態とマウス血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体の抗体価を示す図である。 抗マウスCD4抗体が投与されたノーマルマウスにおける可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中動態とマウス血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体の抗体価を示す図である。 ノーマルマウスにおける抗IL-6レセプター抗体の血漿中動態を示す図である。 ヒトFcRnトランスジェニックマウスに可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗IL-6レセプター抗体が同時に投与された際の、可溶型ヒトIL-6レセプターの濃度の推移を示す図である。 X線結晶構造解析で決定された6RL#9抗体のFabフラグメントの重鎖CDR3の構造を示す図である。 ノーマルマウスにおけるH54/L28-IgG1、6RL#9-IgG1、FH4-IgG1の血漿中の抗体濃度の推移を示す図である。 H54/L28-IgG1、6RL#9-IgG1、FH4-IgG1が投与されたノーマルマウスの血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプターの濃度の推移を示す図である。 ノーマルマウスにおけるH54/L28-N434W、6RL#9-N434W、FH4-N434Wの血漿中の抗体濃度の推移を示す図である。 H54/L28-N434W、6RL#9-N434W、FH4-N434Wが投与されたノーマルマウスの血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプターの濃度の推移を示す図である。 ヒトVk5-2配列を含む抗体と、ヒトVk5-2配列中の糖鎖付加配列が改変されたh Vk5-2_L65配列を含む抗体のイオン交換クロマトグラムである。実線はヒトVk5-2配列を含む抗体(重鎖:CIM_H、配列番号:108および軽鎖:hVk5-2、配列番号:4)のクロマトグラム、破線はhVk5-2_L65配列をもつ抗体(重鎖:CIM_H(配列番号:108)、軽鎖:hVk5-2_L65(配列番号:107))のクロマトグラムを表す。 IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の定常領域配列のアラインメントとEUナンバリングを示す図である。 一分子のpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するFc領域と二分子のFcRn、一分子のFcγRからなる四者複合体の形成の模式図を表す。 pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域と二分子のFcRn、一分子のFcγRとの作用を表す模式図である。 pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、抑制性FcγRに対する選択的な結合活性を有するFc領域と二分子のFcRn、一分子のFcγRとの作用を表す模式図である。 FcRn結合ドメインを構成する二つのポリペプチドの一方のみpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、もう一方はpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しないFc領域と二分子のFcRn、一分子のFcγRとの作用を表す模式図である。 Ca依存的に抗原に結合する抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された290クローンの配列情報のアミノ酸の分布(Libraryと表示される)と設計されたアミノ酸分布(Designと表示される)との関係を示すグラフである。横軸はKabatナンバリングで表されるアミノ酸の部位が表される。縦軸はアミノ酸の分布の比率が表される。 pH依存的に抗原に結合する抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された132クローンの配列情報のアミノ酸の分布(Libraryと表示される)と設計されたアミノ酸分布(Designと表示される)との関係を示すグラフである。横軸はKabatナンバリングで表されるアミノ酸の部位が表される。縦軸はアミノ酸の分布の比率が表される。 Fv4-IgG1-F947およびFv4-IgG1-F1326がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されたときのマウス血漿中のFv4-IgG1-F947およびFv4-IgG1-F1326の濃度推移を表すグラフである。 横軸は各PD variantのFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、縦軸は各PD variantのFcγRIIa R型に対する相対的な結合活性の値を表す。各PD variantの各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体であるIL6R-F652 (EUナンバリングで表される238位のProをAspに置換した改変Fc) の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値を各PD variantの各FcγRに対する相対的な結合活性の値とした。図中のF652というプロットはIL6R-F652の値を示す。 縦軸は各改変をP238D改変を有さないGpH7-B3に導入した改変体のFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、横軸は各改変をP238D改変を有するIL6R-F652に導入した改変体のFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値を示す。なお、各改変体のFcγRIIbに対する結合量の値を、改変導入前の抗体のFcγRIIbに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値を相対的な結合活性の値とした。ここで、P238Dを有さないGpH7-B3に導入した場合、P238Dを有するIL6R-F652に導入した場合共にFcγRIIbに対する結合増強効果を発揮した改変は領域Aに含まれ、P238Dを有さないGpH7-B3に導入した場合にはFcγRIIbに対する結合増強効果を発揮するが、P238Dを有するIL6R-F652に導入した場合にはFcγRIIbに対する結合増強効果を発揮しない改変は領域Bに含まれる。 Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造を表す。 Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造とFc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造とを、FcγRIIb細胞外領域ならびにFc CH2ドメインAに対しCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせた図を表す。 Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造とFc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造について、Fc CH2ドメインAならびにFc CH2ドメインB単独同士でCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせをおこない、P238D付近の詳細構造を比較した図を表す。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造において、Fc CH2ドメインAのEUナンバリングで表される237位のGlyの主鎖とFcγRIIbの160位のTyrとの間に水素結合が認められることを示す図である。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造において、Fc CH2ドメインBのEUナンバリングで表される270位のAspとFcγRIIbの131番目のArgとの間に静電的な相互作用が認められることを示す図である。 横軸は各2B variantのFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、縦軸は各2B variantのFcγRIIa R型に対する相対的な結合活性の値をそれぞれ示す。各2B variantの各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体(EUナンバリングで表される238位のProをAspに置換した改変Fc) の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値を各2B variantの各FcγRに対する相対的な結合活性の値とした。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造においてFc Chain AのEUナンバリングで表される233位のGluとFcγRIIb細胞外領域におけるその周辺残基を表す図である。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造においてFc Chain AのEUナンバリングで表される330位のAlaとFcγRIIb細胞外領域におけるその周辺残基を表す図である。 Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体および、Fc(WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体の結晶構造を、Fc Chain Bに対しCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせ、Fc Chain BのEUナンバリングで表される271位のProの構造を示した図である。
以下の定義および詳細な説明は、本明細書において説明する本発明の理解を容易にするために提供される。
アミノ酸
本明細書において、たとえば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、Val/Vと表されるように、アミノ酸は1文字コードまたは3文字コード、またはその両方で表記されている。
抗原
本明細書において「抗原」は抗原結合ドメインが結合するエピトープを含む限りその構造は特定の構造に限定されない。別の意味では、抗原は無機物でもあり得るし有機物でもあり得る。抗原としては下記のような分子;17-IA、4-1BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1 アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アルファ-1-アンチトリプシン、アルファ−V/ベータ-1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、B-リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3 オステオゲニン(Osteogenin)、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMP、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7-1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス菌毒素、ウェルシュ菌毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、補体制御因子(Decay accelerating factor)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、ファクターIIa、ファクターVII、ファクターVIIIc、ファクターIX、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-アルファ1、GFR-アルファ2、GFR-アルファ3、GITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gBエンベロープ糖タンパク質、HCMV gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV gp120、HIV IIIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-18R、IL-23、インターフェロン(INF)-アルファ、INF-ベータ、INF-ガンマ、インヒビン、iNOS、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インテグリンアルファ2、インテグリンアルファ3、インテグリンアルファ4、インテグリンアルファ4/ベータ1、インテグリンアルファ4/ベータ7、インテグリンアルファ5(アルファV)、インテグリンアルファ5/ベータ1、インテグリンアルファ5/ベータ3、インテグリンアルファ6、インテグリンベータ1、インテグリンベータ2、インターフェロンガンマ、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在的TGF-1、潜在的TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティ、ルイス−Y抗原、ルイス−Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺表面、黄体形成ホルモン、リンホトキシンベータ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、METALLOPROTEASES、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-アルファ、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N-Cアドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、または-6、ニュールツリン、神経成長因子(NGF)、NGFR、NGF−ベータ、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤性アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、レラキシンA鎖、レラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマイド因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質−72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体アルファ/ベータ)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、睾丸PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、TGF-ベータRI(ALK-5)、TGF-ベータRII、TGF-ベータRIIb、TGF-ベータRIII、TGF-ベータ1、TGF-ベータ2、TGF-ベータ3、TGF-ベータ4、TGF-ベータ5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TRF、Trk、TROP-2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現ルイスY関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-Cadherin、VE-cadherin-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィレブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、HMGB1、IgA、Aβ、CD81, CD97, CD98, DDR1, DKK1, EREG、Hsp90, IL-17/IL-17R、IL-20/IL-20R、酸化LDL, PCSK9, prekallikrein , RON, TMEM16F、SOD1, Chromogranin A, Chromogranin B、tau, VAP1、高分子キニノーゲン、IL-31、IL-31R、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9、EPCR、C1, C1q, C1r, C1s, C2, C2a, C2b, C3, C3a, C3b, C4, C4a, C4b, C5, C5a, C5b, C6, C7, C8, C9, factor B, factor D, factor H, properdin、sclerostin、fibrinogen, fibrin, prothrombin, thrombin, 組織因子, factor V, factor Va, factor VII, factor VIIa, factor VIII, factor VIIIa, factor IX, factor IXa, factor X, factor Xa, factor XI, factor XIa, factor XII, factor XIIa, factor XIII, factor XIIIa, TFPI, antithrombin III, EPCR, トロンボモデュリン、TAPI, tPA, plasminogen, plasmin, PAI-1, PAI-2、GPC3、Syndecan-1、Syndecan-2、Syndecan-3、Syndecan-4、LPA、S1Pならびにホルモンおよび成長因子のための受容体が例示され得る。
抗原中に存在する抗原決定基を意味するエピトープは、本明細書において開示される抗原結合分子中の抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位を意味する。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。また、当該エピトープを認識する抗原結合分子中の抗原に対する結合活性によっても当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチド又はポリペプチドである場合には、エピトープを構成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。また、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
直線状エピトープは、アミノ酸一次配列が認識されたエピトープを含むエピトープである。直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、および最も普通には少なくとも5つ、例えば約8ないし約10個、6ないし20個のアミノ酸が固有の配列において含まれる。
立体構造エピトープは、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が、認識されたエピトープの単一の規定成分ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、必ずしもエピトープを規定する抗体により認識されないエピトープ)である。立体構造エピトープは、直線状エピトープに対して増大した数のアミノ酸を包含するかもしれない。立体構造エピトープの認識に関して、抗体は、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体構造エピトープを形成するあるアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、抗体がエピトープを認識するのを可能にする。エピトープの立体構造を決定する方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴分光学並びに部位特異的なスピン標識および電磁常磁性共鳴分光学が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996)、第66巻、Morris(編)を参照。
結合活性
下記にIL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法が例示されるが、IL-6R以外の抗原に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法も下記の例示に準じて適宜実施され得る。
例えば、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が、IL-6R分子中に存在する線状エピトープを認識することは、たとえば次のようにして確認することができる。上記の目的のためにIL-6Rの細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状のペプチドが合成される。当該ペプチドは、化学的に合成され得る。あるいは、IL-6RのcDNA中の、細胞外ドメインに相当するアミノ酸配列をコードする領域を利用して、遺伝子工学的手法により得られる。次に、細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドと、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子との結合活性が評価される。たとえば、固定化された線状ペプチドを抗原とするELISAによって、当該ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が評価され得る。あるいは、IL-6R発現細胞に対する当該抗原結合分子の結合における、線状ペプチドによる阻害のレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性が明らかにされ得る。これらの試験によって、線状ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が明らかにされ得る。
また、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が立体構造エピトープを認識することは、次のようにして確認され得る。上記の目的のために、IL-6Rを発現する細胞が調製される。IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子がIL-6R発現細胞に接触した際に当該細胞に強く結合する一方で、当該抗原結合分子が固定化されたIL-6Rの細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドに対して実質的に結合しないとき等が挙げられる。ここで、実質的に結合しないとは、ヒトIL-6R発現細胞に対する結合活性の80%以下、通常50%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは15%以下の結合活性をいう。
IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のIL-6R発現細胞に対する結合活性を測定する方法としては、例えば、Antibodies A Laboratory Manual記載の方法(Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420)が挙げられる。即ちIL-6R発現細胞を抗原とするELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)の原理によって評価され得る。
ELISAフォーマットにおいて、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のIL-6R発現細胞に対する結合活性は、酵素反応によって生成するシグナルレベルを比較することによって定量的に評価される。すなわち、IL-6R発現細胞を固定化したELISAプレートに被験ポリペプチド会合体を加え、細胞に結合した被験抗原結合分子が、被験抗原結合分子を認識する酵素標識抗体を利用して検出される。あるいはFACSにおいては、被験抗原結合分子の希釈系列を作成し、IL-6R発現細胞に対する抗体結合力価(titer)を決定することにより、IL-6R発現細胞に対する被験抗原結合分子の結合活性が比較され得る。
緩衝液等に懸濁した細胞表面上に発現している抗原に対する被験抗原結合分子の結合は、フローサイトメーターによって検出することができる。フローサイトメーターとしては、例えば、次のような装置が知られている。
FACSCantoTM II
FACSAriaTM
FACSArrayTM
FACSVantageTM SE
FACSCaliburTM (いずれもBD Biosciences社の商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulter社の商品名)
例えば、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の抗原に対する結合活性の好適な測定方法の一例として、次の方法が挙げられる。まず、IL-6Rを発現する細胞と反応させた被験抗原結合分子を認識するFITC標識した二次抗体で染色する。被験抗原結合分子を適宜好適な緩衝液によって希釈することによって、当該抗原結合分子が所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用され得る。次に、FACSCalibur(BD社)により蛍光強度と細胞数が測定される。当該細胞に対する抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、被験抗原結合分子の結合量によって表される被験抗原結合分子の結合活性が測定され得る。
IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が、ある抗原結合分子とエピトープを共有することは、両者の同じエピトープに対する競合によって確認され得る。抗原結合分子間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたIL-6Rタンパク質が、候補となる競合抗原結合分子の存在下、または非存在下でプレインキュベートされた後に、被験抗原結合分子が添加される。ウェル中のIL-6Rタンパク質に結合した被験抗原結合分子の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補となる競合抗原結合分子の結合能に間接的に相関している。すなわち同一エピトープに対する競合抗原結合分子の親和性が大きくなればなる程、被験抗原結合分子のIL-6Rタンパク質をコートしたウェルへの結合活性は低下する。
IL-6Rタンパク質を介してウェルに結合した被験抗原結合分子の量は、予め抗原結合分子を標識しておくことによって、容易に測定され得る。たとえば、ビオチン標識された抗原結合分子は、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定される。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイは、特に競合ELISAアッセイといわれる。抗原結合分子は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識され得る。具体的には、放射標識あるいは蛍光標識などが公知である。
候補の競合抗原結合分子会合体の非存在下で実施されるコントロール試験において得られる結合活性と比較して、競合抗原結合分子が、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20−50%、さらに好ましくは少なくとも50%ブロックできるならば、当該被験抗原結合分子は競合抗原結合分子と実質的に同じエピトープに結合するか、又は同じエピトープへの結合に対して競合する抗原結合分子である。
IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が結合するエピトープの構造が同定されている場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、当該エピトープを構成するペプチドにアミノ酸変異を導入したペプチドに対する両者の抗原結合分子の結合活性を比較することによって評価され得る。
こうした結合活性を測定する方法としては、例えば、前記のELISAフォーマットにおいて変異を導入した線状のペプチドに対する被験抗原結合分子及び対照抗原結合分子の結合活性を比較することによって測定され得る。ELISA以外の方法としては、カラムに結合した当該変異ペプチドに対する結合活性を、当該カラムに被検抗原結合分子と対照抗原結合分子を流下させた後に溶出液中に溶出される抗原結合分子を定量することによっても測定され得る。変異ペプチドを例えばGSTとの融合ペプチドとしてカラムに吸着させる方法は公知である。
また、同定されたエピトープが立体エピトープの場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、次の方法で評価され得る。まず、IL-6Rを発現する細胞とエピトープに変異が導入されたIL-6Rを発現する細胞が調製される。これらの細胞がPBS等の適切な緩衝液に懸濁された細胞懸濁液に対して被験抗原結合分子と対照抗原結合分子が添加される。次いで、適宜緩衝液で洗浄された細胞懸濁液に対して、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子を認識することができるFITC標識された抗体が添加される。標識抗体によって染色された細胞の蛍光強度と細胞数がFACSCalibur(BD社)によって測定される。被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の濃度は好適な緩衝液によって適宜希釈することによって所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用される。当該細胞に対する標識抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、標識抗体の結合量によって表される被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の結合活性を測定することができる。
本方法において、例えば「変異IL-6R発現細胞に実質的に結合しない」ことは、以下の方法によって判断することができる。まず、変異IL-6Rを発現する細胞に対して結合した被験抗原結合分子と対照抗原結合分子が、標識抗体で染色される。次いで細胞の蛍光強度が検出される。蛍光検出にフローサイトメトリーとしてFACSCaliburを用いた場合、得られた蛍光強度はCELL QUEST Softwareを用いて解析され得る。ポリペプチド会合体存在下および非存在下でのGeometric Meanの値から、この比較値(ΔGeo-Mean)を下記の計算式に基づいて算出することにより、抗原結合分子の結合による蛍光強度の増加割合を求めることができる。
ΔGeo-Mean=Geo-Mean(ポリペプチド会合体存在下)/Geo-Mean(ポリペプチド会合体非存在下)
解析によって得られる被験抗原結合分子の変異IL-6R発現細胞に対する結合量が反映されたGeometric Mean比較値(変異IL-6R分子ΔGeo-Mean値)を、被験抗原結合分子のIL-6R発現細胞に対する結合量が反映されたΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合において、変異IL-6R発現細胞及びIL-6R発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値を求める際に使用する被験抗原結合分子の濃度は互いに同一又は実質的に同一の濃度で調製されることが特に好ましい。予めIL-6R中のエピトープを認識していることが確認された抗原結合分子が、対照抗原結合分子として利用される。
被験抗原結合分子の変異IL-6R発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値が、被験抗原結合分子のIL-6R発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値の、少なくとも80%、好ましくは50%、更に好ましくは30%、特に好ましくは15%より小さければ、「変異IL-6R発現細胞に実質的に結合しない」ものとする。Geo-Mean値(Geometric Mean)を求める計算式は、CELL QUEST Software User's Guide(BD biosciences社)に記載されている。比較値を比較することによってそれが実質的に同視し得る程度であれば、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子のエピトープは同一であると評価され得る。
抗原結合ドメイン
本明細書において、「抗原結合ドメイン」は目的とする抗原に結合するかぎりどのような構造のドメインも使用され得る。そのようなドメインの例として、例えば、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域、生体内に存在する細胞膜タンパクであるAvimerに含まれる35アミノ酸程度のAドメインと呼ばれるモジュール(WO2004/044011、WO2005/040229)、細胞膜に発現する糖たんぱく質であるfibronectin中のタンパク質に結合するドメインである10Fn3ドメインを含むAdnectin(WO2002/032925)、ProteinAの58アミノ酸からなる3つのヘリックスの束(bundle)を構成するIgG結合ドメインをscaffoldとするAffibody(WO1995/001937)、33アミノ酸残基を含むターンと2つの逆並行ヘリックスおよびループのサブユニットが繰り返し積み重なった構造を有するアンキリン反復(ankyrin repeat:AR)の分子表面に露出する領域であるDARPins(Designed Ankyrin Repeat proteins)(WO2002/020565)、好中球ゲラチナーゼ結合リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL))等のリポカリン分子において高度に保存された8つの逆並行ストランドが中央方向にねじれたバレル構造の片側を支える4つのループ領域であるAnticalin等(WO2003/029462)、ヤツメウナギ、ヌタウナギなど無顎類の獲得免疫システムとしてイムノグロブリンの構造を有さない可変性リンパ球受容体(variable lymphocyte receptor(VLR))のロイシン残基に富んだリピート(leucine-rich-repeat(LRR))モジュールが繰り返し積み重なった馬てい形の構造の内部の並行型シート構造のくぼんだ領域(WO2008/016854)が好適に挙げられる。本発明の抗原結合ドメインの好適な例として、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を含む抗原結合ドメインが挙げられる。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
本発明の抗原結合分子における抗原結合ドメインは、同一のエピトープに結合することができる。ここで同一のエピトープは、例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。また、配列番号:1に記載のアミノ酸配列の20番目から365番目のアミノ酸からなるタンパク質中に存在することができる。あるいは、本発明の抗原結合分子における抗原結合ドメインは、互いに異なるエピトープに結合することができる。ここで異なるエピトープは、例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。また、配列番号:1に記載のアミノ酸配列の20番目から365番目のアミノ酸からなるタンパク質中に存在することができる。
特異的
特異的とは、特異的に結合する分子の一方の分子がその一または複数の結合する相手方の分子以外の分子に対しては何ら有意な結合を示さない状態をいう。また、抗原結合ドメインが、ある抗原中に含まれる複数のエピトープのうち特定のエピトープに対して特異的である場合にも用いられる。また、抗原結合ドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原に含まれる場合には、当該抗原結合ドメインを有する抗原結合分子は当該エピトープを含む様々な抗原と結合することができる。
抗体
本明細書において、抗体とは、天然のものであるかまたは部分的もしくは完全合成により製造された免疫グロブリンをいう。抗体はそれが天然に存在する血漿や血清等の天然資源や抗体を産生するハイブリドーマ細胞の培養上清から単離され得るし、または遺伝子組換え等の手法を用いることによって部分的にもしくは完全に合成され得る。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプおよびそれらのアイソタイプのサブクラスが好適に挙げられる。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラス(アイソタイプ)が知られている。本発明の抗体には、これらのアイソタイプのうちIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれ得る。
所望の結合活性を有する抗体を作製する方法は当業者において公知である。以下に、IL-6Rに結合する抗体(抗IL-6R抗体)を作製する方法が例示される。IL-6R以外の抗原に結合する抗体も下記の例示に準じて適宜作製され得る。
抗IL-6R抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として取得され得る。抗IL-6R抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好適に作製され得る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞によって産生されるもの等が含まれる。なお本願発明のモノクローナル抗体には、「ヒト化抗体」や「キメラ抗体」が含まれる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知技術を使用することによって、例えば以下のように作製され得る。すなわち、IL-6Rタンパク質を感作抗原として使用して、通常の免疫方法にしたがって哺乳動物が免疫される。得られる免疫細胞が通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合される。次に、通常のスクリーニング法によって、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって抗IL-6R抗体を産生するハイブリドーマが選択され得る。
具体的には、モノクローナル抗体の作製は例えば以下に示すように行われる。まず、配列番号:2にそのヌクレオチド配列が開示されたIL-6R遺伝子を発現することによって、抗体取得の感作抗原として使用される配列番号:1で表されるIL-6Rタンパク質が取得され得る。すなわち、IL-6Rをコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入することによって適当な宿主細胞が形質転換される。当該宿主細胞中または培養上清中から所望のヒトIL-6Rタンパク質が公知の方法で精製される。培養上清中から可溶型のIL-6Rを取得するためには、例えば、Mullbergら(J. Immunol. (1994) 152 (10), 4958-4968)によって記載されているような可溶型IL-6Rである、配列番号:1で表されるIL-6Rポリペプチド配列のうち、1から357番目のアミノ酸からなるタンパク質が、配列番号:1で表されるIL-6Rタンパク質の代わりに発現される。また、精製した天然のIL-6Rタンパク質もまた同様に感作抗原として使用され得る。
哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として当該精製IL-6Rタンパク質が使用できる。IL-6Rの部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。この際、当該部分ペプチドはヒトIL-6Rのアミノ酸配列より化学合成によっても取得され得る。また、IL-6R遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることによっても取得され得る。さらにはタンパク質分解酵素を用いてIL-6Rタンパク質を分解することによっても取得され得るが、部分ペプチドとして用いるIL-6Rペプチドの領域および大きさは特に特別の態様に限定されない。好ましい領域は配列番号:1のアミノ酸配列において20-357番目のアミノ酸に相当するアミノ酸配列から任意の配列が選択され得る。感作抗原とするペプチドを構成するアミノ酸の数は少なくとも5以上、例えば6以上、或いは7以上であることが好ましい。より具体的には8〜50、好ましくは10〜30残基のペプチドが感作抗原として使用され得る。
また、IL-6Rタンパク質の所望の部分ポリペプチドやペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質が感作抗原として利用され得る。感作抗原として使用される融合タンパク質を製造するために、例えば、抗体のFc断片やペプチドタグなどが好適に利用され得る。融合タンパク質を発現するベクターは、所望の二種類又はそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子がインフレームで融合され、当該融合遺伝子が前記のように発現ベクターに挿入されることにより作製され得る。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. press)に記載されている。感作抗原として用いられるIL-6Rの取得方法及びそれを用いた免疫方法は、WO2003/000883、WO2004/022754、WO2006/006693等にも具体的に記載されている。
該感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特定の動物に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましい。一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギ、サル等が好適に使用される。
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫される。例えば、一般的な方法として、感作抗原が哺乳動物の腹腔内または皮下に注射によって投与されることにより免疫が実施される。具体的には、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈された感作抗原が、所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントと混合され、乳化された後に、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用され得る。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合した該感作抗原ペプチドを免疫することが望ましい場合もある。
また、所望の抗体を産生するハイブリドーマは、DNA免疫を使用し、以下のようにしても作製され得る。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現され得るような態様で構築されたベクターDNAが投与された当該免疫動物中で、感作抗原が当該免疫動物の生体内で発現されることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。蛋白質抗原が免疫動物に投与される一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性が期待される。
−IL-6Rのような膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激が与えられ得る
−免疫抗原を精製する必要が無い
DNA免疫によって本発明のモノクローナル抗体を得るために、まず、IL-6Rタンパク質を発現するDNAが免疫動物に投与される。IL-6RをコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、免疫動物に投与される。発現ベクターとしては、たとえばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターが好適に利用され得る。ベクターを生体に投与する方法として、一般的に用いられている方法が利用され得る。たとえば、発現ベクターが吸着した金粒子が、gene gunで免疫動物個体の細胞内に導入されることによってDNA免疫が行われる。さらに、IL-6Rを認識する抗体の作製は国際公開WO2003/104453に記載された方法を用いても作製され得る。
このように哺乳動物が免疫され、血清中におけるIL-6Rに結合する抗体力価の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に供される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用され得る。
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択され得る。これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込む正常な細胞は死滅する。他方、これらのピリミジンアナログを取り込めないこれらの酵素を欠損した細胞は、選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
このようなミエローマ細胞として、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol.(1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell(1976)8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature(1978)276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods(1980)35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med.(1978)148 (1), 313-323)、R210(Nature(1979)277 (5692), 131-133)等が好適に使用され得る。
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施され得る。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤が添加されて使用される。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定され得る。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用され、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に添加され得る。
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量1000から6000程度)が通常30から60%(w/v)の濃度で添加される。混合液が緩やかに混合されることによって所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。次いで、上記に挙げた適当な培養液が逐次添加され、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、係る十分な時間は数日から数週間である)上記HAT培養液を用いた培養が継続され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施される。
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択され得る。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞が選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施され得る。
所望の抗体のスクリーニングおよび単一クローニングが、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施され得る。例えば、IL-6Rに結合するモノクローナル抗体は、細胞表面に発現したIL-6Rに結合することができる。このようなモノクローナル抗体は、たとえば、FACS(fluorescence activated cell sorting)によってスクリーニングされ得る。FACSは、蛍光抗体と接触させた細胞をレーザー光で解析し、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面への抗体の結合を測定することを可能にするシステムである。
FACSによって本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、まずIL-6Rを発現する細胞を調製する。スクリーニングのための好ましい細胞は、IL-6Rを強制発現させた哺乳動物細胞である。宿主細胞として使用した形質転換されていない哺乳動物細胞を対照として用いることによって、細胞表面のIL-6Rに対する抗体の結合活性が選択的に検出され得る。すなわち、宿主細胞に結合せず、IL-6R強制発現細胞に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、IL-6Rモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが取得され得る。
あるいは固定化したIL-6R発現細胞に対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。たとえば、ELISAプレートのウェルにIL-6R発現細胞が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化細胞に接触させ、固定化細胞に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウスイムノグロブリン抗体によって検出され得る。これらのスクリーニングによって選択された、抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈法等によりクローニングされ得る。
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは通常の培養液中で継代培養され得る。また、該ハイブリドーマは液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が取得され得る。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖せしめ、その腹水からモノクローナル抗体が取得され得る。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに好適なものである。
当該ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって、当該遺伝子によってコードされる抗体が発現する。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は例えば、Vandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem.(1990)192 (3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体の製造方法もまた公知である。
たとえば、抗IL-6R抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、抗IL-6R抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが取得される。そのために、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、たとえば次のような方法を利用することができる。
−グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18 (24), 5294-5299)
−AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162 (1), 156-159)
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが取得され得る。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85 (23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17 (8), 2919-2932)が適宜利用され得る。更にこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入され得る。
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認される。
可変領域をコードする遺伝子を取得するためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5'-RACE法を利用するのが簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAが合成され、5'-RACE cDNAライブラリが得られる。5'-RACE cDNAライブラリの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
得られた5'-RACE cDNAライブラリを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列である。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
具体的には、たとえばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用され得る。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、5' RACE cDNAライブラリ作製キットに付属するプライマーが利用される。
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンが再構成され得る。再構成されたイムノグロブリンの、IL-6Rに対する結合活性を指標として、所望の抗体がスクリーニングされ得る。たとえばIL-6Rに対する抗体の取得を目的とするとき、抗体のIL-6Rへの結合は、特異的であることがさらに好ましい。IL-6Rに結合する抗体は、たとえば次のようにしてスクリーニングされ得る;
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をIL-6R発現細胞に接触させる工程、
(2)IL-6R発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)IL-6R発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
抗体とIL-6R発現細胞との結合を検出する方法は公知である。具体的には、先に述べたFACSなどの手法によって、抗体とIL-6R発現細胞との結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するためにIL-6R発現細胞の固定標本が適宜利用され得る。
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法も好適に用いられる。ポリクローナルな抗体発現細胞群より抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に発現するファージが取得され得る。このファージと所望の抗原との接触の後に、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが回収され得る。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
目的とする抗IL-6R抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗IL-6R抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、キメラ抗体とは、定常領域と可変領域の由来が異なることをいう。したがって、マウス−ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト−ヒト同種キメラ抗体も、本発明におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、たとえば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保持した発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列が適宜配置され得る。同じ組み合わせの制限酵素で消化された両者がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
抗IL-6Rモノクローナル抗体を製造するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込まれる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。後に記載される実施例ではシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:3)を有するペプチドが使用されているが、これ以外にも適したシグナル配列が付加される。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、抗IL-6R抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得され得る。
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込まれる。H鎖とL鎖が組み込まれたベクターによって、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAが単一の発現ベクターに組み込まれることによって宿主細胞が形質転換され得る(国際公開WO 1994/011523を参照のこと)。
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を作製するための宿主細胞と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗原結合ドメインを単離するのに応用され得る。真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞、:CHO、COS、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney )、Hela、Vero、HEK(human embryonic kidney)293など
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
更に真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
−酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces )属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
−糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus )属
また、原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。たとえば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E. coli )、枯草菌などの細菌細胞が適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を含む発現ベクターが形質転換によって導入される。形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が取得され得る。
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち所望の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、たとえば、ヤギβカゼインなどを利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、当該注入された胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Bio/Technology (1994), 12 (7), 699-702)。
本明細書において記載されるポリペプチド会合体がヒトに投与される場合、当該会合体における抗原結合ドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来の抗原結合ドメインが適宜採用され得る。遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化(Humanized)抗体等が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて適宜製造される。
本明細書において記載されるポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを作製するために用いられる抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い同一性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるとされている。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。Overlap Extension PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5'末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。当該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、当該組換え細胞を培養し、当該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、当該ヒト化抗体が当該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP239400、国際公開WO1996/002576参照)。
上記のように作製されたヒト化抗体の抗原への結合活性を定性的又は定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Cancer Res., (1993) 53, 851-856)。
また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
また、抗体遺伝子を取得する方法としてBernasconiら(Science (2002) 298, 2199-2202)またはWO2008/081008に記載のようなB細胞クローニング(それぞれの抗体のコード配列の同定およびクローニング、その単離、およびそれぞれの抗体(特に、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)の作製のための発現ベクター構築のための使用等)の手法が、上記のほか適宜使用され得る。
EUナンバリングおよびKabatナンバリング
本発明で使用されている方法によると、抗体のCDRとFRに割り当てられるアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987年および1991年)。本明細書において、抗原結合分子が抗体または抗原結合断片である場合、可変領域のアミノ酸はKabatナンバリングにしたがい、定常領域のアミノ酸はKabatのアミノ酸位置に準じたEUナンバリングにしたがって表される。
イオン濃度の条件
金属イオン濃度の条件
本発明の一つの態様では、イオン濃度とは金属イオン濃度のことをいう。「金属イオン」とは、水素を除くアルカリ金属および銅族等の第I族、アルカリ土類金属および亜鉛族等の第II族、ホウ素を除く第III族、炭素とケイ素を除く第IV族、鉄族および白金族等の第VIII族、V、VIおよびVII族の各A亜族に属する元素と、アンチモン、ビスマス、ポロニウム等の金属元素のイオンをいう。金属原子は原子価電子を放出して陽イオンになる性質を有しており、これをイオン化傾向という。イオン化傾向の大きい金属は、化学的に活性に富むとされる。
本発明で好適な金属イオンの例としてカルシウムイオンが挙げられる。カルシウムイオンは多くの生命現象の調節に関与しており、骨格筋、平滑筋および心筋等の筋肉の収縮、白血球の運動および貪食等の活性化、血小板の変形および分泌等の活性化、リンパ球の活性化、ヒスタミンの分泌等の肥満細胞の活性化、カテコールアミンα受容体やアセチルコリン受容体を介する細胞の応答、エキソサイトーシス、ニューロン終末からの伝達物質の放出、ニューロンの軸策流等にカルシウムイオンが関与している。細胞内のカルシウムイオン受容体として、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフも数多く知られている。例えば 、カドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインがよく知られている。
本発明においては、金属イオンがカルシウムイオンの場合には、カルシウムイオン濃度の条件として低カルシウムイオン濃度の条件と高カルシウムイオン濃度の条件が挙げられる。カルシウムイオン濃度の条件によって結合活性が変化するとは、低カルシウムイオン濃度と高カルシウムイオン濃度の条件の違いによって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化することをいう。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合もまた挙げられる。
本明細書において、高カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には100μMから10 mMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、200μMから5 mMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では400μMから3 mMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では200μMから2 mMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに400μMから1 mMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の血漿中(血中)でのカルシウムイオン濃度に近い500μMから2.5 mMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
本明細書において、低カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には0.1μMから30μMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、0.2μMから20μMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では0.5μMから10μMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では1μMから5μMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに2μMから4μMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の早期エンドソーム内でのイオン化カルシウム濃度に近い1μMから5μMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
本発明において、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低いとは、抗原結合分子の0.1μMから30μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、100μMから10 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、抗原結合分子の0.5μMから10μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、200μMから5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性が、生体内の血漿中のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子の1μMから5μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、500μMから2.5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
金属イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、低カルシウムイオン濃度および高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性が比較される。
さらに本発明において、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合分子の高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性が低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合能が高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合能よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「低カルシウムイオン濃度の条件における抗原結合活性を高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低下させる」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合能を高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
抗原への結合活性を測定する際のカルシウムイオン濃度以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。
本発明の抗原結合分子において、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性と高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する低カルシウムイオン濃度の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と高カルシウムイオン濃度の条件におけるKDの比であるKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が40以上である。KD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
抗原に対する結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
また、本発明の抗原結合分子の低カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性と高カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する低カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)と高カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なるカルシウムイオン濃度における抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、カルシウム濃度以外の条件は同一とすることが好ましい。
例えば、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体のスクリーニングによって取得され得る。
(a) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(b) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(c) 低カルシウム濃度の条件における抗原結合活性が、高カルシウム濃度の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体を選択する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) 高カルシウム濃度の条件における抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗体を低カルシウム濃度条件下に置く工程、
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗体を単離する工程。
また、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含む抗原結合ドメインまたは抗体若しくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) 低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗体を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムに高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗体を低カルシウム濃度条件下でカラムから溶出する工程、
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムに低カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗体を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗体を高カルシウム濃度条件下で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 高カルシウム濃度条件下で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗体を低カルシウム濃度条件下に置く工程、
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得された低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体が提供される。(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
本発明のスクリーニング方法において、低カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が0.1μM〜30μMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として、0.5μM〜10μMの間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の早期エンドソーム内のイオン化カルシウム濃度が挙げられ、具体的には1μM〜5μMにおける抗原結合活性を挙げることができる。また、高カルシウム濃度条件下における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、イオン化カルシウム濃度が100μM〜10 mMの間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいイオン化カルシウム濃度として200μM〜5 mMの間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいイオン化カルシウム濃度として、生体内の血漿中でのイオン化カルシウム濃度を挙げることができ、具体的には0.5 mM〜2.5 mMにおける抗原結合活性を挙げることができる。
抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度定数)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度定数)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
本発明において、高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程は、低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より低い抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程と同じ意味である。
高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性より高い限り、高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性と低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは高カルシウム濃度条件下における抗原結合活性が低カルシウム濃度条件下における抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
前記のスクリーニング方法によりスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はいかなる抗原結合ドメイン又は抗体でもよく、例えば上述の抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングすることが可能である。例えば、天然の配列を有する抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングしてもよいし、アミノ酸配列が置換された抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングしてもよい。
ライブラリ
ある一態様によれば、本発明の抗原結合ドメイン又は抗体は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。イオン濃度の例としては金属イオン濃度や水素イオン濃度が好適に挙げられる。
本明細書において「ライブラリ」とは複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチド、もしくはこれらの配列をコードする核酸、ポリヌクレオチドをいう。ライブラリ中に含まれる複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチドの配列は単一の配列ではなく、互いに配列の異なる抗原結合分子または抗原結合分子を含む融合ポリペプチドである。
本明細書においては、互いに配列の異なる複数の抗原結合分子という記載における「互いに配列の異なる」との用語は、ライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なることを意味する。すなわち、ライブラリ中における互いに異なる配列の数は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数が反映され、「ライブラリサイズ」と指称される場合もある。通常のファージディスプレイライブラリでは106から1012であり、リボゾームディスプレイ法等の公知の技術を適用することによってライブラリサイズを1014まで拡大することが可能である。しかしながら、ファージライブラリのパンニング選択時に使用されるファージ粒子の実際の数は、通常、ライブラリサイズよりも10ないし10,000倍大きい。この過剰倍数は、「ライブラリ当量数」とも呼ばれるが、同じアミノ酸配列を有する個々のクローンが10ないし10,000存在し得ることを表す。よって本発明における「互いに配列の異なる」との用語はライブラリ当量数が除外されたライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なること、より具体的には互いに配列の異なる抗原結合分子が106から1014分子、好ましくは107から1012分子、さらに好ましくは108から1011、特に好ましくは108から1010存在することを意味する。
また、本発明の、複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリという記載における「複数の」との用語は、例えば本発明の抗原結合分子、融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド分子、ベクターまたはウイルスは、通常、その物質の2つ以上の種類の集合を指す。例えば、ある2つ以上の物質が特定の形質に関して互いに異なるならば、その物質には2種類以上が存在することを表す。例としては、アミノ酸配列中の特定のアミノ酸位置で観察される変異体アミノ酸が挙げられ得る。例えば、フレキシブル残基以外、または表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸以外は実質的に同じ、好ましくは同一の配列である本発明の2つ以上の抗原結合分子がある場合、本発明の抗原結合分子は複数個存在する。他の実施例では、フレキシブル残基をコードする塩基以外、または表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸をコードする塩基以外は実質的に同じ、好ましくは同一の配列である本発明の2つ以上のポリヌクレオチド分子があるならば、本発明のポリヌクレオチド分子は複数個存在する。
さらに、本発明の、複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリという記載における「から主としてなる」との用語は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性 が 異なっている抗原結合分子の数が反映される。具体的には、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中に少なくとも104分子存在することが好ましい。また、より好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも105分子存在するライブラリから取得され得る。さらに好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも106分子存在するライブラリから取得され得る。特に好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも107分子存在するライブラリから取得され得る。また、好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも108分子存在するライブラリから取得され得る。別の表現では、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が異なっている抗原結合分子の割合としても好適に表現され得る。具体的には、本発明の抗原結合ドメインは、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数の0.1%から80%、好ましくは0.5%から60%、より好ましくは1%から40%、さらに好ましくは2%から20%、特に好ましくは4%から10% 含まれるライブラリから取得され得る。融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド分子またはベクターの場合も、上記と同様、分子の数や分子全体における割合で表現され得る。また、ウイルスの場合も、上記と同様、ウイルス個体の数や個体全体における割合で表現され得る。
カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はどのように調製されてもよく、例えば、金属イオンがカルシウムイオン濃度である場合には、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリにカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリ(カルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所にカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である 。
前記のようにイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸の例として、例えば、金属イオンがカルシウムイオンである場合には、カルシウム結合モチーフを形成するアミノ酸であれば、その種類は問わない。カルシウム結合モチーフは、当業者に周知であり、詳細に記載されている(例えばSpringerら(Cell (2000) 102, 275-277)、KawasakiおよびKretsinger(Protein Prof. (1995) 2, 305-490)、Moncriefら(J. Mol. Evol. (1990) 30, 522-562)、Chauvauxら(Biochem. J. (1990) 265, 261-265)、BairochおよびCox(FEBS Lett. (1990) 269, 454-456)、Davis(New Biol. (1990) 2, 410-419)、Schaeferら(Genomics (1995) 25, 638〜643)、Economouら(EMBO J. (1990) 9, 349-354)、Wurzburgら(Structure. (2006) 14, 6, 1049-1058))。すなわち、ASGPR, CD23、MBR、DC-SIGN等のC型レクチン等の任意の公知のカルシウム結合モチーフが、本発明の抗原結合分子に含まれ得る。このようなカルシウム結合モチーフの好適な例として、上記のほかには配列番号:4に記載される抗原結合ドメインに含まれるカルシウム結合モチーフも挙げられ得る。
また、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸の例として、金属キレート作用を有するアミノ酸も好適に用いられる得る。金属キレート作用を有するアミノ酸の例として、例えばセリン(Ser(S))、スレオニン(Thr(T))、アスパラギン(Asn(N))、グルタミン(Gln(Q))、アスパラギン酸(Asp(D))およびグルタミン酸(Glu(E))等が好適に挙げられる。
前記のアミノ酸が含まれる抗原結合ドメインの位置は特定の位置に限定されず、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる限り、抗原結合ドメインを形成する重鎖可変領域または軽鎖可変領域中のいずれの位置でもあり得る。すなわち、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が重鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
また、本発明の一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が軽鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1のKabatナンバリングで表される30位、31位および/または32位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
また、別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2のKabatナンバリングで表される50位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリが提供される。
さらに別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される92位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
また、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が、前記に記載された軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3から選択される2つまたは3つのCDRに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから本発明の異なる態様として取得され得る。さらに、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のKabatナンバリングで表される30位、31位、32位、50位および/または92位のいずれかひとつ以上に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
特に好適な実施形態では、抗原結合分子の軽鎖および/または重鎖可変領域のフレームワーク配列は、ヒトの生殖細胞系フレームワーク配列を有していることが望ましい。したがって、本発明の一態様においてフレームワーク配列が完全にヒトの配列であるならば、ヒトに投与(例えば疾病の治療)された場合、本発明の抗原結合分子は免疫原性反応を殆どあるいは全く引き起こさないと考えられる。上記の意味から、本発明の「生殖細胞系列の配列を含む 」とは、本発明のフレームワーク配列の一部が、いずれかのヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の一部と同一であることを意味する。例えば、本発明の抗原結合分子の重鎖FR2の配列が複数の異なるヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の重鎖FR2配列が組み合わされた配列である場合も、本発明の「生殖細胞系列の配列を含む 」抗原結合分子である。
フレームワークの例としては、例えばV-Base(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)等のウェブサイトに含まれている、現在知られている完全にヒト型のフレームワーク領域の配列が好適に挙げられる。 これらのフレームワーク領域の配列が本発明の抗原結合分子に含まれる生殖細胞系列の配列として適宜使用され得る。生殖細胞系列の配列はその類似性にもとづいて分類され得る(Tomlinsonら(J. Mol. Biol. (1992) 227, 776-798)WilliamsおよびWinter(Eur. J. Immunol. (1993) 23, 1456-1461)およびCoxら(Nat. Genetics (1994) 7, 162-168))。 7つのサブグループに分類されるVκ、10のサブグループに分類されるVλ、7つのサブグループに分類されるVHから好適な生殖細胞系列の配列が適宜選択され得る。
完全にヒト型のVH配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVH1サブグループ(例えば、VH1-2、VH1-3、VH1-8、VH1-18、VH1-24、VH1-45、VH1-46、VH1-58、VH1-69)、VH2サブグループ(例えば、VH2-5、VH2-26、VH2-70)、VH3サブグループ(VH3-7、VH3-9、VH3-11、VH3-13、VH3-15、VH3-16、VH3-20、VH3-21、VH3-23、VH3-30、VH3-33、VH3-35、VH3-38、VH3-43、VH3-48、VH3-49、VH3-53、VH3-64、VH3-66、VH3-72、VH3-73、VH3-74)、VH4サブグループ(VH4-4、VH4-28、VH4-31、VH4-34、VH4-39、VH4-59、VH4-61)、VH5サブグループ(VH5-51)、VH6サブグループ(VH6-1)、VH7サブグループ(VH7-4、VH7-81)のVH配列等が好適に挙げられる。これらは公知文献(Matsudaら(J. Exp. Med. (1998) 188, 1973-1975))等にも記載されており、当業者はこれらの配列情報をもとに本発明の抗原結合分子を適宜設計することが可能である。これら以外の完全にヒト型のフレームワークまたはフレームワークの準領域も好適に使用され得る。
完全にヒト型のVk配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVk1サブグループに分類されるA20、A30、L1、L4、L5、L8、L9、L11、L12、L14、L15、L18、L19、L22、L23、L24、O2、O4、O8、O12、O14、O18、Vk2サブグループに分類されるA1、A2、A3、A5、A7、A17、A18、A19、A23、O1、O11、Vk3サブグループに分類されるA11、A27、L2、L6、L10、L16、L20、L25、Vk4サブグループに分類されるB3、Vk5サブグループに分類されるB2(本明細書においてはVk5-2とも指称される))、Vk6サブグループに分類されるA10、A14、A26等(Kawasakiら(Eur. J. Immunol. (2001) 31, 1017-1028)、SchableおよびZachau(Biol. Chem. Hoppe Seyler (1993) 374, 1001-1022)およびBrensing-Kuppersら(Gene (1997) 191, 173-181))が好適に挙げられる。
完全にヒト型のVL配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVL1サブグループに分類されるV1-2、V1-3、V1-4、V1-5、V1-7、V1-9、V1-11、V1-13、V1-16、V1-17、V1-18、V1-19、V1-20、V1-22、VL1サブグループに分類されるV2-1、V2-6、V2-7、V2-8、V2-11、V2-13、V2-14、V2-15、V2-17、V2-19、VL3サブグループに分類されるV3-2、V3-3、V3-4、VL4サブグループに分類されるV4-1、V4-2、V4-3、V4-4、V4-6、VL5サブグループに分類されるV5-1、V5-2、V5-4、V5-6等(Kawasakiら(Genome Res. (1997) 7, 250-261))が好適に挙げられる。
通常これらのフレームワーク配列は一またはそれ以上のアミノ酸残基の相違により互いに異なっている。これらのフレームワーク配列は本発明の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用され得る。本発明の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用される完全にヒト型のフレームワークの例としては、これだけに限定されるわけではないが、ほかにもKOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY、POM等が挙げられる(例えば、前記のKabatら (1991)およびWuら(J. Exp. Med. (1970) 132, 211-250))。
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、生殖細胞系の配列の使用がほとんどの個人において有害な免疫反応を排除すると期待されている一つの理由は、以下の通りであると考えられている。通常の免疫反応中に生じる親和性成熟ステップの結果、免疫グロブリンの可変領域に体細胞の突然変異が頻繁に生じる。これらの突然変異は主にその配列が超可変的であるCDRの周辺に生じるが、フレームワーク領域の残基にも影響を及ぼす。これらのフレームワークの突然変異は生殖細胞系の遺伝子には存在せず、また患者の免疫原性になる可能性は少ない。一方、通常のヒトの集団は生殖細胞系の遺伝子によって発現されるフレームワーク配列の大多数にさらされており、免疫寛容の結果、これらの生殖細胞系のフレームワークは患者において免疫原性が低いあるいは非免疫原性であると予想される。免疫寛容の可能性を最大にするため、可変領域をコード化する遺伝子が普通に存在する機能的な生殖細胞系遺伝子の集合から選択され得る。
本発明の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が前記のフレームワーク配列に含まれる抗原結合分子を作製するために部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。
例えば、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:4(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
また、前記のカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域の配列に、当該アミノ酸残基以外の残基として多様なアミノ酸が含まれるように設計することも可能である。本発明においてそのような残基は、フレキシブル残基と指称される。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:4(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
Figure 0006496702
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本明細書においては、フレキシブル残基とは、公知のかつ/または天然抗体または抗原結合ドメインのアミノ酸配列を比較した場合に、その位置で提示されるいくつかの異なるアミノ酸を持つ軽鎖および重鎖可変領域上のアミノ酸が非常に多様である位置に存在するアミノ酸残基のバリエーションをいう。非常に多様である位置は一般的にCDR領域に存在する。一態様では、公知のかつ/または天然抗体の非常に多様な位置を決定する際には、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institute of Health Bethesda Md.) (1987年および1991年)が提供するデータが有効である。また、インターネット上の複数のデータベース(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/、http://www.bioinf.org.uk/abs/index.html)では収集された多数のヒト軽鎖および重鎖の配列とその配置が提供されており、これらの配列とその配置の情報は本発明における非常に多様な位置の決定に有用である。本発明によると、アミノ酸がある位置で好ましくは約2から約20、好ましくは約3から約19、好ましくは約4から約18、好ましくは5から17、好ましくは6から16、好ましくは7から15、好ましくは8から14、好ましくは9から13、好ましくは10から12個の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有する場合は、その位置は非常に多様といえる。いくつかの実施形態では、あるアミノ酸位置は、好ましくは少なくとも約2、好ましくは少なくとも約4、好ましくは少なくとも約6、好ましくは少なくとも約8、好ましくは約10、好ましくは約12の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有し得る。
また、前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:5(Vk1)、配列番号:6(Vk2)、配列番号:7(Vk3)、配列番号:8(Vk4)等の生殖細胞系列の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のEUナンバリングで表される30位、31位、および/または32位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される92位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。また、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフが含まれるように軽鎖CDR1、CDR2および/またはCDR3を設計することも可能である。例えば、上記の目的でカドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインが適宜使用され得る。
前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
また、本発明の非限定な一態様では、ゲノムDNA におけるV 遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J.Mol.Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J.Appl.Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput.Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ.Mol.Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
さらに、本発明の非限定な一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。本発明で記載されるナイーブ配列を含むアミノ酸配列とは、このようなナイーブライブラリから取得されるアミノ酸配列をいう。
本発明の一つの態様では、「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリから、本発明の抗原結合ドメインが取得され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:9(6RL#9-IgG1)または配列番号:10(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。また、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域の代わりに、生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域の中から適宜選択することによって作製され得る。例えば、配列番号:9(6RL#9-IgG1)または配列番号:10(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列と生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域の配列に、フレキシブル残基が含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:9(6RL#9-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3の95位、96位および/または100a位以外のCDR3のアミノ酸残基が挙げられる。または配列番号:10(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3の95位および/または101位以外 のCDR3のアミノ酸残基もまた挙げられる。
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせることによっても、複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、重鎖可変領域の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として重鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。当該アミノ酸残基が重鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、重鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位のアミノ酸が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
前記の、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該重鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。また、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基以外の重鎖可変領域のCDR1、CDR2および/またはCDR3のアミノ酸配列としてランダム化可変領域ライブラリも好適に使用され得る。軽鎖可変領域として生殖細胞系列の配列が用いられる場合には、例えば、配列番号:5(Vk1)、配列番号:6(Vk2)、配列番号:7(Vk3)、配列番号:8(Vk4)等の生殖細胞系列の配列が非限定な例として挙げられ得る。
前記の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸としては、カルシウム結合モチーフを形成する限り、いずれのアミノ酸も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸としては具体的に電子供与性を有するアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸が好適に例示される。
水素イオン濃度の条件
また、本発明の一つの態様では、イオン濃度の条件とは水素イオン濃度の条件またはpHの条件をいう。本発明で、プロトンすなわち水素原子の原子核の濃度の条件は、水素指数(pH)の条件とも同義に取り扱われる。水溶液中の水素イオンの活動量をaH+で表すと、pHは-log10aH+と定義される。水溶液中のイオン強度が(例えば10-3より)低ければ、aH+は水素イオン強度にほぼ等しい。例えば25℃、1気圧における水のイオン積はKw=aH+aOH=10-14であるため、純水ではaH+=aOH=10-7である。この場合のpH=7が中性であり、pHが7より小さい水溶液は酸性、pHが7より大きい水溶液はアルカリ性である。
本発明においては、イオン濃度の条件としてpHの条件が用いられる場合には、pHの条件として高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件が挙げられる。pHの条件によって結合活性が変化するとは、高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)と低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件の違いによって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化することをいう。例えば、pH酸性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、pH中性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH酸性域の条件における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合もまた挙げられる。
本明細書において、pH中性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH6.7からpH10.0の間から選択され得る。また、別の態様では、pH6.7からpH9.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH7.0からpH9.0の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH7.0からpH8.0の間から選択され得る。特に生体内の血漿中(血中)でのpHに近いpH7.4が好適に挙げられる。
本明細書において、pH酸性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH4.0からpH6.5の間から選択され得る。また、別の態様では、pH4.5からpH6.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH5.0からpH6.5の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH5.5からpH6.5の間から選択され得る。特に生体内の早期エンドソーム内でのイオン化カルシウム濃度に近いpH5.8が好適に挙げられる。
本発明において、抗原結合分子の高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件における抗原に対する結合活性より低いとは、抗原結合分子のpH4.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH10.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、抗原結合分子のpH4.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH9.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、より好ましくは、抗原結合分子のpH5.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH9.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。また、好ましくは抗原結合分子のpH5.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH8.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHにおける抗原結合活性が、生体内の血漿中のpHにおける抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子のpH5.8での抗原に対する結合活性が、pH7.4での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
pHの条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。すなわち、当該測定方法に際して異なるpHの条件下での結合活性が測定される。例えば、pH酸性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、pH酸性域およびpH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性が比較される。
さらに本発明において、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合分子の低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合能よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低下させる」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
抗原への結合活性を測定する際の水素イオン濃度またはpH以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。
本発明の抗原結合分子において、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるKDの比であるKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が40以上である。KD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
抗原に対する結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
また、本発明の抗原結合分子の高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるkd(解離速度定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なる水素イオン濃度すなわちpHにおける抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、水素イオン濃度すなわちpH以外の条件は同一とすることが好ましい。
例えば、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体のスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗体の抗原結合活性を得る工程、
(c) pH酸性域の条件における抗原結合活性が、pH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体を選択する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗体もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗体をpH酸性域の条件に置く工程、
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗体を単離する工程。
また、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含む抗原結合ドメインまたは抗体若しくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗体をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(c)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗体をpH酸性域の条件でカラムから溶出する工程、
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗体を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗体をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) pH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗体のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗体を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗体をpH酸性域の条件に置く工程、
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗体を単離する工程。
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得されたpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗体が提供される。(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
本発明のスクリーニング方法において、高水素イオン濃度条件または低pHすなわちpH酸性域における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、pHが4.0〜6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとして、pHが4.5〜6.6の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが5.0〜6.5の間の抗原結合活性、さらにpHが5.5〜6.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の早期エンドソーム内のpHが挙げられ、具体的にはpH5.8における抗原結合活性を挙げることができる。また、低水素イオン濃度条件または高pHすなわちpH中性域における抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、pHが6.7〜10の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとしてpHが6.7〜9.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが7.0〜9.5の間の抗原結合活性、さらにpHが7.0〜8.0の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の血漿中でのpHを挙げることができ、具体的にはpHが7.4における抗原結合活性を挙げることができる。
抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメイン又は抗体の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度定数)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度定数)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore (GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
本発明において、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程は、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメイン又は抗体を選択する工程と同じ意味である。
低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い限り、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性と高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
前記のスクリーニング方法によりスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はいかなる抗原結合ドメイン又は抗体でもよく、例えば上述の抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングすることが可能である。例えば、天然の配列を有する抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングしてもよいし、アミノ酸配列が置換された抗原結合ドメイン又は抗体をスクリーニングしてもよい。
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である。
動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗原結合ドメインまたは抗体から、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗体を取得する方法として、例えば、WO2009/125825で記載されるような抗原結合ドメインまたは抗体中のアミノ酸の少なくとも一つが、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異に置換されているもしくは抗原結合ドメインまたは抗体中に、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入されている抗原結合分子または抗体が好適に挙げられる。
側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異が導入される位置は特に限定されず、置換または挿入前と比較してpH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より弱くなる(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなる、又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなる)限り、如何なる部位でもよい。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどが好適に挙げられる。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸に置換されるアミノ酸の数、又は挿入されるアミノ酸の数は当業者が適宜決定することができ、側鎖のpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である2つ以上の複数のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である2つ以上のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得る。又、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入以外に、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などが同時に行われ得る。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入は、当業者の公知のアラニンscanningのアラニンをヒスチジン等に置き換えたヒスチジン等scanning等の方法によってランダムに行われ得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換または挿入の変異がランダムに導入された抗原結合ドメインまたは抗体の中から、変異前と比較してKD(pH酸性域)/KD(pH中性域)又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなった抗原結合分子が選択され得る。
前記のようにその側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異が行われ、かつpH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい例として、例えば、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異後のpH中性域での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異前のpH中性域での抗原結合活性と同等である抗原結合分子が好適に挙げられる。本発明において、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子と同等の抗原結合活性を有するとは、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子の抗原結合活性を100%とした場合に、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子の抗原結合活性が少なくとも10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることをいう。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後のpH7.4での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前のpH7.4での抗原結合活性より高くなってもよい。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換または挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などによって、抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にされ得る。本発明においては、そのような側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入後に1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を行うことによって結合活性が同等となった抗原結合分子も含まれる。
さらに、抗原結合分子が抗体定常領域を含む物質である場合、pH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい他の態様として、抗原結合分子に含まれる抗体定常領域が改変された方法を挙げることができる。改変後の抗体定常領域の具体例としては、例えば配列番号:11、12、13、または14に記載の定常領域が好適に挙げられる。
水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗体はどのように調製されてもよく、例えば、イオン濃度の条件が水素イオン濃度の条件もしくはpHの条件である場合には、あらかじめ存在している抗体、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入した抗体又はライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である 。
本発明の一つの態様として、「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。
当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のKabatナンバリングで表される24位、27位、28位、31位、32位および/または34位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位、51位、52位、53位、54位、55位および/または56位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される89位、90位、91位、92位、93位、94位および/または95A位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
前記の「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、水素イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表3または表4に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。また、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基やフレキシブル残基以外の軽鎖可変領域のアミノ酸配列としては、非限定な例としてVk1(配列番号:5)、Vk2(配列番号:6)、Vk3(配列番号:7)、Vk4(配列番号:8)等の生殖細胞系列の配列が好適に使用され得る。
Figure 0006496702
(位置はKabatナンバリングを表す)
Figure 0006496702
(位置はKabatナンバリングを表す)
前記の、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基としては、いずれのアミノ酸残基も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸残基としては、具体的に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンまたはグルタミン酸等の天然のアミノ酸のほか、ヒスチジンアナログ(US2009/0035836)もしくはm-NO2-Tyr(pKa 7.45)、3,5-Br2-Tyr(pKa 7.21)または3,5-I2-Tyr(pKa 7.38)等の非天然のアミノ酸(Bioorg. Med. Chem. (2003) 11 (17), 3761-2768が好適に例示される。また、当該アミノ酸残基の特に好適な例としては、側鎖のpKaが6.0-7.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンが好適に例示される。
抗原結合ドメインのアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
また、本発明の非限定な一態様では、前記と同様に、ゲノムDNAにおけるV遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面に露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J. Mol. Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J. Appl. Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput. Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ. Mol. Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
さらに、本発明の非限定な一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。
FcRn
免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFcγレセプターと異なり、ヒトFcRnは構造的には主要組織不適合性複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似しクラスIのMHC分子と22から29%の配列同一性を有する(Ghetieら,Immunol. Today (1997) 18 (12), 592-598)。FcRnは、可溶性βまたは軽鎖(β2マイクログロブリン)と複合体化された膜貫通αまたは重鎖よりなるヘテロダイマーとして発現される。MHCのように、FcRnのα鎖は3つの細胞外ドメイン(α1,α2,α3)よりなり、短い細胞質ドメインはタンパク質を細胞表面に繋留する。α1およびα2ドメインが抗体のFc領域中のFcRn結合ドメインと相互作用する(Raghavanら(Immunity (1994) 1, 303-315)。
FcRnは、哺乳動物の母性胎盤または卵黄嚢で発現され、それは母親から胎児へのIgGの移動に関与する。加えてFcRnが発現するげっ歯類新生児の小腸では、FcRnが摂取された初乳または乳から母性IgGの刷子縁上皮を横切る移動に関与する。FcRnは多数の種にわたって多数の他の組織、並びに種々の内皮細胞系において発現している。それはヒト成人血管内皮、筋肉血管系、および肝臓洞様毛細血管でも発現される。FcRnは、IgGに結合し、それを血清にリサイクルすることによって、IgGの血漿中濃度を維持する役割を演じていると考えられている。FcRnのIgG分子への結合は、通常、厳格にpHに依存的であり、最適結合は7.0未満のpH酸性域において認められる。
配列番号:15で表されたシグナル配列を含むポリペプチドを前駆体とするヒトFcRnは、生体内で(配列番号:16にシグナル配列を含むそのポリペプチドが記載されている)ヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体を形成する。後に参考実施例で示されるように、β2-ミクログロブリンと複合体を形成している可溶型ヒトFcRnが通常の組換え発現手法を用いることによって製造される。このようなβ2-ミクログロブリンと複合体を形成している可溶型ヒトFcRnに対する本発明のFc領域の結合活性が評価され得る。本発明において、特に記載のない場合は、ヒトFcRnは本発明のFc領域に結合し得る形態であるものを指し、例としてヒトFcRnとヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体が挙げられる。
Fc領域
Fc領域は、抗体重鎖の定常領域に由来するアミノ酸配列を含む。Fc領域は、EUナンバリングで表されるおよそ216のアミノ酸における、パパイン切断部位のヒンジ領域のN末端から、当該ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含める抗体の重鎖定常領域の部分である。
本発明により提供されるFc領域のFcRn、特にヒトFcRnに対する結合活性は、前記結合活性の項で述べられているように、当業者に公知の方法により測定することが可能であり、pH以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合分子の抗原結合活性とヒトFcRn結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度)等として評価され得る。これらは当業者公知の方法で測定され得る。例えばBiacore (GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を使用され得る。
本発明のFc領域のヒトFcRnに対する結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、WO2009125825に記載されているようにMESバッファー、37℃の条件において測定され得る。また、本発明のFc領域のヒトFcRnに対する結合活性の測定は当業者公知の方法により行うことが可能であり、例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定され得る。本発明のFc領域とヒトFcRnの結合活性の測定は、Fc領域またはFc領域を含む本発明の抗原結合分子あるいはヒトFcRnを固定化したチップへ、それぞれヒトFcRnあるいはFc領域またはFc領域を含む本発明の抗原結合分子をアナライトとして流すことによって評価され得る。
本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcRnとの結合活性を有する条件としてのpH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。pH中性域とは、好ましくはpH7.0〜pH8.0の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。pH7.4でのヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーが低いためにその結合アフィニティーを評価することが難しい場合には、pH7.4の代わりにpH7.0を用いることができる。本発明において、本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcRnとの結合活性を有する条件としてのpH酸性域とは、通常pH4.0〜pH6.5を意味する。好ましくはpH5.5〜pH6.5を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜pH6.0を意味する。測定条件に使用される温度として、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーは、10℃〜50℃の任意の温度で評価してもよい。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、ヒトFcRn結合ドメインとヒトFcRnとの結合アフィニティーを決定するために使用される。25℃という温度は本発明の態様の非限定な一例である。
The Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671によれば、天然型ヒトIgG1のヒトFcRn結合活性はpH酸性域(pH6.0)でKD 1.7μMであるが、pH中性域では活性をほとんど検出できていない。よって、好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 20μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性が天然型ヒトIgGと同等かそれより強い抗原結合分子を含む、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有する本発明の抗原結合分子がスクリーニングされ得る。より好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 40μMまたはそれより強い抗原結合分子を含む本発明の抗原結合分子がスクリーニングされ得る。さらにより好ましい態様においては、pH酸性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強く、pH中性域におけるヒトFcRn結合活性がKD 15μMまたはそれより強い抗原結合分子を含む本発明の抗原結合分子がスクリーニングされ得る。上記のKD値は、The Journal of Immunology (2009) 182: 7663-7671に記載された方法(抗原結合分子をチップに固定し、アナライトとしてヒトFcRnを流す)によって決定される。
本発明においては、pH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有するFc領域が好ましい。当該ドメインは、あらかじめpH酸性域およびpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有しているFc領域であればそのまま用いられ得る。当該ドメインがpH酸性域および/またはpH中性域においてヒトFcRn結合活性がない若しくは弱い場合には、抗原結合分子中のアミノ酸を改変することによって所望のヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域が取得され得るが、ヒトFc領域中のアミノ酸を改変することによってpH酸性域および/またはpH中性域における所望のヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域も好適に取得され得る。また、あらかじめpH酸性域および/またはpH中性域においてヒトFcRn結合活性を有しているFc領域中のアミノ酸の改変によって、所望のヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域も取得され得る。そのような所望の結合活性をもたらすヒトFc領域のアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH酸性域および/またはpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を比較することによって見出され得る。公知の手法を用いて当業者は適宜アミノ酸の改変を実施することができる。
本発明において、Fc領域の「アミノ酸の改変」または「アミノ酸改変」とは、出発Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列に改変することを含む。出発Fc領域の修飾改変体がpH酸性域においてヒトFcRnに結合することができる限り(ゆえに、出発Fc領域はpH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を必ずしも必要とするわけではない)いずれのFc領域も出発ドメインとして使用され得る。出発Fc領域の例としては、IgG抗体のFc領域、すなわち天然型のFc領域が好適に挙げられる。また、既に改変が加えられたFc領域を出発Fc領域としてさらなる改変が加えられた改変Fc領域も本発明の改変Fc領域として好適に使用され得る。出発Fc領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域を含む組成物、または出発Fc領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域には、抗体の項で概説された組換えによって産生された公知のIgG抗体のFc領域が含まれ得る。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のサブクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%〜100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%〜100%未満、より好ましくは約85%〜100%未満の、より好ましくは約90%〜100%未満、最も好ましくは約95%〜100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定の一態様において、出発Fc領域および本発明の改変されたFc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで得表されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
Fc領域のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法も採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
本発明の抗原結合分子に含まれるpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリング221位〜225位、227位、228位、230位、232位、233位〜241位、243位〜252位、254位〜260位、262位〜272位、274位、276位、278位〜289位、291位〜312位、315位〜320位、324位、325位、327位〜339位、341位、343位、345位、360位、362位、370位、375位〜378位、380位、382位、385位〜387位、389位、396位、414位、416位、423位、424位、426位〜438位、440位および442位の位置のアミノ酸が挙げられる。より具体的には、例えば表5に記載のようなアミノ酸の改変が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が増強される。
本発明に使用するために、これらの改変のうち、pH中性域においてもヒトFcRnに対する結合を増強する改変が適宜選択される。特に好ましいFc領域改変体のアミノ酸として、例えばEUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位および436位のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することによって、抗原結合分子に含まれるFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を増強することができる。
特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、および
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表6に記載されるような組合せが挙げられる。
抗原結合分子
本発明において、抗原結合分子は抗原結合ドメインおよびFc領域を含む分子を表す最も広義な意味として使用されており、具体的には、それらが抗原に対する結合活性を示す限り、様々な分子型が含まれる。例えば、抗原結合ドメインがFc領域と結合した分子の例として、抗体が挙げられる。抗体には、単一のモノクローナル抗体(アゴニストおよびアンタゴニスト抗体を含む)、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体等が含まれ得る。また抗体の断片として使用される場合としては、抗原結合ドメインおよび抗原結合断片(例えば、Fab、F(ab')2、scFvおよびFv)が好適に挙げられ得る。既存の安定なα/βバレルタンパク質構造等の立体構造が scaffold(土台)として用いられ、その一部分の構造のみが抗原結合ドメインの構築のためにライブラリ化されたスキャフォールド分子も、本発明の抗原結合分子に含まれ得る 。
本発明の抗原結合分子は、FcRnに対する結合およびFcγレセプターに対する結合を媒介するFc領域の少なくとも部分を含むことができる。例えば、非限定の一態様において、抗原結合分子は抗体またはFc融合タンパク質であり得る。融合タンパク質とは、天然ではそれが自然に連結しない第二のアミノ酸配列を有するポリペプチドに連結された第一のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含むキメラポリペプチドをいう。例えば、融合タンパク質は、Fc領域の少なくとも部分(例えば、FcRnに対する結合を付与するFc領域の部分やFcγレセプターに対する結合を付与するFc領域の部分)をコードするアミノ酸配列、および、例えばレセプターのリガンド結合ドメインまたはリガンドのレセプター結合ドメインをコードするアミノ酸配列を含む非免疫グロブリンポリペプチド、を含むことができる。アミノ酸配列は、一緒に融合タンパク質に運ばれる別々のタンパク質に存在できるか、あるいはそれらは通常は同一タンパク質に存在できるが、融合ポリペプチド中の新しい再編成に入れられる。融合タンパク質は、例えば、化学合成によって、またはペプチド領域が所望の関係でコードされたポリヌクレオチドを作成し、それを発現する遺伝子組換えの手法によって作製され得る。
本発明の各ドメインはポリペプチド結合によって直接連結され得るし、リンカーを介して連結され得る。リンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering (1996) 9 (3), 299-305)に開示されるリンカー等が使用され得るが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。
例えば、ペプチドリンカーの場合:
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:17)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:18)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:19)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:20)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:21)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:22)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:23)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:24)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:19))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:20))n
[nは1以上の整数である]等が好適に挙げられる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
各ドメインを連結するリンカーが複数用いられる場合には、全て同種のリンカーが用いられ得るし、異種のリンカーも用いられ得る。
また、上記記載で例示されるリンカーのほか、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。また、水素結合、ジスルフィド結合、共有結合、イオン性相互作用またはこれらの結合の組合せにより互いに結合する性質もまた好適に利用され得る。例えば、抗体のCH1とCL間の親和性が利用されたり、ヘテロFc領域の会合に際して前述の二重特異性抗体を起源とするFc領域が用いられたりする。さらに、ドメイン間に形成されるジスルフィド結合もまた好適に利用され得る。
各ドメインをペプチド結合で連結するために、当該ドメインをコードするポリヌクレオチドがインフレームで連結される。ポリヌクレオチドをインフレームで連結する方法としては、制限断片のライゲーションやフュージョンPCR、オーバーラップPCR等の手法が公知であり、本発明の抗原結合分子の作製にも適宜これらの方法が単独または組合せで使用され得る。本発明では、用語「連結され」、「融合され」、「連結」または「融合」は相互交換的に用いられる。これらの用語は、上記の化学結合手段または組換え手法を含めた全ての手段によって、二以上のポリペプチド等のエレメントまたは成分を一つの構造を形成するように連結することをいう。インフレームで融合するとは、二以上のエレメントまたは成分がポリペプチドである場合に、当該ポリペプチドのの正しい読み取り枠を維持するように連続したより長い読み取り枠を形成するための二以上の読取り枠の単位の連結をいう。二分子のFabが抗原結合ドメインとして用いられた場合、当該抗原結合ドメインとFc領域がリンカーを介することなくペプチド結合によってインフレームで連結された本発明の抗原結合分子である抗体は、本願の好適な抗原結合分子として使用され得る。
Fcγレセプター
Fcγレセプター(FcγRとも記載される)とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得るレセプターをいい、実質的にFcγレセプター遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルを含むが、これらに限定されるものではない、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(FcγRIV、CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうしたFcγレセプターの好適な例としてはヒトFcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、FcγRIIb(CD32)、FcγRIIIa(CD16)及び/又はFcγRIIIb(CD16)が挙げられる。ヒトFcγRIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:25(NM_000566.3)及び26(NP_000557.1)に、ヒトFcγRIIa(アロタイプH131)のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:27(BC020823.1)及び28(AAH20823.1)に(アロタイプR131は配列番号:28の166番目のアミノ酸がArgに置換されている配列である)、FcγRIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:29(BC146678.1)及び30(AAI46679.1)に、FcγRIIIaのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:31(BC033678.1)及び32(AAH33678.1)に、及びFcγRIIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:33(BC128562.1)及び34(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。例えば参考実施例27等でアロタイプV158が用いられている場合にFcγRIIIaVと表記されているように、特記されないかぎり、アロタイプF158が用いられているが、本願で記載されるアイソフォームFcγRIIIaのアロタイプが特に限定して解釈されるものではない。 Fcγレセプターが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合活性を有するか否かは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認され得る(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
また、「Fcリガンド」または「エフェクターリガンド」は、抗体のFc領域に結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する、任意の生物に由来する分子、好ましくはポリペプチドを意味する。FcリガンドのFcへの結合は、好ましくは、1つまたはそれ以上のエフェクター機能を誘起する。Fcリガンドには、Fc受容体、FcγR、FcαR、FcεR、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカスのプロテインA、スタフィロコッカスのタンパク質GおよびウイルスのFcγRが含まれるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、FcγRに相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体相同体(FcRH)(Davis et al.,(2002)Immunological Reviews 190, 123-136)も含まれる。Fcリガンドには、Fcに結合する未発見の分子も含まれ得る。
FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)は、IgGのFc部分と結合するα鎖と細胞内に活性化シグナルを伝達するITAMを有する共通γ鎖が会合する。一方、アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)の自身の細胞質ドメインにはITAMが含まれている。これらのレセプターは、マクロファージやマスト細胞、抗原提示細胞等の多くの免疫細胞に発現している。これらのレセプターがIgGのFc部分に結合することによって伝達される活性化シグナルによって、マクロファージの貪食能や炎症性サイトカインの産生、マスト細胞の脱顆粒、抗原提示細胞の機能亢進が促進される。上記のように活性化シグナルを伝達する能力を有するFcγレセプターは、本発明においても活性型Fcγレセプターと呼ばれる。
一方、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)の自身の細胞質内ドメインには抑制型シグナルを伝達するITIMが含まれている。B細胞ではFcγRIIbとB細胞レセプター(BCR)との架橋によってBCRからの活性化シグナルが抑制される結果BCRの抗体産生が抑制される。マクロファージでは、FcγRIIIとFcγRIIbとの架橋によって貪食能や炎症性サイトカインの産生能が抑制される。上記のように抑制化シグナルを伝達する能力を有するFcγレセプターは、本発明においても抑制型Fcγレセプターと呼ばれる。
ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルを検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。
例えば、ドナービーズにビオチン標識されたFc領域を含む抗原結合分子が結合され、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたFcγレセプターが結合される。競合するFc領域改変体を含む抗原結合分子の非存在下では、野生型Fc領域を有するポリペプチド会合体とFcγレセプターは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていないFc領域改変体を含む抗原結合分子は、天然型Fc領域を有する抗原結合分子とFcγレセプター間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合親和性が決定され得る。抗体等の抗原結合分子をSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。FcγレセプターをGSTでタグ化する方法としては、FcγレセプターをコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子が作用可能に連結されたベクターに保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウエアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。
相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比からアフィニティー(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。
二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターの四者を含むヘテロ複合体
FcRnとIgG抗体との結晶学的研究によって、FcRn-IgG複合体は、二分子のFcRnに対して一分子のIgGから構成され、IgGのFc領域の両側に位置するCH2およびCH3ドメインの接触面付近において、二分子の結合が起こると考えられている(Burmeisterら(Nature (1994) 372, 336-343)。一方、後述する実施例3において確認されたように、抗体のFc領域が二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターの四者を含む複合体を形成できることが明らかとなった(図48)。このヘテロ複合体の形成は、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子の性質について解析を進めた結果明らかとなった現象である。
本発明は特定の原理に拘束されるわけではないが、抗原結合分子に含まれるFc領域と二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターの四者を含むヘテロ複合体の形成によって、抗原結合分子が生体内に投与されたときの抗原結合分子の当該生体内における薬物動態(血漿中滞留性)、および、投与された抗原結合分子に対する免疫応答(免疫原性)に対して以下のような影響がもたらされることも考えられる。先述のとおり、免疫細胞上には各種活性型Fcγレセプターに加えFcRnが発現しており、抗原結合分子が免疫細胞上でこのような四者複合体を形成することは、免疫細胞に対する親和性を向上させ、さらに細胞内ドメインを会合化させることにより内在化シグナルを増強させ、免疫細胞への取り込みが促進されることが示唆される。抗原提示細胞においても同様であり、抗原提示細胞の細胞膜上で四者複合体を形成することにより、抗原結合分子が抗原提示細胞へ取り込まれやすくなる可能性が示唆される。一般的に、抗原提示細胞に取り込まれた抗原結合分子は、抗原提示細胞内のリソソームにおいて分解され、T細胞へと提示される。結果として、抗原提示細胞の細胞膜上で上記の四者複合体を形成することにより、抗原結合分子に対する抗原提示細胞への取り込みが促進されことによって抗原結合分子の血漿中滞留性が悪化する可能性もある。また、同様にして、免疫応答が誘起される(増悪する)可能性がある。
そのため、このような四者複合体を形成する能力が低下した抗原結合分子が生体に投与された場合、当該抗原結合分子の血漿中滞留性が向上し、当該生体による免疫応答の誘起が抑制されると考えられ得る。このような抗原提示細胞を含む免疫細胞上における当該複合体の形成を阻害する抗原結合分子の好ましい様態として、以下の三種類が挙げられ得る。
(様態1) pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域を含む抗原結合分子
様態1の抗原結合分子は、二分子のFcRnに結合することによって三者複合体を形成するが、活性型FcγRを含めた複合体は形成しない(図49)活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域は、前記のように天然型Fc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。改変Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性が、天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いか否かは、前記の結合活性の項で記載された方法を用いて適宜実施され得る。
活性型Fcγレセプターとしては、FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)、FcγRIIa(アロタイプR131およびH131を含む)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)が好適に挙げられる。
本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcγレセプターとの結合活性を測定するpHの条件はpH酸性域またはpH中性域の条件が適宜使用され得る。本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcγレセプターとの結合活性を測定する条件としてのpH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。好ましくはpH7.0〜pH8.0の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。本発明において、本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域とFcγレセプターとの結合活性を有する条件としてのpH酸性域とは、通常pH4.0〜pH6.5を意味する。好ましくはpH5.5〜pH6.5を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜pH6.0を意味する。測定条件に使用される温度として、Fc領域とヒトFcγレセプターとの結合アフィニティーは、10℃〜50℃の任意の温度で評価され得る。好ましくは、ヒトFc領域とFcγレセプターとの結合アフィニティーを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、Fc領域とFcγレセプターとの結合アフィニティーを決定するために使用される。25℃という温度は本発明の態様の非限定な一例である。
本明細書において、Fc領域改変体の活性型Fcγレセプターに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも低いとは、Fc領域改変体のFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性が、これらのヒトFcγレセプターに対する天然型Fc領域の結合活性よりも低いことをいう。例えば、上記の解析方法にもとづいて、対照とする天然型Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性に比較してFc領域改変体を含む抗原結合分子の結合活性が、95%以下、好ましくは90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、特に好ましくは70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の結合活性を示すことをいう。天然型Fc領域としては、出発Fc領域も使用され得るし、野生型抗体の異なるアイソタイプのFc領域も使用され得る。
また、天然型の活性型FcγRに対する結合活性とは、ヒトIgG1のFcγレセプターに対する結合活性であることが好ましく、Fcγレセプターに対する結合活性を低減させるには上記改変以外にも、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4にアイソタイプを変更することでも達成し得る。また、Fcγレセプターに対する結合活性を低下させるのは上記改変以外にも、Fcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子を大腸菌等の糖鎖を付加しない宿主で発現させることによっても得ることができる。
対照とするFc領域を含む抗原結合分子としては、IgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:1(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、2(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、3(RefSeq登録番号CAA27268.1)、4(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域を含む抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該Fc領域を含む抗原結合分子によるFcγレセプターに対する結合活性の効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
本発明の非限定の一態様では、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域の例として、
前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される234、235、236、237、238、239、270、297、298、325、328、および329のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられるが、Fc領域の改変は上記改変に限定されず、例えばCurrent Opinion in Biotechnology (2009) 20 (6), 685-691に記載されている脱糖鎖 (N297A, N297Q)、IgG1-L234A/L235A、IgG1-A325A/A330S/P331S、IgG1-C226S/C229S、IgG1-C226S/C229S/E233P/L234V/L235A、IgG1-L234F/L235E/P331S、IgG1-S267E/L328F、IgG2-V234A/G237A、IgG2-H268Q/V309L/A330S/A331S、IgG4-L235A/G237A/E318A、IgG4-L236E等の改変、および、WO 2008/092117に記載されているG236R/L328R、L235G/G236R、N325A/L328R、N325LL328R等の改変、および、EUナンバリング233位、234位、235位、237位におけるアミノ酸の挿入、WO 2000/042072に記載されている個所の改変であってもよい。
また本発明の非限定の一態様では、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
234位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、ThrまたはTrpのいずれか、
235位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸をArg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、ProまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、TyrまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸をAla、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、TrpまたはArgのいずれか、
239位のアミノ酸をGln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、TyrまたはArgのいずれか、
265位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
266位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
267位のアミノ酸をArg、His、Lys、Phe、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
269位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
270位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
271位のアミノ酸をArg、His、Phe、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸をArg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸をArg、Gly、LysまたはProのいずれか、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をArg、Gly、Lys、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
324位のアミノ酸をLysまたはProのいずれか、
325位のアミノ酸をAla、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、TrpTyr、もしくはValのいずれか、
327位のアミノ酸をArg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
328位のアミノ酸をArg、Asn、Gly、His、LysまたはProのいずれか、
329位のアミノ酸をAsn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、ValまたはArgのいずれか、
330位のアミノ酸をProまたはSerのいずれか、
331位のアミノ酸をArg、GlyまたはLysのいずれか、もしくは
332位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
(様態2) pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、抑制型FcγRに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いFc領域を含む抗原結合分子
様態2の抗原結合分子は、二分子のFcRnと一分子の抑制型FcγRに結合することによってこれら四者を含む複合体を形成し得る。しかしながら、一分子の抗原結合分子は一分子のFcγRとしか結合できないため、一分子の抗原結合分子は抑制型FcγRに結合した状態で他の活性型FcγRに結合することはできない(図50)。さらに、抑制型FcγRに結合した状態で細胞内へと取り込まれた抗原結合分子は、細胞膜上へとリサイクルされ、細胞内での分解を回避することが報告されている(Immunity (2005) 23, 503-514)。すなわち、抑制型FcγRに対する選択的結合活性を有する抗原結合分子は、免疫応答の原因となる活性型FcγRおよび二分子のFcRnを含めたヘテロ複合体を形成することができないと考えられる。
活性型Fcγレセプターとしては、FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)、FcγRIIa(アロタイプR131およびH131を含む)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)が好適に挙げられる。また、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)が抑制型Fcγレセプターの好適な例として挙げられる。
本明細書において、抑制型FcγRに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いとは、Fc領域改変体のFcγRIIbに対する結合活性が、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性よりも高いことをいう。例えば、上記の解析方法にもとづいて、Fc領域改変体を含む抗原結合分子のFcγRIIbに対する結合活性が、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性の、105%以上、好ましくは110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、特に好ましくは150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%%以上、250%以上、300%以上、350%以上、400%以上、450%以上、500%以上、750%以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上の結合活性を示すことをいう
FcγRIIbに対する結合活性が、FcγRIa、FcγRIIa(アロタイプR131およびH131を含む)およびFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)よりもすべて高いことがもっとも好ましい。FcγRIa は天然型IgG1に対するアフィニティが極めて高いことから、生体内においては大量の内因性IgG1によって結合が飽和されていると考えられるため、FcγRIIbに対する結合活性はFcγRIIaおよびFcγRIIIaよりも高く、FcγRIaよりは低くても当該複合体の形成阻害は可能であると考えられる。
対照とするFc領域を含む抗原結合分子としては、IgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:11(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、12(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、13(RefSeq登録番号CAA27268.1)、14(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域を含む抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該Fc領域を含む抗原結合分子によるFcγレセプターに対する結合活性の効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
本発明の非限定の一態様では、抑制型FcγRに対する選択的な結合活性を有するFc領域の例として、前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される238または328のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられる。また、抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有するFc領域として、US 2009/0136485に記載されているFc領域あるいは改変も適宜選択することができる。
また本発明の非限定の一態様では、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であってEUナンバリングで表される238のアミノ酸がAsp、または328のアミノ酸がGluのいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
さらに本発明の非限定の一態様では、EUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換、およびEUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がPhe、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がVal、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGly、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される239位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がLys、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がArg、EUナンバリングで表される233位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がSer、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がThr、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がIle、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される296位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がMet、のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
(様態3) Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合能活性を有しないFc領域を含む抗原結合分子
様態3の抗原結合分子は、一分子のFcRnと一分子のFcγRに結合することによって三者複合体を形成しうるが、二分子のFcRnと一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体は形成しない(図51)。本様態3の抗原結合分子に含まれる、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方のポリペプチドがpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合能活性を有しないFc領域として、二重特異性抗体(bispecific抗体)を起源とするFc領域も適宜使用され得る。二重特異性抗体とは、異なる抗原に対して特異性を有する二種類の抗体である。IgG型の二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが可能である(Milsteinら(Nature (1983) 305, 537-540)。
上記の様態3の抗原結合分子を前記の抗体の項で記載されたような組換え手法を用いて製造する場合、目的の二種のFc領域を構成するポリペプチドをコードする遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させる方法が採用され得る。しかしながら、製造されるFc領域は、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方のポリペプチドがpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合能活性を有しないFc領域と、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの双方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するFc領域と、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの双方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しないFc領域が、2:1:1の分子数の割合で存在する混合物となる。3種類のIgGから目的の組合せのFc領域を含む抗原結合分子を精製することは困難である。
こうした組換え手法を用いて様態3の抗原結合分子を製造する際に、Fc領域を構成するCH3ドメインに適当なアミノ酸置換の改変を加えることによってヘテロな組合せのFc領域を含む抗原結合分子が優先的に分泌され得る。具体的には、一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob(「突起」の意))に置換し、もう一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole(「空隙」の意))に置換することによって、突起が空隙内に配置され得るようにして異種H鎖形成の促進および同種H鎖形成の阻害を引き起こす方法である(WO1996027011、Ridgwayら(Protein Engineering (1996) 9, 617-621)、Merchantら(Nat. Biotech. (1998) 16, 677-681))。
また、ポリペプチドの会合、またはポリペプチドによって構成される異種多量体の会合の制御方法を、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの会合に利用することによって二重特異性抗体を作製する技術も知られている。即ち、Fc領域を構成する二つのポリペプチド内の界面を形成するアミノ酸残基を改変することによって、同一配列を有するFc領域を構成するポリペプチドの会合が阻害され、配列の異なる二つのFc領域を構成するポリペプチド会合体が形成されるように制御する方法が二重特異性抗体の作製に採用され得る(WO2006/106905)。このような方法も本発明の様態3の抗原結合分子を製造する際に、採用され得る。
本発明の非限定な一態様におけるFc領域としては、上記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を構成する二つのポリペプチドが適宜使用され得る。より具体的には、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される349のアミノ酸がCys、366のアミノ酸がTrpであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がCys、366のアミノ酸がSerに、368のアミノ酸がAlaに、407のアミノ酸がValであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
そのほかの本発明の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAspであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。上記態様では、409のアミノ酸はAspに代えてGlu、399のアミノ酸はLysに代えてArgでもあり得る。また、399のアミノ酸のLysに加えて360のアミノ酸としてAsp又は392のアミノ酸としてAspも好適に追加され得る。
本発明の別の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
本発明のさらに別の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
本発明の別の非限定な一態様におけるFc領域としては、これらが組み合わされた以下の態様のいずれか;
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、370のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370のアミノ酸のGluに代えてAspであってもよく、EUナンバリングで表される370のアミノ酸のGluに代えて392のアミノ酸のAspであってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される439のアミノ酸のGluに代えて360のアミノ酸のAsp、EUナンバリングで表される392のアミノ酸のAsp又は439のアミノ酸のAspであってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGlu、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド、または、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、370のアミノ酸がGlu、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370のアミノ酸をGluに置換しなくてもよく、更に、370のアミノ酸をGluに置換しない上で、439のアミノ酸のGluに代えてAsp又は439のアミノ酸のGluに代えて392のアミノ酸のAspであってもよい)、
が好適に用いられる。
さらに、本発明の別の非限定な一態様において、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がLysであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される435のアミノ酸がArg、439のアミノ酸がGluであることを特徴とする二つのポリペプチドも好適に用いられる。
さらに、本発明の別の非限定な一態様において、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLysであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGlu、435のアミノ酸がArg、439のアミノ酸がGluであることを特徴とする二つのポリペプチドも好適に用いられる。
これら様態1〜3の抗原結合分子は、四者複合体を形成しうる抗原結合分子に比較して、いずれも免疫原性を低下させ、また血漿中滞留性を向上させることが可能であると期待される。
免疫応答の低減(免疫原性の改善)
本発明の抗原結合分子に対する免疫応答が改変されたか否かは、抗原結合分子を有効成分として含む医薬組成物が投与された生体の応答反応を測定することによって評価され得る。生体の応答反応としては、主として細胞性免疫(MHCクラスIに結合した抗原結合分子のペプチド断片を認識する細胞障害性T細胞の誘導)と液性免疫(抗原結合分子に結合する抗体産生の誘導)の二つの免疫応答が挙げられるが、特にタンパク質医薬品の場合は、投与された抗原結合分子に対する抗体産生が免疫原性と呼ばれる。免疫原性を評価する方法としては、in vivoで抗体産生を評価する方法と、in vitroで免疫細胞の反応を評価する方法の2種類がある。
抗原結合分子を生体に投与した際の抗体価を測定することによって、in vivoにおける免疫応答(免疫原性)を評価することが可能である。例えば、マウスにAとBの抗原結合分子を投与した際の抗体価を測定して、Aの抗原結合分子のほうがBよりも抗体価が高かった場合、あるいは、複数のマウスに投与した際、Aの抗原結合分子を投与したほうが抗体価が上昇する個体の出現率が高かった場合、AのほうがBより免疫原性が高いと判断される。抗体価の測定法は、当業者公知のELISA、ECL、SPRを用いた投与分子に対して特異的に結合する分子の測定方法を用いることで実施可能である(J. Pharm. Biomed. Anal. (2011) 55 (5), 878-888)。
抗原結合分子に対する生体の免疫応答(免疫原性)をin vitroで評価する方法としては、ドナーから単離したヒト末梢血単核球細胞(あるいはその分画細胞)と抗原結合分子をin vitroで反応させ、反応あるいは増殖するヘルパーT細胞等の細胞数や割合あるいは産生されるサイトカインの量を測定する方法がある(Clin. Immunol. (2010) 137 (1), 5-14、Drugs R D. (2008) 9 (6), 385-396)。例えば、このようなin vitro免疫原性の試験により、AとBの抗原結合分子を評価した際、Aの抗原結合分子のほうがBよりも反応が高かった場合、あるいは、複数のドナーで評価した際、Aの抗原結合分子のほうが反応の陽性率が高かった場合、AのほうがBよりも免疫原性が高いと判断される。
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、pH中性域におけるFcRnの結合活性を有する抗原結合分子は、抗原提示細胞の細胞膜上で二分子のFcRnおよび一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体を形成することが可能なため、抗原提示細胞への取り込みが促進されているため、免疫応答が誘導されやすくなっていると考えられる。FcγRとFcRnの細胞内ドメインにはリン酸化部位が存在する。一般に細胞表面に発現しているレセプターの細胞内ドメインのリン酸化は、レセプターが会合化することによって起こり、そのリン酸化によりレセプターの内在化が起こる。天然型IgG1が抗原提示細胞上においてFcγR/IgG1の二者複合体を形成しても、FcγRの細胞内ドメインの会合化は起こらないが、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するIgG分子が、仮にFcγR/二分子のFcRn/IgGの四者を含む複合体を形成した場合、FcγRとFcRnの3つの細胞内ドメインの会合化が起こるため、それによりFcγR/二分子のFcRn/IgGの四者を含むヘテロ複合体の内在化が誘導される可能性が考えられる。FcγR/二分子のFcRn/IgGの四者を含むヘテロ複合体の形成は、FcγRとFcRnを共に発現する抗原提示細胞上で起こると考えられ、それにより抗体分子が抗原提示細胞に取り込まれる量が増大し、結果として免疫原性が悪化する可能性が考えられる。本発明で見出された様態1、2、3のいずれかの方法により、抗原提示細胞上における前記の複合体の形成を阻害することで、抗原提示細胞への取込みを低減させ、結果として免疫原性が改善する可能性が考えられる。
薬物動態の改善
本発明は特定の理論により拘束されるものではないが、例えば、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低いように、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメイン、およびpH中性域の条件下でヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子が生体に投与されたときに生体中の細胞への取込みが促進されることによって、一分子の抗原結合分子が結合可能な抗原の数が増加する理由、および、血漿中抗原濃度の消失が促進される理由はたとえば以下のように説明することが可能である。
例えば、抗原結合分子が膜抗原に結合する抗体が生体内に投与された場合、当該抗体は抗原に結合した後、抗原に結合したまま抗原と一緒にインターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれる。その後、抗原に結合したままライソソームへ移行した抗体は、抗原とともにライソソームによって分解される。インターナライゼーションを介した血漿中からの消失は抗原依存的な消失と呼ばれており、多くの抗体分子で報告されている(Drug Discov Today (2006) 11(1-2), 81-88)。一分子のIgG抗体がニ価で抗原に結合した場合、一分子の抗体がニ分子の抗原に結合した状態でインターナライズされ、そのままライソソームで分解される。従って、通常の抗体の場合、一分子のIgG抗体が三分子以上の抗原に結合することは出来ない。例えば、中和活性を有する一分子のIgG抗体の場合、三分子以上の抗原を中和することはできない。
IgG分子の血漿中滞留性が比較的長い(消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージ受容体として知られているヒトFcRnが機能しているためである。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているヒトFcRnに結合する。ヒトFcRnに結合できなかったIgG分子はその後移行するライソソーム内で分解される。一方、ヒトFcRnに結合したIgG分子は細胞表面へ移行する。血漿中の中性条件下においてIgG分子はヒトFcRnから解離するため、当該IgG分子は再び血漿中にリサイクルされる。
また抗原結合分子が可溶型抗原に結合する抗体の場合、生体内に投与された抗体は抗原に結合し、その後、抗体は抗原に結合したまま細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれた抗体の多くはエンドソーム内でFcRnに結合した後に細胞表面に移行する。血漿中の中性条件下において抗体はヒトFcRnから解離するため、細胞外に放出される。しかし、pH等のイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化しない通常の抗原結合ドメインを含む抗体は抗原と結合したまま細胞外に放出される為、再度、抗原に結合することはできない。従って、膜抗原に結合する抗体と同様、pH等のイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化しない通常の一分子のIgG抗体は三分子以上の抗原に結合することはできない。
抗原に対して血漿中のpH中性域の条件下においては強く結合し、エンドソーム内のpH酸性域の条件下において抗原から解離するpH依存的に抗原に対して結合する抗体(抗原に対してpH中性域の条件下で結合し、pH酸性域の条件下で解離する抗体)や抗原に対して血漿中の高カルシウムイオン濃度の条件下においては強く結合し、エンドソーム内の低カルシウムイオン濃度の条件下において抗原から解離するカルシウムイオン濃度依存的に抗原に対して結合する抗体(抗原に対して高カルシウムイオン濃度の条件下で結合し、低カルシウムイオン濃度の条件下で解離する抗体)はエンドソーム内で抗原から解離することが可能である。pH依存的に抗原に対して結合する抗体やカルシウムイオン濃度依存的に抗原に対して結合する抗体は、抗原を解離した後にFcRnによって血漿中にリサイクルされると、再び抗原に結合することが可能である。そのため一分子の抗体が複数の抗原分子に繰り返し結合することが可能となる。また、抗原結合分子に結合した抗原はエンドソーム内で抗体から解離することによって血漿中にリサイクルされずライソソーム内で分解される。こうした抗原結合分子を生体に投与することによって、抗原の細胞内への取込みが促進され、血漿中の抗原濃度を低下させることが可能となる。
抗原に対して血漿中のpH中性域の条件下においては強く結合し、エンドソーム内のpH酸性域の条件下において抗原から解離するpH依存的に抗原に対して結合する抗体(抗原に対してpH中性域の条件下で結合し、pH酸性域の条件下で解離する抗体)や抗原に対して血漿中の高カルシウムイオン濃度の条件下においては強く結合し、エンドソーム内の低カルシウムイオン濃度の条件下において抗原から解離するカルシウムイオン濃度依存的に抗原に対して結合する抗体(抗原に対して高カルシウムイオン濃度の条件下で結合し、低カルシウムイオン濃度の条件下で解離する抗体)に、pH中性域の条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合能を付与することで、抗原結合分子が結合する抗原の細胞内への取込みがさらに促進される。すなわち、こうした抗原結合分子の生体への投与によって抗原の消失が促進され、血漿中の抗原濃度を低下させることが可能となる。pH依存的な抗原に対する結合能、またはカルシウムイオン濃度依存的な抗原に対する結合能を有しない通常の抗体およびその抗体−抗原複合体は、非特異的なエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれ、エンドソーム内の酸性条件下でFcRnに結合することで細胞表面に輸送され、細胞表面の中性条件下でFcRnから解離することによって血漿中にリサイクルされる。そのため、十分にpH依存的に抗原に対して結合する(pH中性域の条件下で結合し、pH酸性域の条件下で解離する)、または十分にカルシウムイオン濃度依存的に抗原に対して結合する(高カルシウムイオン濃度の条件下で結合し、低カルシウムイオン濃度の条件下で解離する)抗体が血漿中で抗原に結合し、エンドソーム内において結合している抗原を解離する場合、抗原の消失速度は非特異的なエンドサイトーシスによる抗体およびその抗体−抗原複合体の細胞への取込み速度と等しくなると考えられる。抗体と抗原間の結合のpH依存性またはカルシウムイオン濃度依存性が不十分な場合は、エンドソーム内において抗体から解離しない抗原も抗体とともに血漿中にリサイクルされてしまうが、pH依存性またはカルシウム濃度依存性が十分な場合は、抗原の消失速度は非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取込み速度が律速となる。また、FcRnは抗体をエンドソーム内から細胞表面に輸送するため、FcRnの一部は細胞表面にも存在していると考えられる。
通常、抗原結合分子の一態様であるIgG型免疫グロブリンはpH中性域におけるFcRnに対する結合活性をほとんど有しない。本発明者らは、pH中性域においてFcRnに対する結合活性を有するIgG型免疫グロブリンは、細胞表面に存在するFcRnに結合することが可能であり、細胞表面に存在するFcRnに結合することによって当該IgG型免疫グロブリンがFcRn依存的に細胞に取り込まれると考えた。FcRnを介した細胞への取り込み速度は、非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取り込み速度よりも早い。そのため、pH中性域においてFcRnに対する結合能を付与することによって、抗原結合分子による抗原の消失速度をさらに速めることが可能であると考えた。すなわち、pH中性域においてFcRnに対する結合能を有する抗原結合分子は、天然型IgG型免疫グロブリンよりも速やかに抗原を細胞内に送り込み、エンドソーム内で抗原を解離し、再び細胞表面ないしは血漿中にリサイクルされ、そこで再び抗原に結合し、またFcRnを介して細胞内に取り込まれる。pH中性域においてFcRnに対する結合能を高くすることによって、このサイクルの回転速度を速くすることが可能となるため、血漿中から抗原を消失させる速度が速くなる。更に抗原結合分子のpH酸性域における抗原に対する結合活性をpH中性域における抗原に対する結合活性より低下させることによって、更に血漿中から抗原を消失させる速度を高めることが可能である。またこのサイクルの回転速度を早くする結果生じるそのサイクルの数の増大によって、一分子の抗原結合分子が結合可能な抗原の分子数も多くなると考えられる。本発明の抗原結合分子は、抗原結合ドメインとFcRn結合ドメインからなり、FcRn結合ドメインは抗原に対する結合に影響を与えることはないため、また、上述のメカニズムから考えても、抗原の種類に依存することがなく、抗原結合分子のpH酸性域または低カルシウムイオン濃度の条件等のイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性(結合能)をpH中性域または高カルシウムイオン濃度の条件等のイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性(結合能)より低下させ、および/または、血漿中でのpHにおけるFcRnへの結合活性を増大させることによって、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込みを促進させ、抗原の消失速度を速くすることが可能であると考えられる。
本発明において、抗原結合分子による「抗原の細胞内への取込み」とは、抗原がエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれることを意味する。また本発明において「細胞内への取込を促進する」とは、血漿中において抗原と結合した抗原結合分子が細胞内に取り込まれる速度が促進され、および/または、取り込まれた抗原が血漿中にリサイクルされる量が減少することを意味する。この場合においてpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子、あるいは、当該ヒトFcRnに対する結合活性を有するとともにpH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域における抗原に対する結合活性より低い抗原結合分子が、それぞれpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有しない抗原結合分子、あるいは、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域における抗原に対する結合活性より低い抗原結合分子よりも細胞内への取込速度が促進されていればよい。別の一態様では、本発明の抗原結合分子は、天然型のヒトIgGより細胞内への取込速度が促進されていることが好ましく、特に天然型のヒトIgGよりも促進されていることが好ましい。したがって、本発明において、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込みが促進されたかどうかは、抗原の細胞内への取込速度が増大したかどうかで判断することが可能である。抗原の細胞内への取込速度は、例えば、ヒトFcRn発現細胞を含む培養液に抗原結合分子と抗原を添加し、抗原の培養液中濃度の減少を経時的に測定すること、あるいは、ヒトFcRnを発現する細胞内に取り込まれた抗原の量を経時的に測定すること、により算出され得る。本発明の抗原結合分子の抗原の細胞内への取込速度を促進させる方法を利用することによって、例えば抗原結合分子を投与することによって、血漿中の抗原の消失速度を促進させることができる。したがって、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込みが促進されたかどうかは、例えば、血漿中に存在する抗原の消失速度が加速されているかどうか、あるいは、抗原結合分子の投与によって血漿中の総抗原濃度が低減されているかどうか、を測定することによっても確認することができる。
本発明において、「天然型のヒトIgG」とは、非修飾ヒトIgGを意味し、IgGの特定のサブクラスに限定されない。これは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4が、pH酸性域においてヒトFcRnに結合することができる限り、「天然型のヒトIgG」として用いられうることを意味する。好ましくは、「天然型のヒトIgG」はヒトIgG1であり得る。
本発明において、「血漿中抗原消失能」とは、抗原結合分子が生体内に投与された、あるいは、抗原結合分子の生体内への分泌が生じた際に、血漿中に存在する抗原を血漿中から消失させる能力のことをいう。従って、本発明において、「抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加する」とは、抗原結合分子を投与した際に、抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRn結合活性を増大させる、あるいは、当該ヒトFcRnへの結合活性の増大に加えてpH酸性域における抗原に対する結合活性をpH中性域における抗原に対する結合活性より低下させる前と比較して、血漿中から抗原が消失する速さが速くなっていればよい。抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したか否かは、例えば、可溶型抗原と抗原結合分子とを生体内に投与し、投与後の可溶型抗原の血漿中濃度を測定することにより判断することが可能である。抗原結合分子のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を増大させる、あるいは、当該ヒトFcRnに対する結合活性の増大に加えてpH酸性域における抗原に対する結合活性をpH中性域における抗原に対する結合活性より低下させることにより、可溶型抗原および抗原結合分子の投与後の血漿中の可溶型抗原の濃度が低下している場合には、抗原結合分子の血漿中抗原消失能が増加したと判断することができる。可溶型抗原は、抗原結合分子結合抗原であっても、または抗原結合分子非結合抗原であってもよく、その濃度はそれぞれ「血漿中抗原結合分子結合抗原濃度」および「血漿中抗原結合分子非結合抗原濃度」として決定することができる(後者は「血漿中遊離抗原濃度」と同義である)。「血漿中総抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」を意味することから、可溶型抗原濃度は「血漿中総抗原濃度」として決定することができる。「血漿中総抗原濃度」または「血漿中遊離抗原濃度」を測定する様々な方法が、本明細書において以下に記載するように当技術分野において周知である。
本発明において、「薬物動態の向上」、「薬物動態の改善」、および「優れた薬物動態」は、「血漿中(血中)滞留性の向上」、「血漿中(血中)滞留性の改善」、「優れた血漿中(血中)滞留性」、「血漿中(血中)滞留性を長くする」と言い換えることが可能であり、これらの語句は同じ意味で使用される。
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子がヒト、またはマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌなどの非ヒト動物に投与されてから、血漿中から消失するまで(例えば、細胞内で分解される等して抗原結合分子が血漿中に戻ることが不可能な状態になるまで)の時間が長くなることのみならず、抗原結合分子が投与されてから分解されて消失するまでの間に抗原に結合可能な状態(例えば、抗原結合分子が抗原に結合していない状態)で血漿中に滞留する時間が長くなることも含む。天然型Fc領域を有するヒトIgGは、非ヒト動物由来のFcRnに結合することができる。例えば、天然型Fc領域を有するヒトIgGはヒトFcRnよりマウスFcRnに強く結合することができることから(Int. Immunol. (2001) 13 (12), 1551-1559)、本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、好ましくはマウスを用いて投与を行うことができる。別の例として、本来のFcRn遺伝子が破壊されており、ヒトFcRn遺伝子に関するトランスジーンを有して発現するマウス(Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)もまた、以下に記載する本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、投与を行うために用いることができる。具体的には、「薬物動態が改善する」とはまた、抗原に結合していない抗原結合分子(抗原非結合型抗原結合分子)が分解されて消失するまでの時間が長くなることを含む。抗原結合分子が血漿中に存在していても、その抗原結合分子にすでに抗原が結合している場合は、その抗原結合分子は新たな抗原に結合できない。そのため抗原結合分子が抗原に結合していない時間が長くなれば、新たな抗原に結合できる時間が長くなり(新たな抗原に結合できる機会が多くなり)、生体内で抗原が抗原結合分子に結合していない時間を減少させることができ、抗原が抗原結合分子に結合している時間を長くすることが可能となる。抗原結合分子の投与によって血漿中からの抗原の消失を加速することができれば、抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度が増加し、また、抗原が抗原結合分子に結合している時間が長くなる。つまり、本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善」とは、抗原非結合型抗原結合分子のいずれかの薬物動態パラメーターの改善(血漿中半減期の増加、平均血漿中滞留時間の増加、血漿中クリアランスの低下のいずれか)、あるいは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間の延長、あるいは、抗原結合分子による血漿中からの抗原の消失が加速されること、を含む。抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の血漿中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したといえる。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。抗原に結合していない抗原結合分子の血漿中濃度の測定は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Clin. Pharmacol. (2008) 48 (4), 406-417において測定されている方法を用いることができる。
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたことも含む。抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたか否かは、遊離抗原の血漿中濃度を測定し、遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合が上昇してくるまでの時間により判断することが可能である。
抗原結合分子に結合していない遊離抗原の血漿中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合は当業者公知の方法で決定され得る。例えば、Pharm. Res. (2006) 23 (1), 95-103において使用されている方法を用いて決定され得る。また、抗原が何らかの機能を生体内で示す場合、抗原が抗原の機能を中和する抗原結合分子(アンタゴニスト分子)と結合しているかどうかは、その抗原の機能が中和されているかどうかで評価することも可能である。抗原の機能が中和されているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内マーカーを測定することによって評価され得る。抗原が抗原の機能を活性化する抗原結合分子(アゴニスト分子)と結合しているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内マーカーを測定することによって評価され得る。
遊離抗原の血漿中濃度の測定、血漿中の総抗原量に対する血漿中の遊離抗原量の割合の測定、生体内マーカーの測定などの測定は特に限定されないが、抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後に行われることが好ましい。本発明において抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後とは、特に限定されず、投与された抗原結合分子の性質等により当業者が適時決定することが可能であり、例えば抗原結合分子を投与してから1日経過後、抗原結合分子を投与してから3日経過後、抗原結合分子を投与してから7日経過後、抗原結合分子を投与してから14日経過後、抗原結合分子を投与してから28日経過後などが挙げられる。本発明において、「血漿中抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度である「血漿中総抗原濃度」、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「血漿中遊離抗原濃度」のいずれも含まれる概念である。
血漿中総抗原濃度は、ヒトFcRn結合ドメインとして天然型Fc領域を含むヒトIgGを参照抗原結合分子として投与した場合と比較して、または本発明の抗原結合分子を投与しない場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減し得る。
抗原/抗原結合分子モル比は、以下に示す通りに算出され得る:
A値=各時点での抗原のモル濃度
B値=各時点での抗原結合分子のモル濃度
C値=各時点での抗原結合分子のモル濃度あたりの抗原のモル濃度(抗原/抗原結合分子モル比)
C=A/B。
C値がより小さい場合は、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより高いことを示し、C値がより大きい場合は、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより低いことを示す。
抗原/抗原結合分子モル比は、上記のように算出され得る。
抗原/抗原結合分子モル比は、ヒトFcRn結合ドメインとして天然型ヒトIgG Fc領域を含む参照抗原結合分子を投与した場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減しうる。
本発明において、天然型ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4は、好ましくはヒトFcRn結合活性または生体内における結合活性に関して抗原結合分子と比較する参照天然型ヒトIgG用途のための、天然型ヒトIgGとして用いられる。好ましくは、目的の抗原結合分子と同一の抗原結合ドメインおよびヒトFcRn結合ドメインとして天然型ヒトIgG Fc領域を含む参照抗原結合分子を適宜用いることができる。より好ましくは、天然型ヒトIgG1は、ヒトFcRn結合活性または生体内における結合活性に関して抗原結合分子と比較する参照天然型ヒトIgG用途に用いられる。
血漿中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の減少は、実施例4、5および12に記載の通りに評価することができる。より具体的には、抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories, Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することができる。抗原結合分子がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories)に抗原結合分子を単に注射することによって評価することができる。同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の血漿中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗原結合分子をマウスに注射する。試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。血漿中総抗原濃度、血漿中遊離抗原濃度、および血漿中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の長期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、長期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。本発明に記載の抗原結合分子によって血漿中抗原濃度または抗原/抗原結合分子モル比の減少が達成されるか否かは、先に記載した任意の1つまたは複数の時点でその減少を評価することにより決定されうる。
投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に、血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の短期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、短期間の血漿中抗原濃度が、抗原結合分子の投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に血漿中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。
本発明の抗原結合分子の投与経路は、皮内注射、静脈内注射、硝子体内注射、皮下注射、腹腔内注射、非経口注射、および筋肉内注射から選択することができる。
本発明においては、ヒトにおける抗原結合分子の薬物動態が改善することが好ましい。ヒトでの血漿中滞留性を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)またはサル(例えば、カニクイザルなど)での血漿中滞留性をもとに、ヒトでの血漿中滞留性を予測することができる。
本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善、血漿中滞留性の向上」とは抗原結合分子を生体に投与した際のいずれかの薬物動態パラメーターが改善されていること(血漿中半減期の増加、平均血漿中滞留時間の増加、血漿中クリアランスの低下、バイオアベイラビリティのいずれか)、あるいは、投与後の適切な時間における抗原結合分子の血漿中濃度が向上していることを意味する。抗原結合分子の血漿中半減期、平均血漿中滞留時間、血漿中クリアランス、バイオアベイラビリティ等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス(ノーマルマウスおよびヒトFcRnトランスジェニックマウス)、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子の血漿中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、血漿中半減期が長くなった又は平均血漿中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したといえる。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、pH中性域におけるFcRnの結合活性を有する抗原結合分子は、抗原提示細胞の細胞膜上で二分子のFcRnおよび一分子のFcγRの四者を含む複合体を形成することが可能なため、抗原提示細胞への取り込みが促進されているため、血漿中滞留性が低下し薬物動態が悪化していると考えられる。FcγRとFcRnの細胞内ドメインにはリン酸化部位が存在する。一般に細胞表面に発現しているレセプターの細胞内ドメインのリン酸化は、レセプターが会合化することによって起こり、そのリン酸化によりレセプターの内在化が起こる。天然型IgG1が抗原提示細胞上においてFcγR/IgG1の二者複合体を形成しても、FcγRの細胞内ドメインの会合化は起こらないが、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するIgG分子が、仮にFcγR/二分子のFcRn/IgGの四者を含むヘテロ複合体を形成した場合、FcγRとFcRnの3つの細胞内ドメインの会合化が起こるため、それによりFcγR/二分子のFcRn/IgGの四者を含むヘテロ複合体の内在化が誘導される可能性が考えられる。FcγR/二分子のFcRn/IgGの四者を含むヘテロ複合体の形成は、FcγRとFcRnを共に発現する抗原提示細胞上で起こると考えられ、それにより抗体分子が抗原提示細胞に取り込まれる量が増大し、結果として薬物動態が悪化する可能性が考えられる。本発明で見出された様態1、2、3のいずれかの方法により、抗原提示細胞上における前記の複合体の形成を阻害することで、抗原提示細胞への取込みを低減させ、結果として薬物動態が改善する可能性が考えられる。
イオン濃度の条件によって結合活性が変化する抗原結合分子の製造方法
本発明の非限定の一態様では、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが単離された後に、当該ポリヌクレオチドが適切な発現ベクターに挿入される。例えば、抗原結合ドメインが抗体の可変領域である場合には、当該可変領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入された制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗原結合分子の遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗原結合分子の可変領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、本発明の抗原結合分子の発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記可変領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合され得る。
所望の抗原結合分子を製造するために、抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドが制御配列に作用可能に連結された態様で発現ベクターに組み込まれる。制御配列とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗原結合分子が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に連結され得る。例えばシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:3)を有するペプチドが使用されるが、これ以外にも適したシグナル配列が連結され得る。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、所望の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを発現する組換え細胞が取得され得る。当該組換え細胞から、本発明の抗原結合分子を製造する方法は、前記の抗体の項で記載した方法に準じて製造され得る。
本発明の非限定な一態様において、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合分子分子をコードするポリヌクレオチドが単離された後に、当該ポリヌクレオチドの改変体が適切な発現ベクターに挿入される。このような改変体の一つとして、ランダム化可変領域ライブラリとして、合成ライブラリや非ヒト動物を起源として作製された免疫ライブラリを用いることによってスクリーニングされた本発明の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列がヒト化された改変体が好適に挙げられる。ヒト化された抗原結合分子の改変体の作製方法は、前記のヒト化抗体の作製方法と同様の方法が採用され得る。
また、改変体のその他の態様として、ランダム化可変領域ライブラリとして合成ライブラリやナイーブライブラリを用いることによってスクリーニングされた本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合親和性の増強(アフィニティ成熟化)をもたらすような改変が、単離されたポリヌクレオチド配列に施された改変体が好適に挙げられる。そのような改変体はCDRの変異誘導(Yangら(J. Mol. Biol. (1995) 254, 392-403))、鎖シャッフリング(Marksら(Bio/Technology (1992) 10, 779-783))、E.coliの変異誘発株の使用(Lowら(J. Mol. Biol. (1996) 250, 359-368))、DNAシャッフリング(Pattenら(Curr. Opin. Biotechnol. (1997) 8, 724-733))、ファージディスプレイ(Thompsonら(J. Mol. Biol. (1996) 256, 77-88))および有性PCR(sexual PCR)(Clameriら(Nature (1998) 391, 288-291))を含む種々のアフィニティー成熟化の公知の手順によって取得され得る。
前記のように、本発明の製造方法によって作製される抗原結合分子として、Fc領域を含む抗原結合分子が挙げられるが、Fc領域として様々な改変体が使用され得る。このようなFc領域の改変体をコードするポリヌクレオチドと、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合分子分子をコードするポリヌクレオチドとがインフレームで連結された重鎖を有する抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドも、本発明の改変体の一態様として好適に挙げられる。
本発明の非限定な一態様では、Fc領域として、例えば、配列番号:11で表されるIgG1(N末端にAla が付加されたAAC82527.1)、配列番号:12で表されるIgG2(N末端にAlaが 付加されたAAB59393.1)、配列番号:13で表されるIgG3(CAA27268.1)、配列番号:14で表されるIgG4(N末端にAlaが付加されたAAB59394.1)等の抗体のFc定常領域が好適に挙げられる。IgG分子の血漿中滞留性が比較的長い(血漿中からの消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージレセプターとして知られているFcRn特にヒトFcRnが機能しているためである。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているFcRn特にヒトFcRnに結合する。FcRn特にヒトFcRnに結合できなかったIgG分子はライソソームへと進み、そこで分解されるが、FcRn特にヒトFcRnへ結合したIgG分子は細胞表面へ移行し血漿中の中性条件下においてFcRn特にヒトFcRnから解離することで再び血漿中に戻る。
通常のFc領域を含む抗体は血漿中のpH中性域の条件下においてFcRn特にヒトFcRnに対する結合活性を有しないため、通常の抗体および抗体−抗原複合体は、非特異的なエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれ、エンドソーム内のpH酸性域の条件下でFcRn特にヒトFcRnに結合することで細胞表面に輸送される。FcRn特にヒトFcRnは抗体をエンドソーム内から細胞表面に輸送するため、FcRn特にヒトFcRnの一部は細胞表面にも存在していると考えられるが、細胞表面のpH中性域の条件下では抗体はFcRn特にヒトFcRnから解離するため、抗体は血漿中にリサイクルされる。
本発明の抗原結合分子に含まれるpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリング221位〜225位、227位、228位、230位、232位、233位〜241位、243位〜252位、254位〜260位、262位〜272位、274位、276位、278位〜289位、291位〜312位、315位〜320位、324位、325位、327位〜339位、341位、343位、345位、360位、362位、370位、375位〜378位、380位、382位、385位〜387位、389位、396位、414位、416位、423位、424位、426位〜438位、440位および442位の位置のアミノ酸が挙げられる。より具体的には、例えば表5に記載のようなアミノ酸の改変が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が増強される。
本発明に使用するために、これらの改変のうち、pH中性域においてもヒトFcRnに対する結合を増強する改変が適宜選択される。特に好ましいFc領域改変体のアミノ酸として、例えばEUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位および436位のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することによって、抗原結合分子に含まれるFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を増強することができる。
特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、および
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表6に記載されるような組合せが挙げられる。
また、本発明は特定の原理に拘束されるわけではないが、上記の改変に加えて、抗原結合分子に含まれるFc領域と二分子のFcRnおよび活性型Fcγレセプターの四者を含むヘテロ複合体が形成されないようにFc領域の改変を含む抗原結合分子の製造方法が提供される。そのような抗原結合分子の好ましい様態として、以下の三種類が挙げられ得る。
(様態1) pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域を含む抗原結合分子
様態1の抗原結合分子は、二分子のFcRnに結合することによって三者複合体を形成するが、活性型FcγRを含めた複合体は形成しない(図49)。活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域は、前記のように天然型Fc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。改変Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性が、天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いか否かは、前記の結合活性の項で記載された方法を用いて適宜実施され得る。
本明細書において、Fc領域改変体の活性型Fcγレセプターに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも低いとは、Fc領域改変体のFcγRIa、FcγRIIa、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性が、これらのヒトFcγレセプターに対する天然型Fc領域の結合活性よりも低いことをいう。例えば、上記の解析方法にもとづいて、対照とする天然型Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性に比較してFc領域改変体を含む抗原結合分子の結合活性が、95%以下、好ましくは90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、特に好ましくは70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の結合活性を示すことをいう。天然型Fc領域としては、出発Fc領域も使用され得るし、野生型抗体の異なるアイソタイプのFc領域も使用され得る。
対照とするFc領域を含む抗原結合分子としては、IgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:11(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、12(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、13(RefSeq登録番号CAA27268.1)、14(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域を含む抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該Fc領域を含む抗原結合分子によるFcγレセプターに対する結合活性の効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
本発明の非限定の一態様では、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域の例として、前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される234位、235位、236位、237位、238位、239位、270位、297位、298位、325位および329位のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられるが、Fc領域の改変は上記改変に限定されず、例えばCurrent Opinion in Biotechnology (2009) 20 (6), 685-691に記載されている脱糖鎖 (N297A, N297Q)、IgG1-L234A/L235A、IgG1-A325A/A330S/P331S、IgG1-C226S/C229S、IgG1-C226S/C229S/E233P/L234V/L235A、IgG1-L234F/L235E/P331S、IgG1-S267E/L328F、IgG2-V234A/G237A、IgG2-H268Q/V309L/A330S/A331S、IgG4-L235A/G237A/E318A、IgG4-L236E等の改変、および、WO 2008/092117に記載されているG236R/L328R、L235G/G236R、N325A/L328R、N325LL328R等の改変、および、EUナンバリング233位、234位、235位、237位におけるアミノ酸の挿入、WO 2000/042072に記載されている個所の改変であってもよい。
また本発明の非限定の一態様では、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
234位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、ThrまたはTrpのいずれか、
235位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸をArg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、ProまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、TyrまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸をAla、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、TrpまたはArgのいずれか、
239位のアミノ酸をGln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、TyrまたはArgのいずれか、
265位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
266位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
267位のアミノ酸をArg、His、Lys、Phe、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
269位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
270位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか
271位のアミノ酸をArg、His、Phe、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸をArg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸をArg、Gly、LysまたはProのいずれか、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をArg、Gly、Lys、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
324位のアミノ酸をLysまたはProのいずれか、
325位のアミノ酸をAla、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、TrpTyr、もしくはValのいずれか、
327位のアミノ酸をArg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
328位のアミノ酸をArg、Asn、Gly、His、LysまたはProのいずれか、
329位のアミノ酸をAsn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、ValまたはArgのいずれか、
330位のアミノ酸をProまたはSerのいずれか、
331位のアミノ酸をArg、GlyまたはLysのいずれか、もしくは
332位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
(様態2) pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、抑制型FcγRに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いFc領域を含む抗原結合分子
様態2の抗原結合分子は、二分子のFcRnと一分子の抑制型FcγRに結合することによってこれら四者を含む複合体を形成し得る。しかしながら、一分子の抗原結合分子は一分子のFcγRとしか結合できないため、一分子の抗原結合分子は抑制型FcγRに結合した状態で他の活性型FcγRに結合することはできない(図50)。さらに、抑制型FcγRに結合した状態で細胞内へと取り込まれた抗原結合分子は、細胞膜上へとリサイクルされ、細胞内での分解を回避することが報告されている(Immunity (2005) 23, 503-514)。すなわち、抑制型FcγRに対する選択的結合活性を有する抗原結合分子は、免疫応答の原因となる活性型FcγRおよび二分子のFcRnを含めたヘテロ複合体を形成することができないと考えられる。
本明細書において、抑制型FcγRに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いとは、Fc領域改変体のFcγRIIbに対する結合活性が、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性よりも高いことをいう。例えば、上記の解析方法にもとづいて、Fc領域改変体を含む抗原結合分子のFcγRIIbに対する結合活性が、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性の、105%以上、好ましくは110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、特に好ましくは150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%%以上、250%以上、300%以上、350%以上、400%以上、450%以上、500%以上、750%以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上の結合活性を示すことをいう
対照とするFc領域を含む抗原結合分子としては、IgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:11(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、12(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、13(RefSeq登録番号CAA27268.1)、14(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域を含む抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該Fc領域を含む抗原結合分子によるFcγレセプターに対する結合活性の効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
本発明の非限定の一態様では、抑制型FcγRに対する選択的な結合活性を有するFc領域の例として、前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される238または328のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられる。また、抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有するFc領域として、US 2009/0136485に記載されているFc領域あるいは改変も適宜選択することができる。
また本発明の非限定の一態様では、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であってEUナンバリングで表される238のアミノ酸がAsp、または328のアミノ酸がGluのいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
さらに本発明の非限定の一態様では、EUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換、およびEUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がPhe、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がVal、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGly、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される239位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がLys、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がArg、EUナンバリングで表される233位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がSer、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がThr、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がIle、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される296位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がMet、のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
(様態3) Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合能活性を有しないFc領域を含む抗原結合分子
様態3の抗原結合分子は、一分子のFcRnと一分子のFcγRに結合することによって三者複合体を形成しうるが、二分子のFcRnと一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体は形成しない(図51)。本様態3の抗原結合分子に含まれる、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方のポリペプチドがpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合能活性を有しないFc領域として、二重特異性抗体(bispecific抗体)を起源とするFc領域も適宜使用され得る。二重特異性抗体とは、異なる抗原に対して特異性を有する二種類の抗体である。IgG型の二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが可能である(Milsteinら(Nature (1983) 305, 537-540)。
上記の様態3の抗原結合分子を前記の抗体の項で記載されたような組換え手法を用いて製造する場合、目的の二種のFc領域を構成するポリペプチドをコードする遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させる方法が採用され得る。しかしながら、製造されるFc領域は、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方のポリペプチドがpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合能活性を有しないFc領域と、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの双方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するFc領域と、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの双方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しないFc領域が、2:1:1の分子数の割合で存在する混合物となる。3種類のIgGから目的の組合せのFc領域を含む抗原結合分子を精製することは困難である。
こうした組換え手法を用いて様態3の抗原結合分子を製造する際に、Fc領域を構成するCH3ドメインに適当なアミノ酸置換の改変を加えることによってヘテロな組合せのFc領域を含む抗原結合分子が優先的に分泌され得る。具体的には、一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob(「突起」の意))に置換し、もう一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole(「空隙」の意))に置換することによって、突起が空隙内に配置され得るようにして異種H鎖形成の促進および同種H鎖形成の阻害を引き起こす方法である(WO1996027011、Ridgwayら(Protein Engineering (1996) 9, 617-621)、Merchantら(Nat. Biotech. (1998) 16, 677-681))。
また、ポリペプチドの会合、またはポリペプチドによって構成される異種多量体の会合の制御方法を、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの会合に利用することによって二重特異性抗体を作製する技術も知られている。即ち、Fc領域を構成する二つのポリペプチド内の界面を形成するアミノ酸残基を改変することによって、同一配列を有するFc領域を構成するポリペプチドの会合が阻害され、配列の異なる二つのFc領域を構成するポリペプチド会合体が形成されるように制御する方法が二重特異性抗体の作製に採用され得る(WO2006/106905)。このような方法も本発明の様態3の抗原結合分子を製造する際に、採用され得る。
本発明の非限定な一態様におけるFc領域としては、上記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を構成する二つのポリペプチドが適宜使用され得る。より具体的には、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される349位のアミノ酸がCys、366位のアミノ酸がTrpであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356位のアミノ酸がCys、366位のアミノ酸がSer、368位のアミノ酸がAla、407位のアミノ酸がValであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
そのほかの本発明の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409位のアミノ酸がAspであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。上記態様では、409位のアミノ酸はAspに代えてGlu、399位のアミノ酸はLysに代えてArgでもあり得る。また、399位のアミノ酸のLysに加えて360位のアミノ酸としてAsp又は392位のアミノ酸としてAspも好適に追加され得る。
本発明の別の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
本発明のさらに別の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される439位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
本発明の別の非限定な一態様におけるFc領域としては、これらが組み合わされた以下の態様のいずれか;
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409位のアミノ酸がAsp、370位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399位のアミノ酸がLys、357位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370位のアミノ酸のGluに代えてAspであってもよく、EUナンバリングで表される370位のアミノ酸のGluに代えて392位のアミノ酸のAspであってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409位のアミノ酸がAsp、439位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399位のアミノ酸がLys、356位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される439位のアミノ酸のGluに代えて360位のアミノ酸のAsp、EUナンバリングで表される392位のアミノ酸のAsp又は439位のアミノ酸のAspであってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370位のアミノ酸がGlu、439位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357位のアミノ酸がLys、356位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド、または、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409位のアミノ酸がAsp、370位のアミノ酸がGlu、439位のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399位のアミノ酸がLys、357位のアミノ酸がLys、356位のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370位のアミノ酸をGluに置換しなくてもよく、更に、370位のアミノ酸をGluに置換しない上で、439位のアミノ酸のGluに代えてAsp又は439位のアミノ酸のGluに代えて392位のアミノ酸のAspであってもよい)、
が好適に用いられる。
さらに、本発明の別の非限定な一態様において、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356位のアミノ酸がLysであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される435位のアミノ酸がArg、439位のアミノ酸がGluであることを特徴とする二つのポリペプチドも好適に用いられる。
これら様態1〜3の抗原結合分子は、四者複合体を形成しうる抗原結合分子に比較して、いずれも免疫原性を低下させ、また血漿中滞留性を向上させることが可能であると期待される。
Fc領域のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法も採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
前記のようなアミノ酸の変異が加えられたFc領域の改変体をコードするポリヌクレオチドと、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドとがインフレームで連結された重鎖を有する抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドも、本発明の改変体の一態様として作製される。
本発明によって、Fc領域をコードするポリヌクレオチドとインフレームで連結されたイオン濃度の条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞の培養液から抗原結合分子を回収することを含む抗原結合分子の製造方法が提供される。また、ベクター中に予め作用可能に連結されたFc領域をコードするポリヌクレオチドと、イオン濃度の条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞の培養液から抗原結合分子を回収することを含む抗原結合分子の製造方法もまた提供される。
医薬組成物
可溶型抗原に対する既存の中和抗体を投与すると、抗原が抗体に結合することで血漿中での持続性が高まることが予想される。抗体は一般的に長い半減期(1週間〜3週間)を有するが、一方で抗原は一般的に短い半減期(1日以下)を有する。そのため、血漿中で抗体に結合した抗原は、抗原単独で存在する場合に比べて顕著に長い半減期を有するようになる。その結果として、既存の中和抗体を投与することにより、血漿中の抗原濃度の上昇が起こる。このような事例は様々な可溶型抗原を標的とした中和抗体において報告されており、一例を挙げるとIL-6(J. Immunotoxicol. (2005) 3, 131-139)、amyloid beta(mAbs (2010) 2 (5), 1-13)、MCP-1(ARTHRITIS & RHEUMATISM (2006) 54,2387-2392)、hepcidin(AAPS J. (2010) 4, 646-657) 、sIL-6 receptor(Blood (2008) 112 (10), 3959-64)などがある。既存の中和抗体の投与により、ベースラインからおよそ10倍〜1000倍程度(上昇の程度は、抗原によって異なる)の血漿中総抗原濃度の上昇が報告されている。ここで、血漿中総抗原濃度とは、血漿中に存在する抗原の総量としての濃度を意味しており、すなわち抗体結合型と抗体非結合型の抗原濃度の和として表される。このような可溶型抗原を標的とした抗体医薬にとっては、血漿中総抗原濃度の上昇が起こることは好ましくない。なぜなら、可溶型抗原を中和するためには、少なくとも血漿中総抗原濃度を上回る血漿中抗体濃度が必要なためである。つまり、血漿中総抗原濃度が10倍〜1000倍上昇するということは、それを中和するための血漿中抗体濃度(すなわち抗体投与量)としても、血漿中総抗原濃度の上昇が起こらない場合に比べて10倍〜1000倍が必要になることを意味する。一方で、既存の中和抗体に比較して血漿中総抗原濃度を10倍〜1000倍低下することができれば、抗体の投与量を同じだけ減らすことが可能である。このように、血漿中から可溶型抗原を消失させて、血漿中総抗原濃度を低下させることができる抗体は、既存の中和抗体に比較して顕著に有用性が高い。
本発明は特定の理論により拘束されるものではないが、例えば、pH酸性域における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも低いように、イオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインおよび付加的にpH中性域の条件下でヒトFcRnに対する結合活性を有する抗体定常領域等のFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子が生体に投与されたときに生体中の細胞への取込みが促進されることによって、1分子の抗原結合分子が結合可能な抗原の数が増加する理由、および、血漿中抗原濃度の消失が促進される理由はたとえば以下のように説明することが可能である。
例えば、膜抗原に結合する抗体が生体内に投与された場合、当該抗体は抗原に結合した後、抗原に結合したまま抗原と一緒にインターナライゼーションによって細胞内のエンドソームに取り込まれる。その後、抗原に結合したままライソソームへ移行した抗体は、抗原とともにライソソームによって分解される。インターナライゼーションを介した血漿中からの消失は抗原依存的な消失と呼ばれており、多くの抗体分子で報告されている(Drug Discov Today (2006) 11(1-2), 81-88)。1分子のIgG抗体が2価で抗原に結合した場合、1分子の抗体が2分子の抗原に結合した状態でインターナライズされ、そのままライソソームで分解される。従って、通常の抗体の場合、1分子のIgG抗体が3分子以上の抗原に結合することは出来ない。例えば、中和活性を有する1分子のIgG抗体の場合、3分子以上の抗原を中和することはできない。
IgG分子の血漿中滞留性が比較的長い(消失が遅い)のは、IgG分子のサルベージ受容体として知られているヒトFcRnが機能しているためである。ピノサイトーシスによってエンドソームに取り込まれたIgG分子は、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内に発現しているヒトFcRnに結合する。ヒトFcRnに結合できなかったIgG分子はその後移行するライソソーム内で分解される。一方、ヒトFcRnに結合したIgG分子は細胞表面へ移行する。血漿中の中性条件下においてIgG分子はヒトFcRnから解離するため、当該IgG分子は再び血漿中にリサイクルされる。
また抗原結合分子が可溶型抗原に結合する抗体の場合、生体内に投与された抗体は抗原に結合し、その後、抗体は抗原に結合したまま細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれた抗体の多くはエンドソーム内でFcRnに結合した後に細胞表面に移行する。血漿中の中性条件下において抗体はヒトFcRnから解離するため、細胞外に放出される。しかし、pH等のイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化しない通常の抗原結合ドメインを含む抗体は抗原と結合したまま細胞外に放出される為、再度、抗原に結合することはできない。従って、膜抗原に結合する抗体と同様、pH等のイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化しない通常の1分子のIgG抗体は3分子以上の抗原に結合することはできない。
抗原に対して血漿中のpH中性域の条件下においては強く結合し、エンドソーム内のpH酸性域の条件下において抗原から解離するpH依存的に抗原に対して結合する抗体(抗原に対してpH中性域の条件下で結合し、pH酸性域の条件下で解離する抗体)や抗原に対して血漿中の高カルシウムイオン濃度の条件下においては強く結合し、エンドソーム内の低カルシウムイオン濃度の条件下において抗原から解離するカルシウムイオン濃度依存的に抗原に対して結合する抗体(抗原に対して高カルシウムイオン濃度の条件下で結合し、低カルシウムイオン濃度の条件下で解離する抗体)はエンドソーム内で抗原から解離することが可能である。pH依存的に抗原に対して結合する抗体やカルシウムイオン濃度依存的に抗原に対して結合する抗体は、抗原を解離した後にFcRnによって血漿中にリサイクルされると、再び抗原に結合することが可能である。そのため一分子の抗体が複数の抗原分子に繰り返し結合することが可能となる。また、抗原結合分子に結合した抗原はエンドソーム内で抗体から解離することによって血漿中にリサイクルされずライソソーム内で分解される。こうした抗原結合分子を生体に投与することによって、抗原の細胞内への取込みが促進され、血漿中の抗原濃度を低下させることが可能となる。
抗原に対して血漿中のpH中性域の条件下においては強く結合し、エンドソーム内のpH酸性域の条件下において抗原から解離するpH依存的に抗原に対して結合する抗体(抗原に対してpH中性域の条件下で結合し、pH酸性域の条件下で解離する抗体)や抗原に対して血漿中の高カルシウムイオン濃度の条件下においては強く結合し、エンドソーム内の低カルシウムイオン濃度の条件下において抗原から解離するカルシウムイオン濃度依存的に抗原に対して結合する抗体(抗原に対して高カルシウムイオン濃度の条件下で結合し、低カルシウムイオン濃度の条件下で解離する抗体)に、pH中性域の条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合能を付与することで、抗原結合分子が結合する抗原の細胞内への取込みがさらに促進される。すなわち、こうした抗原結合分子の生体への投与によって抗原の消失が促進され、血漿中の抗原濃度を低下させることが可能となる。pH依存的な抗原に対する結合能、またはカルシウムイオン濃度依存的な抗原に対する結合能を有しない通常の抗体およびその抗体−抗原複合体は、非特異的なエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれ、エンドソーム内の酸性条件下でFcRnに結合することで細胞表面に輸送され、細胞表面の中性条件下でFcRnから解離することによって血漿中にリサイクルされる。そのため、十分にpH依存的に抗原に対して結合する(pH中性域の条件下で結合し、pH酸性域の条件下で解離する)、または十分にカルシウムイオン濃度依存的に抗原に対して結合する(高カルシウムイオン濃度の条件下で結合し、低カルシウムイオン濃度の条件下で解離する)抗体が血漿中で抗原に結合し、エンドソーム内において結合している抗原を解離する場合、抗原の消失速度は非特異的なエンドサイトーシスによる抗体およびその抗体−抗原複合体の細胞への取込み速度と等しくなると考えられる。抗体と抗原間の結合のpH依存性またはカルシウムイオン濃度依存性が不十分な場合は、エンドソーム内において抗体から解離しない抗原も抗体とともに血漿中にリサイクルされてしまうが、pHまたはカルシウム濃度依存性が十分な場合は、抗原の消失速度は非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取込み速度が律速となる。また、FcRnは抗体をエンドソーム内から細胞表面に輸送するため、FcRnの一部は細胞表面にも存在していると考えられる。
通常、抗原結合分子の一態様であるIgG型免疫グロブリンはpH中性域におけるFcRnに対する結合活性をほとんど有しない。本発明者らは、pH中性域においてFcRnに対する結合活性を有するIgG型免疫グロブリンは、細胞表面に存在するFcRnに結合することが可能であり、細胞表面に存在するFcRnに結合することによって当該IgG型免疫グロブリンがFcRn依存的に細胞に取り込まれると考えた。FcRnを介した細胞への取り込み速度は、非特異的なエンドサイトーシスによる細胞への取り込み速度よりも早い。そのため、pH中性域においてFcRnに対する結合能を付与することによって、抗原結合分子による抗原の消失速度をさらに速めることが可能であると考えられる。すなわち、pH中性域においてFcRnに対する結合能を有する抗原結合分子は、天然型IgG型免疫グロブリンよりも速やかに抗原を細胞内に送り込み、エンドソーム内で抗原を解離し、再び細胞表面ないしは血漿中にリサイクルされ、そこで再び抗原に結合し、またFcRnを介して細胞内に取り込まれる。pH中性域においてFcRnに対する結合能を高くすることによって、このサイクルの回転速度を速くすることが可能となるため、血漿中から抗原を消失させる速度が速くなる。更に抗原結合分子のpH酸性域における抗原に対する結合活性をpH中性域における抗原に対する結合活性より低下させることによって、更に血漿中から抗原を消失させる速度を高めることが可能である。またこのサイクルの回転速度を早くする結果生じるそのサイクルの数の増大によって、1分子の抗原結合分子が結合可能な抗原の分子数も多くなると考えられる。本発明の抗原結合分子は、抗原結合ドメインとFcRn結合ドメインからなり、FcRn結合ドメインは抗原に対する結合に影響を与えることはないため、また、上述のメカニズムから考えても、抗原の種類に依存することがなく、抗原結合分子のpH酸性域または低カルシウムイオン濃度の条件等のイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性(結合能)をpH中性域または高カルシウムイオン濃度の条件等のイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性(結合能)より低下させ、および/または、血漿中でのpHにおけるFcRnへの結合活性を増大させることによって、抗原結合分子による抗原の細胞内への取込みを促進させ、抗原の消失速度を速くすることが可能であると考えられる。よって本発明の抗原結合分子は、抗原がもたらす副作用の低減、抗体の投与量の上昇、抗体の生体内の動態の改善、といった点で従来の治療用抗体よりも優れた効果を発揮すると考えられる。
図1は、既存の中和抗体に比べて中性pHにおけるFcRnへの結合を増強したpH依存的抗原結合抗体の投与により、血漿中から可溶型抗原が消失するメカニズムを表している。pH依存的抗原結合能をもたない既存の中和抗体は、血漿中で可溶型抗原に結合した後、細胞との非特異的な相互作用により緩やかに取りこまれる。細胞内へと取り込まれた中和抗体と可溶型抗原の複合体は、酸性のエンドソームへと移行し、FcRnによって血漿中へとリサイクルされる。一方、中性条件下におけるFcRnへの結合を増強したpH依存的抗原結合抗体は、血漿中で可溶型抗原に結合した後、細胞膜上にFcRnを発現している細胞の中へと速やかに取り込まれる。ここで、pH依存的抗原結合抗体に結合した可溶型抗原は、酸性のエンドソームの中で、pH依存的結合能により抗体から解離する。抗体から解離した可溶型抗原は、その後リソソームへと移行し、タンパク質分解活性による分解を受ける。一方、可溶型抗原を解離した抗体は、FcRnによって細胞膜上へとリサイクルされ、再び血漿中に放出される。このようにリサイクルされてフリーとなった抗体は、他の可溶型抗原へと再度結合することができる。このようなFcRnを介した細胞内への取り込み、可溶型抗原の解離と分解、抗体のリサイクル、といったサイクルを繰り返すことによって、このような中性条件下でのFcRn結合を増強したpH依存的抗原結合抗体は、大量の可溶型抗原をリソソームへと移行させて血漿中総抗原濃度を低下させることができる。
またすなわち、本発明は、本発明の抗原結合分子、本発明の改変方法により作製された抗原結合分子、または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を含む医薬組成物に関する。本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子はその投与により通常の抗原結合分子と比較して血漿中の抗原濃度を低下させる作用が高い上に、投与された生体による免疫応答や当該生体中の薬物動態等が改変されていることから医薬組成物として有用である。本発明の医薬組成物には医薬的に許容される担体が含まれ得る。
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤をいう。
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法を用いて製剤化され得る。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用され得る。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化され得る。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定される。
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施にしたがって処方され得る。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適切な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)が併用され得る。
油性液としてはゴマ油、大豆油が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールも併用され得る。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合され得る。調製された注射液は通常、適切なアンプルに充填される。
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物が投与される。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与され得る。
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択され得る。抗原結合分子を含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲に設定され得る。または、例えば、患者あたり0.001〜100000 mgの投与量が設定され得るが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
また本発明は、少なくとも本発明の抗原結合分子を含む、本発明の方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、薬学的に許容される担体、媒体、使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を有効成分として含有する、抗原結合分子の薬物動態改善剤、または抗原結合分子の免疫原性低減剤に関する。
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を対象(被験者)へ投与する工程を含む、免疫炎症性疾患の治療方法に関する。
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子の、抗原結合分子の薬物動態改善剤、または抗原結合分子の免疫原性低減剤の製造における使用に関する。
また本発明は、本発明の方法に使用するための、本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子に関する。
なお、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強することによるpH依存的ヒトIL-6レセプター結合ヒト抗体の血漿中滞留性および免疫原性への影響
血漿中からの可溶型抗原を消失させるために、FcRnと相互作用する抗体等の抗原結合分子のFc領域(Nat. Rev. Immunol. (2007) 7 (9), 715-25)等のFcRn結合ドメインにがpH中性域においてFcRnに対する結合活性を有することが重要である。参考実施例5で示したように、FcRn結合ドメインのpH中性域でのFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン変異(アミノ酸置換)体が研究されている。Fc変異体として創生されたF1〜F600のpH中性域におけるFcRnに対する結合活性が評価され、pH中性域においてFcRnに対する結合活性を増強することにより血漿中からの抗原の消失を加速することが確認された。こういったFc変異体を医薬品として開発するためには、薬理的な性質(FcRnの結合増強による血漿中からの抗原の消失の加速など)のみならず、抗原結合分子の安定性や純度、抗原結合分子の生体内における血漿中滞留性が優れ、免疫原性が低いことが好ましい。
中性条件下においてFcRnに結合することで抗体の血漿中滞留性が悪化することが知られている。中性条件下においてFcRnに結合してしまうと、エンドソーム内の酸性条件下においてFcRnに結合することで細胞表面上に戻っても、中性条件下の血漿中においてIgG抗体がFcRnから解離しないとIgG抗体が血漿中にリサイクルされないため、逆に血漿中滞留性は損なわれることになる。例えば、IgG1に対してアミノ酸置換を導入することによって中性条件下(pH7.4)においてマウスFcRnに対する結合が認められるようになった抗体をマウスに投与した場合、抗体の血漿中滞留性が悪化することが報告されている(非特許文献10)。しかし、一方で、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合が認められるようになった抗体をカニクイザルに投与した場合、抗体の血漿中滞留性は改善することは無く、血漿中滞留性に変化が認められなかったことが報告されている(非特許文献10、11および12)。
また、FcRnは抗原提示細胞に発現しており、抗原提示に関与していることが報告されている。抗原結合分子ではないが、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)にマウスIgG1のFc領域を融合させたタンパク質(以下MBP-Fc)の免疫原性を評価した報告において、MBP-Fc特異的に反応するT細胞はMBP-Fcの存在下で培養することにより活性化、増殖が起こる。ここで、MBP-FcのFc領域にFcRnへの結合を増強させる改変を加えることにより、in vitroにおいては抗原提示細胞に発現するFcRnを介した抗原提示細胞への取り込みが増大することでT細胞の活性化は増強されることが知られている。しかしながら、FcRnへの結合を増強させる改変を加えることにより血漿中滞留性が悪化することから、in vivoにおいてはT細胞の活性化が逆に減弱することが報告されている(非特許文献43)。
このように、中性条件下におけるFcRnの結合を増強することによる抗原結合分子の血漿中滞留性および免疫原性への影響は十分に調べられていない。抗原結合分子を医薬品として開発する場合、抗原結合分子の血漿中滞留性は長いほうが好ましく、また免疫原性は低いほうが好ましい。
(1−1)ヒトIL-6レセプター結合ヒト抗体の作製
そこで、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の血漿中滞留性の評価、および、その抗原結合分子の免疫原性の評価を行うために、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するヒトIL-6レセプター結合ヒト抗体として、VH3-IgG1(配列番号:35)とVL3-CK(配列番号:36)からなるFv4-IgG1、VH3-IgG1-F1(配列番号:37)とVL3-CK からなるFv4-IgG1-F1、VH3-IgG1-F157(配列番号:38)とVL3-CK からなるFv4-IgG1-F157、VH3-IgG1-F20(配列番号:39)とVL3-CK からなるFv4-IgG1-F20、VH3-IgG1-F21(配列番号:40)とVL3-CK からなるFv4-IgG1-F21が参考実施例1および参考実施例2に示した方法によって作製された。
(1−2)マウスFcRnに対する結合の速度論的解析
重鎖としてVH3-IgG1あるいはVH3-IgG1-F1を含み、軽鎖としてL(WT)-CK(配列番号:41)を含む抗体が参考実施例2に示した方法で作製され、下記のようにマウスFcRnに対する結合活性が評価された。
Biacore T100(GE Healthcare)を用いて、マウスFcRnと抗体との速度論的解析を行った。センサーチップCM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でプロテインL(ACTIGEN)を適当量固定化し、そこへ目的の抗体を捕捉させた。次に、FcRn希釈液とランニングバッファー(参照溶液として)とをインジェクトし、センサーチップ上に捕捉させた抗体にマウスFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーには50 mmol/Lリン酸ナトリウム、150 mmol/L NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH7.4を用い、FcRnの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/Lグリシン-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25 ℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出されたカイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka (1/Ms)、および解離速度定数 kd (1/s)をもとに各抗体のマウスFcRnに対する KD (M) が算出された。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
その結果、IgG1のKD (M)は検出されなかった一方で、作製されたIgG1-F1のKD (M)は1.06E-06 (M)であった。作製されたIgG1-F1は、pH中性域(pH7.4)の条件下において、マウスFcRnに対する結合活性が増強されていることが示された。
(1−3)ノーマルマウスを用いたin vivo PK試験
作製されたpH依存的ヒトIL-6レセプター結合ヒト抗体であるFv4-IgG1およびFv4-IgG1-F1のノーマルマウスを用いたPK試験が下記の方法で実施された。ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈あるいは背部皮下に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後5分、7時間、1日、2日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
(1−4)ELISA法による血漿中抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度の測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度はELISA法にて測定された。まず、Anti-Human IgG(γ-chain specific)F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125μg/mLの抗ヒトIL-6レセプター抗体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。これらの検量線試料および血漿測定試料100μLに20 ng/mLの可溶型ヒトIL-6レセプターが200μL加えられた混合液を、室温で1時間静置させた。その後当該混合液が各ウェルに分注されたAnti-Human IgG固相化プレートをさらに室温で1時間静置させた。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)と室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させた反応液の発色反応が、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中の抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
pH依存的ヒトIL-6レセプター結合ヒト抗体をノーマルマウスに静脈内あるいは皮下投与した後の、血漿中のpH依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体濃度を図2に示した。図2の結果から、静脈内に投与されたFv4-IgG1に比較して、中性条件下においてマウスFcRnへの結合が増強されたFv4-IgG1-F1が静脈内に投与された際の血漿中滞留性は悪化することが示された。一方、皮下に投与されたFv4-IgG1は、静脈内に投与された際と同等の血漿中滞留性を示したが、Fv4-IgG1-F1が皮下に投与された場合においては、投与7日後以降でマウス抗Fv4-IgG1-F1抗体が産生されたことによると考えられる急激な血漿中濃度の低下が認められ、投与後14日目の時点で血漿中にFv4-IgG1-F1は検出されなかった。この結果から、抗原結合分子の中性条件下におけるFcRnへの結合を増強することによって、血漿中滞留性および免疫原性が悪化することが確認された。
〔実施例2〕pH中性域の条件下におけるマウスFcRnに対する結合活性を有するヒトIL-6レセプター結合マウス抗体の作製
以下の方法により、pH中性域の条件下におけるマウスFcRnに対する結合活性を有するマウス抗体が作製された。
(2−1)ヒトIL-6レセプター結合マウス抗体の作製
マウス抗体の可変領域として、ヒトIL-6Rへの結合能を有するマウス抗体である、mouse PM-1(Sato K, et al. Cancer Res. (1993) 53(4), 851-856)のアミノ酸配列が用いられた。これ以降、mouse PM-1の重鎖可変領域はmPM1H(配列番号:42)、軽鎖可変領域はmPM1L(配列番号:43)と表記される。
また、重鎖定常領域として天然型マウスIgG1(配列番号:44、以降はmIgG1と表記される)、軽鎖定常領域として天然型マウスkappa(配列番号:45、以降はmk1と表記される)が用いられた。
参考実施例1の方法に従い、重鎖mPM1H-mIgG1(配列番号:46)および軽鎖mPM1L-mk1(配列番号:47)の塩基配列を有する発現ベクターが作製された。また、参考実施例2の方法に従い、mPM1H-mIgG1とmPM1L-mk1からなる、ヒトIL-6R結合マウス抗体であるmPM1-mIgG1が作製された。
(2−2)pH中性域の条件下でマウスFcRnへの結合能を有するmPM1抗体の作製
作製されたmPM1-mIgG1は、天然型マウスFc領域を含むマウス抗体であり、pH中性域の条件下でのマウスFcRnに対する結合活性を有しない。そこで、pH中性域の条件下でのマウスFcRnに対する結合活性を付与するために、mPM1-mIgG1の重鎖定常領域にアミノ酸改変が導入された。
具体的には、mPM1H-mIgG1のEUナンバリングで表される252位のThrがTyrに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される256位のThrがGluに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される433位のHisがLysに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される434位のAsnがPheに置換されたアミノ酸置換が加えられたmPM1H-mIgG1-mF3(配列番号:48)が作製された。
同様に、mPM1H-mIgG1のEUナンバリングで表される252位のThrがTyrに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される256位のThrがGluに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される433位のHisがLysに置換されたアミノ酸置換が加えられたmPM1H-mIgG1-mF14(配列番号:49)が作製された。
更に、mPM1H-mIgG1のEUナンバリングで表される252位のThrがTyrに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される256位のThrがGluに置換されたアミノ酸置換、EUナンバリングで表される434位のAsnがTrpに置換されたアミノ酸置換が加えられたmPM1H-mIgG1-mF38(配列番号:50)が作製された。
参考実施例2の方法を用いて、pH中性域の条件下でのマウスFcRnに対する結合を有するマウスIgG1抗体として、mPM1H-mIgG1-mF3とmPM1L-mk1からなるmPM1-mIgG1-mF3が作製された。
(2−3)BiacoreによるマウスFcRnに対する結合活性の確認
mPM1-mIgG1またはmPM1-mIgG1-mF3の重鎖および、L(WT)-CK(配列番号:41)の軽鎖を含む抗体が作製され、これらの抗体のpH7.0におけるマウスFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が測定された。結果を以下の表5に示した。
Figure 0006496702
〔実施例3〕Fc領域を有する抗原結合分子のFcRnとFcγRに対する結合実験
実施例1において、抗原結合分子の中性条件下におけるFcRnへの結合を増強することによって、血漿中滞留性および免疫原性が悪化することが確認された。天然型IgG1は中性領域でヒトFcRnに対して結合活性を有さないため、中性条件下におけるFcRnへの結合を付与したことで血漿中滞留性および免疫原性が悪化したと考えられた。
(3−1)FcRn結合ドメインとFcγR結合ドメイン
抗体のFc領域にはFcRnに対する結合ドメインとFcγRに対する結合ドメインが存在する。FcRnに対する結合ドメインはFc領域の2箇所に存在し、抗体1分子のFc領域に対して2分子のFcRnが同時に結合できることが既に報告されている(Nature (1994) 372 (6504), 379-383)。一方で、FcγRに対する結合ドメインもFc領域の2箇所に存在するが、2分子のFcγRが同時に結合することはできないと考えられている。これは、1分子目のFcγRがFc領域に結合することによって生じたFc領域の構造変化によって、2分子目のFcγRが結合できないためである(J. Biol. Chem. (2001) 276 (19), 16469-16477)。
前記のとおり、活性型FcγRは樹上細胞やNK細胞、マクロファージ、好中球、脂肪細胞といった多くの免疫細胞の細胞膜上に発現している。さらに、FcRnはヒトにおいて樹状細胞、マクロファージ、単球といった抗原提示細胞などの免疫細胞において発現が報告されている(J. Immunol. (2001) 166 (5), 3266-3276)。通常の天然型IgG1はpH中性域においてFcRnには結合できず、FcγRにしか結合できないことから、天然型IgG1は抗原提示細胞にFcγR/IgG1の二者複合体を形成することで結合する。FcγRとFcRnの細胞内ドメインにはリン酸化部位が存在する。一般に細胞表面に発現しているレセプターの細胞内ドメインのリン酸化は、レセプターが会合化することによって起こり、そのリン酸化によりレセプターの内在化が起こる。天然型IgG1が抗原提示細胞上においてFcγR/IgG1の二者複合体を形成しても、FcγRの細胞内ドメインの会合化は起こらないが、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するIgG分子が、仮にFcγR/二分子のFcRn/IgGの四者を含む複合体を形成した場合、FcγRとFcRnの3つの細胞内ドメインの会合化が起こるため、それによりFcγR/二分子のFcRn/IgGの四者を含むヘテロ複合体の内在化が誘導される可能性が考えられた。FcγR/二分子のFcRn/IgGの四者を含むヘテロ複合体の形成は、FcγRとFcRnを共に発現する抗原提示細胞上で起こると考えられ、それにより抗体分子が抗原提示細胞に取り込まれる血漿中滞留性が悪化し、さらに免疫原性が悪化する可能性が考えられた。
しかしながら、これまでpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するFc領域等のFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子が、FcγRとFcRnを共に発現している抗原提示細胞等の免疫細胞に対してどのような形で結合しているかを検証した報告がない。
FcγR/二分子のFcRn/IgGの四者複合体の形成できるかどうかは、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子がFcγRとFcRnに対して同時に結合できるか否かで判断することが可能である。そこで、下記の方法にしたがい、抗原結合分子が含むFc領域のFcRnとFcγRに対する同時結合実験が実施された。
(3−2)Biacoreを用いたFcRnとFcγRに対する同時結合の評価
Biacore T100又はT200(GE Healthcare)を用いて、ヒト又はマウスFcRnとヒト又はマウスFcγRsとが抗原結合分子に同時に結合するかが評価された。Sensor chip CM4 (GE Healthcare) 上にアミンカップリング法によって固定化されたヒト又はマウスFcRnに、被験対象の抗原結合分子をキャプチャーさせた。次に、ヒト又はマウスFcγRsの希釈液とブランクとして使用されたランニングバッファーが注入され、センサーチップ上のFcRnに結合した抗原結合分子にヒト又はマウスFcγRsを相互作用させた。ランニングバッファーとして50 mmol/L sodium phosphate、150 mmol/L NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH7.4が用いられ、FcγRsの希釈にもこのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Trsi-HCl、pH9.5が用いられた。結合の測定は全て25℃で実施された。
(3−3)ヒトIgG、ヒトFcRn、ヒトFcγRあるいはマウスFcγRの同時結合実験
pH中性域における条件下でヒトFcRnに対する結合能を有するヒト抗体である、実施例1で作製されたFv4-IgG1-F157が、ヒトFcRnに結合するのと同時に、各種ヒトFcγRまたは各種マウスFcγRに結合するか否かが評価された。
その結果、Fv4-IgG1-F157が、 ヒトFcRnに結合するのと同時に、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)に対して結合できることが示された(図3、4、5、6、7)。また、Fv4-IgG1-F157は同様に、ヒトFcRnに結合するのと同時に、マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIVに対しても結合できることが示された。(図8、9、10、11)
以上のことから、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するヒト抗体が、 ヒトFcRnに結合するのと同時に、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)やマウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIV等の各種ヒトFcγRおよび各種マウスFcγRに対しても結合できることが示された。
(3−4)ヒトIgG、マウスFcRn、マウスFcγRの同時結合実験
pH中性域における条件下でマウスFcRnに対する結合活性を有するヒト抗体である、実施例1で作製されたFv4-IgG1-F20が、マウスFcRnに結合するのと同時に、各種マウスFcγRに結合するか否かが評価された。
その結果、Fv4-IgG1-F20が、マウスFcRnに結合するのと同時に、マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIVに対して結合できることが示された(図12)。
(3−5)マウスIgG、マウスFcRn、マウスFcγRの同時結合実験
pH中性域における条件下でマウスFcRnに対する結合能を有するマウス抗体である、実施例2で作製されたmPM1-mIgG1-mF3が、マウスFcRnに結合するのと同時に、各種マウスFcγRに結合するか否かが評価された。
その結果、mPM1-mIgG1-mF3は、マウスFcRnに結合するのと同時に、マウスFcγRIIbおよびFcγRIIIに対して結合できることが示された(図13)。マウスFcγRIおよびIVに対して結合が確認されなかった結果は、マウスIgG1抗体はマウスFcγRIおよびIVに対して結合能を持たないとの報告(J. Immunol. (2011) 187 (4), 1754-1763))から判断すると、妥当な結果であると考えられる。
これらのことから、pH中性域の条件下におけるマウスFcRnに対する結合活性を有するヒト抗体およびマウス抗体は、マウスFcRnに結合するのと同時に各種マウスFcγRに対しても結合できることが示された。
以上のことから、ヒトおよびマウスIgGのFc領域にはFcRnへの結合領域とFcγRへの結合領域が存在するが、それらは互いに干渉することはなく、一分子のFcと二分子のFcRn、一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体を形成することが可能であることが示された。
抗体のFc領域がこのようなヘテロ複合体を形成できるという性質は、これまでには報告されておらず、今回初めて明らかとされた。先述のとおり、抗原提示細胞上には各種活性型FcγRおよびFcRnが発現しており、抗原結合分子が抗原提示細胞上でこのような四者複合体を形成することは、抗原提示細胞に対する親和性を向上させ、さらに細胞内ドメインを会合化させることにより内在化シグナルを増強させ、抗原提示細胞への取り込みが促進されることが示唆される。一般的に、抗原提示細胞に取り込まれた抗原結合分子は、抗原提示細胞内のリソソームにおいて分解され、T細胞へと提示される。
すなわち、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子は、一分子の活性型FcγRと二分子のFcRnの四者を含むヘテロ複合体を形成することで、抗原提示細胞への取り込みが増大し、血漿中滞留性が悪化し、さらに免疫原性が悪化したと考えられた。
そのため、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子に対して変異を導入し、このような四者複合体を形成する能力が低下した抗原結合分子を作成し、該抗原結合分子が生体に投与された場合、当該抗原結合分子の血漿中滞留性が向上し、また当該生体による免疫応答の誘起が抑制され得る(すなわち免疫原性が低下し得る)。このような複合体を形成せずに細胞内へ取り込まれる抗原結合分子の好ましい様態として、以下の三種類が挙げられ得る。
(様態1) pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性より低い抗原結合分子
様態1の抗原結合分子は、2分子のFcRnに結合することによって三者を含む複合体を形成するが、活性型FcγRを含めた複合体は形成しない。
(様態2) pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、抑制性FcγRに対する選択的な結合活性を有する抗原結合分子
様態2の抗原結合分子は、二分子のFcRnと一分子の抑制性FcγRに結合することによってこれら四者を含む複合体を形成し得る。しかしながら、一分子の抗原結合分子は一分子のFcγRとしか結合できないため、一分子の抗原結合分子は抑制性FcγRに結合した状態で他の活性型FcγRに結合することはできない。さらに、抑制性FcγRに結合した状態で細胞内へと取り込まれた抗原結合分子は、細胞膜上へとリサイクルされ、細胞内での分解を回避することが報告されている(Immunity (2005) 23, 503-514)。すなわち、抑制性FcγRに対する選択的結合活性を有する抗原結合分子は、免疫応答の原因となる活性型FcγRを含めた複合体を形成することができないと考えられる。
(様態3) FcRn結合ドメインを構成する二つのポリペプチドの一方のみpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、もう一方はpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しない抗原結合分子
様態3の抗原結合分子は、一分子のFcRnと一分子のFcγRに結合することによって三者複合体を形成しうるが、二分子のFcRnと一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体は形成しない。
これら様態1〜3の抗原結合分子は、二分子のFcRnと一分子のFcγRの四者を含む複合体を形成しうる抗原結合分子に比較して、いずれも血漿滞留性を向上させ、免疫原性を低下させることが可能であると期待される。
〔実施例4〕pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いヒト抗体の血漿中滞留性の評価
(4−1)ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性より低く、pH依存的にヒトIL-6レセプターに結合する抗体の作製
実施例3で示された三つの態様のうち、様態1の抗原結合分子、つまり、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性より低い抗原結合分子が、以下のように作製された。
実施例1で作製された、Fv4-IgG1-F21およびFv4-IgG1-F157は、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、pH依存的にヒトIL-6レセプターに結合する抗体である。これらのアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、マウスFcγRに対する結合を低下させた改変体が作製された。具体的には、VH3-IgG1-F21のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F140(配列番号:51)が作製された。また、VH3-IgG1-F157のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F424(配列番号:52)が作製された。
参考実施例2の方法を用いて、これらの重鎖およびVL3-CKの軽鎖を含む、Fv4-IgG1-F140およびFv4-IgG1-F424が作製された。
(4−2)ヒトFcRnおよびマウスFcγRに対する結合活性の確認
作製されたVH3-IgG1-F21、VH3-IgG1-F140、VH3-IgG1-F157、またはVH3-IgG1-F424を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体の、pH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)およびpH7.4におけるマウスFcγRに対する結合活性が、下記の方法を用いて測定された。
(4−3)ヒトFcRnに対する結合の速度論的解析
Biacore T100 又はT200(GE Healthcare)を用いて、ヒトFcRnと前記の抗体との結合の速度論的解析を行った。上にアミンカップリング法でprotein L(ACTIGEN)が適当量固定化されたSensor chip CM4(GE Healthcare)に、被験対象の抗体をキャプチャーさせた。次に、ヒトFcRnの希釈液とブランクとして使用されたランニングバッファーが注入され、センサーチップ上にキャプチャーさした抗体にヒトFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーとして50 mmol/L sodium phosphate、150 mmol/L NaCl、0.05%(w/v)Tween20、pH7.0またはpH7.4が用られ、ヒトFcRnの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Glycine-HCl, pH1.5が用いられた。結合の測定は全て25℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出された、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka(1/Ms)、および解離速度定数 kd(1/s)をもとに各抗体のヒトFcRnに対する KD(M)が算出された。各パラメーターの算出にはBiacore T100 又はT200 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
その結果を以下の表6に示した。
Figure 0006496702
以下の方法を用いて、pH7.4におけるマウスFcγRへの結合活性の測定を実施した。
(4−4)マウスFcγRに対する結合活性の評価
Biacore T100 又はT200(GE Healthcare)を用いて、マウスFcγRI、FcγRII、FcγRIII、FcγRIV(R&D sytems、Sino Biological)(以下、マウスFcγRsと呼ばれる)と抗体との結合活性が評価された。Sensor chip CM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法で適当量固定化されたprotein L(ACTIGEN)に、被験対象の抗体をキャプチャーさせた。次に、マウスFcγRsの希釈液とブランクとして使用されたランニングバッファーが注入され、センサーチップ上にキャプチャーされた抗体に相互作用させた。ランニングバッファーとして20 mmol/L ACES、150 mmol/L NaCl、0.05%(w/v)Tween20、pH7.4が用いられ、マウスFcγRsの希釈にもこのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Glycine-HCl、pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。
マウスFcγRsに対する結合活性はマウスFcγRsに対する相対的な結合活性によって表され得る。Protein Lに抗体をキャプチャーさせ、その抗体をキャプチャーさせた前後でのセンサーグラムの変化量をX1とした。次に、その抗体にマウスFcγRsを相互作用させ、その前後でのセンサーグラムの変化量(ΔA1)として表されたマウスFcγRsの結合活性を各抗体のキャプチャー量(X)で割った値を1500倍した値から、Protein Lにキャプチャーさせた抗体にランニングバッファーを相互作用させた前後でのセンサーグラムの変化量(ΔA2)として表されたマウスFcγRsの結合活性を差し引いた値を、各抗体のキャプチャー量(X)で割った値を1500倍した値(Y)をマウスFcγRsの結合活性とした(式1)。
〔式1〕
マウスFcγRsの結合活性(Y)=(ΔA1 - ΔA2)/X x 1500
その結果を以下の表7に示した。
Figure 0006496702
表2および表3の結果より、Fv4-IgG1-F140およびFv4-IgG1-F424は、Fv4-IgG1-F21およびFv4-IgG1-F157に比べ、ヒトFcRnに対する結合活性には影響せずに、マウスFcγRに対する結合が低下していることが示された。
(4−5)ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いたin vivo PK試験
作製されたFv4-IgG1-F140、Fv4-IgG1-F424、Fv4-IgG1-F21およびFv4-IgG1-F157がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)の尾静脈に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
(4−6)ELISA法による血漿中抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度の測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度はELISA法にて測定された。まず、Anti-Human IgG(γ-chain specific)F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup (Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125μg/mLの抗ヒトIL-6レセプター抗体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。これらの検量線試料および血漿測定試料100μLに20 ng/mLの可溶型ヒトIL-6レセプターが200μL加えられた混合液を、室温で1時間静置させた。その後当該混合液が各ウェルに分注されたAnti-Human IgG固相化プレートをさらに室温で1時間静置させた。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)と室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させた反応液の発色反応が、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中の抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
pH依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体をヒトFcRnトランスジェニックマウスに静脈内投与した後の、血漿中のpH依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体濃度を図14に示した。
図14の結果から、Fv4-IgG1-F21に比較してマウスFcγRへの結合が低いFv4-IgG1-F140は、Fv4-IgG1-F21に比べて血漿中滞留性の向上が認められた。同様に、Fv4-IgG1-F157に比較してマウスFcγRへの結合が低いFv4-IgG1-F424は、Fv4-IgG1-F157に比べて血漿中滞留性の延長が認められた。
このことから、pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する結合を有し、FcγRに対する結合が通常のFcγR結合ドメインよりも低いFcγR結合ドメインを有する抗体は、通常のFcγR結合ドメインを有する抗体よりも血漿中滞留性が高いことが示された。
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、抗原結合分子のこのような血漿中滞留性の向上が観察された理由として、当該抗原結合分子はpH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する結合活性を有し、FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインよりも低いFcγR結合ドメインを有することから、実施例3で記載された四者複合体の形成が阻害されたためとも考えられる。つまり、抗原提示細胞の細胞膜上で四者複合体を形成するFv4-IgG1-F21およびFv4-IgG1-F157は、抗原提示細胞への取込みが起こりやすくなっていると考えられる。一方、実施例3で示した様態1に属する抗原提示細胞の細胞膜上で四者複合体を形成しないFv4-IgG1-F140およびFv4-IgG1-F424においては、抗原提示細胞への取込みが阻害されていると考えられる。ここで、例えば血管内皮細胞等の活性型FcγRを発現していない細胞への抗原結合分子の取込みは、非特異的な取り込みあるいは細胞膜上のFcRnを介する取り込みが主であると考えられ、FcγRへの結合活性の低下による影響はないものと考えられる。つまり、上記で観察された血漿中滞留性の向上は、抗原提示細胞を含む免疫細胞への取込みを選択的に阻害したためであると考えられる。
〔実施例5〕pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合を有し、マウスFcγRに対する結合活性を有しないヒト抗体の血漿中滞留性評価
(5−1)ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性を有しないpH依存的にヒトIL-6レセプターに結合するヒト抗体の作製
ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性を有しないpH依存的にヒトIL-6レセプターに結合するヒト抗体を作製するため、以下のように抗体作製が行われた。
VH3-IgG1のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換されたアミノ酸置換および239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性を有しないVH3-IgG1-F760(配列番号:53)が作製された。
同様に、VH3-IgG1-F11(配列番号:54)、VH3-IgG1-F890(配列番号:55)およびVH3-IgG1-F947(配列番号:56)のそれぞれのアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換されたアミノ酸置換および239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性を有しないVH3-IgG1-F821(配列番号:57)、VH3-IgG1-F939(配列番号:58)およびVH3-IgG1-F1009(配列番号:59)が作製された。
参考実施例2の方法を用いて、これらの重鎖およびVL3-CKの軽鎖を含むFv4-IgG1、Fv4-IgG1-F11、Fv4-IgG1-F890、Fv4-IgG1-F947、Fv4-IgG1-F760、Fv4-IgG1-F821、Fv4-IgG1-F939およびFv4-IgG1-F1009が作製された。
(5−2)ヒトFcRnおよびマウスFcγRに対する結合活性の確認
参考実施例2の方法で作製されたVH3-IgG1、VH3-IgG1-F11、VH3-IgG1-F890、VH3-IgG1-F947、VH3-IgG1-F760、VH3-IgG1-F821、VH3-IgG1-F939またはVH3-IgG1-F1009を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が、実施例4の方法を用いて測定された。測定した結果を以下の表8に示した。
Figure 0006496702
実施例4の方法と同様に、VH3-IgG1、VH3-IgG1-F11、VH3-IgG1-F890、VH3-IgG1-F947、VH3-IgG1-F760、VH3-IgG1-F821、VH3-IgG1-F939またはVH3-IgG1-F1009を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体のpH7.4におけるマウスFcγRに対する結合活性が測定された。測定した結果を以下の表9に示した。
Figure 0006496702
表4および表5の結果より、Fv4-IgG1-F760、Fv4-IgG1-F821、Fv4-IgG1-F939およびFv4-IgG1-F1009は、Fv4-IgG1、Fv4-IgG1-F11、Fv4-IgG1-F890およびFv4-IgG1-F947と比べて、ヒトFcRnに対する結合活性には影響せずに、マウスFcγRに対する結合が低下していることが示された。
(5−3)ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いたin vivo PK試験
作製されたFv4-IgG1およびFv4-IgG1-F760がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)の尾静脈に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は、実施例4の方法と同様にELISA法にて測定された。その結果を図15に示した。Fv4-IgG1のマウスFcγRに対する結合活性を低下させたFv4-IgG1-F760は、Fv4-IgG1-F11に比べてほぼ同等の血漿中滞留性を示し、FcγRに対する結合活性を低下させることによる血漿滞留性の向上効果は見られなかった。
(5−4)ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いたin vivo PK試験
作製されたFv4-IgG1-F11、Fv4-IgG1-F890、Fv4-IgG1-F947、Fv4-IgG1-F821、Fv4-IgG1-F939およびFv4-IgG1-F1009がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)の背部皮下に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は、実施例4の方法と同様にELISA法にて測定された。その結果を図16に示した。Fv4-IgG1-F11のマウスFcγRに対する結合活性を低下させたFv4-IgG1-F821は、Fv4-IgG1-F11に比べてほぼ同等の血漿中滞留性を示した。一方で、Fv4-IgG1-F890のマウスFcγRに対する結合活性を低下させたFv4-IgG1-F939は、Fv4-IgG1-F890に比べて血漿中滞留性の向上が認められた。同様に、Fv4-IgG1-F947のマウスFcγRに対する結合活性を低下させたFv4-IgG1-F1009は、Fv4-IgG1-F947に比べて血漿中滞留性の向上が認められた。
一方、Fv4-IgG1とIgG1-F760の両者においては血漿中滞留性の違いは認められず、pH中性域におけるFcRn結合活性を有さないFv4-IgG1は、免疫細胞上でFcγRとの二者複合体を形成し、四者複合体を形成することができないことから、FcγRへの結合活性の低下により血漿中滞留性の向上が認められなかったと考えられた。すなわち、pH中性域におけるFcRn結合活性を有する抗原結合分子に対して、FcγRへの結合活性を低下させ四者複合体の形成を阻害することで初めて血漿中滞留性の向上が認められたと言える。このことからも、四者複合体の形成が血漿中滞留性の悪化に重要な役割を果たしていると考えられる。
(5−5)ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性を有しないpH依存的にヒトIL-6レセプターに結合するヒト抗体の作製
VH3-IgG1-F947(配列番号:56)のアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換されたアミノ酸置換および235位のLeuがAlaに置換されたアミノ酸置換によって、ヒトおよびマウスFcγRに対する結合活性が低下されたVH3-IgG1-F1326(配列番号:155)が作製された。
参考実施例2の方法を用いて、VH3-IgG1-F1326の重鎖およびVL3-CKの軽鎖を含むFv4-IgG1-F1326が作製された。
(5−6)ヒトFcRnおよびマウスFcγRに対する結合活性の確認
参考実施例2の方法で作製されたVH3-IgG1-F1326を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が、実施例4の方法を用いて測定された。また、実施例4の方法と同様に、pH7.4におけるマウスFcγRに対する結合活性が測定された。測定した結果を以下の表10に示した。
Figure 0006496702
表10の結果より、Fv4-IgG1-F1326は、Fv4-IgG1-F947と比べて、ヒトFcRnに対する結合活性には影響せずに、マウスFcγRに対する結合が低下していることが示された。
(5−7)ヒトFcRnトランスジェニックマウスを用いたin vivo PK試験
作製されたFv4-IgG1-F1326がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が実施例5−4の方法と同様に実施された。 マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は、実施例4の方法と同様にELISA法にて測定された。その結果を、実施例5−4で得られたFv4-IgG1-F947の結果とあわせて図54に示した。Fv4-IgG1-F947のマウスFcγRに対する結合活性を低下させたFv4-IgG1-F1326は、Fv4-IgG1-F947に比べて血漿中滞留性の向上が認められた。
以上のことから、中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強したヒト抗体において、マウスFcγRへの結合活性を低下させ四者複合体の形成を阻害することにより、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性の向上が可能であることが示された。ここで、マウスFcγRへの結合活性を低下させることにより血漿中滞留性向上の効果が示されるためには、好ましくはヒトFcRnへのpH7.0でのアフィニティー(KD)が310 nMよりも強く、更に好ましくは110 nM以下である。
結果として、実施例4と同様に、抗原結合分子に対して様態1の性質を付与することにより血漿中滞留性の向上が確認された。ここで見られている血漿中滞留性の向上は、抗原提示細胞を含む免疫細胞への取り込みを選択的に阻害したためであると考えられ、その結果として免疫応答の誘起を阻害することも可能であると期待される。
〔実施例6〕pH中性域におけるマウスFcRnに対する結合を有し、マウスFcγRに対する結合活性を有しないマウス抗体の血漿中滞留性の評価
(6−1)マウスFcγRに対する結合活性を有しないヒトIL-6レセプターに結合するマウス抗体の作製
実施例4および5において、pH中性域の条件下においてヒトFcRnに対する結合活性を有し、マウスFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含む抗原結合分子は、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中滞留性が向上していることが示された。同様に、pH中性域の条件下においてマウスFcRnに対する結合活性を有し、マウスFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含む抗原結合分子の、ノーマルマウスにおける血漿中滞留性が向上されているかどうかが検証された。
実施例2で作製されたmPM1H-mIgG1-mF38のアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される235位のProがLysに置換されたアミノ酸置換および239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、mPM1H-mIgG1-mF40(配列番号:60)が、mPM1H-mIgG1-mF14のアミノ酸配列の、EUナンバリングで表される235位のProがLysに置換されたアミノ酸置換および239位のSerがLysに置換されたアミノ酸置換によって、mPM1H-mIgG1-mF39(配列番号:61)が作製された。
(6−2)マウスFcRnおよびマウスFcγRに対する結合活性の確認
実施例2の方法を用いて、pH7.0におけるマウスFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が測定された。その結果を以下の表11に示した。
Figure 0006496702
実施例4の方法を用いて、pH7.4におけるマウスFcγRに対する結合活性が測定された。その結果を以下の表12に示した。
Figure 0006496702
(6−3)ノーマルマウスを用いたin vivo PK試験
作製されたmPM1-mIgG1-mF14、mPM1-mIgG1-mF38、mPM1-mIgG1-mF39、mPM1-mIgG1-mF40が、ノーマルマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の背部皮下に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後5分、7時間、1日、2日、4日、7日、14日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
(6−4)ELISA法による血漿中抗ヒトIL-6レセプターマウス抗体濃度の測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプターマウス抗体濃度はELISA法にて測定された。まず、可溶型ヒトIL-6レセプター をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによって可溶型ヒトIL-6レセプター固相化プレートが作成された。血漿中濃度として1.25、0.625、 0.313、0.156、0.078、0.039、0.020μg/mLの抗ヒトIL-6レセプターマウス抗体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。これらの検量線試料および血漿測定試料100μLが各ウェルに分注された可溶型ヒトIL-6レセプター固相化プレートを室温で2時間静置させた。その後Anti-Mouse IgG-Peroxidase antibody(SIGMA)と室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させた反応液の発色反応が、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中の抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中の抗体濃度の推移を図17に示した。
図17の結果から、マウスFcγRに対する結合を有しないmPM1-mIgG1-mF40は、mPM1-mIgG1-mF38に比べて血漿中滞留性の向上が認められた。また、マウスFcγRに対する結合を有しないmPM1-mIgG1-mF39は、mPM1-mIgG1-mF14に比べて血漿中滞留性の向上が認められた。
以上のことから、pH中性域の条件下におけるマウスFcRnに対する結合を有し、マウスFcγRに対する結合活性を有しないFcγR結合ドメインを有する抗体は、通常のFcγR結合ドメインを有する抗体よりもノーマルマウスにおける血漿中滞留性が高いことが示された。
結果として、実施例4および5と同様に、抗原結合分子に対して様態1の性質を有する抗原結合分子は血漿中滞留性が高いことが確認された。本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、ここで観察された血漿中滞留性の向上は、抗原提示細胞等の免疫細胞への取り込みを選択的に阻害したためであると考えられ、その結果として免疫応答の誘起を阻害することも可能であると期待される。
〔実施例7〕pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むヒト化抗体(抗ヒトIL-6レセプター抗体)のin vitro免疫原性の評価
様態1の抗原結合分子、つまり、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含む抗原結合分子の、ヒトにおける免疫原性を評価するために、下記の方法によって当該抗原結合分子に対するin vitroにおけるT細胞応答が評価された。
(7−1)ヒトFcRnに対する結合活性の確認
実施例4で測定された、VH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F21およびVH3/L(WT)-IgG1-F140のpH中性域の条件下(pH7.0)におけるヒトFcRnに対する結合定数(KD)を以下の表13に示した。
Figure 0006496702
(7−2)ヒトFcγRに対する結合活性の評価
以下の方法を用いて、VH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F21、VH3/L(WT)-IgG1-F140のpH7.4におけるヒトFcγRに対する結合活性が測定された。
Biacore T100 又はT200 (GE Healthcare) を用いて、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)(以下、ヒトFcγRsと呼ばれる)と抗体との結合活性が評価された。Sensor chip CM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法で適切な量固定化されたprotein L(ACTIGEN)に、被験対象の抗体をキャプチャーさせた。次に、ヒトFcγRsの希釈液とブランクとして使用されたランニングバッファーが注入され、センサーチップ上にキャプチャーされた抗体に相互作用させた。ランニングバッファーとして20 mmol/L ACES、150 mmol/L NaCl、0.05%(w/v)Tween20、pH7.4が用いられ、ヒトFcγRsの希釈にもこのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Glycine-HCl、pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。
ヒトFcγRsに対する結合活性はヒトFcγRsに対する相対的な結合活性によって表され得る。Protein Lに抗体をキャプチャーさせ、その抗体をキャプチャーさせた前後でのセンサーグラムの変化量をX1とした。次に、その抗体にヒトFcγRsを相互作用させ、その前後でのセンサーグラムの変化量(ΔA1)として表されたヒトFcγRsの結合活性を各抗体のキャプチャー量(X)で割った値を1500倍した値から、Protein Lにキャプチャーさせた抗体にランニングバッファーを相互作用させた前後でのセンサーグラムの変化量(ΔA2)として表されたヒトFcγRsの結合活性を差し引いた値を、各抗体のキャプチャー量(X)で割った値を1500倍した値(Y)をヒトFcγRsの結合活性とした(式2)。
〔式2〕
ヒトFcγRsの結合活性(Y)=(ΔA1 - ΔA2)/X x 1500
その結果を以下の表14に示した。
Figure 0006496702
表14の結果より、Fv4-IgG1-F140は、Fv4-IgG1-F21に比べ、ヒトFcRnに対する結合活性には影響せずに、各種ヒトFcγRに対する結合が低下していることが示された。
(7−3)ヒトPBMCを用いたin vitro免疫原性試験
実施例1で作製されたFv4-IgG1-F21、Fv4-IgG1-F140を用いて、下記の通りin vitro免疫原性試験が実施された。
末梢血単核球細胞(PBMC)が、健常人ボランティアから採取した血液より単離された。Ficoll(GE Healthcare)密度遠心分離によって血液から分離されたPBMCから、Dynabeads CD8(invitrogen)を用いて付属の標準プロトコールに従い、マグネットによってCD8+T細胞が除去された。次いでDynabeads CD25(invitrogen)を用いて付属の標準プロトコールに従い、CD25hiT細胞がマグネットによって除去された。
増殖アッセイが以下のように実施された。CD8+ 及び CD25hiT 細胞が除去され、2×106 /mL となるように 3% 不活性化ヒト血清を含む AIMV 培地 (Invitrogen) に再懸濁された各ドナーのPBMCが、平底の24ウェルプレートに1ウェルあたり 2×106細胞加えられた。37℃、5%CO2の条件下で 2 時間の培養後、各被験物質が終濃度 10、30、100、300μg/mLとなるように添加された細胞が8日間培養された。培養 6、7及び8日の時点で、丸底 96 ウェルプレートに移された培養中の細胞懸濁液 150μLに対してBrdU(Bromodeoxyuridine)が加えられ、さらに当該細胞が24 時間培養された。BrdUとともに培養された細胞の核内に取り込まれた BrdUが、BrdU Flow Kit(BD bioscience)を用いて付属の標準プロトコールに従い染色されるのと同時に抗CD3、CD4 及び CD19 抗体(BD bioscience)によって表面抗原(CD3、CD4 及び CD19)が染色された。次いで BD FACS Calibur 又は BD FACS CantII(BD)によってBrdU陽性CD4+T細胞の割合が検出された。培養6、7及び 8日において、被検物質の10、30、100、300μg/mLの各終濃度でのBrdU陽性CD4+T細胞の割合が算出され、それらの平均値が算出された。
結果を図18に示した。図18では、CD8+ 及び CD25hiT 細胞を除去された 5人のヒトドナーのPBMC中の、Fv4-IgG1-F21、Fv4-IgG1-F140に対するCD4T+細胞の増殖応答が表されている。まず、陰性対照に比較して、被検物質を加えたことによるドナーA、BおよびDのPBMCでのCD4T+細胞の増殖応答の増加は観察されなかった。これらのドナーは、そもそも被検物質に対する免疫応答を起こさないことが考えられる。一方、陰性対照に比較して、被検物質を加えたことによるドナーCおよびEのPBMCでのCD4T+細胞の増殖応答が観察された。着目すべき点として、ドナーC、Eのいずれにおいても、Fv4-IgG1-F21に比較して、Fv4-IgG1-F140に対するCD4T+細胞の増殖応答が低下する傾向が挙げられる。先述したとおり、Fv4-IgG1-F140はFv4-IgG1-F21よりもヒトFcγRに対する結合活性が低く、様態1の性質を有している。以上の結果から、pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含む抗原結合分子に対する免疫原性が抑制され得ることが示唆された。
〔実施例8〕pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含むヒト化抗体(抗ヒトA33抗体)のin vitro免疫原性評価
(8−1)hA33-IgG1の作製
実施例7で示されたように、Fv4-IgG1-F21に対するヒトPBMCの免疫応答性が元来低いため、FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含むFv4-IgG1-F140に対する免疫応答の抑制を評価するためには、適さないことが示唆された。そこで、in vitro免疫原性評価系において、免疫原性低減効果の検出力を高めるために、A33 抗原に対するヒト化IgG1抗体であるヒト化A33抗体(hA33-IgG1)が作製された。
hA33-IgG1は、臨床試験において 33-73% の被験者で抗抗体の産生が確認されている(Hwangら(Methods (2005) 36, 3-10)およびWalleら(Expert Opin. Bio. Ther. (2007) 7 (3), 405-418))。hA33-IgG1はこの高い免疫原性は可変領域配列によるものであることから、hA33-IgG1に対してpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を増強させた分子に対して、FcγRに対する結合活性を低下させて四者複合体形成を阻害することによる免疫原性低減効果を検出しやすいと考えられた。
ヒト化A33抗体の重鎖可変領域としてhA33H(配列番号:62)および軽鎖可変領域としてhA33L(配列番号:63)のアミノ酸配列は公知の情報(British Journal of Cancer (1995) 72, 1364-1372)から取得された。また、重鎖定常領域として天然型ヒトIgG1(配列番号:11、以降はIgG1と表記される)、軽鎖定常領域として天然型ヒトkappa(配列番号:64、以降はk0と表記される)が用いられた。
参考実施例1の方法に従い、重鎖hA33H-IgG1および軽鎖hA33L-k0の塩基配列を含む発現ベクターが作製された。また、参考実施例2の方法に従い、重鎖hA33H-IgG1および軽鎖hA33L-k0を含む、ヒト化A33抗体であるhA33-IgG1が作製された。
(8−2)pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する結合活性を有するA33結合抗体の作製
作製されたhA33-IgG1は、天然型ヒトFc領域を有するヒト抗体であるため、pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する結合活性を有しない。そこで、pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する結合能を付与するために、hA33-IgG1の重鎖定常領域にアミノ酸改変が導入された。
具体的には、hA33-IgG1の重鎖定常領域であるhA33H-IgG1のEUナンバリングで表される252位のアミノ酸がMetからTyrに置換され、EUナンバリングで表される308位のアミノ酸がValからProに置換され、EUナンバリングで表される434位のアミノ酸がAsnからTyrに置換されたことにより、hA33H-IgG1-F21(配列番号:65)が作製された。参考実施例2の方法を用いて、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するA33結合抗体として、hA33H-IgG1-F21を重鎖として含み、hA33L-k0を軽鎖として含むhA33-IgG1-F21が作製された。
(8−3)pH中性域の条件下でのヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むA33結合抗体の作製
hA33-IgG1-F21のヒトFcγRに対する結合活性を低下させるため、hA33H-IgG1-F21のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換された、hA33H-IgG1-F140(配列番号:66)が作製された。
(8−4)in vitro T-cellアッセイによる各種A33結合抗体の免疫原性評価
実施例7と同様の方法を用いて、作製されたhA33-IgG1-F21、hA33-IgG1-F140に対する免疫原性の評価が行われた。なお、ドナーである健常人ボランティアは実施例7で用いられたPBMCが単離された健常人ボランティアとは同一の個体ではない。つまり、実施例7におけるドナーAと当試験におけるドナーAは別の個体の健常人ボランティアである。
試験の結果を図19に示した。図19では、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合を有するhA33-IgG1-F21と、さらにヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むhA33-IgG1-F140の結果が比較されている。陰性対照に比べて、ドナーC、DおよびFから単離されたPBMCのhA33-IgG1-F21に対する反応は観察されていないため、ドナーC、DおよびFはhA33-IgG1-F21に対して免疫応答を起こさないドナーであると考えられる。それ以外の7名のドナー(ドナーA、B、E、G、H、IおよびJ)から単離されたPBMCにおいては、hA33-IgG1-F21に対する免疫応答が陰性対照に比べて高いことが観察されており、hA33-IgG1-F21はin vitroにおいて期待通り高い免疫原性を示した。一方で、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むhA33-IgG1-F140に対する、これら7名の全ドナー(ドナーA、B、E、G、H、IおよびJ)から単離されたPBMCの免疫応答が、hA33-IgG1-F21に対するそれと比較して、低下している効果が観察される。また、hA33-IgG1-F140に対する、ドナーEおよびJから単離されたPBMCの免疫応答は陰性対照と同程度あることからも、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子において、ヒトFcγRに対する結合活性を天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低くして四者複合体の形成を阻害することで免疫原性を低減することできると考えられた。
〔実施例9〕pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性を有しないヒト化抗体(抗ヒトA33抗体)のin vitro免疫原性評価
(9−1)pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する強い結合活性を有するA33結合抗体の作製
hA33H-IgG1に対してEUナンバリングで表される252位のアミノ酸がMetからTyrに置換され、EUナンバリングで表される286位のアミノ酸がAsnからGluに置換され、EUナンバリングで表される307位のアミノ酸がThrからGlnに置換され、EUナンバリングで表される311位のアミノ酸がGlnからAlaに置換され、EUナンバリングで表される434位のアミノ酸がAsnからTyrに置換されたことにより、hA33H-IgG1-F698(配列番号:67)が参考実施例1の方法で作製された。pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する強い結合活性を有するヒトA33結合抗体として、hA33H-IgG1-F698を重鎖として含み、hA33L-k0を軽鎖として含むhA33-IgG1-F698が作製された。
(9−2)pH中性域の条件下でのヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含むA33結合抗体の作製
hA33H-F698のEUナンバリングで表される239番目のSerがLysに置換され、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含む、hA33H-IgG1-F699(配列番号:68)が作製された。
実施例4の方法を用いて、VH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F698およびVH3/L(WT)-IgG1-F699のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性が測定された。更に、実施例7の方法を用いて、pH7.4におけるヒトFcγRに対するVH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F698およびVH3/L(WT)-IgG1-F699の結合活性が測定された。その結果を併せて以下の表15に示した。
Figure 0006496702
表15に示されるように、各種ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低い抗原結合ドメインを含む、EUナンバリングで表される239番のSerがLysに置換されたVH3/L(WT)-IgG1-F699は、hFcgRIIa(R)、hFcgRIIa(H)、hFcgRIIb、hFcgRIIIa(F)に対する結合は低下しているものの、hFcgRIに対する結合活性を有していた。
(9−3)各種A33結合抗体のin vitro T-cellアッセイによる免疫原性評価
作製されたhA33-IgG1-F698、hA33-IgG1-F699に対する免疫原性の評価が、実施例7と同様の方法で行われた。なお、ドナーである健常人ボランティアは実施例7および8で用いられたPBMCが単離された健常人ボランティアとは同一の個体ではない。つまり、実施例7および実施例8におけるドナーAと、当試験におけるドナーAは別の個体の健常人ボランティアである。
試験の結果を図20に示した。図20では、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する強い結合活性を有するhA33-IgG1-F698と、さらにヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγRドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むhA33-IgG1-F699の結果が比較されている。陰性対照に比べてドナーGおよびIから単離されたPBMCのhA33-IgG1-F698に対する反応は観察されていないため、ドナーGおよびIはhA33-IgG1-F698に対して免疫応答を起こさないドナーであると考えられる。それ以外の7名のドナー(ドナーA、B、C、D、E、FおよびH)から単離されたPBMCにおいては、hA33-IgG1-F698に対する免疫応答が陰性対照に比べて高いことが観察されており、前述のhA33-IgG1-F21と同様にin vitroにおいて高い免疫原性を示した。一方で、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγRドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むhA33-IgG1-F699に対する、5名のドナー(ドナーA、B、C、DおよびF)から単離されたPBMCの免疫応答が、hA33-IgG1-F698に対するそれと比較して、低下している効果が観察される。特に、hA33-IgG1-F699に対するドナーCおよびFから単離されたPBMCの免疫応答は陰性対照と同程度であることが確認された。hA33-IgG1-F21だけでなくヒトFcRnに対してより強い結合活性を有するhA33-IgG1-F698に対しても免疫原性低減効果が確認されたことからpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子において、ヒトFcγRに対する結合活性を天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低くして四者複合体の形成を阻害することで免疫原性を低減することできることが示された。
(9−4)pH中性域の条件下でのヒトFcγRIaに対する結合活性を有しないA33結合抗体の作製
(9−3)に記載したとおり、hA33-IgG1-F698のEUナンバリングで表される239番のSerをLysに置換することによって各種ヒトFcγRに対する結合活性が低下しているhA33-IgG1-F699は、hFcgRIIa(R)、hFcgRIIa(H)、hFcgRIIb、hFcgRIIIa(F)に対する結合は顕著に低下しているものの、hFcgRIに対する結合は残存していた。
そこで、hFcgRIaも含めた全てのヒトFcγRに対する結合を有しないFcγR結合ドメインを含む、A33結合抗体を作製するために、hA33H-IgG1-F698(配列番号:67)のEUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換され、EUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換された、hA33H-IgG1-F763(配列番号:69)が作製された。
実施例4の方法を用いて、VH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F698、VH3/L(WT)-IgG1-F763のpH中性域の条件下(pH7.0)におけるヒトFcRnに対する結合定数(KD)が測定された。また、実施例7に記載された方法で、VH3/L(WT)-IgG1、VH3/L(WT)-IgG1-F698、VH3/L(WT)-IgG1-F763のヒトFcγRに対する結合活性が評価された。その結果についても併せて以下の表16に示した。
Figure 0006496702
表16に示したとおり、EUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換され、EUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換されたIgG1-F763は、hFcγRIaも含めた全てのヒトFcγRに対する結合活性が低下していることが示された。
(9−5)各種A33結合抗体のin vitro T-cellアッセイによる免疫原性評価
実施例7と同様の方法を用いて、作製されたhA33-IgG1-F698、hA33-IgG1-F763の免疫原性が評価された。なお、これまでと同様に、ドナーである健常人ボランティアは前記実施例で用いられたPBMCが単離された健常人ボランティアとは同一の個体ではない。つまり、前記実施例におけるドナーAと、当試験におけるドナーAは別の個体の健常人ボランティアである。
試験の結果を図21に示した。図21では、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する強い結合活性を有するhA33-IgG1-F698と、さらにヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγRドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むhA33-IgG1-F763の結果が比較されている。陰性対照に比べてドナーB、E、FおよびKから単離されたPBMCのhA33-IgG1-F698に対する反応は観察されていないため、ドナーB、E、FおよびKはhA33-IgG1-F698に対して免疫応答を起こさないドナーであると考えられる。それ以外の7名のドナー(ドナーA、C、D、G、H、I、およびJ)から単離されたPBMCにおいては、hA33-IgG1-F698に対する免疫応答が陰性対照に比べて高いことが観察されている。一方で、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγRドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含むhA33-IgG1-F763に対する、4名のドナー(ドナーA、C、DおよびH)から単離されたPBMCの免疫応答が、hA33-IgG1-F698に対するそれと比較して、低下している効果が観察される。これら4名のドナーのうち、特にドナーC、DおよびHから単離されたPBMCのhA33-IgG1-F763に対する免疫応答は陰性対照と同程度であり、FcγRへの結合を低下させることによりPBMCの免疫応答が低下していた4名のドナーのうち、実に3名までもが、PBMCの免疫応答を完全に抑制することが可能であった。このことからも、ヒトFcγRに対する結合活性が低いFcγR結合ドメインを含む抗原結合分子は、免疫原性が低減した極めて有効な分子であると考えられる。
実施例7、8および9の結果から、抗原提示細胞上で四者複合体を形成しうる抗原結合分子に比べ、活性型FcγRへの結合を低減させることで四者複合体の形成を阻害した抗原結合分子(様態1)に対する免疫応答は、多くのドナーにおいて抑制されていることが確認された。以上の結果から、抗原提示細胞上で四者複合体の形成することが抗原結合分子の免疫応答に重要であり、当該複合体を形成しない抗原結合分子は、多くのドナーにおいて免疫原性を低減させることが可能であることが示された。
〔実施例10〕pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、マウスFcγRに対する結合活性を有しないヒト化抗体のin vivo免疫原性評価
実施例7、8および9において、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFcγR結合ドメインを含む抗原結合分子は、FcγR結合活性が低下されていない抗原結合分子に比較して、免疫原性が低減していることがin vitroの実験において示された。この効果がin vivoにおいても示されることを確認するために、下記の試験が実施された。
(10−1)ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおけるin vivo免疫原性試験
実施例5で得られたマウス血漿を用いて、Fv4-IgG1-F11、Fv4-IgG1-F890、Fv4-IgG1-F947、Fv4-IgG1-F821、Fv4-IgG1-F939、Fv4-IgG1-F1009に対する抗体産生が下記の方法で評価された。
(10−2)電気化学発光法による血漿中抗投与検体抗体測定
マウスの血漿中抗投与検体抗体は電気化学発光法にて測定された。まず投与検体がUncoated MULTI-ARRAY Plate(Meso Scale Discovery)に分注され、4℃で1晩静置することにより投与検体固相化プレートが作成された。50倍に希釈されたマウス血漿測定試料が調製され、投与検体固相化プレートに分注し4℃で1晩反応された。その後SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したAnti-Mouse IgG(whole molecule)(SIGMA)を室温で1時間反応させ、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)を分注し、ただちにSECTOR PR 400(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。測定系毎に、抗体が投与されていない個体5個体の血漿が陰性対照サンプルとして測定され、その5個体の血漿を用いて測定された数値の平均値(MEAN)に、5個体の血漿を用いて測定された数値の標準偏差(SD)の1.645倍を加えた数値(X)が、陽性判定基準として用いられた(式3)。いずれかの採血日において、1度でも陽性判定基準を上回る反応が示された個体が、被検物質に対する抗体産生応答が陽性であると判定された。
〔式3〕
抗体産生の陽性判定基準(X)= MEAN + 1.645 x SD
(10−3)FcγRへの結合活性を低下させることによるin vivo免疫原性の抑制効果
その結果を図22から図27に示した。図22にFv4-IgG1-F11がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F11に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与後いずれの採血日においても、3匹のマウスの内1匹のマウス(#3)において、Fv4-IgG1-F11に対するマウス抗体の産生が陽性であることが示された(陽性率1/3)。一方で、図23にFv4-IgG1-F821がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F821に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与後いずれの採血日においても、3匹のマウス全てにおいて、Fv4-IgG1-F821に対するマウス抗体の産生は陰性であることが示された(陽性率0/3)。
図24A及びその拡大図である図24Bに、Fv4-IgG1-F890がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F890に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与から21日後および28日後の時点で、3匹のマウスの内2匹のマウス(#1、#3)において、Fv4-IgG1-F890に対するマウス抗体の産生が陽性であることが示された(陽性率2/3)。一方で、図25にFv4-IgG1-F939がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F939に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与後いずれの採血日においても、3匹のマウス全てにおいて、Fv4-IgG1-F939に対するマウス抗体の産生は陰性であることが示された(陽性率0/3)。
図26にFv4-IgG1-F947がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F947に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与から14日後の時点で、3匹のマウスの内2匹のマウス(#1、#3)において、Fv4-IgG1-F947に対するマウス抗体の産生が陽性であることが示された(陽性率2/3)。一方で、図27にFv4-IgG1-F1009がヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与されてから3日後、7日後、14日後、21日後および28日後の、Fv4-IgG1-F1009に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与から7日後以降の採血日において、3匹のマウスのうち2匹のマウス(#4、#5)において、Fv4-IgG1-F1009に対するマウス抗体の産生が陽性であることが示された(陽性率2/3)。
実施例5において示された通り、Fv4-IgG1-F11に対して各種マウスFcγRへの結合を低下させたものがFv4-IgG1-F821であり、同様にFv4-IgG1-F890に対して各種マウスFcγRへの結合を低下させたものがFv4-IgG1-F939であり、同様にFv4-IgG1-F947に対して各種マウスFcγRへの結合を低下させたものがFv4-IgG1-F1009である。
Fv4-IgG1-F11およびFv4-IgG1-F890に対しては、各種マウスFcγRへの結合を低下させることにより、生体内における免疫原性を顕著に低減させることが可能であることが示された。一方、Fv4-IgG1-F947に対しては、各種マウスFcγRへの結合を低下させることによる、生体内における免疫原性を低下させる効果は示されなかった。
特定の理論に拘束されるものではないが、このような免疫原性の抑制効果が見られた理由として、以下のように説明することも可能である。
実施例3に記載されたように、pH中性域の条件下においてFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子に対して、FcγRへの結合活性を低下させることにより、抗原提示細胞の細胞膜上における四者複合体の形成を阻害することが可能であると考えられる。四者複合体の形成が阻害されることによって、抗原提示細胞への抗原結合分子の取り込みも抑制され、結果的に抗原結合分子に対する免疫原性の誘導が抑制されると考えられる。Fv4-IgG1-F11およびFv4-IgG1-F890については、FcγRへの結合活性を低下させることにより、このようにして免疫原性の誘導が抑制されたとも考えられる。
一方で、Fv4-IgG1-F947については、FcγRへの結合活性を低下させることによる免疫原性の抑制効果が示されなかった。特定の理論に拘束されるものではないが、その理由としては以下のように考察することも可能である。
図16に示されたように、Fv4-IgG1-F947およびFv4-IgG1-F1009の血漿中からの消失は非常に速い。ここで、Fv4-IgG1-F1009はマウスFcγRへの結合活性が低下しており、抗原提示細胞上での四者複合体の形成は阻害されていると考えられる。そのため、Fv4-IgG1-F1009は血管内皮細胞や血球系細胞等の細胞膜上に発現しているFcRnのみに結合することにより、細胞内へと取り込まれていると考えられる。ここで、一部の抗原提示細胞の細胞膜上にもFcRnが発現していることから、Fv4-IgG1-F1009はFcRnのみに結合することによっても、抗原提示細胞に取り込まれ得る。つまり、Fv4-IgG1-F1009の血漿中からの急速な消失のうち、一部は抗原提示細胞への取り込みが起きている可能性がある。
更に、Fv4-IgG1-F1009はヒト抗体であり、マウスにとっては完全に異種タンパク質である。つまり、マウスはFv4-IgG1-F1009に対して特異的に応答する多くのT細胞集団を有していると考えられる。抗原提示細胞に僅かにでも取り込まれたFv4-IgG1-F1009は、細胞内でプロセシングを受けた後、T細胞へと提示され得るが、マウスはFv4-IgG1-F1009に対して特異的に応答する多くのT細胞集団を有しているために、Fv4-IgG1-F1009に対する免疫応答が誘導されやすいとも考えられる。実際、参考実施例4に示したようにマウスに異種タンパク質であるヒト可溶型IL-6レセプターを投与するとヒト可溶型IL-6レセプターは短時間に消失し、ヒト可溶型IL-6レセプターに対する免疫応答が誘導される。ヒト可溶型IL-6レセプターはpH中性域におけるFcRnおよびFcγR に対する結合活性を有さないにもかかわらず免疫原性が誘導されたのは、ヒト可溶型IL-6レセプターの消失が早く、抗原提示細胞に取り込まれる量が多いためであると考えられる。
すなわち、抗原結合分子が異種タンパク質(ヒトタンパク質をマウスに投与)である場合には、抗原結合分子が同種タンパク質(マウスタンパク質をマウスに投与)である場合と比較して、抗原提示細胞上での四者複合体の形成を阻害することによって免疫応答を抑制することは、より困難であるとも考えられる。
実際、抗原結合分子が抗体である場合、ヒトに投与される抗体は、ヒト化抗体あるいはヒト抗体であることから、同種タンパク質に対する免疫応答が起こることになる。そこで、実施例11において、四者複合体の形成阻害が免疫原性の低減につながるか否かについて、マウス抗体をマウスに投与することで評価された。
〔実施例11〕pH中性域の条件下におけるマウスFcRnに対する結合活性を有し、マウスFcγRに対する結合活性を有しないマウス抗体のin vivo免疫原性評価
(11−1)ノーマルマウスにおけるin vivo免疫原性試験
抗原結合分子が同種タンパク質(マウス抗体をマウスに投与)である場合の、抗原提示細胞上での四者複合体の形成を阻害することによる免疫原性の抑制効果を検証する目的で、以下のような試験が実施された。
実施例6で得られたマウス血漿を用いて、以下の方法を用いて、mPM1-mIgG1-mF38、mPM1-mIgG1-mF40、mPM1-mIgG1-mF14、mPM1-mIgG1-mF39に対する抗体産生が評価された。
(11−2)電気化学発光法による血漿中抗投与検体抗体測定
マウスの血漿中抗投与検体抗体は電気化学発光法にて測定された。MULTI-ARRAY 96 well plate に投与検体が分注され、室温で1hr反応させた。plateを洗浄後に、50倍希釈されたマウス血漿測定試料が調製され、室温で2hr反応させて洗浄された後、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化した投与検体を分注して4℃で一晩反応させた。翌日plateを洗浄後にRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注され、ただちにSECTOR PR 2400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。測定系毎に、抗体が投与されていない個体5個体の血漿が陰性対照サンプルとして測定され、その5個体の血漿を用いて測定された数値の平均値(MEAN)に、5個体の血漿を用いて測定された数値の標準偏差(SD)の1.645倍を加えた数値(X)が、陽性判定基準として用いられた(式3)。いずれかの採血日において、1度でも陽性判定基準を上回る反応が示された個体が、被検物質に対する抗体産生応答が陽性であると判定された。
〔式3〕
抗体産生の陽性判定基準(X)= MEAN + 1.645 x SD
(11−3)FcγRへの結合活性を低下させることによるin vivo免疫原性の抑制効果
その結果を図28から図31に示した。図28にmPM1-mIgG1-mF14がノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-mIgG1-mF14に対して産生されたマウス抗体の抗体価が示されている。投与から21日後の時点で、3匹のマウス全てにおいて、mPM1-mIgG1-mF14に対するマウス抗体の産生が陽性であることが示された(陽性率3/3)。一方で、図29にはmPM1-mIgG1-mF39がノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-mIgG1-mF39に対して産生されたマウス抗体の抗体価が示されている。投与後いずれの採血日においても、3匹のマウス全てにおいて、mPM1-mIgG1-mF39に対するマウス抗体の産生は陰性であることが示された(陽性率0/3)。
図30にmPM1-mIgG1-mF38がノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-mIgG1-mF38に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与から28日後の時点で、3匹のマウスの内2匹のマウス(#1、#2)において、mPM1-mIgG1-mF38に対するマウス抗体の産生が陽性であることが示された(陽性率2/3)。一方で、図31にmPM1-mIgG1-mF40がノーマルマウスに投与されてから14日後、21日後および28日後の、mPM1-mIgG1-mF40に対して産生されたマウス抗体の抗体価を示した。投与後いずれの採血日においても、3匹のマウス全てにおいて、mPM1-mIgG1-mF40に対するマウス抗体の産生は陰性であることが示された(陽性率0/3)。
実施例6において示された通り、mPM1-mIgG1-mF38に対して各種マウスFcγRへの結合を低下させたものがmPM1-mIgG1-mF40であり、同様にmPM1-mIgG1-mF14に対して各種マウスFcγRへの結合を低下させたものがmPM1-mIgG1-mF39である。
これらの結果から、同種タンパク質であるマウス抗体であるmPM1-mIgG1-mF38およびmPM1-mIgG1-mF14をノーマルマウスに投与しても、投与抗体に対する抗体産生が確認され、免疫応答が確認された。これは、実施例1、2で示したように、pH中性域においてFcRnへの結合活性を増強させ、抗原提示細胞上で四者複合体を形成することにより、抗原提示細胞への取り込みが促進されたためであると考えられる。
このようなpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子に対して、各種マウスFcγRへの結合を低下させることによって四者複合体の形成を阻害することにより、生体内における免疫原性を低減することが可能であることが示された。
以上のことから、in vitroおよびin vivoの両方において、pH中性域の条件下におけるFcRnに対する結合活性を有する抗原結合分子に対して、FcγRへの結合活性を低下させることにより、当該抗原結合分子の免疫原性を極めて有効に低下させることが可能であることが示された。言い換えれば、pH中性域の条件下におけるFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性より低い抗原結合分子(すなわち、実施例3で記載した様態1の抗原結合分子)は、天然型FcγR結合ドメインと同程度の結合活性を有する抗原結合分子(すなわち、実施例3で記載した四者複合体を形成し得る抗原結合分子)に比較して、免疫原性が顕著に低下されていることが示された。
〔実施例12〕pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いヒト抗体の作製および評価
(12−1)pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いヒトIgG1抗体の作製および評価
本発明の非限定の一態様では、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域の例として、前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される234位、235位、236位、237位、238位、239位、270位、297位、298位、325位および329位のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられるが、Fc領域の改変は上記改変に限定されず、例えばCurrent Opinion in Biotechnology (2009) 20 (6), 685-691に記載されている脱糖鎖 (N297A, N297Q)、IgG1-L234A/L235A、IgG1-A325A/A330S/P331S、IgG1-C226S/C229S、IgG1-C226S/C229S/E233P/L234V/L235A、IgG1-L234F/L235E/P331S、IgG1-S267E/L328F、IgG2-V234A/G237A、IgG2-H268Q/V309L/A330S/A331S、IgG4-L235A/G237A/E318A、IgG4-L236E等の改変、および、WO 2008/092117に記載されているG236R/L328R、L235G/G236R、N325A/L328R、N325LL328R等の改変、および、EUナンバリング233位、234位、235位、237位におけるアミノ酸の挿入、WO 2000/042072に記載されている個所の改変であってもよい。
実施例5で作製された、Fv4-IgG1-F890およびFv4-IgG1-F947は、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、pH依存的にヒトIL-6レセプターに結合する抗体である。これらのアミノ酸配列にアミノ酸置換を導入し、ヒトFcγRに対する結合を低下させた様々な改変体が作製された(表17)。具体的には、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される235位のLeuがLysに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F938(配列番号:156)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される237位のGlyがLysに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F1315(配列番号:157)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される237位のGlyがArgに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F1316(配列番号:158)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換され、329位のProがLysに置換されたVH3-IgG1-F1317(配列番号:159)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される239位のSerがLysに置換され、329位のProがArgに置換されたVH3-IgG1-F1318(配列番号:160)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換され、235位のLeuがAlaに置換されたVH3-IgG1-F1324(配列番号:161)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換され、235位のLeuがAlaに置換され、297位のAsnがAlaに置換されたVH3-IgG1-F1325(配列番号:162)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換され、236位のGlyがArgに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG1-F1333(配列番号:163)、
VH3-IgG1-F890のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される236位のGlyがArgに置換され、328位のLeuがArgに置換されたVH3-IgG1-F1356(配列番号:164)、
VH3-IgG1-F947のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換され、235位のLeuがAlaに置換されたVH3-IgG1-F1326(配列番号:155)、
VH3-IgG1-F947のアミノ酸配列のEUナンバリングで表される234位のLeuがAlaに置換され、235位のLeuがAlaに置換され、297位のAsnがAlaに置換されたVH3-IgG1-F1327(配列番号:165)が作製された。
Figure 0006496702
(12−2)ヒトFcRnおよびヒトFcγRに対する結合活性の確認
12−1)で作製されたそれぞれのアミノ酸配列を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が、実施例4の方法を用いて測定された。また、pH7.4におけるヒトFcγRに対する結合活性が実施例7の方法を用いて測定された。測定した結果を以下の表18に示した。
Figure 0006496702
表18の結果より、各種ヒトFcγRに対する結合活性を天然型FcγR結合ドメインの結合活性に比べて低下させるために導入されるアミノ酸改変は、特に限定されず、さまざまなアミノ酸改変によって達成可能であることが示された。
(12−3)抗グリピカン3結合抗体の作製
天然型IgG1と比較してFcgRへの結合が低下している改変を見出すため、IgG1のFc領域においてFcγRに対する結合部位と考えられるアミノ酸残基の改変体の各FcγRに対する結合が網羅的に解析された。 抗体H鎖として、WO2009/041062に開示されている血漿中動態が改善した抗グリピカン3抗体であるGpH7のCDRを含むグリピカン3抗体の可変領域(配列番号:74)が使用された。同様に、抗体L鎖として、 WO2009/041062に開示される血漿中動態が改善したグリピカン3抗体のGpL16-k0(配列番号:75)が共通に使用された。また、抗体H鎖定常領域として、IgG1のC末端のGlyおよびLysが欠失されたG1dに、K439Eの変異が導入されたB3(配列番号:76)が使用された。以後、このH鎖はGpH7-B3(配列番号:77)、L鎖はGpL16-k0(配列番号:75)と呼ばれる。
(12−4)各種FcγRに対する結合の速度論的解析
まずGpH7-B3/GpL16-k0をコントロールとして網羅的に解析することの妥当性を検証するため、GpH7-B3/GpL16-k0と、GpH7-G1d/GpL16-k0の各FcgRに対する結合能が比較された(表19)。参考実施例2の方法により発現、精製された両抗体の各ヒトFcγR(FcγRIa、FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIaF型)に対する結合が以下の方法により評価された。
Biacore T100(GEヘルスケア)、Biacore T200(GEヘルスケア)、Biacore A100、Biacore 4000を用いて、各改変抗体と上記で調製されたFcγレセプターとの相互作用が解析された。ランニングバッファーとしてHBS-EP+(GEヘルスケア)を用い、25℃で測定された。Series S Sensor Chip CM5(GEヘルスケア)またはSeries S sensor Chip CM4(GEヘルスケア)に、アミンカップリング法により抗原ペプチド、ProteinA(Thermo Scientific)、Protein A/G(Thermo Scientific)、Protein L(ACTIGENまたはBioVision)が固定化されたチップ、あるいはSeries S Sensor Chip SA(certified)(GEヘルスケア)に対して予めビオチン化しておいた抗原ペプチドを相互作用させ固定化したチップが用いられた。これらのセンサーチップに目的の抗体をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈されたFcγレセプターを相互作用させ、抗体に対する結合量が測定された。当該結合量は抗体間で比較された。ただし、Fcγレセプターの結合量はキャプチャーした抗体の量に依存するため、各抗体のキャプチャー量でFcγレセプターの結合量を除した補正値が比較された。10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることで、センサーチップにキャプチャーした抗体を洗浄することによって再生されたセンサーチップが繰り返し用いられた。
それぞれのFcγRとの相互作用解析結果から、以下の方法に従って結合の強さが解析された。GpH7-B3/GpL16-k0のFcγRに対する結合量の値を、GpH7-G1d/GpL16-k0のFcγRに対する結合量の値で割り、その値を更に100倍した値が、各FcγRに対する相対的な結合活性の指標として表された。表19に示された結果から、GpH7-B3/GpL16-k0の各FcgRに対する結合は、GpH7-G1d/GpL16-k0のそれと同程度であったことから、これ以降の検討においてGpH7-B3/GpL16-k0をコントロールとして用いることが可能であると判断された。
Figure 0006496702
(12−5)Fc変異体の作製と評価
次に、GpH7-B3のアミノ酸配列において、FcγRの結合に関与すると考えられるアミノ酸とその周辺のアミノ酸(EUナンバリングで表される234位から239位、265位から271位、295位、296位、298位、300位、324位から337位)が元のアミノ酸とCysを除く18種類のアミノ酸にそれぞれ置換された。これらのFc変異体はB3 variantと呼ばれる。参考実施例2の方法により発現、精製されたB3 variantの各FcγR(FcγRIa、FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIaF型)に対する結合が、(12−4)の方法により網羅的に評価された。
それぞれのFcγRとの相互作用の解析結果から、以下の方法に従って結合の強さが評価された。各B3 variantに由来する抗体のFcγRに対する結合量の値を、B3に変異を導入していない比較対象となる抗体(EUナンバリングで表される234位から239位、265位から271位、295位、296位、298位、300位、324位から337位がヒト天然型IgG1の配列を有する抗体)のFcγRに対する結合量の値で除した。その値を更に100倍した値が、各FcγRに対する相対的な結合活性の指標として表された。
解析された改変体の中から全てのFcgRに対して結合を低下させる改変を表21に示した。表20に示した236種類の改変は、改変を導入する前の抗体(GpH7-B3/GpL16-k0)と比較して、少なくとも一種類のFcgRに対する結合を低減する改変であり、天然型IgG1に導入した場合でも同様に、少なくとも一種類のFcgRに対する結合を低減する効果のある改変であると考えられた。
そのため、各種ヒトFcγRに対する結合活性を天然型FcγR結合ドメインの結合活性に比べて低下させるために導入されるアミノ酸改変は、特に限定されず、表20に示されたアミノ酸改変を少なくとも1箇所導入することによって、達成可能であることが示された。また、ここで導入されるアミノ酸改変は、1箇所であってもよいし、複数箇所の組合せであってもよい。
Figure 0006496702
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Figure 0006496702
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(12−6)pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いヒトIgG2およびヒトIgG4抗体の作製および評価
ヒトIgG2あるいはヒトIgG4を用いて、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFc領域を以下のように作製した。
ヒトIgG2を定常領域として有するヒトIL-6レセプター結合抗体として、VH3-IgG2(配列番号:166)を重鎖として含み、L(WT)-CK(配列番号:41)を軽鎖として含む抗体が参考実施例2に示した方法で作製された。同様に、ヒトIgG4を定常領域として有するヒトIL-6レセプター結合抗体として、VH3-IgG4(配列番号:167)を重鎖として含み、L(WT)-CK(配列番号:41)を軽鎖として含む抗体が参考実施例2に示した方法で作製された。
VH3-IgG2およびVH3-IgG4に対して、pH中性域の条件下でのヒトFcRnに対する結合活性を付与するために、それぞれの定常領域にアミノ酸改変が導入された。具体的には、VH3-IgG2およびVH3-IgG4に対して、EUナンバリングで表される252位のMetがTyrに置換され、434位のAsnがTyrに置換され、436位のTyrがValに置換されたVH3-IgG2-F890(配列番号:168)およびVH3-IgG4-F890(配列番号:169)が作製された。
VH3-IgG2-F890およびVH3-IgG4-F890に対して、ヒトFcγRに対する結合を低下させるために、それぞれの定常領域にアミノ酸改変が導入された。具体的には、VH3-IgG2-F890に対して、EUナンバリングで表される235位のAlaがArgに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG2-F939(配列番号:170)が作製された。また、VH3-IgG4-F890に対して、EUナンバリングで表される235位のLeuがArgに置換され、239位のSerがLysに置換されたVH3-IgG4-F939(配列番号:171)が作製された。
作製されたVH3-IgG2-F890、VH3-IgG4-F890、VH3-IgG2-F939あるいはVH3-IgG4-F939を重鎖として含み、 L(WT)-CK(配列番号:41)を軽鎖として含む抗体が参考実施例2に示した方法で作製された。
(12−7)pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いヒトIgG2およびヒトIgG4抗体の評価
(12−6)で作製された抗体(表21)のpH7.0におけるヒトFcRnに対する結合活性(解離定数KD)が、実施例4の方法を用いて測定された。また、pH7.4におけるヒトFcγRに対する結合活性が実施例7の方法を用いて測定された。測定した結果を以下の表22に示した。
Figure 0006496702
Figure 0006496702
表22の結果より、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、ヒトFcγRに対する結合活性が天然型FcγR結合ドメインの結合活性よりも低いFc領域としては、ヒトIgG1には特に限定されず、ヒトIgG2あるいはヒトIgG4を用いることによっても達成可能であることが示された。
〔実施例13〕FcRn結合ドメインを構成する二つのポリペプチドの一方のみpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合を有する抗原結合分子の作製と評価
実施例3において様態3として示された、FcRn結合ドメインを構成する二つのポリペプチドの一方のみpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合を有し、もう一方はpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しない抗原結合分子の作製が、以下のように行われた。
(13−1)FcRn結合ドメインを構成する二つのポリペプチドの一方のみpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、もう一方はpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しない抗原結合分子の作製
まず、pH中性域の条件下におけるFcRnに対する結合を有する抗ヒトIL-6R抗体の重鎖として、VH3-IgG1-F947(配列番号:70)が参考実施例1の方法で作製された。また、pH酸性域およびpH中性域の両方の条件下においてFcRnに対する結合活性を有しない抗原結合分子として、VH3-IgG1に対してEUナンバリングで表される253位のIleをAlaに置換するアミノ酸を加えてVH3-IgG1-F46(配列番号:71)が作製された。
抗体のヘテロ二量体を高純度で得るための方法として、抗体のうちの一方のFc領域がEUナンバリングで表される356位のAspがLysに、およびEUナンバリングで表される357位のGluがLysに置換されており、もう一方のFc領域がEUナンバリングで表される370位のLysがGluに、EUナンバリングで表される435位のHisがArgに、およびEUナンバリングで表される439位のLysがGluに置換されたFc領域を用いることが知られている(WO2006/106905)。
VH3-IgG1-F947のEUナンバリングで表される356位のAspがLysに、およびEUナンバリングで表される357位のGluがLysに置換されたVH3-IgG1-FA6a(配列番号:72)が作製された(以下、重鎖Aと呼ばれる)。また、VH3-IgG1-F46のEUナンバリングで表される370位のLysがGluに、EUナンバリングで表される435位のHisがArgに、およびEUナンバリングで表される439位のLysがGluに置換されたVH3-IgG1-FB4a(配列番号:73)が作製された(以下、重鎖Bと呼ばれる)(表23)。
Figure 0006496702
参考実施例2の方法を参考に、重鎖プラスミドとしてVH3-IgG1-FA6aおよびVH3-IgG1-FB4aを等量ずつ加えることにより、重鎖としてVH3-IgG1-FA6aおよびVH3-IgG1-FB4aを有し、軽鎖としてVL3-CKを有するFv4-IgG1-FA6a/FB4aが作製された。
(13−2)FcRn結合ドメインを構成する二つのポリペプチドの一方のみpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、もう一方は中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しない抗原結合分子のPK試験
Fv4-IgG1-F947およびFv4-IgG1-FA6a/FB4aが、ヒトFcRnトランスジェニックマウスに投与された際のPK試験が下記の方法で実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg line 32 +/+ mouse、Jackson Laboratories、Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)の背部皮下に、抗ヒトIL-6レセプター抗体が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は、実施例4の方法と同様に、ELISA法にて測定された。その結果を図32に示した。ヒトFcRnに対して2箇所の結合領域を介して2分子のFcRnに結合することができるFv4-IgG1-F947に比べて、ヒトFcRnに対して1箇所の結合領域を介して1分子のFcRnにのみ結合することができるFv4-IgG1-FA6a/FB4aは、高い血漿中濃度推移が示された。
先述したとおり、IgGのFc領域には2つのFcRn結合領域が存在するが、2つのFcRn結合領域のうち、片側のFcRn結合領域を欠損させたFcを有する分子は、天然型のFcを有する分子に比べて、血漿中からの消失が早まることが報告されている(Scand J Immunol 1994;40:457-465.)。つまり、pH酸性域の条件下でFcRnに結合する2つの結合領域を有するIgGは、1つのFcRn結合領域を有するIgGに比べ、血漿中滞留性が向上することが知られている。このことから、細胞内に取り込まれたIgGはエンドソーム内においてFcRnに結合することにより、再び血漿中へとリサイクルされるが、天然型IgGは2箇所のFcRn結合領域を介して2分子のFcRnに結合することが可能なため、高い結合能でFcRnに結合し、その多くがリサイクルされていると考えられる。一方、1つのFcRn結合領域しか有さないIgGは、エンドソーム内におけるFcRnへの結合能が低く、十分にリサイクルされることが出来ないために、血漿中からの消失が早まると考えられていた。
そのため、図32で示したような、pH中性域の条件下において1箇所のFcRn結合領域を有するFv4-IgG1-FA6a/FB4aにおいて、血漿中滞留性の向上が見られるという現象は、天然型IgGの場合とは逆であることから、完全に予想外のものであった。
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、このような高い血漿中濃度推移が観察された理由としては、抗体をマウスの皮下に投与した際の、皮下からの吸収率が増加していることが理由として挙げられ得る。
一般的に、皮下に投与された抗体はリンパ系を介して吸収され、血漿中へと移行すると考えられている(J. Pharm. Sci. (2000) 89 (3), 297-310.)。リンパ系には多量の免疫細胞が存在するため、皮下に投与された抗体は多量の免疫細胞に曝露され、その後血漿中へと移行すると考えられる。一般的に、抗体医薬品が皮下投与された場合、静脈内投与された場合と比べて免疫原性が高まることが知られているが、その一因として、皮下に投与された抗体がリンパ系において多量の免疫細胞に曝露されることが考えられる。実際に、実施例1において示されたように、Fv4-IgG1-F1は皮下投与された場合においてはFv4-IgG1-F1の血漿中からの急速な消失が確認され、Fv4-IgG1-F1に対するマウス抗体の産生が示唆された。一方で、静脈内投与された場合においてはFv4-IgG1-F1の血漿中からの急速な消失は確認されず、Fv4-IgG1-F1に対するマウス抗体は産生されていないことが示唆された。
すなわち、皮下に投与された抗体がその吸収過程において、リンパ系に存在する免疫細胞に取り込まれると、生物学的利用率(Bioavailablity)の低下が起こるとともに、免疫原性の原因にもなり得る。
しかしながら、実施例3において様態3として示された、FcRn結合ドメインを構成する二つのポリペプチドの一方のみpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合を有し、もう一方はpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しない抗原結合分子が、皮下に投与された場合には、その吸収過程においてリンパ系に存在する免疫細胞に曝露されても、免疫細胞の細胞膜上において四者複合体が形成されないと考えられる。そのため、リンパ系に存在する免疫細胞への取り込みが阻害されることにより、生物学的利用率(Bioavailablity)の上昇が起こり、その結果として血漿中濃度の上昇が起こったとも考えられ得る。
このような、皮下に投与された抗体の生物学的利用率(Bioavailablity)を上昇させることで血漿中濃度を上昇させる、あるいは免疫原性を低下させる方法は、実施例3において様態3として示された抗原結合分子には限らず、免疫細胞の細胞膜上で四者複合体を形成しない抗原結合分子であれば、いずれを用いても良いと考えられる。すなわち、様態1、2、3のいずれの抗原結合分子においても、四者複合体を形成し得る抗原結合分子に比べ、皮下に投与された際の生物学的利用率(Bioavailablity)を上昇させるとともに血漿中滞留性を向上させ、更に免疫原性を低下させることが可能であると考えられる。
血漿中を滞留する抗原結合分子は、常にその一部がリンパ系にも移行していると考えられる。また、血液中においても免疫細胞は存在する。そのため、本発明の適応が特定の投与経路に限定されることは決して無いが、特に効果を発揮しやすいと期待される例を挙げると、抗原結合分子の吸収過程においてリンパ系を介する投与経路であることが考えられ、その一例としては皮下投与が挙げられ得る。
〔実施例14〕pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有し、抑制型FcγRに対する選択的な結合活性を有する抗体の作製
また、中性条件下でのFcRnへの結合を増強させた抗原結合分子に対して、抑制型FcγRIIbに対する選択的な結合活性の増強をもたらす改変を用いることにより、実施例3で示された様態2の抗原結合分子を作製することが可能である。つまり、中性条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、さらに抑制型FcγRIIbに対する選択的な結合活性の増強をもたらす改変が導入された抗原結合分子は、2分子のFcRnと1分子のFcγRを介した四者複合体を形成し得る。しかし、当該改変の効果により、抑制性FcγRに対する選択的結合がもたらされているため、活性型FcγRに対する結合活性は低下している。その結果、抗原提示細胞上では抑制型FcγRを含む四者複合体が優位に形成されると考えられる。先述したとおり、免疫原性には活性型FcγRを含む四者複合体の形成が原因となると考えられ、このように抑制型FcγRを含む四者複合体を形成させることにより、免疫応答の抑制が可能であると考えられる。
そこで、抑制型FcγRIIbに対する選択的な結合活性の増強をもたらすアミノ酸変異を見出すために、以下に示す検討が実施された。
(14−1)Fc改変体のFcγRに対する結合の網羅的解析
天然型IgG1と比較して、活性型FcγR、特にFcγRIIaのH型およびR型のいずれの遺伝子多型に対してもFcを介した結合が減少し、かつFcγRIIbに対する結合が増強する変異が導入された複数のIgG1抗体改変体の、各FcγRに対する結合活性が網羅的に解析された。
抗体H鎖には、WO2009/041062に開示されている血漿中動態が改善した抗グリピカン3抗体であるGpH7のCDRを含むグリピカン3抗体の可変領域(配列番号:74)が使用された。同様に、抗体L鎖には WO2009/041062に開示される血漿中動態が改善したグリピカン3抗体のGpL16-k0(配列番号:75)が異なるH鎖との組合せにおいて共通に使用された。また、抗体H鎖定常領域として、IgG1のC末端のGlyおよびLysが欠失されたG1dに、K439Eの変異が導入されたB3(配列番号:76)が使用された。以後、このH鎖はGpH7-B3(配列番号:77)、L鎖はGpL16-k0(配列番号:75)とそれぞれ呼ばれる。
GpH7-B3に対して、FcγRの結合に関与すると考えられるアミノ酸とその周辺のアミノ酸(EUナンバリングで表される234位から239位、265位から271位、295位、296位、298位、300位、324位から337位)が改変前のアミノ酸とCysを除く18種類のアミノ酸にそれぞれ置換された。これらのFc改変体はB3 variantと呼ばれる。参考実施例2の方法により発現および精製されたB3 variantの、各FcγR(FcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIb、FcγRIIIa)に対する結合活性が、実施例9に記載される方法に準じて網羅的に評価された。
それぞれのFcγRについて、以下の方法に従って図が作製された。各B3 variantに由来する抗体と各FcγRに対する結合量の値が、B3に何も変異が導入されていない対照抗体(EUナンバリングで表される234位から239位、265位から271位、295位、296位、298位、300位、324位から337位がヒト天然型IgG1の配列を有する抗体)の値で除された。その値に更に100を乗じた値が、各FcγRに対する結合の値として表された。横軸に各変異体のFcγRIIbに対する結合、縦軸に各変異体の各活性型FcγRであるFcγRIa、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIIaの値をそれぞれ表示した(図33、34、35、36)。
その結果、図33〜36にラベルで表示したように、全改変のうち、mutation A(EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変)およびmutation B(EUナンバリングで表される328位のLeuがGluに置換された改変)天然型IgG1と比べてFcγRIIbに対する結合が顕著に増強され、FcγRIIaの両タイプに対する結合を顕著に抑制する効果があることを見出した。
(14−2)FcγRIIb選択的結合改変体のSPR解析
(14−1)で見出されたEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体の各FcγRに対する結合がより詳細に解析された。
抗体H鎖可変領域としてWO2009/125825に開示されるヒトインターロイキン6レセプターに対する抗体の可変領域であるIL6R-Hの可変領域(配列番号:78)と、抗体H鎖定常領域としてヒトIgG1のC末端のGlyおよびLysが除去されたG1d定常領域を含むIL6R-G1d(配列番号:79)がIgG1のH鎖として用いられた。IL6R-G1dのEUナンバリングで表される238位のProがAspに改変されたIL6R-G1d_v1(配列番号:80)が作製された。次に、IL6R-G1dのEUナンバリングで表される328位のLeuがGluに改変されたIL6R-G1d_v2(配列番号:81)が作製された。また、比較のために公知の変異(Mol. Immunol. (2008) 45, 3926-3933)であるEUナンバリングで表される267位のSerがGluに置換され、およびEUナンバリングで表される328位のLeuがPheに置換されたIL6R-G1dの改変体であるIL6R-G1d_v3(配列番号:82)が作製された。抗体L鎖としてはトシリズマブのL鎖であるIL6R-L(配列番号:83)がこれらの重鎖との組合せにおいて共通に用いられた。参考実施例2の方法に従い、抗体が発現、精製された。抗体H鎖としてIL6R-G1d、IL6R-G1d_v1、IL6R-G1d_v2、IL6R-G1d_v3を含む抗体は、以下それぞれIgG1、IgG1-v1、IgG1-v2、IgG1-v3と呼ばれる。
次に、これらの抗体とFcγRとの相互作用がBiacore T100(GE Healthcare)を用いて速度論的に解析された。ランニングバッファーとしてHBS-EP+(GE Healthcare)を用いて、当該相互作用が25℃の温度で測定された。アミンカップリング法によりProtein Aが固定化されたSeries S Sencor Chip CM5(GE Healthcare)が用いられた。目的の抗体をキャプチャーさせたチップに対して、ランニングバッファーで希釈された各FcγRを作用させることによって、各FcγRの抗体に対する結合が測定された。測定後は10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることによって、チップにキャプチャーされた抗体が洗浄された。このように再生されたチップは繰り返し用いられた。Biacore Evaluation Softwareを用いて測定結果を1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingすることによって算出された結合速度定数ka(L/mol/s)、解離速度定数kd(1/s)から解離定数KD(mol/L)が算出された。
IgG1-v1とIgG1-v2のFcγRIIa(H)またはFcγRIIIaに対する結合は微弱だったため、Biacore Evaluation Softwareを用いて測定結果を上記の1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingすることによってはKDが算出されなかった。IgG1-v1とIgG1-v2のFcγRIIa(H)またはFcγRIIIaの相互作用については、Biacore T100 Software Handbook BR1006-48 Edition AEに記載されている以下の1:1結合モデル式を利用することによってKDが算出された。
1:1 binding modelで相互作用する分子のBiacore上での挙動は以下の式4によって表わされ得る。
〔式4〕
Req=C x Rmax / (KD + C) + RI
上記〔式4〕中の各項目の意味は下記;
Req(RU): 定常状態結合レベル(Steady state binding levels)
C(M): アナライト濃度(Analyte concentration)
C: concentration
Rmax(RU):アナライトの表面結合能(Analyte binding capacity of the surface)
RI(RU): 試料中の容積屈折率寄与(Bulk refractive index contribution in the sample)
KD(M): 平衡解離定数(Equilibrium dissociation constant)
で表される。
この式4を変形すると、KDは以下の式5のように表わすことができる。
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
この式にRmax、RI、Cの値を代入することによって、KDが算出され得る。今回の測定条件では、RI=0、C=2μmol/Lが代入された。Rmaxには各FcγRに対するIgG1の相互作用解析結果について1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせた際に得られたRmaxの値をIgG1のキャプチャー量で除し、IgG1-v1、IgG1-v2のキャプチャー量で乗じて得られた値とした。
今回の測定条件では、FcγRIIa(H)に対するIgG1-v1、IgG1-v2の結合はそれぞれ約2.5、10 RU、FcγRIIIaに対するIgG1-v1、IgG1-v2の結合はそれぞれ約2.5、5 RUであった。FcγRIIa(H)に対するIgG1の相互作用を解析した際の、IgG1-v1、IgG1-v2の抗体のセンサーチップのキャプチャー量は469.2、444.2 RUであり、FcγRIIIaに対するIgG1の相互作用解析した際の、IgG1-v1、IgG1-v2の抗体のセンサーチップのキャプチャー量は470.8、447.1 RUであった。また、FcγRIIa H型、FcγRIIIaに対するIgG1の相互作用解析結果について1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせた際に得られたRmaxはそれぞれ69.8、63.8 RU、抗体のセンサーチップへのキャプチャー量は452、454.5 RUであった。これらの値を使って、FcγRIIa(H)に対するIgG1-v1、IgG1-v2のRmaxはそれぞれ72.5、68.6 RU、FcγRIIIaに対するIgG1-v1、IgG1-v2のRmaxはそれぞれ66.0、62.7 RUと算出された。これらの値を式5の式に代入して、IgG1-v1、IgG1-v2のFcγRIIa(H)およびFcγRIIIaに対するKDが算出された。
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
IgG1、IgG1-v1、IgG1-v2、IgG1-v3の各FcγRに対するKD値を表24(各抗体の各FcγRに対するKD値)に、またIgG1の各FcγRに対するKD値をIgG1-v1、IgG1-v2、IgG1-v3の各FcγRに対するKD値で割ったIgG1-v1、IgG1-v2、IgG1-v3の相対的なKD値を表25(各抗体の各FcγRに対する相対的なKD値)に示した。
Figure 0006496702
上記表24中、*はFcγRのIgGに対する結合が十分に観察されなかったため、式5の式を利用して算出されたKDが表されている。
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
Figure 0006496702
表25に示されたように、IgG1と比べてIgG1-v1はFcγRIaに対する親和性が0.047倍に低下し、FcγR IIa(R)に対する親和性は0.10倍に低下し、FcγRIIa(H)に対する親和性が0.014倍に低下し、FcγRIIIaに対する親和性は0.061倍に低下していた。一方で、FcγRIIbに対する親和性は4.8倍向上していた。
また、表25に示したように、IgG1と比べてIgG1-v2はFcγRIaに対する親和性が0.74倍に低下し、FcγR IIa(R)に対する親和性は0.41倍に低下し、FcγRIIa(H)に対する親和性が0.064倍に低下し、FcγRIIIaに対する親和性は0.14倍に低下していた。一方で、FcγRIIbに対する親和性は2.3倍向上していた。
すなわち、この結果から、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換されたIgG1-v1およびEUナンバリングで表される328位のLeuがGluに置換されたIgG1-v2は、FcγRIIaの両遺伝子多型を含む活性型の全FcγRに対する結合が減少している一方で、抑制型FcγRであるFcγRIIbに対する結合が増加していることが明らかとなった。このような性質を持つ改変体はこれまでに報告がなく、また、図33〜36に示したように極めて希有である。EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体やEUナンバリングで表される328位のLeuがGluに置換された改変体は、免疫炎症性疾患等の治療薬の開発に極めて有用である。
また、表25に示したようにIgG1-v3は確かにFcγRIIbに対する結合が408倍向上し、FcγRIIa(H)に対する結合は0.51倍に減少しているが、その一方でFcγRIIa(R)に対する結合が522倍向上している。すなわち、IgG1-v1およびIgG1-v2はFcγRIIa(R)およびFcγRIIa(H)の両方に対する結合が抑制され、かつFcγRIIbに対する結合が向上することから、IgG1-v3と比べてFcγRIIbに対してより選択的に結合する改変体であると考えられる。すなわち、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体やEUナンバリングで表される328位のLeuがGluに置換された改変体は免疫炎症性疾患等の治療薬の開発に極めて有用である。
(14−3)FcγRIIbに対する選択的結合の改変と他のFc領域のアミノ酸置換の組合せによる効果
(14−2)において、ヒト天然型IgG1のEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体又はEUナンバリングで表される328位のLeuがGluに置換された改変体は、FcγRIa、FcγRIIIaおよびFcγRIIaのいずれの遺伝子多型に対してもFcを介した結合が減少し、かつFcγRIIbに対する結合が向上することが見出された。そこで、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体又はEUナンバリングで表される328位のLeuがGluに置換された改変体に対して、さらにアミノ酸置換を導入することによって、FcγRI、FcγRIIa(H)、FcγRIIa(R)、FcγRIIIaのいずれかに対する結合がさらに低減された、あるいは、FcγRIIbに対する結合がさらに向上されたFc改変体の創出が行われる。
(14−4)pH中性域の条件下におけるヒトFcRnへの結合活性を有し、ヒトFcγRIIbに対して選択的に結合活性が増強された抗体の作製
VH3-IgG1およびVH3-IgG1-F11に対して、ヒトFcγRIIbに対して選択的に結合活性を増強するため、以下の方法で抗体を作製した。VH3-IgG1に対してEUナンバリングで表される238位のProをAspに置換するためのアミノ酸置換が参考実施例1の方法で導入され、VH3-IgG1-F648(配列番号:84)が作製された。同様にVH3-IgG1-F11に対してEUナンバリングで表される238位のProをAspに置換するためのアミノ酸置換が参考実施例1の方法で導入され、VH3-IgG1-F652(配列番号:85)が作製された。
(14−5)pH中性域の条件下におけるヒトFcRnへの結合活性を有し、ヒトFcγRIIbに対して選択的に結合活性が増強された抗体の評価
VH3-IgG1、VH3-IgG1-F648、VH3-IgG1-F11、あるいはVH3-IgG1-F652を重鎖として含み、L(WT)-CKを軽鎖として含む抗体が、参考実施例2の方法で作製された。
これらの抗体とFcγRIIa(R)およびFcγRIIbとの相互作用をBiacore T100(GE Healthcare)を用いて解析した。ランニングバッファーとして20 mM ACES, 150 mM NaCl, 0.05% Tween20, pH7.4を用いて25℃の温度で測定した。アミンカップリング法によりProtein Lが固定化されたSeries S Sencor Chip CM4(GE Healthcare)を用いた。目的の抗体をキャプチャーさせたチップに対して、ランニングバッファーで希釈された各FcγRを作用させることによって、各FcγRの抗体に対する相互作用を測定した。測定後は10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることによって、チップにキャプチャーされた抗体を洗浄し、このように再生したチップは繰り返し用いられた。
測定結果はBiacore Evaluation Softwareを用いて解析した。Protein Lに抗体をキャプチャーさせ、その抗体をキャプチャーさせた前後でのセンサーグラムの変化量をX1とした。次に、その抗体にヒトFcγRsを相互作用させ、その前後でのセンサーグラムの変化量(ΔA1)として表されたヒトFcγRsの結合活性を各抗体のキャプチャー量(X)で割った値を1500倍した値から、Protein Lにキャプチャーさせた抗体にランニングバッファーを相互作用させた前後でのセンサーグラムの変化量(ΔA2)として表されたヒトFcγRsの結合活性を差し引いた値を、各抗体のキャプチャー量(X)で割った値を1500倍した値(Y)をヒトFcγRsの結合活性とした(式1)。
〔式1〕
マウスFcγRsの結合活性(Y)=(ΔA1 - ΔA2)/X x 1500
結果を以下の表26に示した。EUナンバリングで表される238位のProをAspに置換する変異を導入することにより、ヒトFcγRIIbに対して選択的に結合活性が増強する効果は、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnへの結合活性を有する抗体に導入した場合においても、同等に見られることが確認された。
Figure 0006496702
ここで得られたIgG1-F652は、pH中性域の条件下においてFcRnに対する結合活性を有し、抑制性FcγRIIbに対する選択的な結合活性の増強がもたらされた抗体である。すなわち、実施例3で示された様態2の抗原結合分子に該当する。つまり、IgG1-F652は2分子のFcRnと1分子のFcγRを介した四者複合体を形成し得るが、抑制性FcγRに対する選択的な結合活性の増強がもたらされているため、活性型FcγRに対する結合活性は低下している。その結果、抗原提示細胞上では抑制型FcγRを含む四者複合体が優位に形成されると考えられる。先述したとおり、免疫原性には活性型FcγRを含む四者複合体の形成が原因となると考えられ、このように抑制型FcγRを含む四者複合体を形成させることにより、免疫応答の抑制が可能であると考えられる。
〔参考実施例1〕アミノ酸が置換されたIgG抗体の発現ベクターの構築
QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法で作製された変異体を含むプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入することによって、目的のH鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターが作製された。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定された。
〔参考実施例2〕IgG抗体の発現と精製
抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum(Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5〜6 × 105細胞/mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、CHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。調製したプラスミドをlipofection法により細胞へ導入した。得られた培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌して培養上清を得た。得られた培養上清にrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定した。得られた値からProtein Science 1995 ; 4 : 2411-2423に記された方法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した。
〔参考実施例3〕可溶型ヒトIL-6レセプター(hsIL-6R)の調製
抗原であるヒトIL-6レセプターの組み換えヒトIL-6レセプターは以下のように調製された。J. Immunol. (1994) 152, 4958-4968で報告されているN末端側1番目から357番目のアミノ酸配列からなる可溶型ヒトIL-6レセプター(以下、hsIL-6Rとも表記される)を定常的に発現するCHO株が当業者公知の方法で構築された。当該CHO株を培養することによって、可溶型ヒトIL-6レセプターを発現させた。得られた当該CHO株の培養上清から、Blue Sepharose 6 FFカラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーの二工程によって可溶型ヒトIL-6レセプターが精製された。最終工程においてメインピークとして溶出された画分が最終精製品として用いられた。
〔参考実施例4〕ノーマルマウスにおける可溶型ヒトIL-6レセプターおよびヒト抗体のPK試験
ノーマルマウスにおける可溶型ヒトIL-6レセプターおよびヒト抗体の血漿中滞留性と免疫原性を評価する目的で、以下のような試験が実施された。
(4−1)ノーマルマウスにおける可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中滞留性および免疫原性評価
ノーマルマウスにおける可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中滞留性および免疫原性を評価する目的で、以下の試験が実施された。
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈に、可溶型ヒトIL-6レセプター(参考実施例3にて作製)が50μg/kgで単回投与された。可溶型ヒトIL-6レセプターの投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中濃度およびマウス抗可溶型ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価は以下の方法で測定された。
マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調製された可溶型ヒトIL-6レセプター検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびTocilizumabと混合することによって37℃で1晩反応させた。Tocilizumabの終濃度は333μg/mLとなるように調製された。その後、反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに室温で1時間反応させた反応液を洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。その後ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
マウス血漿中のマウス抗ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価が電気化学発光法により測定された。まずヒトIL-6レセプターをMA100 PR Uncoated Plate(Meso Scale Discovery)に分注し、4℃で1晩静置することによって、ヒトIL-6レセプター固相化プレートが作成された。50倍希釈されたマウス血漿測定試料が分注されたヒトIL-6レセプター固相化プレートが4℃で1晩静置された。その後、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したanti-mouse IgG (whole molecule) (Sigma-Aldrich)を室温で1時間反応させた当該プレートが洗浄された。当該プレートにRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された後に、ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。
その結果を図37に示した。この結果から、マウス血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプターは速やかに消失することが示された。また、可溶型ヒトIL-6レセプターが投与された3匹のマウスのうち、#1と#3の2匹において、血漿中のマウス抗可溶型ヒトIL-6レセプター抗体の抗体価の上昇が見られた。これらの2匹のマウスにおいては、可溶型ヒトIL-6レセプターに対する免疫応答が起こった結果として、マウス抗体が産生されていることが示唆される。
(4−2)可溶型ヒトIL-6レセプターの定常状態モデルにおける免疫原性評価
可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体が産生されることによる、可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中濃度への影響を評価する目的で、以下の試験が実施された。
可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中濃度を定常状態(約20 ng/mL)に維持するモデルとして以下の試験モデルが構築された。ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の背部皮下に可溶型ヒトIL-6レセプターを充填したinfusion pump(MINI-OSMOTIC PUMP MODEL2004、alzet)を埋め込むことで、血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度が定常状態に維持される動物モデルが作製された。
試験は2群(各群N=4)で実施された。免疫寛容が模倣された群のマウスに対して、可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体の産生を抑制するため、monoclonal anti-mouse CD4 antibody(R&D)がその尾静脈に20 mg/kgで単回投与され、その後、10日に1回同様に投与された(以下、抗マウスCD4抗体投与群と呼ばれる)。もう一方の群は、対照群、すなわちmonoclonal anti-mouse CD4 antibodyが投与されない抗マウスCD4抗体非投与群として使用された。その後、92.8μg/mLの可溶型ヒトIL-6レセプターが充填されたinfusion pumpのマウス背部皮下への埋め込みが実施された。Infusion pump埋め込み後から経時的に採取された血液を、採取後直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。可溶型ヒトIL-6レセプター(hsIL-6R)の血漿中濃度は参考実施例4−1と同様の方法で測定された。
この方法で測定したノーマルマウスにおける個体別の血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度推移を図38に示した。
その結果、抗マウスCD4抗体非投与群の全てのマウスにおいて、infusion pumpのマウス背部皮下への埋め込み14日後には、血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度の低下が認められた。一方、可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体の産生を抑制する目的で抗マウスCD4抗体が投与された群の全てのマウスにおいて、血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度の低下は観察されなかった。
(4−1)および(4−2)の結果から、以下の3点が示された。すなわち、
(1)可溶型ヒトIL-6レセプターがマウスに投与された後の、血漿中からの消失が非常に早いこと、
(2)マウスにとって異種タンパク質である可溶型ヒトIL-6レセプターは、マウスに投与された場合に免疫原性を有し、可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体の産生が起こること、
(3)可溶型ヒトIL-6レセプターに対するマウス抗体の産生が起こると、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失が更に早まり、可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中濃度を一定に維持するモデルにおいても、血漿中濃度の低下が起こること、
の3点が示された。
(4−3)ノーマルマウスにおけるヒト抗体の血漿中滞留性および免疫原性評価
ノーマルマウスにおけるヒト抗体の血漿中滞留性および免疫原性を評価する目的で、以下の試験が実施された。
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)の尾静脈に、抗ヒトIL-6レセプター抗体であるFv4-IgG1が1 mg/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体の投与後15分、7時間、1日、2日、3日、4日、7日、14日、21日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度はELISA法にて測定された。まず、Anti-Human IgG(γ-chain specific)F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup (Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として0.8、0.4、0.2、0.1、0.05、0.025、0.0125μg/mLの抗ヒトIL-6レセプター抗体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。これらの検量線試料および血漿測定試料100μLに20 ng/mLの可溶型ヒトIL-6レセプターが200μL加えられた混合液を、室温で1時間静置させた。その後当該混合液が各ウェルに分注されたAnti-Human IgG固相化プレートをさらに室温で1時間静置させた。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)と室温で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を室温で1時間反応させた反応液の発色反応が、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)を添加することによって反応が停止された各ウェルの反応液の450 nmの吸光度が、マイクロプレートリーダーにて測定された。マウス血漿中の抗体濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
その結果を図39に示した。マウスにヒト抗体が単回投与された際のヒト抗体の血漿中滞留性は、可溶型ヒトIL-6レセプターが単回投与された際の可溶型ヒトIL-6レセプターの血漿中滞留性(図37)に比べて顕著に高く、投与後21日においても高い血漿中濃度を維持することが示された。これは、細胞内へと取り込まれたヒト抗体がエンドソーム内においてマウスFcRnに結合することにより、再び血漿中へとリサイクルされることによると考えられる。一方、細胞内へと取り込まれた可溶型ヒトIL-6レセプターはエンドソーム内からリサイクルされる経路を有しないため、血漿中から速やかに消失すると考えられる。
さらに、ヒト抗体が投与された3匹のマウスの全例において、可溶型ヒトIL-6レセプターの定常状態モデル(図38)で見られたような血漿中濃度の低下は認められなかった。すなわち、ヒトIL-6レセプターとは異なり、ヒト抗体に対してはマウス抗体が産生されていないことが示唆された。
(4−1)、(4−2)および(4−3)の結果から、以下のように考えることが可能である。まず、マウスにおいてはヒト可溶型IL-6レセプターおよびヒト抗体のいずれも異種タンパク質であることから、マウスはこれらに対して特異的に応答する多くのT細胞集団を有していると考えられる。
マウスに異種タンパク質であるヒト可溶型IL-6レセプターが投与された場合、ヒト可溶型IL-6レセプターは血漿中から短時間で消失し、またヒト可溶型IL-6レセプターに対する免疫応答が確認された。ここで、血漿中からのヒト可溶型IL-6レセプターの消失が早いということは、多くのヒト可溶型IL-6レセプターが短時間のうちに抗原提示細胞に取り込まれ、細胞内でプロセシングを受けた後、ヒト可溶型IL-6レセプターに特異的に応答するT細胞を活性化すると考えられる。その結果として、ヒト可溶型IL-6レセプターに対する免疫応答(つまりヒト可溶型IL-6レセプターに対するマウス抗体の産生)が起こったと考えられる。
一方、マウスに異種タンパク質であるヒト抗体が投与された場合、ヒト抗体の血漿中滞留性はヒト可溶型IL-6レセプターに比べ顕著に長く、ヒト抗体に対する免疫応答は起こらなかった。血漿中滞留性が長いということは、抗原提示細胞に取り込まれて細胞内でプロセシングを受けるヒト抗体が、ごく僅かにしか存在しないことを意味する。そのため、マウスがヒト抗体に対して特異的に応答するT細胞集団を有していたとしても、抗原提示によるT細胞の活性化が起こらず、結果としてヒト抗体に対する免疫応答(つまりヒト抗体に対するマウス抗体の産生)は起こらなかったものと考えられる。
〔参考実施例5〕中性pHにおけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが増大した様々な抗体Fc改変体の作製とその評価
(5−1)中性pHにおけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーが増大した様々な抗体Fc改変体の作製とその結合活性評価
pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティーを増大させることを目的として、様々な変異がVH3-IgG1(配列番号:35)に導入され、評価がなされた。作製された重鎖と軽鎖であるL(WT)-CK(配列番号:41)とを各々含む改変体(IgG1-F1からIgG1-F1052)が、参考実施例2に記載された方法に準じて発現および精製された。
抗体とヒトFcRnとの結合が、実施例4に記載される方法に準じて解析された。すなわち、Biacoreを用いた中性条件下(pH7.0)におけるヒトFcRnに対する改変体の結合活性を表27−1〜27−32に示した。
Figure 0006496702
表27−2は表27−1の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−3は表27−2の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−4は表27−3の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−5は表27−4の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−6は表27−5の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−7は表27−6の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−8は表27−7の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−9は表27−8の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−10は表27−9の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−11は表27−10の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−12は表27−11の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−13は表27−12の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−14は表27−13の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−15は表27−14の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−16は表27−15の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−17は表27−16の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−18は表27−17の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−19は表27−18の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−20は表27−19の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−21は表27−20の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−22は表27−21の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−23は表27−22の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−24は表27−23の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−25は表27−24の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−26は表27−25の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−27は表27−26の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−28は表27−27の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−29は表27−28の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−30は表27−29の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−31は表27−30の続きの表である。
Figure 0006496702
表27−32は表27−31の続きの表である。
Figure 0006496702
(5−2)pH中性域の条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強したpH依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体のin vivo試験
実施例5−1で調製した中性条件下でのヒトFcRnへの結合能を付与した重鎖を用いて、中性条件下でのヒトFcRnへの結合能を有するpH依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体を作製し、in vivoでの抗原消失効果の検証を行った。具体的には、
VH3-IgG1(配列番号:35)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1、
VH3-IgG1-F1(配列番号:37)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-v2、
VH3-IgG1-F14(配列番号:86)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F14、
VH3-IgG1-F20(配列番号:39)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F20、
VH3-IgG1-F21(配列番号:40)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F21、
VH3-IgG1-F25(配列番号:87)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F25、
VH3-IgG1-F29(配列番号:88)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F29、
VH3-IgG1-F35(配列番号:89)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F35、
VH3-IgG1-F48(配列番号:90)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F48、
VH3-IgG1-F93(配列番号:91)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F93、
VH3-IgG1-F94(配列番号:92)とVL3-CK(配列番号:36)とを含むFv4-IgG1-F94
を、参考実施例2に記載の当業者公知の方法によって発現させて精製した。
調製したpH依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体について、ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg 系統276 +/+マウス、Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. 2010;602:93-104.)を用いたin vivo試験が、以下のように実施された。
ヒトFcRnトランスジェニックマウス(B6.mFcRn-/-.hFcRn Tg 系統276 +/+マウス、Jackson Laboratories、Methods Mol Biol. 2010;602:93-104.)および正常マウス(C57BL/6Jマウス、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6レセプター:参考例3にて調製)を単独投与もしくは可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体を同時投与した後の可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の生体内における薬物動態を評価した。可溶型ヒトIL-6レセプター溶液(5μg/mL)もしくは可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液(それぞれ5μg/mL、0.1 mg/mL)を尾静脈に10 mL/kgで単回投与した。このとき、可溶型ヒトIL-6レセプターに対して抗ヒトIL-6レセプター抗体は十分量過剰に存在することから、可溶型ヒトIL-6レセプターはほぼ全て抗体に結合していると考えられる。投与15分後、7時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、7日後、14日後、21日後、28日後に血液を採取した。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
(5−3)電気化学発光法による血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度測定
マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調製された可溶型ヒトIL-6レセプター検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料を、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびTocilizumabと混合することによって37℃で1晩反応させた。Tocilizumabの終濃度は333μg/mLとなるように調製された。その後、反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに室温で1時間反応させた反応液を洗浄後、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。その後ただちにSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定が行われた。可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。
得られた静脈内投与後のヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度推移を図40に示した。試験の結果、中性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増強させたpH依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体はいずれも、中性条件下におけるヒトFcRnへの結合能をほとんど持たないFv4-IgG1と比較して、血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度が低く推移することが示された。中でも、特に顕著な効果を示したものとして例を挙げると、Fv4-IgG1-F14と同時に投与された可溶型ヒトIL-6レセプターの1日後の血漿中濃度は、Fv4-IgG1と同時に投与されたそれと比較して、約54倍低下することが示された。また、Fv4-IgG1-F21と同時に投与された可溶型ヒトIL-6レセプターの7時間後の血漿中濃度は、Fv4-IgG1と同時に投与されたそれと比較して、約24倍低下することが示された。更には、Fv4-IgG1-F25と同時に投与された可溶型ヒトIL-6レセプターの7時間後の血漿中濃度は、検出限界(1.56 ng/mL)以下であり、Fv4-IgG1と同時に投与されたそれと比較して、200倍以上もの顕著な抗原濃度の低下が可能であると考えられた。
これらのことから、抗原消失効果を増強させることを目的として、pH依存的抗原結合抗体に対して中性条件下でのヒトFcRnへの結合を増強させることは非常に有効であることが示された。また、抗原消失効果を増強させるために導入される、中性条件下でのヒトFcRnへの結合を増強させるアミノ酸改変の種類は表16に記載の改変を含めて特に限定されず、どのような改変を導入しても、in vivoにおいて抗原消失効果を増強することが可能であると考えられる。
〔参考実施例6〕ファージディスプレイ技術を用いたヒト抗体ライブラリからのCa依存的にIL-6レセプターに結合する抗体の取得
(6−1)ナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリの作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型として当業者に公知な方法にしたがい、互いに異なるヒト抗体配列のFabドメインを提示する複数のファージからなるヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。
(6−2)ビーズパンニングによるライブラリからのCa依存的に抗原に結合する抗体断片の取得
構築されたナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリからの最初の選抜は、抗原(IL-6レセプター)への結合能をもつ抗体断片のみの濃縮、または、Ca濃度依存的な抗原(IL-6レセプター)への結合能を指標とした抗体断片の濃縮によって実施された。Ca濃度依存的な抗原(IL-6レセプター)への結合能を指標として抗体断片の濃縮は、CaイオンをキレートするEDTAを用いてCaイオン存在下でIL-6レセプターと結合させたファージライブラリからファージを溶出することによって実施された。抗原としてビオチン標識されたIL-6レセプターが用いられた。
構築したファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液に終濃度4%BSAおよび1.2 mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が添加された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18(2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
具体的には、調製されたファージライブラリ液に250 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温にて15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBS(1.2 mM CaCl2を含むTBS)にて1回洗浄された。その後、IL-6レセプターへの結合能をもつ抗体断片を濃縮する場合には、一般的な方法による溶出によって、Ca濃度依存的なIL-6レセプターへの結合能を指標として抗体断片を濃縮する場合には、2 mM EDTA/TBS(2mMEDTAを含むTBS)に懸濁されたビーズからの溶出によって、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株TG1に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。
2回目以降のパンニングでは、Ca依存的結合能を指標にファージの濃縮が行われた。具体的には、調製したファージライブラリ液に40 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、ファージライブラリを室温で60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温で15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBSTと1.2 mM CaCl2/TBSにて洗浄された。その後0.1 mLの2 mM EDTA/TBSが加えられたビーズは室温で懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株TG1に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによってファージライブラリ液が回収された。Ca依存的結合能を指標とするパンニングが複数回繰り返された。
(6−3)ファージELISAによる評価
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。
終濃度4%BSAおよび1.2 mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原を含む100μLのPBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが1時間以上250μLの4%BSA-TBSにてブロッキングされた。4%BSA-TBSが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを37℃で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された各ウェルに、1.2 mM CaCl2/TBSもしくは1 mM EDTA/TBSが加えられ、当該プレートは37℃で30分間静置しインキュベートされた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された後に、終濃度4%のBSAおよび1.2 mMのイオン化カルシウム濃度としたTBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が各ウェルに添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。
上記のファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断される抗体断片を鋳型として特異的なプライマーによって増幅された遺伝子の塩基配列解析が行われた。
(6−4)抗体の発現と精製
ファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断されたクローンが、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われる。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
〔参考実施例7〕取得された抗体のヒトIL-6レセプターに対するCa依存的結合能の評価
参考実施例6で取得された抗体6RL#9-IgG1(重鎖(配列番号:9にIgG1由来の定常領域配列が連結されたもの)、軽鎖(配列番号:93))、および、FH4-IgG1(重鎖(配列番号:94)、軽鎖(配列番号:95))のヒトIL-6レセプターに対する結合活性がCa依存的であるかどうかを判断するため、これらの抗体とヒトIL-6レセプターとの抗原抗体反応の速度論的解析がBiacore T100(GE Healthcare)を用いて行われた。ヒトIL-6レセプターに対するCa依存性の結合活性を有しない対照抗体として、WO2009/125825に記載されているH54/L28-IgG1(重鎖可変領域(配列番号:96)、軽鎖可変領域(配列番号:97))が用いられた。高カルシウムイオン濃度および低カルシウムイオン濃度の条件として、それぞれ2 mMおよび3 μMのカルシウムイオン濃度の溶液中で抗原抗体反応の速度論的解析が行われた。アミンカップリング法でprotein A(Invitrogen)が適当量固定化されたSensor chip CM4(GE Healthcare)上に、目的の抗体がキャプチャーされた。ランニングバッファーには10 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、2 mM CaCl2(pH7.4)または10 mM ACES、150 mM NaCl、0.05% (w/v) Tween20、3 μmol/L CaCl2(pH7.4)の2種類の緩衝液が用いられた。ヒトIL-6レセプターの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。測定は全て37℃で実施された。
H54L28-IgG1抗体を用いた抗原抗体反応の速度論的解析に際して、IL-6レセプターの希釈液とブランクであるランニングバッファーを流速20μL/minで3分間インジェクトすることによって、センサーチップ上にキャプチャーさせたH54L28-IgG1抗体にIL-6レセプターを相互作用させた。その後、流速20μL/minで10分間ランニングバッファーを流しIL-6レセプターの解離が観察された後、10 mM Glycine-HCl(pH1.5)を流速30μL/minで30秒間インジェクトすることによって、センサーチップが再生された。測定で得られたセンサーグラムから、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka(1/Ms)、および解離速度定数 kd(1/s)が算出された。これらの値を用いてH54L28-IgG1抗体のヒトIL-6レセプターに対する解離定数KD(M)が算出された。各パラメーターの算出にはBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体を用いた抗原抗体反応の速度論的解析に際しては、IL-6レセプターの希釈液とブランクであるランニングバッファーを流速5μL/minで15分間インジェクトすることによって、センサーチップ上にキャプチャーさせたFH4-IgG1抗体または6RL#9-IgG1抗体にIL-6レセプターを相互作用させた。その後、10 mM Glycine-HCl(pH1.5)を流速30μL/minで30秒間インジェクトすることによって、センサーチップが再生された。測定で得られたセンサーグラムからsteady state affinity modelを使って解離定数KD(M)が算出された。各パラメーターの算出には Biacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。
この方法により決定された2 mM CaCl2存在下における各抗体とIL-6レセプターとの解離定数KDを表28に示した。
Figure 0006496702
Ca濃度が3μMの条件下でのH54/L28-IgG1抗体のKDは、2 mM Ca濃度存在下と同様の方法で算出することが可能である。Ca濃度が3μMの条件下では、FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体は、IL-6レセプターに対する結合はほとんど観察されなかったため、上記の方法によるKDの算出は困難である。しかし、実施例13に記載されている式5(Biacore T100 Software Handbook, BR-1006-48, AE 01/2007)を用いることによって、Ca濃度が3μMの条件下でのこれらの抗体のKDを予測することが可能である。
実施例13で記載される式3を用いた、Ca濃度が3μmol/Lの場合の各抗体とIL-6レセプターとの解離定数KDの予測される概算結果を表29に示した。表29中の、Req、Rmax、RI、Cは測定結果を基に仮定された値である。
Figure 0006496702
上記の結果から、FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体は、バッファー中のCaCl2の濃度を2 mMから3μMに減少することで、IL-6レセプターに対するKDがそれぞれ約60倍、約120倍上昇(60倍、120倍以上アフィニティーが低減)すると予測された。
表30にH54/L28-IgG1、FH4-IgG1、6RL#9-IgG1の3種類の抗体の2 mM CaCl2存在下および3μM CaCl2存在下におけるKD値、および、KD値のCa依存性についてまとめた。
Figure 0006496702
Ca濃度の違いによるH54/L28-IgG1抗体のIL-6レセプターに対する結合の違いは観察されなかった。その一方、低濃度のCa条件下ではFH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体のIL-6レセプターに対する結合の著しい減弱が観察された(表30)。
〔参考実施例8〕取得された抗体へのカルシウムイオン結合評価
次に、抗体へのカルシウムイオンの結合の評価の指標として、示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)が測定された(MicroCal VP-Capillary DSC、MicroCal)。熱変性中間温度(Tm値)は安定性の指標であり、カルシウムイオンの結合によってタンパク質が安定化すると、熱変性中間温度(Tm値)はカルシウムイオンが結合していない場合に比べて高くなる(J. Biol. Chem. (2008) 283, 37, 25140-25149)。抗体溶液中のカルシウムイオン濃度の変化に応じた抗体のTm値の変化を評価することによって、抗体へのカルシウムイオンの結合活性が評価された。精製された抗体が20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、2 mM CaCl2(pH7.4)または20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl, 3μM CaCl2(pH7.4)の溶液を外液とする透析(EasySEP、TOMY)処理に供された。透析に用いられた溶液を用いておよそ0.1 mg/mLに調製された抗体溶液を被験物質として、20℃から115℃まで240℃/hrの昇温速度でDSC測定が行われた。得られたDSCの変性曲線にもとづいて算出された各抗体のFabドメインの熱変性中間温度(Tm値)を表31に示した。
Figure 0006496702
表31の結果から、カルシウム依存的結合能を示すFH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体のFabのTm値はカルシウムイオンの濃度の変化により変動し、カルシウム依存的結合能を示さないH54/L28-IgG1抗体のFabのTm値はカルシウムイオンの濃度の変化により変動しないことが示された。FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体のFabのTm値の変動は、これらの抗体にカルシウムイオンが結合し、Fab部分が安定化したことを示している。上記の結果より、FH4-IgG1抗体および6RL#9-IgG1抗体にはカルシウムイオンが結合し、一方でH54/L28-IgG1抗体にはカルシウムイオンが結合していないことが示された。
〔参考実施例9〕6RL#9抗体のカルシウムイオン結合部位のX線結晶構造解析による同定
(9−1)X線結晶構造解析
参考実施例8に示されたように、6RL#9抗体はカルシウムイオンと結合することが熱変性温度Tm値の測定から示唆された。しかし、6RL#9抗体のどの部位がカルシウムイオンと結合しているか予想できなかったため、X線結晶構造解析の手法を用いることによって、カルシウムイオンが相互作用する6RL#9抗体の配列中の残基が特定された。
(9−2)6RL#9抗体の発現および精製
X線結晶構造解析に用いるために発現させた6RL#9抗体が精製された。具体的には、6RL#9抗体の重鎖(配列番号:9にIgG1由来の定常領域配列が連結されたもの)と軽鎖(配列番号:93)をそれぞれ発現させることが出来るように調製された動物発現用プラスミドが動物細胞に一過的に導入された。最終細胞密度1 x 106細胞/mLとなるようにFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)へ懸濁された800 mLのヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)に、リポフェクション法により調製されたプラスミドが導入された。プラスミドが導入された細胞はCO2インキュベーター(37℃、8%CO2、90 rpm)中で5日間培養された。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いた当業者公知の方法にしたがって、上記のように得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いて測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(9−3)6RL#9抗体からのFabフラグメントの精製
分子量分画サイズ10000MWCOの限外ろ過膜 を用いて6RL#9抗体が21 mg/mLまで濃縮された。L-Cystein 4 mM、EDTA 5 mM、20 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)を用いて5 mg/mLによって希釈された2.5 mLの当該抗体の試料が調製された。0.125 mgのPapain(Roche Applied Science)を加えて攪拌された当該試料が35℃にて2時間静置された。静置後、プロテアーゼインヒビターカクテルミニ、EDTAフリー(Roche Applied Science)1錠を溶かした10 mLの25 mM MES 緩衝液(pH6)をさらに当該試料に加え、氷中に静置することによって、Papainによるプロテアーゼ反応が停止された。次に、当該試料が、下流に1 mLサイズのProteinA担体カラムHiTrap MabSelect Sure(GE Healthcare)がタンデムにつながれた25 mM MES 緩衝液pH6で平衡化された1 mLサイズの陽イオン交換カラムHiTrap SP HP(GE Healthcare)に添加された。同緩衝液中NaCl濃度を300 mMまで直線的に上げて溶出をおこなうことで6RL#9抗体のFabフラグメントの精製画分が得られた。次に、得られた精製画分が5000MWCOの限外ろ過膜 により0.8 mL程度まで濃縮された。50 mM NaCl を含む100 mM HEPES緩衝液(pH 8)で平衡化されたゲルろ過カラムSuperdex 200 10/300 GL(GE Healthcare)に濃縮液が添加された。結晶化用の精製6RL#9抗体のFabフラグメントが同緩衝液を用いてカラムから溶出された。なお、上記のすべてのカラム操作は6から7.5℃の低温下にて実施された。
(9−4)6RL#9抗体の FabフラグメントのCa存在下での結晶化
予め一般的な条件設定で6RL#9 Fabフラグメントの種結晶が得られた。つぎに5 mM となるようにCaCl2が加えられた精製6RL#9抗体のFabフラグメントが5000MWCOの限外ろ過膜を用いて12 mg/mLに濃縮された。つぎに、ハンギングドロップ蒸気拡散法によって、前記のように濃縮された試料の結晶化が実施された。リザーバー溶液として20-29%のPEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)が用いられた。カバーグラス上で0.8μlのリザーバー溶液および0.8μlの前記濃縮試料の混合液に対して、29% PEG4000および5 mM CaCl2を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)中で破砕された前記種結晶が100-10000倍に希釈された希釈系列の溶液0.2μlを加えることによって結晶化ドロップが調製された。当該結晶化ドロップを20℃に2日から3日静置することによって得られた薄い板状の結晶のX線回折データが測定された。
(9−5)6RL#9抗体の FabフラグメントのCa非存在下での結晶化
精製6RL#9抗体のFabフラグメントが5000MWCOの限外ろ過膜 を用いて15 mg/mlに濃縮された。つぎに、ハンギングドロップ蒸気拡散法によって、前記のように濃縮された試料の結晶化が実施された。リザーバー溶液として18-25%のPEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)が用いられた。カバーグラス上で0.8μlのリザーバー溶液および0.8μlの前記濃縮試料の混合液に対して、25% PEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)中で破砕されたCa存在下で得られた6RL#9抗体のFabフラグメントの結晶が100-10000倍に希釈された希釈系列の溶液0.2μlを加えることによって結晶化ドロップが調製された。当該結晶化ドロップを20℃に2日から3日静置することによって得られた薄い板状の結晶のX線回折データが測定された。
(9−6)6RL#9抗体の FabフラグメントのCa存在下での結晶のX線回折データの測定
35% PEG4000および5 mM CaCl2を含む100mM HEPES緩衝液(pH7.5)の溶液に浸された6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下で得られた単結晶一つを、微小なナイロンループ付きのピンを用いて外液ごとすくいとることによって、当該単結晶が液体窒素中で凍結された。高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーのビームラインBL-17Aを用いて、前記の凍結結晶のX線回折データが測定された。なお、測定中は常に-178℃の窒素気流中に凍結結晶を置くことで凍結状態が維持された。ビームラインに備え付けられたCCDディテクタQuantum315r(ADSC)を用い、結晶を1°ずつ回転させながらトータル180枚の回折画像が収集された。格子定数の決定、回折斑点の指数付け、および回折データの処理がプログラムXia2(CCP4 Software Suite)、XDS Package(Walfgang Kabsch)ならびにScala(CCP4 Software Suite)によって行われた。最終的に分解能2.2Åまでの回折強度データが得られた。本結晶は、空間群P212121に属し、格子定数a=45.47Å、b=79.86Å、c=116.25Å、α=90°、β=90°、γ=90°であった。
(9−7)6RL#9抗体の FabフラグメントのCa非存在下での結晶のX線回折データの測定
35% PEG4000を含む100 mM HEPES緩衝液(pH7.5)の溶液に浸された6RL#9抗体のFabフラグメントのCa非存在下で得られた単結晶一つを、微小なナイロンループ付きのピンを用いて外液ごとすくいとることによって、当該単結晶が液体窒素中で凍結された。高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーのビームラインBL-5Aを用いて、前記の凍結結晶のX線回折データが測定された。なお、測定中は常に-178℃の窒素気流中に凍結結晶を置くことで凍結状態が維持された。ビームラインに備え付けられたCCDディテクタQuantum210r(ADSC)を用い、結晶を1°ずつ回転させながらトータル180枚の回折画像が収集された。格子定数の決定、回折斑点の指数付け、および回折データの処理がプログラムXia2(CCP4 Software Suite)、XDS Package(Walfgang Kabsch)ならびにScala(CCP4 Software Suite)によって行われた。最終的に分解能2.3Åまでの回折強度データが得られた。本結晶は、空間群P212121に属し、格子定数a=45.40Å、b=79.63Å、c=116.07Å、α=90°、β=90°、γ=90°であり、Ca存在下の結晶と同型であった。
(9−8)6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶の構造解析
プログラムPhaser(CCP4 Software Suite)を用いた分子置換法によって、6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶の構造が決定された。得られた結晶格子の大きさと6RL#9抗体のFabフラグメントの分子量から、非対称単位中の分子数が一個であると予想された。一次配列上の相同性をもとにPDB code: 1ZA6の構造座標から取り出されたA鎖112-220番およびB鎖116-218番のアミノ酸残基部分が、CLおよびCH1領域の探索用モデル分子とされた。次にPDB code: 1ZA6の構造座標から取り出されたB鎖1-115番のアミノ酸残基部分が、VH領域の探索用モデル分子とされた。最後にPDB code 2A9Mの構造座標から取り出された軽鎖3-147番のアミノ酸残基が、VL領域の探索用モデル分子とされた。この順番にしたがい各探索用モデル分子の結晶格子内での向きと位置を回転関数および並進関数から決定することによって、6RL#9抗体のFabフラグメントの初期構造モデルが得られた。当該初期構造モデルに対してVH、VL、CH1、CLの各ドメインを動かす剛体精密化をおこなうことにより、25-3.0Åの反射データに対する結晶学的信頼度因子R値は46.9%、Free R値は48.6%となった。さらにプログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcおよび位相を用い計算された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップを参照しながらモデル修正を繰り返しプログラムCoot(Paul Emsley)上でおこなうことによってモデルの精密化がおこなわれた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとにCaイオンおよび水分子をモデルに組み込むことによって、プログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いて精密化がおこなわれた。分解能25-2.2Åの21020個の反射データを用いることによって、最終的に3440原子のモデルに対する結晶学的信頼度因子R値は20.0%、Free R値は27.9%となった。
(9−9)6RL#9抗体のFabフラグメントのCa非存在下での結晶のX線回折データの測定
6RL#9抗体のFabフラグメントのCa非存在下での結晶の構造は、同型であるCa存在下結晶の構造を使って決定された。6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶の構造座標から水分子とCaイオン分子がのぞかれ、VH、VL、CH1、CLの各ドメインを動かす剛体精密化がおこなわれた。25-3.0Åの反射データに対する結晶学的信頼度因子R値は30.3%、Free R値は31.7%となった。さらにプログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcおよび位相を用い計算された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップを参照しながらモデル修正を繰り返しプログラムCoot(Paul Emsley)上でおこなうことによってモデルの精密化がおこなわれた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとに水分子をモデルに組み込むことによって、プログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いて精密化がおこなわれた。分解能25-2.3Åの18357個の反射データを用いることによって、最終的に3351原子のモデルに対する結晶学的信頼度因子R値は20.9%、Free R値は27.7%となった。
(9−10)6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在または非存在下での結晶のX線回析データの比較
6RL#9抗体のFabフラグメントのCa存在下での結晶およびCa非存在下での結晶の構造を比較すると、重鎖CDR3に大きな変化がみられた。X線結晶構造解析で決定された6RL#9抗体のFabフラグメントの重鎖CDR3の構造を図41に示した。具体的には、Ca存在下での6RL#9抗体のFabフラグメントの結晶では、重鎖CDR3ループ部分の中心部分にカルシウムイオンが存在していた。カルシウムイオンは、重鎖CDR3の95位、96位および100a番目位(Kabatナンバリング)と相互作用していると考えられた。Ca存在下では、抗原との結合に重要である重鎖CDR3ループがカルシウムと結合することによって安定化し、抗原との結合に最適な構造となっていることが考えられた。抗体の重鎖CDR3にカルシウムが結合する例は今までに報告されておらず、抗体の重鎖CDR3にカルシウムが結合した構造は新規な構造である。
6RL#9抗体のFabフラグメントの構造から明らかになった重鎖CDR3に存在するカルシウム結合モチーフも、Caライブラリのデザインの新たな要素となりうる。たとえば6RL#9抗体の重鎖CDR3を含み、軽鎖を含むそれ以外のCDRにフレキシブル残基を含むライブラリが考えられる。
〔参考実施例10〕ファージディスプレイ技術を用いたヒト抗体ライブラリからのCa依存的にIL-6に結合する抗体の取得
(10−1)ナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリの作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型として当業者に公知な方法にしたがい、互いに異なるヒト抗体配列のFabドメインを提示する複数のファージからなるヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。
(10−2)ビーズパンニングによるライブラリからのCa依存的に抗原に結合する抗体断片の取得
構築されたナイーブヒト抗体ファージディスプレイライブラリからの最初の選抜は、抗原(IL-6)への結合能をもつ抗体断片のみの濃縮によって実施された。抗原としてビオチン標識されたIL-6が用いられた。
構築されたファージディスプレイ用ファージミドを保持した大腸菌からファージ産生が行われた。ファージ産生が行われた大腸菌の培養液に2.5 M NaCl/10%PEGを添加することによって沈殿させたファージの集団をTBSにて希釈することによってファージライブラリ液が得られた。次に、ファージライブラリ液に終濃度4%BSAおよび1.2mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が添加された。パンニング方法として、一般的な方法である磁気ビーズに固定化した抗原を用いたパンニング方法が参照された(J. Immunol. Methods. (2008) 332 (1-2), 2-9、J. Immunol. Methods. (2001) 247 (1-2), 191-203、Biotechnol. Prog. (2002) 18 (2) 212-20、Mol. Cell Proteomics (2003) 2 (2), 61-9)。磁気ビーズとして、NeutrAvidin coated beads(Sera-Mag SpeedBeads NeutrAvidin-coated)もしくはStreptavidin coated beads(Dynabeads M-280 Streptavidin)が用いられた。
具体的には、調製されたファージライブラリ液に250 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、当該ファージライブラリ液を室温にて60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温にて15分間結合させた。ビーズは1.2 mM CaCl2/TBST(1.2 mM CaCl2を含むTBST)にて3回洗浄された後、1 mLの1.2 mM CaCl2/TBS(1.2 mM CaCl2を含むTBS)にてさらに2回洗浄された。その後、0.5 mLの1 mg/mLのトリプシンが加えられたビーズは室温で15分懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液が、対数増殖期(OD600が0.4-0.5)となった10 mLの大腸菌株TG1に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は、225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによって、ファージライブラリ液が調製された。
2回目以降のパンニングでは、Ca依存的結合能を指標にファージの濃縮が行われた。具体的には、調製したファージライブラリ液に40 pmolのビオチン標識抗原を加えることによって、ファージライブラリを室温で60分間抗原と接触させた。BSAでブロッキングされた磁気ビーズが加えられ、抗原とファージとの複合体を磁気ビーズと室温で15分間結合させた。ビーズは1 mLの1.2 mM CaCl2/TBSTと1.2 mM CaCl2/TBSにて洗浄された。その後0.1 mLの2 mM EDTA/TBSが加えられたビーズは室温で懸濁された後、即座に磁気スタンドを用いてビーズが分離され、ファージ溶液が回収された。回収されたファージ溶液に100 mg/mLのトリプシン5μLを加えることによって、Fabを提示しないファージのpIIIタンパク質(ヘルパーファージ由来のpIIIタンパク質)が切断され、Fabを提示しないファージの大腸菌に対する感染能を失わせた。トリプシン処理されたファージ溶液から回収されたファージが、対数増殖期(OD600が0.4-0.7)となった10 mLの大腸菌株TG1に添加された。37℃で1時間緩やかに上記大腸菌の攪拌培養を行うことによって、ファージを大腸菌に感染させた。感染させた大腸菌は225 mm x 225 mmのプレートへ播種された。次に、播種された大腸菌の培養液からファージを回収することによってファージライブラリ液が回収された。Ca依存的結合能を指標とするパンニングが3回繰り返された。
(10−3)ファージELISAによる評価
上記の方法によって得られた大腸菌のシングルコロニーから、常法(Methods Mol. Biol. (2002) 178, 133-145)に習い、ファージ含有培養上清が回収された。
終濃度4%BSAおよび1.2 mMカルシウムイオン濃度となるようにBSAおよびCaCl2が加えられたファージを含有する培養上清が以下の手順でELISAに供された。StreptaWell 96マイクロタイタープレート(Roche)がビオチン標識抗原を含む100μLのPBSにて一晩コートされた。当該プレートの各ウェルをPBSTにて洗浄することによって抗原が除かれた後、当該ウェルが1時間以上250μLの4%BSA-TBSにてブロッキングされた。4%BSA-TBSが除かれた各ウェルに調製された培養上清が加えられた当該プレートを37℃で1時間静置することによって、ファージを提示する抗体を各ウェルに存在する抗原に結合させた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された各ウェルに、1.2 mM CaCl2/TBSもしくは1 mM EDTA/TBSが加えられ、当該プレートは37℃で30分間静置しインキュベートされた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄された後に、終濃度4%のBSAおよび1.2 mMのイオン化カルシウム濃度としたTBSによって希釈されたHRP結合抗M13抗体(Amersham Pharmacia Biotech)が各ウェルに添加されたプレートを1時間インキュベートさせた。1.2 mM CaCl2/TBSTにて洗浄後、TMB single溶液(ZYMED)が添加された各ウェル中の溶液の発色反応が、硫酸の添加により停止された後、450 nmの吸光度によって当該発色が測定された。
単離された96クローンを用いてファージELISAを行うことによって、IL-6に対するCa依存的な結合能を有する6KC4-1#85抗体が得られた。上記のファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断される抗体断片を鋳型として特異的なプライマーによって増幅された遺伝子の塩基配列解析が行われた。6KC4-1#85抗体の重鎖可変領域の配列を配列番号:10に、および軽鎖可変領域の配列を配列番号:98に記載した。6KC4-1#85抗体の重鎖可変領域(配列番号:10)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によってIgG1由来配列をコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれ、配列番号:99で表される重鎖を発現するベクターが構築された。6KC4-1#85抗体の軽鎖可変領域(配列番号:98)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって天然型Kappa鎖の定常領域(配列番号:100)をコードするポリヌクレオチドと連結され配列番号:101で表された配列をコードするDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体の配列は当業者公知の方法で確認された。作製された改変体の配列は当業者公知の方法で確認された。
(10−4)抗体の発現と精製
ファージELISAの結果、Ca依存的な抗原に対する結合能があると判断されたクローン6KC4-1#85が、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
〔参考実施例11〕6KC4-1#85抗体のカルシウムイオン結合評価
(11−1)6KC4-1#85抗体のカルシウムイオン結合評価
ヒト抗体ライブラリから取得されたカルシウム依存的抗原結合抗体6KC4-1#85抗体がカルシウムと結合するか評価された。イオン化カルシウム濃度が異なる条件で、測定されるTm値が変動するか否かが参考実施例6に記載された方法で評価された。
6KC4-1#85抗体のFabドメインのTm値を表32に示した。表32に示したように、6KC4-1#85抗体のFabドメインのTm値はカルシウムイオンの濃度によって変動していることから、6KC4-1#85抗体がカルシウムと結合することが明らかになった。
Figure 0006496702
(11−2)6KC4-1#85抗体のカルシウムイオン結合部位の同定
参考実施例11の(11−1)で6KC4-1#85抗体にカルシウムイオンと結合することが示されたが、6KC4-1#85はhVk5-2配列の検討から明らかになったカルシウム結合モチーフを持たない。そこで、カルシウムイオンが6KC4-1#85抗体のどの残基とカルシウムイオンが結合しているか同定するために、6KC4-1#85抗体のCDRに存在するAsp(D)残基をカルシウムイオンの結合もしくはキレートに関与できないAla(A)残基に置換した改変重鎖(6_H1-11(配列番号:102)、6_H1-12(配列番号:103)、6_H1-13(配列番号:104)、6_H1-14(配列番号:105)、6_H1-15(配列番号:106))、または改変軽鎖(6_L1-5(配列番号:107)および6_L1-6(配列番号:108))が作製された。改変抗体遺伝子を含む発現ベクターが導入された動物細胞の培養液から、改変抗体が参考実施例6に記載された方法にしたがって精製された。精製された改変抗体のカルシウム結合が、参考実施例6に記載された方法にしたがって測定された。測定された結果を表33に示した。表33に示されているように、6KC4-1#85抗体の重鎖CDR3の95位または101位(Kabatナンバリング)をAla残基に置換することによって6KC4-1#85抗体のカルシウム結合能が失われることから、この残基がカルシウムとの結合に重要であると考えられる。6KC4-1#85抗体の改変抗体のカルシウム結合性から明らかになった6KC4-1#85抗体の重鎖CDR3のループ付け根付近に存在するカルシウム結合モチーフも、参考実施例9で記載されるようなCaライブラリのデザインの新たな要素となりうる。すなわち、参考実施例20等で具体例が挙げられた軽鎖可変領域にカルシウム結合モチーフが導入されたライブラリのほかに、たとえば6KC4-1#85抗体の重鎖CDR3に存在するカルシウム結合モチーフを含み、それ以外のアミノ酸残基にフレキシブル残基を含むライブラリが考えられる。
Figure 0006496702
〔参考実施例12〕ノーマルマウス を用いたCa依存性結合抗体の抗原の血漿中滞留性への影響の評価
(12−1)ノーマルマウスを用いたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6レセプター:参考実施例3にて作製)を単独投与もしくは可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体を同時投与した後の可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の体内動態が評価された。可溶型ヒトIL-6レセプター溶液(5μg/mL)、もしくは、可溶型ヒトIL-6レセプターと抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体としては、前記のH54/L28-IgG1、6RL#9-IgG1、FH4-IgG1が使用された。
混合溶液中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は全て5μg/mLであるが、抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は抗体毎に異なり、H54/L28-IgG1は0.1 mg/mL、6RL#9-IgG1およびFH4-IgG1は10 mg/mL、このとき、可溶型ヒトIL-6レセプターに対して抗ヒトIL-6レセプター抗体は十分量過剰に存在することから、可溶型ヒトIL-6レセプターは大部分が抗体に結合していると考えられた。投与後15分、7時間、1日、2日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿を得た。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫で保存された。
(12−2)ELISA法によるノーマルマウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度の測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度はELISA法にて測定された。まずAnti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)をNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として0.64、0.32、0.16、0.08、0.04、0.02、0.01μg/mLの検量線試料および100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料のそれぞれが分注されたAnti-Human IgG固相化プレートが25℃で1時間インキュベーションされた。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)を25℃で1時間反応させた後にStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)を25℃で0.5時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いて発色反応が行われた。1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)によって発色反応が停止された後、マイクロプレートリーダーを用いて発色液の450 nmにおける吸光度が測定された。解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて、マウス血漿中濃度が検量線の吸光度を基準として算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおけるH54/L28-IgG1、6RL#9-IgG1、FH4-IgG1の血漿中の抗体濃度の推移を図42に示した。
(12−3)電気化学発光法による血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度の測定
マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調整された可溶型ヒトIL-6レセプター検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料と、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)およびトシリズマブ(重鎖配列番号:109、軽鎖配列番号:83)溶液との混合液を4℃で1晩反応させた。サンプル中のFree Ca濃度を低下させ、サンプル中のほぼ全ての可溶型ヒトIL-6レセプターが6RL#9-IgG1もしくはFH4-IgG1から解離し、添加したトシリズマブと結合した状態とするために、その際のAssay bufferには10 mM EDTAが含まれていた。その後、当該反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに25℃で1時間反応させたプレートの各ウェルが洗浄された後、各ウェルにRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。ただちに反応液はSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)を用いて測定された。可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。前記の方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプターの濃度推移を図43に示した。
その結果、可溶型ヒトIL-6レセプター単独では非常に早い消失を示したのに対して、可溶型ヒトIL-6レセプターとCa依存的な結合が無い通常の抗体であるH54/L28-IgG1を同時に投与した場合は、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失を大幅に遅くした。それに対して、可溶型ヒトIL-6レセプターと100倍以上のCa依存的な結合を有する6RL#9-IgG1あるいはFH4-IgG1を同時に投与した場合は、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失が大幅に加速された。H54/L28-IgG1を同時に投与した場合と比較して、6RL#9-IgG1およびFH4-IgG1を同時に投与した場合は、一日後の血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度はそれぞれ39倍および2倍低減された。これよりカルシウム依存的結合抗体が血漿中からの抗原の消失を加速可能であることが確認された。
〔参考実施例13〕Ca依存的抗原結合抗体の抗原消失加速効果の向上検討(抗体作製)
(13−1)IgG抗体のFcRnへの結合に関して
IgG抗体はFcRnに結合することで長い血漿中滞留性を有する。IgGとFcRnの結合は酸性条件下(pH6.0)においてのみ認められ、中性条件下(pH7.4)においてその結合はほとんど認められない。IgG抗体は非特異的に細胞に取り込まれるが、エンドソーム内の酸性条件下においてエンドソーム内のFcRnに結合することによって細胞表面上に戻り、血漿中の中性条件下においてFcRnから解離する。IgGのFc領域に変異を導入し、酸性条件下におけるFcRnへの結合を失わせると、エンドソーム内から血漿中にリサイクルされなくなるため、抗体の血漿中滞留性は著しく損なわれる。
IgG抗体の血漿中滞留性を改善させる方法として、酸性条件下におけるFcRnへの結合を向上させる方法が報告されている。IgG抗体のFc領域にアミノ酸置換を導入し、酸性条件下のFcRnへの結合を向上させることによって、エンドソーム内から血漿中へのIgG抗体のリサイクル効率が上昇する。その結果、IgG抗体の血漿中の滞留性が改善する。アミノ酸の置換を導入する際に重要と考えられているのは、中性条件下におけるFcRnへの結合を高めないことであった。中性条件下においてFcRnに結合するIgG抗体は、エンドソーム内の酸性条件下においてFcRnに結合することによって細胞表面上に戻ることはできても、中性条件下の血漿中においてIgG抗体がFcRnから解離せず血漿中にリサイクルされないために、逆にIgG抗体の血漿中滞留性は損なわれると考えられていた。
例えば、Dall' Acquaら(J. Immunol. (2002) 169 (9), 5171-5180)に記載されているように、マウスに投与された、アミノ酸置換を導入することによって中性条件下(pH7.4)においてマウスFcRnに対する結合が認められるようになったIgG1抗体の血漿中滞留性が悪化することが報告されている。また、Yeungら(J. Immunol. (2009) 182 (12), 7663-7671)、Datta-Mannanら(J. Biol. Chem. (2007) 282 (3), 1709-1717)、Dall' Acquaら(J. Immunol. (2002) 169 (9), 5171-5180)に記載されているように、アミノ酸置換を導入することによって酸性条件下(pH6.0)におけるヒトFcRnの結合が向上するIgG1抗体改変体は、同時に中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合が認められるようになる。カニクイザルに投与された当該抗体の血漿中滞留性は改善されず、血漿中滞留性に変化が認められなかったことが報告されている。そのため、抗体の機能を向上させる抗体工学技術においては、中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合を増加させることなく酸性条件下におけるヒトFcRnへの結合を増加させることで抗体の血漿中滞留性を改善させることに注力されていた。すなわち、そのFc領域にアミノ酸置換を導入することによって中性条件下(pH7.4)におけるヒトFcRnに対する結合が増加したIgG1抗体の利点はこれまで報告されていない。
Ca依存的に抗原に結合する抗体は、可溶型の抗原の消失を加速させ、ひとつの抗体分子が複数回繰り返し可溶型の抗原に結合する効果を有することから、極めて有用である。この抗原消失加速効果をさらに向上させる方法として、中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を増強する方法が検証された。
(13−2)中性条件下におけるFcRnに対する結合活性を有するCa依存的ヒトIL-6レセプター結合抗体の調製
カルシウム依存的抗原結合能を有するFH4-IgG1、6RL#9-IgG1、および対照として用いられたカルシウム依存的抗原結合能を有しないH54/L28-IgG1のFc領域にアミノ酸変異を導入することによって、中性条件下(pH7.4)におけるFcRnに対する結合を有する改変体が作製された。アミノ酸の変異の導入はPCRを用いた当業者公知の方法を用いて行われた。具体的には、IgG1の重鎖定常領域に対して、EUナンバリングで表される434位のアミノ酸であるAsnがTrpに置換されたFH4-N434W(重鎖配列番号:110、軽鎖配列番号:95)と6RL#9-N434W(重鎖配列番号:111、軽鎖配列番号:93)とH54/L28-N434W(重鎖配列番号:112、軽鎖配列番号:97)が作製された。QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法を用いてそのアミノ酸が置換された変異体をコードするポリヌクレオチドが挿入された動物細胞発現ベクターが作製された。抗体の発現、精製、濃度測定は参考実施例6に記載された方法に準じて実施された。
〔参考実施例14〕ノーマルマウスを用いたCa依存性結合抗体の消失加速効果の評価
(14−1)ノーマルマウスを用いたin vivo試験
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)にhsIL-6R(可溶型ヒトIL-6レセプター:参考実施例3にて作製)が単独で投与された、もしくは可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体が同時投与された後の可溶型ヒトIL-6レセプターおよび抗ヒトIL-6レセプター抗体の体内動態が評価された。可溶型ヒトIL-6レセプター溶液(5μg/mL)、もしくは、可溶型ヒトIL-6レセプターと抗ヒトIL-6レセプター抗体の混合溶液が尾静脈に10 mL/kgで単回投与された。抗ヒトIL-6レセプター抗体として、上述のH54/L28-N434W、6RL#9-N434W、FH4-N434Wが使用された。
混合溶液中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は全て5μg/mLであるが、抗ヒトIL-6レセプター抗体の濃度は抗体毎に異なり、H54/L28-N434Wは0.042 mg/mL、6RL#9-N434Wは0.55 mg/mL、FH4-N434Wは1 mg/mLに調製された。このとき、可溶型ヒトIL-6レセプターに対して抗ヒトIL-6レセプター抗体は十分量過剰に存在するため、可溶型ヒトIL-6レセプターの大部分は抗体に結合していると考えられた。投与後15分、7時間、1日、2日、4日、7日、14日、21日、28日の時点で採血が行われた。採取された血液を直ちに4℃、12,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫で保存された。
(14−2)ELISA法によるノーマルマウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体の濃度の測定
マウス血漿中の抗ヒトIL-6レセプター抗体濃度は参考実施例12と同様のELISA法によって測定された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおけるH54/L28-N434W、6RL#9-N434W、FH4-N434W抗体の血漿中の抗体濃度の推移を図44に示した。
(14−3)電気化学発光法による血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度測定
マウスの血漿中可溶型ヒトIL-6レセプター濃度が電気化学発光法にて測定された。2000、1000、500、250、125、62.5、31.25 pg/mLに調製された可溶型ヒトIL-6レセプター検量線試料および50倍以上希釈されたマウス血漿測定試料と、SULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)との混合液を4℃で1晩反応させた。サンプル中のFree Ca濃度を低下させ、サンプル中のほぼ全ての可溶型ヒトIL-6レセプターが6RL#9-N434WもしくはFH4-N434Wから解離し、free体として存在する状態とするために、その際のAssay bufferには10 mM EDTAが含まれていた。その後、当該反応液がMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注された。さらに25℃で1時間反応させたプレートの各ウェルが洗浄された後、各ウェルにRead Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注された。ただちに反応液はSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)を用いて測定された。可溶型ヒトIL-6レセプター濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。前記の方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプターの濃度推移を図45に示した。
その結果、pH7.4におけるFcRnに対する結合活性を有する一方で可溶型ヒトIL-6レセプターに対するCa依存的な結合活性を有しないH54/L28-N434W抗体が同時に投与された場合は、可溶型ヒトIL-6レセプターが単独で投与された場合と比較して、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失が大幅に遅延した。それに対して、可溶型ヒトIL-6レセプターに対して100倍以上のCa依存的な結合を有し、pH7.4におけるFcRnに対する結合を有する6RL#9-N434W抗体またはFH4-N434W抗体が同時に投与された場合は、可溶型ヒトIL-6レセプターが単独で投与された場合よりも可溶型ヒトIL-6レセプターの消失が加速された。可溶型ヒトIL-6レセプターが単独で投与された場合と比較して、6RL#9-N434W抗体またはFH4-N434W抗体が同時に投与された場合は、投与後一日での血漿中の可溶型ヒトIL-6レセプター濃度がそれぞれ3倍および8倍低減した。この結果、カルシウム依存的に抗原に対して結合する抗体に対して、pH7.4におけるFcRnに対する結合活性を付与することによって、血漿中からの抗原の消失がさらに加速し得ることが確認された。
可溶型ヒトIL-6レセプターに対するCa依存的な結合を有しないH54/L28-IgG1抗体と比較して、可溶型ヒトIL-6レセプターに対して100倍以上のCa依存的な結合活性を有する6RL#9-IgG1抗体またはFH4-IgG1抗体は、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失を増大させる効果が確認された。可溶型ヒトIL-6レセプターに対して100倍以上のCa依存的な結合を有し、pH7.4におけるFcRnに対する結合を有する6RL#9-N434W抗体またはFH4-N434W抗体は、可溶型ヒトIL-6レセプターの消失を可溶型ヒトIL-6レセプター単独の投与よりも加速することが確認された。これらのデータは、pH依存的に抗原に結合する抗体と同様、Ca依存的に抗原に結合する抗体がエンドソーム内で抗原を解離することを示唆している。
〔参考実施例15〕カルシウムイオンに結合するヒト生殖細胞系列配列の探索
(15−1)カルシウム依存的に抗原に結合する抗体
カルシウム依存的に抗原に結合する抗体(カルシウム依存的抗原結合抗体)はカルシウムの濃度によって抗原との相互作用が変化する抗体である。カルシウム依存的抗原結合抗体は、カルシウムイオンを介して抗原に結合すると考えられるため、抗原側のエピトープを形成するアミノ酸は、カルシウムイオンをキレートすることが可能な負電荷のアミノ酸あるいは水素結合アクセプターとなりうるアミノ酸である。こうしたエピトープを形成するアミノ酸の性質から、ヒスチジンを導入することにより作製されるpH依存的に抗原に結合する結合分子以外のエピトープをターゲットすることが可能となる。カルシウム依存的およびpH依存的に抗原に結合する性質を併せ持つ抗原結合分子を用いることで、幅広い性質を有する多様なエピトープを個々にターゲットすることが可能な抗原結合分子を作製することが可能となると考えられる。そこで、カルシウムが結合するモチーフを含む分子の集合(Caライブラリ)を構築し、この分子の集団から抗原結合分子を取得すれば、カルシウム依存的抗原結合抗体が効率的に得られると考えられる。
(15−2)ヒト生殖細胞系列配列の取得
カルシウムが結合するモチーフを含む分子の集合の例として、当該分子が抗体である例が考えられる。言い換えればカルシウムが結合するモチーフを含む抗体ライブラリがCaライブラリである場合が考えられる。
ヒト生殖細胞系列配列を含む抗体でカルシウムイオンが結合するものはこれまで報告されていない。そこで、ヒト生殖細胞系列配列を含む抗体がカルシウムイオンと結合するか否かを判定するため、Human Fetal Spreen Poly RNA(Clontech)から調製されたcDNAを鋳型としてヒト生殖細胞系列配列を含む抗体の生殖細胞系列の配列がクローニングされた。クローニングされたDNA断片は動物細胞発現ベクターに挿入された。得られた発現ベクターの塩基配列を当業者公知の方法で決定し、その配列番号を表34に示した。配列番号:5(Vk1)、配列番号:6(Vk2)、配列番号:7(Vk3)、配列番号:8(Vk4)ならびに配列番号:4(Vk5)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって天然型Kappa鎖の定常領域(配列番号:100)をコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。また、配列番号:113(Vk1)、配列番号:114(Vk2)、配列番号:115(Vk3)、配列番号:116(Vk4)ならびに配列番号:117(Vk5)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって配列番号:11で表されるIgG1のC末端2アミノ酸が欠失したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体の配列は当業者公知の方法で確認された。
Figure 0006496702
(15−3)抗体の発現と精製
取得された5種類のヒト生殖細胞系列配列を含むDNA断片が挿入された動物細胞発現ベクターが動物細胞へ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(15−4)ヒト生殖細胞系列配列を含む抗体のカルシウムイオン結合活性の評価
精製された抗体のカルシウムイオン結合活性が評価された。抗体へのカルシウムイオンの結合の評価の指標として、示差走査型熱量測定(DSC)による熱変性中間温度(Tm値)が測定された(MicroCal VP-Capillary DSC、MicroCal)。熱変性中間温度(Tm値)は安定性の指標であり、カルシウムイオンの結合によってタンパク質が安定化すると、熱変性中間温度(Tm値)はカルシウムイオンが結合していない場合に比べて高くなる(J. Biol. Chem. (2008) 283, 37, 25140-25149)。抗体溶液中のカルシウムイオン濃度の変化に応じた抗体のTm値の変化を評価することによって、抗体へのカルシウムイオンの結合活性が評価された。精製された抗体が20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、2 mM CaCl2(pH7.4)または20 mM Tris-HCl、150 mM NaCl, 3μM CaCl2(pH7.4)の溶液を外液とする透析(EasySEP、TOMY)処理に供された。透析に用いられた溶液を用いておよそ0.1 mg/mLに調製された抗体溶液を被験物質として、20℃から115℃まで240℃/hrの昇温速度でDSC測定が行われた。得られたDSCの変性曲線にもとづいて算出された各抗体のFabドメインの熱変性中間温度(Tm値)を表35に示した。
Figure 0006496702
その結果、Vk1、Vk2、Vk3、Vk4配列を含む抗体のFabドメインのTm値は、当該Fabドメインを含む溶液中のカルシウムイオンの濃度によらず変動しなかった。一方で、Vk5配列を含む抗体のFabドメインのTm値は、当該Fabドメインを含む抗体溶液中のカルシウムイオンの濃度によって変動したことから、Vk5配列がカルシウムイオンと結合することが示された。
〔参考実施例16〕ヒトVk5(hVk5)配列の評価
(16−1)hVk5配列
Kabatデータベース中には、hVk5配列としてhVk5-2配列のみが登録されている。以下では、hVk5とhVk5-2は同義で扱われる。WO2010/136598では、hVk5-2配列の生殖細胞系列配列中の存在比は0.4%と記載されている。他の報告でもhVk5-2配列の生殖細胞系列配列中の存在比は0〜0.06%と述べられている(J. Mol. Biol. (2000) 296, 57-86、Proc. Natl. Acad. Sci. (2009) 106, 48, 20216-20221)。上記のように、hVk5-2配列は、生殖細胞系列配列中で出現頻度が低い配列であるため、ヒト生殖細胞系列配列で構成される抗体ライブラリやヒト抗体を発現するマウスへの免疫によって取得されたB細胞から、カルシウムと結合する抗体を取得することは非効率であると考えられた。そこで、ヒトhVk5-2配列を含むCaライブラリを設計する可能性が考えられるが、hVk5-2配列の物性は報告されておらず、その可能性の実現は未知であった。
(16−2)糖鎖非付加型hVk5-2配列の構築、発現および精製
hVk5-2配列は20位(Kabatナンバリング)のアミノ酸にN型糖鎖が付加する配列を有する。タンパク質に付加する糖鎖にはヘテロジェニティーが存在するため、物質の均一性の観点から糖鎖は付加されないほうが望ましい。そこで、20位(Kabatナンバリング)のAsn(N)残基がThr(T)残基に置換された改変体hVk5-2_L65(配列番号:118)が作製された。アミノ酸の置換はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いる当業者公知の方法で行われた。改変体hVk5-2_L65をコードするDNAが動物発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体hVk5-2_L65のDNAが組み込まれた動物発現用ベクターは、重鎖としてCIM_H(配列番号:117)が発現するように組み込まれた動物発現用のベクターと、参考実施例6で記載した方法で共に動物細胞中に導入された。導入された動物細胞中で発現したhVk5-2_L65 およびCIM_Hを含む抗体が、参考実施例6で記載した方法で精製された。
(16−3)糖鎖非付加型hVk5-2配列を含む抗体の物性評価
取得された改変配列hVk5-2_L65を含む抗体が、改変に供されたもとのhVk5-2配列を含む抗体よりも、そのヘテロジェニティーが減少しているか否かが、イオン交換クロマトグラフィーを用いて分析された。イオン交換クロマトグラフィーの方法を表36に示した。分析の結果、図46に示したように糖鎖付加部位が改変されたhVk5-2_L65は、元のhVk5-2配列よりもヘテロジェニティーが減少していることが示された。
Figure 0006496702
次に、ヘテロジェニティーが減少したhVk5-2_L65配列を含む抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが、参考実施例15に記載された方法を用いて評価された。その結果、表37に示したように、糖鎖付加部位が改変されたhVk5-2_L65を含む抗体のFabドメインのTm値も、抗体溶液中のカルシウムイオンの濃度の変化によって変動した。すなわち、糖鎖付加部位が改変されたhVk5-2_L65を含む抗体のFabドメインにカルシウムイオンが結合することが示された。
Figure 0006496702
〔参考実施例17〕hVk5-2配列のCDR配列を含む抗体分子に対するカルシウムイオンの結合活性の評価
(17−1)hVk5-2配列のCDR配列を含む改変抗体の作製、発現および精製
hVk5-2_L65配列はヒトVk5-2配列のフレームワークに存在する糖鎖付加部位のアミノ酸が改変された配列である。参考実施例16で糖鎖付加部位を改変してもカルシウムイオンが結合することが示されたが、フレームワーク配列は生殖細胞系列の配列であることが免疫原性の観点から一般的には望ましい。そこで、抗体のフレームワーク配列を、当該抗体に対するカルシウムイオンの結合活性を維持しながら、糖鎖が付加されない生殖細胞系列配列のフレームワーク配列に置換することが可能であるか否かが検討された。
化学合成されたhVk5-2配列のフレームワーク配列がhVk1、hVk2、hVk3および hVk4配列に改変された配列(それぞれCaVk1(配列番号:119)、CaVk2(配列番号:120)、CaVk3(配列番号:121)、CaVk4(配列番号:122)をコードするポリヌクレオチドが、PCR法によって天然型Kappa鎖の定常領域(配列番号:100)をコードするポリヌクレオチドと連結されたDNA断片が、動物細胞発現用ベクターに組み込まれた。作製された改変体の配列は当業者公知の方法で確認された。上記のように作製された各プラスミドは、重鎖CIM_H(配列番号:117)をコードするポリヌクレオチドが組み込まれたプラスミドと共に参考実施例6で記載された方法で動物細胞に導入された。上記のように導入された動物細胞の培養液から、発現した所望の抗体分子が精製された。
(17−2)hVk5-2配列のCDR配列を含む改変抗体のカルシウムイオン結合活性の評価
hVk5-2配列以外の生殖細胞系列配列(hVk1、hVk2、hVk3、hVk4)のフレームワーク配列およびhVk5-2配列のCDR配列を含む改変抗体に、カルシウムイオンが結合するか否かが実施例6に記載された方法によって評価された。評価された結果を表38に示した。各改変抗体のFabドメインのTm値は、抗体溶液中のカルシウムイオン濃度の変化によって変動することが示された。よって、hVk5-2配列のフレームワーク配列以外のフレームワーク配列を含む抗体もカルシウムイオンと結合することが示された。
Figure 0006496702
さらに、hVk5-2配列以外の生殖細胞系列配列(hVk1、hVk2、hVk3、hVk4)のフレームワーク配列およびhVk5-2配列のCDR配列を含むように改変された各抗体のFabドメインの熱安定性の指標である熱変性温度(Tm値)は、改変に供されたもとのhVk5-2配列を含む抗体のFabドメインのTm値よりも増加することが明らかになった。この結果から、hVk1、hVk2、hVk3、hVk4のフレームワーク配列およびhVk5-2配列のCDR配列を含む抗体はカルシウムイオンと結合する性質を有する上に、熱安定性の観点でも優れた分子であることが見出された。
〔参考実施例18〕ヒト生殖細胞系列hVk5-2配列に存在するカルシウムイオン結合部位の同定
(18−1)hVk5-2配列のCDR配列中の変異部位の設計
参考実施例17に記載されているように、hVk5-2配列のCDR部分が他の生殖細胞系列のフレームワーク配列に導入された軽鎖を含む抗体もカルシウムイオンと結合することが示された。この結果からhVk5-2に存在するカルシウムイオン結合部位はCDRの中に存在することが示唆された。カルシウムイオンと結合する、すなわち、カルシウムイオンをキレートするアミノ酸として、負電荷のアミノ酸もしくは水素結合のアクセプターとなりうるアミノ酸が挙げられる。そこで、hVk5-2配列のCDR配列中に存在するAsp(D)残基またはGlu(E)残基がAla(A)残基に置換された変異hVk5-2配列を含む抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが評価された。
(18−2)hVk5-2配列のAla置換体の作製ならびに抗体の発現および精製
hVk5-2配列のCDR配列中に存在するAspおよび/ またはGlu残基がAla残基に改変された軽鎖を含む抗体分子が作製された。参考実施例16で記載されるように、糖鎖が付加されない改変体hVk5-2_L65はカルシウムイオン結合を維持していたことから、カルシウムイオン結合性という観点ではhVk5-2配列と同等と考えられる。本実施例ではhVk5-2_L65をテンプレート配列としてアミノ酸置換が行われた。作製された改変体を表39に示した。アミノ酸の置換はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)、PCRまたはIn fusion Advantage PCR cloning kit(TAKARA)等の当業者公知の方法によって行われ、アミノ酸が置換された改変軽鎖の発現ベクターが構築された。
Figure 0006496702
得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定された。作製された改変軽鎖の発現ベクターを重鎖CIM_H(配列番号:117)の発現ベクターと共に、ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen)に一過性に導入することによって、抗体を発現させた。得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体が精製された。精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が、分光光度計を用いて測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(18−3)hVk5-2配列のAla置換体を含む抗体のカルシウムイオン結合活性評価
得られた精製抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが参考実施例15に記載された方法によって判定された。その結果を表40に示した。hVk5-2配列のCDR配列中に存在するAspまたはGlu残基をカルシウムイオンの結合もしくはキレートに関与できないAla残基に置換することによって、抗体溶液のカルシウムイオン濃度の変化によってそのFabドメインのTm値が変動しない抗体が存在した。Ala置換によってTm値が変動しない置換部位(32位および92位(Kabatナンバリング))はカルシウムイオンと抗体の結合に特に重要であることが示された。
Figure 0006496702
〔参考実施例19〕カルシウムイオン結合モチーフを有するhVk1配列を含む抗体のカルシウムイオン結合活性の評価
(19−1)カルシウムイオン結合モチーフを有するhVk1配列の作製ならびに抗体の発現および精製
参考実施例18で記載されたAla置換体のカルシウムの結合活性の結果から、hVk5-2配列のCDR配列の中でAspやGlu残基がカルシウム結合に重要であることが示された。そこで、30位、31位、32位、50位および92位(Kabatナンバリング)の残基のみを他の生殖細胞系列の可変領域配列に導入してもカルシウムイオンと結合できるか否かが評価された。具体的には、ヒト生殖細胞系配列であるhVk1配列の30位、31位、32位、50位および92位(Kabatナンバリング)の残基がhVk5-2配列の30位、31位、32位、50位および92位(Kabatナンバリング)の残基に置換された改変体LfVk1_Ca(配列番号:131)が作製された。すなわち、hVk5-2配列中のこれらの5残基のみが導入されたhVk1配列を含む抗体がカルシウムと結合できるか否かが判定された。改変体の作製は参考実施例17と同様に行われた。得られた軽鎖改変体LfVk1_Caおよび軽鎖hVk1配列を含むLfVk1(配列番号:132)を、重鎖CIM_H(配列番号:117)と共に発現させた。抗体の発現および精製は参考実施例18と同様の方法で実施された。
(19−2)カルシウムイオン結合モチーフを有するヒトhVk1配列を含む抗体のカルシウムイオン結合活性の評価
上記のように得られた精製抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが参考実施例15に記載された方法で判定された。その結果を表41に示した。hVk1配列を有するLfVk1を含む抗体のFabドメインのTm値は抗体溶液中のカルシウムの濃度の変化によっては変動しない一方で、LfVk1_Caを含む抗体配列の、Tm値は、抗体溶液中のカルシウムの濃度の変化によって1℃以上変化したことから、LfVk1_Caを含む抗体がカルシウムと結合することが示された。上記の結果から、カルシウムイオンの結合には、hVk5-2のCDR配列がすべて必要ではなく、LfVk1_Ca配列を構築する際に導入された残基のみでも十分であることが示された。
Figure 0006496702
〔参考実施例20〕Ca濃度依存的に抗原に結合する結合抗体が効率よく取得できるように、カルシウムイオン結合モチーフが可変領域に導入された抗体分子の集団(Caライブラリ)の設計
カルシウム結合モチーフとして、例えばhVk5-2配列やそのCDR配列、さらに残基が絞られた30位、31位、32位、50位、92位(Kabatナンバリング)が好適に挙げられる。他にも、カルシウムと結合するタンパク質が有するEFハンドモチーフ(カルモジュリンなど)やCタイプレクチン(ASGPRなど)もカルシウム結合モチーフに該当する。
Caライブラリは重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成される。重鎖可変領域はヒト抗体配列が使用され、軽鎖可変領域にカルシウム結合モチーフが導入された。カルシウム結合モチーフが導入される軽鎖可変領域のテンプレート配列として、hVk1配列が選択された。hVk1配列にカルシウム結合モチーフのうちの一つであるhVk5-2のCDR配列が導入されたLfVk1_Ca配列を含む抗体は参考実施例19で示したように、カルシウムイオンと結合することが示された。テンプレート配列に複数のアミノ酸を出現させてライブラリを構成する抗原結合分子の多様性が拡げられた。複数のアミノ酸を出現させる位置は、抗原と相互作用する可能性が高い可変領域の表面に露出する位置が選択された。具体的には、30位、31位、32位、34位、50位、53位、91位、92位、93位、94位および96位(Kabatナンバリング)が、こうしたフレキシブル残基として選択された。
次に出現させるアミノ酸残基の種類とその出現率が設定された。Kabatデータベース(KABAT, E.A. ET AL.: 'Sequences of proteins of immunological interest', vol. 91, 1991, NIH PUBLICATION)に登録されているhVk1とhVk3の配列中のフレキシブル残基におけるアミノ酸の出現頻度が解析された。解析結果を元に、各位置で出現頻度が高いアミノ酸からCaライブラリで出現させるアミノ酸の種類が選択された。この際、アミノ酸の性質が偏らないように解析結果では出現頻度が少ないと判定されたアミノ酸も選択された。また、選択されたアミノ酸の出現頻度は、Kabatデータベースの解析結果を参考にして設定された。
以上のように設定されたアミノ酸および出現頻度を考慮することによって、Caライブラリとして、カルシウム結合モチーフを含み、当該モチーフ以外の各残基で複数のアミノ酸を含むような配列の多様性が重視されたCaライブラリが設計された。表1および2にCaライブラリの詳細なデザインを示した(各表中の位置はEUナンバリングを表す)。また、表1および2で記載されたアミノ酸の出現頻度は、Kabatナンバリングで表される92位がAsn(N)の場合、94位はSer(S)ではなくLeu(L)とすることができる。
〔参考実施例21〕Caライブラリの作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型としてPCR法により抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリが増幅された。抗体軽鎖可変領域部分については、参考実施例20に記載されるように、カルシウム結合モチーフを維持しカルシウム濃度依存的に抗原に対して結合可能な抗体の出現頻度を高めた抗体可変領域軽鎖部分が設計された。また、フレキシブル残基のうちカルシウム結合モチーフが導入された残基以外のアミノ酸残基として、天然ヒト抗体でのアミノ酸出現頻度の情報((KABAT, E.A. ET AL.: 'Sequences of proteins of immunological interest', vol. 91, 1991, NIH PUBLICATION)が参考にされ、天然ヒト抗体の配列中で出現頻度の高いアミノ酸を均等に分布させた抗体軽鎖可変領域のライブラリが設計された。このように作製された抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリと抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリとの組合せがファージミドベクターへ挿入され、ヒト抗体配列からなるFabドメインを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリ(Methods Mol Biol. (2002) 178, 87-100)が構築された。上記ライブラリの構築に際しては、ファージミドのFabとファージpIIIタンパク質をつなぐリンカー部分、および、ヘルパーファージpIIIタンパク遺伝子のN2ドメインとCTドメインの間にトリプシン切断配列が挿入されたファージディスプレイライブラリの配列が使用された。抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された抗体遺伝子部分の配列が確認され、290種類のクローンの配列情報が得られた。設計されたアミノ酸分布と、確認された配列中のアミノ酸の分布が、図52に示されている。設計されたアミノ酸分布に対応する多様な配列を含むライブラリが構築された。
〔参考実施例22〕Caライブラリに含まれる分子のカルシウムイオン結合活性の評価
(22−1)Caライブラリに含まれる分子のカルシウムイオン結合活性
参考実施例14に示されているように、カルシウムイオンと結合することが示されたhVk5-2配列は生殖細胞系列配列中で出現頻度が低い配列であるため、ヒト生殖細胞系列配列で構成される抗体ライブラリやヒト抗体を発現するマウスへの免疫によって取得されたB細胞から、カルシウムと結合する抗体を取得することは非効率であると考えられた。そこで、参考実施例21でCaライブラリが構築された。構築されたCaライブラリにカルシウム結合を示すクローンが存在するか評価された。
(22−2)抗体の発現と精製
Caライブラリに含まれるクローンが、動物細胞発現用プラスミドへ導入された。抗体の発現は以下の方法を用いて行われた。ヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)がFreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に懸濁され、1.33 x 106細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートの各ウェルへ3 mLずつ蒔きこまれた。調製されたプラスミドは、リポフェクション法によって細胞へ導入された。CO2インキュベーター(37度、8%CO2、90 rpm)中で4日間培養が行われた。rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法を用いて、上記で得られた培養上清から抗体が精製された。分光光度計を用いて精製された抗体溶液の280 nmでの吸光度が測定された。PACE法により算出された吸光係数を用いることによって、得られた測定値から抗体濃度が算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(22−3)取得された抗体へのカルシウムイオン結合評価
上記のように得られた精製抗体がカルシウムイオンと結合するか否かが参考実施例6に記載された方法で判定された。その結果を表42に示した。Caライブラリに含まれる複数の抗体のFabドメインのTmはカルシウムイオン濃度によって変動し、カルシウムイオンと結合する分子が含まれることが示された。
Figure 0006496702
〔参考実施例23〕pH依存的結合抗体ライブラリの設計
(23−1)pH依存的結合抗体の取得方法
WO2009/125825は抗原結合分子にヒスチジンを導入することにより、pH中性領域とpH酸性領域で性質が変化するpH依存的抗原結合抗体を開示している。開示されたpH依存的結合抗体は、所望の抗原結合分子のアミノ酸配列の一部をヒスチジンに置換する改変によって取得されている。改変する対象の抗原結合分子を予め得ることなく、pH依存的結合抗体をより効率的に取得するために、ヒスチジンを可変領域(より好ましくは抗原結合に関与する可能性がある位置)に導入した抗原結合分子の集団(Hisライブラリと呼ぶ)から所望の抗原に結合する抗原結合分子を取得する方法が考えられる。Hisライブラリから得られる抗原結合分子は通常の抗体ライブラリよりもヒスチジンが高頻度に出現するため、所望の性質を有する抗原結合分子が効率的に取得できると考えられる。
(23−2)pH依存的に抗原に結合する結合抗体が効率よく取得できるように、ヒスチジン残基が可変領域に導入された抗体分子の集団(Hisライブラリ)の設計
まず、Hisライブラリでヒスチジンを導入する位置が選択された。WO2009/125825ではIL-6レセプター抗体、IL-6抗体およびIL-31レセプター抗体の配列中のアミノ酸残基をヒスチジンに置換することでpH依存的抗原結合抗体を作製したことが開示されている。さらに、抗原結合分子のアミノ酸配列をヒスチジンに置換することによって、pH依存的抗原結合能を有する、抗卵白リゾチウム抗体(FEBS Letter 11483, 309, 1, 85-88)および抗ヘプシジン抗体(WO2009/139822)が作製されている。IL-6レセプター抗体、IL-6抗体、IL-31レセプター抗体、卵白リゾチウム抗体およびヘプシジン抗体でヒスチジンを導入した位置を表43に示した。表43に示した位置は、抗原と抗体との結合を制御できる位置の候補として挙げられ得る。さらに表43で示された位置以外でも、抗原と接触する可能性が高い位置も、ヒスチジンを導入する位置として適切であると考えられた。
Figure 0006496702
重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成されるHisライブラリのうち、重鎖可変領域はヒト抗体配列が使用され、軽鎖可変領域にヒスチジンが導入された。Hisライブラリでヒスチジンを導入する位置として、上記で挙げられた位置と、抗原結合に関与する可能性がある位置、すなわち軽鎖の30位、32位、50位、53位、91位、92位および93位(Kabatナンバリング、Kabat EA et al. 1991. Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)が選択された。またヒスチジンを導入する軽鎖可変領域のテンプレート配列として、Vk1配列が選択された。テンプレート配列に複数のアミノ酸を出現させてライブラリを構成する抗原結合分子の多様性が拡げられた。複数のアミノ酸を出現させる位置は、抗原と相互作用する可能性が高い可変領域の表面に露出する位置が選択された。具体的には、軽鎖の30位、31位、32位、34位、50位、53位、91位、92位、93位、94位および96位(Kabatナンバリング、Kabat EA et al. 1991. Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)が、こうしたフレキシブル残基として選択された。
次に出現させるアミノ酸残基の種類とその出現率が設定された。Kabatデータベース(KABAT, E.A. ET AL.: 'Sequences of proteins of immunological interest', vol. 91, 1991, NIH PUBLICATION)に登録されているhVk1とhVk3の配列中のフレキシブル残基におけるアミノ酸の出現頻度が解析された。解析結果を元に、各位置で出現頻度が高いアミノ酸からHisライブラリで出現させるアミノ酸の種類が選択された。この際、アミノ酸の性質が偏らないように解析結果では出現頻度が少ないと判定されたアミノ酸も選択された。また、選択されたアミノ酸の出現頻度は、Kabatデータベースの解析結果を参考にして設定された。
以上のように設定されたアミノ酸および出現頻度を考慮することによって、Hisライブラリとして、ヒスチジンが各CDRで1つ必ず入るように固定されているHisライブラリ1とHisライブラリ1よりも配列の多様性が重視されたHisライブラリ2が設計された。Hisライブラリ1およびHisライブラリ2の詳細なデザインは表3および表4に示されている(各表中の位置はKabatナンバリングを表す)。また、表3および表4で記載されるアミノ酸の出現頻度は、Kabatナンバリングで表される92位がAsn(N)の場合は94位はSer(S)を除外することができる。
〔参考実施例24〕pH依存的に抗原に結合する抗体を取得するためのヒト抗体ファージディスプレイライブラリ(Hisライブラリ1)の作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型としてPCR法により抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリが増幅された。実施例1に記載のHisライブラリ1として設計された抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリが、PCR法を用いて増幅された。このように作製された抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリと抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリとの組合せがファージミドベクターへ挿入され、ヒト抗体配列からなるFabドメインを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築された。構築方法として、(Methods Mol Biol. (2002) 178, 87-100)が参考とされた。上記ライブラリの構築に際しては、ファージミドのFabとファージpIIIタンパク質をつなぐリンカー部分、および、ヘルパーファージpIIIタンパク遺伝子のN2ドメインとCTドメインの間にトリプシン切断配列が挿入されたファージディスプレイライブラリの配列が使用された。抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された抗体遺伝子部分の配列が確認され、132クローンの配列情報が得られた。設計されたアミノ酸分布と、確認された配列中のアミノ酸の分布を、図53に示した。設計されたアミノ酸分布に対応する多様な配列を含むライブラリが構築された。
〔参考実施例25〕pH依存的に抗原に結合する抗体を取得するためのヒト抗体ファージディスプレイライブラリ(Hisライブラリ2)の作製
ヒトPBMCから作成したポリA RNAや、市販されているヒトポリA RNAなどを鋳型としてPCR法により抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリが増幅された。参考実施例23に記載されるように、pH依存的抗原結合能をもつ抗体の出現頻度を向上させるため、抗体可変領域の軽鎖部分のうち、抗原接触部位となる可能性の高い部位のヒスチジン残基の出現頻度を高めた抗体可変領域軽鎖部分が設計される。また、フレキシブル残基のうちヒスチジンが導入された残基以外のアミノ酸残基として、天然ヒト抗体でのアミノ酸出現頻度の情報から特定される出現頻度の高いアミノ酸が均等に分布させた抗体軽鎖可変領域のライブラリが設計される。上記のように設計された抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリが、合成される。ライブラリの合成は商業的な受託会社等に委託して作製することも可能である。このように作製された抗体重鎖可変領域の遺伝子ライブラリと抗体軽鎖可変領域の遺伝子ライブラリとの組合せがファージミドベクターへ挿入され、公知の方法(Methods Mol Biol. (2002) 178, 87-100)に準じて、ヒト抗体配列からなるFabドメインを提示するヒト抗体ファージディスプレイライブラリが構築される。参考実施例24に記載された方法に準じて、抗体遺伝子ライブラリが導入された大腸菌から単離された抗体遺伝子部分の配列が確認される。
〔参考実施例26〕FcγRIIb選択的結合改変と他のFc領域のアミノ酸置換の組合せによる効果
実施例14で見出されたFcγRIIbに対する選択性が向上されたEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変体を改変することによってFcγRIIbに対する選択性を更に増強することが試みられた。
まず、IL6R-G1dのEUナンバリングで表される238位のProをAspに置換した改変が導入されたIL6R-G1d-v1(配列番号:80)に対して、実施例14に記載されたFcγRIIbに対する選択性を増強するEUナンバリングで表される328位のLeuのGluへの置換が導入された改変体IL6R-G1d-v4(配列番号:172)が作製された。L鎖として用いられたIL6R-L (配列番号:83)と組み合わせて発現されたIL6R-G1d-v4、参考実施例2と同様の方法にしたがって調製された。ここで得られた抗体H鎖としてIL6R-G1d-v4に由来するアミノ酸配列を有する抗体はIgG1-v4と記載される。実施例14と同様の方法にしたがって評価されたIgG1、IgG1-v1、IgG1-v2、IgG1-v4のFcγRIIbに対する結合活性を表44に示した。表中の改変とはIL6R-G1dに対して導入された改変を表す。
Figure 0006496702
表44の結果から、L328EはFcγRIIbに対する結合活性をIgG1と比べて2.3倍向上することから、同じくFcγRIIbに対する結合活性をIgG1と比べて4.8倍向上するP238Dと組み合わせると、FcγRIIbに対する結合活性の向上の程度が更に増すことが期待されたが、実際にはそれらの改変を組み合わせた改変体のFcγRIIbに対する結合活性はIgG1と比べて0.47倍に低下してしまうことが明らかとなった。この結果はそれぞれの改変の効果からは予測できない効果である。
同様にして、IL6R-G1dにEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変が導入したIL6R-G1d-v1(配列番号:80)に対して、実施例14に記載されたFcγRIIbに対する結合活性を向上するEUナンバリングで表される267位のSerのGluへの置換およびEUナンバリングで表される328位のLeuのPheへの置換が導入された改変体IL6R-G1d-v5(配列番号:173)が参考実施例2の方法にしたがって調製された。ここで得られた抗体H鎖としてIL6R-G1d-v5に由来するアミノ酸配列を有する抗体はIgG1-v5と記載される。実施例14の方法にしたがって評価された、IgG1、IgG1-v1、IgG1-v3、IgG1-v5のFcγRIIbに対する結合活性を表45に示した。
P238D改変体に対して、実施例14でFcγRIIbに対する増強効果のあった改変(S267E/L328F)が導入された。当該改変の導入前後でのFcγRIIbに対する結合活性の変化を表45に示した。
Figure 0006496702
表45の結果から、S267E/L328FはFcγRIIbに対する結合活性をIgG1と比べて408倍向上することから、同じくFcγRIIbに対する結合活性をIgG1と比べて4.8倍向上するP238Dと組み合わせると、FcγRIIbに対する結合活性の向上の程度が更に増すことが期待されたが、実際には先の例と同様に、それらの改変を組み合わせた改変体のFcγRIIbに対する結合活性はIgG1と比べて12倍程度しか向上していないことが明らかとなった。この結果もそれぞれの改変の効果からは予測できない効果である。
これらの結果から、EUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換はそれ単独ではFcγRIIbに対する結合活性を向上させるものの、その他のFcγRIIbに対する結合活性向上改変と組み合わせた場合には、その効果を発揮しないことが明らかとなった。この一つの要因としてFcとFcγRとの相互作用に関わる界面の構造がEUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換を導入することによって変化してしまい、天然型抗体において観察された改変の効果を反映しなくなってしまったことが考えられる。このことから、EUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換を含むFcを鋳型にして、更にFcγRIIbに対する選択性に優れたFcを創出することは、天然型抗体で得られた改変の効果の情報を活用することができず、極めて困難であると考えられた。
〔参考実施例27〕P238D 改変に加えてhinge部分の改変を導入した改変体のFcγRIIbに対する結合の網羅的解析
参考実施例26で示されたように、ヒト天然型IgG1に対してEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換されたFcに対し、さらにFcγRIIbへの結合を上げると天然型抗体の解析から予測される他の改変を組み合わせても、期待される組合せ効果は得られなかった。そこで、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変Fcに対して網羅的改変を導入することによって、さらにFcγRIIbへの結合を増強する改変体を見出すことが試みられた。抗体H鎖として用いられたIL6R-G1d(配列番号:79)のEUナンバリングで表される252位のMetをTyrに置換する改変、EUナンバリングで表される434位のAsnをTyrに置換する改変が導入されたIL6R-F11(配列番号:174)が作製された。さらに、IL6R-F11に対してEUナンバリングで表される238位のProをAspに置換する改変が導入されたIL6R-F652(配列番号:175)が作製された。IL6R-F652に対し、EUナンバリングで表される238位の残基の近傍の領域(EUナンバリングで表される234位から237位、239位)が元のアミノ酸とシステインを除く18種類のアミノ酸にそれぞれ置換された抗体H鎖配列を含む発現プラスミドがそれぞれ調製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:83)が共通して用いられた。これらの改変体が参考実施例2と同様の方法により発現、精製された。これらのFc変異体はPD variantと呼ばれる。実施例14と同様の方法により各PD variantのFcγRIIa R型およびFcγRIIbに対する相互作用が網羅的に評価された。
以下の方法に従って、それぞれのFcγRとの相互作用解析結果を表す図が作成された。各PD variantの各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体(EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変であるIL6R-F652/IL6R-L)の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値が各PD variantの各FcγRに対する相対的な結合活性の値として表された。横軸に各PD variantのFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、縦軸に各PD variantのFcγRIIa R型に対する相対的な結合活性の値をそれぞれ表示した(図55)。
その結果、11種類の改変体のFcγRIIbに対する結合が、当該各改変導入前の抗体と比較して増強し、FcγRIIa R型に対する結合を維持または増強する効果があることが見出された。これらの11種類の改変体のFcγRIIbおよびFcγRIIa Rに対する結合活性をまとめた結果を表46に示した。なお、表中の配列番号は評価した改変体のH鎖の配列番号を、また、改変とはIL6R-F11(配列番号:174)に対して導入した改変を表す。
Figure 0006496702
P238Dが導入された改変体に対して前記の11種類の改変が、さらに組み合わされて導入された改変体の相対的なFcγRIIbに対する結合活性の値、およびP238Dを含まないFcに当該改変が導入された改変体の相対的なFcγRIIbに対する結合活性の値を図56に示した。これら11種類の改変は、P238D改変に更に導入すると、導入前に比べてFcγRIIbに対する結合量が増強していた。一方、G237F、G237W、およびS239Dを除く8種類の改変が実施例14で用いられたP238Dを含まない改変体(GpH7-B3/GpL16-k0)に導入された場合、FcγRIIbに対する結合を低減する効果を示していた。 参考実施例26とこの結果から、天然型IgG1に対して導入した改変の効果にもとづいてP238D改変が含まれる改変体に対して同改変を組み合わせて導入したときの効果を予測するのは困難であることが明らかとなった。また、いいかえれば今回見出された8種類の改変は、P238D改変が含まれる改変体に対して同改変を組み合わせて導入する本検討を行わなければ見出すことが不可能な改変である。
表46に示した改変体のFcγRIa、FcγRIIaR、FcγRIIaH、FcγRIIb、FcγRIIIaVに対するKD値を実施例14と同様の方法で測定した結果を表47に示した。なお、表中の配列番号は評価された改変体のH鎖の配列番号を、また、改変とはIL6R-F11(配列番号:174)に対して導入された改変を表す。ただし、IL6R-F11を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。また、表中のKD(IIaR)/KD(IIb)およびKD(IIaH)/KD(IIb)はそれぞれ、各改変体のFcγRIIaRに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値、各改変体のFcγRIIaHに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を示す。親ポリペプチドのKD(IIb)/改変ポリペプチドのKD(IIb)は、親ポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を指す。これらに加えて、各改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値を表47に示した。ここで親ポリペプチドとは、IL6R-F11(配列番号:27)をH鎖に持つ改変体のことを指す。なお、表47のうち灰色で塗りつぶされたセルは、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、実施例14に記載の
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
表47に示されたように、いずれの改変体もIL6R-F11と比較してFcγRIIbに対する親和性が向上し、その向上の幅は1.9倍から5.0倍であった。各改変体のFcγRIIaRに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比、および各改変体のFcγRIIaHに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比は、FcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性に対する相対的なFcγRIIbに対する結合活性を表す。つまり、この値は各改変体のFcγRIIbへの結合選択性の高さを示した値であり、この値が大きければ大きいほどFcγRIIbに対して結合選択性が高い。親ポリペプチドであるIL6R-F11/IL6R-LのFcγRIIaRに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比、およびFcγRIIaHに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比はいずれも0.7であるため、表47のいずれの改変体も親ポリペプチドよりもFcγRIIbへの結合選択性が向上していた。改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値が1以上であるとは、その改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合が親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合と同等であるか、より低減していることを意味する。今回得られた改変体ではこの値が0.7から5.0であったため、今回得られた改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合は親ポリペプチドのそれと比較してほぼ同等か、それよりも低減していたといえる。これらの結果から、今回得られた改変体では親ポリペプチドと比べて、FcγRIIa R型およびH型への結合活性を維持または低減しつつ、FcγRIIbへの結合活性を増強しており、FcγRIIbへの選択性が向上していることが明らかとなった。また、FcγRIaおよびFcγRIIIaVに対しては、いずれの改変体もIL6R-F11と比較して親和性が低下していた。
Figure 0006496702
〔参考実施例28〕P238Dを含むFcとFcγRIIb細胞外領域との複合体のX線結晶構造解析
先の参考実施例27に示した通り、P238Dを含むFcに対して、FcγRIIbとの結合活性を向上する、あるいはFcγRIIbへの選択性を向上させると天然型IgG1抗体の解析から予測された改変を導入しても、FcγRIIbに対する結合活性が減弱してしまうことが明らかとなり、この原因としてFcとFcγRIIbとの相互作用界面の構造がP238Dを導入することで変化していることが考えられた。そこで、この現象の原因を追及するためP238Dの変異をもつIgG1のFc(以下、Fc(P238D))とFcγRIIb細胞外領域との複合体の立体構造をX線結晶構造解析により明らかにし、天然型 IgG1のFc (以下、Fc(WT)) とFcγRIIb細胞外領域との複合体との立体構造を対比することによって、これらの結合様式が比較された。なお、FcとFcγR細胞外領域との複合体の立体構造に関する複数の報告がすでにあり、Fc(WT) / FcγRIIIb細胞外領域複合体(Nature, 2000, 400, 267-273; J.Biol.Chem. 2011, 276, 16469-16477)、Fc(WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 2011, 108, 12669-126674)、およびFc(WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体(J. Imunol. 2011, 187, 3208-3217)の立体構造が解析されている。これまでにFc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体の立体構造は解析されていないが、Fc(WT)との複合体の立体構造が既知であるFcγRIIaとFcγRIIbでは細胞外領域においてアミノ酸配列の93%が一致し、非常に高い相同性を有していることから、Fc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体の立体構造はFc(WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体の結晶構造からモデリングにより推定された。
Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体についてはX線結晶構造解析により分解能2.6Åで立体構造を決定した。その解析結果の構造を図57に示した。2つのFc CH2ドメインの間にFcγRIIb細胞外領域が挟まれるように結合しており、これまで解析されたFc(WT)とFcγRIIIa、FcγRIIIb、FcγRIIaの各細胞外領域との複合体の立体構造と類似していた。
次に詳細な比較のため、Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造とFc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造とを、FcγRIIb細胞外領域ならびにFc CH2ドメインAに対しCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせた(図58)。その際、Fc CH2ドメインB同士の重なりの程度は良好でなく、この部分に立体構造的な違いがあることが明らかとなった。さらにFc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造ならびにFc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造を使い、抽出されたFcγRIIb細胞外領域とFc CH2ドメインBとの間でその距離が3.7Å以下の原子ペアを比較することによって、FcγRIIbとFc(WT) CH2ドメインBとの間の原子間相互作用とFcγRIIbとFc(P238D) CH2ドメインBとの間の原子間相互作用が比較された。表48に示すとおり、Fc(P238D)とFc(WT)では、Fc CH2ドメインBとFcγRIIbとの間の原子間相互作用は一致していなかった。
Figure 0006496702
さらにFc CH2ドメインAならびにFc CH2ドメインB単独同士でCα原子間距離をもとにした最小二乗法によって、Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造とFc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造の重合せをおこなうことによって、P238D付近の詳細構造が比較された。Fc(P238D)の変異導入位置であるEUナンバリングで表される238位のアミノ酸残基の位置がFc(WT)とは変化することにともない、ヒンジ領域から続く238位のアミノ酸残基の近辺のループ構造がFc(P238D)とFc(WT)では変化していることがわかる(図59)。もともとFc(WT)においてはEUナンバリングで表される238位のProはFcの内側にあり、238位の周囲の残基と疎水性コアを形成している。ところが、EUナンバリングで表される238位のProが、電荷をもち非常に親水的なAspに変化した場合、変化したAsp残基がそのまま疎水性コアに存在することは脱溶媒和の点でエネルギー的に不利となる。そこでFc(P238D)ではこのエネルギー的な不利を解消するため、EUナンバリングで表される238位のアミノ酸残基が溶媒側に配向する形に変化し、238位のアミノ酸残基付近のループ構造の変化をもたらしたと考えられる。さらに、このループはS-S結合で架橋されたヒンジ領域から距離的に遠くないことから、その構造変化が局所的な変化にとどまらず、Fc CH2ドメインAとドメインBの相対的な配置にも影響し、その結果、FcγRIIbとFc CH2ドメインBとの間の原子間相互作用に違いをもたらしたと推察される。このためP238D改変を既に有するFcに、天然型IgGにおいてFcγRIIbに対する選択性、結合活性を向上させる改変を組み合わせても予測される効果が得られなかったと考えられる。
また、P238Dの導入による構造変化の結果、Fc CH2ドメインAにおいては、変異が導入されたP238Dに隣接するEUナンバリングで表される237位のGlyの主鎖とFcγRIIbの160位のTyrとの間に水素結合が認められる(図60)。このTyr160に相当する残基はFcγRIIaではPheであり、FcγRIIaとの結合の場合ではこの水素結合は形成されない。160位のアミノ酸は、Fcとの相互作用界面におけるFcγRIIaとFcγRIIbの間の数少ない違いの一つであることを併せて考慮すると、FcγRIIbに特有となるこの水素結合の有無が、Fc(P238D)のFcγRIIbに対する結合活性の向上と、FcγRIIaに対する結合活性の低減を招き、選択性向上の原因になったと推測される。また、Fc CH2ドメインBについてはEUナンバリングで表される270位のAspとFcγRIIbの131位のArgとの間に静電的な相互作用が認められる(図61)。FcγRIIaのアロタイプの一つであるFcγRIIa H型では、FcγRIIbの131位のArgに対応する残基がHisであり、この静電相互作用は形成できない。このことからFcγRIIa R型と比較してFcγRIIa H型ではFc(P238D)に対する結合活性が低減している理由が説明可能である。このようなX線結晶構造解析の結果に基づく考察から、P238Dの導入によるその付近のループ構造の変化とそれに伴うドメイン配置の相対的な変化が天然型IgGとFcγRとの結合ではみられない新たな相互作用が形成され、P238D改変体のFcγRIIbに対する選択的な結合プロファイルにつながっている可能性があることが明らかとなった。
[Fc(P238D)の発現精製]
P238D改変を含むFcの調製は以下のように行われた。まず、hIL6R-IgG1-v1(配列番号:80)のEUナンバリングで表される220位のCysをSerに置換し、EUナンバリングで表される236位のGluからそのC末端をPCRによってクローニングした遺伝子配列Fc(P238D)を参考実施例1および2に記載された方法と同様な方法で発現ベクターの作製、発現、精製が行われた。なお、EUナンバリングで表される220位のCysは通常のIgG1においては、L鎖のCysとdisulfide bondを形成しているが、Fcのみを調製する場合にはL鎖を共発現させないことから、不要なdisulfide bond形成を回避するために当該Cys残基はSerに置換された。
[FcγRIIb細胞外領域の発現精製]
FcγRIIb細胞外領域は、実施例14の方法にしたがって調製された。
[Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の精製]
結晶化に使用するため得られたFcγRIIb細胞外領域サンプル 2mgに対し、glutathione S-transferaseとの融合蛋白として大腸菌により発現精製したEndo F1(Protein Science 1996, 5, 2617-2622) 0.29mgを加え、0.1M Bis-Tris pH6.5のBuffer条件で、室温にて3日間静置することにより、FcγRIIb細胞外領域のAsnに直接結合したN-acetylglucosamine以外のN型糖鎖が切断された。次に5000MWCOの限外ろ過膜により濃縮された糖鎖切断処理が施されたFcγRIIb細胞外領域サンプルが、20mM HEPS pH7.5, 0.05M NaClで平衡化したゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)により精製された。さらに得られた糖鎖切断FcγRIIb細胞外領域画分にFc(P238D)をモル比でFcγRIIb細胞外領域のほうが若干過剰となるよう混合された。10000MWCOの限外ろ過膜により濃縮された前記混合液を20mM HEPS pH7.5、0.05M NaClで平衡化したゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)を用いて精製することによって、Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体のサンプルが得られた。
[Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶化]
10000MWCOの限外ろ過膜 により約10mg/mlまで濃縮された前記のFc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の試料を用いて、シッティングドロップ蒸気拡散法により当該複合体が結晶化された。結晶化にはHydra II Plus One (MATRIX)を用い、100mM Bis-Tris pH6.5、17% PEG3350、0.2M Ammonium acetate、および2.7%(w/v) D-Galactoseのリザーバー溶液に対し、リザーバー溶液:結晶化サンプルを0.2μl:0.2μlで混合して結晶化ドロップを作成した。シールされた当該結晶化ドロップを20℃に静置することによって、薄い板状の結晶が得られた。
[Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体結晶からのX線回折データの測定]
得られたFc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の単結晶一つが100mM Bis-Tris pH6.5、20% PEG3350、Ammonium acetate、2.7%(w/v) D-Galactose、Ethylene glycol 22.5%(v/v) の溶液に浸漬された。微小なナイロンループ付きのピンを用いて溶液ごとすくいとられた単結晶を液体窒素中で凍結させた。高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーBL-1Aにて当該結晶のX線回折データが測定された。なお、測定中は常に-178℃の窒素気流中に置くことによって凍結状態を維持し、ビームラインに備え付けられたCCDディテクタQuantum 270(ADSC)によって、結晶を0.8°ずつ回転させながらトータル225枚のX線回折画像が収集された。得られた回折画像からの格子定数の決定、回折斑点の指数付け、ならびに回折データの処理には、プログラムXia2(CCP4 Software Suite)、XDS Package(Walfgang Kabsch)ならびにScala(CCP4 Software Suite)を用い、最終的に分解能2.46Åまでの当該結晶の回折強度データが得られた。本結晶は、空間群P21に属し、格子定数a=48.85Å、b=76.01Å、c=115.09Å、α=90°、β=100.70°、γ=90°であった。
[Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造解析]
Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造決定は、プログラムPhaser(CCP4 Software Suite)を用いた分子置換法によりおこなわれた。得られた結晶格子の大きさとFc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の分子量から非対称単位中の複合体の数は一個と予想された。Fc(WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体の結晶構造であるPDB code:3SGJの構造座標から、A鎖239-340番ならびにB鎖239-340番のアミノ酸残基部分を別座標として取り出し、それぞれFc CH2ドメインの探索用モデルと設定した。同じくPDB code:3SGJの構造座標から、A鎖341-444番とB鎖341-443番のアミノ酸残基部分を一つの座標として取り出し、Fc CH3ドメインの探索用モデルと設定した。最後にFcγRIIb細胞外領域の結晶構造であるPDB code:2FCBの構造座標からA鎖6-178番のアミノ酸残基部分を取り出しFcγRIIb細胞外領域の探索用モデルと設定した。Fc CH3ドメイン、FcγRIIb細胞外領域、Fc CH2ドメインの順番に各探索用モデルの結晶格子内での向きと位置を、回転関数および並進関数から決定し、Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体結晶構造の初期モデルが得られた。得られた初期モデルに対し2つのFc CH2ドメイン、2つのFc CH3ドメインならびにFcγRIIb細胞外領域を動かす剛体精密化をおこなったところ、この時点で25-3.0Åの回折強度データに対し、結晶学的信頼度因子R値は40.4%、Free R値は41.9%となった。さらにプログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcならびにモデルから計算された位相をもとに算出された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップを見ながらのモデル修正をプログラムCoot(Paul Emsley)でおこなった。これらの作業を繰り返すことによってモデルの精密化がおこなわれた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとに水分子をモデルに組み込み、精密化をおこなうことによって、最終的に分解能25-2.6Åの24291個の回折強度データを用い、4846個の非水素原子を含むモデルに対し、結晶学的信頼度因子R値は23.7%、Free R値は27.6%となった。
[Fc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造作成]
Fc(WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体の結晶構造であるPDB code:3RY6の構造座標をベースに、プログラムDisovery Studio 3.1(Accelrys)のBuild Mutants機能を使い、FcγRIIbのアミノ酸配列と一致するように構造座標中のFcγRIIaに変異が導入された。その際、Optimization LevelをHigh、Cut Radiusを4.5とし、5つのモデルを発生させ、その中から最もエネルギースコアが良いものを採用し、Fc(WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造と設定した。
〔参考実施例29〕結晶構造に基づいて改変箇所を決定したFc改変体のFcγRに対する結合の解析
参考実施例28で得られたFc (P238D)とFcγRIIb細胞外領域との複合体のX線結晶構造解析の結果に基づき、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変FcにおいてFcγRIIbとの相互作用に影響を与えることが予測される部位(EUナンバリングで表される233位、240位、241位、263位、265位、266位、267位、268位、271位、273位、295位、296位、298位、300位、323位、325位、326位、327位、328位、330位、332位、334位の残基)に対して網羅的な改変が導入された改変体を構築することによって、P238D 改変に加えてさらにFcγRIIbとの結合を増強する改変の組合せを得ることが可能であるか検討された。
実施例14で作製されたIL6R-G1d(配列番号:79)に対し、EUナンバリングで表される439位のLysがGluに置換されたIL6R-B3(配列番号:187)が作製された。次に、IL6R-B3の、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換されたIL6R-BF648が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:83)が共通に用いられた。参考実施例2と同様の方法に従い発現させたこれらの抗体の改変体が精製された。実施例14の方法によって各FcγR(FcγRIa、 FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIa V型)に対するこれら抗体改変体の結合が網羅的に評価された。
以下の方法に従って、それぞれのFcγRとの相互作用解析結果を表す図が作成された。各改変体の各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体(EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変であるIL6R-BF648/IL6R-L)の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値が各改変体の各FcγRに対する相対的な結合活性の値として表された。横軸に各改変体のFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、縦軸に各改変体のFcγRIIa R型に対する相対的な結合活性の値をそれぞれ表示した(図62)。
その結果、図62に示すように、全改変中24種類の改変体は、改変導入前の抗体と比較してFcγRIIbに対する結合が維持または増強していることが見出された。これらの改変体のそれぞれのFcγRに対する結合が表49に示した。なお、表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:187)に対して導入された改変を表す。ただし、IL6R-B3を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。
Figure 0006496702
表49に示した改変体のFcγRIa, FcγRIIaR, FcγRIIaH, FcγRIIb, FcγRIIIa V型に対するKD値を実施例14の方法で測定した結果を表50にまとめた。表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:187)に対して導入した改変を表す。ただし、IL6R-B3を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。また、表中のKD(IIaR)/KD(IIb)およびKD(IIaH)/KD(IIb)はそれぞれ、各改変体のFcγRIIaRに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値、各改変体のFcγRIIaHに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を示す。親ポリペプチドのKD(IIb)/改変ポリペプチドのKD(IIb)は、親ポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を指す。これらに加えて、各改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値を表50に示した。ここで親ポリペプチドとは、IL6R-B3(配列番号:187)をH鎖に持つ改変体のことを指す。なお、表50のうち灰色で塗りつぶしたセルは、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、実施例14に記載の
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
表50から、いずれの改変体もIL6R-B3と比較してFcγRIIbに対する親和性が向上し、その向上の幅は2.1倍から9.7倍であった。各改変体のFcγRIIaRに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比、および各改変体のFcγRIIaHに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比は、FcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性に対する相対的なFcγRIIbに対する結合活性を表す。つまり、この値は各改変体のFcγRIIbへの結合選択性の高さを示した値であり、この値が大きければ大きいほどFcγRIIbに対して結合選択性が高い。親ポリペプチドであるIL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIaRに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比、およびFcγRIIaHに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比はそれぞれ0.3、0.2であるため、表50のいずれの改変体も親ポリペプチドよりもFcγRIIbへの結合選択性が向上していた。改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値が1以上であるとは、その改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合が親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合と同等であるか、より低減していることを意味する。今回得られた改変体ではこの値が4.6から34.0であったため、今回得られた改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合は親ポリペプチドのそれよりも低減していたといえる。これらの結果から、今回得られた改変体では親ポリペプチドと比べて、FcγRIIa R型およびH型への結合活性を維持または低減しつつ、FcγRIIbへの結合活性を増強しており、FcγRIIbへの選択性を向上させていることが明らかとなった。また、FcγRIaおよびFcγRIIIaVに対しては、いずれの改変体もIL6R-B3と比較して親和性が低下していた。
Figure 0006496702
得られた組合せ改変体のうち、有望なものについて、結晶構造からその効果の要因が考察された。図63にはFc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造を示した。この中で、左側に位置するH鎖をFc Chain A、右側に位置するH鎖をFc Chain Bとする。ここでFc Chain AにおけるEUナンバリングで表される233位の部位は、FcγRIIbの113位のLysの近傍に位置することが分かる。ただし、本結晶構造においては、E233の側鎖はその電子密度がうまく観察されておらず、かなり運動性の高い状態にある。従ってEUナンバリングで表される233位のGluをAspに置換する改変は、側鎖が1炭素分短くなることによって側鎖の自由度が小さくなり、その結果、FcγRIIbの113位のLysとの相互作用形成時のエントロピーロスが低減され、結果、結合自由エネルギーの向上に寄与しているものと推測される。
図64には同じくFc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の構造のうち、EUナンバリングで表される330位の部位近傍の環境を示した。この図から、Fc (P238D) のFc Chain AのEUナンバリングで表される330位の部位周辺はFcγRIIbの85位のSer、86位のGlu、163位のLysなどから構成される親水的な環境であることが分かる。従って、EUナンバリングで表される330位のAlaをLys、あるいはArgに置換する改変は、FcγRIIbの85位のSer、ないし86位のGluとの相互作用強化に寄与しているものと推測される。
図65にはFc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体および、Fc(WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体の結晶構造を、Fc Chain Bに対しCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせ、EUナンバリングで表される271位のProの構造を示した。これら二つの構造は、良く一致するが、EUナンバリングで表される271位のProの部位においては異なる立体構造となっている。また、Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体結晶構造においては、この周辺の電子密度が弱いことを考え合わせると、Fc(P238D)/FcγRIIbにおいては、EUナンバリングで表される271位がProであることで、構造上、大きな負荷がかかっており、それによってこのループ構造が最適な構造をとり得ていない可能性が示唆された。従って、EUナンバリングで表される271位のProをGlyに置換する改変は、このループ構造に柔軟性を与え、FcγRIIbと相互作用するうえで最適な構造をとらせる際のエネルギー的な障害を軽減することで、結合増強に寄与しているものと推測される。
〔実施例30〕P238Dと組み合わせることによりFcγRIIbへの結合を増強する改変の組合せ効果の検証
参考実施例27および29において得られた改変の中で、FcγRIIbへの結合を増強する効果もしくはFcγRIIbへの結合を維持し、他のFcγRへの結合を抑制する効果がみられた改変同士を組み合わせることによる効果が検証された。
参考実施例29の方法と同様に、表46および49から選択された特に優れた改変が、抗体H鎖IL6R-BF648に対して導入された。抗体L鎖として共通してIL6R-Lが用いられ、参考実施例2と同様の方法に従い発現した抗体が精製された。実施例14と同様の方法により各FcγR(FcγRIa、 FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIa V型)に対する結合が網羅的に評価された。
以下の方法に従って、それぞれのFcγRとの相互作用解析結果について相対的結合活性が算出された。各改変体の各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体(EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換されたIL6R-BF648/IL6R-L)の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値が各改変体の各FcγRに対する相対的な結合活性の値として表された(表51)。
なお、表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:187)に対して導入した改変を表す。ただし、IL6R-B3を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。
Figure 0006496702
Figure 0006496702
表51に示した改変体のFcγRIa, FcγRIIaR, FcγRIIaH, FcγRIIb, FcγRIIIa V型に対するKD値を実施例14の方法で測定した結果を表52−1および52−2にまとめた。表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:187)に対して導入した改変を表す。ただし、IL6R-B3を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。また、表中のKD(IIaR)/KD(IIb)およびKD(IIaH)/KD(IIb)はそれぞれ、各改変体のFcγRIIaRに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値、各改変体のFcγRIIaHに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を示す。親ポリペプチドのKD(IIb)/改変ポリペプチドのKD(IIb)は、親ポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を指す。これらに加えて、各改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値を表52−1および52−2に示した。ここで親ポリペプチドとは、IL6R-B3(配列番号:187)をH鎖に持つ改変体のことを指す。なお、表52−1および52−2のうち灰色で塗りつぶしたセルは、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたたため、実施例14に記載の
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
表52−1および52−2から、いずれの改変体もIL6R-B3と比較してFcγRIIbに対する親和性が向上し、その向上の幅は3.0倍から99.0倍であった。各改変体のFcγRIIaRに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比、および各改変体のFcγRIIaHに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比は、FcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性に対する相対的なFcγRIIbに対する結合活性を表す。つまり、この値は各改変体のFcγRIIbへの結合選択性の高さを示した値であり、この値が大きければ大きいほどFcγRIIbに対して結合選択性が高い。親ポリペプチドであるIL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIaRに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比、およびFcγRIIaHに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比はそれぞれ0.3、0.2であるため、表52−1および52−2のいずれの改変体も親ポリペプチドよりもFcγRIIbへの結合選択性が向上していた。改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値が1以上であるとは、その改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合が親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合と同等であるか、より低減していることを意味する。今回得られた改変体ではこの値が0.7から29.9であったため、今回得られた改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合は親ポリペプチドのそれと比較してほぼ同等か、それよりも低減していたといえる。これらの結果から、今回得られた改変体では親ポリペプチドと比べて、FcγRIIa R型およびH型への結合活性を維持または低減しつつ、FcγRIIbへの結合活性を増強しており、FcγRIIbへの選択性を向上させていることが明らかとなった。また、FcγRIaおよびFcγRIIIaVに対しては、いずれの改変体もIL6R-B3と比較して親和性が低下していた。
Figure 0006496702
表52−2は表52−1の続きの表である。
Figure 0006496702
本発明により、抗原結合分子の薬物動態を改善する方法、または抗原結合分子の免疫原性を低減させる方法が提供された。本発明により、通常の抗体と比較して生体における望ましくない事象を引き起こさずに、抗体による治療を行うことが可能となる。

Claims (16)

  1. 以下のいずれかの方法:
    (a) 抗原結合分子の薬物動態を改善する方法、または
    (b) 抗原結合分子の免疫原を低減させる方法
    ここで、該方法は、
    pH5.8においてはpH7.4における抗原結合活性より低い抗原結合活性を有し、pH5.8における抗原結合活性とpH7.4における抗原結合活性の比が、KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値で少なくとも2である抗原結合ドメイン、及び、
    pH7.4の条件下でFcRnに対する結合活性を有するIgG2又はIgG4由来のFc領域
    を含む抗原結合分子を調製することを含む方法:
    ここで、前記抗原結合ドメインは、以下の(i)または(ii)の抗原結合ドメインである;
    (i) 少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンへの置換変異または少なくとも1つのヒスチジンの挿入変異を含む、抗原結合ドメイン、又は、
    (ii) 以下から選択されるアミノ酸において少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンへの置換変異または少なくとも1つのヒスチジンの挿入変異を含む、抗原結合ドメイン;
    重鎖:27位、31位、32位、33位、35位、50位、58位、59位、61位、62位、99位、100b位、および102位(Kabatナンバリング)、
    軽鎖:24位、27位、28位、30位、31位、32位、34位、50位、51位、52位、53位、54位、55位、56位、89位、90位、91位、92位、93位、94位、95a位、および96位(Kabatナンバリング);および
    ここで、前記pH7.4の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域は、EUナンバリング428番目のアミノ酸がLeu、および434番目のアミノ酸がSerであることを含む;
    ここで、該Fc領域は、pH7.4の条件下で二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターを含むヘテロ複合体を形成しない;
    ここで、該Fc領域は、Fc領域の活性型Fcγレセプターに対する結合活性が、天然型ヒトIgGのFc領域の当該活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも低いFc領域に改変するひとつ以上のアミノ酸改変を含み、ここで、該アミノ酸改変は、下記のうちひとつ以上の改変である;
    234位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、ThrまたはTrpのいずれか、
    235位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはArgのいずれか、
    236位のアミノ酸をArg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、ProまたはTyrのいずれか、
    237位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、TyrまたはArgのいずれか、
    238位のアミノ酸をAla、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、TrpまたはArgのいずれか、
    239位のアミノ酸をGln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、TyrまたはArgのいずれか、
    265位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
    266位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
    267位のアミノ酸をArg、His、Lys、Phe、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
    269位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
    270位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
    271位のアミノ酸をArg、His、Phe、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
    295位のアミノ酸をArg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、TrpまたはTyrのいずれか、
    296位のアミノ酸をArg、Gly、LysまたはProのいずれか、
    297位のアミノ酸をAla、
    298位のアミノ酸をArg、Gly、Lys、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
    300位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
    324位のアミノ酸をLysまたはProのいずれか、
    325位のアミノ酸をAla、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、TrpTyr、もしくはValのいずれか、
    327位のアミノ酸をArg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
    328位のアミノ酸をArg、Asn、Gly、His、LysまたはProのいずれか、
    329位のアミノ酸をAsn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、ValまたはArgのいずれか、
    330位のアミノ酸をProまたはSerのいずれか、
    331位のアミノ酸をArg、GlyまたはLysのいずれか、もしくは
    332位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか。
  2. 前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、請求項1記載の方法。
  3. 以下のいずれかの方法:
    (a) 抗原結合分子の薬物動態を改善する方法、または
    (b) 抗原結合分子の免疫原を低減させる方法
    ここで、該方法は、
    pH5.8においてはpH7.4における抗原結合活性より低い抗原結合活性を有し、pH5.8における抗原結合活性とpH7.4における抗原結合活性の比が、KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値で少なくとも2である抗原結合ドメイン、及び、
    pH7.4の条件下でFcRnに対する結合活性を有するIgG2又はIgG4由来のFc領域
    を含む抗原結合分子を調製することを含む方法:
    ここで、前記抗原結合ドメインは、以下の(i)または(ii)の抗原結合ドメインである;
    (i) 少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンへの置換変異または少なくとも1つのヒスチジンの挿入変異を含む、抗原結合ドメイン、又は、
    (ii) 以下から選択されるアミノ酸において少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンへの置換変異または少なくとも1つのヒスチジンの挿入変異を含む、抗原結合ドメイン;
    重鎖:27位、31位、32位、33位、35位、50位、58位、59位、61位、62位、99位、100b位、および102位(Kabatナンバリング)、
    軽鎖:24位、27位、28位、30位、31位、32位、34位、50位、51位、52位、53位、54位、55位、56位、89位、90位、91位、92位、93位、94位、95a位、および96位(Kabatナンバリング);および
    ここで、前記pH7.4の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域は、EUナンバリング428番目のアミノ酸がLeu、および434番目のアミノ酸がSerであることを含む;
    ここで、該Fc領域は、pH7.4の条件下で二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターを含むヘテロ複合体を形成しない;
    ここで、該Fc領域は、Fc領域の抑制型Fcγレセプターに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いFc領域に改変するひとつ以上のアミノ酸改変を含み、ここで、該アミノ酸改変は、EUナンバリングで表される238または328のアミノ酸改変である。
  4. 前記抑制型FcγレセプターがヒトFcγRIIbである、請求項記載の方法。
  5. 前記活性型FcγレセプターがヒトFcγRIa、ヒトFcγRIIa(R)、ヒトFcγRIIa(H)、ヒトFcγRIIIa(V)またはヒトFcγRIIIa(F)である、請求項または記載の方法。
  6. EUナンバリングで表される238のアミノ酸をAsp、または328のアミノ酸をGluに置換することを含む、請求項3から5のいずれか一項記載の方法。
  7. EUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
    233位のアミノ酸をAsp、
    234位のアミノ酸をTrp、またはTyrのいずれか、
    237位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Leu、Met、Phe、TrpまたはTyrのいずれか、
    239位のアミノ酸をAsp、
    267位のアミノ酸をAla、GlnまたはValのいずれか、
    268位のアミノ酸をAsn、Asp、またはGluのいずれか、
    271位のアミノ酸をGly、
    326位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Leu、Met、SerまたはThrのいずれか、
    330位のアミノ酸をArg、Lys、またはMetのいずれか、
    323位のアミノ酸をIle、Leu、またはMetのいずれか、
    296位のアミノ酸をAsp、
    のいずれかひとつ以上に置換することを含む請求項3から6のいずれか一項記載の方法。
  8. 前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域のアミノ酸と異なるアミノ酸を含むFc領域である、請求項1からのいずれか一項記載の方法。
  9. 前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
    237位のアミノ酸がMet、
    248位のアミノ酸がIle、
    250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
    252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
    254位のアミノ酸がThr、
    255位のアミノ酸がGlu、
    256位のアミノ酸がAsn、Asp、Glu、またはGlnのいずれか、
    257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
    258位のアミノ酸がHis、
    265位のアミノ酸がAla、
    286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
    289位のアミノ酸がHis、
    297位のアミノ酸がAla、
    298位のアミノ酸がGly、
    303位のアミノ酸がAla、
    305位のアミノ酸がAla、
    307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
    308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
    309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
    311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
    312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
    314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
    315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
    317位のアミノ酸がAla、
    332位のアミノ酸がVal、
    334位のアミノ酸がLeu、
    360位のアミノ酸がHis、
    376位のアミノ酸がAla、
    380位のアミノ酸がAla、
    382位のアミノ酸がAla、
    384位のアミノ酸がAla、
    385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
    386位のアミノ酸がPro、
    387位のアミノ酸がGlu、
    389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
    424位のアミノ酸がAla、
    428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
    433位のアミノ酸がLys、
    434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
    436位のアミノ酸がHis、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal 、
    のいずれかひとつ以上の組合せである、請求項記載の方法。
  10. 以下のいずれかの方法:
    (a) 抗原結合分子の薬物動態を改善する方法、または
    (b) 抗原結合分子の免疫原を低減させる方法。
    ここで、該方法は、
    pH5.8においてはpH7.4における抗原結合活性より低い抗原結合活性を有し、pH5.8における抗原結合活性とpH7.4における抗原結合活性の比が、KD(pH5.8)/KD(pH7.4)の値で少なくとも2である抗原結合ドメイン、及び、
    pH7.4の条件下でFcRnに対する結合活性を有するIgG2又はIgG4由来のFc領域
    を含む抗原結合分子を調製することを含む方法:
    ここで、前記抗原結合ドメインは、以下の(i)または(ii)の抗原結合ドメインである;
    (i) 少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンへの置換変異または少なくとも1つのヒスチジンの挿入変異を含む、抗原結合ドメイン、又は、
    (ii) 以下から選択されるアミノ酸において少なくとも1つのアミノ酸のヒスチジンへの置換変異または少なくとも1つのヒスチジンの挿入変異を含む、抗原結合ドメイン;
    重鎖:27位、31位、32位、33位、35位、50位、58位、59位、61位、62位、99位、100b位、および102位(Kabatナンバリング)、
    軽鎖:24位、27位、28位、30位、31位、32位、34位、50位、51位、52位、53位、54位、55位、56位、89位、90位、91位、92位、93位、94位、95a位、および96位(Kabatナンバリング);および
    ここで、前記pH7.4の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域は、EUナンバリング428番目のアミノ酸がLeu、および434番目のアミノ酸がSerであることを含む;
    ここで、該Fc領域は、pH7.4の条件下で二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターを含むヘテロ複合体を形成しない;
    ここで、該Fc領域は、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH7.4の条件下でのFcRn結合活性を有し、他方がpH7.4の条件下でのFcRn結合活性を有しないFc領域に改変するひとつ以上のアミノ酸改変を含み、ここで、該アミノ酸改変は、前記Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237、248、250、252、254、255、256、257、258、265、286、289、297、298、303、305、307、308、309、311、312、314、315、317、332、334、360、376、380、382、384、385、386、387、389、424、428、433、434、および436のいずれかひとつ以上の位置の改変である。
  11. 前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
    237位のアミノ酸をMet、
    248位のアミノ酸をIle、
    250位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyr、
    252位のアミノ酸をPhe、Trp、またはTyr、
    254位のアミノ酸をThr、
    255位のアミノ酸をGlu、
    256位のアミノ酸をAsn、Asp、Glu、またはGln、
    257位のアミノ酸をAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはVal、
    258位のアミノ酸をHis、
    265位のアミノ酸をAla、
    286位のアミノ酸をAlaまたはGlu、
    289位のアミノ酸をHis、
    297位のアミノ酸をAla、
    298位のアミノ酸をGly、
    303位のアミノ酸をAla、
    305位のアミノ酸をAla、
    307位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyr、
    308位のアミノ酸をAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThr、
    309位のアミノ酸をAla、Asp、Glu、Pro、またはArg、
    311位のアミノ酸をAla、His、またはIle、
    312位のアミノ酸をAlaまたはHis、
    314位のアミノ酸をLysまたはArg、
    315位のアミノ酸をAla、AspまたはHis、
    317位のアミノ酸をAla、
    332位のアミノ酸をVal、
    334位のアミノ酸をLeu、
    360位のアミノ酸をHis、
    376位のアミノ酸をAla、
    380位のアミノ酸をAla、
    382位のアミノ酸をAla、
    384位のアミノ酸をAla、
    385位のアミノ酸をAspまたはHis、
    386位のアミノ酸をPro、
    387位のアミノ酸をGlu、
    389位のアミノ酸をAlaまたはSer、
    424位のアミノ酸をAla、
    428位のアミノ酸をAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyr、
    433位のアミノ酸をLys、
    434位のアミノ酸をAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyr、もしくは
    436位のアミノ酸をHis、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal
    のいずれかひとつ以上に置換することを含む、請求項10記載の方法。
  12. 前記抗原結合ドメインが、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、請求項10または11記載の方法。
  13. 前記抗原結合ドメインが、pHの条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合ドメインである、請求項10から12のいずれか一項記載の方法。
  14. 前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、請求項1から13のいずれか一項記載の方法。
  15. 前記抗原結合分子が抗体である、請求項1から14のいずれか一項記載の方法。
  16. 前記抗原が、IL-6、A33、グリピカン3、または、C5である、請求項1から15のいずれか一項記載の方法。
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