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JP6302322B2 - リチウムイオン二次電池 - Google Patents

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JP6302322B2 JP2014068328A JP2014068328A JP6302322B2 JP 6302322 B2 JP6302322 B2 JP 6302322B2 JP 2014068328 A JP2014068328 A JP 2014068328A JP 2014068328 A JP2014068328 A JP 2014068328A JP 6302322 B2 JP6302322 B2 JP 6302322B2
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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池は、正極、負極及び電解質を備えて構成される。そして、正極及び負極、すなわち電極は、電極活物質が配合されて構成され、通常はさらに、導電助剤及びバインダーが配合されて構成される。なかでも電極活物質は、リチウムイオン二次電池の容量に関わる重要な因子であり、負極活物質として従来は、主に黒鉛(グラファイト)が使用されている。
これに対して、より高容量のリチウムイオン二次電池を実現し得る負極活物質として、ケイ素が注目されている。リチウムイオン二次電池の理論容量は、例えば、負極活物質として黒鉛を用いた場合には372mAh/gであるのに対して、ケイ素を用いた場合には4199mAh/gである。
しかし、ケイ素を用いて負極を構成した場合、充放電時におけるリチウムイオンの吸蔵及び放出過程で、負極が膨張及び収縮することが知られている。負極では、1個のケイ素原子に対して4個のリチウムイオンの吸蔵及び放出が可能であり、二次電池が作動する際に、負極は4倍膨張及び収縮し得る。充放電時におけるこの膨張及び収縮により、負極は集電性が低下して、放電容量が大きく低下してしまう。このように、負極活物質としてケイ素を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電を繰り返し行ったときの容量維持率が低いという問題点があった。
これに対して、負極活物質として酸化ケイ素を用いた負極が開示されている(特許文献1参照)。このような負極を備えたリチウムイオン二次電池では、充放電を繰り返し行ったときの容量維持率の低下を抑制できるものの、初期充電工程においてリチウムが酸化ケイ素と不可逆的に反応してリチウムシリケート(LiSiO)等の副生成物が生じ、このリチウムは以降、放電に関与することができず、放電容量が低下してしまうという問題点があった。
このような放電容量の低下を解決できるものとして、酸化ケイ素を真空蒸着法又はスパッタリング法により成膜して負極を構成する手法が開示されている(特許文献2参照)。
特開平6−325765号公報 特開2004−349237号公報
しかし、特許文献2で開示されている手法では、リチウムイオン二次電池の定格容量に対する1サイクル目の放電容量の割合、いわゆる容量発現率が80%程度にとどまり、不十分であるという問題点があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、容量発現率及び容量維持率が高いリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明は、酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤及びバインダーが配合されてなる負極材を用いて形成された負極活物質層を有し、且つリチウムがプレドープされている負極を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記粒子状導電助剤がカーボンブラックであり、前記繊維状導電助剤がカーボンナノチューブであることが好ましい。
本発明によれば、容量発現率及び容量維持率が高いリチウムイオン二次電池が提供される。
本発明に係るリチウムイオン二次電池の要部を模式的に例示する正面図である。 製造例1におけるH−NMRデータであり、(a)は比較用の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体のH−NMRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体のH−NMRデータである。 製造例1における19F−NMRデータであり、(a)は比較用の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の19F−NMRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の19F−NMRデータである。 製造例1におけるIRデータであり、(a)は比較用のシュウ酸リチウムのIRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体のIRデータである。 実施例1で得られた負極前駆体における負極活物質層の、走査型電子顕微鏡(SEM)で取得した撮像データである。
<リチウムイオン二次電池>
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤及びバインダーが配合されてなる負極材を用いて形成された負極活物質層を有し、且つリチウムがプレドープされている負極を備えたことを特徴とする。
かかるリチウムイオン二次電池は、粒子状導電助剤及び繊維状導電助剤を併用し、さらにリチウムがプレドープされている負極を用いたことにより、容量発現率と、充放電を繰り返し行ったときの容量維持率とが共に高く、充放電特性に優れる。
本明細書において、リチウムイオン二次電池における「容量発現率」とは、定格容量に対する1サイクル目の放電容量の割合(%)を意味し、式「{[1サイクル目の放電容量(mAh)]/[定格容量(mAh)]}×100」により算出される。
また、本明細書において、リチウムイオン二次電池における「容量維持率」とは、充放電サイクルを繰り返し行ったときの、1サイクル目の放電容量に対する特定のサイクル数での放電容量の割合(%)を意味し、式「{[特定のサイクル数での放電容量(mAh)]/[1サイクル目の放電容量(mAh)]}×100)」により算出される。ここで、「特定のサイクル数」は、好ましくは50サイクル以上である。
[負極材]
本発明において、前記負極材は、酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤及びバインダーが配合されてなるものであり、酸化ケイ素に対して、粒子状導電助剤及び繊維状導電助剤を必須成分として併用する点で、従来の負極材とは相違するものである。
(酸化ケイ素)
前記酸化ケイ素としては、一般式「SiO(式中、zは0.5〜1.5のいずれかの数である。)」で表されるものが例示できる。ここで酸化ケイ素を「SiO」単位で見た場合、このSiOは、アモルファス状のSiOであるか、又はSi:SiOのモル比が約1:1となるように、ナノクラスターのSiの周囲にSiOが存在する、Si及びSiOの複合物である。SiOは、充放電時におけるSiの膨張及び収縮に対して緩衝作用を有すると推測される。
前記酸化ケイ素は、粉末状であることが好ましく、粒子状であることがより好ましく、例えば、平均粒子径が30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが特に好ましく、2.0μm以下であることが最も好ましい。また、酸化ケイ素とバインダーの配合比率にもよるが、前記平均粒子径が1.0μm以下であると最も好ましい傾向がある。このような微粉末状の酸化ケイ素を用いることで、粒子状導電助剤及び繊維状導電助剤の併用による効果が、より顕著に得られる。
酸化ケイ素の平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡を用いて、任意の酸化ケイ素の粒子約100個について粒子径を計測し、その平均値を算出することで求められる。
酸化ケイ素は、例えば、ボールミル等を用いる公知の手法で粉砕することにより、平均粒子径を所望の値に調節できる。
前記負極材において、酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤及びバインダーの総配合量に対する、酸化ケイ素の配合量の割合は、40〜85質量%であることが好ましく、55〜80質量%であることがより好ましい。酸化ケイ素の前記配合量の割合が前記下限値以上であることで、リチウムイオン二次電池は放電容量がより向上し、酸化ケイ素の前記配合量の割合が前記上限値以下であることで、負極構造の安定した維持が容易となる。
(粒子状導電助剤)
前記粒子状導電助剤は、導電助剤として機能する粒子状のものであれば特に限定されないが、好ましいものとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック;黒鉛(グラファイト);フラーレン等が例示できる。
粒子状導電助剤は、平均粒子径が10〜100nmであることが好ましく、15〜60nmであることがより好ましい。また、粒子状導電助剤は、各々の粒子が数珠つなぎになったもの等、互いに連なった構造を形成していることが好ましい。このような平均粒子径又は構造を形成している粒子状導電助剤を用いることで、繊維状導電助剤との併用による効果がより顕著に得られる。
粒子状導電助剤の平均粒子径は、上記の酸化ケイ素の平均粒子径の場合と同様の方法で求められ、調節できる。
粒子状導電助剤は、後述する負極活物質層中において、そのナノ粒子等の微粒子が連なった構造を形成し、酸化ケイ素と後述する繊維状導電助剤との接触面積を高めることで、導電性の向上に寄与していると推測される。
前記粒子状導電助剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
前記負極材において、酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤及びバインダーの総配合量に対する、粒子状導電助剤の配合量の割合は、3〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。粒子状導電助剤の前記配合量の割合が前記下限値以上であることで、粒子状導電助剤を用いたことによる効果がより顕著に得られ、粒子状導電助剤の前記配合量の割合が前記上限値以下であることで、繊維状導電助剤との併用による効果がより顕著に得られる。
(繊維状導電助剤)
前記繊維状導電助剤は、導電助剤として機能する繊維状のものであれば特に限定されないが、好ましいものとしては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンが例示できる。
繊維状導電助剤は、平均繊維径が5nm〜300nmであることが好ましく、10nm〜150nmであることがより好ましい。また、繊維状導電助剤は、平均繊維長が0.1μm〜30μmであることが好ましく、0.5μm〜20μmであることがより好ましい。このような繊維状導電助剤を用いることで、粒子状導電助剤との併用による効果がより顕著に得られる。
繊維状導電助剤の平均繊維径は、例えば、電子顕微鏡を用いて、任意の繊維状導電助剤約100本について繊維径を計測し、その平均値を算出することで求められる。同様に、繊維状導電助剤の平均繊維長は、例えば、電子顕微鏡を用いて、任意の繊維状導電助剤約100本について繊維長を計測し、その平均値を算出することで求められる。
繊維状導電助剤は、後述する負極活物質層中において、好ましくは負極活物質層全体に、網目構造を形成することで、負極活物質層の構造安定化に寄与すると共に、負極活物質層中に導電ネットワークを形成して、導電性の向上に寄与している推測される。
前記繊維状導電助剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
前記負極材において、酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤及びバインダーの総配合量に対する、繊維状導電助剤の配合量の割合は、1〜25質量%であることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましい。繊維状導電助剤の前記配合量の割合が前記下限値以上であることで、繊維状導電助剤を用いたことによる効果がより顕著に得られ、繊維状導電助剤の前記配合量の割合が前記上限値以下であることで、粒子状導電助剤との併用による効果がより顕著に得られる。
前記負極材において、「粒子状導電助剤:繊維状導電助剤」の配合量の質量比率(配合質量比)は、90:10〜30:70であることが好ましく、80:20〜40:60であることがより好ましい。粒子状導電助剤及び繊維状導電助剤の配合質量比がこのような範囲であることで、粒子状導電助剤及び繊維状導電助剤の併用による効果がより顕著に得られる。
(バインダー)
前記バインダーは公知のものでよく、好ましいものとしては、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体(PVDF−HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)等が例示できる。
前記バインダーは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
前記負極材において、酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤及びバインダーの総配合量に対する、バインダーの配合量の割合は、3〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。バインダーの前記配合量の割合が前記下限値以上であることで、負極構造がより安定して維持され、バインダーの前記配合量の割合が前記上限値以下であることで、放電容量がより向上する。
(その他の成分)
前記負極材は、酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤及びバインダー以外に、これらに該当しないその他の成分がさらに配合されてなるものでもよい。
前記その他の成分は、特に限定されず、目的に応じて任意に選択でき、好ましいものとしては、前記配合成分(酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤、バインダー)を溶解又は分散させるための溶媒が例示できる。
このような、さらに溶媒が配合されてなる負極材は、使用時において流動性を有する液状組成物であることが好ましい。
前記溶媒は、前記配合成分の種類に応じて任意に選択でき、好ましいものとしては、水、有機溶媒が例示できる。
前記有機溶媒で好ましいものとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール;N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の鎖状又は環状アミド;アセトン等のケトンが例示できる。
前記溶媒は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
負極材における前記溶媒の配合量は、特に限定されず、目的に応じて適宜調節すればよい。例えば、溶媒が配合された液状組成物である負極材を塗工及び乾燥させて、後述する負極活物質層を形成する場合には、この液状組成物が塗工に適した粘度となるように、溶媒の配合量を調節すればよい。具体的には、負極材において、配合成分の総量に対する、溶媒以外の配合成分の総量の割合が、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜35質量%となるように、溶媒の配合量を調節するとよい。
前記その他の成分として、前記溶媒以外の成分(その他の固体成分)を配合する場合、前記負極材において、溶媒以外の配合成分の総量に対する、その他の固体成分の配合量の割合は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
前記負極材は、前記粒子状導電助剤がカーボンブラックであり、前記繊維状導電助剤がカーボンナノチューブであるものが特に好ましい。
前記負極材は、前記酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤、バインダー、及び必要に応じてその他の成分を配合することで製造できる。
各成分の配合時には、これら成分を添加して、各種手段により十分に混合することが好ましい。
各成分は、これらを順次添加しながら混合してもよいし、全成分を添加してから混合してもよく、配合成分が均一に混合されればよい。
前記その他の成分として前記溶媒を配合する場合、この溶媒は、少なくとも一部を、前記酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤、バインダー、及びその他の固体成分からなる群から選択される一種以上とあらかじめ混合して、これら成分の溶液又は分散液として、配合してもよい。このような溶液又は分散液の調製に用いる溶媒は、全量であってもよい。
各成分の混合方法は、特に限定されず、例えば、撹拌子、撹拌翼、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用すればよい。そして、複数種の方法を組み合わせて行ってもよい。
混合温度、混合時間等の混合条件は、各種方法に応じて適宜設定すればよい。通常は、混合時の温度は10〜50℃であることが好ましく、15〜35℃であることがより好ましい。また、混合時間は3〜40分であることが好ましく、5〜20分であることがより好ましい。
各成分を添加及び混合して得られた組成物は、そのまま負極材として用いてもよいし、例えば、配合した前記溶媒の一部を留去等によって除去するなど、得られた組成物に何らかの操作を追加して行って得られたものを、負極材として用いてもよい。
[負極]
本発明において、前記負極は、前記負極材を用いて形成された負極活物質層を有し、且つリチウムがプレドープされているものであり、例えば、前記負極活物質層を集電体(負極集電体)上に備えて構成される。
かかる負極は、前記負極材を用いること以外は、公知の負極と同様の方法で製造できる。
集電体は、公知のものでよく、その材質で好ましいものとしては、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、ステンレス鋼等の導電性を有するものが例示できる。
また、前記集電体はシート状であることが好ましく、その厚さは、5〜20μmであることが好ましい。
負極活物質層の厚さは、特に限定されないが、5〜100μmであることが好ましく、10〜60μmであることがより好ましい。
負極活物質層は、前記負極材を用いて集電体上に形成すればよい。
例えば、負極材として、溶媒が配合されてなる液状組成物を用いる場合には、この液状組成物を塗工及び乾燥させることで、負極活物質層を形成できる。
液状組成物の塗工方法としては、バーコーター、グラビアコーター、コンマコーター、リップコーター等の各種コーターを用いる方法;ドクターブレード法;ディッピング法等の、各種塗布方法が例示できる。
液状組成物の乾燥は、公知の方法で常圧下又は減圧下で行えばよい。そして、乾燥温度は、40〜180℃であることが好ましい。乾燥温度が前記下限値以上であることで、短時間で乾燥させることができ、乾燥温度が前記上限値以下であることで、集電体の酸化等を抑制する効果が高くなる。乾燥時間は、乾燥温度に応じて適宜調節すればよいが、例えば、12〜48時間とすることができる。
負極活物質層は、集電体上に直接形成して設けてもよいし、他の基材上に形成してから集電体上に移動させ、集電体上に圧着させて設けてもよい。そして、負極活物質層は、集電体上に直接形成する場合にも、集電体上に圧着させてもよい。
本発明において、前記負極は、さらにリチウムがプレドープされているものであり、少なくとも負極活物質層にリチウムがプレドープされているものである。
リチウムがプレドープされている負極の製造方法は、特に限定されないが、負極活物質層を有する、リチウムがプレドープされていない負極(以下、「負極前駆体」と略記することがある)、好ましくは前記負極前駆体の負極活物質層を電解液と接触させ、負極前駆体のこの電解液との接触面をさらに金属リチウムと接触させることにより行うのが好ましい。このような方法を適用することで、負極前駆体中の広範囲に、より容易にリチウムをプレドープできる。接触させる前記電解液は、この負極を用いてリチウムイオン二次電池を製造する際に用いる電解液と同じであることが好ましい。
接触させる金属リチウムは、シート状(金属リチウム箔)であることが好ましい。
リチウムのプレドープは、リチウムイオン(Li)ではなく金属リチウム(Li)を用いて行う必要がある。
負極にプレドープされているリチウムの量は、負極活物質層中の二酸化ケイ素(SiO)に対して、1〜4倍モル量であることが好ましく、2〜4倍モル量であることがより好ましく、3〜4倍モル量であることが特に好ましい。
前記負極は、リチウムがプレドープされていることにより、このリチウムが負極活物質層中の二酸化ケイ素と不可逆的に反応して、あらかじめリチウムシリケート(LiSiO)を生成していると推測される。そして、このような負極を備えた本発明に係るリチウムイオン二次電池は、初期充電工程において負極にリチウムが吸蔵されても、負極活物質層中の酸化ケイ素との上記反応が抑制されるため、放電時の放出が妨げられることがなく、放電容量の低下が抑制されると推測される。本発明に係るリチウムイオン二次電池は、後述するように、充放電特性に優れたものである。
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、前記負極を備えたことを特徴とし、前記負極を備えた点以外は、従来のリチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができ、例えば、前記負極、正極、及び電解液、ゲル電解質又は固体電解質を備えて構成され、さらに必要に応じて、負極と正極との間に、セパレータを備えていてもよい。
[正極]
前記正極は、公知のものでよく、正極活物質、バインダー及び溶媒、並びに必要に応じて導電助剤等が配合されてなる正極材を用いて形成された正極活物質層を、集電体(正極集電体)上に備えたものが例示できる。正極としては、市販品を用いてもよい。
正極におけるバインダー、溶媒及び集電体は、いずれも負極におけるバインダー、溶媒及び集電体と同様のものでよい。
正極における導電助剤は公知のものでよく、好ましいものとしては、黒鉛(グラファイト);ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;カーボンナノチューブ;カーボンナノホーン;グラフェン;フラーレン等が例示できる。
正極における前記導電助剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
正極活物質としては、一般式「LiM(式中、Mは金属であり;x及びyは、金属Mと酸素Oとの組成比である。)」で表される金属酸リチウム化合物が例示できる。
このような金属酸リチウム化合物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)等が例示でき、類似の組成であるオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)を用いることもできる。
前記金属酸リチウム化合物は、前記一般式において、Mが複数種のものであってもよく、このような金属酸リチウム化合物としては、一般式「LiM (式中、M、M及びMは互いに異なる種類の金属であり;p、q、r及びyは、金属M、M及びMと酸素Oとの組成比である。)」で表されるものが例示できる。ここで、p+q+r=xである。
このような金属酸リチウム化合物としては、LiNi0.33Mn0.33Co0.33等が例示できる。
正極活物質は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
前記正極材における、配合成分の総量に対する、前記正極活物質、バインダー、溶媒、及び導電助剤のそれぞれの配合量の割合は、前記負極材における、配合成分の総量に対する、前記負極活物質、バインダー、溶媒、及び導電助剤のそれぞれの配合量の割合と同様とすることができる。
正極活物質層の厚さは、特に限定されないが、20〜60μmであることが好ましい。
正極活物質層は、前記負極材に代えて正極材を用いる点以外は、負極活物質層の場合と同様の方法で形成できる。
[電解液]
前記電解液としては、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、並びに(C)有機溶媒が配合されてなるもの(以下、「第一の電解液」と略記することがある)が例示できる。
(A)カルボン酸リチウム塩は、電解質であり、カルボキシ基がリチウム塩(−C(=O)−OLi)を構成しているものであれば、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸及び芳香族カルボン酸のいずれのリチウム塩でもよく、1価カルボン酸及び多価カルボン酸のいずれのリチウム塩でもよい。そして、(A)カルボン酸リチウム塩は、リチウム塩を構成するカルボキシ基の数は、特に限定されない。例えば、カルボキシ基の数が2以上である場合には、すべてのカルボキシ基がリチウム塩を構成していてもよいし、一部のカルボキシ基のみがリチウム塩を構成していてもよい。
(A)カルボン酸リチウム塩で好ましいものとしては、ギ酸リチウム(HCOOLi)、酢酸リチウム(CHCOOLi)、プロピオン酸リチウム(CHCHCOOLi)、酪酸リチウム(CH(CHCOOLi)、イソ酪酸リチウム((CHCHCOOLi)、吉草酸リチウム(CH(CHCOOLi)、イソ吉草酸リチウム((CHCHCHCOOLi)、カプロン酸リチウム(CH(CHCOOLi)等の1価カルボン酸のリチウム塩;シュウ酸リチウム((COOLi))、マロン酸リチウム(LiOOCCHCOOLi)、コハク酸リチウム((CHCOOLi))、グルタル酸リチウム(LiOOC(CHCOOLi)、アジピン酸リチウム((CHCHCOOLi))等の2価カルボン酸のリチウム塩;乳酸リチウム(CHCH(OH)COOLi)等の水酸基を有する1価カルボン酸のリチウム塩;酒石酸リチウム((CH(OH)COOLi))、リンゴ酸リチウム(LiOOCCHCH(OH)COOLi)等の水酸基を有する2価カルボン酸のリチウム塩;マレイン酸リチウム(LiOOCCH=CHCOOLi、cis体)、フマル酸リチウム(LiOOCCH=CHCOOLi、trans体)等の不飽和2価カルボン酸のリチウム塩;クエン酸リチウム(LiOOCCHC(COOLi)(OH)CHCOOLi)等の3価カルボン酸のリチウム塩(水酸基を有する3価カルボン酸のリチウム塩)が例示でき、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、コハク酸リチウムがより好ましく、シュウ酸リチウムが特に好ましい。
(A)カルボン酸リチウム塩は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
(B)三フッ化ホウ素及び三フッ化ホウ素錯体は、(A)カルボン酸リチウム塩と錯形成反応を行うものであり、三フッ化ホウ素錯体は、三フッ化ホウ素(BF)が別の成分に配位結合したものである。
好ましい前記三フッ化ホウ素錯体としては、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体(BF・O(CH)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・O(C)、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体(BF・O(C)、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体(BF・O((CHC))、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体(BF・O((CHC)(CH))、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(BF・OC)等の三フッ化ホウ素アルキルエーテル錯体;三フッ化ホウ素メタノール錯体(BF・HOCH)、三フッ化ホウ素プロパノール錯体(BF・HOC)、三フッ化ホウ素フェノール錯体(BF・HOC)等の三フッ化ホウ素アルコール錯体が例示できる。
(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体としては、取り扱いが容易で、錯形成反応がより円滑に進行する点から、前記三フッ化ホウ素錯体を用いることが好ましい。
(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体としては、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体の配合量は特に限定されず、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体や(A)カルボン酸リチウム塩の種類に応じて適宜調節すればよい。通常は、[(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体の配合量(モル数)]/[配合された(A)カルボン酸リチウム塩中のリチウム原子のモル数]のモル比が0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。このような範囲とすることで、(C)有機溶媒に対する(A)カルボン酸リチウム塩の溶解度がより向上する。また、前記モル比の上限値は本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、2.0であることが好ましく、1.5であることがより好ましい。
(C)有機溶媒は特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート等の炭酸エステル化合物;γ−ブチロラクトン等のラクトン化合物;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等のカルボン酸エステル化合物;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;スルホラン等のスルホン化合物が例示できる。
(C)有機溶媒は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
(C)有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル及びスルホランからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
二種以上を併用した(C)有機溶媒としては、プロピレンカーボネート及びビニレンカーボネートが配合されたもの、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートが配合されたもの、並びにエチレンカーボネート及びジメチルカーボネートが配合されたものが好ましい。
前記電解液における(C)有機溶媒の配合量は特に限定されず、例えば、電解質の種類に応じて、適宜調節すればよい。通常は、リチウム原子(Li)の濃度が、好ましくは0.2〜3.0モル/kg、より好ましくは0.4〜2.0モル/kgとなるように、配合量を調節することが好ましい。
第一の電解液としては、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、及び(C)有機溶媒が配合されてなるものも例示できる。
(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体としては、カルボン酸リチウム塩中の少なくとも1個のカルボキシ基又はリチウム塩となっているカルボキシ基に、三フッ化ホウ素(BF)が配位結合したものが例示できる。
(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を構成するカルボン酸リチウム塩としては、(A)カルボン酸リチウム塩と同様のものが例示できる。
(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、例えば、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、並びに(C’)溶媒を配合して、(A)カルボン酸リチウム塩と、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体と、を反応させる工程(以下、「反応工程」と略記する)と、前記反応後の反応液から、(C’)溶媒と、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体に由来する不純物と、を除去する工程(以下、「除去工程」と略記する)と、を有する製造方法で製造できる。かかる製造方法で得られた(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、(A)カルボン酸リチウム塩と(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体とが、錯形成反応して、形成されたものである。
この製造方法において、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体は、上記のものと同じである。すなわち、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体における「カルボン酸リチウム塩」は、(A)カルボン酸リチウム塩と同じものである。
(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
前記(C’)溶媒は、前記反応工程における、(A)カルボン酸リチウム塩と(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体との錯形成反応を妨げず、これらを溶解可能なものであれば、特に限定されないが、有機溶媒が好ましく、常圧下又は減圧下での留去が可能なものが好ましい。
(C’)溶媒の沸点は、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、35℃以上であることが特に好ましい。そして、(C’)溶媒の沸点は、180℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが特に好ましい。(C’)溶媒の沸点が前記下限値以上であることで、前記反応工程における反応液を常温で撹拌することができるので、前記反応工程をより容易に行うことができる。また、(C’)溶媒の沸点が前記上限値以下であることで、前記除去工程での留去により、(C’)溶媒をより容易に除去できる。
(C’)溶媒における好ましい前記有機溶媒としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル化合物(鎖状構造中に、炭酸エステル結合を有する化合物);アセトニトリル等のニトリル化合物;テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物(環状構造中にエーテル結合を有する化合物);ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等の鎖状エーテル化合物(鎖状構造中にエーテル結合を有する化合物);酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のカルボン酸エステル化合物が例示できる。
これらの中でも、前記有機溶媒としては、鎖状炭酸エステル化合物、ニトリル化合物、環状エーテル化合物が好ましい。
(C’)溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
前記除去工程において、前記不純物としては、(A)カルボン酸リチウム塩と反応せずに残存した、過剰量の(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体や、これから生じた副生物が挙げられ、前記副生物としてより具体的には、(B)成分である三フッ化ホウ素錯体において、反応前に元々三フッ化ホウ素に配位結合していた成分等が例示できる。これら不純物は、留去が可能なものである。
(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を用いた第一の電解液は、例えば、(A)カルボン酸リチウム塩、並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体を配合するのに代えて、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を配合することにより、(A)カルボン酸リチウム塩、並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体が配合されてなる上記の第一の電解液と同様の方法で得られる。例えば、(C)有機溶媒の配合量は特に限定されないが、リチウム原子(Li)の濃度が、好ましくは0.2〜3.0モル/kg、より好ましくは0.4〜2.0モル/kgとなるように、配合量を調節することが好ましい。
また、前記電解液としては、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF、LiTFSI)等の、(A)カルボン酸リチウム塩以外の公知のリチウム塩が有機溶媒に溶解されてなるもの(以下、「第二の電解液」と略記することがある)も例示できる。
第二の電解液における前記電解質は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
第二の電解液における前記有機溶媒としては、第一の電解液における(C)有機溶媒と同じのものが例示できる。
また、第二の電解液におけるリチウム原子(Li)の濃度も、第一の電解液の場合と同様である。
第一及び第二の電解液は、いずれも、上記の必須成分(第一の電解液における(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、(C)有機溶媒;第二の電解液におけるリチウム塩、有機溶媒)以外に、本発明の効果を損なわない範囲内において、任意成分が配合されてなるものでもよい。
前記任意成分は、目的に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。
第一及び第二の電解液は、前記必須成分、及び必要に応じて任意成分を配合することで製造できる。各成分の配合方法は、前記負極材の製造時における各成分の配合方法と同様である。ただし、混合時の組成は特に限定されない。
本発明において、前記電解液は、(A)カルボン酸リチウム塩並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、あるいは(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体が配合されてなるもの、すなわち第一の電解液であることが好ましい。
[ゲル電解質]
前記ゲル電解質としては、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、(C)有機溶媒、並びに(D)マトリクスポリマーが配合されてなるもの;(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、(C)有機溶媒、及び(D)マトリクスポリマーが配合されてなるものが例示でき、必要に応じて、前記第一及び第二の電解液における任意成分が配合されてなるものでもよい。また、前記ゲル電解質としては、第一の電解液に、さらに(D)マトリクスポリマーが配合されてなるものも例示できる。ここで、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、並びに(C)有機溶媒は、いずれも第一の電解液におけるものと同じである。
ゲル電解質は、型を用いて所望の形状に成型してもよい。
ゲル電解質では、(D)マトリクスポリマー以外の成分(電解液)が、マトリクスポリマー中に保持される。
ゲル電解質は、配合した(C)有機溶媒の一部が、乾燥等によって除去されたものでもよく、製造時において、ゲル電解質中に主として残存する(C)有機溶媒とは異なる有機溶媒(希釈用有機溶媒)が別途配合され、この希釈用有機溶媒が上記の乾燥時に除去されたものであってもよい。
(D)マトリクスポリマーは、特に限定されず、固体電解質分野で公知のものが適宜使用できる。
好ましい(D)マトリクスポリマーとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー(ポリエーテル骨格を有するポリマー);ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化アセトン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー(フッ素原子を有するポリマー);ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリアクリルアミド、エチレンオキシドユニットを含むポリアクリレート等のポリアクリル系ポリマー((メタ)アクリル酸エステル又はアクリルアミドから誘導される構成単位を有するポリマー);ポリアクリロニトリル;ポリホスファゼン;ポリシロキサンが例示できる。
(D)マトリクスポリマーは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
(D)マトリクスポリマーは、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化アセトン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン及びポリシロキサンからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
ゲル電解質において、(D)マトリクスポリマーの配合量は特に限定されず、その種類に応じて適宜調節すればよいが、配合成分の総量に対する(D)マトリクスポリマーの配合量の割合は、2〜50質量%であることが好ましい。(D)マトリクスポリマーの配合量が前記下限値以上であることで、ゲル電解質の強度がより向上し、(D)マトリクスポリマーの配合量が前記上限値以下であることで、リチウムイオン二次電池はより優れた電池性能を示す。
前記希釈用有機溶媒は、配合成分のいずれかを十分に溶解又は分散させることができるものが好ましく、具体的には、アセトニトリル等のニトリル化合物;テトラヒドロフラン等のエーテル化合物:ジメチルホルムアミド等のアミド化合物が例示できる。
希釈用有機溶媒は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
ゲル電解質は、リチウムイオン二次電池が通常使用される40℃以下の環境において、流動性を示さないものが好ましい。
ゲル電解質製造時における各成分の配合方法は、前記電解液の場合と同様でよい。
希釈用有機溶媒を除去するときの乾燥方法は、特に限定されず、例えば、ドライボックス、真空デシケータ、減圧乾燥機等を使用する公知の方法を適用すればよい。
[固体電解質]
前記固体電解質としては、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、希釈用有機溶媒、並びに(D)マトリクスポリマーが配合されて得られた組成物;(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、希釈用有機溶媒、及び(D)マトリクスポリマーが配合されて得られた組成物から、乾燥により前記希釈用有機溶媒が除去されてなるものが例示でき、必要に応じて、前記第一及び第二の電解液における任意成分が配合されてなるものでもよい。ここで、(A)カルボン酸リチウム塩、(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体、並びに(C)有機溶媒は、いずれも第一の電解液におけるものと同じであり、希釈用有機溶媒及び(D)マトリクスポリマーは、前記ゲル電解質におけるものと同じである。
固体電解質は、型を用いて所望の形状に成型してもよい。
固体電解質において、(D)マトリクスポリマーの配合量は特に限定されず、その種類に応じて適宜調節すればよいが、配合成分の総量に対する(D)マトリクスポリマーの配合量の割合は、2〜65質量%であることが好ましい。(D)マトリクスポリマーの配合量が前記下限値以上であることで、固体電解質(電解質膜)の強度がより向上し、(D)マトリクスポリマーの配合量が前記上限値以下であることで、リチウムイオン二次電池はより優れた電池性能を示す。
固体電解質製造時における各成分の配合方法は、前記電解液の場合と同様でよい。
また、希釈用有機溶媒を除去するときの乾燥方法は、前記ゲル電解質の場合と同様でよい。
[セパレータ]
前記セパレータの材質は特に限定されないが、微多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が例示でき、これら材質からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池の要部を模式的に例示する正面図である。
ここに示すリチウムイオン二次電池1は、シート状の負極3及び正極4が、セパレータ2を介して積層されたものである。セパレータ2は、単層からなるものでもよいし、二層以上が積層された複数層からなるものでもよい。図1において、電解液は図示を省略している。電解液に代えてゲル電解質又は固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池としては、セパレータ2に代えてゲル電解質又は固体電解質を、あるいはセパレータを含むゲル電解質又は固体電解質を備えたものが例示できる。
ここでは、負極3及び正極4をそれぞれ1枚ずつ示しているが、負極3、セパレータ2及び正極4がこの順に積層された積層構造を繰り返し単位として、この順を繰り返すように、これら繰り返し単位の間にさらにセパレータ2が介在して、前記積層構造が複数個繰り返し積層された構成であってもよい。
なお、ここに示すリチウムイオン二次電池1は、本発明の一実施形態を例示するものであり、本発明に係るリチウムイオン二次電池はこれに限定されるものではない。
前記リチウムイオン二次電池は、公知の方法に従って、例えば、グローブボックス内又は乾燥空気雰囲気下で、前記電解液、ゲル電解質又は固体電解質、及び電極等を用いて製造すればよい。
例えば、ゲル電解質を備えたリチウムイオン二次電池であれば、加熱して液状としたゲル電解質を、負極及び正極のいずれか一方又は両方の電極面上に塗工し、次いで、このゲル電解質を備えた負極及び正極を、これらの電極面が対向するようにゲル電解質を介して積層し、必要に応じてこれらの電極面間にセパレータを介在させることで、容易に製造できる。液状のゲル電解質は、例えば、バーコーター等の各種コーターを用いる方法で、電極面上に塗工できる。
また、例えば、電解液を備えたリチウムイオン二次電池であれば、ゲル電解質に代えてこの電解液を、負極及び正極の電極面に接触するように配置すること以外は、上記のゲル電解質を備えたリチウムイオン二次電池と同様の方法で、容易に製造できる。
前記リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型等、種々のものに調節できる。
リチウムイオン二次電池は、(A)カルボン酸リチウム塩並びに(B)三フッ化ホウ素及び/又は三フッ化ホウ素錯体、あるいは(E)カルボン酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体を用いた場合、初期充電時に負極表面上において、フッ化リチウム(LiF)を含む界面皮膜(以下、「SEI」と略記する)を形成する。このSEIは、充放電時にリチウムイオンに溶媒和された溶媒分子が負極中に進入するのを阻止し、負極構造の破壊を抑制して、リチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上に寄与する。
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、容量発現率が高く、好ましくは83%以上、より好ましくは87%以上となる。
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、優れたサイクル特性を示す。例えば、充放電サイクルを繰り返し行ったときの、100サイクルでの容量維持率の値が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上となる。
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
(1)使用した原料
本実施例で使用した原料を以下に示す。
・導電助剤
アセチレンブラック(電気化学工業社製「HS−100」、平均粒子径48nm)
カーボンナノチューブ(保土谷化学社製「NT−7」、平均繊維径65nm、平均繊維長6μm以上)
・バインダー
スチレン−ブタジエン樹脂(以下、「SBR」と略記する)(JSR社製)
ポリイミド(I.S.T社製「DREAMBOND」)
・(A)カルボン酸リチウム塩
シュウ酸リチウム(Alfa社製)
・(B)三フッ化ホウ素錯体
三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・O(C)(アルドリッチ社製)
・(C)有機溶媒
エチレンカーボネート(以下、「EC」と略記する)(キシダ化学社製)
プロピレンカーボネート(以下、「PC」と略記する)(キシダ化学社製)
・(C’)溶媒
ジメチルカーボネート(以下、「DMC」と略記する)(キシダ化学社製)
<(E)有機酸リチウム塩−三フッ化ホウ素錯体の製造>
[製造例1](シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の製造)
シュウ酸リチウム(22.3g、223mmol)を丸底フラスコに量り取り、これを200mLのDMCに懸濁させた。これに23℃で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(63.3g、446mmol)をゆっくりと滴下した後、室温(23℃)で24時間撹拌し、反応液が透明になって不溶物が見られず、均一な溶液となったことを確認した。次いで、ロータリーエバポレーターを用いて、反応液から溶媒及び不純物を留去した。その後、析出した白色の固体を50℃にて乾燥させることにより、白色粉末のシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体((COOLi)・(BF)を得た(収率96.5%)。
得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体について、NMR、IRにより、その構造を確認した。得られたデータを図2〜4に示す。図2中、(a)は比較用の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・O(C)のH−NMRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体((COOLi)・(BF)のH−NMRデータである。また、図3中、(a)は比較用の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・O(C)の19F−NMRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体の19F−NMRデータである。そして、図4中、(a)は比較用のシュウ酸リチウムのIRデータ、(b)は得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体のIRデータである。
図2(a)において観測された、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・O(C)のジエチルエーテルに由来するメチル水素(−CH)及びメチレン水素(−O−CH−)のピークが、図2(b)では観測されておらず、これは、得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、ジエチルエーテル等の不純物が混入していないことを支持していた。
また、図3(a)及び(b)において観測されたフッ素のケミカルシフトに違いがみられることから、三フッ化ホウ素(BF)の配位環境が互いに異なることが確認され、これは、目的物であるシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体が得られたことを支持していた。さらに、図3(b)において不純物ピークが観測されなかったことや、三フッ化ホウ素の単体(BF)の沸点が−100℃であることから、過剰量使用して反応工程で残存した三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が除去工程で除去され、得られたシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が混入していないと考えられた。
また、図4(a)及び(b)でスペクトルに違いがみられることから、カルボニル基の配位環境が互いに異なることが確認され、これは、目的物であるシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体が得られたことを支持していた。
以上から、目的物であるシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体が得られ、これには、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、ジエチルエーテル等の不純物が混入していないことを確認できた。
<リチウムイオン二次電池の製造>
[実施例1](負極材の製造)
一酸化ケイ素(SiO、平均粒子径0.8μm、69質量部)、アセチレンブラック(10質量部)、カーボンナノチューブ(6質量部)、ポリアクリル酸リチウム(全酸基の50モル%がリチウム塩とされたもの、以下、「PAALi」と略記することがある、10質量部)、及びSBR(5質量部)を試薬瓶に入れ、さらにここに蒸留水を添加して濃度調整した後、自公転ミキサーを用いてこの濃度調整したものを2000rpmで3分間混合した。次いで、超音波ホモジナイザーを用いてこの混合物を10分間分散処理した後、再度、自公転ミキサーを用いてこの分散物を2000rpmで3分間混合することにより、負極材を得た。ここまでの操作は、すべて25℃で行った。このときの各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表1に示す。
(電解液の製造)
有機溶媒として、EC及びPCの混合溶媒(EC:PC=30:70(体積比))をサンプル瓶に量り取り、ここにシュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体(1.82g)を加えて、シュウ酸リチウム−三フッ化ホウ素錯体中のリチウム原子の濃度が1.0モル/kgとなるようにし、23℃で混合することにより、電解液を得た。
(負極の製造)
バーコーターを用いて、厚さ15μmの銅箔の両面に得られた負極材を塗布し、50℃のホットプレート上でこれを乾燥させた後、ロールプレス機を用いて1kNでプレスすることにより、集電体である銅箔上に厚さ25μmの負極活物質層を形成して、負極前駆体を得た。
図5は、得られた負極前駆体における負極活物質層の、走査型電子顕微鏡(SEM)で取得した撮像データである。図5中、(a)は負極活物質層の10000倍の撮像データであり、(b)は(a)中の丸囲み領域a1の拡大撮像データであり、(c)は(b)中の丸囲み領域b1の拡大撮像データである。図5(a)〜(c)から明らかなように、SiO(酸化ケイ素)は負極活物質層中で均一に分散しており、一方で、カーボンナノチューブ(繊維状導電助剤)は、負極活物質層中において、負極活物質層全体に網目構造を形成していた。また、アセチレンブラック(粒子状導電助剤)は、負極活物質層中のSiOの周辺部においてそのナノ粒子が連なった構造を形成し、SiOとアセチレンブラックとの接触面積を高めていた。
得られた負極前駆体の負極活物質層上に、上記で得られた電解液を、滴下量が50μL/cmとなるように滴下し、その滴下面上に厚さ200μmのリチウム箔を重ねて、この状態で24時間静置することにより、負極前駆体にリチウムをプレドープして、負極を得た。このリチウム箔は、プレドープ後、負極から取り除いた。
(正極の製造)
ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(Ni:Co:Mn=1:1:1、LiNMC)(93質量部)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(3質量部)と、導電助剤であるカーボンブラック(4質量部)とを混合して正極合材を調製し、これをN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させて、正極材(スラリー)を調製した。次いで、この正極材を厚さ15μmのアルミニウム箔の両面にバーコーターを用いて塗布し、100℃、0.1MPa、10時間の条件で減圧乾燥させた後、ロールプレスすることにより、集電体であるアルミニウム箔上に厚さ60μmの正極活物質層を形成して、正極を得た。
(リチウムイオン二次電池の製造)
上記で得られた負極及び正極を直径16mmの円盤状に打ち抜いた。また、セパレータとしてガラスファイバーからなるものを用い、これを直径17mmの円盤状に打ち抜いた。これら円盤状の正極、セパレータ及び負極を、この順にSUS製の電池容器(CR2032)内で積層し、上記で得られた電解液を、セパレータ、負極及び正極に含浸させ、さらに負極上に、SUS製の板(厚さ1.2mm、直径16mm)を載せ、蓋をすることにより、リチウムイオン二次電池としてコイン型セルを製造した。
[実施例2](負極材の製造)
一酸化ケイ素(SiO、平均粒子径0.8μm、69質量部)、アセチレンブラック(10質量部)、カーボンナノチューブ(6質量部)、及びポリイミド(15質量部)を試薬瓶に入れ、さらにここにNMPを添加して濃度調整した後、自公転ミキサーを用いてこの濃度調整したものを2000rpmで3分間混合した。次いで、超音波ホモジナイザーを用いてこの混合物を10分間分散処理した後、再度、自公転ミキサーを用いてこの分散物を2000rpmで3分間混合することにより、負極材を得た。ここまでの操作は、すべて25℃で行った。このときの各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表1に示す。
(電解液、負極、正極及びリチウムイオン二次電池の製造)
実施例1と同じ方法で電解液を製造し、さらに得られた負極材を用いた点以外は、実施例1と同じ方法で負極、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
[比較例1]
表1に示すように、負極前駆体に対してリチウムをプレドープしなかった点以外は、実施例1と同じ方法でリチウムイオン二次電池を製造した。
[比較例2]
表1に示すように、負極前駆体に対してリチウムをプレドープしなかった点以外は、実施例2と同じ方法でリチウムイオン二次電池を製造した。
[比較例3](負極材の製造)
一酸化ケイ素(SiO、平均粒子径0.8μm、75質量部)、アセチレンブラック(10質量部)、PAALi(全酸基の50モル%がリチウム塩とされたもの、10質量部)、及びSBR(5質量部)を試薬瓶に入れ、さらにここに蒸留水を添加して濃度調整した後、自公転ミキサーを用いてこの濃度調整したものを2000rpmで3分間混合した。次いで、超音波ホモジナイザーを用いてこの混合物を10分間分散処理した後、再度、自公転ミキサーを用いてこの分散物を2000rpmで3分間混合することにより、負極材を得た。ここまでの操作は、すべて25℃で行った。このときの各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表1に示す。なお、表1において、「−」との記載は、その成分が配合されていないことを意味する。
(電解液、負極、正極及びリチウムイオン二次電池の製造)
実施例1と同じ方法で電解液を製造し、さらに得られた負極材を用いた点以外は、実施例1と同じ方法で負極、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
[比較例4](負極材の製造)
一酸化ケイ素(SiO、平均粒子径0.8μm、75質量部)、アセチレンブラック(10質量部)、及びポリイミド(15質量部)を試薬瓶に入れ、さらにここにNMPを添加して濃度調整した後、自公転ミキサーを用いてこの濃度調整したものを2000rpmで3分間混合した。次いで、超音波ホモジナイザーを用いてこの混合物を10分間分散処理した後、再度、自公転ミキサーを用いてこの分散物を2000rpmで3分間混合することにより、負極材を得た。ここまでの操作は、すべて25℃で行った。このときの各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表1に示す。
(電解液、負極、正極及びリチウムイオン二次電池の製造)
実施例1と同じ方法で電解液を製造し、さらに得られた負極材を用いた点以外は、実施例1と同じ方法で負極、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
<リチウムイオン二次電池の充放電特性の評価>
上記各実施例及び比較例で得られたリチウムイオン二次電池について、25℃において0.2Cの定電流定電圧充電を、上限電圧4.2Vとして電流値が0.1Cに収束するまで行った後、0.2Cの定電流放電を2.7Vまで行った。次いで、充放電電流を1Cとして同様の方法で、充放電サイクルを数回〜数十回繰り返し行い、リチウムイオン二次電池の状態を安定させた。次いで、充放電電流を1Cとして同様の方法で、充放電サイクルを繰り返し行い、容量発現率({[1サイクル目の放電容量(mAh)]/[定格容量(mAh)]}×100)(%)、及び100サイクルでの容量維持率({[100サイクル目の放電容量(mAh)]/[1サイクル目の放電容量(mAh)]}×100)(%)を算出した。結果を表2に示す。
上記結果から明らかなように、粒子状導電助剤及び繊維状導電助剤を併用し、リチウムがプレドープされている負極を用いた実施例1〜2のリチウムイオン二次電池は、バインダーの種類が異なっていても、容量発現率及び100サイクルでの容量維持率が共に十分に高く、充放電特性に優れていた。
これに対して、リチウムがプレドープされていない負極を用いた比較例1〜2のリチウムイオン二次電池は、バインダーの種類によらず、特に容量発現率が不十分であった。また、繊維状導電助剤を併用していない負極を用いた比較例3〜4のリチウムイオン二次電池は、バインダーの種類によらず、特に100サイクルでの容量維持率が不十分であった。
[実施例3]
<平均粒子径(D50)の異なる酸化ケイ素粒子の製造>
一酸化ケイ素(D50=6μm、大阪チタニウムテクノロジーズ社製)100g、φ1mmジルコニアボール560g、2−プロパノール120gを専用ジルコニア容器に入れ、遊星型ボールミル(P-6:FRITSCH)を使用して酸化ケイ素を粉砕し、平均粒子径(D50)(メジアン径)が1.5μmの一酸化ケイ素粒子の2−プロパノール分散液を得た。
得られた分散液について遠心分離機による分離及び回収を行い、一酸化ケイ素粒子(SiO、平均粒子径1.5μm)のウェットケーキ(固形分70%)を得た。
上記で得られた一酸化ケイ素粒子を使用して、実施例1と同様の方法で負極材を得た。それらの操作は、すべて25℃で行った。このときの各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表3に示す。
<リチウムイオン二次電池の作製と評価>
上記の様に一酸化ケイ素の粒径を変化させたこと以外は、実施例1と同じ方法でリチウムイオン二次電池を作製した。その評価については、100サイクルでの容量維持率に加えて、200サイクルでの容量維持率({[200サイクル目の放電容量(mAh)]/[1サイクル目の放電容量(mAh)]}×100)(%)を算出した。その結果を表4に示す。
[実施例4]
実施例3の粉砕条件を変更して、平均粒子径(D50)が0.9μmの一酸化ケイ素粒子を得た。この粒子を使用した以外は、実施例3と同様にリチウムイオン二次電池を作製して評価した。実施例4の負極材の各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表3に示す。また、評価結果を表4に示す。
[実施例5]
実施例3の粉砕条件を変更して、平均粒子径(D50)が0.6μmの一酸化ケイ素粒子を得た。この粒子を使用した以外は、実施例3と同様にリチウムイオン二次電池を作製して評価した。実施例5の負極材の各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表3に示す。また、評価結果を表4に示す。
[実施例6]
実施例3の負極材における各成分の配合において、一酸化ケイ素粒子の配合量を65質量%に減量し、カーボンナノチューブの配合量を10質量%に増量した以外は、実施例3と同様にリチウムイオン二次電池を作製して評価した。実施例6の負極材の各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表3に示す。また、評価結果を表4に示す。
[実施例7]
実施例4の負極材における各成分の配合において、一酸化ケイ素粒子の配合量を65質量%に減量し、カーボンナノチューブの配合量を10質量%に増量した以外は、実施例4と同様にリチウムイオン二次電池を作製して評価した。実施例7の負極材の各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表3に示す。また、評価結果を表4に示す。
[実施例8]
実施例6の負極材における各成分の配合において、一酸化ケイ素粒子の配合量を62質量%に減量し、バインダー成分のPAALiを6質量%に減量した一方、バインダー成分のSBRを12質量%に増量した以外は、実施例6と同様にリチウムイオン二次電池を作製して評価した。実施例8の負極材の各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表3に示す。また、評価結果を表4に示す。
[実施例9]
実施例7の負極材における各成分の配合において、一酸化ケイ素粒子の配合量を62質量%に減量し、バインダー成分のPAALiを6質量%に減量した一方、バインダー成分のSBRを12質量%に増量した以外は、実施例7と同様にリチウムイオン二次電池を作製して評価した。実施例9の負極材の各配合成分と、配合成分の総量に対する各配合成分の割合(質量%)とを表3に示す。また、評価結果を表4に示す。
上記の実施例3、実施例6、実施例8および実施例9は、比較例である。
上記結果において、実施例3〜5を比較すると、一酸化ケイ素粒子の平均粒子径が1μm以下の実施例4,5において特に容量維持率の向上が見られた。
また、一酸化ケイ素粒子の平均粒子径が同じ、実施例3と6、および実施例4と7を各々比べると、繊維状導電助剤の割合を増やした実施例6,7においてサイクル特性の向上が見られた。この理由の一つとして、酸化ケイ素粒子の平均粒子径が変化すると、導電ネットワークを上手く機能させるための繊維状導電助剤の好適な割合が変化することが考えられる。
実施例6〜9を比較検討すると、平均粒子径が比較的大きい場合(実施例6,8)には、それに応じてバインダーの配合量が多い方(実施例8)が容量維持率を高められた。一方、平均粒子径が比較的小さい場合(実施例7,9)には、それに応じてバインダーの配合量が少ない方(実施例7)が容量維持率を高められた。
このように、酸化ケイ素粒子の平均粒子径(大きさ)に応じてバインダー量を調節することにより、さらなる容量維持率の向上が確認された。
普通に考えれば、酸化ケイ素粒子の平均粒子径が大きくなる程、その粒子群の総質量に対する表面積の割合が小さくなるため、バインダー量は少なくて済むと考えられる。ところが、本実施例は、それと逆の結果を示していた。すなわち、酸化ケイ素粒子の平均粒子径が大きい場合には、バインダー量を多めにすることが好ましく、酸化ケイ素粒子の平均粒子径が小さい場合には、バインダー量を少なめにすることが好ましいことが確認された。
本発明は、リチウムイオン二次電池の分野で利用可能である。
1・・・リチウムイオン二次電池、2・・・セパレータ、3・・・負極、4・・・正極

Claims (6)

  1. 酸化ケイ素、粒子状導電助剤、繊維状導電助剤及びバインダーが配合されてなる負極材を用いて形成された負極活物質層を有し、且つリチウムがプレドープされている負極を備え
    前記酸化ケイ素の平均粒子径が0.1μm〜1.0μmであり、
    前記酸化ケイ素、前記粒子状導電助剤、前記繊維状導電助剤及び前記バインダーの総質量に対して、
    前記酸化ケイ素の含有量が65〜80質量%であり、
    前記粒子状導電助剤の含有量が5〜20質量%であり、
    前記繊維状導電助剤の含有量が2〜15質量%であり、
    前記バインダーの含有量が5〜20質量%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  2. 前記粒子状導電助剤がカーボンブラックであり、前記繊維状導電助剤がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
  3. 前記バインダーが、ポリアクリル酸リチウムを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
  4. 前記バインダーが、さらにスチレンブタジエンゴムを含むことを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン二次電池。
  5. 前記粒子状導電助剤の平均粒子径が10〜100nmであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
  6. 前記繊維状導電助剤の平均繊維径が5〜300nmであることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
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