<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置10について、図1〜図5に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UPは、車両用シート12の前方向(着座者の向く方向)、上方向をそれぞれ示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、シート前後方向の前後、シート上下方向の上下、シート前後方向の前方を向いた場合の左右を示すものとする。なお、各図に適宜記す矢印INは、車両用シート12が搭載された車両としての自動車における車幅方向の車両中央側を示している。
(乗員保護装置の概略全体構成)
図1及び図2に示されるように、本実施形態の乗員保護装置10は、車両用シート12に搭載されている。車両用シート12は、図示しない自動車の車体における車幅方向中央に対し左右何れか(本実施形態では左側)にオフセットして配置されている。本実施形態では、車両用シート12は、シート前後方向が車両の前後方向に一致され、シート幅方向が車幅方向に一致されている。また、車両用シート12は、シートクッション14と、シートクッション14の後端に下端が連結されたシートバック16と、シートバック16の上端に設けられたヘッドレスト18とを含んで構成されている。
なお、各図では、保護すべき乗員のモデルとして衝突試験用のダミー(人形)Dが車両用シート12のシートクッション14に着座した状態を図示している。ダミーDは、例えばWorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。このダミーDは、衝突試験法で定められた標準的な着座姿勢で着座しており、車両用シート12は、当該着座姿勢に対応した基準設定位置に位置している。以下、説明を分かり易くするために、ダミーDを「着座者D」と称する。
乗員保護装置10は、着座者Dを各種態様の衝突から保護するための多方位エアバッグ装置20と、サイドエアバッグ装置22と、シートベルト装置24と、移動機構としてのアクチュエータ64と、制御部としてのECU(Electronic Control Unit)60とを含んで構成されている。以下、シートベルト装置24、サイドエアバッグ装置22、多方位エアバッグ装置20について概略構成を説明し、その後、アクチュエータ64を含むヘッドレスト18の移動機構及びECU60について説明する。
シートベルト装置24は、3点式のシートベルト装置とされており、一端が図示しないリトラクタに引き出し可能に巻き取られたベルト(ウエビング)28の他端がアンカ24Aに固定されている。ベルト28にはタングプレート24Tがスライド可能に設けられており、このタングプレート24Tをバックル24Bに係止させることで、ベルト28が着座者Dに装着されるようになっている。そして、ベルト28は、着座者Dへの装着状態で、該ベルト28のうちリトラクタ26からタングプレート24Tまでのショルダベルト28Sが着座者Dの上体に装着され、タングプレート24Tからアンカ24Aまでのラップベルト28Lが着座者Dの腰部Pに装着される構成である。
本実施形態では、シートベルト装置24は、図示しないリトラクタ、アンカ24A、及びバックル24Bが車両用シート12に設けられている、所謂シート付のシートベルト装置とされている。また、本実施形態では、リトラクタは、作動されることで強制的にベルト28を巻き取るプリテンショナ機能を有する。リトラクタのプリテンショナ機能は、後述するECU60によって作動されるようになっている。さらに、本実施形態では、後述する衝突予知センサ62によって車両の衝突が予知された際に、図示しないモータにより着座者Dを拘束するベルト28の張力を増加させる、所謂プリクラッシュシートベルトとされている。
サイドエアバッグ装置22は、インフレータ22Aと、サイドエアバッグ22Bとを含んで構成されており、サイドエアバッグ22Bの折り畳み状態でシートバック16における車幅方向外側の側部に収納されている。インフレータ22Aは、作動されるとサイドエアバッグ22B内でガスを発生するようになっている。このガスによってサイドエアバッグ22Bは、シートバック16の側部から前方に突出され着座者Dに対する車幅方向外側で膨張展開する構成とされている。本実施形態では、サイドエアバッグ22Bは、着座者Dの腰部P、腹部A、胸部B、肩部Sに対する車幅方向外側で膨張展開する構成とされている。
(多方位エアバッグ装置の構成)
図1に示されるように、多方位エアバッグ装置20は、エアバッグとしての多方位エアバッグ30と、インフレータ32と、ヘッドレスト18を構成するモジュールケース34とを含んで構成されている。多方位エアバッグ30は、インフレータ32がガス供給可能に接続された状態で折り畳まれ、モジュールケース34内に収納されている。このようにモジュール化された多方位エアバッグ装置20は、シートバック16上においてヘッドレスト18に設けられている。以下、具体的に説明する。
(多方位エアバッグ)
多方位エアバッグ30は、平断面視で図3(A)に示されるように、着座者Dの頭部H(以下、単に「頭部H」という場合がある)を前方及び左右両側方から覆うように膨張展開される一体の袋体として構成されている。より具体的には、図1〜図3に示されるように、多方位エアバッグ30は、頭部Hに対する前方で展開される前展開部36と、頭部Hに対する左右両側方で展開される一対の横展開部38とを含んで構成されている。
前展開部36は、頭部Hの正面で展開される可視構造としてのメッシュ部40と、正面視でメッシュ部40を囲んで膨張展開される前膨張部42とを含んで構成されている。メッシュ部40は、正面視で略矩形状を成しており、前膨張部42は内周縁がメッシュ部40に接合された矩形枠状を成している。前膨張部42は、ガス供給を受けて膨張展開されるようになっている。
図2に示されるように、前膨張部42のうち主にシートバック16の上方でメッシュ部40を囲む部分は、頭部Hの前方で膨張展開される第1膨張部42Aとされている。また、前膨張部42のうち第1膨張部42Aの下方に位置する(正面視でシートバック16にラップする)部分は、着座者Dの胸部B及び肩部Sの前方で膨張展開される上体拘束部としての第2膨張部42Bとされている。第2膨張部42Bは、第1膨張部42Aを通じてガスが供給されるようになっている。なお、本実施形態では、第1膨張部42Aにおけるメッシュ部40の下方に位置する部分は、シーム42Sにて第1膨張部42Aにおける他の部分と区画されており、第2膨張部42Bを通じてガスが供給されるようになっている。
図1に示されるように、横展開部38は、ガス供給を受けて頭部Hの側方で膨張展開される横膨張部44と、上下方向に沿って延び横膨張部44を前後に区画する非膨張部としてのシーム部46とを含んで構成されている。横膨張部44は、側面視で頭部Hの全体にラップする大きさ(面積)を有しており、シーム部46は、横膨張部44における頭部Hとラップする部分で該横膨張部44を前後に区画している。
左右の横膨張部44は、それぞれの前端が前膨張部42における左右対応する第1膨張部42Aの下端(第2膨張部42Bとの境界付近)に連通状態で繋がっている。これにより、左右の横膨張部44は、前膨張部42を経由してインフレータ32からのガスが供給されるようになっている。一方、前膨張部42の第1膨張部42Aと横膨張部44との間は、上記した連通部分の上方部分が非膨張部としてのシーム部47にて仕切られている。
左右の横展開部38は、多方位エアバッグ30の膨張展開状態で、それぞれの横膨張部44の下端44Lが着座者Dの肩部S上に接触するようになっている。この横膨張部44の下端44Lの肩部Sに対する接触によって、膨張展開状態の多方位エアバッグ30の着座者(の頭部H)に対する上下方向の位置が決まる構成である。
この位置決め状態で多方位エアバッグ30は、通常の着座姿勢をとる着座者Dに対して、前展開部36、左右の横展開部38、及び後述する上展開部48の何れも頭部Hと接触しない(隙間が形成される)構成とされている。
また、多方位エアバッグ30は、前展開部36、左右の横展開部38の各上縁を繋ぎ着座者Dの頭部Hに対する上方で展開される上展開部48を有する。上展開部48は、ガス供給を受けて膨張展開される上膨張部50を主要部として構成されている。上膨張部50は、頭部Hの上方で膨張展開される中央膨張部50Cと、中央膨張部50Cの左右で前後方向に沿って延びるダクト部としての一対の上ダクト部50Dとを含んで構成されている。
多方位エアバッグ30は、上展開部48の後方で展開される後展開部52を有する。後展開部52は、膨張部である後ダクト部54と、非膨張部56とを含んで構成されている。後ダクト部54は、左右に分離されてそれぞれの上端が左右対応する上ダクト部50Dに連通状態で繋がっている。左右の後ダクト部54は、前縁が中央膨張部50Cの後縁に接合されている非膨張部56にて互いに連結されている。
また、左右の後ダクト部54は、非膨張部56の下方で互いに合流して図示しないガス導入部を形成している。そして、このガス導入部は、T字状を成すディフューザを介してインフレータ32からのガスが供給可能に接続されている。なお、ディフューザを用いる構成に限らず、例えば縦置きのインフレータ32におけるガス噴出し口を含む部分をガス導入部に挿入してもよい。また、ガス導入部をL字状に曲げて構成し、横置きのインフレータ32におけるガス噴出し口を含む部分をガス導入部に挿入してもよい。
また、着座者Dを拘束しない無拘束の膨張展開状態の多方位エアバッグ30は、図1に示されるように、着座者Dを拘束しない無拘束の膨張展開状態のサイドエアバッグ22Bに側面視で重ならない(ラップしない)構成とされている。換言すれば、多方位エアバッグ30とサイドエアバッグ22Bとは、互いの無拘束の膨張展開状態で、少なくとも側面視でラップする膨張展開部分を互いに有しない構成とされている。また、図2に示されるように、無拘束の膨張展開状態の多方位エアバッグ30は、着座者Dを拘束しない無拘束の膨張展開状態のサイドエアバッグ22Bに正面視で重ならない構成とされている。
以上説明したように膨張展開される多方位エアバッグ30は、折り畳み前には展開形状(フラットパターン)とされている。この展開形状の多方位エアバッグ30は、OPW(One Piece Wovenの略)により一体の袋体として形成されている。なお、2枚の織物の周縁を縫い合わせる方法(Cut & Sew)にて多方位エアバッグ30を一体の袋体として形成してもよい。
(インフレータ)
インフレータ32は、燃焼式又はコールドガス式のものが採用され、作動されることで発生したガスを多方位エアバッグ30内に供給するようになっている。本実施形態では、インフレータ32は、シリンダ型のインフレータとされ、モジュールケース34内でシート幅方向を長手方向として配置されている。このインフレータ32は、後述する制御装置としてのECU60によって作動が制御されるようになっている。
(モジュールケース)
図1に示されるように、ヘッドレスト18は、ヘッドレスト本体19と、このヘッドレスト本体19のシート後方側に配置されたモジュールケース34とを含んで構成されている。ヘッドレスト本体19は、ヘッドレスト18の前部を構成しており、着座者Dの頭部Hのシート後方側に配置されている。
また、図4に示されるように、ヘッドレスト本体19は、ヘッドレストステー18Sを介してシートバック16に取り付けられている。ヘッドレストステー18Sは、ヘッドレスト本体19とシートバック16とをシート上下方向に連結しており、シートバック16に支持された下部18SLに対し上部18SUが前方に位置している。また、該下部18SLと上部18SUとが傾斜した中間部18SCにて連結されてヘッドレストステー18Sが構成されている。さらに、下部18SLは、シートバック16の内部に配置された後述するアクチュエータ64に連結されている。
一方、ヘッドレスト本体19のシート後方側に配置されたモジュールケース34は、ヘッドレスト18(の後部意匠)を構成するバックボードとされている。したがって、多方位エアバッグ30は、ヘッドレスト18の後部に収納されていることとなる。
モジュールケース34は、正面視ではヘッドレスト本体19の上端よりも上方に突出すると共に、ヘッドレスト本体19に対しシート幅方向の両側に張り出している。すなわち、モジュールケース34は、ヘッドレスト本体19を後方から覆っている。本実施形態では、モジュールケース34は、ヘッドレスト本体19の後部を上方及び左右両側方から覆っており、上記の通りヘッドレスト18の後部意匠を構成している。
より具体的には、モジュールケース34は、ベース部34Bと、後壁としての主壁34Mと、左右一対の側壁34Sとを主要部として構成されている。ベース部34Bは、シートバック16の上端に接している。
主壁34Mは、ベース部34Bの後端から上方に延出されており、下端に対し上端が前方に位置するように前傾され、かつ側面視で後上向きに凸となる湾曲形状を成している。また、主壁34Mは、正面視でヘッドレスト本体19の上端よりも上方に突出すると共に、ヘッドレスト本体19に対しシート幅方向の両側に張り出している。
主壁34Mとヘッドレスト本体19との間には、折り畳み状態の多方位エアバッグ30を収納する空間が形成されている。また、主壁34Mの上端は、ヘッドレスト18の上方まで至っている。この主壁34Mの上端部とヘッドレスト18との間を、膨張展開過程の多方位エアバッグ30が通過する構成とされている。膨張展開状態の多方位エアバッグ30では、主壁34Mの上端部とヘッドレスト18との間を後展開部52が通るようになっている。
一対の側壁34Sは、主壁34Mのシート幅方向両端から前方に延出されており、側面視でヘッドレスト本体19の後部を覆っている。また、図3(A)に示されるように、一対の側壁34Sとヘッドレスト本体19との間を、膨張展開状態の多方位エアバッグ30における横展開部38(後展開部52との境界付近の部分)が通る構成とされている。
以上説明したモジュールケース34は、ヘッドレスト本体19との間に折り畳み状態の多方位エアバッグ30を収納している。また、インフレータ32は、多方位エアバッグ30及びモジュールケース34のベース部34Bと共に、スタッドボルトによってシートバックフレームに締結されている。
ここで、多方位エアバッグ30は、外ロール折りされてモジュールケース34内に収納されている。外ロール折りとは、展開過程を逆向きに折り畳むように前端側から上方側かつ後方側に向けたロール状の折り態様とされている。換言すれば、外ロール折りは、図5(B)に想像線にて示されるように、多方位エアバッグ30の展開過程でロール折り部分30Rが外側(頭部H側とは反対側)に位置する折り態様とされる。上記の通り横展開部38が上展開部48及び後展開部52に縫合されている多方位エアバッグ30は、前展開部36及び上展開部48が外ロール折りされる段階で横展開部38がロール内に折り込まれている。
また、モジュールケース34内には、図示しない展開誘導布が多方位エアバッグ30と共に折り畳まれて収納されている。そして、展開誘導布は、多方位エアバッグ30の膨張展開(ロール折り解消)に伴ってモジュールケース34外に導出され、多方位エアバッグ30に先行して該多方位エアバッグ30と天井部66との間で展開されるようになっている。また、展開誘導布は、乗員保護装置10が適用された自動車の天井材よりも多方位エアバッグ30に対する摩擦係数が小さくされている。本実施形態では、展開誘導布の車室天井側の面はシリコンコートが施されており、展開誘導布の多方位エアバッグ30との接触面はシリコンコートが施されない低摩擦面とされている。
ここで、モジュールケース34とヘッドレスト本体19との間は図示しないエアバッグドアにて閉止されている。このエアバッグドアは、多方位エアバッグ30の展開圧によって脆弱部であるティアラインをきっかけに開裂されることで、該多方位エアバッグ30の前方への膨張展開を許容する構成とされている。
(アクチュエータ)
図4に示されるように、アクチュエータ64は、シートバック16内に設けられている。また、アクチュエータ64は、ヘッドレストステー18Sの下部18SLに連結されている。ここで、本実施形態では、アクチュエータ64の一例として、電動シリンダが用いられており、アクチュエータ64を構成する図示しないロッドにヘッドレストステー18Sの下部18SLが連結されている。このため、アクチュエータ64を作動させると、図示しないサーボモータ又はパルスモータ等によってロッドが伸長され、ヘッドレストステー18Sが機械的にシート上方へ移動される。
(ECUの構成)
図1に示されるように、乗員保護装置10を構成する多方位エアバッグ装置20、サイドエアバッグ装置22及びアクチュエータ64は、制御装置としてのECU60によって制御されるようになっている。具体的には、多方位エアバッグ装置20のインフレータ32、サイドエアバッグ装置22のインフレータ22A、アクチュエータ64は、それぞれECU60と電気的に接続されている。また、ECU60は、シートベルト装置24を構成する図示しないリトラクタと電気的に接続されている。さらに、ECU60は、プリクラッシュセンサ等の衝突予知センサ62及び衝突センサ63(又はセンサ群)と電気的に接続されている。
ECU60は、衝突予知センサ62からの信号に基づいて、適用された自動車に対する各種形態の前面衝突(の発生又は不可避であること)を後述する衝突形態毎に検知又は予測可能とされている。また、ECU60は、衝突予知センサ62からの信号に基づいて、適用された自動車に対する側面衝突(の発生又は不可避であること)を検知又は予測可能とされている。
ECU60は、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が予知された際に、アクチュエータ64を作動させてヘッドレストステー18Sをシート上方へ押し上げる。これにより、図5(A)に示されるように、ヘッドレスト18がシート上方へ移動される。
続いて、ECU60は、衝突予知センサ62からの信号に基づいて前面衝突が回避不能と判定された際又は衝突センサ63からの信号に基づいて前面衝突が検知された際に、図5(B)に示されるように、図示しないリトラクタのプリテンショナ機構を作動させると共にインフレータ32を作動させる。これにより、多方位エアバッグ30がシート前方へ膨張展開される。なお、ECU60がリトラクタ及びインフレータ32を作動させる前面衝突の形態は、フルラップ前面衝突、オフセット前面衝突等とされる。
また、ECU60は、衝突予知センサ62からの信号に基づいて前面衝突のうち車幅方向一方側に所定値以上オフセットした位置への前面衝突が回避不能と判定された際、又は衝突センサ63からの信号に基づいて前面衝突が検知された際に、図示しないリトラクタのプリテンショナ機構を作動させると共にインフレータ22A、インフレータ32を作動させる。これにより、多方位エアバッグ30がシート前方へ膨張展開されると共に、サイドエアバッグ22Bが着座者Dに対する車幅方向外側で膨張展開される(図2参照)このような車幅方向一方側に所定値以上オフセットした位置への前面衝突には、斜め衝突や微小ラップ衝突等が含まれる。
ここで、斜め衝突(MDB斜突、オブリーク衝突)とは、例えばNHTSAにて規定される斜め前方からの衝突(一例として、衝突相手方との相対角15°、車幅方向のラップ量35%程度の衝突)とされる。本実施形態では、一例として相対速度90km/hrでの斜め衝突が想定されている。また、微小ラップ衝突とは、自動車の前面衝突のうち、例えばIIHSにて規定される衝突相手方との車幅方向のラップ量が25%以下の衝突とされる。例えば車体骨格であるフロントサイドメンバに対する車幅方向外側への衝突が微小ラップ衝突に該当する。本実施形態では、一例として相対速度64km/hrでの微小ラップ衝突が想定されている。
(作用及び効果)
次に、本実施形態の実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、ECU60が多方位エアバッグ30を膨張展開させる前に、アクチュエータ64を作動させることで、多方位エアバッグ30を含むヘッドレスト18をシート上方へ移動させる。これにより、ヘッドレスト18を移動させずに多方位エアバッグ30を膨張展開させる構成と比較して、よりシート上方から多方位エアバッグ30を膨張展開させることができる。この結果、膨張展開過程の多方位エアバッグ30と着座者Dの頭部Hとの強干渉を抑制することができ、頭部Hを越えてスムーズに多方位エアバッグ30を展開させることができる。
また、本実施形態では、多方位エアバッグ30をヘッドレスト18からシート前方へ膨張展開させるため、多方位エアバッグ30を斜め上方へ展開させる構成と比較して、膨張展開過程の多方位エアバッグ30が天井部66と強干渉するのを抑制することができる。このようにして、多方位エアバッグ30と着座者Dの頭部H及び天井部66との強干渉を抑制することができる。
さらに、本実施形態では、シートバック16内に設けられたアクチュエータ64によって、ヘッドレストステー18Sをシート上方へ移動させることで、多方位エアバッグ30を含むヘッドレスト18全体をシート上方に移動させる構成とされている。これにより、ヘッドレスト18の内部にアクチュエータ等を設ける必要がない。すなわち、ヘッドレスト18の構造を変更することなく、既存のヘッドレスト18を用いることができる。
また、本実施形態では、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が予知された時点でECU60によってアクチュエータ64が作動される。これにより、車両の衝突が回避不能と判定された際、又は衝突センサ63からの信号に基づいて車両の衝突が検知されてからアクチュエータ64を作動させる構成と比較して、多方位エアバッグ30を早期に膨張展開させることができる。また、車両の衝突が回避された場合は、多方位エアバッグ30が展開されず、着座者Dの視界が遮られるのを抑制することができる。
さらに、本実施形態では、ヘッドレスト18に収納された多方位エアバッグ30を膨張展開させて、側面衝突、前面衝突及び斜め衝突(複数方向からの衝突)に対し着座者Dを効果的に保護することができる。そして、多方位エアバッグ30は、前展開部36、横展開部38が上展開部48、後展開部52とで頭部Hを覆う(取り囲む)ように展開される一体の袋体として構成されている。このため、多方位エアバッグ30は、各展開部が強固に繋がっていると共に、頭部H、胸部B、肩部Sを拘束する際の荷重(反力)が車両用シート12に支持される。したがって、多方位エアバッグ30は、複数のエアバッグ(膨張部)が乗員の拘束の際に接合される構成と比較して、大きな拘束力で乗員を拘束することができる。以下に、各種形態の衝突時における多方位エアバッグ30の作用について説明する。
(側面衝突の場合)
ECU60は、衝突予知センサ62からの信号に基づいて側面衝突を検知又は予測すると、インフレータ22A、32を作動させる。これにより、図1、図2に示されるように、サイドエアバッグ装置22のサイドエアバッグ22Bが着座者Dに対する車幅方向の外側で膨張展開されると共に、多方位エアバッグ装置20の多方位エアバッグ30が着座者Dの頭部Hを覆う(取り囲む)ように膨張展開される。
(ニアサイドの側面衝突)
側面衝突が車幅方向における車両用シート12の設置側で生じた場合、着座者Dは、サイドエアバッグ22Bによって上体のサイドドア側への移動が制限されると共に、車幅方向外側の横展開部38によって頭部Hのサイドウインドウガラス側への移動が制限される。すなわち、着座者Dは、サイドエアバッグ22B及び車幅方向外側の横展開部38によって、上体及び頭部Hが拘束され、側面衝突に対し保護される。
すなわち、頭部Hの衝突側への移動を制限することができる。しかも、横展開部38が横膨張部44を含んでいるため、頭部Hの拘束過程で横膨張部44の変形によるエネルギ吸収が果たされる。例えば頭部Hがサイドウインドウガラスまで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
さらに、サイドエアバッグ22B及び車幅方向外側の横展開部38による着座者Dの保護後の揺り戻しの際には、該着座者Dの頭部Hは、車幅方向中央側の横展開部38にて反衝突側への移動が制限される。これにより、例えば、着座者Dの頭部Hと隣席のシートバックや隣席乗員との干渉が抑制される。
(ファーサイドの側面衝突)
一方、側面衝突が車幅方向における車両用シート12の設置側とは反対側で生じた場合、着座者Dは、車幅方向中央側の横展開部38によって頭部Hの衝突側(車幅方向の中央側)への移動が制限される。すなわち着座者Dは、車幅方向中央側の横展開部38によって、頭部Hが拘束され、側面衝突に対し保護される。
すなわち、頭部Hの衝突側への移動を制限することができる。しかも、横展開部38が横膨張部44を含んでいるため、頭部Hの拘束過程で横膨張部44の変形によるエネルギ吸収が果たされる。例えば頭部Hが隣席のシートバックや隣席乗員と干渉し得る領域まで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
さらに、車幅方向中央側の横展開部38による着座者Dの頭部Hの保護後の揺り戻しの際には、該着座者Dは、車幅方向外側の横展開部38及びサイドエアバッグ22Bにて反衝突側への移動が制限される。これにより、例えば、着座者Dの頭部Hとサイドウインドウガラスとの干渉が抑制される。
(フルラップ又はオフセット前面衝突)
ECU60は、衝突予知センサ62からの信号に基づいてフルラップ前面衝突を予知すると、リトラクタを作動させる。これにより、シートベルト装置24のベルト28がリトラクタにより強制的に巻き取られる。その後、衝突予知センサ62からの信号に基づいてフルラップ前面衝突が回避不能と判定された際、又は衝突センサ63からの信号に基づいてフルラップ前面衝突が検知された際に、多方位エアバッグ装置20の多方位エアバッグ30が着座者Dの頭部Hを覆う(取り囲む)ように膨張展開される。
フルラップ前面衝突の場合、着座者Dは、慣性によってまっすぐ前方へ移動する。なお、シートベルト装置24のベルト28が装着されている着座者Dの前方への移動は、腰部Pを中心に着座者Dの上体が前傾する形態となる。着座者Dは、ショルダベルト28Sによって拘束され(前方への移動に対する抵抗を受け)つつ、頭部Hが多方位エアバッグ30の前展開部36に接触し、該前展開部36によって頭部Hの前方への移動が制限される。また、前膨張部42の第2膨張部42Bが着座者Dの胸部B、肩部Sに前方から接触し、該前膨張部42の第2膨張部42Bによって着座者Dの上体(頭部H)の前方への移動が制限される。
このように、着座者Dは、前展開部36によって、頭部H及び上体が拘束され、フルラップ前面衝突に対し保護される。すなわち、着座者Dの頭部H及び上体の前方への移動を制限することができる。しかも、前展開部36が前膨張部42を含んでいるため、頭部H、胸部B、肩部Sの拘束過程で前膨張部42の変形によるエネルギ吸収が果たされる。これにより、例えば、頭部Hが車両構成品(ステアリングホイールやインストルメントパネル)と干渉し得る領域まで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
以上、フルラップ前面衝突の場合を説明したが、例えば相手方車両との車幅方向のラップ量が50%程度であるオフセット前面衝突の場合の作用も、上記したフルラップ前面衝突の場合と概ね同様である。
(斜め衝突又は微小ラップ衝突)
ECU60は、衝突予知センサ62からの信号に基づいて斜め衝突を検知又は予測すると、インフレータ22A、32、及びリトラクタを作動させる。これにより、シートベルト装置24のベルト28がリトラクタにより強制的に巻き取られると共に、多方位エアバッグ装置20の多方位エアバッグ30が着座者Dの頭部Hを覆うように膨張展開される。また、サイドエアバッグ装置22のサイドエアバッグ22Bが着座者Dに対する車幅方向の外側で膨張展開される。以下、斜め衝突の場合についてさらに説明するが、微小ラップ衝突の場合における乗員保護装置10による着座者Dの保護態様についても、斜め衝突の場合の乗員保護装置10による着座者Dの保護態様と概ね同様である。
(ニアサイドの斜め衝突)
斜め衝突が車幅方向における車両用シート12の設置側への斜め衝突であった場合、着座者Dは、図3(A)に矢印Xにて示すように、前方に移動しつつ、車体に対し車幅方向の衝突側である車幅方向外側に移動する。この場合も、3点式のシートベルト装置が装着された着座者Dの前方への移動は、腰部Pを中心に前傾する形態となる。
この場合、着座者Dは、サイドエアバッグ22B並びに多方位エアバッグ30を構成する前展開部36及び車幅方向外側の横展開部38によって、斜め前方衝突側(フロントピラー側)への移動が制限される。すなわち、着座者Dは、サイドエアバッグ22B並びに多方位エアバッグ30を構成する前展開部36及び車幅方向外側の横展開部38によって、頭部H及び上体が拘束され、斜め衝突に対し保護される。
すなわち、頭部Hの斜め前方衝突側への移動を制限することができる。しかも、前展開部36と車幅方向外側の横展開部38は、シーム部47を挟んで配置された第1膨張部42A、横膨張部44を含んでいる。このため、頭部H等の拘束過程で第1膨張部42A及び横膨張部44の少なくとも一方の変形によるエネルギ吸収が果たされる。これにより、例えば、頭部Hがフロントピラーまで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
(ファーサイドの斜め衝突又は微小ラップ衝突)
斜め衝突が車幅方向における車両用シート12の設置側とは反対側への斜め衝突であった場合、着座者Dは、図3(A)に矢印Yにて示すように、前方に移動しつつ、車体に対し車幅方向の衝突側である車幅方向中央側に移動する。この場合も、3点式のシートベルト装置24が装着された着座者Dの前方への移動は、腰部Pを中心に前傾する形態となる。
この場合、着座者Dは、多方位エアバッグ30を構成する前展開部36及び車幅方向中央側の横展開部38によって、斜め前方衝突側(センタクラスタ側)への移動が制限される。すなわち、着座者Dは、前展開部36及び車幅方向中央側の横展開部38によって、頭部H及び上体が拘束され、斜め衝突に対し保護される。
すなわち、頭部Hの斜め前方衝突側への移動を制限することができる。しかも、前展開部36と車幅方向外側の横展開部38は、シーム部47を挟んで配置された第1膨張部42A、横膨張部44を含んでいる。このため、頭部H等の拘束過程で第1膨張部42A及び横膨張部44の少なくとも一方の変形によるエネルギ吸収が果たされる。これにより、例えば、頭部Hがインストルメントパネルやセンタクラスタ等の車内構成品まで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
(その他の作用効果)
乗員保護装置10では、多方位エアバッグ30がヘッドレスト18を構成するモジュールケース34内に収納されている。このため、乗員保護装置10は、例えば、乗員の頭部を上方から囲むように配置されたガス供給パイプが常時車室内に突出している構成と比較して、同等以上の乗員保護性を確保しつつ作動前における見栄えが良好である。また、乗員保護装置10(主に多方位エアバッグ装置20)は、車両用シート12の前後位置調整、高さ調整、リクライニング動作等を妨げることがない。
また、乗員保護装置10では、多方位エアバッグ30とサイドエアバッグ22Bとが互いの無拘束での膨張展開状態において側面視で重ならない。このため、多方位エアバッグ30及びサイドエアバッグ22Bが共に膨張展開される衝突形態において、互いの膨張展開に強干渉することがなく適正に膨張展開される。したがって、多方位エアバッグ30によって着座者Dの頭部Hを拘束し、サイドエアバッグ22Bによって着座者Dの肩部Sから腰部Pまでの範囲を側方から拘束することができる。
また、乗員保護装置10を構成する多方位エアバッグ装置20では、多方位エアバッグ30の横展開部38を構成する横膨張部44の下端44Lが着座者Dの肩部S上に接触することで、着座者Dに対する多方位エアバッグ30の上下方向の位置が決まる。これにより、例えば着座者Dの体格や適正範囲の着座姿勢の個人差によらず、多方位エアバッグ30を適切な上下方向の位置で膨張展開させることができる。これにより、多方位エアバッグ30による乗員の拘束(移動制限)性能が向上される。
またさらに、多方位エアバッグ30は、シーム部46にて区画された横膨張部44、該横膨張部44とシーム部47にて区画された前膨張部42を含んで、着座者Dの頭部Hを覆う一体の袋体として構成されている。そして、多方位エアバッグ30の膨張展開過程では、前膨張部42(第1膨張部42A)が先行して膨張展開された後、横膨張部44が膨張展開される。
このため、多方位エアバッグ30は、先ず前膨張部42が膨張展開して頭部Hに対し前方から近づいた後、左右の横膨張部44が膨張展開して頭部Hに対し左右両側方から近づく。換言すれば、多方位エアバッグ30は、膨張展開過程で各膨張部42、44の膨張展開により該前膨張部42及び横膨張部44が頭部に徐々に近づく(開いた状態から徐々に窄まる)こととなる。これにより、多方位エアバッグ30は、膨張展開過程での頭部Hとの強干渉が抑制される一方、膨張展開完了後は頭部Hに近づくので、該多方位エアバッグ30による乗員の拘束(移動制限)性能が向上される。
また、多方位エアバッグ30は、着座者Dの頭部Hに対する上方で膨張展開されるダクト部50Dを通じて前膨張部42にガスが供給され、該前膨張部42を通じて横膨張部44にガスが供給される。これにより、簡単な構成で、前膨張部42が横膨張部44に先行して膨張展開される構成を得ることができる。
またさらに、多方位エアバッグ30は、外ロール折りされた状態でモジュールケース34内に収納されている。このため、多方位エアバッグ30における膨張展開過程で折りを解かれる部分が上ダクト部50Dの上方に位置する。このため、折りを解かれる部分が下方すなわち着座者Dの頭部H側に位置する構成と比較して、多方位エアバッグ30は、上ダクト部50Dへのガス流通に伴って前方へ展開されつつ着座者Dの頭部Hを越える態様で展開されやすい。
さらに、多方位エアバッグ装置20では、モジュールケース34がヘッドレスト18に対し上方及びシート幅方向の両側に張り出している。このため、モジュールケース34における正面視でヘッドレスト18に対し張り出している部分(ヘッドレスト18との隙間部分)から多方位エアバッグ30を前方へ展開させることができる。これにより、ヘッドレスト18を背面側のみから回り込んで前方へ展開される多方位エアバッグを備えた構成と比較して、多方位エアバッグ30の膨張展開を短時間で完了させることができる。
また、モジュールケース34は、その主壁34Mが膨張展開過程の多方位エアバッグ30を後方から支持する。このため、多方位エアバッグ30は、膨張展開に伴って主壁34Mによって後方から反力が支持され、後方に向かうことなく前方に向けて膨張展開される。これにより、モジュールケース34に主壁が支持壁(の機能)を有しない構成と比較して、多方位エアバッグ30を適正な態様(位置、形状)で膨張展開させることができる。
また、乗員保護装置10を構成する多方位エアバッグ装置20では、多方位エアバッグ30の前展開部36における着座者Dの頭部Hの正面に可視構造としてのメッシュ部40が設けられている。このため、着座者Dは、多方位エアバッグ30の膨張展開状態(多方位エアバッグ30による保護の際、保護の後)に、メッシュ部40を通じて前展開部36に対する前側部分(車室や車外)を視認することができる。すなわち、着座者Dに対し前方視界を確保することができる。
(変形例)
なお、本実施形態では、ヘッドレストステー18Sをシート上方へ移動させる移動機構として、アクチュエータ64を採用したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示された変形例のように、移動機構としてラックアンドピニオン機構67を採用してもよい。
ラックアンドピニオン機構67は、ラック部18SRと、ピニオンギア68と、モータ70とを含んで構成されている。ラック部18SRは、ヘッドレストステー18Sの下部18SLに形成されている。また、ラック部18SRは、下部18SLの端部に形成されており、シート前方側に複数の溝を備えている。さらに、ラック部18SRと噛み合うようにピニオンギア68が設けられており、ピニオンギア68には、モータ70が接続されている。このため、モータ70を駆動させることで、ピニオンギア68が回転し、ヘッドレストステー18Sをシート上下方向に移動させる。
ここで、モータ70は、図1に示すECU60と電気的に接続されており、このECU60からの信号に基づいてヘッドレストステー18Sを機械的にシート上方に移動させる。これにより、アクチュエータ64を備えた第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る乗員保護装置71について、図7及び図8に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。また、乗員保護装置71を構成するサイドエアバッグ装置22、シートベルト装置24、ECU60については、第1実施形態と同様の構成であるため、図示及び説明を省略する。
図7に示されるように、本実施形態の乗員保護装置71を構成する多方位エアバッグ装置72は、エアバッグとしての多方位エアバッグ30と、インフレータ32と、モジュールケース78とを含んで構成されている。多方位エアバッグ30は、インフレータ32がガス供給可能に接続された状態で折り畳まれ、ヘッドレスト74を構成するモジュールケース78内に収納されている。
ヘッドレスト74は、ヘッドレスト本体76と、モジュールケース78とを含んで構成されている。ヘッドレスト本体76は、ヘッドレスト74の前部を構成しており、着座者Dの頭部Hのシート後方側に配置されている。
モジュールケース78は、ヘッドレスト本体76のシート後方側に配置されており、ヘッドレスト本体76とモジュールケース78との間には、ヘッドレストステー76Sが設けられている。モジュールケース78は、ベース部78Bと、前側主壁78MFと、後側主壁78MBと、左右一対の側壁78Sとを主要部として構成されている。
ベース部78Bは、モジュールケース78の底部を構成しており、シートバック16の上端に接している。前側主壁78MFは、ベース部78Bの前端から上方に延出されており、下端に対し上端が前方に位置するように前傾され、かつ側面視で後上向きに凸となる湾曲形状を成している。一方、後側主壁78MBは、ベース部78Bの後端から上方に延出されており、前側主壁78MFと同様に側面視で後上向きに凸となる湾曲形状を成している。
前側主壁78MFと後側主壁78MBとの間には、外ロール折りされた折り畳み状態の多方位エアバッグ30を収納する空間が形成されている。また、前側主壁78MFの上端及び後側主壁78MBの上端は、ヘッドレスト74の上方まで至っている。
一対の側壁78Sは、前側主壁78MFのシート幅方向両端と後側主壁78MBのシート幅方向両端とを繋いでいる。このため、モジュールケース78は、ベース部78Bと、前側主壁78MFと、後側主壁78MBと、左右一対の側壁78Sとでシート上方側が開口した略箱状に形成されている。
モジュールケース78の上端部の開口は、図示しない蓋部によって閉止されている。蓋部は、前側主壁78MF及び後側主壁78MBと一体に形成されており、この蓋部と前側主壁78MFとの境界部分又は蓋部と後側主壁の境界部分に脆弱部であるティアラインが設定されている。このため、多方位エアバッグ30の膨張展開時には、膨張圧によってティアラインが開裂してモジュールケース78の上端部が開放され、多方位エアバッグ30が膨張展開される構成となっている。
ヘッドレスト74におけるヘッドレスト本体76とモジュールケース78との間には、ヘッドレストステー76Sが設けられている。ヘッドレストステー76Sは、シート幅方向に間隔をあけて一対設けられており、シート上下方向に延在されている。また、ヘッドレストステー76Sの下部76SLがシートバック16内に固定されており、ヘッドレストステー76Sの上部76SUが下部76SLに対して前方に位置するように前傾され、前側主壁78MFに沿って側面視で後上向きに凸となる湾曲形状を成している。
ここで、一対のヘッドレストステー76Sは、モジュールケース78の前側主壁78MFに接するガイドレールとされており、このヘッドレストステー76Sに沿ってモジュールケース78をシート上方かつシート前方へ移動できるように構成されている。また、モジュールケース78を移動させるための図示しない移動機構が設けられている。この移動機構としては、本実施形態では、一対のヘッドレストステー76Sの間に、ヘッドレストステー76Sに沿って移動する図示しない移動体を配置し、この移動体にモジュールケース78の前側主壁78MFを固定することでモジュールケース78を移動させる。また、移動体には、第1実施形態と同様のECU60が電気的に接続されている。このため、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が予知された際に、移動体を移動させることで、図8に示されるようにモジュールケース78をヘッドレスト本体76に対してシート上方かつシート前方へ移動させる。
(作用及び効果)
次に、本実施形態の実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が予知された際に、ヘッドレスト本体76に対してモジュールケース78をシート上方かつシート前方へ移動させる。そして、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が回避不能と判定された際、又は衝突センサ63からの信号に基づいて車両の衝突が検知された際に、モジュールケース78からシート前方へ多方位エアバッグ30が膨張展開される。これにより、膨張展開過程の多方位エアバッグ30が着座者Dの頭部Hと強干渉するのを抑制し、頭部Hを越えて多方位エアバッグ30を展開させることができる。
また、多方位エアバッグ30をモジュールケース78からシート前方へ膨張展開させるため、モジュールケース78を移動せずに多方位エアバッグ30を膨張展開させる構成と比較して、多方位エアバッグ30をシート上方側へ膨張展開させずに済むので、膨張展開過程の多方位エアバッグ30が天井部66と強干渉するのを抑制することができる。このようにして、多方位エアバッグ30が着座者D及び天井部66と強干渉するのを抑制することができる。
さらに、本実施形態では、ヘッドレスト74を構成するモジュールケース78だけをシート上方かつシート前方に移動させるため、ヘッドレスト本体76は移動しない。これにより、例えば、車両の衝突によって着座者Dの頭部Hがヘッドレスト74側へ移動した際に、ヘッドレスト本体76で頭部Hを支持することができる。また、モジュールケース78をシート前方にも移動させるため、シート上方のみしか移動しない構成と比較して、よりシート前方から多方位エアバッグ30を膨張展開させることができ、着座者Dの頭部Hとの干渉を抑制することができる。その他の作用については、第1実施形態と同様である。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置80について、図9に基づいて説明する。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。また、乗員保護装置80を構成するサイドエアバッグ装置22、シートベルト装置24、ECU60については、第1実施形態と同様の構成であるため、図示及び説明を省略する。
図9に示されるように、本実施形態の多方位エアバッグ装置81を構成するモジュールケース78内には、エアバッグ保持具82が収納されており、このエアバッグ保持具82によって多方位エアバッグ30が保持されている。具体的には、エアバッグ保持具82は、底壁部82Bと、主壁部82Mと、上壁部82Uとを含んで構成されており、多方位エアバッグ30の膨張展開時の反力を支持可能な強度を備えた材質で形成されている。
底壁部82Bは、シート上下方向を厚み方向としてシート幅方向に延在されており、エアバッグ保持具82の底部を構成している。主壁部82Mは、底壁部82Bの後端から上方に延出されており、モジュールケース78の後側主壁78MBに沿った湾曲形状を成している。上壁部82Uは、主壁部82Mの上端からシート前方側に延出されており、多方位エアバッグ30が膨張展開する際のガイドとなる。
以上のように構成されたエアバッグ保持具82には、多方位エアバッグ30が保持されている。多方位エアバッグ30は、エアバッグ保持具82の主壁部82Mと、モジュールケース78の前側主壁78MFとの間の空間に配置されて外ロール折りされている。また、多方位エアバッグ30のガス導入部は、エアバッグ保持具82の底壁部82Bとモジュールケース78の前側主壁78MFとの間からシート下方へ延びており、図示しないディフューザを介してインフレータ32からのガスが供給可能に接続されている。
ここで、本実施形態では、エアバッグ保持具82がモジュールケース78に対してシート上方かつシート前方へ移動可能に構成されている。具体的には、インフレータ32の着火時の推進力によってエアバッグ保持具82が移動されるように構成されている。また、モジュールケース78には、エアバッグ保持具82を所定の位置よりもシート上方に移動させないための移動制限機構と、エアバッグ保持具82の戻り(落下)を防止する戻り防止機構が設けられている。移動制限機構としては、例えば、モジュールケース78の前側主壁78MFの内面に突起を形成し、エアバッグ保持具82の底壁部82Bを係止する機構を採用することができる。また、戻り防止機構としては、例えば、モジュールケース78の後側主壁78MBや側壁78Sの内面に戻り防止ツメを形成してエアバッグ保持具82の戻りを防止する機構を採用することができる。この場合、エアバッグ保持具82の底壁部82Bが戻り防止ツメを乗り越えてシート上方に移動した後、この戻り防止ツメで底壁部82Bを支持することにより、エアバッグ保持具82の戻りを防止する。
また、モジュールケース78の前側主壁78MFは、ヘッドレストステー76Sに固定されており、モジュールケース78をヘッドレスト本体76に対して移動させる移動機構は備えていない。
(作用及び効果)
次に、本実施形態の実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が予知された際又は車両の衝突が回避不能と判定された際に、ECU60によってインフレータ32が作動され、このインフレータ32の着火時の推進力によってモジュールケース78からエアバッグ保持具82がシート上方かつシート前方へ移動される。そして、エアバッグ保持具82からシート前方へ多方位エアバッグ30が膨張展開される。これにより、専用の移動機構を設けることなく、エアバッグ保持具82をシート上方に移動させることができる。その他の作用については、第1実施形態及び第2実施形態と同様である。
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る乗員保護装置90について、図10及び図11に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。また、乗員保護装置90を構成するサイドエアバッグ装置22、シートベルト装置24、ECU60については、第1実施形態と同様の構成であるため、図示及び説明を省略する。
図10に示されるように、本実施形態の多方位エアバッグ装置91は、多方位エアバッグ30と、インフレータ98と、モジュールケース96とを含んで構成されている。また、モジュールケース96は、ヘッドレスト本体94のシート後方側に配置されており、このヘッドレスト本体94とモジュールケース96とを含んでヘッドレスト92が構成されている。
多方位エアバッグ30は、インフレータ98がガス供給可能に接続された状態で折り畳まれ、モジュールケース96内に収納されている。また、多方位エアバッグ30のガス導入部は、ディフューザ97を介してシートバック16内に配置されたインフレータ98からのガスが供給可能に接続されている。具体的には、インフレータ98は、シートバック16の上部に縦置きに配置されており、インフレータ98の上端部に図示しないガス噴出口が設けられている。そして、この上端部がディフューザ97に挿入されており、多方位エアバッグ30にガスが供給可能となっている。
モジュールケース96は、ベース部96Bと、主壁96Mと、左右一対の側壁96Sとを主要部として構成されている。ベース部96Bは、モジュールケース96の底部を構成しており、シートバック16の上端に接している。主壁96Mは、ベース部96Bの前端から上方に延出されており、下端に対し上端が前方に位置するように前傾され、かつ側面視で後上向きに凸となる湾曲形状を成している。一対の側壁96Sは、主壁96Mのシート幅方向両端から前方に延出されており、側面視でヘッドレスト本体94の後部を覆っている。
ここで、モジュールケース96の主壁96Mとヘッドレスト本体94との間には、空間が形成されており、この空間に多方位エアバッグ30が外ロール折りされて収納されている。また、ヘッドレスト本体94の後端部には、ヘッドレストステー92Sが設けられている。ヘッドレストステー92Sは、ヘッドレスト本体94とシートバック16とをシート上下方向に連結しており、シートバック16に固定された下部92SLに対し上部92SUが前方に位置している。また、該下部92SLと上部92SUとが傾斜した中間部92SCにて連結されてヘッドレストステー92Sが構成されている。そして、このヘッドレストステー92Sを境にしてヘッドレスト本体94とモジュールケース96とが分割されている。
ここで、ヘッドレスト本体94とモジュールケース96とは接合(接着)されている。そして、インフレータ98が着火されると、この着火時の推進力によってモジュールケース96とヘッドレスト本体94との接合状態(接着状態)が解除される。そして、図11に示されるように、モジュールケース96がヘッドレスト本体94に対してシート上方かつシート前方へ移動する。さらに、モジュールケース96の移動後に多方位エアバッグ30がモジュールケース96からシート前方へ膨張展開される。
(作用及び効果)
次に、本実施形態の実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が予知された際又は車両の衝突が回避不能と判定された際に、ECU60によってインフレータ98が作動され、このインフレータ98の着火時の推進力によってモジュールケース96がシート上方かつシート前方へ移動される。そして、移動後にモジュールケース96からシート前方へ多方位エアバッグ30が膨張展開される。これにより、専用の移動機構を設けることなく、モジュールケース96をシート上方かつシート前方に移動させることができる。その他の作用については、第1実施形態と同様である。
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態に係る乗員保護装置100について、図12に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
本実施形態の乗員保護装置100は、着座者Dを各種形態の衝突から保護するための多方位エアバッグ装置20と、サイドエアバッグ装置22と、シートベルト装置24と、移動機構としてのアクチュエータ64と、ECU60と、リフタ機構102とを含んで構成されている。
シートクッション14の下部には、車両用シート12を昇降させるリフタ機構102が設けられている。リフタ機構102は、前側リンク104と、後側リンク106と、モータ108とを含んで構成されている。前側リンク104は、シート幅方向に間隔をあけて一対設けられており、シートクッション14の前部とアッパレール110の前部とを連結している。より具体的には、前側リンク104の一端部104Aは、シートクッション14を構成する図示しないシートクッションフレームの前部に回転可能に連結されている。また、前側リンク104の他端部104Bは、アッパレール110の前部にブラケット等を介して回転可能に連結されている。
ここで、アッパレール110は、車両フロアに固定された図示しないロアレールの上方にスライド可能に取り付けられており、ロアレールと共にスライド機構を構成している。そして、ロアレールに対してアッパレール110をシート前後方向にスライドさせることで、車両用シート12の車両前後方向の位置を調整できるように構成されている。なお、スライド機構は通常ロックされており、乗員の操作によってロックが解除されることで、アッパレール110がロアレールに対してスライド可能となる。
前側リンク104よりもシート後方には後側リンク106が設けられている。後側リンク106は、シート幅方向に間隔をあけて一対設けられており、シートクッション14の後部とアッパレール110の後部とを連結している。より具体的には、後側リンク106の一端部106Aは、シートクッションフレームの後部に回転可能に連結されている。また、後側リンク106の他端部106Bは、アッパレール110の後部にブラケット等を介して回転可能に連結されている。このようにして、一対の前側リンク104と一対の後側リンク106とで4節リンクが構成されている。
ここで、後側リンク106の他端部106B側には、図示しないギアが設けられており、このギアの回転軸は、モータ108と連結されている。このため、モータ108を駆動させることで、後側リンク106に回転力が伝達される。そして、4節リンクを構成する前側リンク104と後側リンク106とが回転して、車両フロアに対するシートクッション14(車両用シート12)の高さを調節できるようになっている。また、モータ108は、ECU60と電気的に接続されている。そして、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が予知された際又は車両の衝突が回避不能と判定された際に、ECU60によってモータ108が駆動され、車両用シート12が下降される。その後、ECU60によってアクチュエータ64が作動され、ヘッドレストステー18Sが機械的にシート上方へ押し上げられる。これにより、ヘッドレスト18がシート上方へ移動される。
(作用及び効果)
次に、本実施形態の実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、リフタ機構102によって車両用シート12を下降させることにより、ヘッドレスト18と車両の天井部との間の隙間を広げることができる。この結果、ヘッドレスト18をよりシート上方まで移動させることができる。その他の作用は、第1実施形態と同様である。
(その他の実施例)
以上、本発明の第1実施形態〜第5実施形態について説明したが、本発明は、上記の構成に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記の構成以外にも種々なる態様で実施し得ることは勿論である。例えば、第1実施形態、第2実施形態及び第5実施形態では、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が予知された際に、ヘッドレスト18又はモジュールケース78をシート上方へ移動させたが、本発明はこれに限定されない。例えば、衝突予知センサ62からの信号に基づいて車両の衝突が予知された際には、ヘッドレスト18又はモジュールケース78を移動せず、車両の衝突が回避不能と判定された際に、ヘッドレスト18又はモジュールケース78を移動させる構成としてもよい。
また、第3実施形態では、インフレータ98の着火時の推進力を利用してエアバッグ保持具82をシート上方かつシート前方へ移動させたが、本発明はこれに限定されない。例えば、エアバッグ保持具82を移動させるための移動機構を設けてもよい。この場合、モジュールケース78全体を移動させる構成と比較して、移動対象がコンパクトになるので、大掛かりな移動機構を必要としない。
また、第5実施形態では、リフタ機構102の後側リンク106にモータ108を接続したが、本発明はこれに限定されない。例えば、前側リンク104にモータ108を接続してもよく、前側リンク104及び後側リンク106の両方にモータ108を接続してもよい。さらに、4節リンクによって車両用シート12を昇降させる構成に限定されず、シートクッション14の前側と後側にそれぞれアクチュエータを設けて、前側と後側とが独立して昇降する構造としてもよい。
また、上記本実施形態では、乗員保護装置がサイドエアバッグ装置22を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、乗員保護装置がサイドエアバッグ装置22を備えない構成としてもよい。また、乗員保護装置がサイドエアバッグ装置22を備える構成において、サイドエアバッグ装置22が車両用シート12に設けられる構成には限定されない。例えば、サイドドア等に設けられたサイドエアバッグ装置を備えて乗員保護装置が構成されてもよい。さらに、本実施形態では、乗員保護装置が車幅方向外側のサイドエアバッグ装置22を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、乗員保護装置は、車幅方向外側のサイドエアバッグ装置22に代えて又は加えて、車幅方向中央側に配置されるサイドエアバッグ装置を備える構成としてもよい。
また、上記実施形態では、乗員保護装置がシートベルト装置24を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、乗員保護装置がシートベルト装置24を備えない構成としてもよい。また、乗員保護装置がシートベルト装置24を備える構成において、シートベルト装置24が車両用シート12に設けられる構成には限定されない。例えば、リトラクタやアンカ、バックル等が車体側に設けられた構成としてもよい。さらに、乗員保護装置がシートベルト装置24を備える構成において、3点式のシートベルト装置に限定されず、4点式や2点式のシートベルト装置であってもよい。
さらに、上記実施形態では、車両用シート12がシート幅方向の車幅方向に一致させた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、車両用シート12は車体に対し斜めに配置されてもよく、車体に対する向きが変更(上下軸回りに回転)可能である構成としてもよい。このような構成において、着座者Dの頭部Hを取り囲んで膨張展開される多方位エアバッグ30を備えた構成は、該頭部Hの良好な保護に寄与し得る。また、膨張展開前の多方位エアバッグ30は、ヘッドレストに収納されているため、車室内面や車両構成品と干渉し難く、車両用シート12の車体に対する向きの変更動作を阻害することが抑制又は防止される。
また、上記実施形態では、多方位エアバッグ30がヘッドレストに収納された例を示したが、本発明はこれに限定されず、ヘッドレストとシートバックとが一体とされた車両用シートの内部に多方位エアバッグ30が収納された構成としてもよい。この場合、車両用シートにおいて乗員の頭部を支持する部位が本発明の「ヘッドレスト」に相当する。
さらに、上記実施形態では、多方位エアバッグ30が上展開部48、後展開部52を含んで構成された例を示したが、本発明はこれに限定されない。多方位エアバッグは、少なくとも前展開部及び左右の横展開部を含んで構成されれば足りる。このため、例えば、インフレータからのガスが一方又は双方の横展開部の横膨張部を経由して前展開部の前膨張部に供給される構成としてもよい。したがって、多方位エアバッグ30は、上展開部を含む構成において、該上展開部が上膨張部50(上ダクト部50D)を有する構成に限られることもない。また、多方位エアバッグがダクト部を有する構成において、該ダクトが左右一対である構成に限定されることはなく、例えばシート幅法の中央のみにダクト部が形成されてもよく、上展開部の幅一杯にダクト部が形成されてもよい。
またさらに、上記実施形態では、多方位エアバッグ30を構成する前展開部36、横展開部38がそれぞれ前膨張部42、横膨張部44を含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、前膨張部、左右の横膨張部の何れかに膨張部が設けられない構成としてもよい。従って、多方位エアバッグは、前膨張部が横膨張部に先行して膨張展開される構成に限定されることもない。また、前膨張部42の第2膨張部42Bは、着座者Dの肩部S及び胸部Bの双方を拘束する構成には限られず、肩部S及び胸部Bの何れか一方を拘束する構成であってもよい。
また、上記実施形態では、多方位エアバッグ30が非膨張部としてのシーム部46、47を含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、前展開部、左右の横展開部が非膨張部を含まない一体の袋体として構成されてもよい。多方位エアバッグは、例えば、前展開部(前膨張部)と横展開部(横膨張部)との間に明確な境界がない構成であってもよい。この観点からも、多方位エアバッグは、前膨張部が横膨張部に先行して膨張展開される構成に限定されることはないといえる。
さらに、上記実施形態では、多方位エアバッグ30を構成する前展開部がメッシュ部40を含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、メッシュ部40に代えて可視構造としての透明シートを設けた構成としてもよく、可視構造を含まない構成としてもよい。
また、上記実施形態では、多方位エアバッグ30が外ロール折りされた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、多方位エアバッグ30が蛇腹折り等の他の折り畳み態様でヘッドレストやシートバック16等に収納されてもよい。