本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
(第一の実施の形態)
図1に、本発明における透過模様印刷物(1)を示す。透過模様印刷物(1)は、基材(2)の上に、基材(2)と異なる色を有する印刷模様(3)が形成されて成る。印刷模様(3)は、基材(2)の片側表面にある模様のみを指すのではなく、後述する印刷模様領域(6)に印刷されている、基材(2)をはさんで一方の面にある第一の模様(4)と、基材(2)をはさんで他方の面の同じ位置にある第二の模様(5)の両方の模様を含んだ模様を指す。
本発明における透過模様印刷物(1)を構成する基材(2)は、上質紙やコート紙、透明フィルムやプラスティックのように、光を透過する特性、いわゆる光透過性を有する必要がある。不透明なプラスティックや金属の材質では、透過光下での効果は得られない。基材(2)や印刷画像(3)の色彩については、特に制約はない。
図2に、印刷模様(3)の構成の概要を示す。印刷模様(3)は、図3に示す印刷模様領域(6)に形成されている。印刷模様領域(6)とは、基材(2)の表裏同じ位置において、一方の表に第一の模様(4)が、他方の面に第二の模様(5)が形成された領域を指し、印刷模様(3)とは、その印刷模様領域(6)に形成された表裏の二つの模様によって合成された模様を指す。
したがって、印刷模様(3)は、基材(2)の一方の面に施された、図2(a)に示す第一の模様(4)と、基材(2)の他方の面に施された、図2(b)に示す第二の模様(5)とから成る。第一の模様(4)は、基材(2)と異なる第一の色彩を有した第一のインキで印刷されて成る模様を少なくとも一部に含む。
なお、第一の模様(4)は、基材(2)と異なり、かつ、第一の色彩とは異なる色彩を有したインキで印刷されて成る模様を一部に含んでも良い。本第一の実施の形態では、第一の模様(4)全体が第一のインキによって形成されて成り、第二の模様(5)全体が第二のインキによって形成されて成るものとして説明する。
本発明において、第一のインキと第二のインキの少なくともいずれか一方のインキは有色浸透インキである必要がある。第一の実施の形態においては、第一のインキが有色浸透インキである。有色浸透インキとは、浸透成分を含んだ透過性に優れた有色インキであり、このインキで形成した画像は、透かした場合に極めて淡い色彩に変化するか、又は、完全に消失する効果を有する。このインキの具体的な説明は、後述する。
図3(a)に示すように、基材(2)の一方の面に第一の模様(4)を、基材(2)をはさんで他方の面に第二の模様(5)を、表裏で少なくとも一部が重畳するように印刷する。ここで第一の模様(4)と第二の模様(5)のいずれかでも形成された領域すべてが、印刷模様領域(6)となる。この印刷模様領域(6)には、必ず第一の模様(4)と第二の模様(5)のうちの第一のインキで形成された領域と第二のインキで形成された領域とが重畳した重畳領域(7)が含まれなければならない。
本発明でいう、重畳領域(7)とは、基材(2)の少なくとも一方の面の領域に有色浸透インキによって形成された模様を有し、他方の面にも有色浸透インキの色彩とは異なる色彩のインキによって模様が形成された領域を指す。例えば、図3(b)に示すように、第一の模様(4)が有色浸透インキにより形成され、第二の模様(5)が通常の有色インキにより形成され、二つの模様が基材(2)をはさんで重畳されて形成されている場合、有色浸透インキにより形成された第一の模様(4)と第二の模様(5)が重なった領域、所謂第一の模様(4)と同じ領域のみ(第一の模様(4)内に第二の模様(5)が配置されている)が重畳領域(7)となる。その場合の印刷模様領域(6)は、第二の模様(5)と同じである。また、図3(c)に示すように、第一の模様(4)が通常の有色インキにより形成され、第二の模様(5)のうちの一部(図面上のkの領域)のみが有色浸透インキにより形成され、基材(2)をはさんで重畳されて形成されている場合、第二の模様(5)のうちの有色浸透インキにより形成されている領域(k)のみ(第一の模様(4)内に第二の模様(5)が配置されている)が重畳領域(7)となる。
なお、第一の実施の形態においては、第一の模様(4)すべてが有色浸透インキである第一のインキで形成され、第二の模様(5)すべてが第二のインキで形成され、両方の模様の形状及び大きさが等しいことから、印刷模様領域(6)すべてが重畳領域(7)である。
以上の構成で形成した本発明の透過模様印刷物(1)の効果について図4を用いて説明する。図4(a)に示すように、反射光下において、第一の模様(4)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1)を観察した場合、第一の模様(4)のみが第一の色彩で視認できる。
また、図4(b)に示すように、反射光下において、第二の模様(5)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1)を観察した場合、第二の模様(5)のみが第二の色彩で視認できる。
また、図4(c)に示すように、透過光下において、第一の模様(4)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1)を観察した場合でも、あるいは第二の模様(5)が印刷された面側のいずれか一方の面側から本発明の透過模様印刷物(1)を観察した場合(図示せず)でも、第一の模様(4)と第二の模様(5)が合成した印刷模様(3)が視認され、その印刷模様(3)の色彩は、それぞれの領域の第一の色彩と第二の色彩を減法混色した合成色として視認されるが、その中でも重畳領域(7)は、単なる合成色より明るく鮮やかな色彩として視認できる。第一の実施の形態においては、印刷模様(3)全体が明るい色彩で視認できる。
ここで、透過光下で重畳領域(7)の色彩として視認される第一の色彩と第二の色彩の合成色であって、特に明るい色彩について説明する。一般に表裏合成模様の色彩は、表裏の模様のそれぞれの色彩の合成色となるが、その合成色は必ず暗く沈んだ色彩となる。これは、透過光下で表裏の二つの色彩が減法混色によって合成されるためであり、発色の原理上、二つの色彩を重ね合わせた場合に合成色が暗い色彩となる事象は免れない。
ところが、本発明の重畳領域(7)の色彩とは、第一の色彩と第二の色彩を単純に減法混色した合成色ではなく、第一の色彩と第二の色彩の合成色よりも明るく鮮やかな色彩となる。例えば、第一の色彩が灰色であって、第二の色彩が赤色である場合、通常の表裏合成模様の色彩は暗く沈んだ赤色となる。しかし、本発明の場合、第一の色彩(第一のインキが有色浸透インキとする)が灰色であって、第二の色彩が赤色であれば、重畳領域(7)の色彩は桃色となる。また、例えば第一の色彩が青色であって、第二の色彩が黄色であれば、通常の表裏合成模様であれば合成色は暗い暗緑色となるが、本発明の場合、第一の色彩(第一のインキが有色浸透インキとする)が青色であって、第二の色彩が黄色であれば、重畳領域(7)の色彩は、明るく黄味の強い黄緑色となる。したがって、本発明の重畳領域(7)の色彩とは、本来二つの色彩を重ね合わせた場合に合成色として出現する色彩よりも、明るく鮮やかな色彩となる。
この現象が生じる原因は、第一のインキ又は第二のインキの少なくともいずれか一方に用いる有色浸透インキの透過光下での色彩変化による。本発明の有色浸透インキとは、印刷した画像が透過光下で透けて見える(非印刷部よりも明るく観察される)効果を有する浸透成分を含む浸透型インキに、色材を混合することで形成したインキである。
この有色浸透インキは、基材に印刷した場合に、反射光下では、はっきりと視認できる色彩を有した画像を形成できる一方、透過光下では、その画像を極端に淡く変化させる効果を有する。言い換えると、通常の着色インキと比較して、「透かすと画像がより淡く見える」効果を有したインキである。有色浸透インキは、浸透成分と色材とを含んで構成され、浸透成分が基材内部の光の散乱を抑制することで生じさせる透過率の上昇によって、画像が淡く見える効果を実現している。
浸透成分が透かしインキとして一般に販売されているインキに相当する程度の性能を備えていれば、一定量の色材を混合して「透かすと画像が淡く見える」効果を有する有色浸透インキとすることは可能である。有色浸透インキに混合する色材は、着色顔料や着色染料として販売されている印刷色材を用いれば良い。印刷物として市場に流通させることを目的とすると、長期にわたる堅牢性が得られやすい着色顔料を用いることが望ましい。
なお、本発明における浸透成分とは、印刷時に用紙内部へと浸透して印刷領域の透過率を上昇させる働きを成す成分のことを指し、具体的には、セルロースの屈折率(1.49)に近い樹脂やワックス、動植物油等を指す。これらの成分は、印刷した場合に用紙の中に存在するセルロース繊維間の空隙を埋め、主として用紙内部における光の散乱を抑制することで光の透過率を上げる働きを成す。
また、本発明における「浸透型インキ」とは、前述した浸透成分を含み、一般に透かしインキとして販売されているインキを指す。このようなインキとしては、T&K TOKA社製ベストワン透かしインキ、帝国インキ社製ユニマーク、東洋インキ社製SMXすかしインキ、合同インキ社製E2ニス等が存在する。本発明の有色浸透インキは、これらのインキを用いても作製可能である。従来、このような浸透型インキは、印刷によって透かしに類する潜像画像を形成する目的のために用いられるものであったが、本発明においては印刷した画像の色を透過光下で変化させる目的で用いる。
このように、第一のインキと第二のインキの少なくともいずれかに、前述のような特性を備えた有色浸透インキを用いているため、第一の色彩か、第二の色彩のいずれか一方か、または第一の色彩と第二の色彩の両方の色彩が透過光下で極めて淡く変化する効果が生じる。このため、透過光下で合成模様として出現する重畳領域(7)の色彩は、本来二つの色彩を重ね合わせた場合に合成色として出現する色彩よりも、はるかに高い明るく鮮やかな色彩となる。
また、第一の模様(4)と第二の模様(5)が表裏で重なりあった重畳領域(7)は、従来技術のような表裏合成模様の構成であれば、観察者側の一方の面にある模様によって反対側の他方の模様が遮られるため、重畳領域(7)における刷り合わせの位置関係は判別できない。しかし、本発明の重畳領域(7)のように、第一の模様(4)と第二の模様(5)の少なくともいずれか一方の模様の透過性が高ければ、重畳領域(7)における第一の模様(4)と第二の模様(5)の位置関係を容易に把握できる。
例えば、第一のインキが有色浸透インキであって、一方の面の第一の模様(4)側から重畳領域(7)を観察する場合、第一の模様(4)は光透過性が高いため、表裏合成された印刷模様(3)において第一の模様(4)が存在する領域の反対面に存在する第二の模様(5)の色彩が明るい色彩として視認され、それ以外の領域は暗い色彩として視認される。また、例えば、第一のインキが有色浸透インキであって、第二の模様(5)側から重畳領域(7)を観察する場合でも、同じように第一の模様(4)が存在する領域の反対面に存在する第二の模様(5)の色彩が明るい色彩で視認され、それ以外の領域は、暗い色彩として視認される。
すなわち、有色浸透インキを用いた模様の光透過性が上がることで、もう一方の模様の色彩の変化を捉えることができ、この色彩の違いによって重畳領域(7)においても第一の模様(4)と第二の模様(5)の表裏の刷り合わせの位置関係を容易に把握することができる。また、仮に第一のインキ及び第二のインキの両方が有色浸透インキであったとしても、二つの模様の重畳領域(7)の明度は、一つのインキのみが有色浸透インキであった場合よりも、より高くなるため表裏の刷り合わせの位置関係を容易に把握することができる。
以上のように、従来の表裏合成模様において、重畳領域(7)を設けると色彩の明るさが大きく低下し、かつ、表裏の刷り合わせが判別できずに真偽判定のための機能が損なわれるという問題に対して、本発明においては有色浸透インキを用いることでこの問題を解決した。これまでの表裏合成模様において欠点であった重畳領域(7)を、逆に豊かな色彩表現や真偽判別のための利点として活用することで、これまでの表裏合成模様では用いられなかったデザインや色彩表現が可能と成った。
本明細書において、本発明の重畳領域(7)の特徴を、合成色の色彩が明るく(明度が高く)保てることを一つの特徴としたが、もう一つの特徴として色のくすみが少ない(彩度の高い)ことがある。一般に二つの異なる色彩の減法混色においては、その合成色の彩度は低下する。本発明における重畳領域(7)では、その他の領域の合成色と比較して色の混ざり合いによるくすみが少ない、一般に彩度が高いといわれる状態となるが、透過光の強さによっては明度が上昇しすぎて彩度が低い(色が薄い)状態と成りえる。このため、重畳領域(7)の色彩変化を彩度の高さではなく、明度の高さで表現している。しかしながら、重畳領域(7)は、減法混色による彩度の低下割合を低く抑える特徴を有しており、重畳領域(7)の彩度が高く保てることも本発明の技術的範囲である。
本明細書中でいう「明るい」とは、明度が高い状態を指し、「暗い」とは明度が低い状態を指す。彩度とは、色の鮮やかさの度合いを指す。白、灰、黒といった色彩は無彩色であって彩度が無いか、極めて低い。なお、異なる色彩の色同士を混ぜ合わすと、減法混色によって彩度は必ず低下し、異なる色を混ぜ合わせ続けると、最終的には彩度がゼロの黒色となる。また、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。また、本発明における「色相が同じ」とは、二つの色において赤、青、黄といった色の様相が一致し、可視光領域の波長の強弱の分布が二つの色において相関を有することである。また、本発明においては、白、灰、黒等についても一つの色相であると見なすものとする。
本発明において、有色浸透インキによる模様は、反射光下においては極めて彩度が低く、通常の有色インキによる模様の色彩により透過光下において、色彩豊かな模様となることが好ましいため、有色浸透インキは無彩色であることが好ましい。
本発明における「反射光下での観察」とは、観察者の視点が、正反射光がほとんど存在しない領域中にあって透過模様印刷物(1)を可視光下で観察している状況を示しており、本発明における「透過光下での観察」とは、観察者の視点が、透過光下の領域中にあって透過模様印刷物(1)を観察している状況を示している。
続いて、第二の実施の形態として、第一の模様と第二の模様とが異なる形状の模様である場合の本発明の透過模様印刷物について説明する。
(第二の実施の形態)
図5に本発明の透過模様印刷物(1’)を示す。透過模様印刷物(1’)は、基材(2’)の上に、基材(2’)と異なる色を有する印刷模様(3’)が形成されて成る。なお、第二の実施の形態において、第一の実施の形態と同じところは省略する。
図6に、印刷模様(3’)の構成の概要を示す。印刷模様(3’)は、基材(2’)の一方の面に施された図6(a)に示す第一の模様(4’)と、基材(2’)の他方の面に施された図6(b)に示す第二の模様(5’)とから成る。第二の実施の形態では、第一の模様(4’)と第二の模様(5’)はその形状が異なり、第一の模様(4’)全体が第一のインキで第一の色彩によって形成されて成り、第二の模様(5’)全体が第二のインキによって第二の色彩で形成されて成る。
図7に示すように、基材(2’)の一方の面に第一の模様(4’)を、基材(2’)をはさんで他方の面に第二の模様(5’)を、表裏で重畳するように印刷する。第二の実施の形態においては、印刷模様領域(6’)と重畳領域(7’)が異なる。印刷模様領域(6’)は五枚の桜の花びらであり、重畳領域(7’)は、第一の模様(4’)と同じ三つの桜の花びらである。
以上の構成で形成した本発明の透過模様印刷物(1’)の効果について図8を用いて説明する。図8(a)に示すように、反射光下において、第一の模様(4’)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1’)を観察した場合、第一の模様(4’)のみが第一の色彩で視認できる。
また、図8(b)に示すように、反射光下において、第二の模様(5’)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1’)を観察した場合、第二の模様(5’)のみが第二の色彩で視認できる。
また、図8(c)に示すように、透過光下において、第一の模様(4’)が印刷された面側、あるいは第二の模様(5’)が印刷された面側のいずれか一方の面側から本発明の透過模様印刷物(1’)を観察した場合でも、第一の模様(4’)と第二の模様(5’)が合成した印刷模様(3’)が視認され、その印刷模様(3’)の重畳領域(7’)となる三つの桜の花びらは第一の色彩と第二の色彩を合成した合成色であるが、特に明るく鮮やかな色彩で視認できる。第二の実施の形態においては、印刷模様(3’)のうち、第一の模様(4’)と同じ三つの桜の花びらのみが第一の色彩と第二の色彩を合成した明るい合成色で視認でき、印刷模様(3’)のその他の二つの花びらは通常の第二の色彩の暗くした色彩として視認できる。
以上のように、第一の模様(4’)と第二の模様(5’)とが異なる形状の模様であっても、本発明の透過模様印刷物(1’)において重畳領域(7’)は明るい合成色で視認でき、かつ、適切に刷り合わされているか否かが確認できる。
続いて、第三の実施の形態として、第一の模様(4’)と第二の模様(5’)とが同じ形状の模様であって、第一の模様(4’)が複数の色彩で構成され、その一部のみが有色浸透インキで形成されて成る形態について説明する。
(第三の実施の形態)
図9に本発明の透過模様印刷物(1’’)を示す。透過模様印刷物(1’’)は、基材(2’’)の上に、基材(2’’)と異なる複数の色を有する印刷模様(3’’)が形成されて成る。なお、第三の実施の形態において、第一の実施の形態及び第二の実施の形態と同じところは省略する。
図10に、印刷模様(3’’)の構成の概要を示す。印刷模様(3’’)は、基材(2’’)の一方の面に施された図10(a)に示す第一の模様(4’’)と、基材(2’)の他方の面に施された図10(b)に示す第二の模様(5’’)とから成る。第三の実施の形態では、第一の模様(4’’)と第二の模様(5’’)はその形状が同じであって、第一の模様(4’’)が有色浸透インキである第一のインキによって第一の色彩で形成された第1aの領域(4a’’)と、第一の色彩及び第二の色彩とは異なる色彩の通常の着色インキである第三のインキによって第三の色彩で形成された第1bの領域(4b’’)から成る。
図11に示すように、基材(2’’)の一方の面に第一の模様(4’’)を、基材(2’’)をはさんで他方の面に第二の模様(5’’)を、表裏で重畳するように印刷する。第三の実施の形態においては、印刷模様領域(6’’)と重畳領域(7’’)が異なる。印刷模様領域(6’’)は五枚の桜の花びらであり、重畳領域(7’’)は第一の模様(4’’)の第一の色彩で形成された第1aの領域(4a’’)と同じ三つの桜の花びらである。
以上の構成で形成した本発明の透過模様印刷物(1’’)の効果について図12を用いて説明する。図12(a)に示すように、反射光下において、第一の模様(4’’)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1’’)を観察した場合、第一の模様(4’’)のみが第一の色彩と第三の色彩の二つの色彩によって視認できる。
また、図12(b)に示すように、反射光下において、第二の模様(5’’)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1’’)を観察した場合、第二の模様(5’’)のみが第二の色彩で視認できる。
また、図12(c)に示すように、透過光下において、第一の模様(4’’)が印刷された面側、あるいは第二の模様(5’’)が印刷された面側のいずれか一方の面側から本発明の透過模様印刷物(1’’)を観察した場合でも、第一の模様(4’’)と第二の模様(5’’)が合成した印刷模様(3’’)が視認され、その印刷模様(3’’)のうち、重畳領域(7’’)の色彩は、第一の色彩と第二の色彩を合成した明るい合成色の色彩で視認され、それ以外の領域は、第二の色彩と第三の色彩の合成色を暗くした色彩で視認される。
以上のように、第一の模様(4’’)が、有色浸透インキと通常の有色インキの異なるインキによって、複数の異なる色彩で形成されていた場合でも、本発明の透過模様印刷物(1’’)において、重畳領域(7’’)は明るい合成色で視認でき、かつ、適切に刷り合わされているか否かが確認できる。また、この形態は、印刷模様(3’’)が複数の色彩で視認できるため、色彩表現に優れる。
続いて、第四の実施の形態として、第一の模様(4’’’)と第二の模様(5’’’)とが同じ形状の模様であって、第一の模様(4’’’)の一部のみが有色浸透インキで形成されて成る形態について説明する。
(第四の実施の形態)
図13に本発明の透過模様印刷物(1’’’)を示す。透過模様印刷物(1’’’)は、基材(2’’’)の上に、基材(2’’’)と異なる複数の色を有する印刷模様(3’’’)が形成されて成る。なお、第四の実施の形態において、第一の実施の形態、第二の実施の形態及び第三の実施の形態と同じところは省略する。
図14に、印刷模様(3’’’)の構成の概要を示す。印刷模様(3’’’)は、基材(2’’’)の一方の面に施された、図14(a)に示す第一の模様(4’’’)と、基材(2’’’)の他方の面に施された、図14(b)に示す第二の模様(5’’’)とから成る。第四の実施の形態では、第一の模様(4’’’)と第二の模様(5’’’)はその形状が同じであって、第一の模様(4’’)はそのすべてが有色浸透インキである第一のインキによって第一の色彩で形成され、他方の第二の模様(5’’’)は、通常のインキによって構成された第二の色彩を有する第2aの領域(5a’’’)と、第三の色彩を有する第2bの領域(5b’’’)の異なる色彩を有する二つの領域から成る。
図15に示すように、基材(2’’’)の一方の面に第一の模様(4’’’)を、基材(2’’’)をはさんで他方の面に第二の模様(5’’’)を、表裏で重畳するように印刷する。第四の実施の形態においては、第一の模様のすべてが有色浸透インキから成るため、第二の色彩を有する第2aの領域(5a’’’)と第三の色彩を有する第2bの領域(5b’’’)の二つの領域は、すべてが重畳領域(7’’’)となる。そのため、第四の実施の形態においては、印刷模様領域(6’’’)と重畳領域(7’’’)が同じである。
以上の構成で形成した本発明の透過模様印刷物(1’’’)の効果について図16を用いて説明する。図16(a)に示すように、反射光下において、第一の模様(4’’’)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1’’’)を観察した場合、第一の模様(4’’’)のみが第一の色彩で視認できる。
また、図16(b)に示すように、反射光下において、第二の模様(5’’’)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1’’’)を観察した場合、第二の模様(5’’’)のみが第二の色彩と第三の色彩の二つの異なる色彩で視認できる。
また、図16(c)に示すように、透過光下において、第一の模様(4’’’)が印刷された面側、あるいは第二の模様(5’’’)が印刷された面側のいずれか一方の面側から本発明の透過模様印刷物(1’’’)を観察した場合でも、第一の模様(4’’’)と第二の模様(5’’’)が合成した印刷模様(3’’’)が視認され、その印刷模様(3’’’)の重畳領域(7’’’)のうち、三つの桜の花びらの色彩は、第一の色彩と第二の色彩を減法混色した合成色であって、より明るい色彩で視認され、それ以外の二つの桜の花びらの色彩は、第一の色彩と第三の色彩を減法混色した色彩であって、より明るい色彩で視認される。
以上のように、第二の模様(5’’’)が複数の異なる色彩で形成されていた場合でも、本発明の透過模様印刷物(1’’’)において、重畳領域(7’’’)は明るい合成色で視認でき、かつ、適切に刷り合わされているか否かが確認できる。また、第三の形態と同じく、この形態でも、印刷模様(3’’’)が複数の色彩で視認できるため、色彩表現に優れる。
本発明において、第一の模様(4)と第二の模様(5)のそれぞれの領域の印刷要素の面積率は同じである必要はなく、反射光下の等色性や透過時の異色性を高めるために必要に応じて、それぞれの面積率の大小や印刷膜厚の厚薄、単位面積当たりの網点、画線等の粗密を調整しても良い。
また、第一のインキ及び第二のインキ等の本発明の形態に用いるインキに、脱刷や印刷不良等の発生の有無を見極めることを目的又は真偽判別性の向上を目的として、蛍光顔料や蛍光染料、燐光顔料、蓄光顔料等の発光顔料や発光染料、赤外線吸収材料や赤外反射材料等の機能性材料を添加しても何ら問題ない。
本発明の透過模様印刷物(1)の印刷方式は、オフセット印刷で十分な効果を発揮するが、製造者のシーズに応じてフレキソ印刷やグラビア印刷、凹版印刷やスクリーン印刷等で形成しても良い。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した透過模様印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
本実施例は、第三の実施の形態と同様に、図9から図12までを用いて説明する。図9に実施例における透過模様印刷物(1’’)を示す。透過模様印刷物(1’’)は、基材(2’’)の上に、印刷模様(3’’)が形成されて成る。基材(2’’)には、一般的な白色上質紙(しらおい 日本製紙製)を使用した。
印刷画像(3’’)は、図10に示す第一の模様(4’’)と第二の模様(5’’)から構成した。第一の模様(4’’)は、全体を灰色の色彩で構成したが、そのうち、三つの桜の花びらの第1aの領域(4a’’)は表1に示す有色浸透インキを用いて印刷し、その他の二つの花びらの第1bの領域(4b’’)は通常の黒インキ(ベストワン 墨 T&K TOKA社製)を用いて面積率10%のハイライトで構成することで、三つの桜の花びらの第1aの領域(4a’’)と等色の灰色とした。すなわち、三つの桜の花びらの第1aの領域(4a’’)と二つの花びらの第1bの領域(4b’’)は、色彩は同じだが、使用するインキが有色浸透インキと通常の着色インキとで異なる。一方の第二の模様(5’’)は、全体を濃い桃色のインキ(ベストワン Pantone224U T&K TOKA社製)を用いて構成した。いずれの模様もオフセット印刷方式で、図11に示すように基材(2’’)の表裏別々に模様が印刷模様領域(6’’)で重畳するように印刷した。本実施例では、印刷模様領域(6’’)と重畳領域(7’’)とは異なる。
以上の構成で形成した本発明の透過模様印刷物(1’’)の効果について、図12を用いて説明する。図12(a)に示すように、反射光下において、第一の模様(4’’)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1’’)を観察した場合、第一の模様(4’’)全体が灰色の色彩によって視認できた。
また、図12(b)に示すように、反射光下において、第二の模様(5’’)が印刷された面側から本発明の透過模様印刷物(1’’)を観察した場合、第二の模様(5’’)のみが濃い桃色の色彩で視認できた。
図12(c)に示すように、透過光下において、第一の模様(4’’)が印刷された面側、あるいは第二の模様(5’’)が印刷された面側のいずれか一方の面側から本発明の透過模様印刷物(1’’)を観察した場合でも、第一の模様(4’’)と第二の模様(5’’)が合成した印刷模様(3’’)が視認され、その印刷模様(3’’)のうち、三つの桜の花びらの第1aの領域(4a’’)を表した重畳領域(7’’)の色彩は、淡い桃色の色彩で視認され、それ以外の二つの桜の花びらの第1bの領域(4b’’)領域は、濃い桃色の色彩を、より暗い桃色の色彩として視認できた。
また、重畳領域(7’’)は、光透過性がその他の領域よりも高いために、片側から一方の模様を通して観察した場合でも、光透過性の差異から生じる色彩の違いから、他方の側の模様の位置が把握でき、刷り合わせずれが生じていないことを容易に把握できた。以上のように、表裏それぞれの面から反射光下で観察した場合には、第一の模様(4’’)および第二の模様(5’’)がそれぞれ単独の色彩で視認され、透過光下で観察した場合には、重畳領域(7’’)は表裏二つの色彩の合成色であって明るい色彩で、重畳領域(7’’)以外は表裏二つの色彩の合成色であって、暗い色彩で、それぞれ彩度の異なる別の色彩として視認されることが確認できるとともに、表裏の模様の刷り合わせの位置関係にずれが生じていないことが容易に把握できることも確認できた。