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JP6269543B2 - 鋼の連続鋳造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鋳片の横割れに代表される表面割れを防止する鋼の連続鋳造方法に関する。
近年、鉄鋼製品の製造コスト削減の観点から、連続鋳造で製造される鋳片の直行率向上の必要性が高まっているが、直行率向上を阻害する要因の1つとして、鋳片表面に発生する横割れと呼ばれる表面割れがある。
最近では、材料特性上の要求からNb、V、Ni、Cuなどの様々な合金元素を含有した低合金鋼の生産量が増加している。合金元素の添加に伴い、鋳片の表面割れの発生頻度が高くなり、製造コストの削減の要求に対して、その達成率は足踏み状態が続いている。連続鋳造の2次冷却時に鋳片の表面温度が、金属組織がγからαに変態するときの変態温度(約750〜850℃)近傍になって、鋳片の熱間延性が低下する。このとき鋳片に、曲げや矯正といった機械的な応力が生じることで、低合金鋼の鋳片に表面割れが発生することが知られている。従って、表面割れの発生を抑えるべく、鋳片の曲げ部や矯正部において、鋳片の表面温度を、熱間延性が低下する温度領域(以下適宜「脆化温度域」と呼ぶ)よりも低温側もしくは高温側とする方法が通常行われる。
しかしながら、鋳片の表面温度を脆化温度域から回避させるだけでは、鋳片に発生する表面割れを皆無にすることは困難であり、鋳片の表層組織に着目した鋳片冷却履歴に関する技術が提案されている。特許文献1には、凝固シェル厚がある程度薄い状態で、鋳型による1次冷却を終了し、2次冷却を開始し、鋳片全面の表面温度を鋳型を出てから長くとも2分以内の間に一旦600℃以上Ar3点[℃]以下の範囲まで低下させ、次いで、連続鋳造機の曲げ部及び矯正部における鋳片表面温度の両者が850℃以上となるように前記2次冷却を行う発明が提案されている。この発明によって、特許文献1では、スラブ表層組織の割れ感受性低減(γ粒界の不明瞭な組織)と、垂直曲げ型連続鋳造機の曲げ部及び矯正部における脆化温度域の高温側回避との両立が可能となり、鋳片の表面割れが効果的に解消され、その結果、鋳片のノースカーフ化・無手入れ化、鋳片の直行率向上が達成されると記載されている。
特開平9−225607号公報
特許文献1では、鋳片の表面割れが効果的に解消されるとされており、本発明者らは、特許文献1に記載されている方法で鋳片を製造する実験を行った結果、確かに、表面割れの発生をある程度防止できることを確認したものの、鋳片引き抜き速度によっては、特に、鋳片での横割れの発生を完全に防止できない場合があることも確認した。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、普通鋼はもちろん、近年、増加しつつある表面割れ感受性の高い、Ni、Cu、V、Nbなどを含有する低合金鋼を連続鋳造する場合であっても、鋳片の横割れを確実に防止する鋼の連続鋳造方法を提供することである。
通常、鋼の連続鋳造では、上下方向の振動を鋳型に与えつつ溶鋼を鋳型に注入し、鋳型内の溶鋼表面にモールドパウダーを投入しており、該モールドパウダーが溶融して形成される溶融スラグを凝固シェルと鋳型内壁との間に流入させ、振動と溶融スラグとによって凝固シェルが鋳型に焼き付くことを防止する。振動によって、先端部が変形を受けることになる凝固シェルを鋳型から引き抜くことで得られる鋳片には、表面にオシレーションマークと呼ばれる凹凸面が形成される。
鋳型に与える振動について、鋳型の上死点から下死点までの振幅や振動数は、鋳片引き抜き速度に応じて適宜変更することが一般的である。本発明者らは、特許文献1に記載されている方法を適用して鋳片を製造する場合において、特に、鋳片での横割れの発生を完全に防止できない理由を検討し、その理由は前記オシレーションマークにあると推察した。そして、本発明者らは、特許文献1に記載されている方法を適用したとしても、鋳型に与える振動や鋳型から出た直後の鋳片の冷却方法によっては、オシレーションマークに起因して鋳片の表面に形成される谷部の深さが大きくなる傾向になり、深さが大きくなる場合には、谷部を起点に横割れが生じることを確認し、本発明の完成に至った。
本発明の要旨は以下の通りである。
[1]垂直曲げ型連続鋳造機の鋳型内に溶鋼を注入しつつ、前記鋳型を鋳造方向に振動させながら前記鋳型を冷却して、厚みが9〜20mmとなる凝固シェルを形成し、該凝固シェルを引き抜いて鋳片を鋳造する鋼の連続鋳造方法であって、前記鋳型の振動は振幅が6mm以下、振動数が100[回/分]以上であり、前記鋳型の出口から前記鋳片が1つ目のロールに接触するまでの間は、下記式(1)で表される比水量Hが0.4[l/kg−鋳片]未満となる条件で前記鋳片に水を吹き付け、次いで、前記鋳片の表面温度がAr3点[℃]以下となるまで前記鋳片を冷却した後に、前記鋳片を復熱させることにより、少なくとも垂直曲げ型連続鋳造機の曲げ部では、前記鋳片の表面温度がAc3点[℃]以上とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
H=Q/(W×T×Vc×ρ) (1)
ここで、Qは、前記鋳型の長辺から形成された鋳片の表面に吹き付ける水量[l/分]であり、Wは、鋳片幅[m]であり、Tは、鋳片厚み[m]であり、Vcは、鋳片引き抜き速度[m/分]であり、ρは、鋳片の密度[kg/m]である。
[2]前記鋳型の振動の1周期のうち、鋳造方向を正とした鋳型の速度Vm[m/分]が前記鋳片引き抜き速度Vc[m/分]以上となる時間tnと前記速度Vmが前記鋳片引き抜き速度Vc未満となる時間tpとの合計時間に対する前記時間tnの割合で表される指数NSRが30%以下であることを特徴とする[1]に記載の鋼の連続鋳造方法。
本発明によれば、鋳型から引き抜かれた直後の鋳片表面の平坦化を促進でき、延いては、矯正部以降の鋳片表面の谷部を浅くすることが可能となる。適正な熱履歴と前記谷部を浅くすることによって、鋳片に発生し得る横割れを確実に防止できる。
垂直曲げ型連続鋳造機を示す図である。 比水量H[l/kg−鋳片]と谷部の深さ[mm]との関係を示すグラフである。 谷部の深さ[mm]と横割れ個数[個/m]との関係を示すグラフである。
本発明は、垂直曲げ型連続鋳造機の鋳型内に溶鋼を注入しつつ、鋳型を振動させながら鋳型を冷却して、凝固シェルを形成し、該凝固シェルを引き抜いて形成される鋳片が、鋳型を出てから、少なくとも1つ目のロールに接触するまでの間は、鋳片を弱冷却することで、ロールによる鋳片表面の平坦化を促進するものである。垂直曲げ型連続鋳造機を図1に示し、図1を参照して、本発明の実施形態の一例を説明する。
垂直曲げ型連続鋳造機1は、鋳型5と、該鋳型5の上方に設置されるタンディッシュ2と、前記鋳型5の下方には、複数並べて配置されている、サポートロール6と、複数のガイドロール7と、ガイドロール7の間に設置されピンチロール8と、を有する。
図示を省略してあるが、タンディッシュ2の上方には、溶鋼11を収容する取鍋が設置される。取鍋の底部からタンディッシュ2に溶鋼11が注入される。タンディッシュ2の底部には、スライディングノズル3が取り付けられた浸漬ノズル4が設置されており、タンディッシュ2内に所定量の溶鋼11を滞在させた状態で浸漬ノズル4を介して溶鋼11が鋳型5に注入される。鋳型5には冷却水路が形成されており、該冷却水路に冷却水を通過させている。これにより、鋳型5の内面から溶鋼11が抜熱され凝固し、凝固シェル13が形成され、凝固シェル13の内部には、溶鋼11からなる未凝固層14が形成される。
サポートロール6、ガイドロール7及びピンチロール8は、鋳片12の支持に適する上下1組のロールセットから構成されている。ガイドロール7で鋳片12を支持しつつ、ピンチロール8が鋳片12を挟み込みながら回転して、凝固シェル13と内部に未凝固層14とを有する鋳片12が引き抜かれる。図1に示すように、垂直曲げ型連続鋳造機1では、鋳片12が鋳型5から鉛直方向下方に直線的に引き抜かれ、次いで鋳型5の下方で適宜曲がり、曲げられた鋳片12が矯正され水平方向に引き抜かれるように、ガイドロール7及びピンチロール8が複数配置されている。
鋳片2を挟んで上面側及び下面側に分割された二次冷却ゾーン17a,17b,17c,17d,17eが、鋳型5の直下から鋳造方向に沿ってこの順で設置されている。二次冷却ゾーン17aは、鋳型5と1つ目のサポートロール6との間で鋳片12を冷却するものである。二次冷却ゾーン17dの開始位置が、直線的に引き抜かれている鋳片12を曲げる曲げ部となっており、二次冷却ゾーン17eの途中で、曲げられた鋳片12を水平方向に引き抜かれるように、鋳片12を矯正する矯正部が設けられている。
二次冷却ゾーン17dと17eとの間で、図示を省略してあるが、二次冷却ゾーンを適宜設けてあり、各二次冷却ゾーンには、それぞれ独立して二次冷却水量を調整できるように、水スプレーノズルあるいはエアーミストスプレーノズルなどのスプレーノズルが、ガイドロール7及びピンチロール8の各々の間に設けられている。ガイドロール7で鋳片12が支持され搬送されている間に、二次冷却ゾーン17a〜17eで凝固シェル13が適切に冷却され且つ復熱し、未凝固層14の凝固が進み、鋳片12の凝固が完了する。
ガイドロール7の下流には、搬送ロール9が複数並べられており、該搬送ロール9の上方には、鋳片12の引き抜き速度Vcと同期し、鋳片12を切断するガス切断機10が設置されている。切断された鋳片12aは、次工程へ送られることになる。
図示を省略してあるが、鋳型5に注入された溶鋼11の湯面上にモールドパウダーが投入され、該モールドパウダーが溶鋼11の熱で溶融することで、溶融スラグが溶鋼11の湯面上に生成される。加えて、鋳型5には、鋳造方向に沿って上下に鋳型5を振動させる装置が取り付けられており(図示せず)、該装置で鋳型5を振動させ、鋳型5の内壁と凝固シェル13との隙間を形成し、該隙間に前記溶融スラグを流入させている。これにより、鋳型5の内壁に凝固シェル13が焼き付くことを防止している。
鋳型5の振動によって、鋳型5が下方(鋳造方向)へ向かう際の速度Vmが、鋳片引き抜き速度Vcよりも大きい場合が生じる。その際、溶鋼11の湯面上に生成された溶融スラグのうち、高粘性部分が凝固シェル13の先端部を押し曲げることになる。先端部が押し曲げられた後、凝固シェル13が鋳型から引き抜かれることになるが、その間でも鋳型5を動かす振動が繰り返されていて、先端部が再び押し曲げられる。これにより、凝固シェル13の表面に周期的な凹凸面が形成される。但し、サポートロール6、ガイドロール7及びピンチロール8によって凝固シェル13の表面が押され、凹凸面の平坦化が行われる。よって、最終的には、鋳片12(鋳片12a)の表面はある程度平坦となっているものの、鋳片12aの表面には、その幅方向に沿って谷部が形成される。谷部が深くなると、鋳片12aの横割れに繋がる。
本発明では、鋳型5に与える振動の振幅を6mm以下とし且つ振動数を100[回/分]以上とし、更には、鋳型5での冷却によって厚みが9〜20mmとなる凝固シェル13を形成し、少なくとも、鋳片12が1つ目のサポートロール6に接触するまでの間に、鋳片12に吹付ける水の量を抑えている。これにより、本発明は、鋳型5直下でのサポートロール6による凝固シェル13の表面の平坦化を促進し、鋳片12aの表面の谷部の深さを抑えている。
振動数を100[回/分]以上とすることで、振動の周期(=1/振動数)を小さくし、周期[分/回]と鋳片引き抜き速度[m/分]とを乗算して算出される凹凸面の隣接する頂部または谷部の間隔を小さくするとともに、振幅を6mm以下とすることで、谷部の深さを抑えている。また、凝固シェル13の厚みが9mm未満だと、溶鋼11の静圧に耐えることができずブレークアウトする可能性が生じる。また、厚みが20mmを超えると、凝固シェル13の表面温度を弱冷却した状態としても、凝固シェル13が厚すぎて、サポートロール6による凝固シェル13の表面の平坦化が促進されにくくなる上に、鋳片12の表面温度をAr3点[℃]以下とし、鋳片12を復熱させ、鋳片12の表面温度をAc3点[℃]以上とすることによる、鋳片12の金属組織の改善効果が得にくい。
厚みが9〜20mmとなる凝固シェル13を有する鋳片12が、鋳型5からサポートロール6に接触するまでの間は、下記式(1)で表される比水量Hが0.4[l/kg−鋳片]未満となる条件で、二次冷却ゾーン17aで鋳片12に冷却水を吹き付け、鋳片12の表面を冷却する。
H=Q/(W×T×Vc×ρ) (1)
Hは、比水量[l/kg−鋳片]であり、Qは、鋳型5の長辺から形成された鋳片12の表面に吹き付ける水量[l/分]であり、Wは、鋳片12の幅[m]であり、Tは、鋳片12の厚み[m]であり、Vcは、鋳片12の引き抜き速度[m/分]であり、ρは、鋳片の密度[kg/m]である。二次冷却ゾーン17aでの鋳片12の冷却は、鋳片12の単位質量[kg]当たりに吹付ける水量[l]を制限したもので、いわゆる弱冷却に相当する。厚みが比較的薄い且つ弱冷却された状態の凝固シェル13の表面をサポートロール6で押すことによって、厚みが抑えられた鋳片12に形成される凹凸面のロールによる平坦化が効果的に促進され、鋳片12の表面の谷部が浅くなる。なお、比水量Hは、0.01[l/kg−鋳片]以上であることが望ましい。比水量Hが過少であると、凝固シェルがバルジングを起こし、内部割れやブレークアウトが生じるからである。
二次冷却ゾーン17aを通過して弱冷された鋳片12に対し、次いで、二次冷却ゾーン17bで冷却水の量を適宜調整(多く)して鋳片12を強冷し、鋳片12の表面温度(凝固シェル13の温度)をAr3点[℃]以下とすることが望ましい。二次冷却ゾーン17cで、吹付ける冷却水の量を減少させるなどして、少なくとも二次冷却ゾーン17dの開始位置(曲げ部)では、鋳片12の表面温度がAc3点[℃]以上となるように鋳片12を復熱させることが望ましい。これにより、凝固シェル13の金属組織が変態する。なお、冷却水を吹付けないで、鋳片12の表面温度がAc3点[℃]以上となるように鋳片12を復熱させてもよい。
凝固シェル13の温度をAr3点[℃]以下とすることによって、凝固シェル13は、割れ感受性の低いγ粒界が不明瞭なフェライト−パーライト組織となる。二次冷却ゾーン17bでの強冷を早期に終了し、二次冷却ゾーン17cで凝固シェル13をAc3点[℃]以上となるように復熱させれば、凝固シェル13の温度を脆化域から高温側とすることができる上に、γ粒を微細化させた組織を生成させることができる。これにより、曲げ部において応力が掛っても、割れ感受性を低下させることができる。
二次冷却ゾーン17bでは、鋳片12の表面温度(凝固シェル13の温度)を600℃以上とすることが望ましい。表面温度が600℃以上であれば、鋳片の曲げ・矯正に要する力が小さくなるからである。また、二次冷却ゾーン17cでは、鋳片12の表面温度を1100℃以下とすることが望ましい。表面温度が過大であると、凝固シェルがバルジングを起こし、内部割れやブレークアウトが生じる可能性が高くなるからである。
鋳型5に与えられる振動は、振動の1周期のうち、鋳造方向を正とした鋳型5の速度Vm[m/分]が鋳片引き抜き速度Vc[m/分]以上となる時間tnと、速度Vmが鋳片引き抜き速度Vc未満となる時間tpと、の合計時間に対する時間tnの割合で表される指数NSRが30%以下であることが好ましい。振動は、正弦波で表される単振動でもよいが、振動を、非正弦波とし、30%以下となる指数(割合)NSRを満たせば、その振動は、振幅が6mm以下、振動数が100[回/分]以上となりやすい。
なお、振動の振幅や振動数は、鋳片引き抜き速度Vcを考慮して適宜定めること望ましい。鋳片引き抜き速度Vcを大きくする際には、指数NSRを一定に維持するために、鋳片引き抜き速度Vcに比例して振動数を大きくする。また、振幅は、3mm以上であることが望ましい。振幅が過少であると、振動数を増しても、指数NSRが、鋳片の引き抜きに応じた十分な大きさとなりにくいからである。また、振動数は、300回/分以下であることが望ましい。振動数が過大であると、振動加速度が過大となり、設備負荷も過大となるからである。
<実験>
図1に示す構成の垂直曲げ型連続鋳造機1を用いて、厚鋼板となる鋳片12を複数回連続鋳造した。各連続鋳造において、二次冷却ゾーン17aにおける比水量Hを[l/kg−鋳片]を適宜変更して、比水量Hと谷部の深さ[mm]との関係、及び、谷部の深さ[mm]と横割れの個数[個/m]との関係を調べた。鋳片12の幅Wは2100mmとし、厚みTは300mmとするように、鋳型5を構成した。
溶鋼11の組成は、C含有量が0.08〜0.14質量%、Mn含有量が1.60質量%、Cu含有量が0.10〜0.15質量%、Ni含有量が0.30〜0.35質量%であり、残部はFeと不可避的不純物からなり、鋳片12の密度ρは7800[kg/m]である。溶鋼11に、Cu、Nbが含有されており、該溶鋼11から得られる鋳片12は、表面割れの感受性が高いといえる。また、Ar3点は850℃であり、Ac3点は900℃となった。これらの値は、線膨張計による実測で求めた。二次冷却ゾーン17bで鋳片12の表面温度がAr3点[℃]以下となり、且つ、二次冷却ゾーン17cで、鋳片12の表面温度がAc3点[℃]以上となるように、鋳片12に吹付ける冷却水の量を調整した。また、鋳型5の出口において凝固シェル13の厚みを9mmとした。凝固シェル13を形成する際に鋳型5に供給する冷却水の量、及び、二次冷却ゾーン17b,17cで鋳片12に吹付けられる冷却水の量は、適宜、事前に伝熱凝固計算で求めておいた。
実験においては、鋳片引き抜き速度Vcは、0.8m/分とし、鋳型5に与える振動の振幅は6mmとし、振動数は100[回/分]とした。鋳型5から、鋳片12が最初に接触することになるサポートロール6までの距離を1mとした。実験の各連続鋳造においては、鋳型5の長辺から形成された鋳片12の表面に吹き付ける水量Q[l/分]を適宜変更して、前述の式(1)で表される比水量Hを、0.20〜0.80[l/kg−鋳片]の範囲で変更した。
鋳片12は、ピンチロール8などによって表面が平坦化されているが、振動に起因した谷部はわずかながら残存している。谷部の深さ[mm]については、鋳片12aの表面をレーザー距離計を用いて測定し、鋳片12aの平坦な面を基準として、平坦な面から最も深い谷部となる深さを、谷部の深さ[mm]とした。横割れの個数[個/m]について、鋳片12aを酸洗し、浸透探傷検査によって鋳片12aの表面のクラックを観察し、1mm以上の長さのものを横割れと特定し、鋳片12aの表面の単位面積当たりの横割れの個数を、横割れの個数[個/m]とした。
比水量H[l/kg−鋳片]と谷部の深さ[mm]との関係を図2に示し、谷部の深さ[mm]と横割れ個数[個/m]との関係を図3に示す。図2のグラフから、比水量Hを抑えるほど、谷部の深さ[mm]が抑えられていることがわかり、二次冷却ゾーン17aで弱冷することにより、鋳片12の表面の平坦化が効果的に促進されていることがわかる。また、比水量Hを0.4[l/kg−鋳片]とした場合における谷部の深さは、最大で0.5mmとなり、比水量Hを0.4[l/kg−鋳片]以下とする場合には、谷部の深さを0.5mm以下とすることができていることがわかる。そして、図3のグラフから、谷部の深さが0.5mm以下の場合には、横割れ個数は0[個/m]とすることができていることがわかる。よって、比水量Hを0.4[l/kg−鋳片]以下とすることにより、横割れの個数[個/m]を効果的に抑えることが確認できた。
本発明によれば、鋳型から引き抜かれた直後の鋳片表面の平坦化を促進でき、延いては、矯正部以降の鋳片表面の谷部を浅くすることが可能となる。適正な熱履歴と前記谷部を浅くすることによって、鋳片に発生し得る横割れを確実に防止できる。
(1)鋳型5の出口において凝固シェル13の厚み、(2)鋳片12の厚みT、(3)鋳片引き抜き速度Vc、(4)振動数などの振動の条件、そして、(5)二次冷却ゾーン17bでの鋳片12の表面温度がAr3点[℃]以下を満たすか、あるいは、二次冷却ゾーン17cでの鋳片12の表面温度がAc3点[℃]以上を満たすか、についての条件を適宜変更した以外は実験と同様にして鋳片12aを複数回連続鋳造した(試験No.1〜32)。各連続鋳造においては、実験と同様にして、比水量Hを[l/kg−鋳片]を適宜変更して、比水量Hと谷部の深さ[mm]との関係、及び、谷部の深さ[mm]と横割れの個数[個/m]との関係を調べた。前記(1)〜(5)の条件及び谷部の深さ[mm]と横割れの個数[個/m]を表1に示す。
Figure 0006269543
試験No.3〜11及び16〜19の連続鋳造においては、本発明を満たし、本発明例である。一方で、試験No.1及び2の連続鋳造では凝固シェル13の厚み[mm]、試験No.12〜15では振幅[mm]、試験No.20〜23では振動数[回/分]、試験No.24〜28及び32では比水量H、が本発明を満たさず、比較例である。また、試験No.29〜31では、比水量Hが0.4[l/kg−鋳片]未満の条件で鋳片12に水を吹き付けた後であっても、鋳片12の表面温度をAr3点[℃]以下とし、次いで、鋳片12の表面温度がAc3点[℃]以上となるように鋳片12を復熱させることができず、比較例である。
試験No.1及び2について、試験No.1では、凝固シェルが薄過ぎて、ブレークアウトが生じ、鋳片を得ることができなかった。よって、表1では、谷部の深さ[mm]及び横割れの個数[個/m]には、「−」と記載してある。試験No.2では、凝固シェルが厚過ぎて、サポートロール6による凝固シェル13の表面の平坦化が促進されず、谷部の深さの値が0.72mmであった。また、鋳片12の表面温度をAr3点[℃]以下とし、次いで、鋳片12の表面温度がAc3点[℃]以上となるように鋳片12を復熱させることができていたが、横割れ個数が7.5個/mとなった。
試験No.3〜11では、本発明を満たす上に指数NSRが30%以下で、谷部の深さも0.35mm以下に抑え、横割れ個数を0にできた。試験No.16〜19では、指数NSRが30%を超えているものの、本発明を満たし、谷部の深さは0.55mm未満に抑え、横割れ個数は1.0個/m以下とすることができた。
試験No.12〜15では、谷部の深さは0.6mmを超え、横割れ個数は5.8個/mを超えている。試験No.20〜32では、谷部の深さは大半が0.6mmを超え、横割れ個数は、一部は3.0個/m程度となっているものの、大半が5.0個/mを超えている。
本発明によって、鋳型から引き抜かれた直後の鋳片の表面の平坦化を促進でき、延いては、矯正部以降の鋳片表面の谷部を浅くすることが可能となったことがわかる。適正な熱履歴と前記谷部を浅くすることによって、鋳片に発生し得る横割れを確実に防止できたこともわかる。
1 垂直曲げ型連続鋳造機
2 タンディッシュ
3 スライディングノズル
4 浸漬ノズル
5 鋳型
6 サポートロール
7 ガイドロール
8 ピンチロール
9 搬送ロール
10 ガス切断機
11 溶鋼
12 鋳片
12a 切断された鋳片
13 凝固シェル
14 未凝固層
17a〜17e 二次冷却ゾーン

Claims (2)

  1. 垂直曲げ型連続鋳造機の鋳型内に溶鋼を注入しつつ、前記鋳型を鋳造方向に振動させながら前記鋳型を冷却して、厚みが9〜20mmとなる凝固シェルを形成し、該凝固シェルを引き抜いて鋳片を鋳造する鋼の連続鋳造方法であって、
    前記鋳型の振動は振幅が6mm以下、振動数が100[回/分]以上であり、
    前記鋳型の出口から前記鋳片が1つ目のロールに接触するまでの間は、下記式(1)で表される比水量Hが0.01[l/kg−鋳片]以上0.4[l/kg−鋳片]未満となる条件で前記鋳片に水を吹き付け、
    次いで、前記鋳片の表面温度がAr3点[℃]以下となるまで前記鋳片を冷却した後に、前記鋳片を復熱させることにより、少なくとも垂直曲げ型連続鋳造機の曲げ部では、前記鋳片の表面温度がAc3点[℃]以上とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
    H=Q/(W×T×Vc×ρ) (1)
    ここで、Qは、前記鋳型の長辺から形成された鋳片の表面に吹き付ける水量[l/分]で
    あり、
    Wは、鋳片幅[m]であり、
    Tは、鋳片厚み[m]であり、
    Vcは、鋳片引き抜き速度[m/分]であり、
    ρは、鋳片の密度[kg/m]である。
  2. 前記鋳型の振動の1周期のうち、鋳造方向を正とした鋳型の速度Vm[m/分]が前記鋳片引き抜き速度Vc[m/分]以上となる時間tnと前記速度Vmが前記鋳片引き抜き速度Vc未満となる時間tpとの合計時間に対する前記時間tnの割合で表される指数NSRが30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
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