JP6112711B2 - 電動推進系制御装置 - Google Patents
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Description
航空機において対気速度の検出は一般に、ピトー管に配管で接続された圧力計を用いて、対気速度の2乗に比例する動圧を検出する形で行われる。
この手法ではピトー管先端で生じた動圧の変動が配管を伝播して圧力計に到達し対気速度の変化として検出されるまで最大数秒程度の遅れが生じる可能性があり、対気速度が時間的に変化するケースへの適用には問題があった。
航空機においては推進系の効率を保ち、機体の姿勢、高度を安定させるために、対気速度にあわせて回転数やプロペラピッチ角等の推進系の運転状態を調整する必要がある。
しかしながら、離陸滑走時や突風発生時など対気速度が時間的に変化する場合には、上記ピトー管を用いる対気速度検出手段では、対気速度の検出および運転状態の調整が対気速度の変化に対し追従できず、効率の低下に伴って滑走距離が増大したり大きく高度を失うなどの問題点があった。
また、熱線流速計など応答性の高い対気速度検出手段も存在するが、その航空機への搭載にはコスト、重量などでデメリットが避けられない。
この公知の手法では、ピトー管等の応答の遅い手段を用いることなく電気的な手段を付加するのみで検出が高速となる一方、航空機推進用プロペラにおいては高度の変化に伴い大気密度も変化するため、別途に大気密度検出手段を設ける必要があった。
また、航空機推進用プロペラにおいてはプロペラトルクおよび回転数と対気速度の関係に2値性があるため、単一の回転数とトルクの組み合わせだけでは正確な検出ができないという問題点があった。
対気速度Uはピトー管509、圧力配管、圧力計510で構成された対気速度検出手段によって検出されるが、動圧がピトー管509から圧力配管を伝達して圧力計510に達し、対気速度Uの変動が検出されるまで長い場合には数秒程度を要するとともに、大気密度を検出するために別途の大気密度検出手段511が必要であった。
例えば、図3に示す特性を有する推進用プロペラでは、回転数N=N3rpm、トルクτ=τaNmの値を検出しても、対気速度UはUa1m/sあるいはUa2m/sの2値が推定され、いずれかを特定することができない。
すなわち、本発明は、電気的な手段のみで重量やコストに与える影響を抑制するとともに、プロペラトルクおよび回転数と対気速度の関係に2値性を有する場合でも正確に検出可能であり、検出精度や応答性を向上した電動推進系制御装置を提供することを目的とする。
本発明では、電圧および電流を電流検出手段105および電圧検出手段106で検出して、トルクτおよび回転数Nの値を短時間で検出可能であることを利用し、異なる駆動条件下での複数のトルクτおよび回転数Nの値を極めて短時間で得ることにより、2値性を有する特性のいずれの値かを正確に推定し、ピトー管等を利用することなく電気的な手段のみで対気速度Uを正確に推定するものである。
加えて、複数のトルクτおよび回転数Nの値を元に、電気的な手段のみで大気密度を正確に推定するものである。
なお、回転数Nについては、光学センサや磁気センサ等を使用した小型で軽量な種々の検出手段が公知であるため、電圧検出手段によらず別途の回転数検出手段を用いて検出してもよい。
本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る電動推進系制御装置の構成に加え、前記状況演算部が、前記推力制御部に電動駆動モータのトルクあるいは回転数のいずれか一方または両方を短時間変化させる検出制御機能を有し、前記検出制御機能により変化した異なる駆動条件下で検出される複数のトルクおよび回転数の推定値を用いるように構成されていることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3に係る電動推進系制御装置の構成に加え、前記プロペラが、可変ピッチ機構によってピッチ角を能動的に変更可能に構成され、前記推力制御部が、前記電動駆動モータおよび前記可変ピッチ機構の両方をそれぞれ独立して制御可能に構成され、前記状況演算部が、前記推力制御部に電動駆動モータのトルク、回転数およびピッチ角の少なくとも1つを短時間変化させる検出制御機能を有し、前記検出制御機能により変化した異なる駆動条件下で検出される複数のトルクおよび回転数の推定値を用いるように構成されていることにより、前記課題を解決するものである。
本請求項6に係る発明は、請求項4または請求項5に係る電動推進系制御装置の構成に加え、前記推力制御部が、前記推定された大気密度および対気速度に応じて、対気速度を維持するように前記電動駆動モータあるいは前記可変ピッチ機構のいずれか一方または両方を変化させる速度維持機能を有することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項7に係る発明は、請求項2または請求項3に係る電動推進系制御装置の構成に加え、前記推力制御部が、前記推定された大気密度および対気速度に応じて、プロペラの効率を最大化するように前記電動駆動モータを変化させる効率最大化機能を有することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項8に係る発明は、請求項2、請求項3及び請求項7のいずれかに係る電動推進系制御装置の構成に加え、前記推力制御部が、前記推定された大気密度および対気速度に応じて、対気速度を維持するように前記電動駆動モータを変化させる速度維持機能を有することにより、前記課題を解決するものである。
本請求項9に係る発明は、請求項6または請求項8に係る電動推進系制御装置の構成に加え、前記推力制御部が、前記推定された大気密度に応じて、効率最大化機能と速度維持機能を切り替え可能に構成されていることにより、前記課題を解決するものである。
特に航空機において離陸滑走時や突風発生時など対気速度が時間的に変化する場合でも、対気速度の検出および運転状態の調整を対気速度の変化に対して迅速かつ正確に追従可能となり、推進系の効率を保ち、機体の姿勢、高度を安定させるために、回転数やプロペラのピッチ角等の推進系の運転状態を高い応答性で最適に調整でき、滑走距離の増大や大きく高度を失うことが防止されて安全性が向上する。
また、高度によって最適な運転状態が異なる場合であっても、大気密度を検出することで高度が推定でき、回転数やプロペラのピッチ角等の推進系の運転状態を高い応答性で最適に調整することが可能となる。
本請求項3に記載の構成によれば、状況演算部が推力制御部に電動駆動モータのトルクあるいは回転数のいずれか一方または両方を短時間変化させる検出制御機能を有することにより、検出制御機能を任意のタイミングで間欠的に動作させてトルクおよび回転数の組み合わせを検出し、運転状態に応じて、回転数変化による機体運動への影響を抑制しつつ対気速度および大気密度を検出することが可能となる。
本請求項4に記載の構成によれば、推力制御部が電動駆動モータおよび可変ピッチ機構の両方をそれぞれ独立して制御可能に構成されていることにより、推進系の運転状態を高い応答性でさらに最適に調整することが可能となる。
本請求項6に記載の構成によれば、推力制御部が、推定された大気密度および対気速度に応じて、対気速度を維持するように電動駆動モータあるいは可変ピッチ機構のいずれか一方または両方を変化させる速度維持機能を有することにより、航空機の飛行時に突風等により予期せぬ対気速度の変化が発生しても、高度を失うことが抑制されて安全性が向上する。
本請求項7に記載の構成によれば、推力制御部が、推定された大気密度および対気速度に応じて、プロペラの効率を最大化するように電動駆動モータを変化させる効率最大化機能を有することにより、航空機の離陸滑走時に突風等により予期せぬ対気速度の変化が発生しても、効率の低下を防止し、滑走距離の増大が抑制され、オーバーランの危険性が減少して安全性が向上する。
本請求項8に記載の構成によれば、推力制御部が、推定された大気密度および対気速度に応じて、対気速度を維持するように電動駆動モータを変化させる速度維持機能を有することにより、航空機の飛行時に突風等により予期せぬ対気速度の変化が発生しても、高度を失うことが抑制されて安全性が向上する。
本請求項9に記載の構成によれば、推力制御部が、推定された大気密度に応じて、効率最大化機能と速度維持機能を切り替え可能に構成されていることにより、航空機の高度に応じた最適な制御が可能となり、さらに安全性が向上する。
本発明の電動推進系制御装置は、航空機に適用するのが好適であるが、船舶、あるいは、陸上の風力推進移動体に適用されてもよい。
また、推進用プロペラが風力発電機等の風車であり、電気駆動モータが常時は発電機として用いられるものに適用されてもよい。
駆動制御手段103は、図4、5に示すような対気速度U、推進用プロペラ101のトルクτ、回転数N、大気密度ρに関するデータ群を備え、電流検出手段105から得た電動駆動モータ102への供給電流Iから電動駆動モータ102の発生するトルクτを推定する機能および電圧検出手段106から得た電動駆動モータ102への印加電圧Eから回転数Nを推定する機能(回転数検出手段)を備えている。
駆動制御手段103は電流検出手段105、電圧検出手段106からそれぞれ逐次得られる供給電流I、印加電圧Eからトルクτ、回転数Nを推定し、以下に説明するシーケンスにより対気速度U、大気密度ρを検出することができる。
通常プロペラの推力Tは航空機の飛行状態によって決まり、対気速度U、大気密度ρの検出のために回転数Nを自由に変更することはできないため、機体の加減速応答に対し十分小さい時間幅で推力Tの平均値を保つよう回転数Nを微小(ΔN)に変化させ、各回転数Nにおけるトルクτを供給電流I及びプロペラ慣性から推定する。
この時、図4に示すように一般に∂τ/∂N2は対気速度U、大気密度ρ両方の関数だが、∂(τ/τ0)/∂N2は対気速度Uのみの関数であるため、∂(τ/τ0)/∂N2を用いることで別途の大気密度検出手段がなくてもU0を算出できる。
算出したU0からプロペラの進行率J0を下記式(1)の関係を用いて算出し、J0と図5の関係からCPを算出する。
得られたCP(J0)から下記式(2)の関係を用いてρ0を算出する。
図8は、推進用プロペラとして固定ピッチプロペラ121を採用したもの、図9は、推進用プロペラとして可変ピッチプロペラ131を採用したものを示す。
固定ピッチプロペラ121または可変ピッチプロペラ131は駆動制御手段103により制御される電動駆動モータ102により駆動される。
また、比較のために、図10に、従来のピトー管509、圧力配管、圧力計510等で構成された対気速度検出手段を用いたもの、図11に、推進用プロペラ501の駆動を従来の燃料タンク514から供給される燃料を用い、エンジン制御手段513によって制御される内燃機関512によって行うものを示す。
この時、対気速度Uを回復させないと失速あるいはそのまま墜落する可能性があるため、突風の検出と対気速度Uの回復を迅速に行う必要がある。
図10、図11に示す従来のピトー管509を有するものでは、動圧がピトー管509から圧力配管を伝達して圧力計510に達し、対気速度Uの変動が検出されるまで長い場合には数秒程度を要することがある。
一方、図8、図9に示す本発明の実施形態では、配管を使用せず推進系パラメータから対気速度Uの変動を検出するため、要する時間は非常に短く、突風の発生をごく短時間で検出できる。
図10に示すものでは、上述のように対気速度Uの検出とプロペラ推力T増加の開始が遅れるため、対気速度Uの回復が遅れ高度Hも図11に示す従来技術と同程度に落ちてしまう。
一方、図8、図9に示す本発明の実施形態では、図10、図11に示す従来技術により突風の検出および対気速度Uの回復を行った場合と比較して、対気速度Uの回復が早く高度Hの低下も半分以下に抑えられており、速度検出と推力制御の双方を高速で行うことで対気速度Uの回復および高度Hの損失抑制に格別の効果を発揮している。
図15は、前述の図9に示すものと同様に、推進用プロペラとして可変ピッチプロペラ131を採用したものを示す。
可変ピッチプロペラ131は駆動制御手段103により制御される電動駆動モータ102により駆動される。
また、比較のために、図16に、従来のピトー管509、圧力配管、圧力計510等で構成された対気速度検出手段を用いたものを示す。
推進系の初期状態(U、ρ、P、N、β)を(U0、ρ0、P0、N0、β0)とすると、駆動制御手段103は前述の手法によりU0、J0、CP0、ρ0を検出する。
その後、図18に示した推進系効率η、進行率Jおよびプロペラパワー係数CPの関係から、出力指示部108、508から受けた出力指示値PrefおよびU0において、ηを最大化するJ1および、新たな回転数Nの目標値N1(=U0/(J1Dp))を算出する。
駆動制御手段103は対気速度Uの変化が無視できる微小時間の間、回転数NをN1に保ち、その際の電流I0.5から推定したトルクτ0.5からN1における軸出力とPrefの差ΔPを算出する。下記の数(5)あるいは数表を用いて(U0、ρ0、Pref、N1、β1)を満たすβ1と現在のピッチ角β0との差Δβを算出し、可変ピッチプロペラ131のピッチ角をΔβ増加させる。その後機体の運動により対気速度U、大気密度ρが変化した後に上記シーケンスを再度行うことで常に推進系効率を最大化できる。
図19、20に示すように対気速度検出にのみ従来のピトー管509を用いた場合には、時間と共に増加する対気速度Uの検出が遅れてしまうことにより回転数N、ピッチ角βの調整が間に合わず、推力増加や離陸滑走距離Lの低減量も限定的なものにとどまってしまう。
しかしながら、本実施形態によれば、従来の定速プロペラ適用時と比較して滑走中の推力は最大20%増加し、離陸滑走距離Lも1割程度減少しており、速度検出と推力制御の双方を高速で行うことで離陸性能の改善に格別の効果を得ることができる。
特に航空機において滑走距離の増大や大きく高度を失うことが防止されて安全性が向上する。
さらに、本発明の電動推進系制御装置は、船舶、あるいは、陸上の風力推進移動体に適用されてもよく、また、推進用プロペラが風車や水車であり電気駆動モータが常時は風力や水力による発電機として用いられるものに適用されてもよい。
101、501 ・・・推進用プロペラ
121 ・・・固定ピッチプロペラ
131 ・・・可変ピッチプロペラ
102、502 ・・・電動駆動モータ
103、503 ・・・駆動制御手段
104、504 ・・・電源
105 ・・・電流検出手段
106 ・・・電圧検出手段
107、507 ・・・対気速度指示部
108、508 ・・・出力指示部
509 ・・・ピトー管
510 ・・・圧力計
511 ・・・大気密度検出手段
512 ・・・内燃機関
513 ・・・エンジン制御手段
514 ・・・燃料タンク
Claims (9)
- 推進用プロペラを回転駆動する電動駆動モータと、前記電動駆動モータの電流を検出する電流検出手段と、前記電動駆動モータの回転数を検出する回転数検出手段と、前記電動駆動モータを制御する駆動制御手段とを有する電動推進系制御装置であって、
前記駆動制御手段が、前記電流検出手段で検出した電流から電動駆動モータのトルクを推定する駆動力演算部と、対気速度を推定する状況演算部と、電動駆動モータのトルクあるいは回転数のいずれか一方または両方を変化させる推力制御部とを有し、
前記状況演算部が、あらかじめ記憶されている対気速度およびプロペラ特性に関するデータ群と異なる駆動条件下で検出される複数のトルクおよび回転数の推定値とから対気速度を推定するように構成されていることを特徴とする電動推進系制御装置。 - 前記状況演算部が、大気密度および対気速度を推定するように構成され、あらかじめ記憶されている大気密度、対気速度およびプロペラ特性に関するデータ群と異なる駆動条件下での複数のトルクおよび回転数の推定値とから大気密度および対気速度を推定するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動推進系制御装置。
- 前記状況演算部が、前記推力制御部に電動駆動モータのトルクあるいは回転数のいずれか一方または両方を短時間変化させる検出制御機能を有し、前記検出制御機能により変化した異なる駆動条件下で検出される複数のトルクおよび回転数の推定値を用いるように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動推進系制御装置。
- 前記プロペラが、可変ピッチ機構によってピッチ角を能動的に変更可能に構成され、
前記推力制御部が、前記電動駆動モータおよび前記可変ピッチ機構の両方をそれぞれ独立して制御可能に構成され、
前記状況演算部が、前記推力制御部に電動駆動モータのトルク、回転数およびピッチ角の少なくとも1つを短時間変化させる検出制御機能を有し、前記検出制御機能により変化した異なる駆動条件下で検出される複数のトルクおよび回転数の推定値を用いるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の電動推進系制御装置。 - 前記推力制御部が、前記推定された大気密度および対気速度に応じて、プロペラの効率を最大化するように前記電動駆動モータの回転数あるいは前記可変ピッチ機構によりピッチ角のいずれか一方または両方を変化させる効率最大化機能を有することを特徴とする請求項4に記載の電動推進系制御装置。
- 前記推力制御部が、前記推定された大気密度および対気速度に応じて、対気速度を維持するように前記電動駆動モータあるいは前記可変ピッチ機構のいずれか一方または両方を変化させる速度維持機能を有することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の電動推進系制御装置。
- 前記推力制御部が、前記推定された大気密度および対気速度に応じて、プロペラの効率を最大化するように前記電動駆動モータを変化させる効率最大化機能を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電動推進系制御装置。
- 前記推力制御部が、前記推定された大気密度および対気速度に応じて、対気速度を維持するように前記電動駆動モータを変化させる速度維持機能を有することを特徴とする請求項2、請求項3及び請求項7のいずれかに記載の電動推進系制御装置。
- 前記推力制御部が、前記推定された大気密度に応じて、効率最大化機能と速度維持機能を切り替え可能に構成されていることを特徴とする請求項6または請求項8に記載の電動推進系制御装置。
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