以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて走査型顕微鏡の光学系の構成について説明する。この走査型顕微鏡10は、光源装置20から放射されたレーザ光(照明光又は励起光)をステージ上に載置された標本I0に対して対物レンズ36を介して走査する走査光学系30と、上述のレーザ光の波面を変化させる波面補償光学系40と、対物レンズ36により集光された標本からの観察光(例えば蛍光)を検出する第1検出部50及び第2検出部60と、標本を透過した光を検出する第3検出部70と、を有して構成される。なお、以降の説明において、走査光学系30の光軸方向をz軸とし、このz軸に直交する面内で互いに直交する方向をそれぞれx軸及びy軸とする。
この走査型顕微鏡10において、光源装置20は、波長が異なる複数のレーザ光を、同時又は個別に射出することが可能に構成された光源21と、通過するレーザ光の強度を0〜100%の間で変化させる(強度変調する)AOM(Acousto-Optic Modulator:音響光学素子)22とから構成されている。なお、以降の説明においては光源21から赤外光及び可視光の2種類のレーザ光が射出されるものとして説明する。また、この光源21から射出される赤外光は、標本の多光子励起を誘発するための、所定の周期で射出される非常に短いパルス状の光である(例えば、100フェムト秒程度のパルス光であって、以下、「IRパルス光」と呼ぶ)ものとする。
走査光学系30は、光源装置20側から順に、第1ダイクロイックミラー31、走査ユニット32、スキャンレンズ33、第2対物レンズ34、第2ダイクロイックミラー35、及び、対物レンズ36を有して構成されている。この第1ダイクロイックミラー31は、光源装置20から放射されるレーザ光(照明光又は励起光)を透過し、後述する観察光(蛍光や第二次高調波)を透過した観察光を透過するように構成されている。また第2ダイクロイックミラー35は挿脱可能に配置されており、光路挿入時には、レーザ光(照明光又は励起光)を透過し、標本で発生する観察光のうち、所定の波長より短い観察光(蛍光や第2次高調波)を反射するように構成されている。
また、波面補償光学系40は、走査光学系30のスキャンレンズ33と第2対物レンズ34との間に配置され、光源装置20側から順に、第1リレーレンズ41、補償光学素子42、及び、第2リレーレンズ43を有して構成されている。この波面補償光学系40において補償光学素子42は入射した光を反射(又は透過)する際に、入射した光の波面を変化させて出射させることができる素子(例えば、反射型素子としてデフォーマブルミラーや反射型液晶素子、透過型素子として透過型液晶素子)である。反射型液晶素子や透過型液晶素子は、補正したい光学収差(球面収差やコマ収差等)に対応するツェルニケ(Zernike)多項式の各項の係数の値を個別独立に決定・設定・実現することが可能である。一方、デフォーマブルミラーは、ミラー制御の特性上、補正したい光学収差(球面収差やコマ収差等)に対応するツェルニケ(Zernike)多項式の各項の係数の値は相互作用を受ける(ある項の係数を変更すると、他の項の係数も引きずられて変化してしまう)ので、個別独立に決定・設定・実現することが困難であることが多い。
本実施形態では、補償光学素子42として、反射型素子であるデフォーマブルミラーを例に説明する。デフォーマブルミラーへは、試料への照明光とデフォーマブルミラーの形状をモニタする参照光を同時に入射させる。照明光はデフォーマブルミラーに角度を持たせて入射させ、参照光は正面から入射させる。入射角に合わせてデフォーマブルミラーを楕円状に制御することで、照明光に指定の形状を表現する。なお、デフォーマブルミラーへの照明光の入射角は、光束の楕円化の影響が小さく、かつ斜入射による非対称収差への影響が小さい角度範囲にとどめるのが望ましく、例えば45度以内、より望ましくは30度以内に設定される。この補償光学素子42の作用を受けた出射光の波面の状態を検出するために、参照レーザ装置44、第1コリメータレンズ45、ハーフミラー46、リレーレンズ47(第3リレーレンズ47a及び第4リレーレンズ47b)、並びに、波面センサー48が設けられている。また、参照レーザ装置44からの参照光を第1コリメータレンズ45に導くために光ファイバー49が設けられている。具体的には、補償光学素子42の作用を受けた、出射光の波面の状態をハーフミラー46、リレーレンズ47を介して波面センサー48(例えば、シャックハルトマン方式、干渉方式)で検出し、検出した波面の状態と、後述する本実施形態の手法によって算出した理論的な波面の状態との差を算出し、差の値が閾値以上であれば、補償光学素子42へのフィードバック量を算出し、補償光学素子42へフィードバックする。これらの一連のプロセスは、例えば、以下の公知の方法を用いて行われる。
Adaptive control of a micromachined continuous-membrane deformable mirror for aberration compensation(APPLIED OPTICS y Vol. 38, No. 1 y 1 January 1999),
Methods for the characterization of deformable membrane mirrors(August 2005 Vol. 44, No. 24 APPLIED OPTICS)
また、第1検出部50は、反射NDD(Non Descanned Detector)であって、第2ダイクロイックミラー35の観察光が反射される方向に配置され、この第2ダイクロイックミラー35側から順に、第3ダイクロイックミラー51と、この第3ダイクロイックミラー51を光が透過する方向に第1集光レンズ52及び第1光検出器53とを有し、第3ダイクロイックミラー51で光が反射する方向に第2集光レンズ54及び第2光検出器55とを有する。この第1検出部50の第3ダイクロイックミラー51を、所定の波長以上の光(例えば蛍光)を透過し、所定の波長より短い波長の光(例えば第二次高調波)を反射するように構成すると、第1及び第2光検出器53,55で異なる波長の光の強度を検出することができる(例えば、第1光検出器53で蛍光を検出し、第2光検出器55で第二次高調波を検出することができる)。
また、第2検出部60は、第1ダイクロイックミラー31の観察光が透過する方向に配置されており、この第1ダイクロイックミラー31側から順に、第3集光レンズ61と、対物レンズ36の標本側の焦点面と略共役な位置に配置された遮光板62と、第2コリメータレンズ63と、第4ダイクロイックミラー64と、この第4ダイクロイックミラー64を光が透過する方向に第4集光レンズ65及び第3光検出器66とを有し、第4ダイクロイックミラー64で光が反射する方向に第5集光レンズ67及び第4光検出器68とを有する。なお、遮光板62にはピンホール62aが設けられており、このピンホール62aは走査光学系30の光軸を含むように配置されている。また、遮光板62のピンホール62aを通過した光を、第3及び第4光検出器66,68に導くために、この遮光板62と第2コリメータレンズ63との間に、リレー光学系69(第5及び第6リレーレンズ69a,69b並びに光ファイバー69c)が設けられている。この第2検出部60においても、第4ダイクロイックミラー64により、第3及び第4光検出器66,68で異なる波長の光の強度を検出することができる。
また、第3検出部70は、透過NDDであって、標本面I0を挟んで対物レンズ36の反対側に配置されており、この標本面I0側から順に、コンデンサレンズ71と、第5ダイクロイックミラー72と、この第5ダイクロイックミラー72を光が透過する方向に第6集光レンズ73及び第5光検出器74とを有し、第5ダイクロイックミラー72で光が反射する方向に第7集光レンズ75及び第6光検出器76とを有する。この第3検出部70においても、第5ダイクロイックミラー72により、第5及び第6光検出器74,76で異なる波長の光の強度を検出することができる。
なお、走査ユニット32の偏向素子や補償光学素子42の反射面(又は透過面)は、対物レンズ36の射出瞳と略共役な位置に配置されていることが好ましいため、スキャンレンズ33並びに第1及び第2リレーレンズ41,43により射出瞳P0の像をリレーし、この像と一致するように走査ユニット32及び補償光学素子42が配置されている(この図1の例では、射出瞳の像P1と補償光学素子42が略一致し、射出瞳の像P2と走査ユニット32とが略一致している)。また、図1では走査ユニット32と対物レンズ36との間に波面補償光学系40(補償光学素子42)を配置しているが、走査ユニット32と光源装置20との間にこの波面補償光学系40を配置することも可能である。
また、走査光学系30において、光源装置20のAOM22を透過したレーザ光を第1ダイクロイックミラー31に導くために3枚のミラー11,12,13が用いられ、また、遮光板62のピンホール62aを通過した光を第2コリメータレンズ63に導くために1枚のミラー17及びリレー光学系69(第5及び第6リレーレンズ69a,69b及び光ファイバー69c)が用いられ、さらに、波面補償光学系40において、補償光学素子42にレーザ光及び観察光を導くために3枚のミラー14,15,16が用いられ、また、参照レーザ装置44からの参照光を第1コリメータレンズ45に導くために光ファイバー49が用いられているが、これらは、各光学素子を配置するために光路を折り曲げる目的で用いられているものであり、この構成に限定されることはない。
また、第1〜第6光検出器53,55,66,68,74,76としていは、例えばPMT(Photo Multiplier Tube:光電子倍増管)が用いられる。
また、この走査型顕微鏡10には、光源21から放射されるレーザ光の波長の選択し、AOM22及び走査ユニット32の作動を制御するとともに、走査ユニット32でレーザ光を走査する位置(標本上の走査面(標本面)内の座標)及び第1〜第6光検出器53,55,66,68,74,76で検出された値を処理する制御部80が設けられている。この制御部80は、波面センサー48で検出された波面の状態を監視しながら補償光学素子42の制御も行うように構成されている。具体的には参照レーザ44から放射された参照光を第1コリメータレンズ45で略並行光束にし、ハーフミラー46で一部反射させて補償光学素子42の反射面に垂直に入射させる。そして、この反射面で垂直反射した参照光をハーフミラー46で一部透過させ、ミラー18で反射させた後、リレーレンズ47を介して波面センサー48に入射させるように構成されている。さらに、制御部80は、アクチュエータ37を制御することにより、対物レンズ36又はステージを光軸方向に移動させて標本(z方向)における対物レンズ36の焦点面(標本面I0)の位置を変化させるように構成されている。なお、この制御部80には、取得した標本の画像を表示するための表示装置81や、各種情報の設定や対物レンズ36又はステージの操作を行うための入力装置82、及び、取得した画像を記憶する記憶装置83が接続されている。
この走査型顕微鏡10において、光源装置20の光源21から放射された略平行光束であるレーザ光(照明光又は励起光)は、AOM22を透過した後、3枚のミラー11,12,13で反射されて第1ダイクロイックミラー31に入射し、この第1ダイクロイックミラー31で反射されて走査ユニット32に入射する。この走査ユニット32は、光軸に直交する方向(上述のx方向及びy方向)にレーザ光を2次元的に走査するものであり、例えば、レーザ光を反射することによりこのレーザ光を光軸に直交する面内で所定の方向(この方向をx方向とする)に偏向させる第1の偏向素子、及び、光軸に直交する面内で第1の偏向素子の偏向方向と略直交する方向(この方向をy方向とする)に偏向させる第2の偏向素子からなる2つの偏向素子で構成されている。そして、この走査ユニット32を出射したレーザ光(略平行光束)はスキャンレンズ33により二次像面I2に集光された後、第1リレーレンズ41で略平行光束に変換され、ミラー14で反射されて補償光学素子42に入射する。この補償光学素子42は、上述したように、入射したレーザ光を反射するときにその波面を変化させるように構成されており、この補償光学素子42で反射したレーザ光は、第2リレーレンズ43を透過してミラー15で反射した後一次像面I1に集光し、さらにミラー16で反射されて第2対物レンズ34を通過することにより再び略平行光束となり、第2ダイクロイックミラー35を透過して対物レンズ36によって標本上の対物レンズ36の焦点面(標本面I0)に集光される。なお、標本上に集光されたレーザ光は点像となっており、その点像の径は対物レンズ36の開口数(NA)で決まる大きさである。
ここで、本実施形態に係る走査型顕微鏡10において、標本の観察時には、光源21から放射されるレーザ光のうち、IRパルス光又は可視光の何れか一方が、標本の画像を得るためのイメージング用の照明光(励起光)として用いられる。
例えば、IRパルス光を照明光(励起光)として用いる場合、可視光は全く使用されないか、又は、標本の光刺激用として使用される。この場合、IRパルス光が標本に照射されると、標本からは多光子励起による蛍光が発生し、この蛍光は観察光となって対物レンズ36に入射し、この対物レンズ36で略平行光束となり第2ダイクロイックミラー35で反射されて第1検出部50に入射する。そして、この観察光は第3ダイクロイックミラー51を透過したときは第1集光レンズ52で第1光検出器53の受光面に集光されて検出され、第3ダイクロイックミラー51で反射したときは第2集光レンズ54で第2光検出器55の受光面に集光されて検出される。なお、この第1検出部50には、標本や対物レンズ36等で反射され、観察光とともにこの第1検出部50に入射するIRパルス光を除去するために、図示しないIRカットフィルタを配置してもよい。
一方、可視光を照明光(励起光)として用いる場合、IRパルス光は標本の光刺激用として使用してもよい。この場合、照明光が標本に照射されると、標本からは蛍光が発生し、この蛍光は観察光となって対物レンズ36に入射し、この対物レンズ36で略平行光束となり第2ダイクロイックミラー35を透過する。そして、この観察光は、第2対物レンズ34により一次像面I1に集光された後、上述の照明光と逆の経路をたどってスキャンレンズ33で略平行光束にされて走査ユニット32に入射し、この走査ユニット32でデスキャンされて出射し、さらに第1ダイクロイックミラー31を透過して第3集光レンズ61により遮光板62のピンホール62a上に集光される。この遮光板62のピンホール62aを通過した光のみが第2検出部60の第3又は第4光検出器66,68に到達して検出される。
上述のように、遮光板62のピンホール62aは標本上の走査面(標本面I0)に集光されたレーザ光の点像と共役であり、標本上の照射領域(対物レンズ36の焦点面(標本面I0))から出た観察光(蛍光)はこのピンホール62aを通過することができる。一方、標本上の他の領域から出た光のほとんどはこのピンホール62a上には集光されず、通過することができない。そのため、光軸方向に高い分解能を持った画像を取得することができる。
さらに、標本を透過した照明光、又は、照明光により発生した観察光(例えば、第二次高調波等)はコンデンサレンズ71で略平行光束にされ、ミラー17で反射されて第3検出部70に入射する。そして、この観察光は第5ダイクロイックミラー72を透過したときは第6集光レンズ73で第5光検出器74の受光面に集光されて検出され、第5ダイクロイックミラー72で反射したときは第7集光レンズ75で第6光検出器76の受光面に集光されて検出される。
以上より、走査光学系30は、光源部である光源装置20から照射された照明光により標本を走査する照明光学系及び走査手段、並びに、標本からの光を第1及び第2検出部50,60に導く集光手段の機能を有している。そして、制御部80が走査ユニット32の走査に同期させて第1〜第3検出部50,60,70で検出された光信号を処理することにより、標本上のレーザ光の走査位置と光信号から求められる輝度を用いて、標本の走査面(標本面I0)における二次元的な画像を得ることができる。これによりこの走査型顕微鏡10は、高い分解能で標本の像を得ることができる。このように、本実施形態に係る走査型顕微鏡10は、走査型多光子顕微鏡及び走査型共焦点顕微鏡の両方として使用することができる。
それでは、上述した構成の走査型顕微鏡10において、波面補償光学系40の補償光学素子42を制御して光学系の収差を補正する方法について説明する。なお、本実施形態に係る波面補償光学系40の制御方法においては、補償光学素子42に対して、補正したい光学収差(球面収差やコマ収差等)に対応するツェルニケ(Zernike)多項式の各項の係数を選択し、それぞれの係数毎に最適な画像が取得できる最適値を決定し、最終的に各項の係数の最適値を実現する制御パラメータによって補償光学素子42を制御して入射した光に対して最適な波面を付与するように構成されている。ツェルニケ多項式は、その係数の各項が光学収差に対応するので直感的に分かり易く、また、各係数は直交性があるため各項を独立に扱うことができるためである。なお、各光学収差とツェルニケ(Zernike)多項式の係数との関係(対応関係)は公知技術であるので、本実施形態では説明を省略する。また、以降の説明では、本実施形態に係る走査型顕微鏡10を用いて標本の多光子蛍光観察(特に2光子蛍光観察)を行う場合について説明する。
まず、観察者は、対物レンズ36及びステージの少なくとも一つをz方向(光軸方向)に移動させて、観察したい標本に対する対物レンズ36の位置(z方向位置であって、標本における対物レンズ36の焦点面)を決定する。以下、標本を載置するステージは固定し、対物レンズ36をz方向に移動させる場合について説明するが、これに限定されるものではない。そして、この状態で補償光学素子42を制御する最適な制御パラメータ(以下、「最適値」と呼ぶ)の設定処理が開始されると、制御部80は、図2に示すように、所定の位置(標本に対する対物レンズ36のz方向の位置であって、以下「基準位置」と呼ぶ)での標本面I0の画像を取得し、記憶装置83に記憶する(ステップS100)。そして、ステップS100で取得した画像を記憶装置83から読み出し、表示装置81に表示する(ステップS110)。この状態で、制御部80は、観察者に対し、表示装置81に表示されている画像において、観察したい領域(以下、「ROI(Region Of Interest)」と呼ぶ)を選択させ、基準位置及びROIを記憶する(ステップS120)。例えば、図5に示すように、表示装置81に走査顕微鏡10で取得した視野全体の画像Gを表示し、入力装置82を用いてROIを選択させる。
次に、制御部80は、補正対象の光学収差(ツェルニケ係数)のうちの一つを選択し(ステップS130)、最適係数算出処理を実行する(ステップS140)。ここで、補正対象の光学収差(ツェルニケ係数)は、予め制御部80に設定しておいてもよいし、この制御を実行する前までに観察者に選択させてもよい。図3に示すように、最適係数算出処理S140において制御部80は、対物レンズ36をz方向の基準位置に移動させ、この基準位置で標本の画像を取得し、記憶装置83に記憶する(ステップS1401)。この基準位置での画像を「基準画像」と呼ぶ。そして、制御部80は、ステップS1401で取得した画像を記憶装置83から読み出し(ステップS1402)、この読み出した画像におけるROI内に対して、この画像を評価するための評価値を算出する(ステップS1403)。ここで、本実施形態においては、ROI内の各画素の輝度を積算した値を評価値としている。上述した走査型顕微鏡10において多光子蛍光観察、例えば、2光子蛍光観察を行う場合、その蛍光強度は励起光の2乗に比例するため感度が良く、取得した画像を評価するのに適しているからである。もちろん、評価関数としては、輝度値に限定されることはなく、ROI内のコントラスト(例えば、各画素の輝度値のうちの最大値をLmax、最小値をLminとすると、(Lmax−Lmin)/(Lmax+Lmin)、Lmax/Lmin)を用いてもよい。また、ROI内の各画素の輝度値の積算に限定されることはなく、ROI内の各画素の輝度値の平均値又は各画素の輝度値のうちの最大値とすることも可能である。あるいは、輝度値やコントラスト等の複数の評価値を用いてもよい。
また、制御部80は、選択されているツェルニケ係数の現在の値(基準画像を取得したときの値)に所定の値を加算して変更したツェルニケ多項式に基づいた制御パラメータ(値)を補償光学素子42に出力する(ステップS1404)。このように補償光学素子42を制御すると、波面収差が補正された照明光(励起光)が対物レンズ36を介して標本(標本面I0)に照射される。但し、対物レンズ36の焦点位置は、基準位置からz方向にズレる。そして、制御部80は、基準位置を含むz方向の所定の範囲で対物レンズ36を所定の刻み幅で移動させて、各位置で標本の画像を取得し、記憶装置83に記憶する(ステップS1405)。これらの画像を「スタック画像」と呼ぶ。このスタック画像を取得するz方向の範囲及び刻み幅は、予め決定しておいてもよいし、現在選択されている光学収差(ツェルニケ係数)に基づいて変化させてもよい。例えば、球面収差に対応するツェルニケ係数を変化させるとデフォーカス量が大きくなる場合は、広い範囲をスキャンするようにし、非点収差に対応するツェルニケ係数を変化させるとデフォーカス量が小さくなる場合は、狭い範囲を細かい刻み幅でスキャンするようにすることが可能である。
制御部80は、このようにして取得したスタック画像を記憶装置83から読み出し(ステップS1406)、各々の画像と、ステップS1401で取得した基準画像との相関値を算出し、最も相関値の大きい画像を選択する(ステップS1407)。この画像を「加算側判定画像」と呼ぶ。ここで、基準画像と最も相関値の大きな画像を選択する理由は、スタック画像の中から、波面収差が補正された照明光によって基準位置で取得されたであろう画像を探し出すためである。なお、本実施形態では、相関値の算出方法として、位相限定相関法を用いる。位相限定相関法とは、画像の位相成分(これは形状の情報に相当する)のみを、この画像をフーリエ変換することにより抽出し、その位相成分の相関値を求めることにより類似度を測定するパターンマッチングの手法である。画像の濃淡情報の影響を受けないため、「形状」に着目した相関を精度良く得ることができ、画像の位置ズレ(対物レンズ36やステージの移動に伴い、xy平面内で発生するズレや、生体標本自体の微動)の影響等を受けることがない。上述したように、制御パラメータが変更された補償光学素子42により入射した光の波面を変化させると、それに伴って、対物レンズ36の焦点面が基準位置から移動する(デフォーカスする)ため、基準位置を含む所定の範囲の画像を取得し、基準画像との相関値を求めることにより、この基準画像と最も類似している画像(「加算側判定画像」)を選択する。この相関値とz方向位置の関係は、例えば図6のようになる。ここで、刻み幅をΔzとして表している。そして、制御部80は、選択した加算側判定画像において、ステップS1403と同様の方法で、ROI内の評価値を算出する(ステップS1408)。
また、制御部80は、選択されているツェルニケ係数から所定の値を減算し、ツェルニケ多項式に基づいた制御パラメータ(値)を補償光学素子42に出力する(ステップS1409)。そして制御部80は、ステップS1405と同様に、対物レンズ36を、基準位置を含むz方向の所定の範囲において、所定の刻み幅で移動させて、各位置で標本の画像を取得して記憶装置83に記憶し(ステップS1410)、このようにして取得したスタック画像を記憶装置83から読み出し(ステップS1411)、各々の画像と、ステップS1401で取得した基準画像との相関値を算出し、最も相関値の大きい画像を選択する(ステップS1412)。この画像を「減算側判定画像」と呼ぶ。基準画像と最も相関値の大きな画像を選択する理由は、前述したとおりである。また、制御部80は、選択した減算側判定画像において、ステップS1403と同様の方法で、ROI内の評価値を算出する(ステップS1413)。
以上の処理を実行すると、基準画像、加算側判定画像及び減算側判定画像の各々のROI内の評価値(すなわち、現在選択されているツェルニケ係数を変化(基準画像を中心に正方向及び負方向に変化)させたときのROI内の評価値)が求まり、制御部80は、これらの値に対し2次のフィッティングを行うことで、図7に示すように、評価値が最も大きくなるときのツェルニケ係数の最適値(加算側を正とし減算側を負とする)を算出することができる(ステップS1414)。
図2に戻り、ステップS140で選択されているツェルニケ係数の最適値が算出されると、制御部80は、制御パラメータを更新する必要があるか否かを判断する(ステップS150)。すなわち、選択されているツェルニケ係数の値を最適値に更新する必要があるか否かを判断し、制御部80は、制御パラメータを更新する必要があると判断すると、その更新により当該収差が改善されるか否かを検証して判断する(ステップS160)。
この制御パラメータ更新の判断処理S160において、制御部80は、図4に示すように、制御パラメータを更新する前の状態で、対物レンズ36をz方向の基準位置に移動させ、この基準位置で再度、標本の画像(基準画像)を取得し、記憶装置83に記憶する(ステップS1601)。そして、制御部80は、ステップS1601で取得した基準画像を記憶装置83から読み出し(ステップS1602)、この読み出した基準画像におけるROI内に対して、ステップS1403と同じ評価値を算出する(ステップS1603)。次に、制御部80は、選択されているツェルニケ係数を上述した最適値に更新し、ツェルニケ多項式に基づいた制御パラメータ(値)を補償光学素子42に出力する(ステップS1604)。そして制御部80は、ステップS1405と同様に、対物レンズ36を、基準位置を含むz方向の所定の範囲において、所定の刻み幅で移動させて、各位置で標本の画像を取得して記憶装置83に記憶し(ステップS1605)、このようにして取得したスタック画像を記憶装置83から読み出し(ステップS1606)、各々の画像と、ステップS1601で取得した基準画像との相関値を算出し、最も相関値の大きい画像を選択する(ステップS1607)。この画像を「最適値判定画像」と呼ぶ。また、制御部80は、選択した最適値判定画像において、ステップS1403と同様の方法で、ROI内の評価値を算出する(ステップS1608)。さらに、制御部80は、ステップS1608の評価値から、当該光学収差の補正(当該ツェルニケ係数に最適値を加算したときの収差)が改善されたか否かを判定し(ステップS1609)、ステップS1603で算出された評価値(最適値で制御パラメータを更新する前の画像の状態)に対してステップS1608で算出された最適値で制御パラメータが更新された後の評価値を比較し、その差が所定の閾値より大きくなり、画像が改善されたと判断したときは、当該最適値で補償光学素子42の制御パラメータを更新し(ステップS1610)、改善されていないと判断したときは制御パラメータを更新しない(ステップS1611)。
図2に戻り、制御部80は、全ての収差について上述の処理を実行したか否かを判断し(ステップS170)、全ての収差について実行していないときは次の収差(ツェルニケ係数)を選択してステップS140に戻ってこのステップS140からステップS170を繰り返し(ステップS180)、全ての収差について補正が完了したと判断したときは、この処理を終了する。
なおステップS1401〜S1403、S1601〜S1603の操作は、下記とおり省略することも可能である。すなわち、一連のシーケンスにおいて、直前の状態における最適画像Image-bestおよび評価関数値Value-bestを記憶しておき、ステップS1610にて制御パラメータを更新するたびに、それぞれの値を最新の値に置き換える。より具体的には、まずステップS120において基準位置における画像と評価関数を最適画像Image-Bestおよび評価関数値Value-bestとして記憶する。次に、ステップS1401〜S1403の初回ループにおいてステップS1401〜S1403の操作を行う代わりに、記憶した最適画像Image-Bestおよび評価関数値Value-bestの値を評価関数の代わりに使用する。2回目以降のループにおいては、ステップS1610にて制御パラメータを更新した場合にはステップS1608にて選択した画像と評価関数を直前のループにおける最適画像Image-bestおよび評価関数値Value-bestとして更新し、ステップS1610にて制御パラメータを更新しなかった場合には更新しない。そして次のループでは再び、S1401〜S1403の操作を行うかわりに、最適画像Image-bestおよび評価関数値Value-bestの値を使用する。なお、このように最適画像Image-bestおよび評価関数値Value-bestを常に記憶し、制御パラメータを更新するたびにそれぞれの値も更新するという方法は、一連のシーケンスにおいて標本からの信号強度が補償光学素子42の制御パラメータを変更する以外の要因で変動する懸念がない、もしくは少ない場合に適用することが可能である。たとえば第二高調波発生(SHG)や第三高調波発生(THG)などのように標本の褪色の心配のない観察法に対して本発明を用いる場合には適用可能であり、シーケンスを減らして時間短縮を図ることが可能である。一方、たとえば褪色の激しい標本において多光子蛍光画像を取得し本発明を適用する場合には、シーケンス中に何度も画像取得を行うことにより標本の褪色の影響が懸念される。このような場合には、ステップを省略することなく、実施例どおりに制御パラメータを更新するかどうか判定する直前に、評価関数を計算するための画像を取得しなおすことが望ましい。なお、ステップを省略するかどうかは、標本や取得条件に応じてユーザが選択できることが望ましい。
また、本実施例ではツェルニケ(Zernike)係数をひとつ選択して最適係数を算出するたびにステップS160にて制御パラメータの更新判断を行い制御パラメータを更新していたが、このように順番に波面収差値を更新していく方法は、デフォーマブルミラーのように、補正したい光学収差(球面収差やコマ収差)に対応するツェルニケ(Zernike)多項式の各項の係数の値の相互作用を受ける傾向のある補償光学素子を使用する場合や、生体標本の深部における観察のように補正すべき収差が複雑でその収差量も大きい場合などに、特に有効となる。最適値を計算して更新するツェルニケ(Zernike)係数の項の順序を、使用する補償光学素子の応答特性や生体標本の収差特性に応じて選択することにより、より精度良く短時間で良好な最適値を見出すことが可能となる。
前述したように、補償光学素子42として、反射型液晶素子又は透過型液晶素子を用いる場合は、その特性から補正したい光学収差(球面収差やコマ収差等)に対応するツェルニケ(Zernike)多項式の各項の係数の値を個別独立に決定・設定・実現することが可能であるので、図2に示す補償光学素子の設定方法は、ステップS150〜ステップS170省略して、ステップS140からステップS180のループを廻して、補正対象の光学収差(ツェルニケ係数)の全ての最適係数算出処理を実行した後、算出した全てのツェルニケ係数を用いて、ステップS150、ステップS160を実行してもよい。
本実施形態に係る走査型顕微鏡10において、補償光学素子42の制御を以上のように行うと、波面を変化させることにより対物レンズ36の焦点面(標本面I0)がz方向に移動したとしても、図8に示すように、基準位置を中心とした所定の範囲において所定の刻み幅でスタック画像を取得し、基準画像との相関値を算出して基準画像と最も近い画像を選択することで、移動する前の焦点面の画像であろうものを選択することができる。また、複数の光学収差をツェルニケ多項式の各項の係数で制御するため、その直交性を利用することができるので、それぞれの光学収差(ツェルニケ係数)毎に制御を行っても(上述のステップS140〜S180を繰り返しても)、それぞれの光学収差を制御できるため、補償光学素子42の制御を単純化することができる。以上より、上述の処理を行うことにより、補償光学素子のより精度の高い制御パラメータを決定することが可能にとなり、最適値への収束速度を短縮することができるので、特性(屈折率やその3次元分布)が未知の標本(例えば生体標本)に対しても、精度の良い観察を行うことができる。
なお、以上の説明では、本実施形態に係る走査型顕微鏡10を用いて標本の多光子蛍光観察(2光子蛍光観察)を行う場合について説明したが、本発明がこの観察方法に限定されることはない。上述したように、本実施形態に係る走査型顕微鏡10は、標本からの観察項を走査ユニット32でデスキャンすることなく検出する第1検出部50だけでなく、この走査ユニット32でデスキャンした後、遮光板62のピンホール62aを介して検出する第2検出部60や、標本を透過した光を検出する第3検出部70を有し、それぞれの検出部50,60,70は、異なる波長の光を検出可能に構成されている。そのため、例えば、通常の共焦点顕微鏡における1光子蛍光や、励起光を照射することで上記蛍光とともに発生する、第二次高調波発生(Second Harmonic Generation)により発生した第二高調波、第三次高調波発生(Third Harmonic Generation)により発生した第三高調波、又は、標本の自家蛍光による観察光を検出して観察する場合も、上記方法により、照明光(励起光)の波面を変化させて収差を少なくし、精度の良い画像を得ることができる。
また、以上の説明では、標本の深さ方向の光学断層像を取得可能な観察方法として走査型顕微鏡10による多光子蛍光観察を例に説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、たとえばSelective Plane Illumination Microscope(SPIM)と呼ばれるシート照明顕微鏡のような、選択された深さの光学断層像を取得可能な他の観察法や顕微鏡法を用いてもよい。SPIMは、標本を観察する対物レンズの光学軸とほぼ垂直な方向から、別の照明光学系を用いて対物レンズの焦点面近傍だけをシート状の照明光で照明することにより、選択された深さの光学断層像を得るものであり、より詳細には、例えば特表2006−509246号公報に開示されている。
また、以上の説明では、一つの光学収差(ツェルニケ係数)に対して、基準画像と、係数に所定の値を加減算したときの画像からなる3つの状態の画像で最適値を算出する場合について説明したが、当該ツェルニケ係数を4つの状態以上に変化させ、それらの状態で得られた画像から最適値を決定するように構成してもよい。
[変形例]
以上の説明では、ROIを用いて収差補正光学素子42の最適値を決定する方法について説明したが、ROIの外側の領域(以下「周辺領域A」と呼ぶ)を用いてもよい。上述したように、SHG観察又はTHG観察のための励起光(第2の波長の照明光)は、標本が劣化するのを抑えることができるが、収差補正光学素子42の最適値の決定時は、周辺領域Aを用いることにより、観察領域(ROI)へ励起光を照射することを避けて、この観察領域内の標本の劣化をさらに抑えることができる。以下、周辺領域Aを用いた収差補正光学素子42の最適値の決定方法について説明する。なお、図2〜図4に示すフローチャートのうち、異なる部分を中心に説明する。
まず、周辺領域Aを用いる場合のROIの決定(ステップS120)は、ステップS100において、2光子蛍光観察により取得した標本の画像を用いて行う。なお、このステップS100における標本の観察は2光子蛍光観察であるので、レーザ光(照明光)の標本に対する照射時間を最低限に抑えるように作業を行う必要がある。そして、以降の処理における評価値の算出(ステップS1403、S1408、S1413、S1414、S1603及びS1608)は、上述したようにSHG又はTHG観察を、ROIの代わりに周辺領域Aに対して行う。
なお、評価値の算出においては、図9に示すように、周辺領域Aを複数のサブ領域An(nは各サブ領域の番号)に分割し、各々のサブ領域An内の輝度値を積算して評価値とする。この図9に示すように、周辺領域Aの媒質の構成が異なる場合、その媒質の性質により屈折率等が異なるためである。すなわち、上述の評価値の算出は、周辺領域Aの各々のサブ領域An内の各々に対して行われる。同様に、ステップS1414における、評価値が最も大きくなるときのツェルニケ係数の最適値の算出は、各々のサブ領域An毎に、これらの値に対し2次のフィッティングを行い、各サブ領域Anの最適値の平均を算出し、ROIを観察するための最適値として決定される。さらに、ステップS1609における判定は、ステップS1608の評価値から、各サブ領域An毎に当該光学収差の補正(当該ツェルニケ係数に最適値を設定したときの収差)が改善されたか否かを判定し、このステップS1608で算出された最適値で制御パラメータが更新された後の評価値を比較し、少なくとも1つのサブ領域Anにおいて、その差が所定の閾値より大きくなり、画像が改善されたと判断したときは、当該最適値で補償光学素子42の制御パラメータを更新し(ステップS1610)、いずれのサブ領域Anでも改善されていないと判断したときは制御パラメータを更新しないように構成する(ステップS1611)。
以上のように、周辺領域Aを用いて収差補正光学素子42の最適値を決定する場合、図10(a)に示すように、2光子蛍光観察でROIを決定するが、図10(b)に示すように、収差補正光学素子42の制御パラメータの決定は周辺領域Aを用いられる。上述した2光子蛍光観察をするための励起光を標本に照射すると標本が劣化する場合があり、補償光学素子42の最適値の決定のための画像の取得時には、周辺領域Aにのみ励起光を照射することにより、図10(c)に示す実際の観察領域であるROI内の標本の劣化を抑えることが可能となる。なお、図9では周辺領域Aを8つのサブ領域A1〜A8に分割した場合について示しているが、分割数は8に限定されることはない。また、サブ領域Anの各ツェルニケ係数の平均値ではなく、Anの領域ごとに異なる重みづけ係数を掛けて決定した係数を用いてもよい。また、サブ領域Anに分割せず、周辺領域A全体で評価値を算出してツェルニケ係数の最適値を決定することも可能である。